異種金属板の接合方法および異種金属接合体
【課題】接着剤による接着とスポット溶接とを併用して異種金属板同士を強固に接合する。
【解決手段】本発明の接合方法には、アルミニウム合金板1とめっき鋼板2とを接着剤5を介して重ね合わせる積層工程と、積層工程で重ね合わせられた上記両金属板1,2をスポット溶接用の一対の電極7,7の間に挟み込んで加圧するとともに、上記一対の電極7,7間に電流を流すプレヒート工程と、プレヒート工程の後、上記電極7,7間の通電を停止した状態で、上記両金属板1,2を上記プレヒート工程の開始時よりも高い加圧力で加圧し、これを所定の冷却時間に亘り継続する冷却工程と、冷却工程の後、上記プレヒート工程の開始時よりも高い加圧力で上記両金属板1,2を加圧しつつ、上記プレヒート工程での通電電流値よりも高い電流を上記一対の電極7,7間に流すことにより、上記両金属板1,2同士を溶接する溶接工程とを含む。
【解決手段】本発明の接合方法には、アルミニウム合金板1とめっき鋼板2とを接着剤5を介して重ね合わせる積層工程と、積層工程で重ね合わせられた上記両金属板1,2をスポット溶接用の一対の電極7,7の間に挟み込んで加圧するとともに、上記一対の電極7,7間に電流を流すプレヒート工程と、プレヒート工程の後、上記電極7,7間の通電を停止した状態で、上記両金属板1,2を上記プレヒート工程の開始時よりも高い加圧力で加圧し、これを所定の冷却時間に亘り継続する冷却工程と、冷却工程の後、上記プレヒート工程の開始時よりも高い加圧力で上記両金属板1,2を加圧しつつ、上記プレヒート工程での通電電流値よりも高い電流を上記一対の電極7,7間に流すことにより、上記両金属板1,2同士を溶接する溶接工程とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金板およびめっき鋼板からなる異種金属板同士を接着剤による接着とスポット溶接とにより接合する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車や鉄道車両等の輸送機器、機械部品、建築構造物等の分野では、例えば鋼材とアルミニウム合金といった異種金属同士を接合する方法や、異種金属同士の接合体に関する研究開発が活発に行われている。
【0003】
特に、自動車の分野では、近年の厳しいエネルギー事情等を背景にして、車体をより軽量化することが求められているため、軽量なアルミニウム合金製の板材を鋼板とともに使用することが多くなってきている。しかしながら、自動車という腐食環境の厳しい製品では、鋼板とアルミニウム合金板とを直接接合してしまうと、両者の電位差に起因した腐食(電食)が生じ易くなるという問題がある。そこで、電食を防止するための技術として、上記両金属板を接着剤を介して接着し、かつスポット溶接を行うという、いわゆるウェルドボンド法が知られている。
【0004】
ところが接着剤は導電性が悪く、スポット溶接時に通電抵抗の増大を招いてしまうため、溶接電流をあまり上げることができない。また、鋼板とアルミニウム合金板との境界面の清浄度を悪化させるため、結果として十分な接合強度が得られないという問題がある。
【0005】
そこで、例えば下記特許文献1では、異種金属からなる2枚の金属板をウェルドボンドにより接合する際に、上記両金属板の間に介在する接着剤(シール材)を少なくとも接合部の中央から排出させることにより、上記両金属板を直接接触させ、その状態で溶接電流を通電するようにしている。
【0006】
また、下記特許文献2に示されるように、2枚の金属板の間に塗布された接着剤層中に熱可塑性樹脂製のスペーサを含有させ、その状態で上記両金属板を溶接用の電極で加圧、通電することにより、上記接着剤およびスペーサを接合部から排除しつつ溶接するという接合方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−23583号公報
【特許文献2】特開昭59−193773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1では、接合部の中央から接着剤を効率よく排出するために、電極の先端部を凸状曲面に形成することが行われているが、電極の先端が凸状曲面であれば、その凸状曲面の頂部に対応する部分の接着剤は確実に排出されるものの、接着剤が局所的にしか排出されず、鋼板とアルミニウム合金板との接合面積が小さくなる結果、十分な接合強度が得られなくなるおそれがある。また、同文献では、高周波コイル等からなる外部加熱手段を用いて接合部付近を加熱することにより、接着剤の排出を容易化するという提案もなされているが、周囲への熱伝導による影響があり、接合部の接着剤を効果的に昇温できない可能性がある。
【0009】
上記特許文献2では、熱可塑性樹脂製のスペーサを金属板の間に挟み込んだ状態で加圧、通電するため、上記特許文献1と比べて接着剤を接合部から効果的に排出することが可能であると予想される。しかしながら、このような熱可塑性樹脂製のスペーサが介在する状態で金属板を接合した場合には、例えば得られた接合体を塗装し、その後の乾燥工程で加熱処理を行ったときに、上記熱可塑性樹脂製のスペーサが溶融して外部に流出してしまうおそれがある。このような樹脂の流出が起きると、接合部のシール性が損なわれ、特に車体用の構造材としては致命的な欠陥となる。また、同文献には、加圧および通電時の好ましい条件が記載されておらず、加圧から通電に至る処理をどのように行えば十分な接合強度が得られるのかが必ずしも明確でなかった。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、接着剤による接着とスポット溶接とを併用して異種金属板同士を接合したときの接合強度を効果的に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、アルミニウム合金板およびめっき鋼板からなる異種金属板同士を接着剤による接着とスポット溶接とにより接合する方法であって、上記アルミニウム合金板とめっき鋼板とを上記接着剤を介して重ね合わせる積層工程と、上記積層工程で重ね合わせられた上記両金属板をスポット溶接用の一対の電極の間に挟み込んで加圧するとともに、上記一対の電極間に電流を流すプレヒート工程と、上記プレヒート工程の後、上記電極間の通電を停止した状態で、上記両金属板を上記プレヒート工程の開始時よりも高い加圧力で加圧し、これを所定の冷却時間に亘り継続する冷却工程と、上記冷却工程の後、上記プレヒート工程の開始時よりも高い加圧力で上記両金属板を加圧しつつ、上記プレヒート工程での通電電流値よりも高い電流を上記一対の電極間に流すことにより、上記両金属板同士を溶接する溶接工程とを含むことを特徴とするものである(請求項1)。
【0012】
本発明の接合方法によれば、アルミニウム合金板およびめっき鋼板に溶接用の高電流を流す前に、これら両金属板を電極により加圧しつつ通電するプレヒート工程を行うようにしたため、金属の温度を融点未満の範囲に抑えながら、アルミニウム合金板とめっき鋼板との間の接着剤を、通電による昇温効果で十分に軟化させることができる。また、その後の冷却工程において、通電を停止した状態でより高い加圧力を加えることにより、その加圧された部分(加圧部)から上記接着剤を効率よく排出することができ、さらには、金属同士を十分になじませることができる。これにより、材料の電気抵抗(特にアルミニウム合金板とめっき鋼板との界面抵抗)が効果的に低減され、上記電極から高い溶接電流を流しても、過剰な抵抗発熱量が発生することがなく、溶接時に母材が飛散するチリと呼ばれる現象が抑制される。よって、良好な溶接性を確保しながら、より高い溶接電流を流すことができ、接合強度を効果的に向上させることができる。
【0013】
なお、上記プレヒート工程から溶接工程までの間に加えられる加圧力の具体的な値や加圧力の変化タイミングは適宜変更可能であるが、好適な例として、上記プレヒート工程の開始から所定期間の間、上記電極の加圧力を第1の加圧力に設定し、上記プレヒート工程の途中もしくは終了時に、上記加圧力を上記第1の加圧力よりも大きい第2の加圧力に増大させ、上記冷却工程および溶接工程が終了するまで上記第2の加圧力での加圧を継続するとよい(請求項2)。
【0014】
上記構成において、より好ましくは、上記プレヒート工程よりも前に、上記アルミニウム合金板およびめっき鋼板を上記一対の電極で挟み込んで加圧するプレ加圧工程を行う(請求項3)。
【0015】
このようにすれば、プレヒート工程での通電電流が安定化して適正な昇温効果が得られるという利点がある。
【0016】
さらに、上記プレ加圧工程での加圧力を、上記第1の加圧力よりも大きく設定することが好ましい(請求項4)。
【0017】
このようにすれば、プレ加圧工程中においても、上記電極による加圧部から接着剤を積極的に排出することができるため、その後のプレヒート工程および冷却工程による効果と合わせて、上記加圧部から接着剤をより確実に排出することができ、アルミニウム合金板とめっき鋼板との溶接性をさらに向上させることができる。また、接着剤の排出力が高まることで、プレヒート工程および冷却工程の時間をある程度短縮しても、十分な接合強度を確保できるという利点がある。
【0018】
本発明の接合方法において、好ましくは、上記積層工程として、上記アルミニウム合金板とめっき鋼板とを接着剤を介して重ね合わせるとともに、上記めっき鋼板とは別の鋼板を上記アルミニウム合金板とは反対側からめっき鋼板に重ね合わせ、かつこの状態で上記プレヒート工程、冷却工程、および溶接工程を含む各工程を行うことにより、上記アルミニウム合金板、めっき鋼板、および別の鋼板を互いに接合する(請求項5)。
【0019】
このようにすれば、アルミニウム合金板およびめっき鋼板を含む3枚の金属板を同時に接合できるという利点がある。
【0020】
また、本発明は、アルミニウム合金板とめっき鋼板とが接合された異種金属接合体であって、上記アルミニウム合金板とめっき鋼板との間に、スポット溶接により溶接された第1の接合部と、接着剤により接着された第2の接合部とが存在し、上記第1の接合部が平面視で略円環状に形成されたことを特徴とするものである(請求項6)。
【0021】
本発明の異種金属接合体によれば、アルミニウム合金板とめっき鋼板との間に、スポット溶接により接合され、かつ円環状に形成された第1の接合部が存在するため、例えば同じ面積の接合部を中実円形状に形成した場合と比較して、接合部の外径を大きくすることができ、曲げやねじりに強く、疲労強度にも優れた接合構造を構築できるという利点がある。また、上記第1の接合部以外に、接着剤により接着された第2の接合部が存在するため、アルミニウム合金板とめっき鋼板との間への水分の浸入およびこれに起因した電食の発生を効果的に防止できるという利点がある。
【0022】
本発明の異種金属接合体において、好ましくは、上記第1の接合部の周囲が上記第2の接合部により囲まれている(請求項7)。
【0023】
この構成によれば、第1の接合部を取り囲むように形成された第2の接合部の接着剤により、上記のような電食の発生をより効果的に防止できるという利点がある。
【0024】
本発明の異種金属接合体において、好ましくは、円環状の上記第1の接合部よりも中心側に、上記接着剤の熱分解物が残存した弱接合部が存在する(請求項8)。
【0025】
この構成によれば、接着剤の熱分解物により接合強度が弱められた弱接合部を中心側に形成しながらも、その周りに円環状の第1の接合部を形成することにより、接合強度を十分に確保できるという利点がある。
【0026】
本発明の異種金属接合体において、好ましくは、上記めっき鋼板に対し、上記アルミニウム合金板とは反対側から別の鋼板が接合される(請求項9)。
【0027】
また、この場合、上記めっき鋼板と上記別の鋼板との間にナゲット部が形成され、該ナゲット部は上記アルミニウム合金板と接触せずかつ上記第1の接合部と対向する位置に形成される(請求項10)。
【0028】
これらの構成によれば、アルミニウム合金板およびめっき鋼板を含む3枚の金属板を十分な接合強度で適正に接合できるという利点がある。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、接着剤による接着とスポット溶接とを併用して異種金属板同士を強固に接合できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】積層工程の手順を説明するための図である。
【図2】プレ加圧工程の手順を説明するための図である。
【図3】プレヒート工程の手順を説明するための図である。
【図4】冷却工程の手順を説明するための図である。
【図5】溶接工程の手順を説明するための図である。
【図6】上記各工程を経て得られた接合体の断面構造を示す図である。
【図7】アルミニウム合金板とめっき鋼板との境界面の構造を模式的に示す図である。
【図8】実験に使用した電極の形状を示す図であり、(a)はタイプ1の電極、(b)はタイプ2の電極、(c)はタイプ3の電極をそれぞれ示している。
【図9】剥離強度を測定する実験の方法を説明するための図である。
【図10】実施例および比較例の接合条件と剥離強度を示す表である。
【図11】実施例1〜3の接合条件を示すタイムチャートである。
【図12】実施例4,7の接合条件を示すタイムチャートである。
【図13】実施例5,8の接合条件を示すタイムチャートである。
【図14】実施例6,9の接合条件を示すタイムチャートである。
【図15】実施例10の接合条件を示すタイムチャートである。
【図16】実施例11の接合条件を示すタイムチャートである。
【図17】比較例1の接合条件を示すタイムチャートである。
【図18】比較例2の接合条件を示すタイムチャートである。
【図19】タイプ1〜タイプ3の電極が金属板と接触する面積の大小関係を示す図である。
