癌を予防するためのトコトリエノール組成物の使用
本発明は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物を投与する工程によって癌を予防する、または癌治療を受けた後に癌の再発を予防する方法であって、前記癌は黒色腫、前立腺癌、前立腺上皮内腫瘍、大腸癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌および肺癌からなる群から選択される方法に関する。本発明はさらに、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つおよびドセタキセルおよび/またはダカルバジンを含む組成物、ならびにγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つをドセタキセルおよび/またはダカルバジンと一緒に含む組成物を投与する工程によって癌を阻害、停止させる、または後退させるための方法に関する。本発明はまた、前記組成物を製造する方法にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、その内容がこれによりあらゆる目的のために参照により全体として組み込まれる2008年10月23日に出願された米国特許仮出願第61/107,842号明細書の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、分子生物学および生化学の分野、詳細には癌の生化学および分子生物学の分野に向けられる。
【背景技術】
【0003】
癌、またはより正確には悪性腫瘍は、一群の細胞が制御されない成長(正常限界を越える分裂)、侵襲(隣接組織上への侵入および隣接組織の破壊)、ならびに時々転移(身体内の他の場所へのリンパ液もしくは血液による伝播)を提示する1種の疾患である。
【0004】
特定の癌の進行、またはその欠如は、高度に可変性であり、腫瘍のタイプや治療への応答に左右される。治療様式には、手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、および免疫療法が含まれる。一般には、各タイプの癌は極めて特異的に治療されるが、様々な様式の組み合わせが使用されることが多く、例えば、手術が先行して行われ、その後に放射線療法が実施される。治療への応答は、腫瘍のタイプ、腫瘍のサイズ、および腫瘍が転移しているかどうかに左右される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
癌を治療する大多数の公知の方法は、患者に重篤な副作用を及ぼす。このため本発明の目的は、癌を治療するさらなる方法を探索することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様では、本発明は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、またはこれらからなる組成物を投与する工程によって癌を予防する、または癌治療を受けた後の癌の再発を予防する方法に関するが、このとき上記癌は黒色腫、前立腺癌、大腸癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌および肺癌からなる群から選択される。
【0007】
また別の態様では、本発明は、、および5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)とともにγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、またはこれらからなる組成物に関する。
【0008】
さらにまた別の態様では、本発明は、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)と共に、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、またはこれらからなる組成物を投与する工程によって癌を阻害する、または後退させる方法に関する。
【0009】
また別の態様では、本発明は、動物体において癌を予防する、または癌治療を受けた後に動物体内での癌の再発を予防するための医薬品を製造するためのγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物の使用に関するが、このとき上記癌は、黒色腫、前立腺癌、大腸癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌および肺癌からなる群から選択される。
【0010】
さらにまた別の態様では、本発明は、癌を治療するための医薬品を製造するための、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)とともに、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールをのうちの少なくとも1つを含む、組成物の使用に関する。
【0011】
さらに別の態様では、本発明は、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)とともにγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、またはこれらからなる組成物を製造する方法であって、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)とともにと混合する工程を含む方法に関する。
【0012】
本発明は、詳細な説明を参照して非限定的な実施例および添付の図面と結び付けて考察すればより明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】γ−T3がPC−3細胞内の前立腺癌幹細胞マーカーをダウンレギュレートすることを示している実験の結果を示す図である。(A)γ−T3処理後の前立腺癌幹細胞マーカーであるCD44およびCD133のウエスタンブロッティング。γ−T3が用量および時間依存性で両方の幹細胞マーカーを統計的有意にダウンレギュレートすることに留意されたい。(B)24時間にわたる5μg/mLのγ−T3処理後のPC−3細胞内のCD44+集団についてのフローサイトメトリー分析。矢印によって指示したγT3−処理後のCD44+集団は、未処理コントロール群(陰影付きピーク)と比較して減少した。(C)γ−T3処理後のCD44およびCD133のmRNAレベル。マーカーが48および72時間の処理後に減少したことに留意されたい。サンプルは、GAPDHによって標準化した。(D)2.5および5μg/mLのγ−T3を用いた24、48および72時間にわたる処理後のPC−3細胞の生存性はMTTアッセイによって試験した。各実験は、少なくとも3回繰り返した。結果は、平均値±SD(標準偏差)として提示した。(E)γ−T3処理したPC−3細胞内のアポトーシスマーカーのウエスタンブロッティングの結果。PARP(ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ)、カスパーゼ3、7、9の切断形は全く検出されず、γ−T3処理によるアポトーシスの誘導が生じないことを示していることに留意されたい。
【図2】γ−T3がPC−3細胞の幹細胞の特性を抑制することを示している実験の結果を示す図である。(A)細胞凝集塊(spheroid)形成アッセイは、γ−T3もしくは溶剤で処理された細胞を用いて実施した。200個のPC−3細胞をポリHEMAコーティングされた12ウエルプレート上に播種し、14日間にわたりγ−T3もしくは溶剤のいずれかで処理した。形成されたプロスタスフェア(prostasphere)数を計数し、結果を平均値±SDとして提示した。γ−T3処理は、PC−3細胞の細胞凝集塊形成能力を効率的に抑制することに留意されたい。(B)プロスタスフェアの画像は、顕微鏡下で捕捉した。γ−T3処理群ではプロスタスフェアを見いだせないことに留意されたい。
【図3】γ−T3が他の癌細胞系内でも癌の幹様細胞を抑制することを示している実験の結果を示す図である。(A)溶剤およびγ−T3で処理したDU145およびMGH−U1細胞内でのCD44のウエスタンブロッティング。両方の細胞系のCD44発現は、低用量γ−T3処理後にダウンレギュレートされた(注意:5μg/mLのγ−T3は12.176μMと等価である)。(BおよびC)様々な用量のγ−T3を用いた24および48時間にわたる処理後のDU145およびMGH−UI(膀胱癌)細胞の生存性を示しているMTTアッセイ。(DおよびE)細胞凝集塊形成アッセイは、γ−T3もしくは溶剤で処理された細胞を用いて実施した。γ−T3処理は、両方の細胞系の細胞凝集塊形成能力を効率的に抑制することに留意されたい。細胞凝集塊の画像は、顕微鏡下で捕捉した。γ−T3処理群では細胞凝集塊を見いだせないことに留意されたい。
【図4】γ−T3が生体内でのPC−3細胞の腫瘍原性を減少させることを示している実験の結果を示す図である。(A)2週間にわたりPC−3−Luc細胞が同所移植により注射されたSCIDマウスの生物発光画像。上の列にあるSCID(重症複合型免疫不全)マウスには溶剤処理PC−3−Luc細胞を注射し、下の列にあるマウスにはγ−T3処理PC−3−Luc細胞を注射した。γ−T3群からの3匹のマウスは検出可能な腫瘍を示さなかったことに留意されたい。(B)2週間後に検出可能な腫瘍を発生したマウスのパーセンテージ。γ−T3群におけるマウスの半分以上は検出可能な腫瘍を形成しなかったが、コントロール群では100%の腫瘍形成が見いだされたことに留意されたい(n=16)。
【図5】γ−T3が標的とする癌幹細胞が濃縮されたプロスタスフェアに及ぼす作用を示している実験の結果を示す図である。(A)CSCが濃縮されたプロスタスフェアは、血清置換培地が補給された非接着性培養中でDU145細胞を14日間にわたり維持することによって形成した。プロスタスフェアは次に、溶剤、γ−T3(10、20μg/mL)またはドセタキセル(Doc、40ng/mL)のいずれかを用いて処理した。処理の前後に、細胞凝集塊を顕微鏡下で計数した。結果は、コントロール群に比較した細胞凝集塊数における平均変化(%)±SDとして提示した。細胞凝集塊はγ−T3処理に対して高度に感受性であったが、高用量のドセタキセルに対しては耐性であったことに留意されたい。(B)溶剤、40ng/mLのドセタキセルおよび10μg/mLのγ−T3を用いた48時間の処理後のプロスタスフェアの画像。γ−T3処理細胞凝集塊は解離することが見いだされた。
【図6】図6Aは、γ−T3がmTORおよびβ−カテニンに影響を及ぼすとは決定されなかったが、Aktシグナリング経路を抑制することを示す図である。AKTシグナリング経路の活性化はヒト前立腺癌と高度に相関しており、AKTの構成的活性形を発現するトランスジェニック動物は前立腺上皮内腫瘍を発生する。(B)γ−T3は、多能性幹細胞表現型のための重要な調節因子であるOCT3/4およびNestin mRNA発現を増強した。
【図7】γ−トコトリエノールまたはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物が、癌(図7に例示した実施形態では前立腺癌)が発生する前(上から3番目の経路)およびそれが従来型抗癌療法を用いて治療された後(上から2番目の経路)に予防するために使用される、本発明の1つの態様の特定の実施形態を例示する図である。第1経路は、前立腺癌幹細胞(PCSC)を含む固形前立腺癌の腫瘍が例えば化学療法、またはドセタキセルなどの化学療法薬を用いた従来型抗癌療法を用いて治療される通常の療法を例示する図である。これらの療法はPCSCには影響を及ぼさないので、腫瘍はPCSCに基づいて再発する可能性がある。本明細書で言及した実験において証明されたように、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物が動物体に投与されると、固形前立腺癌の腫瘍の発生を予防することができる(第3経路)。さらに、腫瘍治療後のγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物の適用は、PCSCが癌細胞再生を開始することを防止できる。すなわち、本明細書で請求する組成物は、癌の再発を防止する。
【図8】γ−T3、ならびにδ−T3およびγ−T3を含む組成物は、前立腺癌発生の前駆体である可能性が極めて高い前立腺上皮内腫瘍(PIN)の形成を防止することを示す図である。使用した前立腺癌マウスモデルは以前に公表された(Gabril,M.Y.,Duan,W.ら、Molecular Therapy(2005),vol.11,no.3,p.348;Greenbergら、Proc Natl Acad Sci USA(1995),vol.92,pp.3439−3443;Duan,W.,Gabril,M.Y.,ら、Oncogene(2005)24,1510−1524;Wang S,Gao J,ら、Cancer Cell,2003,vol.4,no.3,pp.209−21;Gabril,M.Y.,Onita,T.ら、Gene Ther.,2002,vol.9,no.23,pp.1589−99)。手短には、マウスに週5日間の治療を4〜6カ月間継続して実施した。治療終了時にマウスを安楽死させ、PINおよび低/高悪性度の前立腺癌の発生を試験する目的で生検のためにマウスの前立腺を採取した。
【図9】ビタミンE異性体が前立腺細胞に及ぼす作用を証明する結果を例示する図である。(A)細胞生存性は、様々なビタミンE異性体を用いた24および48時間にわたる処理後にMTTアッセイによって試験した。ビタミンE異性体、特別にはトコトリエノール類は、前立腺細胞の生存性に様々な程度で選択的に影響を及ぼすが、非腫瘍原性前立腺上皮細胞には有意な影響を及ぼさないことに留意されたい。PC−3は、LNCaPに比較してビタミンE異性体に対して高応答性である。(B)IC50でのγ−T3の存在下でのLNCaPおよびPC−3の増殖率。IC50用量レベルは、図9Aにおける用量レベルと対応する。α−T3については、100μMを使用した。UDは、未決定IC50を示している。
【図10】γ−T3処理によるアポトーシスの誘導を証明する結果を例示する図である。(A)フローサイトメトリーによる細胞周期の分析。24時間にわたりIC50でのγ−T3とともに培養したコントロール細胞および処理細胞をフローサイトメトリー分析にかけた。処理後に下位−G1集団が出現することに留意されたい。(B)PC−3におけるアポトーシス促進性経路のIC50時間依存性および24時間用量依存性活性化(各々、時間およびμM)。γ−T3は重要な分子(切断されたカスパーゼ3、7、8、9、PARP)の活性化を誘導し、細胞用量および時間依存性でBcl−2およびBaxの量間の比率を変調させることに留意されたい。(C)IC50のγ−T3は、24時間の培養期間にわたって、アポトーシス促進遺伝子を活性化し、LNCaPおよびPC−3の生存促進遺伝子発現を抑制するが、非腫瘍原性前立腺上皮細胞(PZ−HPV)の生存促進遺伝子発現を抑制しない。
【図11】γ−T3による生存促進性経路の不活性化を証明している結果を例示する図である。(A)NF−κB経路の活性にγ−T3が及ぼす作用は、IC50時間依存性および24時間用量依存性ウエスタンブロッティング(各々、時間およびμM)によって試験した。NF−κB p65およびリン酸化IκBの核転座がγ−T3処理によって阻害されたことに留意されたい。(B)γ−T3の処理は、さらにまたPC−3細胞内のIdファミリータンパク質およびEGFR(上皮成長因子受容体)のダウンレギュレーションを生じさせた。
【図12】Jun N−末端キナーゼ(JNK)活性化がγ−T3誘導性アポトーシスに関与することを証明している結果を例示する図である。(A)24時間にわたるγ−T3およびJNK阻害剤(SP600125)との培養後の細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。JNK阻害剤の添加はPC−3細胞内のγ−T3の細胞毒性を緩和したが、これはJNKがγ−T3の抗増殖性作用を媒介することを示唆していることに留意されたい。(B)24時間用量依存性およびIC50時間依存性γ−T3処理後のJNK活性(各々、μMおよび時間)は、MKK4、SAPK/JNK、c−junおよびATF−2のリン酸化レベルを測定することによって上昇することが見いだされた。したがって、γ−T3抗癌特性におけるJNKの関与が確証されている。
【図13】γ−T3処理による細胞侵襲の阻害を証明している結果を例示する図である。(A)24時間用量依存性およびIC50時間依存性γ−T3処理は上皮マーカー(E−カドヘリン、γ−カテニン)の発現を誘導したが、間葉マーカー(ビメンチン、Twistおよびα−SMA)ならびにE−カドヘリンの抑制因子(Snail)の発現を抑制した。(B)指示した用量のγ−T3で処理された侵襲性アンドロゲン非依存性PCa細胞(PC−3)を採取し、次にマトリゲル(0.5mg/mL)をコーティングしたインサート内へプレーティングした。膜を越えて侵襲した細胞をクリスタル・バイオレットで染色し、画像は顕微鏡下で写真撮影した。抽出用緩衝液を用いて溶解させた後、595nmで吸光度を測定した。
【図14】γ−T3がドセタキセル誘導性アポトーシスに及ぼす相乗作用を証明している結果を例示する図である。(A)24時間にわたるドセタキセルおよびγ−T3併用処理が及ぼす作用。細胞は、24時間にわたり様々な用量のγ−T3および100nMのドセタキセルとともに培養した。細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。ドセタキセルおよびγ−T3の併用処理後のアポトーシス性のPC−3およびLNCaP細胞のパーセンテージは、いずれかの薬剤単独で処理した場合より統計的有意に高かった。(B)ウエスタンブロッティングを使用することによって、24時間にわたるγ−T3とドセタキセルとの併用処理はアポトーシス促進分子(切断されたPARP、カスパーゼ3、7、8、9)の活性化を通してPC−3細胞のアポトーシスを増強することがさらに証明された。増殖遺伝子の追加の抑制は、さらにまたId−1、EGFR、IκB、NF−κB p65についても確証された。(C)PCa細胞において提案されたT3抗癌経路。黒色腫細胞における提案された抗癌経路は、さらに図26Cにおいて別個に示した。
【図15】γ−T3処理による乳癌細胞(BCa)におけるアポトーシスの誘導を示している結果を例示する図である。(A)様々なビタミンE異性体のIC50は、24時間の処理後のMTTアッセイによる細胞生存性の試験によって決定した。ビタミンE異性体、特別にはβ−、γ−およびδ−T3は様々な程度でBCa細胞の生存性を選択的に阻害するが、非腫瘍原性乳癌上皮細胞には有意な影響を及ぼさないことに留意されたい。UDは、未決定IC50値を示している。(B)γ−T3(IC50−90)を用いた細胞の処理は、下位−G1細胞集団の誘導を生じさせた。アポトーシス細胞(下位−G1分画)の比率は用量依存性で増加した。(C)γ−T3は、MDA−MB−231細胞におけるDNA断片化を誘導する。手短には、細胞を採取し、断片化DNAを抽出し、臭化エチジウムを含有する2%アガロースゲル中での電気泳動法によって分析した。(D)γ−T3によって誘導されたDNA断片化はさらに末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TUNELアッセイ)によっても検出された(「未処理」黒色画像、すなわちDNA損傷は検出できない;20および40μMのγ−T3、重度のDNA損傷を備えるアポトーシス細胞はDNA中のニックの存在によって緑色蛍光中に出現し、これは次に末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼによって同定できる)(スケールバー:25μm)。
【図16】γ−T3処理によるアポトーシス促進分子の活性化を証明している結果を例示する図である。(A)γ−T3処理は臨界アポトーシス分子(切断されたカスパーゼ3、7、8、9、PARP)の活性化を誘導し、細胞用量依存性でBcl−2およびBaxの量間の比率を変調させることに留意されたい。(B)γ−T3はMCF7およびMDA−MB−231細胞上のアポトーシス促進遺伝子を活性化したが、非腫瘍原性乳癌上皮細胞(MCF−10A)を活性化しなかった。
【図17】γ−T3による生存促進性経路の不活性化を証明している結果を例示する図である。(A)γ−T3がNF−κB経路に及ぼす作用をウエスタンブロッティングによって試験した。IκBのリン酸化は、全細胞溶解液中でのγ−T3処理によって阻害された。同様に、核転座NF−κB p65は、核タンパク質抽出物中で阻害された。(B)γ−T3の処理は、MDA−MB−231細胞内でのEGFRおよびIdファミリータンパク質の発現のダウンレギュレーションを生じさせた。(C)γ−T3の処理は、MDA−MB−231細胞内でのId1の上流調節因子のダウンレギュレーションもまた生じさせた(Src、Smad1/5/8およびLOX)。限局性接着キナーゼ活性(Fak)は、LOX活性化と強度に相関していた。(D)γ−T3で処理されたMDA−MB−231細胞は溶解したので、この溶解液を、抗Src抗体を使用する免疫沈降アッセイのために使用した。結果は、SrcおよびSmad1/5/8の間の物理的相関がγ−T3処理によって影響を受けたことを示した。
【図18】γ−T3誘導性アポトーシス中のJun N−末端キナーゼ(JNK)およびMAPK/ERK活性化を証明している結果を示す図である。(A)JNK活性は、24時間にわたるγ−T3処理後にSAPK/JNK、c−junおよびATF−2のリン酸化レベルを測定することによって試験した。全タンパク質のリン酸化レベルがγ−T3によって誘導され、これはJNKがγ−T3処理によって活性化されることを示唆していることに留意されたい。(B)24時間にわたるγ−T3およびJNK阻害剤(SP600125)との培養後の細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。JNK阻害剤の添加はγ−T3がMDA−MB−231細胞に及ぼす細胞毒性を緩和したが、これはJNKがγ−T3の抗増殖性作用を媒介することを示唆していることに留意されたい。(C)Mek1/2、Erk1/2およびElk1のリン酸化レベルを測定することによって試験したMAPK/ERK活性は、24時間にわたるγ−T3処理後に上昇することが見いだされた。(D)24時間にわたるγ−T3およびMAPK/ERK阻害剤(U0126/PD09059)との培養後の細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。MAPK/ERK阻害剤の添加は、γ−T3がMDA−MB−231細胞に及ぼす細胞毒性に影響を及ぼさなかったことに留意されたい。
【図19】γ−T3処理による細胞侵襲の阻害を証明している結果を例示する図である。(A)指示した用量のγ−T3で処理されたMDA−MB−231細胞を採取し、次にマトリゲル(0.5mg/mL)をコーティングしたインサート内へプレーティングした。膜を越えて侵襲した細胞をクリスタル・バイオレットで染色し、画像は顕微鏡下で写真撮影した。抽出用緩衝液を用いて溶解させた後、595nmでの吸光度を測定し、平均値および標準偏差で提示した(右のパネル)。(B)24時間用量依存性γ−T3処理は上皮マーカー(α−、β−、γ−カテニン)の発現に影響を及ぼさなかったが、間葉マーカー(Twistおよびα−SMA)ならびにE−カドヘリンの抑制因子(Snail、Twist)の発現を抑制した。PC−3は、野生型E−カドヘリンを発現するアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞系を表している。
【図20】γ−T3がドセタキセル誘導性アポトーシスに及ぼす相乗作用を示している実験の結果を例示する図である。(A)24時間にわたるドセタキセルおよびγ−T3併用処理の作用。細胞は、24時間にわたり様々な用量のγ−T3と一緒に50nMのドセタキセルとともに培養した。細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。ドセタキセルおよびγ−T3の併用処理後の生存性MDA−MB−231細胞数は、いずれかの薬剤単独で処理した場合より統計的有意に低かった。(B〜C)ウエスタンブロッティングを使用することによって、24時間にわたるγ−T3とドセタキセルとの併用処理はアポトーシス促進分子(切断されたPARP、カスパーゼ3、7、8、9)の活性化を通してMDA−MB−231細胞のアポトーシスを促進することがさらに証明された。Id−1およびEGFR発現の抑制は、さらにウエスタンブロッティング分析によって確証された。γ−TPは、γ−トコフェロールを表す。(D)24時間にわたるγ−T3および3−アミノプロプリニトリル(APN)との培養後の細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。APNの添加は、γ−T3がMDA−MB−231細胞に及ぼす細胞毒性を緩和することに留意されたい。(E)Id1 mRNAは、γ−T3処理後に抑制されると決定された。しかし、Id1 mRNAは、γ−T3と3−アミノプロプリニトリル(APN)との併用処理後に部分的に回復すると決定された。GAPDHの量は、ローディングコントロールとして測定した。(F)γ−T3と3−アミノプロプリニトリル(APN)との併用処理は、アポトーシス促進遺伝子(カスパーゼ3、7、8、9およびPARP)の活性化を後退させ、Id1の構成的活性化を部分的に回復させた。
【図21】ビタミンE異性体が黒色腫細胞に及ぼす作用を証明している結果を例示する図である。(A)細胞生存性は、様々なビタミンE異性体を用いた24および48時間にわたる処理後にMTTアッセイによって試験した。ビタミンE異性体、特別にはトコトリエノール類が様々な程度で黒色腫細胞の生存性に影響を及ぼすことに留意されたい。(B)IC50でのγ−T3の存在下でのC32の増殖率。α−T3については、100μMを使用した。
【図22】γ−T3処理によるアポトーシスの誘導を証明している結果を例示する図である。(A)フローサイトメトリーによる細胞周期の分析。コントロール細胞および24時間にわたりIC50でのγ−T3とともに培養した処理細胞をフローサイトメトリー分析にかけた。下位−G1集団が処理後に出現することに留意されたい。(B)C32およびG361におけるアポトーシス促進性経路の用量依存性(μM)活性化。γ−T3が24時間にわたる培養期間中に細胞用量依存性で重要な分子(切断されたカスパーゼ3、7、9、PARP)の活性化を誘導することに留意されたい。
【図23】C32細胞におけるγ−T3による生存促進性経路の不活性化を証明している結果を例示する図である。(A)γ−T3(μM)がNF−κB経路に及ぼす作用をウエスタンブロッティングによって試験した。NF−κB p65およびリン酸化IκBの核転座がγ−T3処理によって阻害されたことに留意されたい。(B)γ−T3(μM)の処理は、さらにまたC32細胞内のIdファミリータンパク質およびEGFRのダウンレギュレーションを生じさせた。
【図24】Jun N−末端キナーゼ(JNK)活性化がC32細胞内でのγ−T3誘導性アポトーシスに関与することを証明している結果を例示する図である。(A)24時間にわたるγ−T3およびJNK阻害剤(SP600125)との培養後の細胞生存性を、MTTアッセイによって試験した。JNK阻害剤の添加はC32内のγ−T3の細胞毒性を緩和したが、これはJNKがγ−T3の抗増殖性作用を媒介することを示唆していることに留意されたい。(B)γ−T3処理後のJNK活性は、SAPK/JNK、c−junおよびATF2のリン酸化レベルを測定することによって上昇することが見いだされた。そこで、γ−T3抗癌特性におけるJNKの関与が確証された。
【図25】悪性黒色腫G361におけるγ−T3処理による細胞侵襲の阻害を証明している結果を例示する図である。(A)指示した用量のγ−T3で処理されたG361細胞を採取し、次にマトリゲル(0.5mg/mL)をコーティングしたインサート内へプレーティングした。膜を越えて侵襲された細胞を、顕微鏡下で写真撮影した。抽出用緩衝液を用いて溶解させた後、595nmで吸光度を測定した。(B)γ−T3処理は上皮マーカー(E−カドヘリンおよびγ−カテニン)の発現を誘導した;しかし間葉マーカー(ビメンチン、α−SMAおよびTwist)の発現を抑制した。24時間にわたり様々な用量のγ−T3で処理されたG361細胞を溶解させ、ウエスタンブロッティングによって分析した。
【図26】C32内でドセタキセルおよびダカルバジン誘導性アポトーシスにγ−T3が及ぼす相乗作用を証明している結果を例示する図である。(A)ドセタキセルおよびγ−T3併用処理が及ぼす作用。C32細胞は、24時間にわたり40μMのγ−T3および50nM/500μMのドセタキセル/ダカルバジン各々とともに培養した。細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。ドセタキセルおよびγ−T3の併用処理後のコントロールと比較した生存性C32細胞のパーセンテージは、いずれかの薬剤単独で処理した場合より統計的有意に低かった。(B)ウエスタンブロッティングを使用することによって、さらにγ−T3とドセタキセルまたはダカルバジンいずれかとの併用処理はアポトーシス促進分子(切断されたPARP、カスパーゼ3、7、8、9)の活性化を通してC32細胞のアポトーシスを増強することが証明された。増殖遺伝子の追加の抑制は、さらにまたC32細胞内でのId−1、EGFR、ホスホロ−IκBについても確証された。(C)黒色腫細胞において提案されたT3抗癌経路。Pca細胞における提案された抗癌経路は、さらに図12Cでもさらに別個に示した。
【図27】薬物動態、単回投与急性毒性および血清バイオマーカーを示している実験の結果を例示する図である。(A)45週齢のC57BL/6黒色マウスは、1mgのγ−トコトリエノールを含有する単回用量腹腔内(i.p.)注射を受けた。5匹のマウスは、様々な時点(10分、30分、1時間、3時間、6時間、24時間、48時間および72時間後)で致死させた。血清中のγ−トコトリエノール濃度は、材料および方法の項に記載したHPLC法を用いて分析した。(B)90匹のC57BL/6黒色マウス(各群10匹)は、100μLの注射用量中に1、2、4、8、12、16、20、30および40mgのγ−トコトリエノールを含有する単回用量腹腔内注射を受けた。マウスの体重および生存率を30日間観察し、その後にCO2吸入によって安楽死させた。(C)10匹のC57BL/6黒色マウスは、1mgのγ−トコトリエノールまたはDMSOブランクを含有する週5回のi.p.注射を受けた。マウスを、心臓出血によって致死させ、血清を材料および方法の項に記載したバイオマーカー検出方法にかけた。試験したいずれのパラメータにおいても毒物学的変化は見られなかった。バイオマーカーの血清濃度は、アルブミン(Alb)、クレアチン(Cre)、アラニントランスアミラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、ウレア(Ure)およびアルカリホスファターゼ(ALP)(RANDOX laboratories社、英国クルムリン)である。
【図28】体重、腫瘍サイズおよび投与されたγ−T3の臓器分布を示している実験の結果を示す図である。雄性BALB/cの無胸腺ヌードマウスにPCa細胞を移植し、無作為に3群へ選択した(n=1群につき5匹);コントロール(溶剤としてのDMSO)、γ−T3(50mg/kg/日)およびγ−T3とドセタキセルの併用療法(50mgのγ−T3/kg/日、および7.5mgのドセタキセル/kg/週)。マウスの体重を計量し(A)、腫瘍は、各薬物療法前にデジタル式炭素繊維製カリパス(Fisher scientific社、ペンシルベニア州ピッツバーグ)を用いて測定した(B)。(C)臓器および血清中のγ−T3濃度は、材料および方法の項に記載したHPLC法を用いて分析した。
【図29】薬物治療後の雄性BALB/c非胸腺ヌードマウス上で異種移植されたPCa細胞の画像描出を例示する図である。(A〜B)2回の反復実験のために、雄性BALB/c無胸腺ヌードマウスにPCa細胞を移植し、無作為に3群へ選択した(n=1群につき10匹);コントロール(溶剤としてのDMSO)、γ−T3(50mg/kg/日)およびγ−T3とドセタキセルの併用療法(50mgのγ−T3/kg/日、および7.5mgのドセタキセル/kg/週)。マウスは、ルシフェリン溶液(150mg/kg(体重))のi.p.注射を受けた。(A1)は、DMSO(溶媒)、単独薬剤(1.5mgのγ−T3/日/マウス)または併用療法(1.5mgのγ−T3/日/マウスおよび0.75mgのドセタキセル/週/マウス)で治療された皮下PC3−Luc腫瘍を有するヌードマウスの側面図を示している。2百万個のPC3−Luc細胞を雄性ヌードマウスに接種し、腫瘍抑制はIVIS(商標)イメージングシステム(Xenogen Corp.社、米国マサチューセッツ州ホプキントン)を用いてルシフェリンの投与5分後に監視した。(B1)は、DMSO(溶媒)、単独薬剤(1.0mgのγ−T3/日/マウス)または併用療法(1.0mgのγ−T3/日/マウスおよび0.15mgのドセタキセル/週/マウス)で治療された皮下PC3−Luc腫瘍を有するヌードマウスの側面図を示している。百万個のPC3−Luc細胞を雄性ヌードマウスに接種し、腫瘍抑制はIVIS(商標)イメージングシステムを用いて治療終了時に監視した。(A2およびB2)異なる治療群におけるマウスの平均インビボシグナル強度。(A3およびB3)コントロール、γ−T3、ならびにγ−T3およびドセタキセルの併用療法における代表的な腫瘍の写真。矢印は、ヌードマウス上の上皮内腫瘍を示している。(A4およびB4)コントロール、γT3ならびにγT3およびドセタキセル群から切除した腫瘍のサイズを示す写真である。
【図30】γ−T3抗腫瘍作用が癌細胞増殖に及ぼす作用を例示している画像。PCNA、Ki67およびId−1のダウンレギュレーションは、PCNA、Ki67およびId−1に対するマウス抗体ならびに二次抗体抗であるマウスFab−HRPを用いたIHC免疫組織化学検査によって決定した。これら3つの細胞増殖分子についての発現レベルは、γ−T3単独またはドセタキセル(Doce)との併用療法のいずれかを用いた治療後にはより低かった(全画像におけるスケールバー:100μm)。
【図31】γ−T3抗腫瘍作用が癌細胞アポトーシスに及ぼす作用を例示している画像を示す図である。切断カスパーゼ3および切断PCNAの存在は、切断カスパーゼ3および切断PARPに対するウサギポリクローナル抗体ならびに二次抗体である抗ウサギFab−HRPを用いたIHC免疫組織化学検査によって決定した。これら2つの分子についての発現レベルは、γ−T3単独またはドセタキセル(Doce)との併用療法のいずれかを用いた治療後にはより高かった(全画像におけるスケールバー:100μm)。
【図32】γ−T3抗腫瘍作用が腫瘍サプレッサー遺伝子およびその抑制体に及ぼす作用を例示している画像を示す図である。腫瘍サプレッサー遺伝子(E−カドヘリン;(A))およびその抑制体(Snail;(B))の発現における変化は、E−カドヘリンおよびSnailに対する抗体ならびに二次抗体であるFab−HRPを用いたIHC免疫組織化学検査によって決定した。これら2つの分子についての発現レベルは、γ−T3単独またはドセタキセル(Doce)との併用療法のいずれかを用いた治療後には反比例していた(全画像におけるスケールバー:100μm)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1態様では、本発明は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物を投与する工程によって癌を予防する、または癌治療を受けた後の癌の再発を予防する方法に関する。
【0015】
本発明者らは初めて、本明細書で言及する組成物が、a)本明細書で言及するウエスタンブロッティングおよびフローサイトメトリー分析から明らかなように、幹細胞マーカーであるCD133およびCD44などの幹細胞マーカーの発現をダウンレギュレートできる、およびb)スフェアおよび腫瘍の形成を抑制できることを証明する。そこで、本発明者らによって、癌細胞に発達する可能性がある細胞の本明細書で言及した組成物による前処理が細胞の腫瘍開始能力を妨害することが見いだされることが証明された。これらの所見は、本明細書で言及する実験結果から明白になるように、生体外での(in vitro)ならびに生体内での(In vivo)データによって裏付けられている。本発明のこの態様の一般的原理は、γ−およびδ−トコトリエノ−ルのうちの少なくとも1つを含む組成物が癌の治療を防止するため、または癌治療を受けた後の癌の再発を回避するために使用された1つの実施例に基づいて図7に例示されている。図8に例示したさらに別の実施例では、前立腺上皮内腫瘍(PIN)を発生するように遺伝子組換えされている特殊なマウスは、γ−もしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つまたはγ−およびδ−トコトリエノールの混合物を含む組成物が与えられるとPINを発生しない。
【0016】
「癌の予防」は、癌が発生するのを予防する、または遅延させる行為を意味する。本発明の場合には、本明細書で言及する組成物を投与する工程は、癌が動物体内で発生できない作用を有する。予防は、本明細書で言及した組成物が、既に動物体内に存在する癌細胞を治療するため、または言い換えると既に癌に罹患している動物体を治療するために使用される「癌治療」とは区別しなければならない。時々、用語「化学的予防」が使用される。用語「癌治療」と同様に、「化学的予防」もまた既に癌に罹患している患者の治療に関連しており、本発明の特許請求項において言及する「癌の予防」と誤解されてはならない。化学的予防は、この特定種類の治療を受けている動物体にとってほとんどが重篤な副作用を有する化学療法の使用を回避するための治療が想定されることを意味している。
【0017】
また別の実施形態では、本明細書で言及した組成物はさらにまた、癌治療を受けた後の癌の再発を予防するために使用することもできる。これは、癌に罹患した、そして動物体を癌から治癒させるための治療を受けた動物体が癌を再発することを予防するために本明細書で言及した組成物を使用することを意味している。1つの実施形態では、それは動物体が癌から動物体を治癒もしくは回復させるための治療を受けて終了したことを意味する。進行中の癌治療との相違は、本明細書で言及した組成物が癌細胞の増殖を破壊もしくは停止させるためではなく、「癌を予防する」ために癌が再発するのを予防もしくは遅延させるために使用されるという事実に基づいている。本明細書で言及する「回復」もしくは「治癒」は、臨床的には癌の徴候もしくは症状の永続的不在;癌の完全な寛解または癌の臨床的証拠の消失としての完全な応答であると規定されている。
【0018】
「癌治療」は、癌細胞を排除または除去することを目的とする、あらゆる種類の既知の癌の治療を意味する。癌治療もしくは療法の主要な物理療法は、手術、および放射線療法(局所性および局所限局性疾患のため)、ならびに化学療法(全身性疾患のため)である。その他の重要な方法には、ホルモン療法(選択された癌、例えば前立腺癌、乳癌または子宮内膜などのため)、免疫療法(モノクローナル抗体、インターフェロン、およびその他の生物学的応答修飾因子および腫瘍ワクチン類)、例えばレチノイド剤などの分化誘導薬、細胞および分子生物学の発展した知識を利用する薬剤の使用ならびに上記の治療もしくは療法の組み合わせが挙げられる。
【0019】
一般に、「癌」はその正常な制御機構を消失した、したがって調節されない成長(増殖)、分化の欠如、局所的組織侵襲、および頻回に転移を有する1群の細胞(通常は単細胞に由来する)を意味すると考えられている。癌性(悪性)細胞は、あらゆる器官内のあらゆる組織から発生する可能性がある。癌性細胞は成長して増殖するにつれて、それらは正常隣接組織に侵襲して破壊できる、腫瘍と呼ばれる一塊の癌性組織を形成する。用語「腫瘍」は、異常な増殖もしくは塊を意味しているが、腫瘍は癌性の場合も非癌性の場合もある。原発(初期)部位からの癌性細胞は、全身にわたって伝播(転移)することができる。癌性細胞は、形質転換と呼ばれる複雑なプロセスで、健常細胞から発生する。このプロセスにおける第1工程は、細胞遺伝物質(DNAまたは時々は染色体構造)中の変化が細胞を癌性になるように刺激する開始(initiation)である。細胞の遺伝物質中のこの変化は特発性で発生することがある、または癌を誘発する物質(発癌物質)によって引き起こされることもある。γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む本明細書で言及した組成物は、この開始を予防することができる。
【0020】
1つの実施形態では、本明細書で言及した組成物を用いて治療できる癌のタイプは、例えば染色体異常などの遺伝的突然変異によって誘発された癌、または例えば少数を挙げるとパピローマウイルス、エプスタイン・バー(Epstein−Barr)ウイルスなどのウイルスによって誘発された癌であってよい。遺伝的突然変異の原因となる遺伝子のうち2つの主要な遺伝子群は、発癌遺伝子および腫瘍サプレッサー遺伝子である。発癌遺伝子は細胞増殖を調節する正常遺伝子の異常な形態(癌原遺伝子)であるが、腫瘍サプレッサー遺伝子は細胞分割およびDNA修復において重要な役割を果たす固有の遺伝子であり、細胞内の不適切な増殖シグナルを検出するために極めて重要である。そこで、1つの実施形態では、治療対象の癌は、発癌遺伝子の突然変異によって誘発された癌、または腫瘍サプレッサー遺伝子の突然変異によって誘発された癌のいずれかを意味する。
【0021】
また別の実施形態では、癌のタイプには、リンパ球性白血病、骨髄性白血病、悪性リンパ腫、骨髄増殖性疾患、または固形腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。さらに別の実施形態では、癌は、黒色腫(皮膚癌)、前立腺癌、大腸癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌および肺癌が挙げられるがこれらに限定されない癌のタイプを意味する。1つの実施例では、癌は、前立腺癌、乳癌または黒色腫(皮膚癌)を意味する。また別の実施形態では、本発明は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物を投与する工程によって、前立腺上皮内腫瘍(PIN)の予防または癌治療を受けた後の前立腺上皮内腫瘍(PIN)の再発の予防に向けられる。
【0022】
ビタミンEは、2つの主要成分であるトコフェロール類(T)およびトコトリエノール類(T3)から構成される。トコトリエノール類(T3)は主としてパーム油中に見いだされる。トコフェロール類(T)と一緒に、これらは全ての生存細胞への有意な抗酸化物質活性源を提供する。この共通の抗酸化物特性は、それらの構造的側鎖(トコトリエノールについてはファルネシルまたはトコフェロールについては飽和フィチル側鎖を含有する)のみ異なるトコトリエノール類とトコフェロール類の化学構造における類似性を反映している。クロマノール環上のヒドロキシル基からの共通する水素原子は、連鎖伝播性ペルオキシルフリーラジカルを除去するように機能する。これらのクロマノール環上のメチル基の所在位置に依存して、トコフェロール類およびトコトリエノール類は4つの異性体形:アルファ(α)、ベータ(β)、ガンマ(γ)、およびデルタ(δ)に識別することができる。
【0023】
上述したように、癌を予防するため、または癌治療を受けた後の癌の再発を予防するために、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物が使用される。γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールはビタミンEの異性体である。ビタミンEは、2つの主要成分であるトコフェロール類(T)およびトコトリエノール類(T3)から構成される。トコトリエノール類(T3)は主としてパーム油中に見いだされる。トコフェロール類(T)と一緒に、これらは全ての生存細胞への有意な抗酸化物質活性源を提供する。この共通の抗酸化物質性の性質は、それらの構造的側鎖(トコトリエノールについてはファルネシルまたはトコフェロールについては飽和フィチル側鎖を含有する)しか相違していないトコトリエノール類とトコフェロール類の化学構造における類似性を反映している。
【0024】
様々なトコフェロールおよびトコトリエノールのアイソフォームが存在する(式IおよびIIを参照されたい)。トコフェロール類は、クロマノール環およびホモゲンチシン酸塩(HGA)および二リン酸フィチルに各々由来するクロマノール環および15炭素テールからなる。他方、トコトリエノール類は、構造的には炭化水素テール中の3つのトランス二重結合の存在によってトコフェロール類とは異なる。式Iおよび式IIならびにそれに続く説明は、トコフェロール類(T)およびトコトリエノール類(T3)の公知のアイソフォームに関する概説を提供する。
【化1】
【0025】
式I(A):R1=R2=R3=Meは、α−トコフェロールとして公知であり、α−トコフェロールもしくは5,7,8−トリメチルトコールと指定されている;R1=R3=Me;R2=Hは、β−トコフェロールとして公知であり、β−トコフェロールもしくは5,8−ジメチルトコールと指定されている;R1=H;R2=R3=Meは、γ−トコフェロールとして公知であり、γ−トコフェロールもしくは7,8−ジメチルトコールと指定されている;R1=R2=H;R3=Meは、δ−トコフェロールとして公知であり、δ−トコフェロールもしくは8−メチルトコールと指定されている。式II(B):R1=R2=R3=Hは、2−メチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデカ−3,7,11−トリエニル)クロマン−6−オールであり、トコトリエノールと指定されている;R1=R2=R3=Meは、以前はζ1もしくはζ2−トコフェロールとして公知であり、5,7,8−トリメチルトコトリエノールもしくはα−トコトリエノールと指定されている。名称トコクロマノール−3もまた使用されてきた;R1=R3=Me;R2=Hは、以前はγ−トコフェロールとして公知であり、5,8−ジメチルトコトリエノールもしくはβ−トコトリエノールと指定されている;R1=H;R2=R3=Meは、以前はγ−トコフェロールとして公知であり、7,8−ジメチルトコトリエノールもしくはγ−トコトリエノールと指定されている。名称プラストクロマノール−3もまた使用されてきた;R1=R2=H;R3=Meは、8−メチルトコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールと指定されている。
【0026】
本明細書で言及した組成物は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのいずれかまたは両方のアイソフォーム、すなわちγ−トコトリエノールとδ−トコトリエノールの混合物を含む、またはこれらからなる。1つの実施形態では、γ−もしくはδ−トコトリエノールの量を濃縮することができる。「濃縮(enriched)」は、トコトリエノールの各アイソフォームが、その天然源から単離されたトコトリエノールの全アイソフォームを含む正規混合物中におけるより高い量で含まれることを意味する。例えば、パーム油から単離されたトコトリエノールは、γ−トコトリエノールおよびσ−トコトリエノールを上記油の総重量に基づいて10重量%未満の量で含んでいる。そこで、本発明の実施形態に関しては、「濃縮」調製物は、γ−トコトリエノールもしくはσ−トコトリエノールまたはγ−トコトリエノールもしくはσ−トコトリエノールの混合物を上記調製物(または組成物)の総重量に基づいて10重量%を超える量で含むあらゆる調製物を意味する。
例えば、濃縮調製物は、γ−トコトリエノールもしくはσ−トコトリエノールを少なくとも10重量%の量で含んでいる。
また別の実施例では、濃縮調製物は、γ−トコトリエノールおよびσ−トコトリエノールの混合物を含んでいるが、このときγ−トコトリエノールは4重量%の量で、そしてσ−トコトリエノールは6重量%の量で、つまり合計すると10重量%の量で含まれている。
【0027】
また別の実施形態では、「濃縮」は、γ−トコトリエノールおよびσ−トコトリエノールの混合物中でさえ、両方の成分は少なくとも10重量%の量で、つまり少なくとも10重量%のγ−トコトリエノールおよび少なくとも10重量%のσ−トコトリエノール(総計して組成物全体の20重量%)の量で含まれることを意味する。
【0028】
また別の実施形態では、濃縮トコトリエノール組成物または調製物は、γ−トロトリエノールまたはδトコトリエノールを上記組成物の総重量に基づいて少なくとも10重量%、または少なくとも20重量%、または少なくとも30重量%、または少なくとも40重量%、または少なくとも50重量%、または少なくとも60重量%、または少なくとも70重量%、または少なくとも80重量%、または少なくとも90重量%の量で含む組成物または調製物を意味する。
【0029】
さらにまた別の実施形態では、濃縮γ−および/またはδ−トコトリエノール組成物または調製物は、上記調製物の総重量に基づいて約10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%または少なくとも90重量%の量でこのトコトリエノールアイソフォームのうちの少なくとも1つを含む組成物または調製物を意味する。さらに別の実施形態では、本明細書で言及した組成物は、γ−およびδ−トコトリエノールを一緒に上記に規定した量で含んでもよい。
【0030】
