説明

疼痛/覚醒積分値の検出

本発明は、鎮静状態の患者の自律神経系をモニタするための方法及び装置に関する。皮膚コンダクタンス信号を、測定区間の間、患者の皮膚のある領域にて測定する。共に患者の自律神経系の状態を反映する第1側度及び第2側度を、特定の積分関数により計算する。次に、第1側度と第2側度のうち最大であるほうを、鎮静状態の患者の自律神経系の状態を反映する出力信号(Y)として選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して医療技術、特には鎮静状態の患者をモニタするための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
手術中に患者の意識及び認識のレベルを観察することは極めて重要である。現在、信頼性の高い観察方法はほとんどない。医療技術分野において、個体の自律神経系、すなわち意思による制御が不可能な神経系の一部における活動を表す物理的な測定値を得るのは困難である。
【0003】
特に、患者が覚醒刺激のため睡眠薬をもっと必要としているか否か又は疼痛刺激のため麻酔をもっと必要としているか否かを検出するために、鎮静状態にあって言葉が話せない患者(例えば、麻酔下の患者又は人工呼吸下の患者)の自律神経系をモニタすることが特に必要とされている。
【0004】
皮膚コンダクタンスが、基礎的な、ゆっくりと変化する値(いわゆる基礎レベル又は一定の間隔を通しての平均コンダクタンスレベル)に加えて、自然発生する波、つまり揺らぎから成る成分も有する時変信号として変化することが試験によって示されている。
【0005】
熟練した操作者(例えば、外科医又は麻酔医)がディスプレイ上で基礎レベルと揺らぎの特徴を見て、患者の自律神経系をモニタする。
【0006】
しかしながら、わかりやすさ、利便性及び操作のし易さを改善するために、自律神経系の状態を反映する測度を1つ示す方法及び装置を提供することが、依然として求められている。
【0007】
WO−03/94726には、鎮静状態の患者の自律神経系をモニタするための方法及び装置が開示されている。この方法においては、患者の皮膚のある領域で皮膚コンダクタンス信号を測定する。ある時間間隔全体での皮膚コンダクタンス信号の平均値とその時間間隔全体での揺らぎピーク数を含む所定の特性を計算する。これらの特性に基づいて、患者の痛みによる不快と覚醒とをそれぞれ示す2つの出力信号を確立する。覚醒信号は、ある時間間隔全体での揺らぎの数と平均値に基づいて定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第03/94726号パンフレット
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、鎮静状態の患者をモニタするための方法及び装置を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、そのような方法及び装置を提供することであり、精神性発汗による皮膚コンダクタンスの変化の測定を利用する。
【0011】
本発明の更に別の目的は、そのような方法及び装置を提供することであり、信頼性の高い出力指標が得られる。
【0012】
本発明の更なる目的は、関連する従来技術の欠点を克服した、そのような方法及び装置を提供することである。
【0013】
本発明の更に別の目的は、そのような方法及び装置を提供することであり、関連する従来技術とは実質的に異なる。
【0014】
本発明により、上記の目的の少なくとも1つは、付随する請求項に定義されるような方法及び装置によって達成される。
【0015】
本発明の更なる利点及び特徴は、従属請求項に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の原理を、以下において、図解した実施形態例により開示する。
【図1】本発明による装置の好ましい実施形態についてのブロック図である。
【図2】本発明による方法についてのフローチャートである。
【図3】本発明の方法における第1側度の計算方法を説明するための、皮膚コンダクタンス測定グラフのサンプルである。
【図4】本発明の方法における第1側度の計算方法を説明するための、皮膚コンダクタンス測定グラフのサンプルである。
【図5】本発明の方法における第2側度の計算方法を説明するための、皮膚コンダクタンス測定グラフのサンプルである。
