疾患及び障害を治療するためのアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストの使用
本発明は、ミオスタチンの増加若しくは調節不全を特徴とする障害、フォリスタチンとアンギオゲニンとの相互作用を利用して組織機能を改善することができる障害、神経疾患若しくは障害、脊髄傷害若しくは疾患、骨疾患若しくは障害、グルコース恒常性が関与する疾患の各治療、創傷治癒、神経保護、神経系の機能補助又は代謝性疾患の管理のための方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。アンギオゲニンを含む組成物及び栄養補助食品も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋消耗障害を含む筋障害を治療するための方法、及び筋機能、筋力、筋量又は運動耐容能を改善することにより筋形態を改善するための方法に関する。本発明は脂肪の低減方法、筋肉対脂肪比の改善方法、及び筋肉対脂肪比が最適を下回ることに起因する疾患或いはその状態を伴う疾患の治療のための方法にも関する。本発明はまた、フォリスタチンが媒介する細胞刺激を改善することにより治療可能な疾患の治療にも関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉はそれ自身を再生するための前駆細胞を有するが、疾患や傷害により筋肉量や筋力が喪失すると、完全には回復しないことが多い。従って、筋肉の成長を刺激したり筋肉の損失を阻止できる治療があれば多くの人々に有益となろう。
【0003】
筋肉の成長、重量又は機能を増大させることは、筋肉に有害な状態、例えば筋損傷や筋消耗、筋変性、筋萎縮、筋肉修復速度の低下等の治療に重要である。このような筋肉に有害な状態は通常の動作状態や外傷に起因することもあるが、慢性疾患状態によって起こることが非常に多い。
【0004】
治療を必要とする種々の筋肉障害に加え、骨密度の改善を目的として除脂肪量を増加させて筋肉対脂肪比を改善することが提案されている。マウス及び成人男性においては、除脂肪量と全身の骨密度が高いこととの間に相関関係があることが示されている。これとは逆に、体脂肪量が高めの人は骨密度が低下していることが示されている。従って、筋肉体脂肪比を改善すれば骨密度が改善され、骨粗鬆症等の骨障害の治療に特に有益となる可能性がある。
【0005】
更に、全く健康な人が筋形態や機能を改善することを望む場合もある。重い物を運搬する能力や持久力、スピード、全体的な体格を改善することが望まれることもあるが、これらは何れも筋量や筋機能を改善することによって達成することができる。更に、傷害を受けた筋肉の回復を改善することや、長時間使用した後の筋肉の回復に要する時間を短縮すること、例えばスポーツ選手のトレーニング間隔を短縮することにより運動耐容能を改善することが望まれる場合もある。
【0006】
畜産業、例えば食料源としての動物が扱われる場合には、筋肉の比率と重量を増大させる方法はこの産業に大きな利益をもたらすであろう。
【0007】
この分野の重要性に鑑み、筋肉の発達又は成長を制御する方法を開発することを目的とした研究が非常に多く進行中である。ミオスタチンは成人(成体)における筋肉成長の負の制御因子である(即ち、筋肉の成長を抑制する)ため、多くの研究はミオスタチンの阻害剤を見出すことを中心としている。
【0008】
フォリスタチンは、多くの組織で合成される35kDの糖タンパク質であり、アクチビン及びTGFβスーパーファミリーの他のメンバー(ミオスタチンや、ある種の骨形成タンパク質等)に対する結合タンパク質として作用する。フォリスタチンの筋制御における生理学的な役割は現時点において解明されていないが、数種類の天然ミオスタチン阻害剤のうちの1種といわれている。しかしながら、フォリスタチンを筋肉に投与すると筋量が増加することが認められており、これは、フォリスタチンがミオスタチンに結合してこれを無効化するためであると考えられている。筋肉成長を促進する治療剤としてフォリスタチンを用いる場合の一難点は、フォリスタチンがミオスタチン以外にも他のTGFβリガンド(例えば、アクチビン)と結合することにある。アクチビン活性が失われると、マウスの場合は多くの発達異常や新生マウスの死亡を誘発する。また、アクチビンは多くの種類の上皮組織の増殖も制限するため、フォリスタチンの投与によるアクチビン作用の阻害はこれらの組織の異常増殖、そして最終的にはガンを引き起こす可能性がある。
【0009】
現時点において、ミオスタチン活性を阻害する商業的医薬手段であって、同時にアクチビン活性を変化させることのない手段のうち認可されているものはない。他のTGFβファミリーのリガンドに結合することなくミオスタチンと結合してこれを無効化するミオスタチン抗体は既に開発されているが、抗体類は筋消耗障害治療における有用性を制限しかねない欠点を有し、また、治療分野以外の筋肉成長を目的として抗体を使用するとコストが高すぎて商業的に有利でないことは確実である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】グオ T.、ジョウ W.、シャントゥリア T.、ポルタス J.、ガブリローバ O.、マクフェロン A.C.、PLoS ONE、2009;4(3):e4937、Epub、2009年3月19日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の好ましい一実施形態の目的は、上述の一以上の問題に対処し、理想的には筋機能、筋力、筋重量及び/又は運動耐容能を改善するための筋肉障害治療を提供することにある。
【0012】
本明細書に引用する特許又は特許出願を含む全ての文献については、これらを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。本明細書では数々の従来文献が参照されているが、そのことは、これらの文献の何れかが当該技術分野における共通一般知識の一部を成すことの自認を構成するものではないことは明白であろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、一般にアンギオゲニンを投与することによる筋肉増加及び脂肪低減方法を提供する。
【0014】
本発明はその第一の様相において、個体中のミオスタチンの増加又は調節不全を特徴とする障害の治療方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0015】
本発明はその第二の様相において、組織機能を改善するためにフォリスタチンとアンギオゲニンとの相互作用を利用することが可能な障害の治療方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することによる方法を提供する。
【0016】
本発明はその第三の様相において、個体における筋肉成長を促進する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0017】
本発明はその第四の様相において、個体における筋肉の傷害又は使用からの回復を改善する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0018】
本発明はその第五の様相において、個体における筋力を改善する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0019】
本発明はその第六の様相において、個体における運動耐容能を改善する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0020】
本発明はその第七の様相において、個体における筋肉の比率を増加させる方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0021】
本発明はその第八の様相において、個体における脂肪を低減させる方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0022】
本発明はその第九の様相において、個体における脂肪対筋肉比を低下させる方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0023】
筋量又は筋肉対脂肪比とインスリン感受性/メタボリック症候群との間には関連性があることから(非特許文献1)、第七〜第九の様相の方法によってメタボリック症候群を治療することができ、或いはインスリン感受性を高めることができることが提案される。
【0024】
本発明はその第十の様相において、第九の様相の方法に従い個体の筋肉対脂肪比を改善することにより骨密度を改善する方法を提供する。
【0025】
アンギオゲニンが、筋肉成長の負の制御因子としてのミオスタチンの作用を抑制又は逆転させることが可能であることが提案されている。
【0026】
ミオスタチン及び/又はフォリスタチン及び/又はアンギオゲニンは筋細胞以外の細胞に作用し、神経細胞、骨細胞(破骨細胞)及び内皮細胞に作用し得ることも提案されている。
【0027】
従って、本発明はその第十一の様相において、神経疾患若しくは障害、脊髄傷害若しくは疾患、骨疾患若しくは障害、グルコース恒常性が関与する疾患の治療方法、創傷治癒方法又は神経保護、神経系の機能補助及び代謝性疾患の管理を提供する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0028】
投与されたアンギオゲニンが内因性のフォリスタチンと共に作用し得ることが提案されているが、本発明者らは、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストをフォリスタチンと共に(同時又は順次の何れかで)投与すると、フォリスタチン単独又はアンギオゲニン単独で投与した場合と比較して、相加作用を上回る作用が得られることを示した。
【0029】
アンギオゲニン阻害剤又はアンギオゲニンアンタゴニストは、筋肉の増加量若しくは絶対量の低減又は脂肪若しくは脂肪対筋肉比の増加又はミオスタチンの増加が望ましい疾患又は状態の治療に有用であり得ることから、本発明者らの知見が裏から見ても正しいことが理解されよう。
【0030】
本発明者らは、ミルクから抽出したウシアンギオゲニンのヒト細胞への作用を研究してきた。本発明者らは、ウシアンギオゲニンがマトリゲル上でヒト血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と同様にヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の血管新生を誘導できることを確認した。
【0031】
そして本発明者らは、ミルクから抽出されたウシアンギオゲニンの正常なマウスにおける作用について試験を実施した。被験群では、ウシアンギオゲニンを含む飼料を給餌した場合に四頭筋の筋肉重量が増加すると共に腹部の脂肪パッド重量が低下した。こうして実証された除脂肪筋肉量の増加及び体脂肪量低下におけるアンギオゲニンの役割から、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストの投与を含む方法には、筋肉組織を増加させることが治療上有益となるであろう幅広い用途(家畜の生産、筋肉障害、一般的な健康増進及び体格に関する等)があることが示される。本発明はまた、代謝や脂肪組織に関連する疾患及び障害の治療にも有用であろう。
【0032】
従来技術において筋量の増加及び体脂肪量の低下のためにフォリスタチンを投与することが教示されていることを考えると、本発明者らの知見は特に驚くべきことである。特定の理論に束縛されことを望むものではないが、本発明者らは、アンギオゲニン及びフォリスタチンが筋管形成を刺激することと、ミオスタチンが筋管形成を著しく阻害することとを提案する。アンギオゲニンはミオスタチンの作用を実質的に逆転させることが提案されている。本発明者らは、アンギオゲニンとフォリスタチンとの相互作用が、筋肉細胞以外の細胞種の刺激、増殖及び発生に重要な機序であることを提案する。従って、フォリスタチンを介して細胞に及ぼされる作用を改善することが疾患又は状態の治療に有益である状態の治療にアンギオゲニンの投与を利用することができる。
【0033】
アンギオゲニンがフォリスタチンとの相互作用を介して筋肉成長及び脂肪の減少に作用するという機序の提案は、筋肉の筋芽細胞をアンギオゲニン又はフォリスタチンの何れか一方で処理した対照においては筋肉成長は刺激されないが、アンギオゲニン及びフォリスタチンの両方を投与すると刺激されるという本発明者らのインビトロ試験によって支持される。
【0034】
第一〜十一の様相のいずれか一様相の一実施形態においては、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストがフォリスタチンと共に投与される。
【0035】
第一〜十一の様相のいずれか一様相の一実施形態においては、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストが経口投与される。
【0036】
第一〜十一の様相のいずれか一様相の一実施形態においては、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストが経口投与され、且つフォリスタチンが非経口投与される。
【0037】
本発明はその第十二の様相において、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニスト及びフォリスタチンを含む組成物を提供する。
【0038】
第一〜十二の様相のいずれかの様相の一実施形態においては、アンギオゲニンは組換えアンギオゲニン、好ましくはヒト又はウシ組換えアンギオゲニンである。
【0039】
第一〜十二の様相のいずれかの様相の一実施形態においては、アンギオゲニンは、ミルク又は血漿、特に、ウシ乳又はウシ若しくはヒト血漿由来の富化抽出物として提供される。このような富化抽出物は純粋なアンギオゲニンではないが、アンギオゲニン活性を提供するという点でアンギオゲニンアゴニストである。
【0040】
本発明の方法又は組成物に使用されるフォリスタチンは、組換え型であってもよいし、或いはミルク又は血漿、特に、ウシ乳又はウシ若しくはヒト血漿由来の富化抽出物として提供されることができる。
【0041】
本発明はその第十三の様相において、ミオスタチンの増加を特徴とする障害を治療するための、フォリスタチンとアンギオゲニンとの相互作用を利用して組織機能を改善することができる障害を治療するための、筋肉成長を促進するための、筋肉の傷害若しくは使用からの回復を改善するための、筋力を改善するための、運動耐容能を改善するための、筋肉の比率を増加させるための、脂肪を低減するための、個体の脂肪対筋肉比を低下させるための、神経疾患若しくは障害を治療するための、脊髄傷害若しくは疾患を治療するための、骨疾患若しくは障害を治療するための、グルコース恒常性が関与する疾患を治療するための、創傷を治癒するための、神経保護、神経系の機能補助、代謝性疾患の管理及び/又は個体の骨密度の増加を提供するための、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを含む組成物、食品サプリメント又は栄養補助食品を提供する。
【0042】
本発明はその第十四の様相において、ミオスタチンの増加を特徴とする障害を治療するための、フォリスタチン及びアンギオゲニンの相互作用を利用して組織機能を改善することができる障害を治療するための、筋肉成長を促進するための、筋肉の傷害若しくは使用からの回復を改善するための、筋力を改善するための、運動耐容能を改善するための、筋肉の比率を増加させるための、脂肪を低減するための、個体の脂肪対筋肉比の低下及び/又は個体の骨密度を増加させるための医薬品の製造におけるアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストの使用を提供する。
【0043】
第十四の様相の一実施形態においては、前記医薬品は、更にフォリスタチンを含有する。
【0044】
第十四の様相の他の実施形態においては、前記医薬品は、フォリスタチンを用いた治療を受けている個体に投与するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】10倍の倍率で撮影したヒト内皮細胞(HUVEC)を示す。Aはアンギオゲニン(100ng/mL)を用いた処理に起因する血管発生を示し、Bは陽性対照であるVEGF(10ng/mL)、Cは陰性対照を示す。
【図2】カゼイン、BSA、フォリスタチン、アンギオゲニン又はフォリスタチン+アンギオゲニン投与又は陽性対照(DMEM及び10%FCS)におけるインビトロでのマウスC2C12筋芽細胞の増殖を例示する棒グラフ。
【図3】bアンギオゲニン及びhアンギオゲニンが無血清下に用量依存的に筋芽細胞の筋管への分化を誘導させることができることを示す。6ウェルプレート上でC2C12筋芽細胞をbアンギオゲニン(bANG)又はhアンギオゲニン(hANG)添加DMEM(対照)中で培養した。96時間後に撮影した画像は、対照であるDMEM培地と比較して、bANG及びhANGが両方共筋管形成を誘導することを示す。
【図4】ウシアンギオゲニンが2%HSの存在下において用量依存的に筋管形成を誘導することを示す。bアンギオゲニン(bANG)又はhアンギオゲニン(hANG)が添加された分化培地(DMEM+2%HS;対照)中でC2C12筋芽細胞を培養した。96時間後に撮影した画像は、対照培地と比較してbANGが筋管形成を誘導することを示す。rhANGは、アンギオゲニンが誘導因子であることを示す。
【図5】ウシアンギオゲニンがFSと相互作用することによって筋管形成を促進することを示す。C2C12筋芽細胞をウシアンギオゲニン(bANG)、フォリスタチン(FS)又はこれらの組合せを添加した分化培地(DMEM+2%HS;対照)中で培養した。96時間後の画像(a)及びCK分析(b)は、何れか一方の試薬を単独で用いた場合と比較して、bANGがFSと相互作用して相乗的に筋管形成を誘導することを示す。
【図6】C2C12細胞を分化させて筋管形成させた2時間後の、発現量が異なる遺伝子の階層型クラスタリング(少なくとも±1.6の倍数変化及びP<.05を基準とする)を示す。C2C12筋芽細胞をウシアンギオゲニン、フォリスタチン又はこれらの組合せを添加した分化培地(DMEM+2%HS;対照)中で培養した。発現が増加した遺伝子を赤で示し、発現が減少した遺伝子を青で示し、発現量が変化しなかった遺伝子を黄色で示す。
【図7】アンギオゲニンブロッキングペプチドが筋管形成を阻害することを示す。このペプチド(VFSVRVSILVF)は、アンギオゲニン/アクチン相互作用を特異的にブロックし、アンギオゲニンによる筋管形成の誘導を阻害する。
【図8】ミオスタチンが筋管形成に及ぼす作用をウシアンギオゲニンが制御できることを示す。アンギオゲニンは、ミオスタチン(Myo)が筋肉の筋管形成に及ぼす負の作用を打ち消すことができる。アンギオゲニン−フォリスタチン相乗機構によって、ミオスタチンの存在下においても管形成が対照水準まで回復する。
【図9】ミオスタチンが筋管形成に及ぼす作用をアンギオゲニンが制御できることを示す。アンギオゲニンは、ミオスタチン(Myo)が筋肉の筋管形成に及ぼす負の作用を打ち消すことができる。アンギオゲニン−フォリスタチン相乗機構によって、ミオスタチンの存在下においても管形成が対照水準まで回復する。
【図10】rhアンギオゲニン単独又はrhフォリスタチン単独の場合と比較すると、rhアンギオゲニン+rhフォリスタチンの存在下においてはPC12細胞が血清飢餓における細胞死から保護されることを示す。結果を同型培養のMean+SEMとして示す(培地のみの対照は×12レプリケート;rhアンギオゲニン(1.0μg/mL)、bアンギオゲニン(10μg/mL)及びrhフォリスタチン(0.1μg/mL)は×6レプリケート;rhNGF対照は×3レプリケート)。
【図11】rhアンギオゲニン単独又はrhフォリスタチン単独の場合と比較すると、rhアンギオゲニン+rhフォリスタチンの存在下においてはPC12細胞が血清飢餓における細胞死から保護されることを示す。結果を同型培養のMean+SEMとして示す(培地のみの対照は×12レプリケート;rhアンギオゲニン(1.0μg/mL)、bアンギオゲニン(10μg/mL)及びrhフォリスタチン(0.1μg/mL)は×6レプリケート;rhNGF対照は×3レプリケート)。
【図12】アンギオゲニンを飼料中に2.5μg/gとして自由給餌条件でマウスに給餌し、標準的な齧歯類用回し車で自由に運動させた場合に、四頭筋重量が1ヶ月間で増加することを示す。
【図13】アンギオゲニンを飼料中に2.5μg/gとして自由給餌条件でマウスに給餌し、標準的な齧歯類用回し車で自由に運動させた場合に、筋線維種の断面積(SA)が1ヶ月間で変化することを示す。対照動物の群平均を白色の棒グラフで表し、アンギオゲニン処理した動物の群平均を黒色の棒グラフで表す。標準偏差を示す。
【図14】アンギオゲニンを飼料中に2.5μg/gとして自由給餌条件でマウスに給餌し、標準的な齧歯類用回し車で自由に運動させた場合に、1日当たりの走行距離が1ヶ月間で増加することを示す。
【図15】アンギオゲニンを飼料中に2.5μg/飼料(g)として自由給餌条件でMDXマウスに給餌し、標準的な齧歯類用回し車で自由に運動させた場合に、四頭筋の筋肉壊死面積が低減されることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
アンギオゲニンは、血管内皮細胞、大動脈平滑筋細胞、フィブロブラスト等の増殖細胞及び直腸ガン、卵巣ガン、乳ガン等の腫瘍によって生産される分子量14kDaの非グリコシル化ポリペプチドである。アンギオゲニンは、正常ヒト血漿、ウシ血漿、ウシ乳(bovine milk)、マウス、ウサギ及びブタの血清等、種々の原料から単離されている。
【0047】
アンギオゲニンは膵臓リボヌクレアーゼの同族体であり、異なるリボ核酸分解活性を示す。このタンパク質は血管新生能を有するが、このタンパク質により誘導される血管新生においてアンギオゲニンのリボ核酸分解活性がどのような役割を果たしているかは未だ解明されていない。
【0048】
アンギオゲニンは血管新生の強力な刺激剤である以外にも、他の多くの活性を有することが示されている。しかしながら、血管新生の増強を介するもの以外にアンギオゲニンが筋肉に及ぼす影響は未だ開示されていない。
【0049】
本発明者らは、ミルク分画をカチオン交換クロマトグラフィーに付すことにより得られるアンギオゲニン富化精製物が、フォリスタチン(アンギオゲニンとは著しく異なる荷電特性を有する)も含有することを示した(データは示さず)。従来技術において、アンギオゲニン及びフォリスタチンは、酵母ツーハイブリッドモデルにおいて互いに結合することが示されている。本発明者らは、哺乳動物細胞内におけるアンギオゲニン及びフォリスタチンの生物学的に意味のある相互作用を初めて示した。フォリスタチンは、筋肉の成長及び発達を制御するといわれているタンパク質であるミオスタチンのアンタゴニストとして知られている。
【0050】
本発明はその一様相において障害の治療に関する。本明細書において「治療する(treating)」及び「治療(treatment)」とは、症状の重症度及び/又は頻度の低減、症状及び/又はその根底にある原因の解消、症状の発生の予防及び/又はその根底にある原因の発生の予防並びに損傷の改善若しくは修復を意味する。従って、例えば、障害を「治療する」本方法は、障害に罹りやすい個体における障害の予防及び臨床症状を示す個体の障害の治療の両方を含む。
【0051】
本明細書において「治療する」とは、脊椎動物や哺乳類(特にヒト)における症状の治療又は予防のいずれにも亘り、且つ症状の阻止、即ちその進展を止めること、或いは症状の影響の緩和又は改善、即ち症状の影響を後退させることを含む。
【0052】
本明細書において「予防(prophylaxis)」又は「予防的(prophylactic又はpreventative)治療とは、症状に罹りやすい可能性はあるが未だその症状を有するとは診断されていない被験体において、症状の発生を予防すること、或いは症状のその後の進展を改善することを含む。
