説明

異材溶接ロータ用超音波探傷装置

【課題】超音波探触子の水平方向への走査を必要とすることなく超音波探傷の精度及び信頼性が低下するのを防ぐこと。
【解決手段】第1の超音波探触子11(送信探触子)と第2の超音波探触子12(受信探触子)との組合せによりTOFD法の処理に基づき探傷領域内に含まれる欠陥Fの深さ位置を求めると共に、第1の超音波探触子11(送信探触子)と第3の超音波探触子13L,13R(受信探触子)との組合せにより欠陥Fの水平方向位置つまり欠陥Fの種類を求めるようにしているので、従来構成のように超音波探触子を水平方向に走査する必要がなくなり、充分な走査スペースを確保できない状況においても超音波探傷の精度及び信頼性が低下するのを防ぐことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに異なる材質の2つの部材を溶接することにより形成された異材溶接ロータの溶接個所を探傷領域とする異材溶接ロータ用超音波探傷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン発電プラントのタービンロータには、従来から、同一材質で一体成形された大型鍛造品を用いるのが通常であった。このタービンロータの高温部には高温強度が要求されると共に、低温部には靭性が要求されるという条件を同時に満たさなければならないため、特殊材料を用いる必要があった。そして、特殊材料であるが故に、タービンロータの出力容量を一定以上大きくすることはできず、コスト的にも不利なものであった。また、大型鍛造品であるが故に長期の製造期間が必要であった。
【0003】
ところで近年は、タービンロータに対して出力の大容量化、低コスト化、短納期化等のニーズが高まってきており、このニーズに応えるため、高温部材用及び低温部材用の異なる材質の2つの部材を溶接して形成される異材溶接ロータが次第に用いられつつある。
【0004】
しかし、異材溶接ロータの溶接個所には、溶接作業の際の不具合等に起因して欠陥が発生することがあり、この欠陥の存在により強度不足などの問題が発生する。そのため、異材溶接ロータに対しては、溶接施工後及び定期的なメンテナンスの際に、超音波探傷等の手法による溶接個所の品質検査を行い、欠陥が発生していないことを確認することが重要になる。
【0005】
ここで、異材溶接ロータの溶接個所に生じる主な欠陥の種類としては、「ブローホール」や「融合不良」などがある。ブローホールとは、溶接ビード内に発生する球状の空洞で、開先面付近ではなく溶接金属の中央部付近に生じる。一方、融合不良とは、溶接金属と部材との間の境界面同士が充分に溶け合っていないことに起因して発生するもので、開先面付近に生じる。融合不良の発生は、ブローホールの発生よりも溶接強度を低下させてしまうために、溶接個所の欠陥の種類がブローホールであるのか融合不良であるのかは、タービンロータの強度を評価する上で重要な情報となる。したがって、超音波探傷においては、溶接個所の欠陥について、その大きさ(長さ)及び深さ位置の他に、その水平方向位置の情報(開先面付近又は中央部付近のどちらに生じた欠陥か)を得ることが要求される。
【0006】
図7は、異材溶接ロータの構成、及び超音波探傷における走査方向を示す説明図である。異材溶接ロータRは、互いに異なる材質の第1のロータ部材R1と第2のロータ部材R2とを溶接することにより形成されている。第1のロータ部材R1と第2のロータ部材R2との間には超音波探傷領域となる溶接個所Zが存在している。
【0007】
この溶接個所Z内部に存在する可能性のある欠陥を検出するために、超音波探触子を周方向走査(矢印Y1)していくが、検出された欠陥の種類を特定するために、水平方向走査(矢印Y2)も行う必要がある。例えば、検出された欠陥F1が溶接個所Zの中央部付近のものであれば、この欠陥F1の種類はブローホールであり、また、検出された欠陥F2が溶接個所Zの開先面付近(端部付近)のものであれば、この欠陥F2の種類は融合不良であることが分かる。
【0008】
超音波探傷の手法としては、例えば特許文献1に紹介されているように、端部エコー法、TOFD法、SPOD法などがある。
【0009】
図8は、異材溶接ロータの溶接個所に対して端部エコー法による超音波探傷を実施するための従来装置の説明図であり、(a)は部分拡大断面図、(b)は(a)における超音波探触子が受信するエコーの波形図である。
【0010】
図8(a)において、溶接個所Zの右方に送受信兼用の超音波探触子1が斜角シュー2を介して第2のロータ部材R2の表面上に配置されている。斜角シュー2は、探傷領域である溶接個所Zに対して超音波探触子1の所定の探傷角θを確保するためのものである。
