説明

畜肉または魚肉のメト化率測定方法および品質評価方法

【課題】メト化率の低い領域であっても、高感度、高精度かつ簡易に、メト化率を測定できる、畜肉または魚肉のメト化率測定方法の提供。
【解決手段】測定対象の畜肉または魚肉について、波長350〜450nmにおいて測定された吸光スペクトルの吸収ピークをとる波長x(nm)と、波長500〜760nmの間の所定の複数の波長における吸光度を測定して、所定の関係式に算入して得られた、メト化率y(%)との関係から、予め一次相関式を導出しておき、このとき、測定した肉に赤身肉と血合い肉とが混在したものと判定される測定値(xおよびy)がある場合には、その測定値を除いて、前記一次相関式を導出し、被検肉について、波長350〜450nmの吸光スペクトルを測定して、その中で吸収ピークをとる波長の値と、前記相関式とからメト化率を算出することを含む、畜肉または魚肉のメト化率測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜肉または魚肉のメト化率測定方法および品質評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、色の濃い畜肉、魚肉などの褪色(変色)は、時間の経過とともに、該肉組織である筋肉中のミオグロビン(Mb)の変化により生じる。これは、ミオグロビンの持つ鉄が酸化されてメトミオグロビンができるためであり、この反応が、一般にメト化と呼ばれている。
【0003】
ミオグロビンは、ヘム色素と呼ばれ、ヘム(ポルフィリンに2価の鉄イオンの配位した錯化合物、狭義にはプロトヘム(ヘム鉄))を含んだ色素とタンパク質であるグロビンとが結合した色素タンパク質である。ミオグロビンの分子量は、約17,000(アミノ酸残基数は153)であり、球状かつ水溶性のタンパク質である。ミオグロビンは、1分子当たり1分子のヘム鉄を有し、ヘモグロビンにより血液中を輸送されてきた酸素を、主に筋肉細胞に輸送または貯蔵する役割を担っている。
【0004】
ミオグロビンは、生体内では、酸化しても、還元系が働くためデオキシミオグロビンに戻ることができる。しかしながら、死後の筋肉では、この還元系が働かないため、ミオグロビンのヘム鉄が2価であるオキシミオグロビンがさらに酸化されて生じる、ヘム鉄が3価であるメトミオグロビン(metMb)が蓄積する。
【0005】
デオキシミオグロビン(deoxyMb)またはオキシミオグロビン(oxyMb)は、それぞれ、暗赤色または鮮赤色であり、メトミオグロビン(metMb)は、暗褐色である。
【0006】
このデオキシミオグロビンまたはオキシミオグロビンからメトミオグロビンへ変化することを一般に「メト化」と呼び、全ミオグロビン(デオキシミオグロビン、オキシミオグロビンおよびメトミオグロビン)量に対するメトミオグロビンの割合(生成率)を「メト化率」と呼ぶ。
【0007】
メト化が進行したメト化率の高い肉は、褐色化が明瞭となる。そのため、肉の色調を目視観察することで、メト化の進行度を把握することができ、肉の品質、特に肉の劣化を評価することができる。しかしながら、メト化率が低いときには、多くの場合、目視によるメト化の進行度合いの判断が容易にできず、肉の劣化を評価することができない。
【0008】
従来のメト化率の測定方法としては、比色法を用いた測定方法などが挙げられる。
比色法とは、所定の分光分布を有する光を物質に当てると、物質構造(官能基)固有のバンドからなる吸収スペクトルが得られることを利用して、吸収スペクトルと物質の理化学的組成とを回帰式により関係づけ、予め設定した演算式から物質の量を定量する方法である。
【0009】
メト化率を測定する比色法としては、メトミオグロビン中に含まれるポリフィリン置換基の吸収スペクトルの波長500〜600nm付近(Q帯ともいう)の吸光度を用いた測定方法が挙げられる。例えば、畜肉においてはTang法(J. Tang, C. Faustman, T.A. Hoagland,Krzywicki Revisited: Equations for Spectrophotometric Determination of Myoglobin Redox Forms in Aqueous Meat Extracts, Journal of Food Science Volume 69, Issue 9, pages C717-C720, December 2004 (非特許文献1))、魚肉においては尾藤法(尾藤方通, 冷凍マク゛ロ肉の肉食保持に関する研究‐I,冷凍貯蔵中の変色と水抽出液の吸光曲線との関係,日本水産学会誌, 30(10), 847-857, 1964 (非特許文献2))が、一般的に利用されている。
【0010】
また、赤身肉であるマグロについては、前記波長を用いた反射分光法による肉性状検査法およびその装置が報告されている(参照、特許3663373号(特許文献1))。
【0011】
しかしながら、前記波長を用いたメト化率の測定方法では、数カ所の波長での吸光度や分光反射スペクトルを測定する必要や、複数回の測定が必要であり、煩雑であった。また、得られるメト化率の値は、同じ試料から異なる結果が得られるなど、測定法に依存した。さらに、試料の調製方法に、熟練を要した。
【0012】
本発明者らは、以前に、メバチマグロにおいて、350〜760nmの吸収スペクトルを測定し、得られた吸光度から尾藤法によりメト化率を算出したところ、メト化率が50%を超えて80%に達したところで、Soret帯のピーク波長が411.5nmから406.5nmへシフトする現象を観察したことを報告している。ここでのピーク波長のシフト幅とメト化率の上昇には一次相関があると考えられたことも報告している(鈴木朋樹、上野翔世、渡邊学、鈴木徹 平成22年度日本水産学会春季大会講演要旨集, 2010, p141(非特許文献3))。
