説明

画像記録方法、及びセット

【課題】 得られる画像の耐擦過性が高い画像記録方法を提供すること。
【解決手段】 酸性基によって分散している顔料を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記顔料の分散状態を不安定化させる酸性の液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有する画像記録方法であって、前記液体組成物が、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子を含有することを特徴とする画像記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像記録方法、かかる画像記録方法に用いるセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像記録方法において、顔料インクとインク中の顔料の分散状態を不安定化させる反応剤を含有する液体組成物を用いた2液反応システムが検討されている。
【0003】
2液反応システムの中でも、画像の耐擦過性を向上させるために液体組成物中に樹脂微粒子を含有する画像記録方法が検討されている(特許文献1及び2)。特許文献1には、カチオン性分散剤によって分散されている顔料とカチオン性樹脂微粒子を含有するインクと、アニオン性反応剤とアニオン性樹脂微粒子を含有する液体組成物を用いた画像記録方法が開示されている。また、特許文献2には、アニオン性樹脂分散顔料及び樹脂微粒子を含有するインクと、ノニオン性樹脂微粒子及び反応剤である有機酸を含有する液体組成物を用いた画像記録方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−302627号公報
【特許文献2】特開2010−194998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法では、本発明で求めるような高いレベルの画像の耐擦過性が得られなかった。尚、本発明で求める画像の耐擦過性は、「画像を記録した記録媒体の上に複数の記録媒体を積み重ねた状態で運搬などを行っても、画像と記録媒体との間の摩擦により色材が削れないレベル」である。
【0006】
特許文献1は、液体組成物中のアニオン性化合物(反応剤及び樹脂微粒子)が、インク中のカチオン性分散剤とイオン反応することで顔料の分散状態が崩れ、顔料が凝集する2液反応システム(以降、「アニオン−カチオン反応システム」ともいう)である。本発明者らの検討によると、特許文献1の2液反応システムでは、十分な画像の耐擦過性が得られないことが分かった。これは、以下の理由によると考えられる。アニオン−カチオン反応システムを用いた場合、顔料凝集物はイオン結合をしているため、画像中に親水性の高い官能基が残存してしまう。そして、この親水性の高い官能基の存在によって、得られる画像内に水や水溶性有機溶剤が残留しやすくなるため、画像の耐擦過性が低くなってしまう。
【0007】
特許文献2は、インク中において、樹脂分散剤のアニオン性基(例えば、−COO)間の静電反発力によって安定に分散している顔料が、有機酸を含有する酸性の液体組成物と混合されると、樹脂分散剤のアニオン性基が酸型(例えば、−COOH)となり静電反発力を失うことで顔料の分散状態が崩れ、顔料が凝集する2液反応システム(以降、「酸析反応システム」ともいう)である。本発明者らの検討によると、特許文献2の2液反応システムでは、十分な画像の耐擦過性が得られないことが分かった。これは、以下の理由によると考えられる。特許文献2において、液体組成物中の反応剤である有機酸は低分子化合物であるため、液体組成物が記録媒体に付与された際に、反応剤は記録媒体内部に浸透しやすい。一方、インク中の顔料及び顔料分散剤は記録媒体の表面に残りやすい。つまり、記録媒体表面で、反応剤と顔料分散剤が接触することによる酸析反応が十分に起きず、顔料の凝集が弱い。更に、液体組成物が、有機酸の他に反応性を有さないノニオン性樹脂微粒子を更に含有するため、有機酸の反応剤としての能力自体が阻害されてしまう。以上より、特許文献2に記載の2液反応システムでは、十分な画像の耐擦過性が得られない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、得られる画像の耐擦過性が高い2液反応システムの画像記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明にかかる画像記録方法は、酸性基によって分散している顔料を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記顔料の分散状態を不安定化させる酸性の液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有する画像記録方法であって、前記液体組成物が、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、得られる画像の耐擦過性が高い画像記録方法を提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、前記画像記録方法に用いるセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明の画像記録方法は、酸性基によって分散している顔料を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記顔料の分散状態を不安定化させる酸性の液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有する画像記録方法であって、前記液体組成物が、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子を含有することを特徴とする。
【0012】