【0011】
超音波探触子1は、水平方向の位置P1において周方向走査(図7の矢印Y1参照)を行うが、いま或る回転角において欠陥F1の上端部からのエコー信号W1を受信したとする。次いで、超音波探触子1は、水平方向の位置P2に移動して、同様の周方向走査を行うと、同一回転角において欠陥F1の下端部からエコー信号W2を受信する。
【0012】
このときのエコー信号W1,W2のエコーレベルは図8(b)に示すようにピーク状となっているので、これから溶接個所Z内にはP1,P2間の距離に比例する大きさの欠陥F1が存在しているのを検出することができる。なお、欠陥F1の水平方向位置(溶接個所Zの略中央部の位置であること)及び深さ位置(垂直方向位置)は、探傷角θ及び位置P1等のデータから求めることができる。
【0013】
図9は、異材溶接ロータの溶接個所に対してTOFD法による超音波探傷を実施するための従来装置の説明図であり、(a)は部分拡大断面図、(b)は(a)における受信用超音波探触子が受信するエコーの波形図である。
【0014】
図9(a)において、探傷領域である溶接個所Zの左方に、送信用超音波探触子3が斜角シュー2を介して第1のロータ部材R1の表面上に配置されている。一方、溶接個所Zの右方の位置であって送信用超音波探触子3と対称となる位置には、受信用超音波探触子4が斜角シュー2を介して第2のロータ部材R2の表面上に配置されている。これら送信用超音波探触子3及び受信用超音波探触子4は対となって、端部エコー法の場合と同様に、周方向走査及び水平方向走査を行い、ある位置において受信用超音波探触子4はラテラル波α、回折波β1,β2、底面反射波γを受信する。
【0015】
これらラテラル波α、回折波β1,β2、底面反射波γの受信タイミングは図9(b)に示される通りであり、欠陥F1の大きさは回折波β1,β2の到着時間差及び音速から求めることができ、また、欠陥F1の水平方向位置(溶接個所Zの略中央部の位置であること)等は、送信用超音波探触子3及び受信用超音波探触子4の水平方向位置から求めることができる。
【0016】
図10は、異材溶接ロータの溶接個所に対してSPOD法による超音波探傷を実施するための従来装置の説明図であり、(a)は部分拡大断面図、(b)は(a)における受信用超音波探触子が受信するエコーの波形図である。
【0017】
図10(a)において、探傷領域である溶接個所Zの左方に、送信用超音波探触子3が斜角シュー2を介して第1のロータ部材R1の表面上に配置されている。一方、溶接個所Zの表面上には受信用超音波探触子4が斜角シュー2を介さずに直接配置されている。これら送信用超音波探触子3及び受信用超音波探触子4は対となって、端部エコー法及びTOFD法の場合と同様に、周方向走査及び水平方向走査を行い、ある位置において受信用超音波探触子4はラテラル波α、回折波β、底面反射波γを受信する。
【0018】
これらラテラル波α、回折波β、底面反射波γの受信タイミングは図10(b)に示される通りであり、欠陥F1の大きさは回折波βのエコーレベルから求めることができる(模擬欠陥を付与した同一材の校正試験体で予めエコーレベルと欠陥長さとの関係を取得しておく)。また、欠陥F1の水平方向位置(溶接個所Zの略中央部の位置であること等)は、送信用超音波探触子3及び受信用超音波探触子4の水平方向位置から求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2007−315820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述したように、異材溶接ロータの溶接個所に生じる欠陥がブローホール又は融合不良のいずれであるかを特定するためには、その欠陥の水平方向の発生位置が溶接個所の開先面付近又は中央部付近のいずれであるのかを検出しなければならない。しかし、従来から行われてきた端部エコー法、TOFD法、SPOD法等の各超音波探傷法は、いずれも超音波探触子の水平方向への走査を必要とする。
【0021】
異材溶接ロータは、溶接施工直後においては溶接個所付近における走査スペースが充分に確保されているものの、タービンロータであるが故に最終的には動翼が取り付けられるため、その走査スペースも狭隘なものとなる。したがって、定期的なメンテナンスの際には、充分な走査スペースが確保できなくなり、超音波探傷の精度及び信頼性が低下するのを防ぐことができなかった。
