説明

畜肉水産練り製品用着色料製剤

【課題】
畜肉水産練り製品をコチニール色素を用いて着色した際、畜肉水産練り製品に含まれているカルシウム分がコチニール色素により染着され、練り製品中に赤い斑点となって現れるという問題が生じていた。
【解決手段】
畜肉練り製品の着色料としてコチニール色素を選択し、さらにメタリン酸ナトリウムを含む着色料製剤を調製し、該着色料製剤を用いてカマボコやテリーヌなどの畜肉水産練り製品を着色することにより、カルシウム分への染着により生じる赤い斑点の発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜肉水産練り製品の着色料製剤、該着色料製剤で着色された畜肉水産練り製品とその着色方法に関する。より詳細には、本発明は、コチニール色素と、特定のリン酸塩、即ちメタリン酸ナトリウムを含むことを特徴とする畜肉水産練り製品用の着色料製剤、該着色料製剤を用いて着色した畜肉水産練り製品とその着色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から板付きのカマボコに代表される水産練り製品は、赤色に染められる等して販売されている。最近では、カニ足様、エビ様の外観を有する水産練り製品も販売されており、これらの表面も赤色に着色されている。また、畜肉練り製品としてテリーヌやソーセージ、ウインナーなどがあり、赤色や他の色素と配合により様々な色合いに着色されることがある。
【0003】
このように畜肉水産練り製品、例えばカマボコやなると巻きのような水産練り製品を着色する場合、通常は合成着色料であるタール系色素や、コチニール色素、ラック色素など耐熱性に富む色素や、油溶性のカロチノイド系色素を使用することが知られている(特許文献1)。さらに、コチニール色素、ラック色素と難溶性カルシウム含有物質による着色(特許文献1)、タマネギの抽出色素を用いる方法(特許文献2)、デュナリエラ色素を用いる方法(特許文献3)、シアノコバラミン水溶液を用いる方法(特許文献4)、オキアミの微細化ペーストを添加し着色する方法(特許文献5)等が開示されている。また、テリーヌやウインナーなどの畜肉練り製品を着色する方法として、マルトオリゴ糖を有効成分として含有する退色防止剤を用いる方法(特許文献6)、トマトより果汁を除いた残渣を有効成分とする着色料で着色する方法(特許文献7)、魚肉ソーセージやハムなどの畜肉用食品をビートレッド色素、ベタニン色素等のベタシアニン系赤色天然色素または/およびハイビスカス色素、赤キャベツ色素等のアントシアニン系の赤色天然色素で着色する方法(特許文献8)、水溶性蛋白質にモナスカス色素を結合させたものを肉類に作用させたのち加熱した着色肉(特許文献9)、シアノコバラミン水溶液を用いて着色する方法(特許文献10)などが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特公平6−61237号公報
【特許文献2】特開平01−179666号公報
【特許文献3】特開平01−47361号公報
【特許文献4】特公平5−32016号公報
【特許文献5】特公昭57−43227号公報
【特許文献6】特開2001−294768号公報
【特許文献7】特開2001−292727号公報
【特許文献8】特開昭62−158473号公報
【特許文献9】特開昭53−44657号公報
【特許文献10】特開昭61−28365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の方法において、畜肉水産練り製品をコチニール色素を用いて着色した際、畜肉水産練り製品に含まれているカルシウム分、具体的には骨片、貝殻、卵殻であり、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム塩がコチニール色素により染着され、練り製品中に赤い斑点となって現れるという問題が生じていた。このような赤い斑点は、食品の外観を損ない商品価値を損なうため、早急な解決策が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、畜肉水産練り製品をコチニール色素を用いて着色しても、畜肉水産練り製品中に含まれるカルシウム分にコチニール色素が染着して赤い斑点を生じない着色料製剤、該着色料を使用した畜肉水産練り製品及びその着色方法の提供を目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、カマボコなどの水産練り製品、テリーヌなどの畜肉練り製品の着色料としてコチニール色素を選択し、さらにメタリン酸ナトリウムを含む着色料製剤を調製し、該着色料製剤を用いてカマボコやテリーヌなどの畜肉水産練り製品を着色することにより、従来用いられていたコチニール色素を用いた着色料ではその発生を防ぐことができなかったカルシウム分への染着により生じる赤い斑点の発生を抑制できるとの知見を得た。即ち、本発明は、コチニール色素と、メタリン酸ナトリウムを含む畜肉水産練り製品用の着色料製剤、該着色料製剤により着色された畜肉水産練り製品及びその調製方法に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る着色料製剤、即ち着色料としてコチニール色素とメタリン酸ナトリウムを含む着色料製剤により、カマボコやテリーヌなどの畜肉水産練り製品を着色することで、従来使用されていた着色料では抑制することが困難であった、畜肉水産練り製品に含まれるカルシウム分にコチニール色素が染着して生じる赤い斑点の発生を効果的に抑制することが可能となった。これにより、赤い斑点が生じることによる畜肉水産練り製品の商品価値が損なわれる事が減少し、産業の発達に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明におけるコチニール色素は、一般に流通しているものを利用することができる。