【0053】
従来技術においてミオスタチンは筋肉の発達及び多数の関連する障害又は疾患に関与しているといわれている。成体においては、ミオスタチンmRNAは、脂肪組織及び心臓組織において認められるより低濃度ではあるものの、主として骨格筋中にその存在が認められる。ミオスタチンノックアウトマウスはその野生型同腹仔の2〜3倍高い筋量を有する。筋量の増加は線維肥大及び過形成の結果である。更に、ミオスタチンノックアウトマウスは、その野生型同腹仔よりも脂肪蓄積量が少ないものの、それ以外は正常且つ健康な様子を呈する。最近では、ミオスタチンが脂肪生成の重要な制御因子であることも示されている。更に、最近では、ミオスタチン欠損マウスの骨構造及び骨量に関する研究が行われている。
【0054】
本発明者らは、アンギオゲニンが筋肉に及ぼす作用をミオスタチンが実際に拮抗することを提案していることから、過去にミオスタチンを阻害することが提言されているいずれかの疾患の治療にアンギオゲニンを使用できることを提案する。
【0055】
従って、本発明によれば、アンギオゲニンを筋量の増加、骨密度の増加、筋消耗の低減に使用することができ、また、哺乳動物(好ましくはヒト)において、ミオスタチンの存在が望ましくない病理学的影響の原因となるか若しくはそれに寄与する状態、或いはミオスタチンレベルを低下させることによって治療効果が得られる状態の治療又は予防に有用であることができる。更に、ミオスタチンが調節不全ではないものの、フォリスタチンが媒介する細胞刺激を外来性のアンギオゲニンを添加することにより改善することができる状態の治療にアンギオゲニンを使用することができる。
【0056】
アンギオゲニンは、被験体の筋肉又は脂肪組織の量、発達又は代謝活性の異常を少なくとも一部の特徴とする病的状態の重症度を軽減するために使用することができる。これを投与することによって、カヘキシア、食欲不振、AIDS消耗症候群、筋ジストロフィー、神経筋疾患、運動ニューロン疾患、神経筋接合部の疾患、炎症性筋疾患等の消耗性障害の予防、緩和又は重症度の軽減が可能となる。
【0057】
「ミオスタチンに関連する障害」とは、筋肉、骨又はグルコース恒常性の障害を意味し、ミオスタチンの異常に関連する障害が含まれる。
【0058】
本発明は、筋障害及び筋変性の特性に関連する疾患の治療にまで拡張される。このような障害としては、種々の神経筋疾患、心不全、単一の筋肉(例えば、収縮筋又は膀胱筋)の筋力低下、血管平滑筋細胞の収縮機能の問題によって起こる低血圧又は高血圧、性交不能/勃起障害、失禁、AIDSに関連する筋力低下、一般的な加齢による筋萎縮等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
本発明における筋障害としては、特に、筋消耗状態又は筋消耗が主要な一症状である障害が挙げられる。
【0060】
筋肉は主として力の源として機能する身体組織である。身体には3種類の筋肉が存在する即ち、a)骨格筋(動作、姿勢の維持及び呼吸ができるように骨格に伝達される力の発生に関与する横紋筋、b)心筋(心臓の筋肉)及びc)平滑筋(動脈及び腸壁の筋肉)である。本発明の方法は、特に骨格筋に適用することができるが、心筋又は平滑筋にもある程度の効果を有し得る。
【0061】
骨格筋線維はタイプI(酸化/遅)又はタイプII(解糖/速)線維に大別される。これらは、密集度、代謝及び疲労しやすさに関して顕著な差異がある。タイプI線維はミトコンドリアに富み、主としてエネルギーを産生するための酸化的代謝に利用され、ATPを長時間に亘って安定供給するため疲労しにくい。タイプII線維には、IIa、IIx及びlIbの3つのサブタイプが含まれる。タイプlIb線維はミトコンドリアの含有量及び酸化酵素の量が最も少なく、主なエネルギー源を解糖代謝に依存しており、疲労しやすく、一方、タイプIIa及びIIxの酸化及び収縮機能はタイプI及びIIbの中間である。成体の骨格筋は可塑性を示し、運動トレーニング又は運動ニューロン活性の調節に応じて異なるタイプの線維に転換することができる。
【0062】
スポーツ選手の筋線維組成を測定すると、持久系競技の精鋭選手のトレーニングされた筋系には比較的タイプII線維よりもタイプI線維が多いことが判明している。マラソン選手もタイプI線維の方が多い傾向にある。タイプI線維は肉体の持久力を支配する因子であり得ることが提案されている。
【0063】
これに反して、加齢及び肉体の不活性は、タイプI線維、酸化能及びインスリン感受性の減少に伴う状態である。筋肉の酸化能は、持久力及び疲労耐性を決定する重要な因子であると思われる。骨格筋には、持久力訓練に対し酸化型筋線維(タイプI線維)の数を制御する適応代謝応答が存在すると思われる。
【0064】
骨格筋線維タイプIIbからタイプIIa及びタイプIへの転換は種々のシグナル伝達経路によって調節される。例えば、Ras/マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、カルシニュリン、カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼFV及びペルオキシソーム増殖因子y活性化補助因子1(PGC−I)が挙げられる。アンギオゲニンがこれらの経路を調節することができ、このような調節が骨格筋線維に影響することができる。
【0065】
「筋消耗」とは、動作を制御する骨格又は随意筋、心臓を調節する心筋及び平滑筋を含む筋肉の進行性の筋量減少及び/又は進行性の筋力低下及び筋変性を意味する。一実施形態においては、筋消耗状態又は障害は慢性的な筋消耗状態又は障害である。本明細書において「慢性的な筋消耗」とは、慢性的な(即ち長期間続く)進行性の筋量減少及び/又は慢性的な進行性の筋力低下及び筋変性と定義される。
【0066】
筋消耗の際に起こる筋量の減少は、筋タンパク異化による筋タンパク質の破壊又は分解によって特徴づけることができる。タンパク異化は、タンパク質分解速度が異常に速いか、タンパク質合成速度が異常に遅いか、或いはこれらの両方が重なることによって起こる。タンパク質の異化又は欠乏は、タンパク質分解の度合いが高いこと又はタンパク質合成の度合いが低いことのどちらが原因であっても、筋量の減少及び筋消耗を引き起こす。「異化」とは、当該技術分野において通常知られている意味であり、具体的には代謝のエネルギー燃焼形態である。
【0067】
筋消耗は病態、疾患、状態又は障害の結果として起こり得る。一実施形態においては、この病態、疾病、疾患又は状態は慢性的である。他の実施形態においては、この病態、疾病、疾患又は状態は遺伝的である。他の実施形態においては、この病態、疾病、疾患又は状態は神経性である。他の実施形態においては、この病態、疾病、疾患又は状態は感染性である。本明細書に記載したように、本発明の化合物及び組成物が投与される病態、疾患、状態又は障害は直接的或いは間接的に筋量の消耗(即ち減少)を生じさせるもの、即ち筋消耗障害である。
【0068】
関節又は骨格の変形を伴う神経筋疾患の治療が特に好ましい。一実施形態においては、被験体の筋消耗は、被験体が筋ジストロフィー、筋萎縮症又はX連鎖球脊髄性筋萎縮症(SBMA)を有する結果として起こる。
【0069】
筋ジストロフィーは、動作を制御する骨格又は随意筋の進行性の筋力低下及び変性を特徴とする遺伝性疾患である。心筋及び他の一部の不随意筋も、ある種の形態の筋ジストロフィーとなる。筋ジストロフィー(MD)の主な形態はデュシェンヌ型筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー及びエメリー・ドレフュス型筋ジストロフィーである。
【0070】
筋ジストロフィーはあらゆる年齢層で罹患する可能性がある。一部の形態は幼少期に明らかとなるが、それ以外は中年期或いはそれ以降まで現れない場合もある。デュシェンヌ型MDは最も一般的な形態であり、通常小児に罹患する。筋緊張性ジストロフィーは、この疾患の成人の中では最も一般的なものである。
【0071】
筋萎縮症(MA)は、筋肉の衰弱又は縮小及び筋量の減少を特徴とする。例えば、ポリオ後のMAは、ポリオ後症候群(PPS)の一部として起こる筋消耗である。この萎縮には、脱力感、筋肉疲労及び痛みが伴う。
【0072】
MAの他のタイプはX連鎖球脊髄性筋萎縮症(SBMA、ケネディ病としても知られる)である。この疾患はX染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子欠損に起因し、男性のみが罹患し、成人期になってから発症する。
【0073】
サルコペニアは、高齢の慢性疾患患者を悩ませる衰弱性疾患であり、筋量及び筋機能の低下を特徴とする。更に、特定の筋消耗障害では除脂肪体重が増加するに伴い罹患率及び死亡率が低下する。更に、他の環境及び条件が筋消耗障害に関与し、その原因となっている可能性がある。例えば、慢性腰痛の重症症例研究においては、傍脊柱筋消耗の存在が示されている。
【0074】
筋消耗及び他の組織消耗は高齢になることにも関連する。老年者の一般的な脱力感は筋消耗に起因すると考えられている。肉体が老化するに従い、骨格筋の比率が次第に線維組織に置換される。その結果、筋力、動作及び持久力が著しく低下する。
【0075】
疾病若しくは傷害による長期入院や廃用による体力の減退(例えば、四肢が固定された場合に起こる)によっても筋消耗や他の組織消耗が起こり得る。傷害、慢性疾病、熱傷、外傷又はガンを患う長期入院患者において、長期間持続する片側性の筋消耗及び体重減少があることが各種調査により分かっている。
【0076】
中枢神経系(CNS)の傷害や損傷も、筋消耗及び他の消耗性障害と関連している。CNSの傷害又は損傷は、例えば、疾患、外傷又は薬品によって起こり得る。その例としては、中枢神経の傷害又は損傷、末梢神経の傷害又は損傷、脊髄の傷害又は損傷が挙げられる。一実施形態においては、CNSの損傷又は傷害には、アルツハイマー病(AD)、卒中、怒り(気分)、食欲不振、神経性食欲不振症、加齢及び/又は自己主張(気分)に伴う食欲不振が含まれる。
【0077】
他の実施形態においては、筋消耗又は他の組織の消耗は、アルコール依存症に起因することもある。
【0078】
一実施形態においては、治療される消耗性疾患、障害又は状態は、慢性疾病に関連するものである。
【0079】
この実施形態は、組織質量の低下に起因する筋消耗、体重減少、栄養不良、飢餓又はいずれかの機能の消耗若しくは喪失に反映され得る消耗性障害のいずれかの治療に関する。
【0080】
幾つかの実施形態においては、本発明の方法により、消耗性疾患若しくは障害(カヘキシア等)、栄養不良、結核、ライ病、糖尿病、腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ガン、末期腎不全、サルコペニア、肺気腫、骨軟化症又は心筋症を治療することができる。
【0081】
幾つかの実施形態においては、消耗は、エンテロウイルス、エプスタイン・バールウイルス、帯状疱疹、HIV、トリパノソーマ、インフルエンザ、コクサッキー、リケッチア、旋毛虫、住血吸虫又はマイコバクテリアの感染に起因する。
【0082】
カヘキシアは疾患又は疾病副作用によって起こる脱力感及び体重減少である。心臓性カヘキシア、即ち心筋及び骨格筋の両方の筋タンパクの消耗は鬱血性心不全に特徴的である。ガン性カヘキシアは、固形腫瘍及び血液悪性腫瘍の患者に発生する症候群であり、脂肪組織量及び除脂肪筋肉量の両方が大量に失われることによる体重減少が著明である。
【0083】
また、カヘキシアは後天性免疫不全症候群(AIDS)においても見られ、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)に関連するミオパシー及び/又は筋力低下/筋消耗はAIDSの比較的一般的な臨床症状である。HIVに関連するミオパシー又は筋力低下又は筋消耗を有する個体は通常著しい体重減少、全身又は近位筋力の低下、圧痛及び筋萎縮を経験する。
【0084】
筋消耗性障害を治療しないと深刻な健康状態となり得る。筋消耗の際に起こる変化によって肉体状態が衰弱する結果、身体機能が衰え、健康に悪影響が及ぼされる。
【0085】
従って、固定後の患者に筋萎縮があると、患者のリハビリが非常に制限される可能性がある。慢性疾患による筋消耗は、可動性を早期に喪失させたり、疾患に関連する罹患のリスクを増大させる可能性がある。廃用による筋消耗は、年齢に伴う筋機能及び筋量不足に既に悩むこともある高齢者にとって特に深刻な問題であり、その結果として不可逆的な身体障害や早期死亡のみならず骨折率の増加も起こる。この状態の臨床的な重大さにも拘わらず、この状態を予防又は回復させる治療はほとんど存在しない。本発明者らは、上に挙げた何れかの状態を伴う筋消耗又は筋萎縮の予防及び治療にアンギオゲニンが使用できることを提案する。
【0086】
アンギオゲニンは、特にフォリスタチンと併用するか或いは経口投与した場合に神経保護作用を示し、従って、神経系に影響する神経障害又は疾患、特に運動ニューロン疾患の治療に有用であることことが本明細書に示される。アンギオゲニンで治療することができる運動ニューロン疾患の例としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(ルー・ゲーリック病としても知られる)や小児脊髄性進行性筋萎縮症(SMA、SMA1又はWH)(SMA1型、ウェルドニッヒ・ホフマン症としても知られる)、中間型脊髄性筋萎縮症(SMA又はSMA2)(SMA2型としても知られる)、若年型脊髄性筋萎縮症(SMA、SMA3又はKW)(SMA3型、クーゲルベルク・ヴェランダーとしても知られる)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)(ケネディ病及びX連鎖SBMAとしても知られる)、成人型脊髄性筋萎縮症(SMA)が挙げられる。
【0087】
アンギオゲニンで治療することができる炎症性ミオパシーの例としては、皮膚筋炎(PM/DM)や多発性筋炎(PM/DM)、封入体筋炎(IBM)が挙げられる。
【0088】
アンギオゲニンで治療することができる神経筋接合部の疾患の例としては、重症筋無力症(MG)やランバート・イートン症候群(LES)、先天性筋無力症候群(CMS)が挙げられる。
【0089】
アンギオゲニンで治療することができる内分泌異常に起因するミオパシーの例としては、甲状腺機能亢進性ミオパシー(HYPTM)及び甲状腺機能低下性ミオパシー(HYPOTM)が挙げられる。
【0090】
アンギオゲニンで治療することができる末梢神経疾患としては、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)やデジュリーヌ・ソッタス病(DS)、フリートライヒ失調症(FA)が挙げられる。
【0091】
アンギオゲニンで治療することができる他のミオパシーの例としては、先天性筋強直症(MC)や先天性パラミオトニア(PC)、セントラルコア病(CCD)、ネマリンミオパシー(NM)、筋細管ミオパシー(MTM又はMM)、周期性麻痺(PP)が挙げられる。
【0092】
アンギオゲニンはまた、創傷治癒の促進及び創傷治療にも用いることができ、この使用はどちらも以前からミオスタチン阻害剤として提案されていたものである。
【0093】
アンギオゲニンで治療することができる筋肉の代謝疾患の例としては、ホスホリラーゼ欠損(MPD又はPYGM)や酸マルターゼ欠損(AMD)、ホスホフルクトキナーゼ欠損(PFKM)、脱分岐酵素欠損(DBD)、ミトコンドリア・ミオパシー(MITO)、カルニチン欠損(CD)、カルニチンパルミチールトランスフェラーゼ欠損(CPT)、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損(PGK)、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損(PGAM又はPGAMM)、乳酸脱水素酵素欠損(LDHA)、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損(MAD)が挙げられる。これらの疾患はミオスタチン阻害剤による治療が以前から提案されていたものである。
【0094】
本発明者らは、本明細書に記載する実験においてアンギオゲニンが脂肪を低減させることを示す。このことは以前からミオスタチン阻害剤に関し示されていたことであり、アンギオゲニンが脂質代謝障害が関与する疾患(脂質異常症等)及びこれに関連する脂質異常(高脂血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、混合型脂質異常症等)の治療に使用できることを示している。
【0095】
脂質異常症は、脂質代謝の変化による循環脂質レベルの異常を特徴とする。このような異常には、異なる循環脂質分画(コレステロール、トリグリセリド、リポタンパク)の何れか1種以上が含まれる得る。脂質異常症には、血清コレステロールが上昇して正常な上限値(ヒトの血中における安全な正常上限値は約125〜200mg/dLの範囲である)を上回る高コレステロール血症、血清トリグリセリドが上昇して正常レベル(ヒトの血中における安全な正常上限値は約30〜140mg/dLの範囲である)を上回る高トリグリセリド血症及び混合型脂質障害が含まれる。
【0096】
脂質異常症には、高トリグリセリド血症及び混合型脂質異常症(高脂血症)が含まれる。高トリグリセリド血症には超低比重リポタンパク(VLDL)レベルの上昇が関与する一方、混合型脂質異常症(高脂血症)には高トリグリセリド血症及び高コレステロール血症の併発が関与しており、高比重リポタンパク(HDL)レベルの低下も関与している場合が多い。従って、脂質異常症は、リポタンパクの過剰産生又は欠乏を引き起こすリポタンパク代謝の障害でもある。脂質異常症は通常次に示す1以上の特徴を有する:血漿トリグリセリドの上昇、血漿総コレステロールの上昇、高比重リポタンパクコレステロール(HDL−c)の低下、低比重リポタンパクコレステロール(LDL−c)レベルの上昇。例えば、脂質異常症は次の1以上の状態を有することができる:低HDL−c(<35又は40mg/dL)、高トリグリセリド(>200mg/dL)、高LDL−c(>150mg/dL)、コレステロールの上昇(>200mg/dL)。
【0097】
脂質異常症が心血管血管疾患(CVD)及びアテローム発生の主要な一危険因子であることは広く認識されている。心血管障害は、世界的に身体障害及び死亡の主たる原因である。高血清コレステロール、特にLDL及びVLDLに結合するコレステロールはアテローム発生の主な危険因子の一種である。高トリグリセリド、小粒子LDLの増加及びHDLレベルの低下は、いずれも独立にアテローム生成性を有すると思われる。血漿HDLとCVDのリスクとの間には強い逆相関がある。LDLコレステロールとCVDのリスクとの間には正の相関が存在する。従って、LDL及びVLDLレベルが増大すると冠動脈疾患のリスクが上昇する一方、HDL中で高レベルのコレステロールが輸送されると冠動脈疾患から保護される。トリグリセリドはまた、CVDにおいても重要な役割を果たすと思われる。空腹時トリグリセリドレベルが高いと、HDLコレステロール等、他の主要な危険因子とは無関係に、高齢男性の虚血性心疾患の強い危険因子となる。血清のコレステロール及びトリグリセリドの両方のレベルが上昇することを特徴とする複合型高脂血症を有する人は、LDLコレステロールレベルのみが高い人よりも心疾患のリスクが高い。従って、両方のレベルを低下させることが望ましい目標である。
【0098】
グルコース代謝障害及びインスリン作用の障害に関係のある疾患としては、糖尿病、特に1型及び2型糖尿病、その中でも特に、(非自己免疫性)インスリン非依存型糖尿病(NIDDM;いわゆる2型糖尿病)が挙げられる。他のこの種の疾患はシンドロームX、即ちメタボリック症候群である。
【0099】
糖尿病とは、複数の成因による複合的な代謝疾患を定義するものであり、グルコース代謝障害を特徴とし、通常はタンパク質及び脂肪代謝障害を伴う。その結果として、空腹時及び食後の血清グルコースが上昇し、治療を行わずに放置すると合併症を引き起こす。糖尿病には4種の異なる形態が知られており、(1)1型糖尿病、(2)2型糖尿病、(3)妊娠中に初めて発症するか発見される、いわゆる妊娠糖尿病及び(4)主として遺伝子異常に基づく他の数種の形態がある。
【0100】
「糖尿病」とは、血糖値の上昇、肥満に伴う病態、耐糖能異常、インスリン抵抗性の上昇、高脂血症、脂質異常症、コレステロールの上昇(高コレステロール血症、高グリセリド血症)、高インスリン血症、高血圧、ミクロアルブミン尿症等の代謝異常を含むがこれらに限定されない。耐糖能異常及び空腹時血糖異常は糖尿病前症と称される二症状である。この段階にはいわゆるインスリン抵抗性が関与しており、「シンドロームX」又は「メタボリック症候群」と呼ばれる代謝疾患群の中の一種であり、特に、高い脂肪対筋肉比が関与している。2型糖尿病には高トリグリセリド血症や脂質異常症等のシンドロームXに由来する他の症状が伴うことが多いため、アンギオゲニンを使用することで被験体の脂肪対筋肉比が大きく改善されるはずであるから、本発明の方法はシンドロームXの治療又は予防にも有用である。
【0101】
1型及び2型糖尿病は糖尿病の主要な2形態であり、その中でも2型糖尿病が最も一般的な形態である。1型及び2型糖尿病には、高血糖、高コレステロール血症及び高脂血症が関連している。1型及び2型糖尿病では、インスリン非感受性やインスリンの絶対的欠乏によって、肝臓、筋肉及び脂肪組織に利用されるグルコースが減少し、血糖値が増大する。高血糖がコントロールされないと、眼、心臓、血管、腎臓、神経等の種々の臓器の機能不全や損傷が随伴し、それによって腎症、神経障害、網膜症、下肢及び足の潰瘍化、脂肪肝疾患、高血圧、心血管疾患及び脳血管疾患(卒中)等の微小血管及び大血管疾患、即ちいわゆる糖尿病合併症のリスクが高まることにより、若年死亡率が増加する結果となる。
【0102】
最近では、1型及び2型糖尿病の両者において厳格な血糖コントロールを行うことが合併症を予防するための主なファクターであることが実証されている。従って、薬物及び治療投薬計画によって最適な血糖コントロールを行うことが糖尿病治療の重要な手法である。
【0103】
1型糖尿病は、通常小児期又は思春期に発症する糖尿病の形態であり、インスリン分泌の絶対的欠乏を招くインスリン産生β細胞の自己免疫破壊を特徴とする。
【0104】
2型糖尿病は、主として成人期に発症する糖尿病の形態であり、この疾患の初期におけるインスリン産生は十分であるが、インスリン感受性、特に末梢組織におけるインスリンを介したグルコースの利用及び代謝に欠陥が存在する。2型糖尿病に伴う種々の組織変化は臨床症状が認められる前にも存在する。
【0105】
外傷(例えば熱傷又は窒素バランスの崩れ)及び脂肪組織障害(例えば肥満)によって誘導されるインスリン抵抗性の治療も意図されている。
【0106】
本発明によるアンギオゲニンの他の使用としては、骨粗鬆症(特に、高齢者及び/又は閉経後の女性)、糖質コルチロイドに起因する骨粗鬆症、骨減少症、変形性関節症、骨粗鬆症が関与する骨折並びに筋肉組織の外傷的傷害又は慢性的傷害の治療が挙げられる。アンギオゲニンの更なる使用としては、長期の糖質コルチロイド療法に起因する低骨量、早発性腺機能不全、アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏症、二次性副甲状腺機能亢進症、栄養欠乏症及び神経性食欲不振症の治療が挙げられる。
【0107】
本発明の他の様相においては、健康な個体の筋量、筋力、筋機能又は全体的な体格を向上させるための治療も意図されている。アンギオゲニンはまた、傷害、外傷、損傷又はトレーニングによる過度の使用からの筋肉の回復を促進すること、従って運動耐容能を向上させることも提案されている。
【0108】
「筋量の増加」とは、アンギオゲニン治療後に、治療前に存在していた筋量と比較してより多量の筋肉が存在することを意味する。
【0109】
「筋力の増大」とは、アンギオゲニン治療後の筋肉に存在する、力を発生する能力が、治療前に存在していたものよりも高いことを意味する。
【0110】
「筋機能の増大」とは、アンギオゲニン治療後の筋肉に、治療前に存在していたよりも多様な機能が存在することを意味する。
【0111】
「運動耐容能の増大」とは、アンギオゲニン治療後に、治療前に必要としていたよりも運動間の休息が短くても運動ができる能力を指す。
