説明

界面終端元素予測方法及びコンピュータに界面終端元素予測を行わせるためのプログラム

【課題】半導体デバイス設計等では、金属酸化物AOと金属M(あるいはMA)との極性界面が酸素終端になるかそれとも金属終端になるかでこの界面の特性が大きく変化するので、どちらの終端界面が現れるかを事前に高い精度で予測する方法を提供する。
【解決手段】(a)Aの金属M上への吸着エネルギーAonM、Mの金属M上への吸着エネルギーMonMを求める。(b)金属M上への酸素の吸着エネルギーOonMを求める。(c)下記の2つの式(AonM)−(OonM)、{(AonM)−(MonM)}−{(OonM)−(O解離エネルギー)/2}の符号が、両方とも正ならば界面終端元素はA金属、両方とも負ならば界面終端元素は酸素、両者の符合が異なる場合は界面終端元素は実験条件に依存して変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は界面終端元素予測方法及びコンピュータに界面終端元素予測を行わせるためのプログラムに関し、特に金属酸化物(以下、AOと表記することがある。ここで、Aは酸化物の金属成分、Oは酸素を表す)と金属(以下、Mと表記することがある)との間に形成される急峻な界面において、この異種の物質間の結合を介する原子の種類(界面終端元素)を予測するための方法(予測のアルゴリズム、計算式、計算式に用いるパラメータ群、計算式に用いるパラメータの求め方、および判定式)、及びこの予測をコンピュータで行うためのプログラムに関する。なお、ここで急峻な界面とは、MとAOの量が徐々に遷移していくのではなく、実質的に純粋なMと実質的に純粋なAOとが隣接している界面のことを言う。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの一層の微細化、高性能化に伴い、デバイス中の各種の界面のバンドアラインメントなどの各種の界面状態の制御が重要となってきている。しかしながら、界面状態を事前に予測することは困難であるため、これまで使用したことのない材料の採用を試みようとするなど、新規な構成の半導体デバイスを設計する際には多くの試行錯誤が必要となり、開発期間と開発経費が増大しがちであるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決することを意図するものであり、具体的には半導体デバイスで頻繁に使用される金属酸化物結晶と金属との界面の金属酸化物側が極性面になる場合に、この面にどの元素が現れるかを高い精度で予測することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一側面によれば以下のステップ(a)及び(b)を設け、第1の金属の酸化物と第2の金属との極性界面終端元素を予測する界面終端元素予測方法が与えられる。
(a)前記第1の金属と前記第2の金属との第1の結合エネルギーと酸素と前記第2の金属との第2の結合エネルギーとを比較する。
(b)前記1の結合エネルギーが前記第2の結合エネルギーより大きい場合は前記極性界面終端元素は前記第1の金属の元素であると予測し、前記1の結合エネルギーが前記第2の結合エネルギーより小さい場合は前記極性界面終端元素は酸素であると予測する。
ここで、前記第1の結合エネルギーとして、前記第2の金属への前記第1の金属の原子の吸着エネルギーで近似した第1の近似の結果を使用し、前記第2の結合エネルギーとして、前記第2の金属への酸素原子の吸着エネルギーで近似した第2の近似結果を使用してよい。
また、前記第1の結合エネルギーとして、前記第1の近似の結果から前記第2の金属への前記第2の金属の原子の吸着エネルギーを差し引いた第3の近似の結果を使用し、前記第2の結合エネルギーとして、前記第2の近似の結果から酸素分子の酸素原子への解離エネルギーの半分を差し引いた第4の近似の結果を使用してよい。
また、前記第3の近似の結果と前記第4の近似の結果との比較による前記ステップ(b)の予測を行うことで第1の予備予測結果を得ることに加えて、前記第1の近似の結果と前記第2の近似の結果との比較による前記ステップ(b)の予測を行うことで第2の予備予測結果を得て、前記第1と第2の予備予測結果が一致した場合には、当該予備予測結果を極性界面終端元素の予測結果とし、前記第1と第2の予備予測結果が不一致であった場合には、極性界面終端元素は不定であると予測してよい。
また、前記第2の金属への酸素原子の吸着エネルギーを下式
OonM[kJ・(mol−O)−1]=0.719×Hform[kJ・(mol−M)−1]+230[kJ・(mol−O)−1
(ここで、OonMは前記第2の金属への酸素原子の吸着エネルギーを、Hformは最も原子価の高い前記第2の金属の酸化物の生成エンタルピーを表す)
により求めてよい。
本発明の他の側面によれば、以下のステップ(A)から(C)を設け、第1の金属の酸化物と第2の金属及び前記第2の金属以下の量の前記第1の金属からなる合金との極性界面終端元素を予測する界面終端元素予測方法が与えられる。
(A)請求項4または5の界面終端予測方法により、第1の金属の酸化物と前記第2の金属との極性界面終端元素を予測する。
(B)前記ステップ(A)における前記極性界面終端元素の予測結果が前記第1の金属元素の場合には、当該予測結果を前記第1の金属の酸化物と第2の金属及び前記第2の金属以下の量の前記第1の金属からなる合金との極性界面終端元素の予測結果とする。
(C)前記ステップ(A)における前記極性界面終端元素の予測結果が酸素又は不定の場合には、前記第1の金属への酸素の吸着エネルギーと前記第2の金属への酸素の吸着エネルギーとを比較する。
(D)前記第1の金属への酸素の吸着エネルギーが前記第2の金属への酸素の吸着エネルギーよりも大きい場合には、前記極性界面終端元素は前記第1の金属の元素であると予測し、前記第1の金属への酸素の吸着エネルギーが前記第2の金属への酸素の吸着エネルギーよりも小さい場合には、前記極性界面終端元素は酸素であると予測する。
ここで、前記第1の金属への酸素原子の吸着エネルギーを下式
OonA[kJ・(mol−O)−1]=0.719×Hform[kJ・(mol−M)−1]+230[kJ・(mol−O)−1
(ここで、OonAは前記第1の金属への酸素原子の吸着エネルギーを、Hformは最も原子価の高い前記第1の金属の酸化物の生成エンタルピーを表す)
により求めてよい。
本発明の更に他の側面によれば、コンピュータに以下の手順(a)及び(b)を実行させることにより第1の金属の酸化物と第2の金属との極性界面終端元素を予測させるための、界面終端元素予測プログラムが与えられる。
(a)前記第1の金属と前記第2の金属との第1の結合エネルギーと酸素と前記第2の金属との第2の結合エネルギーとを比較する。
(b)前記1の結合エネルギーが前記第2の結合エネルギーより大きい場合は前記極性界面終端元素は前記第1の金属の元素であると予測し、前記1の結合エネルギーが前記第2の結合エネルギーより小さい場合は前記極性界面終端元素は酸素であると予測する。