【0013】
しかしながら、前記相関は、魚肉の品質評価として重要とされる、メト化率の低い領域、特にメト化率40%以下の領域では、相関関係は成立せず、満足できるメト化率の解析は行えなかった。このため、メト化率に基づいて肉の品質を評価するのは、精度的に問題であった。
【0014】
このため、メト化率の低い領域、特にメト化率40%以下の領域においても、高感度、高精度かつ簡易にメト化率の測定ができる、メト化率の測定方法が、依然として望まれていた。また、畜肉およびマグロ以外の魚肉についての、高精度かつ簡易なメト化率測定方法も、望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第3663373号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】J. Tang, C. Faustman, T.A. Hoagland,Krzywicki Revisited: Equations for Spectrophotometric Determination of Myoglobin Redox Forms in Aqueous Meat Extracts, Journal of Food Science Volume 69, Issue 9, pages C717-C720, December 2004
【非特許文献2】尾藤方通,冷凍マグロ肉の肉食保持に関する研究‐I,冷凍貯蔵中の変色と水抽出液の吸光曲線との関係,日本水産学会誌, 30(10), 847-857, 1964
【非特許文献3】鈴木朋樹、上野翔世、渡邊学、鈴木徹 平成22年度日本水産学会春季大会講演要旨集, 2010, p141
【発明の概要】
【0017】
本発明者らは今般、マグロ肉について、Soret帯の吸収スペクトルのピーク波長と、メト化率との間で、従来、相関が認められなかったメト化率の低い領域(例えばメト化率40%以下の領域)において、測定されたメト化率の測定値を、一定の基準で選別することで、きれいな一次相関式を導き出すことに成功した。測定値を選別する基準は、マグロ肉が赤身肉と血合い肉からなる点に着目し、測定した肉に赤身肉と血合い肉が混在したものと判定される測定値がある場合にはそれを選別し、除外するものであった。
メト化率とは、前記したように、全ミオグロビン中における、酸化して得られたメトミオグロビンの比率を示す指標である一方、Soret帯の吸収スペクトルのピーク波長はミオグロビン中のポルフィリン環と関連づけられるものであることから、赤身肉であろうと血合い肉であろうと関わりなく、これらの相関関係を評価すれば、一定の関係を示すはずである。ところが、今回、肉に赤身肉と血合い肉が混在したものと判定される場合のみを除外することで、きれいな相関関係を導出できたことは、予想外のことであった。
今回得られた一次相関式を使用することで、測定の難しかったメト化率の低い領域の肉について、高感度、高精度かつ簡易に、メト化率を測定することができるようになった。また、得られたメト化率に基づいて肉の品質を、高精度かつ簡易に評価することも可能となった。
さらに本発明者らは、マグロ肉以外の、カツオ、ブリおよび牛の肉についても、それぞれ赤身肉、血合い肉および可食筋肉を標的に、上記手法を適用することで、それぞれについての、Soret帯の吸収スペクトルのピーク波長と、メト化率との間の相関式を得ることに成功し、それによって肉のメト化率を、高精度かつ簡易に測定できることを見出した。また、得られたメト化率に基づいて、肉の品質を、高精度かつ簡易に評価できることも見出した。
本発明はこれら知見に基づくものである。
【0018】
よって、本発明は、メト化率の低い領域、特にメト化率40%以下の領域の肉であっても、高感度、高精度かつ簡易に、メト化率を測定できる畜肉または魚肉のメト化率測定方法を提供することをその目的とする。また、本発明は、本発明により得られたメト化率に基づいて、肉の品質を判定することを含む、畜肉または魚肉の品質評価方法を提供することもその目的とする。
【0019】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)測定対象となる畜肉または魚肉について、波長350〜450nmにおいて測定された吸光スペクトルの吸収ピークをとる波長x(nm)と、
波長500〜760nmの間の所定の複数の波長における吸光度を測定して、所定の関係式に算入して得られた、全ミオグロビン量に対するメトミオグロビンの割合(メト化率)y(%)と
の関係から、予め一次相関式を導出しておき、
このとき、測定した肉に赤身肉と血合い肉とが混在したものと判定される測定値(xおよびy)がある場合には、その測定値を除いて、前記一次相関式を導出し、
被検肉について、波長350〜450nmの吸光スペクトルを測定して、その中で吸収ピークをとる波長の値と、前記相関式とからメト化率を算出することを含む、畜肉または魚肉のメト化率測定方法。
【0020】
(2)測定した肉に赤身と血合い肉とが混在したものと判定される測定値が、一次相関式を導出するために測定した測定値の内、測定した肉の部位以外は同条件で測定した他の2以上の測定値の平均値に対し、値が10%以上異なる場合の、その測定値である、前記(1)に記載の方法。
【0021】
(3)一次相関式の導出に用いる測定値が、メト化率50%以下の領域にある測定値である、前記(1)または(2)に記載の方法。
【0022】
(4)メト化率が40%以下の領域の肉において、畜肉または魚肉のメト化率を測定できる、前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の方法。
