説明

異方性導電材除去方法および異方性導電材除去装置

【課題】有機溶剤を用いることなく、短時間で簡単かつ確実に異方性導電材の残留物の除去を行うことのできる異方性導電材除去方法および異方性導電材除去装置を提供する。
【解決手段】異方性導電材除去装置1は、液体を浸すことのできる繊維により布状に形成された除去部材4と、除去部材4を液体により浸潤状態とするために除去部材4に水系液体Lを供給するノズル8と、浸潤状態の除去部材4を介して残留物3の端部に当接される加熱可能な加熱治具7とを設ける。異方性導電材除去方法は、繊維により布状に形成された除去部材4に水系液体Lを浸し、浸潤状態の除去部材4を加熱された加熱治具7を介して残留物3の端部に当接させて残留物4を回路基板2から剥がす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板に異方性導電材を介して電子部品が接続されている実装基板のリペア時に、電子部品を取り外した後に回路基板上に残存する異方性導電材の残留物を除去するのに好適な異方性導電材除去方法および異方性導電材除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子部品の部品間の電気的な接続を異方性導電材により行う技術が知られている。例えば、回路基板の電極と、半導体、LED、抵抗、コンデンサなどのチップ化されたチップ部品の電極との接続を行うチップ部品の実装や、回路基板の電極と他の回路基板の電極との電気的な接続に異方性導電材が用いられている。
【0003】
具体的には、液晶パネル、ELパネル、プラズマパネルなどの各種の光学パネルにおける回路基板たるパネルへの半導体チップ(駆動ドライバ)などのチップ部品を直接接続するCOG(Chip On Glass)実装や、パネルの電極たる接続端子と、TCP(Tape Carrier Package)、FPC(Flexible Printed Circuit)、COF(Cip On Film)などの各種の回路基板としての可撓配線板の電極たる接続端子との電気的な接続などに異方性導電材が多用されている。また、COFなどの可撓配線板においても、回路基板にチップ部品を実装する際に異方性導電材が多用されている。
【0004】
異方性導電材としては、異方性導電膜(ACF:Anisotropic Conductive Film)が一般的に用いられており、設計コンセプトなどの必要に応じて異方性導電ペーストが用いられている。このような異方性導電材は、絶縁性を具備する接着剤と導電粒子とにより構成されており、接着剤としては、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などを挙げることができる。そして、異方性導電材に用いる導電粒子としては、ニッケル、銅などの金属粒子あるいは樹脂ビーズにニッケル、金などの金属を被覆した粒子などを挙げることができる。異方性導電材は、絶縁性を有する接着剤中に導電粒子が分散され、厚み方向(接続方向)に導電性を有し、面方向(水平方向)に絶縁性を有するものである。異方性導電材による接続は基本的には加熱圧着であり、導電粒子が電気的な接続の機能を分担し、接着剤が圧接状態を保持する機能を分担するようになっている。
【0005】
ところで、光学パネルなどにおいて、チップ部品や可撓配線板の光学パネルへの接続後に表示不良が発生した場合は、チップ部品や可撓配線板を交換(リペア)する必要がある。このリペアは、チップ部品や可撓配線板を光学パネルから剥がした後に、光学パネルに残存し、硬化した異方性導電材を除去したうえで、再度新しい異方性導電材を用いて新たなチップ部品や可撓配線板を実装するようにされている。
【0006】
このようなリペア時における異方性導電材の残留物を除去する異方性導電材除去は、例えば、残留物に有機溶剤を塗布して残留物を膨潤させて軟化させた後、軟化させた残留物を綿棒やへらなどで擦り取っている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平10−153789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の異方性導電材除去方法においては、有機溶剤による異方性導電材の残留物の膨潤に時間を要するとともに、時間が短いと膨潤不足になり、時間が長いと有機溶剤が揮発して乾燥するので、残留物の膨潤までに要する時間の管理が困難であるという問題点があった。
【0009】
なお、残留物の膨潤が不足した状態で除去作業を行った場合には、他の部材、例えば回路基板に形成されている接続端子を損傷させてしまう危険性が大きいという問題点もあった。
【0010】
