説明

疼痛の処置のためのエピナスチンの使用

【課題】 疼痛、特に片頭痛、ビングーホートン症候群、緊張頭痛、筋肉痛、炎症痛または神経痛の処置における医薬組成物を提供する。
【解決手段】 エナンチオマー、エナンチオマーの混合物またはラセミ体の形のエピナスチンと、他の鎮痛薬物としてイブプロフェンとの組合せを含むことを特徴とする疼痛の処置のための医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疼痛特に慢性もしくは炎症誘発疼痛とりわけ片頭痛の処置および予防のためのエピナスチンの新規な使用に関する。
【0002】
エピナスチン、すなわち3−アミノ−9,13b−ジヒドロ−1H−ジベンズ〔c,f〕イミダゾ〔5,1−a〕アゼピン塩酸塩は、Fugner et al.Arzneimittelforschung 38:1446−1453(1988)に記載されている。この活性成分は、ラセミ体の形または純粋なエナンチオマーの形または両方のエナンチオマーの種々の割合の混合物として使用することができる。治療的にはエピナスチンは塩酸塩として使用される。しかしながら、本発明は塩酸塩に限らず、薬理学的に許容し得る任意の酸付加塩および遊離塩基にも関する。
【0003】
喘息の処置のためエピナスチンおよびその塩の使用は公知である。ヨーロッパ特許EP−B−0035749は、この物質はアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎およびアレルギー性気管支炎のようなアレルギー病の治療にも適していることを開示する。
【0004】
頭痛は普通に発生する症状である。大ていの場合頭痛は短期間で、そしてアスピリン、パラセタモールまたはイブプロフェンのような弱い鎮痛剤によって容易にコントロールすることができる。そのような頭痛は煩わしいがしかし重大な健康障害へはつながらない。対照的に、片頭痛のような慢性の反復する頭痛は医師に相談しなければならないような重大な悪影響へ発展し得る。これらの重いタイプの頭痛は弱い鎮痛剤ではしばしば満足に治療することができない。
【0005】
他方、普遍的に受け入れられた頭痛の分類システムが存在せず、本発明の意味での慢性反復性疼痛とは、主として片頭痛およびビングーホートン症候群を指す。片頭痛自体いくつかの下位クラスを含んでいる。J.Olesen and R.B.Lipton,Neurology 44(1994):p6−p10を分類のために見よ。片頭痛および緊張頭痛は二つの異なる形であるが、何人かの科学者は、片頭痛はスペクトルの一方の側であり、緊張頭痛は他方の側である臨床的連続体と見ている。(K.L.Kumar and T.G.Cooney “Headaches” in “Medical Clinics of North America” Vol.79 No.2(1995)p.261−286)それ故、緊張頭痛を有する多数の患者は片頭痛の療法にも応答すると考えるのが妥当であるらしい。神経痛、筋肉痛、炎症痛(例えば日焼け後、変形性関節症またはスポーツ外傷後の)ような慢性疼痛に関連したいくつかの他の病気は、慢性反復性疼痛と共通の特長を持っている。(A.Dray,L.Urban and A.Dickenson,Trends in Pharmacological Science 15(1994):190−197)
【0006】
片頭痛のための現存する療法は、エルゴタミンのような麦角アルカロイドおよびスマトリプタンのような5HT1Dアゴニストの使用を含む。多数の患者がこれら薬物から利益を受けるが、決してすべての患者が応答する訳ではない。さらにめまいおよび吐き気のような多数の副作用がある。片頭痛の予防的管理のための薬物は、メチルセルジャイドおよびピゾチフェン、プロパノロールのようなベーターブロッカー、およびフルナリジンのようなカルシウムチャンネルブロッカーを含む。これら薬物の慢性投与は患者の生活の質を傷つける副作用を持つことができ、そしてこれら薬物は片頭痛アタックの頻度を減らすだけで通常根治しない。H.C.Diener,Eur,Neurol.34(Suppl 2)(1994):18−25を見よ。
