説明

疲労センサおよび疲労損傷度推定方法

【課題】 繰返し応力を受ける構造物などを構成する部材に貼付して、それら部材の疲労損傷度を推定することができる疲労センサ、特に、溶接部に限らず各種形状の部材について疲労評価ができる疲労センサ及びその使用方法を提供する。
構造物、特に橋梁について、非熟練者であってもその耐用期間を正確に推定して、この推定に基づいて的確な保全を実施できる疲労寿命診断方法を提供する。
【解決手段】 中央部を横断して端部より薄く形成された疲労検出部3を有しこの疲労検出部に先端が亀裂の始点となるスリット5を設けた破断片1と、この破断片の両端部を固定する箔状の基板2を備えて、被検体表面に貼付して破断あるいは亀裂進展度を検知する疲労センサにおいて、疲労検出部3が亀裂進展度合いに従って選択された厚さを持ち、スリット5の先端形状が亀裂発生期間に従って選択された曲率を有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰返し荷重を受ける構造物で疲労損傷するおそれがある各種の部位における疲労損傷の発生の有無と時期を予測するために使用する貼付け型の疲労センサに関する。また、このような貼付け型疲労センサを用いた部材の疲労損傷度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現実に供用に付されている橋梁その他の構造物、機械装置、車両、航空機、船舶などの現状の強度や残りの寿命を正確に推定することにより、余寿命が十分あるのに造り直したり大幅な改修工事をしたりする無駄を省き、また適切な保全計画の作成や予算の確保が可能になるが、構造物や車両などの強度や余寿命を正確に推定するためには、構成する部材の疲労状況を把握する必要がある。
【0003】
材料の疲労を推定するために従来から利用される方法に、測定対象とする部位に歪みゲージを貼付して、その部位に発生する実際の応力を測定し、この応力条件における疲労をS−N線図などを利用して算出する方法がある。
この方法は、変換器など精密な計測装置を用いなければならないので、一度に多数の部位について計測することは難しいため、大型の構造物等における強度や寿命を的確に把握することが難しい。また、部材の損傷度を直接的に計測するものでなく、対象物に発生する応力の経時変化から部材の損傷度を推定するため、実地の疲労状況を正確に把握することは難しい。
【0004】
これに対して、特許文献1には、実構造物に犠牲試験片を貼付して犠牲試験片に生じた疲労損傷状況から構造物の疲労損傷を予知する方法が開示されている。開示方法に使用する犠牲試験片は、疲労損傷を予知しようとする構造物と同じ材料で作られ、長さ方向中央部に人工亀裂を設けた長さ70mm幅20mm厚さ約0.25mmの薄板状の試験片で、2枚の樹脂製薄板の間に挟んで構成したものである。
事前に構造部材と犠牲試験片のS−N線図を求めておいて、部材に設置した犠牲試験片に損傷が生じたときの荷重繰返し数を求めてS−N線図に当て嵌めるとその時の応力振幅、もしくは分布のある応力振幅を1つの応力振幅値で代表した代表応力振幅が求まるので、これを構造部材のS−N線図に代入すると、溶接部端部などのホットスポット部における寿命が推定できる。
【0005】
ただし、このような測定を可能にするためには、犠牲試験片がホットスポット部より早く損傷を生じなければならない。犠牲試験片のスリットにおける応力集中率は5程度であるので、構造部材において応力集中度が3ないし4程度になる程度にホットスポットから離れた位置に犠牲試験片を貼付すれば、ホットスポット部の寿命が予測できることになる。なお、犠牲試験片は亀裂が生じてから破断するまでの期間が比較的長いので、十分なモニタリング期間が確保できる。
しかし、特許文献1に記載された犠牲試験片は、形状が比較的大きく溶接ビードの縁端に近接して貼付することができず、スリットにおける応力集中度が比較的小さいため、正確な測定が難しい。また、樹脂製薄膜を介して犠牲試験片に応力を伝達するので、歪みの一部が樹脂製薄膜に吸収されることからも、正確な測定が難しい。
【0006】
さらに、特許文献2には、長さ13mm幅6mm厚さ0.05mmの金属箔基板の上に中央部に幅2mm厚さ0.02mmの亀裂進展部を有する長さ12mm幅5mm厚さ0.1mmの破断片を形成した、極めて小型で薄いクラック型疲労センサが開示されている。例示された実施例には、亀裂進展部には側端から先端が鋭く加工されたスリットが形成されていて、被測定部材にわずかな歪みが生じても直ぐにスリット先端から亀裂が生じて進展するような感度の高いセンサが記載されている。
特許文献2に開示された疲労センサは、小型で感度が高いため、対象部材の極めて近傍に貼付して貼付部分における繰返し応力により疲労センサの疲労損傷度を測定して対象部位の疲労損傷度を推定したり実寿命を推定することができる。
【0007】
特に、溶接部におけるホットスポットのように極めて応力集中率が大きく亀裂発生期間が殆ど無いものについて疲労損傷度を推定する場合は、スリット最奥に鋭い先端部を形成したものを利用して亀裂発生期間を無くすことにより、十分信頼できる推定値を得ることができる。
しかし、構造物や輸送機械など測定対象には各種の部材が溶接ばかりでなく機械加工、押出し成型、鋳造など様々な形態で使用されており、これらの部材についてそれぞれ疲労損傷度や寿命を推定しようとすると、測定対象部材によって応力集中率が異なるので、溶接部の測定に適した疲労センサをそのまま使用しても十分正しい結果を得ることができない。
【特許文献1】特開平9−304240号公報
【特許文献2】特開2001−281120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、繰返し応力を受ける、橋梁などの構造物、機械装置、車両、航空機、船舶などを構成する部材に貼付して、それら部材の疲労損傷度を推定することができる疲労センサを提供することである。