上述の通り、本発明で求める画像の耐擦過性は、「画像を記録した記録媒体の上に複数の記録媒体を積み重ねた状態で運搬などを行っても、画像と記録媒体との間の摩擦により色材が削れないレベル」である。本発明者らが検討したところ、上記本発明で求める画像の耐擦過性は、学振形染色摩擦堅ろう度試験機(安田機械製作所製)を用いて、画像を記録媒体で摩擦することで評価できることが分かった。具体的には、前記学振形染色摩擦堅ろう度試験機の曲面上に配置した試験片(評価する画像)と摩擦子に固定された画像を作成するのに使用したものと同種の記録媒体を互いに往復摩擦する(荷重:1.96N)ことで、画像の耐擦過性を評価することができる。
【0013】
本発明者らは先ず、画像の耐擦過性を向上させる条件について検討を行った。その結果、(1)顔料層自体の強度を高めること、及び、(2)顔料層を樹脂膜などで保護すること、の2つの条件を達成することが重要であるとの結論に達した。顔料インクを用いた2液反応システムにおいて、(1)を達成するには、顔料の凝集反応を素早く、かつ、記録媒体の表面やその近傍で起こすことが必要である。また、(2)を達成するには、2液反応システムに用いる液体組成物が造膜性の樹脂を含有することが必要である。
【0014】
上記の知見を基に、先ず本発明者らは、従来のように、2液反応システムに用いる液体組成物中に反応剤と反応性を有さない樹脂微粒子を併用する方法を検討した。しかし、この方法を用いた場合は、樹脂膜が形成されるものの、高いレベルの画像の耐擦過性は得られなかった。これは、反応性を有さない樹脂微粒子が存在することで、反応剤と顔料が接触する確率が減り反応剤の凝集能力が低下し、顔料の凝集反応を素早く、かつ、記録媒体の表面やその近傍で起こすことができないためと考えられる。また、特許文献2のように、反応剤として低分子化合物である有機酸を用いたような場合には、上述の通り、有機酸が記録媒体内部に浸透しやすく、顔料の凝集反応が記録媒体の表面やその近傍で起きないため、画像の耐擦過性は更に低下してしまった。このように、反応剤と樹脂微粒子を併用する方法では、上記の(2)の条件は達成し得るものの、上記の(1)の条件を達成することができなかった。
【0015】
次に、本発明者らは、特許文献1のように、アニオン性(又は、カチオン性)樹脂微粒子を含有する液体組成物と、カチオン性(又は、アニオン性)によって分散されている顔料を含有するインクを用いたアニオン−カチオン反応システムを検討した。しかしながら、上述の通り、アニオン−カチオン反応は、イオン結合による凝集を生成する反応であるため、得られる画像内に水や水溶性有機溶剤が残留しやすくなり、画像の耐擦過性が低い。つまり、この方法でも、上記の(2)の条件は達成し得るものの、上記の(1)の条件を達成することができなかった。
【0016】
以上の結果から本発明者らが検討を行ったところ、2液反応システムとして「酸析反応システム」を用い、更に、使用する液体組成物中に「スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子」を含有する、という本発明の構成に至った。この構成により、高いレベルの画像の耐擦過性が得られるメカニズムは、以下の通りであると考えられる。
【0017】
本発明において、「スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子」は、上記画像の耐擦過性を向上させる2つの条件(1)及び(2)を共に達成する役割を担っている。つまり、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子は、樹脂膜を形成するだけでなく、樹脂微粒子自体が反応剤として顔料を凝集させる働きをする。そのため、従来のように、反応剤とは別に樹脂を含有させる必要がなく、上述したような反応剤の凝集能力の低下が起きない。また、樹脂微粒子は、有機酸などと比較して、記録媒体の内部に浸透しにくい反応剤である。したがって、記録媒体の表面やその近傍に残存することで、顔料の凝集反応を素早く、かつ、記録媒体の表面やその近傍で起こすことが可能である。更に、酸析反応システムを用いると、得られる顔料凝集物は水溶性の高い酸解離型(例えば、−COO)ではなく、水不溶性の酸型(例えば、−COOH)となるため、画像の耐擦過性が高いレベルで維持される。
【0018】
尚、上述のように、本発明においては「酸析反応システム」を利用するため、インクは酸性基によって分散している顔料を含有し、液体組成物は、酸性であり、かつ、インク中の顔料の分散状態を不安定化させるものである必要がある。以上のメカニズムのように、本発明の各構成が相乗的に働くことで、本発明の効果を達成することが可能となる。
【0019】
[画像記録方法]
本発明の画像記録方法は、酸性基によって分散している顔料を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記顔料の分散状態を不安定化させる酸性の液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有する画像記録方法であって、前記液体組成物が、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子を含有する。本発明における「記録」とは、浸透性の記録媒体に対してインク及び液体組成物を用いて記録する態様、ガラス、プラスチック、フィルムなどの非浸透性の記録媒体に対してインク及び液体組成物を用いてプリントを行う態様を含む。浸透性の記録媒体としては、普通紙や光沢紙が挙げられる。本発明において、液体組成物の記録媒体への付与手段としては、インクジェット方式やローラ塗布方式などが挙げられる。また、インクの記録媒体への付与手段としては、記録信号に応じて、インクジェット方式により記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法が好ましい。特に、インクに熱エネルギーを作用させて記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させる方式のインクジェット記録方法がより好ましい。
