説明

癌に対するバイオマーカーとしての遊離NGAL

非複合好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)は、将来の乳癌発症の主要な危険性因子である異形乳管過形成(ADH)3を有する個体、卵巣癌を有する個体、ならびに侵襲的および非侵襲的な乳癌を有する個体において、増大したレベルで存在する。したがって、本発明は、例えば乳癌および卵巣癌を含む上皮由来の癌などの癌発症の危険性があるか、または癌が発症しているかを決定する一次検査として尿中の非複合NGALレベルを測定することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は35U.S.C119(e)の下に、同時継続出願のアメリカ仮出願番号60/774823、出願日2006年2月17日に対して優先権の利益を主張し、その全ての内容はあらゆる形で本願に参考文献の形で組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、患者から得た尿サンプル中の遊離NGALレベルを測定することで、癌、例えば乳および卵巣癌を含む上皮由来の癌、の診断および予後診断の非侵襲的な方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
癌の生存における最も重要な要因の一つは早期段階での検出である。発生初期の癌を検出する臨床的検定は、癌の発育に介入し、阻止する機会を提案する。遺伝子プロファイリングおよびプロテオミクスの発達と共に、特定の癌の診断および予後診断に用いることができる分子マーカーまたは「バイオマーカー」の同定において顕著な発達が起こってきた。例えば、前立腺癌の場合においては、PSA(前立腺特異抗原)が血液中で検出することができ、それが前立腺癌の存在の指標となる。したがって、前立腺癌の危険性のある人間の血液を、素早く、簡便に、および安全にPSAレベルの上昇によって検査することができる。
【0004】
癌の検出分野における発展にもかかわらず、当業界では臨床的用途、特に非侵襲的な方法による癌の検査、に簡便に用いられる、多様な癌に対する新たなバイオマーカーの同定に対する必要性が依然としてある。尿検査は恐らく最も患者に優しい選択肢(例えば瀉血を必要としない)を与え、ヘルスケア提供者に広く利用されているが、今までこのやり方で癌を診断することができる選択肢はほとんどなかったように見える。
【0005】
多型上皮性ムチン(MUC1)は卵巣癌において過剰発現している膜貫通型タンパク質で、MUC1タンパク質を発現している腫瘍はしばしば血液循環に割って入り、腫瘍マーカーCA15−3として検出可能である。例えば、Bon et al. Clin. Chem 43:585(1997)参照。しかしながら、多くの患者はMUC1を発現していない腫瘍を有している。血清CA125レベルもまた卵巣癌と関連があると報告されている(Skakes, Cancer 76:2004(1995))が、それらのレベルの査定は疾患の絶対的な指標ではない。臨床的に明らかに卵巣癌である女性のおおよそ85%がCA125レベルを増大させているが、CA125はまた妊娠の第一期を通して、月経を通して、非癌疾患、および他の部位における癌の存在によっても増大する。
【0006】
好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL、リポカリン‐2)遺伝子の発現が、卵巣、結腸、肺、および子宮癌腫瘍組織において上方調節されていることが、遺伝子発現分析を用いて同定された(例えばWO02/102235、WO02/071928およびUS2004/0005563参照)
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
バイオマーカーの同定は特に癌、例えば乳および卵巣癌を含む上皮由来の癌、の診断、予後診断、および治療の改善に関係し、それゆえ当業界において素早く、簡便に、安全に検出可能なバイオマーカーに対する必要性がある。本明細書に記載された発明はバイオマーカー、尿中の遊離好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)を、癌のある対象の診断、病期分類、進行モニタリングまたは治療、特に疾患の侵襲性、潜在的転移性段階に利用可能にする。本分野における従前の仕事はこのことを信頼性のある、非侵襲的な癌、例えば乳癌または卵巣癌を含む上皮由来の癌、の検出方法として示しまたは提案していなかった。
【0008】
本明細書に記載されているように、複合していないまたは「遊離(free)」のNGALが異形乳管過形成(ADH)、将来的な乳癌への発症に対する主要なリスク要因、を有する個体、卵巣癌を有する個体、および侵襲性および非侵襲性双方の乳癌を有する個体の尿中において増大したレベルで存在することが見出された。従って、本発明は個体が癌を発症する危険性があるか、または発症した癌、例えば卵巣、前立腺、または乳癌などの上皮由来の癌、および基底細胞癌、腎細胞癌、腺癌、胃腸癌、口唇、口腔、食道、小腸、胃、結腸、肝臓、膀胱、膵臓、子宮頸部、肺、皮膚、および腎臓癌、を有しているかを決定するために非複合尿中NGALを一次検査として測定することを包含する。治療上の有効性のためのマーカーとしての尿中NGALレベルのモニタリング方法もまた開示している。
【0009】
実施例において、本発明は個体が癌を発症する危険性があるか、または発症した癌を有しているかを決定する方法を含む。個体から得た検査尿サンプル中の遊離NGALレベルが測定され、このレベルがコントロールの遊離NGALレベルと比較される。コントロールの遊離NGALレベルよりも高い検査サンプル中の遊離NGALレベルは個体が癌を発症する増大した危険性があるか、または癌を有しているかを示す。別の実施例においては、個体は癌治療後の患者であり、テストサンプル中の遊離NGALレベルがコントロールの遊離NGALレベルよりも高かった場合、癌治療後の患者は癌の再発治療に差し向けられる。他の実施例において、がんは、例えば乳癌、基底細胞癌、腺癌、胃腸癌、口唇癌、口腔癌、食道癌、小腸癌、胃癌、結腸癌、肝臓癌、膀胱癌、膵臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、皮膚癌、腎臓癌、前立腺癌、または腎細胞癌などの上皮由来のがんである。他の実施例において、検出された遊離NGALは単量体NGALである。他の実施例において、選択的に遊離NGALと結合して抗体−NGAL複合体を形成する抗体ベースの結合部分(例えばモノクローナル抗体)が用いられ、遊離NGALの存在レベルを測定するために抗体−NGAL複合体の存在が検出される。抗体ベースの結合部分は放射性標識、ハプテン標識、蛍光標識または酵素標識などの検出可能な標識で標識されてよい。
【0010】
他の実施例において、本発明は癌の病期分類法を含む。個体から得た検査尿サンプル中の遊離NGALレベルが測定され、このレベルはコントロールの遊離NGALレベルと比較される。検査サンプル中の遊離NGAL、例えば単量体NGAL、のレベルがコントロールの遊離NGALレベルより高いことは、個体が悪性または転移性の癌発症の増大した危険性がある、もしくはそれを有しているかのどちらかであることを示している。コントロールの遊離NGALレベルは健康な個体と関連づけられてよい。
【0011】
対象の治療の方向付け方法もまた含まれる。実施例において、対象は対象から得た尿サンプル中の遊離NGALレベルを検査され、臨床医が結果を点検し、尿がコントロールの遊離NGALレベルよりも高レベルの遊離NGALを有していた場合は、臨床医は対象を癌のさらなる検査へと導く。検査は対象が居住する国と同一の国、または別の国で行われてもよく、結果は例えばウェブサイトを通して利用可能化され、または臨床医に送られてもよい。
【0012】
癌または癌の危険性をモニタリングする方法もまた開示されている。初期の遊離NGALレベルを得るために、個体から得た最初の尿サンプル中の遊離NGALレベルが測定され、その検査尿サンプル中の遊離NGALのレベルは2番目の遊離NGALレベルを得るために個体から得られた2番目の尿サンプル中の遊離NGALレベルと比較される。その後選択された間隔で尿収集および比較、つまりデータ点のセットの収集、がなされ、そのデータ点は測定された検査サンプル中の遊離NGALレベルが測定されたコントロールサンプル中の遊離NGALレベルに対して上昇傾向にあるか否かを決定するために点検され、上昇傾向は癌が個体中でさらに発症または転移していることを示している。つまり、2番目のレベルが最初のレベルより大きければ、個体は癌を有しているまたは発症する大きな危険性がある、もしくは転移している癌を有しているまたは発症する大きな危険性があると考えられてよい。他の実施例において、個体は癌治療後の患者であり、2番目のレベルが最初のレベルよりも大きかった場合、癌治療後の患者は癌の再発治療に差し向けられる。