特に、溶接部に限らず各種形状の部材や機械加工面、押出し成型面、鋳造面などの金属加工面についても疲労評価ができる疲労センサ及びその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る疲労センサは、中央部を横断して端部より薄く形成された疲労検出部を有しこの疲労検出部に先端が亀裂の始点となるスリットを設けた破断片と、この破断片の両端部を固定する箔状の基板を備えて、被検体表面に貼付して破断あるいは亀裂進展度を検知する疲労センサにおいて、疲労検出部が亀裂進展度合いに従って選択された厚さを持ち、スリットの先端形状が亀裂発生期間に従って選択された曲率を有することを特徴とする。
【0010】
破断片は箔状の基板の上に固定されているので、基板を被検体に貼付すれば破断片に余分な応力を与えることが無く、破断片は被検体の歪みを正確に反映することができる。また、破断片の疲労検出部は破断片の両端部より薄く形成されているので、破断片に伝達された歪みは疲労検出部に集中し、疲労検出部の応力検出感度が向上する。さらに、スリット先端形状の曲率を選択することにより、応力集中率を変えて亀裂発生期間を変化させることができる。なお、疲労検出部の厚さが薄いほど亀裂進展速度が速くなるので、経時後の亀裂進展長は疲労検出部の厚さにも大きく影響を受けることになる。
【0011】
繰返し応力下の被検体の疲労強度は、材料、形状、外力や応力の状態、環境など多くの因子が影響を与える。一定な繰返し応力σの下で破断までの繰返し数Nの関係を対数表示で示すS−N曲線で表すと、同じ材料でも、溶接部のS−N曲線は平滑材のS−N曲線より下にあって、水平部として表される疲労限界も低い。また、円滑部材のS−N曲線は傾きが小さく、切り欠きがあったり表面が荒れていると傾きが大きくなる。
一方、疲労センサは被検体より早く破断するべきものあるから、そのS−N曲線は被検体の色々な条件におけるS−N曲線より左に表されるように選ばれる。
【0012】
所定の繰返し応力条件下における被検体の寿命を推定する場合は、貼付した疲労センサが破断する回数Nsを疲労センサのS−N曲線に当て嵌めて相当する繰返し応力σを求め、被検体のS−N曲線においてこの繰返し応力σに対応する繰返し回数Nmを求めると、これが与えられた繰返し応力条件下における被検体の寿命にあたる。
【0013】
被検体を実際の環境下で供用する場合、繰返し応力値は一定でないので、累積損傷則により、応力σが一定しない場合に応力毎に負荷回数の積算値が総合的な損傷度に関連することを利用して破断に至る繰返し回数を求めて、被検体の寿命を推定する。
【0014】
累積損傷則によれば、繰返し応力値ごとに破断に至る負荷回数に対する計測期間中の負荷回数の比を積算した値が損傷度になる。疲労センサのS−N曲線が被検体のS−N曲線が平行である場合は、疲労センサの寿命と被検体の寿命が比例するから(α倍)、疲労センサが破断に至ったときには繰返し応力値によらず、その計測期間のα倍が被検体の寿命となる。また、被検体の供用期間が知れているときは被検体の寿命から供用期間を差し引くことにより余寿命を知ることができる。
【0015】
累積損傷則を利用して疲労センサの測定結果に基づいて被検体の損傷度を推定するためには、疲労センサのS−N曲線が被検体のS−N曲線と同じ傾きを持つ必要がある。
本発明の疲労センサは、疲労検出部の厚さとスリット先端の曲率によりS−N曲線を調整することができるので、測定対象とする部材のS−N曲線と同じ傾きを持つようにして、被検体の寿命や余寿命を求められるようにすることができる。
【0016】
本発明の疲労損傷度推定方法は、本発明の疲労センサを評価対象部材に貼付して、所定期間経過後に疲労検出部に生じる亀裂の長さを測定し、この亀裂進展長に基づいて、評価対象部位における疲労損傷度や寿命を推定することを特徴とする。
疲労センサに作用する繰返し応力が一定であれば、疲労検出部に亀裂が発生した後の亀裂進展長は、繰返し回数に比例する。また、亀裂進展速度は繰返し応力が大きいほど早くなる。
【0017】
部材が破断するときの繰返し応力と繰返し回数を対数表示したS−N線図上に、疲労センサの亀裂がある長さに到達する時期をプロットすると、破断時期に基づくS−N曲線に対して、上側が下側より離れて傾斜が緩くなったS−N曲線が得られる。繰返し応力が小さいときは亀裂進展速度が小さいが、S−N曲線が右下がりになっていて目盛り幅に対する繰返し回数が大きいため、下側で破断S−N曲線に近接することになるからである。
【0018】
一般に、ある亀裂長さに達する時期に関するS−N曲線は、亀裂長さが短い間ほど破断S−N曲線より傾きが小さい。そこで、測定対象部材の特性に合わせて観察する亀裂長さを選択すれば、部材のS−N曲線と疲労センサの所定の亀裂長さに関するS−N曲線がほぼ平行になるようにすることができる。そして、評価対象部材に貼付してこの選択した亀裂長さに達する期間を計測によって知れば、S−N曲線の関係を利用して同じ応力条件下での評価対象部材の寿命を推定することができる。また、供用期間を使って余寿命を知ることができる。
【0019】
このように、疲労センサを貼付して亀裂発生時期と亀裂進展速度を知り亀裂が所定の長さに達する期間を求めることにより、対象部材の寿命を推定することができる。
さらに、複数回に亘り亀裂進展長を測定することにより、亀裂進展速度と亀裂発生時期を求めて、対象部材の寿命を推定することができる。
【0020】
なお、亀裂進展部の所定の亀裂進展長位置に亀裂進展方向を横切るように導体を配置して、導体の両端に電極を設けて導通状態を監視しておき、導体が切断した時期に基づいて所定の亀裂進展長に達したことを検出する方法がある。
このような自動検出機構を利用することにより、所定の亀裂進展長に達する時期を確実に捉えることができる。
また、目視による監視を容易にするため、疲労検出部の亀裂の進展方向に適当な目盛りあるいは進展長の目安となる目印を印しておいてもよい。
【0021】
さらに、本発明の疲労センサの疲労限界が材質に伴う強度差や形状に応じた応力集中度により変化することを利用して、対象部位が疲労損傷を受ける可能性を推定することができる。本発明の疲労センサの疲労限界は、疲労検出部を形成する材質により異なることは勿論であるが、形状によっても調整することができ、たとえば、スリット部における応力集中度が高ければ低く、応力集中度が低ければ高くなる。疲労センサは疲労による亀裂を対象部材より加速して検出する。
構造物の母材部での疲労特性は応力範囲の疲労限界でおよそ決定され、評価部位で発生している応力が疲労限界より上か下かにより評価部位における疲労損傷発生の有無を判定することができる。