【0022】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、超音波探触子の水平方向への走査を必要とすることなく超音波探傷の精度及び信頼性が低下するのを防ぐことが可能な異材溶接ロータ用超音波探傷装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の実施形態は、上記課題を解決するための手段として、互いに異なる材質の第1のロータ部材と第2のロータ部材とを溶接することにより形成された異材溶接ロータの溶接個所を探傷領域とする異材溶接ロータ用超音波探傷装置において、前記第1のロータ部材及び前記第2のロータ部材の各表面上の位置に、前記溶接個所を中央に挟んだ状態で互いに対向して配設され、前記探傷領域に対して斜め方向の超音波の送信を一方が行うと共に他方がその受信を行う第1の超音波探触子及び第2の超音波探触子と、前記第1の超音波探触子と前記第2の超音波探触子とを結ぶ直線上の位置であって前記溶接個所又はその付近の個所の表面上の位置に配設され、前記第1の超音波探触子又は前記第2の超音波探触子の一方から送信された超音波の受信を行う第3の超音波探触子と、前記第1の超音波探触子又は前記第2の超音波探触子の他方の超音波受信データをTOFD法を用いて処理することにより前記探傷領域内に含まれる欠陥の深さ位置を求めると共に、前記第3の超音波探触子の超音波受信データに基づき前記探傷領域内に含まれる欠陥の水平方向位置を求める溶接欠陥位置演算手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、超音波探触子の水平方向への走査を必要とすることなく超音波探傷の精度及び信頼性が低下するのを防ぐことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態の構成を示す説明図。
【図2】図1における探触子ホルダ14が、異材溶接ロータRの周方向(矢印Y1)表面に沿って一体的に回転する際の、ある回転角における各探触子の超音波送信径路及び受信径路を示す部分拡大断面図。
【図3】図2における各受信用探触子の超音波受信タイミングを示すタイムチャートであり、(a)は第2の超音波探触子12の受信タイミング、(b)は左側探触子13Lの受信タイミング、(c)は右側探触子13Rの受信タイミングを示す。
【図4】図2における欠陥Fが左側開先面付近(破線部)に存在するときの第3の超音波探触子13の超音波受信タイミングを示すタイムチャートであり、(a)は左側探触子13Lの受信タイミング、(b)は右側探触子13Rの受信タイミングを示す。
【図5】本発明の第2の実施形態の構成を示すブロック図。
【図6】本発明の第3の実施形態の構成を示すブロック図。
【図7】従来技術及び本発明の適用対象となる異材溶接ロータの構成、及び超音波探傷における走査方向を示す説明図。
【図8】異材溶接ロータの溶接個所に対して端部エコー法による超音波探傷を実施するための従来装置の説明図であり、(a)は部分拡大断面図、(b)は(a)における超音波探触子が受信するエコーの波形図である。
【図9】異材溶接ロータの溶接個所に対してTOFD法による超音波探傷を実施するための従来装置の説明図であり、(a)は部分拡大断面図、(b)は(a)における受信用超音波探触子が受信するエコーの波形図である。
【図10】異材溶接ロータの溶接個所に対してSPOD法による超音波探傷を実施するための従来装置の説明図であり、(a)は部分拡大断面図、(b)は(a)における受信用超音波探触子が受信するエコーの波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の第1の実施形態の構成を示す説明図である。なお、図7と同様の部材には同一符号を付して重複した説明を省略する。
【0027】
異材溶接ロータRを構成する第1のロータ部材R1及び第2のロータ部材R2の各表面上に、斜角シュー2を介して第1の超音波探触子11及び第2の超音波探触子12が溶接個所Zを中央に挟んだ状態で互いに対向して配設されている。
【0028】
そして、第1の超音波探触子11と第2の超音波探触子12とを結ぶ直線上の位置であって溶接個所Zに隣接する第1のロータ部材R1及び第2のロータ部材R2の各表面上の位置に、第1の超音波探触子11から送信される超音波を受信する左側探触子13L及び右側探触子13Rが配設されている。これら左側探触子13L及び右側探触子13Rにより第3の超音波探触子13が構成されている。
【0029】
上記の第1の超音波探触子11、第2の超音波探触子12、及び第3の超音波探触子13を構成する左側探触子13L及び右側探触子13Rは、探触子ホルダ14内に一括して収納され、異材溶接ロータRの周方向(矢印Y1)表面に沿って一体的に移動するようになっている。