【図20】実施例2と比較例2における溶接時の電気抵抗値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1〜図5は、本発明の異種金属板の接合方法の一実施形態を説明するための図である。これらの図に示すように、当実施形態では、アルミニウム合金板1と、表面にめっきが施されためっき鋼板2と、表面にめっきが施されていない非めっき鋼板3(本発明にかかる「別の鋼板」に相当)とからなる3枚の金属板を、接着剤5による接着とスポット溶接とにより接合する。なお、図1〜図5では、めっき鋼板2の両面に施されるめっき層の図示を省略した(後述する図6、図7も同様)。
【0032】
アルミニウム合金板1としては、例えば、Al−Cu系(2000系)の合金、Al−Si−Mg系(6000系)の合金、もしくはAl−Zn−Mg系(7000系)の合金が好適であるが、アルミニウムを主成分とするその他の合金でもよく、具体的な組成は特に限定されない。
【0033】
めっき鋼板2に適用されるめっきの種類は特に限定されないが、ここでは、その好適例として亜鉛めっきを用いる。したがって、以下では、めっき鋼板2のことを亜鉛めっき鋼板2と称する。なお、亜鉛めっきとしては、目付け量が30g/m2〜100g/m2の範囲のものを使用できる。
【0034】
亜鉛めっき鋼板2および非めっき鋼板3の金属の組成は、鋼であるということ以外に特に限定されない。また、亜鉛めっき鋼板2および非めっき鋼板3の厚みは、それぞれ0.3mm以上4.0mm以下の範囲のものを用いることができる。
【0035】
接着剤5としては、エポキシ系接着剤が好ましく、例えば、セメダインヘンケル社製(品番:EP185−4)が例示できる。この例示した接着剤は導電性を有するが、本発明で使用可能な接着剤の種類はこれに限定されない。
【0036】
(1)接合方法の概要
まず、当実施形態の接合方法の具体的な手順について説明する。上記アルミニウム合金板1、亜鉛めっき鋼板2、および非めっき鋼板3からなる3枚の金属板は、以下に示す積層工程、プレ加圧工程、プレヒート工程、冷却工程、溶接工程、および接着剤硬化工程を経て接合される。
【0037】
(1−1)積層工程
上記3枚の金属板1〜3を接合するには、まず図1に示すように、各金属板1〜3同士を重ね合わせる積層工程を行う。具体的には、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2とを接着剤5を介して重ね合わせるとともに、非めっき鋼板3を亜鉛めっき鋼板2に対しアルミニウム合金板1とは反対側から重ね合わせる。なお、接着剤5としては、所定温度以上で硬化する熱硬化性の接着剤が用いられる。このため、上記図1の時点で接着剤5は硬化しておらず、ある程度の流動性を有している。また、このような接着剤5がアルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との間に塗布されているのに対し、亜鉛めっき鋼板2と非めっき鋼板3との間には接着剤5は塗布されておらず、これら両鋼板2,3は直接接触している。以下では、図1のように3枚重ねにされた金属板1〜3を、まとめて「ワークW」という。
【0038】
(1−2)プレ加圧工程
次に、図2に移って、積層後の上記金属板1〜3(ワークW)を加圧するプレ加圧工程を行う。具体的に、このプレ加圧工程では、スポット溶接用の一対の電極7,7の間に上記ワークWを挟み込み、予め定められたプレ加圧力F0でワークWを加圧する。
【0039】
上記電極7,7は略円柱状をなし、図外の作業ロボットにより操作される接合ガンの先端に取り付けられている。そして、電極7,7の少なくとも一方が軸方向に駆動されることにより、両者の間隔が所定範囲内で変更可能とされている。また、電極7,7は、図外の電源供給装置に接続されており、この電源供給装置からの給電に応じて上記電極7,7の間に電流が流れるようになっている。
【0040】
上記電極7,7の先端部は、図示のように、中心部が平面状に形成され、かつその周囲が球状のテーパ面に形成されている。もちろん、上記電極7,7の先端部の形状はこれに限られず、例えば先端部全体を平面状に形成してもよいし、また、先端部全体を比較的半径の大きい(つまり平面に近い)凸球状に形成してもよい(後述する実施例で用いる図8の電極参照)。
【0041】
(1−3)プレヒート工程
次に、図3に移って、上記ワークWを加圧しつつ通電するプレヒート工程を行う。具体的に、このプレヒート工程では、上記一対の電極7,7によりワークWを加圧しつつ、図外の電源供給装置から上記電極7,7に電圧を印加し、予め定められた第1の電流値I1を通電する。
【0042】
上記プレヒート工程でワークWを加圧する際には、まず同工程の開始時の加圧力を、上記プレ加圧工程での加圧力F0と同じかもしくはこれよりも小さい値である第1の加圧力F1に設定する。その後は、プレヒート工程の終了時まで上記第1の加圧力F1での加圧を継続してもよいし、プレヒート工程の途中で上記第1の加圧力F1から後述の第2の加圧力F2(冷却工程および溶接工程での加圧力)に増大させてもよい。
【0043】
また、上記プレヒート工程で通電される第1の電流値I1は、溶接用の電流値(後述する溶接工程で通電される第2の電流値I2)よりも小さい値(例えば2kA)に設定される。このため、上記第1の電流値I1が流されたときに、ワークWの温度は上昇するものの、金属の溶融点まで上昇することはない。なお、上記第1の電流値I1を流す期間の好ましい範囲は、約150〜400msecである。
【0044】
上記第1の電流値I1の通電により、上記電極7,7に挟まれた部分の接着剤5は、常温時よりも軟化して流動し易い状態となる。
【0045】
(1−4)冷却工程
次に、図4に移って、上記電極7,7間の通電を停止しつつワークWを加圧する冷却工程を行う。具体的に、この冷却工程では、上記電極7,7の印加電圧をゼロにしてその通電を停止した状態で、上記第1の加圧力F1(プレヒート工程開始時の加圧力)よりも大きい第2の加圧力F2でワークWを加圧し、これを所定の冷却時間に亘って継続する。すなわち、上記電極7,7間の通電が停止されることにより、ワークWの温度が上記プレヒート工程の終了時よりも低下するとともに、上記電極7,7の加圧力が増大されることにより、上記電極7,7で加圧された部分(加圧部)からプレヒート工程により軟化した接着剤5が効率よく排出される。なお、上記冷却時間の好ましい範囲は、約300〜1500msecである。
【0046】
(1−5)溶接工程
次に、図5に移って、上記ワークWをスポット溶接する溶接工程を行う。具体的に、この溶接工程では、上記冷却工程での加圧力F2と同じ加圧力でワークWを加圧しつつ、上記プレヒート工程での電流値I1よりも大きい第2の電流値I2を通電する。
【0047】
上記第2の電流値I2は、金属を溶融させ得るような大きな電流値に設定される。すなわち、上記第2の電流値I2が流されることにより、上記電極7,7に挟まれた部分においては、各金属板1〜3同士の境界面付近が特に大きく昇温し、当該部分の金属が溶融する。ただし、上記第2の電流値I2は、むやみに大きくすると、溶融した金属が周囲に飛散するチリ(散り)と呼ばれる現象の要因となるため、上記第2の電流値I2は、金属を確実に溶融させて接合強度を確保しつつも、チリが過度に発生しない程度の値(例えば14kA前後)に設定する必要がある。なお、上記第2の電流値I2の通電期間の好ましい範囲は、約150〜400msecである。
【0048】
上記のような第2の電流値I2の通電が終了すると、金属の溶融箇所が再凝固し、図6に示すようなナゲット部M1,M2が形成される。すなわち、アルミニウム合金板1における亜鉛めっき鋼板2との接触部にナゲット部M1が形成されるとともに、亜鉛めっき鋼板2と非めっき鋼板3との間にもナゲット部M2が形成され、これらナゲット部M1,M2を介して上記各金属板1〜3同士が互いに接合(溶接)される。
【0049】
(1−6)接着剤硬化工程
次に、接着剤5を硬化させる接着剤硬化工程を行う。具体的には、溶接後のワークWを加熱用の炉(図示省略)に投入し、その温度を接着剤5の硬化温度以上に上昇させる。これにより、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との間で接着剤5が全体的に硬化し、この硬化した接着剤5を介してアルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2とが接着される。
【0050】
(2)接合後の構造
次に、以上のような工程を経て接合された接合体の構造について説明する。接合後は、上述したように、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2とがナゲット部M1を介して接合されるとともに、亜鉛めっき鋼板2と非めっき鋼板3とがナゲット部M2を介して接合されている。また、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2とは、上記ナゲット部M1以外の箇所においては接着剤5により接着されている。
【0051】
上記ナゲット部M1は、上記第2の電流値I2の通電による抵抗発熱を受けて、アルミニウム合金板1が部分的に溶融するとともに、亜鉛めっき鋼板2の表面の亜鉛めっき層が破壊(拡散)され、金属の新生面同士が接触して原子的に結合することにより生じたものである。なお、亜鉛めっき鋼板2の金属母材よりもアルミニウム合金板1の方が溶融点が低いため、ナゲット部M1の形成時に亜鉛めっき鋼板2は溶融せず、アルミニウム合金板1のみが溶融する。
【0052】
上記ナゲット部M2は、上記第2の電流値I2の通電により、亜鉛めっき鋼板2および非めっき鋼板3の両方が溶融して再凝固したものである。図6のように、上記ナゲット部M2は、上記アルミニウム合金板1のナゲット部M1と対向し、かつアルミニウム合金板1とは接触しないような位置に形成される。
【0053】
図7は、上記アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との境界面の構造を模式的に示す図である。本図に示すように、上記両金属板1,2の境界面は、上記電極7,7による加圧部の中心から順に、領域S1,S2,S3,S4に分けることができる。
【0054】
上記領域S1,S2は、上記ナゲット部M1の形成部(つまりアルミニウム合金板1が溶融して再凝固した部分)に対応している。このうち、径方向中心側に位置する領域S1には、a部の拡大図に示すように、接着剤5が熱分解することで生じた熱分解物5aが残存している。一方、上記領域S1よりも径方向外側には、平面視(金属板の積層方向視)で円環状の領域S2が形成されているが、この領域S2では、b部の拡大図に示すように、上記のような熱分解物5aはほとんど存在せず、金属同士が強固に結合している。すなわち、上記領域S1,S2は、いずれもナゲット部M1に対応した溶接による接合面であるが、接着剤5の熱分解物5aの有無により、中心側の領域S1よりも、外側の領域S2の方が結合強度が高くなっている。以下では、上記領域S1のことを不完全溶接部S1、上記領域S2のことを完全溶接部S2と称する。
【0055】
上記のように不完全溶接部S1で接着剤5の熱分解物5aが残存しているのは、電極7,7の中心部に対応する接着剤5に作用する排出力が相対的に弱いためと考えられる。例えば、上記電極7,7として、図2〜図5に示した形状のもの(先端が平面状のもの)を用いた場合には、電極7,7の径方向外側部分に対応する接着剤5は確実に周囲に排出されるものの、電極7,7の中心部に対応する接着剤5には十分な排出力が作用せず、当該部の接着剤5が部分的に残存してしまうと考えられる。すなわち、電極7,7からの加圧力を受けたときに、接着剤5は主に電極7,7の中心部から径方向外側へと排出されるものの、これとは逆に電極7,7の径方向外側から中心部に向かって移動する接着剤5も存在するため、電極7,7の中心部に対応する接着剤5には十分な排出力が作用せず、接着剤5の残存が起き易くなる。
【0056】
上記不完全溶接部S1および完全溶接部S2のさらに外側には、領域S3,S4が存在している。領域S3は、上記電極7,7の加圧・通電による影響を受けて、接着剤5の層の厚みが薄くなっている領域である。一方、領域S4は、上記電極7,7による影響がなく、上記領域S3よりも厚い一定の接着剤5の層が存在する領域である。このため、上記領域S3の接着強度は、上記領域S4の接着強度よりも弱い。以下では、上記領域S3のことを弱接着部S3、上記領域S4のことを接着部S4と称する。
【0057】
なお、以上説明したような当実施形態の接合構造(図7)と、本願の請求項にかかる発明との対応関係としては、上記不完全溶接部S1が本発明にかかる「弱接合部」に相当し、上記完全溶接部S2が本発明にかかる「第1の接合部」に相当し、上記接着部S4が本発明にかかる「第2の接合部」に相当する。
【0058】
(3)実験
次に、当実施形態の効果を確認するために行った実験の結果について説明する。具体的に、この実験では、上記(1)で説明したような接合方法(図1〜図5)で実際に金属板を接合し、それによって得られた接合体の接合強度をL字剥離試験(図9参照)により測定した。
【0059】
(3−1)実験条件
図8(a)〜(c)は、実験に使用した電極7の形状を示す図である。図8(a)に示すタイプ1の電極は、図2〜図5に示した電極7と同様の形状であり、電極全体の直径が16mm、先端部に形成された平面部分の直径が6mm、その周囲の球状部分の半径が5mmである。図8(b)に示すタイプ2の電極は、先端部全体が凸球状に形成されており、その半径は50mmである。図8(c)に示すタイプ3の電極は、先端部全体が凸球状に形成されており、その半径は100mmである。
【0060】
後述する実施例および比較例に示すように、実験で用いられる電極7は、ほとんどのケースで図8(a)に示したタイプ1の電極である。なお、実施例10,11の場合のみ、非めっき鋼板3に当接する側の電極7としてタイプ2,3の電極を用いているが、アルミニウム合金板1に当接する側の電極7にはいずれの場合でもタイプ1の電極が用いられる。
【0061】
図8に示したような電極7,7を用いて、アルミニウム合金板1、亜鉛めっき鋼板2、非めっき鋼板3からなる3枚の金属板を図9に示すような形状に接合した。そして、得られた接合体を剥離するまで引っ張ることにより、接合部の強度を測定した(L字剥離試験)。なお、実験に使用したアルミニウム合金板1の厚みは1.2mm、亜鉛めっき鋼板2の厚みは0.8mm、非めっき鋼板3の厚みは1.6mmである。これは、後述する実施例および比較例の全てのケースで共通である。
