説明

異材接合方法及び装置

【課題】異種金属同士を摩擦攪拌接合により接合する方法において、主として軟質材により形成される接合部の強度を高く維持することができる異材接合方法及び装置を提供する。
【解決手段】金属製の硬質板材2と、該硬質板材2より硬度の低い異種金属材料からなる軟質板材1とを突き合わせ、該突き合わせ部5の軟質板材1側に回転工具10のピン12を挿入し、該回転工具のショルダ11で板面を押圧した状態にてショルダ11とピン12を回転させながら移動させ、回転の摩擦熱により軟質板材1を塑性流動させて板材同士を接合する異材接合方法において、前記突き合わせ部5に、軟質板材1が硬質板材2より肉厚が大となる段差3を設けて、ショルダ11と硬質板材2との間に隙間が形成されるようにし、回転工具10の回転により軟化流動した軟質材4が隙間に浸入するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の硬質板材と、該硬質板材より硬度の低い異種金属材料からなる軟質板材とを摩擦撹拌接合により接合する異材接合方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばアルミニウム合金とステンレス材のように、異種金属同士を接合する方法としては、従来よりアーク溶接、レーザ溶接、抵抗溶接等の溶融溶接が多く用いられていた。しかし、溶融溶接による異種金属接合方法は、異種金属間の接合面に脆弱な金属間化合物が形成されたり溶接部でブローホールが発生したりするため、接合強度が低下するという問題があった。
そこで、接合強度を低下させずに異種金属同士を接合する方法として、摩擦接合方法により接合する方法が提案、実用化されている。
【0003】
摩擦攪拌接合による固相接合方法は公知であり、かかる接合方法は、被加工物より実質的に硬い材質からなる回転工具の回転ピンを被加工物の突き合わせ部に挿入し、回転工具を回転させながら移動することにより、回転ピンと被加工物との間に生じる摩擦熱による塑性流動によって被加工物を接合する接合方法で、回転ピンと接合部材との摩擦熱による金属の塑性流動を利用した固相接合のため、接合部を溶融させることなく接合でき、接合後の変形が少ない。接合部は溶融されないため、欠陥が少ないなどの多くの利点がある。
この摩擦攪拌接合は従来、主に同種材料の接合に用いられていたが、接合強度を高く維持でき、接合部材の高品質化が可能であることから、近年、異種材料の接合に適用する試みがなされている。
【0004】
しかしながら、異種材料間では、両材料の物性が大きく異なることから未接合部が発生する可能性があり、機械的特性の高い継手が得難いという問題があった。即ち、異種金属同士が混合することにより脆弱な金属化合物を形成し、これにより接合強度が低下し、接合部材の品質を確保することができなかった。
そこで、特許文献1(特開2004−255420号公報)には、図8に示すように、軟質材61と硬質材62を摩擦攪拌接合により接合する方法において、回転工具50のピン52を、軟質材61と硬質材62の突き合わせ線に対して硬質材62側に0.05mm以上入り込み、大部分を軟質材61側に配置して摩擦攪拌接合を行なう方法が開示されている。硬質材62側に僅かに入り込んだピン52は、硬質材62の端面を削って新しい界面を露出させ、塑性流動した軟質材61によって接合することによって接合強度を向上させるようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−255420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるように軟質材側に回転工具のピンを配置して摩擦攪拌接合を行なう方法では、主に軟質材を塑性流動させて両板材間の結合部を形成することとなり、両板材の突き合わせ部に生じる微小な空隙を全て軟質材で補うこととなる。これにより、接合部、或いは回転工具のショルダと板材表面の間に空隙や密度低下等の接合欠陥が生じてしまい、結合強度の低下を引き起こす惧れがあった。また、ピンを硬質材側に僅かに入り込ませて、硬質材を削り取ることは効果的な方法であるが、回転工具のショルダに当接する硬質材表面も一緒に削り取られることとなる。これにより、塑性流動する軟質材に硬質材の磨耗片が過剰に混入し、接合強度が低下してしまうという問題があった。