また別の実施形態では、本組成物は、γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを1:Y(式中、Yは10未満である)の比率で含むことができる。例えば、パーム油から単離されたγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールは、γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを1:0.38の比率で含んでおり;アナトー油(annatto oil)から単離された場合はγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを1:9の比率で含んでいる。そこで、さらに別の実施形態では、本組成物はγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを1:(0.3〜約0.7)または1:(4〜9)の比率で含むことができる。多数の天然生成物もまたトコトリエノールの他のアイソフォームを含む可能性があるので、本明細書で言及した組成物はγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールだけを含む訳ではなく、さらにα−トコトリエノールもしくはβ−トコトリエノールまたはα−トコトリエノールおよびβ−トコトリエノールを含んでもよい。また別の実施例では、本明細書で言及した組成物は、実質的にはα−トコトリエノールおよび/もしくはβ−トコトリエノールならびに/またはα−トコトリエノールおよびβ−トコトリエノールならびに/または任意のトコフェロールを実質的に含んでいない。しかし1つの実施形態では、例えばα−、β−、γ−またはδ−トコフェロールなどの少なくとも1つのトコフェロールが本明細書で言及した組成物中に含まれることもまた可能である。例えば、トコトリエノール類およびトコフェロール類をパーム油の総重量の70重量%で含むように単離および濃縮されたパーム油は、α−トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを0.24:0.24:0.033:0.33:0.13の比率で含むことができる。
【0031】
1つの実施形態では、癌を予防するため、または癌の再発を予防するための、少なくとも1つのγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを含む本組成物は、さらなる抗癌活性物質を含んでいない。この実施形態に関連して、抗癌活性物質は、例えばドキソルビキシン(doxorubixin)、パクリタキセル、腫瘍壊死因子(TNF)などの、それ自体が癌を予防するために作用するあらゆる物質を意味する。
【0032】
また別の実施形態では、本発明の組成物は、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECG)、およびエピガロカテキンガレート(EGCG)などの緑茶ポリフェノール類、または例えばニンニク由来のS−アリルメルカプトシステインおよびニンニク由来のアリシンなどの有機硫黄化合物、または例えばトラメテス・ベルシカラー(Trametes versicolor)およびコリオラス・ベルシカラー(Coriolus versicolor)各々から単離された多糖−K(クレスチン、PSK)および多類ペプチド(PSP)などのタンパク質結合多糖類、または例えばトマトや他の赤色果実および野菜中で見いだされるリコピンなどの赤色カルテノイド色素をさらに含むことができる。
【0033】
動物体に投与される組成物の量は、成体体重60kgにつき約10mg〜約1,000mgまたは成体体重60kgにつき約10mg〜約500mgであってよい。
【0034】
また別の実施形態では、本組成物は、動物の血液中で個別トコトリエノール異性体の約0.1〜30mg/Lまたは約10〜30mg/Lの血清中濃度を得るための量で投与される。1つの実施例では、γ−トコトリエノールの濃度は、約1mg/Lである。
【0035】
1つの実施形態では、動物体は哺乳動物である。哺乳動物の例には、ヒト、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ウシ、イヌまたはネコが含まれるがこれらに限定されない。
【0036】
また別の態様では、本発明は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つ、および5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)を含む組成物に関する。
【0037】
例えば、前立腺癌(PCa)は、肺癌を除くその他全ての癌の中で最大数の死亡症例の原因である。腫瘍の緩徐に進行する性質に起因して、前立腺癌の患者の多くは診断時に既に転移性疾患を発生しており、ホルモンアブレーション療法後には不可避的にホルモン不応期に進むであろう。現時点ではホルモン不応性前立腺癌(HRPC)に対する治癒的治療は依然として存在しない。HRPC患者のために最も効果的な治療法であるドセタキセルをベースとする化学療法は生存期間中央値を3カ月間しか改善できない。このため、転移性HRPCに対する効果的な治療戦略が至急に必要とされている。
【0038】
現在までに、転移性HRPCに対する現行療法の失敗の背景となる理由は完全には理解されていないが、現行療法が高度に分化した腫瘍細胞を標的とする場合にのみ成功するが、推定癌幹/前駆細胞には影響を及ぼさないことを提示してきた根拠が増えつつある。正常幹細胞に関しては、癌幹細胞(CSC)は成熟幹細胞に比較して静止性であると思われる。この特性は、CSCを主として活動的に複製中の細胞を標的とする化学療法薬に対して耐性にさせる。さらに、前立腺CSCはアンドロゲン受容体を発現しない。そこで、前立腺CSCは、成熟腫瘍細胞のようにはホルモンアブレーションに応答しない。自己更新および分化能力のおかげで、前立腺CSCは、ホルモンアブレーション後に不均一腫瘍集団(アンドロゲン依存性および非依存性両方の細胞を備える)を再生することができるので、これが腫瘍再発の原因となる。γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つをドセタキセルと一緒に含む本発明の組成物を使用すると、本明細書で言及した生体外でのおよび生体内での試験結果によって裏付けられたように、例えば前立腺癌などの癌を首尾よく治療できることが初めて証明された。
【0039】
本発明者らは本明細書で初めて、ドセタキセルもしくはダカルバジン誘導性アポトーシスが本明細書で言及した組成物の存在下では有意に増強されることを証明したが、これは例えば黒色腫細胞、乳癌細胞および前立腺癌細胞などの癌細胞に対するγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つならびにドセタキセルおよび/またはダカルバジンの相乗作用を示唆している。本発明者らが実施した半数致死量(LD50)試験は、トコトリエノール類抽出物を用いた治療後に毒性を指示しなかったが(LD50≧2,000mg/kg)、この試験からの結果は、トコトリエノール異性体類が、例えば悪性黒色腫、乳癌、肝臓癌、膀胱癌、肺癌、大腸癌または前立腺癌などの癌を治療するために、例えばドセタキセルおよびダカルバジンなどの化学療法薬と併用して安全かつ有効な抗癌薬として使用できることを証明している。
【0040】
本明細書で言及した実験の結果は、初めて、例えばγ−トコトリエノールなどのトコトリエノールにおけるJNK経路の関与が黒色腫細胞または乳癌細胞または前立腺細胞などの癌細胞においてアポトーシスを誘導したことを確証している。注目すべきことは、JNK経路が化学療法薬であるドセタキセルおよびダカルバジンによって誘導される細胞アポトーシスにも関与することも公知である点である。これらの所見を考慮に入れると、本発明者らにはトコトリエノールがJNK経路の活性化の結果としてドセタキセルおよびダカルバジンとの相乗性相互作用を有するのではないかという疑問が生じた。このため、本発明者らは、化学療法薬単独、またはトコトリエノールとの併用療法の抗増殖能力を比較した。注目すべきことに、化学療法薬とトコトリエノールとの併用療法は高率のアポトーシス細胞を生じさせるが、γ−トコフェロールなどのトコフェロールは生じさせないことが見いだされた。
【0041】
本発明者らはさらに、本明細書で言及した組成物が、例えばId−1、Id−2、Id−3またはId−4などのIdファミリーの少なくとも1つのタンパク質の活性を変調させられることもまた見いだした。1つの実施形態では、本明細書で言及した組成物は、Id−1の活性を阻害する。さらに、本明細書で言及した組成物は、E−カドヘリンおよびγ−カテニンの発現の回復を通して細胞侵襲、すなわち癌の転移を阻害することもまた見いだされた。そこで1つの実施形態では、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つならびにドセタキセルおよび/またはダカルバジンを含む本組成物は、癌の転移を阻害する。
【0042】
本明細書で言及したトコトリエノール濃縮組成物もしくは調製物と併用できるドセタキセルは、例えば乳癌、卵巣癌、および非小細胞性肺癌を治療するために使用される抗腫瘍医薬品である。ドセタキセルは、Sanofi−Aventis社によって名称Taxotere(登録商標)注射用濃縮液を付けて市販されている。ドセタキセルは、一般には10サイクルのコースにわたって3週間毎に1回の1時間の注入として投与される。ドセタキセルは、化学療法薬のクラスであるタキサン系に属しており、希少な西洋イチイ(Western yew)であるテキサス・ブレビフォリア(Taxus brevifolia)からの抽出物であるタキソールの半合成アナログ(パクリタキセル)である。ドセタキセルの抗癌活性は、GTPの非存在下では生理学的微小管脱重合/分解を防止しながら、微小管重合を促進および安定化する能力に起因する。これは微小管形成のために必要とされる遊離チューブリンの有意な減少をもたらし、有糸分裂の中期と後期との間の有糸分裂細胞分割の阻害を生じさせ、その後の癌細胞分割および増殖を防止する。
【0043】
本明細書で言及したトコトリエノール濃縮組成物もしくは調製物と併用して使用できるその他の化学療法薬は、ダカルバジン(DTIC)である。ダカルバジンは、アルキル化剤のグループに属する。ダカルバジンは、抗腫瘍活性を備えるトリアゼン誘導体である。ダカルバジンは、細胞周期の全期中にDNAをアルキル化して架橋させ、結果としてDNA機能の崩壊、細胞周期停止、およびアポトーシスを生じさせる。そこで、ダカルバジンは、様々な癌、特にほんの少数例を挙げると悪性黒色腫、ホジキン(Hodgkin)リンパ腫、肉腫、および膵臓の島細胞癌を治療するために使用される。
【0044】
また別の態様では、本発明は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)とともに含む組成物を投与する工程によって癌を阻害する、停止させる、または後退させる方法に関する。
【0045】
本発明の状況では、「後退させる」は、腫瘍塊のサイズを減少させ、最終的には腫瘍を完全に排除することを意味する。そこで、癌を後退させることは、癌を治癒させる、つまり動物体内にあらゆる癌の徴候を排除することを意味する。癌を「阻害する」または「停止させる」ことは、腫瘍を安定化させることを意味する。安定化された腫瘍は、疾患の改善も悪化も示さない。
【0046】
γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む本組成物の一部は、本発明の第1態様に関連して上述した他の物質(ポリフェノール類など)と同一調製物、量、組み合わせで使用できる。γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物または調製物は、化学療法薬、つまりドセタキセルおよび/またはダカルバジンとは別個に投与できる、または1つの組成物中で一緒に調製することができる。
【0047】
癌を阻害する、または停止させる、または後退させる方法では、上記癌は黒色腫(皮膚癌)、前立腺癌、大腸癌、前立腺上皮内腫瘍、膀胱癌、肝臓癌、乳癌または肺癌の形態にあってよい。
【0048】
1つの実施形態では、本発明は、黒色腫を阻害する、または後退させる方法に関するが、本組成物は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)のうちのいずれか1つを含む。さらにまた別の実施形態では、本発明は、前立腺癌、または乳癌もしくは前立腺上皮内腫瘍を阻害する、または後退させる方法に関するが、本組成物は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)のうちのいずれか1つを含む。さらにまた別の態様では、本発明は、上述した癌または癌のタイプを治療するための医薬品を製造するための、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールをのうちの少なくとも1つを5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)のうちのいずれか1つを含む組成物の使用に関する。
【0049】
ビタミンEおよびそれらのアイソフォームは一般的に水不溶性であるので、本明細書で言及した組成物は、1つの実施形態では水溶性形で調製される。そこで、本明細書で言及した組成物は、特定化合物の添加によって水溶性化される。本明細書で言及した組成物の水溶性化形は、例えば、それを固体分散液に調製することによって入手できる。水分散性および水溶性トコトリエノール形を調製する他の方法は、米国特許第5869704号明細書に開示されている。
【0050】
用語「固体分散液」は、少なくとも2つの成分を含む固体状態(液体または気体状態とは対照的)にある系を規定しており、このとき1つの成分は他の成分もしくは成分全体に分散している。例えば、有効成分(トコトリエノール類)または有効成分の組み合わせ(トコトリエノール類および化学療法薬)は、医薬上許容される水溶性ポリマーおよび医薬上許容される界面活性剤からなるマトリックス中に分散させられる。
【0051】
用語「固体分散液」は、別の相に分散した1つの相の微粒子を有する系を含んでいる。これらの粒子は、典型的にはサイズが400μm未満、例えばサイズが100μm未満、10μm未満、または1μm未満である。前記成分の分散液が、上記系が1つの相全体に化学的および物理的に一様もしくは均質である、または1つの相からなる(熱力学において規定されるように)ような場合は、そのような固体分散液は「固体溶液」もしくは「ガラス溶液」と呼ばれるであろう。ガラス溶液は、溶質がガラス状溶媒中に溶解している均質なガラス質系である。
【0052】
このような固体分散液は、異なる経路を介して投与できる。例えば、経口投与される固体剤形には、カプセル剤、糖衣錠、顆粒剤、ピル剤、散剤、および錠剤が含まれるがこれらに限定されない。このような剤形を調製するために一般に使用される賦形剤には、カプセル化材料、または吸収促進剤、抗酸化物質、結合剤、緩衝剤、コーティング剤、着色剤、希釈剤、崩壊剤、乳化剤、増量剤、充填剤、フレーバー剤、保湿剤、潤滑剤、保存料、噴射剤、離型剤、安定化剤、甘味料、可溶化剤、およびそれらの混合物などの調整物添加物が含まれる。
【0053】
固体剤形で経口投与される化合物のための賦形剤には、寒天、アルギン酸、水酸化アルミニウム、安息香酸ベンジル、1,3−ブチレングリコール、ヒマシ油、セルロース、酢酸セルロース、カカオ脂、コーンスターチ、コーン油、綿実油、エタノール、酢酸エチル、炭酸エチル、エチルセルロース、エチルラウリエート(ethyl laureate)、オレイン酸エチル、ゼラチン、胚芽油、グルコース、グリセロール、落花生油、イソプロパノール、等張食塩水、ラクトース、水酸化マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、麦芽、オリーブ油、ピーナッツ油、リン酸カリウム塩、ジャガイモデンプン、プロピレングリコール、タルク、トラガンタ、水、ベニバナ油、ゴマ油、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム塩、大豆油、スクロース、テトラヒドロフルフリルアルコール、およびそれらの混合物が含まれるがこれらに限定されない。
【0054】
1つの実施形態では、剤形は、γ−トコトリエノールおよび/またはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つまたはドセタキセルおよび/またはダカルバジンと一緒のγ−トコトリエノールおよび/またはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つの混合物の固体溶液もしくは固体分散液を含むことができ、上記マトリックスは少なくとも1つの医薬上許容される水溶性ポリマーおよび少なくとも1つの医薬上許容される界面活性剤を含むことができる。適切な医薬上許容される水溶性ポリマーには、少なくとも50℃、または少なくとも60℃、または約80℃〜約180℃のガラス転移温度(Tg)を有する水溶性ポリマーが含まれるが、これらに限定されない。
【0055】
上記に規定したTgを有する水溶性ポリマーは、機械的に安定性であり、通常の温度範囲内では十分に温度安定性である固体溶液もしくは固体分散液の調製を可能にするので、上記固体溶液もしくは固体分散液はそれ以上加工処理せずに剤形として使用できる、またはほんの少量の打錠助剤を用いて錠剤に圧縮することができる。
【0056】
本明細書で言及した剤形に含まれる水溶性ポリマーは、2(w/v)%の水溶液中に20℃で溶解させた場合に1〜5,000mPa・s、または1〜700mPa・s、または5mPa・s〜100mPa・sの見掛け粘度を有していてよいポリマーである。
【0057】
本明細書で言及した剤形に使用するのに適切な水溶性ポリマーには、N−ビニルラクタムのホモポリマーおよびコポリマー、特別にはN−ビニルピロリドンのホモポリマーおよびコポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、N−ビニルピロリドンと酢酸ビニルもしくはプロピオン酸ビニルのコポリマー;セルロースエステル類およびセルロースエーテル類、特別にはメチルセルロースおよびエチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース類、特別にはヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース類、特別にはヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースフタル酸塩類もしくはコハク酸塩類、特別には酢酸フタル酸セルロースおよびフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースもしくは酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース;高分子量酸化ポリアルキレン類、例えば酸化ポリエチレンおよび酸化プロピレンおよび酸化エチレンと酸化プロピレンのコポリマー;ポリアクリレート類およびポリメタクリレート類、例えばメタクリル酸/アクリル酸エチルコポリマー類、メタクリル酸/メタクリル酸メチルコポリマー類、ブチルメタクリレート/2−ジメチルアミノエチルメタクリレートコポリマー、ポリ(ヒドロキシアルキルアクリレート類)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート類);ポリアクリルアミド類、酢酸ビニルポリマー類、例えば醋酸ビニルとクロトン酸のコポリマー類、部分加水分解酢酸ポリビニル類(部分鹸化「ポリビニルアルコール」とも呼ばれる)、ポリビニルアルコール;オリゴ糖および多糖類、例えばカラゲナン類、ガラクトマンナン類およびキサンタンガム、またはそれらのうちの1つ以上の混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
本明細書で使用する用語「医薬上許容される界面活性剤」は、医薬上許容される非イオン性の界面活性剤を意味する。本明細書で言及した剤形は、12〜18、または13〜17、または14〜16の親水性親油性バランス(HLB)値を有する少なくとも1つの界面活性剤を含んでいる。HLB系は界面活性剤に数値を付けており、親油性物質には低いHLB値が付けられ、親水性物質には高いHLB値が付けられる。
【0059】
1つの実施形態では、本明細書で言及した剤形は、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、例えば、ポリオキシエチレングリコールトリリシノオレエートもしくはポリオキシ35ヒマシ油(Cremophor(登録商標)EL)またはポリオキシエチレングリコールオキシステアレート、例えばポリエチレングリコール40水素化ヒマシ油(Cremophor(登録商標)RH40、ポリオキシル40水素化ヒマシ油もしくはマクロゴールグリセロールヒドロキシステアレートとしても公知である)もしくはポリエチレングリコール60水素化ヒマシ油(Cremophor(登録商標)RH60);またはポリオキシエチレン(20)ソルビタンのモノ脂肪酸エステル、例えば、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート(Tween(登録商標)60)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート(Tween(登録商標)40)、またはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween(登録商標)20)から選択される1つ以上の医薬上許容される界面活性剤を含んでいる。18より大きい、または12より小さいHLB値を備える界面活性剤を含む他の界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー類もしくはポリオキシエチレンポリプロピレングリコールとしても公知の酸化エチレンと酸化プロピレンとのブロックコポリマー類、例えばPoloxamer(登録商標)124、Poloxamer(登録商標)188、Poloxamer(登録商標)237、Poloxamer(登録商標)388、またはPoloxamer(登録商標)407などもまた使用できる。
【0060】
2つ以上の界面活性剤が使用される場合は、12〜18のHLB値を有する界面活性剤が、使用される界面活性剤の総重量の好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%を占める。
【0061】
本明細書で言及した剤形は、さらにまた追加の賦形剤もしくは添加物、例えば流動調節剤、潤滑剤、バルク化剤(充填剤)および崩壊剤などを含むことができる。このような追加の賦形剤は、制限なく、全剤形の重量で0%〜15%を含むことができる。
【0062】
本明細書で言及した剤形は、幾つかの層からなる剤形、例えば積層錠剤または多層錠剤として提供できる。これらは、開放形または閉鎖形であってよい。「閉鎖形剤形」は、1つの層が少なくとも1つの他の層によって完全に取り囲まれている剤形である。多層形は、相互に不適合性である2つの有効成分を加工処理できる、または上記有効成分の放出特性を制御できるという利点を有する。例えば、外層の1つに有効成分を含めることによって初期用量を、そして内層に有効成分を含めることによって維持用量を提供することが可能である。多層錠剤のタイプは、顆粒の2つ以上の層を圧縮する工程によって製造することができる。
【0063】
さらに、錠剤上のフィルムコートが、錠剤を嚥下できる容易さに寄与することができる。フィルムコートは、風味をさらに改善し、優美な外観を提供する。所望であれば、フィルムコートは腸溶コートであってよい。フィルムコートは、通常はポリマーフィルム形成材料、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびアクリレートもしくはメタクリレートコポリマーを含む。フィルム形成ポリマーの他に、フィルムコートは、可塑剤、例えばポリエチレングリコール、界面活性剤、例えばTween(登録商標)タイプ、および任意で色素、例えば二酸化チタンもしくは酸化鉄類を含むことができる。フィルムコーティングは、さらにまた抗接着剤としてタルクも含むことができる。フィルムコートは、通常は剤形の重量の5重量%を占める。
【0064】
本明細書で言及した組成物を調製する他の特定の形態には、トコトリエノール類の天然油液、例えばソフトゲルを製造するために使用できるヤシ油、ソフトドリンクを製造するために使用できる水溶性エマルジョン液形、軟質カプセルおよび錠剤を製造するために使用できる冷水分散性粉末、または硬質カプセルを製造するために使用できるビーズレット(beadlets)が含まれるが、これらに限定されない。
【0065】
水溶性エマルジョン液の形態にある本明細書で言及した組成物を製造するためには、出発材料としてトコトリエノール液が使用され、これにグリセリンおよび乳化剤のブレンドが加えられる。その後、混合物がエマルジョンに均質化される。
【0066】
水溶性エマルジョン液を調製するために使用できる乳化剤の例には、グリセリン脂肪酸エステル類、モノグリセリドの酢酸エステル類、モノグリセリドの乳酸エステル類、モノグリセリドのクエン酸エステル類、モノグリセリドのコハク酸エステル類、モノグリセリドのジアセチル酒石酸エステル類、脂肪酸のポリグリセロールエステル類、ポリリシノール酸ポリグリセロール、脂肪酸のソルビタンエステル類、脂肪酸のプロピレングリコールエステル類、デンプン誘導体、界面活性剤、脂肪酸のスクロースエステル類、二乳酸のカルシウムステアロイル、レシチン、または酵素消化レシチン/酵素処理レシチンが含まれるが、これらに限定されない。
【0067】
本明細書で言及した組成物の冷水分散性粉末は、出発材料としてトコトリエノール油液を用意することによって製造できる。例えば、加工コーンスターチ、マルトデキストリン、シクロデキストリン類もしくはコーンスターチなどの乳化剤がトコトリエノール油に加えられる。この混合物は、その後乾燥粉末にスプレー乾燥することができる。
【0068】
本明細書で言及した組成物のビーズレットは、出発材料としてトコトリエノール油液を用意することによって入手できる。その後に、1つの実施形態では、ゼラチン、コーンスターチ、スクロースおよびパルミチン酸アスコルビルがトコトリエノール油に加えられる。この混合物は、乾燥ビーズレットにスプレー乾燥させられる。
【0069】
注射用調製物は、正確に計算された用量の皮下、筋肉内もしくは腹腔内(i.p.)注射を介して上記の組成物の動物体の循環系内への導入および送達を可能にする。プロピレングリコールは、そのような調製物のために一般に使用される溶媒である。また別の実施形態では、本組成物は、油中水型調製物で調製される。
【0070】
そこで1つの実施形態では、本明細書で言及した組成物は、錠剤、ビーズレット、または(ソフト)ゲル、または糖衣錠、または徐放性調製物、または軟膏、または注射用調製物としての形態、またはカプセル化形で投与される。カプセル化形は、例えば、リン脂質中に封入された組成物を含むことができる。
【0071】
さらにまた別の態様では、本発明は、本明細書で言及した組成物または調製物のいずれかを製造する方法に関する。そのような組成物を調製するあらゆる公知の方法を使用できる。そこで、1つの実施形態では、そのような組成物を製造する方法は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)と混合する工程を含んでいる。
【0072】
本明細書で例示的に記載した本発明は、本明細書には特別に開示していない任意の要素、制限の非存在下で適切に実施することができる。そこで例えば、用語「〜を含む」、「〜を包含する」、「〜を含有する」などは、拡張的に、かつ限定なしに読み取られるべきである。さらに、本明細書で使用した用語および表現は説明のために使用されたものであって限定のために使用されたのではないこと、そしてそのような用語および表現の使用においては本明細書に示した特徴およびその部分のあらゆる等価物を排除することは意図しておらず、本明細書で主張する本発明の範囲内で様々な修飾が可能であると理解されたい。そこで、本発明は好ましい実施形態および任意の特徴によって詳細に開示してきたが、本明細書に開示した本発明の修飾および変更は当業者であれば使用できること、そしてそのような修飾および変更は本発明の範囲内に含まれると考察されると理解すべきである。
【0073】
本明細書では、本発明について広汎かつ一般的に記載してきた。一般的開示に含まれるより狭い種および亜属の分類もまた本発明の一部を形成している。これは、切除された材料が特別に本明細書で言及されているかどうかとは無関係に、属から任意の主題物質を除くという条件もしくは消極的な限定を備える本発明の一般的説明を含んでいる。
【0074】
その他の実施形態は、下記の特許請求項および非限定的な実施例に含まれる。さらに、本発明の特徴または態様がマーカッシュ(Markush)群によって記載される場合は、当業者は、本発明がさらにまたマーカッシュ群の任意の個別要素またはマーカッシュ群の部分群の要素に関して記載されていることを理解するであろう。
【実施例】
【0075】
1.下記の実験では、黒色腫細胞系を使用して様々なトコフェロールおよびトコトリエノール異性体の抗増殖性作用を比較した。全8種のビタミンE異性体が、悪性皮膚癌細胞の増殖を阻害できることが見いだされた。効力は各異性体間で変動し、γ−T3の効力が最も高かった。γ−T3の作用に関する詳細な試験は、2つの黒色腫細胞系のγ−T3処理がアポトーシスの誘導を生じさせることを明らかにしたが、これは例えばId−1またはEGFRなどの生存促進因子のダウンレギュレーションと関連していた。これと同時に、JNKの活性化およびNF−κBの不活性化もまたこの処理後に観察された。特異的阻害剤であるSP600125によるJNK活性の阻害は、γ−T3処理に対する感受性を部分的に遮断し、これはγ−T3誘導性アポトーシスがJNKシグナリング経路を通して媒介されることを指示している。さらに、γ−T3処理はさらにまたE−カドヘリン、γ−カテニンの発現も回復させ、黒色腫細胞内の間葉マーカーの発現を抑制し、細胞侵襲の阻害を生じさせた。興味深いことに、ドセタキセルもしくはダカルバジン誘導性アポトーシスは、γ−T3の存在下では有意に増強されることが見いだされ、これはトコトリエノール異性体、例えばγ−T3と化学療法薬(ドセタキセルおよびダカルバジン)との間の黒色腫細胞に対する相乗作用を証明している。以前の報告書および本発明者らの半数致死量(LD50)試験(データは示していない)は、トコトリエノール抽出物を用いた処理後の毒性を示しておらず(LD50≧2,000mg/kg)、この試験からの結果は、T3異性体を単独、または悪性黒色腫を治療するための他の化合療法薬と併用してのいずれかで安全かつ効果的な抗癌薬として使用できることを提案している。
【0076】
1.1.材料および実験条件
【0077】
1.1.1 黒色腫細胞系、細胞培養条件および化学薬品−メラニン欠乏性黒色腫(C32)、悪性黒色腫(G361)細胞(ATCC、メリーランド州ロックビル)は、37℃の5%CO2中で、2mmol/LのL−グルタミン、10%ウシ胎児血清(FCS)および1%ペニシリン−ストレプトマイシンが補給されたATCCが推奨する各培地(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)中で維持した。ドセタキセル、ダカルバジン(Calbiochem社)およびJNK阻害剤(Sigma−Aldrich社)は、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解させた。処理溶液は、所望の濃度を得るために培養培地中で希釈した。
【0078】
1.1.2 トコトリエノールおよびトコフェロール異性体は、ヤシ油から抽出し、Davos Life Science社(シンガポール国)の分離技術を使用して精製した。粗ヤシ油(CPO)供給材料は、Kuala Lumpur Kepong Berhad社から購入した。参照標準物質として対応するトコトリエノール異性体を使用して、T3およびT異性体の純度は、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)パーセンテージ面積(%面積)によって≧97%であると検証された。
【0079】
1.1.3 細胞生存性試験および時間経過実験−細胞生存性試験のために、100μLの培地中に再懸濁させた1×104個の細胞を96ウエルプレートの各ウエル内でプレーティングした。細胞は次に様々な濃度のビタミンE異性体を用いて24時間にわたり処理した。処理後、20μLの3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)溶液を各ウエルに加え、細胞を37℃で2時間にわたり培養した。次にホルマザン結晶を200μLのDMSO中に再懸濁させ、595nmでの吸光度を測定した。JNK阻害剤試験のためには、細胞にビタミンE異性体を添加する前に8時間にわたり20μMのSP600125で前処理した。時間経過試験のためには、5×103個の細胞を様々な濃度のビタミンE異性体で処理し、指示した時点でMTT細胞増殖アッセイにかけた。異性体についてのIC50が>100μMである場合は、処理用量として100μMが使用される。各実験は3つのウエル内で3回繰返し、増殖曲線は平均値および標準偏差を示した。
【0080】
γ−T3がドセタキセルおよびダカルバジンの細胞毒性に及ぼす作用を試験するために、細胞をγ−T3とドセタキセルまたはダカルバジンとで共培養した。24時間後、細胞をウエスタンブロッティングおよびMTT細胞増殖アッセイにかけた。
【0081】
1.1.3 フローサイトメトリー−細胞周期分布は、フローサイトメトリーを使用して試験した。手短には、細胞をトリプシン処理によって採取し、4℃の70%エタノール中で一晩かけて固定し、次にPBS中に再懸濁させた。一晩にわたり4℃で培養した後、2×106個の細胞を37℃で15分間にわたり20μg/mLのヨウ化プロピジウム(PI)および2mgのRNaseAとともに培養した。細胞は次にBD SLRII血球計数器によって試験し、結果は、ModFitソフトウェア(Becton Dickinson社、カリフォルニア州マウンテンビュー)を用いて分析した。データは、全集団における細胞周期分布のパーセンテージとして表示した。
【0082】
1.1.4 マトリゲル侵襲アッセイ−マトリゲル侵襲アッセイは、修飾を加えて以前に公表された方法にしたがって実施した。手短には、細胞は24時間にわたりγ−T3異性体を加えて、または加えずに無血清RPMI1640培地中で前培養した。次に0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する500μLの無血清RPMI1640中に再懸濁させた細胞(2.5×105)をMatrigel(0.5mg/mL)(BD Bioscience社、メリーランド州ベッドフォード)が手作業でコーティングされた孔径8μmのインサート(Millipore社、メリーランド州ベッドフォード)の上方のチャンバに加えた。下方のチャンバには、10%FCSが補給されたフィブロネクチン(10μg/mL)およびRPMI1640を含有する500μLの侵襲緩衝液を化学誘引物質として加えた。細胞は、5%CO2加湿条件下で24時間にわたり37℃で培養した。培養期間の終了時に、インサートはDiff−Quick染色溶液(Fischer Scientific社)を用いて染色した。インサートの内部上の非侵襲細胞は消毒綿でこすり落とした。細胞侵襲を次に、位相差顕微鏡によって試験した。侵襲性細胞は、抽出用緩衝液(Millipore社、メリーランド州ベッドフォード)を用いて抽出し、細胞数は595nmでの吸光度に基づいて推定した。
【0083】
1.1.5 ウエスタンブロッティング−詳細なプロトコルは以前に記載されており、当技術分野において公知である。手短には、細胞溶解液は、溶解緩衝液[50mmol/LのTris−HCl(pH8.0)、150mmol/LのNaCl、1% NP40、0.5%デオキシコレート、0.1% SDS、1mg/mLのアプロチニン、1μg/mLのロイペプチンおよび1mmol/Lのフッ化フェニルメチルスルホニル]中に細胞ペレットを懸濁させることによって調製した。核タンパク質抽出のためには、NucBuster(商標)タンパク質抽出キットを使用した。タンパク質濃度は、DCタンパク質アッセイキット(Bio−Rad社、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いて測定した。等量のタンパク質(30μg)を電気泳動法のために10% SDSポリアクリルアミドゲル上に装填し、次に二フッ化ポリビニリデン膜(Amersham社、ニュージャージー州、ピスカタウェイ)上に移した。次に膜を室温で1時間にわたりE−カドヘリン(BD Biosciences社、メリーランド州ベッドフォード)、α−カテニン、β−カテニン、γ−カテニン、Id−1、Id−3、EGFR、ホスホロ−c−jun、ホスホロ−ATF2、切断PARP、ビメンチン、α−s平滑筋アクチン、Twist(Santa Cruz Biotechnology社、カリフォルニア州)、ホスホロ−IκB−α(Ser32/36)、ホスホロ−IKKα(Ser180)/IKKベータ(Ser181)、ホスホロ−SAPK/JNK(Thr183/Tyr185)G9、SAPK/JNK、NF−κB p65(5A5)(Cell Signaling Technology社、メリーランド州ベバリー)、Snail(Abeam社)に対する一次抗体とともに培養した。適切な二次抗体との培養後に、ECLウエスタンブロッティングシステム(Amersham社、ニュージャージー州ピスカタウェイ)によってシグナルを視認した。β−アクチンおよびヒストンH1の発現を全細胞溶解液および核タンパク質溶解液各々のための内部装填コントロールとして評価した。
【0084】
1.2.結果−ビタミンE異性体の抗増殖性作用
【0085】
黒色腫細胞は、用量を増加させながら(0、20、40および60μM)様々な時点にビタミンE異性体を用いて処理した。この結果は、ビタミンE異性体が皮膚癌細胞(G361およびC32)の増殖を有意に抑制することを証明した(図21A)。細胞増殖の阻害は、用量依存性阻害を示したT3異性体、特別にはγ−T3についてより有意に強力であった(図21B)。G361細胞において50%増殖阻害(IC50)を誘発した濃度に基づくと、阻害作用の順序は、γ−T3>δ−T3>β−T3>α−T3(=)α−T(=)β−T(=)γ−T(=)δ−Tであった。
【0086】
γ−T3誘導性増殖阻害の原因となるメカニズムを試験するために、γ−T3処理を行った、または行わない細胞の細胞周期分布をフローサイトメトリーによって分析した。その結果、γ−T3を用いた細胞の処理は下位−G1細胞集団の誘導を生じさせ、これは処理後のアポトーシス細胞の存在を示していた(図22A)。フローサイトメトリーの結果と一致して、プロカスパーゼ3、7、9ならびにPARPの活性化は、切断産物の外観によって証明されたように、様々なγ−T3用量で処理されたC32細胞において観察された(図22B)。その一方で、アポトーシス促進タンパク質のγ−T3媒介性活性化は、γ−T3処理が細胞増殖の阻害に及ぼす作用と一致して、用量依存性であった。
【0087】
γ−T3は、生存促進性シグナリング経路をダウンレギュレートする−NF−κBはC32中では構成的に活性化されると報告されたので、γ−T3がNF−κB活性化の抑制に帰せられる細胞アポトーシスを誘導した可能性があると考えられた。様々な用量のγ−T3を用いて処理されたC32のNF−κB活性は、NF−κBサブユニットp65の転座を試験することによって測定した。図23Aに例示したように、γ−T3処理は用量依存性で構成的NF−κB p65活性を抑制した。γ−T3がNF−κBシグナリングに及ぼす作用は、例えばホスホロ−IκBα/β、IκBα/β、ホスホロ−IKKα/βおよびホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)などの他の上流調節因子の発現を試験することによってさらに探索した。NF−κBの核への転座は、IKKα/βによるリン酸化を通して分解されるIκBα/βタンパク質によって阻害される。IKKα/βは順に、PI3Kによってリン酸化および活性化される。γ−T3処理C32細胞内では、リン酸化IκBα/βのレベルにおける用量依存性減少が観察された(図23A)。これは、リン酸化されたIKKα/β、IκBα/βのレベルの低下ならびにPI3K p85およびNF−κB p65核転座の阻害と関連している。これらの結果は、γ−T3がIκBα/βの脱リン酸化および蓄積を通してNF−κB活性を抑制したことを示している。
【0088】
γ−T3処理は皮膚癌の発生および進行に関与する多数の重要なタンパク質もまたダウンレギュレートすることが見いだされた。図23Bに示したように、Id−1およびId−3発現レベルは、γ−T3の用量を増加させる処理によってほぼ検出不能なレベルへ有意に抑制された。EGF−Rタンパク質レベルへの類似の作用もまた観察された。EGF−RおよびIdタンパク質ファミリーは癌細胞の増殖および生存にとって必須であるので、それらのダウンレギュレーションはγ−T3誘導性増殖停止およびアポトーシスと関連する可能性がある。
【0089】
γ−T3処理によるアポトーシス促進性経路の活性化−c−Jun N−末端キナーゼ(JNK)は、ストレスおよび遺伝毒性物質によって活性化される進化的に保存されたセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。JNKは、全3つのJun転写因子およびAP−1ファミリーのATF−2メンバーのアミノ末端基をリン酸化する。活性化された転写因子は遺伝子発現を変調させて、細胞移動および細胞死を含む適切な生物学的応答を生成する。C32細胞が様々な用量のγ−T3で処理されると、JNKリン酸化活性における用量依存性上昇が検出された(図24B)。一方、ATF−2またはc−junなどのJNK下流エフェクタのリン酸化は、全部がγ−T3によってアップレギュレートされ、これはJNKシグナリング経路がγ−T3によって活性化されたことを支持していた。
【0090】
黒色腫細胞におけるγ−T3誘導性アポトーシスにおけるJNK活性化の重要性をさらに確認するために、特異的阻害剤であるSP600125を用いたJNKの不活性化が細胞をγ−T3から保護できるかどうかについて調査した。図24Aに示したように、γ−T3と20μMのSP600125による併用処理はγ−T3単独による処理と比較してアポトーシス細胞のパーセンテージを減少させ、これはJNK活性化がC32におけるγ−T3誘導性アポトーシスのために必要であることを確証している。
【0091】
γ−T3が細胞分割の阻害に及ぼす作用−γ−T3が多数の癌に抗増殖性作用を有することは証明されているが、それが癌転移に影響を及ぼすかどうかは明白ではない。このため、γ−T3が皮膚癌細胞の侵襲能力を抑制できるかどうかを試験した。図25Bに示したように、マトリゲル侵襲アッセイを使用すると、γ−T3処理(IC50およびIC85)G361細胞が、マトリゲル層を通して侵襲した細胞数の減少によって証明されたように、未処理コントロールと比較して2倍低い侵襲能力を示すことが見いだされた。細胞侵襲に及ぼすこの阻害作用は、侵襲チャンバ内に加えられた生存細胞の数は同一であったので、γ−T3によって誘導された細胞増殖阻害の結果ではなかった。これらの結果は、γ−T3が、それらの細胞毒性作用とは無関係に、黒色腫細胞の侵襲能力を阻害できることを示している。
【0092】
E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、転移性癌について最も頻回に報告された特徴の1つである。癌細胞内でのE−カドヘリン発現の回復は、転移能力の抑制を引き起こす。黒色腫では、E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、高悪性度腫瘍および不良な予後と相関しており、これはE−カドヘリン発現が黒色腫進行において役割を果たすことを示している。興味深いことに、E−カドヘリンおよびγ−カテニンタンパク質発現はγ−T3による処理後にアップレギュレートされ、E−カドヘリンの抑制因子(Snail)はダウンレギュレートされることが見いだされたが(図25A)、β−カテニンについての発現は全処理用量で一定のままであった。これとは別に、間葉マーカー(ビメンチン、α−SMAおよびTwist)は全部がγ−T3による処理後にダウンレギュレートされた。これらの結果は、癌細胞侵襲にγ−T3が及ぼす阻害作用がE−カドヘリン、γ−カテニンタンパク質発現の誘導;ならびにSnail、ビメンチン、α−SMAおよびTwistの抑制を通して機能する可能性があることを示唆した。
【0093】
γ−T3処理がドセタキセルおよびダカルバジン誘導性アポトーシスに及ぼす作用−γ−T3が化学療法薬と相乗的に作用できるかどうかを試験するために、γ−T3単独またはドセタキセルまたはダカルバジンとの併用での作用を試験した。後者の2つは、肺癌、卵巣癌、乳癌、白血病および悪性黒色腫に対して生体外でのおよび生体内での作用を有することが公知である重要なクラスの抗癌剤を表している。図26Aに示したように、ドセタキセルまたはダカルバジンとγ−T3との併用処理後のC32細胞系内での生存細胞のパーセンテージは、γ−T3またはドセタキセル単独で処理した場合のパーセンテージより有意に低かった。ウエスタンブロッティングを使用すると、γ−T3とドセタキセルまたはダカルバジンいずれかとの併用処理がアポトーシス促進タンパク質(切断されたPARP、カスパーゼ3、7)の活性化ならびに生存促進タンパク質(Id−1、EGFRおよびホスホロ−IκB)のダウンレギュレーションを通して細胞アポトーシスを増強することもまた証明された(図26B)。アポトーシス細胞の濃度は、γ−T(γ−トコフェロール)およびドセタキセルにより併用処理した細胞とは強度に対照的である。これらの結果は、γ−T3が皮膚癌細胞に対してドセタキセルまたはダカルバジンと相乗的に作用できるが、γ−Tは相乗的に作用できないことを示唆した。
【0094】
1.3.上記の実験は、8つのビタミンE異性体の中で、γ−T3が生存促進(Id−1、Id−3、EGFRおよびNF−κB)ならびにアポトーシス促進(カスパーゼ)経路両方の変調を通して黒色腫細胞増殖を阻害することを証明している。一方、γ−T3が悪性黒色腫細胞侵襲をE−カドヘリンおよびγ−カテニン発現の回復によって阻害することが初めて証明された。この阻害作用もまたTwist、α−SMAおよびビメンチンのような間葉マーカーについての発現の抑制と関連していた。γ−T3はドセタキセルおよびダカルバジンの抗癌作用を増強するという所見と一緒に、これらの実験は、γ−T3が皮膚癌を治療するための安全かつ効果的な抗癌剤として使用できるという強力な根拠を提供している。
【0095】
さらに、γ−T3は、IκBキナーゼ活性化の阻害を通して構成的NF−κB活性を抑制し、黒色腫細胞におけるアポトーシスをもたらすことが証明された。結果として、これはカスパーゼ3、7、9およびPARPの活性化によるアポトーシスの誘導を生じさせた。注目すべきであるのは、γ−T3が以前に上皮成長因子(EGF)およびその他の炎症促進サイトカインによって誘導されるNF−κB活性化を無効にすることが証明されている点である。これに含まれる分子的メカニズムはその時点には明白ではなかったが、γ−T3がNF−κBの抑制における共通工程を通して機能する可能性があると提案された。本明細書で言及した実験結果は、EGF受容体(EGF−R)のダウンレギュレーションが皮膚癌におけるγ−T3誘導性NF−κB不活性化と相関することを明らかにした(図23B)。
【0096】
これによってγ−T3がNF−κB経路にその作用を媒介できると考えられる1つのメカニズムは、Id−1の抑制を通してであると考えられた。以前は、Id−1を構成的に発現する皮膚メラノサイトは、細胞増殖またはテロメアの長さにおける変化とは関連していない遅延性細胞老化であることが証明された。さらに、上昇したId−1タンパク質レベルは放射状増殖期黒色腫において一貫して存在することもまた決定され、これは上昇したId−1タンパク質レベルが黒色腫における発癌現象の開始において役割を果たすことを示唆している。これとは別に他の細胞系では、以前に、前立腺癌細胞(LNCaP)における異所性Id−1発現はNF−κB転写活性化活性ならびにp65およびp50タンパク質の核転座の増加を生じさせ、これにはそれらの下流エフェクタであるBcl−xLおよびICAM−Iのアップレギュレーションが付随することが証明された。さらに、そのアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびレトロウイルス構築体によるホルモン非依存性前立腺癌細胞におけるId−1の不活性化は、TNF誘導性アポトーシスに対する増加した感受性と関連しているp65およびp50タンパク質の核レベルの減少を生じさせた。これらの所見を考察すると、これらの結果は、Id遺伝子ファミリーはγ−T3によって直接的に標的とされるNF−κBの上流調節因子の1つである可能性があること、そしてNF−κBシグナリング経路の阻害は黒色腫細胞におけるγ−T3誘導性抗増殖の原因となる可能性があることを強力に示唆している。
【0097】
上記の実験では、c−Jun N末端キナーゼ(JNK)がγ−T3誘導性アポトーシスに関与することもまた証明された。黒色腫細胞をγ−T3により処理すると、例えばc−JunおよびATF−2などのJNK経路に関連する一連の分子(図24A)が同時に活性化された。一方、JNK阻害剤(SP600125)の処理は黒色腫細胞をγ−T3誘導性アポトーシスから保護することが証明された(図24A)。これはさらに、黒色腫細胞におけるγ−T3誘導性アポトーシスにJNK経路が関与することを確証している。本明細書で言及した所見は、γ−T3が化学療法薬への共通エンハンサーとして機能できることを証明している。
【0098】