【0062】
図10〜図18は、上記金属板1〜3を異なる接合条件下でそれぞれ接合し、得られた接合体の強度を上述のL字剥離試験(図9)により測定した結果を示すものである。なお、図10は、各接合条件とL字剥離試験の測定結果とをまとめた表であり、図11〜図18は、各接合条件を時系列で示すタイムチャートである。
【0063】
図10の表および図11〜図18のタイムチャートにおいて、実施例1〜11は、本発明の接合方法(図1〜図5に示した手順)に沿って上記金属板1〜3を接合したケースを示しており、比較例1,2は、本発明とは異なる手順で接合したケースを示している。なお、図10〜図18では、各工程の時間を電源のサイクル数(cyc)で示している。当実験では60Hzの電源を用いたため、例えば15cycを秒数で表すと、15/60=0.25sec(250msec)となる。図10では、各工程の時間をサイクル数(cyc)と秒数(msec)の両方で併記している。また、図10に記載されている剥離強度の値は、実施例1の強度を1.0としたときの相対値である。
【0064】
次に、実施例1〜11の接合条件を具体的に説明する。
【0065】
・実施例1
実施例1の接合条件は、図10および図11に示す通りである。すなわち、実施例1では、まず、プレ加圧工程として、2kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、2kNでの加圧を継続しつつ、2kAの電流を15cyc(250msec)の間通電する。次いで、冷却工程として、7kNの加圧力を、通電を停止した状態で60cyc(1000msec)の間加える。最後に、溶接工程として、7kNでの加圧を継続しつつ、14kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例では、アルミ側(アルミニウム合金1に接触する側)の電極7にタイプ1の電極(図8(a))を使用するとともに、鋼板側(非めっき鋼板3に接触する側)の電極7にも、タイプ1の電極を使用した。
【0066】
・実施例2
実施例2では、まず、プレ加圧工程として、2kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、2kAの電流を15cyc(250msec)の間通電するが、このとき、プレヒート工程の開始から10cyc(167msec)の間は、加圧力を2kNに設定する一方、その後の5cyc(83msec)の間は、加圧力を7kNに設定する。次いで、冷却工程として、7kNの加圧力を、通電を停止した状態で60cyc(1000msec)の間加える。最後に、溶接工程として、7kNの加圧力を継続しつつ、14kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0067】
・実施例3
実施例3の接合条件は、加圧および通電のタイミングが実施例1と同様であるが、実施例1と異なる点として、冷却工程および溶接工程時の加圧力が5kNに設定されるとともに、溶接工程時の通電電流が13kAに設定される。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0068】
・実施例4
実施例4の接合条件は、図10および図12に示す通りである。すなわち、実施例4では、まず、プレ加圧工程として、5kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、2kAの電流を15cyc(250msec)の間通電するが、このとき、プレヒート工程の開始から10cyc(167msec)の間は、加圧力を2kNに設定する一方、その後の5cyc(83msec)の間は、加圧力を5kNに設定する。次いで、冷却工程として、5kNの加圧力を、通電を停止した状態で30cyc(500msec)の間加える。最後に、溶接工程として、5kNでの加圧を継続しつつ、13kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0069】
・実施例5
実施例5の接合条件は、図10および図13に示す通りである。すなわち、実施例5では、まず、プレ加圧工程として、5kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、2kNの加圧力を加えつつ、2kAの電流を15cyc(250msec)の間通電する。次いで、冷却工程として、5kNの加圧力を、通電を停止した状態で30cyc(500msec)の間加える。最後に、溶接工程として、5kNでの加圧を継続しつつ、13kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0070】
・実施例6
実施例6の接合条件は、図10および図14に示す通りである。すなわち、実施例6では、まず、プレ加圧工程として、5kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、2kNの加圧力を加えつつ、2kAの電流を10cyc(167msec)の間通電する。次いで、冷却工程として、5kNの加圧力を、通電を停止した状態で20cyc(333msec)の間加える。最後に、溶接工程として、5kNでの加圧を継続しつつ、13kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0071】
・実施例7
実施例7の接合条件は、図10および図12に示すように、加圧および通電のタイミングが実施例4と同様であるが、実施例4と異なる点として、プレヒート工程時以外の加圧力が7kNに設定されるとともに、溶接工程時の通電電流が14kAに設定される。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0072】
・実施例8
実施例8の接合条件は、図10および図13に示すように、加圧および通電のタイミングが実施例5と同様であるが、実施例5と異なる点として、プレヒート工程時以外の加圧力が7kNに設定されるとともに、溶接工程時の通電電流が14kAに設定される。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0073】
・実施例9
実施例9の接合条件は、図10および図14に示すように、加圧および通電のタイミングが実施例6と同様であるが、実施例6と異なる点として、プレヒート工程時以外の加圧力が7kNに設定されるとともに、溶接工程時の通電電流が14kAに設定される。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0074】
・実施例10
実施例10の接合条件は、図10および図15に示す通りである。すなわち、実施例10では、まず、プレ加圧工程として、3kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、3kNでの加圧を継続しつつ、3kAの電流を15cyc(250msec)の間通電する。次いで、冷却工程として、7kNの加圧力を、通電を停止した状態で40cyc(667msec)の間加える。最後に、溶接工程として、7kNでの加圧を継続しつつ、15kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例では、アルミ側の電極7にタイプ1の電極(図8(a))を使用する一方、鋼板側の電極7には、タイプ2の電極(図8(b))を使用した。
【0075】
・実施例11
実施例11の接合条件は、図10および図16に示す通りである。すなわち、実施例11では、まず、プレ加圧工程として、3kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、3kNでの加圧を継続しつつ、3kAの電流を15cyc(250msec)の間通電する。次いで、冷却工程として、7kNの加圧力を、通電を停止した状態で20cyc(333msec)の間加える。最後に、溶接工程として、7kNでの加圧を継続しつつ、16kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例では、アルミ側の電極7にタイプ1の電極(図8(a))を使用する一方、鋼板側の電極7には、タイプ3の電極(図8(c))を使用した。
【0076】
なお、以上説明した実施例1〜11の接合条件を、上述した図1〜図5の接合手順におけるプレ加圧力F0、第1の加圧力F1、第2の加圧力F2、第1の電流値I1、第2の電流値I2の各値に当てはめると、その対応関係は以下の通りになる。
【0077】
実施例1,2……プレ加圧力F0=2kN、第1の加圧力F1=2kN、第2の加圧力F2=7kN、第1の電流値I1=2kA、第2の電流値I2=14kA
実施例3……プレ加圧力F0=2kN、第1の加圧力F1=2kN、第2の加圧力F2=5kN、第1の電流値I1=2kA、第2の電流値I2=13kA
実施例4〜6……プレ加圧力F0=5kN、第1の加圧力F1=2kN、第2の加圧力F2=5kN、第1の電流値I1=2kA、第2の電流値I2=13kA
実施例7〜9……プレ加圧力F0=7kN、第1の加圧力F1=2kN、第2の加圧力F2=7kN、第1の電流値I1=2kA、第2の電流値I2=14kA
実施例10……プレ加圧力F0=3kN、第1の加圧力F1=3kN、第2の加圧力F2=7kN、第1の電流値I1=3kA、第2の電流値I2=15kA
実施例11……プレ加圧力F0=3kN、第1の加圧力F1=3kN、第2の加圧力F2=7kN、第1の電流値I1=3kA、第2の電流値I2=16kA。
【0078】
次に、比較例1,2の接合条件について説明する。
【0079】
・比較例1
比較例1の接合条件は、図10および図17に示す通りである。すなわち、比較例1では、まず、2kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、2kNでの加圧を継続しながら、2kAの電流を15cyc(250msec)の間通電する。最後に、7kNの加圧力を加えながら、12kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。この条件から理解されるように、比較例1では、上記各実施例におけるプレヒート工程および溶接工程に相当する工程として、2kAの通電と12kAの通電とをそれぞれ行っているが、両工程の間に通電を停止する期間(冷却工程)が存在しない。なお、当比較例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0080】
・比較例2
比較例2の接合条件は、図10および図18に示す通りである。すなわち、比較例2では、7kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加えた後、その加圧を継続しながら、10kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。この条件から理解されるように、比較例2では、上記各実施例におけるプレヒート工程および冷却工程に相当する工程が存在しない。なお、当比較例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0081】
(3−2)実験結果
図10に示される剥離強度の測定結果を比較すると、比較例1の剥離強度を1.0としたときに、実施例1〜11の剥離強度はいずれも2.7〜3.0の範囲の値であり、非常に高い接合強度が得られていることが分かる。一方、プレヒート工程、冷却工程に相当する工程が存在しない比較例2については、剥離強度が0.2と非常に低く、上記各実施例と比較して1/15程度の強度しか得られていない。このように、上記各実施例の接合条件によれば、従来と比べて非常に高い接合強度が得られることが分かった。また、実施例1〜11の方法で接合された接合部の構造としては、いずれも、先の図6、図7で示した構造と同様のものが得られた。
【0082】
比較例1,2の接合強度が低いのは、接着剤5の排出が不十分である上、材料の冷却が十分でない状態(つまり電気抵抗が大きい状態)で溶接電流が流されることで、抵抗発熱量が過大になり易く、溶接電流を十分に上げることができないためである。実際のところ、比較例1,2の溶接電流(12kAまたは10kA)は、実施例1〜11の溶接電流値(13〜16kA)よりも低いが、これ以上に溶接電流を上げたとしても、母材が飛散するチリと呼ばれる現象が起きてしまい、良好な溶接構造を得ることができなかった。
【0083】
(4)まとめ
以上の実験の結果から明らかなように、当実施形態の接合方法によれば、アルミニウム合金1および亜鉛めっき鋼板2を含む異種金属同士を強固に接合できるという利点がある。
【0084】
すなわち、上記実施形態では、ワークWに溶接用の高電流を流す前に、電極7,7によりワークWを加圧しつつ通電するプレヒート工程を行うようにしたため、ワークWの温度を融点未満の範囲に抑えながら、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との間の接着剤5を、通電による昇温効果で十分に軟化させることができる。また、その後の冷却工程において、通電を停止した状態でより高い加圧力を加えることにより、プレヒート工程で軟化した接着剤5の排出を促進させつつ、ワークWの温度を低下させることができ、さらには、金属同士を十分になじませることができる。これにより、材料の電気抵抗(特にアルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との界面抵抗)が効果的に低減され、上記電極7,7から高い溶接電流を流しても、過剰な抵抗発熱量が発生することがなく、溶接時に母材が飛散する現象(チリ)の発生が抑制される。よって、良好な溶接性を確保しながら、より高い溶接電流を流すことができ、接合強度を効果的に向上させることができる。
