説明

疑似力覚発生装置

【課題】基点を外部に設けることなく力覚を知覚させることができ、かつ、エネルギーの利用効率が高く、小型軽量化が容易であり、発生させる加速度を任意に設定可能な疑似力覚発生装置を実現する。
【解決手段】カム110に、その一面を巡回する閉曲面110aを設け、その内側に設けた中心軸120から質量を有する回転体130を当該一面に対向する形で延伸して設ける。カムフォロア140は、回転体沿いに移動が制限され、回転体の回転運動とともに閉曲面に沿って移動する。エネルギー保存機構150は、中心軸とカムフォロアを接続し、両者間の距離に依存する位置エネルギーが保存される。閉曲面は第1領域と第2領域とを備え、エネルギー保存機構に蓄えられたエネルギーの出し入れにより回転体に加速度が与えられ、かつ、与えられる加速度の正負と絶対値がカムフォロアの各領域ごとに異なるように、各領域の曲面形状を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手応えのような力の感覚をユーザに知覚させる技術に関し、特に力の基点を必要とせず、物理的作用力の総和がゼロでありながら、人間の感覚特性を利用して、回転感覚や平行移動の感覚を任意の一方向に対して知覚させ続けることができる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
視聴覚モダリティ以外の情報提供モダリティとして、手応え、牽引力等の力覚モダリティの開発が進められている。力覚を人間に提示する手法は、力の基点を接地する接地型と、基点を拘束しない非接地型の2つに分類できる。接地型は、発生させる力覚の反作用力を支持する基点を外部や人体等に固定する形態であり、非接地型は、基点を外部や人体に持たない形態である。
【0003】
しかし、外部に基点を固定する接地型(例えば、SPIDERやPHANTOM等)の場合、自由な移動を伴うモバイル機器やウェアラブルコンピューティング等の分野への応用は困難である。また、基点を身体部位に固定する接地型(例えば、非特許文献1参照)の場合、提示した力覚情報の反作用力も人体に加わるため、正確な方向情報を提示することは困難であり、またユーザに対する負担が大きいという問題もある。
【0004】
これに対し本願の発明者は、反作用力を支持する基点を外部や人体に設けることなく時間的に安定した力覚を知覚させる手法を提案した(例えば、非特許文献2参照)。この手法は、回転動力に対してリンク機構を採用し、正負の絶対値が大きく異なる加速度を発生させて、それにより疑似的な力覚を知覚させるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】筧直之、矢野博昭、斎藤充、小木哲郎、廣瀬通孝、「没入型仮想空間における力覚提示デバイスHapticGEARの開発とその評価」、日本バーチャルリアリティ学会論文誌、2000年、Vol.5、No.4、p.113-120
【非特許文献2】雨宮智浩、安藤英由樹、前田太郎、「非接地型力覚提示装置を中空で把持したときの効果的な牽引力錯覚の生起手法」、日本バーチャルリアリティ学会論文誌、2006年、Vol.11、No.4、p.545-556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献2の手法は、回転動力を並進運動に変換する必要があるため、その変換に伴うエネルギーロスが大きく、エネルギーの利用効率が悪いという問題点がある。また、並進運動に変換するための機構を設ける必要があるため、装置を小型・軽量化することが困難であるという問題点もある。更に、発生させる加速度の時間変化を任意に設定することが困難であるという問題もある。すなわち、発生する加速度の時間変化の自由度はリンク機構等が有する基本構造によって制限され、回転動力の回転速度やリンク機構等の寸法の最適化だけでは発生させる加速度の時間変化を任意に設定できない。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、反作用力を支持する基点を外部や人体に設けることなく力覚を知覚させることができ、かつ、エネルギーの利用効率が高く、また、装置の小型軽量化が容易であり、更に、発生させる加速度の時間変化を任意に設定可能な疑似力覚発生装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の疑似力覚発生装置は、カムと中心軸と回転体とカムフォロアとエネルギー保存機構とを備える。
【0009】
