説明

病理マーカーおよび治療標的としての、PDGF受容体に対する刺激性自己抗体

自己免疫疾患、特に全身性硬化症の診断および予後に適切な、PDGF受容体に対する自己抗体が身体試料中に存在することを検出するための、インビトロの方法、および関連する診断キット。ROSおよび/またはRas-ERK1/2の阻害剤を、自己免疫疾患の治療的処置用薬剤の調製のため、または移植片対宿主反応(GVHR)の治療用に使用すること。有効量のROSおよび/またはRas-ERK1/2の阻害剤、ならびに適切な希釈剤および/または賦形剤および/または補助剤を含む医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自己免疫疾患である全身性硬化症または強皮症に侵された患者の血清は、ヒトのPDGF受容体(PDGFR)に対する刺激性自己抗体を含む。PDGFRは、PDGFRA NP008197(SWProt P16234)およびPDGFRB NPOO26000(SWProt P09619)のホモまたはヘテロの二量体分子である。これらの抗体は、該疾患の診断ツールとして使用できる。さらに、抗PDGFR阻害剤を用いた処置は、該疾患に対する治療的アプローチをもたらす。
【0002】
現在この疾患は、稀有(1/10,000)ではあるが致命的であり、利用可能な特定の治療法がない。診断は基本的に臨床症状に基づき、利用できる特定の検査法はない。
【0003】
このような自己抗体の検出を、全身性硬化症よりも発症頻度の高い以下の他の2種の疾患の診断に使用できる:
- レイノー現象、母集団の20%に見られ、一般的に良性であるがいくらかは全身性硬化症に進行し、抗体検査により一次性レイノーと、全身性硬化症の早期兆候である二次性レイノーとを識別できる、
- 移植片対宿主反応(GVHR)。これは同種異系臓器、主に骨髄の移植後に非常に頻繁に発症する合併症である
本発明者らは、慢性GVHおよび線維症を有するすべての患者(15名)(これまでに分析した)において上記の抗体の存在を検出した。
【背景技術】
【0004】
全身性硬化症(強皮症;SSc)は、皮膚および内臓の線維化を特徴とする障害である(1)。該疾患の根本原因は未知であり、現在のところこの疾病のすべての性状を説明する明確で具体的な仮説はない。
【0005】
強皮症表現型のいくつかの特徴は十分に確立されており、疾患の特質は:1.内皮細胞の損傷、および2.細胞外マトリックスの過剰な産生である(2)。細胞性強皮症表現型は、酸化的ストレスおよび線維芽細胞による多量の活性酸素種(ROS)の産生を特徴とする(3〜6)。ROSは、線維芽細胞増殖(7)およびコラーゲン遺伝子発現(7)の重要な細胞トランスデューサーである。Ha-RasおよびERK1-2を介したROSの大量産生は、正常な線維芽細胞においてコラーゲン遺伝子の転写および老化を誘導した(7)。
【0006】
血小板由来増殖因子(PDGF)は、ROSおよびRas-ERK1/2のシグナル伝達を誘導でき(9)、さらに強皮症患者由来のIgG(SSc IgG)は、ヒト線維芽細胞に対する反応を示した(10)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の著者らは、SSc患者の血清中のHa-Ras/ERK1-2およびROS刺激性分子に関して調査した。
【0008】
著者らは、PDGF受容体(PDGFR)に対する刺激性IgG自己抗体が、PDGFRの活性化を誘発することにより、Ha-RasおよびERK1-2のシグナル伝達を介してROSを誘導し、全身性硬化症の典型的な特徴である、線維芽細胞の活性化および内皮細胞のアポトーシスに関与することの証拠を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、著者らはERK1/2シグナル伝達に依存した、Rasタンパク質の新規な制御レベルを見出した。具体的には、彼らはPDGFおよびROSが、初代培養線維芽細胞においてHa-Rasを誘導することを見出した。このことによりERK1/2を介してROSをRasタンパク質レベルに結び付ける、新規のおよび既存の未知の経路が明らかになった。著者らは全身性硬化症に侵された患者に由来する細胞において、インビボのこの回路の顕著な例を見出した。このシグナル伝達経路は、PDGF受容体の刺激によって開始され、ROS-ERK1/2のシグナルによって維持される。全身性硬化症細胞は、過剰なROSを産生し(12)、活性Ras-ERK1/2を維持する。これらの細胞は、DNAの損傷を積み重ね、ROS依存性遺伝子を活性化し、ストレス誘導性アポトーシスを起こす傾向がある。ROS、RasまたはERK1/2の阻害は、該ループを下方制御し、全身性硬化症の線維芽細胞において正常な表現型を回復させる。これらのデータは、Rasが細胞性ROSの重要なセンサーであることを指摘し、全身性硬化症の診断および治療のための分子ツールを示唆する。
したがって本発明の目的は、PDGF受容体に対する自己抗体が身体試料中に存在することを検出するための、インビトロの方法であって、
a)身体試料を、結合および複合体の形成が可能な条件下でこのような自己抗体に対する特異的リガンドの有効量と共にインキュベートする段階と、
b)結合した自己抗体または複合体を存在する場合に検出する段階と
を特徴とする、方法である。
【0010】
好ましくは、該特異的リガンドはPDGF受容体または免疫反応性フラグメントあるいはこれらの誘導体である。
【0011】
より好ましくは、このような免疫反応性フラグメントは、PDGRAおよび/またはPDGFRBの細胞外領域に属し、最も好ましくは、ヒトPDGFRA NP008197、(SWProt P16234、配列番号7)および/またはPDGFRB NPOO26000(SWProt P09619、配列番号8)のアミノ酸配列のNH末端の最初の550アミノ酸中に含まれる。
【0012】
SWProt P16234、配列番号7
【0013】
【化1】

【0014】
SWProt P09619、配列番号8
【0015】
【化2】

【0016】
本発明の方法は、自己免疫疾患、特に全身性硬化症の診断および予後に適している。
【0017】
本発明の方法は、レイノー現象と全身性硬化症との識別に適している。
【0018】
本発明の方法は、移植片対宿主反応(GVHR)の診断および予後に適している。
【0019】
本発明の別の目的は、
a)PDGF受容体に対する自己抗体のための特異的リガンドと、
b)結合した自己抗体またはリガンド-自己抗体複合体の検出手段と
を含む本発明の方法のための診断キットである。
【0020】
好ましくは、該特異的リガンドはPDGF受容体または免疫反応性フラグメントあるいはこれらの誘導体である。より好ましくは、このような免疫反応性フラグメントは、PDGRAおよび/またはPDGFRBの細胞外領域に属し、最も好ましくは、ヒトPDGFRA NP008197、(SWProt P16234、配列番号7)および/またはPDGFRB NPOO26000(SWProt P09619、配列番号8)のアミノ酸配列のNH末端の最初の550アミノ酸中に含まれる。
【0021】
本発明の別の目的は、自己免疫疾患の治療的処置用薬剤または移植片対宿主反応(GVHR)の治療用薬剤を調製するための、ROSおよび/またはRas-ERK1/2の阻害剤の使用である。好ましくは、該自己免疫疾患は全身性硬化症である。好ましくは、ROSおよび/またはRas-ERK1/2の阻害剤は、PDGFRに対する抗体のための特異的リガンドである。好ましくは、該特異的リガンドはPDGF受容体または免疫反応性フラグメントあるいはこれらの誘導体である。より好ましくは、このような免疫反応性フラグメントはPDGRAおよび/またはPDGFRBの細胞外領域に属し、最も好ましくは、ヒトPDGFRA NP008197、(SWProt P16234、配列番号7)および/またはPDGFRB NPOO26000(SWProt P09619、配列番号8)のアミノ酸配列のNH末端の最初の550アミノ酸中に含まれる。
【0022】
本発明の別の目的は、有効量のROSおよび/またはRas-ERK1/2の阻害剤、ならびに適切な希釈剤および/または賦形剤および/または補助剤を含む医薬組成物である。好ましくは、ROSおよび/またはRas-ERK1/2の阻害剤は、PDGFRに対する抗体のための特異的リガンドである。好ましくは、特異的リガンドはPDGF受容体または免疫反応性フラグメントあるいはこれらの誘導体である。より好ましくは、このような免疫反応性フラグメントはPDGRAおよび/またはPDGFRBの細胞外領域に属し、最も好ましくは、ヒトPDGFRA NP008197、(SWProt P16234、配列番号7)および/またはPDGFRB NPOO26000(SWProt P09619、配列番号8)のアミノ酸配列のNH末端の最初の550アミノ酸中に含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明について、以下の限定されない実施例において説明する。
【実施例】
【0024】
[患者、材料および方法]
(試薬)
ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、FCS、L-グルタミンおよび、ペニシリン-ストレプトマイシン-アンフォテリンB溶液は、Gibco(Milan、Italy)より入手した。組換え血小板由来増殖因子BB(PDGF-BB)は、Peprotech(Rocky Hill、NJ)より購入した。FIT-277(ファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害剤であるH-Ampamb-Phe-Met-OH)およびPD98059は、Calbiochem(San Diego、CA)より購入した。ゲニステインは、ICN Biomedicals(Aurora、OH)より入手した。抗Ha-Ras(F235またはSC520)、抗Ki-Ras(F234)、抗pan-Ras(F132)および抗Rac1の各抗体は、Santa Cruz(CA、USA)より購入した。抗リン酸化-p44/42Mapキナーゼ、抗リン酸化-SAPK/JNKおよび抗Aktは、Cell Signaling Technology(Beverly、MA)より入手した。抗H2AX抗体および抗p21WAF抗体は、Upstate Biotechnology(Charlottesville、VA)より入手し、ジフェニレンヨードニウム(DPI)はAlexis Biomedicals(Lansen、CH)、N-アセチル-L-システイン(NAC)およびシクロヘキシミドは、Sigma(St.Louis、MO)より入手した。U0126はPromega(Madison、WI)、および2',7'-ジクロロフルオレセインジアセテート(DCFH-DA)はMolecular Probes(Eugene、OR)より入手した。以下のプラスミドを使用した;ドミナントネガティブHa-RasNl7、ヒトHa-RasのV12ポジティブ変異株およびヒトKi-RasのV12ポジティブ変異株(7)、ドミナントネガティブRac変異株(Rac1 N17)、ドミナントポジティブRac変異株(Rac1V12)(13)、ドミナントネガティブMEK変異株のpBabe-MKKS217A(ラット遺伝子銀行z30163)。コラーゲンα1(I)(Hf677クローン)およびコラーゲンα2(I)(Hf32クローン)に対するcDNAは、Dr.Ch M.Lapiere(Laboratorie de Biologie des Tissues Conjonctifs、University of Liege、Belgium)のご厚意により寄贈された。
