説明

疎水性有機材料に親和性を有するレゾール型フェノール樹脂

【課題】耐熱性、機械的強度、摺動性に優れた成形材料を得る事が可能となる、疎水性有機材料に親和性を有するレゾール型フェノール樹脂を提供する。
【解決手段】フェノール類とホルムアルデヒド類を使用し、触媒としてアミン類の存在下合成してなるレゾール型フェノール樹脂であって、フェノール類中のビスフェノールAのモル比率が50〜100%であり、GPCによる数平均分子量が500〜1000であり、かつ分散度(Mw/Mn)が2.5〜15であることを特徴とするレゾール型フェノール樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明によれば、疎水性有機材料、特にポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と優れた親和性を有するフェノール樹脂を提供する事が可能であり、これにより耐熱性、低吸水性および摺動特性に優れた成形材料を安価に得る事が可能である。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、その特性である耐熱性、電気絶縁性、機械的強度を生かし、基材に有機、無機繊維及び有機、無機フィラー等を用いることにより、各種成形材料を得ることが出来る為、古くから広く使用されているものである。
【0003】
また、成形材料の分野において優れた機械的強度を求められる用途には、フェノール樹脂と、混合する有機、無機繊維及び有機、無機フィラーとの親和性が良好であることが重要である。通常フェノール樹脂と添加材料との親和性が悪いと、補強効果が発揮されずに優れた機械的強度は得られない。
【0004】
成形材料に使用する有機、無機繊維及び有機、無機フィラーのうち、ポリエステル繊維は比較的安価であること、低吸水性であることからコンパウンド基材として、また補強繊維として有用である。またポリテトラフルオロエチレンは自己潤滑性に優れた材料であることから、成形物に良好な摺動特性を与えることが可能な材料として、樹脂に添加使用されているものである。しかしながらフェノール、ホルムアルデヒドを原料としたレゾール型フェノール樹脂ではポリエステルやポリテトラフルオロエチレンとの親和性が低いため、成形不良を起こし易いと言う問題、また機械的強度に劣るという問題点があった。
【0005】
ポリエステル繊維と樹脂との親和性を向上させる手段としてポリエステル繊維の表面処理を行なう方法もある。ポリエステル繊維は平面が比較的不活性であるため、加水分解、アミン分解、低温プラズマ等の処理により極性基を導入し、樹脂との親和性を高めることができるとされている(例えば、非特許文献1参照。)。ただし、この方法によるポリエステル繊維の表面改質では、効果は得られるものの経済性に劣るという問題があった。またポリエステルやポリテトラフルオロエチレンとの親和性を樹脂により上げる手段として、エポキシ樹脂を単独またはフェノール樹脂と併用して使用する方法が上げられる。この場合確かにポリエステルやポリテトラフルオロエチレンと樹脂との親和性が良好となり、機械的強度に優れた成形物を得る事が出来るが、反面、レゾール型フェノール樹脂を単独で使用したものに比べ耐熱性に劣ったものとなってしまう欠点があった。
【非特許文献1】材料技術研究協会編集委員会編「複合材料と界面」総合技術出版、1986年5月10日、p161−166
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、疎水性有機材料、特にポリエステルやポリテトラフルオロエチレンとの親和性に優れたレゾール型フェノール樹脂を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、以下(1)記載の本発明により解決される。(1)フェノール類とホルムアルデヒド類を使用し、触媒としてアミン類の存在下合成してなるレゾール型フェノール樹脂であって、フェノール類中のビスフェノールAのモル比率が50〜100%であり、GPCによる数平均分子量が500〜1000であり、かつ分散度(Mw/Mn)が2.5〜15であることを特徴とするレゾール型フェノール樹脂。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるレゾール型フェノール樹脂を用いれば、ポリエステルやポリテトラフルオロエチレンを基材または添加剤として使用した場合に、耐熱性、機械的強度、摺動性に優れた成形材料を得る事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレンと親和性が良好なフェノール樹脂は、フェノール類中のビスフェノールAのモル比率を50〜100%とし、触媒としてアミン類の存在下ホルムアルデヒド類と合成する事により得る事が出来る。さらに該レゾール型フェノール樹脂の数平均分子量が、500〜1000のものであることが望ましく、GPCによる分散度(Mw/Mn)が2.5以上であることが望ましい。
【0010】
フェノールとホルムアルデヒドを触媒としてアミン類の存在下合成してなるレゾール型フェノール樹脂では、例えばポリエステル繊維を成形材料用基材として、又は補強用添加剤として使用した場合、その親和性の低さから、成形物表面における繊維の毛羽立ちによる成形不良の発生や、十分な補強効果が得られない事による曲げ強度、曲げ弾性率の低下という不具合が発生してしまい、実用性のある成形材料を得る事が出来なかった。
【0011】
また成形材料の用途によっては、摺動性を求められる場合が多々ある。このような場合には一般的に粉末状ポリテトラフルオロエチレン等の摺動性に優れた材料を添加し、成形材料の摺動特性を向上させる手法がとられている。しかしながら粉末状ポリテトラフルオロエチレンの添加により摺動特性は向上するものの、それ自体には補強効果が無いため、機械的強度が低下してしまうという問題があった。また樹脂と粉末状ポリテトラフルオロエチレンとの親和性が低い場合には、前記機械的強度の低下が著しく問題となっていた。