【0112】
筋肉は、主として力の源として機能する身体組織である。身体の筋肉には3種類ある。即ち、a)骨格筋(動作、姿勢の維持及び呼吸が可能となるように骨格に伝達される力の発生に関与する横紋筋)、b)心筋(心臓の筋肉)及びc)平滑筋(動脈及び腸壁の筋肉)である。本発明の方法は、特に骨格筋に適用可能であるが、心筋又は平滑筋にもある程度の効果があるであろう。本明細書において骨格筋とは骨、筋肉及び腱の相互作用も含み、また、筋肉線維及び関節も含む。
【0113】
アンギオゲニンは、血管新生作用及び筋肉への血流を増加させる能力によって心筋に作用することが以前から提案されているが、この作用は酸化型筋肉(タイプI及びタイプIIa)に限られていた。本発明において認められるフォリスタチンが媒介するアンギオゲニンの筋肉への作用は、あらゆる筋線維が影響を受けていることからも証明されるように、血管新生に関連するものとは異なっている。
【0114】
「脂肪の低減」とは、アンギオゲニンで治療した後に存在する脂肪量が治療前に存在していた脂肪量よりも減少していることを意味する。特に本発明は、内臓脂肪即ち腹腔内及び内臓周辺に存在する脂肪に適用可能である。皮下脂肪及び/又は筋肉内脂肪にも効果を奏することができる。
【0115】
健全な個体に推奨されるアンギオゲニンの使用は、スポーツ選手(精鋭及びアマチュア)、ボディビルダー、減量により体格の向上を望む人々、及び肉体労働者に有用であろう。
【0116】
アンギオゲニンの配列及び機能は生物種を超えて高度に保存されることから、本発明の方法は、ミオスタチンの存在が望ましくない病理学的影響の原因となるか若しくはそれに寄与するか、或いはミオスタチンレベルを低下させることによって治療効果が得られるようなヒト以外の哺乳動物又は鳥類(例えば、家畜(例えば、イヌ科及びネコ科動物)、競技用動物(例えば、ウマ科動物)、食用動物(例えば、ウシ、ブタ及びヒツジ)、鳥類(例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、他の狩猟鳥又は家禽))にも適用可能である。
【0117】
アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストは、医薬、獣医学組成物、栄養補助食品組成物又は食品として提供することができる。
【0118】
医薬組成物はヒトに投与するのに好適なものである。獣医学組成物は動物に投与するのに好適なものである。一般に、この種の組成物は精製されたアンギオゲニン若しくはアンギオゲニンアゴニストを含むか、或いは少なくとも組成物の全成分を確認することができるものであろう。
【0119】
本方法の第一〜十一様相に使用される組成物は、1種以上の担体及び任意的に他の治療剤を含んでいてもよい。各担体、希釈剤、補助剤及び/又は賦形剤は、医薬的に「許容される」ものであることができる。
【0120】
「医薬的に許容される担体」とは、生物学的にもそれ以外の点でも望ましくないものではない材料を意味する。即ち、この材料は、それを含有する医薬組成物中の他の成分の何れとも望ましくない生物学的効果をもたらすことなく、また、有害な形式で相互作用もすることなく、選択された活性剤と共に個体に投与することができる。同様に、本発明において提供される新規化合物の「医薬的に許容される」塩又はエステルは、生物学的にもそれ以外の点でも望ましくないものではない塩又はエステルである。
【0121】
本明細書において用いられる「医薬担体」とは、剤を被験体に送達するための医薬的に許容される溶媒、懸濁剤又はビヒクルである。担体は、液体でも固体でもよく、意図された投与計画の方法に合わせて選択される。各担体は、生物学的又はそれ以外の点で望ましくないものではないという意味で、医薬的に「許容される」ものでなければならない。即ちこの担体は、有害な反応を全く又は実質的に引き起こすことなく剤と共に被験体に投与することができる。
【0122】
前記組成物は、従来の医薬的に許容される無毒性の担体、補助剤及び賦形剤を含む配合物として、経口的、局所的又は非経口的に投与することができる。
【0123】
本明細書において「非経口的」とは、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、結膜下、腔内、経皮及び皮下に各注射、肺若しくは鼻腔投与用エアゾール又は輸液(例えば、浸透圧ポンプによる)による投与を含む。
【0124】
本組成物は、錠剤、水中若しくは油中懸濁液、ロゼンジ剤、トローチ剤、散剤、顆粒剤、乳剤、カプセル剤、シロップ剤又はエリキシル剤として経口投与することができる。経口用の本組成物は、医薬的に洗練された風味のよい製剤を製造するための、甘味剤、香味剤、着色剤及び防腐剤の群から選択される1種以上の剤を含んでいてもよい。好適な甘味剤としては、スクロースやラクトース、グルコース、アスパルテーム、サッカリンが挙げられる。好適な崩壊剤としては、コーンスターチやメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸、寒天が挙げられる。好適な香味剤としては、ハッカ油やウインターグリーン油、チェリー、オレンジ、ラズベリーの各香味料が挙げられる。好適な防腐剤としては、安息香酸ナトリウムやビタミンE、アルファトコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベン、重亜硫酸ナトリウムが挙げられる。好適な滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウムやステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、タルクが挙げられる。好適な徐放剤としては、モノステアリン酸グリセリルやジステアリン酸グリセリルが挙げられる。錠剤に関しては、錠剤の製造に好適な医薬的に許容される無毒の賦形剤との混合物中に当該剤を含むことができる。
【0125】
これらの賦形剤は、例えば、(1)炭酸カルシウム、ラクトース、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の不活性希釈剤、(2)コーンスターチ、アルギン酸等の造粒・崩壊剤、(3)デンプン、ゼラチン、アラビアゴム等の結合剤及び(4)ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク等の滑沢剤であることができる。これらの錠剤は、コーティングされていなくても、或いは崩壊及び胃腸管への吸収を遅延させることによって長期間に亘り徐放作用が得られるように公知の技法でコーティングされていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリルやジステアリン酸グリセリル等の徐放材料を用いることができる。
【0126】
非経口投与用製剤としては、無菌の水性又は非水性液剤、懸濁剤及び乳剤が挙げられる。非水性溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油等)及び注射可能な有機エステル(オレイン酸エチル等)が挙げられる。水性担体としては、生理食塩水及び緩衝化された媒体を含む、水、アルコール性/水性溶液、乳化液及び懸濁液が挙げられる。非経口用ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液やデキストロース加リンゲル液、デキストロ−ス及び塩化ナトリウムが挙げられ、乳酸リンゲル静注用賦形剤は水分(fluid)と栄養補給剤と電解質補給剤(デキストロース加リンゲル液をベースとするものなど)等を含む。防腐剤及び他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、成長因子、不活性ガス等も存在させることができる。
【0127】
本組成物は、治療機能を補足、付加又は向上させるための他の活性化合物も含むことができる。本医薬組成物はまた、投与説明書と共に、容器、パック、ディスペンサーに収容されることができる。
【0128】
アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストは他の治療上有用な剤を含むことができ、また、それらと同時に或いは順次に投与されることができる。この剤としては、成長因子(例えば、BMPs、TGF−P、FGF、IGF)やサイトカイン(例えば、インターロイキン及びCDFs)、抗生物質、治療される状態に有益な他の治療薬等が挙げられる。
【0129】
アンギオゲニン又はそのアゴニストは、獣医学組成物の形態での使用目的で提供されることができる。これは、例えば、当該技術分野における従来法により調製することができる。このような獣医学組成物の例としては:
(a)経口投与用、外用(例えば、水薬(例えば、水性又は非水性の液剤又は懸濁液)、錠剤若しくは大丸薬、飼料に混合するための散剤、顆粒剤又は丸薬、舌に塗布するためのペースト剤(特に、反芻動物に投与する場合はルーメンにおいて適切に保護されるもの))、
(b)非経口投与用(例えば、皮下、筋内若しくは静脈内注射(例えば、無菌液剤又は懸濁液として)によるもの又は(適切な場合は)乳首を介して懸濁剤若しくは液剤を乳房に導入する乳房内注入によるもの)、
(c)局所適用(例えば、皮膚に適用されるクリーム剤、軟膏剤又は噴霧剤として)及び
(d)膣内用(例えば、膣坐剤、クリーム剤又はフォーム剤として)に適合されたものが挙げられる。
【0130】
投与が容易になり、且つ用量が均一になるように、組成物を単位投与形態として配合すると特に有利である。本明細書において単位投与形態とは、治療すべき被験体に単位投与するのに適した物理的に分離した単位を指し、各単位は必要な医薬担体と共に所望の治療効果を生じさせるように計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の単位投与形態の規格は、活性化合物固有の特性及び達成すべき特定の治療効果、更には個体を治療するためにこの種の活性化合物を配合する当該技術分野に存在する制限に関する要求に直接的に依存し、規定される。
【0131】
アンギオゲニン又はそのアゴニストを含む組成物は治療有効量で投与されるべきである。本明細書においてアンギオゲニンの「有効量」とは、所望の生物学的成果を達成するためにミオスタチンの活性を低減させるのに十分な用量である。所望の生物学的成果は、筋量の増加、筋力の増大、代謝の改善、肥満の低減、グルコース恒常性の改善等のいずれかの治療効果であることができる。このような改善は、除脂肪体重及び体脂肪量(二重線走査解析等)、筋力、血清脂質、血清レプチン、血清グルコース、糖化ヘモグロビン、耐糖能及び糖尿病の二次的合併症の改善の各測定等、種々の方法で測定することができる。
【0132】
一般に、治療有効量は、被験体の年齢、状態及び性別に加え、被験体の病状の重症度によって変化し得る。用量は医師が決定することができ、適切な治療効果が認められるように必要に応じて調節することができる。アンギオゲニン又はそのアゴニストの適切な投与用量は、5mg〜100mg、15mg〜85mg、30mg〜70mg又は40mg〜60mgの範囲内とすることができる。本組成物は、単回投与又は1日1回、1週間に1回、1ヶ月月に1回等の間隔で投与することができる。
【0133】
投与計画は、アンギオゲニン若しくはそのアゴニストの半減期又は患者の状態の重症度に応じて調節することができる。
【0134】
通常、本組成物は投与後のアンギオゲニンの最大循環レベルとなる時間が最大限長くなるように急速(ボーラス)投与量で投与される。急速投与後に持続注入を行うことができる。
【0135】
アンギオゲニンを提供するために本方法が栄養補助食品組成物を利用することも意図されている。本方法において使用するための栄養補助食品組成物が提供される。
【0136】
本明細書において「栄養補助食品」とは、食品から単離・精製される可食製品を意味し、ミルク試料から得られる場合、経口投与した際に生理的利点を示し、また急性・慢性の疾患又は障害の防止又は軽減を提供することを示す製品である。従って、栄養補助食品は、単独或いは食品・飲料に混合されて、食物製剤又はサプリメントの形態とすることができる。
【0137】
栄養補助食品組成物は、可溶性粉末、液体又は即席飲料の形態とすることができる。或いは、手軽に食べられるバーや朝食シリアル等の固形物とすることができる。この組成物は種々のフレーバー、ファイバー、甘味料、他の添加物等を含むことができる。
【0138】
前記栄養補助食品は、好ましくは許容される官能的性質(許容される香り、味、風味等)を有し、ビタミンA、B1、B2、B3、B5、B6、B11、B12、ビオチン、C、D、E、H及びK、カルシウム、マグネシウム、カリウム、亜鉛及び鉄から選択される一以上のビタミン及び/又はミネラルを更に含むことができる。
【0139】
栄養補助食品組成物は従来通りに、例えばタンパク質と他の添加物をブレンドして製造することができる。使用する場合は、乳化剤を含ませることもできる。この時点でビタミン及びミネラルを追加することもできるが、通常は熱による変性を避けるために後で加える。
【0140】
粉末状の栄養補助食品組成物を製造したい場合、タンパク質を粉末状の追加成分と混和することができる。この粉末は水分量約5重量%未満でなければならない。水、好ましくは逆浸透処理済の水を更に混合して混合液体とすることができる。
【0141】
栄養補助食品組成物を即席液体として提供する場合、バクテリアを低減するために組成物を加熱することができる。液状の栄養補助食品組成物を製造したい場合、液体混合物を好ましくは無菌状態で適切な容器に充填する。容器への無菌充填は当業界で通常可能な技法により行うことができる。この種の無菌充填に好適な装置は市販されている。
【0142】
本栄養補助食品組成物は一以上の医薬的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含むことが好ましい。このような組成物は、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等のバッファー;グルコース、マンノース、スクロース、デキストラン等の炭水化物;マンニトール;タンパク質;ポリペプチド又はグリシン等のアミノ酸;酸化防止剤;EDTA等のキレート剤;及び補助剤及び保存剤を含むことができる。
【0143】
本栄養補助食品は、調整粉乳、特に、乳児に投与するために母乳に近づけた調乳とすることができる。このような調乳は、成長障害又は早産若しくは低出生体重児の治療に有用となり得る。本食品を乳児又は小児の認知機能を改善するために投与することができる。
【0144】
本発明の方法に使用されるアンギオゲニンはいかなる原料からも得ることができる。この原料は天然、合成或いは組換体であることができる。組換えアンギオゲニンは、ヒト、雌ウシ、ヒツジ、マウス等のいかなるの生物種のアンギオゲニン配列に基づくことができる。組換えヒトアンギオゲニンは、R&Dシステムズより入手可能である。
【0145】
アンギオゲニンは、正常なヒト血漿、ウシ血漿、ウシ乳、ウシ血漿並びにマウス、ウサギ及びブタ血清中に存在することが知られている。少なくともヒトアンギオゲニンのDNA配列及びタンパク質配列が入手可能であり、組換えヒトアンギオゲニンはアブノバ・コーポレーション(台湾)より小規模用途用に市販されている。
【0146】
一実施形態においてアンギオゲニンは、商業規模で容易に入手可能なアンギオゲニンの原料としての家畜動物の血漿又はミルクから調製される。
【0147】
ミルクは、授乳中の動物、例えば、ウシ、ヒツジ、スイギュウ、ヤギ、シカ等の反芻動物、ヒト等の霊長類及びブタ等の単胃動物等の非反芻動物のいずれかから得ることができる。好ましい実施形態においては、アンギオゲニンは牛乳から抽出される。アンギオゲニンを産生する動物は、その乳中でアンギオゲニンを過剰発現するように設計されたトランスジェニック動物であることができる。
【0148】
本発明者らは、泌乳の初日〜14日以内のウシ乳中にアンギオゲニンが最大量又は最も濃厚な量(最高で12mg/L)で存在することを示した。その後、この濃度は約1〜2mg/Lという基底水準まで低下する。従って、本発明の方法においては泌乳の最初の14日目以内に得られる牛乳をアンギオゲニン原料として第一〜十一の様相の方法において用いることが好ましい。その後の泌乳から得られた牛乳に残留しているアンギオゲニンの量を考えると、これもやはり本発明の方法の原料として使用することができる。
【0149】
本発明の方法に使用されるアンギオゲニンは単離又は精製されたものであることができる。精製又は単離されたアンギオゲニンは、そうでなければ含まれてしまう少なくとも1種の剤又は化合物を実質的に含まない。例えば、単離されたタンパク質は、少なくともその起源となる細胞や組織原料に由来する何らかの細胞性物質又は混入タンパク質を実質的に含まない。「細胞性物質を実質的に含まない」というは、アンギオゲニンの純度が少なくとも50〜59%(w/w)、少なくとも60〜69%(w/w)、少なくとも70〜79%(w/w)、少なくとも80〜89%(w/w)、少なくとも90〜95%又は少なくとも96%、97%、98%、99%若しくは100%(w/w)である調製物を意味する。
【0150】
バクテリア中で調製された組換えアンギオゲニンをアンギオゲニン原料として使用することができ、これをタンパク質凝集体の形態で提供することができる。
【0151】
ウシ乳は何百年もの食物連鎖中の天然産物であり、栄養補助食品として使用されるアンギオゲニンが完全に純粋である必要はない。しかしながら、投与される組成物の量を低減させるためには、アンギオゲニンをミルク中の濃度よりも顕著に濃縮することが好ましい。アンギオゲニンは、ミルク中の濃度の少なくとも10倍の濃度、より好ましくは乳中の濃度の20、30、40又は50倍の濃度で投与されることが好ましい。
【0152】
アンギオゲニンが食品として提供される場合、食品サプリメント、栄養製剤、スポーツ栄養サプリメント又は調整粉乳の形態をとることができる。
【0153】
当業者であればウシアンギオゲニンの突然変異体が天然に存在し、これを製造できることを理解するであろう。本発明はこの種の変異体の使用も意図している。
【0154】
当業者であれば、アンギオゲニンがその生物学的性質を変えることなくアミノ酸配列中に任意の数の保存的変化を含み得ることを認識するであろう。このような保存的なアミノ酸修飾は、アミノ酸側鎖置換基が疎水性、親水性、電荷、サイズ等に関し比較的類似していることに基づいている。種々の前述の特徴を考慮した保存的置換の例は当業者に知られており、アルギニン−リジン,グルタミン酸塩−アスパラギン酸塩、セリン−トレオニン、グルタミン−アスパラギン並びにバリン、ロイシン及びイソロイシンが挙げられる。
【0155】
本発明はまた、アンギオゲニンの変異体、類縁体又はフラグメントの使用も含む。例えば、アンギオゲニンの核酸配列又はアミノ酸配列は、天然のタンパク質の核酸又はアミノ酸と同一の配列を少なくとも70%〜79%、少なくとも80%〜89%、少なくとも90%〜95%又は少なくとも96%〜100%含むことができる。
【0156】
当業者であれば、アンギオゲニンヌクレオチド及びアミノ酸配列の類縁体を設計することが可能な多くのソフトウェアパッケージ、例えば「BLAST」プログラム又は他の好適なパッケージを非常によく理解しているであろう。
【0157】
当業者は、アンギオゲニンの活性に悪影響を及ぼすことなく、タンパク質構造において特定のアミノ酸を他のアミノ酸に置換してもよいことを理解するであろう。従って、本発明者らは、目立った生物学的有用性又は活性を損なうことなくアンギオゲニンのアミノ酸配列に種々の改変を導入することができることを想定している。このような改変としては、欠失、挿入、トランケート、置換、融合、モチーフ配列の組換え等が挙げられるであろう。
【0158】
更にアンギオゲニンを、例えばグリコシル化、循環半減期を延長するための高分子との複合体化、ペグ化又は他の化学修飾によって修飾することができる。この種の修飾されたタンパク質を本発明の方法に使用することも想定されている。
【0159】
当業者は、使用されるアンギオゲニンを貯蔵安定性、生理活性、循環半減期の改善又は他のいずれかの目的で、当該技術分野において利用可能な方法を用いて修飾することができることを理解するであろう。例えば、貯蔵安定性を改善するために修飾を導入することが望ましいであろう。しかしながら、アンギオゲニンは分解に対する耐性が特に高いためこのような修飾は必ずしも必要ないであろう。
【0160】
本発明は、アンギオゲニンのアゴニストについて言及する。アゴニストはアンギオゲニンによって活性化される受容体を介して直接的又は間接的な作用をもたらすことができる化合物である。好ましくは、アンギオゲニンアゴニストはアンギオゲニン受容体を介して作用し、好ましくはこの受容体に結合する。当業者は、アンギオゲニンのアゴニストを設計する方法を理解するであろう。好適なアゴニストとしては、アンギオゲニンアゴニスト抗体及び擬似化合物が挙げられる。
【0161】
アンギオゲニン、そのアゴニスト及び変異体を、本発明の方法に使用するための医薬品の製造に使用することができる。
【0162】
本発明の方法及び使用の好ましい実施形態においては、アンギオゲニンは経口的に、特に、ミルク若しくは血漿由来のアンギオゲニン富化抽出物の形態又は組換えアンギオゲニンの形態で投与される。
【0163】
特に、経口投与されるアンギオゲニンは牛乳又はその分画から、例えば実施例1に記載するプロセスを利用して調製される。このような分画は、腸内で実質的に分解されることなく全身に作用することができるアンギオゲニンを提供することがわかっている。このような分画は、アンギオゲニンのバイオアベイラビリティを増大させるための担体又は他の機構を用いることなく経口的に提供することができる。
【0164】
第一〜十一の様相の方法に従って投与されるアンギオゲニンは内在性フォリスタチンと相互作用することが期待されており(組換えアンギオゲニンが使用される場合)、アンギオゲニン富化抽出物はフォリスタチンも含有している場合がある。本明細書に示すように、アンギオゲニン及びフォリスタチンを共に併用投与(同時又は任意の順序で順次の何れかで)すると相加作用を上回り、アンギオゲニン及びフォリスタチンを含む組成物のみならず、フォリスタチンをアンギオゲニンと共に投与することを意図した各治療方法が提供される。個体にフォリスタチンが欠乏している状況では、フォリスタチンをアンギオゲニンと共に投与(同時又は順次の何れかで)することが特に重要である。フォリスタチンの量は年齢と共に低下するので、フォリスタチンをアンギオゲニンと共に併用投与することは、特に高齢者の治療に関し意図される。
【0165】
併用投与計画においては、アンギオゲニンを経口投与し、フォリスタチンを経口的又はそれ以外で投与することができる。
【0166】
本明細書において特に断らない限り「含む(comprise、comprises、comprising等)」とは、述べられている一構成要素や一完全体、或いは構成要素群や完全体群を含むが、その他の一構成要素や一完全体、或いは構成要素群や完全体群を排除するものではないことを意味すると解釈されたい。
【0167】
本明細書においては、文脈上明確に断らない限り単数表現(a、an及びtheを伴う)は複数概念も含むことを付記する。
【0168】
本発明について明確さと理解の目的である種の詳細な説明をしているが、本明細書に開示される発明概念の範囲を逸脱しない限り、記載される実施形態及び方法の変形や改変が可能なことは当業者には明白であろう。
【0169】
以下、実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが、これは単に説明の目的に提供されるものであって、特に断らない限り本発明は実施例に限定されない。従って、本発明は、ここに提供される教示の結果として明らかとなる全てのいかなる変形例も包含する。
【実施例】
【0170】
実施例1:スキムミルクからのアンギオゲニン富化分画の調製プロセス
10cm長のカラムにSPセファロースビッグビーズ(GEヘルスケア)をカラム中の全ベッド体積が29.7Lとなるように充填した。ウシスキムミルクを線流量が331cm/h(スキムミルク34L/樹脂(1L)/時)で2時間カラムに流通させ、適用したスキムミルクの体積がカラムに充填した樹脂の68倍となるようにした。