【0025】
(患者)
強皮症を有する、平均年齢58歳(範囲35〜77)の連続的な白人患者46例(男性8例および女性38例)を調査した。診断はACRの診断基準(11)に従って為され、LeRoyら(12)に従って患者をびまん型SScと限局型SScとのサブセットに分類した。さらに、びまん型SScサブセットの中の患者を、早期疾患患者(疾患期間が2年以下)と、後期疾患患者(疾患期間が2年より長期)とに分割した。調査の時点で、患者らは6週間前からどのような治療も受けていなかった。調査対象集団の人口統計的および臨床的特徴を表1に提示する。
【0026】
【表1】

【0027】
レイノー現象は強皮症の発症に数年先行するかもしれないので、一次性レイノー現象(PRP)を有する15例の患者を調査に含めた(表1)。PRPの診断は、他所で報告された基準に(13)従って行った。年齢、性別および人種が適合した20例の健康なボランティアもまた評価し、対照集団を構成した。対照群もまた、確立された基準(14、15)に従って診断が行われた、15例の性別および年齢の適合した全身性紅斑性狼瘡の患者および15例の関節リウマチの患者を含んだ。
【0028】
インフォームドコンセントの後で、血液試料を患者および対照者から採取し、21℃で30分間順化させた後に、凝結塊の形成後、冷却遠心分離機にかけた。上清を収集し、-30℃で分析まで(通常4週間以内)保存した。
【0029】
(細胞系)
α鎖およびβ鎖のPDGFRサブユニットを発現しない、PDGF受容体ノックアウト胚に由来するマウス胚線維芽細胞(F-/-細胞)、および、PDGFRαおよびβサブユニット(Fα;Fβ;Fαβ)で感染させたF-/-細胞は、他(16)に記載されている。
【0030】
(初代培養線維芽細胞の培養)
ヒトの皮膚線維芽細胞を、正常なボランティアの前腕、および(14)に記載のような全身性硬化症の診断のための米国リウマチ学会(the American Rheumatism Association)の診断基準を満たした患者の病巣皮膚から採取した、穿孔生検材料から得た。4代目から6代目の二次継代の線維芽細胞を、すべての実験に使用した。
【0031】
(IgGの精製)
正常な対象者、強皮症患者および全身性紅斑性狼瘡患者の血清から、ならびに関節リウマチを有する患者から、IgGの画分を、タンパク質A/G-セファロースカラム(Pierce、Rockford、IL)上で、アフィニティークロマトグラフィーにより精製した。タンパク質濃度を分光光度法により評価した。すべての調製品は、リムルス変形細胞溶解物検査により測定したところ、エンドトキシンが含まれていなかった。
【0032】
(抗PDGFR自己抗体に関する生物検定)
PDGFRαおよび/またはβのサブユニットを感染させて、免疫精製したIgGにインビトロで曝露したマウス胚線維芽細胞によるROSの産生に基づき、患者および対照者の血清試料を、PDGFR活性化自己抗体の存在に関して機能的生物検定で検査した。対照細胞は、PDGFRを有さないF-/-細胞であった。手短に言うと、細胞を、1.83-cm2ウェルに30000細胞の濃度で、2連に播種し、0.2%ウシ胎児血清中で37℃において、24時間インキュベートした。細胞をその後リン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、ROSの産生を測定する前に所定の量の対照者のIgGまたは患者のIgGと共に37℃において15分間インキュベートした。
【0033】
細胞に2,7-ジクロロフルオレセインジアセテート(DCFH-DA 10μM、Molecular Probes、PoortGebouw、The Nederlands)を37℃において15分間取り込んだ後で、付着性線維芽細胞により産生された細胞内ROSの蛍光光度測定を評価した。DCFの蛍光強度を、CytoFluorプレートリーダー(PerkinElmer、Wallac、Finland)(励起波長、485nm;発光波長、530nm)によって測定した(8)。それぞれの1つのウェルにおいて異なる箇所から10回の測定を行い、値を平均した。各IgG試料を2連に測定し、平均を記録した。結果は、検査IgGのDCF蛍光強度から、IgGなしで培養した細胞によって得た陰性対照のDCF蛍光強度を差し引いて計算したDCF蛍光強度として表した。プレート内およびプレート間の変動係数は、3%未満であった。SIが平均値+3正常群の標準偏差を超えた場合、試料を陽性として記録した。
【0034】
選択された実験において、PDGF受容体チロキシンキナーゼ阻害剤(AG1296;2μM、2時間)、上皮増殖因子(EGF)受容体チロキシンキナーゼ阻害剤(AG1478;2μM、2時間)、化学的ERK1/2シグナル伝達阻害剤(PD98059;40μM、2時間)およびファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害剤を添加し、Rasのファルネシル化を遮断した(FTI-277;20μM、2時間)後に、ROSの産生を評価した。AG1296、AG1478、PD98059およびFTI-277は、Calbiochem(San Diego、CA)より入手した。
【0035】
(細胞溶解および免疫ブロット)
細胞培養プレートを0.3mlの冷RIPAバッファー(1×PBS、1%ノニデットp-40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、2mMオルトバナジウム酸ナトリウム、2μg/mlアプロチニン、1mM PMSF)を用いて溶解し、(8)に記載のように免疫ブロットを行った。
【0036】
(免疫沈降検査)
PDGF受容体を200μgのIgGを用いて培養細胞から免疫沈降させた。免疫複合体を単離し、電気泳動にかけ、抗PDGFRαおよびβのサブユニット抗体(Santa Cruz)を用いて免疫ブロットを行い、化学発光法(Amersham、Sweden)によって明らかにした。
【0037】
Rasタンパク質を、製造業者の推奨手順に従って、ポリクロナール抗pan Ras抗体(Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)を用いて培養線維芽細胞から免疫沈降させた。免疫複合体を単離し、電気泳動にかけ、抗Ha-Ras抗体を用いて免疫ブロットを行い、化学発光法(Amersham、Sweden)によって明らかにした。
【0038】
(免疫ブロット)
細胞培養プレートを0.3mlの冷RIPAバッファー(1×PBS、1%ノニデットp-40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、2mMオルトバナジウム酸ナトリウム、2μg/mlアプロチニン、1mM PMSF)を用いて溶解し、(14)に記載のように処理した。
【0039】
(組換えPDGF受容体を用いた自己抗体の吸収)
強皮症IgG(200μg/ml)を、Fα細胞によって発現された組換えPDGFRと共に4℃で2時間インキュベートした。この混合物を、その後遠心分離にかけ(14000gで4℃において15分間)、上清をPDGFRαサブユニット(R&D Systems、Wiebaden、Germany)の細胞外領域を抗原源として用いて再度免疫沈降させ、PDGFRのバンドが除去されたかどうかを検査した。F-/-細胞を対照細胞として使用した。免疫ブロットを抗PDGFRαおよびβサブユニット抗体(Santa Cruz)を用いて行い、化学発光法(Amersham、Sweden)によって明らかにした。
【0040】
(免疫蛍光法)
Lab-Tekチャンバーグラススライド(Nalge-Nunc、IL、USA)上で培養し、刺激または阻害剤の添加の前に48時間飢えさせた線維芽細胞を、4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%トリトン-Xによって透過させ、Ha-Rasに対するモノクロナール抗体を用い、次に第2の抗体と結合したテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)(Molecular Probes、NL)を用いて染色した。スライドを、Vectarshield(H-100;Vector、Burlingame、CA)を用いてマウントし、アルゴンおよびヘリウム/ネオンのレーザーを搭載した、BioRad(Hemel Hempstead、UK)のマイクロ放射輝度共焦点レーザー顕微鏡を使用して試験した。得られた画像をLaser Sharp Processing BioRadソフトウェア(バージョン3.2)を使用して解析した。異なる状態のスライドからのすべての画像を、二重盲検法で得た。
【0041】
(RNAの単離およびノーザン分析)
全細胞性RNAをRneasy Mini kit(Qiagen、Hilden、Germany)を使用して抽出した。10μgの全RNAを、(7)に記載の手順に従い、次にノーザンブロット解析に使用した。
【0042】
(アポトーシス検査)
内皮細胞は臍帯から単離する。細胞を、PDGFRおよびEGFRのチロシンキナーゼ活性阻害剤の存在下および不在下で、SSc IgG(200μg/ml)、正常IgG(200μg/ml)およびPDGF(15ng/ml)を用いて12時間刺激した。
【0043】
正常線維芽細胞および強皮症線維芽細胞を80〜90%のコンフルエンスに成長させ、異なる濃度のH2O2を用いて2時間処理した。必要に応じて、細胞をPD98059(40μmol/L)と共に30分間プレインキュベートした。
【0044】
刺激を除去した6時間後に、アポトーシスをアネキシンV-Cy3(Clontech、Palo Alto CA)を使用してFACS分析によって検出した。
【0045】
(統計解析)
データを平均±1SDで表した。平均値は、対応標本または独立標本スチューデントt検定を使用して比較した。P値が0.05未満の場合に有意であると見なした。すべての値は、両側検定である。