【0022】
そこで、材質や応力集中度を調整して評価対象の疲労限界と同じ疲労限界を持つように設定した疲労センサを対象に貼付して、所定期間後に疲労センサに亀裂や破断などの損傷が発生するか否かを観察することにより、対象部位に作用する応力が疲労限界以上であるかどうかを判定することができる。
すなわち、疲労限界以下の応力では疲労損傷を生じないことから、評価対象部材の疲労限界とほぼ同じ疲労限界を持つように調整した疲労センサに疲労損傷が生じれば、疲労限界以上の応力が印加されているので、評価対象部材はその供用条件下でいずれ疲労障害が生ずることが予想される。また、疲労センサが疲労損傷を生じない場合は、観察期間が短すぎない限り、評価対象部材は疲労損傷を起こさないと推定することができる。
この方法によれば、対象部位における応力状態を計測器を使わずに観測して疲労亀裂発生の有無を推定するので、簡便かつ安価に適切な保全管理を行うことができる。
【0023】
たとえば、繰返し荷重を受ける金属製構造物の応力集中部位に、疲労限界を当該部位の疲労限界近傍に調整した疲労センサを貼付し、疲労センサに破断や亀裂発生などの疲労損傷が観察されるかどうかで、対象部位に疲労亀裂が発生するか否かを推定してもよい。疲労センサは対象部位に作用する応力状態を受容するが、対象部位の応力が疲労限界より低ければ何の損傷も生じない。
【0024】
さらに、応力集中部位が湾曲していたりして疲労センサを直接貼付できない場合は、構造物の部材について解析により応力集中率を求めて、その応力集中率を勘案した疲労限界を有する疲労センサを準備し、この疲労センサを公称応力を示す平滑部に貼付して観察することにより、測定目的である応力集中部位における応力がその疲労限界より大きいか小さいかを判定することができる。
応力集中部では平滑部の応力に対して応力集中度倍の応力を生じるから、疲労センサが平滑部において受ける応力が応力集中部位における疲労限界を応力集中度で割った値を超えれば、対象部位は疲労損傷を発生することになる。したがって、疲労センサの疲労限界は応力集中部位における疲労限界を部材の応力集中度で割った値にするのである。
【0025】
なお、疲労センサを応力集中部と平滑部の両方に貼付して観測することができれば、さらに精度の高い推定が可能になる。この場合、疲労センサの疲労限界は、応力集中部に貼付するものが応力集中部における疲労限界値、平坦部に貼付するものが応力集中部における疲労限界値を応力集中度で割った値とする。
いずれかの疲労センサで疲労損傷が観測されれば、対象部位はやがて疲労損傷を現わすことが予測される。
【0026】
また、応力集中部に直接疲労センサを貼付できない場合にも、複数のセンサを利用して信頼性を向上させることができる。評価しようとする応力集中部位の近傍で、応力集中部位からの距離に差がある点に疲労センサを貼付する。疲労センサは、貼付位置における応力集中率を勘案した疲労限界を有するように調整されている。すなわち、評価部位における応力集中度をαm、貼付位置における応力集中度をαp、応力集中部における疲労限界をFm、疲労センサの疲労限界をFsとすると、
Fs=Fm×αp/αm
という関係を持たせることである。
すると、いずれかの疲労センサに亀裂や破断が観察されるならば、部材の応力集中部に疲労限界を超える応力が作用することになり、やがて疲労損傷が生ずると判定することができる。
この方法は複数のセンサで検知するので、見落としが減って信頼性が高まる。
なお、この場合、応力集中部から近い方のセンサが破断したのに遠い方のセンサが正常のままであるときには、応力集中度が予想より大きいことが伺われ、応力集中部の疲労損傷が早いことが予想できる。
【0027】
さらに、これら複数の疲労センサを1枚の基板上に一緒に形成した複数型疲労センサを利用するようにしても良い。複数型疲労センサは、それぞれ対象とする応力集中部について貼付される位置の応力集中度に応じた疲労限界を有するように形成された検出素子が隣接して並んだもので、評価したい応力集中部から予め決められた距離だけ離れた位置に応力勾配に沿って素子が並ぶように貼付して観察する。
複数型疲労センサは、複数の疲労センサが1枚の基板上に形成されているため、1回で全てのセンサを貼付できるので、センサ貼付位置を注意深く決定して貼付する作業が1回で済む上、貼付位置のずれが小さく精度の高い計測ができる。
【0028】
また、発明が解決しようとする課題を解決するため、本発明に係る第2の疲労センサは、亀裂発生期間が短くなるようにされた亀裂進展部と亀裂発生により直ぐに破断に至る破断検出部を直列に設けた破断片と、その破断片の両端部を固定する箔状の基板を備えて、被検体表面に貼付して破断時における亀裂進展度を検知する疲労センサにおいて、破断検出部が横断方向両側からスリットが設けられ、そのスリットの先端形状が亀裂発生期間に従った曲率を有することを特徴とする複合型疲労センサである。
【0029】
本発明の複合型疲労センサは、対象部材に貼付して繰返し応力の下で時間経過させると、亀裂進展部に鋭いスリットなどを設けて亀裂発生期間を短くなるようにしてあるため極めて初期の段階で亀裂が発生して経時にしたがって亀裂が進展する。一方、破断検出部は、先端形状が所定の曲率を持つスリットが設けられて適当な応力集中率を持つようにされているので、部材に対して所定割合で加速された破断時期が来ると破断するようにすることができる。亀裂進展部と破断検出部は直列に配置され、破断検出部が破断すると亀裂進展部に応力が伝達しないので、亀裂進展部における亀裂は疲労センサが破断したときのままそれ以上進展しない。
【0030】
同じ構造の亀裂進展部のみが組み込まれたもう一つの疲労センサ(亀裂進展型疲労センサ)を上記複合型疲労センサと並接して、亀裂進展長を観察することにより、疲労センサが破断した後の亀裂進展長が分かる。複合型疲労センサの亀裂進展部と亀裂進展型疲労センサの亀裂はいずれも計測期間の初めから進展し、また同じ進展速度であると推定することができる。