【0012】
以上のような問題、すなわちポリエステルとの親和性が良く、さらにはポリテトラフルオロエチレンとの親和性が良好なレゾール型フェノール樹脂について鋭意検討を行なった結果、本発明に至ったものである。
【0013】
すなわち、レゾール型フェノール樹脂の原料であるフェノール類のうち、ビスフェノールAのモル比率を50〜100%とし、GPCによる数平均分子量が500〜1000であり、かつ分散度(Mw/Mn)が2.5〜15であるレゾール型フェノール樹脂とすることにより、ポリエステルとの親和性が格段に向上し機械的強度に優れた成形物を得る事が可能となる。ビスフェノールAのモル比率が50%未満ではポリエステル繊維との十分な親和性は得られず、そこから得られる成形材料は十分な機械的強度が得られない。またGPCによる数平均分子量が500〜1000であり、分散度が2.5〜15である事が必要である。数平均分子量が400未満では、ポリエステルとの親和性が良好であっても機械的強度に劣ったものになってしまい、また1000以上では樹脂の粘性が高すぎてポリエステル繊維や他の有機、無機フィラーの微細な形状に十分浸透する事が困難になってしまい、結果的に機械的強度に劣ったものになってしまう。また分散度2.5未満のような分子量分布が狭い樹脂でもポリエステル繊維や他の有機,無機フィラーと十分な接着力が得られず、15より大きな分散度の樹脂では分子量1000以上の場合と同様にポリエステル繊維や他の有機,無機フィラーの微細な形状に十分浸透する事が困難となるからである。
【0014】
本発明で言うところのビスフェノールA以外のフェノール類の例としては、具体的にはフェノール、クレゾール、エチルフェノール、アミノフェノール、レゾルシノール、キシレノール、ブチルフェノール、トリメチルフェノール、カテコール、フェニルフェノールなどがあり、特にフェノールがその特性から好ましく使用される。このビスフェノールA以外のフェノール類は一種類単独で使用しても良いが、二種類以上の混合物として使用しても良い。
【0015】
ホルムアルデヒド類としてはホルマリン、パラホルムアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒドなどがあり、特にホルマリンやパラホルムアルデヒドが合成のし易さから好ましく使用される。このホルムアルデヒド類は一種類単独で使用しても良いが、二種類以上の混合物として使用しても良い。
【0016】
触媒として用いるアミン類としては、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン、アンモニア水などがあり、特にトリエチルアミンやアンモニア水が合成のし易さから好ましい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみにより限定されるものではない。また、実施例及び比較例中記載の配合部は質量部、%は質量%を示すものとする。
【0018】
[実施例1]
攪拌機、温度計、冷却管を備えたセパラブルフラスコに、ビスフェノールA300部、37%ホルマリン192部を仕込んだ。次に攪拌しながら25%アンモニア水溶液9部を仕込んだ後、常圧下で昇温を行い90℃に到達後2.5時間反応させた後、0.015MPaの減圧下80℃まで昇温する事により水分の除去を行なった。次いで、メタノール64部を添加し常圧下で85℃まで昇温、4時間反応させた後、メタノール156部を添加する事によりレゾール型フェノール樹脂600部を得た。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPCによるMnは900、Mw/Mnは5.6であった。
【0019】
[実施例2]
攪拌機、温度計、冷却管を備えたセパラブルフラスコに、ビスフェノールA160部、37%ホルマリン79部を仕込んだ。次に攪拌しながらトリエチルアミン1.3部を仕込んだ後、常圧下で昇温を行い100℃の還流下1時間反応させた。その後一旦冷却しフェノール32部、37%ホルマリン30部、トリエチルアミン0.3部を仕込む。次いで常圧下昇温を行い100℃の還流下2時間反応を行なった後、0.015MPaの減圧下80℃まで昇温する事により水分の除去を行なった。次いで、メタノール24部を添加し常圧下で90℃まで昇温、4時間反応させた後、メタノール174部を添加する事によりレゾール型フェノール樹脂420部を得た。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPCによるMnは720、Mw/Mnは14.3であった。
【0020】
[実施例3]
攪拌機、温度計、冷却管を備えたセパラブルフラスコに、ビスフェノールA300部、37%ホルマリン210部を仕込んだ。次に攪拌しながら25%アンモニア水溶液9部を仕込んだ後、常圧下で昇温を行い90℃に到達後2時間反応させた後、0.015MPaの減圧下80℃まで昇温する事により水分の除去を行なった。次いで、メタノール55部を添加し常圧下で85℃まで昇温、2.5時間反応させた後、メタノール165部を添加する事によりレゾール型フェノール樹脂580部を得た。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPCによるMnは560、Mw/Mnは2.6であった。
【0021】
[実施例4]
