説明

異なる極性にて作動する2つのIMSセルを具えるイオン移動度システム

イオン移動度分光計システムは、ドライバユニット(12)により駆動される2つのセル(1)及び(2)を具え、これらのセルは逆極性にて作動し、かつ異なる極性の間で、規則的な間隔で又は一方のセル内における物質の検出に応答して、切り換えられるようにする。セル(1)及び(2)の双方に2つの試薬を供給し、一方の試薬は物質をポジティブモードにて検出することを促進し、かつ他方の試薬は物質をネガティブモードにて検出することを促進するようにして、極性を切り換える際に試薬を入れ換える必要はなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1及び第2のIMSセルを具え、各セルは、分析すべき蒸気又はガスをセルに供給する入口を有し、第1及び第2のセルを逆極性にて駆動させるべくドライバを作動可能とし、第1及び第2のセルが互いに異なる第1及び第2の物質に対してそれぞれ応答するようにした、イオン移動度分光計システムに関する。
【背景技術】
【0002】
IMSシステムは、爆薬、麻薬、糜爛剤、及び神経ガス等のような物質を検出するのにしばしば用いられている。IMSシステムは、典型的には、疑いのある物質を含む空気のサンプルがガス又は蒸気として供給される、検出器セルを具えている。セルは大気圧で作動し、かつセル両端間に電圧勾配をかけるべく附勢される電極を具えている。空気のサンプル中の分子は、放射線源又はコロナ放電のような手段によりイオン化され、そして一端部における静電ゲートにより、セルのドリフト領域内に入れられる。イオン化した分子は、イオンのサイズに応じた速度で、セルの反対側の端部にまでドリフトする。セルを横切る飛行時間を測定することによって、イオンを識別することができる。セルには試薬又はドープ剤を添加するのが慣例である。試薬は、通常、関心対象物質と相互作用をすることで、動きがより遅くなり、かつ他の物質から一層区別がつき易くなるような、より大きな分子を発生するようなものを選択する。
【0003】
IMSシステムの例は、英国特許明細書第2324407号、第2324875号、第2316490号、第2323165号、及び米国特許明細書第4551624号に開示されている。米国特許明細書第6459079号には、各々異なる試薬が供給される、ポジティブ(正)及びネガティブ(負)セルを有するシステムが開示されている。IMSユニットでは、異なる極性の2つのセルを有するようにするのが慣例である。それは、こうすることにより、ポジティブ極性セルを必要とする神経ガス、及びネガティブ極性セルを必要とする糜爛剤を、単一のユニットで検出できるようになるからである。このような構成においては、ポジティブセルは、神経ガス及び麻薬のような、ポジティブモードにてイオン化される核種を生成する化合物を検出する用途で使用され、かつネガティブセルは、糜爛剤及び爆薬のような、ネガティブモードにてイオン化される核種を生成する化合物を検出する用途で使用されている。その他には、IMSユニットの中には、単一のセルのみを有するようにしたものもあり、この場合は極性をポジティブとネガティブとの間で切り換え、その切り換え周期を典型的には数秒程度とする。このような構成は、長期間のバックグラウンドの監視においては満足なものとなり得るが、所定の物質に対して誤った極性で作動する際には、システムがその物質に応答し得なくなることは明らかである。
【発明の開示】
【0004】
本発明の目的は、従来のものの代替となるIMSシステムを提供することにある。
【0005】
本発明のひとつの要点によると、上記特定した種類のイオン移動度分光計システムにおいて、セルが、第1の物質とは異なる物質に応答するように、少なくとも第1のセルの極性を切り換えるべくドライバを作動し得るようにしたことを特徴とする。
【0006】
前記ドライバは、第1及び第2のセルを双方ともに切り換えるべく作動可能にして、常に、一方のセルはポジティブ極性にて作動し、他方のセルはネガティブ極性にて作動するようにするのが好適である。ドライバは、好適には約30秒以内及び好適には約1秒以内の規則的な間隔にて、各セルの極性を切り換えるべく作動可能とすることができる。ドライバは、ある物質の存在を示す信号に応答して極性を切り換えるべく作動可能とすることができる。このシステムは、物質の検出を促進するために、セルに試薬を供給すべく構成するのが好適である。両セル共に、ある物質をポジティブモードで検出するのを促進するために第1の試薬が、及び異なる物質をネガティブモードで検出するのを促進するために第2の試薬が供給されるようにするのが好適である。