したがって、複合型疲労センサと亀裂進展型疲労センサを一緒に使えば、亀裂進展長の差から破断検出部の亀裂発生時期、亀裂進展長から亀裂進展速度を得るので、1度の計測で亀裂発生時期と亀裂進展速度の両方の情報を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明について実施例に基づき図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の1実施例に係る疲労センサの斜視図、図2は側面図、図3は平面図を表す。また、図4は本実施例の別態様に係る疲労センサの側面図である。
本実施例の疲労センサは、中央部を薄く形成した破断片1を基板2の上に固定したもので、破断片1の中央部が破断片を横断する方向に凹部をもって薄く形成された疲労検出部3を構成し、破断片1の両端の固着部4で基板2に固着されている。
【0032】
本発明の疲労センサは、疲労検出部3にスリット5を備え、このスリット5の最奥部6の形状により疲労特性を調整するようにしたことを特徴とする。
なお、図4は、図1,2,3に示した疲労センサと異なり、破断片1の基板2に向かい合う面に疲労検出部3の凹部を形成した疲労センサを示す側面図である。図4に示した疲労センサも図1,2,3に示したものと全く同じ機能を有することはいうまでもない。
【0033】
基板2は、たとえばインバーなど熱膨張率の小さい金属からなる、厚さがたとえば0.05mm程度の薄い箔で構成される。また、破断片1はたとえば0.1mm程度の厚さを有し、純ニッケルなどメッキやエッチングによる形成が容易な金属で構成することが好ましい。なお、測定対象となる部材と同じ材料で構成しても良い。
本実施例の疲労センサは、対象部材の表面に貼付して所定期間経過した後に亀裂の発生状況を観察することにより、その部位に印加される繰返し応力を推定するために使用される。
【0034】
繰返し応力を受ける部材表面に疲労センサを貼付すると、部材に生じる歪みを薄い箔状基板2および基板に固定された固着部4を介して破断片1に伝達する。破断片1の疲労検出部3はたとえば厚さ0.02mmなど両脇の部分より薄く形成されているため応力が強化され、さらにスリット5の最奥部6に有する曲率に従ってスリット先端部に応力集中が生じる。
【0035】
疲労センサにおいて、疲労検出部3に亀裂が生じるまでの亀裂発生期間および亀裂が進展して破断するまでの破断期間は、疲労検出部の材料、形状、応力状態、環境などにより影響を受ける。疲労センサの応力特性は、特に、スリット5とその最奥部6における曲率の存在により生じる応力集中によって支配される。
すなわち、図5に示すように横断方向にスリット5がある破断片1に長手方向の力Pが働く場合、応力集中率αは破断片1の幅wに対するスリット5の深さtの割合とスリットの深さtに対する最奥部曲率半径ρの割合の関数となる。
【0036】
したがって、たとえば最奥部6における曲率半径ρを選択することにより、容易に応力集中率を調整することができる。なお、疲労検出部3の厚さや幅は、破断片1に印加する応力を疲労検出部3に集中させる度合いに影響することはいうまでもない。また、疲労センサの疲労限界も応力集中度に影響を受け、たとえば、他の条件が変わらなければ、スリット最奥部の曲率半径ρが小さく応力集中が大きいときには小さな歪みで容易に亀裂が生じて疲労限界も小さく、応力集中度が低いときには疲労限界も高くなる。
【0037】
図6は、繰返し応力により亀裂が発生し進展して破断に至る期間を応力振幅と繰返し数の対数に対してプロットして表したS−N曲線を概念的に示した図面である。曲率半径ρが小さくなるにつれて応力集中度が大きくなるので、より小さな応力振幅で破断が進展し破断期間が短くなりS−N曲線はより左に寄る。またS−N曲線の傾斜も大きくなる。
また、S−N曲線右端部の水平線で示される疲労限界も調整により変化し、一般にはS−N曲線の傾きが大きい方が低くなる。
【0038】
さらに、亀裂発生後の亀裂進展長aは応力振幅Δσが同じであれば繰返し回数Nに比例する。図7に示すように、横断方向にスリット5のある破断片1に長手方向の力Pが働くとして、ある応力振幅Δσで繰返し応力Pを与えると応力振幅により決まる亀裂発生時期Tcに達するとスリットの最奥部に亀裂aが生じる。亀裂aはその後繰返し応力を受けて図中a1,a2,a3と伸長し、やがて破断片を横断する長さawまで達すると破断する。
図8は、応力振幅をパラメータとして亀裂の進展長を模式的に示したグラフである。亀裂の進展期間におけるグラフの傾きda/dN(またはda/dt)は一定になる。なお、発生期間Tcは実時間ではなく、繰返し回数Nに基づいて決まる期間である。
【0039】
図9は、異なる応力振幅Δσについて、所定の亀裂長aiに達するまでの繰返し回数NをS−N線図上に表したものである。応力振幅が変わらなければ亀裂が同じ長さだけ進展する期間は等しい。S−N曲線では繰返し回数を対数表示することから、同じ応力振幅線上において、亀裂が同じ長さだけ進展する期間を表すと亀裂が進展するほどlogNで表わした間隔が短くなる。また、応力振幅が小さいほど所定の亀裂長に達する繰返し数は大きくなるが対数表示では繰返し数が大きいほど繰返し数の間隔が小さく表示される。したがって、一定の亀裂長a1,a2,a3に到達するまでの期間をS−N線図上にプロットすると、図9のように破断awを表すS−N曲線に対して傾きの異なる曲線が描ける。
【0040】
本実施例の疲労センサは、橋梁などの構造物、機械設備、船舶、航空機などの輸送装置など、供用されることにより繰返し応力を受ける装置や機械において、疲労損傷度を評価したい部位に貼付して利用するものである。
疲労センサを貼付した装置等を供用に付すると、疲労センサはその評価対象部位における応力を受けて疲労する。疲労センサの感度が高いため、評価対象部位が疲労の影響を現わすよりずっと短い期間で亀裂や破断など疲労損傷が生起する。
【0041】
疲労センサの第1の使用方法は、対象部材に将来疲労損傷が発生するか否かの判定である。疲労センサと評価対象のS−N曲線を概念的に表わした図10によって、疲労センサの選択方法を説明する。なお、図11から図14および図16は疲労センサの貼付位置を例示する図面、図15は疲労センサを複数並べた複数型疲労センサの平面図である。
この方法では、評価対象とする部材の疲労限界とほぼ同じ疲労限界を持つ疲労センサを選択する。疲労センサの疲労限界は、疲労検出部におけるスリット先端形状、疲労検出部の厚さ、破断片の材質などにより、応力集中度、強度などを調整することにより色々な水準にすることができる。
【0042】