また、有機溶剤がリペア部以外に広がって、例えば液晶パネルにおける偏光膜や半導体チップやリペア部以外の異方性導電材などに付着して悪影響を及ぼすという問題点もあった。
【0011】
さらに、有機溶剤を用いることにより、環境汚染を起こさないための廃液処理上の管理を必要とするという問題点もあった。
【0012】
そこで、有機溶剤を用いることなく、短時間で簡単かつ確実に異方性導電材の残留物の除去を行うことのできる異方性導電材除去方法および異方性導電材除去装置が求められている。
【0013】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、有機溶剤を用いることなく、短時間で簡単かつ確実に異方性導電材の残留物の除去を行うことのできる異方性導電材除去方法および異方性導電材除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するため、本発明に係る異方性導電材除去方法の特徴は、回路基板に異方性導電材を介して電子部品が接続されている実装基板のリペア時に、前記電子部品を取り外し、その後前記回路基板上に残存する異方性導電材の残留物を除去する異方性導電材除去方法において、繊維により布状に形成された除去部材に水系液体を浸し、該浸潤状態の除去部材を加熱された加熱治具を介して前記残留物の端部に当接させて前記残留物を前記回路基板から剥がす点にある。
【0015】
ここで、水系液体とは、水のみ、または、水と界面活性剤との混合溶液(主溶媒は水とし、好ましくは90%以上を水とする)を意味する。
【0016】
また、混合する界面活性剤の種類としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系ともに採用可能であるが、他の部材への影響を少なくするためにノニオン系の界面活性剤が好ましい。
【0017】
本発明の異方性導電材除去方法においては、前記除去部材が走行可能な長尺状に形成されていることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る異方性導電材除去装置の特徴は、回路基板に異方性導電材を介して電子部品が接続されている実装基板のリペア時に、前記電子部品を取り外し、その後前記回路基板上に残存する異方性導電材の残留物を除去する異方性導電材除去装置において、液体を浸すことのできる繊維により布状に形成された除去部材と、該除去部材を液体により浸潤状態とするために前記除去部材に水系液体を供給するノズルと、前記浸潤状態の除去部材を介して前記残留物の端部に当接される加熱可能な加熱治具とを有している点にある。
【0019】
本発明の異方性導電材除去装置においては、前記除去部材が走行可能な長尺状に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る異方性導電材除去方法および異方性導電材除去装置によれば、有機溶剤を用いることなく、短時間で簡単かつ確実に回路基板からの異方性導電材の残留物の除去を行うことができるなどの極めて優れた効果を奏する。また、本発明の異方性導電材除去装置によれば、本発明に係る異方性導電材除去方法を確実かつ容易に実施することができるなどの極めて優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を図面に示す実施形態により説明する。
【0022】
図1は本発明に係る異方性導電材除去方法に用いる異方性導電材除去装置の実施形態の除去状態における要部を示す模式図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の異方性導電材除去装置1は、回路基板2上に残存する異方性導電材の残留物3の上方に配置される除去部材4を有している。この除去部材4は、液体を浸すことのできる繊維、例えば、ポリエステル繊維により布状に形成されている。また、除去部材4は長尺状に形成されて一対の回転自在なリール5、6間に巻回されている。これらのリール5、6は、図1右側に示す一方が除去部材4を送り出す送出リール5とされ、図1左側に示す他方が除去部材4を巻き取る巻取りリール6とされている。また、各リール5、6は、図1に示す除去状態において、各部の動作を制御するCPU、メモリなどを具備する制御部からの制御指令に基づいて駆動される図示しない走行機構によって、所定のタイミング、かつ、所定の速度で、除去部材4を矢印Aにて示すように、送出リール5から巻き取りリール6に向かって走行させることができるように形成されている。
【0024】