【0020】
また、本発明の画像記録方法は、インクを記録媒体に付与する工程(A)と、液体組成物をインクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように記録媒体に付与する工程(B)の2つの工程を有する。工程(A)の後に工程(B)を行っても、工程(B)の後に工程(A)を行っても構わない。また、同じ工程を2回以上行うような場合、例えば、工程(A)→工程(B)→工程(A)や、工程(B)→工程(A)→工程(B)でも構わない。特に、工程(A)の後に工程(B)を行う場合を含んでいる方が画像の耐擦過性の向上効果が大きく、より好ましい。以下、本発明の画像記録方法に用いる液体組成物及びインクについて説明する。
【0021】
<液体組成物>
本発明の画像記録方法に使用する液体組成物は、酸性であり、かつ、インク中の顔料の分散状態を不安定化させるものであり、更に、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子を含有する。本発明において、「インク中の顔料の分散状態を不安定化させる」液体組成物であるか否かは、以下の判定方法によって判定することができる。用いるインクをレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2(堀場製作所製)を用いて、試料の屈折率1.5、分散媒(水)の屈折率1.333、反復回数15回の条件で50%累積体積平均粒子径(D50)を測定し、この値をDとする。更に、インクを質量比率で0.25倍量の液体組成物中と混合した後、同様にD50を測定し、この値をDとする。このとき、DとDの比(D/D)が1.3以上である場合、「インク中の顔料の分散状態を不安定化させる」液体組成物であると判定する。
【0022】
また、本発明の画像記録方法に使用する液体組成物は、酸性であるため、そのpHは7より小さい必要がある。更には、本発明において、液体組成物のpHは1以上6以下であることが好ましい。また、本発明においては、記録媒体で液体組成物とインクが混合した際のpHが、顔料を分散させている酸性基のpKaより小さくなることで、インク中の顔料の分散が不安定化し、その結果顔料が凝集する、という反応が起きる。したがって、液体組成物のpHは、顔料を分散させている酸性基のpKaより小さいことが好ましい。尚、本発明において、pH及びpKaは25℃における値である。
【0023】
また、本発明の画像記録方法に用いる液体組成物は、インクで記録した画像に影響を及ぼさないために、無色、乳白色、又は白色であることが好ましい。そのため、可視光の波長域である400nm乃至800nmの波長域における最大吸光度と最小吸光度の比(最大吸光度/最小吸光度)が1.0以上2.0以下であることが好ましい。これは、可視光の波長域において、吸光度のピークを実質的に有さないか、有していてもピークの強度が極めて小さいことを意味する。更に、本発明において、液体組成物は色材を含有しないことが好ましい。後述する本発明の実施例では、上記の吸光度は、非希釈の液体組成物を用いて、日立ダブルビーム分光光度計U−2900(日立ハイテクノロジーズ製)によって測定した。尚、このとき、液体組成物を希釈して吸光度を測定してもよい。これは、液体組成物の最大吸光度と最小吸光度の値は共に希釈倍率に比例するため、最大吸光度と最小吸光度の比(最大吸光度/最小吸光度)の値は希釈倍率に依存しないからである。以下、本発明の画像記録方法に使用する液体組成物を構成する各成分について、それぞれ説明する。
【0024】
(スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子)
本発明に用いる液体組成物は、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子(以下、単に「本発明に使用する樹脂微粒子」ともいう)を含有する。本発明において、「樹脂微粒子」とは、粒径を有する状態で存在する樹脂を意味する。更に、本発明において、樹脂微粒子は液体組成物中に分散した状態、所謂、樹脂エマルションであることが好ましい。また、本発明において、樹脂微粒子が「スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する」とは、具体的に、樹脂微粒子にスルホン酸基及びリン酸基が化学結合している状態、樹脂微粒子の内部にスルホン酸基及びリン酸基を有する化合物が含まれる状態、及び樹脂微粒子の表面にスルホン酸基及びリン酸基を有する化合物が吸着する状態を意味する。
【0025】
(1)樹脂微粒子の特性
本発明に使用する樹脂微粒子は体積平均粒子径が10nm以上500nm以下であることが好ましい。尚、本発明において樹脂微粒子の体積平均粒子径は、以下の方法で測定する。純水で50倍(体積基準)に希釈した、樹脂微粒子を含有する水溶液について、UPA−EX150(日機装製)を使用して、SetZero:30s、測定回数:3回、測定時間:180秒、屈折率:1.5の測定条件で測定する。
【0026】
本発明に使用する樹脂微粒子のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により得られるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、10,000以上であることが好ましい。更には、100,000以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明に使用する樹脂微粒子のガラス転移温度(Tg)は、20℃以上100℃以下であることが好ましい。Tgが20℃より小さいと、室温環境下で樹脂が軟化してしまうため、画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。Tgが100℃より大きいと、樹脂が造膜しにくく、画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。尚、本発明において、Tgは、示差走査熱量計を用いて測定することができる。後述する実施例では、示差走査熱量計(TAインスツルメント製)を用いて測定した。