【0013】
尿サンプル中の遊離NGALを検出するキットもまた開示されている。このキットは尿サンプルを保持する容器、および遊離NGALと選択的に結合する少なくとも1つの抗体、および使用説明書を含む。キットは代替的に遊離NGALと選択的に結合する少なくとも二つの抗体、一つの抗体は固相に固定されもう一つの抗体は検出可能に標識されている、を含んでよい。
【0014】
NGALは尿中で遊離NGAL、つまりマトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP−9)と結合していない、としておよび複合体NGAL、つまりNGAL/MMP−9複合体、として見出される。本明細書に記載された方法においては、遊離NGALが測定される。
【0015】
一つの実施例において、個体が癌を発症する、または発症した癌、例えば乳および卵巣癌を含む上皮由来のもの、の危険性があるか否かを決定する方法を提供する。方法には検査サンプルの尿中に存在する遊離および複合NGALのレベルの測定、および検査サンプルから得られたレベルとコントロールサンプルとの比較を含み、検査サンプルの尿中のNGALレベルが高いことは個体が癌を発症する、または既に癌を発症したという増大した危険性があることを示唆している。陽性の結果(高いレベル)はしたがって個体はさらなる癌の検査およびそれに応じたモニタリングを受けるべきであることを示す。好ましくは、遊離NGALのレベルが1.5倍、さらに好ましくは2倍またはそれ以上、コントロールのそれよりも高い。この増大レベルもコントロールレベルに対して検出される。
【0016】
本発明は発展的に危険性査定または癌、例えば乳および卵巣癌を含む上皮由来の癌、の早期検出に利用される。例えば、対象は年1回の身体検査を通して医師に検査される。遊離NGALのレベルがコントロールのそれよりも高いという陽性の検査結果はその個体が癌前駆病巣または癌を有しているか否かを決定するさらなる診断的評価を正当化する。
【0017】
上述したように、本発明はまた同一患者から得た複数の検査サンプル中に存在する尿中遊離NGALのレベルを査定することにも使用され、長期にわたる遊離NGAL量の進歩的な増加は癌の増加する攻撃性(例えば転移潜在能力)を示唆している。このように、NGALレベルは病気の状態および病期の予測材料としての役目を果たす。
【0018】
実施例において、NGALレベルは、例えば乳および卵巣癌を含む上皮由来の癌などの癌患者を治療するためにデザインされた治療体制の治療上の有効性をモニタリングするために、1または2以上のインターバルで査定される。
【0019】
本発明の一側面において、検査尿サンプル中に存在するNGALレベルは、特に(遊離)NGALタンパク質またはそれらの一部分と選択的に結合する抗体ベースの結合部分のある検査サンプル、またはそれらを調整したもの、と接触することで測定される。「選択的に」とは、抗体が(例えばMMP−9と)複合しているかもしれないNGALよりも遊離NGALと結合することを意味する。実施例において、遊離NGALは単量体NGALである。抗体ベースの結合部分は検出可能なNGALと複合体を形成し、それによってNGALのレベルが測定される。遊離NGALと複合したNGALを区別するために、遊離NGALと選択的に反応する抗体ベースの結合部分が、例えばELISAなどで利用可能である。そのような抗体結合部分はMMP−9/NGAL結合領域の中のエピトープに対して産生されてよい。
【0020】
抗体ベースの免疫測定法はNGALタンパク質レベルの測定方法としては好ましい手法である。しかしながら当業者に知られたあらゆる手法がNGALレベルの査定に利用可能である。例えばいくつかの実施例において、NGALの発現レベルがSELDI質量分析法を含む質量分析法で検定される。
【0021】
発明の詳細な説明
定義
「遊離NGAL」は「非複合NGAL」という用語と互換的に使用され、例えばMMP−9などのマトリクスメタロプロテイナーゼと複合していないNGALのことを言う。
【0022】
「上皮由来の癌」は、これに限定するものではないが、乳癌、基底細胞癌、腺がん、胃腸癌、口唇癌、口腔癌、食道癌、小腸癌および胃癌、結腸癌、肝臓癌、膀胱癌、膵臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、扁平上皮細胞および基底細胞癌などの乳癌および皮膚癌、前立腺癌、腎細胞癌、ならびに上皮細胞に作用する体中の他の知られた癌を含む上皮細胞から発生した癌を含む。上皮由来の癌は、例えば腎臓、乳、子宮内膜、卵巣または前立腺癌などのホルモン依存の癌であってよい。
【0023】
「コントロールサンプル」は、「正常」または「健康な」癌を有していないと信じられる個体から得た尿サンプルを含む。コントロールは当業者によく知られた方法を用いて選択されてよい。一旦レベルがコントロール集団としてよく確立されれば、検査尿サンプルからの多数の結果は周知のレベルと直接比較可能である。好ましくは、コントロールサンプルは年齢および性別が一致するコントロール尿サンプルである。
【0024】
「コントロールレベル」は検体の検査レベルの比較対象となる検体のレベルである。コントロールレベルは、経験的に決定された興味のある疾患(例えば癌など)を有さないまたは特定の病期の興味のある疾患(良性または早期癌対悪性または後期癌)を有すると信じられる個体集団からの検体レベルの平均値または中間値でありえ、活性サンプル(例えば陽性コントロール)中の周知な検体レベルでありえ、または特定の個体(例えば2または3以上の時点で個体をモニタリングしている場合)の以前検出した検体レベルでありえる。検体は、例えば、遊離NGALである。
【0025】
「検査サンプル」は検査される対象から得た尿サンプルを含む。
【0026】
「攻撃的」または「侵襲的」は境界を越えて付近の組織内に拡大しようとする腫瘍の傾向を含む(Darnell, J. (1990), Molecular Cell Biology第3版, W.H. Freeman, NY)。侵襲的な癌は、腫瘍が特定の器官に限定される器官限定的な癌と対照をなす。腫瘍の侵襲的な特性はしばしばコラーゲナーゼなどのタンパク質分解酵素の合成と同時に発生し、カプセルの境界を超え、および腫瘍が存在する特定組織の境界を越えて腫瘍が拡大できるように基質物質および基底膜物質を減少させる。
【0027】
「転移」は起源器官から患者の付加的な末梢部分へと癌が拡がっていく状態を含む。腫瘍転移の過程は細胞間基質の局地的な侵襲および破壊、血管、リンパ管または他の輸送経路への侵入、循環の中での生存、管から二番目の場所への遊出、新たな場所での成長を伴う多段階現象である(例えば、Fidler, et al., Adv. Cancer Res. 28, 149〜250 (1978)、 Liotta, et al., Cancer Treatment Res. 40, 223〜238 (1988)、 Nicolson, Biochim. Biophy. Acta 948, 175〜224 (1988)、およびZetter, N. Eng. J. Med. 322, 605〜612 (1990)参照)。悪性細胞の運動性の増加は、動物と同様ヒトの腫瘍における強化された転移潜在性と関係がある(Hosaka, et al., Gann 69, 273〜276 (1978)およびHaemmerlin, et al., Int. J. Cancer 27, 603〜610 (1981))。
【0028】
「主腫瘍」は対象内の最初の場所に現れた腫瘍を含み、対象の体内の主腫瘍から離れた部分に現れた「転移腫瘍」と区別できる。
【0029】
「NGAL」はGenebank accession, Genpept, CAA58127(Homo sapiens)のNGALタンパク質を含む(配列番号1)(図6)。NGALはまた好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリンおよびリポカリン−2のことを言う。「NGAL」はまた、種変異体、ホモログ、対立形質、突然変異体、およびそれらと同等のものを包含する。
【0030】
「高レベル」という用語は、コントロールサンプルと検査サンプルの比較または本明細書で開示されている方法におけるコントロールレベルおよびテストサンプルレベルについての文脈で使用されているときは、コントロールサンプル中に見出されたレベルよりも統計的に顕著なまたは顕著に上のレベル、例えば1.3倍高いまたは1.5倍高いなど、を含む。好ましくは、「高レベル」は少なくとも2倍またはそれ以上高い。
【0031】