コチニール色素は、従来から医薬品や食品等の着色料として広く使用されており、メキシコ、中央アメリカ及び南米国の砂漠地帯に産するサボテンのベニコイチジク(Nopalea coccinellifera)等に寄生するカイガラムシ科エンジムシ(Coccus cacti L.)の雌の体内にすくまれる赤色色素に由来する。上記の如く昆虫を原料として調製されるコチニール色素にはアレルゲンとなる夾雑蛋白が含まれており、アレルギーを引き起こす要因に成る可能性があるとの報告が成されている(Ann Allergy Asthma,Vol.84(5),549−552,2000.)ことから、コチニール色素の調製には当該アレルゲンとなる蛋白を除去する調製方法(WO02/22743)によることが好ましい。或いは、当該製法により調製された三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンレッド NO.1シリーズ等を利用することができる。
【0010】
次いで、本発明に係る着色料製剤に添加するメタリン酸ナトリウムは、特に制限無く一般に流通しているものを利用することができる。その添加量は、着色料製剤100重量部に対しメタリン酸ナトリウムを1〜40重量部、好ましくは5〜30重量部の範囲で添加すればよい。メタリン酸ナトリウムの添加量が上記範囲より少ないと本発明の効果が不十分となり、添加量が多いとメタリン酸ナトリウムの風味が影響を及ぼすようになる。
【0011】
カマボコやテリーヌ等の畜肉水産練り製品の着色にコチニール色素を使用することは、上述の特許文献1にも記載されており、また畜肉水産練り製品の製造に各種のリン酸塩が添加されることは公知であるが、コチニール色素とメタリン酸ナトリウムを含む着色料製剤を調製し、該着色料製剤をもって畜肉水産練り製品を着色するという方法によれば、畜肉水産練り製品に含まれるカルシウム分にコチニール色素が染着することにより生じる赤い斑点の発生を抑制できるという技術は、何れの特許文献にも記載されていない新規な方法である。
【0012】
本発明に係る着色料製剤は、上述のコチニール色素とメタリン酸ナトリウムの他に、本発明の効果を妨げない範囲において、従来コチニール色素の製剤に使用されているミョウバン、有機酸及びその塩類をはじめ、他の着色料、甘味料、酸味料、保存料、酸化防止剤、蛋白、アミノ酸及び糖類等通常着色料製剤に使用されている成分を添加することができる。着色料製剤の製造は公知の製法に基づき調製すればよく、また、着色料製剤としての形態は特に制限されない。例えば水、エタノール等のアルコール又はその他の溶媒(例えばプロピレングリコール、グリセリン等)を担体として用いて、それにコチニール色素を溶解若しくは分散させてなる溶液状態、または例えばデキストリン、乳糖、粉末水飴等を担体(賦形剤)として用いて、それをコチニール色素製剤の溶液に配合して粉状、顆粒状、錠剤状若しくは丸剤状等に成形してなる乾燥(固形)状態の色素製剤として調製することができる。着色料製剤としての色価は1〜500、好ましくは1〜100になるように調製したものが好適に例示できるが、色素製剤の用途、利便性等に応じて任意の色価を有する製剤を調製することができる。尚、ここでいう色価とは、対象となるコチニール色素を含有する0.1N塩酸水溶液の可視部での極大吸収波長(490nm付近)における吸光度を測定し、該吸光度を10w/v%溶液の吸光度に換算した数値である。
【0013】
本発明に係る赤い斑点の発生を抑制した畜肉水産練り製品は、上記着色料製剤を畜肉水産練り製品の製造原料の一つとして添加すればよく、食品への添加量、製造方法も従来とられている畜肉水産練り製品の製造方法に準ずることができる。これにより、本発明の実施において特別な製造装置等を導入する必要がないため、工業的にも有利に赤い斑点を生じない外観的にも好ましい畜肉水産練り製品を製造することができる。
【0014】
本発明における畜肉水産練り製品とは、魚肉のすり身、畜肉等を原材料とした蛋白質性食品であり、水産練り製品としてはカマボコやなると巻きの他、竹輪、はんぺん、簀巻き等が、畜肉練り製品としては、テリーヌやハム、ソーセージ、ウインナー等が例示できる。好ましくはカマボコ、なると巻き、テリーヌであり、本発明に寄れば、これらの畜肉練り製品を赤い斑点の生じない、均一で美麗な赤色に着色することが可能となる。
【0015】
本発明に係る畜肉練り製品の製造方法は、コチニール色素を着色料として使用し、メタリン酸ナトリウムを含む着色料製剤を用いて畜肉水産練り製品を着色すればよく、具体的には該着色料製剤の水溶液を畜肉水産練り製品に噴霧する、或いは畜肉水産練り製品の素材に該着色料製剤を練り込み調製する等、従来公知の製法を任意に選択し採用することができる。
【0016】
上述のように、コチニール色素を着色料として使用し、メタリン酸ナトリウムを含む着色料製剤を用いて畜肉水産練り製品を着色することにより、効果的に赤い斑点の発生を抑制することができる。さらに、得られた畜肉水産練り製品は経時的にも安定であり、色調の変化や熱、pHの変化、蛍光灯などの光にも安定である。
【0017】
以下、本発明の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記に記載する処方の単位は特に言及しない限り、部は重量部を意味するものとする。文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の製品を表し、文中の「※」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0018】
実験例1 魚肉ソーセージ用着色料製剤の調製
表1の処方に従い、全ての原材料を秤量して粉体混合し、粉末の着色料製剤を得た。尚、コチニール色素はWO02/22743に基づき調製したものを使用した。
【0019】
【表1】

