説明

異音発生タイミング特定方法及び異音発生タイミング特定装置

【課題】簡単且つ安価な構成によって対象エンジンから異音の発生するタイミングを簡易的且つ高精度に特定できる異音発生タイミング特定方法及び異音発生タイミング特定装置を提供する。
【解決手段】回転中の対象エンジンEのエンジン音とクランク角度を所定時間に亘って連続して検出し、その検出したエンジン音とクランク角度を記録手段13に記録する。そして、エンジン音を再生し、パルス音を出力するタイミングを調整して、パルス音をエンジン音に含まれる異音と同期させる。パルス音が出力されるタイミングを対象エンジンのクランク角度で特定し、その特定したクランク角度を異音発生タイミングとして特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転中のエンジンから発せられる異音の発生タイミングをクランク角度で特定する異音発生タイミング特定方法及びその方法に用いられる異音発生タイミング特定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンは、動弁のバルブクリアランス等に起因して、回転中に所定間隔ごとに異音が発生することがある。そして、異音が発生するタイミングをクランク角度で特定することによって、異音の発生原因を特定することがなされていた。
【0003】
例えば、対象エンジンを回転させてエンジン音とクランク角度を検出し、エンジン音の波形を表示して、波形の振幅が大きい箇所を異音が発生している箇所とみなして、かかる箇所をクランク角度で特定し、そのクランク角度から異音の発生原因を特定することが行われていた。
【0004】
また、対象エンジンを回転させて振動を検出し、その検出信号波形と、予め検出した基準エンジンの正規基準波形とを対比して、両波形の振幅差を求め、その振幅差に基づいて算出した評価値が許容範囲内にないときは異常と判定し、異常原因特定用評価値を算出して、その異常原因特定用評価値に対応する評価項目を異常原因として特定する方法がある(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2006−170886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、エンジン音の波形の中で異音を示す振幅が、インジェクタ音、ベルト擦れ音、ダイナモ回転音、排気音、通風口音等を示す振幅の中に埋もれた場合に、異音を特定することは困難であった。また、波形の中に振幅が大きい箇所が複数個ある場合は、いずれを異音と判断するのかが曖昧で、判断者に応じて判断が相違するおそれがあった。
【0007】
そして、エンジン音を検出するエンジン音検出装置や、エンジンのクランク角度を検出するクランク角度検出装置等、様々な機器を使用して解析する高度な技術と経験が必要であった。したがって、異音発生の原因を特定するのは容易ではなく、精度にバラツキが出るおそれがあった。
【0008】
また、特許文献1に記載された方法の場合、比較対象となる正規基準データや異常データを予め用意しておく必要があり、かかる準備作業が煩雑で、簡単に実施することができず、また、振幅差を求めたり、評価値を算出する等、かかる方法を実現するための構成が複雑で、コストがかかるという問題がある。
【0009】
本発明は、これらに鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単且つ安価な構成でエンジンから異音が発生するタイミングを簡易的且つ高精度で特定できる異音発生タイミング特定方法及び異音発生タイミング特定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する請求項1に記載の発明による異音発生タイミング特定方法は、回転中の対象エンジンのエンジン音とクランク角度を所定時間に亘って連続して検出し、その検出したエンジン音とクランク角度を記録手段に記録し、記録手段に記録したエンジン音を再生し、パルス音を出力するタイミングを調整して、エンジン音に含まれる異音と同期させてパルス音を出力させ、パルス音が出力されるタイミングを記録手段に記録したクランク角度に基づいて対象エンジンのクランク角度で特定し、その特定したクランク角度を異音発生タイミングとして特定することを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載した異音発生タイミング特定方法の発明によれば、パルス音がエンジン音に含まれる異音と同期して出力されるように、パルス音を出力するタイミングを調整するだけで、異音発生タイミングをクランク角度で特定することができる。
