説明

癌に特異的に作用する細胞死誘導融合遺伝子及びその遺伝子産物

本発明は、強力な細胞死誘導作用を有するタンパク質、すなわちGFPをN末端に融合した改変型Baxタンパク質のN末端側にさらに癌細胞へのホーミング作用を有するホーミングシグナルペプチドを融合させた融合タンパク質、該融合タンパク質をコードする遺伝子、および該融合タンパク質を含む癌細胞増殖抑制剤を提供する。本発明は、癌細胞に特異的に作用する細胞死誘導遺伝子を含む融合遺伝子であって、癌細胞に特異的なホーミングシグナルペプチド配列をコードする遺伝子、グリーン蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子およびヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxをコードする遺伝子をこの順番で融合させた融合遺伝子および該融合遺伝子がコードする融合タンパク質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、強力な細胞死誘導作用を有するタンパク質、すなわちGFPをN末端に融合した改変型Baxタンパク質のN末端側にさらに血管新生している内皮細胞の表面受容体へのホーミング作用を有するホーミングシグナルペプチドを融合させた融合タンパク質、該融合タンパク質をコードする遺伝子、および該融合タンパク質を含む癌細胞増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
アポトーシスはプログラムされた細胞死であり、Bax遺伝子は強力なアポトーシス誘導遺伝子として知られている。一方、アポトーシスを抑制する癌遺伝子として、Bcl−2遺伝子が知られており、Bcl−2タンパク質に相同性を示す多数のBcl−2ファミリーに属するタンパク質が知られている(Bcl−2、Bcl−XL等)。
アポトーシスあるいは広く細胞死を誘導する遺伝子の癌細胞への導入は抗癌治療の有望な方法であるが、近年Bcl−2、Bcl−XL等のBcl−2ファミリーのタンパク質が癌細胞において発現し、Baxタンパク質の細胞死誘導に対して拮抗作用を示すことが報告されている。Bcl−2ファミリータンパク質はBaxタンパク質のBH3と呼ばれる領域を介してBaxタンパク質と結合し、拮抗作用を示す。本発明者は、BH3領域を含むN末端を欠損させた第112位から192位のアミノ酸からなるN端側欠失Bax(ΔNBax)について検討し、ΔNBaxが細胞死誘導遺伝子Baxの細胞死誘導領域であることを報告した(Biochem Biophys Res Commun.1998 Feb 13;243(2):609−616)。ΔNBaxをプロモーターの下流に連結し、細胞中で発現させると細胞死を誘導し、またBcl−XLと強発現させた場合でも細胞死誘導活性が阻害されることはなかった。このΔNBaxをコードする遺伝子、該遺伝子を含むベクターおよびΔNBaxペプチドを癌細胞増殖抑制に用い得ることについても報告されている(特開2002−355034号公報)。
一方、抗癌剤等の薬剤を細胞に特異的に導入するためのホーミングシグナルペプチドが現在種々研究されている。例えば、NGR、RGDと命名されたペプチドは血管新生している内皮細胞に選択的に作用することが知られており(Nat Med.1999 Sep;5(9):1032−1038)、癌組織中の血管新生している内皮細胞の表面受容体への特異的ホーミングシグナルペプチドとして使用できる可能性がある。
現在癌の治療は主に抗がん剤を投与する化学療法、放射線を患部に照射する放射線療法、抗癌細胞抗体を投与する免疫療法および遺伝子治療によっている。しかし、化学療法や放射線療法は各種の副作用が問題となっている。また、免疫療法は長期間の経過を要し、さらに遺伝子療法では遺伝子の患者に対する作用等安全性の面で開発に多大な労力を要する。このため分子量の大きな癌細胞に直接作用するタンパク質を標的部位に直接作用する癌治療法が望まれていたが、従来は癌細胞の増殖を強く抑制し、なおかつ癌細胞に特異的に作用するタンパク質であって、癌治療に確実に用い得るものはなかった。ΔNBaxを特異的に癌組織中の血管新生している内皮細胞の表面受容体に作用させることができれば、従来の方法の有する欠点を解消し、より効率的な癌細胞増殖抑制剤として利用されることが期待されていた。しかし、従来このような検討はされていなかった。また、ΔNBaxはそのままでもアポトーシス誘導活性を有するが、より強力なアポトーシス誘導活性をもつΔNBaxが望まれていた。
【発明の開示】
本願発明は、改変型BaxであるΔNBaxのアポトーシス誘導作用を増大させ、さらに血管新生している内皮細胞の表面受容体に特異的に作用させることを目的とする。具体的には、ΔNBaxに血管新生している内皮細胞の表面受容体特異的なホーミングシグナルペプチドおよびグリーン蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein、GFP)をホーミングシグナルペプチド、GFP、ΔNBaxの順で融合させた融合タンパク質およびそれをコードする遺伝子、ならびにそれらを含む抗癌剤を提供することを目的とする。
本発明者はΔNBaxの作用の検討を行うために、ΔNBaxのN末端側にΔNBaxの細胞内の局在の視覚化を容易にすべくGFPを融合した融合タンパク質を作製し、株化細胞に導入し細胞死誘導作用を調べた。その結果、驚くべきことにGFPと融合したΔNBaxの細胞死誘導作用が促進されていることを見出した。さらに、本発明者はGFPと融合しアポトーシス誘導作用が促進されたΔNBaxを癌組織中の血管新生している内皮細胞の表面受容体に特異的に作用させる方法について鋭意検討を行った結果、NGR、RGD等のホーミングシグナルペプチドをGFPのN末端側に融合させることにより、アポトーシス誘導作用が促進されたΔNBaxを血管新生している内皮細胞の表面受容体で特異的に作用させることができることを見出し本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 血管新生している内皮細胞の表面受容体に特異的に作用する細胞死誘導遺伝子を含む融合遺伝子であって、血管新生している内皮細胞の表面受容体に特異的なホーミングシグナルペプチド配列をコードする遺伝子、グリーン蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子およびヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxをコードする遺伝子をこの順番で融合させた融合遺伝子、
[2] ホーミングシグナルペプチド配列が、以下の(a)〜(o)のペプチド配列からなる群から選択される[1]の融合遺伝子、
(a)RGDペプチド配列、
(b)NGRペプチド配列、
(c)配列番号7に示されるペプチド配列、
(d)配列番号8に示されるペプチド配列、
(e)配列番号9に示されるペプチド配列、
(f)配列番号10に示されるペプチド配列、
(g)配列番号11に示されるペプチド配列、
(h)配列番号12に示されるペプチド配列、
(i)配列番号13に示されるペプチド配列、
(j)配列番号14に示されるペプチド配列、
(k)配列番号15に示されるペプチド配列、
(l)配列番号16に示されるペプチド配列、
(m)LDVからなるペプチド配列、
(n)配列番号17に示されるペプチド配列、および
(o)配列番号18に示されるペプチド配列
[3] ホーミングシグナルペプチド配列が、血管新生している内皮細胞へのホーミングシグナルペプチド配列であるRGDまたはNGRである、[2]の融合遺伝子、
[4] ヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxがヒトBAXのアミノ酸配列第112位から192位のアミノ酸配列からなる、[1]から[3]のいずれかの融合遺伝子、
[5] 融合遺伝子が以下の(p)または(q)のDNAからなる[1]から[3]のいずれかの融合遺伝子、
(p)配列番号3または5で表わされる塩基配列からなるDNA
(q)(p)のDNAの塩基配列からなるDNAと相補的な配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ血管新生している内皮細胞に結合し、促進された細胞死誘導作用を有するタンパク質をコードするDNA
[6] [1]から[5]のいずれかの融合遺伝子を含む発現ベクター、
[7] 発現ベクターが無細胞系で融合遺伝子を発現し得る[6]の発現ベクター、
[8] [7]の発現ベクターをin vitroで発現させることを含む、[1]から[5]のいずれかの融合遺伝子がコードする融合タンパク質を製造する方法、
