説明

異常判定閾値設定システム

【課題】異常判定閾値の設定精度を向上することができる異常判定閾値設定システムを提供する。
【解決手段】異常判定閾値設定システムは、車両のタイヤに取り付けられたタイヤバルブから、タイヤの空気圧情報及び温度情報を含む無線信号を車体において受信する受信機と、受信機が受信した空気圧を異常判定閾値と比較することにより監視する制御装置とを備えるタイヤ空気圧監視システムに使用し、異常判定閾値を設定する。異常判定閾値設定システムは、タイヤバルブから送信される空気圧情報と温度情報とを一定期間において監視することにより、圧力/温度の変化特性を取得するデータ監視部と、圧力/温度の変化特性を基に、登録空気圧から一定量減少させた値を異常判定閾値として設定する閾値設定部と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タイヤの空気圧の異常判定に用いる閾値を設定する異常判定閾値設定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される装置として、タイヤ空気圧監視システム(TPMS:Tire Pressure Monitoring System)が知られている。タイヤ空気圧監視システムは、走行時に車両のタイヤに装着されたセンサからタイヤの空気圧や温度を無線通信によって取得して、タイヤの異常を監視するシステムである。なお、センサは、タイヤバルブに一体に搭載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のようなタイヤ空気圧監視システムのタイヤバルブには、搭載されたセンサが検出した空気圧や温度等の検出情報を無線信号で送信する送信機が設けられる。また、車両には、送信機から送信された検出情報を含む無線信号を受信可能な受信機と、受信した信号から空気圧や温度等を表示するとともに、異常時には警告する制御装置とが設けられる。なお、送信機はタイヤバルブに内蔵されているものがほとんどである。
【0004】
タイヤ空気圧監視システムでは、自車両に対応したタイヤバルブから送信された無線信号であるか否かを判断するために、タイヤバルブの送信機からバルブ識別情報(バルブID)を含む無線信号を送信させる。そして、タイヤ空気圧監視システムの制御装置は、予め登録されたバルブIDと一致するか否かの認証を行い、認証が成立したことを条件に、無線信号に含まれる検出情報に基づいて空気圧や温度等を表示するとともに、タイヤ圧力が異常判定閾値(低圧閾値)未満となる異常時には警告する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−335115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなタイヤ空気圧監視システムの制御装置では、タイヤ内の温度によってタイヤの空気圧が変化するため、タイヤの空気圧を監視する際に、タイヤの空気圧情報だけでなく温度情報も参照してタイヤの空気圧を監視している。すなわち、制御装置は、タイヤの異常を警告する空気圧の異常判定閾値を温度情報によって補正した上で判断している。この補正は、一般的にボイルシャルルの法則に基づいて温度情報から圧力を算出して異常判定閾値を設定する。
【0007】
ところで、ボイルシャルルの法則は理想気体において成立するものであるが、実際のタイヤ内には水蒸気が存在するので、水蒸気が飽和することによって温度と圧力との比例関係が崩れてしまうと、ボイルシャルルの関係を満足しなくなり、異常判定閾値の計算精度が悪くなるおそれがあった。また、空気圧情報や温度情報は、センサの特性やばらつきによる誤差も関係する。そこで、タイヤの異常を正確に判定可能な異常判定閾値の設定精度を向上することができる異常判定閾値設定システムが求められていた。