本明細書で言及した実験では、E−カドヘリンおよびγ−カテニン発現の回復は、Snail、α−SMA、ビメンチンおよびTwistの抑制と一緒に、黒色腫細胞侵襲へのγ−T3の阻害作用の原因となる可能性があることが決定された。本明細書で言及した結果は、悪性黒色腫細胞侵襲を抑制するための潜在的薬剤でもあることを示唆する最初の根拠を提供している。上皮マーカー(E−カドヘリンおよびγ−カテニン)のダウンレギュレーションならびに間葉マーカー(α−SMA、ビメンチンおよびTwist)のアップレギュレーションは、転移性癌において最も頻回に報告された現象の一部である。E−カドヘリン発現の消失は、癌細胞の転移期への進行において重要な役割を果たすこの上皮−間葉転移(EMT)を促進することができると示唆されている。癌細胞におけるE−カドヘリン不活性化の原因となる正確なメカニズムは不明であるが、その抑制因子であるSnailに起因する転写レベルの変化が数種の癌タイプにおける減少した発現の原因となるメカニズムの1つであると思われる。本明細書で言及した実験では、γ−T3処理黒色腫細胞は増加したE−カドヘリン発現を示し(図25A)、これは減少したSnailタンパク質発現および侵襲能力と関連している(図25B)が見いだされた。細胞質カドヘリン結合タンパク質の1ファミリーであるカテニン類(α,γ)は、E−カドヘリンをアクチン細胞骨格へ連結させるので、正常E−カドヘリン機能のために必須であると考えられる。本明細書で言及した実験は、γ−T3がE−カドヘリンおよびγ−カテニンの発現だけをアップレギュレートし、α−カテニンの発現はアップレギュレートしないことを証明している。β−カテニンの発現は一定のままで留まっている。γ−T3処理G361細胞は上昇した機能的E−カドヘリン発現にとって重要な分子であるα−カテニン発現を示さないが、γ−T3は、E−カドヘリンをベースとする細胞接着複合体の確立において重要な役割を果たすと報告されているビンキュリンなどの他の分子を通してE−カドヘリンの機能を回復させることができる。これらをまとめると、実験結果は、γ−T3が間葉−上皮転移(MET)の誘導を通して癌転移を抑制できることを示唆している。
【0099】
図26Cに要約したように、これらの結果は、γ−T3が多数の分子経路を通して作用する黒色腫細胞増殖および侵襲の強力な阻害剤であることを証明した。天然T3抽出物の長期間摂取後に副作用を観察することはできなかったので(LD50≧2,000mg/kg、データは示していない)、γ−T3は、Id1関連性悪性黒色腫を治療するために単独で、または化学療法と併用して使用することができる。
【0100】
2.以下の実験では、前立腺癌細胞を用いて様々なトコフェロールおよびトコトリエノール異性体が及ぼす抗増殖性作用を比較し、それらの活性にとって原因となる分子経路について試験した。γ−トコトリエノールの阻害作用は最も強力であり、プロカスパーゼ類の活性化および下位−G1細胞集団の存在によって証明されるようにアポトーシスの誘導を生じさせた。生存促進遺伝子についての試験は、γ−トコトリエノール誘導性細胞死にはNF−κB、EGF−RおよびIdファミリータンパク質(Id1およびId3)の抑制が関連していることを明らかにした。一方、γ−トコトリエノール処理もまたJNKシグナリング経路の誘導を生じさせ、特異的阻害剤(SP600125)によるJNK活性の阻害はγ−トコトリエノールの作用を部分的に遮断することができた。γ−トコトリエノール処理は間葉マーカーの抑制ならびにE−カドヘリンおよびγ−カテニン発現の回復をもたらしたが、これは細胞侵襲能力の抑制と関連していた。さらに、細胞がγ−トコトリエノールおよび例えばドセタキセルなどの化学療法薬を用いて併用処理された場合には相乗作用が観察された。これらの結果は、γ−トコトリエノールの抗増殖性作用が複数のシグナリング経路を通して作用することを示唆しており、PCa細胞に対するγ−トコトリエノールの抗侵襲および化学増感作用を証明した。
【0101】
2.1.材料および実験条件
【0102】
2.1.1 前立腺癌細胞系、細胞培養条件および化学薬品−ヒトアンドロゲン依存性PCa細胞(LNCaP)、ヒトアンドロゲン非依存性PCa細胞(PC−3)(ATCC、メリーランド州ロックビル)は、37℃の5%CO2中で、2mmol/LのL−グルタミン、10%ウシ胎児血清(FCS)および2%ペニシリン−ストレプトマイシンが補給されたATCCが推奨する各培地(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)中で維持した。ヒト不死化前立腺上皮細胞(PZ−HPV−7)(ATCC、メリーランド州ロックビル)は、ウシ下垂体抽出物(BPE、0.05mg/mL)およびヒト組換え上皮成長因子(EGF、5ng/mLのEGF)が補給されたケラチン生成細胞無血清培地(K−SFM)中で維持した。ドセタキセル(Calbiochem社)およびJNK阻害剤のSP600125(Sigma−Aldrich社)は、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解させた。処理溶液は、所望の濃度を得るために培養培地に希釈した。
【0103】
2.1.2 以下の実験のためには、1.1.2の下で上述した同一のトコトリエノールおよびトコフェロール異性体を使用した。
【0104】
2.1.3 細胞生存性試験および時間経過実験−細胞生存性試験のために、100μLの培地中に再懸濁させた5×103個の細胞を96ウエルプレートの各ウエル内でプレーティングした。細胞は次に様々な濃度(20、40、60、80、100μM)のビタミンE異性体を用いて24および48時間にわたって処理した。処理後、20μLのMTT溶液を各ウエル内に加え、細胞を37℃で2時間にわたり培養した。次にホルマザン結晶を200μLのDMSO中に再懸濁させ、595nmでの吸光度を測定した。JNK阻害剤試験のためには、細胞にビタミンE異性体を添加する前に8時間にわたり20μMのSP600125で前処理した。時間経過試験のためには、5×103個の細胞(LNCaPおよびPC3)をIC50濃度のビタミンE異性体で処理し、指示した時点でMTT細胞増殖アッセイにかけた。異性体についてのIC50が>100μMである場合は、処理用量として100μMが使用される。各実験は3つのウエル内で3回繰返し、増殖曲線は平均値および標準偏差を示した。
【0105】
γ−T3がドセタキセルの細胞毒性に及ぼす作用を試験するために、細胞をγ−T3とともに3時間にわたり前培養し、その後に20および100nMのドセタキセルを添加した。24時間後、細胞を各々ウエスタンブロッティングおよびMTTアッセイにかけた。
【0106】
2.1.4 フローサイトメトリーは、項目1.1.3の下で上述したように実施したマトリゲル侵襲アッセイは、項目1.1.4の下で上述したように実施した。ウエスタンブロッティングは、項目1.1.5の下で上述したように実施した。
【0107】
2.2 結果−ビタミンE異性体の抗増殖性作用
【0108】
PCa細胞は用量を上昇させながら(低:20μM、中:40μMおよび高:80μM)、そして様々な時点にビタミンE異性体を用いて24および48時間にわたり処理した。これらの結果は、ビタミンE異性体が正常前立腺上皮細胞(PZ−HPV−7)の増殖率には有意な影響を及ぼさないが、LNCaPおよびPC−3の増殖を有意に抑制することを証明した(図9A)。LNCaPおよびPC−3における半数細胞増殖率(IC50)を阻害する用量は、培養時間の長さと反比例していた。驚くべきことに、PC−3細胞はLNCaP細胞よりもビタミンE異性体の増殖阻害に高感受性であった。細胞増殖の阻害は、用量および時間依存性阻害を示したPC−3中のT3異性体、特別にはγ−T3についてより有意に強力であった(図9B)。δ−T3はLNCaPにおける細胞増殖を抑制することにより強力であったが(図9A)、IC50値はPC−3中のγ−T3についての数値より有意に高かった。これとは別に、γ−Tはさらにまたγ−T3に類似する用量でLNCaP細胞におけるアポトーシスを誘導することも見いだされた(データは示していない)。24時間にわたり様々な異性体とともに培養されたPC−3細胞におけるIC50値に基づくと、阻害作用の順序は、γ−T3>δ−T3>β−T3>γ−T>δ−T(=)α−T3(=)α−T(=)β−Tであった。その後の実験については、PC−3(γ−T3)にとって最も強力な異性体を調査したが、それはそれらが一般にLNCaP細胞と比較して化学療法薬に対してより侵襲性および耐性であると考えられるからである。
【0109】
γ−T3−誘導性増殖阻害の原因となるメカニズムを試験するために、24時間にわたるγ−T3処理を行った、または行わない細胞の細胞周期分布をフローサイトメトリーによって分析した。その結果、γ−T3(IC50−95)を用いた細胞の処理は下位−G1細胞集団の誘導を生じさせ、これは処理後のアポトーシス細胞の存在を示していた(図10A)。アポトーシス細胞(下位−G1分画)の比率は用量依存性で増加した。注目に値することに、γ−T3は以前に一部の細胞系においてG1停止を誘導すると報告されたが、γ−T3を用いて処理された前立腺癌細胞におけるG1集団の有意な増加は観察されなかった。フローサイトメトリーにおける下位−G1細胞集団の誘導と一致して、プロカスパーゼ3、7、8、9ならびにPARPの活性化は、切断産物の外観によって証明されたように、様々なγ−T3用量で24時間にわたり処理されたPC−3細胞において観察された。Bcl−2のダウンレギュレーションもまた処理後に検出されたが、Baxの発現は影響を受けず、これはPC−3細胞におけるp53発現の欠如に起因する可能性が高い(図10B)。一方、アポトーシス促進タンパク質のこれらのγ−T3−媒介性活性化ならびにBcl−2/Bax比の変化は用量および時間依存性であり(図10B)、γ−T3処理が細胞増殖の阻害に及ぼす作用と一致していた。さらに、IC50のγ−T3処理後のこれらのアポトーシス促進遺伝子の活性化(図10C)はPC−3およびLNCaP細胞においてのみ観察され、PZ−HPV−7では観察されなかったので、これはγ−T3がアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞のアポトーシスを特異的に誘導することを示した。
【0110】
γ−T3は、生存促進性シグナリング経路をダウンレギュレートする−NF−κBはPC−3中では構成的に活性化することは公知であるので、γ−T3がNF−κB活性化の抑制に帰せられる細胞アポトーシスを誘導した可能性があると考えられた。様々な期間にわたって様々な用量またはIC50でのγ−T3を用いて処理されたPC−3のNF−κB活性は、NF−κBサブユニットp65の転座を試験することによって測定した。図11Aに例示したように、γ−T3処理は用量依存性および時間依存性で構成的NF−κB p65活性を抑制した。γ−T3がNF−κBシグナリングに及ぼす作用は、例えばホスホロ−IκBα/βおよびIκBα/βなどの他の上流調節因子の発現を試験することによってさらに探索した。γ−T3処理PC−3細胞内では、リン酸化IκBα/βのレベルにおける用量依存性減少が観察された(図11A)。これは、IκBα/β(一部の図ではIκBa/bと表示した)のレベル上昇ならびにNF−κB p65核転座の阻害と結び付いている。これらの結果は、γ−T3がIκBα/βの脱リン酸化および蓄積を通してNF−κB活性を抑制したことを示している。
【0111】
γ−T3処理は前立腺癌の発生および進行に関与する多数の重要なタンパク質もまたダウンレギュレートすることが見いだされた。図11Bに示したように、EGF−R発現レベルは、γ−T3の用量を増加させる処理によってほぼ検出不能なレベルへ有意に抑制された。Id−1およびId−3タンパク質レベルへの類似の作用が観察された。EGF−RおよびIdタンパク質ファミリーは癌細胞増殖および生存にとって必須であるので、それらのダウンレギュレーションはγ−T3誘導性増殖停止およびアポトーシスと関連する可能性がある。
【0112】
既に言及したような、γ−T3処理によるアポトーシス促進性経路の活性化−c−Jun N−末端キナーゼは、ストレスおよび遺伝毒性物質によって活性化される進化的に保存されたセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。JNKは、全3つのJun転写因子およびAP−1ファミリーのATF−2メンバーのアミノ末端基をリン酸化する。活性化された転写因子は遺伝子発現を変調させて、細胞移動および細胞死を含む適切な生物学的応答を生成する。PC−3細胞を様々な用量のγ−T3で処理すると、JNKリン酸化活性における用量および時間依存性上昇が検出された(図12B)。一方、ATF−2またはc−junなどのJNK下流エフェクタのリン酸化は、全部がγ−T3によってアップレギュレートされ、これはJNKシグナリング経路がγ−T3によって活性化されたことを裏付けていた。
【0113】
皮膚癌細胞系について上述したように、PCa細胞におけるγ−T3誘導性アポトーシスにおけるJNK活性化の重要性をさらに確認するために、特異的阻害剤であるSP600125を用いたJNKの不活性化が細胞をγ−T3から保護できるかどうかについて調査した。図12Aに示したように、同一細胞系においてJNK活性を阻害すると以前に決定された用量である20μMのSP600125と一緒のγ−T3による併用処理は、γ−T3単独による処理と比較してアポトーシス細胞のパーセンテージを減少させたので、これはJNK活性化がγ−T3誘導性アポトーシスのために必要であることを確証している。
【0114】
γ−T3が細胞分割の阻害に及ぼす作用−γ−T3が多数の癌に抗増殖性作用を有することは証明されているが、それが癌転移に影響を及ぼすかどうかは明白ではない。このため、γ−T3が前立腺癌細胞の侵襲能力を抑制できるかどうかを試験した。図13Bに示したように、マトリゲル侵襲アッセイを使用すると、24時間にわたってγ−T3処理(IC50)されたPC−3細胞が、マトリゲル層を通して侵襲した細胞数の減少によって証明されたように、未処理コントロールと比較して2.5倍低い侵襲能力を示すことが見いだされた。細胞侵襲に及ぼすこの阻害作用は、侵襲チャンバ内に加えられた生存細胞の数は同一であったので、γ−T3によって誘導された細胞増殖阻害の結果ではなかった。これらの結果は、γ−T3が、それらの細胞毒性作用とは無関係に、PCa細胞の侵襲能力を阻害できることを示している。
【0115】
E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、転移性癌について最も頻回に報告された特徴の1つである。癌細胞内でのE−カドヘリン発現の回復は、転移能力の抑制を引き起こす。PCaでは、E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、高悪性度腫瘍および不良な予後と相関しており、これはE−カドヘリン発現がPCa進行において役割を果たすことを示している。興味深いことに、E−カドヘリンおよびγ−カテニンタンパク質発現はγ−T3による処理後にアップレギュレートされ、E−カドヘリンの抑制因子(Snail)はダウンレギュレートされたが(図13A)、β−カテニンについての発現は全処理用量および時点で一定のままであった。PC−3細胞内でのα−カテニンの欠失のおかげで、発現は検出されなかった。これとは別に、間葉マーカー(ビメンチン、α−SMAおよびTwist)は全部がγ−T3による24時間にわたる処理後にダウンレギュレートされた。
【0116】
γ−T3処理がドセタキセル誘導性アポトーシスに及ぼす作用−γ−T3が化学療法薬と相乗的に作用できるかどうかを試験するために、γ−T3単独またはドセタキセルなどの抗癌剤との併用での作用を試験した。図14Aに示したように、ドセタキセルとγ−T3との併用処理後のPC−3およびLNCaP細胞系内でのアポトーシス細胞のパーセンテージは、γ−T3またはドセタキセル単独で処理した場合のパーセンテージより有意に高かった。ウエスタンブロッティングを使用すると、γ−T3とドセタキセルとの併用処理がアポトーシス促進タンパク質(切断されたPARP、カスパーゼ3、7、8、9)の活性化ならびに生存促進タンパク質(Id−1、EGFR、IκBおよびNF−κB p65))のダウンレギュレーションを通して細胞アポトーシスを増強することもまた証明された(図14B)。アポトーシス細胞の濃度は、ドセタキセルとのγ−T併用処理とは全く対照的である。これらの結果は、γ−T3およびドセタキセルが前立腺癌細胞に対して相乗作用を及ぼすことを証明している。
【0117】
本明細書で言及した実験は、γ−T3がE−カドヘリン、γ−カテニン発現の回復および間葉マーカーの抑制によって細胞侵襲を阻害することを初めて証明した。γ−T3はドセタキセルの抗癌作用を増強するという所見と一緒に、これらの実験は、γ−T3が前立腺癌を治療するための安全かつ効果的な抗癌剤として開発できるという強力な根拠を提供している。これらの結果は、γ−およびδ−T3が異なる細胞タイプ特異性および効力を備える腫瘍抑制能力を有することを示唆している。
【0118】
本明細書で言及した実験では、γ−T3が、IκBキナーゼ活性化の阻害を通して構成的NF−κB活性を抑制し、PCa細胞におけるアポトーシスをもたらすことが証明された。さらに、γ−T3誘導性NF−κB不活性化が用量依存性および時間依存性でBcl−2のレベルもダウンレギュレートすることも証明された。結果として、これはカスパーゼ3、7、8、9およびPARPの活性化によるアポトーシスを誘導した。P53状態において異なる様々な細胞系を用いて得られた以前の実験結果と一致して、実験結果は、p53がγ−T3誘導性アポトーシスに必要とされないことを示しており、これはp53−ヌル細胞系(PC−3およびHL−60)がγ−T3処理に対して依然として応答性であるためである。注目すべきであるのは、γ−T3が以前に上皮成長因子(EGF)およびその他の炎症促進サイトカインによって誘導されるNF−κB活性化を無効にすることが証明されている点である。これに含まれる分子的メカニズムはその時点には明白ではなかったが、γ−T3がNF−κBの抑制における共通工程を通して機能する可能性があると提案された。本明細書で言及した実験結果は、EGF受容体(EGF−R)のダウンレギュレーションがγ−T3誘導性NF−κB不活性化と相関することを明らかにした(図11B)。この所見は、γ−T3がKBM−5細胞におけるEGF処理によるNF−κB活性化を抑制できた理由を説明することができる。興味深いことに、アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞系であるPC−3は、アンドロゲン依存性LNCaP細胞よりγ−T3処理に対して高感受性であることが見いだされた。PC−3細胞は構成的NF−κB活性化を有することが見いだされており、一般にはLNCaP細胞より化学療法薬誘導性アポトーシスに対してより耐性である。この観察に対する正確な理由は不明であるが、非腫瘍原性前立腺上皮細胞が同様にγ−T3に対して高度に耐性であるという事実に基づくと、γ−T3はより高悪性度の表現型を備える細胞を優先的に標的とすることが考えられる。
【0119】
それによってγ−T3がNF−κB経路にその作用を媒介できると考えられる1つのメカニズムはId−1およびEGF−Rの抑制を通してであると考えられている。以前に、LNCaP細胞における異所性Id−1発現はNF−κB転写活性化活性ならびにp65およびp50タンパク質の核転座の増加を生じさせ、これにはそれらの下流エフェクタであるBcl−xLおよびICAM−Iのアップレギュレーションが付随することが証明された。さらに、DU145細胞におけるId−1のそのアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびレトロウイルス構築体による不活性化は、TNF誘導性アポトーシスに対する増加した感受性と関連しているp65およびp50タンパク質の核レベルの減少を生じさせた。これらの所見を考察すると、本明細書で言及したこれらの結果は、Id遺伝子ファミリーはγ−T3によって直接的に標的とされるNF−κBの上流調節因子の1つである可能性があること、そしてNF−κBシグナリング経路の阻害はγ−T3誘導性抗増殖の原因となる可能性があることを強力に示唆している。
【0120】
本明細書ではでは、c−Jun N末端キナーゼがγ−T3誘導性アポトーシスに関与することもまた証明された。PCa細胞をγ−T3により処理すると、例えばc−JunおよびATF−2などのJNK経路に関連する一連の分子(図12A)が同時に活性化された。一方、JNK阻害剤(SP600125)の処理はPCa細胞をγ−T3誘導性アポトーシスから保護することが証明された(図12A)。これはさらに、PCa細胞におけるγ−T3誘導性アポトーシスにJNK経路が関与することを確証している。注目すべきことは、JNK経路が化学療法薬であるドセタキセルによって誘導される細胞アポトーシスにも関与することも公知である点である。これらの所見を考慮に入れたために、γ−T3がJNK経路の活性化の結果としてドセタキセルとの相乗性相互作用を有するのではないかという疑問が生じた。このためにドセタキセル処理単独、およびγ−T3との併用処理の抗増殖能力を比較した。驚くべきことに、ドセタキセルおよびγ−T3の併用療法はより高率のアポトーシス細胞を生じさせるが、γ−Tは生じさせないことが見いだされた(図14A)。この所見は、γ−T3と化学療法薬との相乗作用性の役割を示している。
【0121】
さらに、E−カドヘリンおよびγ−カテニン発現の回復は、Snail、α−SMA、ビメンチンおよびTwistの抑制と一緒になって、PCa細胞侵襲能力へのγ−T3の阻害作用の原因となる可能性があることが証明された。γ−T3の抗増殖性作用は数種の癌のタイプにおいて報告されてきたが、本明細書で言及した結果は、γ−T3が癌侵襲を抑制するための潜在的薬剤である可能性があることを示唆する最初の根拠を提供している。E−カドヘリンのダウンレギュレーションおよび間葉マーカー(α−SMA、ビメンチンおよびTwist)のアップレギュレーションは、転移性癌において最も頻回に報告された現象の一部である。E−カドヘリン発現の消失で、癌細胞の転移期への進行において重要な役割を果たす上皮−間葉転移(EMT)を促進することができると示唆されている。癌細胞におけるE−カドヘリン不活性化の原因となる正確なメカニズムは不明であるが、その抑制因子であるSnailに起因する転写レベルの変化が数種の癌タイプにおける減少した発現の原因となるメカニズムの1つであると思われる。本明細書で言及した実験の結果に起因して、γ−T3処理PCa細胞は増加したE−カドヘリン発現を示し(図13A)、これは減少したSnailタンパク質発現および侵襲能力と関連している(図13B)ことが見いだされた。細胞質カドヘリン結合タンパク質の1ファミリーであるカテニン類(α、γ)は、E−カドヘリンをアクチン細胞骨格へ連結させるので、正常E−カドヘリン機能のために必須であると考えられる。γ−T3がE−カドヘリンおよびγ−カテニンの発現だけをアップレギュレートし、α−カテニンの発現はアップレギュレートしないことが見いだされた。β−カテニンについての発現は、ニンニク誘導体を用いた以前の実験に類似して静止したままである。PC−3細胞は機能的E−カドヘリン発現にとって重要な分子であるα−カテニンを発現しないが、γ−T3は、E−カドヘリンをベースとする細胞接着複合体の確立において重要な役割を果たすと報告されているビンキュリンなどの他の分子を通してE−カドヘリンの機能を回復させることができる。これらをまとめると、本明細書で言及した実験結果は、γ−T3が間葉−上皮転移(MET)の誘導を通して癌転移を抑制できることを示唆している。
【0122】
図14Cに要約したように、これらの結果は、γ−T3が多数の分子経路を通して作用するPCa細胞増殖および侵襲の強力かつ特異的な阻害剤であることを証明した。天然T3抽出物の長期間摂取後に副作用を観察することはできないので(LD50≧2,000mg/kg、データは示していない)、γ−T3は、進行期PCaを治療するために単独で、または化学療法と併用して使用することができる。
【0123】
3.以下の実験は、組成物を含むγ−トコトリエノールが乳癌(BCa)細胞およびその活性の原因となる基礎にある分子経路に及ぼす抗増殖性作用に関する説明を提供する。これらの結果は、組成物を含むγ−トコトリエノールを用いた乳癌細胞の処理がプロカスパーゼ類の活性化、下位−G1細胞の蓄積およびDNA断片化によって証明されるアポトーシスの誘導を生じさせることを証明した。生存促進遺伝子の試験は、γ−トコトリエノール誘導性細胞死にはそれらの上流調節因子(Src、Smad1/5/8、FakおよびLOX)の変調を通してId1およびNF−κBの抑制が関連することを明らかにした。一方、γ−トコトリエノール処理もまたJNKシグナリング経路の誘導を生じさせ、特異的阻害剤によるJNK活性の阻害はγ−トコトリエノールの作用を部分的に遮断した。さらに、細胞がγ−トコトリエノールおよび例えばドセタキセルなどの化学療法薬を用いて併用処理された場合には相乗作用が観察された。興味深いことに、γ−トコトリエノールを用いて処理された細胞では、α−トコフェロールまたはβ−アミノプロプリオニトリルはId1発現を部分的に回復させることが見いだされた。一方、Id1のこの回復は、細胞をγ−トコトリエノール誘導性アポトーシスから保護することが見いだされた。これらの結果は、γ−トコトリエノールが乳癌細胞に及ぼす抗増殖性および化学増感作用がId1タンパク質のダウンレギュレーションを通して媒介されることを示唆した。
【0124】
3.1.材料および実験条件
【0125】
3.1.1 乳癌細胞系、細胞培養条件および化学薬品−ヒトエストロゲン依存性BCa細胞(MCF−7)、ヒトエストロゲン非依存性BCa細胞(MDA−MB−231)、アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞(PC−3)(ATCC、メリーランド州ロックビル)は、37℃の5%CO2中で、2mmol/LのL−グルタミン、10%ウシ胎児血清(FCS)および2%ペニシリン−ストレプトマイシンが補給されたATCCが推奨する各培地(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)中で維持した。ヒト不死化非腫瘍原性乳癌上皮細胞系(MCF−10A)(ATCC、メリーランド州ロックビル)は、Clonetics Corporation社から入手できるMEGM Bulletキットの一部として供給されるMEBM中で維持した。完全増殖培地を作製するために、基底培地中に以下の成分を加えた:GA−1000以外のキットとともに供給される全MEGM SingleQuot添加物(BPE 13mg/mL、2mL;ヒドロコルチゾン0.5mg/mL、0.5mL;hEGF 10μg/mL、0.5mL;インスリン5mg/mL、0.5mL);100ng/mLのコレラ毒素。安定性のSi−Id1 PC−3細胞系(Id1ノックダウンモデル)は、以前のプロトコルに基づいてYC Wong教授(HKU)によって寄贈された。ドセタキセル(Calbiochem社、独国ダルムシュタット)、JNK阻害剤のSP600125、Erk阻害剤のU0126(Sigma−Aldrich社、米国セントルイス)およびβ−アミノプロプリオニトリル(APN)(TCI社、日本国)をジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解させた。処理溶液は、所望の濃度を得るために培養培地中に希釈させた。
【0126】
3.1.2 Id1形質転換体の生成−MDA−MB−231細胞(1×105個の細胞/ウエル)は12ウエルの培養プレート内へプレーティングし、24時間にわたり増殖させた。pc−Id1またはpcDNA(MT Ling教授、IHBIからの寄贈)は、γ−T3処理前に24時間にわたりFugene 6試薬を使用して細胞内へ形質転換させた。24時間後、細胞はMTT細胞生存性についてアッセイを行うか、ウエスタンブロッティングのために溶解させた。
【0127】
3.1.3 以下の実験のためには、1.1.2の下で上述した同一のトコトリエノールおよびトコフェロール異性体を使用した。
【0128】
3.1.4 細胞生存性および時間経過実験は、以下の相違を含めて項目1.1.3の下で上述したように実施した。阻害剤試験のためには、細胞にビタミンE異性体を添加する前に8時間にわたり標的用量で阻害剤(U0126、PD98059およびAPN)を用いて前処理した。
【0129】
3.1.5 DNA断片化アッセイ−γ−T3との24時間にわたる培養後に、3×106個のMDA−MB−231細胞を採取し、氷上で60分間にわたり溶解緩衝液(5mM Tris−HCl(pH8.0)、20mM EDTA、および0.5%(v/v)Triton X−100)中に懸濁させた。サンプルを遠心分離し、上清を取り除き、37℃で40分間にわたり5μLのRNaseA(10μg/mL)とともに培養し、1mLの無水エタノールを加えた。試験管を20分間にわたり20℃に置き、次にDNAをペレット化するために遠心分離した。DNAサンプルは臭化エチジウム(0.2μg/mL)を含有する2%アガロースゲル上で3時間にわたる80Vでの電気泳動法によって分析し、UV照明下で視認した。
【0130】
3.1.6 末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介性チオリン酸デオキシウリジンニック末端標識(TUNEL)アッセイ−アポトーシス中のDNAストランド破損は、インサイチュー細胞死検出試薬(Roche Applied Science社)を使用して試験した。手短には、1×106個の細胞を24時間にわたりγ−T3で前処理した。その後、細胞を37℃で60分間にわたり反応混合液と培養した。染色した細胞を分析し、蛍光顕微鏡によってガラススライド上で捕捉した。
【0131】
3.1.7 フローサイトメトリーは、項目1.1.3の下で上述したように実施した。マトリゲル侵襲アッセイは、項目1.1.4の下で上述したように実施した。ウエスタンブロッティングは、項目1.1.5の下で上述したように実施した。
【0132】
3.1.8 Id−1のRT−PCR−全RNAを、Trizol(登録商標)試薬を製造業者(Invitrogen社)のプロトコルにしたがって用いて単離した。cDNAを、Superscript(商標)第1鎖合成システム(Invitrogen社)を用いて合成し、次にPCRによってId−1特異的プライマー(フォワードプライマー、Id1−S、5’−CTC CAG CAC GTC ATC GAC TA−3’およびリバースプライマー、Id1−AS、5’−AAC GCA TGC CGC CTC−3’)を用いて増幅させた。PCRサイクリングプロトコルは、以下の通りであった:95℃で10分間、95℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で1分間および72℃で10分間の30サイクル。グリセロアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼを内部コントロールとして増幅させた。PCR産物を2%アガロースゲル上で電気泳動にかけ、ゲルドキュメンテーションシステムを使用して分析した。
【0133】
3.2.結果−ビタミンE異性体が乳癌(Bca)細胞に及ぼす抗増殖性作用
【0134】
用量を増やしながら(低:20μM、中:40μMおよび高:80μM)ビタミンE異性体を用いてBCa細胞を24時間にわたり処理した。これらの結果は、ビタミンE異性体が正常乳房上皮細胞(MCF−10A)の増殖率には有意な影響を及ぼさないが、MCF−7およびMDA−MB−231の増殖を有意に抑制することを証明した(図15A)。驚くべきことに、MDA−MB−231細胞はMCF−7細胞よりもビタミンE異性体の増殖阻害に高感受性であった。細胞増殖の阻害は、用量依存性阻害を示したMDA−MB−231中のT3異性体、特別にはγ−T3についてより有意に強力であった。24時間にわたり様々な異性体とともに培養されたMDA−MB−231細胞におけるIC50値に基づくと、阻害作用の順序は、γ−T3>β−T3>δ−T3であった。MDA−MB−231細胞はMCF−7細胞と比較するとより侵襲性であり、化学療法薬に対して耐性であるので、その後の実験のためには、γ−T3がMDA−MB−231に及ぼす作用を調査することを決定した。
【0135】
γ−T3−誘導性増殖阻害の原因となるメカニズムを試験するために、24時間にわたるγ−T3処理を行った、または行わない細胞の細胞周期分布およびゲノムDNA断片化をフローサイトメトリー、ゲル電気泳動法およびTUNELアッセイによって分析した。その結果、γ−T3(IC50−90)を用いた細胞の処理は下位−G1細胞集団の誘導(図15B)およびDNA断片化(図15C〜D)を生じさせ、これは処理後のアポトーシス細胞の存在を示していた。アポトーシス細胞(下位−G1分画)の比率は用量依存性で増加した。
【0136】
γ−T3誘導性アポトーシスのメカニズムを詳細に試験するために、最初に、MDA−MB−231細胞におけるプログラムされた細胞死がカスパーゼ依存性であるかどうかを調査した。図16Aに示したように、プロカスパーゼ3、7、8、9ならびにPARPの活性化は、切断産物の外観によって証明されたように、様々なγ−T3用量で24時間にわたり処理されたMDA−MB−231細胞において観察された。Bcl−2のダウンレギュレーションもまた、Bax発現のアップレギュレーションと一緒に、処理後に検出された(図16A)。一方、アポトーシス促進タンパク質のこれらのγ−T3媒介性活性化ならびにBcl−2/Bax比の変化は用量依存性であった(図16A)。さらに、γ−T3処理後によるこれらのアポトーシス促進遺伝子の活性化(図16B)はMDA−MB−231およびMCF−7細胞においてのみ観察され、MCF−10A細胞では観察されなかったので、これはγ−T3がBCa細胞においてアポトーシスを特異的に誘導することを示した。
【0137】
3.3.γ−T3はBCa細胞における生存促進性シグナリング経路をダウンレギュレートした
【0138】
NF−κBはMDA−MB−231細胞内では構成的に活性化されると報告されたので、γ−T3がNF−κB活性化の抑制に帰せられる細胞アポトーシスを誘導した可能性があると考えられた。様々な用量のγ−T3を用いて処理されたMDA−MB−231のNF−κB活性は、NF−κBサブユニットp65の核転座を試験することによって測定した。図17Aに例示したように、γ−T3処理は用量依存性でNF−κB p65の核レベルを抑制した。γ−T3がNF−κBシグナリングに及ぼす作用を、例えばp−IκBα/βおよびIκBα/βなどの、他の上流調節因子の発現を試験することによって、さらに探索した。γ−T3処理MDA−MB−231細胞内では、リン酸化IκBα/βのレベルにおける用量依存性減少が観察された(図17A)。これは、IκBα/βのレベル上昇ならびにNF−κB p65核転座の阻害と結び付いている。これらの結果は、γ−T3がIκBα/βの脱リン酸化および蓄積を通してNF−κB活性を抑制したことを示している。
【0139】
3.4.γ−T3は、BCa細胞においてId1シグナリング経路およびその上流調節タンパク質をダウンレギュレートした。
【0140】
驚くべきことに、γ−T3処理はBCaの発生および進行に関与する多数の重要なタンパク質もまたダウンレギュレートすることが見いだされた。図17Bに示したように、Id−1およびId−3発現レベルは、γ−T3の用量を増加させる処理によってほぼ検出不能なレベルへ有意に抑制された。EGF−Rタンパク質レベルへの類似の作用もまた観察された。EGF−RおよびIdタンパク質ファミリーはBCa細胞増殖および生存にとって必須であるので、それらのダウンレギュレーションはγ−T3誘導性増殖停止およびアポトーシスと関連する可能性がある。
【0141】
Id1転写産物およびタンパク質レベルは以前にBCa細胞内のSrc、Smad1/5、LOXおよびFakシグナリング経路によって直接的または間接的に調節されることが証明されているので、γ−T3がBCa細胞内のId1の上流調節因子に及ぼす作用についてさらに試験した。これらの結果は、Srcのリン酸化ならびにSmad1/5/8、LOXおよび活性化Fakのタンパク質レベルがγ−T3処理によって用量依存性で抑制されることを証明した(図17C)。一方、抗Src抗体を用いて明らかにされた免疫沈降アッセイは、SrcとSmad1/5/8との相互作用の減少を明らかにしたが、これはγ−T3によるSmad1/5/8タンパク質レベルの抑制に起因する可能性が高い(図17D)。これはおそらくSrc−Smad複合体のId−1プロモーターのSrc応答性領域への結合の減少を引き起こし、γ−T3によるId−1タンパク質発現の観察された抑制を生じさせた。
【0142】
3.5.γ−T3はBCa細胞におけるアポトーシス促進性シグナリング経路を活性化した
【0143】
c−Jun N−末端キナーゼ(JNK)は、ストレスおよび遺伝毒性物質によって活性化される進化的に保存されたセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。JNKは、全3つのJun転写因子およびAP−1ファミリーのATF−2メンバーのアミノ末端基をリン酸化する。活性化された転写因子は遺伝子発現を変調させて、細胞移動および細胞死を含む適切な生物学的応答を生成する。MDA−MB−231細胞が様々な用量のγ−T3で処理されると、JNKリン酸化活性における用量依存性上昇が検出された(図18A)。一方、ATF−2またはc−junなどのJNK下流エフェクタのリン酸化は、全部がγ−T3によってアップレギュレートされ、これはJNKシグナリング経路がγ−T3によって活性化されたことを裏付けている。
【0144】
BCa細胞のγ−T3誘導性アポトーシスにおけるJNK活性化の重要性をさらに確認するために、特異的阻害剤であるSP600125を用いたJNKの不活性化が細胞をγ−T3から保護できるかどうかについて調査した。図18Bに示したように、20μMのSP600125とのγ−T3による併用処理はγ−T3単独による処理と比較して生存細胞のパーセンテージを上昇させ、これはJNK活性化がγ−T3誘導性アポトーシスのために必要であることを確証している。
【0145】
3.6.MAPK/ERK経路の活性化はBCa細胞におけるγ−T3誘導性アポトーシスとは関連していなかった
【0146】
MAPK/ERKキナーゼは、成長因子、サイトカインおよび発癌物質を含む様々な刺激によって活性化される細胞内シグナリング経路の1つである。マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK/ERK)経路はMDA−MB−231ではErk1/2、Mek1/2およびElk1のリン酸化によって証明された(図18C)ようにγ−T3によって活性化されることが見いだされたが、それらの活性化はγ−T3誘導性アポトーシスのために直接的には必要とされず、それは特異的阻害剤であるU0126/PD98059によるMAPKの不活性化がγ−T3処理後の癌細胞生存性を回復させることができなかったからである(図18D)。
【0147】
3.7.γ−T3がBCa細胞侵襲の阻害に及ぼす作用
【0148】
γ−T3が多数の癌に抗増殖性作用を有することは証明されているが、BCaの転移に影響を及ぼすかどうかは明白ではない。このため、γ−T3がBCa細胞の侵襲能力を抑制できるかどうかを試験した。図19Aに示したように、マトリゲル侵襲アッセイを使用すると、24時間にわたってγ−T3処理されたMDA−MB−231細胞が、マトリゲル層を通して侵襲された細胞数の減少によって証明されたように、未処理コントロールと比較して少なくとも2倍低い侵襲能力を示すことが見いだされた。侵襲チャンバ内に加えられた生存細胞の数が同一であったので、細胞侵襲に及ぼすこの阻害作用は、γ−T3によって誘導された細胞増殖阻害の結果ではなかった。これらの結果は、γ−T3が、それらの細胞毒性作用とは無関係に、BCa細胞の侵襲能力を阻害できることを示している。
【0149】
E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、転移性癌について最も頻回に報告された特徴の1つである。癌細胞内でのE−カドヘリン発現の回復は、転移能力の抑制をもたらす。BCaでは、E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、高悪性度腫瘍および不良な予後と相関しており、これはE−カドヘリン発現がBCa進行において役割を果たすことを示している。これまでMDA−MB−231を検出することは、それがE−カドヘリン陰性ヒトBCa細胞系であるので不可能であった。一方、γ−T3処理はα−およびβ−カテニンタンパク質に影響を及ぼせなかったが、γ−カテニン発現を増強した。2つのE−カドヘリン抑制因子であるSnailおよびTwistの発現は、γ−T3処理後にはどちらもダウンレギュレートされた(図19B)。さらに、間葉マーカーであるα−SMAは24時間にわたるγ−T3処理後にはダウンレギュレートされ(図19B)、これはγ−T3が上皮から間葉への転移(EMT)の阻害を通してBCa侵襲を抑制できることを示している。
【0150】
3.8.γ−T3処理がドセタキセル誘導性アポトーシスに及ぼす作用
【0151】
例えば熟成ニンニク抽出物または果物もしくは植物から抽出されるレスベラトロールなどの天然産物の多くは、抗癌作用を有することが証明されている。以前の試験は、これらの天然産物の多くが化学療法に対する癌細胞の感受性を増加させ、前立腺腫瘍に対する放射線療法の有効性を増強することを証明している。γ−T3が化学療法薬と相乗的に作用できるかどうかを試験するために、γ−T3単独またはドセタキセルとの併用での作用を試験した。図20Aに示したように、ドセタキセルとγ−T3との併用処理後のMDA−MB−231細胞系内でのアポトーシス細胞のパーセンテージは、γ−T3またはドセタキセル単独で処理した場合のパーセンテージより有意に高かった。ウエスタンブロッティングを使用して、本発明者らは、γ−T3とドセタキセルとの併用処理がアポトーシス促進タンパク質(切断されたPARP、カスパーゼ3、7、8、9)の活性化ならびに生存促進タンパク質(Id−1、EGFR)のダウンレギュレーションを通して細胞アポトーシスを増強することをさらに証明した(図20B)。類似の作用はMCF−7細胞においても観察されたが(図20C)、これはγ−T3およびドセタキセルがBCa細胞に対して相乗作用を有する可能性があることを示唆している。
【0152】
3.9.β−アミノプロピオニトリル(APN)はγ−T3誘導性アポトーシスを減衰させた
γ−T3とβ−アミノプロピオニトリル(APN;LOXの非特異的阻害剤)との併用処理はId1の発現をほぼ完全に回復させ、そして同時に細胞増殖およびウエスタンブロッティング分析によって証明されたように、γ−T3誘導性カスパーゼ依存性アポトーシスを阻害した(図20DおよびE)。しかし、γ−T3およびγ−T3−APN併用処理を用いて見られたPARP切断レベルのほんの僅かな減少は、カスパーゼ非依存性アポトーシスの誘導を示唆した。これらの所見は予想外であるので、そこでγ−T3およびAPN併用処理中にId1誘導を引き起こす他のメカニズムの関与を示唆している。図20Fは、乳癌細胞におけるγ−トコトリエノールについての抗癌経路を要約している。
【0153】
4.以下の実験では、前立腺癌(PCa)腫瘍に対するγ−トコトリエノール(γ−T3)の生体内での抗腫瘍作用をその薬物動態、組織分布およびドセタキセルとの相乗相互作用と一緒に調査した。手短には、腹腔内注射後に、γ−T3は血清から急速に消失し、PCa腫瘍中に選択的に沈着する。γ−T3の短期間投与は、腫瘍の有意な収縮を生じさせた。一方、腫瘍増殖のそれ以上の阻害は、γ−T3およびドセタキセルの併用治療によって達成された。γ−T3の抗腫瘍作用は細胞増殖マーカーの発現の減少および癌細胞アポトーシスの速度上昇と結び付いていた。これらの結果は、PCa腫瘍に対するγ−T3の生体内での抗腫瘍性を証明した。
【0154】
4.1.材料および実験条件
【0155】
4.1.1 ヒト前立腺癌細胞系PC−3を、ATCCから入手し、37℃の加湿した95%空気、5%CO2中において1%ペニシリン−ストレプトマイシンおよび5%ウシ胎児血清(FBS)(PAA Laboratories社、オーストリア国パッシング)が補給されたRPMI1640(Invitrogen社、米国カリフォルニア州カールズバッド)中で増殖させた。ドセタキセル(Calbiochem社、米国カリフォルニア州サンディエゴ)をジメチルスルホキシド(Sigma Aldrich社、米国ミズーリ州セントルイス)中に溶解させた。例えばヘプタンおよび酢酸エチルなどの溶媒はTedia Company社(米国オハイオ州フェアフィールド)から購入した。D−ルシフェリン、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)および10%中性緩衝ホルマリン液は、Sigma Aldrich社(米国ミズーリ州セントルイス)から入手した。
【0156】
4.1.2 以下の実験のためには、1.1.2の下で上述した同一のトコトリエノールおよびトコフェロール異性体を使用した。
【0157】
4.1.3 PC−3前立腺癌異種移植モデルの確立−生物発光性PC−3−Lucヒト前立腺癌細胞系を、公知の方法にしたがって生成した。手短には、ルシフェラーゼ遺伝子をコードするcDNAをpLenti−6/V5内にクローニングした。この構築体を、パッケージングミックスを用いてHEK293内へ同時に形質転換させ、レンチウイルスを回収し、PC−3細胞に感染させるために使用した。形質転換体を、1週間にわたり10μg/mLのブラスチシジンを用いる選択することによってプール(PC−3−Luc)として入手した。動物実験プロトコルは、動物の適正かつ人道的な使用についてのシンガポール国のNACLAR(実験動物を使用する研究に関する国立諮問委員会)ガイドラインによって承認された。雄性BALB/c無胸腺ムードマウス(4〜5週齢、18〜22g)は、The Jackson Laboratory社(米国メイン州バーハーバー)から購入した。マウスを、生物資源センター第1科(シンガポール国バイオポリス)内の標準条件(20.8±2℃、55±1%の相対湿度、12時間明暗サイクル)下で収容し、齧歯類飼料(Harlan Laboratories社、インディアナ州インディアナポリス)および発熱物質無含有環境で供給される塩素化逆浸透水を与えた。手短には、100μLの無血清RPMI1640中の1×106個のPC−3−Luc細胞を、26ゲージの針を備える1mLのシリンジ(Becton Dickinson社、米国ニュージャージー州ベクトンディッキンソン)を使用してヌードマウスの側腹部に皮下注射した。全外科手技は、無菌条件下で実施した。
【0158】
約100mm3(接種2週間後)の類似の腫瘍サイズを有するマウスを選択し、3群に無作為に割付けた(n=1群当たり5匹);コントロール群(溶剤としてのDMSO)、γ−T3(50mg/kg/日)群およびγ−T3とドセタキセルの併用療法群(50mgのγ−T3/kg/日および7.5mgのドセタキセル/kg/週)。マウスを毎日計量し、腫瘍は、同時にデジタル式炭素繊維製カリパス(Fisher scientific社、ペンシルベニア州ピッツバーグ)を用いて測定した。腫瘍容積は、4/3*π*(平均径/2)3として計算した。マウスには2週間にわたり週5回投与した。10日間の治療後、マウスはCO2吸入によって安楽死させた。血液サンプルは、25ゲージ針を用いる心臓出血を通して採取した。血液サンプルは室温で30分間にわたり培養し、その後に30分間かけて4℃で4,400rpmで遠心分離した。上清としての血清を血漿から分離し、−80℃で保存した。腫瘍、肝臓、腎臓、脾臓、肺および心臓を採取した。腫瘍の一部は、10%中性緩衝ホルマリン液中で固定した。
腫瘍の残りおよび単離した臓器全部は、直ちに液体窒素中に浸漬し、−80℃で保存した。
【0159】
4.1.4 マウスにおけるγ−トコトリエノールの薬物動態−C57BL/6黒色マウスは、The Jackson Laboratory社(米国メイン州バーハーバー)から購入した。40匹の5週齢のマウスに、1mgのγ−T3を含有する単回i.p.注射を実施した。5匹のマウスを、様々な時点に致死させた(10分、30分、1時間、3時間、6時間、24時間、48時間および72時間後)。血液サンプルは、心臓出血を通して採取した。血清を単離するために、血液サンプルは室温で30分間にわたり培養し、その後に30分間かけて4℃で4,400rpmで遠心分離した。血清中のγ−T3の濃度は、下記のHPLC法を使用して分析した。
【0160】
4.1.5 単回投与急性毒性試験−最大耐用量(MTD)を、死亡を全く伴わない最高用量が見いだされるまで様々なマウス群で用量を上昇させることによって決定した。手短には、90匹のC57BL/6黒色マウス(各群10匹)は、100μLの注射用量中に1、2、4、8、12、16、20、30および40mgを含有する単回用量腹腔内注射を受けた。マウスの体重および生存率を30日間観察し、その後にCO2吸入によって安楽死させた。
【0161】
4.1.6 血清、腫瘍および臓器からのγ−トコトリエノールの抽出−血清を解凍し、5分間かけて超音波浴(Lab Companion社、米国イリノイ州ヴァーノンヒルズ)中で音波処理し、その後に10秒間ボルテックスミキサーにかけた。100μLの血清を、900μLの水を含有するIWAKI社Pyrexガラス製試験管(インドネシア国ジャワトゥンガ州)中に移した。腫瘍および臓器を調製するためには、組織を1mLの水中でホウケイ酸ガラス製ホモジナイザー(Fisher scientific社、ペンシルベニア州ピッツバーグ)中でホモジナイズし、その後にPyrexガラス製試験管中へ移した。純度99%を備える5μLのδ−T3(1mLのエタノール中に溶解させた100mgのδ−T3)を内部標準溶液として使用し、混合液中へスパイク混合した。この試験管を10秒間ボルテックスミキサーにかけ、2分間超音波処理した。標的分析物の酸化を最小限に抑えるために、4mLのブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)溶液(100mLのヘプタン中の5mgのBHT)を加えた。液−液抽出は、10秒間にわたり強力にボルテックスミキサーにかけることによって実施した。液−液抽出の後に、試験管は4,000rpmで5分間にわたりHeraeus Multifuge 3−SR Centrifuge(Newport Pagnell社、英国バッキンガムシャー州)内で遠心分離した。3.9mLの有機相をまた別のPyrex製試験管内へ移した。抽出を繰返し、第2の有機相を取り出し、第1の相と一緒にプールした。有機溶液は、Buchi rotavapor R−205(スイス国フラヴィル)を用いて蒸発させ、乾燥した残留物を1.5mLのヘプタン中で再構成させ、濾過し、その後にHPLC分析を実施した。