【図6】本発明の方法における第2側度の計算方法を説明するための、皮膚コンダクタンス測定グラフのサンプルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明による装置の好ましい実施形態のブロック図である。
【0018】
この装置のハードウェア構成のかなりの部分が、WP−03/94726として公開された出願人の関連特許出願、特にはこの公報の図1のブロック図及び対応する詳細な説明に既に記載されている。この公報の開示、特に装置のハードウェア構成は、参照により本願に明示的に組み込まれる。
【0019】
患者のある身体部位1の皮膚のある領域2上に、皮膚のコンダクタンスを測定するためのセンサ手段3が置かれる。身体部位1は好ましくは手又は足であり、身体部位1上の皮膚の領域2は、好ましくは手の掌側又は足の足底側である。或いは、身体部位1は、患者の額であってよい。センサ手段3はコンタクト電極を備え、少なくとも2つの電極が皮膚領域2上に置かれる。好ましい実施形態において、センサ手段3は3つの電極、すなわち信号電極、測定電極及び基準電圧電極から構成され、測定電極下の角質層(皮膚の表面層)に電圧を持続的に印加する。測定電極及び信号電極は、好ましくは皮膚領域2上に置かれる。基準電圧電極も皮膚領域2上に置いてもよいが、関係する測定装置に適した、近い位置に置くのが好ましい。
【0020】
ある実施形態においては、交流電流を用いて皮膚のコンダクタンスを測定する。交流電流の周波数は、有利には、最高1000Hzの範囲にあり、88Hz等である。指定の周波数で運転される信号発生装置により、信号電流を信号電極に印加する。
【0021】
測定電極を通過した発生電流は測定値変換装置4へと送られ、変換装置4は、電流/電圧変換装置と複素アドミタンスのコンダクタンス実数部分を供給する分解回路とを含む。
【0022】
測定値変換装置4は、増幅装置及びフィルタ回路も備えていてよい。好ましい実施形態において、測定値変換装置は、入力及び出力の双方にローパスフィルタを含む。入力側ローパスフィルタの目的は、例えばその他の医療機器からの高周波ノイズを減衰させ、かつ高周波成分が時間離散化用の後続の回路によって受信されないように防止するためのアンチ・エイリアシングフィルタとして機能することでもある。
【0023】
制御ユニット5は、測定値変換装置からの信号を時間離散化するための時間離散化ユニット51を備えている。時間離散化は、有利には約20〜200サンプル/秒であるサンプリングレートで起きる。制御ユニットはアナログ/デジタル変換装置52を更に備え、アナログ/デジタル変換装置は測定データをデジタル形式に変換する。
【0024】
制御ユニット5は、デジタル化された測定データを処理するための処理ユニット53、データ及びプログラムを保存するための、不揮発性メモリ54及びランダムアクセスメモリ55として図示された少なくとも1つの記憶装置の形態である記憶手段も備える。制御ユニット5は、出力信号73を供給する出力インターフェース回路61を更に備える。好ましくは、制御ユニット5は、ディスプレイインターフェース回路81を更に備え、この回路は更にディスプレイユニット8に接続されている。制御ユニット5は、有利には、パソコン10等の外部ユニットとデジタル通信するための通信ポート56も備えていてよい。
【0025】
好ましい実施形態において、不揮発性メモリ54は、少なくともプログラムコード及び永久データをおさめたプログラム可能ROM回路形式の読取専用記憶装置又はフラッシュメモリ回路を含み、ランダムアクセスメモリ55は、測定データ及びその他の暫定的なデータを保存するためのRAM回路を含む。
【0026】
制御ユニット5は、発振装置(図示せず)も備えており、発振装置は、処理ユニット53を制御するためのクロック信号を配信する。処理ユニット53は、測定値の分析において使用するための、現在時刻を表示するためのタイミング手段(図示せず)も含む。このようなタイミング手段は当業者には周知であり、本発明との使用に適すると当業者が見なすところのマイクロコントローラ又はプロセッサシステムに含められることが多い。
【0027】
制御ユニット5は、入力、出力、メモリ及びその他の周辺回路が接続されたマイクロプロセッサをベースとしたユニットとして実現しても、接続された回路の一部又は全てが集積されたマイクロコントローラユニットとして実現してもよい。時間離散化ユニット51及び/又はアナログ/デジタル変換装置52も、このようなユニットに含めてよい。制御ユニット5に適した形態の選択は、当業者にあわせて判断する。
