説明

異物除去装置およびそれを備える光学機器

【課題】 光学部材の周辺温度や圧電素子の貼着状態によって、第1の曲げ振動と同じ時間位相で、次数が1つ異なる振動を励起したとしても、それぞれの振動を検出すると、時間位相がずれる。
【解決手段】 光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動を励起したときに検出される振動と、光学ローパスフィルタ410にm+1次の振動モードの曲げ振動を励起したときに検出される振動とで、どのくらいの時間位相ずれが発生しているのかを検出する。そして、検出した時間位相ずれに基づいて、本駆動の際に利用する本駆動パラメータを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塵埃等の異物をふるい落とす異物除去装置およびそれを備える光学機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被写体像を電気信号に変換して撮像するデジタルカメラ等の光学装置では、撮影光束を撮像素子で受光し、その撮像素子から出力される光電変換信号を画像データに変換する。このような撮像装置では、撮像素子の被写体側に、光学ローパスフィルタや赤外吸収フィルタが配置される。これらフィルタの表面に塵埃等の異物が付着すると、その付着部分が黒い点となって撮影画像に写り込み、画像の見栄えが低下してしまう。特にレンズ交換可能なデジタル一眼レフカメラでは、シャッタやクイックリターンミラーといった機械的な作動部が撮像素子の近傍に配置されており、それらの作動部から発生した塵埃等の異物が撮像素子やフィルタなどの光学部材の表面に付着することがある。また、レンズ交換時に、レンズマウントの開口から塵埃等の異物がカメラ本体内に入り込み、これが付着することもある。
【0003】
このような現象を回避するために、撮像素子の被写体側に設けられた光学部材を圧電素子で振動させることにより、光学部材の表面に付着した塵埃等の異物を除去することが知られている。
【0004】
特許文献1には、光学部材に第1の曲げ振動と、第1の曲げ振動と次数が1つ異なり、第1の曲げ振動と時間位相が90°ずれた第2の曲げ振動とを同時に励起することによって、光学部材に進行波を発生させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−207170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光学部材の周辺温度や圧電素子の貼着状態によって、第1の曲げ振動と同じ時間位相で、次数が1つ異なる振動を励起したとしても、それぞれの振動を検出すると、時間位相がずれる。
【0007】
光学部材に安定した進行波を発生させるためには、第1の曲げ振動と第2の曲げ振動との時間位相ずれが理想のずれ量となるように、駆動パラメータを設定する必要がある。
【0008】
本発明の目的は、光学部材に第1の曲げ振動と、第1の曲げ振動と次数が1つ異なり、第1の曲げ振動と時間位相が理想のずれ量だけずれた第2の曲げ振動とを同時に励起することによって、光学部材に安定した進行波を発生させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の異物除去装置は、光学部材と、前記光学部材に貼着される圧電素子と、前記光学部材に第1の曲げ振動を励起する第1の駆動モード、前記光学部材に前記第1の曲げ振動と次数が1つ異なる第2の曲げ振動を励起する第2の駆動モード、および前記光学部材に第1の曲げ振動と、前記第1の曲げ振動と時間位相が異なるとともに、前記第1の曲げ振動と次数が1つ異なる第2の曲げ振動とを同時に励起する第3の駆動モードで前記圧電素子を駆動する駆動制御手段と、前記駆動制御手段が前記第1の駆動モードおよび前記第2の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際に前記光学部材の振動を検出する振動検出手段と、前記駆動制御手段が前記第1の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際に検出される前記光学部材の振動と、前記駆動制御手段が前記第2の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際に検出される前記光学部材の振動との時間位相ずれに基づいて、前記駆動制御手段が前記第3の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際の駆動パラメータを設定する駆動パラメータ作成手段とを有し、前記駆動手段は、前記駆動パラメータ作成手段によって設定された前記駆動パラメータを用いて、前記第3の駆動モードで前記圧電素子を駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光学部材に第1の曲げ振動と、第1の曲げ振動と次数が1つ異なり、第1の曲げ振動と時間位相が理想のずれ量だけずれた第2の曲げ振動とを同時に励起することによって、光学部材に安定した進行波を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るデジタルカメラ100の機能構成を示すブロック図である。
【図2】撮像ユニット400の構成を概略的に示した分解斜視図である。
【図3】第1の実施形態における光学ローパスフィルタ410に励起される2つの振動モードの曲げ振動の周波数と振幅の関係を示すグラフである。
【図4】第1の実施形態におけるm次およびm+1次の振動モード形状、並びに圧電素子430aおよび430bに印加される電圧を示す図である。
【図5】2つの振動モードの曲げ振動を同時に励起した場合の光学ローパスフィルタ410の挙動を説明する図である。
【図6】2つの振動モードの曲げ振動を同時に励起した場合の光学ローパスフィルタ410の挙動を説明する図である。
【図7】圧電素子430aの構成を説明する図である。
【図8】第1の実施形態として、圧電素子430aおよび430bを光学ローパスフィルタ410に貼着した状態を撮像素子側から見た図である。
【図9】異物除去動作を説明するフローチャートである。
【図10】振動検出回路112が圧電素子430aのセンサ電極SFから検出した出力電圧を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
異物除去ユニットを備える光学機器の一例として、デジタルカメラに、本発明を適用した例を説明する。
【0014】
図1は、第1の実施形態に係るデジタルカメラ100の機能構成を示すブロック図である。
【0015】
マイクロコンピュータ(以下、MPU)101は、例えば中央処理装置であり、デジタルカメラ100が備える各ブロックに動作を制御する。MPU101には、ミラー駆動回路102、焦点駆動回路103、シャッタ駆動回路104、画像信号処理回路105、スイッチセンサ回路106、測光回路107、圧電素子駆動回路111、振動検出回路112、温度センサ113が接続される。これらの回路は、MPU101の制御により動作する。