【0012】
したがって、従来のように比較対象となる正規基準データや異常データを予め用意しておく必要がなく、簡単に実施することができ、また、かかる方法を実現するための構成が簡単で、コストを低く抑えることができる。したがって、簡単且つ安価な構成により、異音の発生するタイミングを簡易的且つ高精度に特定することができ、異音原因を正確に把握することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明による異音発生タイミング特定装置は、回転中の対象エンジンのエンジン音を所定時間に亘って連続して検出するエンジン音検出手段と、対象エンジンのクランク角度を検出するクランク角度検出手段と、エンジン音検出手段によって検出したエンジン音検出信号とクランク角度検出手段によって検出したクランク角度検出信号に基づいて対象エンジンのクランク角度に応じたエンジン音の変化を示すデータを作成するデータ作成手段と、データ作成手段によって作成したデータを記録する記録手段と、記録手段に記録された記録データを再生するデータ再生手段と、データ再生手段による記録データの再生により対象エンジンのエンジン音を再生した再生音を出力する再生音出力手段と、パルス信号を発信するパルス信号発信手段と、パルス信号発信手段のパルス信号を発信するタイミングを調整可能なタイミング調整手段と、パルス信号発信手段からパルス信号を受信するとパルス音を出力するパルス音出力手段と、パルス信号発信手段からパルス信号が発信されるタイミングを対象エンジンのクランク角度で特定するクランク角度特定手段とを有することを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の異音発生タイミング特定装置によれば、パルス信号を発信するタイミングをタイミング調整手段によって調整することができ、また、パルス音の出力されるタイミングを対象エンジンのクランク角度で特定することができる。
【0015】
したがって、タイミング調整手段を調整して、パルス信号をエンジン音に含まれる異音と同期させることによって、異音が発せられるタイミングをクランク角度で特定することができる。
【0016】
これにより、従来のように比較対象となる正規基準データや異常データを予め用意しておく必要がなく、簡単に実施することができ、また、かかる方法を実現するための構成が簡単で、コストを低く抑えることができる。
【0017】
したがって、簡単且つ安価な構成により、異音の発生するタイミングを簡易的且つ高精度に特定することができ、異音原因を正確に把握することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の異音発生タイミング特定装置において、データ再生手段による記録データの再生により再生音の波形データを作成する再生音波形データ作成手段と、再生音波形データ作成手段によって作成した再生音波形データを出力する再生音波形データ出力手段と、パルス信号発信手段によるパルス信号の発信によりパルス信号の波形データを作成するパルス信号波形データ作成手段と、パルス信号波形データ作成手段によって作成したパルス信号波形データを出力するパルス信号波形データ出力手段とを有することを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、再生音とパルス音が出力され、更に、再生音の波形とパルス信号の波形が作成されて出力されるので、操作者は、聴覚に加えて視覚的なサポートを受けることができ、自己の聴覚と視覚の両方を利用して、パルス信号が発信されるタイミングを調整することができる。したがって、パルス音を異音に同期させる調整作業を容易に行うことができる。
【0020】
また、操作者によって異音と判断された音を、波形上で明確に指し示すことができ、視覚によって異音と判断しているものと一致しているかを確認することができる。
