説明

疼痛処置のためのカプサイシノイド、局所麻酔薬および/または鎮痒薬を含有する処方物

疼痛、特にニューロパシー性疼痛の処置のための処方物および方法が提供される。この処方物は、カプサイシノイドおよび局所麻酔薬および/または鎮痒薬の共晶混合物である。1実施形態において、本発明は、疼痛の処置のための治療処方物を提供し、この処方物は、活性因子の実質的に非水系の二成分共晶混合物を含有し、これら因子は両方とも25℃において固体である。別の実施形態において、活性因子の実質的に非水系の三成分共晶混合物を含む、疼痛の処置のための治療処方物を提供し、これら活性因子の全ては25℃で固体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、一般に、疼痛の処置に関し、そして特に、カプサイシノイド(capsaicinoid)鎮痛薬およびそれと関係する副作用を緩和する第二の薬物の共晶混合物を使用した、疼痛の処置のための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
疼痛は、重要かつコストのかかる保健医療問題であり、そして患者が医療を求める最も一般的な理由である。疼痛は急性または慢性であり得る。急性疼痛の例としては、術後の疼痛および外傷性損傷に起因する疼痛が挙げられる。慢性疼痛は、一般に、処置がより困難であり、そして多くの原因と関係し得る。例えば、慢性疼痛は、関節、腱、神経、筋肉および他の軟組織の炎症と関係するか、癌のような疾患と関係するか、または神経系への損傷と関係する(「ニューロパシー性」疼痛)。
【0003】
ニューロパシー性疼痛の処置のための改善された治療法を開発することが特に興味深い。これは、末梢神経系および中枢神経系の両方を含み得るので、処置するべき病状の難題である。ニューロパシー性疼痛はしばしば、ウイルス感染後、外傷後、特定の医薬の投与後、または代謝傷害後に存続する。このような疾患後または損傷後に無傷のままの神経は過敏性になり得、このことは直接的な刺激がなくとも疼痛を引き起こす。ニューロパシー性疼痛はしばしば、焼灼感の(burning)耐え難い疼痛として説明され、そして決して消失し得ない。この疼痛の重篤度は、皮膚表面付近の神経末端に部分的に起因する。都合の悪いことに、ニューロパシー性疼痛は、一般に、しばしば急性疼痛の処置に対して首尾よく処方される非ステロイド系抗炎症剤の投与には非感受性である。
【0004】
いくつかの型のニューロパシー性疼痛が存在する。より一般的な型としては、疱疹後の神経痛、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)関連ニューロパシーに関係したニューロパシー性疼痛、糖尿病性ニューロパシーに関係したニューロパシー性疼痛、および三叉神経痛が挙げられる。疱疹後の神経痛は、表皮上の慢性的な穏やか〜重篤な焼灼感の疼痛であり、この神経痛は、帯状疱疹(帯状ヘルペス)の治癒後の幾人かの患者において発症する。HIV感染およびHIV薬物療法の両方は、ニューロパシーおよびニューロパシー性疼痛の発症と関係する。この疼痛は代表的に、手足に影響を与え、そして一般にHIV関連ニューロパシーに関するニューロパシー疼痛といわれる。糖尿病性ニューロパシーは、真性糖尿病の一般的な合併症であり、そして手足の切断(amputation)となり得る。末梢性糖尿病性ニューロパシーは、代表的に、疼痛、脆弱化、および脚の感覚低下または感覚喪失である。三叉神経痛は、三叉神経の障害であり、これは、神経末端が局在する顔面領域(例えば、唇、目、鼻、頭皮、前頭部、上顎および下顎)における強烈な穿刺性の電気ショック様の疼痛のエピソードを引き起こす。糖尿病性ニューロパシーの他の型としては、自律神経性ニューロパシー、近位のニューロパシー、および病巣のニューロパシーが挙げられる。
【0005】
ニューロパシー性疼痛のこれらの一般型に加え、ニューロパシー性疼痛と関係する多くの病状が存在する。これらとしては、外傷性神経損傷、発作、多発性硬化症、てんかん、脊髄損傷、および癌が挙げられる。
【0006】
ニューロパシー性疼痛に対する現在の治療法は、限定されており、しばしば複数の医薬の投与を包含し、疼痛軽減が完了せずに生活の質が回復し得ないことが理解される。これらの治療法は、頻繁な投薬を必要とし得、所望されない全身性の副作用と関係し得、そして代表的に満足いく軽減を提供し得ない。従って、全身性の副作用および薬物−薬物相互作用に対する能力を最小化しながら持続性の軽減を提供する、特にニューロパシー性疼痛のために開発される治療選択肢についての必要性が、依然として存在する。