【0171】
2.5カラム体積(CV)の水を線流量147cm/h(バッファー15L/樹脂(1L)/時)、即ち0.25CV/minで10分間加えることにより、カラムに残存するミルクを除去した。
【0172】
アンギオゲニン低減化ラクトペルオキシダーゼ分画は、2.0%(0.34M)NaCl相当のナトリウムイオンを含むバッファー(pH6.5)2.5CVを用いてカラムから溶出させた。このカチオンバッファー溶液は、線流量75cm/h(カチオンバッファー溶液7.5L/樹脂(1L)/時)、即ち0.125CV/minで20分間流通させた。最初に樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液を廃棄排出し、次の樹脂1L当たり2.5Lのカチオンバッファー溶液を回収してアンギオゲニン低減化ラクトペルオキシダーゼ分画(樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液を含む。次のバッファーの適用時間は重複する)とした。
【0173】
次いで、アンギオゲニン富化分画を、2.5%w/v(0.43M)NaCl相当のナトリウムイオンを含むバッファー(pH6.5)2.5CVを用いてカラムから溶出させた。このカチオンバッファー溶液は、線流量75cm/h(カチオンバッファー溶液7.5L/樹脂(1L)/時)、即ち0.125CV/minで20分間流通させた。最初に樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液廃棄排出し、次の樹脂1L当たり2.5Lのカチオンバッファー溶液を回収してアンギオゲニン富化分画(樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液を含む。次のバッファーの適用時間(即ちブレイクスルー時間)は重複する)とした。
【0174】
最後にラクトフェリン分画を、8.75%w/v(1.5M)NaCl相当のナトリウムイオンを含むバッファー(pH6.5)2.5CVを用いてカラムから溶出させた。このカチオンバッファー溶液は、線流量75cm/h(カチオンバッファー溶液7.5L/樹脂(1L)/時)、即ち0.125CV/minで20分間流通させた。最初に樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液を廃棄排出し、次の樹脂1L当たり2.5Lのカチオンバッファー溶液を回収してラクトフェリン分画とした。
【0175】
回収されたアンギオゲニン富化分画は限外ろ過(NMWCO 5kDa)して濃縮し且つ塩分を低減させた。得られた濃縮物を次の使用のために凍結乾燥し、室温で貯蔵した。
【0176】
アンギオゲニン富化分画のアンギオゲニン含有量をSDS−PAGEで分析したところ、この分画は、MALDI−TOF/TOF MSによってアンギオゲニンと同定された(結果は示さず)低分子量(14kDa)タンパク質を57%(タンパク質基準)含むことがわかった。
【0177】
当業者であれば、他の原料に由来或いは他の手段で精製したアンギオゲニンも本発明の方法に使用できることを理解するであろう。上の実施例は、次の実験に使用するアンギオゲニンの実際の原料をどのように作製したかを単に示したものであって、いかなる形の限定も意図していない。
【0178】
アンギオゲニン富化分画がある種の作用を有する更なる生物活性成分を含有し得ることが考えられる一方、スキムミルク中の利用可能な量(濃度2%)に匹敵する量のアンギオゲニンがアンギオゲニン富化分画に匹敵する活性を有することが実施例において示された(データは示さず)。
実施例2
【0179】
実施例2:インビトロ解析−ウシアンギオゲニンはヒト細胞に対し活性を示す
アンギオゲニンを上述した方法に従いウシスキムミルクから調製された富化抽出物として準備した。
【0180】
ウシアンギオゲニンがヒト細胞に活性を示すかどうかを、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECS)を用いた血管新生アッセイを利用して確認した。HUVEC細胞を、ウシ脳抽出物、EGF、ヒドロコルチゾン及び10%FBS(クロネティクス)を添加した血管内皮細胞基礎(ECB)培地に通常の方法で維持した。48ウェル組織培養プレートを用いてアッセイをトリプリケートで実施した。まず最初に、各ウェルの底でマトリゲル(BDバイオサイエンシーズ)150μLを重合させた。HUVEC細胞を今度は1%のFBS及びウシアンギオゲニンと共にECB中に0.5×106細胞/mLで再懸濁させた。次いで、細胞(2.5×104細胞/ウェル)をマトリゲルマトリックス上に播種し、37℃で24時間インキュベートした。陽性対照としてアンギオゲニンをヒト血管内皮増殖因子(VEGF)10ng/mLに置き換え、陰性対照としてECB培地と1%FBSのみを用いた。血管新生を観察し、10倍の拡大倍率で写真を撮影した。結果を図1に示す。
【0181】
この結果、ヒトVEGFと同様に、ウシアンギオゲニンを用いることによってマトリゲル上におけるHUVECの血管新生が誘導されることが示され、ウシアンギオゲニンがヒト細胞に活性であることがわかる。
実施例3
【0182】
実施例3:インビトロ筋細胞増殖アッセイ
96ウェルプレートを用いて10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に、出発密度が1×104細胞/ウェルとなるように筋細胞(C2C12;マウス筋芽細胞)を播種した。細胞を5%CO2中、37℃で一夜培養した。翌日、血清含有培地を除去して細胞をPBSで洗浄した。次いで、試験剤を添加した100μL無血清DMEM(n=7)で細胞を37℃で48時間、5%CO2中で培養した。細胞増殖を定量化するためにWST−1細胞増殖試薬(ロッシュ)10μLを各ウェルに添加して更に細胞を37℃で3時間インキュベートした。この間、生存細胞はWST−1試薬を可溶性ホルマザン染色液に変化させ、これをマイクロプレートリーダーで測定すると、450nmの吸光度が細胞数と直接相関する。試験剤による細胞増殖刺激を陽性対照(10%FCS)及び陰性対照(DMEM+ビヒクル対照;DMEMは適切な総タンパク量のBSA又はカゼインを含む)と比較した。
【0183】
筋細胞分化を調べるために、2mLの培地(DMEM、10%FBS)を加えた6ウェルプレートに中にC2C12筋芽細胞を25×104細胞となるように播種し、一夜かけて付着させた。筋管への分化を誘導するために、培地を除去してDMEM単独又は2%ウマ血清加DMEMと交換した。bアンギオゲニン(0.1μg/mL〜100μg/mL;記載がない場合は10μg/mL)、rhアンギオゲニン(0.1μg/mL〜10μg/mL;記載がない場合は1μg/mL)、rhフォリスタチン(0.1μg/mL)及びrhミオスタチン(50ng/mL)の効果に関する試験を実施した。組換えタンパク質は全てRnDシステムズより購入した。細胞の画像を撮影し、処理を施してから96時間又は48時間(ミオスタチンが関与する実験の場合)のクレアチンキナーゼ(CK)活性を測定した。製造業者の指示書に従い、N−アセチルシステイン(NAC)によって活性化されたクレアチンキナーゼ活性を測定した。簡潔に説明すると、各アッセイにおいて、新しいバイアルのCK−NAC試薬(サーモキャット#TR14010)に無菌水10mLを補充した。次いで、各試料17.5μLをCK−NAC試薬350μLと混合し、その一部(100μL)のアッセイを96ウェルプレートを用いてトリプリケートで実施した。次いで、340nmの吸光度を5分間測定した。次の式を用いてabs/minの変化からCK活性を求めた。
活性(U/L)=Δabs/min×係数
係数=総体積×1000/6.3×試料体積×キュベットの光路長
=0.1×1000/(6.3×0.005×1)
=3174.6
CK活性(U/L)=Δabs/min×3174.6
【0184】
細胞培養液のマイクロアレイ解析を行うために、RNeasy小型RNA単離キット(mini RNA isolation kit)(キアゲン)を用いて培養細胞から全RNAを抽出し、ナノドロップ1000分光光度計で260nmの吸光度を測定することによって定量化を行った。260nm/280nm及び260nm/230nm比を得ることにより純度も評価した。各RNA試料をRNA6000ナノ・ラブチップ・キット(アジレント)を用いてバイオアナライザー2100上で泳動させることによってRNAの完全性を評価した。
【0185】
ジーンチップホールトランスクリプト(GeneChip(登録商標)Whole Transcript)(WT)センス・ターゲット・ラベリング・アッセイ(アフィメトリクス)を使用して、製造業者により提供されたプロトコールに従い全RNA100ngを増幅し、ビオチン標識cDNAを作製した。推奨量の標識cDNAをマウス・ジーン・1.0・ST・アレイ(アフィメトリクス)に適用した後に洗浄し、アフィメトリクス 450 フルイディクス・ステーション(Affymetrix 450 Fluidics Station)及び推奨溶液(アフィメトリクス)を用いて染色した。アフィメトリクス・ジーンチップ・スキャナー(Affymetrix GeneChip(登録商標) Scanner)3000 7Gを用いてアレイを走査した後、アフィメトリクス・ジーンチップ・コマンド・コンソール(Affymetrix GeneChip(登録商標) Command Console)(AGCC)ソフトウェアを用いて強度データを抽出した。得られたCELファイルを用いてデフォルトのRMA正規化及びANOVAを利用し、パーテック・ゲノミクス・スイート(Partek(登録商標)Genomics Suite)バージョン6.4(パーテック)でデータ解析を行った。
【0186】
筋細胞の分化実験結果を図3、4及び5に示す。図3は、無血清非分化条件下においてウシ及びrhアンギオゲニンが筋細胞を分化させて筋管を形成することを示している。図4は、bアンギオゲニンが2%HSの存在下においても用量依存的に筋芽細胞の分化及び筋管形成を増強させることを示している。単回投与量のrhアンギオゲニンを含有させたものから、アンギオゲニンが誘導因子であることが実証される。図5は、ウシアンギオゲニン及びrhフォリスタチンの相乗作用を示している。正常な分化条件下においてbアンギオゲニン及びrhフォリスタチンと共に培養すると、標準的な条件下又はアンギオゲニン若しくはフォリスタチンを別々にして培養した場合と比較して筋管の大きさが増大している(図5a)。分化の増強はクレアチンキナーゼアッセイによって証明され(5b)、アンギオゲニン及びrhフォリスタチンを併用して処理した場合は別々に処理した場合又は対照と比較して有意に高いレベルを示している。
【0187】
マイクロアレイ解析を用いて、筋管形成の初期段階(分化から最初の2時間)における網羅的遺伝子発現プロファイルに対するbアンギオゲニン及びrhフォリスタチンの相乗作用に関する試験を実施した(図6)。筋芽細胞分化の初期においては、対照処理又はrhフォリスタチン若しくはbアンギオゲニンの存在下における遺伝子発現プロファイルには僅かな差しか認められない。rhフォリスタチン及びbアンギオゲニン併用処理では、他の処理と比較すると顕著な差が認められる。
【0188】
アンギオゲニン/アクチン相互作用を特異的にブロックするペプチドVFSVRVSILVF(AUSPEP)を用いて分化培養条件を繰り返すことにより、分化過程におけるアンギオゲニンの特異的な役割に関する試験を実施した(図7)。対照群と比較した場合のクレアチンキナーゼ活性の増加として測定されるbアンギオゲニン特異的分化がアンギオゲニンブロッキングペプチドによって阻害されており、図5に見られる応答が、特にアンギオゲニンによるものであることを示している。
【0189】
C2C12筋肉の筋芽細胞をrhミオスタチン、bアンギオゲニン及びrhフォリスタチンと共に分化条件下でインキュベートすることにより、アンギオゲニンが筋細胞分化を回復する能力について試験を実施した。ミオスタチンは筋細胞分化の負の制御因子であり、フォリスタチンに対する高親和性の結合を阻害する。図8から、ミオスタチンが筋細胞の筋管への分化を阻害することと、フォリスタチン単独では細胞分化を回復できないこととが示される。bアンギオゲニンを培養培地に含有させることによって大半のクレアチンキナーゼ活性が回復したが、bアンギオゲニンとrhフォリスタチンとを併用することによってクレアチンキナーゼレベルが対照レベルまで回復し、これは、アンギオゲニンが通常のミオスタチン−フォリスタチン細胞分化シグナル伝達を迂回することを示している。この機序のアンギオゲニンに対する特異性を証明するために、rhアンギオゲニンを用いてこの実験を繰り返した(図9)。これにより、ミオスタチンに誘導されるクレアチンキナーゼ活性の低下のrhアンギオゲニンによる回復が、フォリスタチンとの相乗機構を含めて、bアンギオゲニンと同等であることが示される。
実施例4
【0190】
実施例4:アンギオゲニンが神経保護作用を示す
アンギオゲニンにフォリスタチンを併用すると神経細胞に活性を示すかどうかを試験するために、PC12細胞を、bアンギオゲニン、rhアンギオゲニン及びrhアンギオゲニン+rhフォリスタチンと共に培養し、無血清下における細胞生存を測定した。図10及び図11は、rhアンギオゲニン+rhフォリスタチンの存在下においては血清飢餓状態のPC12細胞がrhアンギオゲニン単独又はrhフォリスタチン単独の場合よりも細胞死から保護されることを示している。ウシアンギオゲニンも保護作用を示した。完全培地(10%ウマ血清及び5%熱失活FBS添加DMEM)中における処理の存在下に前処理を行ってから22〜24時間後に、細胞を300μL/ウェルの無血清DMEMで2回洗浄し、タンパク質試薬を添加した。3日間インキュベートした後、セルタイターグロ(CellTiterGlo)(登録商標)試薬(プロメガ、ウィスコンシン州マディソン)を用いてATPレベルに基づき細胞生存率を測定した。ビクター3(パーキン・エルマー、マサチューセッツ州ウォルサム)マルチラベルプレートリーダーを用いて発光を室温で読み取った。図10及び図11から、PC12細胞が血清飢餓において細胞死から保護されることがわかる。
実施例5
【0191】
実施例5:インビボ動物試験
正常及び筋ジストロフィーマウスの筋形質に対するアンギオゲニンのインビボ効果を解析するために動物試験を実施した。全ての研究はウエスタンオーストラリア大学動物倫理委員会の承認済である。
【0192】
各試験期間中は、マウスに2種類の飼料:対照飼料及び実施例1に従い作製したbアンギオゲニン富化分画を2.5μg/マウス体重(g)で含む飼料を摂取させた。正常(C57)及びジストロフィー(mdx)成体(8週齢)雄性マウスについて、各実験用飼料の各マウス系統につきn=8で試験を実施した。
【0193】
1ヶ月間の摂餌期間の間、正常マウスに飼料を自由摂取させて自発運動させた。自発運動のためにマウス用金属車輪をケージ内に設置し、車輪に自転車用歩数計を装着して各マウスの走行距離を記録した。MDXマウスにも同じ1ヶ月間の摂餌期間を与えた。別の実験では、mdxマウスに上述した自発運動処置を施すか、或いは自発運動用車輪を設置しなかった。
【0194】
実験解析
実験期間中、体重、摂餌量及び筋力(握力試験)をいずれも1週間に2回づつ測定した。各実験の終わりにマウスをハロタン麻酔下で頸椎脱臼させることにより屠殺した。
【0195】
実験用マウスを用いて、ジストロフィー及び正常筋肉に対し処理を施した結果としての形質変化を確認するために以下の分析を実施した。
1)体組成分析:マウスの屠殺体の皮膚を剥ぎ、それぞれ半数を体組成分析に用いた。更に、四頭筋(quad)、前脛骨筋(TA)及び腓腹筋を含む個々の脚部筋肉に加えて腹部の脂肪パッド及び心臓を解体し、重量を測定してデータを記録し、飼料により誘導された形質変化を確認した。
2)組織学的分析:骨格筋及び心臓の試料を回収して、何れも凍結及びパラフィンを用いて組織学的検査の準備を行った。次の筋肉、四頭筋、前脛骨筋及び横隔膜について組織学的分析を実施した。これらの筋肉のヘマトキシリン及びエオシン、スダンブラック並びに種々の免疫組織学染色を実施した。骨格筋線維の壊死、線維肥大及び筋肉の脂肪含有量を測定した。
【0196】
図12〜15にインビボ実験結果を示す。対照群と比較して、bアンギオゲニン富化分画を2.5μg/gで添加した飼料が最大50%の筋量増加を誘導する(図12)ことは明白である。筋量の増加は、収縮の遅い酸化型線維に対応する比率の低い暗帯線維を除いた殆どのタイプの筋線維の断面積が増加していることによって説明される(図13)。アンギオゲニン富化分画飼料を摂取したマウスはまた、自発運動により測定された走行距離が対照飼料のマウスよりも30%長かった(図14)。これらを総合すると、このデータから、アンギオゲニンがインビボで筋肉の大きさ及び健康状態に影響を及ぼすことが示される。
【0197】
アンギオゲニンをmdxマウスに摂取させた場合は、自発運動を行うことができたマウスの筋壊死の比率が低下していた(図15)。このことは、mdxマウスの筋肉が運動によって破壊される作用をアンギオゲニンが阻害できることを示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋消耗障害を含む筋障害を治療するための方法、及び筋機能、筋力、筋量又は運動耐容能を改善することにより筋形態を改善するための方法に関する。本発明は脂肪の低減方法、筋肉対脂肪比の改善方法、及び筋肉対脂肪比が最適を下回ることに起因する疾患或いはその状態を伴う疾患の治療のための方法にも関する。本発明はまた、フォリスタチンが媒介する細胞刺激を改善することにより治療可能な疾患の治療にも関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉はそれ自身を再生するための前駆細胞を有するが、疾患や傷害により筋肉量や筋力が喪失すると、完全には回復しないことが多い。従って、筋肉の成長を刺激したり筋肉の損失を阻止できる治療があれば多くの人々に有益となろう。
【0003】
筋肉の成長、重量又は機能を増大させることは、筋肉に有害な状態、例えば筋損傷や筋消耗、筋変性、筋萎縮、筋肉修復速度の低下等の治療に重要である。このような筋肉に有害な状態は通常の動作状態や外傷に起因することもあるが、慢性疾患状態によって起こることが非常に多い。
【0004】
治療を必要とする種々の筋肉障害に加え、骨密度の改善を目的として除脂肪量を増加させて筋肉対脂肪比を改善することが提案されている。マウス及び成人男性においては、除脂肪量と全身の骨密度が高いこととの間に相関関係があることが示されている。これとは逆に、体脂肪量が高めの人は骨密度が低下していることが示されている。従って、筋肉体脂肪比を改善すれば骨密度が改善され、骨粗鬆症等の骨障害の治療に特に有益となる可能性がある。
【0005】
更に、全く健康な人が筋形態や機能を改善することを望む場合もある。重い物を運搬する能力や持久力、スピード、全体的な体格を改善することが望まれることもあるが、これらは何れも筋量や筋機能を改善することによって達成することができる。更に、傷害を受けた筋肉の回復を改善することや、長時間使用した後の筋肉の回復に要する時間を短縮すること、例えばスポーツ選手のトレーニング間隔を短縮することにより運動耐容能を改善することが望まれる場合もある。
【0006】
畜産業、例えば食料源としての動物が扱われる場合には、筋肉の比率と重量を増大させる方法はこの産業に大きな利益をもたらすであろう。
【0007】
この分野の重要性に鑑み、筋肉の発達又は成長を制御する方法を開発することを目的とした研究が非常に多く進行中である。ミオスタチンは成人(成体)における筋肉成長の負の制御因子である(即ち、筋肉の成長を抑制する)ため、多くの研究はミオスタチンの阻害剤を見出すことを中心としている。
【0008】
フォリスタチンは、多くの組織で合成される35kDの糖タンパク質であり、アクチビン及びTGFβスーパーファミリーの他のメンバー(ミオスタチンや、ある種の骨形成タンパク質等)に対する結合タンパク質として作用する。フォリスタチンの筋制御における生理学的な役割は現時点において解明されていないが、数種類の天然ミオスタチン阻害剤のうちの1種といわれている。しかしながら、フォリスタチンを筋肉に投与すると筋量が増加することが認められており、これは、フォリスタチンがミオスタチンに結合してこれを無効化するためであると考えられている。筋肉成長を促進する治療剤としてフォリスタチンを用いる場合の一難点は、フォリスタチンがミオスタチン以外にも他のTGFβリガンド(例えば、アクチビン)と結合することにある。アクチビン活性が失われると、マウスの場合は多くの発達異常や新生マウスの死亡を誘発する。また、アクチビンは多くの種類の上皮組織の増殖も制限するため、フォリスタチンの投与によるアクチビン作用の阻害はこれらの組織の異常増殖、そして最終的にはガンを引き起こす可能性がある。
【0009】
現時点において、ミオスタチン活性を阻害する商業的医薬手段であって、同時にアクチビン活性を変化させることのない手段のうち認可されているものはない。他のTGFβファミリーのリガンドに結合することなくミオスタチンと結合してこれを無効化するミオスタチン抗体は既に開発されているが、抗体類は筋消耗障害治療における有用性を制限しかねない欠点を有し、また、治療分野以外の筋肉成長を目的として抗体を使用するとコストが高すぎて商業的に有利でないことは確実である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】グオ T.、ジョウ W.、シャントゥリア T.、ポルタス J.、ガブリローバ O.、マクフェロン A.C.、PLoS ONE、2009;4(3):e4937、Epub、2009年3月19日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の好ましい一実施形態の目的は、上述の一以上の問題に対処し、理想的には筋機能、筋力、筋重量及び/又は運動耐容能を改善するための筋肉障害治療を提供することにある。
【0012】
本明細書に引用する特許又は特許出願を含む全ての文献については、これらを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。本明細書では数々の従来文献が参照されているが、そのことは、これらの文献の何れかが当該技術分野における共通一般知識の一部を成すことの自認を構成するものではないことは明白であろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、一般にアンギオゲニンを投与することによる筋肉増加及び脂肪低減方法を提供する。
【0014】
本発明はその第一の様相において、個体中のミオスタチンの増加又は調節不全を特徴とする障害の治療方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0015】
本発明はその第二の様相において、組織機能を改善するためにフォリスタチンとアンギオゲニンとの相互作用を利用することが可能な障害の治療方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することによる方法を提供する。
【0016】
本発明はその第三の様相において、個体における筋肉成長を促進する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0017】
本発明はその第四の様相において、個体における筋肉の傷害又は使用からの回復を改善する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0018】
本発明はその第五の様相において、個体における筋力を改善する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0019】
本発明はその第六の様相において、個体における運動耐容能を改善する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0020】
本発明はその第七の様相において、個体における筋肉の比率を増加させる方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0021】
