説明

異音検査装置および異音検査方法

【課題】周期的な動作音を発生させる回転機械等の周期動作音発生装置で発生した動作音に異音が含まれているか否かを適切に判定することが可能な異音検査装置を提供すること。
【解決手段】周期的な動作音を発生させる周期動作音発生装置2で発生した動作音に異音が含まれているか否かを検査する異音検査装置1は、周期動作音発生装置2で発生した動作音を検出する検出部3と、検出部3で検出された動作音の波形の振幅である動作振幅のレベルが所定の基準レベルに合うように動作音の波形を修正する波形修正部8と、波形修正部8で修正された波形に基づいて動作音に異音が含まれているか否かを判定する判定部9とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期的な動作音を発生させる回転機械等の装置で発生した動作音に異音が含まれているか否かを検査する異音検査装置および異音検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機械で異音が発生しているか否かを検査するための検査装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の検査装置では、回転機械が発生する動作音が加速度ピックアップ等のセンサで検出され、センサで検出された動作音は、増幅部で増幅された後に、周波数分析処理部に入力される。周波数分析処理部では、たとえば、FFT(Fast Fourier Transform、高速フーリエ変換)によって周波数分析処理が行われ、その演算結果が振幅値算出部に入力される。振幅値算出部では、所定の周波数帯域のスペクトルの総和が算出され、算出されたスペクトルの総和が診断処理部に入力される。診断処理部では、スペクトルの総和が所定の基準値以上である場合に、回転機械で異音が発生していると判定され、スペクトルの総和が基準値未満である場合に、回転機械で異音が発生していないと判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−256690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の検査装置では、回転機械で発生している動作音が小さいと、回転機械で異音が発生してもいても、振幅値算出部で算出されるスペクトルの総和が小さくなるため、回転機械で異音が発生しているにもかかわらず、回転機械で異音が発生していないと判定されてしまうおそれがある。一方、この検査装置では、回転機械で発生している動作音が大きいと、振幅値算出部で算出されるスペクトルの総和が大きくなるため、回転機械で異音が発生していないにもかかわらず、回転機械で異音が発生していると判定されてしまうおそれがある。このように、特許文献1に記載の検査装置では、回転機械で異音が発生しているか否かを適切に判定することが困難である。
【0005】
そこで、本発明の課題は、周期的な動作音を発生させる回転機械等の周期動作音発生装置で発生した動作音に異音が含まれているか否かを適切に判定することが可能な異音検査装置および異音検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の異音検査装置は、周期的な動作音を発生させる周期動作音発生装置で発生した動作音に異音が含まれているか否かを検査する異音検査装置において、周期動作音発生装置で発生した動作音を検出する検出手段と、検出手段で検出された動作音の波形の振幅である動作振幅のレベルが所定の基準レベルに合うように波形を修正する波形修正手段と、波形修正手段で修正された波形に基づいて動作音に異音が含まれているか否かを判定する判定手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の異音検査装置は、検出手段で検出された動作音の波形の振幅である動作振幅のレベルが所定の基準レベルに合うように波形を修正する波形修正手段を備えている。そのため、周期動作音発生装置で発生した実際の動作音が小さい場合には、動作音の波形の振幅のレベルを大きくするように、波形修正手段で動作音の波形を修正することが可能になり、周期動作音発生装置で発生した実際の動作音が大きい場合には、動作音の波形の振幅のレベルを小さくするように、波形修正手段で動作音の波形を修正することが可能になる。したがって、本発明では、周期動作音発生装置で発生した動作音の大小にかかわらず、判定手段で、動作音に異音が含まれているか否かを適切に判断することが可能になる。
【0008】
本発明において、波形の振幅がゼロとなる箇所をゼロクロスポイントとしたときに、波形修正手段は、波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時の複数のピーク値の平均値であるピーク側平均値と、波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時の複数のボトム値の平均値であるボトム側平均値とに基づいて、波形を修正することが好ましい。このように構成すると、波形修正手段による波形の修正によって、動作振幅のレベルを適切に基準レベルに合わせることが可能になる。
【0009】
本発明において、波形修正手段は、ピーク側平均値に基づいて設定されるピーク側基準範囲から外れるピーク値を除く複数のピーク値の平均値であるピーク側基準平均値と、ボトム側平均値に基づいて設定されるボトム側基準範囲から外れるボトム値を除く複数のボトム値の平均値であるボトム側基準平均値とを算出するとともに、ピーク側基準平均値およびボトム側基準平均値と所定の基準値とから算出される修正係数に基づいて、動作振幅のレベルが基準レベルに合うように、波形を修正することが好ましい。このように構成すると、動作音に異音が含まれている場合であっても、異音の影響の少ないピーク側基準平均値およびボトム側基準平均値に基づいて波形を修正することが可能になる。すなわち、動作音に異音が含まれていても、波形を修正する際には、異音の影響を低減することが可能になる。したがって、波形修正手段による波形の修正によって、動作振幅のレベルをより適切に基準レベルに合わせることが可能になる。
【0010】
