説明

異方性フェライト磁石及びモータ

【課題】コギングトルク及びトルクリップルを低減できる乾式成形による異方性フェライト磁石を提供する。
【解決手段】内周面及び内周面に対向する外周面を有し、断面が円弧状で、かつその径方向に磁気的な異方性を有する乾式成形による異方性フェライト磁石であって、内周面又は外周面の周方向の測定領域長を横軸、表面磁束密度Bdを縦軸としたBd分布グラフにおいて、内周面におけるBdの最大値、最小値を各々Bdi(max)、Bdi(min)、外周面におけるBdの最大値、最小値を各々Bdo(max)、Bdo(min)としたとき、Ro=Bdo(min)/Bdo(max)≧0.5、かつRi/Ro={Bdi(min)/Bdi(max)}/{Bdo(min)/Bdo(max)}<1.0の条件を満足することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式成形法を用いて製造され、円弧状で径方向に異方性を有するフェライト磁石及び当該フェライト磁石を用いたモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電製品や自動車の電装品などに用いられるモータには、高性能、かつ小型、軽量であることが求められている。このようなモータは直流モータであり、磁石としては、円弧状の異方性フェライト磁石が用いられている。これらのモータ用磁石は径方向が磁化容易軸となるように異方性化されている。これらの磁石には、内周面側の表面磁束密度Bdが大きく、しかも、内周面側の表面磁束密度Bdの分布が周方向において均一であることが要求される。内周面の周方向において表面磁束密度Bdの変動が大きいとコギングトルク、トルクリップルが大きくなり、良好なモータ特性が得られない。ここで、コギングトルクとは、モータの固定子と回転子との間に発生する磁気吸引力に基づくトルクの回転角に対する変化をいう。また、トルクリップルとは、トルクの変動幅をいう。
【0003】
円弧状の異方性フェライト磁石は、乾式成形または湿式成形を用いて製造される。湿式成形は、配向性は良好であるが、製造コストが高くなる。一方、乾式成形では、円弧状の異方性フェライト磁石の両端部において配向が乱れやすく、良好なモータ特性が得られにくい。
【0004】
このような乾式成形の問題点に対して、特許文献1は、円弧状で径方向に異方性を有するフェライト磁石を製造する際に、磁石両端部での配向の乱れを防ぐ手法を提案している。すなわち、特許文献1は、配向用強磁性体を設けた乾式成形装置を用いることにより、異方性方向が径方向に揃った成形体が得られる。このため、内周面側の表面磁束密度Bdが大きくかつその分布が均一な円弧状の異方性フェライト磁石が得られる。したがって、特許文献1の異方性フェライト磁石を用いたモータは、強力であり、しかもコギングトルクが小さいという特徴を有している。また、従来、磁石両端部での配向の乱れを原因として、焼結時に内周面の両端部付近にクラックが多発していたが、特許文献1では磁石両端部での配向の乱れが著しく少なくなるため、このようなクラックが激減する。
【0005】
【特許文献1】特許第2777693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、モータの特性を向上できる異方性フェライト磁石を提供することができるが、特性の向上の要求は継続される。
そこで本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、コギングトルク及びトルクリップルの低減がさらに図られた異方性フェライト磁石を提供することを目的とする。また、本発明はそのような異方性フェライト磁石を用いたモータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献1では円弧状を有し、径方向に異方性を有するフェライト磁石の内周面の表面磁束密度Bd分布に着目していた。しかるに、実際にモータとして組み立てた場合、磁石がケースや隣接する磁石等と磁気回路を形成するため、異方性を有するフェライト磁石の外周面の表面磁束密度Bd分布もモータ特性に影響を与えることが判明した。つまり、外周面の表面磁束密度Bd分布を均一とし、さらにその均一の度合いを内周面における表面磁束密度Bd分布よりも高くすることにより、コギングトルク及びトルクリップルを低減することができる。すなわち本発明の異方性フェライト磁石は、内周面及び内周面に対向する外周面を有し、断面が円弧状で、かつその径方向に磁気的な異方性を有する乾式成形による異方性フェライト磁石であって、内周面又は外周面の周方向の測定領域長を横軸、表面磁束密度Bdを縦軸としたBd分布グラフにおいて、
