説明

癌の診断と治療において有用な新規ポリペプチド

【課題】癌を予防又は治療するための医薬組成物の提供。
【解決手段】U7ポリペプチドの機能又は発現を抑制する試薬を有効成分とする細胞増殖抑制剤、及びそれを含む癌を治療又は予防するための医薬組成物に関し、前記試薬が、RNA干渉によりU7ポリペプチドをコードするmRNAのレベルを低下させる二本鎖RNAであり、該二本鎖RNAをコードするDNAである。更に、前記試薬が、U7ポリペプチドに対する抗体である医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の診断に有用なポリペプチド、該ポリペプチドの発現を検出することによる癌の検出方法、該ポリペプチドの機能又は発現を抑制する試薬を含む細胞増殖抑制剤、及び該細胞増殖抑制剤を含む癌の治療又は予防用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肺癌、大腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、絨毛癌、膀胱癌、腎癌、甲状腺癌、耳下腺癌、頭頚部癌、脳腫瘍、骨・軟部肉腫、尿管癌、肝癌、卵巣癌、卵管癌、食道癌、胃癌等の癌はいずれも悪性の腫瘍であり、特に進行性の癌は治療が困難で多くの場合に致命的となる。従って、癌に対する対策としては癌腫の早期発見が最も重要な課題である。
【0003】
上記のような癌の診断及び予後の観察には、従来から腫瘍マーカーとしてCEA、CA19−9等が報告され、用いられている。しかしながら、いずれも陽性率は20〜30%程度にすぎず、特に早期癌においてはほとんどのマーカーが陰性を示す。また、上述のように進行した癌は治療成績が不良であり、早期発見が最も大きな効果をもたらすことから、新規かつ有用な腫瘍マーカーを発見することが期待されている。なお、抗原タンパク質マーカーを用いた分子生物学的診断方法としては、例えば特開平7−51065号公報、再表00/060073号公報、特表2000−511536号公報に記載のものが知られている。
【0004】
癌の治療方法としては、癌組織の外科的な切除や全身性の抗癌剤投与等が行われている。しかしながら、前記のとおり、進行性に移行した癌の場合にはこれらの治療法も効果は少なく、また早期に発見した場合であっても、これらの治療法は患者に大きな身体的負担を負わせるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−51065号公報
【特許文献2】国際公開00/060073
【特許文献3】特表2000−511536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、新規な癌マーカーを見出し、癌を効果的に検出できる方法を提供すること、及び癌を予防又は治療するための医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、仮想ポリペプチドの1種が細胞において実際に発現していることを見いだすとともに、該ポリペプチドが癌細胞において特異的に発現亢進し、該ポリペプチドの機能又は発現を抑制することにより癌細胞の増殖を抑制できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)被検体由来の試料中のU7ポリペプチドの発現を検出することにより、癌を検出する方法。
(2)U7ポリペプチド又はその断片と特異的に反応する抗体を用いて、試料中のU7ポリペプチドの発現を免疫学的に測定する(1)記載の方法。
(3)U7ポリペプチドの発現を検出するための試薬を含む癌診断薬。
(4)U7ポリペプチドの発現を検出するための試薬が、U7ポリペプチド又はその断片と特異的に反応する抗体である(3)記載の癌診断薬。
(5)癌が肺癌、大腸癌、胃癌、前立腺癌、子宮癌、絨毛癌及び尿路上皮癌からなる群から選択される、(3)又は(4)記載の癌診断薬。
(6)(3)〜(5)のいずれかに記載の癌診断薬を含む癌診断用キット。
(7)U7ポリペプチドの機能又は発現を抑制する試薬を有効成分とする、細胞増殖抑制剤。
(8)U7ポリペプチドの機能又は発現を抑制する試薬が、U7ポリペプチドに対する抗体である(7)記載の細胞増殖抑制剤。
(9)U7ポリペプチドの機能又は発現を抑制する試薬が、RNA干渉によりU7ポリペプチドをコードするmRNAのレベルを低下させる二本鎖RNAである(7)記載の細胞増殖抑制剤。
(10)U7ポリペプチドの機能又は発現を抑制する試薬が、RNA干渉によりU7ポリペプチドをコードするmRNAのレベルを低下させる二本鎖RNAをコードするDNAである(7)記載の細胞増殖抑制剤。
(11)RNA干渉によりU7ポリペプチドをコードするmRNAのレベルを低下させる二本鎖RNAが、配列番号1で表される塩基配列と少なくとも80%の相同性を有する塩基配列を含むRNA及び配列番号2で表される塩基配列と少なくとも80%の相同性を有する塩基配列を含むRNAからなる二本鎖RNAである(9)又は(10)記載の細胞増殖抑制剤。
(12)(7)〜(11)のいずれかに記載の細胞増殖抑制剤を含む、癌を治療又は予防するための医薬組成物。
(13)癌が肺癌、大腸癌、胃癌、前立腺癌、子宮癌、絨毛癌及び尿路上皮癌からなる群から選択される、(12)記載の医薬組成物。
(14)配列番号1で表される塩基配列と少なくとも80%の相同性を有する塩基配列を含むRNA及び配列番号2で表される塩基配列と少なくとも80%の相同性を有する塩基配列を含むRNAからなる二本鎖RNA。
(15)(14)記載の二本鎖RNAをコードするDNA。
(16)(15)記載のDNAを含むベクター。
(17)以下の(a)又は(b)のタンパク質:
(a)配列番号13で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号13で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質であって、該タンパク質を抗原として動物を免疫して得られる抗体が(a)のタンパク質と特異的に反応する該タンパク質。
(18)以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子:
(a)配列番号13で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号13で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質であって、該タンパク質を抗原として動物を免疫して得られる抗体が(a)のタンパク質と特異的に反応する該タンパク質。
(19)以下の(a)又は(b)のDNAを含む遺伝子:
(a)配列番号14で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号14で表される塩基配列の全部又は一部からなるDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、該DNAによってコードされるタンパク質を抗原として動物を免疫して得られる抗体が(a)のDNAによってコードされるタンパク質と特異的に反応する該DNA。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、尿路上皮組織を用いた二次元電気泳動の結果を示す。Aは膀胱癌組織を用いた場合の結果(pH4.5〜5.5、12.5%ゲル)を示し、BはAにおける囲み部分の拡大図を示し(矢印がU7スポットを表す)、CはBと対応する正常尿路上皮組織を用いた場合の結果を示す。尿路上皮癌組織を試料にした場合(A)は、矢印のスポットU7が出現するが、正常尿路上皮組織(C)では当該スポットは見られない。
【図2】図2は、抗U7抗体によるウェスタンブロットの結果を示す。最上段の図(A)は、手術で得られたヒト尿路組織におけるU7ポリペプチド発現を調べた結果である。Tは膀胱癌組織の結果であり、Nは正常尿路上皮組織の結果である。癌組織ではU7に相当するバンドを確認できるが、正常組織には認められない。中段(B)、下段(C)の図は、各種癌細胞株におけるU7の発現結果である。5637、HT1197、J82、RT112、SBT31A、SCaBER、DSH-1、T24、TCCSUP、UM-UC-3:膀胱癌、WI38:正常線維芽細胞、BeWo:絨毛癌、AZ521:胃癌、Caski:子宮癌、RERF-LC-MS:肺癌、LoVo:大腸癌、AGS:胃癌、DLD-1:大腸癌、A549:肺癌、PC3:前立腺癌、LNCaP:前立腺癌、HeLa:子宮癌。
【図3】図3は、ラット胎児線維芽細胞REFに対するU7遺伝子導入の結果を示す。
【図4】図4は、RNA干渉によるU7機能阻害実験の結果を示す。Aは、ウェスタンブロットによりRNA干渉による発現抑制を確認した結果であり、Bは、RNA干渉による細胞増殖抑制試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.U7ポリペプチド