図10には、疲労センサの応力集中度をα1,α2,α3に調整したときのS−N曲線と評価対象のS−N曲線が描かれている。評価対象部材の疲労限界応力振幅が分かれば、これとほぼ同じ、あるいは構造物等の安全を重視する場合はこれより小さい疲労限界を有する疲労センサを選択する。
図10に示された例では、評価対象と同じ疲労限界を有する応力集中度α2の疲労センサを選択すればよい。
なお、評価対象部材のS−N曲線の傾きに合うような亀裂長を算定して目標亀裂進展長aiとすることによって、疲労センサのS−N曲線が評価対象部材に適合する傾きを持つようにすることも可能である。
【0043】
選択した疲労センサをその部材の部分に貼付し、疲労センサに亀裂や破断など観察可能な疲労損傷が現れる程度の適当な期間だけ構造物等を供用した後に、疲労センサを観察する。このとき、疲労センサに何らかの疲労損傷が生じた場合は、評価対象部位に作用する繰返し応力は対象部材の疲労限界を超えているので、評価対象部位はいずれ疲労損傷を生じることになると推定できる。疲労センサに疲労損傷が生じない場合には、応力に対して試験期間が短じか過ぎた可能性はあるが、評価対象部位に作用する繰返し応力は疲労限界より低く、疲労損傷が生じない可能性が高いと判定できる。
【0044】
この方法は、対象部位における応力状態を計測器を使わずに簡単な疲労センサを貼付して観測することで疲労亀裂発生の有無を推定するもので、簡便かつ安価に適切な保全管理を行うことができる。
図11は、本方法の最も基本的な態様を表わす説明図である。
繰返し荷重を受ける金属製構造物41の応力集中部位42の表面位置43に、疲労限界を当該部位の疲労限界とほぼ同じ値に調整した疲労センサを貼付し、適当な期間経過したところで疲労センサを観察する。その結果、疲労センサに破断や亀裂発生などの疲労損傷が存在すれば、対象部位に生ずる応力はその疲労限界を超えているから、やがて対象部位に亀裂や破断といった疲労損傷が発生するはずである。
なお、疲労センサは極めて高感度に設計されているから、疲労限界以上の荷重が印加されている状態では適当な期間が経過すればほぼ確実に疲労損傷が観察できる。したがって、疲労センサに疲労損傷が見られない場合は、対象部位の応力はその疲労限界より低く将来に亘って疲労損傷が発生しないと判断してもよい。
【0045】
図12は、応力集中部位42が湾曲していたりして疲労センサを直接貼付できないときなどで、平滑部の適当な部位44に疲労センサを貼付する場合について説明する図面である。図12(a)は疲労センサを貼付する部分の斜視図、図12(b)は対象部位の応力解析の結果を示す線図である。
図12(a)に示した構造物の部材41について有限要素法などを用いて解析すると、たとえば図12(b)のように、応力集中の状態を定量的に求めることができる。ここから平滑部45における公称応力に対する推定対象部位42の応力集中率αと対象部位42の疲労限界値Fmを求める。そして、疲労限界が対象部位42の疲労限界Fmを応力集中率αで割った値Fsになるように設計された疲労センサを準備し、この疲労センサを平滑部の適当な部位44に貼付して構造体を供用状態において、適当な期間経過後に疲労センサに現れた疲労損傷を観察する。この結果、疲労損傷が発生していれば、測定目的である応力集中部位43における応力がその疲労限界Fmより大きいと推定できるので、対象の応力集中部にはやがて何らかの疲労損傷が現れると予測ができる。
【0046】
図13は、疲労センサを応力集中部43と平滑部44の両方に貼付して観測する場合を示す斜視図である。応力集中部に疲労センサを貼付できる場合にも、図12で説明した方法を併用すれば、さらに精度の高い推定が可能になる。
この場合、疲労センサの疲労限界は、応力集中部43に貼付するものが応力集中部における疲労限界値、平坦部44に貼付するものが応力集中部42における疲労限界値を応力集中度で割った値とする。
いずれかの疲労センサで疲労損傷が観測されれば、対象部位はやがて疲労損傷を現わすことが予測される。
【0047】
図14は、部材41において応力集中部42に疲労センサを貼付しなくても、応力値に勾配がある2以上の位置46,47に疲労センサを貼付することで、応力集中部42における疲労損傷発生の有無を推定することができることを説明する図面である。
評価しようとする応力集中部位42の近傍で、応力集中部位42からの距離に差がある点46,47に疲労センサを貼付する。疲労センサは、貼付位置46,47における応力集中率を勘案した疲労限界Fsを有するように調整する。すなわち、評価部位における応力集中度をαm、貼付位置における応力集中度をαp、応力集中部における疲労限界をFm、疲労センサの疲労限界をFsとして、
Fs=Fm×αp/αm
という関係を持たせる。
【0048】
疲労限界Fsを上式にしたがって調整した疲労センサを貼付し、適当な期間経過した後に観察して、いずれかの疲労センサに亀裂や破断があれば、応力集中の具合に従って部材の応力集中部42に疲労限界Fmを超える応力が作用しているので、やがて疲労損傷が生ずることになる。また、疲労センサの一方が亀裂等を起こしたのに他方は正常のままであるときには、予測した応力集中度が実際のものと異なる可能性を示すことになる。
このように、応力集中部に直接疲労センサを貼付しないでも、複数のセンサを利用して推定の信頼性を向上させることができる。この方法は複数のセンサで検知するので、見落としが減って信頼性が高まる。
【0049】
図15は、応力集中部の近傍に貼付して応力集中部における疲労損傷の有無を予測するために使用できる複数型疲労センサの平面図、図16はその使用状態を示す斜視図である。
図15に示した複数型疲労センサ15は、図14により説明した複数の疲労センサを1枚の基板上に一緒に形成したものに当る。複数型疲労センサ15は、それぞれ対象とする応力集中部について貼付される位置の応力集中度に応じた疲労限界を有するように形成された検出素子16,17,18が隣接して並んだもので、部材41における評価対象応力集中部42から予め決められた距離だけ離れた位置48に応力勾配に沿って素子が並ぶように貼付して観察する。
【0050】
いずれの検出素子16,17,18が疲労損傷を表わしても、応力集中部42に疲労限界以上の応力が生じていることになるので、部材41はいずれ損傷を受けることになると予想できる。