【0007】
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、異種金属同士を摩擦攪拌接合により接合する方法において、主として軟質材により形成される接合部の強度を高く維持することができる異材接合方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、
金属製の硬質板材と、該硬質板材より硬度の低い異種金属材料からなる軟質板材とを突き合わせ、該突き合わせ部の軟質板材側に回転工具のピンを挿入し、該回転工具のショルダで板面を押圧した状態にて前記ショルダと前記ピンを回転させながら移動させ、回転の摩擦熱により前記軟質板材を塑性流動させて板材同士を接合する異材接合方法において、
前記突き合わせ部に、前記軟質板材が前記硬質板材より肉厚が大となる段差を設けて、前記ショルダと前記硬質板材との間に隙間が形成されるようにし、前記回転工具の回転により軟化流動した軟質材が前記隙間に浸入するようにしたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、軟質板材と硬質板材の間には段差が設けられているため、塑性流動した軟質材が硬質板材とショルダとの間に浸入し、硬質板材の表面がショルダにより削られることを防げる。これにより、硬質板材の摩耗片が、塑性流動する軟質材に過剰に混入することを防止し、接合強度を高くすることが可能となる。
また、段差を設けて突き合わせ部における軟質板材側の体積を増大させることにより、軟質板材と硬質板材の間に存在する微小な空隙に対しても十分な量の軟質材を流入させることができ、接合部の空隙形成や密度低下等の接合欠陥を防止することが可能となる。よって、接合強度を高くし、且つ高品質を確保することが可能である。
【0010】
また、前記軟質板材と前記硬質板材の突き合わせ部の表面側から前記回転工具のピンを挿入して両板材を接合した後、該ピンを前記突き合わせ部の裏面側から挿入して両板材を接合することを特徴とする。
これにより、板材表面からの接合時に、ピンの先端近傍が十分に攪拌されず欠陥が発生した場合であっても、表面の接合後に裏面からピンを挿入して接合を行なっているため、接合欠陥をなくして接合強度を高くすることができる。また、回転工具は、板材の片面側のみをショルダで押圧し接合を行なう構成であるため、押圧荷重の制御が容易で、且つ装置構成を簡素化することが可能である。
【0011】
さらに、前記段差を、前記軟質板材と前記硬質板材の突き合わせ部の表裏両面側に設け、
前記突き合わせ部を、表面ショルダと裏面ショルダにより挟持して表裏両面側から押圧した状態にて、前記表面ショルダと前記裏面ショルダを同期して回転させるとともに、前記表面ショルダと前記裏面ショルダの間に介在する前記ピンを、少なくとも何れかのショルダとともに回転させることを特徴とする。
このように、回転工具のピンを両板材の表面から裏面まで貫通させ、両板材の表面及び裏面からショルダにより押圧荷重をかけることにより、ピン先端近傍に欠陥が生じることを防止でき、高品質の接合が可能となる。さらに、一度の接合で高品質の接合が可能となるため、表面と裏面を夫々接合する場合に比べて作業工程数を削減でき、作業時間を短縮化することが可能である。
【0012】
さらにまた、前記ピンを主として前記軟質板材側に位置させるとともに、前記硬質板材の表面に形成された酸化被膜と同等量の肉厚若しくはそれより僅かに大きい肉厚だけ該ピンを硬質板材側に入れ込ませて位置させることを特徴とする。
このように、硬質板材表面に形成された酸化被膜を削り取り、塑性流動させた軟質材にて両板材を接合することにより接合強度を高くすることが可能である。
【0013】