【0028】
本発明に使用する樹脂微粒子が有するスルホン酸基及びリン酸基の量は、樹脂微粒子1g当たり、0.15mmol/g以上1.00mmol/g以下であることが好ましい。スルホン酸基及びリン酸基の量が、0.15mmol/gより小さいと、インク中の顔料を凝集させる能力が弱くなり、画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。一方、スルホン酸基及びリン酸基の量が、1.00mmol/gより大きいと、反応に寄与しないスルホン酸基及びリン酸基が画像中に残存しやすい。スルホン酸基及びリン酸基は親水性の高い官能基であるため、得られる画像内に水や水溶性有機溶剤が残留しやすくなり、画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。尚、本発明において、樹脂微粒子がスルホン酸基やリン酸基を有するかどうかは、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR)を用いて確認することができる。このとき、FT−IRにおいて、スルホン酸基はS=O伸縮振動の吸収波長(1230cm−1〜1120cm−1)から、リン酸基はP=O伸縮振動の吸収波長(1299cm−1〜1250cm−1)から確認することができる。更に、樹脂微粒子が有するスルホン酸基やリン酸基の量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)を用いて、S原子の量及びP原子の量をそれぞれ測定することにより得ることができる。後述する実施例では、フーリエ変換赤外分光光度計(島津製作所製)及び誘導結合プラズマ発行分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー製)を用いて測定した。
【0029】
また、本発明に使用する樹脂微粒子は、スルホン酸基やリン酸基以外に、ノニオン性基やカルボキシル基などのその他の官能基を更に有していてもよい。その場合は、樹脂微粒子が有するその他の官能基の量は、スルホン酸基及びリン酸基の量に対して、2.0倍以下であることが好ましい。2.0倍より多いとスルホン酸基やリン酸基の機能が相対的に弱くなるため、画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。
【0030】
本発明において、液体組成物中のスルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子の含有量(質量%)は、液体組成物の全質量を基準として、1.0質量%以上15.0質量%以下であることが好ましい。含有量が1.0質量%より小さいと、インク中の顔料を凝集させる能力が弱くなり、画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。含有量が15.0質量%より大きいと、樹脂微粒子が多いため樹脂膜を形成した際に膜が不均一になってしまい、外力が与えられた際に歪みが生じやすく、画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。
【0031】
(2)樹脂微粒子の原料及び合成方法
本発明において、樹脂微粒子は、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有するのであれば、何れのものも液体組成物に使用することができる。具体的に、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子とするには、それらの官能基を有するモノマーや界面活性剤を原料として、樹脂微粒子を合成すればよい。即ち、本発明の樹脂微粒子は、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有するモノマー、並びに、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する界面活性剤、から選択される少なくとも1種を用いて合成されることが好ましい。更には、スルホン酸基又はリン酸基有するモノマー、及び、スルホン酸基又はリン酸基を有する界面活性剤、から選択される少なくとも1種を用いて合成される樹脂微粒子であることがより好ましい。尚、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有するモノマーを用いて合成された樹脂微粒子は、スルホン酸基やリン酸基がスルホン酸基及びリン酸基が化学結合している状態である。一方、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する界面活性剤を用いて合成された樹脂微粒子において、前記界面活性剤は、樹脂微粒子の内部に含まれる状態又は樹脂微粒子の表面に吸着する状態で存在する。そのため、液体組成物中において、樹脂微粒子から離れて存在する前記界面活性剤も一部含有し得る。しかし、本発明者らの検討によると、大部分の界面活性剤は樹脂微粒子の表面に存在し得るため、十分に酸析反応は起こる。また、本発明者らが検討をしたところ、ノニオン性の樹脂微粒子などに、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する界面活性剤を添加する場合、一部の界面活性剤は樹脂微粒子表面に吸着するが、酸析反応を起こす程の量は吸着されず、インクと混合した際に顔料の分散状態は不安定化しなかった。尚、一般的に、樹脂微粒子は、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法などによって合成される。
【0032】
スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有するモノマーとしては、例えば、ビニルスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸などのスルホン酸基を有する不飽和ビニルモノマー;2−アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェートなどのリン酸基を有する不飽和ビニルモノマーなどが挙げられる。
【0033】
スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する界面活性剤としては、以下のものが挙げられる。例えば、上記のスルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有するモノマーを用いた共重合体が挙げられる。更に、ドデシルベンゼンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸類;アルキルスルホン酸類、アルファオレフィンスルホン酸類、1,2−アリコキシカニル−1−エタンスルホン酸類、ナフタレンスルホン酸類などのスルホン酸基含有界面活性剤;トリラウレス−4−リン酸、トリセテス−5−リン酸などのポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸類、アルキルリン酸類などのスルホン酸基含有界面活性剤などが挙げられる。
【0034】
また、本発明においては、スルホン酸基及びリン酸基を有さないモノマーや界面活性剤を更に使用してもよい。具体的には、従来、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法などで使用可能なものを何れも用いることができる。尚、樹脂微粒子の形態としては、単一のモノマーが重合した単重合体でもよく、2種以上のモノマーが重合した共重合体でもよい。更に、樹脂微粒子が共重合体の場合は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。また、本発明において、樹脂微粒子は、コアシェル構造を有していてもよい。
【0035】
(その他の反応剤)
本発明に用いる液体組成物は、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子に加えて、更に、その他の反応剤を含有してもよい。具体的には、プロピオン酸、コハク酸、クエン酸などのカルボン酸類;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸類;リン酸などのリン酸類などが挙げられる。その他の反応剤を用いる場合は、併用する樹脂微粒子と同じ官能基を有する反応剤を用いることが好ましい。例えば、スルホン酸基を有する樹脂微粒子の場合は、その他の反応剤は、前記スルホン酸類であることが好ましい。
【0036】
(水性媒体)
本発明に用いる液体組成物は、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。液体組成物中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、液体組成物全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、従来、インクに一般的に用いられているものを何れも用いることができる。例えば、アルコール類、グリコール類、アルキレン基の炭素原子数が2乃至6のアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。液体組成物中の水の含有量(質量%)は、液体組成物全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0037】
(その他の成分)
本発明に用いる液体組成物は、上記の成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体など、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。更に、本発明に用いる液体組成物は、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及び上記樹脂微粒子以外の樹脂などの種々の添加剤を含有してもよい。尚、上述の通り、液体組成物が反応性を有さないノニオン性樹脂微粒子を更に含有すると、反応剤の能力を阻害する場合がある。本発明においては、反応剤が樹脂微粒子であり、記録媒体の表面やその近傍に残って反応するため、ノニオン性樹脂微粒子の影響は受けにくいが、ノニオン性樹脂微粒子を含む場合は、液体組成物全質量に対する含有量が1.0質量%未満であることが好ましい。
【0038】
<インク>
本発明の画像記録方法に使用するインクは、酸性基によって分散している顔料を含有する。以下、本発明の画像記録方法に使用するインクを構成する各成分について、それぞれ説明する。
【0039】
(顔料)
本発明において、インクに使用する顔料は酸性基によって分散している。酸性基によって顔料が分散するには、インク中において酸性基は酸解離型として存在する必要がある。したがって、酸性基の酸解離定数pKaが、インクのpHより小さいことが求められる。更には、本発明において、インクのpHが7以上11以下であり、かつ、酸性基のpKaが4以上5以下であることが好ましい。尚、本発明において、pH及びpKaは25℃における値である。
【0040】
本発明において、顔料の分散方法としては、具体的には、分散剤として酸性基を有する樹脂を用いる樹脂分散タイプの顔料(酸性基を有する樹脂分散剤を使用した樹脂分散顔料、顔料粒子の表面を酸性基を有する樹脂で被覆したマイクロカプセル顔料、顔料粒子の表面に酸性基を有する樹脂を含む有機基が化学的に結合した樹脂結合型自己分散顔料)や顔料粒子の表面に酸性基が直接又は他の原子団を介して結合した自己分散タイプの顔料(自己分散顔料)が挙げられる。無論、分散方法の異なる顔料を併用することも可能である。酸析反応システムを用いる本発明においては、酸析によって凝集反応をしやすい樹脂分散タイプの顔料であることが好ましい。
【0041】