【0023】
(5)測定対象となる畜肉または魚肉が、牛肉、馬肉、サバ科魚類の肉、またはアジ科魚類の肉である、前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の方法。
【0024】
(6)測定対象となる畜肉または魚肉が、牛肉、サバ科マグロ属魚類の肉、サバ科カツオ属魚類の肉、またはアジ科ブリ属魚類の肉である、前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の方法。
【0025】
(7)測定対象となる畜肉または魚肉が、
畜肉である場合には、可食筋肉であり、
サバ科魚類の肉である場合には、赤身肉であり、
アジ科魚類の肉である場合には、血合い肉である、
前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の方法。
【0026】
(8)一次相関式の導出に用いるメト化率の取得のために測定する吸光度の波長が、503nmおよび540nmであり、
得られた503nmおよび540nmにおける吸光度値(それぞれE503およびE540)の比R(E540/E503)を下式に算入することにより、メト化率を求める、前記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の方法:
メト化率y(%)=(30.6−10.6R)/(0.09R+0.191)
【0027】
(9)一次相関式の導出に用いるメト化率の取得のために測定する吸光度の波長が、503nm、525nm、557nmおよび582nmであり、
得られた503nm、525nm、557nmおよび582nmにおける吸光度値(それぞれE503、E525、E557およびE582)の比R1(E582/E503)、R2(E557/E503)およびR3(E525/E503)を下式に算入することにより、メト化率を求める、前記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の方法:
メト化率y(%)=(−0.159×R1−0.085×R2+1.262×R3−0.520)×100
【0028】
(10)測定対象となる畜肉または魚肉が、サバ科魚類の肉である場合には、一次相関式が下記式で表される、前記(1)に記載の方法:
y=−Ax+B
[式中、Aは、6.744±0.5、好ましくは6.744±0.3、より好ましくは6.744±0.1であり、
Bは、2803±300、好ましくは2803±200、より好ましくは2803±100である]。
【0029】
(11)測定対象となる畜肉または魚肉が、サバ科マグロ属魚類の肉である場合には、一次相関式が下記式で表される、前記(1)に記載の方法:
y=−Ax+B
[式中、Aは、6.781±0.3、好ましくは6.781±0.1であり、
Bは、2818±100、好ましくは2818±50である]。
【0030】
(12)測定対象となる畜肉または魚肉が、サバ科カツオ属魚類の肉である場合には、一次相関式が下記式で表される、前記(1)に記載の方法:
y=−Ax+B
[式中、Aは、6.190±0.3、好ましくは6.190±0.1であり、
Bは、2578±100、好ましくは2578±50である]。
【0031】
(13)測定対象となる畜肉または魚肉が、アジ科ブリ属魚類の肉である場合には、一次相関式が下記式で表される、前記(1)に記載の方法:
y=−Ax+B
[式中、Aは、6.510±0.3、好ましくは6.510±0.1であり、
Bは、2723±100、好ましくは2723±50である]。
【0032】
(14)測定対象となる畜肉または魚肉が、牛肉である場合には、一次相関式が下記式で表される、前記(1)に記載の方法:
y=−Ax+B
[式中、Aは、5.905±1.0、好ましくは5.905±0.5、より好ましくは、5.905±0.3であり、
Bは、2507±500、好ましくは2507±300、より好ましくは2507±200、さらに好ましくは2507±100である]。
【0033】
(15)前記(1)〜(14)のいずれか一つに記載の方法により得られたメト化率に基づいて、被検肉の品質を判定することを含む、畜肉または魚肉の品質評価方法。
【0034】
(16)品質の判定が、肉の酸化による劣化度合いを判定することである、前記(15)に記載の方法。
【0035】
本発明によるメト化率測定方法は、畜肉または魚肉について、高感度、高精度かつ簡易に、メト化率を測定することができる。
【0036】
また、本発明によるメト化率測定方法は、メト化率の低い領域、特にメト化率が40%以下の領域の肉であっても、高感度、高精度、簡易かつ迅速に、メト化率を測定することができる。
【0037】
本発明による品質評価方法は、本発明により得られたメト化率に基づいて、畜肉または魚肉の品質を、高精度かつ簡易に判定することができる。
【0038】
また、本発明による品質評価方法は、本発明により得られたメト化率に基づいて、肉の酸化による劣化度合いを判定することができる。
【0039】
さらに、本発明は、本発明により得られた相関式により、科の範囲内で、高精度かつ簡易にメト化率を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、本発明によって得られたサバ科におけるメト化率(MetMb%)とSoret帯の吸収ピークを取る波長の値との相関結果を示す。
【図2】図2は、本発明によって得られたサバ科マグロ属におけるメト化率(MetMb%)とSoret帯の吸収ピークを取る波長の値との相関結果を示す。