カムは一方の面側に閉曲面を有し、その閉曲面の内側に中心軸が回転可能に設けられる。その中心軸から上記カムの上記一方の面に対向する形で延伸された回転体を設ける。そして、上記回転体沿いに移動を制限されつつ、上記回転体の回転運動に伴い上記閉曲面に沿って移動するカムフォロアを設ける。更に、上記中心軸と上記カムフォロアとの間に上記中心軸と上記カムフォロアとの距離に依存する位置エネルギーを保存するエネルギー保存機構を設ける。上記中心軸と上記カムフォロアとの距離は、上記中心軸の回転角度に応じ、上記閉曲面の形状に従って変化する。
【0010】
エネルギー保存機構は、発生した力で上記カムフォロアを上記閉曲面に押し付ける。上記閉曲面は第1領域と第2領域とを備え、各領域の曲面形状は、上記カムフォロアが上記閉曲面に押し付けられる力によって上記回転体に加速度が与えられ、かつ、与えられる加速度の正負と絶対値が上記カムフォロアの第1領域の通過時と第2領域の通過時とで異なるように形成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、反作用力を支持する基点を外部や人体に設けることなく力覚を知覚させることができ、かつ、エネルギーの利用効率が高く、また、装置の小型軽量化が容易であり、更に、発生させる加速度の時間変化を任意に設定可能な疑似力覚発生装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明において目標とする偏加速度周期刺激を示す図。
【図2】本発明の疑似力覚発生装置100の構成例を示す平面図。
【図3】Aは本発明の疑似力覚発生装置100の構成例を示す正面図、Bは 本発明の疑似力覚発生装置100の構成例を示す斜視図。
【図4】本発明の疑似力覚発生装置200の構成例を示す平面図。
【図5】Aは本発明の疑似力覚発生装置200の構成例を示す正面図、Bは本発明の疑似力覚発生装置200の構成例を示す斜視図。
【図6】Aはエネルギー保存機構として引きバネ150aを用いた場合の構成イメージを示す図、Bはエネルギー保存機構としてねじりバネ150bを用いた場合の構成イメージを示す図、Cはエネルギー保存機構として押しバネ150cを用いた場合の構成イメージを示す図。
【図7】Aはエネルギー保存機構としてねじりバネ150bを採用した場合の閉曲面110aの設計例を示す図、Bはエネルギー保存機構として押しバネ150cを採用した場合の閉曲面110aの設計例を示す図。
【図8A】エネルギー保存機構としてねじりバネ150bを採用した場合の加速度の時間変化のシミュレーション例を示す図。
【図8B】エネルギー保存機構として押しバネ150cを採用した場合の加速度の時間変化のシミュレーション例を示す図。
【図8C】従来のクランクスライダー機構の場合の加速度の時間変化のシミュレーション例を示す図。
【図9】図8A〜Cに示す加速度時間変化について、それぞれ1周期分を抽出して重ね合わせた図。
【図10】カムとして歯車を用いることにより、疑似力覚発生方向を任意に変化可能とするイメージ図。
【図11】刺激の物理的加速度とそれに対する人間の感覚強度の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
〔力覚を知覚させる原理〕
まず、本発明において反作用力を支持する基点を外部や人体に設けることなく時間的に安定した力覚を知覚させることができる原理を説明する。
【0015】
ある質量を持った物体の並進運動を考える。この並進運動は、疑似力覚を提示したい方向へは大きな加速度で短時間に移動し、逆の方向へは小さな加速度で長時間かけて移動するという非対称な加速度(偏加速度)を持った周期運動であるものとする。この場合、この物体を含む系を把持しているユーザは、この提示方向への疑似力覚を知覚する。これは、人間の知覚特性によるものであり、把持動作に関わる固有感覚と触覚によって発生する現象である。
【0016】
このような疑似力感の知覚に関わっていると考えられる筋紡錘の動的反応の伸張錯覚について説明する。筋紡錘(筋肉の収縮を感知して感覚を起こす骨格筋中の感覚器)の反応特性には、筋の長さが変化する時に強く興奮する動的反応と、伸ばされた筋が一定の長さに保たれるときにインパルス発射を続ける静的反応とがあり、動的反応は筋の長さの変化が比較的小さく急なときに強い(例えば「大山正、今井省吾、和気典二編:新編 感覚・知覚心理学ハンドブック、誠信書房、1994」参照)。そのため、短期間の大きな加速度変化は動的反応を引き起こすが、逆向きの小さな加速度は動的反応を引き起こさないため、バーチャルな力ベクトルとして知覚させることができると考えられる。
【0017】