【0085】
図20は、上記のような作用効果を裏付けるグラフである。具体的に、この図20のグラフは、プレヒート工程がある場合もしくはない場合で、一定電流を流した際の溶接工程中の抵抗変化を示したものである。グラフ中の△印の波形は、プレヒート工程が存在する実施例2での抵抗値の変化を示しており、□印の波形は、プレヒート工程が存在しない比較例2での抵抗値の変化を示している。本グラフから明らかなように、溶接工程前にプレヒート工程を行う実施例2の方が、プレヒート工程を行わない比較例2と比べて、通電開始から終了までの間、いずれも抵抗値が低くなっている。このことは、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との界面への接着剤塗布の有無によらない。以上のことから、プレヒート工程により材料のなじみを向上させた場合、接触抵抗が低下して通電電流を高くすることが可能となり、溶接性が高まることが分かる。
【0086】
なお、上記実施形態では、金属板1〜3を積層する積層工程の後、プレ加圧工程として、金属板1〜3からなるワークWを電極7,7で挟み込んで所定時間に亘り加圧し、その後、プレヒート工程として、ワークWを加圧しつつ所定の電流(第1の電流値I1)を通電するようにしたが、可能であれば、プレ加圧工程を省略し、ワークWの加圧と第1の電流値I1の通電とをほぼ同時に開始するようにしてもよい。ただし、プレ加圧工程により事前にワークWを加圧した状態でプレヒート工程に移行するようにした方が、通電電流が安定化して適正な昇温効果が得られるという点で有利である。
【0087】
特に、上記実施例4〜9のように、プレ加圧工程での電極7,7の加圧力(プレ加圧力F0)を、プレヒート工程開始時の加圧力(第1の加圧力F1)よりも大きく設定した場合には、プレ加圧工程中においても、上記電極7,7による加圧部から接着剤5を積極的に排出することができるため、その後のプレヒート工程および冷却工程による効果と合わせて、上記加圧部から接着剤5をより確実に排出することができ、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との溶接性をさらに向上させることができる。また、接着剤5の排出力が高まることで、プレヒート工程および冷却工程の時間を短縮しても、十分な接合強度を確保できるという利点がある。
【0088】
例えば、上記実施例4〜9での冷却工程の時間は、実施例1〜3での冷却工程の時間(60cyc)よりも短い20cycまたは30cycに設定されており、さらに、実施例6,9でのプレヒート工程の時間は、実施例1〜3でのプレヒート工程の時間(15cyc)よりも短い10cycに設定されている。一方、剥離強度については、実施例1〜3および実施例4〜9で、いずれも2.7〜3.0の範囲となっている。すなわち、実施例4〜9と実施例1〜3とを比較すると、実施例4〜9の方が、プレヒート工程および冷却工程のいずれかもしくは両方の時間が短いにもかかわらず、実施例1〜3とほとんど同じレベルの剥離強度が得られていることが分かる。これは、実施例4〜9の方が、プレ加圧工程での加圧力(プレ加圧力F0)が大きいため、上述した理由により、プレヒート工程および冷却工程の時間が短くても、十分な剥離強度が得られたものと考えられる。
【0089】
また、上記実施形態では、電極7,7として、図2〜図5、もしくは図8に示したような電極を用いたが、使用可能な電極の形状はこれに限られない。ただし、金属板との接触面積が過度に小さくなるような電極形状は避けた方がよい。例えば、図8(b)(c)に示したような、先端部が凸球状に形成された電極を用いる場合において、先端部の半径をむやみに小さくする(つまり先鋭化する)と、電極と金属板との接触面積が過小となり、上記実施形態のような十分な接合強度を得ることができなるおそれがある。
【0090】
すなわち、上記実施形態のように、電極7,7として、金属板との接触面積が比較的大きい電極を用いた場合には、電極7,7の中心部に対応する接着剤5を十分に排出することができない一方で、電極7,7の径方向外側部分に対応する接着剤5は確実に周囲に排出することができる。すると、図7に示したように、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との間に、接着剤5の熱分解物5aが残存した不完全溶接部S1と、熱分解物5aがほとんど残存していない完全溶接部S2とが同心円状に形成されることになる。つまり、接合強度の高い完全溶接部S2が円環状に形成され、その中心側に接合強度の弱い不完全溶接部S1が形成される。これにより、接合強度の高い完全溶接部S2の外径が大きくなるため、曲げやねじりに強く、疲労強度にも優れた接合構造を構築できるという利点がある。
【0091】
これに対し、金属板との接触面積が小さい電極を用いた場合には、接着剤5の排出エリアが電極の中心部に集中し、中実円形状の接合部が形成されると考えられる。すると、上記実施形態の場合と比べて、接合部の外径が小さくなり、十分な接合強度が得られなくなるおそれがある。したがって、上記実施形態のように、金属板との接触面積が大きい電極を用いて円環状の完全溶接部S2を形成するようにした方が、より高い接合強度が得られるという点で有利である。
【0092】
また、図8(a)〜(c)に示したタイプ1〜3の電極のうち、より好ましい電極の組合せとしては、上記実施例10,11のように、アルミ側(アルミニウム合金板1に接触する側)にタイプ1の電極を用い、鋼板側(非めっき鋼板3に接触する側)にタイプ2または3の電極を用いるとよい。すなわち、実施例1と実施例10,11とを比較すると、アルミ側、鋼板側ともにタイプ1の電極を用いた実施例1よりも、アルミ側にタイプ1、鋼板側にタイプ2または3の電極を用いた実施例10,11の方が、冷却工程の時間が短いにもかかわらず、全く同じ剥離強度(3.0)が得られていることが分かる。このことから、実施例10,11における電極の組合せの方が、短い冷却時間で同等の接合強度を得ることができると言える。
【0093】
実施例10,11の方が冷却時間が短く済むのは、タイプ2,3の電極の方が金属板との接触面積が大きいためと考えられる。すなわち、冷却工程で電極7,7によりワークWを加圧する際に、非めっき鋼板3に接触する電極7の面積は、図19に示すように、タイプ1、タイプ2、タイプ3の順に大きい。したがって、タイプ1の電極よりも、タイプ2,3の電極を非めっき鋼板3に接触させた方が、冷却工程時に電極7を通じて効率よく熱を吸収でき、それ程時間をかけなくても十分な冷却を図ることができる。しかも、アルミニウム合金板1ではなく、これよりも熱容量の大きい非めっき鋼板3に、上記タイプ2,3の電極を接触させるようにしたため、冷却効率をより高めることができる。
【0094】
なお、上記実施例10,11において、鋼板側にタイプ2,3の電極を用いる一方、アルミ側にはタイプ1の電極を用いたのは、接触面積がより大きいタイプ2,3の電極をアルミ側および鋼板側の両方に用いると、溶接時の電流密度が下がり、ナゲットの形成が困難になるためである。
【0095】
いずれにせよ、上記各実施例のように、金属板との接触面積が適度に大きい電極を用いることにより、図7に示したように、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との間に、外形が大きい円環状の完全溶接部S2を形成することができ、接合部の強度を効果的に高めることができる。しかも、図7によれば、接着剤5により接着された接着部S4が、上記完全溶接部S2の外側を取り囲むように形成されているため、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との間への水分の浸入およびこれに起因した電食の発生を効果的に防止することが可能である。
【0096】
なお、上記実施形態では、アルミニウム合金板1、亜鉛めっき鋼板2、および非めっき鋼板3からなる3枚の金属板を重ね合わせて同時に接合するようにしたが、必ずしも非めっき鋼板3を含めて接合する必要はなく、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2のみを同様の方法により接合するようにしてもよい。この場合、図7のナゲット部M2が形成されない点が異なる。
【0097】
また、上記実施形態では、冷却工程および溶接工程時における電極7,7の加圧力を同一値(第2の加圧力F2)としたが、上記冷却工程および溶接工程時の加圧力は、それぞれがプレヒート工程開始時の加圧力(第1の加圧力F1)よりも高ければよく、冷却工程時の加圧力と溶接工程時の加圧力とが異なっていてもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、表面に亜鉛めっきが施された鋼板(亜鉛めっき鋼板)2をアルミニウム合金板1と重ね合わせて接合したが、めっき鋼板2としては、亜鉛めっき以外のめっきが施された鋼板も好適に使用できる。そこで、その一例として、アルミニウムめっき鋼板、または、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板をめっき鋼板2として用い、これらの鋼板とアルミニウム合金板1とを、接着剤とスポット溶接により接合した実施例について説明する。めっきの目付け量、板厚は上記亜鉛めっき鋼板2の場合と同じである。また、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板のめっき成分は、Zn-11%Al-3%Mgとした。
【0099】
接合方法の条件は、上記亜鉛めっき鋼板2とアルミニウム合金板1との接合で説明した実施例2(図10参照)と同じとした。電極のタイプも実施例2と同じである。比較例としては、亜鉛めっき鋼板2をアルミニウムめっき鋼板、または亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板に代えた以外は、上記比較例1(図10参照)と同じ条件を適用した。
【0100】
その結果、アルミニウムめっき鋼板とアルミニウム合金板との接合体の剥離強度は、比較例の剥離強度を1とした場合、相対値として3.0となった。また、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板とアルミニウム合金板との接合体の剥離強度も、比較例の剥離強度を1とした場合、相対値として3.0となった。なお、これらの実施例で得られた接合体の構造は、アルミニウムめっき鋼板、または亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板のいずれを用いた場合でも、図6、図7で説明した構造と同じであった。
【符号の説明】
【0101】
1 アルミニウム合金板
2 めっき鋼板
3 非めっき鋼板(別の鋼板)
5 接着剤
5a (接着剤の)熱分解物
7 電極
F1 第1の加圧力
F2 第2の加圧力
M2 ナゲット部
S1 不完全溶接部(弱接合部)
S2 完全溶接部(第1の接合部)
S4 接着部(第2の接合部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金板およびめっき鋼板からなる異種金属板同士を接着剤による接着とスポット溶接とにより接合する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車や鉄道車両等の輸送機器、機械部品、建築構造物等の分野では、例えば鋼材とアルミニウム合金といった異種金属同士を接合する方法や、異種金属同士の接合体に関する研究開発が活発に行われている。
【0003】
特に、自動車の分野では、近年の厳しいエネルギー事情等を背景にして、車体をより軽量化することが求められているため、軽量なアルミニウム合金製の板材を鋼板とともに使用することが多くなってきている。しかしながら、自動車という腐食環境の厳しい製品では、鋼板とアルミニウム合金板とを直接接合してしまうと、両者の電位差に起因した腐食(電食)が生じ易くなるという問題がある。そこで、電食を防止するための技術として、上記両金属板を接着剤を介して接着し、かつスポット溶接を行うという、いわゆるウェルドボンド法が知られている。
【0004】
ところが接着剤は導電性が悪く、スポット溶接時に通電抵抗の増大を招いてしまうため、溶接電流をあまり上げることができない。また、鋼板とアルミニウム合金板との境界面の清浄度を悪化させるため、結果として十分な接合強度が得られないという問題がある。
【0005】
そこで、例えば下記特許文献1では、異種金属からなる2枚の金属板をウェルドボンドにより接合する際に、上記両金属板の間に介在する接着剤(シール材)を少なくとも接合部の中央から排出させることにより、上記両金属板を直接接触させ、その状態で溶接電流を通電するようにしている。
【0006】
また、下記特許文献2に示されるように、2枚の金属板の間に塗布された接着剤層中に熱可塑性樹脂製のスペーサを含有させ、その状態で上記両金属板を溶接用の電極で加圧、通電することにより、上記接着剤およびスペーサを接合部から排除しつつ溶接するという接合方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−23583号公報
【特許文献2】特開昭59−193773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1では、接合部の中央から接着剤を効率よく排出するために、電極の先端部を凸状曲面に形成することが行われているが、電極の先端が凸状曲面であれば、その凸状曲面の頂部に対応する部分の接着剤は確実に排出されるものの、接着剤が局所的にしか排出されず、鋼板とアルミニウム合金板との接合面積が小さくなる結果、十分な接合強度が得られなくなるおそれがある。また、同文献では、高周波コイル等からなる外部加熱手段を用いて接合部付近を加熱することにより、接着剤の排出を容易化するという提案もなされているが、周囲への熱伝導による影響があり、接合部の接着剤を効果的に昇温できない可能性がある。
【0009】