攪拌機、温度計、冷却管を備えたセパラブルフラスコに、ビスフェノールA160部、ブチルフェノール18部、37%ホルマリン91部を仕込んだ。次に攪拌しながらトリエチルアミン1.4部を仕込んだ後、常圧下で昇温を行い100℃の還流下1.5時間反応させた。その後一旦冷却しフェノール42部、37%ホルマリン39部、トリエチルアミン0.4部を仕込む。次いで常圧下昇温を行い100℃の還流下1.5時間反応を行なった後、0.015MPaの減圧下80℃まで昇温する事により水分の除去を行なった。次いで、メタノール34部を添加し常圧下で90℃まで昇温、4時間反応させた後、メタノール193部を添加する事によりレゾール型フェノール樹脂481部を得た。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPCによるMnは680、Mw/Mnは11.8であった。
【0022】
[比較例1]
攪拌機、温度計、冷却管を備えたセパラブルフラスコに、フェノール200部、37%ホルマリン190部を仕込んだ。次に攪拌しながら25%アンモニア水溶液8部を仕込んだ後、常圧下で昇温を行い100℃還流下1時間反応させた後、0.015MPaの減圧下90℃まで昇温する事により水分の除去を行なった。次いで、メタノール37部を添加し常圧下で85℃まで昇温、1時間反応させた後、さらにメタノール111部を添加する事によりレゾール型フェノール樹脂408部を得た。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPCによるMnは600、Mw/Mnは3.4であった。
【0023】
[比較例2]
攪拌機、温度計、冷却管を備えたセパラブルフラスコに、ビスフェノールA200部、37%ホルマリン110部を仕込んだ。次に攪拌しながらトリエチルアミン2部を仕込んだ後、常圧下で昇温を行い100℃還流下1.5時間反応させた。次に0.015MPaの減圧下80℃まで昇温する事により水分の除去を行なった後、メタノール222部を添加する事によりレゾール型フェノール樹脂464部を得た。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPCによるMnは430、Mw/Mnは1.6であった。
【0024】
[比較例3]
攪拌機、温度計、冷却管を備えたセパラブルフラスコに、ビスフェノールA160部、フェノール32部、37%ホルマリン109部を仕込んだ。次に攪拌しながらトリエチルアミン1.5部を仕込んだ後、常圧下で昇温を行い100℃の還流下1.5時間反応させた。次に0.015MPaの減圧下80℃まで昇温する事により水分の除去を行なった後、メタノール198部を添加する事によりレゾール型フェノール樹脂430部を得た。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPCによるMnは720、Mw/Mnは14.3であった。
【0025】
[比較例4]
攪拌機、温度計、冷却管を備えたセパラブルフラスコに、ビスフェノールA160部、37%ホルマリン71部を仕込んだ。次に攪拌しながらトリエチルアミン1.3部を仕込んだ後、常圧下で昇温を行い100℃の還流下1時間反応させた。その後一旦冷却しフェノール32部、37%ホルマリン29部、トリエチルアミン0.3部を仕込む。次いで常圧下昇温を行い100℃の還流下2時間反応を行なった後、0.015MPaの減圧下80℃まで昇温する事により水分の除去を行なった。次いで、メタノール24部を添加し常圧下で90℃まで昇温、5.5時間反応させた後、メタノール174部を添加する事によりレゾール型フェノール樹脂412部を得た。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPCによるMnは1100、Mw/Mnは16.7であった。
【0026】
実施例及び比較例の評価方法を以下に記す。
【0027】
[レゾール型フェノール樹脂の数平均分子量及び分散度の測定]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定。数値はポリスチレン標準物質による検量線から算出。
装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK-GEL3000HXL、2000HXL、2000HXL(東ソー社製)
検出器:UV−8020(東ソー社製)
【0028】
[表面性及び物性評価]
レゾール型フェノール樹脂に粉末状ポリテトラフルオロエチレン(平均粒子径4.3μm)を、レゾール樹脂固形分100部に対して50部を添加し、攪拌により均一に分散させ含浸液を調整した。ポリエステルクロス(目付け:120g/m)を含浸液に漬けることで樹脂を含浸させ、10時間の風乾及び熱処理(80℃、30分)により溶剤であるメタノールを揮発させ、プリプレグを得た。さらに、このプリプレグを15枚積層し90kg/cmの加圧下、170℃、30分間圧縮成形する事により積層板を得た。
この積層板の端部を顕微鏡で観察する事により、表面性を判断。インストロン試験機により曲げ試験を行なう事により、曲げ強度、曲げ弾性率を求めた。
【0029】
実施例、比較例により得られたレゾール型フェノール樹脂について、以上の評価を行なった結果を表1に示す。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類とホルムアルデヒド類を使用し、触媒としてアミン類の存在下合成してなるレゾール型フェノール樹脂であって、フェノール類中のビスフェノールAのモル比率が50〜100%であり、GPCによる数平均分子量が500〜1000であり、かつ分散度(Mw/Mn)が2.5〜15であることを特徴とするレゾール型フェノール樹脂。

【公開番号】特開2008−285534(P2008−285534A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129969(P2007−129969)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
【Fターム(参考)】