一方、知覚反応は一般に、図11に示すような非線形なS字型の感覚強度曲線(sigmoid curve)で近似できることが知られている。図11において横軸は人体に加えられる物理的な加速度(刺激)を示し、縦軸はその加速度が人体に加えられた際に人体が知覚する加速度(感覚強度)を示す。この図は、刺激を一周期積分すると零になる周期運動でも、このS字型の感覚強度曲線によって変換された感覚強度値は積分しても零になるとは限らないという特性を表している。このような特性はすなわち、ある物理的加速度の範囲において、加速度の変化を感覚的に過大評価する箇所と過小評価する箇所とが存在することを意味する。例えば、図11において、aからa+kに物理的加速度を変化させた場合と、bからb+kに物理的加速度を変化させた場合とを比較すると、aがbより小さい場合、またはf(a)がf(b)より小さい場合でも、f´(a+k)−f´(a)の値がf´(b+k)−f´(b)の値より大きくなる領域が存在する。つまり、加速度が小さくても、ある特定の範囲(この例ではa〜a+kの範囲)において、急峻な加速度変化をS字形曲線により過大評価(a+kの部分)して強く知覚し、緩やかな加速度変化をS字型曲線により過小評価(aの部分)してほとんど知覚しないというスイートスポットが存在する。
【0018】
従って、このようにS字型曲線の傾きに差が生じるスイートスポットにあたる2点をS字型の感覚強度曲線に基づき適宜選び、2つの加速度を連続的に逆方向に加えることで、感覚強度の差分を効果的に一方向のバーチャルな力ベクトルとして知覚させることができると考えられる。
【0019】
また、本発明の手法における力感覚の知覚に関わっていると思われるその他の知覚特性として、皮膚表面のすべりと継時マスキングが挙げられる。前者については、皮膚表面と運動物体の接触面において、静止摩擦係数と動摩擦係数との関係により、ある加速度において並進運動の並進力が静止摩擦力を超え、すべりが生じることがある。そのため、力覚を提示したい方向に大きな加速度を加えることによりすべりを発生させることが、バーチャルな力ベクトルを知覚させる手がかりになると考えられる。後者については、時系列的に大きな力とそれと逆向きの小さな力が近接する場合、前者が後者をマスクする可能性があり、それによって小さな力は物理的に発生していても知覚されず、一方向の力として知覚させることができると考えられる。
【0020】
〔疑似力覚発生装置の構成〕
図1に、疑似力覚を発生させるために目標とする偏加速度周期刺激を示す。このように正負の加速度の絶対値に十分な比を持たせる(例えば、m:n=1:7〜10)ことで、正方向への疑似力覚(牽引力)の提示が可能となる。
【0021】
この偏加速度周期刺激を実現する本発明の疑似力覚発生装置100の構成例の平面図を図2に、正面図を図3Aに、斜視図を図3Bにそれぞれ示す。疑似力覚発生装置100は、カム110と中心軸120と回転体130とカムフォロア140とエネルギー保存機構150とを備える。
【0022】
カム110は平板状であり、一方の面側に閉曲面110aを有する。閉曲面110aは、例えば図2に示すようにカムの一方の面を周回する溝を掘ることにより形成することができる。
【0023】
中心軸120は、閉曲面110aの内側に回転可能に設けられる。
回転体130は、中心軸120からカム110の閉曲面110aを設けた面に対向する形で延伸して設けられる。
【0024】
カムフォロア140は、ローラー等からなり、回転体130沿いに移動を制限されつつ、回転体130の回転運動に伴い閉曲面110aに沿って移動する。
【0025】
エネルギー保存機構150は、一端が中心軸120に接続され、他端がカムフォロア140に接続される。エネルギー保存機構150はバネ等からなり、中心軸120とカムフォロア140との距離に依存する位置エネルギーを保存する。中心軸120とカムフォロア140との距離は、中心軸120の回転角度に応じ、閉曲面110aの形状に従って変化するため、閉曲面110aの形状に応じた位置エネルギーが保存されることになる。また、エネルギー保存機構150は、カムフォロア140が閉曲面110aの形状に沿って滑らかに移動するように、発生した力によってカムフォロア140を閉曲面110aに押し付ける。
【0026】
回転体130は所定の質量mを有し、その回転の加速度を制御することにより疑似力覚を発生させる。回転体130の回転力は、当初はモータ160により中心軸120を通じて与えられるが、回転開始後はその与えられたエネルギーがカムフォロア140を通じてエネルギー保存機構150に保存される。これが閉曲面110aの形状に応じてカムフォロア140を通じて回転体130にフィードバックされ、更に、閉曲面110aの形状に応じてカムフォロア140を通じてエネルギー保存機構150に再び保存されるという繰り返しにより回転が維持される。もっとも、このような繰り返しによる回転の維持は、摩擦等のエネルギー損失が無く、当該運動過程におけるエネルギーの総和が保存され運動エネルギーと位置エネルギーの総和が一定に維持されることが前提である。しかし、実際には損失が生じるため、例えば、モータ160と中心軸120との間に単方向クラッチ170を挿入し、回転力が足りなくなった時にだけモータ160から回転力を供給可能なように構成することが考えられる。