【0007】
カプサイシン(8−メチル−N−バニリル−6Z−ノネンアミド)および「合成の」カプサイシン(N−バニリル−ノネンアミド)は、LaHannらに対する米国特許第4,313,958号(特許文献1)において鎮痛薬として開示される。カプサイシンの鎮痛活性はまた、化学文献および医学文献(非特許文献1を含む)において考察されている。カプサイシンは、ナス科のファミリーの植物に由来し、そして赤トウガラシから精製、抽出されたアルカロイドである。カプサイシンは、サブスタンスPを低減させることによって疼痛を軽減することが見出されている。このサブスタンスPは神経末端において見出され、そして神経痛シグナルおよび関節炎の疼痛を脳へ伝達することに関与する。疼痛軽減は、適用後の即時性のものではない。なぜなら、この疼痛軽減は、数週間にわたるサブスタンスPの累積的な除去であり、この除去が完全な効果をもたらすからである。
【0008】
低濃度のカプサイシンの局所用クリームは、ニューロパシー性疼痛を処置するために数年間使用されているが、これらの使用は制限されている。なぜなら、これらは塗布するには不便であり、そして1日を通して規則的な間隔で塗布されなければならないからであり、そうであってもせいぜい穏やかな疼痛軽減を達成するのみである。不運なことに、カプサイシンは、強力な皮膚刺激物であり、そしてカプサイシン自体の塗布は、焼灼感の疼痛および痛覚過敏を引き起こし得、処置されるべき疼痛を悪化させる。この強烈な初期の焼灼感作用は、通常、塗布の最初の2〜3日の間に消え去り、そして多くの場合、時間と共にそして継続した使用と共に消失する;しかしながら、初期の副作用は、患者のコンプライアンスに深刻に影響するほど十分に重篤であり、従って、疼痛の有効な処置として、カプサイシンの全体的な治療価値を損なう。
【0009】
カプサイシン処方物の局所投与と関係する、初期の焼灼感を最小化するため、皮膚は局所麻酔薬を用いて予め処置され得る。しかしながら、二段階治療は長期使用者にとって厄介である。さらに、カプサイシンは水性溶媒中の溶解性が乏しいため、この関連で使用される任意のカプサイシン処方物は、比較的低濃度の薬物を有し、上に注記したように、頻繁な塗布を繰り返し必要とする。
【0010】
いくつかの特許は、局所用のカプサイシン処方物を記載し、そして本発明に関して背景として有益である。Brandに対する米国特許第4,812,446号(特許文献2)は、カプサイシンまたはカプサイシンアナログを含有する鎮痛性組成物、および非ステロイド性抗炎症性の解熱剤および鎮痛剤のクラスから選択される鎮痛性組成物を記載する。Bernsteinに対する米国特許第4,997,853号(特許文献3)は、0.5重量%〜25重量%の局所麻酔薬を含む、0.01重量%〜1.0重量%のカプサイシン処方物を記載する。Campbellらに対する米国特許第5,962,532号(特許文献4)は、疼痛を処置するための、0.01重量%〜10重量%のカプサイシン処方物の使用を記載する。麻酔は、例えば硬膜外局所麻酔によって、このカプサイシンが処置されるべき部位に最初に提供される。Robbinsらに対する米国特許第6,248,788号(特許文献5)は、好ましくは身体または中枢神経軸の遮断による局所麻酔薬を伴った、5重量%〜10重量%のカプサイシン処方物を記載する。また、非特許文献2も参照のこと。Holtに対する米国特許第5,869,533号(特許文献6)は、カプサイシンの塗布から生じる不快感を中和するために、植物抽出物と一緒になった0.00125重量%〜1重量%のカプサイシンのポリマー性処方物を記載する。疼痛軽減に代わって改善した麻酔を提供することに向けられるが、Junらに対する米国特許第6,299,902号(特許文献7)は、局所麻酔薬、第一の融点低下因子(例えば、カプサイシン)、および第二の融点低下因子(これは液体であり、より具体的にはアルコールである)を含有する液体処方物を含む二相液体組成物を記載する。
【特許文献1】米国特許第4,313,958号明細書
【特許文献2】米国特許第4,812,446号明細書
【特許文献3】米国特許第4,997,853号明細書
【特許文献4】米国特許第5,962,532号明細書
【特許文献5】米国特許第6,248,788号明細書
【特許文献6】米国特許第5,869,533号明細書
【特許文献7】米国特許第6,299,902号明細書
【非特許文献1】Yakshら、Science(1979)206:481−483
【非特許文献2】Robbinsら、Anesth.Analg.(1998)86:579−583