本発明において、波形の振幅がゼロとなる箇所をゼロクロスポイントとしたときに、判定手段は、修正後の波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時のピーク値である複数の修正後ピーク値の平均値と修正後ピーク値の最大値との比と、修正後の波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時のボトム値である複数の修正後ボトム値の平均値と修正後ボトム値の最小値との比とに基づいて、および/または、複数の修正後ピーク値のばらつきと複数の修正後ボトム値のばらつきとに基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定することが好ましい。修正後ピーク値の平均値と修正後ピーク値の最大値との比と、修正後ボトム値の平均値と修正後ボトム値の最小値との比とに基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定すると、衝撃音等の突発的な異音が動作音に含まれている場合であって異音の発生回数が少ない場合に、動作音に異音が含まれていることを適切に判定することが可能になる。また、修正後ピーク値のばらつきと修正後ボトム値のばらつきとに基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定すると、突発的な異音が動作音に含まれている場合であって異音の発生回数が比較的多い場合、および、ゆらぐような異音が動作音に含まれている場合に、動作音に異音が含まれていることを適切に判定することが可能になる。
【0011】
本発明において、判定手段は、修正後の波形から算出される所定の周波数帯域におけるスペクトルの総和に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定することが好ましい。このように構成すると、突発的な異音が動作音に含まれている場合であって異音の発生回数が比較的多い場合、および、ゆらぐような異音が動作音に含まれている場合に、動作音に異音が含まれていることを適切に判定することが可能になる。
【0012】
本発明において、判定手段は、修正後の波形を一定の周期で区切るとともに、区切られた周期ごとの波形に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定することが好ましい。この場合には、波形の振幅がゼロとなる箇所をゼロクロスポイントとしたときに、判定手段は、たとえば、区切られた周期ごとの波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時のピーク値である複数の修正後各周期ピーク値の平均値の複数の周期間におけるばらつきと、区切られた周期ごとの波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時のボトム値である複数の修正後各周期ボトム値の平均値の複数の周期間におけるばらつきとに基づいて、および/または、区切られた周期ごとの波形の、複数の修正後各周期ピーク値のばらつきである修正後各周期ピークばらつきの複数の周期間におけるばらつきと、区切られた周期ごとの波形の、複数の修正後各周期ボトム値のばらつきである修正後各周期ボトムばらつきの複数の周期間におけるばらつきとに基づいて、および/または、区切られた周期ごとの波形の、修正後各周期ピーク値の数の複数の周期間におけるばらつきと、区切られた周期ごとの波形の、修正後各周期ボトム値の数の複数の周期間におけるばらつきとに基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定する。このように構成すると、周期的でない突発的な異音が動作音に含まれている場合に、動作音に異音が含まれていることを適切に判定することが可能になる。
【0013】
本発明において、周期動作音発生装置は、正転および逆転をする回転機械であり、検出手段は、連続的に正転と逆転とを繰り返す回転機械の正転時の動作音である正転時動作音と、回転機械の逆転時の動作音である逆転時動作音とを検出し、波形修正手段は、回転機械の正転と逆転との切り替わり時の波形の振幅がゼロとなる区間に基づいて、正転時動作音の波形と逆転時動作音の波形とに波形を切り分け、正転時動作音の波形を修正するとともに、逆転時動作音の波形を修正し、判定手段は、波形修正手段で修正された正転時動作音の波形に基づいて、正転時動作音に異音が含まれているか否かを判定するとともに、波形修正手段で修正された逆転時動作音の波形に基づいて、逆転時動作音に異音が含まれているか否かを判定することが好ましい。このように構成すると、正転時動作音の波形の振幅と逆転時動作音の波形の振幅とが異なっている場合であっても、波形修正手段で、適切に波形を修正することが可能になり、判定手段で、動作音に異音が含まれているか否かを適切に判定することが可能になる。
【0014】
また、上記の課題を解決するため、本発明の異音検査方法は、周期的な動作音を発生させる周期動作音発生装置で発生した動作音に異音が含まれているか否かを検査する異音検査方法において、周期動作音発生装置で発生した動作音を検出する検出ステップと、検出ステップで検出された動作音の波形の振幅である動作振幅のレベルが所定の基準レベルに合うように、波形を修正する波形修正ステップと、波形修正ステップで修正された波形に基づいて、動作音に前記異音が含まれているか否かを判定する判定ステップとを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の異音検査方法では、検出ステップで検出された動作音の波形の振幅である動作振幅のレベルが所定の基準レベルに合うように、波形修正ステップで波形を修正している。そのため、周期動作音発生装置で発生した実際の動作音が小さい場合には、波形修正ステップで、動作音の波形の振幅のレベルを大きくするように動作音の波形を修正することが可能になり、周期動作音発生装置で発生した実際の動作音が大きい場合には、波形修正ステップで、動作音の波形の振幅のレベルを小さくするように動作音の波形を修正することが可能になる。したがって、本発明では、周期動作音発生装置で発生した動作音の大小にかかわらず、判定ステップで、動作音に異音が含まれているか否かを適切に判断することが可能になる。
【0016】
本発明において、波形の振幅がゼロとなる箇所をゼロクロスポイントとしたときに、波形修正ステップは、波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時の複数のピーク値の平均値であるピーク側平均値と、波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時の複数のボトム値の平均値であるボトム側平均値とを算出する平均値算出ステップと、ピーク側平均値に基づいてピーク側基準範囲を設定するとともに、ボトム側平均値に基づいてボトム側基準範囲を設定する基準範囲設定ステップと、ピーク側基準範囲から外れるピーク値を除く複数のピーク値の平均値であるピーク側基準平均値と、ボトム側基準範囲から外れるボトム値を除く複数のボトム値の平均値であるボトム側基準平均値とを算出する基準平均値算出ステップと、基準平均値算出ステップで算出されたピーク側基準平均値およびボトム側基準平均値と所定の基準値とから波形を修正するための修正係数を算出する修正係数算出ステップと、修正係数算出ステップで算出された修正係数に基づいて、動作振幅のレベルが基準レベルに合うように、波形を修正する修正ステップとを備えることが好ましい。このように構成すると、動作音に異音が含まれている場合であっても、異音の影響の少ないピーク側基準平均値およびボトム側基準平均値に基づいて波形を修正することが可能になる。したがって、波形修正ステップでの波形の修正によって、動作振幅のレベルをより適切に基準レベルに合わせることが可能になる。