【0027】
エネルギー保存機構150に保存されたエネルギーは、例えばエネルギー保存機構150が引きバネの場合には、閉曲面110aの形状に応じたバネの伸縮により出し入れされる。すなわち、中心軸120とカムフォロア140との距離が遠くなりバネが伸びる時には運動エネルギーから位置エネルギーへの変換がなされ、距離が近くなりばねが縮まる時には位置エネルギーから運動エネルギーへの変換がなされる。つまり、閉曲面110aの形状を適宜設計することで、運動エネルギーの発生度合を変化させ、カムフォロア140を通じて回転体130に任意の加速度を与えることができる。
【0028】
なお、回転体130を回転させることにより、閉曲面110aの形状に応じた疑似力覚を発生することができるが、特定の方向(例えば図2のx軸方向)に安定的に力覚を発生させるには、疑似力覚発生装置100と同じ構成の疑似力覚発生装置100´(カム110´と中心軸120´と回転体130´とカムフォロア140´とエネルギー保存機構150´とを備える)を、図4の平面図、図5Aの正面図、図5Bの斜視図に示すように、カム110の閉曲面110aを設けていない方の面に面対称に設ける。そして回転体130と回転体130´とを逆方向に、かつ、疑似力覚を提示したい方向軸上(ここではx軸方向)で両回転体が重なり合うように回転させる。このように構成することで、y軸方向の加速度が打ち消され、x軸方向の加速度のみを残すことができる。なお、この場合に1つのモータで中心軸120と中心軸120´の両方を回転させたい時には、例えば両中心軸間に逆回転機構180を挿入すればよい。
【0029】
〔閉曲面の設計〕
以下、疑似力覚発生装置100と疑似力覚発生装置100´とを組み合わせて構成した疑似力覚発生装置200により、x軸方向に図1に示すような十分な比の偏加速度が出力されるよう、x軸方向に対する2つの一定加速度(高加速域(以下、「第1領域110a1」という。)及び低加速域(以下、「第2領域110a2」という。))を発生させる閉曲面110aの形状(輪郭)を算出する。ここでは、まずエネルギー保存機構150として引きバネ150aを用いる場合について算出する。
【0030】
図4に示すような中心軸120を中心としたxy平面において、バネ定数kの引きバネ150aで引っ張られるカムフォロア140の中心軸120からの距離をr、x軸からの傾きをθとする。なお、rはθの関数である。質量mの回転体130の重心の回転半径をRとすると、慣性モーメントMはM=m×R2で求められる。従ってこの系のラグランジアンは式(1)で表わすことができる。
【0031】
【数1】

【0032】
ラグランジュの方程式を用いると回転体130の角速度は式(2)のようになる。
【0033】
【数2】

【0034】
回転体130の重心の位置をx座標で表すと、x=R・cosθとなるため、回転体130のx軸方向の加速度は式(3)で与えられる。
【0035】
【数3】

【0036】
式(2)、(3)より引きバネ150aを用いた場合の閉曲面110aの形状(輪郭)は式(4)より求めることができる。
【0037】
【数4】

【0038】
つまり、式(4)を満たすように各パラメータを適宜設定することにより、発生させる加速度の時間変化を任意に設定することができる。
【0039】
もっとも、エネルギー保存機構150として引きバネ150aを用いる場合、自然長を半径とした円の面積だけ装置が大型化してしまう。そこで、小型化のためにねじりバネ150bを2つ向かい合わせに接合したバネや押しバネ150cを用いることが考えられる。各バネの利用イメージを図6A〜Cに示す。
【0040】
エネルギー保存機構150としてねじりバネ150bを用いる場合には、バネの両端の距離が中心軸120からカムフォロア140までの距離rとなるため、バネ定数kを式(5)から求め、これを式(4)に代入して閉曲面110aの形状を計算する。なお、ktwはねじりバネ150bのバネ定数であり、Lはねじりバネ150bの荷重作用半径である。
【0041】
【数5】

【0042】
また、エネルギー保存機構150として押しバネ150cを用いる場合には、カムフォロア140は図6Cに示すように内側から閉曲面110aを押さえつけるようにして移動する。そのため、ラグランジアンLを式(1)ではなく式(6)により求めた上で閉曲面110aの形状を計算する。なお、kcomは押しバネ150cのバネ定数、r0は押しバネ150cの自然長である。