このシステムは、ある物質の存在が片方のセルのみで検出された場合よりも、両方のセルで検出された場合の方が、物質の存在の確率がより高いと表示すべく構成することもできる。ドライバは、最初は、第1のセル及び第2のセルの双方を切り換えて、常に、一方のセルはポジティブ極性で作動するようにし、かつ他方のセルはネガティブ極性で作動するようにすることができ、また、一方の極性で作動するセルがある物質の存在を示すと、ドライバはそのセルをその極性に維持するようにすることができる。一方の極性で作動しているセルがある物質の存在を示す際に、ドライバはそのセルをその極性に維持するようにして、他方のセルを同じ極性に切り換えるようにすることができる。このシステムは、一方の極性で連続して作動する追加のセルを具えることができる。
【0007】
以下、本発明によるIMSシステムを、システムの概略を示す添付の図面につき、実施例により説明する。
【0008】
本システムは、2つの慣例のIMSドリフトセル1及び2を具え、各セルは、分析すべきガス又は蒸気をセルに供給するための入口3を有している。これらのセルはまた、セルに適切なドープ剤又は試薬を供給するための入口4も具えている。セルの内部構造及び動作については、慣例のものであるため、ここでは説明を省略する。2つのセル1及び2は、信号プロセッサ10に電気的出力を供給し、この信号プロセッサは出力を、ディスプレイ、アラーム、外部通信機器又は他の利用手段11に供給する。2つのセル1及び2の極性は、以下に説明する方法で、極性切替又はドライバユニット12により制御する。
【0009】
まず、ユニット12は、第1のセル1にポジティブ極性を、及び第2のセル2にネガティブ極性を与える。これらの極性においては、第1のセル1は、典型的には糜爛剤とする組成物Aに応答し、かつ第2のセル2は、典型的には神経ガスとする組成物Bに応答する。2つの異なる試薬、即ち組成物Aの検出を促進する第1の試薬及び組成物Bの検出を促進する第2の試薬を、セル1及び2の双方に連続して供給する。なお、第2の試薬は、第1のセル内がポジティブ極性である間は使用されず、第1の試薬は第2のセル内がネガティブ極性である間は使用されない。このため、各セルが、ポジティブモードで化学的に影響を及ぼす多くのドープ剤を有するようにするだけでなく、ネガティブモードでも科学的に影響を及ぼす多くのドープ剤を有するように、各セルに多数のドープ剤を加えることもできる。
【0010】
ユニット12は、その後2つのセルに与える極性を切り換えて、第1のセル1はネガティブモードに、かつ第2のセル2はポジティブモードになるようにする。これらの極性においては、第1のセル1は、この際、組成物Bに応答し、かつ第2のセル2は組成物Aに応答するようになる。セル1及び2には、2つの組成物A及びBの検出を促進すべく必要な双方のドープ剤が連続して供給されるため、試薬の切り換えをする際に遅延は生じない。
【0011】
ユニット12は、規則的な間隔で、典型的には約30秒以下で、セルの極性を切り換えるように構成することができる。あるいは、一方又は他方のセル1又は2が組成物を検出したことをプロセッサ10への入力が示すときにのみ、ユニット12が極性を切り換えるように構成することもできる。しかしながら、常に、一方のセルは一方の極性で作動して、かつ他方のセルは逆極性で作動することは明らかである。
【0012】
疑いのある組成物が一方のセルで検出され、次いで極性を切り換えた際に、(異なるドープ剤で化学的な作用をする)他方のセルでも検出された場合、プロセッサ10はこのことを、その組成物が存在する確率が高いことを示すものと解釈する。しかしながら、ある組成物が一方のセルで検出されても、極性を切り換えた際に他方のセルでは検出されない場合には、プロセッサ10はその組成物が存在する確率は低いことを示す。したがって、本発明は、1つ以上の化学系において生成されるイオン化核種のドリフト時間を測定することによって、必要以上に複雑な構成にすることなく、ある物質の存在をより正確に査定することができるようになる。
【0013】