【0008】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、異常判定閾値の設定精度を向上することができる異常判定閾値設定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、車両のタイヤに取り付けられたタイヤバルブから、該タイヤの空気圧情報及び温度情報を含む無線信号を車体において受信する受信手段と、該受信手段が受信した空気圧を異常判定閾値と比較することにより監視する制御装置とを備えるタイヤ空気圧監視システムに使用し、前記異常判定閾値を設定する異常判定閾値設定システムにおいて、前記タイヤバルブから送信される前記空気圧情報と前記温度情報とを一定期間において監視することにより、圧力/温度の変化特性を取得する監視手段と、前記圧力/温度の変化特性を基に、前記空気圧から一定量減少させた値を前記異常判定閾値として設定する設定手段と、を備えたことをその要旨としている。
【0010】
同構成によれば、一定期間における圧力/温度の変化特性を取得して、この取得した各温度における空気圧に対して一定量減少させた異常判定閾値を設定した。すなわち、各タイヤバルブにおけるセンサの特性やばらつきを含めた実際気体の空気圧に基づいてタイヤの異常を判定する。このため、理想気体としてセンサの誤差を考慮せず一律に異常閾値を算出する従来技術と異なり、実際の空気圧の変化に基づいて異常判定閾値の設定精度を向上することができる。よって、設定された異常判定閾値によってタイヤの異常を正確に判定することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の異常判定閾値設定システムにおいて、前記設定手段は、前記タイヤバルブから各温度における前記空気圧を一度受信した際には仮登録し、前記タイヤバルブから各温度において同じ空気圧を二度受信した際には本登録し、本登録された空気圧に基づいて前記異常判定閾値を設定することをその要旨としている。
【0012】
同構成によれば、タイヤバルブが検出した温度及び空気圧の同じ組み合わせを二度検出したことで正しい値として登録し、その値から一定量減少させた異常判定閾値を設定する。このため、実際の空気圧を正確に登録することでタイヤの異常を正確に判定することが可能となる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の異常判定閾値設定システムにおいて、前記監視手段は、前記圧力/温度の変化特性の監視を複数回に亘り実行し、前記設定手段は、同じ温度において異なる空気圧を検出したとき、これら空気圧の中から最大値を本登録し、本登録された空気圧に基づいて前記異常判定閾値を設定することをその要旨としている。
【0014】
同構成によれば、タイヤバルブが検出した同じ温度における空気圧が異なるときには、空気圧が減少した際に早めに異常を察知できる最大値を正しい値として登録し、その値から一定量減少させた異常判定閾値を設定する。このため、空気圧の減少を早期に把握できる最大値に基づいて異常判定閾値を設定することで、安全側において異常を判定することが可能である。なお、理想気体としてセンサの誤差を考慮せず一律に異常閾値を算出する従来技術と異なり、実際の空気圧を登録することでタイヤの異常を正確に判定することが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の異常判定閾値設定システムにおいて、前記設定手段は、前記圧力/温度の変化特性を近似線で表し、該近似線に基づいて前記異常判定閾値を設定することをその要旨としている。
【0016】
同構成によれば、タイヤバルブが検出した圧力/温度の変化特性を近似線で近似することで、各温度における空気圧が連続的に受信できないような場合においても、近似線によって各温度における異常判定閾値を設定することが可能となる。よって、実際の空気圧の変化に基づいて設定された異常判定閾値によってタイヤの異常を正確に判定することが可能となる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の異常判定閾値設定システムにおいて、前記設定手段は、求めた前記近似線に空気圧が含まれる又は近似するとき、当該近似線を継続使用し、該近似線から前記空気圧が大きく外れる状態となるとき、新たな前記近似線を求め、以上の処理を繰り返し実行することにより、前記近似線を生成することをその要旨としている。
【0018】