また、金属製の硬質板材と、該硬質板材より硬度の低い異種金属材料からなる軟質板材とを突き合わせて固定する固定手段と、両板材の突き合わせ部を押圧するショルダと、前記突き合わせ部の軟質板材側に挿入され前記ショルダとともに回転駆動するピンとを有する回転工具を備え、前記ショルダと前記ピンを回転させながら前記突き合わせ部を移動させ、回転の摩擦熱により軟質材を塑性流動させて板材同士を接合する異材接合装置において、
前記軟質板材が前記硬質板材より肉厚が大であり、
前記固定手段は、前記突き合わせ部にて少なくとも前記ショルダと当接する面に段差が形成されるように両板材を固定することを特徴とする。
【0014】
さらに、前記固定手段は、前記突き合わせ部の表裏両面側に、前記軟質板材が前記硬質板材より肉厚が大となる段差を有するように固定する手段であり、
前記ショルダが、前記突き合わせ部の表裏両面側を押圧する表面ショルダと裏面ショルダを有し、前記表面ショルダと前記裏面ショルダが同期して回転するように構成するとともに、前記表面ショルダと前記裏面ショルダの間に介在する前記ピンが、少なくとも何れかのショルダとともに回転するようにしたことを特徴とする。
【0015】
さらにまた、前記表面ショルダに連結したシリンダと、前記裏面ショルダから前記ピンを介して延設される回転主軸と、該回転主軸上に設けられ前記シリンダ内を摺動自在なピストンと、前記シリンダ内の作動流体圧を一定に保持する圧力発生装置とを備え、
前記突き合わせ部の板厚変化に応じてショルダ間距離が変位するとともに、前記圧力発生装置により前記表面ショルダと前記裏面ショルダから前記突き合わせ部に一定の押圧荷重が付与されるように構成したことを特徴とする。
これにより、軟質板材及び硬質板材の板厚が変化した場合であっても、圧力発生装置により表面ショルダと裏面ショルダを介して両板材に一定の押圧荷重をかけることができるため、突き合わせ部に沿って板厚が変化する板材においても、高品質の接合を行なうことが可能である。
【発明の効果】
【0016】
以上記載のごとく本発明によれば、軟質板材と硬質板材の突き合わせ部に軟質板材の肉厚が大となる段差を設けているため、塑性流動した軟質材が硬質板材とショルダとの間に浸入し、硬質板材の表面がショルダにより削られることを防げる。これにより、硬質板材の摩耗片が、塑性流動する軟質材に過剰に混入することを防止し、接合強度を高くすることが可能となる。
また、段差を設けて突き合わせ部における軟質板材側の体積を増大させることにより、軟質板材と硬質板材の間に存在する微小な空隙に対しても十分な量の軟質材を流入させることができ、接合部の空隙形成や密度低下等の接合欠陥を防止することが可能となる。よって、接合強度を高くし、且つ高品質を確保することが可能である。
【0017】
また、突き合わせ部の表面から接合を行なった後、裏面からも接合を行なうことにより、接合欠陥をなくして接合強度を高くすることができる。また、回転工具は、板材の片面側のみをショルダで押圧し接合を行なう構成であるため、押圧荷重の制御が容易で、且つ装置構成を簡素化することが可能である。
さらに、回転工具のピンを両板材の表面から裏面まで貫通させ、両板材の表面及び裏面からショルダにより押圧荷重をかけることにより、ピン先端近傍に欠陥が生じることを防止でき、高品質の接合が可能となる。また、一度の接合で高品質の接合が可能となるため、表面と裏面を夫々接合する場合に比べて作業工程数を削減でき、作業時間を短縮化することが可能である。
【0018】
さらにまた、ピンを主として軟質板材側に位置させるとともに、硬質板材の表面に形成された酸化被膜と同等量の肉厚若しくはそれより僅かに大きい肉厚だけ該ピンを硬質板材側に入れ込ませて位置させることにより、硬質板材表面に形成された酸化被膜を削り取り、塑性流動させた軟質材にて両板材を接合し、接合強度を高くすることが可能である。
また、表面ショルダと裏面ショルダにより突き合わせ部の表裏両面から押圧荷重をかけるようにし、且つ押圧荷重を一定に保持する圧力発生装置を設けることにより、軟質板材と硬質板材の板厚が変化した場合であっても、ショルダを介して両板材に一定の押圧荷重をかけることができ、突き合わせ部に沿って板厚が変化する板材においても、高品質の接合を行なうことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