本発明はその第八の様相において、個体における脂肪を低減させる方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0022】
本発明はその第九の様相において、個体における脂肪対筋肉比を低下させる方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0023】
筋量又は筋肉対脂肪比とインスリン感受性/メタボリック症候群との間には関連性があることから(非特許文献1)、第七〜第九の様相の方法によってメタボリック症候群を治療することができ、或いはインスリン感受性を高めることができることが提案される。
【0024】
本発明はその第十の様相において、第九の様相の方法に従い個体の筋肉対脂肪比を改善することにより骨密度を改善する方法を提供する。
【0025】
アンギオゲニンが、筋肉成長の負の制御因子としてのミオスタチンの作用を抑制又は逆転させることが可能であることが提案されている。
【0026】
ミオスタチン及び/又はフォリスタチン及び/又はアンギオゲニンは筋細胞以外の細胞に作用し、神経細胞、骨細胞(破骨細胞)及び内皮細胞に作用し得ることも提案されている。
【0027】
従って、本発明はその第十一の様相において、神経疾患若しくは障害、脊髄傷害若しくは疾患、骨疾患若しくは障害、グルコース恒常性が関与する疾患の治療方法、創傷治癒方法又は神経保護、神経系の機能補助及び代謝性疾患の管理を提供する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0028】
投与されたアンギオゲニンが内因性のフォリスタチンと共に作用し得ることが提案されているが、本発明者らは、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストをフォリスタチンと共に(同時又は順次の何れかで)投与すると、フォリスタチン単独又はアンギオゲニン単独で投与した場合と比較して、相加作用を上回る作用が得られることを示した。
【0029】
アンギオゲニン阻害剤又はアンギオゲニンアンタゴニストは、筋肉の増加量若しくは絶対量の低減又は脂肪若しくは脂肪対筋肉比の増加又はミオスタチンの増加が望ましい疾患又は状態の治療に有用であり得ることから、本発明者らの知見が裏から見ても正しいことが理解されよう。
【0030】
本発明者らは、ミルクから抽出したウシアンギオゲニンのヒト細胞への作用を研究してきた。本発明者らは、ウシアンギオゲニンがマトリゲル上でヒト血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と同様にヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の血管新生を誘導できることを確認した。
【0031】
そして本発明者らは、ミルクから抽出されたウシアンギオゲニンの正常なマウスにおける作用について試験を実施した。被験群では、ウシアンギオゲニンを含む飼料を給餌した場合に四頭筋の筋肉重量が増加すると共に腹部の脂肪パッド重量が低下した。こうして実証された除脂肪筋肉量の増加及び体脂肪量低下におけるアンギオゲニンの役割から、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストの投与を含む方法には、筋肉組織を増加させることが治療上有益となるであろう幅広い用途(家畜の生産、筋肉障害、一般的な健康増進及び体格に関する等)があることが示される。本発明はまた、代謝や脂肪組織に関連する疾患及び障害の治療にも有用であろう。
【0032】
従来技術において筋量の増加及び体脂肪量の低下のためにフォリスタチンを投与することが教示されていることを考えると、本発明者らの知見は特に驚くべきことである。特定の理論に束縛されことを望むものではないが、本発明者らは、アンギオゲニン及びフォリスタチンが筋管形成を刺激することと、ミオスタチンが筋管形成を著しく阻害することとを提案する。アンギオゲニンはミオスタチンの作用を実質的に逆転させることが提案されている。本発明者らは、アンギオゲニンとフォリスタチンとの相互作用が、筋肉細胞以外の細胞種の刺激、増殖及び発生に重要な機序であることを提案する。従って、フォリスタチンを介して細胞に及ぼされる作用を改善することが疾患又は状態の治療に有益である状態の治療にアンギオゲニンの投与を利用することができる。
【0033】
アンギオゲニンがフォリスタチンとの相互作用を介して筋肉成長及び脂肪の減少に作用するという機序の提案は、筋肉の筋芽細胞をアンギオゲニン又はフォリスタチンの何れか一方で処理した対照においては筋肉成長は刺激されないが、アンギオゲニン及びフォリスタチンの両方を投与すると刺激されるという本発明者らのインビトロ試験によって支持される。
【0034】
第一〜十一の様相のいずれか一様相の一実施形態においては、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストがフォリスタチンと共に投与される。
【0035】
第一〜十一の様相のいずれか一様相の一実施形態においては、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストが経口投与される。
【0036】
第一〜十一の様相のいずれか一様相の一実施形態においては、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストが経口投与され、且つフォリスタチンが非経口投与される。
【0037】
本発明はその第十二の様相において、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニスト及びフォリスタチンを含む組成物を提供する。
【0038】
第一〜十二の様相のいずれかの様相の一実施形態においては、アンギオゲニンは組換えアンギオゲニン、好ましくはヒト又はウシ組換えアンギオゲニンである。
【0039】
第一〜十二の様相のいずれかの様相の一実施形態においては、アンギオゲニンは、ミルク又は血漿、特に、ウシ乳又はウシ若しくはヒト血漿由来の富化抽出物として提供される。このような富化抽出物は純粋なアンギオゲニンではないが、アンギオゲニン活性を提供するという点でアンギオゲニンアゴニストである。
【0040】
本発明の方法又は組成物に使用されるフォリスタチンは、組換え型であってもよいし、或いはミルク又は血漿、特に、ウシ乳又はウシ若しくはヒト血漿由来の富化抽出物として提供されることができる。
【0041】
本発明はその第十三の様相において、ミオスタチンの増加を特徴とする障害を治療するための、フォリスタチンとアンギオゲニンとの相互作用を利用して組織機能を改善することができる障害を治療するための、筋肉成長を促進するための、筋肉の傷害若しくは使用からの回復を改善するための、筋力を改善するための、運動耐容能を改善するための、筋肉の比率を増加させるための、脂肪を低減するための、個体の脂肪対筋肉比を低下させるための、神経疾患若しくは障害を治療するための、脊髄傷害若しくは疾患を治療するための、骨疾患若しくは障害を治療するための、グルコース恒常性が関与する疾患を治療するための、創傷を治癒するための、神経保護、神経系の機能補助、代謝性疾患の管理及び/又は個体の骨密度の増加を提供するための、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを含む組成物、食品サプリメント又は栄養補助食品を提供する。
【0042】
本発明はその第十四の様相において、ミオスタチンの増加を特徴とする障害を治療するための、フォリスタチン及びアンギオゲニンの相互作用を利用して組織機能を改善することができる障害を治療するための、筋肉成長を促進するための、筋肉の傷害若しくは使用からの回復を改善するための、筋力を改善するための、運動耐容能を改善するための、筋肉の比率を増加させるための、脂肪を低減するための、個体の脂肪対筋肉比の低下及び/又は個体の骨密度を増加させるための医薬品の製造におけるアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストの使用を提供する。
【0043】
第十四の様相の一実施形態においては、前記医薬品は、更にフォリスタチンを含有する。
【0044】
第十四の様相の他の実施形態においては、前記医薬品は、フォリスタチンを用いた治療を受けている個体に投与するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】10倍の倍率で撮影したヒト内皮細胞(HUVEC)を示す。Aはアンギオゲニン(100ng/mL)を用いた処理に起因する血管発生を示し、Bは陽性対照であるVEGF(10ng/mL)、Cは陰性対照を示す。
【図2】カゼイン、BSA、フォリスタチン、アンギオゲニン又はフォリスタチン+アンギオゲニン投与又は陽性対照(DMEM及び10%FCS)におけるインビトロでのマウスC2C12筋芽細胞の増殖を例示する棒グラフ。
【図3】bアンギオゲニン及びhアンギオゲニンが無血清下に用量依存的に筋芽細胞の筋管への分化を誘導させることができることを示す。6ウェルプレート上でC2C12筋芽細胞をbアンギオゲニン(bANG)又はhアンギオゲニン(hANG)添加DMEM(対照)中で培養した。96時間後に撮影した画像は、対照であるDMEM培地と比較して、bANG及びhANGが両方共筋管形成を誘導することを示す。
【図4】ウシアンギオゲニンが2%HSの存在下において用量依存的に筋管形成を誘導することを示す。bアンギオゲニン(bANG)又はhアンギオゲニン(hANG)が添加された分化培地(DMEM+2%HS;対照)中でC2C12筋芽細胞を培養した。96時間後に撮影した画像は、対照培地と比較してbANGが筋管形成を誘導することを示す。rhANGは、アンギオゲニンが誘導因子であることを示す。
【図5】ウシアンギオゲニンがFSと相互作用することによって筋管形成を促進することを示す。C2C12筋芽細胞をウシアンギオゲニン(bANG)、フォリスタチン(FS)又はこれらの組合せを添加した分化培地(DMEM+2%HS;対照)中で培養した。96時間後の画像(a)及びCK分析(b)は、何れか一方の試薬を単独で用いた場合と比較して、bANGがFSと相互作用して相乗的に筋管形成を誘導することを示す。
【図6】C2C12細胞を分化させて筋管形成させた2時間後の、発現量が異なる遺伝子の階層型クラスタリング(少なくとも±1.6の倍数変化及びP<.05を基準とする)を示す。C2C12筋芽細胞をウシアンギオゲニン、フォリスタチン又はこれらの組合せを添加した分化培地(DMEM+2%HS;対照)中で培養した。発現が増加した遺伝子を赤で示し、発現が減少した遺伝子を青で示し、発現量が変化しなかった遺伝子を黄色で示す。
【図7】アンギオゲニンブロッキングペプチドが筋管形成を阻害することを示す。このペプチド(VFSVRVSILVF)は、アンギオゲニン/アクチン相互作用を特異的にブロックし、アンギオゲニンによる筋管形成の誘導を阻害する。
【図8】ミオスタチンが筋管形成に及ぼす作用をウシアンギオゲニンが制御できることを示す。アンギオゲニンは、ミオスタチン(Myo)が筋肉の筋管形成に及ぼす負の作用を打ち消すことができる。アンギオゲニン−フォリスタチン相乗機構によって、ミオスタチンの存在下においても管形成が対照水準まで回復する。
【図9】ミオスタチンが筋管形成に及ぼす作用をアンギオゲニンが制御できることを示す。アンギオゲニンは、ミオスタチン(Myo)が筋肉の筋管形成に及ぼす負の作用を打ち消すことができる。アンギオゲニン−フォリスタチン相乗機構によって、ミオスタチンの存在下においても管形成が対照水準まで回復する。
【図10】rhアンギオゲニン単独又はrhフォリスタチン単独の場合と比較すると、rhアンギオゲニン+rhフォリスタチンの存在下においてはPC12細胞が血清飢餓における細胞死から保護されることを示す。結果を同型培養のMean+SEMとして示す(培地のみの対照は×12レプリケート;rhアンギオゲニン(1.0μg/mL)、bアンギオゲニン(10μg/mL)及びrhフォリスタチン(0.1μg/mL)は×6レプリケート;rhNGF対照は×3レプリケート)。
【図11】rhアンギオゲニン単独又はrhフォリスタチン単独の場合と比較すると、rhアンギオゲニン+rhフォリスタチンの存在下においてはPC12細胞が血清飢餓における細胞死から保護されることを示す。結果を同型培養のMean+SEMとして示す(培地のみの対照は×12レプリケート;rhアンギオゲニン(1.0μg/mL)、bアンギオゲニン(10μg/mL)及びrhフォリスタチン(0.1μg/mL)は×6レプリケート;rhNGF対照は×3レプリケート)。
【図12】アンギオゲニンを飼料中に2.5μg/gとして自由給餌条件でマウスに給餌し、標準的な齧歯類用回し車で自由に運動させた場合に、四頭筋重量が1ヶ月間で増加することを示す。
【図13】アンギオゲニンを飼料中に2.5μg/gとして自由給餌条件でマウスに給餌し、標準的な齧歯類用回し車で自由に運動させた場合に、筋線維種の断面積(SA)が1ヶ月間で変化することを示す。対照動物の群平均を白色の棒グラフで表し、アンギオゲニン処理した動物の群平均を黒色の棒グラフで表す。標準偏差を示す。
【図14】アンギオゲニンを飼料中に2.5μg/gとして自由給餌条件でマウスに給餌し、標準的な齧歯類用回し車で自由に運動させた場合に、1日当たりの走行距離が1ヶ月間で増加することを示す。
【図15】アンギオゲニンを飼料中に2.5μg/飼料(g)として自由給餌条件でMDXマウスに給餌し、標準的な齧歯類用回し車で自由に運動させた場合に、四頭筋の筋肉壊死面積が低減されることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
アンギオゲニンは、血管内皮細胞、大動脈平滑筋細胞、フィブロブラスト等の増殖細胞及び直腸ガン、卵巣ガン、乳ガン等の腫瘍によって生産される分子量14kDaの非グリコシル化ポリペプチドである。アンギオゲニンは、正常ヒト血漿、ウシ血漿、ウシ乳(bovine milk)、マウス、ウサギ及びブタの血清等、種々の原料から単離されている。
【0047】
アンギオゲニンは膵臓リボヌクレアーゼの同族体であり、異なるリボ核酸分解活性を示す。このタンパク質は血管新生能を有するが、このタンパク質により誘導される血管新生においてアンギオゲニンのリボ核酸分解活性がどのような役割を果たしているかは未だ解明されていない。
【0048】
アンギオゲニンは血管新生の強力な刺激剤である以外にも、他の多くの活性を有することが示されている。しかしながら、血管新生の増強を介するもの以外にアンギオゲニンが筋肉に及ぼす影響は未だ開示されていない。
【0049】
本発明者らは、ミルク分画をカチオン交換クロマトグラフィーに付すことにより得られるアンギオゲニン富化精製物が、フォリスタチン(アンギオゲニンとは著しく異なる荷電特性を有する)も含有することを示した(データは示さず)。従来技術において、アンギオゲニン及びフォリスタチンは、酵母ツーハイブリッドモデルにおいて互いに結合することが示されている。本発明者らは、哺乳動物細胞内におけるアンギオゲニン及びフォリスタチンの生物学的に意味のある相互作用を初めて示した。フォリスタチンは、筋肉の成長及び発達を制御するといわれているタンパク質であるミオスタチンのアンタゴニストとして知られている。
【0050】
本発明はその一様相において障害の治療に関する。本明細書において「治療する(treating)」及び「治療(treatment)」とは、症状の重症度及び/又は頻度の低減、症状及び/又はその根底にある原因の解消、症状の発生の予防及び/又はその根底にある原因の発生の予防並びに損傷の改善若しくは修復を意味する。従って、例えば、障害を「治療する」本方法は、障害に罹りやすい個体における障害の予防及び臨床症状を示す個体の障害の治療の両方を含む。
【0051】
本明細書において「治療する」とは、脊椎動物や哺乳類(特にヒト)における症状の治療又は予防のいずれにも亘り、且つ症状の阻止、即ちその進展を止めること、或いは症状の影響の緩和又は改善、即ち症状の影響を後退させることを含む。
【0052】
本明細書において「予防(prophylaxis)」又は「予防的(prophylactic又はpreventative)治療とは、症状に罹りやすい可能性はあるが未だその症状を有するとは診断されていない被験体において、症状の発生を予防すること、或いは症状のその後の進展を改善することを含む。
【0053】
従来技術においてミオスタチンは筋肉の発達及び多数の関連する障害又は疾患に関与しているといわれている。成体においては、ミオスタチンmRNAは、脂肪組織及び心臓組織において認められるより低濃度ではあるものの、主として骨格筋中にその存在が認められる。ミオスタチンノックアウトマウスはその野生型同腹仔の2〜3倍高い筋量を有する。筋量の増加は線維肥大及び過形成の結果である。更に、ミオスタチンノックアウトマウスは、その野生型同腹仔よりも脂肪蓄積量が少ないものの、それ以外は正常且つ健康な様子を呈する。最近では、ミオスタチンが脂肪生成の重要な制御因子であることも示されている。更に、最近では、ミオスタチン欠損マウスの骨構造及び骨量に関する研究が行われている。
【0054】
本発明者らは、アンギオゲニンが筋肉に及ぼす作用をミオスタチンが実際に拮抗することを提案していることから、過去にミオスタチンを阻害することが提言されているいずれかの疾患の治療にアンギオゲニンを使用できることを提案する。
【0055】
従って、本発明によれば、アンギオゲニンを筋量の増加、骨密度の増加、筋消耗の低減に使用することができ、また、哺乳動物(好ましくはヒト)において、ミオスタチンの存在が望ましくない病理学的影響の原因となるか若しくはそれに寄与する状態、或いはミオスタチンレベルを低下させることによって治療効果が得られる状態の治療又は予防に有用であることができる。更に、ミオスタチンが調節不全ではないものの、フォリスタチンが媒介する細胞刺激を外来性のアンギオゲニンを添加することにより改善することができる状態の治療にアンギオゲニンを使用することができる。
【0056】
アンギオゲニンは、被験体の筋肉又は脂肪組織の量、発達又は代謝活性の異常を少なくとも一部の特徴とする病的状態の重症度を軽減するために使用することができる。これを投与することによって、カヘキシア、食欲不振、AIDS消耗症候群、筋ジストロフィー、神経筋疾患、運動ニューロン疾患、神経筋接合部の疾患、炎症性筋疾患等の消耗性障害の予防、緩和又は重症度の軽減が可能となる。
【0057】
「ミオスタチンに関連する障害」とは、筋肉、骨又はグルコース恒常性の障害を意味し、ミオスタチンの異常に関連する障害が含まれる。
【0058】
本発明は、筋障害及び筋変性の特性に関連する疾患の治療にまで拡張される。このような障害としては、種々の神経筋疾患、心不全、単一の筋肉(例えば、収縮筋又は膀胱筋)の筋力低下、血管平滑筋細胞の収縮機能の問題によって起こる低血圧又は高血圧、性交不能/勃起障害、失禁、AIDSに関連する筋力低下、一般的な加齢による筋萎縮等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
本発明における筋障害としては、特に、筋消耗状態又は筋消耗が主要な一症状である障害が挙げられる。
【0060】
筋肉は主として力の源として機能する身体組織である。身体には3種類の筋肉が存在する即ち、a)骨格筋(動作、姿勢の維持及び呼吸ができるように骨格に伝達される力の発生に関与する横紋筋、b)心筋(心臓の筋肉)及びc)平滑筋(動脈及び腸壁の筋肉)である。本発明の方法は、特に骨格筋に適用することができるが、心筋又は平滑筋にもある程度の効果を有し得る。
【0061】
骨格筋線維はタイプI(酸化/遅)又はタイプII(解糖/速)線維に大別される。これらは、密集度、代謝及び疲労しやすさに関して顕著な差異がある。タイプI線維はミトコンドリアに富み、主としてエネルギーを産生するための酸化的代謝に利用され、ATPを長時間に亘って安定供給するため疲労しにくい。タイプII線維には、IIa、IIx及びlIbの3つのサブタイプが含まれる。タイプlIb線維はミトコンドリアの含有量及び酸化酵素の量が最も少なく、主なエネルギー源を解糖代謝に依存しており、疲労しやすく、一方、タイプIIa及びIIxの酸化及び収縮機能はタイプI及びIIbの中間である。成体の骨格筋は可塑性を示し、運動トレーニング又は運動ニューロン活性の調節に応じて異なるタイプの線維に転換することができる。
【0062】
スポーツ選手の筋線維組成を測定すると、持久系競技の精鋭選手のトレーニングされた筋系には比較的タイプII線維よりもタイプI線維が多いことが判明している。マラソン選手もタイプI線維の方が多い傾向にある。タイプI線維は肉体の持久力を支配する因子であり得ることが提案されている。
【0063】
これに反して、加齢及び肉体の不活性は、タイプI線維、酸化能及びインスリン感受性の減少に伴う状態である。筋肉の酸化能は、持久力及び疲労耐性を決定する重要な因子であると思われる。骨格筋には、持久力訓練に対し酸化型筋線維(タイプI線維)の数を制御する適応代謝応答が存在すると思われる。
【0064】
骨格筋線維タイプIIbからタイプIIa及びタイプIへの転換は種々のシグナル伝達経路によって調節される。例えば、Ras/マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、カルシニュリン、カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼFV及びペルオキシソーム増殖因子y活性化補助因子1(PGC−I)が挙げられる。アンギオゲニンがこれらの経路を調節することができ、このような調節が骨格筋線維に影響することができる。
【0065】
「筋消耗」とは、動作を制御する骨格又は随意筋、心臓を調節する心筋及び平滑筋を含む筋肉の進行性の筋量減少及び/又は進行性の筋力低下及び筋変性を意味する。一実施形態においては、筋消耗状態又は障害は慢性的な筋消耗状態又は障害である。本明細書において「慢性的な筋消耗」とは、慢性的な(即ち長期間続く)進行性の筋量減少及び/又は慢性的な進行性の筋力低下及び筋変性と定義される。
【0066】
筋消耗の際に起こる筋量の減少は、筋タンパク異化による筋タンパク質の破壊又は分解によって特徴づけることができる。タンパク異化は、タンパク質分解速度が異常に速いか、タンパク質合成速度が異常に遅いか、或いはこれらの両方が重なることによって起こる。タンパク質の異化又は欠乏は、タンパク質分解の度合いが高いこと又はタンパク質合成の度合いが低いことのどちらが原因であっても、筋量の減少及び筋消耗を引き起こす。「異化」とは、当該技術分野において通常知られている意味であり、具体的には代謝のエネルギー燃焼形態である。
【0067】
筋消耗は病態、疾患、状態又は障害の結果として起こり得る。一実施形態においては、この病態、疾病、疾患又は状態は慢性的である。他の実施形態においては、この病態、疾病、疾患又は状態は遺伝的である。他の実施形態においては、この病態、疾病、疾患又は状態は神経性である。他の実施形態においては、この病態、疾病、疾患又は状態は感染性である。本明細書に記載したように、本発明の化合物及び組成物が投与される病態、疾患、状態又は障害は直接的或いは間接的に筋量の消耗(即ち減少)を生じさせるもの、即ち筋消耗障害である。
【0068】
関節又は骨格の変形を伴う神経筋疾患の治療が特に好ましい。一実施形態においては、被験体の筋消耗は、被験体が筋ジストロフィー、筋萎縮症又はX連鎖球脊髄性筋萎縮症(SBMA)を有する結果として起こる。
【0069】
筋ジストロフィーは、動作を制御する骨格又は随意筋の進行性の筋力低下及び変性を特徴とする遺伝性疾患である。心筋及び他の一部の不随意筋も、ある種の形態の筋ジストロフィーとなる。筋ジストロフィー(MD)の主な形態はデュシェンヌ型筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー及びエメリー・ドレフュス型筋ジストロフィーである。
【0070】
筋ジストロフィーはあらゆる年齢層で罹患する可能性がある。一部の形態は幼少期に明らかとなるが、それ以外は中年期或いはそれ以降まで現れない場合もある。デュシェンヌ型MDは最も一般的な形態であり、通常小児に罹患する。筋緊張性ジストロフィーは、この疾患の成人の中では最も一般的なものである。