実際のタイヤの温度と空気圧との関係は、タイヤ内に水蒸気が含まれていることが考えられるため、タイヤ内に水蒸気が含まれていないときの直線と、水蒸気が含まれているときの曲線との組み合わせで表される。そこで、上記構成によれば、タイヤバルブが検出した圧力/温度の変化特性を複数の近似線によって近似し、これら近似線が繋がる一本の近似線とした。このため、一本の近似線では本来の値から一部で大きくずれることが考えられるので、複数の近似線で近似することで、本来の値から大きくずれることを抑制することが可能となる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の異常判定閾値設定システムにおいて、前記設定手段は、推奨空気圧を含むように、上限異常判定閾値と下限異常判定閾値とを温度に関係なく予め設定することをその要旨としている。
【0020】
同構成によれば、温度に関係なく上限異常判定閾値と下限異常判定閾値とを予め設定したので、異常判定閾値の設定が完了する前に推奨空気圧から大幅に変動した際に異常判定を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、異常判定閾値設定システムにおいて、異常判定閾値の設定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】タイヤ空気圧監視システムの概略構成を示すブロック図。
【図2】検出したタイヤの温度と空気圧とに基づいて設定される異常閾値を示す図。
【図3】パンク時に検出したタイヤの温度と空気圧との関係を示す図。
【図4】水蒸気の含有量によるタイヤの温度と空気圧との関係を示す図。
【図5】検出したタイヤの温度と空気圧とに基づいて設定される異常閾値を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
以下、本発明をタイヤ空気圧監視システムに具体化した第1の実施形態について図1〜図3を参照して説明する。車両には、タイヤの空気圧等を検出して、空気圧等の異常を監視するタイヤ空気圧監視システム(TPMS:Tire Pressure Monitoring System)が設けられている。
【0024】
図1に示されるように、車両1の各タイヤ2(計4個)には、空気注入口であるとともに、タイヤ2の空気圧等を検出して送信するタイヤバルブ3(計4個)がそれぞれ設けられている。タイヤバルブ3には、タイヤバルブ3の動作を制御するバルブ制御部31が搭載されている。バルブ制御部31には、UHF(Ultra High Frequency)帯の電波によってタイヤ2の空気圧等を含む検出信号Stpを送信するUHF発信部32が接続されている。バルブ制御部31には、バルブIDを記憶したメモリ31aが設けられている。
【0025】
また、タイヤバルブ3には、タイヤ2の圧力を検出する圧力センサ33、タイヤ2の温度を検出する温度センサ34、タイヤ2の径方向に掛かる加速度を検出する加速度センサ35等が搭載されている。これらセンサ類は、検出信号をバルブ制御部31に出力する。UHF発信部32が送信する検出信号Stpには、タイヤ2の空気圧、温度、及びタイヤ2の固有ID(バルブID)等が含まれている。タイヤバルブ3は、加速度センサ35が加速度を検出した際に、各タイヤバルブ3から順に検出信号StpをUHF発信部32から送信する。
【0026】
車両1の車体には、タイヤ空気圧監視システムを制御する制御装置4が搭載されている。制御装置4には、各タイヤ2のタイヤバルブ3から送信されるタイヤ2の空気圧等を含む検出信号StpをUHF帯の電波で受信する受信機5が接続されている。また、制御装置4には、タイヤ2の空気圧等を運転者に表示する表示装置6が接続されている。表示装置6は、車両1の運転席に設置される。なお、受信機5が受信手段として機能する。
【0027】
受信機5は、検出信号Stpを受信すると、検出信号Stpに含まれるバルブIDと検出情報とを制御装置4に出力する。制御装置4は、検出信号Stp内のバルブIDとメモリ4aに記憶されたバルブIDとが一致するか否かを判定するID照合を実行し、ID照合が成立すれば、車両1に登録されたタイヤ2からの信号であると認識する。そして、制御装置4は、検出信号Stp内に含まれるタイヤ2の空気圧や温度を読み取り、タイヤ2の空気圧や温度を表示装置6に表示させる。また、制御装置4は、タイヤ2の空気圧や温度が異常であれば、その旨を表示装置6や図示しないアラーム等で報知する。制御装置4は、タイヤバルブ3から検出信号Stpを受信する度に、この動作を繰り返し実行する。