「統計的に顕著な」または「顕著に」は統計的有意性を含み、一般的にはマーカー濃度が通常より2標準偏差(2SD)またはそれ以上高いことを意味する。
【0032】
「LCIS」は非浸潤性小葉癌である。LCISはまた小葉腫瘍とも呼ばれ、時に非侵襲的な乳癌のタイプに分類される。これは小葉の壁を通り抜けない。これは通常これ自身が侵襲的な癌になることはないが、この状況にある女性は侵襲的な乳癌を同じまたは反対の胸に発症する高い危険性を有する。
【0033】
「DCIS」は非浸潤性乳管癌である。非浸潤性乳管癌は最もありふれた非侵襲的乳癌のタイプである。DCISにおいて、悪性の細胞は乳管の壁を通って胸の脂肪組織へと転移しない。面皰癌は他のタイプのDCISよりも乳腺腫瘍摘出術のあとに同じ場所により戻って来やすいタイプのDCISであり、他の形態のDCISよりも侵襲的乳管癌の結果的な発症により密接に関連している。
【0034】
癌の「増大した危険性」は一般集団のそれよりも増大した癌の危険性を含む。癌の増大した危険性を有するといわれたヒトは癌の発症および継続的な癌危険性マーカーの存在をモニタリングする必要がある。
【0035】
本開示においてさらなる詳細を記述していくと、MDA−MB−231などの高転移性乳癌派生のセルラインは、T−47DおよびMCF−7などの良性、器官が明確な乳癌派生のセルラインよりも多量のNGALを発現および分泌している。さらに、NGAL(−)乳癌セルライン(MCF−7)におけるNGALの過剰発現は間葉様の表現型を誘発し、細胞移動および侵襲を増大させ、上皮間葉移行(EMT)マーカーの転写および発現を制御し、転移性疾患におけるNGALの役割を示唆している。
【0036】
本発明者らは尿中遊離NGALが癌、例えば乳および卵巣癌を含む上皮由来の癌、の存在および/または進行を検出するバイオマーカーとして利用可能であること、ならびに非侵襲的検定および検査が癌の診断および治療の本質的部分として利用可能であることを発見した。癌診断に関係する患者にとって、検査の非侵襲的な本質は過程と同時に発生する何かの不安を改善する。医師および介護人にとって、本明細書に記載のやり方で尿検査をすることは迅速で信頼性があり、本発明の方法は、例えば癌の診断または治療の行程(癌の診断後または治療後の患者に採用される治療上の指標)の一部として癌がより攻撃的または転移的になるかを決定することなどを得るためにELISAなどの標準的な方法論を活用する。他の癌は腹膜腫瘍、子宮内膜癌、子宮頸癌、結腸直腸癌、子宮癌、甲状腺癌、肺癌、腎臓癌および膵臓癌を含む。例えば癌の再発、拡散、または患者の生存の見込みの決定は、より保守的またはより急進的な治療法をとるべきか、または治療モダリティが組み合わされるべきか否かを決定することを支援することができる。例えば癌の再発が起こりそうな場合、外科的治療に先んじてまたは続いて化学療法、放射線療法、免疫療法、生物学的修飾療法、遺伝療法、ワクチンなどをすること、または患者が治療を受ける期間を調整することは有利となりうる。本発明が可能にするそのような見識による簡便性とスピードは明らかに有利な点である。
【0037】
ここに開示されている手法は個体が癌、例えば乳および卵巣癌を含む上皮由来の癌、を有しているか否か、または癌発症の増大した危険性があるかを決定するために利用されてもよい。本手法は個体から得た検査サンプル中の遊離NGALのレベルを測定すること、および遊離NGALの観察されたレベルとコントロールレベル、例えばコントロールサンプル中に見出されたもの、または上で定義されたコントロールレベル、を比較することを含む。NGALレベルがコントロールレベルよりも高いことは個体が癌発症の増大した危険性があるか、または癌を有していることを示す。NGALのレベルは、例えば密度計、照度計、またはELISAプレートリーダーから得られた単位など、任意の単位で表すことができる。
【0038】
比較の目的のために、検査サンプルおよびコントロールサンプルは同じタイプである、つまり尿から得られたものである。しかしながら、コントロールサンプルは健康な個体から得られた尿サンプル中に通常見出されるNGALと同濃度で含む標準サンプルでありうる。
【0039】
尿サンプルは、好ましくはNGALタンパク質の分解を抑制するように処理されたものである。分解を阻害するまたは抑制する手法は、これに限定するものではないが、サンプルのプロテアーゼ阻害剤による処理、サンプルの凍結、またはサンプルの氷上への設置を含む。好ましくは、分析に先だって、サンプルは絶え間なくNGALタンパク質の分解の抑制環境下におかれる。
【0040】
本発明の一側面において、補助的な診断のステップが行える。例えばNGALのレベルが癌の危険性または存在を示すように見出された場合、癌の危険性または癌の存在を検出する付加的な手法が、確認のために行える。例えば、癌の危険性を査定するために、個体は、胸の異形は生検、乳輪周囲の非選択的穿刺吸引法または乳管洗浄法で診断されうるなどの当業者に周知の方法で、異形乳管過形成(ADH)または非浸潤性小葉癌(LCIS)のための検査をされうる。BRCA1、またはBRCA2または他の知られた癌の遺伝子マーカーなどの、危険性の遺伝子マーカーもまた査定されうる。
【0041】
超音波、マンモグラフィ、PETスキャニング、MRI、熱画像法、または他の画像技術、生検、乳管洗浄法、乳管造影(ductogram)、臨床検査、または当業者に知られた他のあらゆる方法などのどんな多様な付加的診断のステップも癌の存在を確認するために利用可能である。
【0042】
癌の増大した危険性を有する患者は、好ましくはパップスメアおよび他の危険性マーカーによる査定を伴うマンモグラフィなどの癌検出体制に置かれている。患者はまた血管形成阻害剤または選択的ホルモン受容体調節物質の投与などの予防体制に置かれていてもよく、予防体制は当業者によく知られている。癌を有する患者は当業者によく知られた癌治療へと導かれる。
【0043】
加えて、疾患の進行は個々の患者内の、遊離NGALレベルなどの後のNGALレベルによって査定可能である。例えば、個体の状態の変化は時とともにNGAL発現レベルの変化、例えば患者における関係する状態の長期的な調査を実行するための標準的な手法を通して比較することでモニタリング可能である。NGALレベルの進行的な増大は時間とともに観察している個体に対する理由次第で癌、腫瘍侵襲および転移および/または後期の癌、を有している増大した潜在性を示唆している。代替的に、治療計画の治療上の効果は固体中のNGALレベルを時間とともにモニタリングすることによってモニタリング可能である。例えば時間とともにNGALレベルが減少すれば治療計画の効果を示唆できる。長期にわたるモニタリングは2または3以上の時点で起こりうる。
【0044】
前段落で概説した方法はまた有利に、例えば再発した癌などの癌治療を受けた長期にわたるモニタリングの患者に使われてもよい。尿中NGAL、例えば遊離NGAL、は本開示内において有効な癌バイオマーカーであることが見出され、治療後患者の尿中NGALの増大したレベルは、例えばさらなる診断、または適切な場合さらなる治療などそれに応じて決定されうる。治療後患者において尿中NGALのコントロールレベルが、例えば1もしくは数回測定した尿中NGAL値を利用して確立され、どちらも分析的に適切である。治療後患者の状態の変化を、必要ならば個体における発現レベルの変化を比較することでモニタリングすることができる。状態次第で患者にとって適切ならば、患者の母集団または特定の癌、尿中NGALレベルの漸進的または段階的増大か、あるいは急速な上昇か、は再発を示唆しうる。癌再発の決定はより保守的なまたはより急進的な治療法をとるべきか、あるいは治療モダリティを組み合わせるべきかを決定することを支援可能である。癌の再発が起こりそうな場合、外科的治療に先んじてまたは続いて化学療法、放射線療法、免疫療法、生物学的修飾療法、遺伝療法、ワクチンなどをすること、または患者が治療を受ける期間を調整することは有利となりうる。
【0045】
代替的に、癌の再発を検査された個体の尿中遊離NGALレベルは経験的に決定されたコントロールレベルと比較することができる。個体からの検査レベルがコントロールレベルよりも大きいことは再発を示唆し、上述したように、さらなる治療またはモニタリングを続けることができる。
【0046】
遊離尿中NGALレベルの測定
遊離尿中NGALレベルは好ましくは遊離NGALレベルを検出するための抗体、またはそれと同等のものの利用を通して測定されてよい。WO2004/088276で開示されているものなどの他の方法もまた適していて、NGALレベルはまた質量分析によってモニタリングされてもよい。
【0047】
一つの実施例において、NGALタンパク質のレベルは尿サンプルを遊離NGAL、または遊離NGALの断片と選択的に結合する抗体ベースの結合部分と接触させることによって測定される。抗体−NGAL複合体の形成がそこで遊離NGALレベルの指標として検出される。