上記特許文献2では、熱可塑性樹脂製のスペーサを金属板の間に挟み込んだ状態で加圧、通電するため、上記特許文献1と比べて接着剤を接合部から効果的に排出することが可能であると予想される。しかしながら、このような熱可塑性樹脂製のスペーサが介在する状態で金属板を接合した場合には、例えば得られた接合体を塗装し、その後の乾燥工程で加熱処理を行ったときに、上記熱可塑性樹脂製のスペーサが溶融して外部に流出してしまうおそれがある。このような樹脂の流出が起きると、接合部のシール性が損なわれ、特に車体用の構造材としては致命的な欠陥となる。また、同文献には、加圧および通電時の好ましい条件が記載されておらず、加圧から通電に至る処理をどのように行えば十分な接合強度が得られるのかが必ずしも明確でなかった。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、接着剤による接着とスポット溶接とを併用して異種金属板同士を接合したときの接合強度を効果的に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、アルミニウム合金板およびめっき鋼板からなる異種金属板同士を接着剤による接着とスポット溶接とにより接合する方法であって、上記アルミニウム合金板とめっき鋼板とを上記接着剤を介して重ね合わせる積層工程と、上記積層工程で重ね合わせられた上記両金属板をスポット溶接用の一対の電極の間に挟み込んで加圧するとともに、上記一対の電極間に電流を流すプレヒート工程と、上記プレヒート工程の後、上記電極間の通電を停止した状態で、上記両金属板を上記プレヒート工程の開始時よりも高い加圧力で加圧し、これを所定の冷却時間に亘り継続する冷却工程と、上記冷却工程の後、上記プレヒート工程の開始時よりも高い加圧力で上記両金属板を加圧しつつ、上記プレヒート工程での通電電流値よりも高い電流を上記一対の電極間に流すことにより、上記両金属板同士を溶接する溶接工程とを含むことを特徴とするものである(請求項1)。
【0012】
本発明の接合方法によれば、アルミニウム合金板およびめっき鋼板に溶接用の高電流を流す前に、これら両金属板を電極により加圧しつつ通電するプレヒート工程を行うようにしたため、金属の温度を融点未満の範囲に抑えながら、アルミニウム合金板とめっき鋼板との間の接着剤を、通電による昇温効果で十分に軟化させることができる。また、その後の冷却工程において、通電を停止した状態でより高い加圧力を加えることにより、その加圧された部分(加圧部)から上記接着剤を効率よく排出することができ、さらには、金属同士を十分になじませることができる。これにより、材料の電気抵抗(特にアルミニウム合金板とめっき鋼板との界面抵抗)が効果的に低減され、上記電極から高い溶接電流を流しても、過剰な抵抗発熱量が発生することがなく、溶接時に母材が飛散するチリと呼ばれる現象が抑制される。よって、良好な溶接性を確保しながら、より高い溶接電流を流すことができ、接合強度を効果的に向上させることができる。
【0013】
なお、上記プレヒート工程から溶接工程までの間に加えられる加圧力の具体的な値や加圧力の変化タイミングは適宜変更可能であるが、好適な例として、上記プレヒート工程の開始から所定期間の間、上記電極の加圧力を第1の加圧力に設定し、上記プレヒート工程の途中もしくは終了時に、上記加圧力を上記第1の加圧力よりも大きい第2の加圧力に増大させ、上記冷却工程および溶接工程が終了するまで上記第2の加圧力での加圧を継続するとよい(請求項2)。
【0014】
上記構成において、より好ましくは、上記プレヒート工程よりも前に、上記アルミニウム合金板およびめっき鋼板を上記一対の電極で挟み込んで加圧するプレ加圧工程を行う(請求項3)。
【0015】
このようにすれば、プレヒート工程での通電電流が安定化して適正な昇温効果が得られるという利点がある。
【0016】
さらに、上記プレ加圧工程での加圧力を、上記第1の加圧力よりも大きく設定することが好ましい(請求項4)。
【0017】
このようにすれば、プレ加圧工程中においても、上記電極による加圧部から接着剤を積極的に排出することができるため、その後のプレヒート工程および冷却工程による効果と合わせて、上記加圧部から接着剤をより確実に排出することができ、アルミニウム合金板とめっき鋼板との溶接性をさらに向上させることができる。また、接着剤の排出力が高まることで、プレヒート工程および冷却工程の時間をある程度短縮しても、十分な接合強度を確保できるという利点がある。
【0018】
本発明の接合方法において、好ましくは、上記積層工程として、上記アルミニウム合金板とめっき鋼板とを接着剤を介して重ね合わせるとともに、上記めっき鋼板とは別の鋼板を上記アルミニウム合金板とは反対側からめっき鋼板に重ね合わせ、かつこの状態で上記プレヒート工程、冷却工程、および溶接工程を含む各工程を行うことにより、上記アルミニウム合金板、めっき鋼板、および別の鋼板を互いに接合する(請求項5)。
【0019】
このようにすれば、アルミニウム合金板およびめっき鋼板を含む3枚の金属板を同時に接合できるという利点がある。
【0020】
また、本発明は、アルミニウム合金板とめっき鋼板とが接合された異種金属接合体であって、上記アルミニウム合金板とめっき鋼板との間に、スポット溶接により溶接された第1の接合部と、接着剤により接着された第2の接合部とが存在し、上記第1の接合部が平面視で略円環状に形成されたことを特徴とするものである(請求項6)。
【0021】
本発明の異種金属接合体によれば、アルミニウム合金板とめっき鋼板との間に、スポット溶接により接合され、かつ円環状に形成された第1の接合部が存在するため、例えば同じ面積の接合部を中実円形状に形成した場合と比較して、接合部の外径を大きくすることができ、曲げやねじりに強く、疲労強度にも優れた接合構造を構築できるという利点がある。また、上記第1の接合部以外に、接着剤により接着された第2の接合部が存在するため、アルミニウム合金板とめっき鋼板との間への水分の浸入およびこれに起因した電食の発生を効果的に防止できるという利点がある。
【0022】
本発明の異種金属接合体において、好ましくは、上記第1の接合部の周囲が上記第2の接合部により囲まれている(請求項7)。
【0023】
この構成によれば、第1の接合部を取り囲むように形成された第2の接合部の接着剤により、上記のような電食の発生をより効果的に防止できるという利点がある。
【0024】
本発明の異種金属接合体において、好ましくは、円環状の上記第1の接合部よりも中心側に、上記接着剤の熱分解物が残存した弱接合部が存在する(請求項8)。
【0025】
この構成によれば、接着剤の熱分解物により接合強度が弱められた弱接合部を中心側に形成しながらも、その周りに円環状の第1の接合部を形成することにより、接合強度を十分に確保できるという利点がある。
【0026】
本発明の異種金属接合体において、好ましくは、上記めっき鋼板に対し、上記アルミニウム合金板とは反対側から別の鋼板が接合される(請求項9)。
【0027】
また、この場合、上記めっき鋼板と上記別の鋼板との間にナゲット部が形成され、該ナゲット部は上記アルミニウム合金板と接触せずかつ上記第1の接合部と対向する位置に形成される(請求項10)。
【0028】
これらの構成によれば、アルミニウム合金板およびめっき鋼板を含む3枚の金属板を十分な接合強度で適正に接合できるという利点がある。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、接着剤による接着とスポット溶接とを併用して異種金属板同士を強固に接合できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】積層工程の手順を説明するための図である。
【図2】プレ加圧工程の手順を説明するための図である。
【図3】プレヒート工程の手順を説明するための図である。
【図4】冷却工程の手順を説明するための図である。
【図5】溶接工程の手順を説明するための図である。
【図6】上記各工程を経て得られた接合体の断面構造を示す図である。
【図7】アルミニウム合金板とめっき鋼板との境界面の構造を模式的に示す図である。
【図8】実験に使用した電極の形状を示す図であり、(a)はタイプ1の電極、(b)はタイプ2の電極、(c)はタイプ3の電極をそれぞれ示している。
【図9】剥離強度を測定する実験の方法を説明するための図である。
【図10】実施例および比較例の接合条件と剥離強度を示す表である。
【図11】実施例1〜3の接合条件を示すタイムチャートである。
【図12】実施例4,7の接合条件を示すタイムチャートである。
【図13】実施例5,8の接合条件を示すタイムチャートである。
【図14】実施例6,9の接合条件を示すタイムチャートである。
【図15】実施例10の接合条件を示すタイムチャートである。
【図16】実施例11の接合条件を示すタイムチャートである。
【図17】比較例1の接合条件を示すタイムチャートである。
【図18】比較例2の接合条件を示すタイムチャートである。
【図19】タイプ1〜タイプ3の電極が金属板と接触する面積の大小関係を示す図である。
【図20】実施例2と比較例2における溶接時の電気抵抗値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1〜図5は、本発明の異種金属板の接合方法の一実施形態を説明するための図である。これらの図に示すように、当実施形態では、アルミニウム合金板1と、表面にめっきが施されためっき鋼板2と、表面にめっきが施されていない非めっき鋼板3(本発明にかかる「別の鋼板」に相当)とからなる3枚の金属板を、接着剤5による接着とスポット溶接とにより接合する。なお、図1〜図5では、めっき鋼板2の両面に施されるめっき層の図示を省略した(後述する図6、図7も同様)。
【0032】
アルミニウム合金板1としては、例えば、Al−Cu系(2000系)の合金、Al−Si−Mg系(6000系)の合金、もしくはAl−Zn−Mg系(7000系)の合金が好適であるが、アルミニウムを主成分とするその他の合金でもよく、具体的な組成は特に限定されない。
【0033】
めっき鋼板2に適用されるめっきの種類は特に限定されないが、ここでは、その好適例として亜鉛めっきを用いる。したがって、以下では、めっき鋼板2のことを亜鉛めっき鋼板2と称する。なお、亜鉛めっきとしては、目付け量が30g/m2〜100g/m2の範囲のものを使用できる。
【0034】
亜鉛めっき鋼板2および非めっき鋼板3の金属の組成は、鋼であるということ以外に特に限定されない。また、亜鉛めっき鋼板2および非めっき鋼板3の厚みは、それぞれ0.3mm以上4.0mm以下の範囲のものを用いることができる。
【0035】
接着剤5としては、エポキシ系接着剤が好ましく、例えば、セメダインヘンケル社製(品番:EP185−4)が例示できる。この例示した接着剤は導電性を有するが、本発明で使用可能な接着剤の種類はこれに限定されない。
【0036】
(1)接合方法の概要
まず、当実施形態の接合方法の具体的な手順について説明する。上記アルミニウム合金板1、亜鉛めっき鋼板2、および非めっき鋼板3からなる3枚の金属板は、以下に示す積層工程、プレ加圧工程、プレヒート工程、冷却工程、溶接工程、および接着剤硬化工程を経て接合される。
【0037】
(1−1)積層工程
上記3枚の金属板1〜3を接合するには、まず図1に示すように、各金属板1〜3同士を重ね合わせる積層工程を行う。具体的には、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2とを接着剤5を介して重ね合わせるとともに、非めっき鋼板3を亜鉛めっき鋼板2に対しアルミニウム合金板1とは反対側から重ね合わせる。なお、接着剤5としては、所定温度以上で硬化する熱硬化性の接着剤が用いられる。このため、上記図1の時点で接着剤5は硬化しておらず、ある程度の流動性を有している。また、このような接着剤5がアルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との間に塗布されているのに対し、亜鉛めっき鋼板2と非めっき鋼板3との間には接着剤5は塗布されておらず、これら両鋼板2,3は直接接触している。以下では、図1のように3枚重ねにされた金属板1〜3を、まとめて「ワークW」という。
【0038】
(1−2)プレ加圧工程
次に、図2に移って、積層後の上記金属板1〜3(ワークW)を加圧するプレ加圧工程を行う。具体的に、このプレ加圧工程では、スポット溶接用の一対の電極7,7の間に上記ワークWを挟み込み、予め定められたプレ加圧力F0でワークWを加圧する。
【0039】
上記電極7,7は略円柱状をなし、図外の作業ロボットにより操作される接合ガンの先端に取り付けられている。そして、電極7,7の少なくとも一方が軸方向に駆動されることにより、両者の間隔が所定範囲内で変更可能とされている。また、電極7,7は、図外の電源供給装置に接続されており、この電源供給装置からの給電に応じて上記電極7,7の間に電流が流れるようになっている。
【0040】
上記電極7,7の先端部は、図示のように、中心部が平面状に形成され、かつその周囲が球状のテーパ面に形成されている。もちろん、上記電極7,7の先端部の形状はこれに限られず、例えば先端部全体を平面状に形成してもよいし、また、先端部全体を比較的半径の大きい(つまり平面に近い)凸球状に形成してもよい(後述する実施例で用いる図8の電極参照)。
【0041】
(1−3)プレヒート工程
次に、図3に移って、上記ワークWを加圧しつつ通電するプレヒート工程を行う。具体的に、このプレヒート工程では、上記一対の電極7,7によりワークWを加圧しつつ、図外の電源供給装置から上記電極7,7に電圧を印加し、予め定められた第1の電流値I1を通電する。
【0042】
上記プレヒート工程でワークWを加圧する際には、まず同工程の開始時の加圧力を、上記プレ加圧工程での加圧力F0と同じかもしくはこれよりも小さい値である第1の加圧力F1に設定する。その後は、プレヒート工程の終了時まで上記第1の加圧力F1での加圧を継続してもよいし、プレヒート工程の途中で上記第1の加圧力F1から後述の第2の加圧力F2(冷却工程および溶接工程での加圧力)に増大させてもよい。