【0028】
制御装置4には、異常判定閾値に基づいてタイヤ2の空気圧の異常を判定する異常判定部4eが設けられている。異常判定部4eは、検出した空気圧が異常判定閾値(低圧閾値)よりも低下していた場合に異常と判定し、検出した空気圧が異常判定閾値よりも低下していない場合に通常と判定する。
【0029】
本実施例のタイヤ空気圧監視システムには、各タイヤ2の圧力/温度の変化特性から異常判定閾値を設定する異常判定閾値設定システムが設けられている。これは、背景技術での述べたように、例えばタイヤ2内に水蒸気等が含まれていると、ボイルシャルルの法則が成り立たないため、タイヤ2の実際の圧力/温度の変化特性を監視し、この変化特性から異常判定閾値を設定することで対応する。本例の車両1の制御装置4は、各タイヤバルブ3が送信される検出信号Stp内の圧力データ及び温度データをプロットしていくことにより、圧力/温度の変化特性を取得し、この圧力/温度の変化特性の測定値から一定量低下させた値を、異常判定閾値として設定する。
【0030】
制御装置4には、各タイヤバルブ3から送信された検出信号Stp内の圧力データ及び空気圧データを監視するデータ監視部4bが設けられている。データ監視部4bは、車両走行時の所定タイミングで電波受信の監視状態に入り、検出信号Stpを受信する度、受信した検出信号Stpに含まれる空気圧と温度とを温度毎に空気圧をメモリ4aに一時的に記憶していき、曲線状又は直線状の圧力/温度の変化特性を取得する。また、データ監視部4bは、例えば車両1を走行させているときの温度上昇時と、車両1を停止させた後の温度下降時との両方において圧力/温度の変化特性を取得する。なお、データ監視部4bが監視手段として機能する。
【0031】
制御装置4には、監視した圧力/温度の変化特性を基に、各温度における空気圧を登録する空気圧登録部4cが設けられている。このとき、空気圧登録部4cは、ある温度における空気圧が同じ温度において記憶した空気圧と同じものでなければ、仮登録とする。また、空気圧登録部4cは、ある温度における空気圧が同じ温度において記憶した空気圧と同じものであれば、本登録とする。ここで、空気圧を登録する際には、通常であればタイヤ2に推奨空気圧が供給されている。なお、空気圧登録部4cが設定手段として機能する。
【0032】
制御装置4には、空気圧登録部4cが登録した空気圧に基づいて異常判定閾値を設定する閾値設定部4dが設けられている。閾値設定部4dは、各温度において登録された空気圧から一定量減少させた異常判定閾値をそれぞれ設定する。つまり、閾値設定部4dは、本登録された圧力/温度のプロット点からなる圧力/温度の変化特性に対し、一定量だけ値を下げた波形を、異常判定閾値の閾値ラインとして設定する。
【0033】
そして、閾値設定部4dは、設定した各タイヤバルブ3の各温度における異常判定閾値をメモリ4aに記憶する。ここで、一定量は、各国の法規で定められた空気圧の異常低下を規定する、すなわち推奨空気圧からの低下割合のことである。具体的には、低下割合は、米国においては25%、欧州においては20%(予定)である。なお、閾値設定部4dが設定手段として機能する。
【0034】
制御装置4の異常判定部4eは、閾値設定部4dが設定した異常判定閾値に基づいて各タイヤバルブ3の異常を判定する。なお、閾値設定部4dによって異常判定閾値が設定されるまで判定閾値がないので、各温度によらない上限異常判定閾値Pmaxと下限異常判定閾値Pminとに挟まれた通常判定閾値範囲Anが予め設定されている。異常判定部4eは、閾値設定部4dが設定した異常判定閾値と通常判定閾値範囲Anとに基づいてタイヤ2の異常判定を行う。
【0035】
次に、本例の異常判定閾値設定システムの設定動作について図2を参照して説明する。
車両1にタイヤ2が装着されると、タイヤ2のタイヤバルブ3のバルブIDが図示しない登録ツール等を用いて制御装置4に登録される。この状態では、制御装置4には、バルブIDと通常判定閾値範囲An(上限異常判定閾値Pmax、下限異常判定閾値Pmin)とが登録されている。
【0036】