【図3】図3は、本発明によって得られたサバ科カツオ属におけるメト化率(MetMb%)とSoret帯の吸収ピークを取る波長の値との相関結果を示す。
【図4】図4は、本発明によって得られたアジ科ブリ属におけるメト化率(MetMb%)とSoret帯の吸収ピークを取る波長の値との相関結果を示す。
【図5】図5は、本発明によって得られた牛肉におけるメト化率(MetMb%)とSoret帯の吸収ピークを取る波長の値との相関結果を示す。
【発明の具体的説明】
【0041】
本発明において、「測定対象となる畜肉または魚肉」とは、メト化率の測定および品質評価を希望する肉(被検肉)と同じ種類の肉のことを意味する。例えば、被検肉として畜肉を想定しているのであれば、測定対象となるのは畜肉であり、被検肉として魚肉を想定しているのであれば、測定対象となるのは魚肉となる。
【0042】
畜肉または魚肉は、ミオグロビンの酸化により生じるメトミオグロビンの蓄積により、色調が変化する肉であれば特に限定されない。
【0043】
畜肉とは、家畜の肉のことを意味する。畜肉は、例えば、牛肉、馬肉、豚肉、羊肉、または鶏肉が挙げられ、好ましくは、牛肉または馬肉である。
畜肉における測定対象となる部位は、好ましくは、ミオグロビンが多く含まれる赤筋線維が多く存在する点で、筋肉を多く含む部位、より好ましくは、可食筋肉を多く含む部位である。測定対象となる部位は、例えば、ヒレ肉、モモ肉、肩肉が挙げられる。
【0044】
魚肉は、例えば、サバ科魚類の肉またはアジ科魚類の肉が挙げられる。
【0045】
サバ科魚類は、例えば、マグロ属のクロマグロ、メバチマグロ、タイセイヨウクロマグロ、ミナミマグロ、ビンナガマグロ、キハダマグロや、カツオ属のカツオが挙げられる。
サバ科魚類における測定対象となる部位は、好ましくは、赤身肉である。
【0046】
赤身肉とは、マグロ属、カツオ属、ブリ属などのいわゆる赤身魚の魚肉(赤身)を意味し、具体的には、魚の赤色筋肉部分をいう。
【0047】
アジ科魚類は、例えば、ブリ属のブリ、ヒラマサ、カンパチや、マアジ属が挙げられる。
アジ科魚類における測定対象となる部位は、好ましくは、血合い肉(血合いともいう)である。
【0048】
血合い肉とは、マグロ、カツオ、ブリ、サバ、その他魚(白身魚を含む)などの身の黒ずんだ部分の肉、具体的には体側および背骨周辺の赤色筋繊維が多く集まった部分を意味する。
【0049】
本発明の好ましい態様によれば、測定対象となる畜肉または魚肉は、牛肉、馬肉、サバ科魚類の肉、またはアジ科魚類の肉である。
【0050】
本発明のさらに好ましい態様よれば、測定対象となる畜肉または魚肉は、牛肉、サバ科マグロ属魚類の肉、サバ科カツオ属魚類の肉、またはアジ科ブリ属魚類の肉である。
【0051】
本発明において、「波長350〜450nmにおいて測定された吸光スペクトルの吸収ピークをとる波長x(nm)」とは、いわゆるSoret帯と呼ばれる350〜450nmの間の波長域において測定された吸収スペクトルにおいて、吸収の極大値を示す波長の値xを意味する。この吸収スペクトルの吸収ピークの波長は、メト化の進行と共に短波長側(紫外領域)にシフトする。
【0052】
Soret帯とは、ミオグロビンに含まれるポルフィリンの吸収スペクトルにおける、π―π遷移に起因する、紫外領域400nm付近の極めて強い吸収帯をいう。Soret帯のピークの吸光度は、極めて大きく、Q帯とよばれる波長500〜600nmの吸光度よりも大きい。したがって、Soret帯を用いた測定方法は、メトミオグロビン量の蓄積の少ない肉、すなわちメト化率の低い領域の肉についても、メト化率が判読しやすくなるため、従来のメト化率測定方法に比べて、高感度かつ高精度に測定できる。
【0053】
吸収スペクトルとは、波長ごとの強度の分布(分光)を示した図を意味する。
【0054】
吸収スペクトルの測定方法は、肉からミオグロビンを含むヘムタンパク質を溶液で抽出して、その溶液の吸光度を測定する吸光度法だけでなく、非破壊的に肉の表面のヘムタンパク質を直接分析する反射分光法であってもよい。好ましくは、吸収スペクトルの測定方法は、吸光度法である。
【0055】
吸収スペクトルの測定装置としては、慣用のものを適宜使用することができ、例えば、紫外可視分光光度計が挙げられる。
【0056】
本発明において、「波長500〜760nmの間の所定の複数の波長における吸光度を測定して、所定の関係式に算入して得られた、全ミオグロビン量に対するメトミオグロビンの割合(メト化率)y(%)」とは、波長500〜760nmの吸光度を利用した、既知のメト化率測定方法で得られるメト化率yを意味する。
【0057】
既知のメト化率測定方法は、所定の波長およびそれに対応する所定の関係式からメト化率を算出することができる測定方法であれば、特に限定されない。測定方法としては、例えば、尾藤法、Tang法、Krzywicki法(Karol Krzywicki, Meat Science, 1982, 7, 29-36)、Sanoらの方法(佐野吉彦および橋本周久,日本水産学会誌:1958,24(6-7),519-523)が挙げられる。各方法については、前記した文献に、それぞれのメト化率の算出に必要な吸光度の測定波長およびそれらの波長における吸光度とメト化率との関係式が明記されている。当業者であれば、これらに基づいて、容易に測定波長で吸光度を測定し、メト化率を算出することができる。
【0058】
例えば、尾藤法の場合は、波長503nmおよび540nmの吸光度を測定し、得られた吸光度値(それぞれE503およびE540)の比R(E540/E503)を下式Iに算入することにより、メト化率を求めることができる。この方法は、魚肉におけるメト化率の測定に有利に用いることができる。
式I
メト化率(%)=(30.6−10.6R)/(0.09R+0.191)