内周面におけるBdの最大値、最小値を各々Bdi(max)、Bdi(min)、
外周面におけるBdの最大値、最小値を各々Bdo(max)、Bdo(min)としたとき、
Ro=Bdo(min)/Bdo(max)≧0.5、かつ
Ri/Ro={Bdi(min)/Bdi(max)}/{Bdo(min)/Bdo(max)}<1.0の条件を満足することを特徴とする。
【0008】
本発明の異方性フェライト磁石において、Ri/Ro={Bdi(min)/Bdi(max)}/{Bdo(min)/Bdo(max)}≦0.9の条件、さらにはRi/Ro={Bdi(min)/Bdi(max)}/{Bdo(min)/Bdo(max)}≦0.8の条件を満足することが好ましい。
また、本発明の異方性フェライト磁石において、内周面のBd分布曲線と横軸とが囲む面積をAiとし、外周面のBd分布曲線と横軸とが囲む面積をAoとしたとき、Ai/Ao=0.95〜1.9の条件を満足することであることが好ましい。
さらにまた、本発明の異方性フェライト磁石において、Ri=Bdi(min)/Bdi(max)≧0.4の条件を満足することが好ましい。
【0009】
本発明の異方性フェライト磁石を用いたモータは、固定子と、固定子に対して回転可能な回転子と、固定子固着される異方性フェライト磁石と、を備え、異方性フェライト磁石は、内周面及び内周面に対向する外周面を有し、断面が円弧状で、かつその径方向に磁気的な異方性を有する乾式成形による異方性フェライト磁石であって、内周面又は外周面の周方向の測定領域長を横軸、表面磁束密度Bdを縦軸としたBd分布グラフにおいて、
内周面におけるBdの最大値、最小値を各々Bdi(max)、Bdi(min)、
外周面におけるBdの最大値、最小値を各々Bdo(max)、Bdo(min)としたとき、
Ro=Bdo(min)/Bdo(max)≧0.5、かつ
Ri/Ro={Bdi(min)/Bdi(max)}/{Bdo(min)/Bdo(max)}<1.0の条件を満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コギングトルク及びトルクリップルを低減できる異方性フェライト磁石を提供することができる。本発明の異方性フェライト磁石を用いることにより特性の優れたモータを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明による異方性フェライト磁石1は、図1に示すように、断面が円弧状であり、その径方向に異方性(矢印で示す)を有している。この異方性フェライト磁石1は、内周面2及び外周面3を有しており、いわゆる異方性セグメント磁石と称されることがある。この異方性フェライト磁石1は、乾式成形法を用いて製造される。この成形法については後述する。
【0012】
本発明の磁石は、外周面3の周方向における表面磁束密度Bd分布(以下、単にBd又はBd分布と言うことがある)に特徴を有し、また、内周面2の周方向におけるBd分布及び外周面3の周方向におけるBd分布の関係にも特徴を有している。
内周面2及び外周面3の周方向のBd分布は、図2及び図3に示す手順で測定する。まず、磁性のケース4に組み込んだ異方性フェライト磁石1を、図2に示す内面着磁ヨーク5を使用して所定の方法で着磁する。Bd測定に際しては、図3に示すように、着磁した異方性フェライト磁石1の内周面2付近にホール素子6を配置する。このときのホール素子6は、内周面2の高さ方向(図3の上下方向)中央部に位置させて、周面に接触させるか、できるだけ接近させて配置する。そして、異方性フェライト磁石1を周方向に回転させることにより、周面の周方向の一端Aから他端BにかけてのBd分布を測定することができる。なお、ホール素子6と周面との距離が変動しないように、異方性フェライト磁石1の回転を行なう。なお、図3は内周面2についての測定を示しているが、外周面3についても同様に測定する。
【0013】
以上のようにして測定されたBd分布を、横軸を測定領域長(一端Aから他端Bまでのホール素子6の軌跡)、縦軸をBdとしたBd分布グラフにプロットし、図4に示すようなBd分布曲線を得る。Bd分布曲線は、内周面2におけるBd分布曲線及び外周面3におけるBd分布曲線の2つのBd分布曲線を得ることができる。
【0014】
図4において、内周面2におけるBdの最大値、最小値を各々Bdi(max)、Bdi(min)、外周面3におけるBdの最大値、最小値を各々Bdo(max)、Bdo(min)とする。なお、内周面2と外周面3とは極性が逆になるが、Bdi(max)、Bdi(min)、Bdo(max)及びBdo(min)は、その絶対値で特定されるものとする。