図2に示されるように、各タイヤバルブ3は、車両1が走行状態となると、加速度センサ35からバルブ制御部31に加速度検出信号が入力され、空気圧や温度の検出を開始する。バルブ制御部31は、圧力センサ33からタイヤ2の空気圧を検出するとともに、温度センサ34からタイヤ2の温度を検出する。タイヤ2は、走行に伴って温まり温度が上昇する。このため、タイヤバルブ3は、車両1が一度走行すると、ある程度の温度範囲における温度毎の空気圧を検出する。
【0037】
車両走行時、データ監視部4bは、検出信号Stp内の圧力データ及び空気圧データを監視する。つまり、データ監視部4bは、受信機5が検出信号Stpを受信する度、検出信号Stpから圧力データ及び温度データを取得して、各温度におけるタイヤ2の空気圧の値(圧力/温度の変化特性)を取り込む。なお、データ監視部4bは、4本の各タイヤのそれぞれにおいて個別の圧力/温度の変化特性を監視する。
【0038】
空気圧登録部4cは、タイヤバルブ3毎に2度検出した各温度における空気圧(圧力/温度のプロット点)を登録空気圧Prとして登録する(黒丸で示す)。ここで、空気圧登録部4cは、各温度における空気圧を連続的に登録すると、記憶量が大きくなるため、間隔をおいた温度毎に空気圧を登録空気圧Prとして登録する。空気圧登録部4cは、間隔をおいた登録空気圧Prを繋ぐ登録空気圧近似線Ld1を算出し、この登録空気圧近似線Ld1を各温度における登録空気圧Prとして登録する。なお、登録空気圧近似線Ld1は、曲線又は直線であってもよい。
【0039】
閾値設定部4dは、空気圧登録部4cが登録した登録空気圧近似線Ld1から一定量として例えば20%低下した異常判定閾値近似線La1を算出することで異常判定閾値Paを設定する。登録空気圧近似線Ld1に対して減少量を算出すれば、各温度における空気圧に対して1つずつ設定するよりも容易に異常判定閾値Paを設定することができる。なお、登録空気圧Prに対する異常判定閾値Paを白丸で示す。
【0040】
次に、本例のタイヤ空気圧監視システムの判定動作について図3を参照して説明する。
例えば、登録された空気圧と同等の値で各温度における空気圧が検出された後に、徐々に空気の抜けるスローパンクチャーがタイヤ2に発生したとする。
【0041】
図3に示されるように、タイヤバルブ3は、車両1が走行状態となると、空気圧に関わらず、加速度センサ35が加速度を検出することで空気圧と温度とを含む検出信号Stpを送信する。制御装置4の異常判定部4eは、タイヤバルブ3から送信された検出信号Stpを受信すると、受信した温度における空気圧が通常判定閾値範囲An内にあるとともに、異常判定閾値近似線La1よりも高いか否かを判定する。異常判定部4eは、検出信号Stpを受信する度に異常判定閾値Paより検出空気圧が高いか否かを判定する。図3には、受信した温度における検出空気圧Pdを黒丸で示している。
【0042】
異常判定部4eは、検出空気圧Pdoが異常判定閾値近似線La1よりも低い空気圧となるので、空気圧が異常と判定する。制御装置4は、異常判定部4eが異常と判定すると、その旨を表示装置6や図示しないアラーム等で報知する。
【0043】
さて、本実施例のタイヤ空気圧監視システムでは、制御装置4が受信した検出信号Stp内の圧力データ及び温度データを監視し、圧力/温度の変化特性を実測する。そして、この実測した圧力/温度の変化特性に対し、一定量減少させた値を新たな異常判定閾値として設定し、この異常判定閾値により各タイヤ2の空気圧を判定する。このため、タイヤバルブ3が実測した空気圧と温度とによって各温度の異常判定閾値Paが設定されるので、温度による空気圧の変動、センサの特性やばらつき等による誤差に関係なく、各温度において空気圧が異常判定閾値Paよりも低下したことを正確に判定することができる。
【0044】
以上、説明した実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)ある程度の温度範囲における登録空気圧Prが登録される間、圧力/温度の変化特性を取得して、この取得した各温度における空気圧に対して一定量減少させた異常判定閾値Paを設定した。すなわち、各タイヤバルブ3におけるセンサの特性やばらつきを含めた実際気体の空気圧に基づいてタイヤ2の異常を判定する。このため、理想気体としてセンサの誤差を考慮せず一律に異常閾値を算出する従来技術と異なり、実際の空気圧の変化に基づいて異常判定閾値の設定精度を向上することができる。よって、設定された異常判定閾値Paによってタイヤ2の異常を正確に判定することができる。