【0048】
「抗体ベースの結合部分」または「抗体」は免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子、例えばNGALまたは本発明の付加的なバイオマーカーと選択的に結合する(免疫反応する)抗原結合領域を含む分子、の免疫学的に活性な決定基を含む。「抗体ベースの結合部分」は例えばそのいかなるアイソタイプ(IgG、IgA、IgM,IgE、など)、およびNGALタンパク質とまた特に反応性の高いその断片などの抗体全体を含む。抗体は慣習的な技術を利用して断片化できる。したがって、その用語はタンパク質分解的に開裂されたセグメント、または組み換え技術によって調整された、特定タンパク質と選択的に反応できる抗体分子の一部を含む。そのようなタンパク質分解性のおよび/または遺伝子組み換え的な断片の非制限的な例は、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、dAbsおよびペプチドリンカーによって結合されるVLおよびVHドメインを含む一本鎖抗体(scFv)を含む。scFvは共有的にまたは非共有的に連結して2または3以上の結合領域を有する抗体を形成してもよい。したがって、「抗体ベースの結合部分」はポリクローナル、モノクローナル、または他の抗体および組み換え抗体の精製調整を含む。「抗体ベースの結合部分」という用語はさらにヒト化抗体、二重特異性抗体、および抗体分子から派生の抗原結合決定基を少なくとも1つ有しているキメラ分子を含むことを意図する。好ましい実施例において、抗体ベースの結合部分は検出可能に標識されている。
【0049】
「標識された抗体」は検出可能な手段で標識された抗体および、酵素的に、放射能的に、蛍光的に、および化学発光的に標識された抗体を含む。抗体はまたc−Myc、HA、VSV−G、HSV、FLAG、V5、またはHISなどの検出可能なタグで標識されていてもよい。
【0050】
NGALの検出のために抗体ベースの結合部分を利用した本発明の診断および予後診断方法において、尿サンプル中に存在するNGALタンパク質のレベルは検出可能に標識された抗体から発せられるシグナル強度に相関する。
【0051】
一つの好ましい実施例において、抗体ベースの結合部分は抗体が酵素に連結されることによって検出可能に標識されている。酵素は、言い換えれば、その基質に曝露した場合に、例えば分光学的、蛍光学的または視覚的手法によって検出可能な化学部位を産生するというやり方で基質と反応する。本発明の抗体を検出可能に標識するのに利用できる酵素は、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌性ヌクレアーゼ、デルタ−V−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ−グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−VI−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼを含む。化学発光法は抗体ベースの結合部分を検出するのに利用可能な別の方法である。
【0052】
検出はまたあらゆる種類の他の免疫測定法を利用して達成されてもよい。例えば、抗体の放射能標識によって、抗体を放射線免疫測定法の利用を通して検出可能である。放射性同位体はガンマ線カウンターまたはシンチレーションカウンターまたはオートラジオグラフィなどの手法によって検出可能である。本発明の目的において特に有用な同位体は、H、131I、35S、14Cおよび好ましくは125Iである。
【0053】
抗体を蛍光物質で標識することもまた可能である。蛍光標識された抗体が特定波長の光に曝露された場合、その存在は蛍光のために検出できる。最も普通に利用されている蛍光標識物質はCYE染料、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタアルデヒドおよびフルオレスカミンである。
【0054】
抗体はまた152Euまたは他のランタノイド系などの蛍光放出金属を利用して標識することでも検出できる。これらの金属はジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの金属キレート群を利用して抗体に取り付け可能である。
【0055】
抗体はまた化学発光物質と連結標識して検出可能である。化学発光抗体の存在は化学反応の進行で生じる蛍光の存在を検出することで決定される。特に有用な化学発光標識化合物の例は、ルミノール、ルシフェリン、イソルミノール、テロマティックアクリジニウムエステル(theromatic acridinium ester)、イミダゾール、アクリジニウム塩、およびシュウ酸エステルである。
【0056】
上で論じたように、遊離NGALレベルは酵素結合免疫吸着法(ELISA)、放射線免疫測定法(RIA)、免疫放射定量測定法(IRMA)、ウェスタンブロッティング法、または免疫組織化学などの免疫測定法によって検出可能であり、それぞれの方法はより詳細を以下に記載する。抗体アレイまたはタンパク質チップもまた使用可能であり、例えばアメリカ特許公報Nos.20030013208A1、20020155493A1および20030017515,およびアメリカ特許Nos.6,329,209および6,365,418を参照。
【0057】
「放射線免疫測定法」は標識(例えば放射能標識)された形態の抗原を利用して抗原の濃度を検出および測定する技術である。抗原への放射能標識の例はH、14C、および125Iを含む。生体サンプル中の遊離NGAL抗原の濃度は、生体サンプル中の抗原を、標識(例えば放射能)された抗原と、抗原のための抗体との結合を競合させることで測定される。標識抗原と未標識抗原の競合的な結合を保障するため、標識抗原は抗体の結合領域を飽和させるのに十分な濃度中に存在している。サンプル中の抗原の濃度が高いほど、標識抗原が抗体に結合する濃度は低くなる。
【0058】
放射線免疫測定法において、抗体に結合した標識抗原の濃度を決定するため、抗原抗体複合体は遊離抗原から分離されなければならない。抗原抗体複合体を遊離抗原から分離する一つの方法は、抗原抗体複合体を抗アイソタイプ抗血清で沈殿させることである。抗原抗体複合体を遊離抗原から分離する他の方法は、抗原抗体複合体をホルマリン殺菌した黄色ブドウ球菌(S.aureus)によって沈殿させることである。さらに他の抗原抗体複合体を遊離抗原から分離する方法は、抗体をセファロースビーズ、ポリスチレンウェル、ポリ塩化ビニルウェル、またはマイクロタイターウェルに結合(例えば共有的に)させた「固相放射線免疫測定法」を行うことである。抗体に結合した標識抗原の濃度と知られた抗原濃度を有するサンプルに基づいた標準曲線との比較によって、生体サンプル中の抗原濃度が決定可能である。
【0059】
「免疫放射定量測定法(IRMA)」は抗体リガンドが放射線標識されている免疫測定法である。IRMAは例えばウサギ血清アルブミンなどのタンパク質との抱合などの技術によって、多価抗原抱合体の産生を必要とする。多価抗原抱合体は1分子あたり少なくとも2つの抗原残基を有しなければならず、抗原残基は少なくとも2つの抗体が抗原に結合できる程度に十分な距離が離れていなければならない。例えば、IRMAにおいて多価抗原抱合体はプラスチック球などの固体表面に取り付け可能である。未標識の「サンプル」抗原および放射能標識された抗原用の抗体は多価抗原抱合体でコートされた球を含む検査管に加えられる。サンプル中の抗原は多価抗原抱合体と抗原抗体結合領域を巡って競合する。適切なインキュベーション期間の後、未結合の反応物を洗浄して取り除き、固相上の放射能量が測定される。放射能抗体の結合量はサンプル中の抗原濃度に反比例している。
【0060】
最も普通の酵素免疫測定法は「酵素結合免疫吸着法(ELISA)」である。ELISAは標識(例えば酵素結合)した形態の抗体を利用して抗原の濃度を検出および測定する技術である。異なる形態のELISAがあり、当業者にはよく知られている。当業者に知られたELISAの標準的な技術は「Methods in Immunodiagnosis」第2版、Rose and Bigazzi, eds. John Wiley & Sons, 1980、Campbell et al., "Methods and Immunology", W. A. Benjamin, Inc., 1964、およびOellerich, M. 1984, J. Clin. Chem. Clin. Biochem. 22:895-904に記載されている。
【0061】