【0016】
MPU101は、撮像レンズユニット200内のレンズ制御回路202とマウント接点21を介して通信を行う。MPU101は、撮像レンズユニット200が接続されると、マウント接点21を介して信号を受信することにより、撮像レンズユニット200のレンズ制御回路202と通信可能状態になったことを判断する。レンズ制御回路202は、MPU101からの制御信号を受信することにより、AF駆動回路203および絞り駆動回路204を介して撮像レンズユニット200内の撮像レンズ201および絞り205の駆動を行う。なお、図1では便宜上1枚の撮像レンズ201のみを図示しているが、実際はフォーカスレンズ等の多数のレンズ群によって構成される。
【0017】
AF駆動回路203は、例えばステッピングモータを備え、レンズ制御回路202の制御により撮像レンズ201内のフォーカスレンズ位置を変化させることにより、撮像素子33に撮影光束を合焦させる。絞り駆動回路204は、例えばオートアイリス等の絞り機構であり、レンズ制御回路202の制御により絞り205の絞り量を変化させる。
【0018】
メインミラー6は、図1に示す撮影光軸に対して45度の角度に保持された状態で、撮像レンズ201を通過する撮影光束をペンタプリズム22へ導くと共に、その一部を透過させてサブミラー30へ導く。サブミラー30は、メインミラー6を透過した撮影光束を焦点検出センサユニット31へ導く。
【0019】
ミラー駆動回路102は、例えばDCモータとギヤトレインにより構成され、メインミラー6をファインダにより被写体像を観察可能とする位置と撮影光束から待避する位置とに駆動する。メインミラー6が駆動すると、同時にサブミラー30も、焦点検出センサユニット31へ撮影光束を導く位置と、撮影光束から待避する位置とに移動する。
【0020】
焦点検出センサユニット31は、不図示の結像面近傍に配置されたフィールドレンズ、反射ミラー、2次結像レンズ、絞り、複数のCCDからなるラインセンサ等によって構成され、位相差方式の焦点検出を行う。焦点検出センサユニット31から出力される信号は、焦点駆動回路103に供給され、被写体像信号に換算された後、MPU101に送信される。
【0021】
MPU101は、被写体像信号に基づいて位相差検出法による焦点検出演算を行う。具体的にはMPU101は、被写体像信号を用いてデフォーカス量および方向を算出し、算出されたデフォーカス量および方向に従い、レンズ制御回路202およびAF駆動回路203を介して撮像レンズ201内のフォーカスレンズを合焦位置に駆動させる。
【0022】
ペンタプリズム22は、メインミラー6により反射された撮影光束を正立正像に変換反射する。これにより、撮影者はファインダ光学系を介してファインダ接眼窓18から被写体像を観察することができる。
【0023】
またペンタプリズム22は、撮影光束の一部を測光センサ37にも導く。測光回路107は、測光センサ37から出力された測光値を観察面上の各エリアの輝度信号に変換し、MPU101に出力する。MPU101は、輝度信号に基づいて露出値を算出する。
【0024】
シャッタユニット32は、例えば機械フォーカルプレーンシャッタであり、撮影者がファインダ接眼窓18を介して被写体像を観察する際は、シャッタ先幕が遮光位置にあるとともに、シャッタ後幕が露光位置にある状態となる。また撮影時には、シャッタ先幕が遮光位置から露光位置へ移動する露光走行を行うことにより撮像光束を通過し、後述する撮像素子33は結像された被写体像を光電変換して撮像を行う。そして設定されたシャッタ秒時が経過した後、シャッタ後幕は露光位置から遮光位置へ移動する遮光走行を行い、これにより1つの画像データにかかる撮影が完了する。なお、シャッタユニット32は、MPU101から制御命令を受けたシャッタ駆動回路104により制御される。
【0025】
画像信号処理回路105は、撮像素子33より出力されたアナログ画像信号に対して、A/D変換処理を行い、さらに得られたデジタル画像データに対してノイズ除去処理やゲイン調整処理等の様々な画像処理を実行する。スイッチセンサ回路106は、メインSW43、クリーニングSW44等のデジタルカメラ100が備えるユーザインタフェースを撮影者が操作することにより入力される入力信号をMPU101に送信する。クリーニングSW44は、光学ローパスフィルタ410の表面に付着した塵埃等の異物の除去指示を行うためのユーザインタフェースであり、撮影者はクリーニングSW44を操作することにより手動でフィルタ上の異物の除去を実行させることができる。
【0026】
異物除去ユニットとしての撮像ユニット400は、光学ローパスフィルタ410、圧電素子430、撮像素子33を含む部品がユニット化されたブロックである。光学ローパスフィルタ410は光学部材に相当する。
【0027】
撮像素子33は、例えばCMOSセンサやCCD等の撮像デバイスであり、上述したように、結像された被写体の光学像を光電変換することによりアナログ画像信号を出力する。圧電素子430は、例えばピエゾ素子等の単板の圧電素子であり、MPU101から制御信号を受信した圧電素子駆動回路111により加振され、振動を光学ローパスフィルタ410に伝えるように構成されている。MPU101と圧電素子駆動回路111は駆動制御手段として機能する。振動検出回路112は光学ローパスフィルタ410の振動を検出する振動検出手段として機能する。温度センサ113は光学部材周辺の温度を検出する温度検出手段として機能する。
【0028】
<異物除去ユニットの構造>
ここで、光学ローパスフィルタ410を振動させてフィルタ上の異物の除去を行う、異物除去ユニットとしての撮像ユニット400について、図2を参照してさらに詳細に説明する。図2は、撮像ユニット400の構成を概略的に示した分解斜視図である。
【0029】
撮像素子33の前方に配置された光学ローパスフィルタ410は、水晶からなる1枚の複屈折板であり、その形状は矩形状である。光学ローパスフィルタ410は、光路上に配置され、光束が通過する光学有効領域が設定される矩形状の光学部材である。
【0030】
光学ローパスフィルタ410は、光学有効領域の外側に一対の圧電素子430aおよび430bを配置する周縁部を有しており、撮影光軸中心に対して直交する方向(カメラ左右方向)は対称である。このようにした光学ローパスフィルタ410の表面には、赤外カットや反射防止などの光学的なコーティングが施されている。
【0031】
圧電素子430aおよび430bは、後述するようにそれぞれ1枚の圧電部材上に複数の電極が一体的に形成されており、短冊状の外形を有する。そして、光学ローパスフィルタ410の対向する2つの短辺に沿ってそれぞれ配置される。
【0032】