本発明者らは、正常細胞と各種癌細胞の比較を行った結果、正常細胞に比べて癌細胞で著しく発現亢進する新規ポリペプチドを見いだした。そして、当該ポリペプチドが、ポリペプチドデータベース上の仮想ポリペプチドであるC7orf24であることを見いだし、これをU7ポリペプチドとして同定した。U7ポリペプチド(C7orf24)はこれまでに仮想ポリペプチドとしてのみ知られていたが、本発明者らは当該ポリペプチドが細胞中で実際に発現していること、及び正常細胞と比較して癌細胞において過剰発現することを初めて見いだした。U7ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号13)及び該ポリペプチドをコードするDNA配列(配列番号14)は、Swiss-Prot primary accession number: O75223及びGen Bank accession number:NM_024051として登録されている(Protein name: Protein C7orf24、Gene name :C7ORF24)。
【0011】
U7ポリペプチドには、配列番号13で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質であって、該タンパク質を抗原として動物を免疫して得られる抗体が配列番号13で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質と特異的に反応する該タンパク質が包含される。ここで数個とは、通常2〜5個、好ましくは2〜3個である。免疫する動物については特に制限されないが、好ましくは哺乳動物である。
【0012】
U7ポリペプチドをコードする遺伝子には、配列番号14で表される塩基配列の全部又は一部からなるDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、該DNAによってコードされるタンパク質を抗原として動物を免疫して得られる抗体が配列番号14で表される塩基配列からなるDNAによってコードされるタンパク質と特異的に反応する該DNAが包含される。
【0013】
ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、すなわち、本発明の遺伝子に対し高い相同性(相同性が90%以上、好ましくは95%以上)を有するDNAがハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、このような条件は、0.5〜1MのNaCl存在下42〜68℃で、又は50%ホルムアミド存在下42℃で、又は水溶液中65〜68℃で、ハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline sodium citrate)溶液を用いて室温〜68℃でフィルターを洗浄することにより達成できる。
【0014】
ここで、「一部の配列」とは、上記遺伝子の塩基配列の一部分を含むDNAの塩基配列であって、該DNAが、抗原として動物に免疫したときにU7ポリペプチドと特異的に反応する抗体を産生するタンパク質をコードするものを指す。また「一部の配列」は、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせるのに十分な塩基配列の長さを有するもの、例えば、少なくとも10塩基、好ましくは少なくとも50塩基、より好ましくは少なくとも200塩基の配列である。
【0015】
本発明において、「ポリペプチド」とは、アミド結合(ペプチド結合)によって互いに結合した複数個のアミノ酸残基から構成された分子を意味し、タンパク質及びオリゴペプチドを包含する。また、「抗体」は、U7ポリペプチド又はその断片を免疫原として作製されたポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を意味する。
【0016】
本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、本発明に係る医薬を調製するための薬剤の調製はRemington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, ed. A. Gennaro, Mack Publishing Co., Easton, PA, 1990に、遺伝子工学及び分子生物学的技術はSambrook and Maniatis, Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989; Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley&Sons,New York,N.Y,1995等に記載されている。
【0017】
2.癌の検出
本発明は、被検体由来の試料におけるU7ポリペプチドの発現を検出することにより、癌を検出する方法に関する。上述の通り、U7ポリペプチドは、癌細胞において特異的に発現する。従って、被検体由来の試料においてこのU7ポリペプチドの発現を検出することによって、癌を検出することが可能となる。
【0018】
また、本発明の方法により、好ましくは固形癌、例えば限定するものではないが、肺癌、大腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、絨毛癌、腎癌、甲状腺癌、耳下腺癌、頭頚部癌、脳腫瘍、骨・軟部肉腫、肝癌、卵巣癌、卵管癌、食道癌、胃癌、尿路上皮癌(腎盂癌、尿管癌、膀胱癌、尿道癌)等を検出することが可能である。好ましくは肺癌、大腸癌、胃癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、絨毛癌、尿路上皮癌、より好ましくは尿路上皮癌、さらに好ましくは膀胱癌の検出のために好適に用いることができる。
【0019】
ここで被検体由来の試料におけるU7ポリペプチドの発現を検出する方法としては、(1)U7ポリペプチド又はその断片と特異的に反応する抗体、(2)U7ポリペプチド、(3)U7ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに基づいて設計されたプローブ又はプライマーを用いる方法が挙げられる。以下、これらの手段について詳述する。
【0020】
(1)U7ポリペプチド又はその断片と特異的に反応する抗体による検出
U7ポリペプチド又はその断片と特異的に反応する抗体は、癌において発現されたU7ポリペプチドと結合することができるため、該抗体を用いて試料中のU7ポリペプチドとの反応を検出することによって、該試料が癌患者又はハイリスク者に由来するか否かを診断することができる。
【0021】
U7ポリペプチド又はその断片と特異的に反応する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であり、それぞれU7ポリペプチドのエピトープに結合することができる。本発明の抗体のグロブリンタイプは、上記特徴を有するものである限り特に限定されるものではなく、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれでもよいが、IgG及びIgMが好ましい。本発明におけるモノクローナル抗体には、特に、重鎖及び/または軽鎖の一部が特定の種、または特定の抗体クラス若しくはサブクラス由来であり、鎖の残りの部分が別の種、または別の抗体クラス若しくはサブクラス由来である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、並びに、所望の生物学的活性を有する限り、Fab、F(ab’)、Fv断片等の抗体断片が含まれる(米国特許第4,816,567号;Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855(1984))。
【0022】
本発明の抗体を作製するにあたり、免疫原(抗原)となるためのポリペプチドを調製する。免疫原ポリペプチドとしては、U7ポリペプチド又はその断片を用いる。本発明において免疫原として使用可能なU7ポリペプチドのアミノ酸配列及び該ポリペプチドをコードするcDNA配列は、Swiss-Prot primary accession number:O75223及びGen Bank accession number:NM_024051(Protein name: Protein C7orf24、Gene name :C7ORF24)として公開されている。従って、公開されているアミノ酸配列情報を利用して、当技術分野で公知の手法、例えば固相ペプチド合成法などにより、免疫原として使用するためのU7ポリペプチド又はその断片を合成することができる。断片としてはU7ポリペプチドのうち少なくとも6個以上のアミノ酸、好ましくは6〜500、より好ましくは8〜50アミノ酸からなる部分ペプチドが挙げられる。免疫原としてU7ポリペプチド断片を使用する場合は、KLH、BSAなどのキャリアータンパク質に連結させて使用するのが好ましい。
【0023】
また、公知の遺伝子組換え手法を利用して、U7ポリペプチドをコードするcDNAの情報を用いてU7ポリペプチドを生産することも可能である。以下、組換え手法を用いたU7ポリペプチドの生産に関して説明する。
【0024】
U7生産用組換えベクターは、上記公開されているcDNA配列を適当なベクターに連結することにより得ることができ、形質転換体は、U7生産用組換えベクターを、U7ポリペプチドが発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。
【0025】
ベクターには、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドが使用される。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET21a、pGEX4T、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YEp24、YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0026】