【0059】
Tang法の場合は、波長503nm、525nm、557nmおよび582nmの吸光度を測定し、得られた吸光度値(それぞれE503、E525、E557およびE582)の比R1(E582/E503)、R2(E557/E503)およびR3(E525/E503)を下式IIに算入することにより、メト化率を求めることができる。この方法は、畜肉におけるメト化率の測定に有利に用いることができる。
式II
メト化率y(%)=(−0.159×R1−0.085×R2+1.262×R3−0.520)×100
【0060】
Krzywicki法の場合は、波長525nm、545nm、565nmおよび572nmの吸光度を測定し、得られた吸光度値(それぞれE525、E545、E565およびE572)の比R1(E572/E525)、R2(E565/E525)およびR3(E545/E525)を下式IIIに算入することにより、メト化率を求めることができる。
式III
メト化率y(%)=(−2.514×R1+0.777×R2+0.800×R3+1.098)×100
【0061】
本発明においては、前記波長x(nm)と、メト化率y(%)との関係から、予め一次相関式を導出しておき、この得られた相関式を、被検肉のメト化率の測定の際に利用する。具体的には、波長x(nm)と、メト化率y(%)とを求めることができる標準試料を複数(少なくとも3)用意し、これら複数の標準試料の測定値から回帰分析法(最小二乗法)に基づき、一次関数で示される相関式を導きだす。
【0062】
ここで「予め」とは、被検肉のメト化率測定および品質評価を行う前に、標準試料を用いて前もって相関式を導出しておくことをいう。
【0063】
「測定値」とは、X軸に波長x(nm)を、Y軸にメト化率y(%)とをプロットして表される、1つの点の値(xおよびy)をいう。
【0064】
標準試料は、被検肉の種類に応じて選択した上で、品質、特に劣化度合い、メト化の進行度合いの異なる複数の試料を用意し用いるのが好ましい。
【0065】
本発明においては、「一次相関式」は、典型的には、y=−Ax+Bのような一次関数の式で表される。
【0066】
一次相関式を導き出すにあたっては、一次相関式の導出に用いる測定値は、好ましくはメト化率70%以下の領域、より好ましくは50%以下の領域、さらに好ましくは45%以下の領域、特に好ましくは40%以下の領域にある測定値である。
【0067】
また、一次相関式を導き出すにあたっては、品質評価を行うのに適当なメト化率の領域を予め想定し、その領域を少なくも含むか、できる限り近いところに標準試料の測定値が得られるように配慮した上で、複数の標準試料の測定値から一次相関式を導き出すのが好ましい。例えば、メト化率40%以下の領域において、肉の品質評価を行うことが望ましい場合、標準試料の測定値を、メト化率40%以下の領域に少なくとも1つ(好ましくは少なくとも2つ)含むように複数の測定値をとり、それらに基づいて一次相関式を導き出すのが好ましい。
【0068】
本発明においては、一次相関式を導き出すにあたって、「測定した肉が赤身肉と血合い肉とが混在したものと判定された測定値がある場合には、その測定値を除いて」、一次相関式を導出する。すなわち、一次相関式を導き出すにあたって使用する複数の測定値に、「測定した肉に赤身肉と血合い肉とが混在したものと判定される測定値」が含まれている場合にはその測定値を除外し、それ以外の複数の測定値に基づいて一次相関式を導き出す。
【0069】
測定値が、「測定した肉に赤身肉と血合い肉とが混在したものと判定される測定値」であるか否かは、測定した肉を視覚的に評価して、赤身肉のみからなるのか、血合い肉のみからなるのか、赤身肉と血合い肉とが混在したものであるのかを測定の前または後に判定してもよく、また一定の基準を設けて、得られている複数の測定値間のバラツキ度合いに基づいて判定してもよい。
【0070】
後者の場合の例としては、一次相関式を導出するために測定した複数の測定値の内、測定した肉の部位以外の条件(例えば、保存環境および期間等による肉の劣化度合い、温度等の測定条件など)については、同条件で測定した他の2以上の測定値の平均値に対し、値が20%以上(好ましくは10%以上、より好ましくは8%以上)異なる場合には、その測定値は、測定した肉が赤身肉と血合い肉とが混在したものの測定値であると判定することが挙げられる。
【0071】
前記したように、メト化率は、全ミオグロビン中におけるメト化したミオグロビンの比率を示す指標である一方、Soret帯の吸収スペクトルのピーク波長はミオグロビン中のポルフィリン環と関連づけられるものであることから、赤身肉であろうと血合い肉であろうと関わりなく、これらの相関関係は、本来であれば一定の関係を示すはずである。ところが、肉に赤身肉と血合い肉が混在している場合には、このような予想される相関から大きく外れる場合があることは、予想外のことであって、今回、本発明者らにより見出されたことである。したがって、波長x(nm)と、メト化率y(%)との相関式を導出するにあたって、測定した肉に赤身肉と血合い肉が混在している場合の測定値を除外して評価することが、高精度の一次相関式を取得する上で極めて有効であることも今回見出したことである。
【0072】