【0043】
【数6】

【0044】
式(4)をもとに計算した高加速域である第1領域110a1と低加速域である第2領域110a2とを実現する閉曲面110aの輪郭を、ねじりバネ150bについて図7Aに、押しバネ150cについて図7Bに示す。なお、R=20mm、m=40g、第1領域110a1での加速度a1=450m/s2、第2領域110a2での加速度a2=50m/s2、ktw=1.676N・mm/deg、L=48mm、kcom=0.278N/mm、r0=60mmとして計算している。また、カムフォロア140が第1領域110a1と第2領域110a2との間をスムーズに移動できるように構成するため、第1領域110a1と第2領域110a2とは半径10mmの接円弧115で滑らかに接続している。
【0045】
ねじりバネ150bを用いる場合(図7A)、カムフォロア140が中心軸120から遠い位置にある時(第2領域:紙面上接円弧115を挟んでx軸負方向側)にはバネの両端の間隔が拡げられ、弾性(位置)エネルギーが蓄積されるが、逆に運動エネルギー(加速度)は小さくなる。この時、回転運動の向心力により回転体130にはx軸正方向に加速度が生じ、また第2領域は経路長が相対的に長いため、疑似力覚発生装置100を把持するユーザには長時間x軸負方向の疑似力覚が与えられる(図1の負側の刺激に対応)。しかし、加速度が小さいため、この力は知覚されない。一方、カムフォロア140が中心軸120に近い位置にある時(第1領域:紙面上接円弧115を挟んでx軸正方向側)には、蓄積されたエネルギーが運動エネルギーに転化し、加速度が大きくなる。この時、回転運動の向心力により回転体130にはx軸負方向に加速度が生じ、また第1領域は経路長が相対的に短いため、疑似力覚発生装置100を把持するユーザには短時間x軸正方向の疑似力覚が強く与えられ(図1の正側の刺激に対応)、その結果ユーザに知覚される。
【0046】
押しバネ150cを用いる場合(図7B)、カムフォロア140が中心軸120から近い位置にある時(第2領域:紙面上接円弧115を挟んでx軸負方向側)にはバネが圧縮されて、弾性(位置)エネルギーが蓄積されるが、逆に運動エネルギー(加速度)は小さくなる。この時、回転運動の向心力により回転体130にはx軸正方向に加速度が生じ、また第2領域は経路長が相対的に長いため、疑似力覚発生装置100を把持するユーザには長時間x軸負方向の疑似力覚が与えられる(図1の負側の刺激に対応)。しかし、加速度が小さいため、この力は知覚されない。一方、カムフォロア140が中心軸120に遠い位置にある時(第1領域:紙面上接円弧115を挟んでx軸正方向側)には、蓄積されたエネルギーが運動エネルギーに転化し、加速度が大きくなる。この時、回転運動の向心力により回転体130にはx軸負方向に加速度が生じ、また第1領域は経路長が相対的に短いため、疑似力覚発生装置100を把持するユーザには短時間x軸正方向の疑似力覚が強く与えられ(図1の正側の刺激に対応)、その結果ユーザに知覚される。
【0047】
〔評価〕
図7A(ねじりバネの場合)と図7B(押しバネの場合)のように求められた閉曲面110aを有する疑似力覚発生装置200について、回転体130のx軸方向の加速度の時間変化をシミュレーションした結果をそれぞれ図8A(ねじりバネの場合)、図8B(押しバネの場合)に示す。なお、比較のため図8Cに従来のクランクスライダー機構により発生する加速度の時間変化を、図9に図8A〜Cの各加速度波形の1周期分を重ね合わせたものを示す。
【0048】
本発明の疑似力覚発生装置200において生成される物理的な加速度は、クランクスライダー機構に比べ、疑似牽引力生成方向の逆方向(図9中、加速度正方向)の加速度のピークが小さい。つまり、より理想的な偏加速度周期刺激を与えることができる。
【0049】
一方、ねじりバネと押しバネの両者については、波形にほとんど差が無い。そのため、装置への実装形態に応じて、設計した閉曲面に対するカムフォロアの転がりやすさや求められる小型軽量化の程度を加味し、適宜選択すればよい。
【0050】
以上のように本発明により、反作用力を支持する基点を外部や人体に設けることなく力覚を知覚させることができ、かつ、エネルギー保存機構の採用によりエネルギーの利用効率が高い疑似力覚発生装置を実現できる。また、閉曲面を適宜設計することで、発生させる加速度の時間変化を任意に設定することができる。更に、クランクスライダー機構の場合、偏加速度周期運動を発生する構造の長さに加え、おもりを並進運動させるためのリンク機構の長さが必要になるが、本発明はおもりにあたる回転体を中心軸の周囲で回転運動させるものである。そのため、実質的におもりの移動範囲内に偏加速度周期運動を発生する構造が内包されているため、小型軽量化が見込まれる。