ベクターにU7cDNAを挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0027】
その他、哺乳動物細胞において用いられるU7生産用組換えベクターには、プロモーター、U7cDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などが連結されていてもよい。
【0028】
DNA断片とベクター断片とを連結させるには、公知のDNAリガーゼを用いる。そして、DNA断片とベクター断片とをアニーリングさせた後連結させ、U7生産用組換えベクターを作製する。
【0029】
形質転換に使用する宿主としては、U7ポリペプチドを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。
【0030】
一例として、細菌を宿主とする場合は、U7生産用組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、U7DNA、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)BRLなどが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。プロモーターは、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0031】
酵母、動物細胞、昆虫細胞などを宿主とする場合には、同様に、当技術分野で公知の手法に従って、U7ポリペプチドを生産することができる。
【0032】
本発明において免疫原として使用するU7ポリペプチドは、上記作製した形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養細胞、培養菌体、又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。上記形質転換体を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0033】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0034】
培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、37℃で6〜24時間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0035】
培養後、U7ポリペプチドが菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することによりタンパク質を抽出する。また、U7ポリペプチドが菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中からU7ポリペプチドを単離精製することができる。
【0036】
U7ポリペプチドが得られたか否かは、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動等により確認することができる。
【0037】
なお、以上の方法によって得られる組換えU7ポリペプチドには、他の任意のタンパク質との融合タンパク質も含まれる。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)や緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質などが例示できる。さらに、形質転換細胞で発現されたペプチドは、翻訳された後、細胞内で各種修飾を受ける場合がある。したがって、修飾されたペプチドもU7ポリペプチドとして用いることができる。このような翻訳後修飾としては、N末端メチオニンの脱離、N末端アセチル化、糖鎖付加、細胞内プロテアーゼによる限定分解、ミリストイル化、イソプレニル化、リン酸化などが例示できる。
【0038】
次に、得られたタンパク質を緩衝液に溶解して免疫原を調製する。なお、必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバントを添加してもよい。アジュバントとしては、市販の完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント等が挙げられ、これらの何れのものを混合してもよい。
【0039】
モノクローナル抗体は、例えばハイブリドーマ法(Kohler and Mi lstein, Nature (1975) 256:495)、または、組換え方法(米国特許第4,816,567号)により製造してもよい。また、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい(Clackson et al., Nature (1991) 352:624-628; Marks et al., J. Mol. Biol. (1991) 222:581-597)。例えば、以下のようにして作製することができる。
【0040】
i)免疫及び抗体産生細胞の採取
上記のようにして得られた免疫原を、哺乳動物、例えばラット、マウス(例えば近交系マウスのBALB/c)、ウサギなどに投与する。免疫原の1回の投与量は、免疫動物の種類、投与経路などにより適宜決定されるものであるが、動物1匹当たり約50〜200μgである。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に免疫原を注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、初回免疫後、数日から数週間間隔で、好ましくは1〜4週間間隔で、2〜6回、好ましくは3〜4回追加免疫を行う。初回免疫の後、免疫動物の血清中の抗体価の測定をELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法等により繰り返し行い、抗体価がプラトーに達したときは、免疫原を静脈内又は腹腔内に注射し、最終免疫とする。そして、最終免疫の日から2〜5日後、好ましくは3日後に、抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞又は局所リンパ節細胞が好ましい。
【0041】
ii)細胞融合
ハイブリドーマを得るため、上述のように免疫動物から得た抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。
【0042】
抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞としては、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。また株化細胞は、免疫動物と同種系の動物に由来するものが好ましい。ミエローマ細胞の具体例としては、BALB/cマウス由来のヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ(HGPRT)欠損細胞株である、P3X63−Ag.8株(ATCC TIB9)、P3X63−Ag.8.U1株(癌研究リサーチソースバンク(JCRB)9085)、P3/NSI/1−Ag4−1株(JCRB 0009)、P3x63Ag8.653株(JCRB 0028)又はSp2/0−Ag14株(JCRB 0029)などが挙げられる。
【0043】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地などの動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを約1:1〜20:1の割合で混合し、細胞融合促進剤の存在下にて融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1,500〜4,000ダルトンのポリエチレングリコール等を約10〜80%の濃度で使用することができる。また場合によっては、融合効率を高めるために、ジメチルスルホキシドなどの補助剤を併用してもよい。さらに、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0044】
iii)ハイブリドーマの選別及びクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を、例えばウシ胎児血清含有RPMI−1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に2×10個/ウエル程度まき、各ウエルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。培養温度は、20〜40℃、好ましくは約37℃である。ミエローマ細胞がHGPRT欠損株又はチミジンキナーゼ(TK)欠損株のものである場合には、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジンを含む選択培地(HAT培地)を用いることにより、抗体産生能を有する細胞とミエローマ細胞のハイブリドーマのみを選択的に培養し、増殖させることができる。その結果、選択培地で培養開始後、約14日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0045】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウエルに含まれる培養上清の一部を採取し、酵素免疫測定法(EIA:Enzyme Immuno Assay及びELISA)、放射免疫測定法(RIA:Radio Immuno Assay)等によって行うことができる。