【0028】
別の解決策は、制御ユニットをデジタル信号プロセッサ(DSP)として実現することである。
【0029】
本発明により、皮膚コンダクタンス信号を分析するために、新規で独創的な方法が、制御ユニット5によって実行される。プログラムコードにより、制御ユニット5は、以下にて図2を参照して例示する方法等の本発明による方法を実行するように特別に構成されている。
【0030】
制御ユニット5は、測定値変換装置4から送られてきた皮膚コンダクタンスについての時間離散化され量子化された測定値を、好ましくは不揮発性メモリ54に記憶されかつ処理ユニット53によって実行される実行可能プログラムコードによって読み取るように構成されている。更に、制御ユニットは、測定値を読み取り/書き込みメモリ55に保存できるように構成されている。プログラムコードを用いることにより、制御ユニット5は更に、測定値をリアルタイム、すなわち測定の実行と同時に又は並行して分析するように構成される。
【0031】
ここで同時又は並行とは、測定の範疇にある時定数と関連した観点から見て実際上、同時又は並行であると意味することを理解すべきである。これは、入力、保存及び分析は別々の時間間隔で実行可能であるが、この場合、これらの時間間隔及び間隔と間隔との間の時間は非常に短いため、個々のアクションが同時に発生するように見えることを意味している。
【0032】
制御ユニット5は更に、皮膚コンダクタンス信号の揺らぎを識別するように構成されている。特に、制御ユニット5は、皮膚コンダクタンス信号における最小点を識別するように構成されている。
【0033】
制御ユニット5は更に、皮膚コンダクタンス信号の最初の局所最小点を、測定区間における最初の局所最小点として選択するように構成されている。制御ユニット5はまた、皮膚コンダクタンス信号の最後の局所最小点を、測定区間における最後の局所最小点として探すように構成されている。
【0034】
制御ユニット5は更に、皮膚コンダクタンス曲線上の特定の点によって規定される、特には連続する2つの最少点の間の線形ランプ関数を計算するように構成されている。
【0035】
制御ユニット5は更に、測定区間のいずれかの時点にて、皮膚コンダクタンス値を対応する線形ランプ関数と比較するように構成されている。
【0036】
制御ユニット5は更に、積分区間全体を通して、時間に対する関数の積分の近似値を計算するように構成されている。
【0037】
制御ユニットの更なる機能については、図2に示す方法を参照しながら以下にて説明する。
【0038】
制御ユニット5の上記の機能は全て、メモリ、好ましくは不揮発性メモリ54に含まれた適当なコンピュータプログラムの一部によって達成される。
【0039】
処理ユニット53、メモリ54、55、アナログ/デジタル変換装置52、通信ポート56、インターフェース回路81及びインターフェース回路61は全てバスユニット59に接続されている。マイクロプロセッサをベースとした機器の設計にあわせたこのようなバスアーキテクチャのきめ細かい構築は、当業者に周知であるものと見なす。
【0040】
インターフェース回路61はデジタル又はアナログ出力回路であり、インターフェース回路61が処理ユニット53により実行されるプログラムコードによってアドレス指定されると、バスユニット59を介した処理ユニット53からの出力信号73のデジタル又はアナログ表現を生成する。
【0041】
出力信号73は、上記の時間に対する皮膚コンダクタンス信号の積分の算出近似値を表す。
【0042】
出力信号73は、患者の自律神経系の状態を1つの測度として反映しており、患者の自律神経系をモニタする際に、熟練した操作者(例えば、外科医又は麻酔医)が読み取り易く、わかり易い。
【0043】
好ましい実施形態において、ディスプレイ8は、出力信号73の値をデジタル数字として又はグラフィック表現として又はその両方として表示するためのフィールド又はウィンドウを備える。ディスプレイ8は、コンダクタンス信号をグラフィック視覚化(時変グラフ等)したり、測定した信号の揺らぎの周波数及び振幅を表示するためにも有利に用いることができる。
【0044】
本装置は、その多様な部品に動作電力を供給するための電力供給ユニット9を更に備える。電力供給源はバッテリであっても電源コードによる供給であってもよい。
【0045】