以上において、本発明による異方性フェライト磁石1は、Ro=Bdo(min)/Bdo(max)≧0.5の条件を満足する。この、Ro=Bdo(min)/Bdo(max)…(1)で得られる値は、外周面3におけるBdの均一性を表している。つまり、この式(1)で得られる値が大きいほど外周面3におけるBdが均一であることを示している。本発明による異方性フェライト磁石1は、このRoが0.5以上である。Roは、極めて理想的には1.0であるが、そのような値を得ることは容易ではない。他の本発明による条件を具備することを考慮すると、Roは0.75程度が上限になる。
【0015】
また、本発明による異方性フェライト磁石1は、Ri/Ro={Bdi(min)/Bdi(max)}/{Bdo(min)/Bdo(max)}<1.0の条件を満足することを特徴とする。Ri/Ro={Bdi(min)/Bdi(max)}/{Bdo(min)/Bdo(max)}…(2)は、内周面2におけるBdの均一性(Ri)と外周面3におけるBdの均一性(Ro)の比である。したがって、式(2)で得られる値が1.0未満の場合には、内周面2よりも外周面3のBdがより均一な分布を示すことになる。後述する実施例からも明らかなように、従来は、内周面2のBd分布の均一性を専ら配慮していたため、Ri/Roは1.0以上となっていた。本発明によるRi/Roは、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下である。ただし、Ri/Roが小さいということは、Ri自体が小さいことをも意味しているから、Ri/Roは0.5以上、さらには0.6以上とすることが好ましい。
【0016】
本発明の異方性フェライト磁石1では、内周面2のBd分布曲線と横軸とが囲む面積をAiとし、外周面3のBd分布曲線と横軸とが囲む面積をAoとしたとき、Ai/Ao=0.95〜1.9、好ましくはAi/Ao=1.0〜1.5である。Ai/Aoが小さすぎる異方性フェライト磁石1は内周面2側の磁気特性が不足する。一方、1.9を超えるAi/Aoを得ようとすると、成形体の内周面2と外周面3とで密度差を著しく大きくしなければならない。このため、焼成時にクラックが多発し、成形が不可能となることもある。さらに好ましいAi/Aoは、1.0〜1.3である。
また、本発明では、Bd分布グラフにおいて、内周面2におけるBdが均一であることが好ましく、Ri=Bdi(min)/Bdi(max)≧0.4とすることが好ましい。Riは、Roと同様に、極めて理想的には1.0であるが、そのような値を得ることは容易ではない。他の本発明による条件を具備することを考慮すると、Riは0.75程度が上限になる。
【0017】
本発明が適用される異方性フェライト磁石1に材質的な制限はない。この中では、MO・6Fe又はMFe1219(M=Ba及びSrの1種又は2種)の一般式で示されるM型(マグネトプランバイト型)フェライトを主相とする異方性フェライト磁石に適用するのが好適である。このM型フェライトについては、Mの一部を希土類元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)で置換することができる。また、Feの一部をCo及びNiの1種または2種で置換することができる。
【0018】
本発明による異方性フェライト磁石1を得るためには、特徴のある磁場中成形装置を用いることが重要である。以下、この乾式磁場中成形装置20について説明する。
図5は、乾式磁場中成形装置20の要部断面図である。乾式磁場中成形装置20は、ダイ21、上部パンチ22、下部パンチ23、ダイ21と下部パンチ23から構成されるキャビティ24、コイル25を有する。乾式磁場中成形装置20は、上部パンチ22及び下部パンチ23のキャビティ24側に硬質非磁性部22a、23aを備えている。
【0019】
上部パンチ22は異方性フェライト磁石1の外周面3を形成する。したがって、上部パンチ22の硬質非磁性部22aの成形面22sの形状は凹状をなしている。またこの上部パンチ22は、非磁性体から構成される。よって、硬質非磁性部22aを含めて、上部パンチ22は全体が非磁性体から構成される。
また、下部パンチ23は異方性フェライト磁石1の内周面2を形成する。したがって、下部パンチ23の硬質非磁性部23aの成形面23sの形状は凸状をなしている。この下部パンチ23は、成形面を構成する硬質非磁性部23aを除き磁性体から構成される。
【0020】