【0030】
第1の超音波探触子11は、超音波送信制御器15に接続されており、この超音波送信制御器15からの制御信号により超音波送信動作を行うようになっている。また、第2の超音波探触子12、左側探触子13L、及び右側探触子13Rは、それぞれ超音波受信制御器16〜18に接続されており、受信したエコー信号をこれら超音波受信制御器16〜18に送出するようになっている。
【0031】
これら超音波受信制御器16〜18に送出されたエコーを溶接欠陥位置演算手段19が解析して溶接欠陥位置を演算するようになっている。そして、溶接欠陥位置演算手段19は、第2の超音波探触子12からの超音波受信データをTOFD法を用いて処理することにより溶接個所Zの探傷領域内に含まれる欠陥の深さ(異材溶接ロータRの径方向)位置を求めると共に、左側探触子13L及び右側探触子13Rからの超音波受信データに基づき溶接個所Zの探傷領域内に含まれる欠陥の水平方向位置の情報(前述した開先面付近又は中央部付近のどちらに生じた欠陥かについての情報)を求めるようになっている。
【0032】
ここで、図1に示された各探触子の配置構成は、左側探触子13L及び右側探触子13Rを1個の第3の超音波探触子13として見れば、TOFD法及びSPOD法の配置構成を同時に採用したものと考えることができる。つまり、第1の超音波探触子11及び第2の超音波探触子12がTOFD法の処理を行うための配置構成であり、第1の超音波探触子11及び第3の超音波探触子13(左側探触子13L及び右側探触子13R)がSPOD法の処理を行うための配置構成である。
【0033】
但し、TOFD法及びSPOD法は双方共に、本来は欠陥の深さ位置を求めるための処理であるが、図1の構成の場合、SPOD法の配置構成に対応する第1の超音波探触子11及び第3の超音波探触子13は、欠陥の深さ位置ではなく、欠陥の水平方向位置(開先面付近又は中央部付近のいずれかの位置)を求めるための手段として機能するようになっている。
【0034】
次に、第1の実施形態の作用につき説明する。図2は、探触子ホルダ14が異材溶接ロータRの周方向(矢印Y1)表面に沿って一体的に回転する際のある回転角における各探触子の超音波送信径路及び受信径路を示す部分拡大断面図である。
【0035】
第1の超音波探触子11から送信される超音波(縦波)のうち部材表面に沿って伝播する超音波は、ラテラル波αL,αR,αとなってそれぞれ左側探触子13L、右側探触子13R、及び第2の超音波探触子12に受信される。また、溶接個所Z内に欠陥Fが存在する場合、この欠陥Fに向かって送信された超音波はその上端部及び下端部で反射し、回折波β1,β2となって第2の超音波探触子12に受信される。そして、溶接個所Zの底面で反射した超音波は、底面反射波γとなって第2の超音波探触子12に受信されると共に、底面反射波γL,γRとなって左側探触子13L及び右側探触子13Rに受信される。
【0036】
図3は、図2における各受信用探触子の超音波受信タイミングを示すタイムチャートであり、(a)は第2の超音波探触子12の受信タイミング、(b)は左側探触子13Lの受信タイミング、(c)は右側探触子13Rの受信タイミングを示す。
【0037】
溶接欠陥位置演算手段19は、(a)におけるラテラル波αと回折波β1との到着時間差から欠陥Fの深さ位置Hを求めると共に、回折波β1,β2の到着時間差から欠陥Fの長さLを求める。また、(b)における回折波β1Lと、(c)における回折波β1Rとの受信タイミングがほぼ同時であることから、溶接欠陥位置演算手段19は、欠陥Fの水平方向位置が溶接個所Zの中央部付近であると判別する。この判別結果から欠陥Fの種類はブローホールであることが分かる。
【0038】
一方、欠陥Fの水平方向位置が溶接個所Zの左側開先面付近であったとすると(破線で示した位置)、回折波β1L,β1Rの各受信タイミングは、図4(a),(b)に示すように、回折波β1Lの方がやや早くなる。これにより、溶接欠陥位置演算手段19は、欠陥Fの水平方向位置が溶接個所Zの左側開先面付近であるのを判別することができ、この判別結果から欠陥Fの種類は融合不良であることが分かる。なお、欠陥Fの水平方向位置が溶接個所Zの右側開先面付近であれば、回折波β1L,β1Rの各受信タイミングは上記の場合と逆の順序になるので、これにより、右側開先面付近に欠陥Fが存在しているのを判別することができる。
【0039】