本発明において、インクに使用する顔料が樹脂分散顔料であるときは、分散剤である樹脂が酸性基を有する。酸性基を有する樹脂としては、アクリル酸やメタクリル酸などカルボキシル基を有するモノマーを用いて重合したアクリル系樹脂;ジメチロールプロピオン酸など酸性基を有するジオールを用いて重合したウレタン系樹脂などが挙げられる。本発明において、樹脂分散顔料を用いる場合は、樹脂の酸価は90mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましい。樹脂のGPCにより得られるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、1,000以上15,000以下であることが好ましい。また、インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0042】
本発明において、インクに使用する顔料が自己分散顔料であるときは、顔料表面に直接、又は、他の原子団(−R−)を介して、酸性基が化学的に結合しているものを用いることができる。酸性基としては、例えば、COOM基、SOM基、POHM基、PO基などが挙げられる。尚、上記式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。また、前記他の原子団(−R−)としては、炭素原子数1乃至12のアルキレン基、置換若しくは未置換のフェニレン基、又は置換若しくは未置換のナフチレン基などが挙げられる。本発明においては、酸性基の中でも、COOM基であることがより好ましい。
【0043】
本発明において、インクに使用することのできる顔料としては、カーボンブラックなどの無機顔料及び有機顔料が挙げられ、インクに使用可能なものとして公知の顔料をいずれも使用することができる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、更には、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0044】
<樹脂微粒子>
本発明の画像記録方法に使用するインクは、更に樹脂微粒子を含有してもよい。インクが樹脂微粒子を含有することで、画像を形成した際に、樹脂膜が形成しやすくなり、更に画像の耐擦過性が向上する。樹脂微粒子の種類としては、従来、インクに一般的に用いられているものを何れも用いることができる。本発明においては、上記の液体組成物に含有する樹脂微粒子と同じ種類のモノマーを用いた樹脂微粒子の方が、樹脂膜を形成する際に一体となりやすく、より好ましい。また、インク中の樹脂微粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0045】
<水性媒体及びその他の成分>
インクには、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、液体組成物に使用可能なものとして挙げた水溶性有機溶剤と同様のものを使用することができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、インクには、上記の液体組成物に使用可能なものとして挙げたその他の成分と同様のものを使用することができる。
【0046】
[セット]
本発明のセットは、酸性基によって分散している顔料を含有するインク及びインク中の顔料の分散状態を不安定化させる酸性の液体組成物を有し、液体組成物がスルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子を含有することを特徴とする。尚、セットとして組み合わせることのできる顔料を含有するインクについての限定は特になく、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインクなどを用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。尚、明細書及び表中の略称は以下の通りである。
DBSA:ドデシルベンゼンスルホン酸
DBSNa:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
TLPA:トリラウレス−4−リン酸
TLPNa:トリラウレス−4−リン酸ナトリウム
MMA:メタクリル酸メチル
2EHA:アクリル酸−2−エチルヘキシル
ATBS:アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸
P−1M:2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート(共栄社化学製)
BC−20:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(日光ケミカルズ製)
【0048】
[液体組成物の調製]
以下の手順に従って、液体組成物を調製した。
【0049】
<樹脂微粒子分散液の調製>
撹拌装置、窒素導入管、還流冷却装置、温度計を備えたフラスコに、成分Iとして、
・界面活性剤 表1参照
・イオン交換水 100.0部
を加えた後、撹拌しながら窒素雰囲気下で90℃まで昇温した。その後、成分IIとして、
・モノマー 表1参照
・界面活性剤 表1参照
・イオン交換水 100.0部
を混合した溶液と、過硫酸カリウム1.0部をイオン交換水20.0部に溶解した液体とを、それぞれ3時間かけて上記フラスコ内に滴下した。その後、2時間撹拌した後、適量のイオン交換水を加え、固形分25.0質量%の樹脂微粒子分散液を得た。各樹脂微粒子分散液の調製条件を表1に示す。得られた樹脂微粒子は何れも体積平均粒径は50nm以上250nm以下の範囲内であった。更に、得られた各樹脂微粒子について、樹脂微粒子1g当たりのスルホン酸基及びリン酸基の量(mmol/g)及びガラス転移温度をそれぞれ上述した方法で測定した。結果を表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
<液体組成物の調製>