上部パンチ22を非磁性体から構成することによりで、コイル25による磁界印加時には、下部パンチ23から放射状の磁界がキャビティ24内に印加される。つまり、異方性フェライト磁石1の配向が外周面3に集束したり、あるいは部分的な配向方向の偏り等が起きたりせず、径方向に均一に異方性化することができる。
【0021】
上部パンチ22を構成する非磁性体の材質は特に限定されず、例えば、ステンレス鋼、銅ベリリウム合金、ハイマンガン鋼、青銅、真鍮、非磁性超鋼等を用いることができ、2種以上の材質を組み合わせても良い。
【0022】
一方、下部パンチ23を構成する磁性体の材質は特に限定されず、一般に用いられるものであればよく、例えば炭素鋼、炭素工具鋼、合金工具鋼、ダイス鋼等が用いられる。
上部パンチ22、下部パンチ23の硬質非磁性部22a、23aとしては、Co基の硬質合金であるステライトを用いるのが最も好ましいが、非磁性で耐磨耗性材料であれば何でもよく、例えば非磁性超鋼等を用いることができる。
【0023】
ダイ21の材質は非磁性体であればよく、上部パンチ22と同様の材質を用いることができる。また、キャビティ24を構成するダイ21の内壁面にも非磁性超鋼、ステライト等の耐磨耗材を設けることができる。
【0024】
キャビティ24は、ダイ21の上下方向に貫通するダイホール21aの空間のうち内嵌した下部パンチ23が占める部分を除いた空間である。そして、成形されるフェライト粉末がキャビティ24へ充填され、上部パンチ22がキャビティ24に進入することにより、下部パンチ23と協働してフェライト粉末を加圧成形するものである。
【0025】
乾式磁場中成形装置20は、上部パンチ22の上方に上部パンチ22の成形面22sの円弧に概略沿った形状の下面27sを有する磁性体治具27を装着している。この下面27sの曲率半径r1は、成形完了直前に上部パンチ22が位置したときに、上部パンチ22の成形面22sの円弧と同心円となるような形状としたときの曲率半径r2よりも大きく設定されている。つまり、成形完了直前に上部パンチ22が位置したときに、上部パンチ22の成形面22sの円弧と磁性体冶具27の下面27sの円弧とは同心円とはならず、磁性体冶具27の下面27sの円弧の中心は成形面22sの円弧の中心よりも下部パンチ23側に位置する。非磁性体からなる上部パンチ22側に磁性体治具27を設けることで、コイル25によりキャビティ24内に印加される磁界強度が高まる。また、磁性体治具27の下面27sの形状を上部パンチ22の成形面22sに概略沿った構成とすることで、径方向の配向をしやすくする。この磁性体治具27の下面27sの面積は、得られる異方性フェライト磁石1の端部配向に偏りを与えない程度に大きめにすればよい。さらに、乾式磁場中成形装置20は、曲率半径r1を曲率半径r2よりも大きくすることで、r1=r2としたときよりも磁性体治具27の幅方向中央部の肉厚を厚くしている。したがって、異方性フェライト磁石1の幅方向中央部に磁束をある程度集束させることができる。そうすることにより、一般的にはBdが低下する異方性フェライト磁石1の外周面3の幅方向中央部のBdを大きくし、異方性フェライト磁石1の外周面3におけるBd分布の均一性を向上することができる。また、磁性体治具27の材質としては通常の磁性体であればよく、例えば炭素鋼、炭素工具鋼、合金工具鋼、ダイス鋼等が用いられる。
【0026】
以上の乾式磁場中成形装置20の基本的な構成は、特許文献2に記載されている。ただし、特許文献2の図2に記載されている乾式磁場中成形装置20は、下面27sの曲率半径r1が成形完了直前に上部パンチ22が位置したときに、上部パンチ22の成形面22sの円弧と同心円(曲率半径r2)になるように設定されており(r1=r2)、この点で乾式磁場中成形装置20は特許文献2の図2と相違している。
【0027】
【特許文献2】特開平10−270276号公報
【実施例】
【0028】
図5に示される構成の乾式磁場中成形装置20を用いて、成形体を作製した。この磁場中成形装置20は、以下の仕様を有している。
上部パンチ22の成形面22sの曲率半径:16.4mm
下部パンチ23の成形面23sの曲率半径:11.1mm
キャビティ24の幅:26.93mm
キャビティ24の長さ(奥行き):24.56mm
磁性体治具27の下面27sの曲率半径:実施例1=73mm、実施例2=71mm、比較例3=66mm
【0029】
この乾式磁場中成形装置20の成形空間内に、異方性フェライト磁石の原料粉末を充填し、磁場中で加圧成形して、径方向に異方性を有する円弧状の成形体を得た。なお、原料粉末の組成、成形圧力、印加した磁場強度は以下の通りである。
原料粉末組成:Sr0.95La0.05Co0.03Fe11.9719
成形圧力(総圧):2.5ton