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
当該分野における進展にもかかわらず、より効果的な疼痛軽減処方物の必要性が依然として存在する。特にニューロパシー性疼痛の処置に対して理想的な処方物は、以前に可能であったレベルよりも高レベルのカプサイシンを含むが、従来技術分野のカプサイシン処方物と関係した不快感および焼灼感を引き起こさない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
本発明は、当該分野における前述の必要性に関し、そして疼痛(ニューロパシー性疼痛を含むがこれに限定されない)の処置のための新規の処方物および方法を提供する。
【0013】
1実施形態において、本発明は、疼痛の処置のための治療処方物を提供し、この処方物は、活性因子の実質的に非水系の二成分共晶混合物を含有し、これら因子は両方とも25℃において固体である。この第一の因子は、式(I)
【0014】
【化5】

の構造を有するカプサイシノイドであり、ここで、Rは、水素、ヒドロキシルまたはメトキシであり、RはヒドロキシルまたはC〜Cアルコキシカルボニルであり、Xは、以下:
【0015】
【化6】

から選択され、そしてRはC〜C11アルキル、C〜C11アルケニル、C11〜C23シス−アルケニル、C11〜C23アルキニルおよびC11〜C23アルカジエニルから選択される。第二の活性因子は、カプサイシン単独治療法と関係した少なくとも1つの副作用を低下させるのに有効である因子であり、局所麻酔薬または鎮痒薬(anti−pruritic agent)であり得る。
【0016】
別の実施形態において、活性因子の実質的に非水系の三成分共晶混合物を含む、疼痛の処置のための治療処方物を提供し、これら活性因子の全ては25℃で固体である。第一の活性因子はカプサイシノイドであり、第二の活性因子は局所麻酔薬であり、そして第三の活性因子は鎮痒薬である。
【0017】
さらなる実施形態において、本発明の処方物の治療有効量を患者に投与することによって、疼痛を患う患者を処置するための方法を提供する。この疼痛は、ニューロパシー性疼痛であり得、HIVまたは糖尿病性ニューロパシーと関係し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(詳細な説明および好ましい実施形態)
他に示されない限り、本発明は、特定の活性因子にも、特定の薬学的処方物にも、特定の投与様式などにも限定されない。なぜならこれらは変動し得るからである。また、本明細書中で使用される技術用語は、特定の実施形態のみを記載する目的のためであって、限定していることは意図されないことが理解されるべきである。
【0019】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、その文脈が明らかに他のことを示さない限り、複数の言及を含む。従って、例えば、「1つの活性因子」に対する言及は、単数の活性因子だけでなく異なる活性因子の組み合わせまたはそれらの混合物を包含する、などである。本明細書および添付の特許請求の範囲において、多くの用語に対する言及がなされ得、これらは以下の意味を有するように定義される。
【0020】
本明細書中で使用される場合、句「式を有する」または「構造を有する」は、限定していることを意図されず、そして用語「含む」が一般に使用される方法と同じ方法で、使用される。
【0021】
用語「アルキル」とは、本明細書中で使用される場合、必須ではないが代表的に1個〜約24個の炭素原子を含む、分枝または非分枝の飽和炭化水素基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、オクチル、デシルなど)およびシクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、など)をいう。他に示されない限り、用語「アルキル」は、直鎖アルキル、分枝アルキル、環状アルキル、非置換のアルキル、置換されたアルキルおよび/またはへテロ原子含有アルキルを含む。
【0022】
用語「アルケニル」とは、本明細書中で使用される場合、少なくとも1つの二重結合を含む、2個〜約24個の炭素原子の、直鎖、分枝または環状の炭化水素基(例えば、エテニル、n−プロペニル、イソプロペニル、n−ブテニル、イソブテニル、オクテニル、デセニル、テトラデセニル、ヘキサデセニル、エイコセニル、テトラコセニル、など)をいう。他に示されない限り、用語「アルケニル」は、直鎖アルケニル、分枝アルケニル、環状アルケニル、非置換のアルケニル、置換されたアルケニルおよび/またはへテロ原子含有アルケニルを含む。