本装置を、有利には、病院の機器に関する要件に適するように適合させてもよく、これにより患者の安全が確保される。装置がバッテリ作動式であるなら、このような安全要件を満たすのは比較的容易である。一方、装置が電源コードで作動する場合、電力供給源は特定の要件を満たさなくてはならない。或いは、患者にとって安全な装置部分(例えば、バッテリ作動する部分)と患者にとって安全でない装置部分との間の電気的仕切りについて要件を作成する。電源コードで作動する、患者にとって安全でない外部機器に装置を接続しなくてはならない場合、患者にとって安全な装置と安全でない外部機器との間の接続を電気的に分離する必要がある。この種の電気的分離は光学的な仕切りにより有利に達成可能である。患者に近接する機器についての安全要件や本発明のものと同様の装置におけるこのような要件を満たすための解決方法は当業者に周知である。
【0046】
図2は、本発明による方法のフローチャートである。本方法は、好ましくは、鎮静状態の患者の自律神経系の状態を反映した出力信号を送るための、装置内の処理デバイス(例えば、図1に図示の制御ユニット5の処理デバイス53)によって実行される。
【0047】
本方法は、開始工程200から開始される。
【0048】
導入工程202において、患者に刺激を与える。有利には、この刺激は疼痛誘発刺激、特には標準化された侵害刺激である。これを目的として、C線維の活性化に特化した装置を用いてもよい。より有利には、強縮刺激等の、C線維を含む多くの神経線維を活性化させる装置を用いることができる。
【0049】
工程202は、操作者によって手動で行ってもよい。或いは、工程202を制御ユニット5により行ってもよく、この場合、疼痛刺激装置(図示せず)を制御ユニット5に動作可能に接続し、疼痛刺激装置は、患者に刺激を与えるように構成される。
【0050】
或いは、工程202を省略してもよい。すなわち、本方法を患者に外的刺激を与えることなく用いることもできる。
【0051】
次に、信号送信工程210において、患者の皮膚のある領域で測定されたコンダクタンス信号u(t)を、測定区間の間中、送信する。
【0052】
次に、識別工程212において、その測定区間全体での皮膚コンダクタンス信号の局所最小点を識別する。
【0053】
次に、選択工程214において、測定区間内の識別された、連続する最小点の間の区間を、次の計算のための積分区間として選択する。
【0054】
次に、第1測度計算工程220において、鎮静状態の患者の自律神経系の状態を反映する第1側度を計算する。
【0055】
第1側度は、積分区間に対応する範囲T1〜T2内で皮膚コンダクタンス信号u(t)を繰り返し取得及び処理することにより計算する。
【0056】
各積分区間[T1、T2]につき、線形ランプ関数v(t)が、積分区間[T1、T2]のu(t)曲線上の最初の点から最後の点まで延びる直線として規定される。つまり、この線は、点(T1、u(T1))から点(T2、u(T2))まで延びる。線形ランプ関数は、方程式:
【0057】
【数1】

に従う。
【0058】
第1側度は、測定区間全てを通しての積分の合計として計算される。
【0059】
各積分区間において積分する関数は、u(t)≦v(t)、すなわち皮膚コンダクタンス曲線が線形ランプ以下の位置にある部分区間においてゼロである。
【0060】
各積分区間において積分する関数は、u(t)>v(t)、すなわち皮膚コンダクタンス曲線が線形ランプを越える部分区間において(u(t)−v(t))dtである。
【0061】
これは、u(t)≦v(t)である部分区間においては、積分に寄与が加算されないことを示唆している。u(t)>v(t)である部分区間においては、皮膚コンダクタンス曲線と線形ランプとの間の領域が、積分、ひいては第1側度への寄与として加算される。
【0062】
この積分計算は各積分区間について行われ、このような区間の測定区間全体での合計が、鎮静状態の患者の自律神経系の状態を反映する第1側度として用いられる。
【0063】
従って、第1側度は、下式:
【0064】
【数2】

(式中、u(t)は、測定された皮膚コンダクタンス信号であり、T1及びT2はそれぞれ、各積分区間の開始点及び終了点である)により計算工程220において計算することができる。
【0065】
T1及びT2は、皮膚コンダクタンス信号の局所最小点である。測定区間全体での加算処理において、T1及びT2は、各加算積分項ごとに新たに、より大きい値をとる。
【0066】