複数型疲労センサ15は、複数の疲労センサ16,17,18が1枚の基板19上に形成されているため、1回で全てのセンサを貼付できるので、センサ貼付位置を注意深く決定して貼付する作業が1回で済む上、貼付位置のずれが小さく精度の高い計測ができる。なお、複数型疲労センサ15に搭載する疲労センサの数は任意であって3個に限らないことはいうまでもない。
【0051】
疲労センサの第2の使用方法は、対象物に貼付した疲労センサの破断時期を知ることにより、その環境下における対象物の寿命及び余寿命を推定するものである。
図17は、破断時期を表わす疲労センサのS−N曲線と評価対象のS−N曲線を表わした概念図である。疲労センサのS−N曲線は応力集中度により傾きが異なる。そこで、評価対象のS−N曲線の傾きと同じ傾きを有する応力集中度αiのときの疲労センサを選択する。
【0052】
選択した疲労センサを評価対象部位に貼付して、疲労センサが破断する期間Tsを測定する。疲労センサと評価対象部材のS−N曲線は対数対数目盛り上で平行になっているから、評価対象部材の破断時期Tmは、応力振幅の値にかかわらず、定数k倍になる。すなわち、
Tm=kTs
となり、疲労センサの破断期間Tsに基づいて、同じ振幅の応力が繰返し作用し続けた場合における評価対象の寿命Tmを推定することができる。
【0053】
また、評価対象物の疲労寿命Tmから診断時までの供用期間Thを差し引けば、今後寿命が尽きるまでの期間すなわち余寿命Trを得ることができる。
すなわち、
Tr=Tm−Th
である。
【0054】
なお、疲労メカニズムからは期間Tの代りに繰返し応力の繰返し回数Nを用いるべきであるが、繰返し応力の作用状況が変わらなければ繰返し回数Nは時間Tに対応するので、疲労センサの破断期間Tsは破断に至るまでの繰返し回数Nsの代替関数、対象部材の寿命Tmは破断までの繰返し回数Nmの代替関数として使っている。
【0055】
実際の供用環境下では同じ振幅の応力だけが作用することはないが、累積損傷則により各応力振幅におけるダメージの累積がトータルの損傷度になるので、実際に疲労センサが破断したとすれば、それまでの期間Tsに受けた種々の応力作用が破断に至る損傷を受けたことになる。
そして、その状況が継続するものならば、対象部材の寿命がTm=kTsで求められることに変わりはない。
【0056】
対象部材は供用を開始した当初から繰返し応力の作用を受けているのに対して、疲労センサは試験期間のみ繰返し応力を受ける。疲労センサの結果から求めた対象部材の寿命は試験期間における応力状態を供用期間全体に敷衍することにより推定したものであるから、供用された当初の期間における応力状態が分かっているならばこれに従って補正することが好ましい。また、その後の供用期間についても応力状態が予測できるならば同様である。
【0057】
なお、通常は疲労センサの監視は適度な時間間隔で定期的に行うことになるが、より正確に寿命を推定するためには破断の瞬間を検出することが要求される。このため、破断片に弱い電流を流しておいて、電気的に断線を検出して破断時刻を正確に知るようにしてもよい。破断片が母材と電気的に絶縁されていないときは、破断片の表面に絶縁された電気良導体または金属ワイヤを張って利用しても良い。
【0058】
本実施例の第3の使用方法は、亀裂進展長を利用した推定方法であって、対象物に貼付した疲労センサに発生した亀裂が所定の亀裂進展長に達するときの時期を知ることにより、その環境下における対象物の寿命及び余寿命を推定するものである。
図18は、スリット先端曲率を変化させるなどして応力集中係数を調整した異なる疲労センサS1,S2において、ある長さai,biの亀裂進展長に到達する期間を表わす疲労センサのS−N曲線を評価対象のS−N曲線と一緒に表わした概念図である。
【0059】
疲労センサS1,S2のS−N曲線は応力集中度が異なるため傾きが異なる。さらに、所定の亀裂長a1,a2,a3,b1,b2,b3に到達する期間をプロットするとそれぞれ破断に応ずるS−N曲線に沿って幾分ずつ傾きの異なるS−N曲線が得られる。
そこで、評価対象のS−N曲線の傾きと同じ傾きを有するS−N曲線を持つような疲労センサSiの亀裂進展長aiまたはbi(以下、aiで代表する。)を選択する。図の例では、疲労センサS1を使って亀裂進展長a1になるまでの期間を検知する場合のS−N曲線が評価対象のS−N曲線と同じ傾きを持つ。
【0060】
選択した疲労センサSiを評価対象部位に貼付して、疲労センサに発生した亀裂がが目標の亀裂進展長aiに到達する期間Tiを測定する。
疲労センサで亀裂長aiにかかるS−N曲線と評価対象部材のS−N曲線は対数対数目盛り上で平行になっているから、評価対象部材の破断時期Tmは、応力振幅の値にかかわらず、両S−N曲線の距離に従って決まる倍数kiを使って、
Tm=kiTi
として求められる。
【0061】
また、評価対象物の疲労寿命Tmから評価試験までの供用期間Thを差し引いて(Tr=Tm−Th)、余寿命Trを得ることができる。
このように、疲労センサSiの亀裂進展長aiに到達する期間Tiが求まれば、同じ振幅の応力が繰返し作用し続けた場合における評価対象の寿命Tm及び余寿命Trを推定することができる。
【0062】
しかし、疲労センサの亀裂長aが目標とする亀裂長aiに到達した期間Tiを直接に検知することは難しい。
疲労センサの亀裂進展特性は、図8により説明したように、亀裂発生期間Tcが経過して亀裂が生じた後の亀裂進展長は繰返し応力に変化がない限り繰返し回数に比例する。すなわち亀裂進展速度da/dtは変わらない。
すなわち、
Ti=Tc+ai/(da/dt)
と表現できるから、亀裂発生期間Tcと亀裂進展速度da/dtを求めることにより、亀裂長aiに到達する期間Tiを算定することができる。
【0063】
そこで、図19に説明するように、対象に貼着した疲労センサについて、亀裂が生じた後に適当な期間をおいて少なくとも2回亀裂進展長aiを測定する。この2点の測定値から、亀裂進展速度da/dtを算出し、外挿して亀裂発生期間Tcを算出することができる。
【0064】
また、亀裂発生期間Tcを介しないで、亀裂発生後に適当な間隔を置いた少なくとも2回の検出時(期間T1,T2)における亀裂進展長a1,a2を使い、それらの内挿点もしくは外挿点として目標の亀裂長aiに到達する期間Tiを得ることもできる。