【0045】
(2)タイヤバルブ3が検出した温度及び空気圧の同じ組み合わせを二度検出したことで正しい値として登録し、その値から一定量減少させた異常判定閾値Paを設定する。このため、実際の空気圧を正確に登録することでタイヤ2の異常を正確に判定することができる。
【0046】
(3)タイヤバルブ3が検出した圧力/温度の変化特性を登録空気圧近似線Ld1で近似することで、各温度における空気圧を、間隔をおいて受信しても、登録空気圧近似線Ld1によって各温度における異常判定閾値Paを設定することができる。よって、実際の空気圧の変化に基づいて設定された異常判定閾値Paによってタイヤ2の異常を正確に判定することができる。
【0047】
(4)温度に関係なく上限異常判定閾値Pmaxと下限異常判定閾値Pminとを予め設定したので、異常判定閾値Paの設定が完了する前に推奨空気圧から大幅に変動した際に異常判定を行うことができる。
【0048】
(第2の実施形態)
以下、本発明をタイヤ空気圧監視システムに具体化した第2の実施形態について、図4及び図5を参照して説明する。この実施形態のタイヤ空気圧監視システムは、登録した登録空気圧を近似する近似直線の算出方法が上記第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。なお、この実施形態のタイヤ空気圧監視システムは、図1に示す第1の実施形態のタイヤ空気圧監視システムとほぼ同様の構成を備えている。
【0049】
図4に示されるように、タイヤ2の空気圧は、一般的に温度による変化に加えて、水蒸気の含有量によっても変化する。すなわち、図4に温度と空気圧との関係を示すと、水蒸気がない空気は、温度に比例してほぼ直線で空気圧が上昇する。また、各温度で飽和する水蒸気が含まれる空気は、飽和する温度よりも低い温度において、水蒸気がない空気よりも空気圧が低くなる。なお、通常、タイヤ2に空気を供給する際には、圧縮することで水蒸気をほとんど含まない状態にした空気を用いる。タイヤ2内の空気が水蒸気を含まない場合には、第1の実施形態の近似直線で設定可能である。しかしながら、ユーザが自分で空気を供給することで、タイヤ内の空気に水蒸気が含まれることも考えられる。
【0050】
タイヤ2内の空気が水蒸気を含む場合には、第1の実施形態のように、検出した温度における空気圧に基づいて1本の近似線を設定する(図4に破線で示す)と、登録空気圧Prが検出した空気圧から大きくずれた値となってしまう可能性がある。また、異常判定閾値の精度を確保するためには、高い分解能のデータテーブルを持つ必要があり、大きなメモリ容量を用意する必要が生じる。
【0051】
図5に示されるように、タイヤ2内の空気に水蒸気が含まれても検出した空気圧に近い値で近似するために、複数の近似直線によって検出した空気圧を近似して設定する。ここで、例えばタイヤ2内に60℃で飽和する水蒸気が含まれる空気が入っているとする。空気圧登録部4cは、間隔をおいた各温度(比較的荒い温度分解能)における空気圧の前後との差がほぼ同じ空気圧を結ぶ複数の登録空気圧近似直線Ld2,Ld3,Ld4を算出していく。
【0052】
例えば、閾値設定の処理開始時、閾値設定部4dは、まず開始から所定個の圧力/温度のプロット点を繋げて登録空気圧近似直線Ld2を算出する。そして、閾値設定部4dは、登録空気圧近似直線Ld2の設定移行、取得した圧力/温度のプロット点が、この登録空気圧近似直線Ld2に含まれる又は近似する値であるかを確認する。そして、プロット点が登録空気圧近似直線Ld2に含まれれば、登録空気圧近似直線Ld2をそのまま継続使用する。
【0053】
一方、圧力/温度のプロット点が登録空気圧近似直線Ld2から大きくずれると、閾値設定部4dは、以降に取得するいくつかのプロット点を用い、新たな登録空気圧近似直線Ld3を算出する。そして、以上の処理を繰り返すことにより、一本の登録空気圧近似線Ld5を算出する。空気圧登録部4cは、設定された登録空気圧近似線Ld5を各温度における登録空気圧Prとして登録する。
【0054】