本明細書において、用語「積分」は、厳密な積分に対する近似値として解釈されるべきである。同様に、用語「積分する」は、厳密な積分に対する近似値を計算することとして解釈されるべきである。有利には、計算工程220において、区分求積法、台形法又はシンプソンの公式に基づいた方法等の数値積分法を用いる。
【0067】
当業者なら、計算工程220が、皮膚コンダクタンス曲線u(t)と線形ランプv(t)との交点を前もって計算することを含むことに気付く。また、部分区間が、このような交点及び、おそらくは開始点T1又は終点T2によって規定されることに気付く。このような部分区間において、部分区間におけるある点においてu(t)≦v(t)であるならば、積分計算において、その部分区間全体を無視する。これは、その部分区間全体が第1側度に寄与しないことがはっきりしているからである。
【0068】
次に、第2の計算工程230において、鎮静状態の患者の自律神経系の状態を反映する第2項を計算する。
【0069】
第2側度を、T_最初からT_最後までの区間全体での積分として計算し、T_最初は、測定区間の最初の局所最小点であり、T_最後は、測定区間内の最後の局所最小点又は測定区間内の最後の点から成る群から選択される。
【0070】
区間[T_最初〜T_最後]において積分する関数は、u(t)≦u(T_最初)、すなわち現在の皮膚コンダクタンス値が、T_最初の点での皮膚コンダクタンス値以下である部分区間ではゼロである。
【0071】
区間[T_最初〜T_最後]において積分する関数は、u(t)>u(T_最初)、すなわち現在の皮膚コンダクタンスが、T_最初の時点での皮膚コンダクタンス値より大きい部分区間では(u(t)−u(T_最初))dtである。
【0072】
これは、現在の皮膚コンダクタンス値がT_最初の点での皮膚コンダクタンス値以下である部分区間においては、第2側度に寄与が加算されないことを示唆している。他方で、現在の皮膚コンダクタンスがT_最初の点での皮膚コンダクタンス値より大きい部分区間においては、皮膚コンダクタンス値とT_最初の時点での皮膚コンダクタンス値との差が時間に対して積分され、その結果が第2側度に寄与する。
【0073】
より具体的には、第2側度は、工程230において、式:
【0074】
【数3】

(式中、u(t)は測定された皮膚コンダクタンス信号であり、T_最初は、測定区間における最初の局所最小点であり、T_最後は、測定区間における最後の点又は測定区間における最後の局所最小点である)として計算される。
【0075】
当業者なら、計算工程230が、皮膚コンダクタンス曲線u(t)と一定値u(T_最初)によって表される直線との交点を前もって計算することを含むことに気付く。また、部分区間が、このような交点及び、おそらくは開始点T_最初又は終点T_最後によって規定されることに気付く。このような部分区間において、部分区間におけるある点においてu(t)≦u(T_最初)であるならば、積分計算において、その部分区間全体を無視する。これは、その部分区間全体が第2側度に寄与しないことがはっきりしているからである。
【0076】
第1比較工程240において、計算した第1及び第2側度を比較する。第1側度が最大ならば、第1側度を、工程242において、鎮静状態の患者の自律神経系の状態を反映する出力信号Yとして用いる。対照的に、第1側度が最大でないならば、第2側度を、工程244において、鎮静状態の患者の自律神経系の状態を反映する出力信号Yとして用いる。要するに、第1側度及び第2側度のうち最大であるほうを、出力信号Yとして用いる。
【0077】
有利には、出力信号Yを、ディスプレイ8に表示する(図2においては、別工程として図示せず)。
【0078】
出力信号(例えば、本発明による方法を実行する装置のディスプレイ上に表示される)は、1つの測度として患者の自律神経系の状態を反映する。本発明は、熟練した操作者(例えば、外科医又は麻酔医)が装置を操作した場合に、極めてわかりやすく、便利で操作し易い。
【0079】
第2の比較工程250を含めることにより本方法を更に改良してもよく、この工程においては、出力信号Yが、出力信号値の既定範囲<Y1、Y2>の範囲内にあるか否かを判断する。
【0080】
有利には、Y1は、<0.05μSs、0.20μSs>の範囲内にある。より好ましくは、Y1は、<0.08μSs、0.12μSs>の範囲内にある。最も好ましくは、Y1は約0.1μSsである。
【0081】
有利には、Y2は、<0.5μSs、3.0μSs>の範囲内にある。より好ましくは、Y2は、<0.8μSs、2.2μSs>の範囲内にある。最も好ましくは、Y2は約2.0μSsである。