【0071】
筋萎縮症(MA)は、筋肉の衰弱又は縮小及び筋量の減少を特徴とする。例えば、ポリオ後のMAは、ポリオ後症候群(PPS)の一部として起こる筋消耗である。この萎縮には、脱力感、筋肉疲労及び痛みが伴う。
【0072】
MAの他のタイプはX連鎖球脊髄性筋萎縮症(SBMA、ケネディ病としても知られる)である。この疾患はX染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子欠損に起因し、男性のみが罹患し、成人期になってから発症する。
【0073】
サルコペニアは、高齢の慢性疾患患者を悩ませる衰弱性疾患であり、筋量及び筋機能の低下を特徴とする。更に、特定の筋消耗障害では除脂肪体重が増加するに伴い罹患率及び死亡率が低下する。更に、他の環境及び条件が筋消耗障害に関与し、その原因となっている可能性がある。例えば、慢性腰痛の重症症例研究においては、傍脊柱筋消耗の存在が示されている。
【0074】
筋消耗及び他の組織消耗は高齢になることにも関連する。老年者の一般的な脱力感は筋消耗に起因すると考えられている。肉体が老化するに従い、骨格筋の比率が次第に線維組織に置換される。その結果、筋力、動作及び持久力が著しく低下する。
【0075】
疾病若しくは傷害による長期入院や廃用による体力の減退(例えば、四肢が固定された場合に起こる)によっても筋消耗や他の組織消耗が起こり得る。傷害、慢性疾病、熱傷、外傷又はガンを患う長期入院患者において、長期間持続する片側性の筋消耗及び体重減少があることが各種調査により分かっている。
【0076】
中枢神経系(CNS)の傷害や損傷も、筋消耗及び他の消耗性障害と関連している。CNSの傷害又は損傷は、例えば、疾患、外傷又は薬品によって起こり得る。その例としては、中枢神経の傷害又は損傷、末梢神経の傷害又は損傷、脊髄の傷害又は損傷が挙げられる。一実施形態においては、CNSの損傷又は傷害には、アルツハイマー病(AD)、卒中、怒り(気分)、食欲不振、神経性食欲不振症、加齢及び/又は自己主張(気分)に伴う食欲不振が含まれる。
【0077】
他の実施形態においては、筋消耗又は他の組織の消耗は、アルコール依存症に起因することもある。
【0078】
一実施形態においては、治療される消耗性疾患、障害又は状態は、慢性疾病に関連するものである。
【0079】
この実施形態は、組織質量の低下に起因する筋消耗、体重減少、栄養不良、飢餓又はいずれかの機能の消耗若しくは喪失に反映され得る消耗性障害のいずれかの治療に関する。
【0080】
幾つかの実施形態においては、本発明の方法により、消耗性疾患若しくは障害(カヘキシア等)、栄養不良、結核、ライ病、糖尿病、腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ガン、末期腎不全、サルコペニア、肺気腫、骨軟化症又は心筋症を治療することができる。
【0081】
幾つかの実施形態においては、消耗は、エンテロウイルス、エプスタイン・バールウイルス、帯状疱疹、HIV、トリパノソーマ、インフルエンザ、コクサッキー、リケッチア、旋毛虫、住血吸虫又はマイコバクテリアの感染に起因する。
【0082】
カヘキシアは疾患又は疾病副作用によって起こる脱力感及び体重減少である。心臓性カヘキシア、即ち心筋及び骨格筋の両方の筋タンパクの消耗は鬱血性心不全に特徴的である。ガン性カヘキシアは、固形腫瘍及び血液悪性腫瘍の患者に発生する症候群であり、脂肪組織量及び除脂肪筋肉量の両方が大量に失われることによる体重減少が著明である。
【0083】
また、カヘキシアは後天性免疫不全症候群(AIDS)においても見られ、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)に関連するミオパシー及び/又は筋力低下/筋消耗はAIDSの比較的一般的な臨床症状である。HIVに関連するミオパシー又は筋力低下又は筋消耗を有する個体は通常著しい体重減少、全身又は近位筋力の低下、圧痛及び筋萎縮を経験する。
【0084】
筋消耗性障害を治療しないと深刻な健康状態となり得る。筋消耗の際に起こる変化によって肉体状態が衰弱する結果、身体機能が衰え、健康に悪影響が及ぼされる。
【0085】
従って、固定後の患者に筋萎縮があると、患者のリハビリが非常に制限される可能性がある。慢性疾患による筋消耗は、可動性を早期に喪失させたり、疾患に関連する罹患のリスクを増大させる可能性がある。廃用による筋消耗は、年齢に伴う筋機能及び筋量不足に既に悩むこともある高齢者にとって特に深刻な問題であり、その結果として不可逆的な身体障害や早期死亡のみならず骨折率の増加も起こる。この状態の臨床的な重大さにも拘わらず、この状態を予防又は回復させる治療はほとんど存在しない。本発明者らは、上に挙げた何れかの状態を伴う筋消耗又は筋萎縮の予防及び治療にアンギオゲニンが使用できることを提案する。
【0086】
アンギオゲニンは、特にフォリスタチンと併用するか或いは経口投与した場合に神経保護作用を示し、従って、神経系に影響する神経障害又は疾患、特に運動ニューロン疾患の治療に有用であることことが本明細書に示される。アンギオゲニンで治療することができる運動ニューロン疾患の例としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(ルー・ゲーリック病としても知られる)や小児脊髄性進行性筋萎縮症(SMA、SMA1又はWH)(SMA1型、ウェルドニッヒ・ホフマン症としても知られる)、中間型脊髄性筋萎縮症(SMA又はSMA2)(SMA2型としても知られる)、若年型脊髄性筋萎縮症(SMA、SMA3又はKW)(SMA3型、クーゲルベルク・ヴェランダーとしても知られる)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)(ケネディ病及びX連鎖SBMAとしても知られる)、成人型脊髄性筋萎縮症(SMA)が挙げられる。
【0087】
アンギオゲニンで治療することができる炎症性ミオパシーの例としては、皮膚筋炎(PM/DM)や多発性筋炎(PM/DM)、封入体筋炎(IBM)が挙げられる。
【0088】
アンギオゲニンで治療することができる神経筋接合部の疾患の例としては、重症筋無力症(MG)やランバート・イートン症候群(LES)、先天性筋無力症候群(CMS)が挙げられる。
【0089】
アンギオゲニンで治療することができる内分泌異常に起因するミオパシーの例としては、甲状腺機能亢進性ミオパシー(HYPTM)及び甲状腺機能低下性ミオパシー(HYPOTM)が挙げられる。
【0090】
アンギオゲニンで治療することができる末梢神経疾患としては、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)やデジュリーヌ・ソッタス病(DS)、フリートライヒ失調症(FA)が挙げられる。
【0091】
アンギオゲニンで治療することができる他のミオパシーの例としては、先天性筋強直症(MC)や先天性パラミオトニア(PC)、セントラルコア病(CCD)、ネマリンミオパシー(NM)、筋細管ミオパシー(MTM又はMM)、周期性麻痺(PP)が挙げられる。
【0092】
アンギオゲニンはまた、創傷治癒の促進及び創傷治療にも用いることができ、この使用はどちらも以前からミオスタチン阻害剤として提案されていたものである。
【0093】
アンギオゲニンで治療することができる筋肉の代謝疾患の例としては、ホスホリラーゼ欠損(MPD又はPYGM)や酸マルターゼ欠損(AMD)、ホスホフルクトキナーゼ欠損(PFKM)、脱分岐酵素欠損(DBD)、ミトコンドリア・ミオパシー(MITO)、カルニチン欠損(CD)、カルニチンパルミチールトランスフェラーゼ欠損(CPT)、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損(PGK)、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損(PGAM又はPGAMM)、乳酸脱水素酵素欠損(LDHA)、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損(MAD)が挙げられる。これらの疾患はミオスタチン阻害剤による治療が以前から提案されていたものである。
【0094】
本発明者らは、本明細書に記載する実験においてアンギオゲニンが脂肪を低減させることを示す。このことは以前からミオスタチン阻害剤に関し示されていたことであり、アンギオゲニンが脂質代謝障害が関与する疾患(脂質異常症等)及びこれに関連する脂質異常(高脂血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、混合型脂質異常症等)の治療に使用できることを示している。
【0095】
脂質異常症は、脂質代謝の変化による循環脂質レベルの異常を特徴とする。このような異常には、異なる循環脂質分画(コレステロール、トリグリセリド、リポタンパク)の何れか1種以上が含まれる得る。脂質異常症には、血清コレステロールが上昇して正常な上限値(ヒトの血中における安全な正常上限値は約125〜200mg/dLの範囲である)を上回る高コレステロール血症、血清トリグリセリドが上昇して正常レベル(ヒトの血中における安全な正常上限値は約30〜140mg/dLの範囲である)を上回る高トリグリセリド血症及び混合型脂質障害が含まれる。
【0096】
脂質異常症には、高トリグリセリド血症及び混合型脂質異常症(高脂血症)が含まれる。高トリグリセリド血症には超低比重リポタンパク(VLDL)レベルの上昇が関与する一方、混合型脂質異常症(高脂血症)には高トリグリセリド血症及び高コレステロール血症の併発が関与しており、高比重リポタンパク(HDL)レベルの低下も関与している場合が多い。従って、脂質異常症は、リポタンパクの過剰産生又は欠乏を引き起こすリポタンパク代謝の障害でもある。脂質異常症は通常次に示す1以上の特徴を有する:血漿トリグリセリドの上昇、血漿総コレステロールの上昇、高比重リポタンパクコレステロール(HDL−c)の低下、低比重リポタンパクコレステロール(LDL−c)レベルの上昇。例えば、脂質異常症は次の1以上の状態を有することができる:低HDL−c(<35又は40mg/dL)、高トリグリセリド(>200mg/dL)、高LDL−c(>150mg/dL)、コレステロールの上昇(>200mg/dL)。
【0097】
脂質異常症が心血管血管疾患(CVD)及びアテローム発生の主要な一危険因子であることは広く認識されている。心血管障害は、世界的に身体障害及び死亡の主たる原因である。高血清コレステロール、特にLDL及びVLDLに結合するコレステロールはアテローム発生の主な危険因子の一種である。高トリグリセリド、小粒子LDLの増加及びHDLレベルの低下は、いずれも独立にアテローム生成性を有すると思われる。血漿HDLとCVDのリスクとの間には強い逆相関がある。LDLコレステロールとCVDのリスクとの間には正の相関が存在する。従って、LDL及びVLDLレベルが増大すると冠動脈疾患のリスクが上昇する一方、HDL中で高レベルのコレステロールが輸送されると冠動脈疾患から保護される。トリグリセリドはまた、CVDにおいても重要な役割を果たすと思われる。空腹時トリグリセリドレベルが高いと、HDLコレステロール等、他の主要な危険因子とは無関係に、高齢男性の虚血性心疾患の強い危険因子となる。血清のコレステロール及びトリグリセリドの両方のレベルが上昇することを特徴とする複合型高脂血症を有する人は、LDLコレステロールレベルのみが高い人よりも心疾患のリスクが高い。従って、両方のレベルを低下させることが望ましい目標である。
【0098】
グルコース代謝障害及びインスリン作用の障害に関係のある疾患としては、糖尿病、特に1型及び2型糖尿病、その中でも特に、(非自己免疫性)インスリン非依存型糖尿病(NIDDM;いわゆる2型糖尿病)が挙げられる。他のこの種の疾患はシンドロームX、即ちメタボリック症候群である。
【0099】
糖尿病とは、複数の成因による複合的な代謝疾患を定義するものであり、グルコース代謝障害を特徴とし、通常はタンパク質及び脂肪代謝障害を伴う。その結果として、空腹時及び食後の血清グルコースが上昇し、治療を行わずに放置すると合併症を引き起こす。糖尿病には4種の異なる形態が知られており、(1)1型糖尿病、(2)2型糖尿病、(3)妊娠中に初めて発症するか発見される、いわゆる妊娠糖尿病及び(4)主として遺伝子異常に基づく他の数種の形態がある。
【0100】
「糖尿病」とは、血糖値の上昇、肥満に伴う病態、耐糖能異常、インスリン抵抗性の上昇、高脂血症、脂質異常症、コレステロールの上昇(高コレステロール血症、高グリセリド血症)、高インスリン血症、高血圧、ミクロアルブミン尿症等の代謝異常を含むがこれらに限定されない。耐糖能異常及び空腹時血糖異常は糖尿病前症と称される二症状である。この段階にはいわゆるインスリン抵抗性が関与しており、「シンドロームX」又は「メタボリック症候群」と呼ばれる代謝疾患群の中の一種であり、特に、高い脂肪対筋肉比が関与している。2型糖尿病には高トリグリセリド血症や脂質異常症等のシンドロームXに由来する他の症状が伴うことが多いため、アンギオゲニンを使用することで被験体の脂肪対筋肉比が大きく改善されるはずであるから、本発明の方法はシンドロームXの治療又は予防にも有用である。
【0101】
1型及び2型糖尿病は糖尿病の主要な2形態であり、その中でも2型糖尿病が最も一般的な形態である。1型及び2型糖尿病には、高血糖、高コレステロール血症及び高脂血症が関連している。1型及び2型糖尿病では、インスリン非感受性やインスリンの絶対的欠乏によって、肝臓、筋肉及び脂肪組織に利用されるグルコースが減少し、血糖値が増大する。高血糖がコントロールされないと、眼、心臓、血管、腎臓、神経等の種々の臓器の機能不全や損傷が随伴し、それによって腎症、神経障害、網膜症、下肢及び足の潰瘍化、脂肪肝疾患、高血圧、心血管疾患及び脳血管疾患(卒中)等の微小血管及び大血管疾患、即ちいわゆる糖尿病合併症のリスクが高まることにより、若年死亡率が増加する結果となる。
【0102】
最近では、1型及び2型糖尿病の両者において厳格な血糖コントロールを行うことが合併症を予防するための主なファクターであることが実証されている。従って、薬物及び治療投薬計画によって最適な血糖コントロールを行うことが糖尿病治療の重要な手法である。
【0103】
1型糖尿病は、通常小児期又は思春期に発症する糖尿病の形態であり、インスリン分泌の絶対的欠乏を招くインスリン産生β細胞の自己免疫破壊を特徴とする。
【0104】
2型糖尿病は、主として成人期に発症する糖尿病の形態であり、この疾患の初期におけるインスリン産生は十分であるが、インスリン感受性、特に末梢組織におけるインスリンを介したグルコースの利用及び代謝に欠陥が存在する。2型糖尿病に伴う種々の組織変化は臨床症状が認められる前にも存在する。
【0105】
外傷(例えば熱傷又は窒素バランスの崩れ)及び脂肪組織障害(例えば肥満)によって誘導されるインスリン抵抗性の治療も意図されている。
【0106】
本発明によるアンギオゲニンの他の使用としては、骨粗鬆症(特に、高齢者及び/又は閉経後の女性)、糖質コルチロイドに起因する骨粗鬆症、骨減少症、変形性関節症、骨粗鬆症が関与する骨折並びに筋肉組織の外傷的傷害又は慢性的傷害の治療が挙げられる。アンギオゲニンの更なる使用としては、長期の糖質コルチロイド療法に起因する低骨量、早発性腺機能不全、アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏症、二次性副甲状腺機能亢進症、栄養欠乏症及び神経性食欲不振症の治療が挙げられる。
【0107】
本発明の他の様相においては、健康な個体の筋量、筋力、筋機能又は全体的な体格を向上させるための治療も意図されている。アンギオゲニンはまた、傷害、外傷、損傷又はトレーニングによる過度の使用からの筋肉の回復を促進すること、従って運動耐容能を向上させることも提案されている。
【0108】
「筋量の増加」とは、アンギオゲニン治療後に、治療前に存在していた筋量と比較してより多量の筋肉が存在することを意味する。
【0109】
「筋力の増大」とは、アンギオゲニン治療後の筋肉に存在する、力を発生する能力が、治療前に存在していたものよりも高いことを意味する。
【0110】
「筋機能の増大」とは、アンギオゲニン治療後の筋肉に、治療前に存在していたよりも多様な機能が存在することを意味する。
【0111】
「運動耐容能の増大」とは、アンギオゲニン治療後に、治療前に必要としていたよりも運動間の休息が短くても運動ができる能力を指す。
【0112】
筋肉は、主として力の源として機能する身体組織である。身体の筋肉には3種類ある。即ち、a)骨格筋(動作、姿勢の維持及び呼吸が可能となるように骨格に伝達される力の発生に関与する横紋筋)、b)心筋(心臓の筋肉)及びc)平滑筋(動脈及び腸壁の筋肉)である。本発明の方法は、特に骨格筋に適用可能であるが、心筋又は平滑筋にもある程度の効果があるであろう。本明細書において骨格筋とは骨、筋肉及び腱の相互作用も含み、また、筋肉線維及び関節も含む。
【0113】
アンギオゲニンは、血管新生作用及び筋肉への血流を増加させる能力によって心筋に作用することが以前から提案されているが、この作用は酸化型筋肉(タイプI及びタイプIIa)に限られていた。本発明において認められるフォリスタチンが媒介するアンギオゲニンの筋肉への作用は、あらゆる筋線維が影響を受けていることからも証明されるように、血管新生に関連するものとは異なっている。
【0114】
「脂肪の低減」とは、アンギオゲニンで治療した後に存在する脂肪量が治療前に存在していた脂肪量よりも減少していることを意味する。特に本発明は、内臓脂肪即ち腹腔内及び内臓周辺に存在する脂肪に適用可能である。皮下脂肪及び/又は筋肉内脂肪にも効果を奏することができる。
【0115】
健全な個体に推奨されるアンギオゲニンの使用は、スポーツ選手(精鋭及びアマチュア)、ボディビルダー、減量により体格の向上を望む人々、及び肉体労働者に有用であろう。
【0116】
アンギオゲニンの配列及び機能は生物種を超えて高度に保存されることから、本発明の方法は、ミオスタチンの存在が望ましくない病理学的影響の原因となるか若しくはそれに寄与するか、或いはミオスタチンレベルを低下させることによって治療効果が得られるようなヒト以外の哺乳動物又は鳥類(例えば、家畜(例えば、イヌ科及びネコ科動物)、競技用動物(例えば、ウマ科動物)、食用動物(例えば、ウシ、ブタ及びヒツジ)、鳥類(例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、他の狩猟鳥又は家禽))にも適用可能である。
【0117】
アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストは、医薬、獣医学組成物、栄養補助食品組成物又は食品として提供することができる。
【0118】
医薬組成物はヒトに投与するのに好適なものである。獣医学組成物は動物に投与するのに好適なものである。一般に、この種の組成物は精製されたアンギオゲニン若しくはアンギオゲニンアゴニストを含むか、或いは少なくとも組成物の全成分を確認することができるものであろう。
【0119】
本方法の第一〜十一様相に使用される組成物は、1種以上の担体及び任意的に他の治療剤を含んでいてもよい。各担体、希釈剤、補助剤及び/又は賦形剤は、医薬的に「許容される」ものであることができる。
【0120】
「医薬的に許容される担体」とは、生物学的にもそれ以外の点でも望ましくないものではない材料を意味する。即ち、この材料は、それを含有する医薬組成物中の他の成分の何れとも望ましくない生物学的効果をもたらすことなく、また、有害な形式で相互作用もすることなく、選択された活性剤と共に個体に投与することができる。同様に、本発明において提供される新規化合物の「医薬的に許容される」塩又はエステルは、生物学的にもそれ以外の点でも望ましくないものではない塩又はエステルである。
【0121】
本明細書において用いられる「医薬担体」とは、剤を被験体に送達するための医薬的に許容される溶媒、懸濁剤又はビヒクルである。担体は、液体でも固体でもよく、意図された投与計画の方法に合わせて選択される。各担体は、生物学的又はそれ以外の点で望ましくないものではないという意味で、医薬的に「許容される」ものでなければならない。即ちこの担体は、有害な反応を全く又は実質的に引き起こすことなく剤と共に被験体に投与することができる。
【0122】
前記組成物は、従来の医薬的に許容される無毒性の担体、補助剤及び賦形剤を含む配合物として、経口的、局所的又は非経口的に投与することができる。
【0123】
本明細書において「非経口的」とは、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、結膜下、腔内、経皮及び皮下に各注射、肺若しくは鼻腔投与用エアゾール又は輸液(例えば、浸透圧ポンプによる)による投与を含む。
【0124】
本組成物は、錠剤、水中若しくは油中懸濁液、ロゼンジ剤、トローチ剤、散剤、顆粒剤、乳剤、カプセル剤、シロップ剤又はエリキシル剤として経口投与することができる。経口用の本組成物は、医薬的に洗練された風味のよい製剤を製造するための、甘味剤、香味剤、着色剤及び防腐剤の群から選択される1種以上の剤を含んでいてもよい。好適な甘味剤としては、スクロースやラクトース、グルコース、アスパルテーム、サッカリンが挙げられる。好適な崩壊剤としては、コーンスターチやメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸、寒天が挙げられる。好適な香味剤としては、ハッカ油やウインターグリーン油、チェリー、オレンジ、ラズベリーの各香味料が挙げられる。好適な防腐剤としては、安息香酸ナトリウムやビタミンE、アルファトコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベン、重亜硫酸ナトリウムが挙げられる。好適な滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウムやステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、タルクが挙げられる。好適な徐放剤としては、モノステアリン酸グリセリルやジステアリン酸グリセリルが挙げられる。錠剤に関しては、錠剤の製造に好適な医薬的に許容される無毒の賦形剤との混合物中に当該剤を含むことができる。
【0125】
これらの賦形剤は、例えば、(1)炭酸カルシウム、ラクトース、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の不活性希釈剤、(2)コーンスターチ、アルギン酸等の造粒・崩壊剤、(3)デンプン、ゼラチン、アラビアゴム等の結合剤及び(4)ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク等の滑沢剤であることができる。これらの錠剤は、コーティングされていなくても、或いは崩壊及び胃腸管への吸収を遅延させることによって長期間に亘り徐放作用が得られるように公知の技法でコーティングされていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリルやジステアリン酸グリセリル等の徐放材料を用いることができる。
【0126】
非経口投与用製剤としては、無菌の水性又は非水性液剤、懸濁剤及び乳剤が挙げられる。非水性溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油等)及び注射可能な有機エステル(オレイン酸エチル等)が挙げられる。水性担体としては、生理食塩水及び緩衝化された媒体を含む、水、アルコール性/水性溶液、乳化液及び懸濁液が挙げられる。非経口用ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液やデキストロース加リンゲル液、デキストロ−ス及び塩化ナトリウムが挙げられ、乳酸リンゲル静注用賦形剤は水分(fluid)と栄養補給剤と電解質補給剤(デキストロース加リンゲル液をベースとするものなど)等を含む。防腐剤及び他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、成長因子、不活性ガス等も存在させることができる。