図1は本実施形態に係る板材の配置構成を説明する図、図2及び図3は実施例1の異材接合方法に関する図、図4は実施例2の異材接合方法に関する図、図5は実施例3の異材接合方法に関する図、図6及び図7は実施例3に係る装置を説明する図である。
【実施例1】
【0020】
本実施形態に係る異材接合方法及び装置は、金属製の硬質板材と、該硬質板材より硬度の低い異種金属材料からなる軟質板材とを摩擦攪拌接合により接合するものである。図1に示すように、軟質板材1と硬質板材2の突き合わせ部5は、軟質板材2が僅かに高くなるように段差3を持たせて配置し、不図示の固定手段により固定する。段差3の高さdは、好適には0.5〜2mmとする。軟質板材1としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられ、硬質板材としては、例えば鋼材、ステンレス合金、軟質板材と異種のアルミニウム合金等が挙げられる。
【0021】
図2及び図3に、本実施形態の基本構成である実施例1の構成例を示す。回転工具10は、軟質板材1と硬質板材2の両板材を押圧するショルダ11と、該ショルダ11に取り付けられたピン12とを備え、該ショルダ11とピン12は、不図示の駆動手段により回転駆動する。ショルダ11とピン12は、硬質板材2より硬度の高い材料で構成される。ショルダ11は、両板材の表面に当接するように配置され、両板材を所定の押圧荷重により押圧する。回転工具1は、駆動手段により所定方向に且つ所定回転速度で回転するとともに、少なくとも板材同士の突き合わせ線5a方向に移動可能とする。回転工具1のピン12は、主として軟質板材1側に位置させる。好適には、ピン12の中心軸を軟質板材1側に位置させるとともに、該ピン1を、突き合わせ部5から硬質板材2側に幅dだけ入り込ませて位置させる。幅dは、硬質板材2表面に形成された酸化被膜と同等量の肉厚若しくはそれより僅かに大きい肉厚とし、好適には、0.1〜2mmとする。
【0022】
図1に示すように軟質板材1と硬質板材2は、段差3を有するように配置して突き合わせ、両板材1、2を不図示の固定手段により固定する。図3に示すように突き合わせ線5aの一端側から回転工具10を所定回転速度で回転しながら挿入し、該突き合わせ線5aに沿って両板材を接合しながら回転工具10を移動させる。
回転工具11のピン12の回転により、硬質板材2は幅dを削り取られ、硬質板材2表面に形成された酸化被膜が除去されるとともに、ピン12とショルダ11の回転の摩擦熱により軟質板材1が塑性流動し、酸化除去され露出した硬質板材2の新しい面との間で両板材が接合される。図2に示される1aは軟質板材1の塑性流動領域である。
【0023】
軟質板材1と硬質板材2の間には段差3が設けられているため、塑性流動した軟質材4が硬質板材2とショルダ11との間に浸入し、硬質板材2の表面がショルダ11により削られることを防げる。これにより、硬質板材2の摩耗片が、塑性流動する軟質材に過剰に混入することを防止し、接合強度を高くすることが可能となる。
また、段差3を設けて突き合わせ部における軟質板材1側の体積を増大させることにより、軟質板材1と硬質板材2の間に存在する微小な空隙に対しても十分な量の軟質材を流入させることができ、接合部の空隙形成や密度低下等の接合欠陥を防止することが可能となる。よって、接合強度を高くし、且つ高品質を確保することが可能である。
さらに、回転工具10のピン12を、主として軟質板材1側に位置させ、突き合わせ部5から硬質板材2側に幅dだけ入り込ませて位置させることにより、硬質板材2表面に形成された酸化被膜を削り取り、塑性流動させた軟質材にて両板材を接合することにより接合強度を高くすることが可能である。
【実施例2】
【0024】
図4を参照して、本実施例2に係る異材接合方法及び装置につき説明する。尚、以下の実施例2及び3において、上記した実施例1と同様の構成については、その詳細な説明を省略する。
図4(a)は表面接合時、(b)は裏面接合時を示す図である。