【0162】
4.1.7 高性能液体クロマトグラフィーによるγ−トコトリエノール濃度の決定−HPLC法の順相は、当技術分野において公知の方法の変法として実施した。10μLのサンプルをAgilent 1100シリーズHPLCシステム(Agilent社、米国カリフォルニア州サンタクララ)内へ注入した。クロマトグラフィーによる分離は、Zorbax Silica 60(5μm、250×4mmの内径(i.d.))分析カラムによって実施した。使用した移動相は、1.0mL/分の流量でヘプタン/酢酸エチル(90:10、v/v)の混合液であった。γ−T3の吸光度は、励起波長290nmおよび発光波長360nmに設定したダイオードアレイ検出器を用いて監視した。
【0163】
4.1.8 血清に基づく毒性アッセイ−10匹のC57BL/6黒色マウスに、1mgのγ−トコトリエノールまたはDMSOブランクを含有する週5回の腹腔内注射を実施した。マウスは心臓出血によって致死させ、血清は上述した方法によって抽出した。次にバイオマーカーであるアルブミン、クレアチン、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、尿素およびアルカリホスファターゼ(ALP)をRANDOX laboratories社(英国クルムリン)から購入した比色法に基づく検出キットによって測定した。
【0164】
4.1.9 免疫組織化学検査−マウスの腫瘍、肝臓、腎臓、脾臓、肺および心臓は、12時間にわたり10%中性緩衝ホルマリン液中で固定した。固定後、組織サンプルをパラフィンブロック内に加工処理した。組織切片は厚さ5μmにKedeeマイクロトーム(China JINHUA Kedi社、中国浙江省)を用いて切断し、次にトルエン中で脱パラフィン化し、アルコールから蒸留水へ段階的に再水和させた。内因性ペルオキシダーゼ活性を、切片をメタノール中の0.6%過酸化水素で20分間処理することによって遮断し、その後に抗原回復処理を実施した(Dako社、デンマーク国グロストルップ)。切片を次に37℃で1時間にわたりペルオキシダーゼブロッキング溶液(Dako社、デンマーク国グロストルップ)とともに培養し、あらゆる非特異的抗原を取り除いた。標本は、Snail(1:200)、Id1(1:250)(Abcam社、英国ケンブリッジ)、切断カスパーゼ−3および切断PARP(1:50;Cell Signalling Technology社、米国マサチューセッツ州ベバリー)に対するウサギ一次ポリクローナル抗体および増殖性細胞核抗原(PCNA)、Ki−67、E−カドヘリン(1:50;Santa Cruz Biotechnology社、米国カリフォルニア州サンタクルーズ)に対するマウスモノクローナル抗体とともに4℃で一晩培養した。TBS中で数回すすぎ洗いした後、切片は37℃で1時間にわたりDako REALT EnVisionT/HRP、ウサギ/マウス溶液とともに培養した。この反応は、Dako REALT DAB+色原体によって視認した。Mayerのヘマトキシリン(Dako社、デンマーク国グロストルップ)を対染色として使用した。標準倒立光学顕微鏡(Nikon社、日本国東京)を使用してスライドを分析した。
【0165】
4.1.10 生物発光の画像化−特発性前立腺腫瘍モデルからのルシフェラーゼ活性の生体内での生物発光の画像化は、生存中の画像の取得および分析用のソフトウェア(Livinglmage acqusition and analysissoftware)(Xenogen Corp.社、米国マサチューセッツ州ホプキントン)を備えるIVISイメージングシステム(Xenogen Corp.社、米国マサチューセッツ州ホプキントン)を用いて実施した。D−ルシフェリンは、DPBS中で15mg/mLの濃度に溶解させ、濾過滅菌し、−20℃で保存した。治療の終了時に、マウスにはルシフェリン溶液(150mg/kg体重)のi.p.注射を実施した。画像は、ルシフェリン投与の5分後に取得した。シグナル強度は、腫瘍からの関心領域を含む検出された全光子数の合計として定量した。
【0166】
4.2.結果−薬物動態および単回投与急性毒性−γ−T3は本明細書で報告したように生体外でのPCa細胞において増殖を阻害してアポトーシスを誘導したので、生体内でのPCa増殖へのγ−T3の抗腫瘍作用を試験した。本試験は、腹腔内投与後の血漿中のγ−T3の薬物動態的挙動を調査することから開始した。マウスには1mgのγ−T3を注射し、血液をその後の様々な時点のγ−T3濃度についてアッセイした。血清薬物動態プロファイルに示したように(図27A)、血漿γ−T3濃度は投与後30分間以内に260ppmから50ppmへ減少した。この濃度は、少なくとも72時間にわたって一定のままである。
【0167】
γ−T3の単回投与急性毒性を評価するために、γ−T3を、最大耐用量(MTD)を決定するために用量を増大させながら9種の用量で腹腔内注射した。MTDは30日間の観察期間中に10匹のマウス中1匹も死亡せず、次の高用量では少なくとも1匹のマウスが死亡する用量であると規定されている。図27Bに示したように、MTDは12mgであることが見いだされた。1mgのγ−トコトリエノールまたはDMSOブランクを含有するi.p.注射を週5回受けたマウスについて、試験したいずれのパラメータにおいても毒物学的変化は見いだされなかった(図27C)。
【0168】
γ−T3はPC−3−Luc前立腺癌異種移植片の増殖を阻害する−γ−T3は生体外でPCa細胞において増殖を阻害してアポトーシスを誘導したので、生体内でのPCa増殖へのγ−T3の抗腫瘍作用を試験した。無胸腺ヌードマウスにPC−3−Luc細胞を同種移植し、コントロール(DMSO)群、γ−T3群および併用(γ−T3+ドセタキセル)治療群に分けた。γ−T3についての用量(50mg/kg/日)を選択したのは、この用量が高用量で観察された処理関連死亡を誘導せずにヌードマウスにおける有意な抗腫瘍作用を提供したためであった(図28A)。ドセタキセルについてと同様に、用量は7.5mg/kg/週であると決定した。腫瘍増殖は、週5回監視した。全群について全試験を通して体重における有意な変化は見られなかった(図28A)。コントロール群中の腫瘍は急速に増殖し、治療開始第14日までに620±10mm3の平均容積に達した。これとは対照的に、γ−T3またはγ−T3+ドセタキセルで治療されたマウス上の腫瘍増殖は顕著に阻害された;腫瘍容積は各々300±48mm3および240±62mm3の平均値のままであった(図28Bおよび図29)。これらの結果は、γ−T3が生体内でのPCa増殖に有意な阻害作用を有することを示した(p値=0.0018)(図29)。
【0169】
血清γ−T3濃度は、投与後急速に低下する(図27A)。これが薬物クリアランスまたは内臓への特異的沈着に起因するのかどうかを理解することが極めて重要である。最初に、HPLC分析を用いて10日間にわたり50mg/kg/日で治療されたマウスからの重要臓器各々のγ−T3濃度を決定した。図28Cに示したように、脾臓および肝臓は治療期間の終了時に最高濃度のγ−T3沈着を有することが見いだされたが、γ−T3はさらに心臓、腎臓および肺組織中でも検出することができた。より重要なことに、腫瘍組織の検査はγ−T3が主として腫瘍内に蓄積した、体重1gにつきγ−T3が0.15±0.03mgの濃度に達することを明らかにしたが、これは他の内臓において検出される量の少なくとも2倍であった。これらの結果はγ−T3が前立腺腫瘍組織中に選択的に沈着することを示唆しており、これはγ−T3が観察可能な毒性と関連していない用量で有意な抗腫瘍活性を発揮できる理由を説明するのに役立つ。
【0170】
γ−T3が癌細胞増殖およびアポトーシスに及ぼす生体内での作用−γ−T3の抗腫瘍作用が生体内での実験に記載したように(上記の項目2を参照されたい)、細胞増殖およびアポトーシスの誘導を通して媒介されるかどうかを確証するために、各治療群からのマウスの腫瘍組織を免疫組織化学検査によって試験した。図30に示したように、γ−T3がPCa腫瘍に及ぼす抗増殖性作用は、γ−T3を用いて、またはγ−T3とドセタキセルとを用いた治療後に、全タンパク質がダウンレギュレートされることを示したPCNA、Ki67およびId−1の濃度の試験によって確証された。一方、γ−T3はさらに切断されたカスパーゼ3およびPARPの濃度を誘導したが(図31)、これはγ−T3治療後により多くの細胞がアポトーシスを経験したことを示唆している。
【0171】
腫瘍サプレッサー遺伝子へのγ−T3抗腫瘍作用−E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、転移性癌について最も頻回に報告された特徴の1つである。癌細胞内でのE−カドヘリン発現の回復は、転移能力の抑制をもたらす。PCaでは、E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、高悪性度腫瘍および不良な予後と相関しており、これはE−カドヘリン発現がPCa進行において役割を果たすことを示している。γ−T3は前立腺癌細胞の生体外での侵襲能力をE−カドヘリン発現のアップレギュレーションを通して阻害することが見いだされたので、次にγ−T3がさらに生体内での前立腺癌細胞内のE−カドヘリン濃度にも影響を及ぼせるかどうかを分析した。無胸腺ヌードマウスのコントロール群、γ−T3群およびγ−T3とドセタキセルとの併用治療群からの腫瘍切片のE−カドヘリン発現を免疫組織化学検査によって試験したところ、結果は、E−カドヘリンがγ−T3治療後にアップレギュレートされるが(図32A)、E−カドヘリンの抑制因子であるSnailがダウンレギュレートされる(図32B)ことを示した。これらのデータは、腫瘍増殖の阻害に加えて、γ−T3は生体内での抗転移活性を有する可能性があることを示唆した。
【0172】
4.3.このセクションで言及した実験は、γ−T3がヌードマウスにおける前立腺腫瘍の増殖を抑制することを証明したが、これは前立腺癌に対するγ−T3の生体内での抗腫瘍作用に関する最初の報告である。生体内でのγ−T3の抗腫瘍作用に関する試験は、高度に精製されたγ−T3が不足していることおよびγ−T3を腫瘍細胞へ送達することが難しいことから、限定される。γ−T3がPCa細胞増殖に及ぼす阻害作用は生体外での高速増殖性細胞に対して特異的であることが証明された。このとき、γ−T3投与の腹腔内経路がPCa腫瘍増殖を阻害することに有効であることが見いだされた。
【0173】
γ−T3の蓄積は、抗腫瘍活性のために極めて重要である。γ−T3は、おそらく腫瘍組織での高増殖速度に起因して、固形腫瘍内で選択的に蓄積することが見いだされた。さらに、γ−T3は重要臓器の大多数において見いだされることもまた証明された。しかし、5つの重要臓器(心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓)でのγ−T3の沈着は、固形腫瘍において見いだされる沈着のおよそ半分であった(図28C)。これらの所見に関する矛盾は投与方法に起因する可能性が高いが、これは、γ−T3は本明細書で言及した実験では腹腔内注射によって投与されたが、それらの試験ではマウスに経口投与によって与えられたからである。それでも、重要臓器におけるγ−T3の沈着にもかかわらず、体重、正常臓器重量および血清毒性濃度への観察できる作用は見られない。
【0174】
γ−T3が生体内での腫瘍増殖を阻害するメカニズムは、明確には理解されていない。ビタミンEの古典的な抗酸化物質特性を媒介するすべてのトコクロマノール分子において見いだされるヒドロキシル成分は、一般にはγ−T3の高腫瘍活性とは関連していないと考えられる。
【0175】
本明細書に記載したように、γ−T3は侵襲および転移を阻害すると考えられるE−カドヘリン遺伝子をアップレギュレートすることが見いだされた。さらにPCa細胞系であるPC−3によって構成的に発現させられるId−1は、γ−T3処理によって抑制され、NF−κB経路分子の抑制をもたらした。このとき、生体内での条件下で前立腺癌に対するγ−T3の抗腫瘍活性をさらに確認することも可能であった。
【0176】
細胞増殖およびアポトーシスは腫瘍増殖にとって極めて重要なプロセスであるので、本発明者らの腫瘍モデルにおけるγ−T3によるこれらのプロセスの変調を調査した。生体外でのγ−T3の有意な抗増殖作用と一致して、PCNA、Ki67およびId−1(図30)発現の抑制によって明らかなように、生体内でのγ−T3の顕著な抗増殖性作用が観察された(図30)。さらに、PCa細胞における生体内でのアポトーシスの有意な誘導が観察された。γ−T3誘導性アポトーシスの原因となる正確なメカニズムは、完全には理解されていない。本明細書で言及した実験の結果は、アポトーシスのプロセスを生体内でのγ−T3抗腫瘍作用の重要なメカニズムとして裏付ける(図31)。これらの観察所見が意味することは、γ−T3をPCaに対する他の抗増殖剤との相乗作用で使用できることにある。
【0177】
本明細書で言及した実験では腫瘍転移は試験しなかったが、γ−T3処理はE−カドヘリンの増強した発現を生じさせるので、そこでγ−T3は抗転移活性を有することを裏付けると思われる。E−カドヘリンの機能または発現の消失は癌の進行および転移と関係付けられてきたが、それは組織内の細胞接着を減少させ、結果として細胞運動性の増加を生じさせるからである。これは順に、癌細胞が基底膜を越えて周囲組織を侵襲することを可能にさせることがある。γ−T3との正確な相互作用についてはまだ調査されなければならないが、リン脂質膜中の独特のトコトリエノール類である可能性がある。本明細書ではγ−T3がE−カドヘリンの誘導によって生体外での癌細胞侵襲を阻害できることもまた証明されたので、本所見は、γ−T3の生体内での抗転移作用に関する詳細な調査を正当化する強力な根拠を提供する。
【0178】
これらをまとめると、ビタミンEの1つの誘導体であるγ−T3は癌細胞増殖の阻害およびアポトーシスの誘導を通してPCa増殖を生体内で阻害できることが証明された。
【0179】
5.根拠は、前立腺癌が細胞のまれな下位集団、つまり前立腺癌幹細胞(CSC)を起源とすることを裏付けている。前立腺癌に対する従来型療法は、主として大多数の分化腫瘍細胞を標的とすると考えられるが、治療後の疾患再発の原因となる可能性があるCSCは見逃す。このため、CSCの排除に成功することはこの疾患からの完全寛解を達成するための効果的戦略である可能性がある。γ−T3は、ウエスタンブロッティングおよびフローサイトメトリー分析によって証明されたように、アンドロゲン非依存性(AI)、前立腺癌細胞系(PC−3およびDU145)における前立腺癌幹細胞マーカー(CD133/CD44)の発現をダウンレギュレートできることが初めて証明された。一方、前立腺癌細胞の細胞凝集塊形成能力は、γ−T3治療により有意に妨害された。より重要なことに、PC−3細胞のγ−T3による前処理は、これらの細胞の腫瘍開始能力を妨害することが見いだされた。本セクションで言及したデータは、γ−T3が前立腺CSCを標的とする際の効果的薬剤となり得ることを示唆している。
【0180】
5.1 材料および実験条件
【0181】
5.1.1 前立腺癌細胞系PC−3、DU145および膀胱癌細胞系MGH−U1(ATCC、メリーランド州ロックビル)は、1(w/v)%ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)および5%ウシ胎児血清(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)が補給されたRPMI1640培地(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)中で維持した。全細胞は、37℃の5%CO2環境内で維持した。
【0182】
5.1.2 トコトリエノール異性体を、項目1.1.2の下で上述したように抽出および精製した。
【0183】
5.1.3 ルシフェラーゼタンパク質を安定性で発現するPC−3細胞の生成−ルシフェラーゼを発現するPC−3細胞系であるPC−3 Lucは、ウイラルパワ(Viralpower)レンチウイルス遺伝子発現システム(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)を用いて製造業者の取扱説明書にしたがって生成した。
手短には、HEK293は、レンチウイルス発現システムと一緒に提供されるパッケージングミックスと一緒に、全長ルシフェラーゼタンパク質を発現するpLenti6−DEST−V5−Lucベクターを用いて形質転換させた。48時間の形質転換後、上清を回収し、ポリブレン(8μg/mL)と混合し、PC−3細胞を感染させるために使用した。
感染後、陽性形質転換体を、6日間にわたりブラスチシジン(10μg/mL)を用いた処理によるプールとして選択した。
【0184】
5.1.4 細胞生存性アッセイ−γ−T3処理後の細胞生存性を、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイによって測定した。手短には、細胞を96ウエルプレート上に播種し、指示した時点について様々な濃度のγ−T3を用いて処理した。処理の終了時に、MTT(Sigma社、ミズーリ州セントルイス)を各ウエルに加え、室温で4時間にわたり培養した。DMSOを次に各ウエルに加えてホルマザン結晶を溶解させた。このプレートを室温でさらに5分間にわたり培養し、光学密度(OD)をLabsystemマルチスキャン・マイクロプレート・リーダー(Merck Eurolab社、スイス国ディーティコン)上の波長570nmで測定した。全個別ウエルは、3連ずつ設定した。細胞生存性のパーセンテージは、指示した濃度で処理細胞と未処理細胞とのOD比として提示した。
【0185】
5.1.5 ウエスタンブロッティングは、項目1.1.5の下で上述したように実施した。この膜は、CD133(Miltenyi Biotec社、カリフォルニア州オーバーン)、Bcl−2、PARP、切断カスパーゼ3、7、9(Cell Signaling Technology社、マサチューセッツ州ベバリー)、CD44およびβ−アクチン(Santa Cruz Biotechnology社、カリフォルニア州サンタクルーズ)に対して向けられた一次抗体とともに培養した。TBS−Tを用いて洗浄した後、この膜はマウスまたはウサギのIgGいずれかに対する二次抗体とともに培養し、そのシグナルはECLとウエスタンブロッティングシステム(Amersham社、ニュージャージー州ピスカタウェイ)とを用いて可視化した。
【0186】
5.1.6 半定量的RT−PCR−全RNAを、TRIZOL(登録商標)試薬(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)を使用して製造業者のプロトコルにしたがって単離した。cDNAは、Superscript(商標)RTのための第1鎖合成システム(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)を使用して合成し、PCRはGeneAmp(登録商標)PCRシステム9700(Applied Biosystems社、カリフォルニア州フォスターシティ)を用いて実施した。CD133のRT−PCRのためのプライマー配列およびPCR条件は、以前に記載した。mRNAの量は、GAPDHに比して定量した。
【0187】
5.1.7 細胞凝集塊形成アッセイ−細胞凝集塊形成アッセイは、以前の試験(Folkins C、p3560)から修正したプロトコルを用いて実施した。手短には、細胞を最初にトリプシン化し、1×PBSで洗浄し、DMEM F12培地中に再懸濁させた。200個の細胞をポリHEMAでプレコートされた24ウエルプレート(Sigma社、ミズーリ州セントルイス)の各ウエル内に加えた。細胞は、4μg/mLのインスリン(Sigma社、ミズーリ州セントルイス)、B27(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)、20ng/mLのEGF(Sigma、ミズーリ州セントルイス)、および20ng/mLの塩基性FGF(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)が補給されたDMEM/F12 MEM(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)中で増殖させた。上記の上清を備える新鮮な培地を毎日加えた。γ−T3を指示した時点に加え、アッセイ第14日または処理終了時に細胞凝集塊数を計数した。各実験は3回繰返し、各データポイントは平均値および標準偏差を示した。
【0188】
5.1.8 フローサイトメトリー−CD44陽性細胞のフローサイトメトリー分析は、当技術分野において公知の方法を用いて実施した。手短には、細胞は2% FBSを含有するPBS中でPE−コンジュゲート化抗ヒトCD44抗体とともに培養した。
アイソタイプ適合マウス免疫グロブリンをコントロールとして機能させた。次にサンプルを、FACS CaliburフローサイトメーターおよびCellQuestソフトウェア(BD Biosciences社、米国カリフォルニア州サンノゼ)を用いて分析した。
【0189】
5.1.9 同所性PC−3異種移植片モデル−同所性モデルは、当技術分野において公知の方法を用いて確立した。手短には、8週齢CB−17 SCIDマウスを安楽死させ、解剖顕微鏡下に配置した(Olympus社、日本国東京)。腹部性中線での切開を実施し、膀胱基部で背側前立腺を曝露させた。24時間にわたるγ−T3処理を行った、または行わない等量の生存性PC3−Luc細胞(5μLの無血清RPMI中に再懸濁させた2.6×104個)をマウスの背側前立腺に注射した。臓器を置換し、腹部を閉鎖した。細胞の生物発光シグナルを検出するために、マウスを安楽死させ、次に80mg/kgのD−ルシフェリン溶液(Xenogen Corporation社、ニュージャージー州クランベリー)をi.p.によって注射した。シグナルは、Xenogen IVIS 100シリーズイメージングシステムによって捕捉した。腫瘍の進行は、腫瘍移植6週間後まで2週間毎に生物発光シグナル(光子数/秒/単位面積)を測定することによって監視した。マウスは頸椎脱臼によって致死させ、腫瘍を採取し、10%ホルマリン中で固定した。全ての外科手技および動物取扱方法は、香港大学の教育および研究における生きた動物の使用に関する委員会の指針に従って実施した。
【0190】
5.2.結果−γ−T3がCSCマーカー発現に及ぼす作用−γ−T3がCSC特性に影響を及ぼすかどうかを試験するために、他の細胞系の中でも最高パーセンテージのCSC(PCa幹細胞発癌遺伝子)を含有すると報告されているPC−3細胞系における前立腺CSCマーカーの発現にγ−T3が及ぼす作用を最初に調査した。PC−3細胞は、最初に24、48および72時間にわたって用量を増加させながらγ−T3(0、2.5および5μg/mL)を用いて処理した。処理後、2つの確立された前立腺CSCマーカーであるCD44およびCD133の発現は、ウエスタンブロッティングによって試験した。図1Aに示したように、CD44のタンパク質発現は、時間および用量依存性でγ−T3処理後に有意にダウンレギュレートされた。CD133でも類似の作用が観察され、これはγ−T3処理がCSC集団を標的とすることができることを示唆している(図1A)。γ−T3がCSCマーカーの発現に影響を及ぼすかどうかを確認するために、γ−T3処理後のPC−3細胞内のCD44+集団の変化をフローサイトメトリーによって試験した。24時間にわたるγ−T3処理(5μg/mL)後に、CD44+ PC−3細胞の集団を、未処理コントロール(図1B)と比較して減少することが見いだされ、これはウエスタンブロッティングの結果と一致している。
【0191】
CD44およびCD133における変化が遺伝子転写の減少に起因するかどうかを試験するために、2.5および5μg/mLのγ−T3を用いて処理したPC−3細胞内のCD44およびCD133のmRNA濃度を、RT−PCRによって評価した。図1Cに示したように、CD133 mRNAの減少は、48および72時間にわたって2.5および5μg/mLのγ−T3で処理された細胞内で観察された。CD44 mRNAのダウンレギュレーションは、72時間にわたりγ−T3で処理された細胞内でも観察された。これらの結果は、γ−T3が転写レベルでのCD44およびCD133発現を抑制できることを示した。興味深いことに、γ−T3によるCSCマーカーのダウンレギュレーションは、アポトーシスの誘導の結果ではないが、それは生存性アッセイ(図1D)ならびに共通のアポトーシスマーカーのウエスタンブロッティング(図1E)はどちらもアポトーシスの劇的な誘導を検出できなかったからである。
【0192】
γ−T3は、非接着性培養条件下でPC−3のプロスタスフェア形成を阻害する−非接着性培養中でプロスタスフェアを形成する能力は、前立腺癌幹細胞の特性の1つである。γ−T3が前立腺CSCに及ぼす作用をさらに試験するために、PC−3細胞のプロスタスフェアをγ−T3の存在下または非存在下で試験した。これは、細胞を表面接着から防止するポリHEMAプレコーティングプレート内へPC−3細胞をプレーティングすることによって実施した。細胞は、γ−T3(5μg/mL)を用いて、または用いずに血清置換培地中で増殖させた。図2Aに示したように、細胞を10日間にわたり培養した後に、1ウエルにつき平均21個のプロスタスフェアが未処理群において見いだされた。しかし、γ−T3で処理された全ウエル内でプロスタスフェアは観察できなかった(図2AおよびB)。これらの結果は、γ−T3が前立腺癌細胞のプロスタスフェア形成を効果的に阻害できることを示している。
【0193】
γ−T3は、他の癌細胞系においてCSC特性を抑制する−上記の実験からの結果は、γ−T3がアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞系PC−3においてCD44+ CD133+癌幹細胞様細胞を標的とすることができることを示唆した。しかし、この抑制性作用は、一般的作用よりむしろPC−3細胞にのみ特異的であると考えられる。この抑制作用は、他の癌細胞系を用いて実験を繰り返すように促す。DU145はCSC特性を有することが証明されているまた別の前立腺癌細胞系であり、図3Aに示したように、細胞生存性に最小の作用を有する用量のγ−T3処理もまた時間および用量依存性でCD44発現の抑制もまた生じさせる。一方、DU145の細胞凝集塊形成能力は、γ−T3処理によってほぼ完全に抑制された(図3D)。類似の作用は膀胱癌細胞系(MGH−U1)においても観察され(図3B、CおよびE)、これは観察されたγ−T3がCSCに及ぼす作用は前立腺癌に制限されないことを示唆した。
【0194】
γ−T3は、生体内での前立腺癌細胞の腫瘍原性を有意に減少させる−CSCは癌の開始において重要な役割を果たすと示唆されているので、γ−T3処理はPC−3細胞の腫瘍形成能力を阻害できることが考えられる。この仮説を試験するために、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を構成的に発現するPC−3細胞(PC−3−Luc)を最初に5μg/mLのγ−T3または溶剤を用いて24時間にわたり前処理した。引き続いて処理群およびコントロール群からの同等数の生存性PC−3−Luc細胞をSCIDマウスに同所性で注射し、腫瘍形成をライブ生物発光の画像化によって監視した。図4に示したように、移植の2週間後には、溶剤処理したPC−3−Lucを移植した全7匹のマウスが腫瘍を発生した。しかし、PC−3−Lucで前処理されたγ−T3が移植されたマウスの半数以上(7匹中5匹)は、可視腫瘍を発生できなかった(図4)。腫瘍開始速度の有意な減少は、γ−T3が高度に進行性のPC−3細胞の腫瘍原性能力を減少させられることを示しており、これはγ−T3処理後のCSC集団の減少に起因する可能性が高い。
【0195】
γ−T3は化学療法薬耐性癌幹細胞様細胞を効果的に排除する−γ−T3が、濃縮されたCSC集団を含有することが証明されている前形成されたプロスタスフェアも標的とできるかどうかも試験された。プロスタスフェアは、各プロスタスフェアが相当に大きなサイズに達する14日間にわたり非接着性培養中でDU145を増殖させることによって形成した。予想されたように、これらのプロスタスフェアは、ドセタキセルなどの化学療法薬に対して高度に耐性であった(図5A)。DU145細胞においてアポトーシスを誘導することが公知である40ng/mLの用量では、ドセタキセルはプロスタスフェアに何らかの観察可能な作用を誘導することができなかったが、これはCSCが濃縮された細胞はドセタキセルに対して高度に耐性であることを示唆している。しかし、70%および76%の細胞凝集塊数の減少は、細胞凝集塊が10μg/mLおよび20μg/mLのγ−T3で処理された場合に観察された(図5A)。細胞凝集塊数の減少に加えて、γ−T3処理はさらに細胞凝集塊のサイズを減少させ、ならびに細胞凝集塊の形状をより拡大した構造へ変化させた(図5B)。
【0196】
5.3 本明細書では、γ−T3によるCSCマーカーのダウンレギュレーションならびにプロスタスフェアおよび腫瘍形成の抑制によって証明されたように、γ−T3が抗CSC作用を有することが初めて証明された。前立腺内の推定癌幹細胞は2005年に初めて同定され、このとき前立腺内の推定癌幹細胞がCD44+/alpha2beta1hi/CD133+表面マーカーを発現することが見いだされた。これらの癌開始細胞は、さらにまた確立されたアンドロゲン依存性細胞系LNCaPおよびアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞系DU145においても同定されている。
【0197】
本明細書では、PC−3細胞内で発現したCSCマーカーであるCD44およびCD133はどちらもγ−T3処理によってダウンレギュレートされることが証明された(図1)。さらに、アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞系DU145および膀胱癌細胞系MGH−U1におけるCD44の有意な減少もまた観察された(図4)。興味深いことに、γ−T3処理後の細胞アポトーシスにおける細胞生存性の有意な減少または上昇を検出することはできず(図1)、これは本試験で使用されたγ−T3処理の用量がCSC集団を標的とすることができるが、非CSC細胞のアポトーシスを誘導するためには不十分であることを示している。これはさらに、γ−T3がCSCに対する特異的作用を有する可能性があることを意味している。
【0198】
非接着性無血清条件下でスフェアを形成する能力は、幹細胞の重要な特性である。近年、細胞凝集塊形成アッセイは、推定CSCを同定および濃縮するための方法として使用された。本明細書で言及した実験では、全3種の悪性細胞系PC−3、DU145およびMGH−U1は非接着性培養中で細胞凝集塊を形成することができたが、これはこれらの細胞系内での癌幹細胞様細胞の存在を示唆した。これらの結果にしたがうと、PC−3、DU145およびMGH−U1各々からの7%、5.4%および1.4%の細胞は、細胞凝集塊を形成することができた。プロスタスフェアにはCSCが濃縮されているので(各々PC−3およびDU145スフェア中の6.25%および12.2%のCD133+、CD44+細胞)、γ−T3がプロスタスフェア形成に及ぼす阻害作用は、γ−T3が前立腺癌幹細胞様細胞を生体外で標的とする、または排除する際の強力な薬剤である可能性を指示している(図5)。類似の作用はMGH−U1細胞でも観察されたが、この場合、γ−T3処理は細胞凝集塊形成において100%阻害を生じさせた(図3E)。膀胱内の推定癌幹細胞は未だ同定されていないが、γ−T3のMGH−U1の幹細胞特性に向かう抑制細胞は、γ−T3の抗CSC作用が前立腺癌に制限されないことを示唆している。これは、γ−T3が膀胱癌細胞におけるCD44発現もまたダウンレギュレートできるという所見によって裏付けられている。
【0199】
CSCが連続移植可能な腫瘍を生体内で生成する能力は、それらが腫瘍開始細胞(TIC)である可能性が高いことを示唆している。この仮説は、単離されたCSC集団が、免疫不全マウスに注射された場合に非CSC対応物より高度に腫瘍原性であるという事実によって支持される。本明細書に開示したように、PC−3細胞がγ−T3で前処理された場合は、腫瘍原性能力の急激な減少が観察される(図4)。全γ−T3前処理PC−3が最終的には検出可能な腫瘍を発生できると言う事実(データは示していない)にもかかわらず、初期腫瘍開始期での検出可能な腫瘍の劇的な減少および腫瘍形成の遅延は、γ−T3が前立腺CSCを標的とする際に高効力であるという本発明者らの仮説を支持している。
【0200】
CSCの存在は、化学耐性の一因となることが示唆されている。前立腺癌細胞は、一般に、一般的化学療法薬に対して高度に耐性である。ドセタキセルは、患者生存率を有意に向上させることを証明した唯一の有効な化学療法薬を表している。DU145に対するドセタキセルのIC90用量は、1.01ng/mLである。しかし本試験では、40ng/mLのドセタキセルを用いたプロスタスフェアの処理はプロスタスフェア数の有意な減少を誘導できなかったが、これはCSCが化学療法薬治療に対して耐性であることをさらに確証している。他方では、γ−T3は、プロスタスフェアの解離と関連しているプロスタスフェア数の劇的な減少を誘導することができなかった(図5)。この根拠は、抗CSC作用がγ−T3の化学増感作用の主な原因となりえることを強く示唆している。これらを要約すると、γ−T3処理が前立腺CSCマーカーの発現をダウンレギュレートするだけではなく、CSC特性も効果的に阻害することが証明された。
【0201】
図6(A)に示した結果は、AKTの発現が低用量(すなわち、0〜約5μg/mLまたは約2.5μg/mLまたは約5μg/mL)のγ−トコトリエノールを用いてダウンレギュレートされることを示しており、これはAKTシグナリング経路の脱活性化を示唆した。前述のように、解離した前立腺細胞内での構成的に活性なAKTのレンチウイルス媒介性発現により、明白な癌腫へ進行する前立腺上皮内腫瘍病変を含有する前立腺小管が再生した。
【0202】
図6(B)に示した結果は、Oct3/4およびNestinの発現が低用量(すなわち、0〜約5μg/mLまたは約2.5μg/mLまたは約5μg/mL)のγ−トコトリエノールを用いてアップレギュレートされることを示しており、これは幹細胞表現型の活性化(多分化能の獲得)を示唆した。一般に、これら2つの遺伝子は密接に調節されるが、過剰または過少は細胞の分化を実際に誘発するからである。
【0203】
6.前立腺上皮内腫瘍(PIN)の形成の予防
【0204】
実験のためには、以前に公表された5週齢の前立腺癌マウスモデル(Gabril,M.Y.,Duan,W.ら、Molecular Therapy(2005),vol.11,no.3,p.348;Greenbergら、Proc Natl Acad Sci USA(1995),vol.92,pp.3439−3443;Duan,W.,Gabril,M.Y.ら、Oncogene(2005)24,1510−1524;Wang S,Gao Jら、Cancer Cell.,2003,vol.4,no.3,pp.209−21;Gabril,M.Y.,Onita,T.ら、Gene Ther.,2002,vol.9,no.23,pp.1589−99)を使用した。全動物実験は、動物実験委員会によって承認された標準プロトコルにしたがって実施した。遺伝子型決定法はPSP−TGMAPにおいて実施し、KIMAPマウスは以前に報告されたように迅速PCR遺伝子型決定法によって同定した(項目6の下で言及した参考文献を参照されたい)。
【0205】
1つの典型的な実験では、動物には経口投与を介して30週間にわたり1mg/日のγ−トコトリエノールを与えた。10、20および30週間の終了時に、動物を致死させた。男性付属腺、すなわち腹葉および背側前立腺葉と一緒に前立腺、および凝固腺を前立腺腫瘍発生、前立腺上皮内腫瘍(PIN)発生および微小浸潤の組織病理学的特性解析のために個別に解剖した。
【0206】
ABCキット(StreptABC Complexキット;DAKO社、カナダ国オンタリオ州ミシサーガ)を用いたIHCについてのプロトコルは、1:500の希釈率で使用した標準クロモグラニン(Chromogranin)(ポリクローナル抗体、Dia Sorin社、米国ミネソタ州スティルウォーター)にしたがって実施した。
【0207】
腫瘍発生を試験するために、以前に報告された確立された診断基準にしたがって一部の修正を行った(項目番号6の下に言及した上記の参考文献を参照されたい)。CaP診断についての臨床標準の不均質性および多病巣性にしたがって、本試験では組織学的な格付けや採点に関するヒトに近い遺伝子組み換えされた(GE)マウスの標準システムを立証した。観察された腺癌の構造的パターンは、5種の異なるGE組織学的悪性度によって評価した:GE−悪性度1(超高分化)、明確な境界をもち、緻密に充填された、単独の、個別の一様な腺;GE−悪性度2(高分化)、不規則な辺縁をもち、ゆるく充填された、単独の、個別の一様な腺;GE−悪性度3(変動性の変形した構造を備える腺)、単独の、個別の、一様に散在性の腺および平滑な限局性の乳頭/篩状塊;GE−悪性度4(低分化)、不規則な、侵襲性辺縁および融合腺を備える篩状の塊;GE−悪性度5、非腺状個体、細胞の丸みを帯びた塊、中心壊死の病巣を備える篩状の塊(コメド癌として公知)および非分化低分化癌。最も広汎性のGE組織学的悪性度(「一次パターン/悪性度」)および第2の広汎性GE組織学的パターン(「二次パターン/悪性度」)に基づくと、新規のGE採点システムは、一次パターンGE悪性度数を二次GE悪性度数に加えることによって得られた。本試験を通して1つのパターンしか所見されなかった場合は、点数は悪性度数を2倍にすることによって得られた。図8に示したように、γ−もしくはδ−トコトリエノールまたはγ−およびδ−トコトリエノールの混合物を含む組成物が与えられたマウスはPINを発生しなかった。
【図1A−C】
【図1D−E】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、その内容がこれによりあらゆる目的のために参照により全体として組み込まれる2008年10月23日に出願された米国特許仮出願第61/107,842号明細書の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、分子生物学および生化学の分野、詳細には癌の生化学および分子生物学の分野に向けられる。
【背景技術】
【0003】
癌、またはより正確には悪性腫瘍は、一群の細胞が制御されない成長(正常限界を越える分裂)、侵襲(隣接組織上への侵入および隣接組織の破壊)、ならびに時々転移(身体内の他の場所へのリンパ液もしくは血液による伝播)を提示する1種の疾患である。
【0004】
特定の癌の進行、またはその欠如は、高度に可変性であり、腫瘍のタイプや治療への応答に左右される。治療様式には、手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、および免疫療法が含まれる。一般には、各タイプの癌は極めて特異的に治療されるが、様々な様式の組み合わせが使用されることが多く、例えば、手術が先行して行われ、その後に放射線療法が実施される。治療への応答は、腫瘍のタイプ、腫瘍のサイズ、および腫瘍が転移しているかどうかに左右される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
癌を治療する大多数の公知の方法は、患者に重篤な副作用を及ぼす。このため本発明の目的は、癌を治療するさらなる方法を探索することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様では、本発明は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、またはこれらからなる組成物を投与する工程によって癌を予防する、または癌治療を受けた後の癌の再発を予防する方法に関するが、このとき上記癌は黒色腫、前立腺癌、大腸癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌および肺癌からなる群から選択される。
【0007】
また別の態様では、本発明は、、および5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)とともにγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、またはこれらからなる組成物に関する。
【0008】
さらにまた別の態様では、本発明は、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)と共に、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、またはこれらからなる組成物を投与する工程によって癌を阻害する、または後退させる方法に関する。
【0009】
また別の態様では、本発明は、動物体において癌を予防する、または癌治療を受けた後に動物体内での癌の再発を予防するための医薬品を製造するためのγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物の使用に関するが、このとき上記癌は、黒色腫、前立腺癌、大腸癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌および肺癌からなる群から選択される。
【0010】
さらにまた別の態様では、本発明は、癌を治療するための医薬品を製造するための、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)とともに、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールをのうちの少なくとも1つを含む、組成物の使用に関する。
【0011】
さらに別の態様では、本発明は、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)とともにγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、またはこれらからなる組成物を製造する方法であって、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)とともにと混合する工程を含む方法に関する。
【0012】
本発明は、詳細な説明を参照して非限定的な実施例および添付の図面と結び付けて考察すればより明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】γ−T3がPC−3細胞内の前立腺癌幹細胞マーカーをダウンレギュレートすることを示している実験の結果を示す図である。(A)γ−T3処理後の前立腺癌幹細胞マーカーであるCD44およびCD133のウエスタンブロッティング。γ−T3が用量および時間依存性で両方の幹細胞マーカーを統計的有意にダウンレギュレートすることに留意されたい。(B)24時間にわたる5μg/mLのγ−T3処理後のPC−3細胞内のCD44+集団についてのフローサイトメトリー分析。矢印によって指示したγT3−処理後のCD44+集団は、未処理コントロール群(陰影付きピーク)と比較して減少した。(C)γ−T3処理後のCD44およびCD133のmRNAレベル。マーカーが48および72時間の処理後に減少したことに留意されたい。サンプルは、GAPDHによって標準化した。(D)2.5および5μg/mLのγ−T3を用いた24、48および72時間にわたる処理後のPC−3細胞の生存性はMTTアッセイによって試験した。各実験は、少なくとも3回繰り返した。結果は、平均値±SD(標準偏差)として提示した。(E)γ−T3処理したPC−3細胞内のアポトーシスマーカーのウエスタンブロッティングの結果。PARP(ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ)、カスパーゼ3、7、9の切断形は全く検出されず、γ−T3処理によるアポトーシスの誘導が生じないことを示していることに留意されたい。
【図2】γ−T3がPC−3細胞の幹細胞の特性を抑制することを示している実験の結果を示す図である。(A)細胞凝集塊(spheroid)形成アッセイは、γ−T3もしくは溶剤で処理された細胞を用いて実施した。200個のPC−3細胞をポリHEMAコーティングされた12ウエルプレート上に播種し、14日間にわたりγ−T3もしくは溶剤のいずれかで処理した。形成されたプロスタスフェア(prostasphere)数を計数し、結果を平均値±SDとして提示した。γ−T3処理は、PC−3細胞の細胞凝集塊形成能力を効率的に抑制することに留意されたい。(B)プロスタスフェアの画像は、顕微鏡下で捕捉した。γ−T3処理群ではプロスタスフェアを見いだせないことに留意されたい。
【図3】γ−T3が他の癌細胞系内でも癌の幹様細胞を抑制することを示している実験の結果を示す図である。(A)溶剤およびγ−T3で処理したDU145およびMGH−U1細胞内でのCD44のウエスタンブロッティング。両方の細胞系のCD44発現は、低用量γ−T3処理後にダウンレギュレートされた(注意:5μg/mLのγ−T3は12.176μMと等価である)。(BおよびC)様々な用量のγ−T3を用いた24および48時間にわたる処理後のDU145およびMGH−UI(膀胱癌)細胞の生存性を示しているMTTアッセイ。(DおよびE)細胞凝集塊形成アッセイは、γ−T3もしくは溶剤で処理された細胞を用いて実施した。γ−T3処理は、両方の細胞系の細胞凝集塊形成能力を効率的に抑制することに留意されたい。細胞凝集塊の画像は、顕微鏡下で捕捉した。γ−T3処理群では細胞凝集塊を見いだせないことに留意されたい。
【図4】γ−T3が生体内でのPC−3細胞の腫瘍原性を減少させることを示している実験の結果を示す図である。(A)2週間にわたりPC−3−Luc細胞が同所移植により注射されたSCIDマウスの生物発光画像。上の列にあるSCID(重症複合型免疫不全)マウスには溶剤処理PC−3−Luc細胞を注射し、下の列にあるマウスにはγ−T3処理PC−3−Luc細胞を注射した。γ−T3群からの3匹のマウスは検出可能な腫瘍を示さなかったことに留意されたい。(B)2週間後に検出可能な腫瘍を発生したマウスのパーセンテージ。γ−T3群におけるマウスの半分以上は検出可能な腫瘍を形成しなかったが、コントロール群では100%の腫瘍形成が見いだされたことに留意されたい(n=16)。
【図5】γ−T3が標的とする癌幹細胞が濃縮されたプロスタスフェアに及ぼす作用を示している実験の結果を示す図である。(A)CSCが濃縮されたプロスタスフェアは、血清置換培地が補給された非接着性培養中でDU145細胞を14日間にわたり維持することによって形成した。プロスタスフェアは次に、溶剤、γ−T3(10、20μg/mL)またはドセタキセル(Doc、40ng/mL)のいずれかを用いて処理した。処理の前後に、細胞凝集塊を顕微鏡下で計数した。結果は、コントロール群に比較した細胞凝集塊数における平均変化(%)±SDとして提示した。細胞凝集塊はγ−T3処理に対して高度に感受性であったが、高用量のドセタキセルに対しては耐性であったことに留意されたい。(B)溶剤、40ng/mLのドセタキセルおよび10μg/mLのγ−T3を用いた48時間の処理後のプロスタスフェアの画像。γ−T3処理細胞凝集塊は解離することが見いだされた。
【図6】図6Aは、γ−T3がmTORおよびβ−カテニンに影響を及ぼすとは決定されなかったが、Aktシグナリング経路を抑制することを示す図である。AKTシグナリング経路の活性化はヒト前立腺癌と高度に相関しており、AKTの構成的活性形を発現するトランスジェニック動物は前立腺上皮内腫瘍を発生する。(B)γ−T3は、多能性幹細胞表現型のための重要な調節因子であるOCT3/4およびNestin mRNA発現を増強した。
【図7】γ−トコトリエノールまたはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物が、癌(図7に例示した実施形態では前立腺癌)が発生する前(上から3番目の経路)およびそれが従来型抗癌療法を用いて治療された後(上から2番目の経路)に予防するために使用される、本発明の1つの態様の特定の実施形態を例示する図である。第1経路は、前立腺癌幹細胞(PCSC)を含む固形前立腺癌の腫瘍が例えば化学療法、またはドセタキセルなどの化学療法薬を用いた従来型抗癌療法を用いて治療される通常の療法を例示する図である。これらの療法はPCSCには影響を及ぼさないので、腫瘍はPCSCに基づいて再発する可能性がある。本明細書で言及した実験において証明されたように、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物が動物体に投与されると、固形前立腺癌の腫瘍の発生を予防することができる(第3経路)。さらに、腫瘍治療後のγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物の適用は、PCSCが癌細胞再生を開始することを防止できる。すなわち、本明細書で請求する組成物は、癌の再発を防止する。
【図8】γ−T3、ならびにδ−T3およびγ−T3を含む組成物は、前立腺癌発生の前駆体である可能性が極めて高い前立腺上皮内腫瘍(PIN)の形成を防止することを示す図である。使用した前立腺癌マウスモデルは以前に公表された(Gabril,M.Y.,Duan,W.ら、Molecular Therapy(2005),vol.11,no.3,p.348;Greenbergら、Proc Natl Acad Sci USA(1995),vol.92,pp.3439−3443;Duan,W.,Gabril,M.Y.,ら、Oncogene(2005)24,1510−1524;Wang S,Gao J,ら、Cancer Cell,2003,vol.4,no.3,pp.209−21;Gabril,M.Y.,Onita,T.ら、Gene Ther.,2002,vol.9,no.23,pp.1589−99)。手短には、マウスに週5日間の治療を4〜6カ月間継続して実施した。治療終了時にマウスを安楽死させ、PINおよび低/高悪性度の前立腺癌の発生を試験する目的で生検のためにマウスの前立腺を採取した。