【0127】
本組成物は、治療機能を補足、付加又は向上させるための他の活性化合物も含むことができる。本医薬組成物はまた、投与説明書と共に、容器、パック、ディスペンサーに収容されることができる。
【0128】
アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストは他の治療上有用な剤を含むことができ、また、それらと同時に或いは順次に投与されることができる。この剤としては、成長因子(例えば、BMPs、TGF−P、FGF、IGF)やサイトカイン(例えば、インターロイキン及びCDFs)、抗生物質、治療される状態に有益な他の治療薬等が挙げられる。
【0129】
アンギオゲニン又はそのアゴニストは、獣医学組成物の形態での使用目的で提供されることができる。これは、例えば、当該技術分野における従来法により調製することができる。このような獣医学組成物の例としては:
(a)経口投与用、外用(例えば、水薬(例えば、水性又は非水性の液剤又は懸濁液)、錠剤若しくは大丸薬、飼料に混合するための散剤、顆粒剤又は丸薬、舌に塗布するためのペースト剤(特に、反芻動物に投与する場合はルーメンにおいて適切に保護されるもの))、
(b)非経口投与用(例えば、皮下、筋内若しくは静脈内注射(例えば、無菌液剤又は懸濁液として)によるもの又は(適切な場合は)乳首を介して懸濁剤若しくは液剤を乳房に導入する乳房内注入によるもの)、
(c)局所適用(例えば、皮膚に適用されるクリーム剤、軟膏剤又は噴霧剤として)及び
(d)膣内用(例えば、膣坐剤、クリーム剤又はフォーム剤として)に適合されたものが挙げられる。
【0130】
投与が容易になり、且つ用量が均一になるように、組成物を単位投与形態として配合すると特に有利である。本明細書において単位投与形態とは、治療すべき被験体に単位投与するのに適した物理的に分離した単位を指し、各単位は必要な医薬担体と共に所望の治療効果を生じさせるように計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の単位投与形態の規格は、活性化合物固有の特性及び達成すべき特定の治療効果、更には個体を治療するためにこの種の活性化合物を配合する当該技術分野に存在する制限に関する要求に直接的に依存し、規定される。
【0131】
アンギオゲニン又はそのアゴニストを含む組成物は治療有効量で投与されるべきである。本明細書においてアンギオゲニンの「有効量」とは、所望の生物学的成果を達成するためにミオスタチンの活性を低減させるのに十分な用量である。所望の生物学的成果は、筋量の増加、筋力の増大、代謝の改善、肥満の低減、グルコース恒常性の改善等のいずれかの治療効果であることができる。このような改善は、除脂肪体重及び体脂肪量(二重線走査解析等)、筋力、血清脂質、血清レプチン、血清グルコース、糖化ヘモグロビン、耐糖能及び糖尿病の二次的合併症の改善の各測定等、種々の方法で測定することができる。
【0132】
一般に、治療有効量は、被験体の年齢、状態及び性別に加え、被験体の病状の重症度によって変化し得る。用量は医師が決定することができ、適切な治療効果が認められるように必要に応じて調節することができる。アンギオゲニン又はそのアゴニストの適切な投与用量は、5mg〜100mg、15mg〜85mg、30mg〜70mg又は40mg〜60mgの範囲内とすることができる。本組成物は、単回投与又は1日1回、1週間に1回、1ヶ月月に1回等の間隔で投与することができる。
【0133】
投与計画は、アンギオゲニン若しくはそのアゴニストの半減期又は患者の状態の重症度に応じて調節することができる。
【0134】
通常、本組成物は投与後のアンギオゲニンの最大循環レベルとなる時間が最大限長くなるように急速(ボーラス)投与量で投与される。急速投与後に持続注入を行うことができる。
【0135】
アンギオゲニンを提供するために本方法が栄養補助食品組成物を利用することも意図されている。本方法において使用するための栄養補助食品組成物が提供される。
【0136】
本明細書において「栄養補助食品」とは、食品から単離・精製される可食製品を意味し、ミルク試料から得られる場合、経口投与した際に生理的利点を示し、また急性・慢性の疾患又は障害の防止又は軽減を提供することを示す製品である。従って、栄養補助食品は、単独或いは食品・飲料に混合されて、食物製剤又はサプリメントの形態とすることができる。
【0137】
栄養補助食品組成物は、可溶性粉末、液体又は即席飲料の形態とすることができる。或いは、手軽に食べられるバーや朝食シリアル等の固形物とすることができる。この組成物は種々のフレーバー、ファイバー、甘味料、他の添加物等を含むことができる。
【0138】
前記栄養補助食品は、好ましくは許容される官能的性質(許容される香り、味、風味等)を有し、ビタミンA、B1、B2、B3、B5、B6、B11、B12、ビオチン、C、D、E、H及びK、カルシウム、マグネシウム、カリウム、亜鉛及び鉄から選択される一以上のビタミン及び/又はミネラルを更に含むことができる。
【0139】
栄養補助食品組成物は従来通りに、例えばタンパク質と他の添加物をブレンドして製造することができる。使用する場合は、乳化剤を含ませることもできる。この時点でビタミン及びミネラルを追加することもできるが、通常は熱による変性を避けるために後で加える。
【0140】
粉末状の栄養補助食品組成物を製造したい場合、タンパク質を粉末状の追加成分と混和することができる。この粉末は水分量約5重量%未満でなければならない。水、好ましくは逆浸透処理済の水を更に混合して混合液体とすることができる。
【0141】
栄養補助食品組成物を即席液体として提供する場合、バクテリアを低減するために組成物を加熱することができる。液状の栄養補助食品組成物を製造したい場合、液体混合物を好ましくは無菌状態で適切な容器に充填する。容器への無菌充填は当業界で通常可能な技法により行うことができる。この種の無菌充填に好適な装置は市販されている。
【0142】
本栄養補助食品組成物は一以上の医薬的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含むことが好ましい。このような組成物は、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等のバッファー;グルコース、マンノース、スクロース、デキストラン等の炭水化物;マンニトール;タンパク質;ポリペプチド又はグリシン等のアミノ酸;酸化防止剤;EDTA等のキレート剤;及び補助剤及び保存剤を含むことができる。
【0143】
本栄養補助食品は、調整粉乳、特に、乳児に投与するために母乳に近づけた調乳とすることができる。このような調乳は、成長障害又は早産若しくは低出生体重児の治療に有用となり得る。本食品を乳児又は小児の認知機能を改善するために投与することができる。
【0144】
本発明の方法に使用されるアンギオゲニンはいかなる原料からも得ることができる。この原料は天然、合成或いは組換体であることができる。組換えアンギオゲニンは、ヒト、雌ウシ、ヒツジ、マウス等のいかなるの生物種のアンギオゲニン配列に基づくことができる。組換えヒトアンギオゲニンは、R&Dシステムズより入手可能である。
【0145】
アンギオゲニンは、正常なヒト血漿、ウシ血漿、ウシ乳、ウシ血漿並びにマウス、ウサギ及びブタ血清中に存在することが知られている。少なくともヒトアンギオゲニンのDNA配列及びタンパク質配列が入手可能であり、組換えヒトアンギオゲニンはアブノバ・コーポレーション(台湾)より小規模用途用に市販されている。
【0146】
一実施形態においてアンギオゲニンは、商業規模で容易に入手可能なアンギオゲニンの原料としての家畜動物の血漿又はミルクから調製される。
【0147】
ミルクは、授乳中の動物、例えば、ウシ、ヒツジ、スイギュウ、ヤギ、シカ等の反芻動物、ヒト等の霊長類及びブタ等の単胃動物等の非反芻動物のいずれかから得ることができる。好ましい実施形態においては、アンギオゲニンは牛乳から抽出される。アンギオゲニンを産生する動物は、その乳中でアンギオゲニンを過剰発現するように設計されたトランスジェニック動物であることができる。
【0148】
本発明者らは、泌乳の初日〜14日以内のウシ乳中にアンギオゲニンが最大量又は最も濃厚な量(最高で12mg/L)で存在することを示した。その後、この濃度は約1〜2mg/Lという基底水準まで低下する。従って、本発明の方法においては泌乳の最初の14日目以内に得られる牛乳をアンギオゲニン原料として第一〜十一の様相の方法において用いることが好ましい。その後の泌乳から得られた牛乳に残留しているアンギオゲニンの量を考えると、これもやはり本発明の方法の原料として使用することができる。
【0149】
本発明の方法に使用されるアンギオゲニンは単離又は精製されたものであることができる。精製又は単離されたアンギオゲニンは、そうでなければ含まれてしまう少なくとも1種の剤又は化合物を実質的に含まない。例えば、単離されたタンパク質は、少なくともその起源となる細胞や組織原料に由来する何らかの細胞性物質又は混入タンパク質を実質的に含まない。「細胞性物質を実質的に含まない」というは、アンギオゲニンの純度が少なくとも50〜59%(w/w)、少なくとも60〜69%(w/w)、少なくとも70〜79%(w/w)、少なくとも80〜89%(w/w)、少なくとも90〜95%又は少なくとも96%、97%、98%、99%若しくは100%(w/w)である調製物を意味する。
【0150】
バクテリア中で調製された組換えアンギオゲニンをアンギオゲニン原料として使用することができ、これをタンパク質凝集体の形態で提供することができる。
【0151】
ウシ乳は何百年もの食物連鎖中の天然産物であり、栄養補助食品として使用されるアンギオゲニンが完全に純粋である必要はない。しかしながら、投与される組成物の量を低減させるためには、アンギオゲニンをミルク中の濃度よりも顕著に濃縮することが好ましい。アンギオゲニンは、ミルク中の濃度の少なくとも10倍の濃度、より好ましくは乳中の濃度の20、30、40又は50倍の濃度で投与されることが好ましい。
【0152】
アンギオゲニンが食品として提供される場合、食品サプリメント、栄養製剤、スポーツ栄養サプリメント又は調整粉乳の形態をとることができる。
【0153】
当業者であればウシアンギオゲニンの突然変異体が天然に存在し、これを製造できることを理解するであろう。本発明はこの種の変異体の使用も意図している。
【0154】
当業者であれば、アンギオゲニンがその生物学的性質を変えることなくアミノ酸配列中に任意の数の保存的変化を含み得ることを認識するであろう。このような保存的なアミノ酸修飾は、アミノ酸側鎖置換基が疎水性、親水性、電荷、サイズ等に関し比較的類似していることに基づいている。種々の前述の特徴を考慮した保存的置換の例は当業者に知られており、アルギニン−リジン,グルタミン酸塩−アスパラギン酸塩、セリン−トレオニン、グルタミン−アスパラギン並びにバリン、ロイシン及びイソロイシンが挙げられる。
【0155】
本発明はまた、アンギオゲニンの変異体、類縁体又はフラグメントの使用も含む。例えば、アンギオゲニンの核酸配列又はアミノ酸配列は、天然のタンパク質の核酸又はアミノ酸と同一の配列を少なくとも70%〜79%、少なくとも80%〜89%、少なくとも90%〜95%又は少なくとも96%〜100%含むことができる。
【0156】
当業者であれば、アンギオゲニンヌクレオチド及びアミノ酸配列の類縁体を設計することが可能な多くのソフトウェアパッケージ、例えば「BLAST」プログラム又は他の好適なパッケージを非常によく理解しているであろう。
【0157】
当業者は、アンギオゲニンの活性に悪影響を及ぼすことなく、タンパク質構造において特定のアミノ酸を他のアミノ酸に置換してもよいことを理解するであろう。従って、本発明者らは、目立った生物学的有用性又は活性を損なうことなくアンギオゲニンのアミノ酸配列に種々の改変を導入することができることを想定している。このような改変としては、欠失、挿入、トランケート、置換、融合、モチーフ配列の組換え等が挙げられるであろう。
【0158】
更にアンギオゲニンを、例えばグリコシル化、循環半減期を延長するための高分子との複合体化、ペグ化又は他の化学修飾によって修飾することができる。この種の修飾されたタンパク質を本発明の方法に使用することも想定されている。
【0159】
当業者は、使用されるアンギオゲニンを貯蔵安定性、生理活性、循環半減期の改善又は他のいずれかの目的で、当該技術分野において利用可能な方法を用いて修飾することができることを理解するであろう。例えば、貯蔵安定性を改善するために修飾を導入することが望ましいであろう。しかしながら、アンギオゲニンは分解に対する耐性が特に高いためこのような修飾は必ずしも必要ないであろう。
【0160】
本発明は、アンギオゲニンのアゴニストについて言及する。アゴニストはアンギオゲニンによって活性化される受容体を介して直接的又は間接的な作用をもたらすことができる化合物である。好ましくは、アンギオゲニンアゴニストはアンギオゲニン受容体を介して作用し、好ましくはこの受容体に結合する。当業者は、アンギオゲニンのアゴニストを設計する方法を理解するであろう。好適なアゴニストとしては、アンギオゲニンアゴニスト抗体及び擬似化合物が挙げられる。
【0161】
アンギオゲニン、そのアゴニスト及び変異体を、本発明の方法に使用するための医薬品の製造に使用することができる。
【0162】
本発明の方法及び使用の好ましい実施形態においては、アンギオゲニンは経口的に、特に、ミルク若しくは血漿由来のアンギオゲニン富化抽出物の形態又は組換えアンギオゲニンの形態で投与される。
【0163】
特に、経口投与されるアンギオゲニンは牛乳又はその分画から、例えば実施例1に記載するプロセスを利用して調製される。このような分画は、腸内で実質的に分解されることなく全身に作用することができるアンギオゲニンを提供することがわかっている。このような分画は、アンギオゲニンのバイオアベイラビリティを増大させるための担体又は他の機構を用いることなく経口的に提供することができる。
【0164】
第一〜十一の様相の方法に従って投与されるアンギオゲニンは内在性フォリスタチンと相互作用することが期待されており(組換えアンギオゲニンが使用される場合)、アンギオゲニン富化抽出物はフォリスタチンも含有している場合がある。本明細書に示すように、アンギオゲニン及びフォリスタチンを共に併用投与(同時又は任意の順序で順次の何れかで)すると相加作用を上回り、アンギオゲニン及びフォリスタチンを含む組成物のみならず、フォリスタチンをアンギオゲニンと共に投与することを意図した各治療方法が提供される。個体にフォリスタチンが欠乏している状況では、フォリスタチンをアンギオゲニンと共に投与(同時又は順次の何れかで)することが特に重要である。フォリスタチンの量は年齢と共に低下するので、フォリスタチンをアンギオゲニンと共に併用投与することは、特に高齢者の治療に関し意図される。
【0165】
併用投与計画においては、アンギオゲニンを経口投与し、フォリスタチンを経口的又はそれ以外で投与することができる。
【0166】
本明細書において特に断らない限り「含む(comprise、comprises、comprising等)」とは、述べられている一構成要素や一完全体、或いは構成要素群や完全体群を含むが、その他の一構成要素や一完全体、或いは構成要素群や完全体群を排除するものではないことを意味すると解釈されたい。
【0167】
本明細書においては、文脈上明確に断らない限り単数表現(a、an及びtheを伴う)は複数概念も含むことを付記する。
【0168】
本発明について明確さと理解の目的である種の詳細な説明をしているが、本明細書に開示される発明概念の範囲を逸脱しない限り、記載される実施形態及び方法の変形や改変が可能なことは当業者には明白であろう。
【0169】
以下、実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが、これは単に説明の目的に提供されるものであって、特に断らない限り本発明は実施例に限定されない。従って、本発明は、ここに提供される教示の結果として明らかとなる全てのいかなる変形例も包含する。
【実施例】
【0170】
実施例1:スキムミルクからのアンギオゲニン富化分画の調製プロセス
10cm長のカラムにSPセファロースビッグビーズ(GEヘルスケア)をカラム中の全ベッド体積が29.7Lとなるように充填した。ウシスキムミルクを線流量が331cm/h(スキムミルク34L/樹脂(1L)/時)で2時間カラムに流通させ、適用したスキムミルクの体積がカラムに充填した樹脂の68倍となるようにした。
【0171】
2.5カラム体積(CV)の水を線流量147cm/h(バッファー15L/樹脂(1L)/時)、即ち0.25CV/minで10分間加えることにより、カラムに残存するミルクを除去した。
【0172】
アンギオゲニン低減化ラクトペルオキシダーゼ分画は、2.0%(0.34M)NaCl相当のナトリウムイオンを含むバッファー(pH6.5)2.5CVを用いてカラムから溶出させた。このカチオンバッファー溶液は、線流量75cm/h(カチオンバッファー溶液7.5L/樹脂(1L)/時)、即ち0.125CV/minで20分間流通させた。最初に樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液を廃棄排出し、次の樹脂1L当たり2.5Lのカチオンバッファー溶液を回収してアンギオゲニン低減化ラクトペルオキシダーゼ分画(樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液を含む。次のバッファーの適用時間は重複する)とした。
【0173】
次いで、アンギオゲニン富化分画を、2.5%w/v(0.43M)NaCl相当のナトリウムイオンを含むバッファー(pH6.5)2.5CVを用いてカラムから溶出させた。このカチオンバッファー溶液は、線流量75cm/h(カチオンバッファー溶液7.5L/樹脂(1L)/時)、即ち0.125CV/minで20分間流通させた。最初に樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液廃棄排出し、次の樹脂1L当たり2.5Lのカチオンバッファー溶液を回収してアンギオゲニン富化分画(樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液を含む。次のバッファーの適用時間(即ちブレイクスルー時間)は重複する)とした。
【0174】
最後にラクトフェリン分画を、8.75%w/v(1.5M)NaCl相当のナトリウムイオンを含むバッファー(pH6.5)2.5CVを用いてカラムから溶出させた。このカチオンバッファー溶液は、線流量75cm/h(カチオンバッファー溶液7.5L/樹脂(1L)/時)、即ち0.125CV/minで20分間流通させた。最初に樹脂1L当たり0.5Lのカチオンバッファー溶液を廃棄排出し、次の樹脂1L当たり2.5Lのカチオンバッファー溶液を回収してラクトフェリン分画とした。
【0175】
回収されたアンギオゲニン富化分画は限外ろ過(NMWCO 5kDa)して濃縮し且つ塩分を低減させた。得られた濃縮物を次の使用のために凍結乾燥し、室温で貯蔵した。
【0176】
アンギオゲニン富化分画のアンギオゲニン含有量をSDS−PAGEで分析したところ、この分画は、MALDI−TOF/TOF MSによってアンギオゲニンと同定された(結果は示さず)低分子量(14kDa)タンパク質を57%(タンパク質基準)含むことがわかった。
【0177】
当業者であれば、他の原料に由来或いは他の手段で精製したアンギオゲニンも本発明の方法に使用できることを理解するであろう。上の実施例は、次の実験に使用するアンギオゲニンの実際の原料をどのように作製したかを単に示したものであって、いかなる形の限定も意図していない。
【0178】
アンギオゲニン富化分画がある種の作用を有する更なる生物活性成分を含有し得ることが考えられる一方、スキムミルク中の利用可能な量(濃度2%)に匹敵する量のアンギオゲニンがアンギオゲニン富化分画に匹敵する活性を有することが実施例において示された(データは示さず)。
実施例2
【0179】
実施例2:インビトロ解析−ウシアンギオゲニンはヒト細胞に対し活性を示す
アンギオゲニンを上述した方法に従いウシスキムミルクから調製された富化抽出物として準備した。
【0180】
ウシアンギオゲニンがヒト細胞に活性を示すかどうかを、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECS)を用いた血管新生アッセイを利用して確認した。HUVEC細胞を、ウシ脳抽出物、EGF、ヒドロコルチゾン及び10%FBS(クロネティクス)を添加した血管内皮細胞基礎(ECB)培地に通常の方法で維持した。48ウェル組織培養プレートを用いてアッセイをトリプリケートで実施した。まず最初に、各ウェルの底でマトリゲル(BDバイオサイエンシーズ)150μLを重合させた。HUVEC細胞を今度は1%のFBS及びウシアンギオゲニンと共にECB中に0.5×106細胞/mLで再懸濁させた。次いで、細胞(2.5×104細胞/ウェル)をマトリゲルマトリックス上に播種し、37℃で24時間インキュベートした。陽性対照としてアンギオゲニンをヒト血管内皮増殖因子(VEGF)10ng/mLに置き換え、陰性対照としてECB培地と1%FBSのみを用いた。血管新生を観察し、10倍の拡大倍率で写真を撮影した。結果を図1に示す。
【0181】
この結果、ヒトVEGFと同様に、ウシアンギオゲニンを用いることによってマトリゲル上におけるHUVECの血管新生が誘導されることが示され、ウシアンギオゲニンがヒト細胞に活性であることがわかる。
実施例3
【0182】
実施例3:インビトロ筋細胞増殖アッセイ
96ウェルプレートを用いて10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に、出発密度が1×104細胞/ウェルとなるように筋細胞(C2C12;マウス筋芽細胞)を播種した。細胞を5%CO2中、37℃で一夜培養した。翌日、血清含有培地を除去して細胞をPBSで洗浄した。次いで、試験剤を添加した100μL無血清DMEM(n=7)で細胞を37℃で48時間、5%CO2中で培養した。細胞増殖を定量化するためにWST−1細胞増殖試薬(ロッシュ)10μLを各ウェルに添加して更に細胞を37℃で3時間インキュベートした。この間、生存細胞はWST−1試薬を可溶性ホルマザン染色液に変化させ、これをマイクロプレートリーダーで測定すると、450nmの吸光度が細胞数と直接相関する。試験剤による細胞増殖刺激を陽性対照(10%FCS)及び陰性対照(DMEM+ビヒクル対照;DMEMは適切な総タンパク量のBSA又はカゼインを含む)と比較した。
【0183】
筋細胞分化を調べるために、2mLの培地(DMEM、10%FBS)を加えた6ウェルプレートに中にC2C12筋芽細胞を25×104細胞となるように播種し、一夜かけて付着させた。筋管への分化を誘導するために、培地を除去してDMEM単独又は2%ウマ血清加DMEMと交換した。bアンギオゲニン(0.1μg/mL〜100μg/mL;記載がない場合は10μg/mL)、rhアンギオゲニン(0.1μg/mL〜10μg/mL;記載がない場合は1μg/mL)、rhフォリスタチン(0.1μg/mL)及びrhミオスタチン(50ng/mL)の効果に関する試験を実施した。組換えタンパク質は全てRnDシステムズより購入した。細胞の画像を撮影し、処理を施してから96時間又は48時間(ミオスタチンが関与する実験の場合)のクレアチンキナーゼ(CK)活性を測定した。製造業者の指示書に従い、N−アセチルシステイン(NAC)によって活性化されたクレアチンキナーゼ活性を測定した。簡潔に説明すると、各アッセイにおいて、新しいバイアルのCK−NAC試薬(サーモキャット#TR14010)に無菌水10mLを補充した。次いで、各試料17.5μLをCK−NAC試薬350μLと混合し、その一部(100μL)のアッセイを96ウェルプレートを用いてトリプリケートで実施した。次いで、340nmの吸光度を5分間測定した。次の式を用いてabs/minの変化からCK活性を求めた。
活性(U/L)=Δabs/min×係数
係数=総体積×1000/6.3×試料体積×キュベットの光路長
=0.1×1000/(6.3×0.005×1)
=3174.6