【0043】
また、上記プレヒート工程で通電される第1の電流値I1は、溶接用の電流値(後述する溶接工程で通電される第2の電流値I2)よりも小さい値(例えば2kA)に設定される。このため、上記第1の電流値I1が流されたときに、ワークWの温度は上昇するものの、金属の溶融点まで上昇することはない。なお、上記第1の電流値I1を流す期間の好ましい範囲は、約150〜400msecである。
【0044】
上記第1の電流値I1の通電により、上記電極7,7に挟まれた部分の接着剤5は、常温時よりも軟化して流動し易い状態となる。
【0045】
(1−4)冷却工程
次に、図4に移って、上記電極7,7間の通電を停止しつつワークWを加圧する冷却工程を行う。具体的に、この冷却工程では、上記電極7,7の印加電圧をゼロにしてその通電を停止した状態で、上記第1の加圧力F1(プレヒート工程開始時の加圧力)よりも大きい第2の加圧力F2でワークWを加圧し、これを所定の冷却時間に亘って継続する。すなわち、上記電極7,7間の通電が停止されることにより、ワークWの温度が上記プレヒート工程の終了時よりも低下するとともに、上記電極7,7の加圧力が増大されることにより、上記電極7,7で加圧された部分(加圧部)からプレヒート工程により軟化した接着剤5が効率よく排出される。なお、上記冷却時間の好ましい範囲は、約300〜1500msecである。
【0046】
(1−5)溶接工程
次に、図5に移って、上記ワークWをスポット溶接する溶接工程を行う。具体的に、この溶接工程では、上記冷却工程での加圧力F2と同じ加圧力でワークWを加圧しつつ、上記プレヒート工程での電流値I1よりも大きい第2の電流値I2を通電する。
【0047】
上記第2の電流値I2は、金属を溶融させ得るような大きな電流値に設定される。すなわち、上記第2の電流値I2が流されることにより、上記電極7,7に挟まれた部分においては、各金属板1〜3同士の境界面付近が特に大きく昇温し、当該部分の金属が溶融する。ただし、上記第2の電流値I2は、むやみに大きくすると、溶融した金属が周囲に飛散するチリ(散り)と呼ばれる現象の要因となるため、上記第2の電流値I2は、金属を確実に溶融させて接合強度を確保しつつも、チリが過度に発生しない程度の値(例えば14kA前後)に設定する必要がある。なお、上記第2の電流値I2の通電期間の好ましい範囲は、約150〜400msecである。
【0048】
上記のような第2の電流値I2の通電が終了すると、金属の溶融箇所が再凝固し、図6に示すようなナゲット部M1,M2が形成される。すなわち、アルミニウム合金板1における亜鉛めっき鋼板2との接触部にナゲット部M1が形成されるとともに、亜鉛めっき鋼板2と非めっき鋼板3との間にもナゲット部M2が形成され、これらナゲット部M1,M2を介して上記各金属板1〜3同士が互いに接合(溶接)される。
【0049】
(1−6)接着剤硬化工程
次に、接着剤5を硬化させる接着剤硬化工程を行う。具体的には、溶接後のワークWを加熱用の炉(図示省略)に投入し、その温度を接着剤5の硬化温度以上に上昇させる。これにより、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との間で接着剤5が全体的に硬化し、この硬化した接着剤5を介してアルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2とが接着される。
【0050】
(2)接合後の構造
次に、以上のような工程を経て接合された接合体の構造について説明する。接合後は、上述したように、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2とがナゲット部M1を介して接合されるとともに、亜鉛めっき鋼板2と非めっき鋼板3とがナゲット部M2を介して接合されている。また、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2とは、上記ナゲット部M1以外の箇所においては接着剤5により接着されている。
【0051】
上記ナゲット部M1は、上記第2の電流値I2の通電による抵抗発熱を受けて、アルミニウム合金板1が部分的に溶融するとともに、亜鉛めっき鋼板2の表面の亜鉛めっき層が破壊(拡散)され、金属の新生面同士が接触して原子的に結合することにより生じたものである。なお、亜鉛めっき鋼板2の金属母材よりもアルミニウム合金板1の方が溶融点が低いため、ナゲット部M1の形成時に亜鉛めっき鋼板2は溶融せず、アルミニウム合金板1のみが溶融する。
【0052】
上記ナゲット部M2は、上記第2の電流値I2の通電により、亜鉛めっき鋼板2および非めっき鋼板3の両方が溶融して再凝固したものである。図6のように、上記ナゲット部M2は、上記アルミニウム合金板1のナゲット部M1と対向し、かつアルミニウム合金板1とは接触しないような位置に形成される。
【0053】
図7は、上記アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との境界面の構造を模式的に示す図である。本図に示すように、上記両金属板1,2の境界面は、上記電極7,7による加圧部の中心から順に、領域S1,S2,S3,S4に分けることができる。
【0054】
上記領域S1,S2は、上記ナゲット部M1の形成部(つまりアルミニウム合金板1が溶融して再凝固した部分)に対応している。このうち、径方向中心側に位置する領域S1には、a部の拡大図に示すように、接着剤5が熱分解することで生じた熱分解物5aが残存している。一方、上記領域S1よりも径方向外側には、平面視(金属板の積層方向視)で円環状の領域S2が形成されているが、この領域S2では、b部の拡大図に示すように、上記のような熱分解物5aはほとんど存在せず、金属同士が強固に結合している。すなわち、上記領域S1,S2は、いずれもナゲット部M1に対応した溶接による接合面であるが、接着剤5の熱分解物5aの有無により、中心側の領域S1よりも、外側の領域S2の方が結合強度が高くなっている。以下では、上記領域S1のことを不完全溶接部S1、上記領域S2のことを完全溶接部S2と称する。
【0055】
上記のように不完全溶接部S1で接着剤5の熱分解物5aが残存しているのは、電極7,7の中心部に対応する接着剤5に作用する排出力が相対的に弱いためと考えられる。例えば、上記電極7,7として、図2〜図5に示した形状のもの(先端が平面状のもの)を用いた場合には、電極7,7の径方向外側部分に対応する接着剤5は確実に周囲に排出されるものの、電極7,7の中心部に対応する接着剤5には十分な排出力が作用せず、当該部の接着剤5が部分的に残存してしまうと考えられる。すなわち、電極7,7からの加圧力を受けたときに、接着剤5は主に電極7,7の中心部から径方向外側へと排出されるものの、これとは逆に電極7,7の径方向外側から中心部に向かって移動する接着剤5も存在するため、電極7,7の中心部に対応する接着剤5には十分な排出力が作用せず、接着剤5の残存が起き易くなる。
【0056】
上記不完全溶接部S1および完全溶接部S2のさらに外側には、領域S3,S4が存在している。領域S3は、上記電極7,7の加圧・通電による影響を受けて、接着剤5の層の厚みが薄くなっている領域である。一方、領域S4は、上記電極7,7による影響がなく、上記領域S3よりも厚い一定の接着剤5の層が存在する領域である。このため、上記領域S3の接着強度は、上記領域S4の接着強度よりも弱い。以下では、上記領域S3のことを弱接着部S3、上記領域S4のことを接着部S4と称する。
【0057】
なお、以上説明したような当実施形態の接合構造(図7)と、本願の請求項にかかる発明との対応関係としては、上記不完全溶接部S1が本発明にかかる「弱接合部」に相当し、上記完全溶接部S2が本発明にかかる「第1の接合部」に相当し、上記接着部S4が本発明にかかる「第2の接合部」に相当する。
【0058】
(3)実験
次に、当実施形態の効果を確認するために行った実験の結果について説明する。具体的に、この実験では、上記(1)で説明したような接合方法(図1〜図5)で実際に金属板を接合し、それによって得られた接合体の接合強度をL字剥離試験(図9参照)により測定した。
【0059】
(3−1)実験条件
図8(a)〜(c)は、実験に使用した電極7の形状を示す図である。図8(a)に示すタイプ1の電極は、図2〜図5に示した電極7と同様の形状であり、電極全体の直径が16mm、先端部に形成された平面部分の直径が6mm、その周囲の球状部分の半径が5mmである。図8(b)に示すタイプ2の電極は、先端部全体が凸球状に形成されており、その半径は50mmである。図8(c)に示すタイプ3の電極は、先端部全体が凸球状に形成されており、その半径は100mmである。
【0060】
後述する実施例および比較例に示すように、実験で用いられる電極7は、ほとんどのケースで図8(a)に示したタイプ1の電極である。なお、実施例10,11の場合のみ、非めっき鋼板3に当接する側の電極7としてタイプ2,3の電極を用いているが、アルミニウム合金板1に当接する側の電極7にはいずれの場合でもタイプ1の電極が用いられる。
【0061】
図8に示したような電極7,7を用いて、アルミニウム合金板1、亜鉛めっき鋼板2、非めっき鋼板3からなる3枚の金属板を図9に示すような形状に接合した。そして、得られた接合体を剥離するまで引っ張ることにより、接合部の強度を測定した(L字剥離試験)。なお、実験に使用したアルミニウム合金板1の厚みは1.2mm、亜鉛めっき鋼板2の厚みは0.8mm、非めっき鋼板3の厚みは1.6mmである。これは、後述する実施例および比較例の全てのケースで共通である。
【0062】
図10〜図18は、上記金属板1〜3を異なる接合条件下でそれぞれ接合し、得られた接合体の強度を上述のL字剥離試験(図9)により測定した結果を示すものである。なお、図10は、各接合条件とL字剥離試験の測定結果とをまとめた表であり、図11〜図18は、各接合条件を時系列で示すタイムチャートである。
【0063】
図10の表および図11〜図18のタイムチャートにおいて、実施例1〜11は、本発明の接合方法(図1〜図5に示した手順)に沿って上記金属板1〜3を接合したケースを示しており、比較例1,2は、本発明とは異なる手順で接合したケースを示している。なお、図10〜図18では、各工程の時間を電源のサイクル数(cyc)で示している。当実験では60Hzの電源を用いたため、例えば15cycを秒数で表すと、15/60=0.25sec(250msec)となる。図10では、各工程の時間をサイクル数(cyc)と秒数(msec)の両方で併記している。また、図10に記載されている剥離強度の値は、実施例1の強度を1.0としたときの相対値である。
【0064】
次に、実施例1〜11の接合条件を具体的に説明する。
【0065】
・実施例1
実施例1の接合条件は、図10および図11に示す通りである。すなわち、実施例1では、まず、プレ加圧工程として、2kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、2kNでの加圧を継続しつつ、2kAの電流を15cyc(250msec)の間通電する。次いで、冷却工程として、7kNの加圧力を、通電を停止した状態で60cyc(1000msec)の間加える。最後に、溶接工程として、7kNでの加圧を継続しつつ、14kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例では、アルミ側(アルミニウム合金1に接触する側)の電極7にタイプ1の電極(図8(a))を使用するとともに、鋼板側(非めっき鋼板3に接触する側)の電極7にも、タイプ1の電極を使用した。
【0066】
・実施例2
実施例2では、まず、プレ加圧工程として、2kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、2kAの電流を15cyc(250msec)の間通電するが、このとき、プレヒート工程の開始から10cyc(167msec)の間は、加圧力を2kNに設定する一方、その後の5cyc(83msec)の間は、加圧力を7kNに設定する。次いで、冷却工程として、7kNの加圧力を、通電を停止した状態で60cyc(1000msec)の間加える。最後に、溶接工程として、7kNの加圧力を継続しつつ、14kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0067】
・実施例3
実施例3の接合条件は、加圧および通電のタイミングが実施例1と同様であるが、実施例1と異なる点として、冷却工程および溶接工程時の加圧力が5kNに設定されるとともに、溶接工程時の通電電流が13kAに設定される。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0068】
・実施例4
実施例4の接合条件は、図10および図12に示す通りである。すなわち、実施例4では、まず、プレ加圧工程として、5kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、2kAの電流を15cyc(250msec)の間通電するが、このとき、プレヒート工程の開始から10cyc(167msec)の間は、加圧力を2kNに設定する一方、その後の5cyc(83msec)の間は、加圧力を5kNに設定する。次いで、冷却工程として、5kNの加圧力を、通電を停止した状態で30cyc(500msec)の間加える。最後に、溶接工程として、5kNでの加圧を継続しつつ、13kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0069】
・実施例5
実施例5の接合条件は、図10および図13に示す通りである。すなわち、実施例5では、まず、プレ加圧工程として、5kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、2kNの加圧力を加えつつ、2kAの電流を15cyc(250msec)の間通電する。次いで、冷却工程として、5kNの加圧力を、通電を停止した状態で30cyc(500msec)の間加える。最後に、溶接工程として、5kNでの加圧を継続しつつ、13kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0070】