このシステムは、様々なやり方により変更することができる。例えば、このシステムが2以上のセルを有するようにして、これらセルを切り換えた極性で駆動させるか、又は一定の極性を有するようにすることができる。2つのセルを有するシステムにおいては、一方のセルが連続して一方の極性で作動するようにし、かつ他方のセルのみ極性が切り換わるようにすることもできる。例えば、ポジティブ極性のセルにてある物質が検出される危険性が高いと考えられる場合には、一方のセルをポジティブ極性で連続して作動させて、他方のセルのみを異なる極性の間で切り換えることもできる。このシステムは、最初は双方のセルを異なる極性で駆動させ、かつ、疑いのある組成物の存在を一方のセルの出力が示す際には、そのセルはその極性に維持するも、他方のセルの極性は同じ極性にすべく切り換えるように構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるイオン移動度分光計システムの概略を示すブロック図である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2のIMSセル(1及び2)を具え、各セルは、分析すべき蒸気又はガスをセルに供給する入口(3)を有し、第1及び第2のセル(1及び2)を逆極性にて駆動させるべくドライバ(12)を作動可能とし、第1及び第2のセルが互いに異なる第1及び第2の物質に対してそれぞれ応答するようにしたイオン移動度分光計システムにおいて、ドライバ(12)が、少なくとも第1のセル(1)の極性を切り換えて、このセルが第1の物質とは異なる物質に応答するようにしたことを特徴とする、イオン移動度分光計システム。
【請求項2】
前記ドライバ(12)は、第1及び第2のセル(1及び2)の双方を切り換えるべく作動可能として、常に、一方のセルはポジティブ極性で作動し、かつ他方のセルはネガティブ極性で作動し得るようにしたことを特徴とする、請求項1に記載の分光計システム。
【請求項3】
前記ドライバ(12)は、各セル(1及び2)の極性を規則的な間隔で切り換えるべく作動し得るようにしたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の分光計システム。
【請求項4】
前記間隔はほぼ30秒以下としたことを特徴とする、請求項3に記載の分光計システム。
【請求項5】
前記間隔はほぼ1秒以下としたことを特徴とする、請求項4に記載の分光計システム。
【請求項6】
前記ドライバ(12)は、ある物質の存在を示す信号に応答して、極性を切り換えるべく作動し得るようにしたことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の分光計システム。
【請求項7】
前記物質の検出を促進するため、前記システムは、前記セル(1及び2)に試薬を供給すべく構成されるようにしたことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載の分光計システム。
【請求項8】
双方のセル(1及び2)に、ポジティブモードにてある物質の検出を促進するための第1の試薬を、及びネガティブモードにて他の物質の検出を促進するための第2の試薬を供給するようにしたことを特徴とする、請求項7に記載の分光計システム。
【請求項9】
前記システムは、ある物質が一方のセル(1又は2)のみで検出される場合よりも、双方のセル(1及び2)でこの物質が検出される場合の方が、当該物質の存在をより高い確率で示すべく構成されるようにしたことを特徴とする、請求項1〜8の何れか1項に記載の分光計システム。
【請求項10】
前記ドライバ(12)は、最初は、前記第1及び第2のセル(1及び2)の双方を切り換えて、常に、一方のセルはポジティブ極性にて作動し、かつ他方のセルはネガティブ極性にて作動するようにし、かつ、一方の極性で作動している一方のセル(1又は2)がある物質の存在を示す際に、前記ドライバ(12)は当該セルをその極性にて維持するようにしたことを特徴とする、請求項1〜9の何れか1項に記載の分光計システム。
【請求項11】
一方の極性で作動している一方のセル(1又は2)がある物質の存在を示す際に、前記ドライバ(12)は当該セルをその極性にて維持し、かつ他方のセルを同じ極性に切り換えるようにしたことを特徴とする、請求項10に記載の分光計システム。
【請求項12】
前記システムは、連続して一方の極性で作動する追加のセルも具えるようにしたことを特徴とする、請求項1〜11の何れか1項に記載の分光計システム。

【公表番号】特表2007−516412(P2007−516412A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516380(P2006−516380)
【出願日】平成16年6月8日(2004.6.8)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002410
【国際公開番号】WO2005/001464
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(501038551)スミスズ グループ ピーエルシー (26)
【氏名又は名称原語表記】SMITHS GROUP PLC
【Fターム(参考)】