ここで、前記第1の結合エネルギーとして、前記第2の金属への前記第1の金属の原子の吸着エネルギーで近似した第1の近似の結果を使用せしめ、前記第2の結合エネルギーとして、前記第2の金属への酸素原子の吸着エネルギーで近似した第2の近似結果を使用せしめてよい。
また、前記第1の結合エネルギーとして、前記第1の近似の結果から前記第2の金属への前記第2の金属の原子の吸着エネルギーを差し引いた第3の近似の結果を使用せしめ、 前記第2の結合エネルギーとして、前記第2の近似の結果から酸素分子の酸素原子への解離エネルギーの半分を差し引いた第4の近似の結果を使用せしめてよい。
また、前記第3の近似の結果と前記第4の近似の結果との比較による前記手順(b)の予測を実行させることで第1の予備予測結果を得ることに加えて、前記第1の近似の結果と前記第2の近似の結果との比較による前記手順(b)の予測を実行させることで第2の予備予測結果を得させ、前記第1と第2の予備予測結果が一致した場合には、当該予備予測結果を極性界面終端元素の予測結果とせしめ、前記第1と第2の予備予測結果が不一致であった場合には、極性界面終端元素は不定であると予測させてよい。
また、前記第2の金属への酸素原子の吸着エネルギーを下式
OonM[kJ・(mol−O)−1]=0.719×Hform[kJ・(mol−M)−1]+230[kJ・(mol−O)−1
(ここで、OonMは前記第2の金属への酸素原子の吸着エネルギーを、Hformは最も原子価の高い前記第2の金属の酸化物の生成エンタルピーを表す)
により求めさせてよい。
本発明の更に他の側面によれば、コンピュータに以下の手順(A)から(C)を実行させることにより第1の金属の酸化物と第2の金属及び前記第2の金属以下の量の前記第1の金属からなる合金との極性界面終端元素を予測させるための、界面終端元素予測プログラムが与えられる。
(A)上述の第1の金属の酸化物と第2の金属との極性界面終端元素を予測させるための界面終端元素予測プログラムにより、第1の金属の酸化物と前記第2の金属との極性界面終端元素を予測する。
(B)前記手順(A)における前記極性界面終端元素の予測結果が前記第1の金属元素の場合には、当該予測結果を前記第1の金属の酸化物と第2の金属及び前記第2の金属以下の量の前記第1の金属からなる合金との極性界面終端元素の予測結果とする。
(C)前記手順(A)における前記極性界面終端元素の予測結果が酸素又は不定の場合には、前記第1の金属への酸素の吸着エネルギーと前記第2の金属への酸素の吸着エネルギーとを比較する。
(D)前記第1の金属への酸素の吸着エネルギーが前記第2の金属への酸素の吸着エネルギーよりも大きい場合には、前記極性界面終端元素は前記第1の金属の元素であると予測し、前記第1の金属への酸素の吸着エネルギーが前記第2の金属への酸素の吸着エネルギーよりも小さい場合には、前記極性界面終端元素は酸素であると予測する。
ここで、前記第1の金属への酸素原子の吸着エネルギーを下式
OonA[kJ・(mol−O)−1]=0.719×Hform[kJ・(mol−M)−1]+230[kJ・(mol−O)−1
(ここで、OonAは前記第1の金属への酸素原子の吸着エネルギーを、Hformは最も原子価の高い前記第1の金属の酸化物の生成エンタルピーを表す)
により求めさせてよい。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、金属酸化物と金属との界面における界面終端元素の種類を予測することにより、電子デバイスの絶縁膜のリーク電流低減、電界効果トランジスター(MOSに代表される)の動作電圧の低減、耐食・絶縁などの用途に用いられる酸化物セラミックス/金属接合(コーティングを含む)の接合強度の引き上げなどの効果を生む材料探索を、多大な試行錯誤を伴うことなく実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】金属酸化物結晶の極性面を説明する模式図。
【図2】金属酸化物結晶の極性面及び非極性面の構造を概念的に説明する模式図。
【図3】金属酸化物結晶と金属との極性界面及び非極性界面の構造を説明する模式図。
【図4】各種の金属酸化物−金属界面の終端元素を示す実験データ。a)アルミナ/Ni界面のAl 2pスペクトル。Al3+による一つのピークのみからなる。b)アルミナ/NiAl界面のAl 2pスペクトル。Al3+、NiAlのAlに加え矢印の界面Alによるピークが存在し、アルミ原子終端であることが分かる。c)アルミナ/Ni界面、NiそのものNi 2pスペクトル、および両者を差し引きした界面成分に由来するNi 2pスペクトル。Ni−O結合に対応するものになっており、酸素原子終端であることが分かる。d)アルミナ/Co界面のAl 2pスペクトル。Al3+による一つのピークのみからなる。e)アルミナ/Co界面、CoそのものCo 2pスペクトル、および両者を差し引きした界面成分に由来するCo 2pスペクトル。Co−O結合に対応するものになっており、酸素原子終端であることが分かる。
【図5】酸化亜鉛/白金界面が酸素終端であることを示す実験データ。a)Pt蒸着前後のZn LMMスペクトル。Pt蒸着により、金属Znに由来するLMMピークの位置に肩が生じた。b)Pt蒸着前後のPt 4fスペクトル。Pt蒸着により、Pt−O結合に由来するピークが生じ、実験データは、Ptに由来するピークとPt−O結合に由来するピークでフィッティングできる。
【図6】本発明の界面終端元素予測方法の原理を示すフローチャート。
【図7】本発明の原理に基く単純化された界面終端元素予測方法を示すフローチャート。
【図8】本発明の原理に基く単純化された界面終端元素予測方法を示すフローチャート。
【図9】本発明の原理に基くM−AO予測方法を示すフローチャート。
【図10】本発明の原理に基くMA−AO予測方法を示すフローチャート。
【図11】本発明を実施するプログラムを動作させるコンピュータシステムのブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
先ず、金属酸化物結晶の極性面及び極性界面について説明する。
【0008】
図1(a)〜(c)に、酸化アルミニウムAl(濃色の小さな球はAl原子を、淡色の大きな球はO原子を表す)、酸化ニッケルNiO(やや濃色の小さな球はNi原子を、やや淡色の大きな球は酸素原子を表す)、酸化亜鉛ZnO(濃色の球はZn原子を、淡色の球は酸素原子を表す)の結晶中の各元素の元素配置構造を示す。
【0009】
これらの元素配置から判るように、これらの結晶を切断する面の向きによって、ある場合には結晶表面に酸素と金属元素のどちらか一方だけが現れ、別の場合には酸素と金属元素の両方が現れる。酸素と金属元素のどちらか一方だけが現れる面を極性界面と呼ぶ。これに対して、両方が現れる面を非極性界面と呼ぶ。図1(a)に示す酸化アルミニウム結晶では、図中の長方形の枠(左下から右上に伸びる、かなり浅い角度で描かれている長方形)が表す面で結晶を切断することで、極性面が現れる。図1(b)の酸化ニッケルでは、左下に頂点を有し、上面中央に底辺を有する斜めになった逆三角形状の枠が表す面で結晶を切断することで、極性面が現れる。また、図1(c)の酸化亜鉛結晶では、ここに示すやや縦長の直方体の上面で結晶を切断することで極性面が現れる。図1に示した3種類の結晶以外でも多くの金属酸化物結晶で極性面が現れる。