「サンドイッチELISA」において、抗体(例えば抗NGALまたは抗遊離NGAL)は固相(つまりマイクロタイタープレート)と連結していて、抗原(例えばNGALなど)を含む生物学的サンプルに曝露される。固相はそこで未結合の抗原を取り除くために洗浄される。標識された抗体(例えば酵素連結)がそこで結合抗原(存在した場合)に結合して抗体−抗原−抗体サンドイッチを形成する、抗体に連結できる酵素の例は、アルカリホスファターゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、ウレアーゼ、およびβ−ガラクトシダ−ゼである。酵素結合抗体は基質と反応し、測定可能な有色反応生成物を発生する。
【0062】
「競合ELISA」において、抗体(例えば抗NGALまたは抗遊離NGAL)は抗原(つまりNGAL)を含むサンプルとともにインキュベートされる。抗原−抗体混合物はそこで抗原(つまりNGAL)でコートされた固相(例えばマイクロタイタープレート)と接触される。サンプル中に抗原が多く存在すればするほど、固相と結合できる遊離抗体が少なくなる。標識(例えば酵素連結)された二次抗体がそこで固相に結合した主抗体の量を決定するために固相に加えられる。
【0063】
「免疫組織化学検定」において、組織切片は特定のタンパク質を、組織を検定されるタンパク質に特異的な抗体に曝露することによって検査される。抗体はそこであらゆる存在タンパク質の存在および量を決定するいくつもの方法によって視覚化される。抗体の視覚化に利用される方法の例は、例えば、抗体に連結した酵素(例えばルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ、またはβ−ガラクトシダーゼ)を通して、または化学的方法(例えばDAB/基質色素源)によってである。
【0064】
他の技術もまた、実行者の選択によって本発明のバイオマーカーの検出に利用してよく、本開示に準拠してよい。一つのそのような技術はウェスタンブロッティング法(Towbin et al., Proc. Nat. Acad. Sci. 76:4350 (1979))であり、適宜処理したサンプルを、ニトロセルロースフィルターなどの固体支持体に転写する前に、SDS−PAGEゲルに泳動する。NGALに選択的に結合する検出可能に標識された抗体(例えば抗NGALまたは抗遊離NGAL)はそこで存在NGAL量に相関する検出可能な標識からのシグナル強度によってNGALレベルを査定するために利用可能である。レベルは、例えば濃度測定によって定量可能である。
【0065】
質量分析法
加えて、NGAL(例えば遊離NGAL)はMALDI/TOF(飛行時間)、SELDI/TOF、液体クロマトグラフィ−質量分析法(LC−MS)、ガスクロマトグラフィ−質量分析法(GC−MS)、高速液体クロマトグラフィ−質量分析法(HPLC−MS)、キャピラリー電気泳動−質量分析法、核磁気共鳴スペクトル法、またはタンデム質量分析法(例えばMS/MS、MS/MS/MS、ESI−MS/MSなど)などの質量分析法を利用して検出してもよい。例えばアメリカ特許公表番号2003019901、20030134304、および20030077616参照。
【0066】
質量分析法は当業者に周知であり、タンパク質の定量および/または同定に利用されている(例えばLi et al. (2000) Tibtech 18: 151-160、Rowly et al. (2000) Methods 20: 383-397、Kuster and Mann (1998) Curr. Opin. Structural Biol. 8: 393-400参照)さらに、質量分析技術は、単離タンパク質の少なくとも部分的な新規シークエンシングを可能にするまでに発展してきている。Chait et al., Science 262:89-92 (1993)、Keough et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 96:7131-6 (1999)、Bergman, EXS 88:133-44 (2000)のレビュー。
【0067】
ある実施例において、気相イオン分光光度計が用いられる。他の実施例において、レーザー脱離/イオン化質量分析法がサンプル分析に用いられる。最新のレーザー脱離/イオン化質量分析法(「LDI−MS」)は2つの主なバリエーション、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析法および表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)、で実践可能である。MALDIにおいて、検体はマトリクスを含む溶液に混合され、液体のしずくが下地表面に置かれる。マトリクス溶液はそこで生体分子と共結晶化される。下地は質量分析器に入れられる。レーザーエネルギーが、生体分子を顕著に断片化せずに脱着およびイオン化する下地表面に導かれる。しかしながら、MALDIは分析機器に制限がある。サンプルを断片化する手法を提供しないし、マトリクス材料が、特に低分子量検体において、検出を妨げる可能性がある。例えばアメリカ特許番号5,118,937および5,045,694参照。
【0068】
SELDIにおいて、下地表面は脱離過程に活性的に参与するように修飾されている。一つの変化型において、表面は興味のあるタンパク質に選択的に結合する吸収および/または捕獲リガンドに誘導体化されている。他の変化型において、表面はレーザーに打たれたときに脱離しないようなエネルギー吸収分子に誘導体化されている。他の変化型において、表面は興味のあるタンパク質に結合し、レーザーの使用によって壊れるような光分解性結合を含む分子に誘導体化されている。それぞれの方法において、一般的な誘導体化剤はサンプルが供される下地表面の特定の場所に局在化する。例えばアメリカ特許番号5,719,060およびWO98/59361参照。2つの方法は、例えば検体を捕獲するSELDI親和性表面の使用およびエネルギー吸収材料の提供としてマトリクス含有液体の捕獲された検体への付加などと組み合わせることができる。
【0069】
質量分析器に関係する付加的な情報には、例えばPrinciples of Instrumental Analysis第3版, Skoog Saunders College Publishing, Philadelphia, 1985、およびKirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology第4版Vol.15 (John Wiley & Sons, New York 1995), pp. 1071-1094参照。
【0070】
マーカーまたは他の物質の存在の検出は典型的にシグナル強度の検出を伴う。これは、言い換えれば、物質と結合したポリペプチドの量および特徴を反映可能である。例えば、ある実施例において、第一サンプルおよび第二サンプル由来のスペクトルのピーク値のシグナルの強さは比較可能(例えば視覚的に、コンピューター分析によって、など)で、特定の生体分子の相対量を決定できる。Biomarker Wizardプログラム(Ciphergen Biosystems, Inc., Fremont, Calif.)などのソフトウェアプログラムを、質量スペクトル分析を補助するために利用可能である。質量分析器およびその技術は当業者に周知である。
【0071】
どの当業者も、どの質量分析器の構成要素(たとえば、脱離源、質量分析部、検出部など)および多様なサンプル調整が本明細書に記載されたもしくは当業者に周知の他の適切な構成要素または調整と組み合わせ可能であることを理解する。例えば、いくつかの実施例において、コントロールサンプルは重原子(例えば13C)を含んでよく、したがって検査サンプルに周知のコントロールサンプルを同一の質量分析器稼働時において混合することが許される。
【0072】
一つの好ましい実施例において、レーザー脱離飛行時間(TOF)質量分析器が利用される。レーザー脱離質量分析器において、結合マーカーと下地は吸気装置に導入される。マーカーはイオン化源からのレーザーによって気相へ脱離およびイオン化される。発生したイオンはイオン光学アセンブリ(ion optic assembly)によって集められ、そこで飛行時間質量分析部に入れられ、イオンは短い高電圧場を通して加速され、高真空容器内に流れ込む。高真空容器の遠い終端では、加速されたイオンが感受検出器表面に異なる時間で衝突する。飛行時間はイオン質量の関数であるので、イオン形成とイオン検出器衝突の間の経過時間が、特定質量と電荷比を持つ分子の存在または欠失の特定に利用可能である。
【0073】