・実施例6
実施例6の接合条件は、図10および図14に示す通りである。すなわち、実施例6では、まず、プレ加圧工程として、5kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、2kNの加圧力を加えつつ、2kAの電流を10cyc(167msec)の間通電する。次いで、冷却工程として、5kNの加圧力を、通電を停止した状態で20cyc(333msec)の間加える。最後に、溶接工程として、5kNでの加圧を継続しつつ、13kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0071】
・実施例7
実施例7の接合条件は、図10および図12に示すように、加圧および通電のタイミングが実施例4と同様であるが、実施例4と異なる点として、プレヒート工程時以外の加圧力が7kNに設定されるとともに、溶接工程時の通電電流が14kAに設定される。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0072】
・実施例8
実施例8の接合条件は、図10および図13に示すように、加圧および通電のタイミングが実施例5と同様であるが、実施例5と異なる点として、プレヒート工程時以外の加圧力が7kNに設定されるとともに、溶接工程時の通電電流が14kAに設定される。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0073】
・実施例9
実施例9の接合条件は、図10および図14に示すように、加圧および通電のタイミングが実施例6と同様であるが、実施例6と異なる点として、プレヒート工程時以外の加圧力が7kNに設定されるとともに、溶接工程時の通電電流が14kAに設定される。なお、当実施例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0074】
・実施例10
実施例10の接合条件は、図10および図15に示す通りである。すなわち、実施例10では、まず、プレ加圧工程として、3kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、3kNでの加圧を継続しつつ、3kAの電流を15cyc(250msec)の間通電する。次いで、冷却工程として、7kNの加圧力を、通電を停止した状態で40cyc(667msec)の間加える。最後に、溶接工程として、7kNでの加圧を継続しつつ、15kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例では、アルミ側の電極7にタイプ1の電極(図8(a))を使用する一方、鋼板側の電極7には、タイプ2の電極(図8(b))を使用した。
【0075】
・実施例11
実施例11の接合条件は、図10および図16に示す通りである。すなわち、実施例11では、まず、プレ加圧工程として、3kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、プレヒート工程として、3kNでの加圧を継続しつつ、3kAの電流を15cyc(250msec)の間通電する。次いで、冷却工程として、7kNの加圧力を、通電を停止した状態で20cyc(333msec)の間加える。最後に、溶接工程として、7kNでの加圧を継続しつつ、16kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。なお、当実施例では、アルミ側の電極7にタイプ1の電極(図8(a))を使用する一方、鋼板側の電極7には、タイプ3の電極(図8(c))を使用した。
【0076】
なお、以上説明した実施例1〜11の接合条件を、上述した図1〜図5の接合手順におけるプレ加圧力F0、第1の加圧力F1、第2の加圧力F2、第1の電流値I1、第2の電流値I2の各値に当てはめると、その対応関係は以下の通りになる。
【0077】
実施例1,2……プレ加圧力F0=2kN、第1の加圧力F1=2kN、第2の加圧力F2=7kN、第1の電流値I1=2kA、第2の電流値I2=14kA
実施例3……プレ加圧力F0=2kN、第1の加圧力F1=2kN、第2の加圧力F2=5kN、第1の電流値I1=2kA、第2の電流値I2=13kA
実施例4〜6……プレ加圧力F0=5kN、第1の加圧力F1=2kN、第2の加圧力F2=5kN、第1の電流値I1=2kA、第2の電流値I2=13kA
実施例7〜9……プレ加圧力F0=7kN、第1の加圧力F1=2kN、第2の加圧力F2=7kN、第1の電流値I1=2kA、第2の電流値I2=14kA
実施例10……プレ加圧力F0=3kN、第1の加圧力F1=3kN、第2の加圧力F2=7kN、第1の電流値I1=3kA、第2の電流値I2=15kA
実施例11……プレ加圧力F0=3kN、第1の加圧力F1=3kN、第2の加圧力F2=7kN、第1の電流値I1=3kA、第2の電流値I2=16kA。
【0078】
次に、比較例1,2の接合条件について説明する。
【0079】
・比較例1
比較例1の接合条件は、図10および図17に示す通りである。すなわち、比較例1では、まず、2kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加える。次いで、2kNでの加圧を継続しながら、2kAの電流を15cyc(250msec)の間通電する。最後に、7kNの加圧力を加えながら、12kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。この条件から理解されるように、比較例1では、上記各実施例におけるプレヒート工程および溶接工程に相当する工程として、2kAの通電と12kAの通電とをそれぞれ行っているが、両工程の間に通電を停止する期間(冷却工程)が存在しない。なお、当比較例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0080】
・比較例2
比較例2の接合条件は、図10および図18に示す通りである。すなわち、比較例2では、7kNの加圧力を60cyc(1000msec)の間加えた後、その加圧を継続しながら、10kAの電流を18cyc(300msec)の間通電する。この条件から理解されるように、比較例2では、上記各実施例におけるプレヒート工程および冷却工程に相当する工程が存在しない。なお、当比較例で使用される電極7は、アルミ側および鋼板側ともにタイプ1の電極(図8(a))である。
【0081】
(3−2)実験結果
図10に示される剥離強度の測定結果を比較すると、比較例1の剥離強度を1.0としたときに、実施例1〜11の剥離強度はいずれも2.7〜3.0の範囲の値であり、非常に高い接合強度が得られていることが分かる。一方、プレヒート工程、冷却工程に相当する工程が存在しない比較例2については、剥離強度が0.2と非常に低く、上記各実施例と比較して1/15程度の強度しか得られていない。このように、上記各実施例の接合条件によれば、従来と比べて非常に高い接合強度が得られることが分かった。また、実施例1〜11の方法で接合された接合部の構造としては、いずれも、先の図6、図7で示した構造と同様のものが得られた。
【0082】
比較例1,2の接合強度が低いのは、接着剤5の排出が不十分である上、材料の冷却が十分でない状態(つまり電気抵抗が大きい状態)で溶接電流が流されることで、抵抗発熱量が過大になり易く、溶接電流を十分に上げることができないためである。実際のところ、比較例1,2の溶接電流(12kAまたは10kA)は、実施例1〜11の溶接電流値(13〜16kA)よりも低いが、これ以上に溶接電流を上げたとしても、母材が飛散するチリと呼ばれる現象が起きてしまい、良好な溶接構造を得ることができなかった。
【0083】
(4)まとめ
以上の実験の結果から明らかなように、当実施形態の接合方法によれば、アルミニウム合金1および亜鉛めっき鋼板2を含む異種金属同士を強固に接合できるという利点がある。
【0084】
すなわち、上記実施形態では、ワークWに溶接用の高電流を流す前に、電極7,7によりワークWを加圧しつつ通電するプレヒート工程を行うようにしたため、ワークWの温度を融点未満の範囲に抑えながら、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との間の接着剤5を、通電による昇温効果で十分に軟化させることができる。また、その後の冷却工程において、通電を停止した状態でより高い加圧力を加えることにより、プレヒート工程で軟化した接着剤5の排出を促進させつつ、ワークWの温度を低下させることができ、さらには、金属同士を十分になじませることができる。これにより、材料の電気抵抗(特にアルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との界面抵抗)が効果的に低減され、上記電極7,7から高い溶接電流を流しても、過剰な抵抗発熱量が発生することがなく、溶接時に母材が飛散する現象(チリ)の発生が抑制される。よって、良好な溶接性を確保しながら、より高い溶接電流を流すことができ、接合強度を効果的に向上させることができる。
【0085】
図20は、上記のような作用効果を裏付けるグラフである。具体的に、この図20のグラフは、プレヒート工程がある場合もしくはない場合で、一定電流を流した際の溶接工程中の抵抗変化を示したものである。グラフ中の△印の波形は、プレヒート工程が存在する実施例2での抵抗値の変化を示しており、□印の波形は、プレヒート工程が存在しない比較例2での抵抗値の変化を示している。本グラフから明らかなように、溶接工程前にプレヒート工程を行う実施例2の方が、プレヒート工程を行わない比較例2と比べて、通電開始から終了までの間、いずれも抵抗値が低くなっている。このことは、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との界面への接着剤塗布の有無によらない。以上のことから、プレヒート工程により材料のなじみを向上させた場合、接触抵抗が低下して通電電流を高くすることが可能となり、溶接性が高まることが分かる。
【0086】
なお、上記実施形態では、金属板1〜3を積層する積層工程の後、プレ加圧工程として、金属板1〜3からなるワークWを電極7,7で挟み込んで所定時間に亘り加圧し、その後、プレヒート工程として、ワークWを加圧しつつ所定の電流(第1の電流値I1)を通電するようにしたが、可能であれば、プレ加圧工程を省略し、ワークWの加圧と第1の電流値I1の通電とをほぼ同時に開始するようにしてもよい。ただし、プレ加圧工程により事前にワークWを加圧した状態でプレヒート工程に移行するようにした方が、通電電流が安定化して適正な昇温効果が得られるという点で有利である。
【0087】
特に、上記実施例4〜9のように、プレ加圧工程での電極7,7の加圧力(プレ加圧力F0)を、プレヒート工程開始時の加圧力(第1の加圧力F1)よりも大きく設定した場合には、プレ加圧工程中においても、上記電極7,7による加圧部から接着剤5を積極的に排出することができるため、その後のプレヒート工程および冷却工程による効果と合わせて、上記加圧部から接着剤5をより確実に排出することができ、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との溶接性をさらに向上させることができる。また、接着剤5の排出力が高まることで、プレヒート工程および冷却工程の時間を短縮しても、十分な接合強度を確保できるという利点がある。
【0088】
例えば、上記実施例4〜9での冷却工程の時間は、実施例1〜3での冷却工程の時間(60cyc)よりも短い20cycまたは30cycに設定されており、さらに、実施例6,9でのプレヒート工程の時間は、実施例1〜3でのプレヒート工程の時間(15cyc)よりも短い10cycに設定されている。一方、剥離強度については、実施例1〜3および実施例4〜9で、いずれも2.7〜3.0の範囲となっている。すなわち、実施例4〜9と実施例1〜3とを比較すると、実施例4〜9の方が、プレヒート工程および冷却工程のいずれかもしくは両方の時間が短いにもかかわらず、実施例1〜3とほとんど同じレベルの剥離強度が得られていることが分かる。これは、実施例4〜9の方が、プレ加圧工程での加圧力(プレ加圧力F0)が大きいため、上述した理由により、プレヒート工程および冷却工程の時間が短くても、十分な剥離強度が得られたものと考えられる。
【0089】
また、上記実施形態では、電極7,7として、図2〜図5、もしくは図8に示したような電極を用いたが、使用可能な電極の形状はこれに限られない。ただし、金属板との接触面積が過度に小さくなるような電極形状は避けた方がよい。例えば、図8(b)(c)に示したような、先端部が凸球状に形成された電極を用いる場合において、先端部の半径をむやみに小さくする(つまり先鋭化する)と、電極と金属板との接触面積が過小となり、上記実施形態のような十分な接合強度を得ることができなるおそれがある。
【0090】
すなわち、上記実施形態のように、電極7,7として、金属板との接触面積が比較的大きい電極を用いた場合には、電極7,7の中心部に対応する接着剤5を十分に排出することができない一方で、電極7,7の径方向外側部分に対応する接着剤5は確実に周囲に排出することができる。すると、図7に示したように、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との間に、接着剤5の熱分解物5aが残存した不完全溶接部S1と、熱分解物5aがほとんど残存していない完全溶接部S2とが同心円状に形成されることになる。つまり、接合強度の高い完全溶接部S2が円環状に形成され、その中心側に接合強度の弱い不完全溶接部S1が形成される。これにより、接合強度の高い完全溶接部S2の外径が大きくなるため、曲げやねじりに強く、疲労強度にも優れた接合構造を構築できるという利点がある。
【0091】