【0010】
図2は極性面及び非極性面の構造を図式的に示す図である。図2において、濃色の円(球)は金属原子を、白色の円(球)は酸素原子を表す。図2(a)に示す極性面の左側のものでは酸素だけが表面に現れているのに対して、右側のものは金属原子だけが表面に現れている。図2(b)は同じ金属酸化物の結晶を(a)とは別の面で切ったときの結晶表面の原子配列を示す。この面は酸素原子と金属原子の両方が現れる非極性面になっている。
【0011】
図1及び図2においては金属酸化物結晶の表面、つまり結晶と自由空間の間の界面(極性面及び非極性面)を考えたが、以下では金属酸化物結晶と金属との界面(界面の金属酸化物側の面の原子構成により、図1及び図2で説明したことと全く同様に、極性界面及び非極性界面がある)を考える。
【0012】
図3に、金属酸化物AO結晶と金属Mとの間の極性界面及び非極生界面の構造を示す。図3(a)には界面の金属酸化物側に酸素原子Oだけが現れている酸素終端極性界面(a−1)及び金属原子Aだけが現れている金属終端極性界面(a−2)の2種類の極性界面を示す。また金属酸化物結晶に対する表面の向きによっては、界面の金属酸化物側が非極性面になっている、非極性界面(b)も現れる。
【0013】
ここで図3の2種類の極性界面を比較するに、(a−1)の酸素終端極性界面では金属Mは直接金属Aに接触していないのに対して、(a−2)の金属終端極性界面においては金属Mと金属Aとが直接接触している界面が形成されていることがわかる。このように、界面において異種の金属同士が直接接触している場合と酸素原子の層を介して間接的に接触している場合とでは当然界面の電気的特性が異なる。更に、機械的な結合強度も異なる。従って、半導体デバイスなどのこの種の界面を使用する構造物を設計する際には、電気的・機械的両側面で、界面が酸素終端になるのかそれとも金属終端になるかの予測ができれば、そのような構造物を試作する前に精度の高い特性・強度等の性能予測が可能になるので、開発期間・開発工数の低減などの面で大いに有益である。また、所望の特性を得るためどちらか特定の終端界面を得たい場合、どのようにすればよいか(具体的には金属酸化物と金属にどのような組合せを採用すればよいか、など)の指針を、実験をすることなく与えることができれば好都合である。
【0014】
本発明は、元々界面結合とは無関係に導き出されたパラメータである吸着エネルギーを用い、界面結合の熱力学的解析に基いて上記予測等を実現するものである。また、本発明の予測によれば、以下の例に示すように、種々の金属と酸化物の組合せに対して実験結果と良い一致を示す。従って、吸着エネルギーの値が得られる(計算できる)広範な系に対して本発明が適用可能である。更に本発明では予測精度が低下する条件についても明らかにしているので、予測の信頼性が一層高いものとなる。
【0015】
以下では先ず金属M−金属酸化物AOとの間に形成された急峻な界面の金属酸化物側が金属Aになるかそれとも酸素Oになるかを予測する方法を一般的に説明する。
【0016】
金属成分(A)原子終端M−A−O−−と、酸素原子終端M−O−A−O−−との間の以下の式Aで表される化学平衡を考える。(なお、記号「――」はその左側にある−A−O−の単位が繰り返されることを示す。例えばM−A−O――はM−A−O−A−O−A−O−・・・という繰り返しを表している。)
【0017】
【化1】

【0018】
この化学平衡における平衡定数Kは式Bで表される。
K=a(M−O−A−O――)/{a(M−A−O――)×a(O)} (式B)
ここで、a(M−O−A−O――)は酸素原子終端の活量、a(M−A−O・・・)は金属成分(A)原子終端の活量、a(O)は金属M中に溶解している酸素の活量である。a(O)は系の酸素分圧の平方根に比例し(非特許文献10参照)、比例定数はそれぞれの金属Mで異なる。Kの値はゼロから無限大の間を取る。K>1のとき、式Aの平衡は右側に偏る。Kは式Cにより式Aの反応のギブスエネルギーΔGと関連付けられる。
K=exp(−ΔG/RT) (式C)
ここで
ΔG={酸素原子終端の標準状態における化学ポテンシャル}
− {Al原子終端の標準状態における化学ポテンシャル}
− {標準状態における酸素分子の化学ポテンシャルの半分} (式D)
もし、式Aの平衡が右に偏れば界面は酸素原子終端になり、そうでなければA原子終端になる。化学平衡の方向を決める平衡定数Kはギブスエネルギーで決まるが、これはA原子終端の化学ポテンシャル、酸素原子終端の化学ポテンシャル、及び酸素分圧で決まる。
この予測式では、以下の近似を使う。
1.酸素分圧の範囲を、金属酸化物が還元されず、且つ金属Mが酸化されない範囲として、酸素分圧の影響を考慮から外す。
2.A原子終端の化学ポテンシャルを金属M−金属成分A間の結合エネルギーで、酸素原子終端の化学ポテンシャルを金属M−酸素O間の結合エネルギーで近似する。
つまり、これら2つの近似に基く予測方法においては、金属M−金属成分A間の結合エネルギーと金属M−酸素O間の結合エネルギーとを比較し、前者の方が大きい場合にはA原子終端、後者の方が大きい場合には酸素原子終端であると予測する。これをフローチャートで表現すれば図6のようになる。
【0019】
その上で、様々な金属Mに対してM−A結合エネルギー、M−O結合エネルギーを得る方法として、以下の2つの方法の何れかを用いる。
・第1の方法(単純近似):M−A結合エネルギーとして、A原子の金属M上への吸着エネルギー(以下、AonMと称することがある)を用いる。
・第2の方法:M−A結合エネルギーとして、A原子の金属M上への吸着エネルギー(AonM)からM原子の金属M上への吸着エネルギー(以下、MonMと称することがある)を差し引いた値を用いる。この差し引きは、吸着エネルギーがAとMとの間の化学的な相互作用エネルギーに加え凝集エネルギーを含んでいることから、凝集エネルギー分を差し引くという物理的意味合いがある。AonMやMonMは以下で説明する判定方法1の(a)に述べてある方法で得る。
【0020】
また、様々な金属Mに対するM−O結合エネルギーを得る方法も、以下の2つの方法の何れかを用いる。
【0021】
・第1の方法(単純近似):M−O結合エネルギーとして、酸素原子の金属M上への吸着エネルギー(以下、OonMと称することがある)を用いる。
【0022】
・第2の方法:M−O結合エネルギーとして、酸素原子の金属M上への吸着エネルギー(OonM)から酸素分子の酸素原子への解離エネルギーの半分(解離エネルギーの酸素原子1モル分)を差し引いた値を用いる。この差し引きは、吸着エネルギーがOとMとの間の化学的な相互作用エネルギーに加え凝集エネルギーを含んでいることから、凝集エネルギー分を差し引くという物理的意味合いがある。OonMは判定方法1の(b)に述べてある方法で得る。
【0023】
以下の表1〜表3にAの金属Mへの結合エネルギーの計算例を示す。ここでAとして表1はAl、表2はZn、表3はMgの場合を示す。また、表4には金属Mに対する酸素の結合エネルギーの計算の例を示す。