いくつかの実施例において、第一または第二サンプル中の1または2以上の生体分子の相対量が、プログラム可能なデジタルコンピューターでアルゴリズムを実行することで一部決定された。アルゴリズムは第一の質量スペクトルおよび第二の質量スペクトルの少なくとも1つのピーク値を同定する。アルゴリズムはそこで第一の質量スペクトルのピーク値のシグナルの強さと第二の質量スペクトルのピーク値のシグナルの強さを比較する。関係するシグナルの強さは、第一および第二サンプル中に存在する生体分子(例えばNGALまたは遊離NGAL)の量の示唆である。既知の量の生体分子を含む標準は第二サンプルとして、第一サンプル中に存在する生体分子の量のよりよい定量のために分析可能である。ある実施例において、第一および第二サンプル中の生体分子の正体もまた決定可能である。一つの好ましい実施例において、バイオマーカーレベルはMALDI−TOF質量分析によって測定される。
【0074】
抗体
本発明で利用される遊離NGAL結合抗体は商業的供給源(例えば抗遊離NGAL抗体はR&D Systems, Minneapolis, MN USAのNGAL ELISAキット#DLCN20で利用可能)から獲得可能である。代替的に、遊離NGALのみに対して反応しMMP−9/NGALに対しては反応しない抗体を発生させるために、抗体は遊離NGALまたはバイオマーカーポリペプチドの一部、例えば通常MMP−9/NGAL複合体では隠れているアミノ酸部分、に対して抗体産生されてもよい。そのような抗体結合部位はMMP−9/NGAL結合領域内のエピトープに対して、当業者によって抗体産生されてもよく、ここでさらなる詳細について開示する必要はない。
【0075】
本発明に利用される抗体は、例えばモノクローナル抗体産生(Campbell, A.M., Monoclonal Antibodies Technology: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, Elsecier Science Publishers, Amsterdam, the Netherlands (1984)、St. Groth et al., J. Immunology, (1990) 35: 1-21、およびKozbor et al., Immunology Today (1983) 4:72)などの抗体産生の標準的な方法で産生できる。抗体はまた、ファージディスプレイライブラリーなどの抗体ライブラリーを、当業者に周知の方法によってタンパク質の抗原部分を利用したスクリーニングをすることによって手軽に獲得可能である。例えば、アメリカ特許番号5,702,892およびWO01/18058はバクテリオファージディスプレイライブラリーおよび抗体結合領域断片産生による選択方法を開示する。
【0076】
NGAL検出キット
卵巣癌の検出および予後的評価のため、ならびに乳癌の検出および予後的評価のための商業的キットは本開示に基づいて提供される。キットは当業者に周知のいかなる形態であってもよく、NGALの検出のために本明細書に記載された1または2以上の方法を行うのに有用である。キットは、尿サンプル中のNGAL検出のための検定を実施するための本質的な試薬を、全てではないにしても、多量に供給することにおいて重宝である。加えて、検定は好ましくは、検査結果が定量または認証できるために、キットに含まれる既定量のNGALタンパク質などの標準または多数の標準と同時に行われる。
【0077】
キットはNGALレベルを検出する手法、つまりNGALタンパク質と選択的に結合するNGAL結合抗体または抗体断片も含まれる。診断検定キットは優先的に標準2抗体結合形式に考案されており、一つのNGAL特異的抗体が患者サンプル中のNGALを捕らえ、別のNGAL特異的抗体は捕らえられたNGALを検出するのに使われる。例えば捕らえられた抗体は固相、例えば検定プレート、検定ウェル、ニトロセルロース膜、ビーズ、ディップスティック、または溶出カラムの構成材、上に固定される。二次抗体、つまり検出抗体、は典型的に比色分析剤または放射性同位体などの検出可能な標識によってタグを付けられる。
【0078】
一つの好ましい実施例において、キットは尿サンプル中の遊離NGALレベルの検出手法を包含する。特定の実施例において、特異的にNGALタンパク質と結合する抗NGAL抗体または断片がその上に固定された「ディップスティック」を含む。NGALタンパク質との特異的結合はそこで、例えば比色分析剤または放射性同位体で検出可能に標識された二次抗体を利用して検出でき、遊離NGALの量は当業者が理解するように定量的に決定されてもよい。
【0079】
他の実施例において、検定キットは(これに限定するものではないが)以下の技術、競合的および非競合的検定、放射線免疫測定法(RIA)、生物発光および化学発光検定、蛍光検定、サンドイッチ検定、免疫放射定量検定、ドットブロット法、ELISAを含む酵素連結検定、マイクロタイタープレート、および免疫細胞化学、を採用してもよい。各キットの検定の範囲、感度、正確性、信頼性、特異性および再現性は当業者に周知の方法で確立される。
【0080】
本発明はさらに後述の例によって説明されている。これらの例は本発明の理解を補助するために提供されており、本発明を制限すると解釈するものではない。
【0081】
実施例1
卵巣および乳癌の尿中バイオマーカーとしてのNGAL
本実施例は遊離NGALが癌、例えば乳および/または卵巣癌などの上皮由来のもの、のバイオマーカーとしての役目を果たせることを示している。さらに、遊離NGALが癌の診断、予後診断および病期診断に有用であることを明示している。図1Aおよび1Bは様々な卵巣癌セルラインにおけるNGAL転写発現レベルを示したものである。図3Aおよび3Bは様々な乳癌セルラインにおけるNGAL転写発現レベルを示したものである。発現レベルはリアルタイムPCRを利用して測定された。これらの結果は、NGALが非癌性(HOSE)セルラインと比較して癌セルラインにおいて過剰発現していることを裏付けるものである。
【0082】
図2は卵巣癌セルラインから馴化培地に分泌されたNGALタンパク質の量を、Borregaard博士に提供していただいた抗NGAL抗体を利用して、Kjeldsen L, Koch C, Arnljots K, Borregaard N., 「新規に記載されるヒト好中球中のリポカリン、NGAL用の2つのELISA法の特性」(Characterization of two ELISAs for NGAL, a newly described lopocalin in human neutrophils.) J Immunol Methods. 1996 Nov 13; 198(2):155-64に記載されているBorregaard ELISAによって測定して描いたグラフを示している。SKOV−3はOVCAR−5よりも顕著に低い分泌量を有しているのだが、OVCAR−5は最高レベルの分泌を示した。図4は乳癌セルラインから馴化培地に分泌されたNGALタンパク質の量をBorregaard ELISAを利用して描いたグラフを示している。器官限定的癌から派生したセルライン(MCF−7およびT−47D)においては顕著に少ない分泌であったが、高転移性の癌から派生したセルライン、MDA−MB−231はは最高レベルのNGAL分泌量を示した。
【0083】
しかしながら、本発明者らは後述のデータにおいて、遊離尿中NGALタンパク質は乳および/または卵巣癌のバイオマーカーとしての役目を果たすことを示す。特に、癌を有さない患者からのコントロール尿サンプルと比較して、悪性の癌を有する患者からの尿サンプル中の遊離NGALレベルの増大がある。
【0084】
疾患のない、良性卵巣疾患、または悪性卵巣癌を有する患者からの尿サンプル中のNGALタンパク質レベルがウェスタンブロット分析(図5Aおよび5B)を利用して決定された。SDS−PAGEは還元性状態の下で行われ、遊離および複合体NGALが両方測定された。図5AはR&D Systems(Minneapolis, MN USA)からの抗ヒトNGALを用いた尿サンプルのウェスタンブロット分析を示している。図5Bは疾患のない、良性卵巣疾患、または悪性卵巣癌を有する患者からの少なくとも5つの尿サンプルから得た結果の定量的分析を示している。悪性の卵巣癌を有する患者は疾患のない個体からのサンプルと比較して尿中に多量のNGALを示した。これはBorregaard ELISA検定によって裏付けられた(図7)。乳癌患者からの尿サンプルの同様の分析もまた、悪性の癌を有する患者からの尿中に、疾患のない患者と比較して高レベルのNGALを示した。(図8)
【0085】