【0046】
融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立する。本発明のハイブリドーマは、後述するように、RPMI1640、DMEM等の基本培地中での培養において安定であり、尿路上皮癌に由来するU7ポリペプチドと特異的に反応するモノクローナル抗体を産生、分泌するものである。
【0047】
iv)モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。
【0048】
細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃,5%CO濃度)で2〜10日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。
【0049】
腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを約1×10個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水又は血清を採取する。
【0050】
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜に選択して、又はこれらを組み合わせることにより、精製された本発明のモノクローナル抗体を得ることができる。
【0051】
ポリクローナル抗体を作製する場合は、前記と同様に動物を免疫し、最終の免疫日から6〜60日後に、酵素免疫測定法(EIA及びELISA)、放射免疫測定法(RIA)等で抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。その後は、抗血清中のポリクローナル抗体の反応性をELISA法などで測定する。
【0052】
U7ポリペプチドに対する抗体を用いて被検体由来の試料中のU7ポリペプチドの発現を検出し、癌を検出する場合には、被検体の試料中に、U7ポリペプチドに対する抗体又はその標識化抗体と結合する抗原ポリペプチドが存在するか否かを試験し、試料中にその抗原ポリペプチドが存在する被検体を癌患者又はそのハイリスク者と判定する。すなわち、ここで使用する抗体又は標識化抗体は、癌細胞で発現しているU7ポリペプチドと特異的に結合する抗体であるから、この抗体と結合する抗原ポリペプチドを含む試料を、固形癌患者又はそのハイリスク患者の試料として判定することができる。なおその際に、好ましくは2種類以上、好ましくは5種類以上、さらに好ましくは10種類以上、最も好ましくは15−39種類の抗体について試料中のU7ポリペプチドとの結合を判定する。
【0053】
また別の態様は、抗体とU7ポリペプチドとの結合を液相系において行う方法である。例えば、標識化抗体と試料とを接触させて標識化抗体とU7ポリペプチドを結合させ、この結合体を上記と同様の方法で分離し、標識シグナルを同様の方法で検出する。
【0054】
液相系での検出の別の方法は、U7ポリペプチドに対する抗体(一次抗体)と試料とを接触させて一次抗体と抗原ポリペプチドを結合させ、この結合体に標識化抗体(二次抗体)を結合させ、この三者の結合体における標識シグナルを検出する。あるいは、さらにシグナルを増強させるためには、非標識の二次抗体を先ず抗体+抗原ポリペプチド結合体に結合させ、この二次抗体に標識物質を結合させるようにしてもよい。このような二次抗体への標識物質の結合は、例えば二次抗体をビオチン化し、標識物質をアビジン化しておくことによって行うことができる。あるいは、二次抗体の一部領域(例えば、Fc領域)を認識する抗体(三次抗体)を標識し、この三次抗体を二次抗体に結合させるようにしてもよい。なお、一次抗体と二次抗体は、両方ともモノクローナル抗体を用いることもでき、あるいは、一次抗体と二次抗体のいずれか一方をポリクローナル抗体とすることもできる。液相からの結合体の分離やシグナルの検出は上記と同様とすることができる。
【0055】
また別の態様は、抗体とU7ポリペプチドとの結合を固相系において試験する方法である。この固相系における方法は、極微量のU7ポリペプチドの検出と操作の簡便化のため好ましい方法である。すなわちこの固相系の方法は、U7ポリペプチドに対する抗体(一次抗体)を固相(樹脂プレート、メンブレン、ビーズ等)に固定化し、この固定化抗体にU7ポリペプチドを結合させ、非結合ペプチドを洗浄除去した後、プレート上に残った抗体+U7ポリペプチド結合体に標識化抗体(二次抗体)を結合させ、この二次抗体のシグナルを検出する方法である。この方法は、いわゆる「サンドイッチ法」と呼ばれる方法であり、マーカーとして酵素を用いる場合には、ELISAとして広く用いられている方法である。一次抗体と二次抗体は、両方ともモノクローナル抗体を用いることもでき、あるいは、一次抗体と二次抗体のいずれか一方をポリクローナル抗体とすることもできる。シグナルの検出は上記と同様とすることができる。
【0056】
試料としては、U7ポリペプチドが発現される試料であれば特に限定されるものではなく、尿、血清、細胞破砕物、組織切片、唾液、便、喀痰、胸水、腹水、脳脊髄液、膣液等を使用することができる。癌として膀胱癌、尿管癌、腎盂癌及び尿道癌等を検出する場合には、試料として尿を使用するのが好ましく、肺癌、胃癌及び大腸癌等を検出する場合には、試料として血清を使用するのが好ましく、胃癌及び大腸癌等を検出する場合には、試料として便及び腹水を使用するのが好ましい。肺癌を検出する場合は、喀痰及び胸水等を試料とするのが好ましい。
【0057】
(2)U7ポリペプチドによる検出
U7ポリペプチドは、癌細胞が発現するポリペプチドであるため、癌を有する被検体の試料中には、発現されたU7ポリペプチドに対する抗体が存在する。従って、U7ポリペプチドを使用して試料中の抗体との反応を調べることによって、被検体におけるU7ポリペプチドの発現を検出することができる。このU7ポリペプチドとしては、上記(1)で免疫原として記載したU7ポリペプチド又はその断片を用いることができる。U7ポリペプチドの製造方法については、上記の通りである。
【0058】
U7ポリペプチドを用いて、被検体由来の試料におけるU7ポリペプチドの発現を検出するためには、被検体の試料中に、U7ポリペプチドと結合する抗体が1種類以上存在するか否かを試験する。そして試料にその抗体が存在する被検体を癌患者又は癌ハイリスク者と判定する。すなわち、U7ポリペプチドは、癌患者に由来する抗体と結合するポリペプチドであるから、被検体の試料と反応させた結果、試料がこれらの抗原ポリペプチドと結合する抗体を含む場合には、癌患者又はそのハイリスク患者の試料として判定することができる。さらに、すでに知られている他の癌マーカー(例えば、CEA、Cyfra、SCC−Agなど)を併用することもできる。また、試料としては、(1)と同様のものを用いることができる。
【0059】
U7ポリペプチドの具体的な検出方法は、例えばU7ポリペプチドに被検体由来試料を接触させ、該U7ポリペプチドと被検体由来試料中の抗体とを液相中において反応させることにより行う。さらに試料中の抗体と特異的に結合する標識化抗体を反応させて、標識化抗体のシグナルを検出すればよい。標識化抗体に使用する標識としては、酵素、放射性同位体又は蛍光色素を使用することができる。酵素は、代謝回転数が大きいこと、抗体と結合させても安定であること、基質を特異的に着色させる等の条件を満たすものであれば特段の制限はなく、通常の酵素免疫アッセイ(EIA)に用いられる酵素、例えば、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコース−6−リン酸化脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素等を用いることもできる。また、酵素阻害物質や補酵素等を用いることもできる。これら酵素と抗体との結合は、マレイミド化合物等の架橋剤を用いる公知の方法によって行うことができる。基質としては、使用する酵素の種類に応じて公知の物質を使用することができる。例えば酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジシンを、また酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、パラニトロフェノール等を用いることができる。
【0060】
酵素を用いる場合には、酵素作用によって分解して発色する基質を加え、基質の分解量を光学的に測定することによって酵素活性を求め、これを結合抗体量に換算し、標準値との比較から抗体量が算出される。
【0061】
放射性同位体としては、125IやH等の通常のラジオイムノアッセイ(RIA)で用いられているものを使用することができる。放射性同位体を用いる場合には、放射性同位体の発する放射線量をシンチレーションカウンター等により測定する。
【0062】