【0024】
【表1】



【0025】
【表2】



【0026】
【表3】



【0027】
【表4】



【0028】
上で説明した原理に基いた最も単純な判定方法は、上述の2種類の近似の一方で得られた近似値を金属Mへの金属成分Aの結合エネルギー及び金属Mへの酸素Oの結合エネルギーとして両者を比較し、AとOのうちの結合エネルギーの大きな方が界面終端元素であると判定することである。そのフローチャートを夫々図7及び図8に示す。しかし、以下に示す方法によれば、上で言及した最も単純な判定方法に比べて高い精度の判定結果を比較的簡単な計算によって与えることができる。
【0029】
判定方法1(M−AO予測方法):金属酸化物(AOと表記、酸化物の金属成分がA、酸素がO)と金属(Mと表記)との間に形成される急峻な界面において、この異種の物質間の結合を介する原子種類(界面終端元素)の予測フローは以下の通りである。
【0030】
(a)Aの金属M上への吸着エネルギー(AonM)、金属Mの金属M上への吸着エネルギー(MonM)を求める。この値はMiedemaの式(非特許文献1参照)に基づいて計算できる。この計算を実際に行う際には、例えば公開されているソフトウェア(非特許文献2参照)を使用してよい。
【0031】
(b)金属M上への酸素の吸着エネルギー(OonM)を、最も原子価の高いMの酸化物の生成エンタルピー(Hform)の値を用いて、次に示す式1により計算する。
OonM[kJ・(mol−O)−1]=0.719×Hform[kJ・(mol−M)−1]+230[kJ・(mol−O)−1] (式1)
(c)下記の2つの式、つまり式2及び式3
(AonM)−(OonM) (式2)
{(AonM)−(MonM)}−{(OonM)−(O解離エネルギー)/2} (式3)
(ただし、O解離エネルギー=493.07kJ・mol−1
の符号が、両方とも正ならば界面終端元素はA金属、両方とも負ならば界面終端元素は酸素、両者の符合が異なる場合は界面終端元素は実験条件に依存して変化する(不定)。なお、当然のことであるが、X−Y>0とX>Yは等価であるから、差の正負を論じているときは、差を取る2つの要素間の大小関係を論じていることでもあると理解すべきである。以下同様である。
【0032】
換言すれば、この判定は以下に示す手順・考え方により行われる。なお、この手順を図9のフローチャートに示す。
C.不一致の場合は条件に依存して変化する(以下、不定と称することがある)と判断する。
【0033】
上で示した判定の手順で2つの比較を用いている理由は、吸着エネルギー(AonM)と(OonM)が条件によって影響を受け、その影響の取り入れ方が2つの比較で異なっているからである(凝集エネルギーを差し引くことで影響を取り入れていることになる)。
【0034】
ただし、金属酸化物AOが還元されない条件下のみを予測の対象に限る。
【0035】
判定方法2(MA−AO予測方法):金属酸化物(AOと表記、酸化物の金属成分がA、酸素がO)とA含有金属(MAと表記;ここで基本的にはMの方が主成分であるが、以下に示す判定例から判るように、M:A=1:1(原子比)までは以下で説明する判定方法が適用可能である)との間に形成される急峻な界面において、この異種の物質間の結合を介する原子種類(界面終端元素)の予測フロー(つまり、判定方法1において、MにAを添加した場合の効果を予測するフロー)は以下の通りである。
【0036】
(a)Aを含有しないMとの界面における界面終端元素の種類を判定方法1に従って予測する。
【0037】
(b)上記の結果が、A金属終端であれば、A含有金属との界面はA金属終端である。
【0038】
(c)(a)の結果が酸素終端または実験条件依存(不定)である場合には、Aへの酸素の吸着エネルギー(OonA)を判定方法1の(b)に従って計算する。式4
(OonA)‐(OonM) (式4)
の符号が正ならば酸化物AOとMAとの界面終端元素はA、負ならば界面終端元素は酸素である。
【0039】
上に示した判定手順の意味は以下の通りである。
【0040】
・(a)と(b)で先ずA含有金属MAの主成分である金属Mへの金属元素Aの結合の強さを判定し、この結合エネルギーが酸素と金属Mとの結合エネルギーより強いなら、界面終端元素はAであると判定する。
【0041】
・(c)では金属酸化物AO中の酸素を介して金属と結合する場合を考える。その場合、金属酸化物AOと界面を形成する側の金属が合金ではなくMのみを含む純金属なら、界面は−M−O−A−となる。しかし、このMをここで考えている合金MAで置き換えると、界面は−M−O−A−となる場合(I)と、M−A−O−A−(Aは金属MA由来のAを表す)となる場合(II)が考えられる。場合Iと場合IIのどちらになるかを見分けるのが式4である(つまり、式4が負なら場合I、正なら場合II)。場合Iであれば、上に示した界面構造から当然酸素終端となる。しかし場合IIの構造を考えると、界面のAがMAとAOのどちらから来たかは界面の特性に影響を与えないので、結局A原子終端ということになる。(a)と(b)による結果が不定である場合にも上と同じ考え方で判定される。
【0042】
つまり、(a)、(b)で行った判定方法1の結果が酸素終端又は不定となった場合は界面の金属酸化物側(つまり金属酸化物AO側の末端)の元素がA(つまり酸化物側のA)の場合((a)、(b)の結果が不定の場合にはこの事態が起こり得る)もあり、またOの場合もある。しかし、(c)で式4が正になれば、たとえ金属酸化物側の末端の元素がOであっても、金属MA側の末端がA(その由来を明示すればAと表される)であり、かつその一段奥がMとなるので、AO側末端の元素がAである場合と全く同じ境界構造M−A−O−A−となる。よって、この場合もA終端であるということができる。
【0043】
以上説明したAOとMAとの界面終端元素を予測する方法をフローチャートで表現したものを図10に示す。
【0044】
ただし、ここで、最も原子価の高いMの酸化物の生成エンタルピー(Hform)が金属酸化物AOの生成エンタルピーよりも絶対値が大きい場合は、金属酸化物AOの還元が起こり、AOとMとの間に急峻な界面が生成しないので、予測対象から除外する。
【0045】
以上で本発明の界面終端元素予測方法を説明したが、本方法を用いることにより、コンピュータに界面終端元素予測を行わせるためのプログラムを提供することもできる。
【0046】
コンピュータに界面終端元素予測を行わせるためのプログラムについて説明すれば、本プログラムは、もちろんこれに限定する意図はないが、例えば図11にプロック図を示すコンピュータシステムを動作させて、必要な結果を得るものである。図11中のサーバ1101上でプログラムが動作し、データベース1103に格納されているデータを使用して界面終端元素予測を行う。利用者は端末1107を操作し、界面を構成する金属酸化物及び金属をネットワーク1105を介してサーバ1101に対して指定して予測を行わせる。サーバ1101が行った予測の結果はネットワーク1105を介して端末1107に出力され、所定の表現形式で表示が行われる。このプログラム中のデータ入力、データ出力・表示、ネットワーク制御に関する動作は当業者に周知の事項であるため、これ以上説明しない。