【0017】
本発明において、波形の振幅がゼロとなる箇所をゼロクロスポイントとしたときに、判定ステップは、修正後の波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時のピーク値である複数の修正後ピーク値の平均値と修正後ピーク値の最大値との比と、修正後の波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時のボトム値である修正後ボトム値の平均値と修正後ボトム値の最小値との比とに基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定する波形判定ステップと、修正後の波形から算出される所定の周波数帯域におけるスペクトルの総和に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定する総和判定ステップとを備えることが好ましい。このように構成すると、突発的な異音が動作音に含まれている場合およびゆらぐような異音が動作音に含まれている場合のいずれの場合であっても、動作音に異音が含まれていることを適切に判定することが可能になる。
【0018】
本発明において、波形判定ステップの後に総和判定ステップを行うことが好ましい。このように構成すると、波形修正ステップでの処理のアルゴリズムと波形判定ステップでの処理のアルゴリズムとが比較的似ており、かつ、波形修正ステップでの処理のアルゴリズムと総和判定ステップでの処理のアルゴリズムとが大きく異なっているため、総和判定ステップの後に波形判定ステップを行う場合と比較して、判定ステップでの処理時間を短縮することが可能になる。
【0019】
本発明において、判定ステップは、修正後の波形を一定の周期に区切るとともに、区切られた周期ごとの波形に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定する周期判定ステップを備えていることが好ましい。このように構成すると、周期的でない突発的な異音が動作音に含まれている場合に、動作音に異音が含まれていることを適切に判定することが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の異音検査装置および異音検査方法では、周期的な動作音を発生させる回転機械等の周期動作音発生装置で発生した動作音に異音が含まれているか否かを適切に判定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態にかかる異音検査装置の概略構成を説明するためのブロック図である。
【図2】図1に示す異音検査装置での異音検査方法の概略のフローを示すフローチャートである。
【図3】図2に示す波形修正ステップでの処理フローを示すフローチャートである。
【図4】図3に示す波形切り分けステップでの波形の切り分け方法を説明するための図である。
【図5】図3に示す基準範囲設定ステップでの基準範囲の設定方法、および、基準平均値算出ステップでの基準平均値の算出方法等を説明するための図である。
【図6】図2に示す総和判定ステップでのスペクトルの抽出範囲を説明するための図である。
【図7】本発明の他の実施の形態にかかる判定部での判定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
(異音検査装置の概略構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかる異音検査装置1の概略構成を説明するためのブロック図である。
【0024】
本形態の異音検査装置1は、周期的な動作音を発生させる回転機械等の周期動作音発生装置2で発生した動作音に異音が含まれているか否かを検査することで、周期動作音発生装置2が不良品であるか否かを検査するための装置である。本形態の周期動作音発生装置2は、回転機械である。より具体的には、本形態の周期動作音発生装置2は、小型のステッピングモータである。したがって、以下では、本形態の周期動作音発生装置2を「ステッピングモータ2」と表記する。
【0025】
図1に示すように、異音検査装置1は、ステッピングモータ2で発生した動作音を検出する検出手段としての検出部3と、検出部3で検出された動作音を増幅する増幅部4と、増幅部4で増幅された動作音が入力される処理部5とを備えている。
【0026】
ステッピングモータ2は、正転および逆転(正方向および逆方向の両方向への回転)が可能となるように構成されている。また、ステッピングモータ2の出力軸には、たとえば、リードスクリュー2aが形成されている。このリードスクリュー2aは、光ピックアップ装置等の被移動体と螺合しており、ステッピングモータ2は、リードスクリュー2aに沿って被移動体を移動させる。
【0027】
検出部3は、たとえば、圧電式加速度ピックアップである。この検出部3は、ステッピングモータ2に取り付けられており、上述のように、ステッピングモータ2で発生した動作音を検出する。具体的には、検出部3は、ステッピングモータ2で発生した動作音(振動)を電気信号に変換する。増幅部4は、たとえば、チャージアンプであり、検出部3に接続されている。増幅部4には、検出部3からの動作音(具体的には電気信号)が入力され、増幅された動作音が増幅部4から処理部5に向かって出力される。
【0028】
処理部5は、たとえば、パーソナルコンピュータ(PC)である。この処理部5は、増幅部4で増幅された動作音が入力される入力部6と、入力部6から入力された動作音の、特定の周波数帯域から外れる周波数成分を取り除く(すなわち、動作音の、特定の周波数帯域の周波数成分を取り出す)フィルター処理部7とを備えている。入力部6は、ライン入力端子またはマイク入力端子等であり、増幅部4で増幅された動作音は、ライン入力またはマイク入力によって、処理部5へ取り込まれる。フィルター処理部7は、たとえば、バンドパスフィルタである。
【0029】