【0021】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の異音発生タイミング特定装置において、対象エンジンのエンジン振動を検出するエンジン振動検出手段と、エンジン振動検出手段によって検出したエンジン振動信号に基づいてエンジン振動の波形データを作成するエンジン振動波形データ作成手段と、エンジン振動波形データ作成手段によって作成したエンジン振動波形データを出力するエンジン振動波形データ出力手段を有することを特徴とする。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、エンジン音に加えてエンジン振動も検出するので、エンジン音だけを検出する場合と比べて、インジェクタ音、ベルト擦れ音、排気音、通風口音等の外乱を排除することができ、所望の異音をより正確に認識することが可能となり、異音が発生するタイミングを高精度で特定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、パルス音をエンジン音に含まれる異音と同期させることによって、異音が発せられるタイミングをクランク角度で特定することができる。したがって、従来のように比較対象となる正規基準データや異常データを予め用意しておく必要がなく、簡単に実施することができ、また、かかる方法を実現するための構成が簡単で、コストを低く抑えることができる。したがって、簡単且つ安価な構成により、異音の発生するタイミングを簡易的且つ高精度に特定することができ、異音原因を正確に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0025】
図1は、本実施の形態に係わる異音発生タイミング特定装置1の全体構成を説明する機能ブロック図、図2は、演算手段2の内部構成を説明する機能ブロック図、図3は、表示モニター5に表示される各種波形図であり、図3(a)は再生音、図3(b)はエンジン振動、図3(c)はパルス信号、図3(d)はクランク角度検出センサの出力波形を示す波形図である。
【0026】
本実施の形態では、多気筒DOHC型の4サイクルエンジンである対象エンジンEの近傍位置に、エンジン音検出手段であるマイクMを設置すると共に、対象エンジンEの所定箇所にエンジン振動検出手段である振動センサBを取り付けて、対象エンジンEに燃料を供給して運転し、対象エンジンEを実際に回転させるか、或いは対象エンジンEを図示しないモータにより回転させて、対象エンジンEから発せられるエンジン音とエンジン振動を所定時間に亘って連続して検出する。
【0027】
マイクMによって検出されたエンジン音検出信号は、パーソナルコンピュータを含む演算手段2に取り込まれる。また、振動センサBによって検出されたエンジン振動検出信号は、増幅器3によって増幅された後に演算手段2に取り込まれる。
【0028】
そして、演算手段2には対象エンジンEから出力される気筒判別信号及びクランク角度検出信号が取り込まれるようになっている。気筒判別信号とクランク角度検出信号は、対象エンジンEに設けられた気筒判別信号検出手段である気筒判別信号検出センサ(図示せず)と、クランク角度検出手段であるクランク角度検出センサ(図示せず)によって検出される。また、演算手段2には、キーボードやマウスなどの入力手段4が接続されており、操作者による操作によって種々の信号を入力できるようになっている。
【0029】
演算手段2の出力側には、エンジン音の波形データやエンジン振動の波形データ、パルス信号の発信されるクランク角度等、種々の情報を表示する表示モニター5と、エンジン音を再生した再生音やパルス音が発せられるスピーカ6が接続されている。そして、演算手段2には、演算手段2の演算結果を読み出し可能な形で格納するデータベース7が接続されている。
【0030】
演算装置2には、クランク角度算出手段11、データ作成手段12、記録手段13、データ再生手段14、再生音出力手段15、パルス信号発信手段21、タイミング調整手段22、パルス音出力手段23、クランク角度特定手段24が設けられている。
【0031】
クランク角度算出手段11は、クランク角度検出信号に基づいて対象エンジンEのクランク軸のクランク角度を算出し、データ作成手段12に出力する。データ作成手段12は、マイクMによって検出したエンジン音検出信号と、振動センサBによって検出したエンジン振動検出信号と、クランク角度算出手段11によって算出したクランク角度に基づいて、対象エンジンEのクランク角度に応じたエンジン音の変化とエンジン振動の変化を示す記録データを作成し、記録手段13は、データ作成手段12によって作成された記録データを記録する。
【0032】
そして、データ再生手段14は、記録手段13に記録された記録データを再生し、再生音出力手段15は、対象エンジンEのエンジン音を再生した再生音信号をスピーカ6に出力する。
【0033】