【0047】
サーバ1101を制御することにより本発明の界面終端元素予測方法を行わせるプログラムの核心部分である予測方法は、例えば図6〜図10の何れかに示したフローチャート及びそれに付随する明細書中の説明によって行うことができるので、再度の説明は省略する。
【0048】
また、その際に使用するデータは非特許文献として例示した多数の文献で報告されている。まだ報告されていない種類の材料については周知の方法によって測定することができる。また、既に報告されているデータであっても、より高い精度の新たなデータあるいは過去のデータの間違いが報告されることもある。具体的なデータの例は表1〜表4に示した。このようなデータは例えばデータベース1103に蓄積し、適宜追加・修正することができる。
【0049】
なお、上の説明では図11に示すようなネットワークを介して、本発明の予測を情報サービスとして行う形態を示したが、もちろんスタンドアローン形式、つまり一つのコンピュータ中に必要なプログラム、データ、入出力装置等を全て設け、そのようなコンピュータを直接操作することによって界面終端元素予測を行っても良い。
【実施例】
【0050】
以下では、本発明に基いて各種の金属酸化物と金属との界面において金属側の界面終端元素が金属化酸素かの判定を行った例を示す。当然のことであるが、以下の判定は本発明の例示であり、本発明を何ら限定するものではない。
【0051】
判定例1:酸化アルミニウム/ニッケル界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=407、(OonM)=409、(MonM)=340、で式2及び式3の符号は両方とも負となり、この界面は酸素原子終端と予測される。
実験から、本界面は酸素原子終端であることが知られている(非特許文献3及び4参照)。
【0052】
判定例2:酸化アルミニウム/銅界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=332、(OonM)=346、(MonM)=265、で式2及び式3の符号は両方とも負となり、この界面は酸素原子終端と予測される。
実験から、本界面は酸素原子終端であることが知られている(非特許文献5、6、7参照)。
【0053】
判定例3:酸化アルミニウム/コバルト界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=408、(OonM)=446、(MonM)=335、で式2及び式3の符号は両方とも負となり、この界面は酸素原子終端と予測される。
図4のXPSスペクトルから分かるように、実験から、本界面は酸素原子終端であることが判る。
【0054】
判定例4:酸化アルミニウム/チタン界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=384、(OonM)=909、(MonM)=363、で式2及び式3の符号は両方とも負となり、本界面は酸素原子終端と予測される。
実験から、本界面は酸素原子終端であることが知られている(非特許文献8、9、10参照)。
【0055】
判定例5:酸化アルミニウム/バナジウム界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=400、(OonM)=788、(MonM)=401、で式2及び式3の符号は両方とも負となり、この界面は酸素原子終端と予測される。
実験から、本界面は酸素原子終端であることが知られている(非特許文献11、12参照)。
【0056】
判定例6:酸化アルミニウム/クロム界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=377、(OonM)=641、(MonM)=303、で式2及び式3の符号は両方とも負となり、この界面は酸素原子終端と予測される。
実験から、本界面は酸素原子終端であることが知られている(非特許文献13、14参照)。
【0057】
判定例7:酸化アルミニウム/鉄界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=392、(OonM)=529、(MonM)=316、で式2及び式3の符号は両方とも負となり、この界面は酸素原子終端と予測される。
実験から、本界面は酸素原子終端であることが知られている(非特許文献15参照)。
【0058】
判定例8:酸化アルミニウム/ニオブ界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=409、(OonM)=913、(MonM)=582、で式2及び式3の符号は両方とも負となり、この界面は酸素原子終端と予測される。
実験から、本界面は酸素原子終端であることが知られている(非特許文献16、17、18)。
【0059】
判定例9:酸化アルミニウム/銀界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=280、(OonM)=243、(MonM)=222、で式2及び式3の符号は両方とも正となり、この界面はアルミ原子終端と予測される。
実験から、本界面はアルミニウム原子終端であることが知られている(非特許文献19参照)。
【0060】
判定例10:酸化アルミニウム/NiAl合金界面
上記判定方法2に従うと、(AonM)=407、(OonM)=409、(MonM)=340で(c)に該当する。(OonA)=833であるから、式4の符号は正となり、この界面はアルミニウム原子終端と予測される。
実験から、本界面はアルミニウム原子終端であることが知られている(非特許文献20、4、21参照)。
【0061】
判定例11:酸化アルミニウム/FeAl合金界面
上記判定方法2に従うと、(AonM)=392、(OonM)=529、(MonM)=316、で(c)に該当する。(OonA)=833であるから、式4の符号は正となり、この界面はアルミニウム原子終端と予測される。
実験から、本界面はアルミニウム原子終端であることが知られている(非特許文献22参照)。
【0062】
判定例12:酸化アルミニウム/CuAl合金界面
上記判定方法2に従うと、(AonM)=332、(OonM)=346、(MonM)=265、で(c)に該当し、(OonA)=833であるから、式4の符号は正となり、この界面はアルミニウム原子終端と予測される。
実験から、本界面はアルミニウム原子終端であることが知られている(非特許文献4参照)。
【0063】
判定例13:酸化アルミニウム/TiAl合金界面
上記判定方法2に従うと、(AonM)=384、(OonM)=909、(MonM)=363、で(c)に該当する。(OonA)=833であるから、式4の符号は負となり、この界面は酸素原子終端と予測される。
実験では、表5に示すように、本界面は条件によりアルミ原子終端にも酸素原子終端にもなることが示唆され、酸素分圧が大気圧に近く、比較的低温の場合には酸素原子終端である。
【0064】
【表5】

【0065】