前記除去部材4の走行経路の上方には、加熱治具7が配設されている。この加熱治具7は、200℃程度に加熱自在な先端部7aが除去部材4の走行経路に上方から臨むようにして配置されている。また、加熱治具7は、図示しないロボットや移動手段などにより、上下および左右の各方向へ移動自在に形成されており、図1に示す除去状態においては、回路基板2に向かって下降して除去部材4を介して残留物3の端部に当接され、その後、図1の矢印Bに示すように、左方へ水平移動するように形成されている。
【0025】
なお、加熱治具7の先端部7aの加熱温度は、異方性導電材の組成や特性などに応じて設定すればよい。
【0026】
前記除去部材4の走行経路の加熱治具7の配設位置よりも上流側、すなわち送出リール5側には、ノズル8がその先端を除去部材4に向けて配設されている。このノズル8には水系液体としての純水Lが供給されるようになっており、制御部からの制御指令に基づいて、除去部材4の加熱治具7の先端部7aが当接される部位の近傍における上流側に純水Lを噴射して供給することができるように形成されている。
【0027】
つぎに、前述した構成からなる本実施形態の作用について、本実施形態の異方性導電材除去方法とともに説明する。
【0028】
本実施形態の異方性導電材除去方法は、前述した本実施形態の異方性導電材除去装置1を用いて実施する。
【0029】
すなわち、本実施形態の異方性導電材除去方法は、図示しないテーブルに残留物3を上方に向けて回路基板2を載置し、回路基板2の下面を固定して開始する。
【0030】
本実施形態の異方性導電材除去方法が開始されると、ノズル8から純水Lを除去部材4に噴射して除去部材4を浸潤状態とする。
【0031】
ついで、先端部7aを200℃程度に加熱した加熱治具7を降下させて、あるいは降下させた後に矢印B方向に移動させて、湿潤状態の除去部材4を加熱治具7の加熱された先端部7aを介して残留物3の端部に当接する。
【0032】
この時、加熱された純水(水分)は、水蒸気となって当接部位から残留物3に吸水されるとともに、残留物3と回路基板2との接続界面に浸透し接続界面を加水分解して破壊すると推測している。また、残留物3に吸水された水分は、有機溶剤と異なり残留物3から抜けることがないので、結果として有機溶剤を使用した場合に比べて接続界面の剥離を短時間で発生させることができる。さらに、残留物3に吸水された水分が残留物3から抜けることがないので、従来の有機溶剤を用いる構成とは異なり、残留物3の吸水時間を管理すればよいので、時間管理を容易に行うことができる。さらにまた、加熱治具7を用いることにより、加熱治具7の先端部7aのサイズに応じて残留物3の除去を局部的に行うことができるので、リペア部以外の個所に熱の影響が及ぶのを防止することができる。また、純水Lを用いることにより、廃液処理や、作業者に対する安全衛生上の管理を容易に行うことができる。
【0033】
ついで、加熱治具7を矢印B方向に移動させると、残留物3と回路基板2との接続界面に水分が順次供給され、加熱治具7の移動にともなって加熱治具7の移動方向に沿って回路基板2から残留物3が順次剥離する。
【0034】
この時、接続界面に存在する水分は、残留物3を加熱治具7の先端部7aにより回路基板2から引き剥がす際の潤滑膜となるので、残留物3の接続界面からの剥離を容易に行うことができる。
【0035】
また、加熱治具7を矢印B方向に移動させる際に、除去部材4が加熱治具7の先端部7aと回路基板2との間に緩衝材とし介在するので、回路基板2の表面や、回路基板2上に設けられた端子などが損傷するのを防止することができる。
【0036】
さらに、加熱治具7を矢印B方向に移動させる際に、加熱治具7の移動速度よりも高速で除去部材4を巻き取ることで、除去した残留物3を除去部材4の織り目に噛み込ませて付着させることができる。その結果、残留物3を除去部材4に付着させて回収することができるので、回路基板2から剥離した残留物3が周囲に飛散して回路基板2に再付着するのを防止することができる。
【0037】
ついで、加熱治具7の先端部7aが残留物3を越えると、加熱治具7の移動、ノズル8から噴出される純水Lの除去部材4への供給、および、除去部材4の走行を停止し、回路基板2からの残留物3の除去が完了する。
【0038】
ついで、回路基板2からの残留物3の除去が完了すると、加熱治具7は待機位置に復帰する。
【0039】
なお、回路基板2からの残留物3の除去が一行程で完了しない場合には、上記の行程を繰り返す。
【0040】
また、本実施形態の異方性導電材除去方法は、人手により行うこともできる。この場合、例えば、端切れ状の除去部材4を純水Lに浸して湿潤状態としたものを残留物3の端面を含むように回路基板2上に載置し、一方の手ではんだごてのような加熱治具7の加熱した先端部7aを残留物3の端面に除去部材4を介して押しつけるとともに、残留物3の回路基板2からの剥離にともなって、他方の手で除去部材4を加熱治具7の先端部7aの押しつけ方向に沿って同一方向に移動させるようにするとよい。