本実施例2では、図4(a)に示すように、軟質板材1と硬質板材2とを突き合わせて不図示の固定手段により固定する。このとき、軟質板材1と硬質板材2の突き合わせ部5に、軟質板材1側が高くなるような段差3を設ける。この段差3は、表面1A、2Aと裏面1B、2Bの両面に設ける。そして、まず最初に表面1A、2Aから回転工具10のピン12を挿入し、図3に示されるように突き合わせ線5aに沿って回転しながら移動して両板材を接合する。このときピン23は、実施例1と同様に、主として軟質板材1側に位置させるとともに、突き合わせ部から硬質板材2側に僅かに入り込ませて位置させる。
次いで両板材を裏返し、図4(b)に示すように、裏面1B、2Bから回転工具10のピン12を挿入し、突き合わせ線に沿って回転しながら移動して両板材を接合する。
【0025】
本実施例2によれば、軟質板材1と硬質板材2の突き合わせ部に、軟質板材1側が高くなるような段差3を設けているため、接合強度を向上させ高品質を確保することが可能となる。
また本実施例2では、表面1A、2Aからの接合時に、ピン12の先端近傍が十分に攪拌されず欠陥が発生した場合であっても、表面の接合後に裏面1B、2Bからピン12を挿入して接合を行なっているため、接合欠陥をなくして接合強度を高くすることができる。また、回転工具10は、板材の片面側のみをショルダ11で押圧し接合を行なう構成であるため、押圧荷重の制御が容易で、且つ装置構成を簡素化することが可能である。
【実施例3】
【0026】
図5乃至図7を参照して、本実施例3に係る異材接合方法及び装置につき説明する。
本実施例3では、図5に示すように、軟質板材1と硬質板材2とを突き合わせて不図示の固定手段により固定する。軟質板材1と硬質板材2は、軟質板材1が硬質板材2より高くなるように段差3を設けておき、これらを突き合わせて固定する。このとき、軟質板材1と硬質板材2の突き合わせ部に、軟質板材1側が高くなるような段差3を設ける。この段差3は、表面1A、2Aと裏面1B、2Bの両面に設ける。
回転工具20は、両板材の表面を押圧する表面ショルダ21と、該両板材の裏面を押圧する裏面ショルダ22と、表面ショルダ21と裏面ショルダ22の間に位置するピン23とから構成される。表面ショルダ2、裏面ショルダ22及びピン23は夫々同期して回転する。
【0027】
段差3を有して突き合わせ配置した軟質板材1と硬質板材2を、表面ショルダ21と裏面ショルダ22により挟持し、両板材に該ショルダ21、22により所定の押圧荷重がかかるようにする。ピン23は、実施例1と同様に、主として軟質板材1側に位置させるとともに、突き合わせ部から硬質板材2側に僅かに入り込ませて位置させる。そして、回転工具10を回転させながら図3に示されるように突き合わせ線5aの一端側から他端側に沿って回転工具を移動させて、両板材を接合する。
【0028】
本実施例3によれば、軟質板材1と硬質板材2の突き合わせ部に、軟質板材1側が高くなるような段差3を設けているため、接合強度を向上させ高品質を確保することが可能となる。
また本実施例3では、回転工具20のピン23を両板材の表面から裏面まで貫通させ、両板材の表面及び裏面からショルダ21、22により押圧荷重をかけることにより、ピン先端近傍に欠陥が生じることを防止でき、高品質の接合が可能となる。さらに、一度の接合で高品質の接合が可能となるため、表面と裏面を夫々接合する場合に比べて作業工程数を削減でき、作業時間を短縮化することが可能である。
【0029】
さらに上記した回転工具20を備えた装置として、図6及び図7に示す装置が好適に用いられる。
この装置は、回転工具20と、該回転工具20のショルダ21、22を介して両板材に一定の押圧荷重を与える圧力発生装置30と、該回転工具20を所定の回転速度で回転させる電動機31とを備える。
回転工具20は、電動機31により回転駆動する回転主軸24と、該回転主軸24に取り付けられた表面ショルダ21と裏面ショルダ22とを備える。表面ショルダ21は軟質板材1と硬質板材2を突き合わせた両板材に対して表面側から押圧し、裏面ショルダ22は両板材を裏面から押圧する。表面ショルダ21と裏面ショルダ22の間にはピン23が設けられており、該ピン23は裏面ショルダ22に連結している。
【0030】