【0023】
用語「アルキニル」とは、本明細書中で使用される場合、少なくとも1つの三重結合を含む、2個〜約24個の炭素原子の、直鎖または分枝の炭化水素基(例えば、エチニル、n−プロピニル、など)をいう。他に示されない限り、用語「アルキニル」は、直鎖アルキニル、分枝アルキニル、環状アルキニル、非置換のアルキニル、置換されたアルキニルおよび/またはへテロ原子含有アルキニルを含む。
【0024】
活性因子に対して言及される場合、出願人らは、この用語が、特定の分子実体のみではなく、その薬学的に受容可能な、薬理学的に活性なアナログ(塩、エステル、アミド、プロドラッグ、結合体、活性代謝物が挙げられるが、これらに限定されない)、ならびに他のこのような誘導体、アナログおよび関連化合物を包含することを意図する。
【0025】
用語「処置すること」および「処置」とは、本明細書中で使用される場合、疼痛の重篤度および/もしくは頻度の低減、疼痛の排除、疼痛の予防(prevention)、ならびに/または疼痛の防止(prevention)をいう。
【0026】
用語、「有効量」および「治療有効量」の本発明の処方物は、無毒性であるが所望の効果を提供するのに十分な量を意味する。「有効」である量は、個体の年齢および一般的な状態、特定の活性因子などに依存して、被験体ごとに変動する。従って、正確な「有効量」を特定することは、必ずしも可能であるとは限らない。しかし、任意の個々の症例における適切な「有効」量は、通常の実験を使用して、当業者によって決定され得る。例えば、カプサイシンの治療有効量は、疼痛(例えば、ニューロパシー性疼痛)を処置または予防するために必要とされる量である。麻酔薬の治療有効量は、その投与部位における、カプサイシンによる焼灼感または不快感を予防するために必要とされる濃度である。
【0027】
「薬学的に受容可能な」とは、生物学的にもそれ以外にも所望されない物質を意味し得る。すなわち、この物質は、所望されない生物学的効果を引き起こすこともなく、有害な様式で組成物中に含まれる他のいかなる成分と相互作用することもなく、患者に投与される薬学的組成物中に組み込まれ得る。用語「薬学的に受容可能」が薬学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤をいうために使用される場合、この用語は、そのキャリアもしくは賦形剤が毒物学的試験および製造試験の求められる標準に合致していること、またはそのキャリアもしくは賦形剤が米国食品医薬品局によって作成される不活性成分ガイド(Inactive Ingredient Guide)に含まれていることが、意味される。「薬学的に活性な」(または単に「活性な」)とは、「薬理学的に活性な」誘導体またはアナログなどの場合、親化合物と同じ薬理学的活性型を、ほぼ等価な程度で有する誘導体またはアナログをいう。
【0028】
従って、第一の実施形態において、実質的に非水系であり(すなわち、5重量%未満の水、好ましくは2.5重量%未満の水、そして最も好ましくは1重量%の水を含み)、そしてカプサイシノイドおよび第二の活性因子の二成分共晶混合物から構成される治療処方物が、提供される。用語「二成分共晶混合物」とは、いずれの成分の融点よりも低い融点を有する、2つの成分の混合物をいう。この文脈において、二成分共晶混合物の2つの成分は、25℃で固体であるが、この二成分共晶混合物自体は、好ましくは25℃で液体である。用語「カプサイシノイド」とは、鎮痛薬をいい、一般に局所鎮痛薬として使用され、式(I):
【0029】
【化7】

の構造を有する。
ここで、Rは、水素、ヒドロキシルまたはメトキシであり、RはヒドロキシルまたはC〜Cアルコキシカルボニルであり、Xは、以下:
【0030】
【化8】

から選択され、そしてRはC〜C11アルキル、C〜C11アルケニル、C11〜C23シス−アルケニル、C11〜C23アルキニルおよびC11〜C23アルカジエニルから選択される。
【0031】
一般に、カプサイシノイドは、レシニフェラトキシン(resiniferatoxin)、N−バニリル−アルカジエナミド、N−バニリル−アルカンジエニル、N−バニリル−単不飽和アルケンアミド、N−バニリルスルホンアミド、およびヒドロキシフェニルアセトアミドから選択される。好ましい実施形態において、カプサイシノイドは、N−バニリル−単不飽和アルケンアミド(すなわち、Rはメトキシであり、Rはヒドロキシルであり、Xは−NH−(CO)−であり、そしてRはアルケン鎖である)、そして特に好ましい実施形態において、このN−バニリル−単不飽和アルケンアミドは、カプサイシンである(Rが−(CH−CH=CH−CH(CHである)。