【0046】
(抗HaRas抗体を用いたフローサイトメトリ分析)
細胞を60mmの培養皿でセミコンフルエンスに成長させた。トリプシンを分離した後で、5×105個の細胞を1mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁し、1%ホルムアルデヒドを用いて室温で一晩固定させた。次に細胞を、0.1%トリトンX100を用いて4℃で40分間透過させ、2%FBS、0.01%NaN3、0.1%トリトンX100(バッファーA)を含有するPBS2mlを用いて4回洗浄し、1:50に希釈したモノクロナールおよびポリクロナール抗HaRas抗体(Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA、USA)と共に4℃で45分間インキュベートした。次に細胞を同じバッファーを用いて2回洗浄し、1:50に希釈したCy2結合抗マウスIgG抗体(Amersham Pharmacia Biotech、Milano、Italia)と共に4℃で45分間インキュベートした。対照細胞は、Cy2結合抗マウスIgG抗体のみと共にインキュベートした。バッファーA中で2回洗浄した後で、細胞をPBSに再懸濁し、FACScan(BD、Heidelberg、Germany)およびWinMDIソフトウェアを使用して、フローサイトメトリにより分析した。
【0047】
(ROSの測定)
線維芽細胞によって産生される細胞内ROSの蛍光光度測定を、DCF蛍光レベルを評価する前に、DCFH-DA(10μM)を37℃で15分間細胞に取り込ませた後で評価した(15)。スーパーオキシドアニオン放出を、スーパーオキシドジムスターゼ阻害性チトクロームc還元法を使用して評価した(12)。線維芽細胞から周囲培地へのH2O2の放出を、VallettaおよびBerton(1987)の方法(16)の改変を使用して検査した。生存しているトランスフェクション細胞における酸化活性画像を(12、17)に記載のように評価した。
【0048】
(Ras活性化検査)
細胞を、氷冷PBSで洗浄し、プレート当たり0.5mlの溶解バッファー(20mM Hepes、pH7.4、1% NP40、150mM NaCl、10mM MgCl2、10%グリセロール、1mM EDTA、1mMバナジウム酸ナトリウム、10mg/mlロイペプチンおよび10mg/mlアプロチニン)を用いて溶解した。遠心分離(13,000rpm、4℃)により溶解物の不要物を除去し、溶解バッファーを用いて1mg/mlに希釈した。
【0049】
形質転換した大腸菌(Escherichia coil)においてGST-RBDの発現を、1mMのIPTGを用いて1〜2時間誘導し、融合タンパク質をグルタチオン-セファロースビーズで精製した。ビーズを、20mM Hepes、pH7.4、120mM NaCl、10%グリセロール、0.5% NP40、2mM EDTA、1mMバナジウム酸ナトリウム、10mg/mlロイペプチンおよび10mg/mlアプロチニンを含む溶液中で洗浄した。アフィニティー沈殿法のために、溶解物を、あらかじめグルタチオン-セファロースに結合させたGST-RBD(30ml詰めビーズ)と共に4℃で60分間振とうしながらインキュベートした。結合タンパク質をSDS-PAGEサンプルバッファーを用いて溶離し、12%アクリルアミドゲル上にアプライし、ウェスタンブロットに供した。ブロットを抗Ras、クローンRas10(Upstate Biotechnology)を用いて精査した。
【0050】
トランスフェクション
トランスフェクション実験のために、コンフルエンス線維芽細胞を100mm皿の培養培地に播種した。24時間後、培地を廃棄し、新鮮な培養培地に取替え、細胞をトランスフェクションさせた。トランスフェクション実験は、リポソーム法(Effectene、Qiagen、Hilden、Germany)を使用して、2連で実施した。
【0051】
選択された実験において、ヒト1型コラーゲンα2鎖遺伝子(COL1A2)のプロモーターをクローン化することによって得られた、組換えプラスミドpGbC1A2-P(20)を、ヒトカタラーゼ遺伝子を担持するPS3CAT(Dr.Irani The Johns Hopkins、Baltimoreのご好意により贈られた)または上記の手順に従った対照ベクターのどちらかと同時にトランスフェクションした。試料のルシフェラーゼ活性を、TD-20/20ルミノメーター(Turner Design)を用いて測定し、レニラルシフェラーゼ値とホタルルシフェラーゼ値との比率を使用して、同時に行ったトランスフェクション実験を標準化した。
【0052】
(Ha-RasおよびKi-RasのmRNAのRT-PCR)
全RNAおよびcDNAの合成を(18)に記載のように実施した。2μlのcDNA産物(全RNA2.5μgに由来する)を、MgCl2を含まない製造業者により提供されたバッファー中でAmpli Taq Gold(PE Applied Biosystems)1単位を用いて、Ha-Ras、Ki-Rasおよびアクチン遺伝子に関する特異的プライマーの存在下で増幅させた(以下を参照されたし)。逆転写反応から持ち越されたdNTPの量は、さらなる増幅のために完全に十分である。反応は、Gene Amp PCR system 9600において実施した。95℃で10分間、65℃で45秒、および72℃で1分間の第一周期の後に、95℃で45秒、65℃で45秒および72℃で1分間が30周期続く。条件は、解析したcDNAのうちで増幅プロトコルの末期に停滞期に達するものがない、即ちcDNAは増幅の対数期にあるように、および各々の反応に使用した2セットのプライマーが相互に競合しないように選択した。反応の各セットは常に試料を含まない陰性対照を含んだ。本出願者らは、cDNAの代わりにRNAを含む陰性対照を通常実施し、ゲノムの欠けたゲノムDNAの混入を排除した。以下のプライマーを使用した。
Ki-Rasロング、 左側プライマー:ACATCTCTTTGCTGCCCAAT;配列番号1
右側プライマー:GAGCGAGACTCTGACACCAA;配列番号2
Ki-Rasショート、左側プライマー:TCGACACAGCAGGTCAAGAG;配列番号3
右側プライマー:AGGCATCATCAACACCCTGT.配列番号4
Ha-Ras、 左側プライマー:CCAGCTGATCCAGAACCATT;配列番号5
右側プライマー:AGGTCTCGATGTAGGGGATG.配列番号6
【0053】
(細胞遺伝学的分析)
FTI-277(20μM)と共に24時間インキュベートする前後で、細胞遺伝学的調査を線維芽細胞について実施した。線維芽細胞を35mmのペトリ皿内に置かれたカバーグラス上で培養した。Chang Medium(登録商標)Bを2ml添加した後で、皿を5%CO2インキュベーターにおいて37℃で48時間インキュベートし、Colcemid溶液(0.1μg/ml)を添加して90分後に培養物を収集した。カバーグラスを固定し、標準手順に従ってQバンド法を行った。評価を、蛍光顕微鏡Zeiss Axioplan 2を使用して実施した。MacKtype 5.4ソフトウェア(Powergene Olympus Italy)を実行しているパーソナルコンピュータに接続された電荷結合カメラ素子を用いて、画像を得た。染色体の特定および核型の指定を、以下のInternational System for Human Cytogenetic Nomenclature(ISCN)の基準に従って行った。
【0054】
(クロマチンの抽出およびH2AXのリン酸化)
細胞培養プレートを0.2mlのバッファー(120mM NaCl、40mM Hepes、5mM MgCl2、1mM EGTA、0.5mM EDTA、0.6%トリトンX100、2mMオルトバナジウム酸ナトリウム、2μg/mlアプロチニン、1mM PMSF)を用いて溶解し、14000×gで4℃において15分間遠心分離にかけ、タンパク質含有量をBio-Rad Protein検査により測定した(12)。ペレットを、80〜100UのDnaseを含む40μlのバッファーに再懸濁し、氷上で15分間インキュベートした。抽出物を、12%SDS PAGE中で、変性させ分離した。特異的抗体を用いた免疫ブロットを上記のように実施した。
【0055】
(統計解析)
データを平均値±1SDで表した。平均値は、対応標本または独立標本スチューデントt検定を使用して比較した。P値が0.05未満のとき有意であると見なした。すべての値は、両側検定である。
【0056】
[結果]
(強皮症の患者由来の免疫グロブリンはROSを誘導し、PDGF受容体と反応する)
インビトロのSSc線維芽細胞は、自発的にROSを放出し(7)、SScの患者に由来するIgGは正常なヒトの線維芽細胞と結合する(10)。PDGFは、ROSの蓄積を誘導するため(9)、著者らは、PDGFRを標的にする作動性血清抗体がSScの患者中に存在するかどうかを調査した。この仮説を検査するために、著者らは全身性硬化症の患者由来の全IgGを精製し、:1.ROSのレベル;2.PDGFRのチロシンのリン酸化:3特異的PDGFR阻害剤の存在下または不在下でのERK1/2の活性化を測定することによって、全IgGの生物活性を測定した。標的細胞として、著者らはαおよびβPDGFRサブユニットの不活性コピーを担持するマウスの胚細胞系(リファレンス)を使用した。組換えのαまたはβPDGFRサブユニット(Fα、FβおよびFαβ)を発現する同じ系を、様々なIgG画分を用いて誘発した。精製IgGを用いて処理し、ROSを測定する前に、細胞を飢えさせ、過酸化物感受性蛍光色素であるDCFと共にインキュベートした。
【0057】
SSc IgGは、Fα、FβおよびFαβにおいてROSの産生を用量依存的に刺激した。ROSは、IgGの添加後15分で速やかに最大レベルまで増加し、40〜120分で基準値まで戻った。Fα細胞を用いて、およそ200μg/mlのIgGを使用することにより、正常なIgGとSSc IgGとを最も良好に識別できる。これらの条件は、明記しない限りその後のすべての実験において用いられる。
【0058】