より詳しくは、圧電素子430aおよび430bは、光学ローパスフィルタ410の周縁部において、第1の圧電素子である圧電素子430aの長辺が光学ローパスフィルタ410の一方の短辺(一方端)と平行となるように貼着される。第2の圧電素子である圧電素子430bの長辺が光学ローパスフィルタ410の他方の短辺(他方端)と平行となるように貼着される。
【0033】
光学ローパスフィルタ410は、その辺に平行な複数の腹部および節部が生じるように波状に振動される。圧電素子430aおよび430bに周期的な電圧が印加され、圧電素子430は伸縮運動する。それに伴って光学ローパスフィルタ410も周期的な屈曲変形を生じる。具体的な振動の様子については後述する。
【0034】
光学ローパスフィルタ保持部材420は樹脂または金属で形成され、光学ローパスフィルタ410を保持する。光学ローパスフィルタ保持部材420は撮像素子保持部材510にビス固定される。
【0035】
付勢部材440は光学ローパスフィルタ410を撮像素子33の方向に付勢する。付勢部材440は光学ローパスフィルタ保持部材420に係止される。付勢部材440はデジタルカメラ100の接地電位となる部分(グランド)に電気的に接続されている。光学ローパスフィルタ410表面もデジタルカメラ100の接地電位となる部分(グランド)に電気的に接続されている。これにより、光学ローパスフィルタ410表面への塵埃等の静電気的な付着を抑制することができる。
【0036】
弾性部材450は断面が略円形の枠形状を有し、光学ローパスフィルタ410と光学ローパスフィルタ保持部材420とで挟まれる。付勢部材440が光学ローパスフィルタ410を付勢することで、弾性部材450は光学ローパスフィルタ410と光学ローパスフィルタ保持部材420との間で押しつぶされる。したがって、弾性部材450を押しつぶす力の大きさは、付勢部材440の撮像素子33方向への付勢力により決定される。なお、弾性部材450はゴムでもよいし、ポロン等のウレタンフォームを用いてもよい。
【0037】
光学部材460は、位相板(偏光解消板)と、赤外カットフィルタと、光学ローパスフィルタ410に対して屈折方向が90°異なる複屈折板と、を貼り合わせた光学部材である。光学部材460は光学ローパスフィルタ保持部材420に接着固定される。
撮像素子保持部材510は矩形の開口部が形成され、その開口部に撮像素子33を露出させた状態で撮像素子33を固定保持する。撮像素子保持部材510はデジタルカメラ100の本体にビス等で固定される。
【0038】
マスク520は撮像素子33に撮影光路外からの余分な光が入射することを防ぐために、光学ローパスフィルタ保持部材420と撮像素子33とで挟まれて保持される。
【0039】
撮像素子付勢部材530は左右一対の板バネ状の付勢部材である。撮像素子付勢部材530は撮像素子保持部材510にビス固定され、撮像素子33を撮像素子保持部材510に押し付ける。
【0040】
以上の構成をとることにより、光学ローパスフィルタ410は、付勢部材440と弾性部材450とで挟み込まれて振動自在に支持される。
【0041】
<振動の説明>
次に、図3〜図6を用いて、本実施の形態における光学ローパスフィルタ410に発生する振動の説明を行う。本実施の形態では、光学ローパスフィルタ410の長辺方向(図中、左右方向)に進行する進行波を光学ローパスフィルタ410に発生させる。すなわち、光学ローパスフィルタ410に時間位相をずらして、次数が1つ異なる二つの曲げ振動を励起することによって、光学ローパスフィルタ410に進行波を発生させている。
【0042】
図3は、本実施の形態における光学ローパスフィルタ410に励起される2つの振動モードの周波数と振幅の関係を示すグラフである。図3に示すように、f(m)で示される周波数でm次の振動モードの曲げ振動が励起され、f(m+1)で示される周波数でm+1次の振動モードの曲げ振動が励起される。
【0043】
ここで、圧電素子430aおよび430bに印加する電圧の周波数fをf(m)<f<f(m+1)に設定すると、m次の振動モードの曲げ振動の共振とm+1次の振動モードの曲げ振動の共振との両方を利用することができる。fをf<f(m)に設定すると、m次の振動モードにおける共振を利用することはできるが、f(m+1)次の振動モードにおける共振点から離れるため、m+1次の振動モードにおける共振を利用することは困難となる。
【0044】
また、f(m+1)<fとした場合は、m+1次の振動モードにおける共振だけしか利用することができない。本実施の形態では、両方の振動モードにおける共振を利用するため、周波数fはf(m)<f<f(m+1)となる範囲で設定する。
【0045】
図4(a)および図4(b)は、mが奇数の場合のm次およびm+1次の振動モードの波形、並びに圧電素子430aおよび430bに印加される電圧を示す図である。
【0046】
図4(a)および図4(b)では、mが奇数のときの例としてm=9の場合を示す。図4(a)は光学ローパスフィルタ410をメインミラー6側から見た図である。圧電素子430aおよび430bは光学ローパスフィルタ410の撮像素子33側の表面に貼着されている。
【0047】
図4(a)に示すように、光学ローパスフィルタ410の長辺方向には、それぞれの振動モードの曲げ振動において圧電素子430の長辺方向に複数の節が等間隔で現れる。図4(b)には、それぞれの振動モードの曲げ振動において圧電素子430aおよび430bに印加される交流電圧の振幅と時間位相とを実数成分と虚数成分で表現している。
【0048】
図4(b)に図示される(1)はm次の振動モードの曲げ振動の交流電圧を示している。図4(b)に図示される(2)はm+1次の振動モードの交流電圧を示している。図4(b)に図示される(3)はm+1次の振動モードの曲げ振動の時間位相を90°ずらした場合の交流電圧を示している。
【0049】
なお、ここでは、2つの振動モードの曲げ振動で同じ振幅を出すために、m次振動モードの曲げ振動とm+1次振動モードの曲げ振動の振幅比をA:1として、各振動モードの曲げ振動の電圧をm次の振動モードの曲げ振動における振幅で規格化している。
【0050】
光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動と、第1の曲げ振動とは時間位相が90°異なるm+1次の振動モードの曲げ振動を同時に励起させるためには、図4(b)に図示される(1)と(3)の交流電圧を加算すればよい。すなわち、図4(b)に図示される(4)に示す交流電圧を印加すればよい。
【0051】
次に、上記の制御方法によって、2つの振動モードの曲げ振動を同時に励起した場合の光学ローパスフィルタ410の挙動について説明する。本実施形態では、9次と10次の振動モードを同時に励起する場合を考える。
【0052】
時間位相を90°ずらして、2つの振動モードの曲げ振動を同時に励起した場合の光学ローパスフィルタ410の各時間位相での挙動を図5および図6に図示する。図中の横軸は、光学ローパスフィルタ410内での位置を表しており、左端から右端までを0〜360の数値で表している。また、光学ローパスフィルタ410の長辺方向をX、短辺方向をY、面の法線方向をZとする。