[9] 血管新生している内皮細胞の表面受容体に特異的に作用する細胞死誘導タンパク質を含む融合タンパク質であって、血管新生している内皮細胞の表面受容体に特異的なホーミングシグナルペプチド配列、グリーン蛍光タンパク質(GFP)およびヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxタンパク質をこの順番で融合させた融合タンパク質、
[10] ホーミングシグナルペプチド配列が、以下の(a)〜(o)のペプチド配列からなる群から選択される[9]の融合タンパク質。
(a)RGDペプチド配列、
(b)NGRペプチド配列、
(c)配列番号7に示されるペプチド配列、
(d)配列番号8に示されるペプチド配列、
(e)配列番号9に示されるペプチド配列、
(f)配列番号10に示されるペプチド配列、
(g)配列番号11に示されるペプチド配列、
(h)配列番号12に示されるペプチド配列、
(i)配列番号13に示されるペプチド配列、
(j)配列番号14に示されるペプチド配列、
(k)配列番号15に示されるペプチド配列、
(l)配列番号16に示されるペプチド配列、
(m)LDVからなるペプチド配列、
(n)配列番号17に示されるペプチド配列、および
(o)配列番号18に示されるペプチド配列
[11] ホーミングシグナルペプチド配列が、血管新生している内皮細胞へのホーミングシグナルペプチド配列であるRGDまたはNGRである、[10]の融合タンパク質、
[12] ヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxがヒトBAXのアミノ酸配列第112位から192位のアミノ酸配列からなる、[10]または[11]の融合タンパク質、
[13] 以下の(r)若しくは(s)に示す[10]から[12]のいずれかの融合タンパク質、および
(r) 配列番号4または6で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質
(s) (r)の融合タンパク質アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ血管新生している内皮細胞に結合し、促進された細胞死誘導作用を有するタンパク質
[14] [10]から[13]のいずれかの融合タンパク質を含む癌細胞増殖抑制剤、ならびに
[15] [14]の癌細胞増殖抑制剤であって、グリーン蛍光タンパク質(GFP)とヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxタンパク質との融合により、ヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxタンパク質の細胞死誘導作用が、単独のヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxタンパク質の細胞死誘導作用に比べ増強されている癌細胞増殖抑制剤。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−081337号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、GFP−ΔNBaxとΔNBaxの細胞死誘導活性の比較の結果を示す図である。
図2は、NGR−GFP−ΔNBaxの細胞への取込みを示す写真である。
図3は、PI陽性像を示す写真である。
図4は、担癌マウスを用いたNGR−GFP−ΔNBaxの抗腫瘍効果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本願発明は細胞死誘導遺伝子ヒトBaxの細胞死誘導領域部分を含む融合遺伝子およびその遺伝子がコードするタンパク質であり、該融合遺伝子はホーミングシグナルペプチドをコードする遺伝子およびGFP(Green Fluorescent peptide)をコードする遺伝子を含み、5’側からホーミングシグナルペプチドをコードする遺伝子、GFPをコードする遺伝子およびBaxの細胞死誘導領域部分の順番で連結されている。
Baxの細胞死誘導領域部分は、BaxのBH1領域、BH2領域およびBH3領域のうち、Baxタンパク質の細胞死誘導作用に対して拮抗的に作用するBlc−2ファミリーのタンパク質が相互作用するBH3領域を除いた部分である。BH3領域はBaxのN端側のアミノ酸配列の第59位から73位または77位をコア領域としており、Baxの細胞死誘導領域部分を含む改変型BaxはBax遺伝子の5’端側のBaxタンパク質のN端側のアミノ酸配列の少なくとも第59位から73位または77位に相当するヌクレオチドを欠失させたもの(ΔNBax)である。このようなBaxの細胞死誘導領域部分を含む改変型Baxとして、Bax遺伝子がコードする192アミノ酸からなるBaxタンパク質の第112位のアミノ酸から第192位のアミノ酸をコードする243塩基からなるポリヌクレオチドが好ましい。ヒトBax遺伝子の塩基配列を配列番号1に、ヒトBaxタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。この配列情報からヒトBax cDNAを通常の遺伝子工学的技法により合成し、制限酵素等を用いてΔNBax遺伝子を得ることができる。例えば、Biochem Biophys Res Commun.1998 Feb 13;243(2):609−616に記載の方法により取得できる。
本発明において、ΔNBax遺伝子は好適には配列番号1で表される塩基配列の第334位〜第576位の塩基配列からなるDNA(Baxタンパク質の第112位〜192位のアミノ酸配列に相当)からなる遺伝子であるが、該DNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞死誘導作用を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子も含まれる。ストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が500〜1000mM、好ましくは700mMであり、温度が50〜70℃、好ましくは65℃での条件をいう。また配列番号1で表される塩基配列の第334位〜第576位の塩基配列からなるDNAと、BLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有しており細胞死誘導作用を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子も含まれる。さらに、配列番号1で表される塩基配列の第334位〜第576位の塩基配列からなるDNAにおいて、1または複数の塩基が欠失、置換、付加され、かつ細胞死誘導作用を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子も含まれる。ここで、細胞死誘導作用とは、細胞に細胞死を起こさせる作用をいい、アポトーシスとネクローシスがある。例えば、細胞死の一形態であるアポトーシスにより細胞核の染色体凝集、細胞核の断片化、細胞表層微絨毛の消失、細胞質の凝縮という特徴的な形態が現れる。Baxはもともとアポトーシス誘導(促進)タンパク質として発見されたが、Baxは細胞によってはネクローシスも引き起こすことが報告されている(Shinomura,N.,et al.Oncogene,Vol.18:5703(1999))。本明細書において細胞死という場合、アポトーシスとネクローシスの両方が含まれている。タンパク質が細胞死誘導作用を有するか否かは、本願明細書の実施例4の方法に従いin vitroで決定することができる。
GFPは、クラゲAequorea victoria由来のgfp 10遺伝子によりコードされるAequorea victorea由来のものを用いることができる((Prasher,D.C.ら(1992),”Primary structure of the Aequorea victoria green fluorescent protein”,Gene 111:229−233))。また、GFP遺伝子は市販のものも用いることができ、例えば市販のベクターpGreenlantern(Invitrogen LifeTechnology)(特表2000−503536号公報)に含まれるGFPをコードする遺伝子を用いることもできる。配列番号3の第40位から753位の塩基配列(配列番号5では、第28位から第741位)がGFPをコードする遺伝子の配列を示す。また、種々の改変型GFPが知られており、これらの改変型GFPを本発明のGFPとして用いることもできる。このような改変型GFPとしてEGFP(enhanced green fluorescent protein)、GFPUV、GFPmut3.1、BFP2(すべてClonetech社から入手可能)、Venus(Nature Biotechnology January 2002 Vol.20−1,87−90)、S65Tが挙げられる。また、GFPの蛍光色の変異体である、EBFP(Blue)、ECFP(Cyan)、EYFP(Yellow)(すべてCLONTECH社から入手可能)も本発明のGFPとして使用できる。これらの改変型GFPは例えば、『実験医学別冊 ポストゲノム時代の実験講座3 GFPとバイオイメージング』 宮脇敦史 編、2000年10月25日第1版第1刷発行、羊土社 に詳細に記載されており、この記載を参照して入手することができる。さらに、ΔNBaxと融合させた場合にΔNBaxの細胞死誘導作用をより促進するように改変されたGFPまたはその誘導体タンパク質も本発明のGFPに含まれる。