【0007】
従って、有効であるばかりでなく有意な副作用のない片頭痛の処置のための薬物を提供する必要性はなお残っている。また、小児および肝および腎機能が低下したまたは心脈管病を有する患者のような特別の患者グループに対して高度に安全な薬物を提供する必要がある。
【0008】
驚くべきことに、エピナスチンが例外的な程度でこれらの要件を満たすことが今や判明した。このことは以下の研究結果によって示される。
【0009】
実験室動物において、知覚神経端から物質Pのような神経ペプチドを放出させる、三叉神経節の電気刺激により硬膜中の炎症を誘発することが可能である。血漿溢出はエバンスブルーのようなマーカーによってモニターすることができる。この動物モデルは、片頭痛に有用な薬物のためのテストに広く使用されている。驚くべきことに、エピナスチンはこのモデルにおいて例外的に良好な活性を示す。慢性炎症性疼痛に対しては、広く使用される動物モデルは、Randall and Sellitto(L.O.Randall,and J.J.Selitto,Arch.Int.Phamacodyn.111(1957):409−419)により原理が最初に記載されたモデルである。イースト細胞の注射によってラットの足に炎症が誘発され、そして炎症誘発痛覚過敏が測定される。エピナスチンは驚くほどこのモデルにおいて良い活性を示した。
【0010】
エピナスチンは抗ヒスタミン剤として知られている。リガンド(例えば薬物)と受容体の間の相互作用は親和定数(Ki)によって定量化することができる。親和定数の値が小さければ小さい程、薬物と受容体の間の結合が強い。標的組織(または血漿)中の薬物の期待される濃度より小さい又は同じ大きさのオーダーのKiを示す化合物に特別の注意が払われた。5HT7 受容体は5−ヒドロキシトリプタミン受容体の特別の下位タイプである。分類については“Trends Pharmacological Science 1994 Receptor & Ion Channel Nomenclature Supplement”を見よ。驚くことに、5HT7 受容体に対するエピナスチンの良好な結合が見られた。抗ヒスタミン剤は表1にリストされている。
【0011】
ここに記載した発明は、今や実施例により例証される。この記載から他の可能性も当業者には自明であろう。実施例は本発明を例証することのみを意図し、制限することを意図しないことを特に指摘する。
【実施例】
【0012】
エピナスチンの5HT7 受容体への結合の研究
CHO細胞に発現したラット5HT7 受容体への2.0nM〔3 H〕LSDの結合は、10mM MgCl2 および0.5mM EDTAを含有する50mMトリスHCl緩衝液、pH7.4中37℃において60分間測定された。反応は、0.1%ポリエチレンイミンで前処理したガラス繊維フィルター上の急速真空濾過によって停止された。結合研究は3nMと10μMの間エピナスチンの6ないし8濃度の不存在下と存在下において二重に行われた。各薬物濃度の存在下フィルターに捕捉された放射能を測定し、そして薬物とクローニングした5HT7 受容体の相互作用を確かめるために対照値と比較した。5−カルボキサミドトリプタミン(5−CT)の存在下非特異的結合が測定された。放射標識リガンドの置換のためのIC50はグラフ上の外挿法により決定され、そしてKi値は放射性リガンド占領についての補正後Cheng and Prusoff 式(Biochem,Pharmacol.22(1973):3099−3108を見よ)によって計算された。3実験が行われた。各実験において、エピナスチンは5HT7 受容体へ驚くほど良く結合することが判明した。測定したエピナスチンのための平均Ki値は33nMであり、(+)エナンチオマーの平均Kiは28nMであり、そして(−)エナンチオマーのそれは189nMであった。実施した3実験において見出されたエピナスチンおよびそのエナンチオマーのKiのための個々の値は、二つの比較抗ヒスタミン剤についてKi値と共に、表1に掲げられる。
【0013】
【表1】