また、一次相関式を導き出すにあたって、「測定した肉が赤身肉と血合い肉とが混在したものと判定された測定値がある場合には、その測定値を除いて」、一次相関式を導出するとあるのは、測定した肉に赤身肉と血合い肉とが混在することが無い場合には、かかる測定値の評価とそれを除外する処理はそもそも不要である。したがって、例えば、畜肉では、魚肉のように血合い肉として明確に区別されるものはなく、筋肉組織として一様に観念し得ることから、本発明の方法の測定対象が畜肉である場合には、測定した肉が赤身肉と血合い肉とが混在したものか、そうでないかを明確に判定することは難しい。このため、測定対象が畜肉である場合には、測定した肉が赤身肉と血合い肉とが混在したものであるか否か、およびそれに基づく測定値の除外処理は、通常、必要とされない。同様に、測定対象となる魚肉が、アジ科魚類の肉(例えば、ブリ肉)である場合には、測定対象とするのは魚肉中の血合い肉のみとなるため、この場合も、測定した肉が赤身肉と血合い肉とが混在したものであるか否か、およびそれに基づく測定値の除外処理は、通常、必要とされない。
【0073】
本発明においては、さらに、被検肉について、波長350〜450nmの吸光スペクトルを測定して、その中で吸収ピークをとる波長の値と、得られた一次相関式とから、メト化率を算出する。
【0074】
本発明による方法は、好ましくは、メト化率が40%以下の領域の肉において、畜肉または魚肉のメト化率を測定できる方法である。
【0075】
本発明においては、本発明の方法により得られた被検肉のメト化率に基づいて、被検肉の品質を判定する。すなわち、得られたメト化率の値にしたがって、肉の劣化度合いのような品質を評価する。
【0076】
本発明においては、メト化率40%以下、好ましくは30%以下の領域におけるメト化率の測定をすることができるため、肉の品質評価を有利に行うことができる。
【0077】
メト化率の値と、品質の評価との関係は、被検肉の種類、求められる品質の程度または種類等により、変化し得るものであり、品質評価に先だって、適宜設定しておくことが望ましい。
【0078】
メト化率の値と、品質評価との関係の具体例を挙げると、例えば、被検肉がマグロ肉である場合、下記のような評価基準が例示できる:
メト化率が10%未満: メト化は全くまたはほとんど進行しておらず、肉の劣化は進んでいない。肉の劣化度合いに基づき品質を評価すれば、品質は「非常に高い」と評価できる。
メト化率が10〜20%: メト化は少し進行しているものの、肉の劣化はあまり進んでいない。肉の劣化度合いに基づき品質を評価すれば、品質は「より高い」と評価できる。
メト化率が20〜30%: メト化は少し進行しているものの、肉の劣化は少し進みつつある。肉の劣化度合いに基づき品質を評価すれば、品質は「高い」と評価できる。
メト化率が30〜40%: メト化は多少進行しており、肉の劣化も進みつつあるが、目視で劣化が判定できる程度には進んでいない。肉の劣化度合いに基づき品質を評価すれば、品質は「普通」と評価できる。
メト化率が40〜50%: メト化は比較的進行しており、肉の劣化も進み、目視で劣化が判定できる場合が多い。肉の劣化度合いに基づき品質を評価すれば、品質は「低い」と評価できる。
メト化率が50〜70%: メト化は進行しており、肉の劣化も相当に進み、目視で劣化が判定できる場合が多い。肉の劣化度合いに基づき品質を評価すれば、品質は「かなり低い」と評価できる。
メト化率が70%以上: メト化は相当に進行しており、肉の劣化も目視で明確に判定でき、需要者からは忌避されるレベルである。肉の劣化度合いに基づき品質を評価すれば、品質は「非常に悪い」と評価できる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を示してこの出願の発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発明は以下の例によって限定されるものではない。
【0080】
1 測定試料の調製
−80℃で凍結保存しているメバチマグロ(築地魚市場で購入、銚子産など)の切り身(4cm×6cm×1cm)を、肉の劣化度、すなわちメト化率の異なる肉を得るために、所定の保存環境に移して所定の期間(表1参照)、保存した。
【0081】
メバチマグロ以外の試料として、クロマグロの切り身(築地魚市場で購入)、カツオの切り身(スーパーで購入、千葉県産)、ブリの切り身の血合い肉(スーパーで購入、養殖、大分産)、牛肉のモモ肉(スーパーで購入、オーストラリア産)についても、所定の保存環境に移して、所定の期間、保存した。
【0082】
【表1】

【0083】
測定試料の調製は、下記の方法で、それぞれ行った。
【0084】
(1)尾藤法
魚肉のメト化率の測定で一般的な尾藤の抽出方法(尾藤方通,日本水産学会誌, 30(10), 847-857, 1964)を用いて、測定試料の調製溶液を得た。
【0085】
経時的に同一の切り身から、3gずつ、3カ所から、採取した肉を、それぞれ、冷凍したまま、乳鉢ですりつぶし、50mlの遠心管(Nalge Nunc International、遠沈管、3119−0050)に入れ、冷蒸留水(6℃)を10ml加えて、20秒間さらにすりつぶした。その後、4℃、10,000rpm、5分間、遠心分離を行った。遠心分離の後、液体(上清)のみを別の試験管に移し、1mmolNaOHを加えて、pHを6.8〜7.0に調整した。pH調整の後、4℃、15,000rpm、10分間、遠心分離を行った。遠心分離の後、上清を濾過(日本ミリポア株式会社製、ニトロセルロースフィルター、0.3μm)し、濾液と同量のリン酸緩衝液(0.2M、pH=7.0)を加え、よく混ぜ、測定試料の調製溶液を得た。
【0086】
(2)Lee法
牛肉については、畜肉のメト化率の測定で一般的なLeeの抽出方法(Meat Science, 51(2), 245-253, 1999)を用いて、測定試料の調製溶液を得た。
経時的に、牛肉の同一の切り身から、5gずつ、3カ所から、採取した肉を、乳鉢ですりつぶし、50mlの遠心管に入れ、6℃のリン酸緩衝溶液(0.4M、pH=6.8)を25ml加えて、20秒間さらにすりつぶした。その後、4℃、60分間、静置した。その後、4℃、5000rpm、30分間、遠心分離を行った。遠心分離の後、液体(上清)を濾過し、測定試料の調製溶液を得た。