CK活性(U/L)=Δabs/min×3174.6
【0184】
細胞培養液のマイクロアレイ解析を行うために、RNeasy小型RNA単離キット(mini RNA isolation kit)(キアゲン)を用いて培養細胞から全RNAを抽出し、ナノドロップ1000分光光度計で260nmの吸光度を測定することによって定量化を行った。260nm/280nm及び260nm/230nm比を得ることにより純度も評価した。各RNA試料をRNA6000ナノ・ラブチップ・キット(アジレント)を用いてバイオアナライザー2100上で泳動させることによってRNAの完全性を評価した。
【0185】
ジーンチップホールトランスクリプト(GeneChip(登録商標)Whole Transcript)(WT)センス・ターゲット・ラベリング・アッセイ(アフィメトリクス)を使用して、製造業者により提供されたプロトコールに従い全RNA100ngを増幅し、ビオチン標識cDNAを作製した。推奨量の標識cDNAをマウス・ジーン・1.0・ST・アレイ(アフィメトリクス)に適用した後に洗浄し、アフィメトリクス 450 フルイディクス・ステーション(Affymetrix 450 Fluidics Station)及び推奨溶液(アフィメトリクス)を用いて染色した。アフィメトリクス・ジーンチップ・スキャナー(Affymetrix GeneChip(登録商標) Scanner)3000 7Gを用いてアレイを走査した後、アフィメトリクス・ジーンチップ・コマンド・コンソール(Affymetrix GeneChip(登録商標) Command Console)(AGCC)ソフトウェアを用いて強度データを抽出した。得られたCELファイルを用いてデフォルトのRMA正規化及びANOVAを利用し、パーテック・ゲノミクス・スイート(Partek(登録商標)Genomics Suite)バージョン6.4(パーテック)でデータ解析を行った。
【0186】
筋細胞の分化実験結果を図3、4及び5に示す。図3は、無血清非分化条件下においてウシ及びrhアンギオゲニンが筋細胞を分化させて筋管を形成することを示している。図4は、bアンギオゲニンが2%HSの存在下においても用量依存的に筋芽細胞の分化及び筋管形成を増強させることを示している。単回投与量のrhアンギオゲニンを含有させたものから、アンギオゲニンが誘導因子であることが実証される。図5は、ウシアンギオゲニン及びrhフォリスタチンの相乗作用を示している。正常な分化条件下においてbアンギオゲニン及びrhフォリスタチンと共に培養すると、標準的な条件下又はアンギオゲニン若しくはフォリスタチンを別々にして培養した場合と比較して筋管の大きさが増大している(図5a)。分化の増強はクレアチンキナーゼアッセイによって証明され(5b)、アンギオゲニン及びrhフォリスタチンを併用して処理した場合は別々に処理した場合又は対照と比較して有意に高いレベルを示している。
【0187】
マイクロアレイ解析を用いて、筋管形成の初期段階(分化から最初の2時間)における網羅的遺伝子発現プロファイルに対するbアンギオゲニン及びrhフォリスタチンの相乗作用に関する試験を実施した(図6)。筋芽細胞分化の初期においては、対照処理又はrhフォリスタチン若しくはbアンギオゲニンの存在下における遺伝子発現プロファイルには僅かな差しか認められない。rhフォリスタチン及びbアンギオゲニン併用処理では、他の処理と比較すると顕著な差が認められる。
【0188】
アンギオゲニン/アクチン相互作用を特異的にブロックするペプチドVFSVRVSILVF(AUSPEP)を用いて分化培養条件を繰り返すことにより、分化過程におけるアンギオゲニンの特異的な役割に関する試験を実施した(図7)。対照群と比較した場合のクレアチンキナーゼ活性の増加として測定されるbアンギオゲニン特異的分化がアンギオゲニンブロッキングペプチドによって阻害されており、図5に見られる応答が、特にアンギオゲニンによるものであることを示している。
【0189】
C2C12筋肉の筋芽細胞をrhミオスタチン、bアンギオゲニン及びrhフォリスタチンと共に分化条件下でインキュベートすることにより、アンギオゲニンが筋細胞分化を回復する能力について試験を実施した。ミオスタチンは筋細胞分化の負の制御因子であり、フォリスタチンに対する高親和性の結合を阻害する。図8から、ミオスタチンが筋細胞の筋管への分化を阻害することと、フォリスタチン単独では細胞分化を回復できないこととが示される。bアンギオゲニンを培養培地に含有させることによって大半のクレアチンキナーゼ活性が回復したが、bアンギオゲニンとrhフォリスタチンとを併用することによってクレアチンキナーゼレベルが対照レベルまで回復し、これは、アンギオゲニンが通常のミオスタチン−フォリスタチン細胞分化シグナル伝達を迂回することを示している。この機序のアンギオゲニンに対する特異性を証明するために、rhアンギオゲニンを用いてこの実験を繰り返した(図9)。これにより、ミオスタチンに誘導されるクレアチンキナーゼ活性の低下のrhアンギオゲニンによる回復が、フォリスタチンとの相乗機構を含めて、bアンギオゲニンと同等であることが示される。
実施例4
【0190】
実施例4:アンギオゲニンが神経保護作用を示す
アンギオゲニンにフォリスタチンを併用すると神経細胞に活性を示すかどうかを試験するために、PC12細胞を、bアンギオゲニン、rhアンギオゲニン及びrhアンギオゲニン+rhフォリスタチンと共に培養し、無血清下における細胞生存を測定した。図10及び図11は、rhアンギオゲニン+rhフォリスタチンの存在下においては血清飢餓状態のPC12細胞がrhアンギオゲニン単独又はrhフォリスタチン単独の場合よりも細胞死から保護されることを示している。ウシアンギオゲニンも保護作用を示した。完全培地(10%ウマ血清及び5%熱失活FBS添加DMEM)中における処理の存在下に前処理を行ってから22〜24時間後に、細胞を300μL/ウェルの無血清DMEMで2回洗浄し、タンパク質試薬を添加した。3日間インキュベートした後、セルタイターグロ(CellTiterGlo)(登録商標)試薬(プロメガ、ウィスコンシン州マディソン)を用いてATPレベルに基づき細胞生存率を測定した。ビクター3(パーキン・エルマー、マサチューセッツ州ウォルサム)マルチラベルプレートリーダーを用いて発光を室温で読み取った。図10及び図11から、PC12細胞が血清飢餓において細胞死から保護されることがわかる。
実施例5
【0191】
実施例5:インビボ動物試験
正常及び筋ジストロフィーマウスの筋形質に対するアンギオゲニンのインビボ効果を解析するために動物試験を実施した。全ての研究はウエスタンオーストラリア大学動物倫理委員会の承認済である。
【0192】
各試験期間中は、マウスに2種類の飼料:対照飼料及び実施例1に従い作製したbアンギオゲニン富化分画を2.5μg/マウス体重(g)で含む飼料を摂取させた。正常(C57)及びジストロフィー(mdx)成体(8週齢)雄性マウスについて、各実験用飼料の各マウス系統につきn=8で試験を実施した。
【0193】
1ヶ月間の摂餌期間の間、正常マウスに飼料を自由摂取させて自発運動させた。自発運動のためにマウス用金属車輪をケージ内に設置し、車輪に自転車用歩数計を装着して各マウスの走行距離を記録した。MDXマウスにも同じ1ヶ月間の摂餌期間を与えた。別の実験では、mdxマウスに上述した自発運動処置を施すか、或いは自発運動用車輪を設置しなかった。
【0194】
実験解析
実験期間中、体重、摂餌量及び筋力(握力試験)をいずれも1週間に2回づつ測定した。各実験の終わりにマウスをハロタン麻酔下で頸椎脱臼させることにより屠殺した。
【0195】
実験用マウスを用いて、ジストロフィー及び正常筋肉に対し処理を施した結果としての形質変化を確認するために以下の分析を実施した。
1)体組成分析:マウスの屠殺体の皮膚を剥ぎ、それぞれ半数を体組成分析に用いた。更に、四頭筋(quad)、前脛骨筋(TA)及び腓腹筋を含む個々の脚部筋肉に加えて腹部の脂肪パッド及び心臓を解体し、重量を測定してデータを記録し、飼料により誘導された形質変化を確認した。
2)組織学的分析:骨格筋及び心臓の試料を回収して、何れも凍結及びパラフィンを用いて組織学的検査の準備を行った。次の筋肉、四頭筋、前脛骨筋及び横隔膜について組織学的分析を実施した。これらの筋肉のヘマトキシリン及びエオシン、スダンブラック並びに種々の免疫組織学染色を実施した。骨格筋線維の壊死、線維肥大及び筋肉の脂肪含有量を測定した。
【0196】
図12〜15にインビボ実験結果を示す。対照群と比較して、bアンギオゲニン富化分画を2.5μg/gで添加した飼料が最大50%の筋量増加を誘導する(図12)ことは明白である。筋量の増加は、収縮の遅い酸化型線維に対応する比率の低い暗帯線維を除いた殆どのタイプの筋線維の断面積が増加していることによって説明される(図13)。アンギオゲニン富化分画飼料を摂取したマウスはまた、自発運動により測定された走行距離が対照飼料のマウスよりも30%長かった(図14)。これらを総合すると、このデータから、アンギオゲニンがインビボで筋肉の大きさ及び健康状態に影響を及ぼすことが示される。
【0197】
アンギオゲニンをmdxマウスに摂取させた場合は、自発運動を行うことができたマウスの筋壊死の比率が低下していた(図15)。このことは、mdxマウスの筋肉が運動によって破壊される作用をアンギオゲニンが阻害できることを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体中のミオスタチンの増加又は調節不全を特徴とする障害の治療方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項2】
組織機能を改善するためにフォリスタチンとアンギオゲニンとの相互作用を利用することが可能な障害の治療方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することによる方法。
【請求項3】
個体における筋肉成長を促進する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項4】
個体における筋肉の傷害又は使用からの回復を改善する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項5】
個体における筋力を改善する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項6】
個体における運動耐容能を改善する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項7】
個体における筋肉の比率を増加させる方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項8】
個体における脂肪を低減させる方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項9】
個体における脂肪対筋肉比を低下させる方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項10】
メタボリック症候群を治療する或いはインスリン感受性を増強する、請求項7〜請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法に従って個体の筋肉対脂肪比を改善することにより前記個体の骨密度を改善するための方法。
【請求項12】
神経疾患若しくは障害、脊髄傷害若しくは疾患、骨疾患若しくは障害、グルコース恒常性が関与する疾患を治療するための、創傷治癒のための、又は神経保護、神経系の機能補助若しくは代謝性疾患の管理を提供するための方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項13】
請求項1、2又は12のいずれか一項に記載の方法において、前記障害は代謝性疾患、インスリン依存型(1型)糖尿病、インスリン非依存型(2型)糖尿病、高血糖、耐糖能異常、メタボリック症候群、シンドロームX、外傷若しくは脂肪組織障害若しくは肥満により誘導されるインスリン抵抗性、筋肉及び神経筋障害、筋ジストロフィー、重度若しくは良性X連鎖筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、進行性ジストロフィー型眼筋麻痺、眼咽頭筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー及び福山型先天性筋ジストロフィー;筋萎縮性側索硬化症(ALS);筋萎縮症;臓器萎縮;虚弱;手根管症候群;鬱血性閉塞性肺疾患;先天性ミオパシー;先天性筋強直症;家族性周期性麻痺;発作性ミオグロビン尿症;重症筋無力症;イートン・ランバート症候群;二次性筋無力症;脱神経筋萎縮;発作性筋萎縮症;並びにサルコペニア、カヘキシア、他の筋消耗症候群、骨粗鬆症(特に高齢者及び/又は閉経後の女性);糖質コルチロイドに起因する骨粗鬆症;骨減少症:変形性関節症;骨粗鬆症が関与する骨折;筋肉組織への外傷的又は慢性的傷害、長期の糖質コルチロイド療法に起因する低骨量、早発性腺機能不全、アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏症、二次性副甲状腺機能亢進症、栄養欠乏症及び神経性食欲不振症から選択される方法。
【請求項14】
前記アンギオゲニンはウシ由来である、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記アンギオゲニンはウシ乳からの抽出物である、先請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記アンギオゲニンは経口バイオアベイラビリティを得るために必要とされる担体又は修飾無しに経口投与される、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストはフォリスタチンと共に(同時又は順次の何れかで)投与される、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
ミオスタチンの増加を特徴とする障害の治療、フォリスタチンとアンギオゲニンとの相互作用を利用して組織機能を改善することができる障害の治療、筋肉成長の促進、傷害若しくは使用からの筋肉の回復の改善、筋力の改善、運動耐容能の改善、筋肉比率の増加、脂肪の低減、個体の脂肪対筋肉比の低下、神経疾患若しくは障害の治療、脊髄傷害若しくは疾患の治療、骨疾患若しくは障害の治療、グルコース恒常性が関与する疾患の治療、創傷治癒又は神経保護、神経系の機能補助、代謝性疾患の管理及び/又は個体の骨密度の増加を提供するための、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを含む組成物、食品サプリメント又は栄養補助食品。
【請求項19】
フォリスタチンを更に含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
ミオスタチンの増加を特徴とする障害の治療、フォリスタチンとアンギオゲニンとの相互作用を利用して組織機能を改善することができる障害の治療、筋肉成長の促進、筋肉の傷害若しくは使用からの回復の改善、筋力の改善、運動耐容能の改善、筋肉比率の増加、脂肪の低減、個体の脂肪対筋肉比の低下及び/又は個体の骨密度の増加のための医薬品の製造におけるアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストの使用。
【請求項21】
前記医薬品はフォリスタチンを更に含む、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記医薬品はフォリスタチンで治療される個体に投与するためのものである、請求項21に記載の使用。
【請求項1】
個体中のミオスタチンの増加又は調節不全を特徴とする障害の治療方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項2】
組織機能を改善するためにフォリスタチンとアンギオゲニンとの相互作用を利用することが可能な障害の治療方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することによる方法。
【請求項3】
個体における筋肉成長を促進する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項4】
個体における筋肉の傷害又は使用からの回復を改善する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項5】
個体における筋力を改善する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項6】
個体における運動耐容能を改善する方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項7】
個体における筋肉の比率を増加させる方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項8】
個体における脂肪を低減させる方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項9】
個体における脂肪対筋肉比を低下させる方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項10】
メタボリック症候群を治療する或いはインスリン感受性を増強する、請求項7〜請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法に従って個体の筋肉対脂肪比を改善することにより前記個体の骨密度を改善するための方法。
【請求項12】
神経疾患若しくは障害、脊髄傷害若しくは疾患、骨疾患若しくは障害、グルコース恒常性が関与する疾患を治療するための、創傷治癒のための、又は神経保護、神経系の機能補助若しくは代謝性疾患の管理を提供するための方法であって、有効量のアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを投与することを含む方法。
【請求項13】
請求項1、2又は12のいずれか一項に記載の方法において、前記障害は代謝性疾患、インスリン依存型(1型)糖尿病、インスリン非依存型(2型)糖尿病、高血糖、耐糖能異常、メタボリック症候群、シンドロームX、外傷若しくは脂肪組織障害若しくは肥満により誘導されるインスリン抵抗性、筋肉及び神経筋障害、筋ジストロフィー、重度若しくは良性X連鎖筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、進行性ジストロフィー型眼筋麻痺、眼咽頭筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー及び福山型先天性筋ジストロフィー;筋萎縮性側索硬化症(ALS);筋萎縮症;臓器萎縮;虚弱;手根管症候群;鬱血性閉塞性肺疾患;先天性ミオパシー;先天性筋強直症;家族性周期性麻痺;発作性ミオグロビン尿症;重症筋無力症;イートン・ランバート症候群;二次性筋無力症;脱神経筋萎縮;発作性筋萎縮症;並びにサルコペニア、カヘキシア、他の筋消耗症候群、骨粗鬆症(特に高齢者及び/又は閉経後の女性);糖質コルチロイドに起因する骨粗鬆症;骨減少症:変形性関節症;骨粗鬆症が関与する骨折;筋肉組織への外傷的又は慢性的傷害、長期の糖質コルチロイド療法に起因する低骨量、早発性腺機能不全、アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏症、二次性副甲状腺機能亢進症、栄養欠乏症及び神経性食欲不振症から選択される方法。
【請求項14】
前記アンギオゲニンはウシ由来である、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記アンギオゲニンはウシ乳からの抽出物である、先請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記アンギオゲニンは経口バイオアベイラビリティを得るために必要とされる担体又は修飾無しに経口投与される、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストはフォリスタチンと共に(同時又は順次の何れかで)投与される、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
ミオスタチンの増加を特徴とする障害の治療、フォリスタチンとアンギオゲニンとの相互作用を利用して組織機能を改善することができる障害の治療、筋肉成長の促進、傷害若しくは使用からの筋肉の回復の改善、筋力の改善、運動耐容能の改善、筋肉比率の増加、脂肪の低減、個体の脂肪対筋肉比の低下、神経疾患若しくは障害の治療、脊髄傷害若しくは疾患の治療、骨疾患若しくは障害の治療、グルコース恒常性が関与する疾患の治療、創傷治癒又は神経保護、神経系の機能補助、代謝性疾患の管理及び/又は個体の骨密度の増加を提供するための、アンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストを含む組成物、食品サプリメント又は栄養補助食品。
【請求項19】
フォリスタチンを更に含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
ミオスタチンの増加を特徴とする障害の治療、フォリスタチンとアンギオゲニンとの相互作用を利用して組織機能を改善することができる障害の治療、筋肉成長の促進、筋肉の傷害若しくは使用からの回復の改善、筋力の改善、運動耐容能の改善、筋肉比率の増加、脂肪の低減、個体の脂肪対筋肉比の低下及び/又は個体の骨密度の増加のための医薬品の製造におけるアンギオゲニン又はアンギオゲニンアゴニストの使用。
【請求項21】
前記医薬品はフォリスタチンを更に含む、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記医薬品はフォリスタチンで治療される個体に投与するためのものである、請求項21に記載の使用。
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2011−519961(P2011−519961A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508769(P2011−508769)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/AU2009/000603
【国際公開番号】WO2009/137880
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(509127343)アグリカルチャー ヴィクトリア サービス ピーティーワイ エルティーディー (6)
【氏名又は名称原語表記】AGRICULTURE VICTORIA SERVICES PTY LTD
【出願人】(509127332)マリー ゴールバーン シーオー−オペレイティブ シーオー.リミテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】MURRAY GOULBURN CO−OPERATIVE CO.LIMITED
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/AU2009/000603
【国際公開番号】WO2009/137880
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(509127343)アグリカルチャー ヴィクトリア サービス ピーティーワイ エルティーディー (6)
【氏名又は名称原語表記】AGRICULTURE VICTORIA SERVICES PTY LTD
【出願人】(509127332)マリー ゴールバーン シーオー−オペレイティブ シーオー.リミテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】MURRAY GOULBURN CO−OPERATIVE CO.LIMITED
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]