【0053】
図5および図6において、Cは振動モードが9次の曲げ振動の波形、Dは振動モードが10次の曲げ振動の波形を表している。また、Eが2つのモードが合成された波形を表している。
【0054】
つまり、Eは実際の光学ローパスフィルタ410の振幅を表している。Fは光学ローパスフィルタ410のZ方向の加速度である。光学ローパスフィルタ410の表面に付着した異物は、光学ローパスフィルタ410が変形することによって、法線方向の力を受けて移動して行く。
【0055】
つまり、Z方向の加速度を示す曲線Fが正の値をとるとき、異物は面外に突き上げられ、この時間位相における光学ローパスフィルタ410の変位を示す曲線Eの法線方向の力を受ける。図中rn(n=1、2、3、…)で示した区間では、異物は右方向(X方向の正の向き)に力を受ける。図中ln(n=1、2、3、…)で示した区間では、異物は左方向(X方向負の向き)に力を受ける。結果として、Xn(n=1、2、3、…)で示す場所に異物は移動する。本実施形態では、時間位相が進むにつれて、このXn(n=1、2、3、…)がX方向正の向きに移動して行くことによって、異物がX方向正の向きに移動して行く。
【0056】
<圧電素子の電極配置>
次に、図7は、圧電素子430aの構成を説明する図である。図7は、圧電素子430aの三面図である。図7に図示するように、圧電素子430aは、1枚のピエゾ素子である圧電部材431と、圧電部材431の表面に形成される駆動電極AF、駆動電極AB、センサ電極SF、グランド電極SBの4種の電極から構成される。
【0057】
図7に図示するように、圧電部材431のF面(第1の面)には、駆動電極AFが2つとセンサ電極SFが1つ形成される。すなわち、駆動電極は圧電部材のF面(第1の面)に複数形成されている。圧電部材431のB面(第2の面)には、駆動電極ABが2つとグランド電極SBが1つ形成される。2つの駆動電極AFと2つの駆動電極ABは、それぞれ圧電部材431を挟んで表裏の関係となるように形成される。2つの駆動電極AFおよび2つの駆動電極ABは、光学ローパスフィルタ410に振動を励起させるための駆動電極である。
【0058】
制御回路である圧電素子駆動回路111が、2つの駆動電極AFと2つの駆動電極ABに対して交互に電圧を印加することで、光学ローパスフィルタ410を振動させる。
【0059】
センサ電極SFは、光学ローパスフィルタ410の振動を検出するための振動検出電極である。センサ電極SFは、圧電部材431のF面(第1の面)で2つの駆動電極AFの間に形成される。センサ電極SFは、振動検出回路112に接続される。
【0060】
グランド電極SBは、デジタルカメラ100の接地電位となる部分(グランド)に電気的に接続される。グランド電極SBは、圧電部材431のB面(第2の面)で2つの駆動電極ABの間に形成される。センサ電極SFとのグランド電極SBは、それぞれ圧電部材431を挟んで表裏の関係となるように形成される。
【0061】
センサ電極SFが接続される振動検出回路112は、接地電圧となるグランド電極SBに対して、センサ電極SFの発生する出力電圧がどのように変化するかを監視して、光学ローパスフィルタ410の振動を検出する。
【0062】
駆動電極AF、駆動電極AB、センサ電極SF、グランド電極SBは、ACF(異方性導電フィルム)を用いた熱圧着によって不図示の圧電素子用フレキシブルプリント基板に接続される。駆動電極AFおよび駆動電極ABは、圧電素子用フレキシブルプリント基板の配線パターンを介して、圧電素子駆動回路111に接続される。振動検出電極であるセンサ電極SFは、圧電素子用フレキシブルプリント基板の配線パターンを介して、振動検出回路112に接続される。グランド電極SBは、圧電素子用フレキシブルプリント基板の配線パターンを介して、デジタルカメラ100の接地電位となる部分に接続される。
【0063】
このように構成された圧電素子430aは、圧電素子430aの長辺が光学ローパスフィルタ410の一方の短辺(一辺)に対して平行になるように、圧電部材431のF面もしくはB面を光学ローパスフィルタ410に貼着する。
【0064】
なお、圧電素子430bも圧電素子430aと同様に構成される。圧電素子430bは、圧電素子430bの長辺が光学ローパスフィルタ410の他方の短辺(他辺)に対して平行になるように、圧電部材431のF面もしくはB面を光学ローパスフィルタ410に貼着する。
【0065】
<センサ電極の配置>
次に、圧電素子430aおよび430bを光学ローパスフィルタ410に貼着した際に、圧電素子430aおよび430bにそれぞれ形成されるセンサ電極SFの位置について説明する。
【0066】
図8は、圧電素子430aおよび430bのB面を光学ローパスフィルタ410の撮像素子側の面に貼着した状態を撮像素子側から見た図である。図8に示すように、圧電素子430aの長辺は光学ローパスフィルタ410の一方の短辺(一辺)に沿うように、圧電素子430aは光学ローパスフィルタ410に貼着される。圧電素子430aの長辺の長さは光学ローパスフィルタ410の一方の短辺(一辺)の長さとほぼ等しい。
【0067】
図8に示すように、圧電素子430bの長辺は光学ローパスフィルタ410の他方の短辺(他辺)に沿うように、圧電素子430aは光学ローパスフィルタ410に貼着される。圧電素子430bの長辺の長さは光学ローパスフィルタ410の短辺とほぼ等しい。
【0068】
上述したように周波数f(f(m)<f<f(m+1))で光学ローパスフィルタ410を振動させ、異物を搬送させる。このとき、周波数fは、f(m)からf(m+1)の間で、最も搬送に適した進行波が励起される周波数でなければならない。
【0069】
図8は、周波数fにおける進行波の概略図を表している。図8は、光学ローパスフィルタ410、圧電素子430aおよび430bのみを、撮像素子側から見た図である。また、図中の斜線で囲まれた領域は、デジタルカメラ100に入射した撮影光束が通過する光学有効領域である。
【0070】
図8に図示するように、光学ローパスフィルタ410の長辺方向、すなわち圧電素子430aおよび430bが貼着される光学ローパスフィルタ410の短辺と直交する方向に進行する進行波が励起される。このとき、光学ローパスフィルタ410の短辺方向には、図示するような1次の振動モードの定常波が発生する。
【0071】
図中の点線は、この1次の定常波の節を表している。この1次の定常波の節は、光学ローパスフィルタ410の短辺方向の中心軸を対称として、光学ローパスフィルタ410の短辺方向に1つずつ出現する。この1次の定常波は、周波数f(m)(m次の振動モード)と周波数f(m+1)(m+1次の振動モード)との間の周波数において発生する定常波である。
【0072】
光学ローパスフィルタ410の表面に付着した異物は、光学ローパスフィルタ410の長辺方向に進行する進行波と、光学ローパスフィルタ410の短辺方向に発生する1次の定常波との合成波によって、光学ローパスフィルタ410の長辺方向に搬送される。