また、処理部5は、入力された動作音の波形を修正する波形修正手段としての波形修正部8と、波形修正部8で修正された動作音の波形に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定する判定手段としての判定部9と、各種のデータが記憶される記憶部10とを備えている。波形修正部8および判定部9は、実際には、CPU等の演算手段によって構成され、記憶部10は、ROMやRAM等の記憶手段によって構成されている。
【0030】
なお、処理部5には、ディスプレイ等の表示部(図示省略)や、スピーカ等の音声発生部(図示省略)等が接続されており、処理部5での処理結果が表示部に表示されたり、処理部5での処理結果に基づく音声(動作音)が音声発生部から発せられる。
【0031】
(異音検査方法)
図2は、図1に示す異音検査装置1での異音検査方法の概略のフローを示すフローチャートである。図3は、図2に示す波形修正ステップS5での処理フローを示すフローチャートである。図4は、図3に示す波形切り分けステップS11での波形の切り分け方法を説明するための図である。図5は、図3に示す基準範囲設定ステップS14での基準範囲の設定方法、および、基準平均値算出ステップS15での基準平均値の算出方法等を説明するための図である。図6は、図2に示す総和判定ステップS7でのスペクトルの抽出範囲を説明するための図である。
【0032】
本形態の異音検査装置1は、光ピックアップ装置等の被移動体を一方向および他方向の両方向へ移動させるステッピングモータ2の動作音に異音が含まれているか否かを検査する。すなわち、本形態の異音検査装置1は、連続的に複数回の正転と複数回の逆転とを繰り返すステッピングモータ2の動作音に異音が含まれているか否かを検査する。具体的には、まず、検出部3が、連続的に複数回の正転と複数回の逆転とを繰り返すステッピングモータ2で発生した動作音を検出する(検出ステップ、ステップS1)。すなわち、ステップS1で、検出部3は、ステッピングモータ2の正転時の動作音と、ステッピングモータ2の逆転時の動作音とを検出する。
【0033】
検出部3で検出されたステッピングモータ2の動作音は増幅部4で増幅された後に処理部5へ入力される。すなわち、増幅部4で増幅された動作音のデータは、ライン入力またはマイク入力によって、処理部5の中に取り込まれる(ステップS2)。このステップS2では、たとえば、増幅部4で増幅されたアナログ信号が、44.1kHzのサンプリング周期で16ビットのデジタル信号に変換されて処理部5に取り込まれる。また、処理部5に取り込まれた動作音のデータは、記憶部10に保存される(ステップS3)。このステップS3では、たとえば、取り込まれた動作音のデータは、WAVEファイルとして保存される。
【0034】
その後、フィルター処理部7は、取り込まれた動作音の、特定の周波数帯域の周波数成分を取り出すデジタルフィルター処理を行う(ステップS4)。ここで、特定の周波数帯域は、異音検査が行われる対象(すなわち、周期動作音発生装置2)に応じて予め設定されている。具体的には、異音検査が行われる周期動作音発生装置2で異音が発生しやすい周波数帯域が実験的に算出され、算出された周波数帯域が特定の周波数帯域として設定されている。本形態のステッピングモータ2では、たとえば、1.5kHz〜4.5kHzの間で異音が発生しやすいため、1.5kHz〜4.5kHzが特定の周波数帯域として設定されている。
【0035】
その後、波形修正部8は、デジタルフィルター処理後の動作音の波形の振幅(動作振幅)のレベルが所定の基準レベルに合うように、波形を修正する(波形修正ステップ、ステップS5)。具体的には、波形修正部8は、図3に示すフローに沿って、波形を修正する。
【0036】
まず、波形修正部8は、動作音の波形を、ステッピングモータ2の正転時の波形と逆転時の波形とに切り分ける(ステップS11)。具体的には、図4に示すように、ステッピングモータ2の正転と逆転との切り替わり時には、動作音が発生せずに波形の振幅がゼロとなる無音区間が現れるため、この無音区間に基づいて、動作音の波形を、正転時の波形と逆転時の波形とに切り分ける。その後、波形修正部8は、以下のようにして、正転時の波形および逆転時の波形のそれぞれを個別に修正する。
【0037】
波形の振幅がゼロとなる箇所をゼロクロスポイントとする場合、波形修正部8は、まず、波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時の複数のピーク値(図5の白丸部)と、波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時の複数のボトム値(図5の黒丸部)とを求める(ステップS12)。また、波形修正部8は、求められた複数のピーク値の平均値であるピーク側平均値(図5参照)と、求められた複数のボトム値の平均値であるボトム側平均値(図5参照)とを算出する(平均値算出ステップ、ステップS13)。
【0038】
その後、波形修正部8は、ピーク側平均値に基づいてピーク側基準範囲(図5参照)を設定するとともに、ボトム側平均値に基づいてボトム側基準範囲(図5参照)を設定する(基準範囲設定ステップ、ステップS14)。具体的には、波形修正部8は、ピーク側平均値に1よりも大きな所定の係数を乗じた値を上限とし、ピーク側平均値に1よりも小さな所定の係数を乗じた値を下限とするピーク側基準範囲を設定するとともに、ボトム側平均値に1よりも大きな所定の係数を乗じた値を下限とし、ボトム側平均値に1よりも小さな所定の係数を乗じた値を上限とするボトム側基準範囲を設定する。本形態では、たとえば、波形修正部8は、ピーク側平均値に1.8を乗じた値を上限とし、ピーク側平均値に0.8を乗じた値を下限とするピーク側基準範囲を設定するとともに、ボトム側平均値に1.8を乗じた値を下限とし、ボトム側平均値に0.8を乗じた値を上限とするボトム側基準範囲を設定する。
【0039】
その後、波形修正部8は、ピーク側基準範囲から外れるピーク値を除く複数のピーク値の平均値(すなわち、ピーク側基準範囲に入る複数のピーク値の平均値)であるピーク側基準平均値と、ボトム側基準範囲から外れるボトム値を除く複数のボトム値の平均値(すなわち、ボトム側基準範囲に入る複数のボトム値の平均値)であるボトム側基準平均値とを算出する(基準平均値算出ステップ、ステップS15)。すなわち、波形修正部8は、ピーク側基準範囲から外れる異常値を除いた複数のピーク値からピーク側基準平均値を算出するとともに、ボトム側基準範囲から外れる異常値を除いた複数のボトム値からボトム側基準平均値を算出する。
【0040】