蛍光色素としては、フルオレッセンスイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等の通常の蛍光抗体法に用いられるものを使用することができる。蛍光色素を用いる場合には、蛍光顕微鏡を組み合わせた測定装置によって蛍光量を測定すればよい。
【0063】
さらにまた、標識化抗体には、マンガンや鉄等の金属を結合させたものも含まれる。このような金属結合抗体を体内に投与し、MRI等によって金属を測定することによって、血清中抗体の存在、すなわちU7ポリペプチドの発現を検出することができる。
【0064】
シグナルの検出は、例えば、ウエスタンブロット分析を採用することができる。あるいは、抗原ポリペプチド+血清中抗体+標識化抗体の結合体を、公知の分離手段(クロマト法、塩析法、アルコール沈殿法、酵素法、固相法等)によって分離し、標識化抗体のシグナルを検出してもよい。
【0065】
また、U7ポリペプチド又はその断片を固相(プレート、メンブレン、ビーズ等)上に固定化し、この固相上において被検体血清の抗体との結合を試験することもできる。抗原ポリペプチドを固相上に固定化することによって、未結合の標識化結合分子を容易に除去することができる。
【0066】
(3)プライマー又はプローブによる検出
本発明の検出方法は、U7ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの全部若しくは一部の配列又はその相補配列を含むプライマー又はプローブを用いて実施することができる。該プライマー又はプローブは、被検体由来の試料中に発現している抗原ポリペプチドのmRNA又はmRNAから合成したcDNAと特異的に結合して、試料中の抗原ポリペプチドをコードする遺伝子の発現、すなわち抗原ポリペプチドの発現を検出することが可能である。
【0067】
プライマー及びプローブは、当業者に公知の手法に従って、設計することができる。プライマー及びプローブ設計の留意点として、例えば以下を指摘することができる。
【0068】
プライマーとして実質的な機能を有する長さとしては、10塩基以上が好ましく、さらに好ましくは16〜50塩基であり、さらに好ましくは20〜30塩基である。またプローブとして実質的な機能を有する長さとしては、10塩基以上が好ましく、さらに好ましくは16〜50塩基であり、さらに好ましくは20〜30塩基である。
【0069】
また設計の際には、プライマー又はプローブの融解温度(Tm)を確認することが好ましい。Tmとは、任意のポリヌクレオチド鎖の50%がその相補鎖とハイブリッドを形成する温度を意味し、鋳型DNA又はRNAとプライマー又はプローブとが二本鎖を形成してアニーリング又はハイブリダイズするためには、アニーリング又はハイブリダイゼーションの温度を最適化する必要がある。一方、この温度を下げすぎると非特異的な反応が起こるため、温度は可能な限り高いことが望ましい。従って、設計しようとするプライマー又はプローブのTmは、増幅反応又はハイブリダイゼーションを行う上で重要な因子である。Tmの確認には、公知のプライマー又はプローブ設計用ソフトウエアを利用することができ、本発明で利用可能なソフトウエアとしては、例えばOligoTM(National Bioscience Inc.(米国)製)、GENETYX[ソフトウェア開発(株)(日本)製]等などが挙げられる。またTmの確認は、ソフトウエアを使わず、自ら計算することによっても行うことができる。その場合には、最近接塩基対法(Nearest Neighbor Method)、Wallance法、GC%法等に基づく計算式を利用することができる。本発明では、平均Tmが約45〜55℃であることが好ましい。
【0070】
プライマー又はプローブとして特異的なアニーリング又はハイブリダイズが可能な条件としては、その他にもGC含量などがあり、そのような条件は当業者に周知である。
【0071】
上述のように設計したプライマー及びプローブは、当業者に公知の方法に従って調製することができる。さらに、当業者には周知のように、プライマー又はプローブには、アニーリング又はハイブリダイズする部分以外の配列、例えばタグ配列などの付加配列が含まれていてもよく、上述したプライマー又はプローブにそのような付加配列が付加されたものも本発明の範囲内に含まれるものとする。
【0072】
被検体由来の試料におけるU7ポリペプチドの発現を検出するためには、上記プライマー及び/又はプローブをそれぞれ増幅反応又はハイブリダイゼーション反応において用い、その増幅産物又はハイブリッド産物を検出する。
【0073】
試料としては、尿、血液、細胞破砕物、組織切片、唾液、便、喀痰、胸水、腹水、脳脊髄液及び膣液等を対象とすることができる。また増幅反応又はハイブリダイゼーション反応を行う場合には、通常は、被検体由来の試料から被検核酸を調製する。被検核酸は、核酸であればDNA又はRNAのいずれでもよい。DNA又はRNAは、当技術分野で周知の方法を適宜使用して抽出することができる。例えば、DNAを抽出する場合には、フェノール抽出及びエタノール沈殿を行う方法、ガラスビーズを用いる方法など、またRNAを抽出する場合には、グアニジン−塩化セシウム超遠心法、ホットフェノール法、又はチオシアン酸グアジニウム−フェノール−クロロホルム(AGPC)法などを利用することができる。以上のように調製した試料又は被検核酸を用いて、以下に示す増幅反応及び/又はハイブリダイゼーション反応を行う。
【0074】
プライマーを用いて被検核酸を鋳型とした増幅反応を行い、その特異的増幅反応を検出することにより、試料中のU7ポリペプチドの発現の検出を行うことができる。
【0075】
増幅手法としては、特に限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法の原理を利用した公知の方法を挙げることができる。例えば、PCR法、LAMP(Loop-mediated isothermal Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法、RCA(Rolling Circle Amplification)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法等を挙げることができる。増幅は、増幅産物が検出可能なレベルになるまで行う。
【0076】
例えば、PCR法は、被検核酸であるDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼにより、一対のプライマー間の塩基配列を合成するものである。PCR法によれば、変性、アニーリング及び合成からなるサイクルを繰り返すことによって、増幅断片を指数関数的に増幅させることができる。PCRの最適条件は、当業者であれば容易に決定することができる。
【0077】
またRT−PCR法では、まず、被検核酸であるRNAを鋳型として、逆転写酵素反応によりcDNAを作製し、その後、作製したcDNAを鋳型として一対のプライマーを用いてPCR法を行うものである。
【0078】
なお、増幅手法として競合PCR法やリアルタイムPCR法等の定量的PCR法などを採用することにより、定量的な検出が可能となる。
【0079】
上記増幅反応後に特異的な増幅反応が起こったか否かを検出するには、増幅反応により得られる増幅産物を特異的に認識することができる公知の手段を用いることができる。例えば、アガロースゲル電気泳動法等を利用して、特定のサイズの増幅断片が増幅されているか否かを確認することにより、特異的な増幅反応を検出することができる。
【0080】
あるいは、増幅反応の過程で取り込まれるdNTPに、放射性同位体、蛍光物質、発光物質などの標識体を作用させ、この標識体を検出することができる。放射性同位体としては、32P、125I、35Sなどを用いることができる。また蛍光物質としては、例えば、フルオレセン(FITC)、スルホローダミン(SR)、テトラメチルローダミン(TRITC)などを用いることができる。また発光物質としてはルシフェリンなどを用いることができる。
【0081】
これら標識体の種類や標識体の導入方法等に関しては、特に制限されることはなく、従来公知の各種手段を用いることができる。例えば標識体の導入方法としては、放射性同位体を用いるランダムプライム法が挙げられる。
【0082】
標識したdNTPを取り込んだ増幅産物を観察する方法としては、上述した標識体を検出するための当技術分野で公知の方法であればいずれの方法でもよい。例えば、標識体として放射性同位体を用いた場合には、放射活性を、例えば液体シンチレーションカウンター、γ−カウンターなどにより計測することができる。また標識体として蛍光を用いた場合には、その蛍光を蛍光顕微鏡、蛍光プレートリーダーなどを用いて検出することができる。
【0083】
以上のようにして特異的な増幅反応が検出された場合には、試料中にU7ポリペプチドをコードする遺伝子が発現している、すなわちU7ポリペプチドが発現していることとなる。従って、試料中にU7ポリペプチドが発現している被検体を癌患者又はハイリスク者と判定する。
【0084】
また、プローブを用いて試料又は被検核酸に対するハイブリダイゼーション反応を行い、その特異的結合(ハイブリッド)を検出することにより、U7ポリペプチドの発現を検出することもできる。
【0085】
ハイブリダイゼーション反応は、プローブがU7ポリペプチドに由来するポリヌクレオチドのみと特異的に結合するような条件、すなわちストリンジェントな条件下で行う必要がある。そのようなストリンジェントな条件は当技術分野で周知であり、特に限定されない。ストリンジェントな条件としては、例えばナトリウム濃度が、10〜300mM、好ましくは20〜100mMであり、温度が25〜70℃、好ましくは42〜55℃における条件が挙げられる。