【0073】
異物を搬送する合成波の振幅は、光学ローパスフィルタ410の短辺方向に発生する1次の定常波の腹となる光学ローパスフィルタ410の短辺方向の中心軸で、最大となる。異物を搬送する合成波の振幅は、光学ローパスフィルタ410の短辺方向の中心軸から光学ローパスフィルタ410の短辺方向に発生する1次の定常波の節となる部分に近づくにつれ、小さくなる。そして、異物を搬送する合成波の振幅は、光学ローパスフィルタ410の短辺方向に発生する1次の定常波の節となる部分で、最小となる。
【0074】
したがって、光学ローパスフィルタ410の短辺方向に発生する1次の定常波の節となる部分では、異物を搬送するために十分な振幅が得られない可能性がある。
【0075】
本実施形態では、光学ローパスフィルタの大きさを最適化することで、この1次の定常波の節を光学有効領域の外側に発生させている。すなわち、1次の定常波の節が光学有効領域の外側に発生するように、光学ローパスフィルタの大きさを設定している。
【0076】
これによって、光学ローパスフィルタ410の光学有効領域内では異物を搬送するために十分な振幅を得ることができる。
【0077】
光学ローパスフィルタ410の長辺方向に進行する進行波は、光学ローパスフィルタ410の長辺の端、すなわち圧電素子430aおよび430bが貼着されていない光学ローパスフィルタ410の端で反射する。これによって、光学ローパスフィルタ410の短辺方向に発生する1次の定常波とは別の振動が発生する。
【0078】
光学ローパスフィルタ410の長辺の端に発生する反射波は、異物を搬送する合成波と干渉する。この干渉によって、光学ローパスフィルタ410の長辺の端付近では、合成波の振幅に大小のムラが発生し、異物を搬送する合成波の位相とは異なる位相の振動が発生してしまう。
【0079】
したがって、センサ電極SFが光学ローパスフィルタ410の短辺方向に発生する1次の定常波の節よりも外側に位置すると、センサ電極SFは異物を搬送する合成波を精度よく検出することができない。
【0080】
一方、センサ電極SFが光学ローパスフィルタ410の短辺方向に発生する1次の定常波の節上に位置すると、異物を搬送する合成波の振幅が小さいので、振動とノイズとの判別が難しくなる。
【0081】
このようなことから、センサ電極SFが光学ローパスフィルタ410の短辺方向に発生する1次の定常波の節と節の間に位置するように、圧電素子430aおよび430bを光学ローパスフィルタ410に貼着している。すなわち、センサ電極SFは、圧電素子430aおよび430bが貼着される光学ローパスフィルタ410の短辺方向に発生する振動の複数の節間に位置する。本実施形態では、センサ電極SFの位置を、光学ローパスフィルタ410の短辺方向の中心軸上としている。
【0082】
これによって、センサ電極SFは、振幅が最大となる合成波を検出することができるので、振動とノイズとの判別が容易となる。また、光学ローパスフィルタ410の短辺方向の中心軸に近づくにつれ、光学ローパスフィルタ410の長辺の端に発生する反射波による影響も小さくなる。
【0083】
したがって、センサ電極SFの位置を光学ローパスフィルタ410の短辺方向の中心軸上とすることで、センサ電極SFは異物を搬送する進行波を精度よく検出することができる。
【0084】
なお、センサ電極SFの大きさは、センサ電極SFからの出力電圧がノイズレベルより十分大きくなる程度の大きさであればよい。駆動電極AFは、光学ローパスフィルタ410に振動を励起させるための電極であるので、可能な限り大きく形成することが好ましい。
【0085】
ここで、圧電素子430aに形成されている2つの駆動電極AFと2つの駆動電極ABを第1の駆動電極とし、圧電素子430aに形成されているセンサ電極SFを第1のセンサ電極とする。同様に、圧電素子430bに形成されている2つの駆動電極AFと2つの駆動電極ABを第2の駆動電極とし、圧電素子430bに形成されているセンサ電極SFを第2のセンサ電極とする。
【0086】
圧電素子駆動回路111は、圧電素子430aの第1の駆動電極および圧電素子430bの第2の駆動電極にそれぞれ接続されている。圧電素子駆動回路111が圧電素子430aおよび430bに与える電圧はMPU101によって制御されている。振動検出回路112は、圧電素子430aの第1のセンサ電極および圧電素子430bの第2のセンサ電極に接続され、圧電素子430aの第1のセンサ電極からの出力および圧電素子430bの第2のセンサ電極からの出力は振動検出回路112に入力される。
【0087】
<異物除去動作>
図9を用いて、本実施例における異物除去動作を説明する。図9(a)は本実施例における異物除去動作のメインフローチャートである。
【0088】
ステップS100で異物除去動作のメインフローを開始する。
【0089】
ステップS110では、スイッチセンサ回路106がクリーニングSW44のオン操作を検出する。ステップS120では、MPU101が温度センサ113からの出力に基づいて、デジタルカメラ100内部の温度を検出する。
【0090】
ステップS130では、EEPROM108に記憶されている温度データを読み出す。EEPROM108は、過去のプレ駆動によって算出した本駆動パラメータとプレ駆動を実行させたときの温度データとを関連付けて記憶している。
【0091】
ステップS140では、ステップS120で検出されたデジタルカメラ100内部の温度がEEPROM108に記憶される温度に基づいて設定される所定の温度範囲のいずれかに入っているかどうかを判断する。デジタルカメラ100内部の温度がいずれかの温度範囲内に入っている場合にはステップS170へ進み、デジタルカメラ100内部の温度がいずれの温度範囲内にも入っていない場合にはステップS150へ進む。
【0092】
ステップS150では、異物除去動作を実行させてからの経過時間があらかじめ設定される所定の時間範囲内であるかどうかを判断する。異物除去動作を実行させてからの経過時間が所定の時間範囲内である場合にはステップS170へ進み、異物除去動作を実行させてからの経過時間が所定の時間範囲内でない場合にはステップS160へ進む。
【0093】
ステップS160では、プレ駆動を実行する。プレ駆動の詳細については後述する。
【0094】
ステップS170では、本駆動を実行する。本駆動の詳細については後述する。
【0095】
ステップS180では、MPU101がタイムカウントを開始する。これによって、異物除去動作を実行させてからの経過時間を計時することができる。すなわち、MPU101は圧電素子を駆動してからの経過時間を計測する計測手段として機能する。
【0096】
そして、ステップS190で異物除去動作のメインフローを終了する。
【0097】
図9(b)は本実施例におけるステップS160に示すプレ駆動の詳細を説明するサブフローチャートである。
【0098】