ホーミングシグナルペプチドとは、特定の細胞の表面に発現している受容体(ホーミングシグナルペプチドのリガンド)と結合するペプチドをいい、体内に投与した場合に体液中を循環しそのホーミングシグナルペプチドが特異的に結合し得る受容体を表面に担持している標的細胞に到達し結合する。ホーミングシグナルペプチドのC末端側に薬剤となりうるタンパク質等と結合させた場合、ホーミングシグナルペプチドは該タンパク質を標的細胞に到達させ該タンパク質がその細胞内部に取り込まれる。本願発明では血管新生している内皮細胞の表面受容体に特異的に結合することにより血管新生している内皮細胞に特異的に結合するペプチドを用いる。ホーミングシグナルペプチドとして、血管新生している内皮細胞のホーミングシグナルペプチド受容体に特異的結合するNGRおよびRGD(Nat Med.1999 Sep;5(9):1032−1038)を用いることができ、NGRおよびRGDの塩基配列は、それぞれ配列番号3の第4位から第33位および配列番号5の第7位から第21位の塩基配列で示される。NGRはAminopeptidase N(CD13)に結合し(Pasqualini,R.,et al.,Cancer Research(2000)60:722−727)、RGDはインテグリンのαvβ3およびαvβ5に結合する(Koivunen,E.,et al.,Bio/Technology(1995)13:265−270)ことが知られている。ホーミングシグナルペプチドとしてNGRまたはRGDを用いた場合、ホーミングシグナルは血管新生している内皮細胞にホーミングするので、ホーミングシグナルペプチドと融合した細胞死誘導タンパク質が癌組織中の血管新生している内皮細胞の表面受容体に結合し該内皮細胞に取り込まれ癌組織中の血管新生している細胞の細胞死を引き起こす。癌組織中において癌細胞は血管新生している内皮細胞から生存・増殖に必要な養分を受け取っているので、これらの内皮細胞が細胞死を起こすことにより癌細胞は養分補給を受けられなくなり、癌細胞も死滅する。従って、ホーミングシグナルペプチドと融合した細胞死誘導タンパク質は、最終的に癌細胞を殺す効果がある。また、癌細胞によっては、癌細胞に脱分化した後に血管新生している内皮細胞が有している受容体を発現すると、この場合はホーミングシグナルペプチドが直接癌細胞に結合し、細胞死誘導タンパク質が癌細胞に取り込まれ癌細胞の細胞死を引き起こす。例えば、上述のNGRはカポシ肉腫由来のKS1767癌細胞に結合することが報告されている(Ellerby,H.M.,et al.Nature medicine Vol.5:1032(1999))ので、NGRを融合した本発明の融合タンパク質は直接癌細胞の細胞死を引き起こすことができる。但し、ホーミングシグナルペプチドはこれらのペプチドに限定されず、特定組織または器官の細胞に特異的に結合し得る種々のペプチドを、該組織または器官の癌組織へのホーミングのために用いることができ、以下のものが例示できる。
(1)臓器特異的ホーミングシグナルペプチド(Pasqualini,R.& Ruoslahti,E.(Nature 1996 vol.380,pp.364−366.))
(a) CLSSRLDAC(配列番号7)、CNSRLHLRC(配列番号8)、CENWWGDVC(配列番号9)、WRCVLREGPAGGCAWFNRHRL(配列番号10)の4個は脳を標的にする。
(b) CLPVASC(配列番号11)、CGAREMC(配列番号12)の2個は腎臓を標的にする。
(2)(関節の)滑膜を標的にするホーミングシグナルペプチド(Lee,L.et al,(Arthritis Rheum 2002 vol.46,pp.2109−2120.))

(3)tumor lymphaticsを標的にするホーミングシグナルペプチド(Laakkonen,P.,et al(Nature Medicine 2002 vol.8,pp.751−755))

(4)血管新生している血管内皮細胞を標的にするホーミングシグナルペプチド(Asai,T.,et al(FEBS Letter 2002 vol.520,pp.167−170.))

(5)細胞の表面に存在するインテグリン(インテグリンは総称で、複数の種類がある)に結合するペプチド(Koivunen,E.,et al(Method in Enzymology1994,vol.245,pp.346−369.))
KQAGDV(配列番号16)、LDV、KRLDGS(配列番号17)、DGEA(配列番号18)の4個が知られている。
また、癌抗原に結合する抗癌抗原抗体、または該癌抗原に結合し得るその抗体の断片も本発明においてホーミングシグナルペプチドと同様の作用を有するものとして用いることができる。
Baxの細胞死誘導領域を含む部分、GFPおよびホーミングシグナルペプチドは、N末端側からホーミングシグナルペプチド、GFPおよびBaxの細胞死誘導領域を含む部分の順番で融合させる。これは、ホーミングシグナルペプチドは、そのC末端側に存在するタンパク質を標的細胞に導入させることができるからであり、またBaxはそのC末端部分に膜融合部位があるからである。ΔNBaxは単独でも細胞死誘導作用を有しているが、ΔNBaxのN末端側にGFPを融合させることによりΔNBaxの細胞死誘導作用が促進される。本発明においてGFPとΔNBaxの融合タンパク質の促進された細胞死誘導作用とは、ΔNBax単独で示す細胞死誘導作用よりも強い細胞死誘導作用をいう。GFPとΔNBaxの融合タンパク質の細胞死誘導作用が促進されているかどうかは、ΔNBaxタンパク質単独およびGFPとΔNBaxタンパク質の融合タンパク質の両方を用いて本明細書の実施例1の(2)に記載の方法により両者の細胞死誘導作用を比較すればよい。例えば適当な宿主細胞集団にGFP遺伝子とΔNBax遺伝子の融合遺伝子を含む適当なベクターおよびΔNBax遺伝子のみを含む該ベクターをそれぞれ導入し、GFPとΔNBaxの融合タンパク質および単独のΔNBaxタンパク質を発現させた場合の生細胞率により細胞死誘導作用を測定した場合、GFPとΔNBaxの融合タンパク質の細胞死誘導作用は、ΔNBax単独での細胞死誘導作用よりも有意に強く、好ましくは1.5倍以上強く(ΔNBax単独での生細胞率がGFPとΔNBaxの融合タンパク質の生細胞率の1.5倍以上)、さらに好ましくは2倍以上強く、特に好ましくは3倍以上強い。
ホーミングシグナルペプチドをコードする遺伝子、GFPをコードする遺伝子およびBaxの細胞死誘導領域部分をコードする遺伝子の融合は、通常の遺伝子組換えの手法により行うことができる。この際、適当な制限部位を導入して行うことができる。上述のようにホーミングシグナルペプチドをコードする遺伝子、GFPをコードする遺伝子およびBaxの細胞死誘導領域部分をコードする遺伝子の順で融合させる。この際、融合する遺伝子の間にストップコドンが現れないようにする。融合する遺伝子の間の距離は限定されず、両者の間にリンカーが含まれていてもよい。ホーミングシグナルペプチドの活性および増大された細胞死誘導作用を有する融合タンパク質が翻訳されるためには、3つの遺伝子のオープンリーディングフレームを合わせるようにする。ホーミングシグナルペプチドとしてRGD、ΔNBaxとしてヒトBaxタンパク質のアミノ酸配列の第112位から192位のアミノ酸配列からなるΔNBaxを用いた場合の融合タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号3に、ホーミングシグナルペプチドとしてNGR、ΔNBaxとしてヒトBaxのタンパク質のアミノ酸配列の第112位から192位のアミノ酸配列からなるΔNBaxを用いた場合の融合タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号5に示す。該DNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ血管新生している内皮細胞に結合し、ΔNBax単独よりも促進された細胞死誘導作用を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子も本発明の遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が500〜1000mM、好ましくは700mMであり、温度が50〜70℃、好ましくは65℃での条件をいう。また配列番号3または5で表される塩基配列からなるDNAと、BLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有しておりコードする融合タンパク質が血管新生している内皮細胞に結合し、ΔNBax単独よりも促進された細胞死誘導作用を有するDNAからなる遺伝子も含まれる。さらに、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAにおいて、1または複数の塩基が欠失、置換、付加され、かつ血管新生している内皮細胞に結合し、ΔNBax単独よりも促進された細胞死誘導作用を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子も含まれる。