【0032】
第二の活性因子は、カプサイシン単独治療法(すなわち、第二の活性因子なしのカプサイシンの投与)と関係する疼痛および不快感を緩和し得る局所麻酔薬であり得るか、または鎮痒薬であり得、この鎮痒薬は、カプサイシンの投与と関係する掻痒および刺激を緩和し得る。25℃で固体である任意の局所麻酔薬または鎮痒薬が、本発明の処方物中に使用され得る。用語「固体」は、特定の条件下で半固体形態をとる、吸湿性化合物および他の固体を含むことを意図される。
【0033】
局所麻酔薬は、神経制御の喪失を生じることなく、適用部位における疼痛を阻害するかまたは低下させることにより、感覚の可逆的な喪失を生じることによって、局所的なしびれ感または疼痛の軽減をもたらす薬物である。代表的な局所麻酔薬としては、アミロカイン、アーチカイン(articaine)、ベンゾカイン、ブピバカイン、ブタカイン、2−クロロプロカイン、シンコカイン(cinchocaine)、デキシバカイン、ジアモカイン、ジブカイン、エチドカイン、ケトカイン、リドカイン、メピバカイン、オキシブプロカイン、パレトキシカイン、プリロカイン、プロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロポキシカイン、ピロカイン、リソカイン、ロドカイン、ロピバカイン、テトラカイン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。本処方物において使用するために好ましい局所麻酔薬は、リドカインおよびテトラカインである。
【0034】
例示的な鎮痒薬としては、樟脳、フェノールおよびメントールが挙げられ、これらは例示のためであって限定のためではない。
【0035】
活性因子は、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝物、アナログなどの形態で処方物中に組み込まれ得る。但し、これら塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝物またはアナログは、本文脈において薬学的に受容可能であり、そして薬理学的に活性である。塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝物、アナログおよびそれら活性因子の他の誘導体は、合成有機化学分野の当業者に公知の標準的手順を使用して調製され得、そして例えば、J.March、Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms and Structure、第4版(New York:Wiley−Interscience,1992)により記載される。しかしながら、好ましい実施形態において、局所麻酔薬の遊離塩基形態が使用される。なぜなら、この遊離塩基形態は代表的に、等価な塩よりも低い融点を有するからである。
【0036】
二成分共晶混合物は、以前に可能であったレベルよりも高いレベルでの処方物中へのカプサイシノイドの組み込みを可能にする。前述の組成物において、カプサイシノイドは、その処方物の約10重量%〜約70重量%を示し、好ましくはその処方物の約40重量%〜約70重量%を示す。理論上、処方物は、これら2つの活性因子以外の成分を実質的に含まない(すなわち、これら活性因子は、処方物の少なくとも90重量%を示し、好ましくは処方物の少なくとも95重量%を示し、そして最適には処方物の少なくとも約99重量%を示す)。従って、この処方物は、キャリア、賦形剤、エンハンサー(亢進剤)または他の添加物を含まない。しかしながら、薬学的に受容可能なキャリアは、所望の場合に含まれ得、従って本発明は、カプサイシンおよび第二の因子が特定の型の処方物(すなわち、溶液、ゲル、クリーム、ローション、軟膏、坐剤など)に適した1つ以上の薬学的に受容可能なキャリアと混合される実施形態を、包含する。
【0037】
別の実施形態において、式(I)の構造を有するカプサイシノイドおよび2つのさらなる活性因子から構成される治療処方物が提供され、ここでこの処方物は、先に定義されるように実質的に非水系である。これら2つのさらなる活性因子の各々は、カプサイシン単独治療と関係する少なくとも1つの副作用(例えば、疼痛、不快感、掻痒または刺激)を低下させるのに有効である。好ましい実施形態において、これらさらなる活性因子のうちの一方は、上記のように局所麻酔薬であり、そしてもう一方の活性因子は、また上記に記載されるように、鎮痒薬である。好ましいカプサイシノイドは、N−バニリル−単不飽和アルケンアミドであり、カプサイシン自体が特に好ましい。