【図9】ビタミンE異性体が前立腺細胞に及ぼす作用を証明する結果を例示する図である。(A)細胞生存性は、様々なビタミンE異性体を用いた24および48時間にわたる処理後にMTTアッセイによって試験した。ビタミンE異性体、特別にはトコトリエノール類は、前立腺細胞の生存性に様々な程度で選択的に影響を及ぼすが、非腫瘍原性前立腺上皮細胞には有意な影響を及ぼさないことに留意されたい。PC−3は、LNCaPに比較してビタミンE異性体に対して高応答性である。(B)IC50でのγ−T3の存在下でのLNCaPおよびPC−3の増殖率。IC50用量レベルは、図9Aにおける用量レベルと対応する。α−T3については、100μMを使用した。UDは、未決定IC50を示している。
【図10】γ−T3処理によるアポトーシスの誘導を証明する結果を例示する図である。(A)フローサイトメトリーによる細胞周期の分析。24時間にわたりIC50でのγ−T3とともに培養したコントロール細胞および処理細胞をフローサイトメトリー分析にかけた。処理後に下位−G1集団が出現することに留意されたい。(B)PC−3におけるアポトーシス促進性経路のIC50時間依存性および24時間用量依存性活性化(各々、時間およびμM)。γ−T3は重要な分子(切断されたカスパーゼ3、7、8、9、PARP)の活性化を誘導し、細胞用量および時間依存性でBcl−2およびBaxの量間の比率を変調させることに留意されたい。(C)IC50のγ−T3は、24時間の培養期間にわたって、アポトーシス促進遺伝子を活性化し、LNCaPおよびPC−3の生存促進遺伝子発現を抑制するが、非腫瘍原性前立腺上皮細胞(PZ−HPV)の生存促進遺伝子発現を抑制しない。
【図11】γ−T3による生存促進性経路の不活性化を証明している結果を例示する図である。(A)NF−κB経路の活性にγ−T3が及ぼす作用は、IC50時間依存性および24時間用量依存性ウエスタンブロッティング(各々、時間およびμM)によって試験した。NF−κB p65およびリン酸化IκBの核転座がγ−T3処理によって阻害されたことに留意されたい。(B)γ−T3の処理は、さらにまたPC−3細胞内のIdファミリータンパク質およびEGFR(上皮成長因子受容体)のダウンレギュレーションを生じさせた。
【図12】Jun N−末端キナーゼ(JNK)活性化がγ−T3誘導性アポトーシスに関与することを証明している結果を例示する図である。(A)24時間にわたるγ−T3およびJNK阻害剤(SP600125)との培養後の細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。JNK阻害剤の添加はPC−3細胞内のγ−T3の細胞毒性を緩和したが、これはJNKがγ−T3の抗増殖性作用を媒介することを示唆していることに留意されたい。(B)24時間用量依存性およびIC50時間依存性γ−T3処理後のJNK活性(各々、μMおよび時間)は、MKK4、SAPK/JNK、c−junおよびATF−2のリン酸化レベルを測定することによって上昇することが見いだされた。したがって、γ−T3抗癌特性におけるJNKの関与が確証されている。
【図13】γ−T3処理による細胞侵襲の阻害を証明している結果を例示する図である。(A)24時間用量依存性およびIC50時間依存性γ−T3処理は上皮マーカー(E−カドヘリン、γ−カテニン)の発現を誘導したが、間葉マーカー(ビメンチン、Twistおよびα−SMA)ならびにE−カドヘリンの抑制因子(Snail)の発現を抑制した。(B)指示した用量のγ−T3で処理された侵襲性アンドロゲン非依存性PCa細胞(PC−3)を採取し、次にマトリゲル(0.5mg/mL)をコーティングしたインサート内へプレーティングした。膜を越えて侵襲した細胞をクリスタル・バイオレットで染色し、画像は顕微鏡下で写真撮影した。抽出用緩衝液を用いて溶解させた後、595nmで吸光度を測定した。
【図14】γ−T3がドセタキセル誘導性アポトーシスに及ぼす相乗作用を証明している結果を例示する図である。(A)24時間にわたるドセタキセルおよびγ−T3併用処理が及ぼす作用。細胞は、24時間にわたり様々な用量のγ−T3および100nMのドセタキセルとともに培養した。細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。ドセタキセルおよびγ−T3の併用処理後のアポトーシス性のPC−3およびLNCaP細胞のパーセンテージは、いずれかの薬剤単独で処理した場合より統計的有意に高かった。(B)ウエスタンブロッティングを使用することによって、24時間にわたるγ−T3とドセタキセルとの併用処理はアポトーシス促進分子(切断されたPARP、カスパーゼ3、7、8、9)の活性化を通してPC−3細胞のアポトーシスを増強することがさらに証明された。増殖遺伝子の追加の抑制は、さらにまたId−1、EGFR、IκB、NF−κB p65についても確証された。(C)PCa細胞において提案されたT3抗癌経路。黒色腫細胞における提案された抗癌経路は、さらに図26Cにおいて別個に示した。
【図15】γ−T3処理による乳癌細胞(BCa)におけるアポトーシスの誘導を示している結果を例示する図である。(A)様々なビタミンE異性体のIC50は、24時間の処理後のMTTアッセイによる細胞生存性の試験によって決定した。ビタミンE異性体、特別にはβ−、γ−およびδ−T3は様々な程度でBCa細胞の生存性を選択的に阻害するが、非腫瘍原性乳癌上皮細胞には有意な影響を及ぼさないことに留意されたい。UDは、未決定IC50値を示している。(B)γ−T3(IC50−90)を用いた細胞の処理は、下位−G1細胞集団の誘導を生じさせた。アポトーシス細胞(下位−G1分画)の比率は用量依存性で増加した。(C)γ−T3は、MDA−MB−231細胞におけるDNA断片化を誘導する。手短には、細胞を採取し、断片化DNAを抽出し、臭化エチジウムを含有する2%アガロースゲル中での電気泳動法によって分析した。(D)γ−T3によって誘導されたDNA断片化はさらに末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TUNELアッセイ)によっても検出された(「未処理」黒色画像、すなわちDNA損傷は検出できない;20および40μMのγ−T3、重度のDNA損傷を備えるアポトーシス細胞はDNA中のニックの存在によって緑色蛍光中に出現し、これは次に末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼによって同定できる)(スケールバー:25μm)。
【図16】γ−T3処理によるアポトーシス促進分子の活性化を証明している結果を例示する図である。(A)γ−T3処理は臨界アポトーシス分子(切断されたカスパーゼ3、7、8、9、PARP)の活性化を誘導し、細胞用量依存性でBcl−2およびBaxの量間の比率を変調させることに留意されたい。(B)γ−T3はMCF7およびMDA−MB−231細胞上のアポトーシス促進遺伝子を活性化したが、非腫瘍原性乳癌上皮細胞(MCF−10A)を活性化しなかった。
【図17】γ−T3による生存促進性経路の不活性化を証明している結果を例示する図である。(A)γ−T3がNF−κB経路に及ぼす作用をウエスタンブロッティングによって試験した。IκBのリン酸化は、全細胞溶解液中でのγ−T3処理によって阻害された。同様に、核転座NF−κB p65は、核タンパク質抽出物中で阻害された。(B)γ−T3の処理は、MDA−MB−231細胞内でのEGFRおよびIdファミリータンパク質の発現のダウンレギュレーションを生じさせた。(C)γ−T3の処理は、MDA−MB−231細胞内でのId1の上流調節因子のダウンレギュレーションもまた生じさせた(Src、Smad1/5/8およびLOX)。限局性接着キナーゼ活性(Fak)は、LOX活性化と強度に相関していた。(D)γ−T3で処理されたMDA−MB−231細胞は溶解したので、この溶解液を、抗Src抗体を使用する免疫沈降アッセイのために使用した。結果は、SrcおよびSmad1/5/8の間の物理的相関がγ−T3処理によって影響を受けたことを示した。
【図18】γ−T3誘導性アポトーシス中のJun N−末端キナーゼ(JNK)およびMAPK/ERK活性化を証明している結果を示す図である。(A)JNK活性は、24時間にわたるγ−T3処理後にSAPK/JNK、c−junおよびATF−2のリン酸化レベルを測定することによって試験した。全タンパク質のリン酸化レベルがγ−T3によって誘導され、これはJNKがγ−T3処理によって活性化されることを示唆していることに留意されたい。(B)24時間にわたるγ−T3およびJNK阻害剤(SP600125)との培養後の細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。JNK阻害剤の添加はγ−T3がMDA−MB−231細胞に及ぼす細胞毒性を緩和したが、これはJNKがγ−T3の抗増殖性作用を媒介することを示唆していることに留意されたい。(C)Mek1/2、Erk1/2およびElk1のリン酸化レベルを測定することによって試験したMAPK/ERK活性は、24時間にわたるγ−T3処理後に上昇することが見いだされた。(D)24時間にわたるγ−T3およびMAPK/ERK阻害剤(U0126/PD09059)との培養後の細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。MAPK/ERK阻害剤の添加は、γ−T3がMDA−MB−231細胞に及ぼす細胞毒性に影響を及ぼさなかったことに留意されたい。
【図19】γ−T3処理による細胞侵襲の阻害を証明している結果を例示する図である。(A)指示した用量のγ−T3で処理されたMDA−MB−231細胞を採取し、次にマトリゲル(0.5mg/mL)をコーティングしたインサート内へプレーティングした。膜を越えて侵襲した細胞をクリスタル・バイオレットで染色し、画像は顕微鏡下で写真撮影した。抽出用緩衝液を用いて溶解させた後、595nmでの吸光度を測定し、平均値および標準偏差で提示した(右のパネル)。(B)24時間用量依存性γ−T3処理は上皮マーカー(α−、β−、γ−カテニン)の発現に影響を及ぼさなかったが、間葉マーカー(Twistおよびα−SMA)ならびにE−カドヘリンの抑制因子(Snail、Twist)の発現を抑制した。PC−3は、野生型E−カドヘリンを発現するアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞系を表している。
【図20】γ−T3がドセタキセル誘導性アポトーシスに及ぼす相乗作用を示している実験の結果を例示する図である。(A)24時間にわたるドセタキセルおよびγ−T3併用処理の作用。細胞は、24時間にわたり様々な用量のγ−T3と一緒に50nMのドセタキセルとともに培養した。細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。ドセタキセルおよびγ−T3の併用処理後の生存性MDA−MB−231細胞数は、いずれかの薬剤単独で処理した場合より統計的有意に低かった。(B〜C)ウエスタンブロッティングを使用することによって、24時間にわたるγ−T3とドセタキセルとの併用処理はアポトーシス促進分子(切断されたPARP、カスパーゼ3、7、8、9)の活性化を通してMDA−MB−231細胞のアポトーシスを促進することがさらに証明された。Id−1およびEGFR発現の抑制は、さらにウエスタンブロッティング分析によって確証された。γ−TPは、γ−トコフェロールを表す。(D)24時間にわたるγ−T3および3−アミノプロプリニトリル(APN)との培養後の細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。APNの添加は、γ−T3がMDA−MB−231細胞に及ぼす細胞毒性を緩和することに留意されたい。(E)Id1 mRNAは、γ−T3処理後に抑制されると決定された。しかし、Id1 mRNAは、γ−T3と3−アミノプロプリニトリル(APN)との併用処理後に部分的に回復すると決定された。GAPDHの量は、ローディングコントロールとして測定した。(F)γ−T3と3−アミノプロプリニトリル(APN)との併用処理は、アポトーシス促進遺伝子(カスパーゼ3、7、8、9およびPARP)の活性化を後退させ、Id1の構成的活性化を部分的に回復させた。
【図21】ビタミンE異性体が黒色腫細胞に及ぼす作用を証明している結果を例示する図である。(A)細胞生存性は、様々なビタミンE異性体を用いた24および48時間にわたる処理後にMTTアッセイによって試験した。ビタミンE異性体、特別にはトコトリエノール類が様々な程度で黒色腫細胞の生存性に影響を及ぼすことに留意されたい。(B)IC50でのγ−T3の存在下でのC32の増殖率。α−T3については、100μMを使用した。
【図22】γ−T3処理によるアポトーシスの誘導を証明している結果を例示する図である。(A)フローサイトメトリーによる細胞周期の分析。コントロール細胞および24時間にわたりIC50でのγ−T3とともに培養した処理細胞をフローサイトメトリー分析にかけた。下位−G1集団が処理後に出現することに留意されたい。(B)C32およびG361におけるアポトーシス促進性経路の用量依存性(μM)活性化。γ−T3が24時間にわたる培養期間中に細胞用量依存性で重要な分子(切断されたカスパーゼ3、7、9、PARP)の活性化を誘導することに留意されたい。
【図23】C32細胞におけるγ−T3による生存促進性経路の不活性化を証明している結果を例示する図である。(A)γ−T3(μM)がNF−κB経路に及ぼす作用をウエスタンブロッティングによって試験した。NF−κB p65およびリン酸化IκBの核転座がγ−T3処理によって阻害されたことに留意されたい。(B)γ−T3(μM)の処理は、さらにまたC32細胞内のIdファミリータンパク質およびEGFRのダウンレギュレーションを生じさせた。
【図24】Jun N−末端キナーゼ(JNK)活性化がC32細胞内でのγ−T3誘導性アポトーシスに関与することを証明している結果を例示する図である。(A)24時間にわたるγ−T3およびJNK阻害剤(SP600125)との培養後の細胞生存性を、MTTアッセイによって試験した。JNK阻害剤の添加はC32内のγ−T3の細胞毒性を緩和したが、これはJNKがγ−T3の抗増殖性作用を媒介することを示唆していることに留意されたい。(B)γ−T3処理後のJNK活性は、SAPK/JNK、c−junおよびATF2のリン酸化レベルを測定することによって上昇することが見いだされた。そこで、γ−T3抗癌特性におけるJNKの関与が確証された。
【図25】悪性黒色腫G361におけるγ−T3処理による細胞侵襲の阻害を証明している結果を例示する図である。(A)指示した用量のγ−T3で処理されたG361細胞を採取し、次にマトリゲル(0.5mg/mL)をコーティングしたインサート内へプレーティングした。膜を越えて侵襲された細胞を、顕微鏡下で写真撮影した。抽出用緩衝液を用いて溶解させた後、595nmで吸光度を測定した。(B)γ−T3処理は上皮マーカー(E−カドヘリンおよびγ−カテニン)の発現を誘導した;しかし間葉マーカー(ビメンチン、α−SMAおよびTwist)の発現を抑制した。24時間にわたり様々な用量のγ−T3で処理されたG361細胞を溶解させ、ウエスタンブロッティングによって分析した。
【図26】C32内でドセタキセルおよびダカルバジン誘導性アポトーシスにγ−T3が及ぼす相乗作用を証明している結果を例示する図である。(A)ドセタキセルおよびγ−T3併用処理が及ぼす作用。C32細胞は、24時間にわたり40μMのγ−T3および50nM/500μMのドセタキセル/ダカルバジン各々とともに培養した。細胞生存性は、MTTアッセイによって試験した。ドセタキセルおよびγ−T3の併用処理後のコントロールと比較した生存性C32細胞のパーセンテージは、いずれかの薬剤単独で処理した場合より統計的有意に低かった。(B)ウエスタンブロッティングを使用することによって、さらにγ−T3とドセタキセルまたはダカルバジンいずれかとの併用処理はアポトーシス促進分子(切断されたPARP、カスパーゼ3、7、8、9)の活性化を通してC32細胞のアポトーシスを増強することが証明された。増殖遺伝子の追加の抑制は、さらにまたC32細胞内でのId−1、EGFR、ホスホロ−IκBについても確証された。(C)黒色腫細胞において提案されたT3抗癌経路。Pca細胞における提案された抗癌経路は、さらに図12Cでもさらに別個に示した。
【図27】薬物動態、単回投与急性毒性および血清バイオマーカーを示している実験の結果を例示する図である。(A)45週齢のC57BL/6黒色マウスは、1mgのγ−トコトリエノールを含有する単回用量腹腔内(i.p.)注射を受けた。5匹のマウスは、様々な時点(10分、30分、1時間、3時間、6時間、24時間、48時間および72時間後)で致死させた。血清中のγ−トコトリエノール濃度は、材料および方法の項に記載したHPLC法を用いて分析した。(B)90匹のC57BL/6黒色マウス(各群10匹)は、100μLの注射用量中に1、2、4、8、12、16、20、30および40mgのγ−トコトリエノールを含有する単回用量腹腔内注射を受けた。マウスの体重および生存率を30日間観察し、その後にCO2吸入によって安楽死させた。(C)10匹のC57BL/6黒色マウスは、1mgのγ−トコトリエノールまたはDMSOブランクを含有する週5回のi.p.注射を受けた。マウスを、心臓出血によって致死させ、血清を材料および方法の項に記載したバイオマーカー検出方法にかけた。試験したいずれのパラメータにおいても毒物学的変化は見られなかった。バイオマーカーの血清濃度は、アルブミン(Alb)、クレアチン(Cre)、アラニントランスアミラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、ウレア(Ure)およびアルカリホスファターゼ(ALP)(RANDOX laboratories社、英国クルムリン)である。
【図28】体重、腫瘍サイズおよび投与されたγ−T3の臓器分布を示している実験の結果を示す図である。雄性BALB/cの無胸腺ヌードマウスにPCa細胞を移植し、無作為に3群へ選択した(n=1群につき5匹);コントロール(溶剤としてのDMSO)、γ−T3(50mg/kg/日)およびγ−T3とドセタキセルの併用療法(50mgのγ−T3/kg/日、および7.5mgのドセタキセル/kg/週)。マウスの体重を計量し(A)、腫瘍は、各薬物療法前にデジタル式炭素繊維製カリパス(Fisher scientific社、ペンシルベニア州ピッツバーグ)を用いて測定した(B)。(C)臓器および血清中のγ−T3濃度は、材料および方法の項に記載したHPLC法を用いて分析した。
【図29】薬物治療後の雄性BALB/c非胸腺ヌードマウス上で異種移植されたPCa細胞の画像描出を例示する図である。(A〜B)2回の反復実験のために、雄性BALB/c無胸腺ヌードマウスにPCa細胞を移植し、無作為に3群へ選択した(n=1群につき10匹);コントロール(溶剤としてのDMSO)、γ−T3(50mg/kg/日)およびγ−T3とドセタキセルの併用療法(50mgのγ−T3/kg/日、および7.5mgのドセタキセル/kg/週)。マウスは、ルシフェリン溶液(150mg/kg(体重))のi.p.注射を受けた。(A1)は、DMSO(溶媒)、単独薬剤(1.5mgのγ−T3/日/マウス)または併用療法(1.5mgのγ−T3/日/マウスおよび0.75mgのドセタキセル/週/マウス)で治療された皮下PC3−Luc腫瘍を有するヌードマウスの側面図を示している。2百万個のPC3−Luc細胞を雄性ヌードマウスに接種し、腫瘍抑制はIVIS(商標)イメージングシステム(Xenogen Corp.社、米国マサチューセッツ州ホプキントン)を用いてルシフェリンの投与5分後に監視した。(B1)は、DMSO(溶媒)、単独薬剤(1.0mgのγ−T3/日/マウス)または併用療法(1.0mgのγ−T3/日/マウスおよび0.15mgのドセタキセル/週/マウス)で治療された皮下PC3−Luc腫瘍を有するヌードマウスの側面図を示している。百万個のPC3−Luc細胞を雄性ヌードマウスに接種し、腫瘍抑制はIVIS(商標)イメージングシステムを用いて治療終了時に監視した。(A2およびB2)異なる治療群におけるマウスの平均インビボシグナル強度。(A3およびB3)コントロール、γ−T3、ならびにγ−T3およびドセタキセルの併用療法における代表的な腫瘍の写真。矢印は、ヌードマウス上の上皮内腫瘍を示している。(A4およびB4)コントロール、γT3ならびにγT3およびドセタキセル群から切除した腫瘍のサイズを示す写真である。
【図30】γ−T3抗腫瘍作用が癌細胞増殖に及ぼす作用を例示している画像。PCNA、Ki67およびId−1のダウンレギュレーションは、PCNA、Ki67およびId−1に対するマウス抗体ならびに二次抗体抗であるマウスFab−HRPを用いたIHC免疫組織化学検査によって決定した。これら3つの細胞増殖分子についての発現レベルは、γ−T3単独またはドセタキセル(Doce)との併用療法のいずれかを用いた治療後にはより低かった(全画像におけるスケールバー:100μm)。
【図31】γ−T3抗腫瘍作用が癌細胞アポトーシスに及ぼす作用を例示している画像を示す図である。切断カスパーゼ3および切断PCNAの存在は、切断カスパーゼ3および切断PARPに対するウサギポリクローナル抗体ならびに二次抗体である抗ウサギFab−HRPを用いたIHC免疫組織化学検査によって決定した。これら2つの分子についての発現レベルは、γ−T3単独またはドセタキセル(Doce)との併用療法のいずれかを用いた治療後にはより高かった(全画像におけるスケールバー:100μm)。
【図32】γ−T3抗腫瘍作用が腫瘍サプレッサー遺伝子およびその抑制体に及ぼす作用を例示している画像を示す図である。腫瘍サプレッサー遺伝子(E−カドヘリン;(A))およびその抑制体(Snail;(B))の発現における変化は、E−カドヘリンおよびSnailに対する抗体ならびに二次抗体であるFab−HRPを用いたIHC免疫組織化学検査によって決定した。これら2つの分子についての発現レベルは、γ−T3単独またはドセタキセル(Doce)との併用療法のいずれかを用いた治療後には反比例していた(全画像におけるスケールバー:100μm)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1態様では、本発明は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物を投与する工程によって癌を予防する、または癌治療を受けた後の癌の再発を予防する方法に関する。
【0015】
本発明者らは初めて、本明細書で言及する組成物が、a)本明細書で言及するウエスタンブロッティングおよびフローサイトメトリー分析から明らかなように、幹細胞マーカーであるCD133およびCD44などの幹細胞マーカーの発現をダウンレギュレートできる、およびb)スフェアおよび腫瘍の形成を抑制できることを証明する。そこで、本発明者らによって、癌細胞に発達する可能性がある細胞の本明細書で言及した組成物による前処理が細胞の腫瘍開始能力を妨害することが見いだされることが証明された。これらの所見は、本明細書で言及する実験結果から明白になるように、生体外での(in vitro)ならびに生体内での(In vivo)データによって裏付けられている。本発明のこの態様の一般的原理は、γ−およびδ−トコトリエノ−ルのうちの少なくとも1つを含む組成物が癌の治療を防止するため、または癌治療を受けた後の癌の再発を回避するために使用された1つの実施例に基づいて図7に例示されている。図8に例示したさらに別の実施例では、前立腺上皮内腫瘍(PIN)を発生するように遺伝子組換えされている特殊なマウスは、γ−もしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つまたはγ−およびδ−トコトリエノールの混合物を含む組成物が与えられるとPINを発生しない。
【0016】
「癌の予防」は、癌が発生するのを予防する、または遅延させる行為を意味する。本発明の場合には、本明細書で言及する組成物を投与する工程は、癌が動物体内で発生できない作用を有する。予防は、本明細書で言及した組成物が、既に動物体内に存在する癌細胞を治療するため、または言い換えると既に癌に罹患している動物体を治療するために使用される「癌治療」とは区別しなければならない。時々、用語「化学的予防」が使用される。用語「癌治療」と同様に、「化学的予防」もまた既に癌に罹患している患者の治療に関連しており、本発明の特許請求項において言及する「癌の予防」と誤解されてはならない。化学的予防は、この特定種類の治療を受けている動物体にとってほとんどが重篤な副作用を有する化学療法の使用を回避するための治療が想定されることを意味している。
【0017】
また別の実施形態では、本明細書で言及した組成物はさらにまた、癌治療を受けた後の癌の再発を予防するために使用することもできる。これは、癌に罹患した、そして動物体を癌から治癒させるための治療を受けた動物体が癌を再発することを予防するために本明細書で言及した組成物を使用することを意味している。1つの実施形態では、それは動物体が癌から動物体を治癒もしくは回復させるための治療を受けて終了したことを意味する。進行中の癌治療との相違は、本明細書で言及した組成物が癌細胞の増殖を破壊もしくは停止させるためではなく、「癌を予防する」ために癌が再発するのを予防もしくは遅延させるために使用されるという事実に基づいている。本明細書で言及する「回復」もしくは「治癒」は、臨床的には癌の徴候もしくは症状の永続的不在;癌の完全な寛解または癌の臨床的証拠の消失としての完全な応答であると規定されている。
【0018】
「癌治療」は、癌細胞を排除または除去することを目的とする、あらゆる種類の既知の癌の治療を意味する。癌治療もしくは療法の主要な物理療法は、手術、および放射線療法(局所性および局所限局性疾患のため)、ならびに化学療法(全身性疾患のため)である。その他の重要な方法には、ホルモン療法(選択された癌、例えば前立腺癌、乳癌または子宮内膜などのため)、免疫療法(モノクローナル抗体、インターフェロン、およびその他の生物学的応答修飾因子および腫瘍ワクチン類)、例えばレチノイド剤などの分化誘導薬、細胞および分子生物学の発展した知識を利用する薬剤の使用ならびに上記の治療もしくは療法の組み合わせが挙げられる。
【0019】
一般に、「癌」はその正常な制御機構を消失した、したがって調節されない成長(増殖)、分化の欠如、局所的組織侵襲、および頻回に転移を有する1群の細胞(通常は単細胞に由来する)を意味すると考えられている。癌性(悪性)細胞は、あらゆる器官内のあらゆる組織から発生する可能性がある。癌性細胞は成長して増殖するにつれて、それらは正常隣接組織に侵襲して破壊できる、腫瘍と呼ばれる一塊の癌性組織を形成する。用語「腫瘍」は、異常な増殖もしくは塊を意味しているが、腫瘍は癌性の場合も非癌性の場合もある。原発(初期)部位からの癌性細胞は、全身にわたって伝播(転移)することができる。癌性細胞は、形質転換と呼ばれる複雑なプロセスで、健常細胞から発生する。このプロセスにおける第1工程は、細胞遺伝物質(DNAまたは時々は染色体構造)中の変化が細胞を癌性になるように刺激する開始(initiation)である。細胞の遺伝物質中のこの変化は特発性で発生することがある、または癌を誘発する物質(発癌物質)によって引き起こされることもある。γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む本明細書で言及した組成物は、この開始を予防することができる。
【0020】
1つの実施形態では、本明細書で言及した組成物を用いて治療できる癌のタイプは、例えば染色体異常などの遺伝的突然変異によって誘発された癌、または例えば少数を挙げるとパピローマウイルス、エプスタイン・バー(Epstein−Barr)ウイルスなどのウイルスによって誘発された癌であってよい。遺伝的突然変異の原因となる遺伝子のうち2つの主要な遺伝子群は、発癌遺伝子および腫瘍サプレッサー遺伝子である。発癌遺伝子は細胞増殖を調節する正常遺伝子の異常な形態(癌原遺伝子)であるが、腫瘍サプレッサー遺伝子は細胞分割およびDNA修復において重要な役割を果たす固有の遺伝子であり、細胞内の不適切な増殖シグナルを検出するために極めて重要である。そこで、1つの実施形態では、治療対象の癌は、発癌遺伝子の突然変異によって誘発された癌、または腫瘍サプレッサー遺伝子の突然変異によって誘発された癌のいずれかを意味する。
【0021】
また別の実施形態では、癌のタイプには、リンパ球性白血病、骨髄性白血病、悪性リンパ腫、骨髄増殖性疾患、または固形腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。さらに別の実施形態では、癌は、黒色腫(皮膚癌)、前立腺癌、大腸癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌および肺癌が挙げられるがこれらに限定されない癌のタイプを意味する。1つの実施例では、癌は、前立腺癌、乳癌または黒色腫(皮膚癌)を意味する。また別の実施形態では、本発明は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物を投与する工程によって、前立腺上皮内腫瘍(PIN)の予防または癌治療を受けた後の前立腺上皮内腫瘍(PIN)の再発の予防に向けられる。
【0022】
ビタミンEは、2つの主要成分であるトコフェロール類(T)およびトコトリエノール類(T3)から構成される。トコトリエノール類(T3)は主としてパーム油中に見いだされる。トコフェロール類(T)と一緒に、これらは全ての生存細胞への有意な抗酸化物質活性源を提供する。この共通の抗酸化物特性は、それらの構造的側鎖(トコトリエノールについてはファルネシルまたはトコフェロールについては飽和フィチル側鎖を含有する)のみ異なるトコトリエノール類とトコフェロール類の化学構造における類似性を反映している。クロマノール環上のヒドロキシル基からの共通する水素原子は、連鎖伝播性ペルオキシルフリーラジカルを除去するように機能する。これらのクロマノール環上のメチル基の所在位置に依存して、トコフェロール類およびトコトリエノール類は4つの異性体形:アルファ(α)、ベータ(β)、ガンマ(γ)、およびデルタ(δ)に識別することができる。
【0023】
上述したように、癌を予防するため、または癌治療を受けた後の癌の再発を予防するために、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物が使用される。γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールはビタミンEの異性体である。ビタミンEは、2つの主要成分であるトコフェロール類(T)およびトコトリエノール類(T3)から構成される。トコトリエノール類(T3)は主としてパーム油中に見いだされる。トコフェロール類(T)と一緒に、これらは全ての生存細胞への有意な抗酸化物質活性源を提供する。この共通の抗酸化物質性の性質は、それらの構造的側鎖(トコトリエノールについてはファルネシルまたはトコフェロールについては飽和フィチル側鎖を含有する)しか相違していないトコトリエノール類とトコフェロール類の化学構造における類似性を反映している。
【0024】
様々なトコフェロールおよびトコトリエノールのアイソフォームが存在する(式IおよびIIを参照されたい)。トコフェロール類は、クロマノール環およびホモゲンチシン酸塩(HGA)および二リン酸フィチルに各々由来するクロマノール環および15炭素テールからなる。他方、トコトリエノール類は、構造的には炭化水素テール中の3つのトランス二重結合の存在によってトコフェロール類とは異なる。式Iおよび式IIならびにそれに続く説明は、トコフェロール類(T)およびトコトリエノール類(T3)の公知のアイソフォームに関する概説を提供する。
【化1】
【0025】
式I(A):R1=R2=R3=Meは、α−トコフェロールとして公知であり、α−トコフェロールもしくは5,7,8−トリメチルトコールと指定されている;R1=R3=Me;R2=Hは、β−トコフェロールとして公知であり、β−トコフェロールもしくは5,8−ジメチルトコールと指定されている;R1=H;R2=R3=Meは、γ−トコフェロールとして公知であり、γ−トコフェロールもしくは7,8−ジメチルトコールと指定されている;R1=R2=H;R3=Meは、δ−トコフェロールとして公知であり、δ−トコフェロールもしくは8−メチルトコールと指定されている。式II(B):R1=R2=R3=Hは、2−メチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデカ−3,7,11−トリエニル)クロマン−6−オールであり、トコトリエノールと指定されている;R1=R2=R3=Meは、以前はζ1もしくはζ2−トコフェロールとして公知であり、5,7,8−トリメチルトコトリエノールもしくはα−トコトリエノールと指定されている。名称トコクロマノール−3もまた使用されてきた;R1=R3=Me;R2=Hは、以前はγ−トコフェロールとして公知であり、5,8−ジメチルトコトリエノールもしくはβ−トコトリエノールと指定されている;R1=H;R2=R3=Meは、以前はγ−トコフェロールとして公知であり、7,8−ジメチルトコトリエノールもしくはγ−トコトリエノールと指定されている。名称プラストクロマノール−3もまた使用されてきた;R1=R2=H;R3=Meは、8−メチルトコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールと指定されている。
【0026】
本明細書で言及した組成物は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのいずれかまたは両方のアイソフォーム、すなわちγ−トコトリエノールとδ−トコトリエノールの混合物を含む、またはこれらからなる。1つの実施形態では、γ−もしくはδ−トコトリエノールの量を濃縮することができる。「濃縮(enriched)」は、トコトリエノールの各アイソフォームが、その天然源から単離されたトコトリエノールの全アイソフォームを含む正規混合物中におけるより高い量で含まれることを意味する。例えば、パーム油から単離されたトコトリエノールは、γ−トコトリエノールおよびσ−トコトリエノールを上記油の総重量に基づいて10重量%未満の量で含んでいる。そこで、本発明の実施形態に関しては、「濃縮」調製物は、γ−トコトリエノールもしくはσ−トコトリエノールまたはγ−トコトリエノールもしくはσ−トコトリエノールの混合物を上記調製物(または組成物)の総重量に基づいて10重量%を超える量で含むあらゆる調製物を意味する。
例えば、濃縮調製物は、γ−トコトリエノールもしくはσ−トコトリエノールを少なくとも10重量%の量で含んでいる。
また別の実施例では、濃縮調製物は、γ−トコトリエノールおよびσ−トコトリエノールの混合物を含んでいるが、このときγ−トコトリエノールは4重量%の量で、そしてσ−トコトリエノールは6重量%の量で、つまり合計すると10重量%の量で含まれている。
【0027】
また別の実施形態では、「濃縮」は、γ−トコトリエノールおよびσ−トコトリエノールの混合物中でさえ、両方の成分は少なくとも10重量%の量で、つまり少なくとも10重量%のγ−トコトリエノールおよび少なくとも10重量%のσ−トコトリエノール(総計して組成物全体の20重量%)の量で含まれることを意味する。
【0028】
また別の実施形態では、濃縮トコトリエノール組成物または調製物は、γ−トロトリエノールまたはδトコトリエノールを上記組成物の総重量に基づいて少なくとも10重量%、または少なくとも20重量%、または少なくとも30重量%、または少なくとも40重量%、または少なくとも50重量%、または少なくとも60重量%、または少なくとも70重量%、または少なくとも80重量%、または少なくとも90重量%の量で含む組成物または調製物を意味する。
【0029】
さらにまた別の実施形態では、濃縮γ−および/またはδ−トコトリエノール組成物または調製物は、上記調製物の総重量に基づいて約10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%または少なくとも90重量%の量でこのトコトリエノールアイソフォームのうちの少なくとも1つを含む組成物または調製物を意味する。さらに別の実施形態では、本明細書で言及した組成物は、γ−およびδ−トコトリエノールを一緒に上記に規定した量で含んでもよい。
【0030】
また別の実施形態では、本組成物は、γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを1:Y(式中、Yは10未満である)の比率で含むことができる。例えば、パーム油から単離されたγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールは、γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを1:0.38の比率で含んでおり;アナトー油(annatto oil)から単離された場合はγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを1:9の比率で含んでいる。そこで、さらに別の実施形態では、本組成物はγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを1:(0.3〜約0.7)または1:(4〜9)の比率で含むことができる。多数の天然生成物もまたトコトリエノールの他のアイソフォームを含む可能性があるので、本明細書で言及した組成物はγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールだけを含む訳ではなく、さらにα−トコトリエノールもしくはβ−トコトリエノールまたはα−トコトリエノールおよびβ−トコトリエノールを含んでもよい。また別の実施例では、本明細書で言及した組成物は、実質的にはα−トコトリエノールおよび/もしくはβ−トコトリエノールならびに/またはα−トコトリエノールおよびβ−トコトリエノールならびに/または任意のトコフェロールを実質的に含んでいない。しかし1つの実施形態では、例えばα−、β−、γ−またはδ−トコフェロールなどの少なくとも1つのトコフェロールが本明細書で言及した組成物中に含まれることもまた可能である。例えば、トコトリエノール類およびトコフェロール類をパーム油の総重量の70重量%で含むように単離および濃縮されたパーム油は、α−トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを0.24:0.24:0.033:0.33:0.13の比率で含むことができる。
【0031】
1つの実施形態では、癌を予防するため、または癌の再発を予防するための、少なくとも1つのγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを含む本組成物は、さらなる抗癌活性物質を含んでいない。この実施形態に関連して、抗癌活性物質は、例えばドキソルビキシン(doxorubixin)、パクリタキセル、腫瘍壊死因子(TNF)などの、それ自体が癌を予防するために作用するあらゆる物質を意味する。
【0032】
また別の実施形態では、本発明の組成物は、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECG)、およびエピガロカテキンガレート(EGCG)などの緑茶ポリフェノール類、または例えばニンニク由来のS−アリルメルカプトシステインおよびニンニク由来のアリシンなどの有機硫黄化合物、または例えばトラメテス・ベルシカラー(Trametes versicolor)およびコリオラス・ベルシカラー(Coriolus versicolor)各々から単離された多糖−K(クレスチン、PSK)および多類ペプチド(PSP)などのタンパク質結合多糖類、または例えばトマトや他の赤色果実および野菜中で見いだされるリコピンなどの赤色カルテノイド色素をさらに含むことができる。
【0033】
動物体に投与される組成物の量は、成体体重60kgにつき約10mg〜約1,000mgまたは成体体重60kgにつき約10mg〜約500mgであってよい。
【0034】
また別の実施形態では、本組成物は、動物の血液中で個別トコトリエノール異性体の約0.1〜30mg/Lまたは約10〜30mg/Lの血清中濃度を得るための量で投与される。1つの実施例では、γ−トコトリエノールの濃度は、約1mg/Lである。
【0035】
1つの実施形態では、動物体は哺乳動物である。哺乳動物の例には、ヒト、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ウシ、イヌまたはネコが含まれるがこれらに限定されない。
【0036】
また別の態様では、本発明は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つ、および5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)を含む組成物に関する。
【0037】
例えば、前立腺癌(PCa)は、肺癌を除くその他全ての癌の中で最大数の死亡症例の原因である。腫瘍の緩徐に進行する性質に起因して、前立腺癌の患者の多くは診断時に既に転移性疾患を発生しており、ホルモンアブレーション療法後には不可避的にホルモン不応期に進むであろう。現時点ではホルモン不応性前立腺癌(HRPC)に対する治癒的治療は依然として存在しない。HRPC患者のために最も効果的な治療法であるドセタキセルをベースとする化学療法は生存期間中央値を3カ月間しか改善できない。このため、転移性HRPCに対する効果的な治療戦略が至急に必要とされている。
【0038】
現在までに、転移性HRPCに対する現行療法の失敗の背景となる理由は完全には理解されていないが、現行療法が高度に分化した腫瘍細胞を標的とする場合にのみ成功するが、推定癌幹/前駆細胞には影響を及ぼさないことを提示してきた根拠が増えつつある。正常幹細胞に関しては、癌幹細胞(CSC)は成熟幹細胞に比較して静止性であると思われる。この特性は、CSCを主として活動的に複製中の細胞を標的とする化学療法薬に対して耐性にさせる。さらに、前立腺CSCはアンドロゲン受容体を発現しない。そこで、前立腺CSCは、成熟腫瘍細胞のようにはホルモンアブレーションに応答しない。自己更新および分化能力のおかげで、前立腺CSCは、ホルモンアブレーション後に不均一腫瘍集団(アンドロゲン依存性および非依存性両方の細胞を備える)を再生することができるので、これが腫瘍再発の原因となる。γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つをドセタキセルと一緒に含む本発明の組成物を使用すると、本明細書で言及した生体外でのおよび生体内での試験結果によって裏付けられたように、例えば前立腺癌などの癌を首尾よく治療できることが初めて証明された。
【0039】
本発明者らは本明細書で初めて、ドセタキセルもしくはダカルバジン誘導性アポトーシスが本明細書で言及した組成物の存在下では有意に増強されることを証明したが、これは例えば黒色腫細胞、乳癌細胞および前立腺癌細胞などの癌細胞に対するγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つならびにドセタキセルおよび/またはダカルバジンの相乗作用を示唆している。本発明者らが実施した半数致死量(LD50)試験は、トコトリエノール類抽出物を用いた治療後に毒性を指示しなかったが(LD50≧2,000mg/kg)、この試験からの結果は、トコトリエノール異性体類が、例えば悪性黒色腫、乳癌、肝臓癌、膀胱癌、肺癌、大腸癌または前立腺癌などの癌を治療するために、例えばドセタキセルおよびダカルバジンなどの化学療法薬と併用して安全かつ有効な抗癌薬として使用できることを証明している。
【0040】
本明細書で言及した実験の結果は、初めて、例えばγ−トコトリエノールなどのトコトリエノールにおけるJNK経路の関与が黒色腫細胞または乳癌細胞または前立腺細胞などの癌細胞においてアポトーシスを誘導したことを確証している。注目すべきことは、JNK経路が化学療法薬であるドセタキセルおよびダカルバジンによって誘導される細胞アポトーシスにも関与することも公知である点である。これらの所見を考慮に入れると、本発明者らにはトコトリエノールがJNK経路の活性化の結果としてドセタキセルおよびダカルバジンとの相乗性相互作用を有するのではないかという疑問が生じた。このため、本発明者らは、化学療法薬単独、またはトコトリエノールとの併用療法の抗増殖能力を比較した。注目すべきことに、化学療法薬とトコトリエノールとの併用療法は高率のアポトーシス細胞を生じさせるが、γ−トコフェロールなどのトコフェロールは生じさせないことが見いだされた。
【0041】
本発明者らはさらに、本明細書で言及した組成物が、例えばId−1、Id−2、Id−3またはId−4などのIdファミリーの少なくとも1つのタンパク質の活性を変調させられることもまた見いだした。1つの実施形態では、本明細書で言及した組成物は、Id−1の活性を阻害する。さらに、本明細書で言及した組成物は、E−カドヘリンおよびγ−カテニンの発現の回復を通して細胞侵襲、すなわち癌の転移を阻害することもまた見いだされた。そこで1つの実施形態では、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つならびにドセタキセルおよび/またはダカルバジンを含む本組成物は、癌の転移を阻害する。
【0042】
本明細書で言及したトコトリエノール濃縮組成物もしくは調製物と併用できるドセタキセルは、例えば乳癌、卵巣癌、および非小細胞性肺癌を治療するために使用される抗腫瘍医薬品である。ドセタキセルは、Sanofi−Aventis社によって名称Taxotere(登録商標)注射用濃縮液を付けて市販されている。ドセタキセルは、一般には10サイクルのコースにわたって3週間毎に1回の1時間の注入として投与される。ドセタキセルは、化学療法薬のクラスであるタキサン系に属しており、希少な西洋イチイ(Western yew)であるテキサス・ブレビフォリア(Taxus brevifolia)からの抽出物であるタキソールの半合成アナログ(パクリタキセル)である。ドセタキセルの抗癌活性は、GTPの非存在下では生理学的微小管脱重合/分解を防止しながら、微小管重合を促進および安定化する能力に起因する。これは微小管形成のために必要とされる遊離チューブリンの有意な減少をもたらし、有糸分裂の中期と後期との間の有糸分裂細胞分割の阻害を生じさせ、その後の癌細胞分割および増殖を防止する。
【0043】
本明細書で言及したトコトリエノール濃縮組成物もしくは調製物と併用して使用できるその他の化学療法薬は、ダカルバジン(DTIC)である。ダカルバジンは、アルキル化剤のグループに属する。ダカルバジンは、抗腫瘍活性を備えるトリアゼン誘導体である。ダカルバジンは、細胞周期の全期中にDNAをアルキル化して架橋させ、結果としてDNA機能の崩壊、細胞周期停止、およびアポトーシスを生じさせる。そこで、ダカルバジンは、様々な癌、特にほんの少数例を挙げると悪性黒色腫、ホジキン(Hodgkin)リンパ腫、肉腫、および膵臓の島細胞癌を治療するために使用される。
【0044】
また別の態様では、本発明は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)とともに含む組成物を投与する工程によって癌を阻害する、停止させる、または後退させる方法に関する。
【0045】
本発明の状況では、「後退させる」は、腫瘍塊のサイズを減少させ、最終的には腫瘍を完全に排除することを意味する。そこで、癌を後退させることは、癌を治癒させる、つまり動物体内にあらゆる癌の徴候を排除することを意味する。癌を「阻害する」または「停止させる」ことは、腫瘍を安定化させることを意味する。安定化された腫瘍は、疾患の改善も悪化も示さない。
【0046】
γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む本組成物の一部は、本発明の第1態様に関連して上述した他の物質(ポリフェノール類など)と同一調製物、量、組み合わせで使用できる。γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物または調製物は、化学療法薬、つまりドセタキセルおよび/またはダカルバジンとは別個に投与できる、または1つの組成物中で一緒に調製することができる。
【0047】
癌を阻害する、または停止させる、または後退させる方法では、上記癌は黒色腫(皮膚癌)、前立腺癌、大腸癌、前立腺上皮内腫瘍、膀胱癌、肝臓癌、乳癌または肺癌の形態にあってよい。
【0048】
1つの実施形態では、本発明は、黒色腫を阻害する、または後退させる方法に関するが、本組成物は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)のうちのいずれか1つを含む。さらにまた別の実施形態では、本発明は、前立腺癌、または乳癌もしくは前立腺上皮内腫瘍を阻害する、または後退させる方法に関するが、本組成物は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)のうちのいずれか1つを含む。さらにまた別の態様では、本発明は、上述した癌または癌のタイプを治療するための医薬品を製造するための、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールをのうちの少なくとも1つを5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)のうちのいずれか1つを含む組成物の使用に関する。
【0049】
ビタミンEおよびそれらのアイソフォームは一般的に水不溶性であるので、本明細書で言及した組成物は、1つの実施形態では水溶性形で調製される。そこで、本明細書で言及した組成物は、特定化合物の添加によって水溶性化される。本明細書で言及した組成物の水溶性化形は、例えば、それを固体分散液に調製することによって入手できる。水分散性および水溶性トコトリエノール形を調製する他の方法は、米国特許第5869704号明細書に開示されている。
【0050】