【0041】
このように、本実施形態の異方性導電材除去方法によれば、繊維により布状に形成された除去部材4に純水Lを浸し、浸潤状態の除去部材4を加熱治具7の加熱された先端部7aを介して残留物3の端部に当接させて残留物3を回路基板2から剥がす構成とされているので、有機溶剤を用いることなく、短時間で簡単かつ確実に異方性導電材の残留物3の除去を行うことができる。
【0042】
また、本実施形態の異方性導電材除去方法によれば、除去部材4が走行可能な長尺状に形成されているので、常に除去部材4の新鮮な部分を残留物3の除去に用いることができる。その結果、回路基板2から除去した残留物3を除去部材4により確実に付着させて回収することができる。
【0043】
また、本実施形態の異方性導電材除去装置1によれば、液体を浸すことのできる繊維により布状に形成された除去部材4と、除去部材4を純水Lにより浸潤状態とするために除去部材4に純水Lを供給するノズル8と、浸潤状態の除去部材4を介して残留物3の端部に当接される加熱可能な先端部7aを具備する加熱治具7とを有しているので、本発明の異方性導電材除去方法、すなわち、回路基板2に異方性導電材を介して電子部品が接続されている実装基板のリペア時に、電子部品を取り外した後に回路基板2上に残存する異方性導電材の残留物3を除去する異方性導電材除去方法において、繊維により布状に形成された除去部材4に純水Lを浸し、浸潤状態の除去部材4を加熱治具7の加熱された先端部7aを介して残留物3の端部に当接させて残留物3を回路基板2から剥がす異方性導電材除去方法を簡便な工程で容易に実施することができる。この時、除去部材4として走行可能な長尺状に形成されているものを用いることにより、常に除去部材4の新鮮な部分を残留物3の除去に用いることができる。その結果、回路基板2から除去した残留物3を除去部材4により確実に付着させて回収することができる。
【0044】
つまり、本実施形態の異方性導電材除去装置1によれば、本発明に係る異方性導電材除去方法を確実かつ容易に実施することができる。
【0045】
本発明は、回路基板に異方性導電材を介して電子部品(他の回路部品を含む)が接続されている各種の実装基板のリペアに用いることができる。
【0046】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。例えば、除去部材4に供給する水に微量のノニオン系界面活性剤を混入してもよい。界面活性剤を加えることで、接続界面に水分がより浸入しやすくなり異方性導電材の剥離を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る異方性導電材除去方法に用いる異方性導電材除去装置の実施形態の除去状態における要部を示す模式図
【符号の説明】
【0048】
1 異方性導電材除去装置
2 回路基板
3(異方性導電材の)残留物
4 除去部材
7 加熱治具
7a 先端部
8 ノズル
L 純水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板に異方性導電材を介して電子部品が接続されている実装基板のリペア時に、前記電子部品を取り外し、その後前記回路基板上に残存する異方性導電材の残留物を除去する異方性導電材除去方法において、
繊維により布状に形成された除去部材に水系液体を浸し、該浸潤状態の除去部材を加熱された加熱治具を介して前記残留物の端部に当接させて前記残留物を前記回路基板から剥がすことを特徴とする異方性導電材除去方法。
【請求項2】
前記除去部材が走行可能な長尺状に形成されている請求項1に記載の異方性導電材除去方法。
【請求項3】
回路基板に異方性導電材を介して電子部品が接続されている実装基板のリペア時に、前記電子部品を取り外し、その後前記回路基板上に残存する異方性導電材の残留物を除去する異方性導電材除去装置において、
液体を浸すことのできる繊維により布状に形成された除去部材と、該除去部材を液体により浸潤状態とするために前記除去部材に水系液体を供給するノズルと、前記浸潤状態の除去部材を介して前記残留物の端部に当接される加熱可能な加熱治具とを有していることを特徴とする異方性導電材除去装置。
【請求項4】
前記除去部材が走行可能な長尺状に形成されている請求項3に記載の異方性導電材除去装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−96065(P2007−96065A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284679(P2005−284679)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】