【0038】
三成分共晶混合物において、カプサイシノイドは一般に、必須ではないが、処方物の約10重量%〜約50重量%を示し、2つの活性因子は、合わせて処方物の約50重量%〜約90重量%を示す。特に好ましい実施形態において、これら2つのさらなる活性因子(例えば、局所麻酔薬および鎮痒薬)は、およそ1:1である。従って、後者の場合、3つの活性因子(カプサイシノイド、局所麻酔薬および鎮痒薬)の重量比は、およそ10:45:45から50:25:25の重量比である。
【0039】
本発明の処方物を調製するため、固体成分は一緒に混合される。約30分後、湿気を含む混合物が形成され、続いて、例えば24時間の期間にわたって、液体が形成され、そしてこれらの成分は液体状態のままである。この混合物は液体の形成を促進するために温められ得るが、このことは必須ではない。
【0040】
本発明の処方物は、本質的にまたは完全に、活性因子から構成されるので、そしてさらにカプサイシノイドはこの処方物の実質的な割合を示すので、極端に高用量のカプサイシノイドは、比較的少量の処方物により送達され得る。さらなる活性因子(例えば、局所麻酔薬および/または鎮痒薬)の組み込みは、患者のコンプライアンスを促進する。なぜなら、カプサイシンの副作用が実質的に軽減されるからである。さらに、クリームまたはゲル中にカプサイシンをさらに処方する必要はない。なぜなら、この液体は、例えば「ローラー塗り(roll−on)」型のアプリケーター中に存在するように包装され得るからである。
【0041】
本発明の処方物は、関節、腱、神経、筋肉および他の軟組織の炎症によって引き起こされる疼痛において利用を見出し、その疼痛としては、関節炎の疼痛;背痛;頭痛;癌により引き起こされる疼痛;およびニューロパシー性疼痛が挙げられ、これらのうちの後者は、特に興味深い。ニューロパシー性疼痛の例としては、疱疹後の神経痛、HIV関連ニューロパシーと関係するニューロパシー性疼痛、糖尿病性ニューロパシーと関係する疼痛および三叉神経痛と関係するニューロパシー性疼痛が挙げられ、これらニューロパシー性疼痛のために本発明の処方物が特に良好に適応される。
【0042】
本発明の処方物の投与は、任意の適切な投与形態を使用して実行され得る.代表的に、投与は全身性よりも局所的に実行されるが、全身投与(一般には非経口投与)は可能である。
【0043】
本発明は、その好ましい実施形態と組み合わせて記載されているが、前述の記載および以下の実施例は、例示であって本発明の範囲を限定することを意図しないことが理解されるべきである。種々の変更がなされ得、そして本発明の範囲から逸脱することなく等価物が置き換えられ得ること、そしてさらに他の局面、利点および改変は本発明が関する分野の当業者に明らかであることが、当業者により理解されるべきである。
【実施例1】
【0044】
カプサイシン(「Cap」)およびリドカイン(「Lido」)を、表1に示される種々の比率で混合した。これら処方物のうちのいくつかは、自然に部分的に液体になった。これら全ての処方物を穏やかに加熱すると均一な溶液を形成した。これらの溶液を室温で結晶化および/または分離させた。これらの混合物をまたDSCにより分析した。
【0045】
【表1】

【実施例2】
【0046】
カプサイシン、メントールおよびリドカインを表2に示される比率で混合した。実施例1のように、これら処方物のうちのいくつかは、自然に部分的に液体になった。これら全ての処方物を穏やかに加熱すると均一な溶液を形成した。これらの溶液を室温で結晶化および/または分離させた。
【0047】
【表2】

【実施例3】
【0048】
カプサイシン(「Cap」)およびテトラカイン(「Tetra」)を、表3に示される種々の比率で混合した。実施例1のように、これら処方物のうちのいくつかは、自然に部分的に液体になった。これら全ての処方物を穏やかに加熱すると均一な溶液を形成した。これらの溶液を室温で結晶化および/または分離させた。
【0049】
【表3】

【実施例4】
【0050】
カプサイシン(「Cap」)およびメントールを、表4に示される種々の比率で混合した。これら処方物のうちのいくつかは、自然に部分的に液体になった。これら全ての処方物を穏やかに加熱すると均一な溶液を形成した。これらの溶液を室温で結晶化および/または分離させた。