次に著者らは、無関係の強皮症患者46例の一群において刺激性IgGの保有率を検査した。図1Aは、SSc IgG(20000細胞あたり200μg/mlで15分間;168.8±59)により誘導されたROSのレベルは、正常IgG(1.4±2.9)、PRP IgG(5.1±7)、SLE IgG(4.8±9)およびRA IgG(2.7±7)と共にインキュベートして産生されたROSよりも、有意に高かった(p<0.0001)ことを示す。正常値の上限である95パーセンタイルを使用すると、ROSレベルを刺激する抗体はすべての強皮症患者において見出され、正常対象者においては見出されなかった(図1A)。抗体は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)および関節リウマチ(RA)の患者においてのみならず、一次性レイノー現象(PRP)の患者においても検出されなかった。SSc IgGのROS誘導活性は、PDGFRによって仲介された。これは、以下によって示される:1.SSc IgGと共にインキュベートしたFα細胞において誘導されたROSはPDGFRチロキシンキナーゼ阻害剤であるAG1296と共に細胞をプレインキュベートすること(2μMで2時間)によって阻害された(図1A):2.SSc IgGは、F-/-細胞においてROSを刺激しなかった(図1A)、3.正常対象者由来のIgGではなくSSc IgGが、PDGFR発現細胞に由来するPDGFRαおよびβサブユニットを免疫沈降させた(図1B);4.強皮症IgGに由来するPDGFR相互作用抗体が、Fα細胞を用いて予め吸収させることによって、完全に除去された(図1C)。反対に、F-/-細胞を用いて予め吸収させても、PDGFR相互作用抗体は、除去できなかった(図1C)。さらに、Fα細胞を吸収した上清はROSの産生を刺激しなかった(データ未掲載)。
【0059】
(強皮症患者由来のIgGは、正常線維芽細胞においてRas-ERK1/2-ROSカスケードを誘発する)
SSc患者に由来するIgGによって誘発されたシグナル伝達カスケードを分析するために、著者らは特異的阻害剤:1.EGFRシグナル伝達阻害剤(AG1478、2μM、2時間);2.ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤であるFT-277(20μM、2時間)(Rasが原形質膜に付着することを必要とする)、3.MEK阻害剤であるPD98059(ERK1/2の上流に位置するキナーゼ)(40μMで2時間)の存在下でのSSc IgG(3例の患者対3例の正常な対照)のROS産生活性を分析した。これらの阻害剤は、正常線維芽細胞のSSc IgGによるROSの誘導を阻止した(図2A)。反対に、これらの阻害剤は強皮症病巣に由来する線維芽細胞において、ROSレベルを有意に減少させた(8)。PDGFRを介するSSc IgGによって誘発された特異的シグナル伝達カスケードを理解するために、著者らは、SSc IgGで誘発したSSc細胞または正常細胞におけるRasの生物活性を分析した。著者らは、PDGFとSSc IgGとの両方が初代培養細胞においてRasタンパク質レベルを誘導することを見出した。この効果は、ERK1/2依存性であり、初代培養細胞に特異的であった。図2Bは、特異的抗体を用いた免疫蛍光法および免疫ブロットによって表されるように、SSc患者由来のIgGがHa-Rasを誘導し、この誘導はPDGFR阻害剤によって阻止されたことを示す。
【0060】
SSc IgGの標的をより正確に確定するために、著者らは2例のSSc患者、1例のSLE患者および2例の正常対象者由来のIgGを、同じタンパク質濃度(200μg/ml)で免疫沈降させた。免疫沈降物をPAGEで分離し、真正のPDGFRαおよびβサブユニットならびに抗EGFR抗体を用いて免疫ブロットにかけた。図2Cは、SSc患者から単離したIgGのみがPDGFRのαおよびβサブユニットを効果的に免疫沈降させることを示す。SSc患者の血清から単離したIgGは、直接免疫ブロットによってPDGFRの組換えαおよびβサブユニットを認識せず、これらの抗体が天然の受容体中においてのみ存在する構造を認識することを示す(データ未掲載)。
【0061】
さらに、抗体-受容体相互作用の刺激性を確定するために、著者らは、正常線維芽細胞を、濃度を増加させたSSc患者に由来するIgGを用いて、15分間誘発し、PDGFRのチロシンのリン酸化を検査した。SSc患者に由来するIgGは用量依存的にPDGFRのチロシンのリン酸化を誘導した(図2D)。著者らは、数例(およそ4例)のSSc患者に由来するIgGが、PDGFと比較して強度は少ないが延長された、PDGFRのチロシンのリン酸化を誘導することに注目した(データ未掲載)。
【0062】
(SSc患者に由来する抗PDGFR作動性抗体の生物学的結末)
SSc IgGにより誘導される生物学的効果を確定するために、著者らは、全身性硬化症の患者の線維芽細胞を特徴付ける2種の遺伝子:α平滑筋アクチン(α-SMA)およびI型コラーゲンの発現を、SSc IgGに曝露した正常ヒト線維芽細胞において検査した。アクチン(α-SMA)は、筋線維芽細胞(線維芽細胞から発達し、平滑筋細胞と線維芽細胞との両方の特徴を有する間葉細胞)の識別マーカーである。ヒト線維芽細胞を、α-SMAを検出するために免疫組織化学的分析および免疫ブロットを行う前に、AG1296(2nM、24時間)の存在下および不在下で、PDGF(15ng/ml、24時間)、正常ヒトIgG(NIgG;200μg/ml、24時間)および強皮症IgG(SSc IgG;;200μg/ml、24時間)を用いて刺激した。アクチン(α-SMA)は、SSc IgGにより刺激され、正常IgGによっては刺激されなかった(図3A)。I型およびII型コラーゲンmRNAは、SSc IgGにより確実に誘導され、正常IgGによっては確実に誘導されなかった(図3B)。
【0063】
最終的に、著者らは、アポトーシスを誘導したSSc IgGに対する内皮細胞の感受性を検査した。SSc細胞にストレスが加わり、SSc IgGに曝された200μg/ml、一晩)場合、これらは対照細胞よりアポトーシスを起こしやすかった。アポトーシスは、細胞をPDGFR阻害剤と共にインキュベートすることによって阻止した。同じ条件下で、PDGFはアポトーシスを誘導できなかったことに留意されたし(図3C)。
【0064】
[ディスカッション]
(全身性硬化症におけるPDGF受容体に対する刺激性抗体)
本研究は、強皮症(SSC)を有する患者の血清中にPDGFR刺激性抗体が存在することを実証する。この結論は、以下の5つの独立した実験的証拠によって裏付けられる:1.SSC患者由来の精製免疫グロブリン画分は、PDGFR+細胞においてROSレベルを誘導し、PDGF-/-細胞においては誘導しなかった;2.SSC患者由来の免疫グロブリン画分は、天然構造のPDGFR(α鎖およびβ鎖)を認識し、免疫沈降させた;3.SSC IgGのPDGFR結合活性およびROS産生活性は、PDGF-/-細胞ではなく、PDGFR発現細胞に予め吸収させることによって除去された;4.SSC患者に由来する精製免疫グロブリン画分は、筋線維芽細胞の変換の誘導、ならびに、正常線維芽細胞におけるコラーゲンI型およびROSの産生を誘導した;5.最後であるが重要なことには、著者らは今まで分析されたすべての全身性硬化症患者においてこれらの抗体を見出したが(46)、正常対照においてはまったく見出さなかった(20)。SSC免疫グロブリンのROS誘導活性は、PDGFR阻害剤により阻害された。これらの抗体は、一次性レイノー現象、全身性紅斑性狼瘡および関節リウマチを有する患者には検出されなかった。しかし、著者らは、上に示した特徴を有する抗体を、同種骨髄移植後の強皮症様皮膚病巣を有する、移植片対宿主病(GVHD)を示す患者に選択的に見出した。これらの兆候に基づくと、これらの抗体の存在は疾患特異的であり、全身性硬化症患者を特色付ける。
【0065】
(抗体、活性PDGF-RおよびROS)
全身性硬化症の発病は、これらの抗体が血中に蓄積することによって誘発されると思われる。著者らは、PDGFおよびこれらの抗体によって開始されるカスケードを特定し、増殖因子およびROSによってRasタンパク質が新規に制御されることを発見した。正常な初代培養細胞において、Rasタンパク質レベルは、連続して分解されることによって低く維持される。PDGFは、(ERK1/2を刺激し、最終的にはプロテアソームによるRasの分解を防止する)ROSを一時的に誘導する。ROSは、ERK1/2を介したこれらのシグナル伝達を阻害する。レベルの増加したROSによるPDGFはRasタンパク質を安定化する(8)。
【0066】
PDGFおよびSSc患者由来の抗体は両方ともROSを誘導し、Rasを安定化する(図2B)。しかし、これらは受容体活性化の反応速度に関しては重大な違いを示す。抗体の効果はPDGFと比較して長期に持続するため、抗体は長期作用性PDGFR刺激因子である。SSC IgGにより誘導されるROSは60〜120分間持続するが、一方PDGF誘導性ROSは15〜30分間で基準に戻る。持続性のROSの蓄積は、Ras-ERK1/2-ROSを正常対照より高く維持し、このことによりインビトロで少量の血清中のSSC細胞におけるROSが高レベルであることを説明できる。SSC IgGにより誘導される相対的なチロシンのリン酸化はPDGFより低かったが、持続期間はより長かった(60対15分間)(図2Dおよびデータ未掲載)。
【0067】
PDGF受容体に対する抗体は、PDGFと比較して細胞膜に長期残存し、強くはないが持続性の刺激を起こすことができる。
【0068】
(早期および後期の全身性硬化症表現型)
著者らは、正常細胞におけるSSc IgGの短期的および長期的生物学的効果を分析した。表現型は、インビボで全身性硬化症の特徴を厳密に複製する。SSC IgGにより誘導される高レベルのROSは、線維芽細胞および内皮細胞を、Ha Rasタンパク質および活性ERK1/2のレベルが高いことにより、血清および他の増殖因子に対してより反応性にする。コラーゲン遺伝子およびアクチン(α-SMA)の転写の活性化は、筋線維芽細胞および線維症の出現をもたらす。一方、内皮細胞は、ROSによるストレスを受けた場合にアポトーシスを起こしやすくなる。しかし、著者らは、疾患の長期的結果を説明できる、ROSおよびIgG SScに曝露された細胞の表現型に注目した。SSC患者に由来する線維芽細胞は、急速に老化し、DNAおよび染色体の異常を蓄積する(8)。このことにより、慢性の病巣における細胞の損失が説明できる。本発明者らのデータは、強皮症表現型の機序的説明を提供する。自己抗体によって認識されるPDGFRのエピトープは、より感受性が高く煩雑さの少ない診断テスト、ならびにPDGFRの異なるエピトープが自己抗体に結合している場合の標的特異的治療の開発および強皮症患者の臨床的相違の説明に関連性があり得る。
【0069】
本分野の専門家は、当分野で公知の多くの方法、例えばファージディスプレイライブラリーによってエピトープの特定が実施できると認識するであろう。内皮細胞の損傷は、強皮症の臨床暦の初期事象であるので、自己免疫は、血管内皮細胞の長引く損傷の結果として曝されたエピトープにより誘導されると思われる。このシナリオにおいて、抗PDGFR自己抗体は、初期の、別の事象の次に起こるが、血管および線維の特徴存続に病原的に関連する。あるいは、抗体が初期事象であると仮定できる。この疑問に対する答えはおそらく、顕著な強皮症の進行が終了した、レイノー現象を有する患者を長期的に扱った研究によって、もたらされるであろう。いずれの場合においても、一次性レイノー現象を有する我々の患者に抗体が不在であるということは、この血管攣縮性障害の発症機序に役割を担っていないことを意味し、抗体の検出が一次性レイノー現象を有する患者と強皮症を有する患者とを識別することに有効に使用できるだろう。