【0020】
実験例2 魚肉ソーセージの調製
実験例1で得られた着色料製剤(実施品1〜4、比較品1)を用いて、表2の処方に基づき、魚肉ソーセージを調製し、コチニール色素のカルシウムへの染着によって生じる赤色斑点の有無を比較した。
【0021】
【表2】

【0022】
<魚肉ソーセージの調製方法>
冷凍すり身を解凍し、サイレントカッターに入れ、らい潰し、実験例1で得られた着色料製剤(実施品1〜4、比較品1)を70℃の温湯にて20%溶液にしたもの及び他の材料を加え、すり混ぜて調味し魚肉ソーセージのベースとした。これを70gずつ無通気性ケーシングに充填し、120℃、20分レトルト殺菌後、冷却して、魚肉ソーセージを得た。
【0023】
<評価>
得られた魚肉ソーセージを冷蔵(1〜10℃)保管し、3ヵ月後の内部の状態を観察し、カルシウムにコチニール色素が染着して生じる赤色の斑点の有無を調査した。
比較品1により着色した魚肉ソーセージには、赤色の斑点が見られた。
一方の実施品1では赤色の斑点がわずかに確認されたが外観を損なうものではなく、注視しなければ認識できない程度のものであった。実施品2乃至4では、赤色の斑点は確認できなかった。
結果を表3に示した。
【0024】
【表3】

<評価> ++ 赤色斑点が生じていた
+ 赤色斑点がわずかに見られた
± 赤色斑点が極わずかに見られた
− 赤色斑点は認められなかった
【0025】
実験例3 炭酸カルシウムへの染着性試験
実験例1で得られた着色料製剤(実施品1〜4、比較品1)を用い、下記試験方法により、コチニール色素のカルシウムへの染着度を比較した。
【0026】
<試験方法>
pH5.0 McIlvaine buffer 40mlに対し、実験例1で得られた着色料製剤(実施品1〜4、比較品1)を70℃の温湯で20%(w/w)溶液にしたものを2ml添加し、炭酸カルシウム3gを添加、30秒間攪拌した後、室温にて24時間静置、東洋濾紙株式会社製No.2濾紙にて吸引濾過、イオン交換水100mlで洗いこみ、濾紙上の炭酸カルシウムへのコチニール色素の染着度を目視にて確認した。
【0027】
◎pH5.0 McIlvaine bufferの調製方法
クエン酸(結晶)10.19gおよびリン酸水素ニナトリウム(12水和物)36.89gをイオン交換水にて溶解させ1000mlにする。これを50%クエン酸水を用いてpH5.0に調整し、pH5.0 McIlvaine bufferとした。
【0028】
<結果>
比較品1では、炭酸カルシウムにコチニール色素が染着し、ピンク色を呈した。
一方の実施品1では、炭酸カルシウムへのコチニール色素の染着度は比較品1の半分程度となり、2、3及び4では、色の染着は殆ど見られなかった。
結果を表4に示した。
【0029】
【表4】