光学ローパスフィルタ410に進行波を発生させるためには、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動と、m次の振動モードの曲げ振動とは時間位相が90°異なるm+1次の振動モードの曲げ振動を同時に励起させる必要がある。
【0099】
したがって、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動を励起したときと、m次の振動モードの曲げ振動と同じ時間位相となるm+1次の振動モードの曲げ振動を励起したときで、どのくらいの時間位相のずれが生じるのかを検出する必要がある。
【0100】
そして、検出した時間位相のずれを考慮して、m次の振動モードの曲げ振動に対するm+1次の振動モードの曲げ振動の時間位相のずれ量を決定することが望ましい。
【0101】
例えば、m次の振動モードの曲げ振動とm+1次の振動モードの曲げ振動との検出した時間位相のずれが10°だとすると、m次の振動モードの曲げ振動に対するm+1次の振動モードの曲げ振動の時間位相のずれ量を80°と決定する。こうすることで、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動と、m次の振動モードの曲げ振動とは時間位相が90°異なるm+1次の振動モードの曲げ振動とを同時に励起させることが可能となる。これにより、光学ローパスフィルタ410に安定した進行波を発生させることが可能となる。
【0102】
プレ駆動では、まず、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動を励起させたときに、振動検出回路112で振動を検出する。ここで、m次の振動モードの曲げ振動が第1の曲げ振動に相当し、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動を励起させることが第1の駆動モードに相当する。
【0103】
次に、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードと同じ時間位相となるm+1次の振動モードの曲げ振動を励起させたときに、振動検出回路112で振動を検出する。ここで、m次の振動モードと同じ時間位相となるm+1次の振動モードの曲げ振動が第2の曲げ振動に相当し、m次の振動モードと同じ時間位相となるm+1次の振動モードの曲げ振動を励起させることが第2の駆動モードに相当する。
【0104】
光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動を励起したときに検出される振動と、光学ローパスフィルタ410にm+1次の振動モードの曲げ振動を励起したときに検出される振動とで、どのくらいの時間位相ずれが発生しているのかを検出する。
【0105】
そして、検出した時間位相ずれに基づいて、MPU101が本駆動の際に利用する駆動パラメータを作成する。MPU101が駆動パラメータ作成手段として機能する。作成した駆動パラメータと、デジタルカメラ100の内部の温度を基準に設定した温度範囲と、駆動パラメータの作成日時とを関連付けてEEPROM108に記憶する。ここで、EEPROM108は動作パラメータを記憶するメモリに相当する。
【0106】
プレ駆動によって、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動と、m次の振動モードの曲げ振動とは時間位相が正確に90°異なるm+1次の振動モードの曲げ振動を同時に励起させるための駆動パラメータを算出することができる。
【0107】
ステップS200でプレ駆動のサブフローを開始する。
【0108】
ステップS210では、圧電素子駆動回路111が圧電素子430aおよび430bに与える周波数f、電圧および通電時間を設定する。
【0109】
プレ駆動で使用する周波数fは本駆動で使用する周波数fと同じ周波数である。この周波数fは、光学ローパスフィルタ410の厚みのバラつきや環境温度などで撮像ユニット400ごとに異なる値である。この周波数fは例えば、インピーダンスアナライザ等で光学ローパスフィルタ410の共振周波数を測定することで、得ることができる。
【0110】
プレ駆動の際には、振動検出回路112で振動を検出することができる程度の振幅で光学ローパスフィルタ410を振動させれば十分である。
【0111】
本実施例では、この点を考慮して、プレ駆動の際に圧電素子430aおよび430bに与える第1の電圧は、本駆動の際に圧電素子430aおよび430bに与える第2の電圧よりも低い電圧となるように設定している。
【0112】
また、圧電素子430aおよび430bの駆動時間も振動検出回路112で振動を検出することができる程度の時間であれば十分である。
【0113】
したがって、プレ駆動の際に圧電素子430aおよび430bを1回駆動する第1の駆動時間は、本駆動の際に圧電素子430aおよび430bを1回駆動する第2の駆動時間よりも短い駆動時間となるように設定している。
【0114】
本実施例では、圧電素子駆動回路111が圧電素子430aおよび430bに与える電圧を40V、通電時間を20msとする。
【0115】
これによって、デジタルカメラ100の消費電力を低減することもできる。
【0116】
ステップS220では、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動を励起するように、圧電素子駆動回路111がステップS210で設定された周波数f、電圧および通電時間で圧電素子430aおよび430bを駆動する。
【0117】
光学ローパスフィルタ410の振動に伴って、圧電効果により圧電素子430aおよび430bのセンサ電極SFには周波数fの正弦波の電圧が発生する。このとき、圧電素子430aおよび430bのグランド電極SBは常に接地電圧(0[V])に保たれているので、振動検出回路112は圧電素子430aおよび430bからそれぞれ出力電圧を検出する。
【0118】
図4に示す例では、m次の振動モードの曲げ振動を励起する際には、圧電素子430aおよび430bに同じ位相の駆動電圧を与えている。したがって、振動検出回路112が圧電素子430aのセンサ電極SFから検出した出力電圧と圧電素子430bのセンサ電極SFから検出した出力電圧は同じ正弦波形となる。
【0119】
ステップS230では、光学ローパスフィルタ410にm+1次の振動モードの曲げ振動を励起するように、圧電素子駆動回路111がステップS210で設定された周波数f、電圧および通電時間で圧電素子430aおよび430bを駆動する。
【0120】
光学ローパスフィルタ410の振動に伴って、圧電効果により圧電素子430aおよび430bのセンサ電極SFには周波数fの正弦波の電圧が発生する。このとき、圧電素子430aおよび430bのグランド電極SBは常に接地電圧(0[V])に保たれているので、振動検出回路112は圧電素子430aおよび430bからそれぞれ出力電圧を検出する。
【0121】