【0014】
三叉神経節の電気刺激により誘発した硬膜内血溢出に対するエピナスチンの効果の研究
重量175−190gの雄性Wistarラットをネンブタール50mg/kg i.p.で麻酔し、薬物注入のため顕静脈にカニューレを入れた。動物は走触性フレームに入れた。前頂から横に3mmおよび後へ3.2mm対称にボア穴をあけ、硬膜から9.5mm下へ電極を入れた。テスト化合物エピナスチンまたは対照溶液を有する右三叉神経節の電気刺激(5min;20mA,5Hz,5ms持続)10分前に投与し、そしてエバンスブルー(30mg/kg i.v.)を血漿タンパク溢出のマーカーとして電気刺激5分前に与えた。刺激期間終了15分後、脈管内エバンスブルーを除去するため左心室を通って50ml食塩水で動物を潅流した。硬膜を除去し、水分を吸取り、そして秤量した。組織エバンスブルーを0.3mlホルムアミド中に50℃で24時間抽出した。染料濃度を620nm波長において分光光度計で測定し、標準曲線中に内挿し、組織重量mgあたりエバンスブルー含量ngとして表わした。
データ計算:
溢出は刺激した側のエバンスブルー含量を刺激しなかった側のエバンスブルー含量で割った商として表わされた。結果は平均値として表わされる。結果を表2に掲げる。
【0015】
【表2】