【0051】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に非水系治療処方物であって、以下:
(a)式(I)
【化1】

の構造を有するカプサイシノイド(capsaicinoid);および
(b)カプサイシン単独治療法に関係した少なくとも1つの副作用を低下させるのに有効な第二の活性因子であって、25℃で固体として存在する、第二の活性因子、
の二成分共晶混合物を含有し、
ここで、Rは、水素、ヒドロキシルまたはメトキシであり、RはヒドロキシルまたはC〜Cアルコキシカルボニルであり、Xは、以下:
【化2】

から選択され、そしてRはC〜C11アルキル、C〜C11アルケニル、C11〜C23シス−アルケニル、C11〜C23アルキニルおよびC11〜C23アルカジエニルから選択される、
処方物。
【請求項2】
請求項1に記載の処方物であって、前記カプサイシノイドが、レシニフェラトキシン(resiniferatoxin)、N−バニリル−アルカジエナミド、N−バニリル−アルカンジエニル、N−バニリル−単不飽和アルケンアミド、N−バニリルスルホンアミド、およびヒドロキシフェニルアセトアミドから選択される、処方物。
【請求項3】
前記カプサイシノイドがN−バニリル−単不飽和アルケンアミドである、請求項2に記載の処方物。
【請求項4】
前記カプサイシノイドがカプサイシンである、請求項3に記載の処方物。
【請求項5】
前記第二の活性因子が局所麻酔薬である、請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項6】
請求項5に記載の処方物であって、前記局所麻酔薬が、アミロカイン、アーチカイン(articaine)、ベンゾカイン、ブピバカイン、ブタカイン、2−クロロプロカイン、シンコカイン(cinchocaine)、デキシバカイン、ジアモカイン、ジブカイン、エチドカイン、ケトカイン、リドカイン、メピバカイン、オキシブプロカイン、パレトキシカイン、プリロカイン、プロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロポキシカイン、ピロカイン、リソカイン、ロドカイン、ロピバカイン、テトラカイン、およびこれらの組み合わせから選択される、処方物。
【請求項7】
前記局所麻酔薬がリドカインである、請求項6に記載の処方物。
【請求項8】
前記局所麻酔薬がテトラカインである、請求項6に記載の処方物。
【請求項9】
前記カプサイシノイドが前記処方物の約10重量%〜約70重量%を示す、請求項5に記載の処方物。
【請求項10】
前記カプサイシノイドが前記処方物の約40重量%〜約70重量%を示す、請求項9に記載の処方物。
【請求項11】
前記第二の活性因子が鎮痒薬である、請求項5に記載の処方物。
【請求項12】
前記鎮痒薬が、メントール、樟脳、フェノールおよびこれらの組合せから選択される、請求項11に記載の処方物。
【請求項13】
前記カプサイシノイドが前記処方物の約10重量%〜約70重量%を示す、請求項12に記載の処方物。
【請求項14】
前記カプサイシノイドが前記処方物の約40重量%〜約70重量%を示す、請求項13に記載の処方物。
【請求項15】
実質的に非水系治療処方物であって、以下:
(a)式(I)
【化3】

の構造を有するカプサイシノイド;
(b)カプサイシン単独治療法に関係した少なくとも1つの副作用を低下させるのに有効な第二の活性因子;および
(c)カプサイシン単独治療法に関係した少なくとも1つの副作用を低下させるのに有効な第三の活性因子
の三成分共晶混合物を含有し、
ここで、Rは、水素、ヒドロキシルまたはメトキシであり、RはヒドロキシルまたはC〜Cアルコキシカルボニルであり、Xは、以下:
【化4】

から選択され、そしてRはC〜C11アルキル、C〜C11アルケニル、C11〜C23シス−アルケニル、C11〜C23アルキニルおよびC11〜C23アルカジエニルから選択され、
該第二の活性因子および該第三の活性因子は共に25℃で固体として存在する、
処方物。
【請求項16】
請求項15に記載の処方物であって、前記カプサイシノイドが、レシニフェラトキシン、N−バニリル−アルカジエナミド、N−バニリル−アルカンジエニル、N−バニリル−単不飽和アルケンアミド、N−バニリルスルホンアミド、およびヒドロキシフェニルアセトアミドから選択される、処方物。
【請求項17】
前記カプサイシノイドがN−バニリル−単不飽和アルケンアミドである、請求項16に記載の処方物。
【請求項18】