ホーミングシグナルペプチドとしてRGDおよびNGR以外のものを用いた場合も、融合遺伝子全体として上述のように一部の塩基が欠失、置換、付加された配列を有する融合遺伝子も、用いたホーミングシグナルペプチドがその標的細胞に結合し、促進された細胞死誘導作用を有する限り、本発明の融合遺伝子に含まれる。
このようにして作製した融合遺伝子を入手可能な適当な発現ベクターに組み込んで、発現させ、目的の融合タンパク質を回収、精製することができる。但し、この際発現ベクターを宿主細胞に導入してタンパク質を発現させようとする場合、ΔNBaxの細胞死誘導作用で、宿主細胞が死に易くなるので、無細胞系(セルフリーシステム)で発現させるのが望ましい。ここで無細胞系での発現とは、発現させようとする遺伝子を含む発現ベクターを宿主細胞に導入することなく、in vitroで必要な試薬と混合し遺伝子を発現させることをいう(Spirin,A.S.et al,(1988)”A continuous cell−free translation system capable of production polypeptides in high yield”Science 242,1162;Kim,D.M.,et al.,(1996)”A highly efficient cell−free protein synthesis system from E.coli”Eur.J.Biochem.239,881−886)。市販の無細胞発現キットを用いてタンパク質を発現させることができる。このようなキットとして例えば、Rapid Translation System(RTS)(Roche)やExpressway In Vitro Protein Synthesis System(Invitrogen)等がある。この際、用いる発現ベクターは限定されないが、それぞれの無細胞系発現システムに適したベクターがあるのでそれを使用すればよい。前者のキット用発現ベクターとして、pIVEX2.2bNdeが挙げられ、後者のキット用発現ベクターとして、pEXP1やpEXP2が挙げられる。
また、本発明の融合遺伝子を含む発現ベクターを宿主細胞に組込んで発現させる細胞を用いる発現システムで本発明の融合遺伝子を発現させ、本発明の融合タンパク質を発現させる場合は、融合遺伝子が常に発現していては、細胞死誘導タンパク質の作用により宿主細胞が細胞死を起こして増殖できなくなってしまう。そのため、宿主細胞を充分増殖させてから、発現融合タンパク質が細胞壊死を引き起こすまでの間に融合遺伝子を発現させる為に、発現誘導システムを有する宿主細胞を用いる必要がある。発現誘導システムを有する宿主細胞を用いることにより、融合遺伝子を有する宿主細胞を充分増殖させた後に発現を誘導すれば、宿主細胞に細胞死が起こる前に充分な量の融合タンパク質を得ることができる。遺伝子を誘導的に発現し得るベクターとは、特定の処理を施すことにより組込まれた外来遺伝子の発現が誘導されるベクターをいう。例えば、特定の調節物質または温度条件で発現を誘導または抑制し得るプロモーターをベクターに組込むことにより誘導型発現ベクターを構築することが可能である。このようなプロモーターとして宿主細胞の培養培地中に誘導物質である薬剤を導入することにより特異的に誘導するプロモーターがある。例えばlacプロモーター、tacプロモーターはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)で発現が誘導される。また、T7プロモーター系において、T7 RNAポリメラーゼDNA(T7 DNA1)がlacプロモーターの下流に連結されている場合においても、発現誘導物質としてIPTGが用いられる。さらに、trpプロモーターは3β−インドリルアクリル酸で発現が誘導される。発現誘導は、発現誘導物質の添加のみならず、培養温度を変化させることによって行ってもよい。λcItsリプレッサーおよびλPL−プロモーターを含有する発現ベクターを有する組換え体を使用する場合、培養を、例えば約15〜36℃、好ましくは約30〜36℃で行い、λcItsリプレッサーの不活化による発現誘導を、例えば約37〜42℃で行うのが好ましい。T7プロモータの系においても、T7 RNAポリメラーゼDNA(T7 DNA1)がλPLプロモーターの下流に連結されている場合には、培養の温度を上昇させることにより、生成するT7ファージRNAポリメラーゼ1により特異的にT7プロモーターを作動させる。
さらに、宿主細胞として細胞死誘導タンパク質に耐性を有する細胞を用いてもよい。例えば、ΔNBaxに耐性の大腸菌等の耐性菌を用いればよい。このような細胞は、細胞をN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン等の化学的変異原または紫外線等の物理的変異原により変異を起こさせ、細胞死誘導タンパク質に耐性を有する細胞をスクリーニングすることにより入手することができる。例えば、大腸菌に本発明の融合遺伝子を組込み、該組換え大腸菌に人為的に遺伝子変異を起こさせた後に培養した場合、増殖する大腸菌はΔNBaxに対する耐性を有する大腸菌である。また、大腸菌に人為的に遺伝子変異を起こさせた後に、ΔNBaxを作用させたときに増殖する大腸菌はΔNBaxに対する耐性を有する大腸菌である。遺伝子に突然変異を起こさせる化学的変異原および物理的変異原ならびに変異原の利用法および用量は当業者に公知であるし、耐性を有する細胞をスクリーニングする方法も当業者ならば適宜設計することができる。
本発明の融合遺伝子を含む発現ベクターを宿主細胞に導入して融合タンパク質を発現させる場合は以下のようにして行う。
ベクターとして、プラスミド、ファージ、ウイルス等の宿主細胞において複製可能である限りいかなるベクターも用いることができる。例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pKC30、pCFM536等の大腸菌プラスミド、pUB110等の枯草菌プラスミド、pG−1、YEp13、YCp50等の酵母プラスミド、λgt110、λZAPII等のファージのDNA等が挙げられ、哺乳類細胞用のベクターとしては、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス等のウイルスDNA、SV40とその誘導体等が挙げられる。ベクターは、複製開始点、選択マーカー、プロモーターを含み、必要に応じてエンハンサー、転写終結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。前述のように組込んだ遺伝子を誘導的に発現させる場合は、プロモーターとして発現誘導し得るものを用いる。
ベクターは、商業的に入手可能なものを使用することができ、例えば細菌性のものではpEF1、pPROEX(Invitrogen)、pQE30、pQE31、pQE32、pQE70、pQE60、pQE−9(Qiagen)、pGEX−5X−1、pGEX−5X−2、pGEX−5X−3、pBluescriptII KS、ptrc99a、pKK223−3、pDR540、pRIT2T(Pharmacia)、pET3a、pET3b、pET3c、pET−11a(Novagen)、pUC118(宝酒造)、真核性のものではpXT1、pSG5(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、pSVL、SV40(Pharmacia)等がある。