表面ショルダ21の上方には工具本体28が設けられ、該工具本体28にはシリンダ27が形成されている。回転主軸24の上方にはピストン25が設けられ、該ピストン25は、シリンダ27内面に設けられた摺動部26を摺動自在に配置される。即ち、主軸24と裏面ショルダ22とピン23とピストン25が一体的に構成された装置部品ユニットと、工具本体28と表面ショルダ21が一体的に構成された装置部品ユニットが、軟質板材1及び硬質板材2の板厚に応じて相対的に上下方向に変位するように構成される。
【0031】
また、回転主軸24内に形成された作動油通路31を介して、圧力発生装置30からシリンダ27内に作動油が流入するようになっている。圧力発生装置30は、シリンダ27の受圧面に一定圧力を与えるように制御する油圧回路を備えている。
軟質板材1及び硬質板材2の板厚が変化したときには、表面ショルダ21を始めとする装置部品ユニットと、裏面ショルダ22を始めとする装置部品ユニットとが板厚に応じて相対的に上下方向に変位し、表面ショルダ21と裏面ショルダ22の間の距離を変更するとともに、板厚の変化に関わらず、圧力発生装置30を含む上記油圧機構により表面ショルダ21及び裏面ショルダ22を介して両板材に一定の押圧荷重を与えるようになっている。
【0032】
図6(a)は板厚が薄い場合、(b)は板厚が厚い場合における装置の状態を示している。同図においては、裏面ショルダ22が一定位置に固定されるものとする。(a)に示されるように板厚が薄い場合は、表面ショルダ21が下方に位置してピストン25が摺動部26の上方側に位置し、この状態から(b)に示されるように板厚が厚くなった場合は、表面ショルダ21が上方に移動してピストン25が摺動部26の下方側に移動する。このとき、何れもシリンダ27内の油圧は一定に保たれ、表面ショルダ21及び裏面ショルダ22の押圧荷重は板厚に関わらず同一荷重となる。
【0033】
回転工具20の回転機構は、電動機40の出力軸に固定された歯車41と工具本体28の外周面とが、係合部42にてスプライン溝により嵌合した構成となっており、電動機40の回転力が歯車41を介して工具本体28に伝達され、工具本体28が回転駆動される。
ここで、図7に図6のA−A断面図を示す。工具本体28のシリンダ27内周面に設けられた摺動部26は、円周方向に分割されて複数形成されており、該摺動部26に対応させてピストン25の外周面に複数の凸部25aが設けられている。摺動部26とピストンの凸部25aとを係合させることにより、ピストン25を備えた回転主軸23と工具本体28とが円周方向に同期して回転駆動する。
【0034】
上記構成を備えることにより、電動機31の駆動力によって、回転主軸23を始めとして表面ショルダ21、裏面ショルダ22、及びピン23を含む回転工具20は全て同期して回転駆動する。尚、本実施例の回転機構は特に上記構成に限定されるものではなく、表面ショルダ21、裏面ショルダ22、及びピン23を含む回転工具20を同期して回転駆動する構成であれば何れの構成であってもよい。
上記構成により、軟質板材1及び硬質板材2の板厚が変化した場合であっても、表面ショルダ21と裏面ショルダ22により両板材に同一の押圧荷重をかけることができるため、突き合わせ線に沿って板厚が変化する板材においても、高品質の接合を行なうことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係る板材の配置構成を説明する側断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係る回転工具挿入時の概略断面図である。
【図3】本発明の実施例1に係る回転工具の移動を説明する平面図である。
【図4】本発明の実施例2に係る異材接合方法の説明図で、(a)は表面接合時、(b)は裏面接合時を示す図である。
【図5】本発明の実施例3に係る回転工具挿入時の概略断面図である。
【図6】本発明の実施例3に係る装置の全体構成図である。
【図7】図6のA−A断面図である。
【図8】従来の異材接合方法を説明する側断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 軟質板材
2 硬質板材