表5はアルミナ/TiAl合金界面の界面終端元素を、Al 2pの結合エネルギーから類推した結果を示している。界面終端元素の種類が既知のCu、Ni系では、酸化物由来と金属由来のAl 2pとの結合エネルギー差が大きいとアルミ終端、差が小さいと酸素終端であることが分かっている。TiAl合金では、界面形成条件の違いにより結合エネルギー差が二通りあり、差の大きい場合(高真空で高温)はアルミ終端、差の小さい場合(低真空で比較的低温)は酸素終端と推測できる。
【0066】
判定例14:酸化亜鉛/白金界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=256、(OonM)=329、(MonM)=448、で、式2及び式3の符号は両方とも負となり、この界面は酸素原子終端と予測される。
実験の結果得られた図5のXPSスペクトルから、本界面は酸素原子終端であることが判る。
【0067】
判定例15:酸化亜鉛/銅界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=152、(OonM)=346、(MonM)=265、で式2及び式3の符号は両方とも負となり、この界面は酸素原子終端と予測される。
実験から、本界面は酸素原子終端であることが知られている(非特許文献29)。
【0068】
判定例16:酸化亜鉛/CuZn合金
上記判定方法2に従うと、(AonM)=152、(OonM)=346、(MonM)=265、で(c)に該当する。(OonA)=623であるので、式4の符号は正となり、この界面は亜鉛原子終端と予測される。
Cu0.7Zn0.3(111)を397K、7x10−5Paで1905秒内部酸化した実験では、走査型トンネル顕微鏡による電流像のコントラストから、本界面には亜鉛終端と酸素終端の2種類の界面が形成されていると推定されている(非特許文献30参照)。
【0069】
判定例17:酸化亜鉛/AgZn合金
上記判定方法2に従うと、(AonM)=104、(OonM)=346、(MonM)=222、で、(c)に該当する。(OonA)=623であるので、式4の符号は正となり、この界面は亜鉛原子終端と予測される。
Ag−1wt%Znを1073Kで大気中、17時間内部酸化した実験では、高分解能透過電子顕微鏡像に基づき、本界面は亜鉛終端と推定されている(非特許文献31参照)。
【0070】
判定例18:酸化マグネシウム/銅界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=223、(OonM)=346、(MonM)=265であるので、式2及び式3の符号は両方とも負となり、この界面は酸素原子終端と予測される。
実験から、本界面は酸素原子終端であることが知られている(非特許文献32)。
【0071】
判定例19:酸化マグネシウム/パラジウム界面
上記判定方法1に従うと、(AonM)=324、(OonM)=295、(MonM)=283であるので、式2の符号は正、式3の符号は負となり、この界面は条件によってマグネシウム終端にも酸素終端にもなると予測される。
実験では、本界面は一気圧の大気中、1000℃の条件下で酸素原子終端であることが知られている(非特許文献32参照)。
【0072】
判定例20:酸化アルミニウム/ニッケル界面
判定例1に示したように、本方法を用いると、この界面は酸素原子終端と予測される。一方、ニッケルを20vol.%含んだニッケル−酸化アルミニウム混合粉を不活性雰囲気下、1673Kでホットプレスした実験では本界面はアルミニウム終端になることが知られている(非特許文献33参照)。この条件下では、酸化アルミニウム表面が還元されることが知られている(非特許文献34参照)。従って、判定方法1のただし書きから、本界面は本発明の適応範囲外であり、予測と一致しなくて当然である。
【0073】
判定例21:酸化アルミニウム/鉄界面
判定例7に示したように、本方法を用いると、この界面は酸素原子終端と予測される。一方、鉄を20vol.%含んだ鉄−酸化アルミニウム混合粉を不活性雰囲気下、1673Kでホットプレスした実験では、本界面はアルミニウム終端になることが知られている(非特許文献35参照)。一方、この条件下では、酸化アルミニウム表面が還元されることが知られている(非特許文献34参照)。従って、判定方法1のただし書きから、本界面は本発明の適応範囲外であり、予測と一致しなくて当然である。
【0074】
判定例22:酸化アルミニウム/ニオブ界面
判定例8に示したように、本方法を用いると、この界面は酸素原子終端と予測される。一方、Nb(110)単結晶とサファイア(0001)を高真空チャンバー(10−3Pa)下1773Kで固相接合した試料では、本界面はアルミ原子終端になることが知られている(非特許文献36参照)。一方、この条件下では、酸化アルミニウム表面が還元されることが知られている(非特許文献34参照)。従って、判定方法1のただし書きから、本界面は本発明の適応範囲外であり、予測と一致しなくて当然である。
【0075】
以上の判定例からわかるように、本発明の方法によって行った界面終端元素と実際の界面終端元素は非常に良い一致を示した。また、一致しなかった場合については、予測が失敗する可能性が高いことが事前にわかる。従って、本発明によれば、金属酸化物と金属との界面終端元素を、実験を行うことなしに非常に高い精度で予測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上詳細に説明したとおり、本発明によれば、金属酸化物と金属との界面における界面終端元素の種類を高い精度で予測できるので、MOS構造に代表される半導体デバイスの設計などに広く利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0077】
601、603、605、607 ステップ
701、703 ステップ
801、803 ステップ
901、903、905、907、909、911 ステップ
1001、1003、1005、1007、1009 ステップ
1101 サーバ
1103 データベース
1105 ネットワーク
1107 端末
1109 プリンタ
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0078】
【非特許文献1】A. R. Miedema and J. W. F. Dorleijn, Surf. Sci. 95, 447464 (1980).
【非特許文献2】http://surfseg.nims.go.jp/SurfSeg/menu.html
【非特許文献3】S. Nemsak, T. Skala, M. Yoshitake, N. Tsud, T. Kim, S. Yagyu, V. Matolin, Surf. Interface Anal. 2010, 42, 1589-1592
【非特許文献4】M. Yoshitake, S. Nemsak, T. Skala, N. Tsud, T. Kim, V. Matolin, K. C. Prince, Surf. Sci., 604 (2010) 2150-2156.