複製開始点として、大腸菌ベクターに対して、例えばColiE1、R因子、F因子由来のものが、酵母ベクターに対して、例えば2μmDNA、ARS1由来のものが、哺乳類細胞用ベクターに対して、例えばSV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス由来のものを用いることができる。また、プロモーターとしてアデノウイルス又はSV40プロモーター、大腸菌lacまたはtrpプロモーター、ファージラムダPプロモーター、酵母用としてのADH、PHO5、GPD、PGK、AOX1プロモーター、蚕細胞用としての核多角体病ウイルス由来プロモーター等を用いることができる。
選択マーカーとして、大腸菌用ベクターには、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等を、酵母用ベクターには、Leu2、Trp1、Ura3遺伝子等を、哺乳類細胞には、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等を用いることができる。前述のように組込んだ遺伝子を誘導的に発現させる場合は、プロモーターとしてプロモーター下流の遺伝子の発現を誘導し得るものを用いる。
DNAのベクターへの導入は、任意の方法で行うことができる。ベクターは、種々の制限部位をその内部に持つポリリンカーを含んでいるか、または単一の制限部位を含んでいることが望ましい。ベクター中の特定の制限部位を特定の制限酵素で切断し、その切断部位にDNAを挿入することができる。本発明の融合遺伝子を含む発現ベクターを適切な宿主細胞の形質転換に用いて、宿主細胞に前記融合遺伝子がコードするタンパク質を発現、産生させることができる。
宿主細胞としては、HB101、DH5、TG1、JM109、XL1−blue、BL21(DE3)、BL21(DE3)pLysS等の大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌等の細菌細胞、アスペルギルス属菌株等の真菌細胞、パン酵母、メタノール資化性酵母等の酵母細胞、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞、CHO、COS、BHK、3T3、C127等の哺乳類細胞等が挙げられる。前述のように本発明の細胞死誘導融合タンパク質が含む細胞死誘導タンパク質に対する耐性細胞を用いてもよい。
形質転換は、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン介在トランスフェクション、エレクトロポレーション等の公知の方法で行うことができる。
得られたリコンビナント融合タンパク質は、各種の分離精製方法により、分離・精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組合せて用いることができる。この際、発現産物がGST等との融合タンパク質として発現される場合は、目的タンパク質と融合しているタンパク質またはペプチドの性質を利用して精製することもできる。例えばヒスチジンが6個以上並んだアミノ酸配列、いわゆるヒスチジンタグとの融合タンパク質として発現させた場合、ヒスチジンタグを有するタンパク質はキレートカラムに結合するので、キレートカラムを用いて精製することができる、またGSTとの融合タンパク質として発現させた場合、GSTはグルタチオンに対して親和性を有するので、グルタチオンを担体に結合させたカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより効率的に精製することができる。
このようにして得られた発現産物はN末端からホーミングシグナルペプチド、GFPおよびΔNBaxが連結した融合タンパク質である。ホーミングシグナルペプチドとしてRGD、ΔNBaxとしてヒトBaxタンパク質のアミノ酸配列の第112位から192位のアミノ酸配列からなるΔNBaxを用いた場合の融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に、ホーミングシグナルペプチドとしてNGR、ΔNBaxとしてヒトBaxタンパク質のアミノ酸配列の第112位から192位のアミノ酸配列からなるΔNBaxを用いた場合の融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示す。
本発明の融合タンパク質は、血管新生している内皮細胞に結合し、ΔNBax単独よりも促進された細胞死誘導作用を有する限り、当該アミノ酸配列において少なくとも1個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じてもよい。
例えば、配列番号4または6で表されるアミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1又は数個(例えば1〜10個、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号4または6で表わされるアミノ酸配列に少なくとも1個、好ましくは1又は数個(例えば1〜10個、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号4または6で表されるアミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1又は数個(例えば1〜10個、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換してもよい。この場合のアミノ酸の欠失、置換、付加は融合タンパク質のホーミングシグナルペプチド、GFP、ΔNBaxタンパク質のいずれの部分に生じてもよい。
上記アミノ酸配列と、BLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有しているものも含まれる。
ホーミングシグナルペプチドとしてRGDおよびNGR以外のものを用いた場合も、融合タンパク質全体として上述のように一部のアミノ酸が欠失、置換、付加された配列を有する融合タンパク質も、用いたホーミングシグナルペプチドがその標的細胞に結合し、促進された細胞死誘導作用を有する限り、本発明の融合タンパク質に含まれる。
本発明は、上記融合タンパク質を有効成分として含む癌細胞増殖抑制剤組成物も含む。該組成物は、種々の形態で投与することができる。このような投与形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは注射剤、点滴剤、座薬などによる非経口投与を挙げることができる。また、本発明の癌細胞増殖抑制剤を癌部に直接投与してもよい。この癌細胞増殖抑制剤は、公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射剤は、融合タンパク質を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用してもよい。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。その投与量は、症状、年齢、体重および投与経路に依存するであろうから、医師の判断及び各患者の状況に応じて決定すべきである。有効用量は、in vitroにおける試験またはin vivoの動物モデル試験系から導かれる。例えば、担癌マウスにおいて、本発明の融合タンパク質を0.2〜0.4cmの腫瘍に、2回直接投与した場合、500ng/μlの融合タンパク質を50μl投与することにより、マウスの腫瘍体積が減少する。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
〔実施例1〕 GFP−ΔNBaxの作製
(1) GFP−ΔNBaxの作製
GFP(Green Fluorescence Protein)の遺伝子(DNA断片A)とΔNBaxの遺伝子(DNA断片B)を2段階PCR法で結合させた。
pGreenlantern(Invitrogen LifeTechnology)を鋳型にして5’側プライマーPrimer 1と3’側プライマーPrimer 2でDNA断片Aを増幅した。Primer 1の3’側半分はGFP遺伝子の開始コドンからのセンスの塩基配列を含み、プライマーの5’端に制限酵素ClaIの切断部位(ATCGAT)を持っている。Primer 2の5’側半分はΔNBaxの遺伝子5’側のアンチセンスの配列(Ala112からSer118)を含み、Primer 3と相補的な塩基配列である。また、その3’側半分はGFP遺伝子の終止コドンを除く3’端のアンチセンスの塩基配列である。
pEF1BOS−Bax(Biochem Biophys Res Commun.1998 Feb 13;243(2):609−616)を鋳型にしてPrimer 3とPrimer 4の組み合わせでDNA断片Bを増幅した。5’側プライマーPrimer 3はΔNBax遺伝子の5’端(Baxのアミノ酸残基Ala112からSer118)のセンスの塩基配列である。3’側プライマーPrimer 4はΔNBax遺伝子の終止コドンを含む3’端(Baxの3’端)のアンチセンスの配列で、プライマーの5’端には制限酵素XbaIの切断部位(TCTAGA)を持っている。