【0070】
強皮症に関連する最も頻繁な自己抗体は、抗セントロメア抗体および抗トポイソメラーゼ-I抗体を含み、それぞれ20〜30%および9〜20%で見出される(28)。これらは、特異的臨床徴候に関する危険のある患者群を特定するための、診断および予後において役立ち得るが、これらの自己抗体が発症機序において実際に役割を担っているかどうかは、まだ議論の余地がある。
【0071】
数多くある自己免疫疾患の中でも、臓器特異的自己免疫疾患のグレイヴズ病のみは、(TSH)受容体に対する刺激性自己抗体を特徴とする。本発明者らの報告は、結合組織病において同様の発見をした最初の報告である。さらに、本発明者らのデータは、液性免疫およびTh2-依存性免疫応答を強皮症の核心(29)へと戻すものであり、強皮症の皮膚における遺伝子発現の分析に一致している(30)。
【0072】
結論として、著者らは、作動活性を有した、強皮症を有する患者におけるPDGF受容体に対する抗体を特定した。これらの抗体は、Ha-Ras-ERK1-2-ROSに関与する細胞性ループを誘発し、該ループは内皮細胞の損傷およびコラーゲン遺伝子の発現の増加を引き起こす。最近、著者らは抗PDGFR ROS刺激性抗体の精製に成功し、精製クローンとしてのこれらの生物活性を検査した。これにより全身性硬化症の発症における因果的役割が強く立証された。ここに示されたデータから導かれる1つの重要な暗示は、全身性硬化症の可能性のある診断ツールおよび標的療法の特定である。
【0073】
<PDGFおよび活性酸素種(ROS)は、ERK1/2を介した初代培養ヒト線維芽細胞において、Rasタンパク質のレベルを制御する>
[結果]
(PDGFによるRasタンパク質レベルの誘導)
静止初代培養ヒト線維芽細胞において、Ha-Rasタンパク質は、ほとんど検出不可能であった。Ki RasおよびHa Rasタンパク質のレベルを正確に測定するために、著者らは全細胞タンパク質を免疫沈降し、pan Ras抗体を用いて0.1%SDS(RIPAバッファー)に可溶化した。免疫沈降物をゲル電気泳動によって分離し、特異的Rasイソ型抗体を用いてブロットした。PDGFを用いた15分間の細胞刺激は、Ha-Rasタンパク質を誘導するためには十分であったが、増殖因子が存在したにもかかわらず、刺激後120分間で初期レベルまで減少した。Ki-Rasタンパク質レベルもまたPDGFによって刺激されたが、効率は低く、反応速度も異なった。Ki-Rasは、わずかしか誘導されず、ゆっくりと衰退した(PDGF刺激3時間)(図4A)。Ha-Rasの誘導は、蛍光顕微鏡検査法(図4B)あるいは抗Ha-Rasモノクロナールまたはポリクロナールの特異的抗体を用いたFACS分析(図4C)によって可視化された。
【0074】
転写阻害剤のシクロヘキシミドを用いた細胞処理は、PDGFによるHa-Rasの誘導を阻止しなかった(図4D)。さらに、PDGF処理は、Ki-RasおよびHa-RasのmRNAレベルを変化させなかった(図4E)。PDGFにより誘導されたHa-Rasが高脂質膜画分に結び付いており、免疫沈降手順によっては効率的に抽出されなかったことを排除するために、著者らは細胞を50mMのシクロデキストリンを用いて処理し、免疫沈降の前にコレステロールを枯渇させた。シクロデキストリンによる処理は、PDGFによるHa-Rasの誘導を破壊しなかった(図4、補足試料)
【0075】
総合すれば、これらのデータはHa-RasおよびKi-Rasタンパク質のレベルは、初代培養線維芽細胞においてPDGFによって翻訳後に制御されることを示す。著者らは、いくつかの実験からPDGFにより誘導されたHa-Rasタンパク質の半減期はおよそ40分であったと推定した(図4Aおよびデータ未掲載)。
【0076】
(PDGFによるROSおよびERK1/2の刺激)
PDGFは、NADPHオキシダーゼを刺激することによってROSの産生を活性化する(3a、19a)(図5A)。PDGFの刺激後のROS産生の反応速度は、Ha Rasの誘導の反応速度を再現した(図4および図5A)。ROSが、PDGFによるHa Rasの誘導に関与しているかどうかを確定するために、著者らは、非特異的ROSスカベンジャー(N-アセチル-システイン、NAC)またはNADPHオキシダーゼ阻害剤(DPI)を用いて細胞を処理し、PDGFの存在下または不在下でHa-Rasレベルを測定した。図5Bは、NACおよびDPIがPDGF誘導性Ha-Rasのレベルを有意に阻害したことを示す。このことは抗Ha-Ras抗体を用いた免疫蛍光検査法によってもまた示される(図5C)。正常細胞におけるPDGFによるHa-Rasの誘導の反応速度は、ERK1/2の活性化プロフィールを再現し(データ未掲載)、MEK-ERK1/2とHa-Rasの誘導との関係を示唆する。この過程への洞察を得るために、著者らは、ERK1/2MAPKの上流に位置するキナーゼであるMEK(MAPKK)を阻害する、ERK1/2シグナル伝達の化学的阻害剤(PD98059)を用いて予め処理した細胞において、Ha-Rasを測定した。PD98059を用いた細胞の処理により、PDGFによるHaRasの誘導は阻害された(図5D)。同じ抽出物において、抗Ras抗体を用いた免疫沈降に供し、PDG受容体を測定した。図2Dは、PDGF処理により、受容体がERK1/2の活性化について独立して下方制御されたことを示す(図5D)。PDGFによるERK1/2の活性化が、ROSの破壊にも感受性があったかどうかを確定するために、著者らは一般的なROSスカベンジャー(NAC)またはNADPHオキシダーゼ阻害剤(DPI)の存在下で、細胞をPDGFにより処理した。図5Eは、PDGFにより活性化されたERK1/2がNACおよびDPIに感受性があったことを示し、ROSの枯渇は、PDGFにより活性化されたERK1/2を妨げることを示している。経時実験により、ROSがERK1/2の早期活性化(PDGF刺激5分)を必要としなかったことを示した。しかし、ROSはPDGFの後15〜20分でMEK-ERK1/2の活性を増幅した(図5E)。
【0077】
(ROSはHa Rasレベルを誘導する)
上に提示したデータは、ROSおよびERK1/2を介したPDGFがHa-Rasタンパク質レベルを、初代培養線維芽細胞において誘導することを示す。PDGFとROSとの間の機序およびつながりを調査するために、著者らは、ERK1/2シグナル伝達の化学的および生物学的阻害剤の存在下で、細胞をH2O2を用いて刺激した。この目的のために、1.PD98059およびU0126(MEK(MAPKK)を阻害する)(それぞれ2時間および15分間インキュベートする)、ならびに、2.ドミナントネガティブMEK変異株(細胞性MEKを阻害する)(材料および方法を参照されたし)を用いた。図6A、6Bおよび6Cに示した結果は、H2O2によるHa-Rasの誘導がMEKの阻害によって無効化されたことを実証する。H2O2が、PDGFの下流であったことを確認するために、著者らは細胞を、PDGFまたはH2O2の存在下で、チロシンキナーゼ阻害剤のゲニステインを用いて処理した。図6Dに示したデータは、ゲニステインの存在下であってもまた、H2O2がHa Rasの強力な誘導物質であったことを示す。予想通りに、該薬剤はPDGFによるHa-Rasの誘導を阻害した。しかし、ゲニステインの存在下でさらに長期(90分)インキュベートすることにより、H2O2により誘導されたHa-RasおよびERK1/2は阻害され、H2O2の長期的効果には活性PDGF受容体が必要であることが示された(データ未掲載)。図5および図6に例示したデータを総合してみると、ERK1/2を介したおよびROSを介したPDGFは、Ha-Rasタンパク質を誘導したことを示す。ROSは、受容体の活性化に関して独立してHa-Rasを誘導したので、ROSはPDGF受容体の下流である。しかし、ROSにより誘導されたHa Rasタンパク質は、活性PDGF受容体の不在下では一時的であった(データ未掲載)。ERK1/2の下方制御(図5D、図5Eおよび図6)により、Ha Rasのレベルは減少した。構造的活性Ha-RasまたはドミナントポジティブMEKタンパク質を発現することによってERK1/2を高く維持すると、ROSの産生は上昇し、内因性Ha Rasは減少しなかった(データ未掲載)。Ki-Rasのレベルは初代培養線維芽細胞においてERK1/2の阻害によって、ほんのわずかに影響を受けただけだったので、この過程はHa-Rasに対して特異的であった。さらに重要なことに、3T3線維芽細胞、CHO、PC12およびCOS7のような安定化された細胞は、ERK1/2の阻害に対して非感受性の、安定な高レベルのHa-Rasを含んだので、Ha-Rasの安定化は初代培養細胞に特有であった(データ未掲載)。
【0078】
上に示したデータは、PDGF-ROS-ERK1/2により誘導される、Ha Rasの安定化に関与する機序を、明らかには示していない。この目的のために、著者らは、MG132(広範囲に使用されるプロテアソーム阻害剤)およびモネンシン(エンドソームの酸性化の阻害を介して受容体の再利用を阻害することで公知の毒素)を用いて、細胞を処理した。図6Eは、MG132がHa Rasを誘導し、その効果はPDGFまたはH2O2と共に投与した場合、相加的ではなかった。反対に、モネンシンは単独あるいはPDGFまたはH2O2と一緒でも、Ha Rasのレベルに関して何の効果もなかった。
【0079】
(強皮症線維芽細胞におけるインビボのROS-Rasシグナル伝達の増幅)
ROSからRasへつながるシグナル伝達経路がインビボで関連があったかどうかを確定するために、著者らは全身性硬化症に侵された患者に由来する線維芽細胞を利用した。これらの細胞は高レベルのROSを産生し(12a)、そして血清中に刺激性抗PDGF受容体抗体を存在させることによって、これらの細胞にPDGFシグナル伝達の構造的刺激を与えた。図7Aは、これらの患者に由来するの3種の線維芽細胞系が高レベルのROS、スーパーオキシドおよびH2O2を含むことを示す。ROSは、ファルネシルトランスフェラーゼ、MEKおよびRas(未掲載)の阻害剤によって、強く阻害された(図7A)。さらに、これらの細胞は、正常対照と比較してより高レベルのHa Rasタンパク質を含んだ(図7B)。Ras活性も正常対照細胞に対して増加した(図7C)。著者らは、全身性硬化症に侵された46例の患者の分析を最近終了し、すべての事例においてHa/Ki比は2より高かった。下流Rasエフェクター(AKTおよびERK1/2)の分析は、ERK1/2のみが選択的に活性化されたことを示唆した(図7D)。MEK阻害剤、ROSスカベンジャーまたはファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤は、Ras P-ERK1/2およびROSのレベルを減少させ得るので、ROS、RasおよびERK1/2の活性化はリンクしていた(図7A)。ROS、Ha Rasおよび活性ERK1/2は、低血清で培養された細胞においてゆっくりと破壊され、1〜2日で基準値に戻った(データ未掲載)。