【0086】
ハイブリダイゼーションを行う場合には、プローブに蛍光標識(フルオレセイン、ローダミンなど)、放射性標識(32Pなど)、酵素標識(アルカリホスファターゼ、西洋ワサビパーオキシダーゼ等)、ビオチン標識等の適当な標識を付加することができる。従って、本固形癌診断用キットには、上記のような標識を付加したプローブも含まれる。
【0087】
標識化プローブを用いた検出は、試料又はそれから調製した被検核酸とプローブとをハイブリダイズ可能なように接触させることを含む。「ハイブリダイズ可能なように」とは、上述したストリンジェントな条件下にて特異的な結合が起こる環境(温度、塩濃度)において、ということである。具体的には、試料又は被検核酸をスライドグラス、メンブラン、マイクロタイタープレート等の適当な固相に固定化し、標識を付加したプローブを添加することにより、プローブと試料又は被検核酸とを接触させてハイブリダイゼーション反応を行い、ハイブリダイズしなかったプローブを除去した後、試料又は被検核酸とハイブリダイズしているプローブの標識を検出する。標識が検出された場合には、試料中にU7ポリペプチドが発現していることとなる。従って、試料中にU7ポリペプチドが発現している被検体を癌患者又はハイリスク者と判定する。
【0088】
また、標識の濃度を指標とすることにより、定量的な検出も可能となる。標識化プローブを用いた検出方法の例としては、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)法等を挙げることができる。
【0089】
上記(1)〜(3)に述べたような本発明の検出方法における具体的な判定基準としては、被検体のU7ポリペプチド発現量が健常者のそれと比較して、10%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは100%以上である場合である。
【0090】
本発明はまた、上記検出方法に使用するための、癌診断薬に関する。すなわち本発明の診断薬は、U7ポリペプチドの発現を検出するための試薬として、例えば、上記に述べたような(1)U7ポリペプチド又はその断片と特異的に反応する抗体、(2)U7ポリペプチド及び(3)U7ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドから選択されるものを含む。
【0091】
本発明はまた、上記癌診断薬を含む癌診断用キットに関する。このようなキットとしては、被検成分の種類に応じて各種のものが市販されており、本発明の癌診断用キットも、U7ポリペプチドの発現を検出するための試薬(U7ポリペプチド、抗体、プライマー、プローブなど)を用いることを除き、公知公用のキットに用いられている各要素によって構成することができる。U7ポリペプチドの発現を検出するための試薬に加え、例えば、標識二次抗体、担体、洗浄バッファー、試料希釈液、酵素基質、反応停止液、標準物質等を含みうる。
【0092】
3.細胞増殖抑制剤及び癌を治療又は予防するための医薬組成物
本発明者らは、U7ポリペプチドが癌細胞において特異的に発現することを見いだした。さらに、U7ポリペプチド遺伝子を各種細胞に導入したところ、当該遺伝子を導入した陽性群と対照群との間で、細胞増殖に差が見られることを見いだした。また、癌細胞においてU7ポリペプチドの発現を阻害すると、細胞生存率が顕著に低下するのに対し、正常細胞において同様に発現を阻害しても細胞生存率に有意な影響を及ぼさないことを見いだした。
【0093】
上記知見に基づき、本発明者らは、U7ポリペプチドの機能又は発現を抑制することにより、細胞、特に癌細胞の増殖を抑制できること、細胞の癌化及びその進行を治療又は予防できることを見いだした。
【0094】
すなわち、本発明は、U7ポリペプチドの機能又は発現を抑制する試薬を有効成分とする細胞増殖抑制剤及び該細胞増殖抑制剤を含む癌を治療又は予防するための医薬組成物に関する。かかるU7ポリペプチドの機能又は発現を抑制する試薬としては、以下のものが挙げられる。
(1)U7ポリペプチド又はその断片と特異的に反応する抗体
U7ポリペプチド又はその断片と特異的に反応する抗体は、被検体におけるU7ポリペプチドと特異的に結合することにより、その活性を抑制することができる。従って、U7ポリペプチドに対する抗体を含む医薬組成物は、癌の治療又は予防に有効である。U7ポリペプチド又はその断片と特異的に反応する抗体については、既に述べたとおりである。
(2)U7ポリペプチドをコードする遺伝子のへ発現を抑制可能な試薬
U7ポリペプチドをコードする遺伝子の発現を抑制可能な試薬としては、例えば、対象となる被検体における当該遺伝子の転写プロモーター領域を転写抑制型プロモーターと置換するために用いることが可能な発現ベクターが挙げられる。また、U7ポリペプチドをコードする遺伝子の転写を抑制可能な試薬としては、当該遺伝子の転写に関わる領域に転写抑制活性のある塩基配列を挿入するための発現ベクターを用いてもよい。上記のような発現ベクターの設計及び調製は当業者には周知である。
【0095】
また、U7ポリペプチドをコードする遺伝子の発現を抑制可能な試薬としては、いわゆるアンチセンスRNA、該RNAをコード、すなわち転写する遺伝子、及び該遺伝子を含むベクター等が挙げられる。例えば、当該遺伝子のmRNAに対するアンチセンスRNAを転写する遺伝子を、プラスミドとして導入するか又は被検体のゲノムに組み込み、当該アンチセンスRNAを過剰発現させることで、U7ポリペプチドをコードする遺伝子のmRNAの翻訳が抑制される。
【0096】
アンチセンスRNAが標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上:新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現(日本生化学会編,東京化学同人)pp.319-347, 1993)。
【0097】
本発明で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれの作用により標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、遺伝子のmRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3’側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。アンチセンスDNAの配列は、形質転換される植物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて標的遺伝子の発現を効果的に抑制するには、アンチセンスDNAの長さは少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
【0098】
アンチセンスRNAに関する技術は、例えば哺乳動物を宿主とした場合でも知られている(Han et al.(1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88,4313-4317; Hackett et al.(2000) Plant Physiol., 124,1079-86)。
【0099】
U7ポリペプチドをコードする遺伝子の発現を抑制するために、リボザイムをコードするDNAを利用することも可能である。従って本発明の一態様において、細胞増殖阻害剤は、U7ポリペプチドをコードする遺伝子に対するリボザイムを有効成分とする。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことを指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子:タンパク質核酸酵素,35:2191,1990)。
【0100】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3’側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi M, et al., FEBS Lett 228: 228, 1988)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi M, et al., FEBS Lett 239: 285, 1988、小泉誠および大塚栄子: タンパク質核酸酵素 35: 2191, 1990、 Koizumi M, et al., Nucl. Acids Res 17: 7059, 1989)。
【0101】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan JM., Nature 323: 349, 1986)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi Y, Sasaki N, Nucl. Acids Res 19: 6751, 1991、菊池洋: 化学と生物 30: 112, 1992)。
【0102】