【実施例2】
【0051】
本発明で用いるカムとして歯車を採用することにより、当該歯車を駆動ギアにかませ、当該駆動ギアを回転させることで、疑似力覚の発生方向を二次元的に任意に変化させることができる。
【0052】
例えば、図10に示すように歯車に構成したカム310を、駆動ギア320にかませる。このように構成することで、例えば駆動ギア320を時計回りに回転させると、カム310を反時計回りに回転させることができるため、疑似力覚発生方向(例えば図10の太矢印方向)を反時計回りに変化させることができる。
【0053】
このように、本発明の疑似力覚発生装置により、簡単な機能追加により疑似力覚の発生方向を容易に変化させることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面側に閉曲面を有する平板状のカムと、
上記閉曲面の内側に回転可能に設けられる中心軸と、
上記中心軸から上記カムの上記一方の面に対向する形で延伸して設けられる回転体と、
上記回転体沿いに移動を制限されつつ、上記回転体の回転運動に伴い上記閉曲面に沿って移動するカムフォロアと、
上記中心軸と上記カムフォロアとの間に設けられ、上記中心軸と上記カムフォロアとの距離に依存する位置エネルギーを保存し、発生した力で上記カムフォロアを上記閉曲面に押し付けるエネルギー保存機構と、
を備え、
上記中心軸と上記カムフォロアとの距離は、上記中心軸の回転角度に応じ、上記閉曲面の形状に従って変化し、
上記閉曲面は第1領域と第2領域とを備え、各領域の曲面形状は、上記カムフォロアが上記閉曲面に押し付けられる力によって上記回転体に加速度が与えられ、かつ、上記回転体に与えられる加速度の正負と絶対値が上記カムフォロアの第1領域通過時と第2領域通過時とで異なるように形成された
疑似力覚発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の疑似力覚発生装置であって、
上記閉曲面の各領域の曲面形状は、上記カムフォロアが上記回転体に与えられる加速度の絶対値が大きい第1領域を通過する時間の方が、加速度の絶対値が小さい第2領域を通過する時間より短くなるように形成された
疑似力覚発生装置。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の疑似力覚発生装置であって、
上記閉曲面の各領域の曲面形状は、上記回転体の加速度とその加速度を人体に加えた際に人体が知覚する知覚強度との関係を示すS字型曲線の傾きが、上記カムフォロアが上記第1領域を通過中の加速度の時の傾きの方が、上記第2領域を通過中の加速度の時の傾きより大きくなるように形成された疑似力覚発生装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の疑似力覚発生装置であって、
上記閉曲面は、上記カムの上記一方の面を周回する溝を掘ることにより形成される疑似力覚発生装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の疑似力覚発生装置であって、
上記閉曲面の第1領域と第2領域とは、滑らかに接続される疑似力覚発生装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の疑似力覚発生装置のカムの他方の面側に、同じ疑似力覚発生装置を面対称に設け、
各回転体は、互いに逆方向に回転し、かつ、疑似力覚を発生させたい方向軸上で互いに重なり合う疑似力覚発生装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の疑似力覚発生装置であって、
上記カムは歯車であり、
更に設けた駆動ギアを上記歯車にかませ、当該駆動ギアを回転させることにより、上記カムの向きを変化させることを可能とした疑似力覚発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−210010(P2010−210010A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56639(P2009−56639)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 特定非営利活動法人日本バーチャルリアリティ学会 刊行物名 第13回日本バーチャルリアリティ学会大会論文抄録集(1D2−6) 日本バーチャルリアリティ学会第13回大会論文集(p.313−316) 発行年月日 2008年9月24日
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】