閾値設定部4dは、空気圧登録部4cが登録した登録空気圧近似線Ld5から一定量として例えば20%低下した異常判定閾値近似線La2を算出することで異常判定閾値Paを設定する。このように、登録空気圧近似線Ld5に対して減少量を算出すれば、各温度における空気圧に対して1つずつ設定するよりも容易に異常判定閾値Paを設定することができる。
【0055】
そして、第1の実施形態と同様に、異常判定部4eは、この設定された異常判定閾値近似線La2に基づく異常判定閾値Paによってタイヤ2の異常を判定する。なお、同様の動作のため、割愛する。
【0056】
さて、本実施例のタイヤ空気圧監視システムでは、検出したタイヤ2の登録空気圧Prが複数の登録空気圧近似直線Ld2,Ld3,Ld4によって設定される。このため、温度による空気圧の変動、センサの特性やばらつき等による誤差に加えて、水蒸気が含まれたとしても、各温度において空気圧が異常判定閾値Paよりも低下したことを正確に判定することができる。
【0057】
以上、説明した実施形態によれば、第1の実施形態の(1)〜(4)の効果に加え、以下の効果を奏することができる。
(5)タイヤバルブ3が検出した圧力/温度の変化特性を3本の登録空気圧近似直線Ld2,Ld3,Ld4によって近似し、これら登録空気圧近似直線Ld2,Ld3,Ld4が繋がる一本の登録空気圧近似線Ld5とした。このため、複数の登録空気圧近似直線Ld2,Ld3,Ld4で近似することで、本来の値から大きくずれることを抑制することができる。
【0058】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記実施形態では、空気圧登録部4cは、一定間隔の温度における空気圧ではなく、温度における空気圧を定期的に登録してもよい。
【0059】
・上記実施形態において、ある温度における空気圧が異なる場合には最大値を本登録して、異常判定閾値Paを設定してもよい。すなわち、空気圧が減少した際に早めに異常を察知できる最大値を正しい値として登録し、その値から一定量減少させた異常判定閾値Paを設定する。このため、空気圧の減少を早期に把握できる最大値に基づいて異常判定閾値Paを設定することで、安全側において異常を判定することができる。なお、理想気体としてセンサの誤差を考慮せず一律に異常閾値を算出する従来技術と異なり、実際の空気圧を登録することでタイヤ2の異常を正確に判定することができる。
【0060】
・上記実施形態では、ある温度における空気圧が二度同じであった際にその温度における空気圧を本登録したが、ある温度における空気圧を一度検出した際にその温度における空気圧を本登録してもよい。このようにすれば、異常判定閾値を比較的早く設定することが可能となる。
【0061】
・上記実施形態では、登録された空気圧の近似線を直線としたが、曲線としてもよい。
・上記実施形態では、上限異常判定閾値Pmaxと下限異常判定閾値Pminとを設定したが、下限異常判定閾値Pminのみとしてもよい。また、上限異常判定閾値Pmaxと下限異常判定閾値Pminとのいずれも設定しなくてもよい。
【0062】
・上記実施形態では、近似線を用いて登録空気圧Prを設定して、各温度における空気圧を登録したが、近似線を用いずに、検出して登録した登録空気圧Prに基づいて異常判定閾値Paを設定してもよい。
【0063】
・上記実施形態において、タイヤバルブ3は、加速度センサ35がタイヤ2の回転を検出したときに検出信号Stpを送信するものに限定されない。例えば、タイヤバルブ3が検出信号Stpを常時送信するものでもよい。
【0064】
・上記実施形態において、イニシエータによる起動信号でタイヤバルブ3が起動して検出信号Stpを送信するイニシエータ型を採用してもよい。
・上記実施形態において、イニシエータ型を採用した場合には、停車時にタイヤバルブ3を起動させて、停車時のタイヤ2の温度における空気圧を取得して登録してもよい。
【0065】
・上記実施形態において、異常判定閾値の設定は、走行時に、例えば定期的に実行してもよい。
・上記実施形態において、温度上昇又は温度下降を2回検出した際に、このときに得られる値を基に仮登録、本登録の動作を実施してもよい。
【0066】
・上記実施形態において、異常判定閾値の設定は、タイヤの低圧判定に同期して行われてもよいし、低圧判定を一旦中断して行われてもよい。