その後、波形修正部8は、ピーク側基準平均値およびボトム側基準平均値と所定の基準値とから波形を修正するための修正係数を算出する(修正係数算出ステップ、ステップS16)。すなわち、波形修正部8は、デジタルフィルター処理後の動作音の波形の振幅のレベルを所定の基準レベルに合わせるための修正係数を、ピーク側基準平均値およびボトム側基準平均値と所定の基準値とから算出する。具体的には、ステッピングモータ2で発生する実際の動作音の大きさによって決まる動作音の波形の振幅のレベルを、ステッピングモータ2で発生する実際の動作音の大きさの影響を排除した(実際の動作音の大きさと関係のない)基準レベルに合わせるための修正係数を、ピーク側基準平均値およびボトム側基準平均値と所定の基準値とから算出する。本形態では、ピーク側基準平均値およびボトム側基準平均値の和と、所定の基準値(基準振幅値)との比から修正係数を算出する。
【0041】
その後、波形修正部8は、ステップS16で算出された修正係数に基づいて、デジタルフィルター処理後の動作音の波形の振幅のレベルが基準レベルに合うように、波形を修正する(修正ステップ、ステップS17)。具体的には、波形修正部8は、ステップS16で算出された修正係数をデジタルフィルター処理後の動作音の波形の全データに乗じることで、波形を修正する。
【0042】
ステップS5で波形が修正されると、図2のフローに示すように、その後、判定部9は、修正後の波形に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定する(判定ステップ、ステップS6およびステップS7)。本形態では、判定部9は、修正後の正転時の波形に基づいて、正転時の動作音に異音が含まれているか否かを判定するとともに、修正後の逆転時の波形に基づいて、逆転時の動作音に異音が含まれているか否かを判定する。
【0043】
具体的には、判定部9は、まず、修正後の波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時のピーク値である複数の修正後ピーク値の平均値と修正後ピーク値の最大値との比と、修正後の波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時のボトム値である修正後ボトム値の平均値と修正後ボトム値の最小値との比とに基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定する(波形判定ステップ、ステップS6)。すなわち、ステップS6では、判定部9は、修正後の波形から直接的に、動作音に異音が含まれているか否かを判定する。
【0044】
具体的には、ステップS6で、判定部9は、修正後ピーク値の最大値を修正後ピーク値の平均値で割った値と、所定の基準値とを比較するとともに、修正後ボトム値の最小値を修正後ボトム値の平均値で割った値と、所定の基準値とを比較し、少なくともいずれか一方の値が基準値を超える場合に、動作音に異音が含まれていると判定し、両方の値が基準値以下である場合には、動作音に異音が含まれていないと判定する。
【0045】
その後、判定部9は、修正後の波形から算出される所定の周波数帯域におけるスペクトルの総和に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定する(総和判定ステップ、ステップS7)。具体的には、ステップS7で、判定部9は、まず、FFT演算を行ってスペクトルを算出する。本形態では、図4に示すように、処理部5の中に取り込まれた動作音のうちの、逆転から正転へ切り替えられた瞬間から、次に逆転から正転に切り替えられる瞬間までの動作音(たとえば、1.1秒間の動作音)を対象として、判定部9は、FFT演算を行ってスペクトルを算出する。また、判定部9は、たとえば、0.67Hzから可聴帯域である22.05kHzまでの各周波数におけるスペクトルを0.67Hzの分解能で算出する。
【0046】
ステップS7では、その後、判定部9は、所定の周波数帯域におけるスペクトルを抽出して加算し、所定の周波数帯域におけるスペクトルの総和を算出する。上述のように、本形態のステッピングモータ2では、たとえば、1.5kHz〜4.5kHzの間で異音が発生しやすいため、図6に示すように、判定部9は、1.5kHz〜4.5kHzの周波数帯域におけるスペクトルを抽出して、この周波数帯域におけるスペクトルの総和を算出する。
【0047】
また、ステップS7では、その後、判定部9は、算出されたスペクトルの総和と、所定の基準値とを比較し、スペクトルの総和が基準値を超える場合には、動作音に異音が含まれていると判定し、スペクトルの総和が基準値以下である場合には、動作音に異音が含まれていないと判定する。
【0048】
本形態の判定部9は、ステップS6またはステップS7のいずれかにおいて、動作音に異音が含まれていると判定した場合には、そのステッピングモータ2の動作音に異音が含まれており、そのステッピングモータ2は不良品であると判定する。また、判定部9は、正転時の動作音または逆転時の動作音のいずれか一方に異音が含まれていると判定した場合には、そのステッピングモータ2の動作音に異音が含まれており、そのステッピングモータ2は不良品であると判定する。
【0049】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、ステップS5において、波形修正部8は、デジタルフィルター処理後の動作音の波形の振幅のレベルが所定の基準レベルに合うように、波形を修正している。具体的には、ステッピングモータ2で発生する実際の動作音の大きさによって決まる動作音の波形の振幅のレベルが、ステッピングモータ2で発生する実際の動作音の大きさの影響を排除した基準レベルに合うように、波形修正部8は、波形を修正している。すなわち、波形修正部8は、ステッピングモータ2で発生した実際の動作音が小さい場合には、動作音の波形の振幅のレベルを大きくするように動作音の波形を修正し、ステッピングモータ2で発生した実際の動作音が大きい場合には、動作音の波形の振幅のレベルを小さくするように動作音の波形を修正する。したがって、本形態では、ステッピングモータ2で発生した動作音の大小にかかわらず、判定部9で、動作音に異音が含まれているか否かを適切に判断することが可能になる。
【0050】
本形態では、波形修正部8は、ステップS13で、ピーク側平均値とボトム側平均値とを算出し、ステップS14で、ピーク側基準範囲とボトム側基準範囲とを設定し、ステップS15で、ピーク側基準平均値とボトム側基準平均値とを算出するとともに、ステップS16で算出された修正係数に基づいて、ステップS17で、デジタルフィルター処理後の動作音の波形の振幅のレベルが基準レベルに合うように、波形を修正している。そのため、デジタルフィルター処理後の動作音に異音が含まれている場合であっても、異音の影響の少ないピーク側基準平均値およびボトム側基準平均値に基づいて波形を修正することが可能になる。すなわち、デジタルフィルター処理後の動作音に異音が含まれていても、波形を修正する際には、異音の影響を低減することが可能になる。したがって、波形修正部8での波形の修正によって、波形の振幅のレベルをより適切に基準レベルに合わせることが可能になる。