【非特許文献5】C. Scheu, G. Dehm, M. Ruhle, R. Brydson: Philos. Mag. A78 (1998) 439.
【非特許文献6】T. Sasaki, K. Matsunaga, H. Ohta, H. Hosono, T. Yamamoto, Y. Ikuhara: Sci. Technol.Adv. Mater. 4 (2003) 575.
【非特許文献7】F. Ernst, P. Pirouz, A.H. Heuer: Philos. Mag. A63 (1991) 259.
【非特許文献8】K. Takahashi, H. Ishii, Y. Takahashi, K. Nishiguchi: Thin Solid Films 216 (1992) 239.
【非特許文献9】C. Scheu, G. Dehm, H. Mullejans, M. Ruhle: Materials Science Forum 207-209 (1996) 181.
【非特許文献10】G. Dehm, C. Scheu, M. Ruhle, R. Raj: Acta. Mater. 46 (1998) 759.
【非特許文献11】J. Biener, M. Baumer, R.J. Madix, P. Liu, E. Nelson, T. Kendelewisz, G. Brown Jr.: Surf.Sci. 449 (2000) 50.
【非特許文献12】M. Baumer, J. Biener, R.J. Madix: Surf.Sci. 432 (1999) 189.
【非特許文献13】H. Lu, C.L. Bao, D.H. Shen, J. Qin, Y.D. Cui, Y.X. Wang: J.Phys.Chem.Solids 58 (1997) 257.
【非特許文献14】J. Sainio, M. Eriksson, J. Lahtinen: Surf.Sci. 532-535 (2003) 396.
【非特許文献15】A. Arranz, V. Perez-Dieste, C. Palacio: Surf.Sci. 521 (2002) 77.
【非特許文献16】F. S. Ohuchi: J. Mater. Sci. Lett. 8 (1989) 1427.
【非特許文献17】J.Mayer, G Gutekunst, G. Mobus, J.A. Dura, C.P.Flynn, M.Ruhle: Acta Matall. Mater. 40 (1992) S217.
【非特許文献18】J.Bruley, R.Brydson, H.Mullejans, J.Mayer, G. Gutekunst, W. Mader, D. Knauss, M.Ruhle: J.Mater.Res. 9 (1994) 2574.
【非特許文献19】M.L.Muolo, F.Valenza, A.Passerone, D.Passerone: Materials Science and Engineering A495 (2008) 153.
【非特許文献20】G. Kresse, M. Schmid, E. Napetschnig, M. Shishkin, L. Koehler, P. Varga, Science, 308, 1440-1442 (2005)
【非特許文献21】E. Loginova, F. Cosandey, T.E. Madey, Surf.Sci., 601, L11-L14 (2007).
【非特許文献22】H. Graupner, L. Hammer, K. Heinz, D. M. Zehner, Surf.Sci., 380, 335-351 (1997).
【非特許文献23】V. Maurice, G. Despert, S. Zanna, P. Josso, M.-P. Bacos, P. Marcus, Surf.Sci., 596, 61-73 (2005).
【非特許文献24】V. Maurice, G. Despert, S. Zanna, P. Josso, M.-P. Bacos, P. Marcus, Acta Meterialia 55, 3315-3325 (2007).
【非特許文献25】K. Kovacs, I. V. Perczel, V. K. Josepovits, G. Kiss, F. Reti, P. Deak, Appl.Surf.Sci., 200, 185-195 (2002).
【非特許文献26】M. Schmiedgen, P. C. J. Graat, B. Baretzky, E. J. Mittemeijer, Thin Solid Films, 415, 114-122(2002).
【非特許文献27】J.F. Silvain, J.E. Barbier, Y. Lepetitcorps, M. Alnot, J.J. Ehrhardt, Surface and Cortings Technology, 61, 245-250 (1993).
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【非特許文献29】C.T.Campbell, K.A.Daube, J.M.White, Surf.Sci., 182, 458-476 (1987).
【非特許文献30】F. Wiame, V. Maurice, P. Marcus, Sufr.Sci., 601, 4402-4406 (2007)
【非特許文献31】W. P. Vellinga and J. TH. M. De Hosson, Acta Mater., 45, 933-950 (1997)
【非特許文献32】F.R. Chen, S.K. Chiou, L. Chang, C.S. Hong, Ultramicroscopy, 54, 179-191 (1994)
【非特許文献33】R. Brydson, H. Mullejans, J. Bruley, P.A. Trusty, X. Sun, J.A. Yeomans, M. Ruhle: J.Microsc. 177 (1995) 369.
【非特許文献34】M.Gautier, J.P. Duraud, L. Pham Van, M.J. Guittet: Surf.Sci. 250 (1991) 71.
【非特許文献35】R. Brydson, H. Mullejans, P.A. Trusty, X. Sun, J.A. Yeomans, M. Ruhle: J.Microscopy 177 (1995) 369.
【非特許文献36】D.Knauss and W.Mader: Ultramicroscopy 37 (1991) 247.