【0080】
(インビボにおけるHa Ras安定化の生物学的結末:高ROS、高ERK、DNAの損傷、コラーゲン合成、老化)
著者らは次に、ROS-Ras増幅はこれらの細胞系の表現型に影響したかどうかを問うた。この目的のために、以下を測定した:1.DNA損傷チェックポイントまたは直接的染色体変化の活性化、2.ストレス誘導性アポトーシス、3.ROSによるコラーゲン遺伝子の転写活性化。図8は、強皮症細胞が、以下を含むことを示す:1.ヒストンH2AXのリン酸化により検査した活性化ATM、2.p21 WAFの蓄積(図8A)、3.損傷した染色体(図8B)。染色体異常は、培養中の伸長の前からインビボで存在し、培養中も継続して発生した。これらの変化は、ROSによって増幅され、これらの細胞の負の選択をもたらす(データ未掲載)。このことにより、なぜ多くの中期変化は、細胞をファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤またはROSスカベンジャーをと共にインキュベートすることによって、培養の1日目または2日目に有意に減少したかが説明される(図8B)。これらの細胞は、酸化的ストレス誘導性アポトーシスに関して感受性が非常にあり、該アポトーシスはMEK阻害剤のPD98059を用いて予め処理することによって阻害された(図8C)。最終的に、コラーゲン遺伝子の転写(ROSに対して非常に感受性である)が大いに刺激された(図8Dおよび8E)。すべてのこれらの特徴は、細胞をMEKまたはファルネシルトランスフェラーゼの阻害剤あるいはROSスカベンジャーのいずれかを用いて処理することで阻害された(図8B、8C、8D、8E)。今まで、全身性硬化症患者に由来するおよそ15の独立した線維芽細胞系においてこれらのデータが再現された(データ未掲載)。
【0081】
補足的な研究として、正常線維芽細胞に、強皮症細胞中に存在するほぼ同じ比率(3:1)でHa RasまたはKi Rasをトランスフェクションした。著者らは、ROSの産生はHa-Rasの発現によって有意に刺激されたことを見出した。図8に示したすべての特徴(コラーゲンの誘導、DNAの損傷、H2O2誘導性アポトーシス)は、Ha RasをKi Rasに対して5:1の比率で発現することによって、すべて再現された(図5補足試料および参考文献15)。
【0082】
これらのデータは、ROS-Rasの増幅とインビボの強皮症線維芽細胞の複合表現型とのつながりを証明する。さらにこれらのデータは、今までは治療不能であった疾病の、診断を可能にするツールおよび標的療法を提供する。
【0083】
[ディスカッション]
データは、以前は知られていなかったRasタンパク質の新規な制御レベルを示す。樹立細胞系および不死化細胞系において、RasはGTP-GDP結合活性によって単独で制御される。Ha RasまたはKi Rasの広範囲に及ぶ発現は、発達段階または成体中では耐えられないので、初代培養細胞においてタンパク質レベルは低く維持される(20a)。初代培養線維芽細胞において、Rasタンパク質はプロテアソーム分解によって低く維持される(図6E)。
【0084】
増殖因子およびROSによるRasの誘導は、初代培養線維芽細胞に特有ではなく、ヒト末梢リンパ球、初代培養神経細胞および初代培養マウスアストロサイトにおいても存在する。これらの細胞において、H2O2は、Ha RasおよびKi Rasの両方を刺激する。
【0085】
初代培養細胞において、Rasタンパク質の蓄積はPDGFおよびERK1/2によって誘発される(図4および5)。PDGFによって誘導されるROSは、ERK1/2を活性に維持する(図5)。ROSによるRasの誘導は、PDGF刺激に関して独立しており、ROSによって維持され得る(図6)。しかし、PDGFの刺激が不在だとH2O2はHa Rasを長時間(2時間)高レベルに維持できない。
【0086】
PDGFおよびROSによるHa-Rasの誘導を担う機序に関して、図6Eに示したデータは、Ha Rasタンパク質が26 Sプロテアソームによって分解され、ERK1/2がHa Rasを分解から保護することを示す。同様に、c-mycはプロテアソームによって分解され(21a)、MEKK1を介したストレスによって安定化される(22a)。ROSとHa-Rasタンパク質レベルとのつながりを例示した概略図を図9に示す。著者らはROSがRasタンパク質レベルを増加させ、PDGFシグナル伝達を増幅することを提議する。Rasタンパク質レベルの制御は、初代培養細胞を、アポトーシスまたはDNAの損傷ならびに酸化的ストレスをもたらす可能性のある、増殖因子による過剰な刺激から保護する。
【0087】
(インビボのROS-Rasシグナル伝達の増幅)
著者らは、線維芽細胞によるコラーゲンの過剰な産生に起因する、皮膚および内臓器官の広範な線維化を特徴とする自己免疫疾患である、全身性硬化症に侵された患者の病巣から単離した細胞中に記載の経路を見出した(23a)ので、この経路はインビボで関連がある。全身性硬化症の患者に由来する線維芽細胞は、Ha RasおよびROSのレベルが高く、ERK1/2を構造的に活性化する。これらの特徴は、H2O2により刺激された正常線維芽細胞における上記のシグナル伝達経路の特質である。全身性硬化症の患者は、PDGF受容体に対する刺激性抗体を合成する。これらの抗体は、線維芽細胞および単球を刺激し、ERK1/2を始動し、Ha Rasを誘導するROSを多く産生する(14a)(Svegliatiらにより提示された)。このループの任意の要素(ERK1/2、Ras、ROS)を阻害すると、系は下方制御され、全身性硬化症細胞の表現型を特徴付ける細胞の老化促進などの、Ras-ROS活性化の生物学的効果が破壊される(23a、24a)。これらの細胞は、1.アポトーシスを起こしやすい、2.DNAが激しく損傷している、3.ROSによって誘導された遺伝子の転写が活発に誘導される。この構造において、線維化は細胞死(アポトーシス)およびコラーゲンの堆積の結末である(23a、24a)。該ループははじめにPDGF受容体の刺激によって誘発され、Ras-ERK1/2によるNADPHオキシダーゼの活性化によって産生されたROSにより維持されるため、相対的に自立する(24)。このことが、なぜROSまたはERK1/2またはRasのいずれかを阻害することで強皮症が正常線維芽細胞に変化するかを説明する。しかし、4〜12時間PDGF受容体が阻害されることにより、Ras-ROS-ERK1/2-コラーゲンのレベルが減少するので、PDGFシグナル伝達はROSが長時間産生されるために必要である(データ未掲載)。
【0088】
生理的刺激の存在下で、Rasタンパク質レベルの制御は初代培養細胞を過剰な、または不適切な刺激から保護できた。ROSとRasとをカップリングすることにより、レドックスシグナル伝達のセンサーおよび調節因子としてのRasタンパク質の第一の役割が明らかになる。初代培養細胞における異なる代謝回転およびHa RasとKi Rasとの間のROSレベルに関する異なる効果(7a)は、異なる細胞区画に対するこれらの2種のイソ型シグナルの活性化によりROSの型およびレベルが作り出されることを示唆する。Ras-ERK1/2シグナル伝達の構造的または突然変異的な活性化は、この型の制御の損失をもたらす。これにより、Ras2val19またはRas2野生株Rasを発現するS.セレビシエ(S.cerevisiae)の寿命に関する対照的な表現型を説明できる(11a)。初代培養細胞において、老化または増殖または分化は、この回路の完全性に依存する。
【0089】
(参考文献)




【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】強皮症患者におけるPDGF受容体に対する抗体を用いた実験結果を示す図である。パネルA. 正常(N;n°20)、強皮症(SSc;n°46)、一次性レイノー現象(PRP;n°15)、全身性紅斑性狼瘡(SLE;n°15)および関節リウマチ(RA;n°15)のIgGと共にインキュベートしたFαおよびF-/-細胞中の活性酸素種レベル。F細胞をさらに、PDGFRチロシンキナーゼ(AG1296)の選択的阻害剤と共にプレインキュベートした。水平の棒は平均値を示す。パネルB. Fα、FαβおよびF-/-の溶解物を、SSc患者および正常な対象から精製したIgGを用いて免疫沈降させ、PDGFRαおよびPDGFRβのサブユニット(WB)に対する特異的抗体を用いて検出した。右側の最初の2つのレーンは、全タンパク質の免疫ブロットである。SSc IgGのみが、PDGFRαおよびPDGFRβのサブユニットを効果的に免疫沈降させた。3実験のうちの1実験による典型的な結果を示す。パネルC. 強皮症のIgGを、PDGFRのα鎖を発現するFα細胞と共にインキュベートした。細胞溶解物を遠心分離にかけ、免疫沈降法に供した。上清をαPDGFRの細胞外領域と混合し、免疫沈降させた。同じ手順をF-/-細胞を用いて実施した。Fα細胞によって発現したPDGFRで、SSc IgG由来の抗PDGFR抗体を測定した。3実験の典型である1実験を示す。
【図2】αβPDGF受容体に対するSSc抗体が、正常な線維芽細胞においてHa-Ras-ERK1/2-ROSシグナル伝達を刺激することを示す図である。パネルA. 正常IgG(N;n°=3)およびSSc IgG(n°=3)と共にインキュベートし(200μg/ml、15分)、EGFRまたはPDGFR(それぞれAG1478およびAG1296)の選択的阻害剤ならびにFTI-277およびPD98059と共にプレインキュベートした正常ヒト線維芽細胞中の、DCF蛍光強度として評価した活性酸素種レベル(平均±1SD)。パネルB. 選択的阻害剤(AG1478およびAG1296、2μM、2時間)の存在下および不在下で、正常およびSScのIgGと共にインキュベートした(200μg/ml、15分)、正常ヒト線維芽細胞中のHa-Rasタンパク質に関する蛍光顕微鏡検査法および免疫ブロット法。AG1478によるHa-Rasバンド上のわずかな阻害は、この特異的実験に使用した高濃度に依存した(IC50 EGF受容体=3nM)。5実験のうちの1実験による典型的結果を示した。倍率40倍。パネルC. 細胞溶解物を2例のSSc患者、1例のSLE患者および2例の正常な対象から精製したIgGを用いて免疫沈降させ、PDGFRおよびEGFR(WB)に対する特異的抗体を用いて検出した。左側の最初の2つのレーンはNまたはSScの線維芽細胞から抽出した全タンパク質の免疫ブロットであり、PDGFRおよびEGFRに対する抗体を用いて検出した。3実験の典型である1実験を示す。パネルD. 正常ヒト線維芽細胞を、SSc IgG(200μg/ml、15分)、PDGF(15ng/ml、15分)により刺激した、または0.2%FCS中で増殖させた。細胞溶解物をPDGFR(サブユニットβ)に対するポリクロナール抗体を用いて免疫沈降させ、リン酸化チロシンに対する特異的抗体を用いて免疫ブロットを検出した。