・上記実施形態において、タイヤバルブ3に搭載されるセンサ類は、実施形態に述べたものに限定されず、適宜変更してもよいし、追加してもよい。
【0067】
・上記実施形態では、タイヤバルブ3からUHF帯の電波で無線信号を送信したが、UHF帯に限らず、LF帯やHF(High Frequency)帯等の他の周波数帯を用いてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…車両、2…タイヤ、3…タイヤバルブ、4…制御装置、4a…メモリ、4c…登録手段としての空気圧登録部、4d…設定手段としての閾値設定部、4e…異常判定部、5…受信手段としての受信機、6…表示装置、31…バルブ制御部、31a…メモリ、32…UHF発信部、33…圧力センサ、34…温度センサ、35…加速度センサ、An…通常判定閾値範囲、La1…異常判定閾値近似線、Ld1…登録空気圧近似線、Pa…異常判定閾値、Pd,Pdo…検出空気圧、Pr…登録空気圧、Stp…検出信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のタイヤに取り付けられたタイヤバルブから、該タイヤの空気圧情報及び温度情報を含む無線信号を車体において受信する受信手段と、該受信手段が受信した空気圧を異常判定閾値と比較することにより監視する制御装置とを備えるタイヤ空気圧監視システムに使用し、前記異常判定閾値を設定する異常判定閾値設定システムにおいて、
前記タイヤバルブから送信される前記空気圧情報と前記温度情報とを一定期間において監視することにより、圧力/温度の変化特性を取得する監視手段と、
前記圧力/温度の変化特性を基に、前記空気圧から一定量減少させた値を前記異常判定閾値として設定する設定手段と、を備えた
ことを特徴とする異常判定閾値設定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の異常判定閾値設定システムにおいて、
前記設定手段は、前記タイヤバルブから各温度における前記空気圧を一度受信した際には仮登録し、前記タイヤバルブから各温度において同じ空気圧を二度受信した際には本登録し、本登録された空気圧に基づいて前記異常判定閾値を設定する
ことを特徴とする異常判定閾値設定システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の異常判定閾値設定システムにおいて、
前記監視手段は、前記圧力/温度の変化特性の監視を複数回に亘り実行し、
前記設定手段は、同じ温度において異なる空気圧を検出したとき、これら空気圧の中から最大値を本登録し、本登録された空気圧に基づいて前記異常判定閾値を設定する
ことを特徴とする異常判定閾値設定システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の異常判定閾値設定システムにおいて、
前記設定手段は、前記圧力/温度の変化特性を近似線で表し、該近似線に基づいて前記異常判定閾値を設定する
ことを特徴とする異常判定閾値設定システム。
【請求項5】
請求項4に記載の異常判定閾値設定システムにおいて、
前記設定手段は、求めた前記近似線に空気圧が含まれる又は近似するとき、当該近似線を継続使用し、該近似線から前記空気圧が大きく外れる状態となるとき、新たな前記近似線を求め、以上の処理を繰り返し実行することにより、前記近似線を生成する
ことを特徴とする異常判定閾値設定システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の異常判定閾値設定システムにおいて、
前記設定手段は、推奨空気圧を含むように、上限異常判定閾値と下限異常判定閾値とを温度に関係なく予め設定する
ことを特徴とする異常判定閾値設定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−237629(P2012−237629A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106291(P2011−106291)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】