磁場強度:6kOe(480kA/m)
次いで、成形体を焼結し、円弧状の異方性フェライト磁石とした。得られた異方性フェライト磁石の寸法は、外周面の曲率半径が13.25mm、内周面の曲率半径が8.9mm、径方向を含む断面における幅が22.6mm、長さが21.2mmであった。
【0030】
比較のために、以下の磁場中成形方法による成形体を用いた以外は上記と同様の異方性フェライト磁石を作製した。
比較例1:特許文献1の図4に示す磁場中成形装置から、配向用磁性体61及び62を除いた形態の磁場中成形装置を用いた。
比較例2:特許文献1の図4に示す形態の磁場中成形装置を用いた。
比較例3:特許文献2の図2に示す形態の磁場中成形装置を用いた。
なお、特許文献2の図2に記載されている乾式磁場中成形装置20では、上述した通り、下面27sの曲率半径r1が成形完了直前に上部パンチ22が位置したときに、上部パンチ22の成形面22sの円弧と同心円(曲率半径r2)になるように設定されており(r1=r2)、r1=r2=66mmである。
【0031】
以上で得られた実施例1、2及び比較例1〜3の異方性フェライト磁石について前述した方法により、Bdを測定した。
図6〜図10に、実施例1、2及び比較例1〜3の異方性フェライト磁石の内周面及び外周面のBd分布曲線を示す。また、各Bd分布曲線から、Bdi(max)、Bdi(min)、Bdo(max)、Bdo(min)、Ai、Aoを求めた。求めた各値から、Ri、Ro、Ri/Ro及びAi/Aoを求めた。その結果を表1に示す。
また、得られた異方性フェライト磁石をモータに組み込んで、コギングトルク及びトルクリップルを測定した。このモータは、固定子と、固定子に対して回転可能な回転子とを備え、固定子に異方性フェライト磁石を固着させた公知の構成を有するものである。その結果を表1に示す。
さらに、このモータを用いて、外部駆動によりロータを回転させたときの起電力Ecを測定した。その結果を表1に示す。Ecはモータ特性の一指標で、値が大きいほど大きな出力を得ることができる。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すように、実施例1、2による異方性フェライト磁石と比較例1〜3の異方性フェライト磁石を比較すると、実施例1、2による異方性フェライト磁石はRoが0.5以上となっており、Roが0.5未満の比較例1〜3の異方性フェライト磁石よりも、外周面のBd分布が均一になっている。また、実施例1、2による異方性フェライト磁石はRi/Roが1.0未満となっており、Ri/Roが1.0以上の比較例1〜3の異方性フェライト磁石よりも、外周面のBd分布が、内周面のBd分布よりも均一の度合いが高い。
そして、Ri/Roが低くなるほどコギングトルク及びトルクリップルが低減されており、Ri/Roが1.0未満である実施例1、2による異方性フェライト磁石を用いたモータは、回転及び出力の均一性を確保することができる。
【0034】
さらに、実施例1、2は、コギングトルク及びトルクリップルが低減されているとともに、起電力Ecも比較例1に対して向上しているが、このようにコギングトルク、トルクリップルとともに起電力Ecを向上できることは、本発明がモータの特性向上にとって極めて有効な技術であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による異方性フェライト磁石の斜視図である。
【図2】異方性フェライト磁石の内周面及び外周面における表面磁束密度Bdの測定のための着磁方法を示す図である。
【図3】異方性フェライト磁石の内周面及び外周面における表面磁束密度Bdの測定方法を示す図である。
【図4】異方性フェライト磁石の内周面及び外周面における表面磁束密度Bd分布曲線を示すグラフである。
【図5】本発明に用いる磁場中成形装置の概略構成を示す断面図である。
【図6】実施例1による異方性フェライト磁石の表面磁束密度Bd分布曲線を示すグラフである。
【図7】実施例2による異方性フェライト磁石の表面磁束密度Bd分布曲線を示すグラフである。
【図8】比較例1による異方性フェライト磁石の表面磁束密度Bd分布曲線を示すグラフである。
【図9】比較例2による異方性フェライト磁石の表面磁束密度Bd分布曲線を示すグラフである。
【図10】比較例3による異方性フェライト磁石の表面磁束密度Bd分布曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