用語「固体分散液」は、少なくとも2つの成分を含む固体状態(液体または気体状態とは対照的)にある系を規定しており、このとき1つの成分は他の成分もしくは成分全体に分散している。例えば、有効成分(トコトリエノール類)または有効成分の組み合わせ(トコトリエノール類および化学療法薬)は、医薬上許容される水溶性ポリマーおよび医薬上許容される界面活性剤からなるマトリックス中に分散させられる。
【0051】
用語「固体分散液」は、別の相に分散した1つの相の微粒子を有する系を含んでいる。これらの粒子は、典型的にはサイズが400μm未満、例えばサイズが100μm未満、10μm未満、または1μm未満である。前記成分の分散液が、上記系が1つの相全体に化学的および物理的に一様もしくは均質である、または1つの相からなる(熱力学において規定されるように)ような場合は、そのような固体分散液は「固体溶液」もしくは「ガラス溶液」と呼ばれるであろう。ガラス溶液は、溶質がガラス状溶媒中に溶解している均質なガラス質系である。
【0052】
このような固体分散液は、異なる経路を介して投与できる。例えば、経口投与される固体剤形には、カプセル剤、糖衣錠、顆粒剤、ピル剤、散剤、および錠剤が含まれるがこれらに限定されない。このような剤形を調製するために一般に使用される賦形剤には、カプセル化材料、または吸収促進剤、抗酸化物質、結合剤、緩衝剤、コーティング剤、着色剤、希釈剤、崩壊剤、乳化剤、増量剤、充填剤、フレーバー剤、保湿剤、潤滑剤、保存料、噴射剤、離型剤、安定化剤、甘味料、可溶化剤、およびそれらの混合物などの調整物添加物が含まれる。
【0053】
固体剤形で経口投与される化合物のための賦形剤には、寒天、アルギン酸、水酸化アルミニウム、安息香酸ベンジル、1,3−ブチレングリコール、ヒマシ油、セルロース、酢酸セルロース、カカオ脂、コーンスターチ、コーン油、綿実油、エタノール、酢酸エチル、炭酸エチル、エチルセルロース、エチルラウリエート(ethyl laureate)、オレイン酸エチル、ゼラチン、胚芽油、グルコース、グリセロール、落花生油、イソプロパノール、等張食塩水、ラクトース、水酸化マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、麦芽、オリーブ油、ピーナッツ油、リン酸カリウム塩、ジャガイモデンプン、プロピレングリコール、タルク、トラガンタ、水、ベニバナ油、ゴマ油、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム塩、大豆油、スクロース、テトラヒドロフルフリルアルコール、およびそれらの混合物が含まれるがこれらに限定されない。
【0054】
1つの実施形態では、剤形は、γ−トコトリエノールおよび/またはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つまたはドセタキセルおよび/またはダカルバジンと一緒のγ−トコトリエノールおよび/またはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つの混合物の固体溶液もしくは固体分散液を含むことができ、上記マトリックスは少なくとも1つの医薬上許容される水溶性ポリマーおよび少なくとも1つの医薬上許容される界面活性剤を含むことができる。適切な医薬上許容される水溶性ポリマーには、少なくとも50℃、または少なくとも60℃、または約80℃〜約180℃のガラス転移温度(Tg)を有する水溶性ポリマーが含まれるが、これらに限定されない。
【0055】
上記に規定したTgを有する水溶性ポリマーは、機械的に安定性であり、通常の温度範囲内では十分に温度安定性である固体溶液もしくは固体分散液の調製を可能にするので、上記固体溶液もしくは固体分散液はそれ以上加工処理せずに剤形として使用できる、またはほんの少量の打錠助剤を用いて錠剤に圧縮することができる。
【0056】
本明細書で言及した剤形に含まれる水溶性ポリマーは、2(w/v)%の水溶液中に20℃で溶解させた場合に1〜5,000mPa・s、または1〜700mPa・s、または5mPa・s〜100mPa・sの見掛け粘度を有していてよいポリマーである。
【0057】
本明細書で言及した剤形に使用するのに適切な水溶性ポリマーには、N−ビニルラクタムのホモポリマーおよびコポリマー、特別にはN−ビニルピロリドンのホモポリマーおよびコポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、N−ビニルピロリドンと酢酸ビニルもしくはプロピオン酸ビニルのコポリマー;セルロースエステル類およびセルロースエーテル類、特別にはメチルセルロースおよびエチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース類、特別にはヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース類、特別にはヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースフタル酸塩類もしくはコハク酸塩類、特別には酢酸フタル酸セルロースおよびフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースもしくは酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース;高分子量酸化ポリアルキレン類、例えば酸化ポリエチレンおよび酸化プロピレンおよび酸化エチレンと酸化プロピレンのコポリマー;ポリアクリレート類およびポリメタクリレート類、例えばメタクリル酸/アクリル酸エチルコポリマー類、メタクリル酸/メタクリル酸メチルコポリマー類、ブチルメタクリレート/2−ジメチルアミノエチルメタクリレートコポリマー、ポリ(ヒドロキシアルキルアクリレート類)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート類);ポリアクリルアミド類、酢酸ビニルポリマー類、例えば醋酸ビニルとクロトン酸のコポリマー類、部分加水分解酢酸ポリビニル類(部分鹸化「ポリビニルアルコール」とも呼ばれる)、ポリビニルアルコール;オリゴ糖および多糖類、例えばカラゲナン類、ガラクトマンナン類およびキサンタンガム、またはそれらのうちの1つ以上の混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
本明細書で使用する用語「医薬上許容される界面活性剤」は、医薬上許容される非イオン性の界面活性剤を意味する。本明細書で言及した剤形は、12〜18、または13〜17、または14〜16の親水性親油性バランス(HLB)値を有する少なくとも1つの界面活性剤を含んでいる。HLB系は界面活性剤に数値を付けており、親油性物質には低いHLB値が付けられ、親水性物質には高いHLB値が付けられる。
【0059】
1つの実施形態では、本明細書で言及した剤形は、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、例えば、ポリオキシエチレングリコールトリリシノオレエートもしくはポリオキシ35ヒマシ油(Cremophor(登録商標)EL)またはポリオキシエチレングリコールオキシステアレート、例えばポリエチレングリコール40水素化ヒマシ油(Cremophor(登録商標)RH40、ポリオキシル40水素化ヒマシ油もしくはマクロゴールグリセロールヒドロキシステアレートとしても公知である)もしくはポリエチレングリコール60水素化ヒマシ油(Cremophor(登録商標)RH60);またはポリオキシエチレン(20)ソルビタンのモノ脂肪酸エステル、例えば、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート(Tween(登録商標)60)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート(Tween(登録商標)40)、またはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween(登録商標)20)から選択される1つ以上の医薬上許容される界面活性剤を含んでいる。18より大きい、または12より小さいHLB値を備える界面活性剤を含む他の界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー類もしくはポリオキシエチレンポリプロピレングリコールとしても公知の酸化エチレンと酸化プロピレンとのブロックコポリマー類、例えばPoloxamer(登録商標)124、Poloxamer(登録商標)188、Poloxamer(登録商標)237、Poloxamer(登録商標)388、またはPoloxamer(登録商標)407などもまた使用できる。
【0060】
2つ以上の界面活性剤が使用される場合は、12〜18のHLB値を有する界面活性剤が、使用される界面活性剤の総重量の好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%を占める。
【0061】
本明細書で言及した剤形は、さらにまた追加の賦形剤もしくは添加物、例えば流動調節剤、潤滑剤、バルク化剤(充填剤)および崩壊剤などを含むことができる。このような追加の賦形剤は、制限なく、全剤形の重量で0%〜15%を含むことができる。
【0062】
本明細書で言及した剤形は、幾つかの層からなる剤形、例えば積層錠剤または多層錠剤として提供できる。これらは、開放形または閉鎖形であってよい。「閉鎖形剤形」は、1つの層が少なくとも1つの他の層によって完全に取り囲まれている剤形である。多層形は、相互に不適合性である2つの有効成分を加工処理できる、または上記有効成分の放出特性を制御できるという利点を有する。例えば、外層の1つに有効成分を含めることによって初期用量を、そして内層に有効成分を含めることによって維持用量を提供することが可能である。多層錠剤のタイプは、顆粒の2つ以上の層を圧縮する工程によって製造することができる。
【0063】
さらに、錠剤上のフィルムコートが、錠剤を嚥下できる容易さに寄与することができる。フィルムコートは、風味をさらに改善し、優美な外観を提供する。所望であれば、フィルムコートは腸溶コートであってよい。フィルムコートは、通常はポリマーフィルム形成材料、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびアクリレートもしくはメタクリレートコポリマーを含む。フィルム形成ポリマーの他に、フィルムコートは、可塑剤、例えばポリエチレングリコール、界面活性剤、例えばTween(登録商標)タイプ、および任意で色素、例えば二酸化チタンもしくは酸化鉄類を含むことができる。フィルムコーティングは、さらにまた抗接着剤としてタルクも含むことができる。フィルムコートは、通常は剤形の重量の5重量%を占める。
【0064】
本明細書で言及した組成物を調製する他の特定の形態には、トコトリエノール類の天然油液、例えばソフトゲルを製造するために使用できるヤシ油、ソフトドリンクを製造するために使用できる水溶性エマルジョン液形、軟質カプセルおよび錠剤を製造するために使用できる冷水分散性粉末、または硬質カプセルを製造するために使用できるビーズレット(beadlets)が含まれるが、これらに限定されない。
【0065】
水溶性エマルジョン液の形態にある本明細書で言及した組成物を製造するためには、出発材料としてトコトリエノール液が使用され、これにグリセリンおよび乳化剤のブレンドが加えられる。その後、混合物がエマルジョンに均質化される。
【0066】
水溶性エマルジョン液を調製するために使用できる乳化剤の例には、グリセリン脂肪酸エステル類、モノグリセリドの酢酸エステル類、モノグリセリドの乳酸エステル類、モノグリセリドのクエン酸エステル類、モノグリセリドのコハク酸エステル類、モノグリセリドのジアセチル酒石酸エステル類、脂肪酸のポリグリセロールエステル類、ポリリシノール酸ポリグリセロール、脂肪酸のソルビタンエステル類、脂肪酸のプロピレングリコールエステル類、デンプン誘導体、界面活性剤、脂肪酸のスクロースエステル類、二乳酸のカルシウムステアロイル、レシチン、または酵素消化レシチン/酵素処理レシチンが含まれるが、これらに限定されない。
【0067】
本明細書で言及した組成物の冷水分散性粉末は、出発材料としてトコトリエノール油液を用意することによって製造できる。例えば、加工コーンスターチ、マルトデキストリン、シクロデキストリン類もしくはコーンスターチなどの乳化剤がトコトリエノール油に加えられる。この混合物は、その後乾燥粉末にスプレー乾燥することができる。
【0068】
本明細書で言及した組成物のビーズレットは、出発材料としてトコトリエノール油液を用意することによって入手できる。その後に、1つの実施形態では、ゼラチン、コーンスターチ、スクロースおよびパルミチン酸アスコルビルがトコトリエノール油に加えられる。この混合物は、乾燥ビーズレットにスプレー乾燥させられる。
【0069】
注射用調製物は、正確に計算された用量の皮下、筋肉内もしくは腹腔内(i.p.)注射を介して上記の組成物の動物体の循環系内への導入および送達を可能にする。プロピレングリコールは、そのような調製物のために一般に使用される溶媒である。また別の実施形態では、本組成物は、油中水型調製物で調製される。
【0070】
そこで1つの実施形態では、本明細書で言及した組成物は、錠剤、ビーズレット、または(ソフト)ゲル、または糖衣錠、または徐放性調製物、または軟膏、または注射用調製物としての形態、またはカプセル化形で投与される。カプセル化形は、例えば、リン脂質中に封入された組成物を含むことができる。
【0071】
さらにまた別の態様では、本発明は、本明細書で言及した組成物または調製物のいずれかを製造する方法に関する。そのような組成物を調製するあらゆる公知の方法を使用できる。そこで、1つの実施形態では、そのような組成物を製造する方法は、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)と混合する工程を含んでいる。
【0072】
本明細書で例示的に記載した本発明は、本明細書には特別に開示していない任意の要素、制限の非存在下で適切に実施することができる。そこで例えば、用語「〜を含む」、「〜を包含する」、「〜を含有する」などは、拡張的に、かつ限定なしに読み取られるべきである。さらに、本明細書で使用した用語および表現は説明のために使用されたものであって限定のために使用されたのではないこと、そしてそのような用語および表現の使用においては本明細書に示した特徴およびその部分のあらゆる等価物を排除することは意図しておらず、本明細書で主張する本発明の範囲内で様々な修飾が可能であると理解されたい。そこで、本発明は好ましい実施形態および任意の特徴によって詳細に開示してきたが、本明細書に開示した本発明の修飾および変更は当業者であれば使用できること、そしてそのような修飾および変更は本発明の範囲内に含まれると考察されると理解すべきである。
【0073】
本明細書では、本発明について広汎かつ一般的に記載してきた。一般的開示に含まれるより狭い種および亜属の分類もまた本発明の一部を形成している。これは、切除された材料が特別に本明細書で言及されているかどうかとは無関係に、属から任意の主題物質を除くという条件もしくは消極的な限定を備える本発明の一般的説明を含んでいる。
【0074】
その他の実施形態は、下記の特許請求項および非限定的な実施例に含まれる。さらに、本発明の特徴または態様がマーカッシュ(Markush)群によって記載される場合は、当業者は、本発明がさらにまたマーカッシュ群の任意の個別要素またはマーカッシュ群の部分群の要素に関して記載されていることを理解するであろう。
【実施例】
【0075】
1.下記の実験では、黒色腫細胞系を使用して様々なトコフェロールおよびトコトリエノール異性体の抗増殖性作用を比較した。全8種のビタミンE異性体が、悪性皮膚癌細胞の増殖を阻害できることが見いだされた。効力は各異性体間で変動し、γ−T3の効力が最も高かった。γ−T3の作用に関する詳細な試験は、2つの黒色腫細胞系のγ−T3処理がアポトーシスの誘導を生じさせることを明らかにしたが、これは例えばId−1またはEGFRなどの生存促進因子のダウンレギュレーションと関連していた。これと同時に、JNKの活性化およびNF−κBの不活性化もまたこの処理後に観察された。特異的阻害剤であるSP600125によるJNK活性の阻害は、γ−T3処理に対する感受性を部分的に遮断し、これはγ−T3誘導性アポトーシスがJNKシグナリング経路を通して媒介されることを指示している。さらに、γ−T3処理はさらにまたE−カドヘリン、γ−カテニンの発現も回復させ、黒色腫細胞内の間葉マーカーの発現を抑制し、細胞侵襲の阻害を生じさせた。興味深いことに、ドセタキセルもしくはダカルバジン誘導性アポトーシスは、γ−T3の存在下では有意に増強されることが見いだされ、これはトコトリエノール異性体、例えばγ−T3と化学療法薬(ドセタキセルおよびダカルバジン)との間の黒色腫細胞に対する相乗作用を証明している。以前の報告書および本発明者らの半数致死量(LD50)試験(データは示していない)は、トコトリエノール抽出物を用いた処理後の毒性を示しておらず(LD50≧2,000mg/kg)、この試験からの結果は、T3異性体を単独、または悪性黒色腫を治療するための他の化合療法薬と併用してのいずれかで安全かつ効果的な抗癌薬として使用できることを提案している。
【0076】
1.1.材料および実験条件
【0077】
1.1.1 黒色腫細胞系、細胞培養条件および化学薬品−メラニン欠乏性黒色腫(C32)、悪性黒色腫(G361)細胞(ATCC、メリーランド州ロックビル)は、37℃の5%CO2中で、2mmol/LのL−グルタミン、10%ウシ胎児血清(FCS)および1%ペニシリン−ストレプトマイシンが補給されたATCCが推奨する各培地(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)中で維持した。ドセタキセル、ダカルバジン(Calbiochem社)およびJNK阻害剤(Sigma−Aldrich社)は、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解させた。処理溶液は、所望の濃度を得るために培養培地中で希釈した。
【0078】
1.1.2 トコトリエノールおよびトコフェロール異性体は、ヤシ油から抽出し、Davos Life Science社(シンガポール国)の分離技術を使用して精製した。粗ヤシ油(CPO)供給材料は、Kuala Lumpur Kepong Berhad社から購入した。参照標準物質として対応するトコトリエノール異性体を使用して、T3およびT異性体の純度は、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)パーセンテージ面積(%面積)によって≧97%であると検証された。
【0079】
1.1.3 細胞生存性試験および時間経過実験−細胞生存性試験のために、100μLの培地中に再懸濁させた1×104個の細胞を96ウエルプレートの各ウエル内でプレーティングした。細胞は次に様々な濃度のビタミンE異性体を用いて24時間にわたり処理した。処理後、20μLの3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)溶液を各ウエルに加え、細胞を37℃で2時間にわたり培養した。次にホルマザン結晶を200μLのDMSO中に再懸濁させ、595nmでの吸光度を測定した。JNK阻害剤試験のためには、細胞にビタミンE異性体を添加する前に8時間にわたり20μMのSP600125で前処理した。時間経過試験のためには、5×103個の細胞を様々な濃度のビタミンE異性体で処理し、指示した時点でMTT細胞増殖アッセイにかけた。異性体についてのIC50が>100μMである場合は、処理用量として100μMが使用される。各実験は3つのウエル内で3回繰返し、増殖曲線は平均値および標準偏差を示した。
【0080】
γ−T3がドセタキセルおよびダカルバジンの細胞毒性に及ぼす作用を試験するために、細胞をγ−T3とドセタキセルまたはダカルバジンとで共培養した。24時間後、細胞をウエスタンブロッティングおよびMTT細胞増殖アッセイにかけた。
【0081】
1.1.3 フローサイトメトリー−細胞周期分布は、フローサイトメトリーを使用して試験した。手短には、細胞をトリプシン処理によって採取し、4℃の70%エタノール中で一晩かけて固定し、次にPBS中に再懸濁させた。一晩にわたり4℃で培養した後、2×106個の細胞を37℃で15分間にわたり20μg/mLのヨウ化プロピジウム(PI)および2mgのRNaseAとともに培養した。細胞は次にBD SLRII血球計数器によって試験し、結果は、ModFitソフトウェア(Becton Dickinson社、カリフォルニア州マウンテンビュー)を用いて分析した。データは、全集団における細胞周期分布のパーセンテージとして表示した。
【0082】
1.1.4 マトリゲル侵襲アッセイ−マトリゲル侵襲アッセイは、修飾を加えて以前に公表された方法にしたがって実施した。手短には、細胞は24時間にわたりγ−T3異性体を加えて、または加えずに無血清RPMI1640培地中で前培養した。次に0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する500μLの無血清RPMI1640中に再懸濁させた細胞(2.5×105)をMatrigel(0.5mg/mL)(BD Bioscience社、メリーランド州ベッドフォード)が手作業でコーティングされた孔径8μmのインサート(Millipore社、メリーランド州ベッドフォード)の上方のチャンバに加えた。下方のチャンバには、10%FCSが補給されたフィブロネクチン(10μg/mL)およびRPMI1640を含有する500μLの侵襲緩衝液を化学誘引物質として加えた。細胞は、5%CO2加湿条件下で24時間にわたり37℃で培養した。培養期間の終了時に、インサートはDiff−Quick染色溶液(Fischer Scientific社)を用いて染色した。インサートの内部上の非侵襲細胞は消毒綿でこすり落とした。細胞侵襲を次に、位相差顕微鏡によって試験した。侵襲性細胞は、抽出用緩衝液(Millipore社、メリーランド州ベッドフォード)を用いて抽出し、細胞数は595nmでの吸光度に基づいて推定した。
【0083】
1.1.5 ウエスタンブロッティング−詳細なプロトコルは以前に記載されており、当技術分野において公知である。手短には、細胞溶解液は、溶解緩衝液[50mmol/LのTris−HCl(pH8.0)、150mmol/LのNaCl、1% NP40、0.5%デオキシコレート、0.1% SDS、1mg/mLのアプロチニン、1μg/mLのロイペプチンおよび1mmol/Lのフッ化フェニルメチルスルホニル]中に細胞ペレットを懸濁させることによって調製した。核タンパク質抽出のためには、NucBuster(商標)タンパク質抽出キットを使用した。タンパク質濃度は、DCタンパク質アッセイキット(Bio−Rad社、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いて測定した。等量のタンパク質(30μg)を電気泳動法のために10% SDSポリアクリルアミドゲル上に装填し、次に二フッ化ポリビニリデン膜(Amersham社、ニュージャージー州、ピスカタウェイ)上に移した。次に膜を室温で1時間にわたりE−カドヘリン(BD Biosciences社、メリーランド州ベッドフォード)、α−カテニン、β−カテニン、γ−カテニン、Id−1、Id−3、EGFR、ホスホロ−c−jun、ホスホロ−ATF2、切断PARP、ビメンチン、α−s平滑筋アクチン、Twist(Santa Cruz Biotechnology社、カリフォルニア州)、ホスホロ−IκB−α(Ser32/36)、ホスホロ−IKKα(Ser180)/IKKベータ(Ser181)、ホスホロ−SAPK/JNK(Thr183/Tyr185)G9、SAPK/JNK、NF−κB p65(5A5)(Cell Signaling Technology社、メリーランド州ベバリー)、Snail(Abeam社)に対する一次抗体とともに培養した。適切な二次抗体との培養後に、ECLウエスタンブロッティングシステム(Amersham社、ニュージャージー州ピスカタウェイ)によってシグナルを視認した。β−アクチンおよびヒストンH1の発現を全細胞溶解液および核タンパク質溶解液各々のための内部装填コントロールとして評価した。
【0084】
1.2.結果−ビタミンE異性体の抗増殖性作用
【0085】
黒色腫細胞は、用量を増加させながら(0、20、40および60μM)様々な時点にビタミンE異性体を用いて処理した。この結果は、ビタミンE異性体が皮膚癌細胞(G361およびC32)の増殖を有意に抑制することを証明した(図21A)。細胞増殖の阻害は、用量依存性阻害を示したT3異性体、特別にはγ−T3についてより有意に強力であった(図21B)。G361細胞において50%増殖阻害(IC50)を誘発した濃度に基づくと、阻害作用の順序は、γ−T3>δ−T3>β−T3>α−T3(=)α−T(=)β−T(=)γ−T(=)δ−Tであった。
【0086】
γ−T3誘導性増殖阻害の原因となるメカニズムを試験するために、γ−T3処理を行った、または行わない細胞の細胞周期分布をフローサイトメトリーによって分析した。その結果、γ−T3を用いた細胞の処理は下位−G1細胞集団の誘導を生じさせ、これは処理後のアポトーシス細胞の存在を示していた(図22A)。フローサイトメトリーの結果と一致して、プロカスパーゼ3、7、9ならびにPARPの活性化は、切断産物の外観によって証明されたように、様々なγ−T3用量で処理されたC32細胞において観察された(図22B)。その一方で、アポトーシス促進タンパク質のγ−T3媒介性活性化は、γ−T3処理が細胞増殖の阻害に及ぼす作用と一致して、用量依存性であった。
【0087】
γ−T3は、生存促進性シグナリング経路をダウンレギュレートする−NF−κBはC32中では構成的に活性化されると報告されたので、γ−T3がNF−κB活性化の抑制に帰せられる細胞アポトーシスを誘導した可能性があると考えられた。様々な用量のγ−T3を用いて処理されたC32のNF−κB活性は、NF−κBサブユニットp65の転座を試験することによって測定した。図23Aに例示したように、γ−T3処理は用量依存性で構成的NF−κB p65活性を抑制した。γ−T3がNF−κBシグナリングに及ぼす作用は、例えばホスホロ−IκBα/β、IκBα/β、ホスホロ−IKKα/βおよびホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)などの他の上流調節因子の発現を試験することによってさらに探索した。NF−κBの核への転座は、IKKα/βによるリン酸化を通して分解されるIκBα/βタンパク質によって阻害される。IKKα/βは順に、PI3Kによってリン酸化および活性化される。γ−T3処理C32細胞内では、リン酸化IκBα/βのレベルにおける用量依存性減少が観察された(図23A)。これは、リン酸化されたIKKα/β、IκBα/βのレベルの低下ならびにPI3K p85およびNF−κB p65核転座の阻害と関連している。これらの結果は、γ−T3がIκBα/βの脱リン酸化および蓄積を通してNF−κB活性を抑制したことを示している。
【0088】
γ−T3処理は皮膚癌の発生および進行に関与する多数の重要なタンパク質もまたダウンレギュレートすることが見いだされた。図23Bに示したように、Id−1およびId−3発現レベルは、γ−T3の用量を増加させる処理によってほぼ検出不能なレベルへ有意に抑制された。EGF−Rタンパク質レベルへの類似の作用もまた観察された。EGF−RおよびIdタンパク質ファミリーは癌細胞の増殖および生存にとって必須であるので、それらのダウンレギュレーションはγ−T3誘導性増殖停止およびアポトーシスと関連する可能性がある。
【0089】
γ−T3処理によるアポトーシス促進性経路の活性化−c−Jun N−末端キナーゼ(JNK)は、ストレスおよび遺伝毒性物質によって活性化される進化的に保存されたセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。JNKは、全3つのJun転写因子およびAP−1ファミリーのATF−2メンバーのアミノ末端基をリン酸化する。活性化された転写因子は遺伝子発現を変調させて、細胞移動および細胞死を含む適切な生物学的応答を生成する。C32細胞が様々な用量のγ−T3で処理されると、JNKリン酸化活性における用量依存性上昇が検出された(図24B)。一方、ATF−2またはc−junなどのJNK下流エフェクタのリン酸化は、全部がγ−T3によってアップレギュレートされ、これはJNKシグナリング経路がγ−T3によって活性化されたことを支持していた。
【0090】
黒色腫細胞におけるγ−T3誘導性アポトーシスにおけるJNK活性化の重要性をさらに確認するために、特異的阻害剤であるSP600125を用いたJNKの不活性化が細胞をγ−T3から保護できるかどうかについて調査した。図24Aに示したように、γ−T3と20μMのSP600125による併用処理はγ−T3単独による処理と比較してアポトーシス細胞のパーセンテージを減少させ、これはJNK活性化がC32におけるγ−T3誘導性アポトーシスのために必要であることを確証している。
【0091】
γ−T3が細胞分割の阻害に及ぼす作用−γ−T3が多数の癌に抗増殖性作用を有することは証明されているが、それが癌転移に影響を及ぼすかどうかは明白ではない。このため、γ−T3が皮膚癌細胞の侵襲能力を抑制できるかどうかを試験した。図25Bに示したように、マトリゲル侵襲アッセイを使用すると、γ−T3処理(IC50およびIC85)G361細胞が、マトリゲル層を通して侵襲した細胞数の減少によって証明されたように、未処理コントロールと比較して2倍低い侵襲能力を示すことが見いだされた。細胞侵襲に及ぼすこの阻害作用は、侵襲チャンバ内に加えられた生存細胞の数は同一であったので、γ−T3によって誘導された細胞増殖阻害の結果ではなかった。これらの結果は、γ−T3が、それらの細胞毒性作用とは無関係に、黒色腫細胞の侵襲能力を阻害できることを示している。
【0092】
E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、転移性癌について最も頻回に報告された特徴の1つである。癌細胞内でのE−カドヘリン発現の回復は、転移能力の抑制を引き起こす。黒色腫では、E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、高悪性度腫瘍および不良な予後と相関しており、これはE−カドヘリン発現が黒色腫進行において役割を果たすことを示している。興味深いことに、E−カドヘリンおよびγ−カテニンタンパク質発現はγ−T3による処理後にアップレギュレートされ、E−カドヘリンの抑制因子(Snail)はダウンレギュレートされることが見いだされたが(図25A)、β−カテニンについての発現は全処理用量で一定のままであった。これとは別に、間葉マーカー(ビメンチン、α−SMAおよびTwist)は全部がγ−T3による処理後にダウンレギュレートされた。これらの結果は、癌細胞侵襲にγ−T3が及ぼす阻害作用がE−カドヘリン、γ−カテニンタンパク質発現の誘導;ならびにSnail、ビメンチン、α−SMAおよびTwistの抑制を通して機能する可能性があることを示唆した。
【0093】
γ−T3処理がドセタキセルおよびダカルバジン誘導性アポトーシスに及ぼす作用−γ−T3が化学療法薬と相乗的に作用できるかどうかを試験するために、γ−T3単独またはドセタキセルまたはダカルバジンとの併用での作用を試験した。後者の2つは、肺癌、卵巣癌、乳癌、白血病および悪性黒色腫に対して生体外でのおよび生体内での作用を有することが公知である重要なクラスの抗癌剤を表している。図26Aに示したように、ドセタキセルまたはダカルバジンとγ−T3との併用処理後のC32細胞系内での生存細胞のパーセンテージは、γ−T3またはドセタキセル単独で処理した場合のパーセンテージより有意に低かった。ウエスタンブロッティングを使用すると、γ−T3とドセタキセルまたはダカルバジンいずれかとの併用処理がアポトーシス促進タンパク質(切断されたPARP、カスパーゼ3、7)の活性化ならびに生存促進タンパク質(Id−1、EGFRおよびホスホロ−IκB)のダウンレギュレーションを通して細胞アポトーシスを増強することもまた証明された(図26B)。アポトーシス細胞の濃度は、γ−T(γ−トコフェロール)およびドセタキセルにより併用処理した細胞とは強度に対照的である。これらの結果は、γ−T3が皮膚癌細胞に対してドセタキセルまたはダカルバジンと相乗的に作用できるが、γ−Tは相乗的に作用できないことを示唆した。
【0094】
1.3.上記の実験は、8つのビタミンE異性体の中で、γ−T3が生存促進(Id−1、Id−3、EGFRおよびNF−κB)ならびにアポトーシス促進(カスパーゼ)経路両方の変調を通して黒色腫細胞増殖を阻害することを証明している。一方、γ−T3が悪性黒色腫細胞侵襲をE−カドヘリンおよびγ−カテニン発現の回復によって阻害することが初めて証明された。この阻害作用もまたTwist、α−SMAおよびビメンチンのような間葉マーカーについての発現の抑制と関連していた。γ−T3はドセタキセルおよびダカルバジンの抗癌作用を増強するという所見と一緒に、これらの実験は、γ−T3が皮膚癌を治療するための安全かつ効果的な抗癌剤として使用できるという強力な根拠を提供している。
【0095】
さらに、γ−T3は、IκBキナーゼ活性化の阻害を通して構成的NF−κB活性を抑制し、黒色腫細胞におけるアポトーシスをもたらすことが証明された。結果として、これはカスパーゼ3、7、9およびPARPの活性化によるアポトーシスの誘導を生じさせた。注目すべきであるのは、γ−T3が以前に上皮成長因子(EGF)およびその他の炎症促進サイトカインによって誘導されるNF−κB活性化を無効にすることが証明されている点である。これに含まれる分子的メカニズムはその時点には明白ではなかったが、γ−T3がNF−κBの抑制における共通工程を通して機能する可能性があると提案された。本明細書で言及した実験結果は、EGF受容体(EGF−R)のダウンレギュレーションが皮膚癌におけるγ−T3誘導性NF−κB不活性化と相関することを明らかにした(図23B)。
【0096】
これによってγ−T3がNF−κB経路にその作用を媒介できると考えられる1つのメカニズムは、Id−1の抑制を通してであると考えられた。以前は、Id−1を構成的に発現する皮膚メラノサイトは、細胞増殖またはテロメアの長さにおける変化とは関連していない遅延性細胞老化であることが証明された。さらに、上昇したId−1タンパク質レベルは放射状増殖期黒色腫において一貫して存在することもまた決定され、これは上昇したId−1タンパク質レベルが黒色腫における発癌現象の開始において役割を果たすことを示唆している。これとは別に他の細胞系では、以前に、前立腺癌細胞(LNCaP)における異所性Id−1発現はNF−κB転写活性化活性ならびにp65およびp50タンパク質の核転座の増加を生じさせ、これにはそれらの下流エフェクタであるBcl−xLおよびICAM−Iのアップレギュレーションが付随することが証明された。さらに、そのアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびレトロウイルス構築体によるホルモン非依存性前立腺癌細胞におけるId−1の不活性化は、TNF誘導性アポトーシスに対する増加した感受性と関連しているp65およびp50タンパク質の核レベルの減少を生じさせた。これらの所見を考察すると、これらの結果は、Id遺伝子ファミリーはγ−T3によって直接的に標的とされるNF−κBの上流調節因子の1つである可能性があること、そしてNF−κBシグナリング経路の阻害は黒色腫細胞におけるγ−T3誘導性抗増殖の原因となる可能性があることを強力に示唆している。
【0097】
上記の実験では、c−Jun N末端キナーゼ(JNK)がγ−T3誘導性アポトーシスに関与することもまた証明された。黒色腫細胞をγ−T3により処理すると、例えばc−JunおよびATF−2などのJNK経路に関連する一連の分子(図24A)が同時に活性化された。一方、JNK阻害剤(SP600125)の処理は黒色腫細胞をγ−T3誘導性アポトーシスから保護することが証明された(図24A)。これはさらに、黒色腫細胞におけるγ−T3誘導性アポトーシスにJNK経路が関与することを確証している。本明細書で言及した所見は、γ−T3が化学療法薬への共通エンハンサーとして機能できることを証明している。
【0098】
本明細書で言及した実験では、E−カドヘリンおよびγ−カテニン発現の回復は、Snail、α−SMA、ビメンチンおよびTwistの抑制と一緒に、黒色腫細胞侵襲へのγ−T3の阻害作用の原因となる可能性があることが決定された。本明細書で言及した結果は、悪性黒色腫細胞侵襲を抑制するための潜在的薬剤でもあることを示唆する最初の根拠を提供している。上皮マーカー(E−カドヘリンおよびγ−カテニン)のダウンレギュレーションならびに間葉マーカー(α−SMA、ビメンチンおよびTwist)のアップレギュレーションは、転移性癌において最も頻回に報告された現象の一部である。E−カドヘリン発現の消失は、癌細胞の転移期への進行において重要な役割を果たすこの上皮−間葉転移(EMT)を促進することができると示唆されている。癌細胞におけるE−カドヘリン不活性化の原因となる正確なメカニズムは不明であるが、その抑制因子であるSnailに起因する転写レベルの変化が数種の癌タイプにおける減少した発現の原因となるメカニズムの1つであると思われる。本明細書で言及した実験では、γ−T3処理黒色腫細胞は増加したE−カドヘリン発現を示し(図25A)、これは減少したSnailタンパク質発現および侵襲能力と関連している(図25B)が見いだされた。細胞質カドヘリン結合タンパク質の1ファミリーであるカテニン類(α,γ)は、E−カドヘリンをアクチン細胞骨格へ連結させるので、正常E−カドヘリン機能のために必須であると考えられる。本明細書で言及した実験は、γ−T3がE−カドヘリンおよびγ−カテニンの発現だけをアップレギュレートし、α−カテニンの発現はアップレギュレートしないことを証明している。β−カテニンの発現は一定のままで留まっている。γ−T3処理G361細胞は上昇した機能的E−カドヘリン発現にとって重要な分子であるα−カテニン発現を示さないが、γ−T3は、E−カドヘリンをベースとする細胞接着複合体の確立において重要な役割を果たすと報告されているビンキュリンなどの他の分子を通してE−カドヘリンの機能を回復させることができる。これらをまとめると、実験結果は、γ−T3が間葉−上皮転移(MET)の誘導を通して癌転移を抑制できることを示唆している。
【0099】
図26Cに要約したように、これらの結果は、γ−T3が多数の分子経路を通して作用する黒色腫細胞増殖および侵襲の強力な阻害剤であることを証明した。天然T3抽出物の長期間摂取後に副作用を観察することはできなかったので(LD50≧2,000mg/kg、データは示していない)、γ−T3は、Id1関連性悪性黒色腫を治療するために単独で、または化学療法と併用して使用することができる。
【0100】
2.以下の実験では、前立腺癌細胞を用いて様々なトコフェロールおよびトコトリエノール異性体が及ぼす抗増殖性作用を比較し、それらの活性にとって原因となる分子経路について試験した。γ−トコトリエノールの阻害作用は最も強力であり、プロカスパーゼ類の活性化および下位−G1細胞集団の存在によって証明されるようにアポトーシスの誘導を生じさせた。生存促進遺伝子についての試験は、γ−トコトリエノール誘導性細胞死にはNF−κB、EGF−RおよびIdファミリータンパク質(Id1およびId3)の抑制が関連していることを明らかにした。一方、γ−トコトリエノール処理もまたJNKシグナリング経路の誘導を生じさせ、特異的阻害剤(SP600125)によるJNK活性の阻害はγ−トコトリエノールの作用を部分的に遮断することができた。γ−トコトリエノール処理は間葉マーカーの抑制ならびにE−カドヘリンおよびγ−カテニン発現の回復をもたらしたが、これは細胞侵襲能力の抑制と関連していた。さらに、細胞がγ−トコトリエノールおよび例えばドセタキセルなどの化学療法薬を用いて併用処理された場合には相乗作用が観察された。これらの結果は、γ−トコトリエノールの抗増殖性作用が複数のシグナリング経路を通して作用することを示唆しており、PCa細胞に対するγ−トコトリエノールの抗侵襲および化学増感作用を証明した。
【0101】
2.1.材料および実験条件
【0102】
2.1.1 前立腺癌細胞系、細胞培養条件および化学薬品−ヒトアンドロゲン依存性PCa細胞(LNCaP)、ヒトアンドロゲン非依存性PCa細胞(PC−3)(ATCC、メリーランド州ロックビル)は、37℃の5%CO2中で、2mmol/LのL−グルタミン、10%ウシ胎児血清(FCS)および2%ペニシリン−ストレプトマイシンが補給されたATCCが推奨する各培地(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)中で維持した。ヒト不死化前立腺上皮細胞(PZ−HPV−7)(ATCC、メリーランド州ロックビル)は、ウシ下垂体抽出物(BPE、0.05mg/mL)およびヒト組換え上皮成長因子(EGF、5ng/mLのEGF)が補給されたケラチン生成細胞無血清培地(K−SFM)中で維持した。ドセタキセル(Calbiochem社)およびJNK阻害剤のSP600125(Sigma−Aldrich社)は、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解させた。処理溶液は、所望の濃度を得るために培養培地に希釈した。
【0103】
2.1.2 以下の実験のためには、1.1.2の下で上述した同一のトコトリエノールおよびトコフェロール異性体を使用した。
【0104】
2.1.3 細胞生存性試験および時間経過実験−細胞生存性試験のために、100μLの培地中に再懸濁させた5×103個の細胞を96ウエルプレートの各ウエル内でプレーティングした。細胞は次に様々な濃度(20、40、60、80、100μM)のビタミンE異性体を用いて24および48時間にわたって処理した。処理後、20μLのMTT溶液を各ウエル内に加え、細胞を37℃で2時間にわたり培養した。次にホルマザン結晶を200μLのDMSO中に再懸濁させ、595nmでの吸光度を測定した。JNK阻害剤試験のためには、細胞にビタミンE異性体を添加する前に8時間にわたり20μMのSP600125で前処理した。時間経過試験のためには、5×103個の細胞(LNCaPおよびPC3)をIC50濃度のビタミンE異性体で処理し、指示した時点でMTT細胞増殖アッセイにかけた。異性体についてのIC50が>100μMである場合は、処理用量として100μMが使用される。各実験は3つのウエル内で3回繰返し、増殖曲線は平均値および標準偏差を示した。
【0105】
γ−T3がドセタキセルの細胞毒性に及ぼす作用を試験するために、細胞をγ−T3とともに3時間にわたり前培養し、その後に20および100nMのドセタキセルを添加した。24時間後、細胞を各々ウエスタンブロッティングおよびMTTアッセイにかけた。
【0106】
2.1.4 フローサイトメトリーは、項目1.1.3の下で上述したように実施したマトリゲル侵襲アッセイは、項目1.1.4の下で上述したように実施した。ウエスタンブロッティングは、項目1.1.5の下で上述したように実施した。
【0107】
2.2 結果−ビタミンE異性体の抗増殖性作用
【0108】
PCa細胞は用量を上昇させながら(低:20μM、中:40μMおよび高:80μM)、そして様々な時点にビタミンE異性体を用いて24および48時間にわたり処理した。これらの結果は、ビタミンE異性体が正常前立腺上皮細胞(PZ−HPV−7)の増殖率には有意な影響を及ぼさないが、LNCaPおよびPC−3の増殖を有意に抑制することを証明した(図9A)。LNCaPおよびPC−3における半数細胞増殖率(IC50)を阻害する用量は、培養時間の長さと反比例していた。驚くべきことに、PC−3細胞はLNCaP細胞よりもビタミンE異性体の増殖阻害に高感受性であった。細胞増殖の阻害は、用量および時間依存性阻害を示したPC−3中のT3異性体、特別にはγ−T3についてより有意に強力であった(図9B)。δ−T3はLNCaPにおける細胞増殖を抑制することにより強力であったが(図9A)、IC50値はPC−3中のγ−T3についての数値より有意に高かった。これとは別に、γ−Tはさらにまたγ−T3に類似する用量でLNCaP細胞におけるアポトーシスを誘導することも見いだされた(データは示していない)。24時間にわたり様々な異性体とともに培養されたPC−3細胞におけるIC50値に基づくと、阻害作用の順序は、γ−T3>δ−T3>β−T3>γ−T>δ−T(=)α−T3(=)α−T(=)β−Tであった。その後の実験については、PC−3(γ−T3)にとって最も強力な異性体を調査したが、それはそれらが一般にLNCaP細胞と比較して化学療法薬に対してより侵襲性および耐性であると考えられるからである。
【0109】
γ−T3−誘導性増殖阻害の原因となるメカニズムを試験するために、24時間にわたるγ−T3処理を行った、または行わない細胞の細胞周期分布をフローサイトメトリーによって分析した。その結果、γ−T3(IC50−95)を用いた細胞の処理は下位−G1細胞集団の誘導を生じさせ、これは処理後のアポトーシス細胞の存在を示していた(図10A)。アポトーシス細胞(下位−G1分画)の比率は用量依存性で増加した。注目に値することに、γ−T3は以前に一部の細胞系においてG1停止を誘導すると報告されたが、γ−T3を用いて処理された前立腺癌細胞におけるG1集団の有意な増加は観察されなかった。フローサイトメトリーにおける下位−G1細胞集団の誘導と一致して、プロカスパーゼ3、7、8、9ならびにPARPの活性化は、切断産物の外観によって証明されたように、様々なγ−T3用量で24時間にわたり処理されたPC−3細胞において観察された。Bcl−2のダウンレギュレーションもまた処理後に検出されたが、Baxの発現は影響を受けず、これはPC−3細胞におけるp53発現の欠如に起因する可能性が高い(図10B)。一方、アポトーシス促進タンパク質のこれらのγ−T3−媒介性活性化ならびにBcl−2/Bax比の変化は用量および時間依存性であり(図10B)、γ−T3処理が細胞増殖の阻害に及ぼす作用と一致していた。さらに、IC50のγ−T3処理後のこれらのアポトーシス促進遺伝子の活性化(図10C)はPC−3およびLNCaP細胞においてのみ観察され、PZ−HPV−7では観察されなかったので、これはγ−T3がアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞のアポトーシスを特異的に誘導することを示した。
【0110】
γ−T3は、生存促進性シグナリング経路をダウンレギュレートする−NF−κBはPC−3中では構成的に活性化することは公知であるので、γ−T3がNF−κB活性化の抑制に帰せられる細胞アポトーシスを誘導した可能性があると考えられた。様々な期間にわたって様々な用量またはIC50でのγ−T3を用いて処理されたPC−3のNF−κB活性は、NF−κBサブユニットp65の転座を試験することによって測定した。図11Aに例示したように、γ−T3処理は用量依存性および時間依存性で構成的NF−κB p65活性を抑制した。γ−T3がNF−κBシグナリングに及ぼす作用は、例えばホスホロ−IκBα/βおよびIκBα/βなどの他の上流調節因子の発現を試験することによってさらに探索した。γ−T3処理PC−3細胞内では、リン酸化IκBα/βのレベルにおける用量依存性減少が観察された(図11A)。これは、IκBα/β(一部の図ではIκBa/bと表示した)のレベル上昇ならびにNF−κB p65核転座の阻害と結び付いている。これらの結果は、γ−T3がIκBα/βの脱リン酸化および蓄積を通してNF−κB活性を抑制したことを示している。
【0111】
γ−T3処理は前立腺癌の発生および進行に関与する多数の重要なタンパク質もまたダウンレギュレートすることが見いだされた。図11Bに示したように、EGF−R発現レベルは、γ−T3の用量を増加させる処理によってほぼ検出不能なレベルへ有意に抑制された。Id−1およびId−3タンパク質レベルへの類似の作用が観察された。EGF−RおよびIdタンパク質ファミリーは癌細胞増殖および生存にとって必須であるので、それらのダウンレギュレーションはγ−T3誘導性増殖停止およびアポトーシスと関連する可能性がある。
【0112】
既に言及したような、γ−T3処理によるアポトーシス促進性経路の活性化−c−Jun N−末端キナーゼは、ストレスおよび遺伝毒性物質によって活性化される進化的に保存されたセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。JNKは、全3つのJun転写因子およびAP−1ファミリーのATF−2メンバーのアミノ末端基をリン酸化する。活性化された転写因子は遺伝子発現を変調させて、細胞移動および細胞死を含む適切な生物学的応答を生成する。PC−3細胞を様々な用量のγ−T3で処理すると、JNKリン酸化活性における用量および時間依存性上昇が検出された(図12B)。一方、ATF−2またはc−junなどのJNK下流エフェクタのリン酸化は、全部がγ−T3によってアップレギュレートされ、これはJNKシグナリング経路がγ−T3によって活性化されたことを裏付けていた。
【0113】
皮膚癌細胞系について上述したように、PCa細胞におけるγ−T3誘導性アポトーシスにおけるJNK活性化の重要性をさらに確認するために、特異的阻害剤であるSP600125を用いたJNKの不活性化が細胞をγ−T3から保護できるかどうかについて調査した。図12Aに示したように、同一細胞系においてJNK活性を阻害すると以前に決定された用量である20μMのSP600125と一緒のγ−T3による併用処理は、γ−T3単独による処理と比較してアポトーシス細胞のパーセンテージを減少させたので、これはJNK活性化がγ−T3誘導性アポトーシスのために必要であることを確証している。
【0114】