パルス信号発信手段21は、所定時間間隔ごとにパルス信号を発信する。本実施の形態では、データ再生手段14によって再生された記録データに基づき、対象エンジンEのクランク軸の2回転分に相当する時間間隔ごとに1のパルス信号を発信するようになっている。例えば、データ再生手段14によって再生された記録データが、600rpmで回転している対象エンジンEのエンジン音を記録したものである場合、クランク軸は1秒間に10回転しているので、パルス信号発信手段21は、1秒間に5回、換言すると、0.2秒間毎に1のパルス信号を発信する。
【0034】
タイミング調整手段22は、パルス信号発信手段21のパルス信号を発信するタイミングを調整する。タイミング調整手段22は、入力手段4によってタイミングを早める操作が行われると、クランク角度に対してパルス信号を発信するタイミングを早めるようにパルス信号発信手段21を調整し、入力手段4によってタイミングを遅らせる操作が行われると、クランク角度に対してパルス信号を発信するタイミングを遅らせるようにパルス信号発信手段21を調整する。
【0035】
パルス音出力手段23は、パルス信号発信手段21からパルス信号を受信すると、パルス音信号をスピーカ6に出力する。スピーカ6から出力されるパルス音は、エンジン音とは明確に区別できる音に設定されている。
【0036】
クランク角度特定手段24は、データ再生手段14によって再生された記録データと、パルス信号発信手段21のパルス信号に基づき、パルス信号発信手段21のパルス信号を発信するタイミングを対象エンジンEのクランク角度で特定する。クランク角度特定手段24によって特定されたクランク角度は、表示モニター5に表示される。
【0037】
また、演算手段2には、再生音波形データ作成手段16、再生音波形データ出力手段17、エンジン振動波形データ作成手段18、エンジン振動波形データ出力手段19、パルス信号波形データ作成手段25、パルス信号波形データ出力手段26が設けられている。
【0038】
再生音波形データ作成手段16は、データ再生手段14による記録データの再生により、再生音の波形データを作成し、再生音波形データ出力手段17に送る。再生音波形データ出力手段17は、再生音波形データ作成手段16から再生音の波形データを受け取ると、表示モニター5に出力して再生音の波形を表示させる。再生音の波形は、例えば図3(a)に示すように表示される。
【0039】
エンジン振動波形データ作成手段18は、データ再生手段14による記録データの再生により、エンジン振動の波形データを作成し、エンジン振動波形データ出力手段19に送る。エンジン振動波形データ出力手段19は、エンジン振動波形データ作成手段18からエンジン振動の波形データを受け取ると、表示モニター5に出力してエンジン振動の波形を表示させる。エンジン振動の波形は、例えば図3(b)に示すように表示される。
【0040】
パルス信号波形データ作成手段25は、パルス信号発信手段21によるパルス信号の発信により、パルス信号の波形データを作成し、パルス信号波形データ出力手段26に送る。パルス信号波形データ出力手段26は、パルス信号波形データ作成手段25からパルス信号の波形データを受け取ると、表示モニター5に出力してパルス信号の波形を表示させる。パルス信号の波形は、例えば図3(c)に示すように表示される。
【0041】
表示モニター5には、図3に示すように、再生音、エンジン振動、パルス信号、クランク角度検出信号の各波形が、互いに横軸のクランク角度(℃A)が揃えられた状態で表示される。そして、例えば図3(a)、図3(b)、図3(d)に点線で示すように、パルス信号が発信された位置が、再生音、エンジン振動、クランク角度の各波形にそれぞれ重なるように表示される。
【0042】
次に、上記異音発生タイミング特定装置1を用いた異音発生タイミング特定方法について以下に説明する。異音発生タイミング特定方法は、記録工程、再生工程、タイミング特定工程を有する。
【0043】
1.記録工程(ステップS1)
まず、対象エンジンEを回転させて、所定時間に亘って、エンジン音信号、エンジン振動信号、クランク角度検出信号、気筒判別信号を検出する。これらの検出信号は、演算手段2に入力される。演算手段2では、クランク角度算出手段11によって対象エンジンEのクランク軸のクランク角度が算出される。そして、そのクランク角度とエンジン音検出信号とエンジン振動信号に基づき、対象エンジンEのクランク角度に応じたエンジン音とエンジン振動の変化を示す記録データが作成され、記録手段13に記録される。
【0044】
2.再生工程(ステップS2)
操作者によって入力手段4が操作されて、記録手段13に記録されている記録データの中から、再生する記録データが選択されると、データ再生手段14により、その選択された記録データが再生される。