【0087】
クロマグロについては、血合い肉から抽出したミオグロビン溶液についても、測定試料の調製溶液を得た。
【0088】
クロマグロの血合い肉をみじん切りにし、2倍量の冷蒸留水(6℃)中で、撹拌しながら一晩抽出した。抽出液を、4℃、7,500g、15分間、遠心分離した後、ろ紙(Advantec、No.5C)を用いて、ろ過した。ろ液は、硫酸アンモニウム分画した。50〜80%程度に飽和した沈殿物を、少量のリン酸ナトリウム緩衝液(0.2M、pH7.0)に溶解し、家庭用冷蔵庫にて一晩、蒸留水で透析した。リン酸ナトリウム緩衝液(0.2M、pH7.0)で7倍程度に希釈し、ミオグロビン溶液を得た。ミオグロビン溶液は、12mlずつ採取し、それぞれ0、−5、−10、−80℃で最大4日間保存した。保存した試料は、経時的に取り出し、20℃の恒温水槽で解凍し、測定試料の調製溶液とした。
【0089】
2 測定試料の吸光度の測定
得られた測定試料の調製溶液は、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、JASCO V−630)を用いて、波長350〜760nmにおける吸光度を測定した。
【0090】
前記(1)で得られた尾藤法による調製溶液およびクロマグロのミオグロビン溶液については、得られた503nmおよび540nmにおける吸光度値(それぞれE503およびE540)の比R(E540/E503)を下式I(尾藤法)に算入し、メト化率を測定した。
式I
メト化率y(%)=(30.6−10.6R)/(0.09R+0.191)
【0091】
前記(2)で得られたLee法による調整溶液については、得られた503nm、525nm、557nmおよび582nmにおける吸光度値(それぞれE503、E525、E557およびE582)の比R1(E582/E503)、R2(E557/E503)およびR3(E525/E503)を下式II(Tang法)に算入し、メト化率を測定した。
式II
メト化率(%)=(−0.159×R1−0.085×R2+1.262×R3−0.520)×100
【0092】
測定した部位以外は同条件で測定した、同一の切り身から採取した3つの試料のそれぞれのメト化率は、3つの平均値を、その測定した肉のメト化率yとした。
このとき、3つの試料のうちの1つのメト化率が、測定した部位以外は同条件で測定した他の2つのメト化率の平均値と比較し、その値が10%以上異なる場合には、測定した肉が赤身肉と血合い肉とが混在したものであると判定して、その異なる試料を除外し、残りの試料の平均値を、測定した肉のメト化率yとした。
【0093】
3 Soret帯の吸収ピーク値の測定
前記2で得られた測定試料の調製溶液の吸収スペクトルから、紫外領域の波長350〜450nm(Soret帯)において測定された吸収スペクトルの吸収ピークをとる波長の値x(nm)を求めた。
測定した部位以外は同条件で測定した、同一の切り身から採取した3つの試料のそれぞれの波長の値の平均値を、その測定した肉の吸収ピークをとる波長の値xとした。
このとき、3つの試料のうちの1つの吸収ピークをとる波長の値が、測定した部位以外は同条件で測定した他の2つの吸収ピークをとる波長の値と比較し、その値が10%以上異なる場合には、測定した肉が赤身肉と血合い肉とが混在したものであると判定して、その異なる試料を除外し、残りの試料の平均値を、測定した肉の吸収ピークをとる波長xとした。
【0094】
4 一次相関式の作成
前記2および3で得られた、メト化率をy軸に、波長350〜450nmにおいて測定された吸収スペクトルの吸収ピークをとる波長の値をx軸にプロットして、excel上で散布図を作成し、一次相関となる式を求めた。
サバ科、マグロ属については、メト化率が45%以下の肉(y≦45)から一次相関式を求めた。結果は、図1〜5および表2に示す。
【表2】

【0095】
クロマグロおよびメバチマグロは、表2に記載のマグロ属またはサバ科の相関式のいずれでも、高い精度でメト化率を測定でき、肉の品質を判定することができる。特にメト化率40%以下の領域の肉については、高精度かつ高感度に測定することができる。
【0096】
カツオは、表2に記載のカツオ属またはサバ科の相関式のいずれでも、高い精度でメト化率を測定でき、肉の品質を判定することができる。
【0097】
ブリについては、表2のブリ属の相関式で、高い精度でメト化率を測定でき、肉の品質を判定することができる。
【0098】
牛肉については、表2に記載の相関式で、高い精度でメト化率を測定でき、肉の品質を判定することができる。
【0099】
よって、本発明により、メト化率の測定に一般に用いられている尾藤法、Tang法について、同程度の精度で、高感度、高精度かつ簡易にメト化率を測定でき、肉の品質を評価することができることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となる畜肉または魚肉について、波長350〜450nmにおいて測定された吸光スペクトルの吸収ピークをとる波長x(nm)と、
波長500〜760nmの間の所定の複数の波長における吸光度を測定して、所定の関係式に算入して得られた、全ミオグロビン量に対するメトミオグロビンの割合(メト化率)y(%)と
の関係から、予め一次相関式を導出しておき、
このとき、測定した肉に赤身肉と血合い肉とが混在したものと判定される測定値(xおよびy)がある場合には、その測定値を除いて、前記一次相関式を導出し、