【非特許文献37】D.R.Lide (ed.), CRC Handbook of Chemistry and Physics, 74th edition, CRC Press (1993-1994)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ(a)及び(b)を設け、第1の金属の酸化物と第2の金属との極性界面終端元素を予測する界面終端元素予測方法。
(a)前記第1の金属と前記第2の金属との第1の結合エネルギーと酸素と前記第2の金属との第2の結合エネルギーとを比較する。
(b)前記1の結合エネルギーが前記第2の結合エネルギーより大きい場合は前記極性界面終端元素は前記第1の金属の元素であると予測し、前記1の結合エネルギーが前記第2の結合エネルギーより小さい場合は前記極性界面終端元素は酸素であると予測する。
【請求項2】
前記第1の結合エネルギーとして、前記第2の金属への前記第1の金属の原子の吸着エネルギーで近似した第1の近似の結果を使用し、
前記第2の結合エネルギーとして、前記第2の金属への酸素原子の吸着エネルギーで近似した第2の近似結果を使用する、
請求項1に記載の界面終端元素予測方法。
【請求項3】
前記第1の結合エネルギーとして、前記第1の近似の結果から前記第2の金属への前記第2の金属の原子の吸着エネルギーを差し引いた第3の近似の結果を使用し、
前記第2の結合エネルギーとして、前記第2の近似の結果から酸素分子の酸素原子への解離エネルギーの半分を差し引いた第4の近似の結果を使用する、
請求項2に記載の界面終端元素予測方法。
【請求項4】
前記第3の近似の結果と前記第4の近似の結果との比較による前記ステップ(b)の予測を行うことで第1の予備予測結果を得ることに加えて、前記第1の近似の結果と前記第2の近似の結果との比較による前記ステップ(b)の予測を行うことで第2の予備予測結果を得て、
前記第1と第2の予備予測結果が一致した場合には、当該予備予測結果を極性界面終端元素の予測結果とし、
前記第1と第2の予備予測結果が不一致であった場合には、極性界面終端元素は不定であると予測する
請求項3に記載の界面終端元素予測方法。
【請求項5】
前記第2の金属への酸素原子の吸着エネルギーを下式
OonM[kJ・(mol−O)−1]=0.719×Hform[kJ・(mol−M)−1]+230[kJ・(mol−O)−1
(ここで、OonMは前記第2の金属への酸素原子の吸着エネルギーを、Hformは最も原子価の高い前記第2の金属の酸化物の生成エンタルピーを表す)
により求める、請求項2から4の何れかに記載の界面終端元素予測方法。
【請求項6】
以下のステップ(A)から(C)を設け、第1の金属の酸化物と第2の金属及び前記第2の金属以下の量の前記第1の金属からなる合金との極性界面終端元素を予測する界面終端元素予測方法。
(A)請求項4または5の界面終端予測方法により、第1の金属の酸化物と前記第2の金属との極性界面終端元素を予測する。
(B)前記ステップ(A)における前記極性界面終端元素の予測結果が前記第1の金属元素の場合には、当該予測結果を前記第1の金属の酸化物と第2の金属及び前記第2の金属以下の量の前記第1の金属からなる合金との極性界面終端元素の予測結果とする。
(C)前記ステップ(A)における前記極性界面終端元素の予測結果が酸素又は不定の場合には、前記第1の金属への酸素の吸着エネルギーと前記第2の金属への酸素の吸着エネルギーとを比較する。
(D)前記第1の金属への酸素の吸着エネルギーが前記第2の金属への酸素の吸着エネルギーよりも大きい場合には、前記極性界面終端元素は前記第1の金属の元素であると予測し、前記第1の金属への酸素の吸着エネルギーが前記第2の金属への酸素の吸着エネルギーよりも小さい場合には、前記極性界面終端元素は酸素であると予測する。
【請求項7】
前記第1の金属への酸素原子の吸着エネルギーを下式
OonA[kJ・(mol−O)−1]=0.719×Hform[kJ・(mol−M)−1]+230[kJ・(mol−O)−1
(ここで、OonAは前記第1の金属への酸素原子の吸着エネルギーを、Hformは最も原子価の高い前記第1の金属の酸化物の生成エンタルピーを表す)
により求める、請求項6に記載の界面終端元素予測方法。
【請求項8】
コンピュータに以下の手順(a)及び(b)を実行させることにより第1の金属の酸化物と第2の金属との極性界面終端元素を予測させるための、界面終端元素予測プログラム。
(a)前記第1の金属と前記第2の金属との第1の結合エネルギーと酸素と前記第2の金属との第2の結合エネルギーとを比較する。
(b)前記1の結合エネルギーが前記第2の結合エネルギーより大きい場合は前記極性界面終端元素は前記第1の金属の元素であると予測し、前記1の結合エネルギーが前記第2の結合エネルギーより小さい場合は前記極性界面終端元素は酸素であると予測する。
【請求項9】
前記第1の結合エネルギーとして、前記第2の金属への前記第1の金属の原子の吸着エネルギーで近似した第1の近似の結果を使用せしめ、
前記第2の結合エネルギーとして、前記第2の金属への酸素原子の吸着エネルギーで近似した第2の近似結果を使用せしめる、
請求項8に記載の界面終端元素予測プログラム。
【請求項10】
前記第1の結合エネルギーとして、前記第1の近似の結果から前記第2の金属への前記第2の金属の原子の吸着エネルギーを差し引いた第3の近似の結果を使用せしめ、
前記第2の結合エネルギーとして、前記第2の近似の結果から酸素分子の酸素原子への解離エネルギーの半分を差し引いた第4の近似の結果を使用せしめる、
請求項9に記載の界面終端元素予測プログラム。
【請求項11】
前記第3の近似の結果と前記第4の近似の結果との比較による前記手順(b)の予測を実行させることで第1の予備予測結果を得ることに加えて、前記第1の近似の結果と前記第2の近似の結果との比較による前記手順(b)の予測を実行させることで第2の予備予測結果を得させ、
前記第1と第2の予備予測結果が一致した場合には、当該予備予測結果を極性界面終端元素の予測結果とせしめ、
前記第1と第2の予備予測結果が不一致であった場合には、極性界面終端元素は不定であると予測させる
請求項10に記載の界面終端元素予測プログラム。
【請求項12】
前記第2の金属への酸素原子の吸着エネルギーを下式
OonM[kJ・(mol−O)−1]=0.719×Hform[kJ・(mol−M)−1]+230[kJ・(mol−O)−1
(ここで、OonMは前記第2の金属への酸素原子の吸着エネルギーを、Hformは最も原子価の高い前記第2の金属の酸化物の生成エンタルピーを表す)
により求めさせる、請求項9から11の何れかに記載の界面終端元素予測プログラム。
【請求項13】
コンピュータに以下の手順(A)から(C)を実行させることにより第1の金属の酸化物と第2の金属及び前記第2の金属以下の量の前記第1の金属からなる合金との極性界面終端元素を予測させるための、界面終端元素予測プログラム。
(A)請求項11または12の界面終端予測プログラムにより、第1の金属の酸化物と前記第2の金属との極性界面終端元素を予測する。
(B)前記手順(A)における前記極性界面終端元素の予測結果が前記第1の金属元素の場合には、当該予測結果を前記第1の金属の酸化物と第2の金属及び前記第2の金属以下の量の前記第1の金属からなる合金との極性界面終端元素の予測結果とする。
(C)前記手順(A)における前記極性界面終端元素の予測結果が酸素又は不定の場合には、前記第1の金属への酸素の吸着エネルギーと前記第2の金属への酸素の吸着エネルギーとを比較する。
(D)前記第1の金属への酸素の吸着エネルギーが前記第2の金属への酸素の吸着エネルギーよりも大きい場合には、前記極性界面終端元素は前記第1の金属の元素であると予測し、前記第1の金属への酸素の吸着エネルギーが前記第2の金属への酸素の吸着エネルギーよりも小さい場合には、前記極性界面終端元素は酸素であると予測する。
【請求項14】
前記第1の金属への酸素原子の吸着エネルギーを下式
OonA[kJ・(mol−O)−1]=0.719×Hform[kJ・(mol−M)−1]+230[kJ・(mol−O)−1
(ここで、OonAは前記第1の金属への酸素原子の吸着エネルギーを、Hformは最も原子価の高い前記第1の金属の酸化物の生成エンタルピーを表す)
により求めさせる、請求項13に記載の界面終端元素予測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−38241(P2013−38241A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173575(P2011−173575)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】