【0045】
記録データが再生されると、その記録データに基づいて再生音出力手段15により対象エンジンEのエンジン音を再生した再生音がスピーカ6から発せられ、再生音波形データ出力手段17とエンジン振動波形データ出力手段19により、再生音の波形とエンジン振動の波形が表示モニター5に表示される。記録データの再生は、入力手段4によって停止されるまで、繰り返し行われる。
【0046】
3.タイミング特定工程(ステップS3)
操作者によって入力手段4が操作されて、パルス信号の発信が指示されると、パルス信号発信手段21により、対象エンジンEのクランク軸の2回転分に相当する時間間隔ごとに1のパルス信号が発信される。
【0047】
そして、パルス音出力手段22により、パルス信号の発信に応じてパルス音がスピーカ6から発せられると共に、パルス信号波形データ出力手段26により、パルス信号の波形が表示モニター5に表示される。
【0048】
また、クランク角度特定手段24により、パルス音の出力されるタイミングがクランク角度で特定されて、そのクランク角度の数値が表示モニター5に表示される。
【0049】
次に、操作者によって入力手段4が操作されて、再生音に含まれる異音とパルス音がスピーカ6から同時に発せられるように、パルス信号の発信されるタイミングが適宜調整される。尚、再生音に含まれる異音とは、再生音に含まれている音の中で、操作者の聴覚によって異音として認識される音をいう。
【0050】
表示モニター5には、パルス信号が発信された位置が、再生音の波形に重なるように表示されているので(図3を参照)、操作者は、発生音に対してパルス信号が発信されるタイミングを視覚によって確認することができ、パルス音を異音に同期させる調整作業を容易に行うことができる。
【0051】
パルス信号の発信されるタイミングを調整して、パルス音を異音と同期させると、パルス信号発信手段21からパルス信号の発せられるタイミングのクランク角度は、異音が発せられるタイミングのクランク角度と同じになる。
【0052】
したがって、表示モニター5に表示されるクランク角度の数値を、異音が発せられるタイミングのクランク角度の数値とみなすことができ、異音の発生するタイミングをクランク角度で特定することができる。
【0053】
異音の発生するタイミングがクランク角度で特定されると、そのクランク角度に基づき、考え得る異音の発生原因を容易に推測することができる。例えば異音の発生するクランク角度が第1気筒の吸気バルブが閉じるときのクランク角度である場合には、その第1気筒の吸気バルブにバルブクリアランス等の不良がある等、異音の発生原因を容易に推測することができる。
【0054】
異音の発生するタイミングとして特定されたクランク角度のデータは、記録データと共にデータベース7に格納され、異音の発生原因の統計等、種々の目的のために利用される。
【0055】
上記異音発生タイミング特定方法及び該方法に用いられる異音発生タイミング特定装置によれば、パルス信号の発信されるタイミングを調整して、パルス音を異音に同期させることにより、異音の発生するタイミングをクランク角度で特定することができ、そのクランク角度から異音の発生原因を把握することができる。
【0056】
したがって、従来のように比較対象となる正規基準データや異常データを予め用意しておく必要がなく、簡単に実施することができ、また、かかる方法を実現するための構成が簡単で、コストを低く抑えることができる。したがって、簡単且つ安価な構成により、異音の発生するタイミングを簡易的且つ高精度に特定することができ、異音原因を正確に把握することができる。
【0057】
また、スピーカ6から異音及びパルス音が発せられ、更に、表示モニター5には再生音の波形、エンジン振動の波形、パルス信号の波形が表示されるので、操作者は、自己の聴覚と視覚の両方を利用して、パルス信号の発信するタイミングを調整することができる。したがって、異音とパルス音がスピーカ6から同時に発せられるように調整する作業を、視覚的なサポートにより、容易に行うことができる。
【0058】
また、異音発生タイミング特定装置1によれば、操作者(評価者)によって異音と判断した音を、表示モニター5に明確に指し示すことができ、聴覚上、異音と判断しているものと、視覚上、異音と判断しているものとが一致しているかを確認することができる。
【0059】
更に、異音発生タイミング特定装置1は、記録データを繰り返し再生するので、例えばエンジン冷態始動時に数回だけ発生する異音のように発生頻度が少ない異音についても、その発生するタイミングを正確に特定することができる。