【図3】抗PDGFR自己抗体の生物効果を示す図である。パネルA. AG1296(2μM、24時間)の存在下および不在下で、PDGF(15ng/ml、24時間)、正常ヒトIgG(NIgG;200μg/ml、24時間)および強皮症IgG(SSc IgG;200μg/ml、24時間)、により刺激された正常ヒト線維芽細胞におけるα-SMAタンパク質の誘導。示した実験は、3つの独立した実験で得られた典型的なブロットを表す。濃度分析を下方部分に示す。データは、3つの独立した実験の平均値±SEMで表す。パネルB. AG1296(2μM、24時間)の存在下および不在下で、0.2%FCSで48時間、PDGF(15ng/ml、24時間)、正常ヒトIgG(NIgG;200μg/ml、24時間)および強皮症IgG(SSc IgG;200μg/ml、24時間)と共にインキュベートした後の、正常ヒト線維芽細胞によるI型コラーゲン遺伝子の発現。α1(I)およびα2(I)コラーゲンmRNAの検出のためにノーザンブロット解析を使用した。3実験のうちの1実験による典型的結果を示す。パネルC. 臍静脈内皮細胞を、PDGF(15ng/ml、一晩)、ならびに、正常対象(N)、全身性紅斑性狼瘡(SLE)および強皮症(SSc)由来のIgGと共にインキュベートした(200μg/mlで一晩)。SScをさらにAG1296(2μM、一晩)の存在下でインキュベートした。アポトーシスを、その後アネキシンV-Cys3染色細胞のFACS分析により検出した。図表はアネキシンV-Cys3陽性細胞のパーセントを表す。
【図4】初代培養線維芽細胞におけるPDGFによるRasタンパク質の誘導を示す図である。健康なドナー(2〜5継代)に由来する初代培養線維芽細胞を0.2%のFCS中で48時間インキュベートし、その後PDGF 15ng/mlを用いて表記の時間刺激した。A. 全タンパク質を抽出し、pan-Ras抗体を用いて免疫沈降させ、Ha-RasおよびKi-Rasに対する特異的抗体を用いて免疫ブロット法を行った。示した免疫ブロットは、2連に実施した3実験の典型である。縦座標上のDUは、任意の濃度単位を示し、PDGFを用いた処理を行わないHaRasを1に設定してバンドを標準化した。B. 0.2%FCS中で48時間プレインキュベートし、PDGF(15ng/ml)で15分間刺激した線維芽細胞の蛍光顕微鏡検査。細胞を、Ha-RasおよびKi-Rasに対する特異的抗体を用いて間接的免疫蛍光法によって染色した。5実験のうちの1実験による典型的結果を示す。Negは、非免疫血清を用いた免疫蛍光を示す。倍率40倍。C. Bに示したように処理した細胞の抗Ha-Ras抗体を用いたFACS分析。典型的な実験のヒストグラムを示す。数値は、2連に実施した独立した3実験の平均±1SDである。Ha-Rasに対するモノクロナール抗体(F235)およびポリクロナール抗体(SC520)の両方を使用し、結果は同一であった。(材料および方法を参照されたし)。D. シクロヘキシミドの存在下または不在下(10μg/ml、6時間)で、PDGF(15ng/ml)を用いて刺激した正常線維芽細胞におけるHa-Rasの発現。3実験の1典型を示す。E. 15ngのPDGFを用いて60分間刺激した細胞から抽出したRNAの半定量的RT-PCR。反応を、材料および方法に記載したように実施した。ここに3つの反応(20周期)の典型を示す。これらの条件下で、特異的バンドの強度は、cDNAの濃度に直線的に依存した。KiロングおよびKiショートは、3'UTRの長さが異なる、2種の主要なKi4B mRNAを表す。
【図5】ROSが、初代培養線維芽細胞においてHa-Rasを誘導することを示す図である。A. PDGFによるROSの誘導の経時変化。健康なドナー(2〜5継代)に由来するの初代培養線維芽細胞を、0.2%FCS中で48時間インキュベートし、その後PDGFを用いて表記の時間刺激した。ROSを、PDGF(15ng/ml)の存在下または不在下で、正常線維芽細胞においてDCF蛍光法によって測定した。数値は、2連に実施した独立した5実験の平均値±1SDで表す。B. ROSの阻害はPDGFによるHa-Rasの誘導を無効化する。初代培養線維芽細胞を、NAC(20mM、5時間)およびDPI(20μM、1時間)を用いて処理し、PDGF(15ng/mlで15分間)を用いて処理し、図1Aに示したようにHa-RasおよびKi-Rasのレベルを分析した。3実験の典型を示す。C. 0.2%FCS中で48時間プレインキュベートし、NAC(20mM)を用いて5時間予備処理し、PDGF(15ng/ml)を用いて15分間刺激した線維芽細胞の蛍光顕微鏡検査。細胞を、Ha-RasおよびKi-Rasに対する特異的抗体を用いて間接的免疫蛍光法によって染色した。5実験のうちの1実験による典型的結果を示す。D. PDGFによるHa-Rasの誘導は、ERK1/2によって仲介される。0.2%FCS中で48時間インキュベートした線維芽細胞を、PDGF(15ng/ml)を用いて処理する前にMEK阻害剤であるPD98059(40μM)を用いて2時間処理した。Ha Rasのレベルを、pan-Ras抗体を用いた免疫沈降法および図1Aに示したような免疫ブロット法によって測定した。抽出物を、抗PDGFRβサブユニット抗体およびpan-Ras抗体を用いてさらにブロットした。E. ROSは、PDGFによるERK1/2の誘導を仲介する。0.2%FCS中で48時間インキュベートし、NAC(20mM、5時間)およびDPI(20μM、1時間)を用いて予備処理した線維芽細胞を、PDGF(15ng/ml、30分間)を用いて処理し、上記のようにP-ERK1/2のレベルを分析した。3実験の典型を示す。
【図6】ERK1/2が、Rasタンパク質に対するROSの効果を仲介することを示す図である。ROSによるRasの誘導は、MEK1阻害剤によって無効化される。A. PD98059(40μM、2時間)の存在下または不在下で、0.2%FCS中で48時間インキュベートし、その後H2O2(1μM、15分間)を用いて処理した抗Ha Ras抗体を用いた、初代培養線維芽細胞の蛍光顕微鏡検査。3実験のうちの1実験による典型的結果を示す。倍率40倍。B. 0.2%FCS中で48時間インキュベートした細胞を、H2O2(1mMで15分間)を用いて処理する前にMEK阻害剤であるPD98059(40μM)およびU0126(50μM)を用いてそれぞれ2時間および15分間処理した。免疫ブロット分析を全ERK(ERK1/2)およびそのリン酸化形態(P ERK1/2)に対する抗体を用いて実施した。モノクロナール抗pan-Ras抗体を用いた免疫沈降法に先立って、細胞溶解物についてHa-RasおよびKi-Rasに対する特異的抗体を用いてさらに免疫ブロットを実施した。非免疫血清(*)を対照として使用した。3実験の典型である1実験を示した。Ha Rasレベルの濃度解析を、パネルの下方部分に示す。3実験の結果を標準化し、平均値±1SDとして任意単位で表した。C. 初代培養線維芽細胞を、対照またはMEKドミナントネガティブ変異株pBABE-MKK-S217A(C.Marshall、CRC、ICR、UK)を担持する発現ベクターを用いて一時的にトランスフェクションした。Ha-RasおよびP ERK1/2のレベルを表示のように測定した。3実験の結果を標準化し、平均値±1SDとして任意単位で表した。D. 初代培養線維芽細胞を、ゲニステイン(1μg/ml、1時間)の存在下または不在下で、PDGF(15ng/ml、15分間)およびH2O2(1mM、15分間)を用いて処理した。数値は、2連に実施した独立した3実験の平均値±1SDである。E. 初代培養線維芽細胞を、モネンシン(MON)(0.1mM、30分間)またはMG132(0.04mM、30分間)を用いて予備処理し、PDGF(15ng/ml、15分間)およびH2O2(1mM、15分間)を用いて処理した。数値は、2連に実施した独立した3実験の平均値±1SDである。
【図7】強皮症線維芽細胞におけるROS-Rasシグナル伝達の増幅を示す図である。強皮症病巣に由来する初代培養線維芽細胞におけるROS。MEK1およびファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤によるROSの減少。A. 3種の正常線維芽細胞系(25)および3種のSSc線維芽細胞系(黒)において、インキュベートする前(0.2%FCS中で48時間)に、およびPD98059を用いてインキュベートした後(0.2%FCS中で48時間の後、40μMで2時間)またはファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害剤であるFTI-277を用いてインキュベート(20μM、2時間)した後、ROS分析の前に、DCF蛍光強度(任意単位)として、活性酸素種のレベルを評価した。スーパーオキシドジスムスターゼ阻害性チトクロームC還元法によって測定したO2、およびホモバニリン酸還元法によって測定したH2O2を示す。データは、2連に実施した独立した3実験の平均値±1SDである。強皮症細胞におけるHa-Rasのレベルおよび活性の増加。B. 左のパネル。示されたデータは、3種の正常(N)線維芽細胞系および3種のSSc線維芽細胞系を用いて得た。免疫ブロットを、細胞溶解物についてHa-RasおよびKi-Rasに対する特異的抗体を用いて実施し、モノクロナール抗pan-Ras抗体を用いて免疫沈降させた。ヒストグラムは、同じ試料についての独立した3実験に由来するHa/Kiの比率を示す。非免疫血清を対照として使用した(*)。右のパネル。0.2%FCS中で48時間インキュベートした正常線維芽細胞および強皮症線維芽細胞の蛍光顕微鏡検査。細胞を、抗Ha-Ras抗体および抗Ki-Ras抗体を用いた間接的免疫蛍光法によって染色した。3実験の1実験による典型的結果を示す。倍率40倍。C. パネルの上方部分は、抗pan-Ras抗体をプローブとして用いて実施した、全溶解物ならびに正常線維芽細胞(N)およびSSc線維芽細胞由来のRasタンパク質と結合したGST-RBDの免疫ブロットを示す。3実験の典型である1実験を示す。SSc線維芽細胞を、ネガティブHa-Ras変異株であるRasN17を用いてさらにトランスフェクションした。パネルの下方部分は、独立した3実験におけるバンドの濃度測定分析(平均値±1SD)を示す。細胞の画分のみが外因性トランスドミナントネガティブRasを発現したため、Rasの阻害は完了しなかった。D. 正常線維芽細胞および強皮症線維芽細胞から抽出した、全タンパク質(50μg)の免疫ブロット解析。3種の正常(N)線維芽細胞および3種の強皮症(SSc)線維芽細胞の細胞系を、収集の前に血清の不在下(0.2%FCSで48時間)および血清の存在下(0.2%FCS中で48時間後10%FCSで15分間)で培養した。ERK1/2のリン酸化形態、AKTおよびJNKを、リン酸化特異的抗体を用いた免疫ブロットにより検出した。3実験のうちの1実験による典型的結果を示す。