【0082】
第2の比較が真であるならば、工程262において疼痛表示信号を設定し、有利には、皮膚コンダクタンス送信工程210から処理を繰り返す。真ではないならば、有利には、以下の第3の比較工程260にて処理を継続する。
【0083】
第3の比較工程270を含めることにより本方法を更に改良してもよく、この工程においては、出力信号Yが、既定の出力信号値Y3より大きいか否かを判断する。
【0084】
有利には、Y3は、<0.5μSs、3.0μSs>の範囲内にある。より好ましくは、Y3は、<0.8μSs、2.2μSs>の範囲内にある。最も好ましくは、Y3は約2.0μSsである。
【0085】
第3の比較が真であるならば、工程272において覚醒表示信号を設定し、有利には、皮膚コンダクタンス送信工程210から処理を繰り返す。真ではないならば、有利には、以下の終了試験工程270において処理を継続する。
【0086】
全処理を、有利には、反復する又は繰り返す。処理を終了するためには、有利には、終了試験工程270を設け、処理を終了させるべきか否かを判断するための試験を行う。終了させるべきならば、処理を工程290で終了する。終了させるべきでないならば、処理を皮膚コンダクタンス送信工程210から繰り返す。
【0087】
図3は、計算工程220において実行する計算、すなわち本発明による方法における第1側度の計算方法を説明するための、皮膚コンダクタンス測定グラフのサンプルである。
【0088】
図3のグラフは、ある測定区間の間に測定された、患者の最初の皮膚コンダクタンス信号の一部を示している。測定区間の長さは、例えば15秒である。この測定区間内で、皮膚コンダクタンス信号における局所最小点が識別され、連続する最小点の間の区間を、積分区間として選択する。
【0089】
このような積分区間の1つが、図3に図示されており、T1の局所最小点及びT2の後続の局所最小点から始まっている。
【0090】
積分区間[T1、T2]において、線形ランプ関数v(t)を、積分区間[T1、T2]においてu(t)曲線上の最初の点から最後の点まで延びる直線として規定する。つまり、この線は、図2に関連して上で説明したように、点(T1、u(T1))から点(T2、u(T2))に延びている。
【0091】
この例では、積分区間[T1、T2]全体を通してu(t)>v(t)である。つまり、図2に関連した上記の説明に従って、第1側度は、u(t)曲線とv(t)曲線との間の面積、すなわち差(u(t)−v(t))dtのT1からT2の積分として計算される。
【0092】
この積分計算を、各積分区間について実行し、このような区間の測定区間全体での合計が、鎮静状態の患者の自律神経系の状態を反映する第1側度として用いられる。
【0093】
図4は、同じく計算工程220において実行する計算、すなわち本発明による方法における第1側度の計算方法を説明するための、皮膚コンダクタンス測定グラフの別のサンプルである。
【0094】
図4のグラフは、ある測定区間の間に測定された、患者の最初の皮膚コンダクタンス信号の一部を示している。測定区間の長さは、例えば15秒である。この測定区間内で、皮膚コンダクタンス信号における局所最小点が識別され、連続する最小点の間の区間を、積分区間として選択する。
【0095】
このような積分区間の1つが、図4に図示されており、T1の局所最小点及びT2の後続の局所最小点から始まっている。
【0096】
積分区間[T1、T2]において、線形ランプ関数v(t)を、積分区間[T1、T2]においてu(t)曲線上の最初の点から最後の点まで延びる直線として規定する。つまり、この線は、図2に関連して上で説明したように、点(T1、u(T1))から点(T2、u(T2))に延びている。
【0097】
この例では、区間[T1、T2]の第1の部分において、u(t)≦v(t)である。すなわち、皮膚コンダクタンス曲線は、線形ランプ以下の位置にある。図2に関連して上で説明したように、この区間部分において積分する関数はゼロである。このため、図4の左側の領域は、第1側度に寄与しない。
【0098】
図4において更に図示されるように、積分区間[T1、T2]の第2の部分において、皮膚コンダクタンス曲線は、線形ランプよりも高い位置にある。すなわちu(t)>v(t)である。積分区間のこの部分において、u(t)曲線とv(t)曲線との間の領域、すなわちT1からT2にかけての差(u(t)−v(t))dtの積分が、第1側度に寄与する。