さらに、将来的な乳癌の発症に対する主な危険性因子である異形乳管過形成(ADH)を有する個体が、健康な個体に見られるレベルよりも尿中に高レベルの遊離NGALを有することを発見した。遊離NGALのみを認識する抗NGAL抗体(R&D Systems, Minneapolis, MN USAのNGAL ELISA kit #DLCN20からのもの)を利用したELISA検定が遊離NGALレベルを査定するのに利用され、結果は図9に示されている。R&D ELISAを利用して、健康な個体においてみられるレベルと比較して遊離NGALの増大したレベルがまた、非侵襲性乳癌の最も普遍的な型である非浸潤性乳管癌(DCIS)および侵襲性乳癌(IBC)を有する個体においても検出された。(図12)。
【0086】
遊離NGALは尿中に少なくとも単量体、二量体および三量体の型で存在する。遊離単量体尿中NGALの検出は、本開示に従って可能である。この場合、調査はR&D Systems, Minneapolis, MN USAからのNGAL ELISA kit #DLCN20によって行われる。単量体NGALの存在は、図13に示したように、とくに良性および悪性卵巣癌の指標であるように見える。図13は良性および悪性腫瘍を有する患者からの卵巣癌尿サンプル中に存在する遊離NGAL単量体の量と通常サンプルとの比較を示したグラフである。悪性腫瘍サンプルは良性サンプル集団よりとても高い遊離NGALレベルを証明している。
【0087】
したがって、尿中遊離NGALのレベルを測定することは、個体が、例えば乳および/または卵巣癌などの上皮由来の、癌を有するかまたは癌発症の増大した危険性があるか否かを決定するのに利用可能な、素早く、簡便な、および安全な検査を提供する。年齢および性別の一致したコントロールサンプルと比較して高レベルの尿中遊離NGALは、個体は癌を有するかまたは乳および/または卵巣癌発症の増大した危険性があることを示す。陽性検査は個体がさらなる癌のための検査およびモニタリングを適宜されるべきであることを示す。
【0088】
例2
上皮間葉移行におけるNGALの関与
上皮間葉移行(EMT)は上皮細胞が間葉的な、繊維芽細胞様の特性を獲得し、細胞間接着性の減少および移動性の増大を示す重要な過程である。EMT様の出来事は腫瘍進行および悪性形質転換を通して起こり、がん細胞に侵襲的および転移的特性を授けると信じられている(Laruel et al. Oncogene (2005) 24, 7443-7454)。
【0089】
攻撃的な癌発症におけるNGALの潜在的な役割を査定するため、我々はNGALを過剰発現する安定なMCF−7セルライン、N1およびN2を調整した。MCF−7はNGALをほとんど発現しない乳癌セルラインである。我々はN1およびN2セルクローン(NGALを過剰発現するMCF−7細胞)が間葉様の表現型を見せ、これらの細胞は細胞接触を失い、細胞表面のいたる所により均一に分散することを発見した(データ提示なし)。
【0090】
NGAL過剰発現細胞の細胞移動は、BD Falconフルオロブロック24マルチウェルインサートシステム(BD Falcon HTS FluoroBlok 24-Multiwell Insert System) (BD Bioscience, Bedford, MA)を製品のマニュアルに従って利用して評価した。MCF−7コントロールおよびNGAL過剰発現細胞(N1/N2)は70%コンフルエンスまで生育し、そこでトリプシン処理および無血清培地内に再懸濁した。5×10個の細胞がトップチャンバーに播種された。完全培地(750μl)は化学誘引物質として利用され、下部チャンバーに加えられた。37℃、5%COインキュベーターで24時間インキュベート後、培地は上部チャンバーから取り除かれた。インサートプレートをそこで0.5ml/ウェルの10μM CellTracker CMFDA (Molecular Probes)入りの新たな24ウェルプレートに移動し、37℃、5%COで1時間インキュベートした。BD FluoroBlok膜は膜を通って細胞移動した標識細胞だけを蛍光顕微鏡下で視覚化する。査定の結果ははっきりと、NGALの過剰発現が移動性を増大させたことを示している。NGALを過剰発現した細胞は母体であるMCF−7細胞よりも多く細胞移動している(図10)。
【0091】
加えて、細胞侵襲がNGAL過剰発現によって活性化されている。NGAL過剰発現細胞の侵襲性は、BD BioCoat 24マルチウェルガン細胞浸潤アッセイシステム(24-well BD BioCoat Tumor Invasion System) (BD Bioscience, Bedford, MA)を製品のマニュアルに従って利用して評価した。このシステムにおいて、FluoroBlok膜はMatrigelTM層で覆われている。MCF−7コントロールおよびNGAL過剰発現細胞(N1/N2)を70%コンフルエンスまで育成し、そこでトリプシン処理および無血清培地内に再懸濁した。5×10個の細胞がトップチャンバーに播種された。完全培地(750μl)は化学誘引物質として利用され、下部チャンバーに加えられた。37℃、5%COインキュベーターで24時間インキュベート後、培地は上部チャンバーから取り除かれた。インサートプレートをそこで0.5ml/ウェルの10μM CellTracker CMFDA (Molecular Probes)入りの新たな24ウェルプレートに移動し、37℃、5%COで1時間インキュベートした。BD FluoroBlok膜はBD MatrigelTM膜を通して侵入した標識細胞のみを蛍光顕微鏡下で視覚化する。この検定の結果は、NGALの過剰発現が侵襲性を増大させることを示している(図11)。
【0092】
我々はまた上皮間葉移行(EMT)に関与することで知られている分子を制御するNGALの能力を査定した。RT−PCRおよびNGALを過剰発現するセルラインを利用して、我々はNGALの過剰発現が間葉性マーカーであるビメンチンおよびフィブロネクチンの発現を増大させることを見出した(データ提示なし)。NGALの過剰発現はEMTを制御する転写因子であるSlugの発現を増大させる一方で、ERαおよびE−カドヘリンの発現を減少させる。
【0093】
したがって、NGALは攻撃的な癌において見出されるのと一致した細胞表現型の発展に関与している。
【0094】
均等物
当業者は、ただのありふれた実験を利用して、本明細書に記載された特定の手段と均等な多くの物を認める、または解明するだろう。そのような均等物は本発明の範囲内にあると考えられ、後述の特許請求の範囲によって保護されている。多様な代用品、改変、および改良は、特許請求の範囲によって定義された本発明の精神および範囲から逸脱しないように、本発明に対してなされてよい。他の態様、利点、および改良は本発明の範囲内である。本出願を通して引用されている全ての参照文献の内容、交付済み特許、および公開された特許出願は、参考文献によって本明細書に組み込まれる。これらの特許、出願および他の文書の適切な成分、過程、および方法は本発明およびその実施例のために選択されてよい。
【0095】
参考文献
Santin et al., Int. J. Cancer 2004, 112: 14-25. 主要な卵巣漿液性乳頭状腫瘍および正常卵巣上皮の遺伝子発現プロファイル:卵巣ガン診断および治療のための分子マーカー候補の同定(Gene expression profiles in primary ovarian serous papillary tumors and normal ovarian epithelium: Identification of candidate molecular markers for ovarian cancer diagnosis and therapy.)
【0096】
Mishara et al, J. Am. Soc. Nephrol. 14:2534-2543 虚血生腎障害の新規早期尿中バイオマーカーとしての好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリンの同定(Identification of neutrophil gelatinase associated lipocalin as a novel early urinary biomarker for ischemic renal injury.)
【0097】
O'Brien et al, Experimental. Dermatology 2002, 11: 584-591 好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリンはヒト皮膚における調和不全なケラチン生成細胞分化のマーカーである。(Neutrophil gelatinase-associated lipocalin is a marker for dysregulated keratinocyte differentiation in human skin.)