【0051】
本形態では、判定部9は、ステップS6で、修正後ピーク値の平均値と修正後ピーク値の最大値との比と、修正後ボトム値の平均値と修正後ボトム値の最小値との比とに基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定している。また、判定部9は、ステップS7で、修正後の波形から算出される所定の周波数帯域におけるスペクトルの総和に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定している。そのため、衝撃音等の突発的な異音が動作音に含まれている場合であって異音の発生回数が少ない場合には、ステップS6で、動作音に異音が含まれていることを適切に判定することが可能になる。また、衝撃音等の突発的な異音が動作音に含まれている場合であって異音の発生回数が比較的多い場合、および、ゆらぐような異音が動作音に含まれている場合には、ステップS7で、動作音に異音が含まれていることを適切に判定することが可能になる。したがって、本形態では、衝撃音等の突発的な異音が動作音に含まれている場合およびゆらぐような異音が動作音に含まれている場合のいずれの場合であっても、判定部9は、動作音に異音が含まれていることを適切に判定することが可能になる。
【0052】
本形態では、判定部9は、ステップS6で、修正後ピーク値の平均値と修正後ピーク値の最大値との比と、修正後ボトム値の平均値と修正後ボトム値の最小値との比とに基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定した後に、ステップS7で、修正後の波形から算出される所定の周波数帯域におけるスペクトルの総和に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定している。また、本形態では、ステップS5での処理のアルゴリズムとステップS6での処理のアルゴリズムとが比較的似ており、かつ、ステップS5での処理のアルゴリズムとステップS7での処理のアルゴリズムとが大きく異なっている。そのため、ステップS5の後に、ステップS7、ステップS6の順番で判定処理を行う場合と比較して、ステップS6、S7での処理時間を短縮することができる。
【0053】
本形態では、ステップS3で、検出部3は、ステッピングモータ2の正転時の動作音と、ステッピングモータ2の逆転時の動作音とを検出し、ステップS5で、波形修正部8は、動作音の波形を、ステッピングモータ2の正転時の波形と逆転時の波形とに切り分けて、正転時の動作音の波形を修正するとともに、逆転時の動作音の波形を修正している。また、ステップS6、S7で、判定部9は、修正後の正転時の波形に基づいて、正転時の動作音に異音が含まれているか否かを判定するとともに、修正後の逆転時の波形に基づいて、逆転時の動作音に異音が含まれているか否かを判定している。そのため、正転時の動作音の波形の振幅と逆転時の動作音の波形の振幅とが異なっている場合であっても、波形修正部8で、適切に波形を修正することが可能になり、判定部9で、動作音に異音が含まれているか否かを適切に判定することが可能になる。
【0054】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0055】
上述した形態では、判定部9は、ステップS6で、修正後ピーク値の平均値と修正後ピーク値の最大値との比と、修正後ボトム値の平均値と修正後ボトム値の最小値との比とに基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定している。この他にもたとえば、判定部9は、ステップS6で、上述の判定に代えて、あるいは、上述の判定に加えて、複数の修正後ピーク値のばらつき(標準偏差)と複数の修正後ボトム値のばらつき(標準偏差)とに基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定しても良い。具体的には、修正後ピーク値のばらつきと所定の基準値とを比較するとともに、修正後ボトム値のばらつきと所定の基準値とを比較して、少なくともいずれか一方のばらつきが基準値を超える場合に、動作音に異音が含まれていると判定し、両方のばらつきが基準値以下である場合には、動作音に異音が含まれていないと判定しても良い。この場合には、ステップS6で、突発的な異音が動作音に含まれている場合であって異音の発生回数が比較的多い場合、および、ゆらぐような異音が動作音に含まれている場合に、動作音に異音が含まれていることを適切に判定することが可能になる。
【0056】
また、判定部9は、ステップS6で、上述の判定に代えて、あるいは、上述の判定に加えて、図7に示すように、修正後の波形を一定の周期Tで区切るとともに、区切られた周期Tごとの波形に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定しても良い。
【0057】
たとえば、周期Tごとの波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時のピーク値である複数の修正後各周期ピーク値の平均値の複数の周期T間におけるばらつき(標準偏差)と、周期Tごとの波形の、ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時のボトム値である複数の修正後各周期ボトム値の平均値の複数の周期T間におけるばらつきと(標準偏差)に基づいて、判定部9が動作音に異音が含まれているか否かを判定しても良い。具体的には、判定部9は、たとえば、周期T1〜T4(図7参照)ごとに、ピーク値の平均値(修正後各周期ピーク値の平均値)とボトム値の平均値(修正後各周期ボトム値の平均値)とを算出し(すなわち、周期T1、T2、T3、T4のそれぞれでのピーク値の平均値とボトム値の平均値とを算出し)、その周期T1〜T4間のピーク値の平均値のばらつきとボトム値の平均値のばらつきとを算出するとともに、このピーク値の平均値のばらつきと所定の基準値とを比較し、かつ、このボトム値の平均値のばらつきと所定の基準値とを比較して、少なくともいずれか一方のばらつきが基準値を超える場合に、動作音に異音が含まれていると判定し、両方のばらつきが基準値以下である場合には、動作音に異音が含まれていないと判定しても良い。
【0058】