【0060】
尚、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施の形態では、再生音やエンジン振動の波形を表示させる場合を例に説明したが、波形表示を省略してもよい。波形表示を省略することによって、演算手段2による演算処理の負荷を低減でき、演算処理能力の低い安価なパソコン等によって実現でき、コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施の形態に係わる異音発生タイミング特定装置の全体構成を説明する機能ブロック図である。
【図2】演算手段の内部構成を説明する機能ブロック図である。
【図3】表示モニターに表示される各種波形図である。
【符号の説明】
【0062】
1 異音発生タイミング特定装置
2 演算手段
12 データ作成手段
13 記録手段
14 データ再生手段
15 再生音出力手段
16 再生音波形データ作成手段
17 再生音波形データ出力手段
18 エンジン振動波形データ作成手段
19 エンジン振動波形データ出力手段
21 パルス信号発信手段
22 タイミング調整手段
23 パルス音出力手段
24 クランク角度特定手段
25 パルス信号波形データ作成手段
26 パルス信号波形データ出力手段
B 振動センサ(エンジン振動検出手段)
E 対象エンジン
M マイク(エンジン音検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中の対象エンジンのエンジン音とクランク角度を所定時間に亘って連続して検出し、
該検出したエンジン音とクランク角度を記録手段に記録し、
該記録手段に記録したエンジン音を再生し、
パルス音を出力するタイミングを調整して、エンジン音に含まれる異音と同期させてパルス音を出力させ、
該パルス音が出力されるタイミングを前記記録手段に記録したクランク角度に基づいて前記対象エンジンのクランク角度で特定し、
該特定したクランク角度を異音発生タイミングとして特定することを特徴とする異音発生タイミング特定方法。
【請求項2】
回転中の対象エンジンのエンジン音を所定時間に亘って連続して検出するエンジン音検出手段と、
前記対象エンジンのクランク角度を検出するクランク角度検出手段と、
前記エンジン音検出手段によって検出したエンジン音検出信号と前記クランク角度検出手段によって検出したクランク角度検出信号に基づいて前記対象エンジンのクランク角度に応じたエンジン音の変化を示すデータを作成するデータ作成手段と、
該データ作成手段によって作成したデータを記録する記録手段と、
該記録手段に記録された記録データを再生するデータ再生手段と、
該データ再生手段による前記記録データの再生により前記対象エンジンのエンジン音を再生した再生音を出力する再生音出力手段と、
パルス信号を発信するパルス信号発信手段と、
該パルス信号発信手段のパルス信号を発信するタイミングを調整可能なタイミング調整手段と、
前記パルス信号発信手段からパルス信号を受信するとパルス音を出力するパルス音出力手段と、
前記パルス信号発信手段からパルス信号が発信されるタイミングを前記対象エンジンのクランク角度で特定するクランク角度特定手段とを有することを特徴とする異音発生タイミング特定装置。
【請求項3】
前記データ再生手段による前記記録データの再生により前記再生音の波形データを作成する再生音波形データ作成手段と、
該再生音波形データ作成手段によって作成した再生音波形データを出力する再生音波形データ出力手段と、
前記パルス信号発信手段による前記パルス信号の発信により前記パルス信号の波形データを作成するパルス信号波形データ作成手段と、
該パルス信号波形データ作成手段によって作成したパルス信号波形データを出力するパルス信号波形データ出力手段とを有することを特徴とする請求項2に記載の異音発生タイミング特定装置。
【請求項4】
前記対象エンジンのエンジン振動を検出するエンジン振動検出手段と、
該エンジン振動検出手段によって検出したエンジン振動信号に基づいて前記エンジン振動の波形データを作成するエンジン振動波形データ作成手段と、
該エンジン振動波形データ作成手段によって作成したエンジン振動波形データを出力するエンジン振動波形データ出力手段を有することを特徴とする請求項3に記載の異音発生タイミング特定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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