図4に示す例では、m+1次の振動モードの曲げ振動を励起する際には、圧電素子430aには、m次の振動モードの曲げ振動を励起する際に与えた電圧と同じ位相の電圧を与えている。しかし、圧電素子430bには、m次の振動モードの曲げ振動を励起する際に与えた電圧とは位相を180°ずらした電圧を与えている。
【0122】
したがって、振動検出回路112が圧電素子430bのセンサ電極SFから検出した出力電圧は、圧電素子430aのセンサ電極SFから検出した出力電圧に対して、反転した正弦波形となる。
【0123】
ステップS240では、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動を励起したときに検出される振動と、光学ローパスフィルタ410にm+1次の振動モードの曲げ振動を励起したときに検出される振動との時間位相ずれを検出する。
【0124】
図10は、振動検出回路112が圧電素子430aのセンサ電極SFから検出した出力電圧を説明する図である。図10において、縦軸は電圧、横軸は時間である。縦軸に示される電圧は、光学ローパスフィルタ410の振幅に比例するものである。
【0125】
図中、実線で示す正弦波形Vmは、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動を励起させた際に、振動検出回路112が圧電素子430aのセンサ電極SFから検出した出力電圧である。図中の位相θmは、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動を励起させるために、圧電素子430aの駆動を開始してから、振動検出回路112が光学ローパスフィルタ410の振動を検出するまでの時間を表している。
【0126】
図中、点線で示す正弦波形Vm+1は、光学ローパスフィルタ410にm+1次の振動モードの曲げ振動を励起させた際に、振動検出回路112が圧電素子430aのセンサ電極SFから検出した出力電圧である。
【0127】
図中の位相θm+1は、光学ローパスフィルタ410にm+1次の振動モードの曲げ振動を励起させるために、圧電素子430aの駆動を開始してから、振動検出回路112が光学ローパスフィルタ410の振動を検出するまでの時間を表している。
【0128】
そして、図10におけるθdが、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動を励起したときに検出される振動と、光学ローパスフィルタ410にm+1次の振動モードの曲げ振動を励起したときに検出される振動との時間位相ずれに相当する。
【0129】
圧電素子430aに与えられる電圧は、m次の振動モードの曲げ振動を励起する際と、m+1次の振動モードの曲げ振動を励起する際で同じ位相である。そこで、本実施例では、m次の振動モードの曲げ振動を励起したときと、m+1次の振動モードの曲げ振動を励起したときとで、同じ位相の電圧が印加される圧電素子430aのセンサ電極SFから検出される出力電圧を用いて、上述の時間位相ずれを求めている。
【0130】
ステップS250では、ステップS240にて検出した時間位相ずれθdに基づいて、
m次の振動モードの曲げ振動に対するm+1次の振動モードの曲げ振動の時間位相を演算する。そして、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動と、m次の振動モードの曲げ振動の時間位相とは演算した時間位相だけ異なるm+1次の振動モードの曲げ振動を同時に励起させるための本駆動用の駆動パラメータをベクトル演算にて求める。
【0131】
例えば、m次の振動モードの曲げ振動に対してm+1次の振動モードの曲げ振動が10°遅れている(時間位相ずれθdが10°となる)場合には、m+1次の振動モードの時間位相を、m次の振動モードの時間位相に対して時間位相を80°遅らせる。そして、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動を励起させるためのパラメータと、時間位相が80°異なるm+1次の振動モードの曲げ振動を励起させるためのパラメータとをベクトル演算によって合成する。ベクトル演算によって合成された駆動パラメータが本駆動用の駆動パラメータとなる。
【0132】
ここで演算される駆動パラメータとは、圧電素子430aに与えられる印加電圧、圧電素子430bに与えられる印加電圧、および圧電素子430aの印加電圧に対する圧電素子430bの印加電圧の位相差である。
【0133】
ステップS260では、ステップS250にて演算した本駆動用の駆動パラメータをステップS120にて検出した温度データを基準に設定した温度範囲と、本駆動用の駆動パラメータの作成日時とを関連付けてEEPROM108に記憶する。
【0134】
ステップS270でプレ駆動のサブフローを終了し、メインフローにリターンする。
【0135】
図9(c)は本実施例におけるステップS170に示す本駆動の詳細を説明するサブフローチャートである。
【0136】
ステップS300で本駆動のサブフローを開始する。
【0137】
ステップS310では、EEPROM108から適切な本駆動用の駆動パラメータを読み出す。具体的には、ステップS120にて検出した温度がEEPROM108に記憶される温度範囲のいずれかに入っている場合には、ステップS120にて検出した温度が入っている温度範囲と関連付けられている本駆動用の駆動パラメータを読み出す。ステップS120にて検出した温度がEEPROM108に記憶される温度範囲のいずれにも入っていない場合には、本駆動用の駆動パラメータの作成日時が最も新しい駆動パラメータを読み出す。
【0138】
ステップS320では、ステップS310にて読み出した本駆動用の駆動パラメータを設定するとともに、圧電素子駆動回路111が圧電素子430aおよび430bに与える周波数f、電圧、位相差および通電時間を設定する。本実施例では、例えば、圧電素子駆動回路111が圧電素子430aに与える電圧を120V、圧電素子430bに与える電圧を100V、通電時間を500msとする。
【0139】
本駆動では、圧電素子430aおよび430bに与える電圧を高くし、通電時間を長くすることで、光学ローパスフィルタ410に付着した異物を除去できる確率が高くなるので、可能な限り大きな電圧を圧電素子430aおよび430bに与える。
【0140】
ステップS330では本駆動の繰り返し回数nをカウントアップする。
【0141】
ステップS340では、ステップS320にて設定した条件で、圧電素子駆動回路111が圧電素子430aおよび430bを駆動する。すなわち、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動と、m次の振動モードの曲げ振動の時間位相とは演算した時間位相だけ異なるm+1次の振動モードの曲げ振動を同時に励起させる。これが、第1の曲げ振動と時間位相が異なるとともに、第1の曲げ振動と次数が1つ異なる第2の曲げ振動とを同時に励起する第3の駆動モードに相当する。