標的を切断できるように設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるように、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。このとき、転写されたRNAの5’端や3’端に余分な配列が付加されていると、リボザイムの活性が失われることがあるが、こういった場合は、転写されたリボザイムを含むRNAからリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5’側や3’側にシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である(Taira K, et al., Protein Eng 3: 733,1990、Dzianott AM, Bujarski JJ, Proc Natl Acad Sci USA 86: 4823, 1989、Grosshans CA, Cech TR, Nucl Acids Res 19: 3875, 1991、Taira K, et al., Nucl Acids Res 19: 5125, 1991)。また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにすることで、より効果を高めることもできる(Yuyama N, et al., Biochem Biophys Res Commun 186: 1271, 1992)。このように、リボザイムを用いて本発明におけるU7ポリペプチド遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0103】
U7ポリペプチドをコードする遺伝子の発現を抑制するために、RNA干渉(RNA interference)を利用することも可能である。具体的には、標的とするU7ポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列に相補的な二本鎖RNAを細胞内に導入すると、U7ポリペプチドをコードする内在性遺伝子のmRNAが分解されて、結果としてその細胞での遺伝子発現が特異的に抑制されることとなる。この手法は、哺乳動物細胞などにおいても確認されている(Hannon,GJ., Nature (2002) 418,244-251 (review);特表2002−516062号公報;特表平8−506734号公報)。RNAiに用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を有する。また、配列の同一性は上述した手法により決定できる。
【0104】
従って、一態様において本発明の細胞増殖抑制剤は、U7ポリペプチドのコードするmRNAのレベルを低下させる二本鎖RNA、該二本鎖RNAをコードするDNA、及び該DNAを含むベクターから選択される試薬を有効成分として含む。該二本鎖RNAとしては、好ましくはsiRNA、具体的には、配列番号1で表される塩基配列を含むRNA(センス鎖)及び配列番号2で表される塩基配列を含むRNA(アンチセンス鎖)からなる二本鎖RNA、配列番号3で表される塩基配列を含むRNA(センス鎖)及び配列番号4で表される塩基配列を含むRNA(アンチセンス鎖)からなる二本鎖RNA、配列番号5で表される塩基配列を含むRNA(センス鎖)及び配列番号6で表される塩基配列を含むRNA(アンチセンス鎖)からなる二本鎖RNA、配列番号7で表される塩基配列を含むRNA(センス鎖)及び配列番号8で表される塩基配列を含むRNA(アンチセンス鎖)からなる二本鎖RNA、配列番号9で表される塩基配列を含むRNA(センス鎖)及び配列番号10で表される塩基配列を含むRNA(アンチセンス鎖)からなる二本鎖RNA、ならびに配列番号11で表される塩基配列を含むRNA(センス鎖)及び配列番号12で表される塩基配列を含むRNA(アンチセンス鎖)からなる二本鎖RNAが挙げられる。配列番号1で表される塩基配列を含むRNA(センス鎖)及び配列番号2で表される塩基配列を含むRNA(アンチセンス鎖)からなる二本鎖RNAが好ましい。
【0105】
上記二本鎖RNAにおいて、各配列番号で表される塩基配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の相同性を有する塩基配列を含むRNAもまた本発明に包含される。該RNAは、それぞれ、通常16〜26塩基、好ましくは19〜23塩基、より好ましくは21塩基である。
【0106】
U7ポリペプチドのコードするmRNAのレベルを低下させる二本鎖RNA、該二本鎖RNAをコードするDNA、及び該DNAを含むベクターについては、当業者には周知であり、例えば、実験医学別冊、注目のバイオ実験シリーズ「RNAi実験プロトコール」、多比良 和誠ら編、株式会社 羊土社、2003年4月1日発行に記載されている。
【0107】
本発明者らはU7ポリペプチドの機能又は発現を抑制することにより、癌細胞に特異的に細胞増殖を抑制し、癌細胞の生存を阻害できることを見いだした。従って、本発明の細胞増殖抑制剤は、癌を予防又は治療するための医薬組成物として使用することができる。
【0108】
本発明の医薬組成物の適用対象となる癌は、好ましくは固形癌、例えば限定するものではないが、肺癌、大腸癌、胃癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、絨毛癌、腎癌、甲状腺癌、耳下腺癌、頭頚部癌、脳腫瘍、骨・軟部肉腫、肝癌、卵巣癌、卵管癌、食道癌、胃癌、尿路上皮癌(腎盂癌、尿管癌、膀胱癌、尿道癌)等である。好ましくは肺癌、大腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、絨毛癌、尿路上皮癌、より好ましくは尿路上皮癌、特に膀胱癌である。
【0109】
本発明の医薬組成物は、上記癌の発症を予防することを目的として、あるいは上記癌患者又は癌のリスクが高いと診断された患者に対しては症状の悪化の防止又は症状の軽減などを目的として投与することができる。
【0110】
本発明の細胞増殖阻害剤及び医薬組成物の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内等の全身投与のほか、局所注射等の局所投与を行うことが好ましい。
【0111】
本発明の細胞増殖阻害剤及び医薬組成物は、例えば、水または薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で使用できる。また、例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、ベヒクル、防腐剤などと適宜組み合わせて製剤化することができる。
【0112】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤化方法に従って処方することができる。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80TM、HCO−50と併用してもよい。油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0113】
また、患者の年齢、症状により適宜投与量を選択することができる。例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001〜100000mgの範囲で投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の治療薬はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0114】
投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤形によって異なり、これらは当業者又は医師が適宜調整することができる。
【0115】
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2004−164844号の明細書及び/又は図面に記載された内容を包含する。
【実施例】
【0116】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
方法
1.試料
手術で摘出した膀胱癌組織および正常尿路上皮組織をプロテオーム解析またはウエスタンブロットに用いた。また、10種の膀胱癌細胞株、11種の膀胱以外の癌細胞株および正常線維芽細胞WI38を培養し、その可溶化液もウエスタンブロットに用いた。遺伝子導入実験にはラット線維芽細胞Rat1、マウス線維芽細胞NIH3T3およびラット胎児線維芽細胞REFを、siRNA(short interfering RNA)による遺伝子機能阻害実験には子宮癌株細胞HeLaおよび正常ヒト皮膚線維芽細胞NHDF(normal human dermal fibroblast)を用いた。
【0117】
2.プロテオーム解析
組織タンパク質を狭pHレンジの二次元電気泳動法により分離して銀染色でタンパク質スポットを可視化し、二次元電気泳動ゲル解析ソフトウエアで癌特異的スポットを検出し、そのスポットを成すタンパク質をペプチドマスフィンガープリント法で同定した(吉貴ほか 泌尿器科領域におけるプロテオミクス技術の応用、先端医療シリーズ24・泌尿器科 泌尿器疾患の最新医療 先端医療技術研究所pp.47-54, 2003;Kageyama, et al. Clinical Chemistry, 50:857-866, 2004)。
【0118】
3.抗U7モノクローナル抗体の作製