これらの亀裂進展長ai到達期間Tiの算定方法を用いれば、容易に、評価対象部材の寿命及び余寿命を推定することができる。
【0065】
なお、図20に示すように、亀裂進展長を測定するときに基準となる目印を亀裂が進展していく位置の側の直近に印刷しておくこともできる。これらの目印は、試験を継続しなければいけない疲労センサを現物に貼付したまま、亀裂長の測定をするときに助けとなり、正確な測定結果を得るために役立つ。
【0066】
また、図21の斜視図に示すように、疲労センサの疲労検出部の箔上に薄膜状の導線を形成して、亀裂が所定の長さになった時を自動的に検出して、正確に到達期間Tiを求めるようにすることができる。
基板2に両端で接合された破断片1の疲労検出部3の表面に、絶縁体13を堆積させた上に細い薄膜導体11を形成し、その両端部に電極部12を形成する。電極部12には図外の電流検出装置に接続する導線14が接続される。
薄膜導体11は、疲労検出部3に設けられたスリットの最奥部6から距離aiの位置で、破断片1を横断する方向に進展する亀裂aの進展方向を横断するように形成される。
【0067】
このようにして構成された電気的検知機構を持てば、繰返し応力により亀裂が発生し、進展して目標亀裂長aiに達すると、薄膜導体11が切断されて自動的に電気信号を発生する。したがって、監視する人を準備しなくても正確な目標亀裂進展長到達期間Tiを得ることができる。
【0068】
さらに、図22と図23は、1度の測定で亀裂発生期間Tcと亀裂進展速度da/dtを一緒に求めるために使用する2個の疲労センサそれぞれの平面図(a)と立面図(b)である。
図22は亀裂進展部と破断部を直列に結合した複合型疲労センサを示し、図23は図22に示した亀裂進展部のみを備える亀裂進展型疲労センサを示す。
【0069】
図22の複合型疲労センサ20は、基板22の上に接合部27を介して破断片21の両端が接合されて形成される。破断片21には、片を横断する方向に薄肉化された部分が2カ所直列にあって、一方が亀裂進展部23を形成し、他方が破断部24を形成する。亀裂進展部23は幅方向中央に鋭い突端を持ったスリット26が形成され、破断片21の両端間にわずかな歪みが発生してもスリット26から側端に向かって亀裂を生起する。破断部24には側端から合同形のU字型スリット25が形成されている。破断部24においては、応力集中の程度がスリット最奥部の曲率で規制されて、所定のS−N曲線を持つように調整されている。
【0070】
また、図23の亀裂進展型疲労センサ30は、基板32の上に破断片31が両端の接合部で接合されており、破断片31には横断方向に薄肉部が1カ所設けられ亀裂進展部33になっている。亀裂進展部33には、図22の複合型疲労センサと同じ、わずかな歪みで直ちに亀裂が発生し進展するためのスリット34が形成されている。
【0071】
複合型疲労センサ20と亀裂進展型疲労センサ30を評価対象部位に近接して貼付する。供用状態で放置しておくと、両方の疲労センサ20,30の亀裂進展部23、33における亀裂は経時に従って進展する。同じ特性を有する場合は、亀裂は同じペースで成長する。さらに期間が経過すると、複合型疲労センサ20の破断部24にも亀裂が入って成長し、破断期間に達するとスリット25に挟まれた狭隘部を亀裂が横切って破断片21が破断する。すると、亀裂進展部23にも応力が伝達しなくなるので、亀裂進展部23に発生した亀裂はそれ以上進展しないで固定される。破断部24は亀裂が発生すると直ちに切断されるので、亀裂発生期間Tcと比較して亀裂発生から破断までの期間は殆ど無視できる。
一方、亀裂進展型疲労センサ30に発生した亀裂は経時に従って進展する。
【0072】
そこで、複合型疲労センサ20が破断した後であって、試験開始後適当な期間Ttが経過したところで、2つの疲労センサにおける亀裂進展長a,bを測定する。
すると、Δ=b−aが破断部24に亀裂が発生した後の亀裂進展長であり、破断部24に亀裂が発生した期間Tcは試験期間Ttをbとaで比例配分した
Tc=Tt×a/b
で求められる。
また、亀裂進展部23,33における亀裂進展速度da/dtは、
da/dt=Δ/Tt
となる。
【0073】
複合型疲労センサ20の亀裂進展部23と亀裂進展型疲労センサ30の亀裂進展部33の亀裂進展特性は互いに同一であることが好ましいが、それぞれの特性が既知で解析が可能であれば足りる。複合型疲労センサ20と亀裂進展型疲労センサ30で亀裂進展特性が異なる場合は、特性差を考慮して補正すればよい。
このように、本実施例の複合型疲労センサと亀裂進展型疲労センサを組み合わせて使用することにより、1回の測定で亀裂発生期間と亀裂進展速度を知ることができる。
【0074】
また、1度の測定により評価対象部材の寿命を求める方法として、2つの亀裂進展型疲労センサを一緒に使う方法がある。
この方法によるときは、S−N曲線の傾きの異なる2つの疲労センサS1,S2を一緒に同じ評価対象部位に貼付して、一定の計測期間Tt後に両者の亀裂長さai,biを測定する。そして、図24に示すように、それぞれの疲労センサS1,S2のそれぞれの亀裂長さai,biに対応するS−N曲線を描く。このままでは、評価対象部位にどのような応力が働いているかが分からないため、計測結果がS−N曲線上のどこに対応するか判明しない。
【0075】
しかし、2つの疲労センサは同じ応力作用を受けてきたのであるから、実際の応力作用は2つのS−N曲線を共に満たす必要があり、 2つのグラフが交差した位置における応力振幅ΔσRで代表されることになる。したがって、S−N曲線において、代表応力振幅ΔσRに対応する繰返し数NRを代表負荷回数と考えることが妥当であり、計測期間Ttの間にこの負荷回数NRの繰返しを付与したことになる。
【0076】
そこで、評価対象に係るS−N曲線における代表応力振幅ΔσRに対応する繰返し回数NLが代表寿命回数になり、計測期間中の負荷状態が恒常的なものとすれば、評価対象の寿命Tmは、
Tm=Tt×NL/NR
で求められることになる。
この方法も、ただ1回の測定行為により目的の評価が可能なので、極めて効率的な寿命推定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の1実施例に係る疲労センサの斜視図である。