【0099】
この積分計算を、各積分区間について実行し、このような区間の測定区間全体での合計を、鎮静状態の患者の自律神経系の状態を反映する第1側度として用いる。
【0100】
図5は、計算工程230において実行する計算、すなわち本発明による方法における第2側度の計算方法を説明するための、皮膚コンダクタンス測定グラフのサンプルである。
【0101】
図5のグラフは、ある測定区間の間に測定された、患者の最初の皮膚コンダクタンス信号の部分集合を示している。測定区間の長さは、例えば15秒である。この測定区間内で、皮膚コンダクタンス信号における最初の局所最小点が識別され、T_最初と表わされる。この点は、区間部分集合[T_最初、T_最後]の最初の点として選択される。
【0102】
区間部分集合[T_最初、T_最後]における最後の点は、測定区間における最後の点であっても、測定区間における最後の最小点のいずれであってもよい。図5に図示の例においては、最後の最小点がT_最後として選択されている。
【0103】
図5から見て取れるように、区間部分集合[T_最初、T_最後]全体を通して、u(t)>u(T_最初)である。このことは、図2に図示の計算工程230に関連した上記の説明に従って、第2側度が、差(u(t)−u(T_最初))のT_最初からT_最後までの時間に対しての積分として計算されることを示唆している。つまり、第2側度は、u(t)曲線と一定値u(T_最初)によって規定された横線との間の面積として計算される。
【0104】
図6は、同じく計算工程230において実行する計算、すなわち本発明による方法における第2側度の計算方法を説明するための、皮膚コンダクタンス測定グラフの別のサンプルである。
【0105】
図6のグラフは、ある測定区間の間に測定された、患者の最初の皮膚コンダクタンス信号の部分集合を示している。測定区間の長さは、例えば15秒である。この測定区間内で、皮膚コンダクタンス信号における最初の局所最小点が識別され、T_最初と表わされる。この点は、区間部分集合[T_最初、T_最後]の最初の点として選択される。
【0106】
区間部分集合[T_最初、T_最後]における最後の点は、測定区間における最後の点であっても、測定区間における最後の最小点のいずれであってもよい。図5に図示の例においては、最後の最小点がT_最後として選択されている。
【0107】
図6から見て取れるように、区間部分集合[T_最初、T_最後]の一部においては、u(t)>u(T_最初)(横点線より上)であるのに対し、区間部分集合[T_最初、T_最後]の別の部分ではu(t)≦u(T_最初)(横点線より下)である。
【0108】
図2に図示の計算工程230に関連した上記の説明に従って、第2側度を、u(t)>u(T_最初)である部分区間における差(u(t)−u(T_最初))dtのT_最初からT_最後までの積分として計算する。u(t)≦u(T_最初)である部分区間においては、第2側度に寄与は加算されない(ゼロ)。
【0109】
つまり、第2側度は、u(t)>u(T_最初)である部分区間における、u(t)曲線と一定値u(T_最初)によって規定された横線との間の面積の合計として計算される。
【0110】
当業者ならば、本発明によって得られる出力信号Yが、麻酔導入中の相において低下することに気付く。
【0111】
上記の説明及び図は、本発明の特定の実施形態を表している。本発明の範囲内において、代替又は同等の実施形態が存在することが、当業者には明白である。例えば、皮膚コンダクタンスの代わりに皮膚インピーダンスを用いても、これらの変数が逆数の関係であることを考慮に入れる限り、当然ながら同等の結果が得られる。
【0112】
明細書及び請求項を通して「患者」と言う用語を使用する場合、本発明は主にヒトをモニタすることを対象したものであるが、動物、特には哺乳類のモニタに応用可能であると証明されてもいることを了解されたい。従って、「患者」という用語はヒト及び動物の患者双方を網羅するものと解釈されるべきである。
【0113】
本発明の概念は、上記の実施形態例に限定されず、本発明の範囲は、以下の特許請求項に記載されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎮静状態の患者の自律神経系の状態をモニタするための方法であり、
測定区間中に患者の皮膚のある領域で測定された皮膚コンダクタンス信号を送信し、