このように、図1の構成では、第1の超音波探触子11(送信探触子)と第2の超音波探触子12(受信探触子)との組合せによりTOFD法の処理に基づき探傷領域内に含まれる欠陥Fの深さ位置を求めると共に、第1の超音波探触子11(送信探触子)と第3の超音波探触子13L,13R(受信探触子)との組合せにより欠陥Fの水平方向位置つまり欠陥Fの種類を求めるようにしているので、従来構成のように超音波探触子を水平方向に走査する必要がなくなり、充分な走査スペースを確保できない状況においても超音波探傷の精度及び信頼性が低下するのを防ぐことが可能になる。
【0040】
なお、図1の構成では、第3の超音波探触子13として左側探触子13L及び右側探触子13Rの2つの探触子を用いているが、1個の探触子だけを用いる構成とすることも可能である。この場合は、この1個の探触子を溶接個所Zの表面上中央部に配置し、予め欠陥Fの水平方向位置が中央部に存在する場合の受信タイミングを基準タイミングとしてメモリに記憶させておく。そして、実際の受信タイミングがこの基準タイミングとほぼ一致すれば、その欠陥は中央部付近に存在するものと判別する。一方、実際の受信タイミングがこの基準タイミングよりも早い場合には、その欠陥は左側開先面付近に存在すると判別し、また、実際の受信タイミングがこの基準タイミングよりも遅い場合には、その欠陥は右側開先面付近に存在すると判別する。このようにして、第3の超音波探触子13として1個の探触子だけを用いる構成としても、図1の構成と同様の効果を得ることが可能である。
【0041】
図5は、本発明の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。この実施形態は、第1の超音波探触子11及び第2の超音波探触子12の送受信機能を切換可能にしたものである。
【0042】
図5において、第1の超音波探触子11及び第2の超音波探触子12と超音波送信制御器15及び超音波受信制御器16との間に切換スイッチ20が設けられている。この切換スイッチ20は、端子a,b間を切換可能な可動接点21,22を有している。なお、本実施形態では、第1の超音波探触子11及び第2の超音波探触子12は送受信兼用タイプのものとする。
【0043】
次に、第2の実施形態の動作につき説明する。図示されているように、可動接点21が端子a側に接し、可動接点22が端子b側に接している状態では、第1の超音波探触子11が超音波送信制御器15に接続されると共に、第2の超音波探触子12が超音波受信制御器16に接続されている。したがって、第1の超音波探触子11は送信用探触子として機能すると共に、第2の超音波探触子12は受信用探触子として機能する。
【0044】
また、可動接点21が端子b側に接し、可動接点22が端子a側に接するように(破線で図示された状態)切換スイッチ20の切換操作又は切換制御を行うと、第2の超音波探触子12が超音波送信制御器15に接続されると共に、第1の超音波探触子11が超音波受信制御器16に接続された状態となる。したがって、第2の超音波探触子12は送信用探触子として機能すると共に、第1の超音波探触子11は受信用探触子として機能する。
【0045】
そして、可動接点21が端子a側に接し、可動接点22が端子b側に接した状態で超音波探傷を行った後に、接点切換を行い、今度は可動接点21が端子b側に接し、可動接点22が端子a側に接した状態で再度超音波探傷を行う。
【0046】
溶接欠陥位置演算手段19は、上記の2回の超音波探傷により得られる受信データの加算平均を用いて溶接欠陥位置の演算を行う。したがって、超音波探触子自体が有する誤差、あるいは探触子取付位置に起因する誤差等が大きくなるのを防ぐことができ、超音波探傷の精度及び信頼性が低下するのを防ぐことができる。また、切換スイッチ20の切換により、得られるデータに大きな変動があった場合には何らかの異常が発生しているのを推測できるという副次的効果も得ることができる。
【0047】
図6は、本発明の第3の実施形態の構成を示すブロック図である。この実施形態は、3つの受信用超音波探触子の受信制御を1台の超音波受信制御器で行えるようにしたものである。
【0048】
図6において、第2の超音波探触子12及び第3の超音波探触子13L,13Rと超音波受信制御器16との間に選択スイッチ23が設けられている。この選択スイッチ23は、端子a,b,c間を切換可能な可動接点24を有している。なお、本実施形態では、第1の超音波探触子11は送信専用タイプ、第2の超音波探触子12は受信専用タイプのものを想定しているが、両者共に送受信兼用タイプのものであってもよい(この場合には、探触子11,12の配置を入れ換えることも可能である)。
【0049】