PCR反応の詳細は以下のとおりである。
反応溶液(溶液量100μl):10mM Tris−HCl,pH8.3,50mM KCl 1.5mM MgCl,0.001% gelatin,dATP,dCTP,dTTP,dGTP 各0.2mM
AmpliTaqGOLD:2.5U
一対のプライマー:Primer 1とPrimer 2の組み合わせ、Primer 3とPrimer 4の組み合わせ(各プライマー1μM)
鋳型DNA:100ng
反応条件1:94℃/10分;(94℃/30秒;54℃/30秒;72℃/1分) x 15サイクル;72℃/3分
反応後、増幅された二つのDNA断片(A,B)は5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で精製した。次いで、上記PCR反応液(25μl)にDNA断片A,B(それぞれ50ng)を混合しAmpliTaqGOLDを使ってそれぞれの相補鎖を合成した。合成条件は以下の反応条件2のとおりとした。
反応条件2:94℃/10分;(94℃/30秒;36℃−42℃/30秒;72℃/1分) x 5サイクル;72℃/3分
反応後、Primer 1とPrimer 4(最終濃度各1μM)とAmpliTaqGOLD(2.5U)を含むPCR反応液75μlを加え、以下の反応条件3によりPCRを実行した。
反応条件1:94℃/10分;(94℃/30秒;54℃/30秒;72℃/1分) x 12サイクル;72℃/3分
960bpのPCR産物を5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で精製し、制限酵素ClaIとXbaIで切断した。ホ乳類細胞発現ベクターpEF−LACABのClaIとXbaI切断部位の間にクローニングし、pEF−LACAB/GFP−ΔNBaxを得た。
(2) GFP−ΔNBaxとΔNBaxの細胞死誘導活性の比較
ΔNBaxとGFP−ΔNBaxをホ乳類細胞で発現させるために、ベクターとしてpEF−LAC(Edamatsu,H.,Kaziro,Y.,Itoh,H.Inducible high−level expression vector for mammalian cells,pEF−LAC carrying human elongation factor lalph a promoter and lac operator.Gene(1997)187:289−294)を用いた。ΔNBaxをコードする塩基配列(配列番号3の754位から999位)の5’端に開始コドンATGを付加したDNA断片をpEF−LACのEF1αプロモーター下流のmultiple cloning sites(XbaI切断部位)に挿入し、pEF−LAC−ΔNBaxを作製した。コントロールプラスミッドとしてはpEF−LACを用いた。
同じように、GFP−ΔNBaxをコードする塩基配列(配列番号3の40位から999位)を含むDNA断片をpEF−LACのEF1αプロモーター下流のmultiple cloning sites(ClaI切断部位とXbaI切断部位の間)にクローニングし、pEF−LAC−GFPΔNBaxを作製した。
細胞死誘導活性は以下に記した様にJurkat細胞に上記のプラスミッドDNAを導入し、遺伝子導入された細胞の生存数をFlow cytometryで計数し、コントロールプラスミッド導入した細胞のそれと比較した。
pEF−LAC−ΔNBax 2μgにGFPの発現プラスミッドpGreenLantern(Invitrogen Life Technologies)1μgを加えて、SuperFect transfection kit(Qiagen)を用いてJurkat細胞にco−transfectionした。方法はキットに添付されたマニュアルに従った。コントロールとしてpEF−LAC(空ベクター)2μgにpGreenLantern 1μgを混合した溶液で同じようにco−transfectionした。加えたpGreenLanternの量が少ないので、pGreenLanternが導入された細胞にはpEF−LAC−ΔNBaxあるいはpEF−LACも導入されている。pEF−LAC−GFPΔNBaxについては2μgを上記同様SuperFect transfection kitを用いてJurkat細胞にtransfectionした。遺伝子導入された生細胞はGFPによる緑色の蛍光を示す。
transfectionした後、細胞は10%FBSを含むRPMI1640培地(Invitrogen Life Technologies)で5% CO/95% Air,37℃(BIO−LABO 十慈フィールド(株))の中で2日間培養し、Flow cytometry(COULTER社 EPICS ELITE ESP)で解析した。細胞をFoward scattering(FS)とSide scattering(SS)で正常の大きさの細胞50,000個を選別し(ゲート)、その中でGFPの緑色蛍光(Em.488nm)を発する細胞数を計数した。
結果をコントロールpEF−LACでの生細胞数を100にして図1に示した。GFPΔNBaxを遺伝子導入した生細胞数は、ΔNBax遺伝子導入した生細胞数にくらべて顕著に少なく、GFPΔNBaxの細胞死誘導活性が上昇していることが確認された。
〔実施例2〕 RGD−GFP−ΔNBaxとNGR−GFP−ΔNBaxの作製
内皮細胞特異的ホーミングシグナル配列(RGDおよびNGR)をGFP−ΔNBax融合遺伝子の5’端に結合するために大腸菌細胞発現ベクターpPROEX1(Invitrogen LifeTechnology)を用いた。ベクターpEF−LACABには3個、GFP−ΔNBax融合遺伝子のGFP遺伝子配列内(nt.166)に1個の制限酵素NcoI切断部位が存在する。pEF−LACAB/GFP−ΔNBaxをNcoIで4個のDNA断片に切断し、GFP−ΔNBax融合遺伝子(全長960bp)の3’側794bp(NcoI−XbaI)を含む約1.3kbのDNA断片をpPROEX1のNcoI部位に順方向にクローニングし、pPROEX1/ΔNGFP−ΔNBaxを得た。制限酵素NotIの切断部位がpEF−LACAB由来の配列(XbaI部位の7塩基対下流)とクローニング断片3’端(3’端NcoI部位)の下流のベクターpPROEX1配列に存在する。pPROEX1/ΔNGFP−ΔNBaxをNotIで切断し、3’端NcoI部位を含むpEF−LACAB由来の配列を除いて、pPROEX1/ΔNGFP−ΔNBax/ΔNotIを得た。
ホーミングシグナルペプチドRGDとNGRをそれぞれΔNGFP−ΔNBaxのN末端にPCR法で結合させた。Primer 5はNcoI切断部位に続きホーミングシグナルペプチドRGDをコードする塩基配列とGFP遺伝子の5’端の塩基配列を含む。上記PCR反応液(25μl)にPrimer 5とpEF−LACAB/GFP−ΔNBax(それぞれ20ng)を混合しAmpliTaqGOLDを使ってPrimer 5の相補鎖を合成した。合成条件は以下の反応条件3のとおりとした。
反応条件3:94℃/10分;(94℃/30秒;44℃−50℃/30秒;72℃/1分) x 6サイクル
反応後、Primer 6とPrimer 7(最終濃度各1μM)とAmpliTaqGOLD(2.5U)を含むPCR反応液75μlを加え、以下の反応条件4によりPCRを実行した。
反応条件4:94℃/10分;(94℃/30秒;50℃/30秒;72℃/1分) x 16サイクル
Primer 6はPrimer 5の5’側半分の塩基配列を持ち、Primer 7はGFP遺伝子nt.200からnt.217までのアンチセンスの塩基配列である。PCR産物を5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で精製し、制限酵素NcoIで切断した。本断片をNcoIで切断したpPROEX1/ΔNGFP−ΔNBax/ΔNotIにクローニングし、pPROEX1/RGD−GFP−ΔNBax/ΔNotIを得た。本プラスミッドからホーミングシグナルペプチドRGDをN末端に持つGFP−ΔNBax(RGD−GFP−ΔNBax)が産生される。DNAシークエンシングによって塩基配列を確認している。