【図2】本実施例に係る疲労センサの側面図である。
【図3】本実施例に係る疲労センサの平面図である。
【図4】本実施例の別態様に係る疲労センサの側面図である。
【図5】本実施例の疲労センサにおいて疲労検出部の作用を説明するための図面である。
【図6】本実施例の疲労センサに関するS−N曲線を概念的に示した図面である。
【図7】本実施例の疲労センサにおいて亀裂進展の機構を説明するための図面である。
【図8】本実施例の疲労センサにおいて亀裂進展長の変化を模式的に示したグラフである。
【図9】本実施例において所定の亀裂長aiに達するまでの繰返し回数Nを表わしたS−N線図である。
【図10】本実施例に係る疲労センサと評価対象についてS−N曲線を概念的に表わしたS−N線図である。
【図11】本実施例の疲労損傷発生予測方法における疲労センサの貼付位置の例を説明する斜視図である。
【図12】本実施例の疲労損傷発生予測方法における疲労センサの貼付位置の別例を説明する斜視図と部材における応力分布図である。
【図13】本実施例の疲労損傷発生予測方法における疲労センサの貼付位置のさらに別例を説明する斜視図である。
【図14】本実施例の疲労損傷発生予測方法における疲労センサの貼付位置の別例と推定方法を説明する斜視図である。
【図15】本実施例の複数型疲労センサの平面図である。
【図16】本実施例の複数型疲労センサの使用例を示す斜視図である。
【図17】本実施例に係る疲労センサの破断時期を表わすS−N曲線と評価対象のS−N曲線を表わした概念的なS−N線図である。
【図18】本実施例に係る疲労センサについて所定の亀裂進展長に到達する期間を表わすS−N曲線を評価対象のS−N曲線と一緒に表わした概念的なS−N線図である。
【図19】本実施例の疲労センサを使った亀裂進展速度と亀裂発生期間を算出する方法を説明する線図である。
【図20】本実施例の疲労センサにおいて疲労検出部の実施態様例を説明する図面である。
【図21】本実施例の疲労センサの別態様を示した斜視図である。
【図22】本実施例の別実施態様として複合型疲労センサを示す図面である。
【図23】図16の複合型疲労センサと一緒に使用する亀裂進展型疲労センサを示す図面である。
【図24】本実施例の疲労センサを使用して評価対象の寿命推定を行う方法を説明するS−N線図である。
【符号の説明】
【0078】
1 破断片
2 基板
3 疲労検出部
4 固着部
5 スリット
6 最奥部
10 疲労センサ
11 薄膜導体
12 電極
13 絶縁体
14 導線
15 複数型疲労センサ
16,17,18 破断片
19 基板
20 複合型疲労センサ
21 破断部
22 基板
23 亀裂進展部
24 破断部
25 スリット
26 スリット
27 接合部
30 亀裂進展型疲労センサ
31 破断部
32 基板
33 亀裂進展部
34 スリット
41 推定対象部材
42 推定対象部位(応力集中部)
43,44,46,47 疲労センサ貼付位置
45 公称応力部(平滑部)
48 複数型疲労センサ貼付位置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部を横断して端部より薄く形成された疲労検出部を有し該疲労検出部に先端が亀裂の始点となるスリットを設けた破断片と、該破断片の両端部を固定する箔状の基板を備えて、被検体表面に貼付して破断あるいは亀裂進展度を検知する疲労センサにおいて、前記疲労検出部が亀裂進展度合いに従って選択された厚さを持ち、前記スリットの先端形状が亀裂発生期間に従って選択された曲率を有することを特徴とする疲労センサ。
【請求項2】
前記疲労検出部の所定の亀裂進展長位置に亀裂進展方向を横切るように導体を配置して、該導体の両端に電極を設けたことを特徴とする請求項1記載の疲労センサ。
【請求項3】
前記スリットにおける応力集中度を調整して評価対象部材の疲労限界と同等の疲労限界を持つようにしたことを特徴とする請求項1記載の疲労センサ。
【請求項4】
前記スリットにおける応力集中度を調整して評価対象部材の疲労限界に対して該疲労センサを貼付する部位と該評価対象部材の応力集中度の差に伴う補正を施した値と同等の疲労限界を持つようにしたことを特徴とする請求項1記載の疲労センサ。
【請求項5】
請求項4記載の疲労センサにおける前記破断片を1枚の基板上に直列に複数並べたことを特徴とする複数型疲労センサ。
【請求項6】
請求項1または2記載の疲労センサを評価対象部材に貼付して、所定期間経過後に前記疲労検出部に生じる亀裂の長さに基づいて、該評価対象部位における疲労損傷度を推定することを特徴とする疲労損傷度推定方法。
【請求項7】
請求項3から5のいずれかに記載の疲労センサを該評価対象部材に貼付して、所定期間経過後に前記疲労検出部に亀裂が生じる場合に、該評価対象部材が疲労損傷を生じると推定することを特徴とする疲労損傷度推定方法。
【請求項8】
亀裂発生期間が短くなるようにされた亀裂進展部と亀裂発生により直ぐに破断に至る破断検出部を直列に設けた破断片と、該破断片の両端部を固定する箔状の基板を備えて、被検体表面に貼付して破断時における亀裂進展度を検知する疲労センサにおいて、前記破断検出部が横断方向両側からスリットが設けられ、該スリットの先端形状が亀裂発生期間に従った曲率を有することを特徴とする複合型疲労センサ。
【請求項9】
請求項8記載の複合型疲労センサにおける前記亀裂進展部と同じ亀裂進展特性を有する亀裂進展部を備えた破断片の両端部を箔状の基板に固定した亀裂進展型疲労センサを、請求項8記載の複合型疲労センサと並べて貼付して、該複合型疲労センサから破断時における亀裂進展度を読み取り、該複合型疲労センサから読み取った該破断時における亀裂進展度と前記亀裂進展型疲労センサの亀裂長測定値との割合に基づいて亀裂発生期間と亀裂進展速度を算出することを特徴とする疲労損傷度推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2007−309801(P2007−309801A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139601(P2006−139601)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】