γ−T3が細胞分割の阻害に及ぼす作用−γ−T3が多数の癌に抗増殖性作用を有することは証明されているが、それが癌転移に影響を及ぼすかどうかは明白ではない。このため、γ−T3が前立腺癌細胞の侵襲能力を抑制できるかどうかを試験した。図13Bに示したように、マトリゲル侵襲アッセイを使用すると、24時間にわたってγ−T3処理(IC50)されたPC−3細胞が、マトリゲル層を通して侵襲した細胞数の減少によって証明されたように、未処理コントロールと比較して2.5倍低い侵襲能力を示すことが見いだされた。細胞侵襲に及ぼすこの阻害作用は、侵襲チャンバ内に加えられた生存細胞の数は同一であったので、γ−T3によって誘導された細胞増殖阻害の結果ではなかった。これらの結果は、γ−T3が、それらの細胞毒性作用とは無関係に、PCa細胞の侵襲能力を阻害できることを示している。
【0115】
E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、転移性癌について最も頻回に報告された特徴の1つである。癌細胞内でのE−カドヘリン発現の回復は、転移能力の抑制を引き起こす。PCaでは、E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、高悪性度腫瘍および不良な予後と相関しており、これはE−カドヘリン発現がPCa進行において役割を果たすことを示している。興味深いことに、E−カドヘリンおよびγ−カテニンタンパク質発現はγ−T3による処理後にアップレギュレートされ、E−カドヘリンの抑制因子(Snail)はダウンレギュレートされたが(図13A)、β−カテニンについての発現は全処理用量および時点で一定のままであった。PC−3細胞内でのα−カテニンの欠失のおかげで、発現は検出されなかった。これとは別に、間葉マーカー(ビメンチン、α−SMAおよびTwist)は全部がγ−T3による24時間にわたる処理後にダウンレギュレートされた。
【0116】
γ−T3処理がドセタキセル誘導性アポトーシスに及ぼす作用−γ−T3が化学療法薬と相乗的に作用できるかどうかを試験するために、γ−T3単独またはドセタキセルなどの抗癌剤との併用での作用を試験した。図14Aに示したように、ドセタキセルとγ−T3との併用処理後のPC−3およびLNCaP細胞系内でのアポトーシス細胞のパーセンテージは、γ−T3またはドセタキセル単独で処理した場合のパーセンテージより有意に高かった。ウエスタンブロッティングを使用すると、γ−T3とドセタキセルとの併用処理がアポトーシス促進タンパク質(切断されたPARP、カスパーゼ3、7、8、9)の活性化ならびに生存促進タンパク質(Id−1、EGFR、IκBおよびNF−κB p65))のダウンレギュレーションを通して細胞アポトーシスを増強することもまた証明された(図14B)。アポトーシス細胞の濃度は、ドセタキセルとのγ−T併用処理とは全く対照的である。これらの結果は、γ−T3およびドセタキセルが前立腺癌細胞に対して相乗作用を及ぼすことを証明している。
【0117】
本明細書で言及した実験は、γ−T3がE−カドヘリン、γ−カテニン発現の回復および間葉マーカーの抑制によって細胞侵襲を阻害することを初めて証明した。γ−T3はドセタキセルの抗癌作用を増強するという所見と一緒に、これらの実験は、γ−T3が前立腺癌を治療するための安全かつ効果的な抗癌剤として開発できるという強力な根拠を提供している。これらの結果は、γ−およびδ−T3が異なる細胞タイプ特異性および効力を備える腫瘍抑制能力を有することを示唆している。
【0118】
本明細書で言及した実験では、γ−T3が、IκBキナーゼ活性化の阻害を通して構成的NF−κB活性を抑制し、PCa細胞におけるアポトーシスをもたらすことが証明された。さらに、γ−T3誘導性NF−κB不活性化が用量依存性および時間依存性でBcl−2のレベルもダウンレギュレートすることも証明された。結果として、これはカスパーゼ3、7、8、9およびPARPの活性化によるアポトーシスを誘導した。P53状態において異なる様々な細胞系を用いて得られた以前の実験結果と一致して、実験結果は、p53がγ−T3誘導性アポトーシスに必要とされないことを示しており、これはp53−ヌル細胞系(PC−3およびHL−60)がγ−T3処理に対して依然として応答性であるためである。注目すべきであるのは、γ−T3が以前に上皮成長因子(EGF)およびその他の炎症促進サイトカインによって誘導されるNF−κB活性化を無効にすることが証明されている点である。これに含まれる分子的メカニズムはその時点には明白ではなかったが、γ−T3がNF−κBの抑制における共通工程を通して機能する可能性があると提案された。本明細書で言及した実験結果は、EGF受容体(EGF−R)のダウンレギュレーションがγ−T3誘導性NF−κB不活性化と相関することを明らかにした(図11B)。この所見は、γ−T3がKBM−5細胞におけるEGF処理によるNF−κB活性化を抑制できた理由を説明することができる。興味深いことに、アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞系であるPC−3は、アンドロゲン依存性LNCaP細胞よりγ−T3処理に対して高感受性であることが見いだされた。PC−3細胞は構成的NF−κB活性化を有することが見いだされており、一般にはLNCaP細胞より化学療法薬誘導性アポトーシスに対してより耐性である。この観察に対する正確な理由は不明であるが、非腫瘍原性前立腺上皮細胞が同様にγ−T3に対して高度に耐性であるという事実に基づくと、γ−T3はより高悪性度の表現型を備える細胞を優先的に標的とすることが考えられる。
【0119】
それによってγ−T3がNF−κB経路にその作用を媒介できると考えられる1つのメカニズムはId−1およびEGF−Rの抑制を通してであると考えられている。以前に、LNCaP細胞における異所性Id−1発現はNF−κB転写活性化活性ならびにp65およびp50タンパク質の核転座の増加を生じさせ、これにはそれらの下流エフェクタであるBcl−xLおよびICAM−Iのアップレギュレーションが付随することが証明された。さらに、DU145細胞におけるId−1のそのアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびレトロウイルス構築体による不活性化は、TNF誘導性アポトーシスに対する増加した感受性と関連しているp65およびp50タンパク質の核レベルの減少を生じさせた。これらの所見を考察すると、本明細書で言及したこれらの結果は、Id遺伝子ファミリーはγ−T3によって直接的に標的とされるNF−κBの上流調節因子の1つである可能性があること、そしてNF−κBシグナリング経路の阻害はγ−T3誘導性抗増殖の原因となる可能性があることを強力に示唆している。
【0120】
本明細書ではでは、c−Jun N末端キナーゼがγ−T3誘導性アポトーシスに関与することもまた証明された。PCa細胞をγ−T3により処理すると、例えばc−JunおよびATF−2などのJNK経路に関連する一連の分子(図12A)が同時に活性化された。一方、JNK阻害剤(SP600125)の処理はPCa細胞をγ−T3誘導性アポトーシスから保護することが証明された(図12A)。これはさらに、PCa細胞におけるγ−T3誘導性アポトーシスにJNK経路が関与することを確証している。注目すべきことは、JNK経路が化学療法薬であるドセタキセルによって誘導される細胞アポトーシスにも関与することも公知である点である。これらの所見を考慮に入れたために、γ−T3がJNK経路の活性化の結果としてドセタキセルとの相乗性相互作用を有するのではないかという疑問が生じた。このためにドセタキセル処理単独、およびγ−T3との併用処理の抗増殖能力を比較した。驚くべきことに、ドセタキセルおよびγ−T3の併用療法はより高率のアポトーシス細胞を生じさせるが、γ−Tは生じさせないことが見いだされた(図14A)。この所見は、γ−T3と化学療法薬との相乗作用性の役割を示している。
【0121】
さらに、E−カドヘリンおよびγ−カテニン発現の回復は、Snail、α−SMA、ビメンチンおよびTwistの抑制と一緒になって、PCa細胞侵襲能力へのγ−T3の阻害作用の原因となる可能性があることが証明された。γ−T3の抗増殖性作用は数種の癌のタイプにおいて報告されてきたが、本明細書で言及した結果は、γ−T3が癌侵襲を抑制するための潜在的薬剤である可能性があることを示唆する最初の根拠を提供している。E−カドヘリンのダウンレギュレーションおよび間葉マーカー(α−SMA、ビメンチンおよびTwist)のアップレギュレーションは、転移性癌において最も頻回に報告された現象の一部である。E−カドヘリン発現の消失で、癌細胞の転移期への進行において重要な役割を果たす上皮−間葉転移(EMT)を促進することができると示唆されている。癌細胞におけるE−カドヘリン不活性化の原因となる正確なメカニズムは不明であるが、その抑制因子であるSnailに起因する転写レベルの変化が数種の癌タイプにおける減少した発現の原因となるメカニズムの1つであると思われる。本明細書で言及した実験の結果に起因して、γ−T3処理PCa細胞は増加したE−カドヘリン発現を示し(図13A)、これは減少したSnailタンパク質発現および侵襲能力と関連している(図13B)ことが見いだされた。細胞質カドヘリン結合タンパク質の1ファミリーであるカテニン類(α、γ)は、E−カドヘリンをアクチン細胞骨格へ連結させるので、正常E−カドヘリン機能のために必須であると考えられる。γ−T3がE−カドヘリンおよびγ−カテニンの発現だけをアップレギュレートし、α−カテニンの発現はアップレギュレートしないことが見いだされた。β−カテニンについての発現は、ニンニク誘導体を用いた以前の実験に類似して静止したままである。PC−3細胞は機能的E−カドヘリン発現にとって重要な分子であるα−カテニンを発現しないが、γ−T3は、E−カドヘリンをベースとする細胞接着複合体の確立において重要な役割を果たすと報告されているビンキュリンなどの他の分子を通してE−カドヘリンの機能を回復させることができる。これらをまとめると、本明細書で言及した実験結果は、γ−T3が間葉−上皮転移(MET)の誘導を通して癌転移を抑制できることを示唆している。
【0122】
図14Cに要約したように、これらの結果は、γ−T3が多数の分子経路を通して作用するPCa細胞増殖および侵襲の強力かつ特異的な阻害剤であることを証明した。天然T3抽出物の長期間摂取後に副作用を観察することはできないので(LD50≧2,000mg/kg、データは示していない)、γ−T3は、進行期PCaを治療するために単独で、または化学療法と併用して使用することができる。
【0123】
3.以下の実験は、組成物を含むγ−トコトリエノールが乳癌(BCa)細胞およびその活性の原因となる基礎にある分子経路に及ぼす抗増殖性作用に関する説明を提供する。これらの結果は、組成物を含むγ−トコトリエノールを用いた乳癌細胞の処理がプロカスパーゼ類の活性化、下位−G1細胞の蓄積およびDNA断片化によって証明されるアポトーシスの誘導を生じさせることを証明した。生存促進遺伝子の試験は、γ−トコトリエノール誘導性細胞死にはそれらの上流調節因子(Src、Smad1/5/8、FakおよびLOX)の変調を通してId1およびNF−κBの抑制が関連することを明らかにした。一方、γ−トコトリエノール処理もまたJNKシグナリング経路の誘導を生じさせ、特異的阻害剤によるJNK活性の阻害はγ−トコトリエノールの作用を部分的に遮断した。さらに、細胞がγ−トコトリエノールおよび例えばドセタキセルなどの化学療法薬を用いて併用処理された場合には相乗作用が観察された。興味深いことに、γ−トコトリエノールを用いて処理された細胞では、α−トコフェロールまたはβ−アミノプロプリオニトリルはId1発現を部分的に回復させることが見いだされた。一方、Id1のこの回復は、細胞をγ−トコトリエノール誘導性アポトーシスから保護することが見いだされた。これらの結果は、γ−トコトリエノールが乳癌細胞に及ぼす抗増殖性および化学増感作用がId1タンパク質のダウンレギュレーションを通して媒介されることを示唆した。
【0124】
3.1.材料および実験条件
【0125】
3.1.1 乳癌細胞系、細胞培養条件および化学薬品−ヒトエストロゲン依存性BCa細胞(MCF−7)、ヒトエストロゲン非依存性BCa細胞(MDA−MB−231)、アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞(PC−3)(ATCC、メリーランド州ロックビル)は、37℃の5%CO2中で、2mmol/LのL−グルタミン、10%ウシ胎児血清(FCS)および2%ペニシリン−ストレプトマイシンが補給されたATCCが推奨する各培地(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)中で維持した。ヒト不死化非腫瘍原性乳癌上皮細胞系(MCF−10A)(ATCC、メリーランド州ロックビル)は、Clonetics Corporation社から入手できるMEGM Bulletキットの一部として供給されるMEBM中で維持した。完全増殖培地を作製するために、基底培地中に以下の成分を加えた:GA−1000以外のキットとともに供給される全MEGM SingleQuot添加物(BPE 13mg/mL、2mL;ヒドロコルチゾン0.5mg/mL、0.5mL;hEGF 10μg/mL、0.5mL;インスリン5mg/mL、0.5mL);100ng/mLのコレラ毒素。安定性のSi−Id1 PC−3細胞系(Id1ノックダウンモデル)は、以前のプロトコルに基づいてYC Wong教授(HKU)によって寄贈された。ドセタキセル(Calbiochem社、独国ダルムシュタット)、JNK阻害剤のSP600125、Erk阻害剤のU0126(Sigma−Aldrich社、米国セントルイス)およびβ−アミノプロプリオニトリル(APN)(TCI社、日本国)をジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解させた。処理溶液は、所望の濃度を得るために培養培地中に希釈させた。
【0126】
3.1.2 Id1形質転換体の生成−MDA−MB−231細胞(1×105個の細胞/ウエル)は12ウエルの培養プレート内へプレーティングし、24時間にわたり増殖させた。pc−Id1またはpcDNA(MT Ling教授、IHBIからの寄贈)は、γ−T3処理前に24時間にわたりFugene 6試薬を使用して細胞内へ形質転換させた。24時間後、細胞はMTT細胞生存性についてアッセイを行うか、ウエスタンブロッティングのために溶解させた。
【0127】
3.1.3 以下の実験のためには、1.1.2の下で上述した同一のトコトリエノールおよびトコフェロール異性体を使用した。
【0128】
3.1.4 細胞生存性および時間経過実験は、以下の相違を含めて項目1.1.3の下で上述したように実施した。阻害剤試験のためには、細胞にビタミンE異性体を添加する前に8時間にわたり標的用量で阻害剤(U0126、PD98059およびAPN)を用いて前処理した。
【0129】
3.1.5 DNA断片化アッセイ−γ−T3との24時間にわたる培養後に、3×106個のMDA−MB−231細胞を採取し、氷上で60分間にわたり溶解緩衝液(5mM Tris−HCl(pH8.0)、20mM EDTA、および0.5%(v/v)Triton X−100)中に懸濁させた。サンプルを遠心分離し、上清を取り除き、37℃で40分間にわたり5μLのRNaseA(10μg/mL)とともに培養し、1mLの無水エタノールを加えた。試験管を20分間にわたり20℃に置き、次にDNAをペレット化するために遠心分離した。DNAサンプルは臭化エチジウム(0.2μg/mL)を含有する2%アガロースゲル上で3時間にわたる80Vでの電気泳動法によって分析し、UV照明下で視認した。
【0130】
3.1.6 末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介性チオリン酸デオキシウリジンニック末端標識(TUNEL)アッセイ−アポトーシス中のDNAストランド破損は、インサイチュー細胞死検出試薬(Roche Applied Science社)を使用して試験した。手短には、1×106個の細胞を24時間にわたりγ−T3で前処理した。その後、細胞を37℃で60分間にわたり反応混合液と培養した。染色した細胞を分析し、蛍光顕微鏡によってガラススライド上で捕捉した。
【0131】
3.1.7 フローサイトメトリーは、項目1.1.3の下で上述したように実施した。マトリゲル侵襲アッセイは、項目1.1.4の下で上述したように実施した。ウエスタンブロッティングは、項目1.1.5の下で上述したように実施した。
【0132】
3.1.8 Id−1のRT−PCR−全RNAを、Trizol(登録商標)試薬を製造業者(Invitrogen社)のプロトコルにしたがって用いて単離した。cDNAを、Superscript(商標)第1鎖合成システム(Invitrogen社)を用いて合成し、次にPCRによってId−1特異的プライマー(フォワードプライマー、Id1−S、5’−CTC CAG CAC GTC ATC GAC TA−3’およびリバースプライマー、Id1−AS、5’−AAC GCA TGC CGC CTC−3’)を用いて増幅させた。PCRサイクリングプロトコルは、以下の通りであった:95℃で10分間、95℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で1分間および72℃で10分間の30サイクル。グリセロアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼを内部コントロールとして増幅させた。PCR産物を2%アガロースゲル上で電気泳動にかけ、ゲルドキュメンテーションシステムを使用して分析した。
【0133】
3.2.結果−ビタミンE異性体が乳癌(Bca)細胞に及ぼす抗増殖性作用
【0134】
用量を増やしながら(低:20μM、中:40μMおよび高:80μM)ビタミンE異性体を用いてBCa細胞を24時間にわたり処理した。これらの結果は、ビタミンE異性体が正常乳房上皮細胞(MCF−10A)の増殖率には有意な影響を及ぼさないが、MCF−7およびMDA−MB−231の増殖を有意に抑制することを証明した(図15A)。驚くべきことに、MDA−MB−231細胞はMCF−7細胞よりもビタミンE異性体の増殖阻害に高感受性であった。細胞増殖の阻害は、用量依存性阻害を示したMDA−MB−231中のT3異性体、特別にはγ−T3についてより有意に強力であった。24時間にわたり様々な異性体とともに培養されたMDA−MB−231細胞におけるIC50値に基づくと、阻害作用の順序は、γ−T3>β−T3>δ−T3であった。MDA−MB−231細胞はMCF−7細胞と比較するとより侵襲性であり、化学療法薬に対して耐性であるので、その後の実験のためには、γ−T3がMDA−MB−231に及ぼす作用を調査することを決定した。
【0135】
γ−T3−誘導性増殖阻害の原因となるメカニズムを試験するために、24時間にわたるγ−T3処理を行った、または行わない細胞の細胞周期分布およびゲノムDNA断片化をフローサイトメトリー、ゲル電気泳動法およびTUNELアッセイによって分析した。その結果、γ−T3(IC50−90)を用いた細胞の処理は下位−G1細胞集団の誘導(図15B)およびDNA断片化(図15C〜D)を生じさせ、これは処理後のアポトーシス細胞の存在を示していた。アポトーシス細胞(下位−G1分画)の比率は用量依存性で増加した。
【0136】
γ−T3誘導性アポトーシスのメカニズムを詳細に試験するために、最初に、MDA−MB−231細胞におけるプログラムされた細胞死がカスパーゼ依存性であるかどうかを調査した。図16Aに示したように、プロカスパーゼ3、7、8、9ならびにPARPの活性化は、切断産物の外観によって証明されたように、様々なγ−T3用量で24時間にわたり処理されたMDA−MB−231細胞において観察された。Bcl−2のダウンレギュレーションもまた、Bax発現のアップレギュレーションと一緒に、処理後に検出された(図16A)。一方、アポトーシス促進タンパク質のこれらのγ−T3媒介性活性化ならびにBcl−2/Bax比の変化は用量依存性であった(図16A)。さらに、γ−T3処理後によるこれらのアポトーシス促進遺伝子の活性化(図16B)はMDA−MB−231およびMCF−7細胞においてのみ観察され、MCF−10A細胞では観察されなかったので、これはγ−T3がBCa細胞においてアポトーシスを特異的に誘導することを示した。
【0137】
3.3.γ−T3はBCa細胞における生存促進性シグナリング経路をダウンレギュレートした
【0138】
NF−κBはMDA−MB−231細胞内では構成的に活性化されると報告されたので、γ−T3がNF−κB活性化の抑制に帰せられる細胞アポトーシスを誘導した可能性があると考えられた。様々な用量のγ−T3を用いて処理されたMDA−MB−231のNF−κB活性は、NF−κBサブユニットp65の核転座を試験することによって測定した。図17Aに例示したように、γ−T3処理は用量依存性でNF−κB p65の核レベルを抑制した。γ−T3がNF−κBシグナリングに及ぼす作用を、例えばp−IκBα/βおよびIκBα/βなどの、他の上流調節因子の発現を試験することによって、さらに探索した。γ−T3処理MDA−MB−231細胞内では、リン酸化IκBα/βのレベルにおける用量依存性減少が観察された(図17A)。これは、IκBα/βのレベル上昇ならびにNF−κB p65核転座の阻害と結び付いている。これらの結果は、γ−T3がIκBα/βの脱リン酸化および蓄積を通してNF−κB活性を抑制したことを示している。
【0139】
3.4.γ−T3は、BCa細胞においてId1シグナリング経路およびその上流調節タンパク質をダウンレギュレートした。
【0140】
驚くべきことに、γ−T3処理はBCaの発生および進行に関与する多数の重要なタンパク質もまたダウンレギュレートすることが見いだされた。図17Bに示したように、Id−1およびId−3発現レベルは、γ−T3の用量を増加させる処理によってほぼ検出不能なレベルへ有意に抑制された。EGF−Rタンパク質レベルへの類似の作用もまた観察された。EGF−RおよびIdタンパク質ファミリーはBCa細胞増殖および生存にとって必須であるので、それらのダウンレギュレーションはγ−T3誘導性増殖停止およびアポトーシスと関連する可能性がある。
【0141】
Id1転写産物およびタンパク質レベルは以前にBCa細胞内のSrc、Smad1/5、LOXおよびFakシグナリング経路によって直接的または間接的に調節されることが証明されているので、γ−T3がBCa細胞内のId1の上流調節因子に及ぼす作用についてさらに試験した。これらの結果は、Srcのリン酸化ならびにSmad1/5/8、LOXおよび活性化Fakのタンパク質レベルがγ−T3処理によって用量依存性で抑制されることを証明した(図17C)。一方、抗Src抗体を用いて明らかにされた免疫沈降アッセイは、SrcとSmad1/5/8との相互作用の減少を明らかにしたが、これはγ−T3によるSmad1/5/8タンパク質レベルの抑制に起因する可能性が高い(図17D)。これはおそらくSrc−Smad複合体のId−1プロモーターのSrc応答性領域への結合の減少を引き起こし、γ−T3によるId−1タンパク質発現の観察された抑制を生じさせた。
【0142】
3.5.γ−T3はBCa細胞におけるアポトーシス促進性シグナリング経路を活性化した
【0143】
c−Jun N−末端キナーゼ(JNK)は、ストレスおよび遺伝毒性物質によって活性化される進化的に保存されたセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。JNKは、全3つのJun転写因子およびAP−1ファミリーのATF−2メンバーのアミノ末端基をリン酸化する。活性化された転写因子は遺伝子発現を変調させて、細胞移動および細胞死を含む適切な生物学的応答を生成する。MDA−MB−231細胞が様々な用量のγ−T3で処理されると、JNKリン酸化活性における用量依存性上昇が検出された(図18A)。一方、ATF−2またはc−junなどのJNK下流エフェクタのリン酸化は、全部がγ−T3によってアップレギュレートされ、これはJNKシグナリング経路がγ−T3によって活性化されたことを裏付けている。
【0144】
BCa細胞のγ−T3誘導性アポトーシスにおけるJNK活性化の重要性をさらに確認するために、特異的阻害剤であるSP600125を用いたJNKの不活性化が細胞をγ−T3から保護できるかどうかについて調査した。図18Bに示したように、20μMのSP600125とのγ−T3による併用処理はγ−T3単独による処理と比較して生存細胞のパーセンテージを上昇させ、これはJNK活性化がγ−T3誘導性アポトーシスのために必要であることを確証している。
【0145】
3.6.MAPK/ERK経路の活性化はBCa細胞におけるγ−T3誘導性アポトーシスとは関連していなかった
【0146】
MAPK/ERKキナーゼは、成長因子、サイトカインおよび発癌物質を含む様々な刺激によって活性化される細胞内シグナリング経路の1つである。マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK/ERK)経路はMDA−MB−231ではErk1/2、Mek1/2およびElk1のリン酸化によって証明された(図18C)ようにγ−T3によって活性化されることが見いだされたが、それらの活性化はγ−T3誘導性アポトーシスのために直接的には必要とされず、それは特異的阻害剤であるU0126/PD98059によるMAPKの不活性化がγ−T3処理後の癌細胞生存性を回復させることができなかったからである(図18D)。
【0147】
3.7.γ−T3がBCa細胞侵襲の阻害に及ぼす作用
【0148】
γ−T3が多数の癌に抗増殖性作用を有することは証明されているが、BCaの転移に影響を及ぼすかどうかは明白ではない。このため、γ−T3がBCa細胞の侵襲能力を抑制できるかどうかを試験した。図19Aに示したように、マトリゲル侵襲アッセイを使用すると、24時間にわたってγ−T3処理されたMDA−MB−231細胞が、マトリゲル層を通して侵襲された細胞数の減少によって証明されたように、未処理コントロールと比較して少なくとも2倍低い侵襲能力を示すことが見いだされた。侵襲チャンバ内に加えられた生存細胞の数が同一であったので、細胞侵襲に及ぼすこの阻害作用は、γ−T3によって誘導された細胞増殖阻害の結果ではなかった。これらの結果は、γ−T3が、それらの細胞毒性作用とは無関係に、BCa細胞の侵襲能力を阻害できることを示している。
【0149】
E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、転移性癌について最も頻回に報告された特徴の1つである。癌細胞内でのE−カドヘリン発現の回復は、転移能力の抑制をもたらす。BCaでは、E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、高悪性度腫瘍および不良な予後と相関しており、これはE−カドヘリン発現がBCa進行において役割を果たすことを示している。これまでMDA−MB−231を検出することは、それがE−カドヘリン陰性ヒトBCa細胞系であるので不可能であった。一方、γ−T3処理はα−およびβ−カテニンタンパク質に影響を及ぼせなかったが、γ−カテニン発現を増強した。2つのE−カドヘリン抑制因子であるSnailおよびTwistの発現は、γ−T3処理後にはどちらもダウンレギュレートされた(図19B)。さらに、間葉マーカーであるα−SMAは24時間にわたるγ−T3処理後にはダウンレギュレートされ(図19B)、これはγ−T3が上皮から間葉への転移(EMT)の阻害を通してBCa侵襲を抑制できることを示している。
【0150】
3.8.γ−T3処理がドセタキセル誘導性アポトーシスに及ぼす作用
【0151】
例えば熟成ニンニク抽出物または果物もしくは植物から抽出されるレスベラトロールなどの天然産物の多くは、抗癌作用を有することが証明されている。以前の試験は、これらの天然産物の多くが化学療法に対する癌細胞の感受性を増加させ、前立腺腫瘍に対する放射線療法の有効性を増強することを証明している。γ−T3が化学療法薬と相乗的に作用できるかどうかを試験するために、γ−T3単独またはドセタキセルとの併用での作用を試験した。図20Aに示したように、ドセタキセルとγ−T3との併用処理後のMDA−MB−231細胞系内でのアポトーシス細胞のパーセンテージは、γ−T3またはドセタキセル単独で処理した場合のパーセンテージより有意に高かった。ウエスタンブロッティングを使用して、本発明者らは、γ−T3とドセタキセルとの併用処理がアポトーシス促進タンパク質(切断されたPARP、カスパーゼ3、7、8、9)の活性化ならびに生存促進タンパク質(Id−1、EGFR)のダウンレギュレーションを通して細胞アポトーシスを増強することをさらに証明した(図20B)。類似の作用はMCF−7細胞においても観察されたが(図20C)、これはγ−T3およびドセタキセルがBCa細胞に対して相乗作用を有する可能性があることを示唆している。
【0152】
3.9.β−アミノプロピオニトリル(APN)はγ−T3誘導性アポトーシスを減衰させた
γ−T3とβ−アミノプロピオニトリル(APN;LOXの非特異的阻害剤)との併用処理はId1の発現をほぼ完全に回復させ、そして同時に細胞増殖およびウエスタンブロッティング分析によって証明されたように、γ−T3誘導性カスパーゼ依存性アポトーシスを阻害した(図20DおよびE)。しかし、γ−T3およびγ−T3−APN併用処理を用いて見られたPARP切断レベルのほんの僅かな減少は、カスパーゼ非依存性アポトーシスの誘導を示唆した。これらの所見は予想外であるので、そこでγ−T3およびAPN併用処理中にId1誘導を引き起こす他のメカニズムの関与を示唆している。図20Fは、乳癌細胞におけるγ−トコトリエノールについての抗癌経路を要約している。
【0153】
4.以下の実験では、前立腺癌(PCa)腫瘍に対するγ−トコトリエノール(γ−T3)の生体内での抗腫瘍作用をその薬物動態、組織分布およびドセタキセルとの相乗相互作用と一緒に調査した。手短には、腹腔内注射後に、γ−T3は血清から急速に消失し、PCa腫瘍中に選択的に沈着する。γ−T3の短期間投与は、腫瘍の有意な収縮を生じさせた。一方、腫瘍増殖のそれ以上の阻害は、γ−T3およびドセタキセルの併用治療によって達成された。γ−T3の抗腫瘍作用は細胞増殖マーカーの発現の減少および癌細胞アポトーシスの速度上昇と結び付いていた。これらの結果は、PCa腫瘍に対するγ−T3の生体内での抗腫瘍性を証明した。
【0154】
4.1.材料および実験条件
【0155】
4.1.1 ヒト前立腺癌細胞系PC−3を、ATCCから入手し、37℃の加湿した95%空気、5%CO2中において1%ペニシリン−ストレプトマイシンおよび5%ウシ胎児血清(FBS)(PAA Laboratories社、オーストリア国パッシング)が補給されたRPMI1640(Invitrogen社、米国カリフォルニア州カールズバッド)中で増殖させた。ドセタキセル(Calbiochem社、米国カリフォルニア州サンディエゴ)をジメチルスルホキシド(Sigma Aldrich社、米国ミズーリ州セントルイス)中に溶解させた。例えばヘプタンおよび酢酸エチルなどの溶媒はTedia Company社(米国オハイオ州フェアフィールド)から購入した。D−ルシフェリン、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)および10%中性緩衝ホルマリン液は、Sigma Aldrich社(米国ミズーリ州セントルイス)から入手した。
【0156】
4.1.2 以下の実験のためには、1.1.2の下で上述した同一のトコトリエノールおよびトコフェロール異性体を使用した。
【0157】
4.1.3 PC−3前立腺癌異種移植モデルの確立−生物発光性PC−3−Lucヒト前立腺癌細胞系を、公知の方法にしたがって生成した。手短には、ルシフェラーゼ遺伝子をコードするcDNAをpLenti−6/V5内にクローニングした。この構築体を、パッケージングミックスを用いてHEK293内へ同時に形質転換させ、レンチウイルスを回収し、PC−3細胞に感染させるために使用した。形質転換体を、1週間にわたり10μg/mLのブラスチシジンを用いる選択することによってプール(PC−3−Luc)として入手した。動物実験プロトコルは、動物の適正かつ人道的な使用についてのシンガポール国のNACLAR(実験動物を使用する研究に関する国立諮問委員会)ガイドラインによって承認された。雄性BALB/c無胸腺ムードマウス(4〜5週齢、18〜22g)は、The Jackson Laboratory社(米国メイン州バーハーバー)から購入した。マウスを、生物資源センター第1科(シンガポール国バイオポリス)内の標準条件(20.8±2℃、55±1%の相対湿度、12時間明暗サイクル)下で収容し、齧歯類飼料(Harlan Laboratories社、インディアナ州インディアナポリス)および発熱物質無含有環境で供給される塩素化逆浸透水を与えた。手短には、100μLの無血清RPMI1640中の1×106個のPC−3−Luc細胞を、26ゲージの針を備える1mLのシリンジ(Becton Dickinson社、米国ニュージャージー州ベクトンディッキンソン)を使用してヌードマウスの側腹部に皮下注射した。全外科手技は、無菌条件下で実施した。
【0158】
約100mm3(接種2週間後)の類似の腫瘍サイズを有するマウスを選択し、3群に無作為に割付けた(n=1群当たり5匹);コントロール群(溶剤としてのDMSO)、γ−T3(50mg/kg/日)群およびγ−T3とドセタキセルの併用療法群(50mgのγ−T3/kg/日および7.5mgのドセタキセル/kg/週)。マウスを毎日計量し、腫瘍は、同時にデジタル式炭素繊維製カリパス(Fisher scientific社、ペンシルベニア州ピッツバーグ)を用いて測定した。腫瘍容積は、4/3*π*(平均径/2)3として計算した。マウスには2週間にわたり週5回投与した。10日間の治療後、マウスはCO2吸入によって安楽死させた。血液サンプルは、25ゲージ針を用いる心臓出血を通して採取した。血液サンプルは室温で30分間にわたり培養し、その後に30分間かけて4℃で4,400rpmで遠心分離した。上清としての血清を血漿から分離し、−80℃で保存した。腫瘍、肝臓、腎臓、脾臓、肺および心臓を採取した。腫瘍の一部は、10%中性緩衝ホルマリン液中で固定した。
腫瘍の残りおよび単離した臓器全部は、直ちに液体窒素中に浸漬し、−80℃で保存した。
【0159】
4.1.4 マウスにおけるγ−トコトリエノールの薬物動態−C57BL/6黒色マウスは、The Jackson Laboratory社(米国メイン州バーハーバー)から購入した。40匹の5週齢のマウスに、1mgのγ−T3を含有する単回i.p.注射を実施した。5匹のマウスを、様々な時点に致死させた(10分、30分、1時間、3時間、6時間、24時間、48時間および72時間後)。血液サンプルは、心臓出血を通して採取した。血清を単離するために、血液サンプルは室温で30分間にわたり培養し、その後に30分間かけて4℃で4,400rpmで遠心分離した。血清中のγ−T3の濃度は、下記のHPLC法を使用して分析した。
【0160】
4.1.5 単回投与急性毒性試験−最大耐用量(MTD)を、死亡を全く伴わない最高用量が見いだされるまで様々なマウス群で用量を上昇させることによって決定した。手短には、90匹のC57BL/6黒色マウス(各群10匹)は、100μLの注射用量中に1、2、4、8、12、16、20、30および40mgを含有する単回用量腹腔内注射を受けた。マウスの体重および生存率を30日間観察し、その後にCO2吸入によって安楽死させた。
【0161】
4.1.6 血清、腫瘍および臓器からのγ−トコトリエノールの抽出−血清を解凍し、5分間かけて超音波浴(Lab Companion社、米国イリノイ州ヴァーノンヒルズ)中で音波処理し、その後に10秒間ボルテックスミキサーにかけた。100μLの血清を、900μLの水を含有するIWAKI社Pyrexガラス製試験管(インドネシア国ジャワトゥンガ州)中に移した。腫瘍および臓器を調製するためには、組織を1mLの水中でホウケイ酸ガラス製ホモジナイザー(Fisher scientific社、ペンシルベニア州ピッツバーグ)中でホモジナイズし、その後にPyrexガラス製試験管中へ移した。純度99%を備える5μLのδ−T3(1mLのエタノール中に溶解させた100mgのδ−T3)を内部標準溶液として使用し、混合液中へスパイク混合した。この試験管を10秒間ボルテックスミキサーにかけ、2分間超音波処理した。標的分析物の酸化を最小限に抑えるために、4mLのブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)溶液(100mLのヘプタン中の5mgのBHT)を加えた。液−液抽出は、10秒間にわたり強力にボルテックスミキサーにかけることによって実施した。液−液抽出の後に、試験管は4,000rpmで5分間にわたりHeraeus Multifuge 3−SR Centrifuge(Newport Pagnell社、英国バッキンガムシャー州)内で遠心分離した。3.9mLの有機相をまた別のPyrex製試験管内へ移した。抽出を繰返し、第2の有機相を取り出し、第1の相と一緒にプールした。有機溶液は、Buchi rotavapor R−205(スイス国フラヴィル)を用いて蒸発させ、乾燥した残留物を1.5mLのヘプタン中で再構成させ、濾過し、その後にHPLC分析を実施した。
【0162】
4.1.7 高性能液体クロマトグラフィーによるγ−トコトリエノール濃度の決定−HPLC法の順相は、当技術分野において公知の方法の変法として実施した。10μLのサンプルをAgilent 1100シリーズHPLCシステム(Agilent社、米国カリフォルニア州サンタクララ)内へ注入した。クロマトグラフィーによる分離は、Zorbax Silica 60(5μm、250×4mmの内径(i.d.))分析カラムによって実施した。使用した移動相は、1.0mL/分の流量でヘプタン/酢酸エチル(90:10、v/v)の混合液であった。γ−T3の吸光度は、励起波長290nmおよび発光波長360nmに設定したダイオードアレイ検出器を用いて監視した。
【0163】
4.1.8 血清に基づく毒性アッセイ−10匹のC57BL/6黒色マウスに、1mgのγ−トコトリエノールまたはDMSOブランクを含有する週5回の腹腔内注射を実施した。マウスは心臓出血によって致死させ、血清は上述した方法によって抽出した。次にバイオマーカーであるアルブミン、クレアチン、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、尿素およびアルカリホスファターゼ(ALP)をRANDOX laboratories社(英国クルムリン)から購入した比色法に基づく検出キットによって測定した。
【0164】
4.1.9 免疫組織化学検査−マウスの腫瘍、肝臓、腎臓、脾臓、肺および心臓は、12時間にわたり10%中性緩衝ホルマリン液中で固定した。固定後、組織サンプルをパラフィンブロック内に加工処理した。組織切片は厚さ5μmにKedeeマイクロトーム(China JINHUA Kedi社、中国浙江省)を用いて切断し、次にトルエン中で脱パラフィン化し、アルコールから蒸留水へ段階的に再水和させた。内因性ペルオキシダーゼ活性を、切片をメタノール中の0.6%過酸化水素で20分間処理することによって遮断し、その後に抗原回復処理を実施した(Dako社、デンマーク国グロストルップ)。切片を次に37℃で1時間にわたりペルオキシダーゼブロッキング溶液(Dako社、デンマーク国グロストルップ)とともに培養し、あらゆる非特異的抗原を取り除いた。標本は、Snail(1:200)、Id1(1:250)(Abcam社、英国ケンブリッジ)、切断カスパーゼ−3および切断PARP(1:50;Cell Signalling Technology社、米国マサチューセッツ州ベバリー)に対するウサギ一次ポリクローナル抗体および増殖性細胞核抗原(PCNA)、Ki−67、E−カドヘリン(1:50;Santa Cruz Biotechnology社、米国カリフォルニア州サンタクルーズ)に対するマウスモノクローナル抗体とともに4℃で一晩培養した。TBS中で数回すすぎ洗いした後、切片は37℃で1時間にわたりDako REALT EnVisionT/HRP、ウサギ/マウス溶液とともに培養した。この反応は、Dako REALT DAB+色原体によって視認した。Mayerのヘマトキシリン(Dako社、デンマーク国グロストルップ)を対染色として使用した。標準倒立光学顕微鏡(Nikon社、日本国東京)を使用してスライドを分析した。
【0165】
4.1.10 生物発光の画像化−特発性前立腺腫瘍モデルからのルシフェラーゼ活性の生体内での生物発光の画像化は、生存中の画像の取得および分析用のソフトウェア(Livinglmage acqusition and analysissoftware)(Xenogen Corp.社、米国マサチューセッツ州ホプキントン)を備えるIVISイメージングシステム(Xenogen Corp.社、米国マサチューセッツ州ホプキントン)を用いて実施した。D−ルシフェリンは、DPBS中で15mg/mLの濃度に溶解させ、濾過滅菌し、−20℃で保存した。治療の終了時に、マウスにはルシフェリン溶液(150mg/kg体重)のi.p.注射を実施した。画像は、ルシフェリン投与の5分後に取得した。シグナル強度は、腫瘍からの関心領域を含む検出された全光子数の合計として定量した。
【0166】
4.2.結果−薬物動態および単回投与急性毒性−γ−T3は本明細書で報告したように生体外でのPCa細胞において増殖を阻害してアポトーシスを誘導したので、生体内でのPCa増殖へのγ−T3の抗腫瘍作用を試験した。本試験は、腹腔内投与後の血漿中のγ−T3の薬物動態的挙動を調査することから開始した。マウスには1mgのγ−T3を注射し、血液をその後の様々な時点のγ−T3濃度についてアッセイした。血清薬物動態プロファイルに示したように(図27A)、血漿γ−T3濃度は投与後30分間以内に260ppmから50ppmへ減少した。この濃度は、少なくとも72時間にわたって一定のままである。
【0167】
γ−T3の単回投与急性毒性を評価するために、γ−T3を、最大耐用量(MTD)を決定するために用量を増大させながら9種の用量で腹腔内注射した。MTDは30日間の観察期間中に10匹のマウス中1匹も死亡せず、次の高用量では少なくとも1匹のマウスが死亡する用量であると規定されている。図27Bに示したように、MTDは12mgであることが見いだされた。1mgのγ−トコトリエノールまたはDMSOブランクを含有するi.p.注射を週5回受けたマウスについて、試験したいずれのパラメータにおいても毒物学的変化は見いだされなかった(図27C)。
【0168】
γ−T3はPC−3−Luc前立腺癌異種移植片の増殖を阻害する−γ−T3は生体外でPCa細胞において増殖を阻害してアポトーシスを誘導したので、生体内でのPCa増殖へのγ−T3の抗腫瘍作用を試験した。無胸腺ヌードマウスにPC−3−Luc細胞を同種移植し、コントロール(DMSO)群、γ−T3群および併用(γ−T3+ドセタキセル)治療群に分けた。γ−T3についての用量(50mg/kg/日)を選択したのは、この用量が高用量で観察された処理関連死亡を誘導せずにヌードマウスにおける有意な抗腫瘍作用を提供したためであった(図28A)。ドセタキセルについてと同様に、用量は7.5mg/kg/週であると決定した。腫瘍増殖は、週5回監視した。全群について全試験を通して体重における有意な変化は見られなかった(図28A)。コントロール群中の腫瘍は急速に増殖し、治療開始第14日までに620±10mm3の平均容積に達した。これとは対照的に、γ−T3またはγ−T3+ドセタキセルで治療されたマウス上の腫瘍増殖は顕著に阻害された;腫瘍容積は各々300±48mm3および240±62mm3の平均値のままであった(図28Bおよび図29)。これらの結果は、γ−T3が生体内でのPCa増殖に有意な阻害作用を有することを示した(p値=0.0018)(図29)。
【0169】
血清γ−T3濃度は、投与後急速に低下する(図27A)。これが薬物クリアランスまたは内臓への特異的沈着に起因するのかどうかを理解することが極めて重要である。最初に、HPLC分析を用いて10日間にわたり50mg/kg/日で治療されたマウスからの重要臓器各々のγ−T3濃度を決定した。図28Cに示したように、脾臓および肝臓は治療期間の終了時に最高濃度のγ−T3沈着を有することが見いだされたが、γ−T3はさらに心臓、腎臓および肺組織中でも検出することができた。より重要なことに、腫瘍組織の検査はγ−T3が主として腫瘍内に蓄積した、体重1gにつきγ−T3が0.15±0.03mgの濃度に達することを明らかにしたが、これは他の内臓において検出される量の少なくとも2倍であった。これらの結果はγ−T3が前立腺腫瘍組織中に選択的に沈着することを示唆しており、これはγ−T3が観察可能な毒性と関連していない用量で有意な抗腫瘍活性を発揮できる理由を説明するのに役立つ。
【0170】
γ−T3が癌細胞増殖およびアポトーシスに及ぼす生体内での作用−γ−T3の抗腫瘍作用が生体内での実験に記載したように(上記の項目2を参照されたい)、細胞増殖およびアポトーシスの誘導を通して媒介されるかどうかを確証するために、各治療群からのマウスの腫瘍組織を免疫組織化学検査によって試験した。図30に示したように、γ−T3がPCa腫瘍に及ぼす抗増殖性作用は、γ−T3を用いて、またはγ−T3とドセタキセルとを用いた治療後に、全タンパク質がダウンレギュレートされることを示したPCNA、Ki67およびId−1の濃度の試験によって確証された。一方、γ−T3はさらに切断されたカスパーゼ3およびPARPの濃度を誘導したが(図31)、これはγ−T3治療後により多くの細胞がアポトーシスを経験したことを示唆している。
【0171】
腫瘍サプレッサー遺伝子へのγ−T3抗腫瘍作用−E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、転移性癌について最も頻回に報告された特徴の1つである。癌細胞内でのE−カドヘリン発現の回復は、転移能力の抑制をもたらす。PCaでは、E−カドヘリン発現のダウンレギュレーションは、高悪性度腫瘍および不良な予後と相関しており、これはE−カドヘリン発現がPCa進行において役割を果たすことを示している。γ−T3は前立腺癌細胞の生体外での侵襲能力をE−カドヘリン発現のアップレギュレーションを通して阻害することが見いだされたので、次にγ−T3がさらに生体内での前立腺癌細胞内のE−カドヘリン濃度にも影響を及ぼせるかどうかを分析した。無胸腺ヌードマウスのコントロール群、γ−T3群およびγ−T3とドセタキセルとの併用治療群からの腫瘍切片のE−カドヘリン発現を免疫組織化学検査によって試験したところ、結果は、E−カドヘリンがγ−T3治療後にアップレギュレートされるが(図32A)、E−カドヘリンの抑制因子であるSnailがダウンレギュレートされる(図32B)ことを示した。これらのデータは、腫瘍増殖の阻害に加えて、γ−T3は生体内での抗転移活性を有する可能性があることを示唆した。
【0172】
4.3.このセクションで言及した実験は、γ−T3がヌードマウスにおける前立腺腫瘍の増殖を抑制することを証明したが、これは前立腺癌に対するγ−T3の生体内での抗腫瘍作用に関する最初の報告である。生体内でのγ−T3の抗腫瘍作用に関する試験は、高度に精製されたγ−T3が不足していることおよびγ−T3を腫瘍細胞へ送達することが難しいことから、限定される。γ−T3がPCa細胞増殖に及ぼす阻害作用は生体外での高速増殖性細胞に対して特異的であることが証明された。このとき、γ−T3投与の腹腔内経路がPCa腫瘍増殖を阻害することに有効であることが見いだされた。
【0173】
γ−T3の蓄積は、抗腫瘍活性のために極めて重要である。γ−T3は、おそらく腫瘍組織での高増殖速度に起因して、固形腫瘍内で選択的に蓄積することが見いだされた。さらに、γ−T3は重要臓器の大多数において見いだされることもまた証明された。しかし、5つの重要臓器(心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓)でのγ−T3の沈着は、固形腫瘍において見いだされる沈着のおよそ半分であった(図28C)。これらの所見に関する矛盾は投与方法に起因する可能性が高いが、これは、γ−T3は本明細書で言及した実験では腹腔内注射によって投与されたが、それらの試験ではマウスに経口投与によって与えられたからである。それでも、重要臓器におけるγ−T3の沈着にもかかわらず、体重、正常臓器重量および血清毒性濃度への観察できる作用は見られない。
【0174】
γ−T3が生体内での腫瘍増殖を阻害するメカニズムは、明確には理解されていない。ビタミンEの古典的な抗酸化物質特性を媒介するすべてのトコクロマノール分子において見いだされるヒドロキシル成分は、一般にはγ−T3の高腫瘍活性とは関連していないと考えられる。
【0175】
本明細書に記載したように、γ−T3は侵襲および転移を阻害すると考えられるE−カドヘリン遺伝子をアップレギュレートすることが見いだされた。さらにPCa細胞系であるPC−3によって構成的に発現させられるId−1は、γ−T3処理によって抑制され、NF−κB経路分子の抑制をもたらした。このとき、生体内での条件下で前立腺癌に対するγ−T3の抗腫瘍活性をさらに確認することも可能であった。
【0176】
細胞増殖およびアポトーシスは腫瘍増殖にとって極めて重要なプロセスであるので、本発明者らの腫瘍モデルにおけるγ−T3によるこれらのプロセスの変調を調査した。生体外でのγ−T3の有意な抗増殖作用と一致して、PCNA、Ki67およびId−1(図30)発現の抑制によって明らかなように、生体内でのγ−T3の顕著な抗増殖性作用が観察された(図30)。さらに、PCa細胞における生体内でのアポトーシスの有意な誘導が観察された。γ−T3誘導性アポトーシスの原因となる正確なメカニズムは、完全には理解されていない。本明細書で言及した実験の結果は、アポトーシスのプロセスを生体内でのγ−T3抗腫瘍作用の重要なメカニズムとして裏付ける(図31)。これらの観察所見が意味することは、γ−T3をPCaに対する他の抗増殖剤との相乗作用で使用できることにある。
【0177】
本明細書で言及した実験では腫瘍転移は試験しなかったが、γ−T3処理はE−カドヘリンの増強した発現を生じさせるので、そこでγ−T3は抗転移活性を有することを裏付けると思われる。E−カドヘリンの機能または発現の消失は癌の進行および転移と関係付けられてきたが、それは組織内の細胞接着を減少させ、結果として細胞運動性の増加を生じさせるからである。これは順に、癌細胞が基底膜を越えて周囲組織を侵襲することを可能にさせることがある。γ−T3との正確な相互作用についてはまだ調査されなければならないが、リン脂質膜中の独特のトコトリエノール類である可能性がある。本明細書ではγ−T3がE−カドヘリンの誘導によって生体外での癌細胞侵襲を阻害できることもまた証明されたので、本所見は、γ−T3の生体内での抗転移作用に関する詳細な調査を正当化する強力な根拠を提供する。