また、たとえば、周期Tごとの波形の、修正後各周期ピーク値のばらつき(標準偏差)である修正後各周期ピークばらつきの複数の周期T間におけるばらつき(標準偏差)と、周期Tごとの波形の、複数の修正後各周期ボトム値のばらつき(標準偏差)である修正後各周期ボトムばらつきの複数の周期T間におけるばらつき(標準偏差)とに基づいて、判定部9が動作音に異音が含まれているか否かを判定しても良い。すなわち、判定部9は、周期T1〜T4ごとに、各周期T1〜T4でのピーク値のばらつき(修正後各周期ピークばらつき)とボトム値のばらつき(修正後各周期ボトムばらつき)とを算出し、その周期T1〜T4間の修正後各周期ピークばらつきのばらつきと修正後各周期ボトムばらつきのばらつきとを算出するとともに、この修正後各周期ピークばらつきのばらつきと所定の基準値とを比較し、かつ、この修正後各周期ボトムばらつきのばらつきと所定の基準値とを比較して、少なくともいずれか一方のばらつきが基準値を超える場合に、動作音に異音が含まれていると判定し、両方のばらつきが基準値以下である場合には、動作音に異音が含まれていないと判定しても良い。
【0059】
さらに、たとえば、周期Tごとの波形の、修正後各周期ピーク値の数の複数の周期T間におけるばらつき(標準偏差)と、周期Tごとの波形の、修正後各周期ボトム値の数の複数の周期T間におけるばらつき(標準偏差)とに基づいて、判定部9が動作音に異音が含まれているか否かを判定しても良い。すなわち、判定部9は、周期T1〜T4ごとに、各周期T1〜T4でのピーク値の数(修正後各周期ピーク値の数)とボトム値の数(修正後各周期ボトム値の数)とを算出し、その周期T1〜T4間のピーク値の数のばらつきとボトム値の数のばらつきとを算出するとともに、このピーク値の数のばらつきと所定の基準値とを比較し、かつ、このボトム値の数のばらつきと所定の基準値とを比較して、少なくともいずれか一方のばらつきが基準値を超える場合に、動作音に異音が含まれていると判定し、両方のばらつきが基準値以下である場合には、動作音に異音が含まれていないと判定しても良い。
【0060】
このように、判定部9が、修正後の波形を一定の周期Tで区切るとともに、区切られた周期Tごとの波形に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定する場合には、周期的でない突発的な異音が動作音に含まれている場合に、動作音に異音が含まれていることを適切に判定することが可能になる。また、この場合には、ステップS6は、修正後の波形を一定の周期Tに区切るとともに、区切られた周期Tごとの波形に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定する周期判定ステップとなる。なお、周期Tは、たとえば、ステッピングモータ2の1回転の周期や半回転の周期である。
【0061】
上述した形態では、判定部9は、ステップS6で、修正後ピーク値の平均値と修正後ピーク値の最大値との比と、修正後ボトム値の平均値と修正後ボトム値の最小値との比とに基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定し、かつ、ステップS7で、修正後の波形から算出される所定の周波数帯域におけるスペクトルの総和に基づいて、動作音に異音が含まれているか否かを判定している。この他にもたとえば、判定部9は、ステップS6での判定処理またはステップS7での判定処理のいずれか一方のみの判定処理を行っても良い。
【0062】
上述した形態では、周期動作音発生装置2は、ステッピングモータであるが、周期動作音発生装置2は、ステッピングモータ以外のモータであっても良いし、モータ以外の回転機械であっても良い。また、周期動作音発生装置2は、回転機械以外の周期的な動作音を発生させる装置であっても良い。たとえば、周期動作音発生装置2は、周期的な振動を行う振動体を有する所定の装置や、周期的な揺動を行う揺動体を有する所定の装置であっても良い。
【符号の説明】
【0063】
1 異音検査装置
2 ステッピングモータ(回転機械、周期動作音発生装置)
3 検出部(検出手段)
8 波形修正部(波形修正手段)
9 判定部(判定手段)
S1 検出ステップ
S5 波形修正ステップ
S6 波形判定ステップ(判定ステップ)
S7 総和判定ステップ(判定ステップ)
S13 平均値算出ステップ
S14 基準範囲設定ステップ
S15 基準平均値算出ステップ
S16 修正係数算出ステップ
S17 修正ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的な動作音を発生させる周期動作音発生装置で発生した前記動作音に異音が含まれているか否かを検査する異音検査装置において、
前記周期動作音発生装置で発生した前記動作音を検出する検出手段と、前記検出手段で検出された前記動作音の波形の振幅である動作振幅のレベルが所定の基準レベルに合うように前記波形を修正する波形修正手段と、前記波形修正手段で修正された前記波形に基づいて前記動作音に前記異音が含まれているか否かを判定する判定手段とを備えることを特徴とする異音検査装置。
【請求項2】
前記波形の振幅がゼロとなる箇所をゼロクロスポイントとしたときに、
前記波形修正手段は、前記波形の、前記ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時の複数のピーク値の平均値であるピーク側平均値と、前記波形の、前記ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時の複数のボトム値の平均値であるボトム側平均値とに基づいて、前記波形を修正することを特徴とする請求項1記載の異音検査装置。
【請求項3】
前記波形修正手段は、前記ピーク側平均値に基づいて設定されるピーク側基準範囲から外れる前記ピーク値を除く複数の前記ピーク値の平均値であるピーク側基準平均値と、前記ボトム側平均値に基づいて設定されるボトム側基準範囲から外れる前記ボトム値を除く複数の前記ボトム値の平均値であるボトム側基準平均値とを算出するとともに、前記ピーク側基準平均値および前記ボトム側基準平均値と所定の基準値とから算出される修正係数に基づいて、前記動作振幅のレベルが前記基準レベルに合うように、前記波形を修正することを特徴とする請求項2記載の異音検査装置。
【請求項4】
前記波形の振幅がゼロとなる箇所をゼロクロスポイントとしたときに、
前記判定手段は、修正後の前記波形の、前記ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時のピーク値である複数の修正後ピーク値の平均値と前記修正後ピーク値の最大値との比と、修正後の前記波形の、前記ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時のボトム値である複数の修正後ボトム値の平均値と前記修正後ボトム値の最小値との比とに基づいて、および/または、複数の前記修正後ピーク値のばらつきと複数の前記修正後ボトム値のばらつきとに基づいて、前記動作音に前記異音が含まれているか否かを判定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の異音検査装置。