【図8】強皮症線維芽細胞の老化促進を示す図である。A. 強皮症線維芽細胞におけるDNA損傷チェックポイントの活性化。リン酸化ヒストンH2AXまたはp21WAFを認識する特異的抗体を用いた免疫ブロット。3実験のうちの1実験による典型的結果を示す。ERK1/2に対するポリクロナール抗体を使用して、取り込んだタンパク質量を標準化した。B. 強皮症線維芽細胞における染色体損傷。強皮症病巣に由来する初代培養線維芽細胞の3系の核型分析。これらの系を、2継代培養し、FTI-277(10μg/ml)を用いて48時間処理した。3種の正常初代培養線維芽細胞を含む各系に関して少なくとも50の分裂中期をスコア付けした。正常系の分裂中期変化の頻度は、FTI(48時間、10μg/ml)の存在下または不在下でおよそ4%±2であった(データ未掲載)。見出された異常は、初代培養継代に存在したので、インビトロで成長した細胞に由来する人為的結果ではなかった。いくつかの変化はより頻度が高く、培養中の初代継代から分析時までに経過した時間に依存する。右のパネルは、SSc細胞中に見出された典型的な染色体変化を示す。C. 強皮症細胞における酸化ストレス誘導性アポトーシス。正常(N)線維芽細胞およびSSc線維芽細胞を、MEK阻害剤であるPD98059(40μM)の存在下または不在下でH2O2の濃度を上昇させて、2時間刺激した。アポトーシスをその後アネキシンV-C染色細胞のFACS分析によって検出した。図表はアネキシンV陽性細胞のパーセントを表す。示したデータは、独立した3実験の平均値±1SDである。D. 強皮症細胞におけるROS誘導遺伝子の活性化。SSc細胞中のROSによるコラーゲンプロモーターの活性化。N細胞またはSSc細胞に、空ベクター(pGL3)を、またはヒトカタラーゼ遺伝子(pCat、10)を発現するベクターを有する、または有さないルシフェラーゼ遺伝子(Col1A2)の発現を促進するα2(I)コラーゲンプロモーターをトランスフェクションした。レニラルシフェラーゼ値とホタルルシフェラーゼ値との比率を使用し、同時に行ったトランスフェクション実験を標準化した。データは、平均値±1SD(n=3)として表した。E. PD98059(40μM、24時間)、FTI-277(20μM、24時間)と共にSSc線維芽細胞とをインキュベートした後の、またはヒトカタラーゼ遺伝子を担持した発現ベクターをSSc線維芽細胞にトランスフェクションした後のα1(I)およびα2(I)コラーゲンmRNA。正常細胞中のコラーゲンmRNAは、H2O2で刺激される(24時間)。3実験のうちの1実験による典型的結果を示す。
【図9】RasとROSとをリンクする回路を示す図である。PDGFによって開始され、NADPHオキシダーゼによってROSの産生が誘発される回路を例示する回路図。ROSは、Ha-Rasを誘導するERK1/2を活性化する。一度誘発されると、回路はPDGFシグナル伝達から独立する。このループは強皮症細胞において増幅する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PDGF受容体に対する自己抗体が身体試料中に存在することを検出するための、インビトロの方法であって、
a)身体試料を、結合および複合体の形成が可能な条件下で、このような自己抗体に対する特異的リガンドの有効量と共にインキュベートする段階と、
b)結合した自己抗体または複合体を存在する場合に検出する段階と
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記特異的リガンドが、PDGF受容体または免疫活性フラグメントあるいはこれらの誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫活性フラグメントがPDGRAおよび/またはPDGFRBの細胞外領域に属する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
PDGRAおよび/またはPDGFRBの細胞外領域に属する前記免疫活性フラグメントが、ヒトPDGFRA NP008197、(SWProt P16234、配列番号7)および/またはPDGFRB NPOO26000(SWProt P09619、配列番号8)のアミノ酸配列のNH末端の最初の550アミノ酸中に含まれる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
自己免疫疾患の診断および予後のための、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記自己免疫疾患が全身性硬化症である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
レイノー現象と全身性硬化症とを識別するための、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
移植片対宿主反応(GVHR)の診断のための、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
a)PDGF受容体に対する自己抗体のための特異的リガンドと、
b)結合した自己抗体またはリガンド-自己抗体複合体の検出手段と
を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法のための診断キット。
【請求項10】
前記特異的リガンドが、PDGF受容体または免疫活性フラグメントあるいはこれらの誘導体である、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記免疫活性フラグメントが、PDGRAおよび/またはPDGFRBの細胞外領域に属する、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
PDGRAおよび/またはPDGFRBの細胞外領域に属する前記免疫活性フラグメントが、ヒトPDGFRA NP008197、(SWProt P16234、配列番号7)および/またはPDGFRB NPOO26000(SWProt P09619、配列番号8)のアミノ酸配列のNH末端の最初の550アミノ酸中に含まれる、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
自己免疫疾患用薬剤または移植片対宿主反応(GVHR)を治療するための薬剤を調製するための、ROSおよび/またはRas-ERK1/2の阻害剤の使用。
【請求項14】
前記自己免疫疾患が、全身性硬化症である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
ROSおよび/またはRas-ERK1/2の前記阻害剤が、PDGFRに対する抗体のための特異的リガンドである、請求項13または14に記載の使用。
【請求項16】
前記特異的リガンドが、PDGF受容体または免疫活性フラグメントあるいはこれらの誘導体である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記免疫活性フラグメントが、PDGRAおよび/またはPDGFRBの細胞外領域に属する、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
PDGRAおよび/またはPDGFRBの細胞外領域に属する前記免疫活性フラグメントが、ヒトPDGFRA NP008197、(SWProt P16234、配列番号7)および/またはPDGFRB NPOO26000(SWProt P09619、配列番号8)のアミノ酸配列のNH末端の最初の550アミノ酸中に含まれる、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
有効量のROSおよび/またはRas-ERK1/2の阻害剤、ならびに適切な希釈剤および/または賦形剤および/または補助剤を含む医薬組成物。
【請求項20】
ROSおよび/またはRas-ERK1/2の前記阻害剤が、PDGFRに対する抗体のための特異的リガンドである、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記特異的リガンドが、PDGF受容体または免疫活性フラグメントあるいはこれらの誘導体である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記免疫活性フラグメントが、PDGRAおよび/またはPDGFRBの細胞外領域に属する、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項23】
PDGRAおよび/またはPDGFRBの細胞外領域に属する前記免疫活性フラグメントが、ヒトPDGFRA NP008197、(SWProt P16234、配列番号7)および/またはPDGFRB NPOO26000(SWProt P09619、配列番号8)のアミノ酸配列のNH末端の最初の550アミノ酸中に含まれる、請求項21に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−503493(P2009−503493A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523550(P2008−523550)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【国際出願番号】PCT/IT2006/000587
【国際公開番号】WO2007/013124
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(508028472)
【出願人】(508028483)
【出願人】(508028494)
【出願人】(508028508)
【出願人】(508028519)
【出願人】(508028520)
【Fターム(参考)】