測定区間全体での皮膚コンダクタンス信号における局所最小点を識別し、
前記の識別された、連続する最小点の間の区間を積分区間として選択し、
各積分区間について、
積分区間の開始点及び終了点での皮膚コンダクタンス信号によって規定される線形ランプ関数を計算し、
皮膚コンダクタンス信号が線形ランプ関数を越える積分区間の部分集合において、皮膚コンダクタンス信号と線形ランプ関数との差の積分を計算し、
測定区間全体での前記積分の合計を、前記鎮静状態の患者の自律神経系の状態を反映する第1側度として計算する工程を含む方法。
【請求項2】
測定区間の最初の最小点から始まる測定区間の部分集合を選択し、
測定区間の最初の最小点での皮膚コンダクタンス値を一定値として選択し、
皮膚コンダクタンス信号が一定値を超える測定区間部分集合の部分集合において、皮膚コンダクタンス信号と一定値との差の積分を計算し、
測定区間全体での前記積分の合計を、前記沈静状態の患者の自律神経系の状態を反映する第2側度として計算する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
測定区間の前記部分集合の終点が、測定区間全体での皮膚コンダクタンス値の最後の最小点にて選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
測定区間の前記部分集合の終点が、測定区間における最後の点にて選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
第1側度及び第2側度のうち最大であるほうを、鎮静状態の患者の自律神経系の状態を反映する出力信号(Y)として用いる工程を更に含む、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記出力信号(Y)をディスプレイ上に表示する工程を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記測定区間が、5〜30秒の範囲内にある又はより好ましくは10〜25秒の範囲内にある又はより好ましくは約15秒である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
出力信号(Y)が出力信号値の既定の範囲(<Y1、Y2>)内にあるならば、疼痛表示信号を設定する工程を更に含む、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
Y1が、<0.05μSs、0.20μSs>の範囲内にある及びより好ましくは約0.1μSsであり、
Y2が、<0.5μSs、3.0μSs>の範囲内にある及びより好ましくは約2.0μSsである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
出力信号(Y)が既定の出力信号値(Y3)よりも大きければ、覚醒表示信号を設定する工程を更に含む、請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
Y3が、<0.5μSs、3.0μSs>の範囲内にある及びより好ましくは約2.0μSsである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
標準化された侵害刺激等の疼痛誘発刺激を患者に与える先行工程を更に含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
鎮静状態の患者の自律神経系の状態をモニタするための装置であり、
患者の皮膚のある領域で測定された皮膚コンダクタンス信号を送信するための測定機器と、
請求項1〜12の1項による方法を実行するように構成された制御ユニットとを含む装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−508956(P2010−508956A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536187(P2009−536187)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際出願番号】PCT/NO2007/000394
【国際公開番号】WO2008/056991
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(509129750)
【Fターム(参考)】