【0030】
<評価> ++ 炭酸カルシウムが明らかに染着された
+ 炭酸カルシウムが少し染着された
± 炭酸カルシウムがわずかに染着された
− 炭酸カルシウムは染着されなかった
【0031】
実験例4 ハム用着色料製剤の調製
表5の処方に従い、全ての原材料を秤量して粉体混合し、粉末の着色料製剤を得た。尚、コチニール色素はWO02/22743に基づき調製したものを使用した(色価490)。
【0032】
【表5】

【0033】
実験例5 ロースハムの調製
実験例4で得られた着色料製剤(実施品5〜12、比較品2)を用いて、表6の処方に基づき、ロースハムを調製した。
【0034】
【表6】

【0035】
<ロースハムの調製方法>
冷水に還元澱粉加水分解物、乳清蛋白、粉末状大豆分離蛋白、カゼインナトリウム、卵白末、ゲル化剤製剤、重合リン酸塩、亜硝酸ナトリウム、L−アスコルビン酸ナトリウムを加え、ターボンミキサーにて20分間攪拌した。これに予め70℃の温湯にて20%溶液にした色素溶液と残りの原料を加え、更に10分間攪拌し、ピックル液を得た。
【0036】
豚ロース肉に得られたピックル液をインジェクションし、2時間タンブリング後、ケーシング充填した。これをスモークハウスにて60℃、60分乾燥させた後、70℃、30分スモークし、80℃のスチームにて中心温度70℃達温加熱後、冷却し、ロースハムを得た。
【0037】
<評価>
得られたロースハムを冷蔵(1〜10℃)保管し、3ヵ月後の内部の状態を観察し、カルシウムにコチニール色素が染着して生じる赤色の斑点の有無を調査した。
比較品1により着色したロースハムには、赤色の斑点が見られた。
一方の実施品5で着色したロースハムでは、赤色の斑点は注視しなければ殆ど確認されず、実施品6乃至12で着色したものでは、赤色の斑点は確認できなかった。
結果を表7に示した。
【0038】
【表7】

【0039】
<評価> + 炭酸カルシウムが染着された
± 炭酸カルシウムがわずかに染着された
− 炭酸カルシウムは染着されなかった
【0040】
実験例6 炭酸カルシウムへの染着性試験
実験例4で得られた着色料製剤(実施品5〜12、比較品2)を用い、下記試験方法により、コチニール色素のカルシウムへの染着度を比較した。
<試験方法>
pH5.0 McIlvaine buffer (作製方法は実施例3を参照)40mlに対し、実験例1で得られた着色料製剤(実施品5〜12、比較品2)を70℃の温湯で20%(w/w)溶液にしたものを1ml添加し、炭酸カルシウム3gを添加、30秒間攪拌した後、室温にて24時間静置、東洋濾紙株式会社製No.2濾紙にて吸引濾過、イオン交換水100mlで洗いこみ、濾紙上の炭酸カルシウムへのコチニール色素の染着度を目視にて確認した。
<結果>
比較品2では、炭酸カルシウムにコチニール色素が鮮明に染着し、ピンク色を呈した。
一方の実施品5では、炭酸カルシウムへのコチニール色素の染着度は比較品1の三割程度となり、実施例6で実施品5の半分程度となった。さらに実施例7乃至12では、色の染着は殆ど見られなかった。
結果を表8に示した。
【0041】
【表8】

【0042】
<評価> ++ 炭酸カルシウムが明らかに染着された
+ 炭酸カルシウムが少し染着された
± 炭酸カルシウムがわずかに染着された
− 炭酸カルシウムは染着されなかった

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コチニール色素とメタリン酸ナトリウムを含有することを特徴とする畜肉水産練り製品用の着色料製剤。
【請求項2】
着色料製剤100重量部に対してメタリン酸ナトリウムの添加量が1〜40重量部である請求項1に記載の畜肉水産練り製品用の着色料製剤。
【請求項3】
請求項1記載の着色料製剤で着色することを特徴とする畜肉水産練り製品。
【請求項4】
請求項1記載の着色料製剤を使用することを特徴とする畜肉水産練り製品の着色方法。

【公開番号】特開2006−109722(P2006−109722A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298513(P2004−298513)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】