そして、本実施形態では、超音波探触子11〜13が異材溶接ロータRの周方向(図1の矢印Y1)表面に沿って一体的に回転する際に、所定角度毎の回転位置において、可動接点24が接する端子が順次a→b→cに切り換わる。すなわち、第2の超音波探触子12、左側探触子13L、及び右側探触子13Rのうちのいずれか1つが超音波受信制御器16の制御に基づいてサイクリックに順次受信動作を行う。
【0050】
したがって、本実施形態の構成によれば、1台の超音波受信制御器により3個の超音波探触子に対する受信制御を行うことができ、コストダウンを図ることが可能になる。
【0051】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
R:異材溶接ロータ
R1:第1のロータ部材
R2:第2のロータ部材
Z:溶接個所
F,F1,F2:欠陥
α,αL,αR:ラテラル波
β1,β1L,β1R,β2:回折波
γ,γL,γR:底面反射波
1:超音波探触子(送受信兼用)
2:斜角シュー
3:送信用超音波探触子
4:受信用超音波探触子
11:第1の超音波探触子
12:第2の超音波探触子
13:第3の超音波探触子
13L:左側探触子
13R:右側探触子
14:探触子ホルダ
15:超音波送信制御器
16〜18:超音波受信制御器
19:溶接欠陥位置演算手段
20:切換スイッチ
21,22:可動接点
23:選択スイッチ
24:可動接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる材質の第1のロータ部材と第2のロータ部材とを溶接することにより形成された異材溶接ロータの溶接個所を探傷領域とする異材溶接ロータ用超音波探傷装置において、
前記第1のロータ部材及び前記第2のロータ部材の各表面上の位置に、前記溶接個所を中央に挟んだ状態で互いに対向して配設され、前記探傷領域に対して斜め方向の超音波の送信を一方が行うと共に他方がその受信を行う第1の超音波探触子及び第2の超音波探触子と、
前記第1の超音波探触子と前記第2の超音波探触子とを結ぶ直線上の位置であって前記溶接個所又はその付近の個所の表面上の位置に配設され、前記第1の超音波探触子又は前記第2の超音波探触子の一方から送信された超音波の受信を行う第3の超音波探触子と、
前記第1の超音波探触子又は前記第2の超音波探触子の他方の超音波受信データをTOFD法を用いて処理することにより前記探傷領域内に含まれる欠陥の深さ位置を求めると共に、前記第3の超音波探触子の超音波受信データに基づき前記探傷領域内に含まれる欠陥の水平方向位置を求める溶接欠陥位置演算手段と、
を備えたことを特徴とする異材溶接ロータ用超音波探傷装置。
【請求項2】
前記第3の超音波探触子は、前記第1のロータ部材及び前記第2のロータ部材の各表面上の溶接個所隣接位置にそれぞれ配設された2つの探触子により構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の異材溶接ロータ用超音波探傷装置。
【請求項3】
前記第1の超音波探触子及び前記第2の超音波探触子は、送信機能及び受信機能が切り換えられるように、切換スイッチを介して超音波送信制御器及び超音波受信制御器に接続されている、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の異材溶接ロータ用超音波探傷装置。
【請求項4】
前記第1の超音波探触子又は前記第2の超音波探触子の一方が超音波送信制御器に接続されると共に、前記第1の超音波探触子又は前記第2の超音波探触子の他方、及び前記第3の超音波探触子は、いずれか一つの受信機能がサイクリックに発揮されるように、選択スイッチを介して超音波受信制御器に接続されている、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の異材溶接ロータ用超音波探傷装置。
【請求項5】
前記第1乃至第3の超音波探触子は探触子ホルダ内に一括して収納され、異材溶接ロータの周方向表面に沿って一体的に移動するものである、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の異材溶接ロータ用超音波探傷装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−42298(P2012−42298A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182835(P2010−182835)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】