前記カプサイシノイドがカプサイシンである、請求項17に記載の処方物。
【請求項19】
前記第二の活性因子が局所麻酔薬である、請求項15、16、17または18のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項20】
請求項19に記載の処方物であって、前記局所麻酔薬が、アミロカイン、アーチカイン、ベンゾカイン、ブピバカイン、ブタカイン、2−クロロプロカイン、シンコカイン、デキシバカイン、ジアモカイン、ジブカイン、エチドカイン、ケトカイン、リドカイン、メピバカイン、オキシブプロカイン、パレトキシカイン、プリロカイン、プロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロポキシカイン、ピロカイン、リソカイン、ロドカイン、ロピバカイン、テトラカイン、およびこれらの組み合わせから選択される、処方物。
【請求項21】
前記局所麻酔薬がリドカインである、請求項20に記載の処方物。
【請求項22】
前記局所麻酔薬がテトラカインである、請求項20に記載の処方物。
【請求項23】
前記第三の活性因子が鎮痒薬である、請求項15、16、17および18のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項24】
前記鎮痒薬が、メントール、樟脳、フェノールおよびこれらの組合せから選択される、請求項23に記載の処方物。
【請求項25】
前記カプサイシノイドが前記処方物の約10重量%〜約50重量%を示す、請求項12に記載の処方物。
【請求項26】
前記第二の活性因子および前記第三の活性因子が約1:1の重量比で存在する、請求項25に記載の処方物。
【請求項27】
前記二成分混合物が注射によって投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項28】
疼痛を患う患者を処置するための方法であって、該方法は、請求項1〜請求項15に記載の処方物の治療有効量を該患者に投与する工程を包含する、方法。
【請求項29】
前記処方物が局所投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記疼痛が、関節、腱(tends)、神経または筋肉の炎症によって引き起こされる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記糖痛が関節炎によって引き起こされる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記疼痛が背痛である、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記疼痛が頭痛である、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記疼痛が癌により引き起こされる、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記疼痛がニューロパシー性疼痛である、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記ニューロパシー性疼痛が疱疹後の神経痛である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記ニューロパシー性疼痛がHIV関連ニューロパシーの結果である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記ニューロパシー性疼痛が糖尿病性ニューロパシーと関係する、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記ニューロパシー性疼痛が三叉神経痛である、請求項20に記載の方法。

【公表番号】特表2008−501717(P2008−501717A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515650(P2007−515650)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2005/019687
【国際公開番号】WO2005/117981
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(507344461)ニューロジズエックス,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】