Primer 8はNcoI切断部位に続きホーミングシグナルペプチドNGRをコードする塩基配列とGFP遺伝子の5’端の塩基配列を含む。上記PCR反応液(25μl)にPrimer 8とpEF−LACAB/GFP−ΔNBax(それぞれ20ng)を混合しAmpliTaqGOLDを使ってPrimer 8の相補鎖を合成した。合成条件は反応条件3のとおりとした。反応後、Primer 9とPrimer 7(最終濃度各1μM)とAmpliTaqGOLD(2.5U)を含むPCR反応液75μlを加え、上記反応条件4によりPCRを実行した。Primer 9はPrimer 8の5’側半分の塩基配列である。PCR産物を5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で精製し、制限酵素NcoIで切断した。本断片をNcoIで切断したpPROEX1/ΔNGFP−ΔNBax/ΔNotIにクローニングし、pPROEX1/NGR−GFP−ΔNBax/ΔNotIを得た。本プラスミッドからホーミングシグナルペプチドNGRをN末端に持つGFP−ΔBax(NGR−GFP−ΔBax)が産生される。DNAシークエンシングによって塩基配列を確認している。
〔実施例3〕 RGD−GFP−ΔNBax遺伝子とNGR−GFP−ΔNBax遺伝子のベクターpIVEX2.2bNdeへの載せ替えとそれらの遺伝子産物の無細胞系タンパク質合成による産生
細胞系のタンパク質合成でNGR−GFP−ΔNBaxおよびRGD−GFP−ΔNBaxを産生させるためにプラスミッドベクターpIVEX2.2bNde(Roche)にクローニングした。方法は実施例2と同じようにGFP遺伝子配列内のNcoIを利用して2段階に分けてクローニングした。
pPROEX1/NGR−GFP−ΔNBax/ΔNotIをNcoIとXhoIで切断し、GFP−ΔNBax融合遺伝子(全長960bp)の3’側794bp(NcoI−XbaI)を含む822bpのDNA断片を回収した。このDNA断片を予めNcoIとXhoIで切断したベクターpIVEX2.2bNdeへクローニングし、pIVEX2.2bNde/ΔNGFP−ΔNBaxを得た。
実施例2と同じように、pPROEX1/NGR−GFP−ΔNBax/ΔNotIとpPROEX1/RGD−GFP−ΔNBax/ΔNotIをそれぞれ鋳型にしてPCR法でNGR−GFPおよびRGD−GFPの206−bp NcoI DNA断片を増幅した。DNA断片を回収した後、NcoIで処理したpIVEX2.2bNde/ΔNGFP−ΔNBaxにクローニングし、pIVEX2.2bNde/NGR−GFP−ΔNBaxとpIVEX2.2bNde/RGD−GFP−ΔNBaxを得た。これらのプラスミッドDNAをRoche社のマニュアルに従ってRTS500HYキット(Roche)に加え、細胞系タンパク質合成装置RTSプロテオマスター(Roche)でRGD−GFP−ΔNBaxタンパク質とNGR−GFP−ΔNBaxタンパク質を合成した。SDS−PAGE電気泳動においてPAG Mini(第一化学薬品)のゲルを使用し、2D銀染色試薬II(第一化学薬品)を用いた銀染色法と常法のクマシーブリリアントブルー染色法によって合成されたタンパク質の確認とその定量(牛血清アルブミンをスタンダードとして使用)を行なった。

【実施例4】
(1)培養細胞の培養
angiogenesisな状態にある細胞としてHUVEC(ヒト臍帯血管内皮細胞:三光純薬)、controlとしてHeLa細胞を使用した。mediumとしてHUVECではEBM−2(三光純薬)とその添加因子キット(血清、抗生物質含む:三光純薬)を使用した。HeLaではDMEM/F12(Invitrogen LifeTechnology)に10%FBS(牛胎児血清;三光純薬)、1%Penicillin−Streptomycin(LifeTechnology)を添加したものを使用した。
(2)蛋白の導入と細胞死活性の測定
96穴プレートにHUVEC(1.0x10個/well)、HeLa(5.0x10/well)を播種した。1wellあたりのmedium量は200μlとした。NGR−GFP−ΔNBaxをRTS500HYキット(Roche)にて作製した。合成反溶液20μlを遠心分離(12000rpm,4℃,10分)した。上清を除去し、沈澱を20μlの溶解液(6M UREA,0.15M NaCl,20mM Hepes pH7.2)で再溶解した。室温にて10分静置後、遠心分離(12000rpm,4℃,10分)し、その上清をNGR−GFP−ΔNBax試料として用いた。常法のSDS−PAGE電気泳動法にて、既知量の牛血清アルブミンを標準にしてクマシーブリリアントブルー(CBB)による染色の度合いからNGR−GFP−ΔNBaxの濃度を決定したところ、その濃度は150ng/μlであった。細胞の培地より抜き取った150μlに下記に示した量のNGR−GFP−ΔNBax試料を加えて混合し、抜き取った細胞のwellに加え戻した。蛋白質添加後24時間、48時間において細胞障害を判定するためにPI、ヘキスト33342をmedium中で5μMとなるように加えた。蛍光顕微鏡(LEICA DMIRB)にてPI陽性細胞数、ヘキスト陽性細胞数を計数した。それぞれのwellについて重なり合わない6視野(100倍視野)、合計約1000個の細胞を計数した。
2種類の実験を行った。実験1では細胞としてHUVEC細胞のみを用いNGR−GFP−ΔNBax(750ng)の代わりに溶媒である溶解液(6M UREA,0.15M NaCl,20mM Hepes pH7.2)を同体積(5μl)加えたものをコントロールとした。48時間後に評価した。実験2ではHUVEC細胞とHeLa細胞を用い、どちらの細胞にもNGR−GFP−ΔNBax(200ngと60ng)を加えた。24時間後に評価した。結果を表1に示す。表1に示すように48時間後の細胞死(PI陽性率)は、血管新生している内皮細胞のモデル細胞HUVECにNGR−GFP−ΔNBax融合蛋白質を添加した場合に、同体積の溶媒だけを加えたコントロールより高頻度であった。また、HUVEC細胞にNGR−GFP−ΔNBax融合蛋白質を添加した場合、血管新生しないHeLa細胞にNGR−GFP−ΔNBax融合蛋白質を添加した場合よりも4〜十数倍24時間後の細胞死の割合が高かった。

注:”無添加”は、何も加えない、かつ何も処理しない培地のみでの使用した細胞のPI陽性率である。
RGD−GFP−ΔNBax蛋白質とNGR−GFP−ΔNBax蛋白質が細胞に導入されていることを確認するために、4穴プレート(SonicSeal Slide;LAB−TEK社)にHUVECは1x10個/well、HeLaは5x10個/wellを各々播種した。NGR−GFP−ΔNBax融合蛋白質200ngを添加して、3時間後にそれぞれのmediumを交換し、PI(5μM)を加えた。共焦点レーザー走査型顕微鏡(FLUOVIEWFV300 OLYMPUS)を用いてGFPとPIによる蛍光(対物レンズ10倍)を観察した。図2に細胞中のGFPの存在を示す図を示す。図に示すように細胞死をおこしているHUVECでは細胞中にGFPの蛍光の存在が認められたが(死亡した細胞の核は赤色に見える)、HeLa細胞では認められず、ホーミングシグナルペプチドであるNGRにより融合タンパク質が血管新生を行っている内皮細胞のモデル細胞であるHUVEC細胞にのみ取り込まれていることが明らかになった。また、図3に細胞のPI染色像を示す。左図はHUVEC細胞をNGR−GFP−ΔNBax融合タンパク質で処理したもの、右図はHeLa細胞をNGR−GFP−ΔNBax融合タンパク質で処理したものを示す。図に示すようにHUVEC細胞でより多くのPI陽性細胞が認められた。図3の下には、HUVEC細胞をNGR−GFP−ΔNBax融合タンパク質で処理したものの一部分の拡大図を示すが、この拡大図中でPIで示される細胞(PI陽性細胞)が死亡した細胞であり、Hで示される細胞(ヘキスト陽性細胞)が生きている細胞である。
〔実施例5〕 担癌マウスを用いたNGR−GFP−ΔNBaxの抗腫瘍作用
HeLa細胞(1x10cells)をヌードマウスBALB/c−nu/nu Slc(♀,8週齢)の皮下に移植して担癌マウスを作製した。腫瘍の大きさ(体積)は麻酔下(ネンブタール)に精密ノギスで長径と短径を測定し、常法に従い(長径)×(短径)÷2の計算式で求めた。NGR−GFP−ΔNBaxをRTSHY500キット(Roche)で合成した。合成反応液100μlを遠心分離(12000rpm,4℃、10分)した。上清を除去し、沈澱を100μlの溶解液(6M UREA,0.15M NaCl,20mM Hepes pH7.2)で再溶解した。室