上記で得られた樹脂微粒子分散液を下記の組成で混合した。各液体組成物に用いる樹脂微粒子分散液の種類及び含有量、その他の反応剤の種類及び含有量は表3に示した。尚、イオン交換水の残部は、液体組成物を構成する全成分の合計が100.0質量%となる量のことである。
・樹脂微粒子分散液(樹脂の含有量は25.0質量%) 表3参照
・その他の反応剤 表3参照
・グリセリン 5.0質量%
・ジエチレングリコール 10.0質量%
・界面活性剤:アセチレノールE100(川研ファインケミカル製) 1.0質量%
・イオン交換水 残部
【0053】
これを十分撹拌して分散し、4.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)でろ過し、液体組成物を調製した。更に、水酸化カリウム水溶液(濃度:1mol/L)を適宜加えることで、表3に記載のpHとなるように調製した。尚、液体組成物のpHの測定は、pHメータ F−21(堀場製作所製)を用い25℃で行った。上記で得られた液体組成物について、400nm乃至800nmの波長域における最大吸光度Amaxと最小吸光度Aminを日立ダブルビーム分光光度計U−2900によって測定した。測定値から比Amax/Aminを算出したところ、何れの液体組成物も1.0以上2.0以下であった。
【0054】
【表3】

【0055】
[インクの調製]
以下の手順に従って、インクを調製した。
【0056】
<顔料分散体の調製>
(顔料分散体Aの調製)
撹拌装置、窒素導入管、還流冷却装置、温度計を備えたフラスコにメチルエチルケトンを100.0部加えた。次いでスチレン40.0部、アクリル酸n−ブチル30.0部、アクリル酸(pKa:4.3)30.0部を加えた後、撹拌しながら窒素雰囲気下で80℃まで昇温した。その後、V−59(和光純薬製;2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル))を5.0部加え6時間撹拌した。更に、V−59を1部加え4時間反応させて樹脂を合成した。得られた樹脂の酸価は230mgKOH/gであった。得られた樹脂のアニオン性基の中和率がモル基準で75%となるように水酸化カリウム水溶液を加え、更に適量の水を加えて撹拌した後、減圧条件下にてメチルエチルケトンを除去し水を加えてアニオン性樹脂分散剤水溶液(樹脂の含有量は25.0質量%)を得た。
【0057】
次に、カーボンブラック(NIPex 180 IQ;Degussa製)15.0部、上記で得たアニオン性樹脂分散剤水溶液20.0部、2−ピロリドン10.0部、イオン交換水55.0部を混合した。そして、クレアミックス(エムテクニック製)を使用して30分間プレミキシングを行った。その後、超高圧ホモジナイザーNM2−L200AR(吉田機械興業製)を用い分散処理(処理圧:150MPa、20パス処理)を行って顔料分散体A(顔料の含有量は15.0質量%、樹脂の含有量は5.0質量%)を得た。
【0058】
(顔料分散体Bの調製)
カーボンブラックの表面にカルボキシルフェニル基(pKa:4.2)が結合した自己分散カーボンブラック顔料であるCab−O−Jet300(Cabot製)を顔料分散体B(顔料の含有量は15.0質量%)として用いた。
【0059】
(顔料分散体Cの調製)
アニオン性樹脂分散剤水溶液に代えて、カチオン性樹脂分散剤水溶液[メタクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド−(アクリル酸−2−ヒドロキシエチル)−(アクリル酸n−ブチル)共重合体(質量比は100:30:70)の樹脂水溶液(樹脂の含有量は25.0質量%)]を用いた以外は、顔料分散体Aと同様にして顔料分散体C(顔料の含有量は15.0質量%、樹脂の含有量は5.0質量%)を得た。
【0060】
<樹脂微粒子分散液IE−1の調製>
撹拌装置、窒素導入管、還流冷却装置、温度計を備えたフラスコにイオン交換水を100部、ラテムルASK(花王製;アルケニルコハク酸ジカリウム)を2.5部加えた後、撹拌しながら窒素雰囲気下で90℃まで昇温した。その後、メタクリル酸メチル85.0部、アクリル酸−2−エチルヘキシル10.0部、メタクリル酸5.0部、イオン交換水を100.0部、ラテムルASKを2.5部混合した液体と、過硫酸カリウム1.0部をイオン交換水20.0部に溶解した液体とを3時間かけてそれぞれ滴下した。その後、2時間撹拌した後、適量のイオン交換水を加え、固形分25.0質量%の樹脂微粒子分散液IE−1を得た。
【0061】
<インクの調製>
上記で得られた顔料分散体を下記の組成で混合した。各インクに用いる顔料分散体の種類、樹脂微粒子分散液の種類及び含有量、インクのpHは表4に示した。尚、イオン交換水の残部は、インクを構成する全成分の合計が100.0質量%となる量のことである。
・顔料分散体(顔料の含有量は15.0質量%) 20.0質量%
・樹脂微粒子分散液(樹脂の含有量は25.0質量%) 表4参照
・グリセリン 5.0質量%
・ジエチレングリコール 10.0質量%
・界面活性剤:アセチレノールE100(川研ファインケミカル製) 1.0質量%
・イオン交換水 残部
【0062】
これを十分撹拌して分散し、1.2μmのミクロフィルター(富士フイルム製)でろ過し、インクを調製した。更に、塩酸水溶液(濃度:1mol/L)又は水酸化カリウム水溶液(濃度:1mol/L)を適宜加えることで、表4に記載のpHとなるように調製した。尚、インクのpHの測定は、pHメータ F−21(堀場製作所製)を用い25℃で行った。
【0063】
【表4】

【0064】
[評価]