被検肉について、波長350〜450nmの吸光スペクトルを測定して、その中で吸収ピークをとる波長の値と、前記相関式とからメト化率を算出することを含む、畜肉または魚肉のメト化率測定方法。
【請求項2】
測定した肉に赤身と血合い肉とが混在したものと判定される測定値が、一次相関式を導出するために測定した測定値の内、測定した肉の部位以外は同条件で測定した他の2以上の測定値の平均値に対し、値が10%以上異なる場合の、その測定値である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一次相関式の導出に用いる測定値が、メト化率50%以下の領域にある測定値である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
メト化率が40%以下の領域の肉において、畜肉または魚肉のメト化率を測定できる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
測定対象となる畜肉または魚肉が、牛肉、馬肉、サバ科魚類の肉、またはアジ科魚類の肉である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
測定対象となる畜肉または魚肉が、牛肉、サバ科マグロ属魚類の肉、サバ科カツオ属魚類の肉、またはアジ科ブリ属魚類の肉である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
測定対象となる畜肉または魚肉が、
畜肉である場合には、可食筋肉であり、
サバ科魚類の肉である場合には、赤身肉であり、
アジ科魚類の肉である場合には、血合い肉である、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
一次相関式の導出に用いるメト化率の取得のために測定する吸光度の波長が、503nmおよび540nmであり、
得られた503nmおよび540nmにおける吸光度値(それぞれE503およびE540)の比R(E540/E503)を下式に算入することにより、メト化率を求める、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法:
メト化率y(%)=(30.6−10.6R)/(0.09R+0.191)
【請求項9】
一次相関式の導出に用いるメト化率の取得のために測定する吸光度の波長が、503nm、525nm、557nmおよび582nmであり、
得られた503nm、525nm、557nmおよび582nmにおける吸光度値(それぞれE503、E525、E557およびE582)の比R1(E582/E503)、R2(E557/E503)およびR3(E525/E503)を下式に算入することにより、メト化率を求める、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法:
メト化率y(%)=(−0.159×R1−0.085×R2+1.262×R3−0.520)×100
【請求項10】
測定対象となる畜肉または魚肉が、サバ科魚類である場合には、一次相関式が下記式で表される、請求項1に記載の方法:
y=−Ax+B
[式中、Aは、6.744±0.5であり
Bは、2803±300である]。
【請求項11】
測定対象となる畜肉または魚肉が、サバ科マグロ属魚類の肉である場合には、一次相関式が下記式で表される、請求項1に記載の方法:
y=−Ax+B
[式中、Aは、6.781±0.3であり
Bは、2818±100である]。
【請求項12】
測定対象となる畜肉または魚肉が、サバ科カツオ属魚類の肉である場合には、一次相関式が下記式で表される、請求項1に記載の方法:
y=−Ax+B
[式中、Aは、6.190±0.3であり
Bは、2578±100である]。
【請求項13】
測定対象となる畜肉または魚肉が、アジ科ブリ属魚類の肉である場合には、一次相関式が下記式で表される、請求項1に記載の方法:
y=−Ax+B
[式中、Aは、6.510±0.3であり
Bは、2723±100である]。
【請求項14】
測定対象となる畜肉または魚肉が、牛肉である場合には、一次相関式が下記式で表される、請求項1に記載の方法:
y=−Ax+B
[式中、Aは、5.905±1.0であり
Bは、2507±500である]。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法により得られたメト化率に基づいて、被検肉の品質を判定することを含む、畜肉または魚肉の品質評価方法。
【請求項16】
品質の判定が、肉の酸化による劣化度合いを判定することである、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−198054(P2012−198054A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60981(P2011−60981)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1. 刊行物名 平成22年度日本水産学会秋季大会(日本農学大会水産部会)講演要旨集 2. 発行者名 平成22年度日本水産学会秋季大会 3. 発行年月日 平成22年9月22日〔刊行物等〕1. 刊行物名 「食器と容器」 2011 Vol.52 No.1 2. 発行者名 缶詰技術研究会/大和製罐株式会社 3. 発行年月日 平成23年1月1日〔刊行物等〕1. 刊行物名 日本農芸化学会2011年度大会講演要旨集 2. 発行者名 社団法人日本農芸化学会 3. 発行年月日 平成23年3月5日
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【Fターム(参考)】