【0016】
表2は、片頭痛の動物モデルにおいて、エピナスチンによる処置は三叉神経節の電気刺激により誘発されたエバンスブルー溢出を有意に減らしたことを示す。
ラット足中のイースト誘発痛覚過敏に対するエピナスチンの効果の研究
RandallおよびSelittoの方法をミラノのBasileによる鎮痛針を使用して修飾した。
Chbb:THOM株の絶食ラット10匹のグループ(体重110−140g,雄5−雌5)に、エピナスチン(ラセミ混合物)0,0.3,1.0,3.0または10mg/kgを含有する、1%Natrosol 250HX,1ml/100gを経口投与し、1時間後ラットの右後足に体積0.1ml中のイースト細胞の懸濁液を足底下に注射した。イースト懸濁液注射3時間後、痛みの徴候が生ずるまで腫れた足に対する圧力を増加することにより、痛み閾値を測定した。エピナスチンの異なる投与量投与の後測定した痛み閾値から、線状回帰分析をED50を決定するために用いた。表3が示すように、エピナスチンはこの方法において痛み閾値を増加した。痛み閾値を50%増加するのに要するエピナスチンの投与量は1.1mg/kgと計算された。
【0017】
【表3】

【0018】
【表4】

【0019】
表は、エピナスチンをイブプロフェンと組合せて投与することにより相乗的効果が得られることを示している。
【0020】
鎮痛活性は、イブプロフェン3.0mg/kg単独投与では2.00%、エピナスチン0.3mg/kg単独投与では44.00%であるが、両者を同じ投与量で併用すると68.00%に増加した。
【0021】
同様に、鎮痛活性はイブプロフェン10.0mg/kg単独投与では34.67%であり、エピナスチン0.3mg/kg単独投与では44/00%であるが、同じ投与量で両者を併用すると84.67%に増加した。
【0022】
さらに、鎮痛活性が3.0mg/kg単独投与では2.00%のイブプロフェンに、1.0mg/kgの単独投与で54.67%の鎮痛活性を示すエピナスチンを併用すると、鎮痛活性は96.67%に増加した。
【0023】
最後に鎮痛活性が10.0mg/kg単独投与では34.6%のイブプロフェンと、同じく1.0mg/kg単独投与では54.67%のエピナスチンを併用すると、鎮痛活性は146.00%に増加した。
【0024】
エピナスチンまたはそのエナンチオマーは、疼痛の処置に対し、静脈内、筋肉内または皮下のような適当なルートによる注射のための水溶液として、錠剤として、坐剤として、クリームとして、経皮投与のためのプラスターとして、肺への吸入投与のためのエアロゾルとして、または鼻スプレーとして投与することができる。
【0025】
錠剤または坐剤として投与する時、成人のための一回投与量は5ないし200mgであり、好ましい投与量は10ないし50mgである。吸入のための一回投与量は0.05ないし20mg,好ましくは0.2ないし5mgが投与される。非経口注射に対し、一回投与量は0.1ないし50mgであり、好ましい投与量は0.5ないし20mgである。もし必要ならば引用した投与量は1日数回投与することができる。
【0026】
特に好ましくそして有利なのは、エピナスチンと他の治療剤、例えばアスピリン、パラセタモール、非ステロイド消炎薬物(NSAID)例えばイブプロフェン、メロキシカム、インドメサシンまたはナプロキセン;スマトリプタン,MK−462,ナラトリプタンまたは311Cのような5HT1Dアゴニスト;CP−122,288;UK116,044;メトクロプラミドのようなドパミンD2 受容体アンタゴニスト;エルゴミタン、ジヒドロエルゴタミンまたはメトエルゴタミンのような麦角アルカロイド;クロニジン;メチルセルジャイド;ドタリジン;リスライド;ピゾチフエン;パルプロイック酸;アミノドリプチリン;プロパノロールまたはメトプロロールのようなベーターブロッカー;フルナリジンまたはロメリジンのようなカルシウムチャンネルアンタゴニスト;またはニューロキニンアンタゴニストとの合剤であるように見える。そのような合剤は、単一投与形または逐次的もしくは実質上同時に投与することができる別々の形において、本発明の他の特徴を含む。
【0027】
以下は活性成分を含む薬剤組成物の実施例である。
錠剤
エピナスチン 20mg
ステアリン酸マグネシウム 1mg
メイズ澱粉 62mg
乳糖 83mg
ポリビニルピロリドン 1.6mg
【0028】
注射液
エピナスチン 0.3g
塩化ナトリウム 0.9g
注射用水を加え 100ml
この溶液は標準方法を用いて滅菌される。
【0029】
経鼻または吸入投与用溶液
エピナスチン 0.3g
塩化ナトリウム 0.9g
塩化ベンザルコニウム 0.01mg
精製水を加え 100ml
【0030】
上に記載した溶液はスプレーとして経鼻投与に、または2〜6μMの好ましいサイズ分布を有する粒子サイズのエアロゾルをつくることができる器具と組合せて肺へ投与のために適している。
【0031】
吸入用カプセル
エピナスチンは、通常乳糖のようなマイクロ化した担体物質を添加し、そして硬ゼラチンカプセルに充填してマイクロ化した形(粒子サイズ2−6μM)で投与される。吸入のため、肺へ粉末を投与するための通常の器具を使用することができる。各カプセルはエピナスチン0.2−20mgおよび乳糖0−40mgを含有する。
【0032】
吸入エアロゾル
エピナスチン 1部
大豆レシチン 0.2部
噴射剤ガス混合物で 100部
【0033】
混合物は、好ましくは定量弁を備えたエアロゾルキャニスターに充填され、個々の噴射量は0.5mgの投与量が投与されるように計量される。指示した投与量範囲の他の投与量のためには、活性成分の多いまたは少ない量を有する適当な製剤が用いられる。
【0034】
クリーム
組成 g/100gクリーム
エピナスチン 2
濃塩酸 0.011
ピロ硫酸ナトリウム 0.050
セチルアルコールとステアリルアルコール 20
の等量混合物
ホワイトワセリン 5
合成ベルガモット油 0.075
蒸留水を加え 100
成分をクリーム製造のための通常の方法で混合する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エナンチオマー、エナンチオマーの混合物またはラセミ体の形のエピナスチンと、他の鎮痛薬物としてイブプロフェンとの組合せを含むことを特徴とする疼痛の処置のための医薬組成物。
【請求項2】
片頭痛、ビングーホートン症候群,緊張頭痛、筋肉痛、炎症痛または神経痛の処置のための請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
イブプロフェン/エピナスチンの重量比が10/0.3ないし3/1である請求項1または2の医薬組成物。

【公開番号】特開2009−19050(P2009−19050A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223046(P2008−223046)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【分割の表示】特願平9−518573の分割
【原出願日】平成8年11月13日(1996.11.13)
【出願人】(501355621)ベーリンガー インゲルハイム コマンディトゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】