【0142】
ステップS350では、本駆動の繰り返し回数nが予め設定した回数になったかどうかを判断する。本駆動の繰り返し回数nが予め設定した回数になった場合には、ステップS360に進み、本駆動の繰り返し回数nが予め設定した回数になっていない場合には、ステップS330に進む。
【0143】
ステップS360で本駆動のサブフローを終了し、メインフローにリターンする。
【0144】
本実施例では、光学ローパスフィルタ410にm次の振動モードの曲げ振動と、m次の振動モードの曲げ振動とは時間位相が正確に90°異なるm+1次の振動モードの曲げ振動を同時に励起させることができる。これによって、光学ローパスフィルタ410には安定した進行波を発生させることができる。また、本駆動の際に最大の異物除去性能を発揮するように、圧電素子430aおよび430bに与える電圧を可能な限り高く設定したとしても、プレ駆動時に消費電力を低減することができる。
【符号の説明】
【0145】
111 圧電素子駆動回路
112 振動検出回路
400 撮像ユニット
410 光学ローパスフィルタ
430a、430b 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部材と、
前記光学部材に貼着される圧電素子と、
前記光学部材に第1の曲げ振動を励起する第1の駆動モード、前記光学部材に前記第1の曲げ振動と次数が1つ異なる第2の曲げ振動を励起する第2の駆動モード、および前記光学部材に第1の曲げ振動と、前記第1の曲げ振動と時間位相が異なるとともに、前記第1の曲げ振動と次数が1つ異なる第2の曲げ振動とを同時に励起する第3の駆動モードで前記圧電素子を駆動する駆動制御手段と、
前記駆動制御手段が前記第1の駆動モードおよび前記第2の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際に前記光学部材の振動を検出する振動検出手段と、
前記駆動制御手段が前記第1の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際に検出される前記光学部材の振動と、前記駆動制御手段が前記第2の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際に検出される前記光学部材の振動との時間位相ずれに基づいて、前記駆動制御手段が前記第3の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際の駆動パラメータを設定する駆動パラメータ作成手段とを有し、
前記駆動手段は、前記駆動パラメータ作成手段によって設定された前記駆動パラメータを用いて、前記第3の駆動モードで前記圧電素子を駆動することを特徴とする異物除去装置。
【請求項2】
前記圧電素子は、駆動電極およびセンサ電極が形成され、前記駆動制御手段は前記駆動電極に電圧を与えることで、前記圧電素子を駆動し、前記振動検出手段は前記センサ電極の出力から前記光学部材の振動を検出することを特徴とする請求項1に記載の異物除去装置。
【請求項3】
前記圧電素子は、前記光学部材の一方端に貼着され、第1の駆動電極および第1のセンサ電極が形成される第1の圧電素子と、前記光学部材の他方端に貼着され、第2の駆動電極および第2のセンサ電極が形成される第2の圧電素子とを有し、
前記駆動制御手段が前記第1の駆動モードおよび前記第2の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際に、前記第1の駆動電極には同じ位相の電圧を与えるとともに、
前記振動検出手段は、前記駆動制御手段が前記第1の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際に前記第1のセンサ電極の出力から前記光学部材の振動を検出し、前記駆動制御手段が前記第2の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際に前記第1のセンサ電極の出力から前記光学部材の振動を検出することを特徴とする請求項2に記載の異物除去装置。
【請求項4】
前記駆動制御手段が前記第1の駆動モードおよび前記第2の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際に前記圧電素子に与えられる第1の電圧は、前記駆動制御手段が前記第3の駆動モードで前記圧電素子を駆動する際に前記圧電素子に与えられる第2の電圧よりも低いことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の異物除去装置。
【請求項5】
前記駆動制御手段が前記第1の駆動モードおよび前記第2の駆動モードで前記圧電素子を1回駆動する際の第1の駆動時間は、前記駆動制御手段が前記第3の駆動モードで前記圧電素子を1回駆動する際の第2の駆動時間よりも短いことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の異物除去装置。
【請求項6】
前記駆動パラメータ作成手段によって設定した前記駆動パラメータを記憶するメモリと、
前記駆動制御手段が前記第3の駆動モードで前記圧電素子を駆動してからの経過時間を計測する計測手段と、
前記計測手段によって計測される経過時間が所定の範囲内となる場合には、前記駆動パラメータ作成手段を動作させることなく、前記メモリに記憶される前記駆動パラメータを用いて、前記駆動制御手段が前記第3の駆動モードで前記圧電素子を駆動することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の異物除去装置。
【請求項7】
前記光学部材周辺の温度を検出する温度検出手段と、
前記駆動パラメータ作成手段によって設定した前記駆動パラメータを前記温度検出手段によって検出した温度と関連付けて記憶するメモリと、
前記駆動制御手段を動作させる際に前記温度検出手段によって検出される温度が前記メモリに記憶されている温度に基づいて設定される所定の範囲内となる場合には、前記駆動パラメータ作成手段を動作させることなく、前記メモリに記憶される前記駆動パラメータを用いて、前記駆動制御手段が前記第3の駆動モードで前記圧電素子を駆動することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の異物除去装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載した異物除去装置を備えた光学機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−194435(P2012−194435A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59219(P2011−59219)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】