【請求項5】
前記判定手段は、修正後の前記波形から算出される所定の周波数帯域におけるスペクトルの総和に基づいて、前記動作音に前記異音が含まれているか否かを判定することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の異音検査装置。
【請求項6】
前記判定手段は、修正後の前記波形を一定の周期で区切るとともに、区切られた周期ごとの前記波形に基づいて、前記動作音に前記異音が含まれているか否かを判定することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の異音検査装置。
【請求項7】
前記波形の振幅がゼロとなる箇所をゼロクロスポイントとしたときに、
前記判定手段は、区切られた周期ごとの前記波形の、前記ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時のピーク値である複数の修正後各周期ピーク値の平均値の複数の周期間におけるばらつきと、区切られた周期ごとの前記波形の、前記ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時のボトム値である複数の修正後各周期ボトム値の平均値の複数の周期間におけるばらつきとに基づいて、および/または、区切られた周期ごとの前記波形の、複数の前記修正後各周期ピーク値のばらつきである修正後各周期ピークばらつきの複数の周期間におけるばらつきと、区切られた周期ごとの前記波形の、複数の前記修正後各周期ボトム値のばらつきである修正後各周期ボトムばらつきの複数の周期間におけるばらつきとに基づいて、および/または、区切られた周期ごとの前記波形の、前記修正後各周期ピーク値の数の複数の周期間におけるばらつきと、区切られた周期ごとの前記波形の、前記修正後各周期ボトム値の数の複数の周期間におけるばらつきとに基づいて、前記動作音に前記異音が含まれているか否かを判定することを特徴とする請求項6記載の異音検査装置。
【請求項8】
前記周期動作音発生装置は、正転および逆転をする回転機械であり、
前記検出手段は、連続的に正転と逆転とを繰り返す前記回転機械の正転時の前記動作音である正転時動作音と、前記回転機械の逆転時の前記動作音である逆転時動作音とを検出し、
前記波形修正手段は、前記回転機械の正転と逆転との切り替わり時の前記波形の振幅がゼロとなる区間に基づいて、前記正転時動作音の波形と前記逆転時動作音の波形とに前記波形を切り分け、前記正転時動作音の前記波形を修正するとともに、前記逆転時動作音の前記波形を修正し、
前記判定手段は、前記波形修正手段で修正された前記正転時動作音の前記波形に基づいて、前記正転時動作音に前記異音が含まれているか否かを判定するとともに、前記波形修正手段で修正された前記逆転時動作音の前記波形に基づいて、前記逆転時動作音に前記異音が含まれているか否かを判定することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の異音検査装置。
【請求項9】
周期的な動作音を発生させる周期動作音発生装置で発生した前記動作音に異音が含まれているか否かを検査する異音検査方法において、
前記周期動作音発生装置で発生した前記動作音を検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出された前記動作音の波形の振幅である動作振幅のレベルが所定の基準レベルに合うように、前記波形を修正する波形修正ステップと、
前記波形修正ステップで修正された前記波形に基づいて、前記動作音に前記異音が含まれているか否かを判定する判定ステップとを備えることを特徴とする異音検査方法。
【請求項10】
前記波形の振幅がゼロとなる箇所をゼロクロスポイントとしたときに、
前記波形修正ステップは、前記波形の、前記ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時の複数のピーク値の平均値であるピーク側平均値と、前記波形の、前記ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時の複数のボトム値の平均値であるボトム側平均値とを算出する平均値算出ステップと、
前記ピーク側平均値に基づいてピーク側基準範囲を設定するとともに、前記ボトム側平均値に基づいてボトム側基準範囲を設定する基準範囲設定ステップと、
前記ピーク側基準範囲から外れる前記ピーク値を除く複数の前記ピーク値の平均値であるピーク側基準平均値と、前記ボトム側基準範囲から外れる前記ボトム値を除く複数の前記ボトム値の平均値であるボトム側基準平均値とを算出する基準平均値算出ステップと、
前記基準平均値算出ステップで算出された前記ピーク側基準平均値および前記ボトム側基準平均値と所定の基準値とから前記波形を修正するための修正係数を算出する修正係数算出ステップと、
前記修正係数算出ステップで算出された前記修正係数に基づいて、前記動作振幅のレベルが前記基準レベルに合うように、前記波形を修正する修正ステップとを備えることを特徴とする請求項9記載の異音検査方法。
【請求項11】
前記波形の振幅がゼロとなる箇所をゼロクロスポイントとしたときに、
前記判定ステップは、修正後の前記波形の、前記ゼロクロスポイント通過後の立ち上がり時のピーク値である複数の修正後ピーク値の平均値と前記修正後ピーク値の最大値との比と、修正後の前記波形の、前記ゼロクロスポイント通過後の立ち下がり時のボトム値である修正後ボトム値の平均値と前記修正後ボトム値の最小値との比とに基づいて、前記動作音に前記異音が含まれているか否かを判定する波形判定ステップと、
修正後の前記波形から算出される所定の周波数帯域におけるスペクトルの総和に基づいて、前記動作音に前記異音が含まれているか否かを判定する総和判定ステップとを備えることを特徴とする請求項9または10記載の異音検査方法。
【請求項12】
前記波形判定ステップの後に前記総和判定ステップを行うことを特徴とする請求項11記載の異音検査方法。
【請求項13】
前記判定ステップは、修正後の前記波形を一定の周期に区切るとともに、区切られた周期ごとの前記波形に基づいて、前記動作音に前記異音が含まれているか否かを判定する周期判定ステップを備えることを特徴とする請求項9から12のいずれかに記載の異音検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−230606(P2010−230606A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80798(P2009−80798)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】