1…異方性フェライト磁石、2…内周面、3…外周面、4…ケース、5…内面着磁ヨーク、6…ホール素子、20…乾式磁場中成形装置、21…ダイ、22…上部パンチ、22a…硬質非磁性部、23…下部パンチ、23a…硬質非磁性部、24…キャビティ、25…コイル、27…磁性体治具、27s…下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面及び前記内周面に対向する外周面を有し、断面が円弧状で、かつその径方向に磁気的な異方性を有する乾式成形による異方性フェライト磁石であって、
前記内周面又は前記外周面の周方向の測定領域長を横軸、表面磁束密度Bdを縦軸としたBd分布グラフにおいて、
前記内周面における前記Bdの最大値、最小値を各々Bdi(max)、Bdi(min)、
前記外周面における前記Bdの最大値、最小値を各々Bdo(max)、Bdo(min)としたとき、
Ro≧0.5、かつ
Ri/Ro<1.0の条件を満足することを特徴とする異方性フェライト磁石。
但し、Ro=Bdo(min)/Bdo(max)、
Ri=Bdi(min)/Bdi(max)
【請求項2】
Ri/Ro≦0.9の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の異方性フェライト磁石。
【請求項3】
Ri/Ro≦0.8の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の異方性フェライト磁石。
【請求項4】
前記内周面のBd分布曲線と横軸とが囲む面積をAiとし、前記外周面のBd分布曲線と横軸とが囲む面積をAoとしたとき、Ai/Ao=0.95〜1.9の条件を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の異方性フェライト磁石。
【請求項5】
Ai/Ao=1.0〜1.5の条件を満足することを特徴とする請求項4に記載の異方性フェライト磁石。
【請求項6】
Ai/Ao=1.0〜1.3の条件を満足することを特徴とする請求項4に記載の異方性フェライト磁石。
【請求項7】
Ro≦0.75の条件を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の異方性フェライト磁石。
【請求項8】
0.5≦Ri/Roの条件を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の異方性フェライト磁石。
【請求項9】
0.6≦Ri/Roの条件を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の異方性フェライト磁石。
【請求項10】
Ri≧0.4の条件を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の異方性フェライト磁石。
【請求項11】
Ri≦0.75の条件を満足することを特徴とする請求項10に記載の異方性フェライト磁石。
【請求項12】
前記異方性フェライト磁石は、Sr、La、Co、Feを含むマグネトプランバイト型フェライトを主相とすることを特徴とする請求項1に記載の異方性フェライト磁石。
【請求項13】
固定子と、
前記固定子に対して回転可能な回転子と、
前記固定子に固着される異方性フェライト磁石と、を備え、
前記異方性フェライト磁石は、
内周面及び前記内周面に対向する外周面を有し、断面が円弧状で、かつその径方向に磁気的な異方性を有する乾式成形によるフェライト磁石であって、
前記内周面又は前記外周面の周方向の測定領域長を横軸、表面磁束密度Bdを縦軸としたBd分布グラフにおいて、
前記内周面における前記Bdの最大値、最小値を各々Bdi(max)、Bdi(min)、
前記外周面における前記Bdの最大値、最小値を各々Bdo(max)、Bdo(min)としたとき、
Ro≧0.5、かつ
Ri/Ro<1.0の条件を満足することを特徴とするモータ。
但し、Ro=Bdo(min)/Bdo(max)、
Ri=Bdi(min)/Bdi(max)
【請求項14】
前記異方性フェライト磁石が、
Ro≦0.75、
0.5≦Ri/Ro≦0.9の条件を満足することを特徴とする請求項13に記載のモータ。
【請求項15】
前記異方性フェライト磁石が、
0.4≦Riの条件を満足することを特徴とする請求項14に記載のモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−281437(P2007−281437A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61259(P2007−61259)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】