NBax試料として用いた。常法のSDS−PAGE電気泳動法にて、既知量の牛血清アルブミンを標準にしてクマシーブリリアントブルー(CBB)による染色の度合いからNGR−GFP−ΔNBaxの濃度を決定したところ、その濃度は500ng/μlであった。ネンブタール麻酔下に腫瘍の大きさを測定した担癌マウスに、NGR−GFP−ΔNBax試料50μlずつ2回腫瘍(0.2〜0.4cm)に直接注入した(3匹)。コントロールとして溶解液(6M UREA,0.15M NaCl,20mM Hepes pH7.2)だけを注入した(3匹)。1週間後に腫瘍の大きさを測定した(図4の1W;白丸、NGR−GFP−ΔNBax試料投与;黒丸、コントロール)。さらに、それぞれ2匹については、NGR−GFP−ΔNBax試料とコントロールとして溶解液(6M UREA,0.15M NaCl,20mM Hepes pH7.2)を1回目と同様に50μlずつ2回腫瘍に直接注入し、1週間後に腫瘍の大きさを測定した(図4の2W)。図には個々の腫瘍の体積(白丸、NGR−GFP−ΔNBax試料投与;黒丸、コントロール)の増加率を1回目の注入前の腫瘍体積に対する百分率(%)で示し、その平均値(水平のバー)も示した。1回目の注入後1週間での測定(1W)では、垂直のバーで標準偏差を示し、Student’s t−testで統計処理を行なった結果、統計的有意差を得た。NGR−GFP−ΔNBax投与(1回、および2回)で腫瘍体積の減少が認められた。
【産業上の利用可能性】
実施例4の結果が示すように、ホーミングシグナルペプチド、GFPおよびΔNBaxをこの順で融合させた融合タンパク質は、血管新生している細胞において特異的に強く細胞死を誘導した。このことは、融合タンパク質のホーミングシグナルペプチドの作用により融合タンパク質が血管新生している細胞に特異的に取り込まれ、GFPで細胞死誘導作用が増大したΔNBaxの作用で、細胞死が誘導されたことを示す。また、実施例5の結果が示すように、担癌マウスにホーミングシグナルペプチド、GFPおよびΔNBaxをこの順で融合させた融合タンパク質を投与すると、腫瘍体積の減少が認められた。この結果より、本発明の融合タンパク質が血管新生している癌細胞の死を特異的に強く誘導し得、癌細胞増殖抑制剤、すなわち抗癌剤として有用であることが判明した。
【配列表フリーテキスト】
配列番号7〜18:ホーミングシグナルペプチド
配列番号19〜27:プライマー
本明細書に引用されたすべての刊行物は、その内容の全体を本明細書に取り込むものとする。また、添付の請求の範囲に記載される技術思想および発明の範囲を逸脱しない範囲内で本発明の種々の変形および変更が可能であることは当業者には容易に理解されるであろう。本発明はこのような変形および変更をも包含することを意図している。
【配列表】























【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管新生している内皮細胞の表面受容体に特異的に作用する細胞死誘導遺伝子を含む融合遺伝子であって、血管新生している内皮細胞の表面受容体に特異的なホーミングシグナルペプチド配列をコードする遺伝子、グリーン蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子およびヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxをコードする遺伝子をこの順番で融合させた融合遺伝子。
【請求項2】
ホーミングシグナルペプチド配列が、以下の(a)〜(o)のペプチド配列からなる群から選択される請求項1記載の融合遺伝子。
(a)RGDペプチド配列、
(b)NGRペプチド配列、
(c)配列番号7に示されるペプチド配列、
(d)配列番号8に示されるペプチド配列、
(e)配列番号9に示されるペプチド配列、
(f)配列番号10に示されるペプチド配列、
(g)配列番号11に示されるペプチド配列、
(h)配列番号12に示されるペプチド配列、
(i)配列番号13に示されるペプチド配列、
(j)配列番号14に示されるペプチド配列、
(k)配列番号15に示されるペプチド配列、
(l)配列番号16に示されるペプチド配列、
(m)LDVからなるペプチド配列、
(n)配列番号17に示されるペプチド配列、および
(o)配列番号18に示されるペプチド配列
【請求項3】
ホーミングシグナルペプチド配列が、血管新生している内皮細胞へのホーミングシグナルペプチド配列であるRGDまたはNGRである、請求項2記載の融合遺伝子。
【請求項4】
ヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxがヒトBAXのアミノ酸配列第112位から192位のアミノ酸配列からなる、請求項1から3のいずれか1項に記載の融合遺伝子。
【請求項5】
融合遺伝子が以下の(p)または(q)のDNAからなる請求項1から3のいずれか1項に記載の融合遺伝子。
(p)配列番号3または5で表わされる塩基配列からなるDNA
(q)(p)のDNAの塩基配列からなるDNAと相補的な配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ血管新生している内皮細胞に結合し、促進された細胞死誘導作用を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の融合遺伝子を含む発現ベクター。
【請求項7】
発現ベクターが無細胞系で融合遺伝子を発現し得る請求項6記載の発現ベクター。
【請求項8】
請求項7記載の発現ベクターをin vitroで発現させることを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の融合遺伝子がコードする融合タンパク質を製造する方法。
【請求項9】
血管新生している内皮細胞の表面受容体に特異的に作用する細胞死誘導タンパク質を含む融合タンパク質であって、血管新生している内皮細胞の表面受容体に特異的なホーミングシグナルペプチド配列、グリーン蛍光タンパク質(GFP)およびヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxタンパク質をこの順番で融合させた融合タンパク質。
【請求項10】
ホーミングシグナルペプチド配列が、以下の(a)〜(o)のペプチド配列からなる群から選択される請求項9記載の融合タンパク質。
(a)RGDペプチド配列、
(b)NGRペプチド配列、
(c)配列番号7に示されるペプチド配列、
(d)配列番号8に示されるペプチド配列、
(e)配列番号9に示されるペプチド配列、
(f)配列番号10に示されるペプチド配列、
(g)配列番号11に示されるペプチド配列、
(h)配列番号12に示されるペプチド配列、
(i)配列番号13に示されるペプチド配列、
(j)配列番号14に示されるペプチド配列、
(k)配列番号15に示されるペプチド配列、
(l)配列番号16に示されるペプチド配列、
(m)LDVからなるペプチド配列、
(n)配列番号17に示されるペプチド配列、および
(o)配列番号18に示されるペプチド配列
【請求項11】
ホーミングシグナルペプチド配列が、血管新生している内皮細胞へのホーミングシグナルペプチド配列であるRGDまたはNGRである、請求項10記載の融合タンパク質。
【請求項12】
ヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxがヒトBAXのアミノ酸配列第112位から192位のアミノ酸配列からなる、請求項10または11記載の融合タンパク質。
【請求項13】
以下の(r)若しくは(s)に示す請求項10から12のいずれか1項に記載の融合タンパク質。
(r) 配列番号4または6で表されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質
(s) (q)の融合タンパク質アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ血管新生している内皮細胞に結合し、促進された細胞死誘導作用を有するタンパク質
【請求項14】
請求項10から13のいずれか1項に記載の融合タンパク質を含む癌細胞増殖抑制剤。
【請求項15】
請求項14記載の癌細胞増殖抑制剤であって、グリーン蛍光タンパク質(GFP)とヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxタンパク質との融合により、ヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxタンパク質の細胞死誘導作用が、単独のヒトBaxのBH3領域を含むN末端配列を除去したΔNBaxタンパク質の細胞死誘導作用に比べ増強されている癌細胞増殖抑制剤。

【国際公開番号】WO2004/085653
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504065(P2005−504065)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003956
【国際出願日】平成16年3月23日(2004.3.23)
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【Fターム(参考)】