3 段差
4 軟質材
5 突き合わせ部
5a 突き合わせ線
10、20 回転工具
11 ショルダ
13、23 ピン
21 表面ショルダ
22 裏面ショルダ
24 回転主軸
25 ピストン
26 摺動部
27 シリンダ
28 工具本体
30 圧力発生装置
31 作動油通路
40 電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の硬質板材と、該硬質板材より硬度の低い異種金属材料からなる軟質板材とを突き合わせ、該突き合わせ部の軟質板材側に回転工具のピンを挿入し、該回転工具のショルダで板面を押圧した状態にて前記ショルダと前記ピンを回転させながら移動させ、回転の摩擦熱により前記軟質板材を塑性流動させて板材同士を接合する異材接合方法において、
前記突き合わせ部に、前記軟質板材が前記硬質板材より肉厚が大となる段差を設けて、前記ショルダと前記硬質板材との間に隙間が形成されるようにし、前記回転工具の回転により軟化流動した軟質材が前記隙間に浸入するようにしたことを特徴とする異材接合方法。
【請求項2】
前記軟質板材と前記硬質板材の突き合わせ部の表面側から前記回転工具のピンを挿入して両板材を接合した後、該ピンを前記突き合わせ部の裏面側から挿入して両板材を接合することを特徴とする請求項1記載の異材接合方法。
【請求項3】
前記段差を、前記軟質板材と前記硬質板材の突き合わせ部の表裏両面側に設け、
前記突き合わせ部を、表面ショルダと裏面ショルダにより挟持して表裏両面側から押圧した状態にて、前記表面ショルダと前記裏面ショルダを同期して回転させるとともに、前記表面ショルダと前記裏面ショルダの間に介在する前記ピンを、少なくとも何れかのショルダとともに回転させることを特徴とする請求項1記載の異材接合方法。
【請求項4】
前記ピンを主として前記軟質板材側に位置させるとともに、前記硬質板材の表面に形成された酸化被膜と同等量の肉厚若しくはそれより僅かに大きい肉厚だけ該ピンを硬質板材側に入れ込ませて位置させることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の異材接合方法。
【請求項5】
金属製の硬質板材と、該硬質板材より硬度の低い異種金属材料からなる軟質板材とを突き合わせて固定する固定手段と、両板材の突き合わせ部を押圧するショルダと、前記突き合わせ部の軟質板材側に挿入され前記ショルダとともに回転駆動するピンとを有する回転工具を備え、前記ショルダと前記ピンを回転させながら前記突き合わせ部を移動させ、回転の摩擦熱により軟質材を塑性流動させて板材同士を接合する異材接合装置において、
前記軟質板材が前記硬質板材より肉厚が大であり、
前記固定手段は、前記突き合わせ部にて少なくとも前記ショルダと当接する面に段差が形成されるように両板材を固定することを特徴とする異材接合装置。
【請求項6】
前記固定手段は、前記突き合わせ部の表裏両面側に、前記軟質板材が前記硬質板材より肉厚が大となる段差を有するように固定する手段であり、
前記ショルダが、前記突き合わせ部の表裏両面側を押圧する表面ショルダと裏面ショルダを有し、前記表面ショルダと前記裏面ショルダが同期して回転するように構成するとともに、前記表面ショルダと前記裏面ショルダの間に介在する前記ピンが、少なくとも何れかのショルダとともに回転するようにしたことを特徴とする請求項5記載の異材接合装置。
【請求項7】
前記表面ショルダに連結したシリンダと、前記裏面ショルダから前記ピンを介して延設される回転主軸と、該回転主軸上に設けられ前記シリンダ内を摺動自在なピストンと、前記シリンダ内の作動流体圧を一定に保持する圧力発生装置とを備え、
前記突き合わせ部の板厚変化に応じてショルダ間距離が変位するとともに、前記圧力発生装置により前記表面ショルダと前記裏面ショルダから前記突き合わせ部に一定の押圧荷重が付与されるように構成したことを特徴とする請求項6記載の異材接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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