上記で得られた液体組成物及びインクを、それぞれ液体カートリッジに充填し、表5に示す組合せでセットとし、インクジェット記録装置PIXUS Pro9500(キヤノン製)に装着した。このとき、シアンの位置にインクを、フォトマゼンタの位置に液体組成物を装着した。記録媒体としては、PB PAPER GF−500(キヤノン製)、OKトップコート(王子製紙製)、及びミラーコート・ゴールド(王子製紙製)の3種を用いた。そして、上記3種の記録媒体それぞれに対し、液体組成物を記録媒体に付与し、その後、インクを記録媒体の前記液体組成物を付与した領域に重ねて付与することで、インクの記録デューティが100%及び液体組成物の記録デューティが25%の画像を作成した。得られた画像を常温で24時間保存した後、以下の評価を行った。尚、記録条件は、温度:23℃、相対湿度:55%とした。また、上記インクジェット記録装置では、解像度600dpi×600dpiで1/600インチ×1/600インチの単位領域に3.5ng(ナノグラム)のインク滴を8ドット付与する条件を、記録デューティが100%であると定義される。
【0065】
(液体組成物によってインク中の顔料の分散状態が不安定化するか否かの確認)
インクをレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2(堀場製作所製)を用いて、試料の屈折率1.5、分散媒(水)の屈折率1.333、反復回数15回の条件でD50を測定し、この値をDとした。更に、インクを質量比率で0.25倍量の液体組成物中と混合した後、同様にD50を測定し、この値をDとした。このとき、DとDの比(D/D)が1.3以上である場合、液体組成物によってインク中の顔料の分散状態が不安定化したと判断した。その結果、実施例1〜28及び比較例2において、D/Dが1.3以上であり、液体組成物によってインク中の顔料の分散状態が不安定化したことを確認した。比較例1及び3では、D/Dは1.3未満であり、液体組成物によってインク中の顔料の分散状態が不安定化しなかった。
【0066】
(画像の耐擦過性)
上記で得られた画像の耐擦過性の評価を、JIS L 0849に準拠して以下の通り行った。具体的には、学振形染色摩擦堅ろう度試験機(安田機械製作所製)の曲面上に画像を配置し、摩擦子に画像を作成するのに使用したものと同種の記録媒体を固定した。そして、固定した記録媒体を1.96Nの荷重で、30回往復摩擦する擦過試験を行った。10回往復摩擦した後の画像、及び、30回往復摩擦した後の画像をそれぞれ目視で確認することで、画像の耐擦過性の評価を行った。画像の耐擦過性の評価基準は以下の通りである。尚、下記の各評価項目の評価基準において、AA〜Bが好ましいレベルとし、Cは許容できないレベルとした。評価結果を表5に示す。
AA:30回往復摩擦した後でも、全ての記録媒体の画像において、傷がほとんど見られなかった
A:10回往復摩擦した後では、全ての記録媒体の画像において、傷がほとんど見られなかったが、30回往復摩擦した後で、何れかの記録媒体の画像において、わずかな傷が見られた
B:10回往復摩擦した後では、全ての記録媒体の画像において、傷がほとんど見られなかったが、30回往復摩擦した後で、何れかの記録媒体の画像において、傷が見られた
C:10回往復摩擦した後でも、何れかの記録媒体の画像において、明らかな傷が見られた。
【0067】
【表5】

【0068】
<比較例4>
特開2002−302627号公報の実施例1のブラック顔料インク組成物と反応液1と同様にして、カチオン性分散剤によって分散されている顔料とカチオン性樹脂微粒子を含有するインク9と、アニオン性反応剤とアニオン性樹脂微粒子を含有する液体組成物24をそれぞれ調製した。得られたインク9及び液体組成物24をそれぞれ液体カートリッジに充填し、上記(画像の耐擦過性)と同様の評価を行ったところ、C評価であった。
【0069】
<比較例5>
特開2010−194998号公報の水性顔料シアンインク1と水性処理液1と同様にして、アニオン性樹脂分散顔料及び樹脂微粒子を含有するインク10と、ノニオン性樹脂微粒子及び反応剤である有機酸(2−ピロリドン−5−カルボン酸)を含有する液体組成物25をそれぞれ調製した。得られたインク10及び液体組成物25をそれぞれ液体カートリッジに充填し、上記(画像の耐擦過性)と同様の評価を行ったところ、C評価であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基によって分散している顔料を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記顔料の分散状態を不安定化させる酸性の液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有する画像記録方法であって、
前記液体組成物が、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子を含有することを特徴とする画像記録方法。
【請求項2】
前記液体組成物中の前記樹脂微粒子が有するスルホン酸基及びリン酸基の量が、前記樹脂微粒子1g当たり、0.15mmol/g以上1.00mmol/g以下である請求項1に記載の画像記録方法。
【請求項3】
前記液体組成物中の前記樹脂微粒子の含有量(質量%)が、前記液体組成物の全質量を基準として、1.0質量%以上15.0質量%以下である請求項1又は2に記載の画像記録方法。
【請求項4】
前記液体組成物中の前記樹脂微粒子のガラス転移温度(Tg)が、20℃以上100℃以下である請求項1乃至3の何れか1項に記載の画像記録方法。
【請求項5】
前記インクの25℃におけるpHが7以上11以下であり、かつ、前記インク中の前記顔料の有する前記酸性基の25℃におけるpKaが4以上5以下である請求項1乃至4の何れか1項に記載の画像記録方法。
【請求項6】
酸性基によって分散している顔料を含有するインク、及び、前記インク中の前記顔料の分散状態を不安定化させる酸性の液体組成物を有するセットであって、
前記液体組成物が、スルホン酸基及びリン酸基から選択される少なくとも1種を有する樹脂微粒子を含有することを特徴とするセット。


【公開番号】特開2013−18156(P2013−18156A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151921(P2011−151921)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】