大腸菌に発現させたGST融合U7ポリペプチドを免疫原としてBALB/cマウスに免疫し、抗U7モノクローナル抗体を作製した(吉貴ほか 泌尿器科紀要 39:213-9, 1993)。
【0119】
4.ウエスタンブロット
抗U7モノクローナル抗体を用いてウエスタンブロットを行い、各組織または細胞由来のU7ポリペプチド発現の有無を確かめた。添加抗原量の確認のために抗β-アクチン抗体を用いた。
【0120】
5.リポフェクション法による遺伝子導入
Rat1細胞にリポフェクトアミン−プラス試薬(Invitrogen)を用いてpCR3.1−FLAG−U7ベクターを遺伝子導入してU7を過発現させ、癌化能の検討を行った。
【0121】
6.レトロウイルスによる遺伝子導入
pCX4−FLAG−U7ベクターを作製してパッケージング細胞Bosc23にリポフェクトアミン−プラス試薬を用いてトランスフェクションし、産生されたレトロウイルスを含む培養上清を回収した。Rat1細胞、NIH3T3細胞、REF細胞にこの培養上清を添加しウイルスを感染させ、blastcidin添加メディウムで遺伝子導入細胞だけを選択した。
【0122】
7.RNA干渉によるU7機能阻害実験
siRNA(short interfering RNA:Quiagen社に設計・合成を委託)を作製し、リポフェクトアミン2000を用いてHeLa細胞に導入し、ウエスタンブロットでU7ポリペプチド発現抑制を確認した。最も抑制効率の良いsiRNAを用いてHeLa細胞およびNHDF細胞に導入し、ルシフェラーゼGL−3に対するsiRNAを陰性コントロールとして細胞増殖抑制の程度をmodified MTT assayで比較した。
【0123】
結果
1.U7ポリペプチドの同定
膀胱癌と正常尿路上皮組織の二次元電気泳動ゲル銀染色像の比較により、15個のスポットが癌で発現増強するものとして検出され、このうち分子量約22kDa、等電点およそ5.1のスポットをU7と命名した(図1)。このスポットを切り出し、酵素処理ののち、ペプチドマスフィンガープリント法によりタンパク質データベース上の仮想ポリペプチドであるC7orf24(chromosome 7 open reading frame 24)であることが判明した(Accession number: NP 076956)。
【0124】
2.各種細胞におけるU7ポリペプチド発現
リコンビナントU7ポリペプチドを免疫原として、抗U7モノクローナル抗体(クローン6.1E)を樹立した。膀胱癌(T)および正常膀胱(N)におけるウエスタンブロットでは、正常組織に比べ癌組織における発現増強を認めた(図2A)。正常尿路上皮組織を用いた検討ではU7に相当するポリペプチドバンドは10例中3例で陽性であったが、非常に弱い反応性であった。それに対して、癌部分の組織では22例中16例で明らかなバンド出現を認めた。膀胱癌患者尿でも8例中3例でU7ポリペプチドは確認された。膀胱癌細胞株10種ではうち8種にU7ポリペプチド発現を認めた。膀胱癌以外の細胞株(肺癌、胃癌、大腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、絨毛癌)でも11種すべてに発現を認めた。しかしながら正常線維芽細胞WI38にはU7バンドは認められなかった(図2B)。免疫染色では、正常細胞では非常に弱い染色性を示したのに対し、癌細胞では細胞質と核に強い陽性反応が確認された。
【0125】
3.一時的過発現系における癌化能解析
ラット正常線維芽細胞Rat1細胞にU7ポリペプチドを発現させ癌化能解析を行った。フォーカスアッセイおよびソフトアガーアッセイにおいて癌化能を示唆する結果は得られなかった。
【0126】
4.安定発現系における検討
長期の培養で増殖の停止が見られるREF細胞にレトロウイルスでU7ポリペプチドを安定的に発現する系を樹立し、長期継代培養を行った。ウイルス感染日を第1日として第25日以降の増殖曲線を図3に示す。U7遺伝子を導入したU7発現REF細胞は、コントロールベクター(Control vector)を感染させたREF細胞に比べ、増殖能が高い傾向で推移した。さらに、コントロールベクターを感染させたREF細胞はday50付近で増殖が停止したのに対し、U7遺伝子を導入したU7発現REF細胞はその後も増殖を続け、不死化の傾向が見られた。
【0127】
5.RNA干渉(RNAi)によるU7機能阻害実験
6種類のsiRNAを作製し、ウェスタンブロットを行った。結果を図4Aに示す。コントロールを100とすると、それぞれの配列によるU7ポリペプチド発現に対する抑制結果は、037(配列番号3及び4)が39%、057(配列番号5及び6)が102%、570(配列番号7及び8)が25%、311(配列番号9及び10)が62%、455(配列番号11及び12)が30%、498(配列番号1及び2)が9%であった。
【0128】
siRNAの各配列を以下の表1に示す。
【0129】
【表1】

【0130】
この結果に基づいて最もU7発現抑制効果が高いsiRNAを選択した(U7−498:センス鎖5’−UGACUAUACAGGAAAGGUCdTdT−3’;アンチセンス鎖5’−GACCUUUCCUGUAUAGUCAdTdT−3’)。このU7−498を用いてU7機能抑制試験を行った。siRNA(U7−498)によってU7機能を阻害された子宮癌株細胞HeLaの生存率は、そうでない細胞と比べて約五分の一に低下した(図4B上図)。それに対して、正常ヒト皮膚線維芽細胞NHDFではU7機能を阻害してもしなくても生存率に有意な違いは認められなかった(図4B下図)。
【0131】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明により、癌の効果的な検出、癌細胞の増殖抑制、及び癌の予防又は治療に有効な手段が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
U7ポリペプチドの機能又は発現を抑制する試薬を有効成分とする細胞増殖抑制剤を含む、癌を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項2】
癌が子宮癌、尿路上皮癌、肺癌、胃癌、前立腺癌、及び絨毛癌からなる群から選択される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
U7ポリペプチドの機能又は発現を抑制する試薬が、RNA干渉によりU7ポリペプチドをコードするmRNAのレベルを低下させる二本鎖RNAである請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
U7ポリペプチドの機能又は発現を抑制する試薬が、RNA干渉によりU7ポリペプチドをコードするmRNAのレベルを低下させる二本鎖RNAをコードするDNAである請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項5】
RNA干渉によりU7ポリペプチドをコードするmRNAのレベルを低下させる二本鎖RNAが、配列番号1で表される塩基配列と少なくとも80%の相同性を有する塩基配列を含むRNA及び配列番号2で表される塩基配列と少なくとも80%の相同性を有する塩基配列を含むRNAからなる二本鎖RNAである請求項3又は4記載の医薬組成物。
【請求項6】
U7ポリペプチドの機能又は発現を抑制する試薬が、U7ポリペプチドに対する抗体である請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項7】
配列番号1で表される塩基配列と少なくとも80%の相同性を有する塩基配列を含むRNA及び配列番号2で表される塩基配列と少なくとも80%の相同性を有する塩基配列を含むRNAからなる二本鎖RNA。
【請求項8】
請求項7記載の二本鎖RNAをコードするDNA。
【請求項9】
請求項8記載のDNAを含むベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−79831(P2011−79831A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234043(P2010−234043)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【分割の表示】特願2006−514052(P2006−514052)の分割
【原出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名:Clinical Chemistry 2004 May 50 掲載者:The American Association for Clinical Chemistry 掲載アドレス:http://www.clinchem.org/cgi/content/abstract/50/5/857?maxtoshow=&HITS=10&hits=10&RESULTFORMAT=&andorexactfulltext=and&searchid=1087805157549_538&stored_search=&FIRSTINDEX=O&sortspec=relevance&volume=50&firstpage=857&resourcetype=1&journalcode=clinchem 電子通信回線発表日:2004年2月5日
【出願人】(502396373)TSSバイオテック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】