これに対し、金属板との接触面積が小さい電極を用いた場合には、接着剤5の排出エリアが電極の中心部に集中し、中実円形状の接合部が形成されると考えられる。すると、上記実施形態の場合と比べて、接合部の外径が小さくなり、十分な接合強度が得られなくなるおそれがある。したがって、上記実施形態のように、金属板との接触面積が大きい電極を用いて円環状の完全溶接部S2を形成するようにした方が、より高い接合強度が得られるという点で有利である。
【0092】
また、図8(a)〜(c)に示したタイプ1〜3の電極のうち、より好ましい電極の組合せとしては、上記実施例10,11のように、アルミ側(アルミニウム合金板1に接触する側)にタイプ1の電極を用い、鋼板側(非めっき鋼板3に接触する側)にタイプ2または3の電極を用いるとよい。すなわち、実施例1と実施例10,11とを比較すると、アルミ側、鋼板側ともにタイプ1の電極を用いた実施例1よりも、アルミ側にタイプ1、鋼板側にタイプ2または3の電極を用いた実施例10,11の方が、冷却工程の時間が短いにもかかわらず、全く同じ剥離強度(3.0)が得られていることが分かる。このことから、実施例10,11における電極の組合せの方が、短い冷却時間で同等の接合強度を得ることができると言える。
【0093】
実施例10,11の方が冷却時間が短く済むのは、タイプ2,3の電極の方が金属板との接触面積が大きいためと考えられる。すなわち、冷却工程で電極7,7によりワークWを加圧する際に、非めっき鋼板3に接触する電極7の面積は、図19に示すように、タイプ1、タイプ2、タイプ3の順に大きい。したがって、タイプ1の電極よりも、タイプ2,3の電極を非めっき鋼板3に接触させた方が、冷却工程時に電極7を通じて効率よく熱を吸収でき、それ程時間をかけなくても十分な冷却を図ることができる。しかも、アルミニウム合金板1ではなく、これよりも熱容量の大きい非めっき鋼板3に、上記タイプ2,3の電極を接触させるようにしたため、冷却効率をより高めることができる。
【0094】
なお、上記実施例10,11において、鋼板側にタイプ2,3の電極を用いる一方、アルミ側にはタイプ1の電極を用いたのは、接触面積がより大きいタイプ2,3の電極をアルミ側および鋼板側の両方に用いると、溶接時の電流密度が下がり、ナゲットの形成が困難になるためである。
【0095】
いずれにせよ、上記各実施例のように、金属板との接触面積が適度に大きい電極を用いることにより、図7に示したように、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との間に、外形が大きい円環状の完全溶接部S2を形成することができ、接合部の強度を効果的に高めることができる。しかも、図7によれば、接着剤5により接着された接着部S4が、上記完全溶接部S2の外側を取り囲むように形成されているため、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2との間への水分の浸入およびこれに起因した電食の発生を効果的に防止することが可能である。
【0096】
なお、上記実施形態では、アルミニウム合金板1、亜鉛めっき鋼板2、および非めっき鋼板3からなる3枚の金属板を重ね合わせて同時に接合するようにしたが、必ずしも非めっき鋼板3を含めて接合する必要はなく、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2のみを同様の方法により接合するようにしてもよい。この場合、図7のナゲット部M2が形成されない点が異なる。
【0097】
また、上記実施形態では、冷却工程および溶接工程時における電極7,7の加圧力を同一値(第2の加圧力F2)としたが、上記冷却工程および溶接工程時の加圧力は、それぞれがプレヒート工程開始時の加圧力(第1の加圧力F1)よりも高ければよく、冷却工程時の加圧力と溶接工程時の加圧力とが異なっていてもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、表面に亜鉛めっきが施された鋼板(亜鉛めっき鋼板)2をアルミニウム合金板1と重ね合わせて接合したが、めっき鋼板2としては、亜鉛めっき以外のめっきが施された鋼板も好適に使用できる。そこで、その一例として、アルミニウムめっき鋼板、または、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板をめっき鋼板2として用い、これらの鋼板とアルミニウム合金板1とを、接着剤とスポット溶接により接合した実施例について説明する。めっきの目付け量、板厚は上記亜鉛めっき鋼板2の場合と同じである。また、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板のめっき成分は、Zn-11%Al-3%Mgとした。
【0099】
接合方法の条件は、上記亜鉛めっき鋼板2とアルミニウム合金板1との接合で説明した実施例2(図10参照)と同じとした。電極のタイプも実施例2と同じである。比較例としては、亜鉛めっき鋼板2をアルミニウムめっき鋼板、または亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板に代えた以外は、上記比較例1(図10参照)と同じ条件を適用した。
【0100】
その結果、アルミニウムめっき鋼板とアルミニウム合金板との接合体の剥離強度は、比較例の剥離強度を1とした場合、相対値として3.0となった。また、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板とアルミニウム合金板との接合体の剥離強度も、比較例の剥離強度を1とした場合、相対値として3.0となった。なお、これらの実施例で得られた接合体の構造は、アルミニウムめっき鋼板、または亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板のいずれを用いた場合でも、図6、図7で説明した構造と同じであった。
【符号の説明】
【0101】
1 アルミニウム合金板
2 めっき鋼板
3 非めっき鋼板(別の鋼板)
5 接着剤
5a (接着剤の)熱分解物
7 電極
F1 第1の加圧力
F2 第2の加圧力
M2 ナゲット部
S1 不完全溶接部(弱接合部)
S2 完全溶接部(第1の接合部)
S4 接着部(第2の接合部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板およびめっき鋼板からなる異種金属板同士を接着剤による接着とスポット溶接とにより接合する方法であって、
上記アルミニウム合金板とめっき鋼板とを上記接着剤を介して重ね合わせる積層工程と、
上記積層工程で重ね合わせられた上記両金属板をスポット溶接用の一対の電極の間に挟み込んで加圧するとともに、上記一対の電極間に電流を流すプレヒート工程と、
上記プレヒート工程の後、上記電極間の通電を停止した状態で、上記両金属板を上記プレヒート工程の開始時よりも高い加圧力で加圧し、これを所定の冷却時間に亘り継続する冷却工程と、
上記冷却工程の後、上記プレヒート工程の開始時よりも高い加圧力で上記両金属板を加圧しつつ、上記プレヒート工程での通電電流値よりも高い電流を上記一対の電極間に流すことにより、上記両金属板同士を溶接する溶接工程とを含むことを特徴とする異種金属板の接合方法。
【請求項2】
請求項1記載の異種金属板の接合方法において、
上記プレヒート工程の開始から所定期間の間、上記電極の加圧力を第1の加圧力に設定し、上記プレヒート工程の途中もしくは終了時に、上記加圧力を上記第1の加圧力よりも大きい第2の加圧力に増大させ、上記冷却工程および溶接工程が終了するまで上記第2の加圧力での加圧を継続することを特徴とする異種金属板の接合方法。
【請求項3】
請求項2記載の異種金属板の接合方法において、
上記プレヒート工程よりも前に、上記アルミニウム合金板およびめっき鋼板を上記一対の電極で挟み込んで加圧するプレ加圧工程を行うことを特徴とする異種金属板の接合方法。
【請求項4】
請求項3記載の異種金属板の接合方法において、
上記プレ加圧工程での加圧力を、上記第1の加圧力よりも大きく設定することを特徴とする異種金属板の接合方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の異種金属板の接合方法において、
上記積層工程として、上記アルミニウム合金板とめっき鋼板とを接着剤を介して重ね合わせるとともに、上記めっき鋼板とは別の鋼板を上記アルミニウム合金板とは反対側からめっき鋼板に重ね合わせ、
かつこの状態で上記プレヒート工程、冷却工程、および溶接工程を含む各工程を行うことにより、上記アルミニウム合金板、めっき鋼板、および別の鋼板を互いに接合することを特徴とする異種金属板の接合方法。
【請求項6】
アルミニウム合金板とめっき鋼板とが接合された異種金属接合体であって、
上記アルミニウム合金板とめっき鋼板との間に、スポット溶接により溶接された第1の接合部と、接着剤により接着された第2の接合部とが存在し、上記第1の接合部が平面視で略円環状に形成されたことを特徴とする異種金属接合体。
【請求項7】
請求項6記載の異種金属接合体において、
上記第1の接合部の周囲が上記第2の接合部により囲まれていることを特徴とする異種金属接合体。
【請求項8】
請求項6または7記載の異種金属接合体において、
円環状の上記第1の接合部よりも中心側に、上記接着剤の熱分解物が残存した弱接合部が存在することを特徴とする異種金属接合体。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の異種金属接合体において、
上記めっき鋼板に対し、上記アルミニウム合金板とは反対側から別の鋼板が接合されたことを特徴とする異種金属接合体。
【請求項10】
請求項9記載の異種金属接合体において、
上記めっき鋼板と上記別の鋼板との間にナゲット部が形成され、該ナゲット部は上記アルミニウム合金板と接触せずかつ上記第1の接合部と対向する位置に形成されていることを特徴とする異種金属接合体。
【請求項1】
アルミニウム合金板およびめっき鋼板からなる異種金属板同士を接着剤による接着とスポット溶接とにより接合する方法であって、
上記アルミニウム合金板とめっき鋼板とを上記接着剤を介して重ね合わせる積層工程と、
上記積層工程で重ね合わせられた上記両金属板をスポット溶接用の一対の電極の間に挟み込んで加圧するとともに、上記一対の電極間に電流を流すプレヒート工程と、
上記プレヒート工程の後、上記電極間の通電を停止した状態で、上記両金属板を上記プレヒート工程の開始時よりも高い加圧力で加圧し、これを所定の冷却時間に亘り継続する冷却工程と、
上記冷却工程の後、上記プレヒート工程の開始時よりも高い加圧力で上記両金属板を加圧しつつ、上記プレヒート工程での通電電流値よりも高い電流を上記一対の電極間に流すことにより、上記両金属板同士を溶接する溶接工程とを含むことを特徴とする異種金属板の接合方法。
【請求項2】
請求項1記載の異種金属板の接合方法において、
上記プレヒート工程の開始から所定期間の間、上記電極の加圧力を第1の加圧力に設定し、上記プレヒート工程の途中もしくは終了時に、上記加圧力を上記第1の加圧力よりも大きい第2の加圧力に増大させ、上記冷却工程および溶接工程が終了するまで上記第2の加圧力での加圧を継続することを特徴とする異種金属板の接合方法。
【請求項3】
請求項2記載の異種金属板の接合方法において、
上記プレヒート工程よりも前に、上記アルミニウム合金板およびめっき鋼板を上記一対の電極で挟み込んで加圧するプレ加圧工程を行うことを特徴とする異種金属板の接合方法。
【請求項4】
請求項3記載の異種金属板の接合方法において、
上記プレ加圧工程での加圧力を、上記第1の加圧力よりも大きく設定することを特徴とする異種金属板の接合方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の異種金属板の接合方法において、
上記積層工程として、上記アルミニウム合金板とめっき鋼板とを接着剤を介して重ね合わせるとともに、上記めっき鋼板とは別の鋼板を上記アルミニウム合金板とは反対側からめっき鋼板に重ね合わせ、
かつこの状態で上記プレヒート工程、冷却工程、および溶接工程を含む各工程を行うことにより、上記アルミニウム合金板、めっき鋼板、および別の鋼板を互いに接合することを特徴とする異種金属板の接合方法。
【請求項6】
アルミニウム合金板とめっき鋼板とが接合された異種金属接合体であって、
上記アルミニウム合金板とめっき鋼板との間に、スポット溶接により溶接された第1の接合部と、接着剤により接着された第2の接合部とが存在し、上記第1の接合部が平面視で略円環状に形成されたことを特徴とする異種金属接合体。
【請求項7】
請求項6記載の異種金属接合体において、
上記第1の接合部の周囲が上記第2の接合部により囲まれていることを特徴とする異種金属接合体。
【請求項8】
請求項6または7記載の異種金属接合体において、
円環状の上記第1の接合部よりも中心側に、上記接着剤の熱分解物が残存した弱接合部が存在することを特徴とする異種金属接合体。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の異種金属接合体において、
上記めっき鋼板に対し、上記アルミニウム合金板とは反対側から別の鋼板が接合されたことを特徴とする異種金属接合体。
【請求項10】
請求項9記載の異種金属接合体において、
上記めっき鋼板と上記別の鋼板との間にナゲット部が形成され、該ナゲット部は上記アルミニウム合金板と接触せずかつ上記第1の接合部と対向する位置に形成されていることを特徴とする異種金属接合体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−88192(P2011−88192A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244345(P2009−244345)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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