【図面の簡単な説明】
【0098】
本明細書に取り込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図は、本発明の実施例を描き、説明とともに、本発明の対象、利点、および原理を説明する役目を果たす。
【0099】
【図1】図1Aおよび図1Bは、卵巣癌セルラインにおけるNGAL転写物の発現レベルを示す。発現レベルはリアルタイムPCRを用いて測定された。図1Aはコントロール転写物GAPDHと比較したアガロース上で分離された転写物を示す。図1BはNGAL/GAPDH比率をY軸にとって描写したグラフである。HOSEは正常卵巣セルラインであり、OVCAR−3、OVCAR−5、およびSKOV−3は卵巣癌セルラインである。
【0100】
【図2】図2はBorregaard ELISAによって測定された、卵巣癌セルライン、OVCAR−3、OVCAR−5およびSKOV−3から馴化培地に分泌されたNGALタンパク質の量を描いたグラフである。
【0101】
【図3】図3Aおよび3Bは、乳癌セルラインにおけるNGAL転写物の発現レベルを示す。発現レベルはリアルタイムPCRを利用して測定された。図3Aはコントロール転写物GAPDHと比較したアガロース上で分離された転写物を示す。図3BはNGAL/GAPDH比率をY軸にとって描写したグラフである。T−47DおよびMCF−7は「器官限定的」乳癌セルラインであり、他方MDA−MB−231は「高転移性セルライン」である。
【0102】
【図4】図4はBorregaard ELISAによって測定された、乳癌セルライン、T−47D、MDF−7およびMDA−MB−231から馴化培地に分泌されたNGALタンパク質の量を描いたグラフである。
【0103】
【図5】図5Aおよび5Bは、疾患なし、良性卵巣疾患を有する、および悪性卵巣疾患を有する患者からの尿サンプル中のNGALタンパク質レベルを示す。図5Aは抗NGAL抗体を利用した尿サンプルのウェスタンブロット分析を示す。図5Bは図5Aで記載したウェスタンブロットの定量的分析を示す。ブロットは濃度計を用いて定量化され、レベルは任意の濃度測定単位で表されている。
【0104】
【図6】図6はヒトNGALのアミノ酸配列(配列番号1)である。
【0105】
【図7】図7は、Borregaard ELISAで測定された、健康なコントロールサンプルと比較した卵巣癌尿サンプル中のNGALタンパク質発現のグラフである。
【0106】
【図8】図8はBorregaard ELISAで測定された、健康なコントロールサンプルと比較した乳癌尿サンプル中のNGALタンパク質発現のグラフである。
【0107】
【図9】図9は将来的な乳癌の発症に対する主要な危険性因子である異形乳管過形成(ADH)または非浸潤性小葉癌(LCIS)を有する個体におけるNGALタンパク質発現を健康な個体において見られるレベルと比較したグラフである。R&D ELISAが利用された。例1参照。
【0108】
【図10】図10は乳癌細胞、NGALをほとんど発現しないMCF−7細胞、およびNGALを過剰発現させた2つのセルラインクローンN1およびN2、の細胞移動検定におけるフィールドごとの移動細胞の量(y軸)を描いたグラフである。
【0109】
【図11】図11は乳癌細胞、NGALをほとんど発現しないMCF−7細胞、およびNGALを過剰発現させた2つのセルラインクローンN1およびN2、の腫瘍侵襲検定における細胞侵襲の量を描いたグラフである。
【0110】
【図12】図12は将来的な乳癌の発症に対する主要な危険性因子である異形乳癌過形成(ADH)、非浸潤性乳癌の最も普遍的な型である非浸潤性乳管癌(DCIS)、および侵襲性乳癌(IBC)を有する個体におけるNGALタンパク質発現と健康な個体において見られるレベルとを比較したグラフである。R&D ELISAが利用された。
【0111】
【図13】図13は正常、良性および悪性腫瘍を有する患者からの卵巣癌尿サンプル中に存在する遊離NGAL単量体の量を示したグラフである。悪性腫瘍サンプルは良性サンプル集団よりも高い遊離NGALレベルを証明している。これらの研究はNGAL ELISA kit #DLCN20(R&D Systems, Minneapolis, MN USAから入手可能)で行われた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体が、癌を発症する危険性を有するか否か、または癌を発症したか否かを決定する方法であって、
a)個体から得た検査尿サンプル中の遊離NGALレベルを決定するステップ、
b)検査尿サンプル中の遊離NGALレベルとコントロールの遊離NGALレベルとを比較するステップ
を含み、検査サンプル中の遊離NGALのレベルが、コントロールの遊離NGALレベルよりも高いことが、個体が癌を発症する増大した危険性を有するか、または癌を有していることを示す、前記方法。
【請求項2】
癌が上皮由来の癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上皮由来の癌が、乳癌、基底細胞癌、腺癌、胃腸癌、口唇癌、口腔癌、食道癌、小腸癌、胃癌、結腸癌、肝臓癌、膀胱癌、膵臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、皮膚癌、腎臓癌、前立腺癌および腎細胞癌からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
癌が、乳癌および/または卵巣癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
決定された遊離NGALレベルが、単量体NGALを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
遊離NGALレベルが
a)検査サンプルまたはその調製物を、遊離NGALと特異的に結合する抗体ベースの結合部分と接触させ、抗体−NGAL複合体を形成するステップ、および
b)抗体−NGAL複合体の存在を検出することで、遊離NGALの存在のレベルを測定すること
を含む方法によって測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
抗体ベースの結合部分が、検出可能な標識によって標識されている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
標識が、放射性標識、ハプテン標識、蛍光標識および酵素標識からなる群より選択される標識である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
抗体ベースの結合部分が抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
結果を点検し、尿がコントロールの遊離NGALレベルより高レベルの遊離NGALを有していた場合、さらなる癌検査へと個体を導くステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
遊離NGALレベルが質量分光法によって測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
個体が癌治療後の患者であり、検査サンプル中の遊離NGALレベルがコントロールの遊離NGALレベルよりも高かった場合、癌治療後の患者が癌の再発治療に差し向けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
癌の病期診断の方法であって、
a)個体から得た検査尿サンプル中の遊離NGALレベルを決定するステップ、
b)検査尿サンプル中の遊離NGALレベルとコントロールの遊離NGALレベルとを比較するステップ
を含み、検査サンプル中の遊離NGALレベルがコントロールの遊離NGALレベルよりも高いことが、個体が悪性または転移性癌発症の増大した危険性を有すること、または悪性または転移性癌を有することを示す、前記方法。
【請求項15】
遊離NGALが単量体NGALを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
コントロールレベルが、健康な個体に関連づけられる遊離NGALレベルである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
尿サンプルを保持する容器および遊離NGALと特異的に結合する少なくとも1つの抗体、ならびに使用説明書を含む、尿サンプル中の遊離NGALを検査するキット。
【請求項18】
NGALに特異的に結合する少なくとも2つの抗体を含み、抗体の一つは固相に固定され、もう一つの抗体は検出可能に標識されている、請求項1に記載のキット。
【請求項19】
個体における癌、または癌発症の危険性をモニタリングする方法であって、
a)最初の遊離NGALレベルを得るための、個体から得た最初の検査尿サンプル中の遊離NGALレベルを測定するステップ、
b)二番目の遊離NGALレベルを得るための、個体から得た二番目の検査尿サンプル中の遊離NGALレベルを測定するステップ、および
c)最初および二番目の遊離NGALレベルを比較するステップ
を含む、前記方法。
【請求項20】
二番目のレベルが最初のレベルよりも高かった場合、個体が癌を有するまたは癌が発症する大きな危険性があり、あるいは転移癌を有するまたは転移癌を発症する大きな危険性がある、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
個体が癌治療後の患者であり、二番目のレベルが最初のレベルよりも高かった場合、癌治療後の患者が癌の再発治療に差し向けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
癌治療後の患者において癌の再発をモニタリングする方法であって、
a)最初の遊離NGALレベルを得るための、癌治療後の患者から得た最初の検査尿サンプル中の遊離NGALレベルを測定するステップ、
b)二番目の遊離NGALレベルを得るための、癌治療後の患者から得た二番目の検査尿サンプル中の遊離NGALレベルを測定するステップ、および
c)最初および二番目の遊離NGALレベルを比較するステップ
を含み、二番目のレベルが最初のレベルよりも高かった場合、癌治療後の患者は癌の再発治療に差し向けられる、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2009−527735(P2009−527735A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555404(P2008−555404)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/004265
【国際公開番号】WO2007/098102
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(596115687)チルドレンズ メディカル センター コーポレーション (25)
【Fターム(参考)】