【0178】
これらをまとめると、ビタミンEの1つの誘導体であるγ−T3は癌細胞増殖の阻害およびアポトーシスの誘導を通してPCa増殖を生体内で阻害できることが証明された。
【0179】
5.根拠は、前立腺癌が細胞のまれな下位集団、つまり前立腺癌幹細胞(CSC)を起源とすることを裏付けている。前立腺癌に対する従来型療法は、主として大多数の分化腫瘍細胞を標的とすると考えられるが、治療後の疾患再発の原因となる可能性があるCSCは見逃す。このため、CSCの排除に成功することはこの疾患からの完全寛解を達成するための効果的戦略である可能性がある。γ−T3は、ウエスタンブロッティングおよびフローサイトメトリー分析によって証明されたように、アンドロゲン非依存性(AI)、前立腺癌細胞系(PC−3およびDU145)における前立腺癌幹細胞マーカー(CD133/CD44)の発現をダウンレギュレートできることが初めて証明された。一方、前立腺癌細胞の細胞凝集塊形成能力は、γ−T3治療により有意に妨害された。より重要なことに、PC−3細胞のγ−T3による前処理は、これらの細胞の腫瘍開始能力を妨害することが見いだされた。本セクションで言及したデータは、γ−T3が前立腺CSCを標的とする際の効果的薬剤となり得ることを示唆している。
【0180】
5.1 材料および実験条件
【0181】
5.1.1 前立腺癌細胞系PC−3、DU145および膀胱癌細胞系MGH−U1(ATCC、メリーランド州ロックビル)は、1(w/v)%ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)および5%ウシ胎児血清(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)が補給されたRPMI1640培地(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)中で維持した。全細胞は、37℃の5%CO2環境内で維持した。
【0182】
5.1.2 トコトリエノール異性体を、項目1.1.2の下で上述したように抽出および精製した。
【0183】
5.1.3 ルシフェラーゼタンパク質を安定性で発現するPC−3細胞の生成−ルシフェラーゼを発現するPC−3細胞系であるPC−3 Lucは、ウイラルパワ(Viralpower)レンチウイルス遺伝子発現システム(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)を用いて製造業者の取扱説明書にしたがって生成した。
手短には、HEK293は、レンチウイルス発現システムと一緒に提供されるパッケージングミックスと一緒に、全長ルシフェラーゼタンパク質を発現するpLenti6−DEST−V5−Lucベクターを用いて形質転換させた。48時間の形質転換後、上清を回収し、ポリブレン(8μg/mL)と混合し、PC−3細胞を感染させるために使用した。
感染後、陽性形質転換体を、6日間にわたりブラスチシジン(10μg/mL)を用いた処理によるプールとして選択した。
【0184】
5.1.4 細胞生存性アッセイ−γ−T3処理後の細胞生存性を、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイによって測定した。手短には、細胞を96ウエルプレート上に播種し、指示した時点について様々な濃度のγ−T3を用いて処理した。処理の終了時に、MTT(Sigma社、ミズーリ州セントルイス)を各ウエルに加え、室温で4時間にわたり培養した。DMSOを次に各ウエルに加えてホルマザン結晶を溶解させた。このプレートを室温でさらに5分間にわたり培養し、光学密度(OD)をLabsystemマルチスキャン・マイクロプレート・リーダー(Merck Eurolab社、スイス国ディーティコン)上の波長570nmで測定した。全個別ウエルは、3連ずつ設定した。細胞生存性のパーセンテージは、指示した濃度で処理細胞と未処理細胞とのOD比として提示した。
【0185】
5.1.5 ウエスタンブロッティングは、項目1.1.5の下で上述したように実施した。この膜は、CD133(Miltenyi Biotec社、カリフォルニア州オーバーン)、Bcl−2、PARP、切断カスパーゼ3、7、9(Cell Signaling Technology社、マサチューセッツ州ベバリー)、CD44およびβ−アクチン(Santa Cruz Biotechnology社、カリフォルニア州サンタクルーズ)に対して向けられた一次抗体とともに培養した。TBS−Tを用いて洗浄した後、この膜はマウスまたはウサギのIgGいずれかに対する二次抗体とともに培養し、そのシグナルはECLとウエスタンブロッティングシステム(Amersham社、ニュージャージー州ピスカタウェイ)とを用いて可視化した。
【0186】
5.1.6 半定量的RT−PCR−全RNAを、TRIZOL(登録商標)試薬(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)を使用して製造業者のプロトコルにしたがって単離した。cDNAは、Superscript(商標)RTのための第1鎖合成システム(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)を使用して合成し、PCRはGeneAmp(登録商標)PCRシステム9700(Applied Biosystems社、カリフォルニア州フォスターシティ)を用いて実施した。CD133のRT−PCRのためのプライマー配列およびPCR条件は、以前に記載した。mRNAの量は、GAPDHに比して定量した。
【0187】
5.1.7 細胞凝集塊形成アッセイ−細胞凝集塊形成アッセイは、以前の試験(Folkins C、p3560)から修正したプロトコルを用いて実施した。手短には、細胞を最初にトリプシン化し、1×PBSで洗浄し、DMEM F12培地中に再懸濁させた。200個の細胞をポリHEMAでプレコートされた24ウエルプレート(Sigma社、ミズーリ州セントルイス)の各ウエル内に加えた。細胞は、4μg/mLのインスリン(Sigma社、ミズーリ州セントルイス)、B27(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)、20ng/mLのEGF(Sigma、ミズーリ州セントルイス)、および20ng/mLの塩基性FGF(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)が補給されたDMEM/F12 MEM(Invitrogen社、カリフォルニア州カールズバッド)中で増殖させた。上記の上清を備える新鮮な培地を毎日加えた。γ−T3を指示した時点に加え、アッセイ第14日または処理終了時に細胞凝集塊数を計数した。各実験は3回繰返し、各データポイントは平均値および標準偏差を示した。
【0188】
5.1.8 フローサイトメトリー−CD44陽性細胞のフローサイトメトリー分析は、当技術分野において公知の方法を用いて実施した。手短には、細胞は2% FBSを含有するPBS中でPE−コンジュゲート化抗ヒトCD44抗体とともに培養した。
アイソタイプ適合マウス免疫グロブリンをコントロールとして機能させた。次にサンプルを、FACS CaliburフローサイトメーターおよびCellQuestソフトウェア(BD Biosciences社、米国カリフォルニア州サンノゼ)を用いて分析した。
【0189】
5.1.9 同所性PC−3異種移植片モデル−同所性モデルは、当技術分野において公知の方法を用いて確立した。手短には、8週齢CB−17 SCIDマウスを安楽死させ、解剖顕微鏡下に配置した(Olympus社、日本国東京)。腹部性中線での切開を実施し、膀胱基部で背側前立腺を曝露させた。24時間にわたるγ−T3処理を行った、または行わない等量の生存性PC3−Luc細胞(5μLの無血清RPMI中に再懸濁させた2.6×104個)をマウスの背側前立腺に注射した。臓器を置換し、腹部を閉鎖した。細胞の生物発光シグナルを検出するために、マウスを安楽死させ、次に80mg/kgのD−ルシフェリン溶液(Xenogen Corporation社、ニュージャージー州クランベリー)をi.p.によって注射した。シグナルは、Xenogen IVIS 100シリーズイメージングシステムによって捕捉した。腫瘍の進行は、腫瘍移植6週間後まで2週間毎に生物発光シグナル(光子数/秒/単位面積)を測定することによって監視した。マウスは頸椎脱臼によって致死させ、腫瘍を採取し、10%ホルマリン中で固定した。全ての外科手技および動物取扱方法は、香港大学の教育および研究における生きた動物の使用に関する委員会の指針に従って実施した。
【0190】
5.2.結果−γ−T3がCSCマーカー発現に及ぼす作用−γ−T3がCSC特性に影響を及ぼすかどうかを試験するために、他の細胞系の中でも最高パーセンテージのCSC(PCa幹細胞発癌遺伝子)を含有すると報告されているPC−3細胞系における前立腺CSCマーカーの発現にγ−T3が及ぼす作用を最初に調査した。PC−3細胞は、最初に24、48および72時間にわたって用量を増加させながらγ−T3(0、2.5および5μg/mL)を用いて処理した。処理後、2つの確立された前立腺CSCマーカーであるCD44およびCD133の発現は、ウエスタンブロッティングによって試験した。図1Aに示したように、CD44のタンパク質発現は、時間および用量依存性でγ−T3処理後に有意にダウンレギュレートされた。CD133でも類似の作用が観察され、これはγ−T3処理がCSC集団を標的とすることができることを示唆している(図1A)。γ−T3がCSCマーカーの発現に影響を及ぼすかどうかを確認するために、γ−T3処理後のPC−3細胞内のCD44+集団の変化をフローサイトメトリーによって試験した。24時間にわたるγ−T3処理(5μg/mL)後に、CD44+ PC−3細胞の集団を、未処理コントロール(図1B)と比較して減少することが見いだされ、これはウエスタンブロッティングの結果と一致している。
【0191】
CD44およびCD133における変化が遺伝子転写の減少に起因するかどうかを試験するために、2.5および5μg/mLのγ−T3を用いて処理したPC−3細胞内のCD44およびCD133のmRNA濃度を、RT−PCRによって評価した。図1Cに示したように、CD133 mRNAの減少は、48および72時間にわたって2.5および5μg/mLのγ−T3で処理された細胞内で観察された。CD44 mRNAのダウンレギュレーションは、72時間にわたりγ−T3で処理された細胞内でも観察された。これらの結果は、γ−T3が転写レベルでのCD44およびCD133発現を抑制できることを示した。興味深いことに、γ−T3によるCSCマーカーのダウンレギュレーションは、アポトーシスの誘導の結果ではないが、それは生存性アッセイ(図1D)ならびに共通のアポトーシスマーカーのウエスタンブロッティング(図1E)はどちらもアポトーシスの劇的な誘導を検出できなかったからである。
【0192】
γ−T3は、非接着性培養条件下でPC−3のプロスタスフェア形成を阻害する−非接着性培養中でプロスタスフェアを形成する能力は、前立腺癌幹細胞の特性の1つである。γ−T3が前立腺CSCに及ぼす作用をさらに試験するために、PC−3細胞のプロスタスフェアをγ−T3の存在下または非存在下で試験した。これは、細胞を表面接着から防止するポリHEMAプレコーティングプレート内へPC−3細胞をプレーティングすることによって実施した。細胞は、γ−T3(5μg/mL)を用いて、または用いずに血清置換培地中で増殖させた。図2Aに示したように、細胞を10日間にわたり培養した後に、1ウエルにつき平均21個のプロスタスフェアが未処理群において見いだされた。しかし、γ−T3で処理された全ウエル内でプロスタスフェアは観察できなかった(図2AおよびB)。これらの結果は、γ−T3が前立腺癌細胞のプロスタスフェア形成を効果的に阻害できることを示している。
【0193】
γ−T3は、他の癌細胞系においてCSC特性を抑制する−上記の実験からの結果は、γ−T3がアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞系PC−3においてCD44+ CD133+癌幹細胞様細胞を標的とすることができることを示唆した。しかし、この抑制性作用は、一般的作用よりむしろPC−3細胞にのみ特異的であると考えられる。この抑制作用は、他の癌細胞系を用いて実験を繰り返すように促す。DU145はCSC特性を有することが証明されているまた別の前立腺癌細胞系であり、図3Aに示したように、細胞生存性に最小の作用を有する用量のγ−T3処理もまた時間および用量依存性でCD44発現の抑制もまた生じさせる。一方、DU145の細胞凝集塊形成能力は、γ−T3処理によってほぼ完全に抑制された(図3D)。類似の作用は膀胱癌細胞系(MGH−U1)においても観察され(図3B、CおよびE)、これは観察されたγ−T3がCSCに及ぼす作用は前立腺癌に制限されないことを示唆した。
【0194】
γ−T3は、生体内での前立腺癌細胞の腫瘍原性を有意に減少させる−CSCは癌の開始において重要な役割を果たすと示唆されているので、γ−T3処理はPC−3細胞の腫瘍形成能力を阻害できることが考えられる。この仮説を試験するために、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を構成的に発現するPC−3細胞(PC−3−Luc)を最初に5μg/mLのγ−T3または溶剤を用いて24時間にわたり前処理した。引き続いて処理群およびコントロール群からの同等数の生存性PC−3−Luc細胞をSCIDマウスに同所性で注射し、腫瘍形成をライブ生物発光の画像化によって監視した。図4に示したように、移植の2週間後には、溶剤処理したPC−3−Lucを移植した全7匹のマウスが腫瘍を発生した。しかし、PC−3−Lucで前処理されたγ−T3が移植されたマウスの半数以上(7匹中5匹)は、可視腫瘍を発生できなかった(図4)。腫瘍開始速度の有意な減少は、γ−T3が高度に進行性のPC−3細胞の腫瘍原性能力を減少させられることを示しており、これはγ−T3処理後のCSC集団の減少に起因する可能性が高い。
【0195】
γ−T3は化学療法薬耐性癌幹細胞様細胞を効果的に排除する−γ−T3が、濃縮されたCSC集団を含有することが証明されている前形成されたプロスタスフェアも標的とできるかどうかも試験された。プロスタスフェアは、各プロスタスフェアが相当に大きなサイズに達する14日間にわたり非接着性培養中でDU145を増殖させることによって形成した。予想されたように、これらのプロスタスフェアは、ドセタキセルなどの化学療法薬に対して高度に耐性であった(図5A)。DU145細胞においてアポトーシスを誘導することが公知である40ng/mLの用量では、ドセタキセルはプロスタスフェアに何らかの観察可能な作用を誘導することができなかったが、これはCSCが濃縮された細胞はドセタキセルに対して高度に耐性であることを示唆している。しかし、70%および76%の細胞凝集塊数の減少は、細胞凝集塊が10μg/mLおよび20μg/mLのγ−T3で処理された場合に観察された(図5A)。細胞凝集塊数の減少に加えて、γ−T3処理はさらに細胞凝集塊のサイズを減少させ、ならびに細胞凝集塊の形状をより拡大した構造へ変化させた(図5B)。
【0196】
5.3 本明細書では、γ−T3によるCSCマーカーのダウンレギュレーションならびにプロスタスフェアおよび腫瘍形成の抑制によって証明されたように、γ−T3が抗CSC作用を有することが初めて証明された。前立腺内の推定癌幹細胞は2005年に初めて同定され、このとき前立腺内の推定癌幹細胞がCD44+/alpha2beta1hi/CD133+表面マーカーを発現することが見いだされた。これらの癌開始細胞は、さらにまた確立されたアンドロゲン依存性細胞系LNCaPおよびアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞系DU145においても同定されている。
【0197】
本明細書では、PC−3細胞内で発現したCSCマーカーであるCD44およびCD133はどちらもγ−T3処理によってダウンレギュレートされることが証明された(図1)。さらに、アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞系DU145および膀胱癌細胞系MGH−U1におけるCD44の有意な減少もまた観察された(図4)。興味深いことに、γ−T3処理後の細胞アポトーシスにおける細胞生存性の有意な減少または上昇を検出することはできず(図1)、これは本試験で使用されたγ−T3処理の用量がCSC集団を標的とすることができるが、非CSC細胞のアポトーシスを誘導するためには不十分であることを示している。これはさらに、γ−T3がCSCに対する特異的作用を有する可能性があることを意味している。
【0198】
非接着性無血清条件下でスフェアを形成する能力は、幹細胞の重要な特性である。近年、細胞凝集塊形成アッセイは、推定CSCを同定および濃縮するための方法として使用された。本明細書で言及した実験では、全3種の悪性細胞系PC−3、DU145およびMGH−U1は非接着性培養中で細胞凝集塊を形成することができたが、これはこれらの細胞系内での癌幹細胞様細胞の存在を示唆した。これらの結果にしたがうと、PC−3、DU145およびMGH−U1各々からの7%、5.4%および1.4%の細胞は、細胞凝集塊を形成することができた。プロスタスフェアにはCSCが濃縮されているので(各々PC−3およびDU145スフェア中の6.25%および12.2%のCD133+、CD44+細胞)、γ−T3がプロスタスフェア形成に及ぼす阻害作用は、γ−T3が前立腺癌幹細胞様細胞を生体外で標的とする、または排除する際の強力な薬剤である可能性を指示している(図5)。類似の作用はMGH−U1細胞でも観察されたが、この場合、γ−T3処理は細胞凝集塊形成において100%阻害を生じさせた(図3E)。膀胱内の推定癌幹細胞は未だ同定されていないが、γ−T3のMGH−U1の幹細胞特性に向かう抑制細胞は、γ−T3の抗CSC作用が前立腺癌に制限されないことを示唆している。これは、γ−T3が膀胱癌細胞におけるCD44発現もまたダウンレギュレートできるという所見によって裏付けられている。
【0199】
CSCが連続移植可能な腫瘍を生体内で生成する能力は、それらが腫瘍開始細胞(TIC)である可能性が高いことを示唆している。この仮説は、単離されたCSC集団が、免疫不全マウスに注射された場合に非CSC対応物より高度に腫瘍原性であるという事実によって支持される。本明細書に開示したように、PC−3細胞がγ−T3で前処理された場合は、腫瘍原性能力の急激な減少が観察される(図4)。全γ−T3前処理PC−3が最終的には検出可能な腫瘍を発生できると言う事実(データは示していない)にもかかわらず、初期腫瘍開始期での検出可能な腫瘍の劇的な減少および腫瘍形成の遅延は、γ−T3が前立腺CSCを標的とする際に高効力であるという本発明者らの仮説を支持している。
【0200】
CSCの存在は、化学耐性の一因となることが示唆されている。前立腺癌細胞は、一般に、一般的化学療法薬に対して高度に耐性である。ドセタキセルは、患者生存率を有意に向上させることを証明した唯一の有効な化学療法薬を表している。DU145に対するドセタキセルのIC90用量は、1.01ng/mLである。しかし本試験では、40ng/mLのドセタキセルを用いたプロスタスフェアの処理はプロスタスフェア数の有意な減少を誘導できなかったが、これはCSCが化学療法薬治療に対して耐性であることをさらに確証している。他方では、γ−T3は、プロスタスフェアの解離と関連しているプロスタスフェア数の劇的な減少を誘導することができなかった(図5)。この根拠は、抗CSC作用がγ−T3の化学増感作用の主な原因となりえることを強く示唆している。これらを要約すると、γ−T3処理が前立腺CSCマーカーの発現をダウンレギュレートするだけではなく、CSC特性も効果的に阻害することが証明された。
【0201】
図6(A)に示した結果は、AKTの発現が低用量(すなわち、0〜約5μg/mLまたは約2.5μg/mLまたは約5μg/mL)のγ−トコトリエノールを用いてダウンレギュレートされることを示しており、これはAKTシグナリング経路の脱活性化を示唆した。前述のように、解離した前立腺細胞内での構成的に活性なAKTのレンチウイルス媒介性発現により、明白な癌腫へ進行する前立腺上皮内腫瘍病変を含有する前立腺小管が再生した。
【0202】
図6(B)に示した結果は、Oct3/4およびNestinの発現が低用量(すなわち、0〜約5μg/mLまたは約2.5μg/mLまたは約5μg/mL)のγ−トコトリエノールを用いてアップレギュレートされることを示しており、これは幹細胞表現型の活性化(多分化能の獲得)を示唆した。一般に、これら2つの遺伝子は密接に調節されるが、過剰または過少は細胞の分化を実際に誘発するからである。
【0203】
6.前立腺上皮内腫瘍(PIN)の形成の予防
【0204】
実験のためには、以前に公表された5週齢の前立腺癌マウスモデル(Gabril,M.Y.,Duan,W.ら、Molecular Therapy(2005),vol.11,no.3,p.348;Greenbergら、Proc Natl Acad Sci USA(1995),vol.92,pp.3439−3443;Duan,W.,Gabril,M.Y.ら、Oncogene(2005)24,1510−1524;Wang S,Gao Jら、Cancer Cell.,2003,vol.4,no.3,pp.209−21;Gabril,M.Y.,Onita,T.ら、Gene Ther.,2002,vol.9,no.23,pp.1589−99)を使用した。全動物実験は、動物実験委員会によって承認された標準プロトコルにしたがって実施した。遺伝子型決定法はPSP−TGMAPにおいて実施し、KIMAPマウスは以前に報告されたように迅速PCR遺伝子型決定法によって同定した(項目6の下で言及した参考文献を参照されたい)。
【0205】
1つの典型的な実験では、動物には経口投与を介して30週間にわたり1mg/日のγ−トコトリエノールを与えた。10、20および30週間の終了時に、動物を致死させた。男性付属腺、すなわち腹葉および背側前立腺葉と一緒に前立腺、および凝固腺を前立腺腫瘍発生、前立腺上皮内腫瘍(PIN)発生および微小浸潤の組織病理学的特性解析のために個別に解剖した。
【0206】
ABCキット(StreptABC Complexキット;DAKO社、カナダ国オンタリオ州ミシサーガ)を用いたIHCについてのプロトコルは、1:500の希釈率で使用した標準クロモグラニン(Chromogranin)(ポリクローナル抗体、Dia Sorin社、米国ミネソタ州スティルウォーター)にしたがって実施した。
【0207】
腫瘍発生を試験するために、以前に報告された確立された診断基準にしたがって一部の修正を行った(項目番号6の下に言及した上記の参考文献を参照されたい)。CaP診断についての臨床標準の不均質性および多病巣性にしたがって、本試験では組織学的な格付けや採点に関するヒトに近い遺伝子組み換えされた(GE)マウスの標準システムを立証した。観察された腺癌の構造的パターンは、5種の異なるGE組織学的悪性度によって評価した:GE−悪性度1(超高分化)、明確な境界をもち、緻密に充填された、単独の、個別の一様な腺;GE−悪性度2(高分化)、不規則な辺縁をもち、ゆるく充填された、単独の、個別の一様な腺;GE−悪性度3(変動性の変形した構造を備える腺)、単独の、個別の、一様に散在性の腺および平滑な限局性の乳頭/篩状塊;GE−悪性度4(低分化)、不規則な、侵襲性辺縁および融合腺を備える篩状の塊;GE−悪性度5、非腺状個体、細胞の丸みを帯びた塊、中心壊死の病巣を備える篩状の塊(コメド癌として公知)および非分化低分化癌。最も広汎性のGE組織学的悪性度(「一次パターン/悪性度」)および第2の広汎性GE組織学的パターン(「二次パターン/悪性度」)に基づくと、新規のGE採点システムは、一次パターンGE悪性度数を二次GE悪性度数に加えることによって得られた。本試験を通して1つのパターンしか所見されなかった場合は、点数は悪性度数を2倍にすることによって得られた。図8に示したように、γ−もしくはδ−トコトリエノールまたはγ−およびδ−トコトリエノールの混合物を含む組成物が与えられたマウスはPINを発生しなかった。
【図1A−C】
【図1D−E】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物を投与する工程によって癌を予防する、または癌治療を受けた後の癌の再発を予防する方法であって、前記癌は黒色腫、前立腺癌、前立腺上皮内腫瘍、大腸癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌および肺癌からなる群より選択される、方法。
【請求項2】
前記癌治療は、手術、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法、分化誘導薬、および前記の治療または療法の組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記癌は、前立腺癌である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物は、γ−トコトリエノールおよび/またはδ−トコトリエノールの濃縮調製物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物は、前記組成物の総重量%に基づいて、10重量%のγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールまたはγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールの混合物を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物は、γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを1:Yの比率で含み、Yは10未満である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物は、α−トコトリエノールおよび/またはβ−トコトリエノールおよび/またはα−トコフェロールをさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物は、成体体重60kgにつき約10mg〜約1000mgの総トコトリエノール重量%含量、または成体体重60kgにつき約10mg〜約500mgの総トコトリエノール重量%含量で投与される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物は、動物の血液中で各個別トコトリエノール異性体について、約0.1〜30mg/Lまたは約10〜30mg/Lの血清濃度が得られる量で投与される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記動物は、哺乳動物である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳動物は、ヒト、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ウシ、イヌおよびネコからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物は、液状天然油、水溶性エマルジョン、冷水分散性粉末、およびビーズレット(beadlets)として調製される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物は、錠剤、ゲル、糖衣錠、徐放性調製物、軟膏、もしくは注射用調製物として、またはカプセル化形で投与される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物は、経口で、または皮内、皮下、もしくは腹腔内に投与される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物は、緑茶ポリフェノール、有機硫黄化合物、トラメテス・ベルシカラー(Trametes versiolor)またはコリオラス・ベルシカラー(Coriolus versicolor)から単離したタンパク質結合多糖類、赤色カルテノイド色素および上記の物質の組み合わせからなる群より選択される1つの物質をさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記緑茶ポリフェノールは、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、没食子酸(ECG)および没食子酸エピガロカテキン(EGCG)からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記有機硫黄化合物は、ニンニク由来S−アリルメルカプトシステインおよびニンニク由来アリシンからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記タンパク質結合多糖類は、多糖−K(クレスチン、PSK)または多糖ペプチド(PSP)である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記赤色カルテノイド色素は、リコピンである、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つ、および5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)を含む組成物。
【請求項21】
γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物を、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)と共に投与することによって、癌を阻害または後退させる方法。
【請求項22】
前記癌は、黒色腫、前立腺癌、大腸癌、肝臓癌、前立腺上皮内腫瘍、膀胱癌、乳癌および肺癌からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物は、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)と共に、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、黒色腫を阻害または後退させるための請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物は、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)と共に、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、前立腺癌を阻害または後退させるための請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記組成物は、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)と共にγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、乳癌を阻害または後退させるための、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物は、γ−トコトリエノールおよび/またはδ−トコトリエノールの濃縮調製物である、請求項20に記載の組成物または請求項21〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物は、前記組成物の総重量%に基づいて10重量%超のγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールまたはγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールの混合物を含む、請求項20もしくは26の組成物または請求項21〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物は、γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを1:Yの比率で含み、Yは10未満である、請求項20もしくは請求項26〜27の記載の組成物または請求項21〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物は、α−トコトリエノールおよび/またはβ−トコトリエノールおよび/またはα−トコフェロールをさらに含む、請求項20もしくは請求項26〜28に記載の組成物または請求項21〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物は、緑茶ポリフェノール、有機硫黄化合物、タンパク質結合多糖類、トラメテス・ベルシカラーもしくはコリオラス・ベルシカラーから単離した多糖ペプチド、赤色カルテノイド色素ならびに上記の物質の組み合わせからなる群より選択される1つの物質をさらに含む、請求項20もしくは26〜29に記載の組成物または請求項21〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物は、成体体重60kgにつき、約10mg〜約1000mgの総トコトリエノール重量%含量、または成体体重60kgにつき約10mg〜約500mgの総トコトリエノール重量%含量で投与される、請求項21〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物は、動物の血液中で各個別トコトリエノール異性体について約0.1〜30mg/Lまたは約10〜30mg/Lの血清濃度が得られる量で投与される、請求項21〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記動物は、哺乳動物である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳動物は、ヒト、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ウシ、イヌおよびネコからなる群から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物は、水可溶化形で投与される、請求項21〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物は、錠剤、ゲル、糖衣錠、徐放性調製物、軟膏、もしくは注射用調製物としての形態で、またはカプセル化形で投与される、請求項21〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物は、皮内、皮下、もしくは腹腔内に、または経口で投与される、請求項21〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
動物体において癌を予防する、または癌治療を受けた後に動物体内での癌の再発を予防するための医薬品を製造するためのγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物の使用であって、前記癌は、黒色腫、前立腺癌、大腸癌、肝臓癌、前立腺上皮内腫瘍、膀胱癌、乳癌および肺癌からなる群より選択される、使用。
【請求項39】
癌を治療するための医薬品を製造するための、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)と共に、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールをのうちの少なくとも1つを含む、組成物の使用。
【請求項40】
γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)と混合する工程を含む、請求項20に記載の組成物を製造する方法。
【請求項1】
γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物を投与する工程によって癌を予防する、または癌治療を受けた後の癌の再発を予防する方法であって、前記癌は黒色腫、前立腺癌、前立腺上皮内腫瘍、大腸癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌および肺癌からなる群より選択される、方法。
【請求項2】
前記癌治療は、手術、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法、分化誘導薬、および前記の治療または療法の組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記癌は、前立腺癌である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物は、γ−トコトリエノールおよび/またはδ−トコトリエノールの濃縮調製物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物は、前記組成物の総重量%に基づいて、10重量%のγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールまたはγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールの混合物を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物は、γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを1:Yの比率で含み、Yは10未満である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物は、α−トコトリエノールおよび/またはβ−トコトリエノールおよび/またはα−トコフェロールをさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物は、成体体重60kgにつき約10mg〜約1000mgの総トコトリエノール重量%含量、または成体体重60kgにつき約10mg〜約500mgの総トコトリエノール重量%含量で投与される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物は、動物の血液中で各個別トコトリエノール異性体について、約0.1〜30mg/Lまたは約10〜30mg/Lの血清濃度が得られる量で投与される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記動物は、哺乳動物である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳動物は、ヒト、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ウシ、イヌおよびネコからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物は、液状天然油、水溶性エマルジョン、冷水分散性粉末、およびビーズレット(beadlets)として調製される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物は、錠剤、ゲル、糖衣錠、徐放性調製物、軟膏、もしくは注射用調製物として、またはカプセル化形で投与される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物は、経口で、または皮内、皮下、もしくは腹腔内に投与される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物は、緑茶ポリフェノール、有機硫黄化合物、トラメテス・ベルシカラー(Trametes versiolor)またはコリオラス・ベルシカラー(Coriolus versicolor)から単離したタンパク質結合多糖類、赤色カルテノイド色素および上記の物質の組み合わせからなる群より選択される1つの物質をさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記緑茶ポリフェノールは、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、没食子酸(ECG)および没食子酸エピガロカテキン(EGCG)からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記有機硫黄化合物は、ニンニク由来S−アリルメルカプトシステインおよびニンニク由来アリシンからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記タンパク質結合多糖類は、多糖−K(クレスチン、PSK)または多糖ペプチド(PSP)である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記赤色カルテノイド色素は、リコピンである、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つ、および5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)を含む組成物。
【請求項21】
γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物を、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)と共に投与することによって、癌を阻害または後退させる方法。
【請求項22】
前記癌は、黒色腫、前立腺癌、大腸癌、肝臓癌、前立腺上皮内腫瘍、膀胱癌、乳癌および肺癌からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物は、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)と共に、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、黒色腫を阻害または後退させるための請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物は、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)と共に、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、前立腺癌を阻害または後退させるための請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記組成物は、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−N−tert−ブチルエステル−3−フェニルイソセリン,13−エステル(ドセタキセル)と共にγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む、乳癌を阻害または後退させるための、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物は、γ−トコトリエノールおよび/またはδ−トコトリエノールの濃縮調製物である、請求項20に記載の組成物または請求項21〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物は、前記組成物の総重量%に基づいて10重量%超のγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールまたはγ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールの混合物を含む、請求項20もしくは26の組成物または請求項21〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物は、γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノールを1:Yの比率で含み、Yは10未満である、請求項20もしくは請求項26〜27の記載の組成物または請求項21〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物は、α−トコトリエノールおよび/またはβ−トコトリエノールおよび/またはα−トコフェロールをさらに含む、請求項20もしくは請求項26〜28に記載の組成物または請求項21〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物は、緑茶ポリフェノール、有機硫黄化合物、タンパク質結合多糖類、トラメテス・ベルシカラーもしくはコリオラス・ベルシカラーから単離した多糖ペプチド、赤色カルテノイド色素ならびに上記の物質の組み合わせからなる群より選択される1つの物質をさらに含む、請求項20もしくは26〜29に記載の組成物または請求項21〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物は、成体体重60kgにつき、約10mg〜約1000mgの総トコトリエノール重量%含量、または成体体重60kgにつき約10mg〜約500mgの総トコトリエノール重量%含量で投与される、請求項21〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物は、動物の血液中で各個別トコトリエノール異性体について約0.1〜30mg/Lまたは約10〜30mg/Lの血清濃度が得られる量で投与される、請求項21〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記動物は、哺乳動物である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳動物は、ヒト、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ウシ、イヌおよびネコからなる群から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物は、水可溶化形で投与される、請求項21〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物は、錠剤、ゲル、糖衣錠、徐放性調製物、軟膏、もしくは注射用調製物としての形態で、またはカプセル化形で投与される、請求項21〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物は、皮内、皮下、もしくは腹腔内に、または経口で投与される、請求項21〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
動物体において癌を予防する、または癌治療を受けた後に動物体内での癌の再発を予防するための医薬品を製造するためのγ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを含む組成物の使用であって、前記癌は、黒色腫、前立腺癌、大腸癌、肝臓癌、前立腺上皮内腫瘍、膀胱癌、乳癌および肺癌からなる群より選択される、使用。
【請求項39】
癌を治療するための医薬品を製造するための、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)と共に、γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールをのうちの少なくとも1つを含む、組成物の使用。
【請求項40】
γ−トコトリエノールもしくはδ−トコトリエノールのうちの少なくとも1つを、5,20−エポキシ−1,2,4,7,10,13−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン−4−アセテート−2−ベンゾアート三水和物を含む(2R,3S)−N−カルボキシ−3−フェニルイソセリン,N−tert−ブチルエステル,13−エステル(ドセタキセル)および/または(5Z)−5−(ジメチルアミノヒドラジニリデン)イミダゾール−4−カルボキサミド(ダカルバジン)と混合する工程を含む、請求項20に記載の組成物を製造する方法。
【図2】
【図3A−B】
【図3C−D】
【図3E】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A1】
【図10A2】
【図10A3】
【図10A4】
【図10A5A−B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15A−B】
【図15C】
【図15D】
【図16】
【図17A−B】
【図17C−D】
【図18A−B】
【図18C−D】
【図19A】
【図19B】
【図20A−B】
【図20C−D】
【図20E】
【図20F】
【図21A】
【図21B】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26A】
【図26B】
【図26C】
【図27A−B】
【図27C】
【図28A】
【図28B−C】
【図29A1】
【図29A2−3】
【図29A4】
【図29B1】
【図29B2−3】
【図29B4】
【図30】
【図31】
【図32A】
【図32B】
【図3A−B】
【図3C−D】
【図3E】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A1】
【図10A2】
【図10A3】
【図10A4】
【図10A5A−B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15A−B】
【図15C】
【図15D】
【図16】
【図17A−B】
【図17C−D】
【図18A−B】
【図18C−D】
【図19A】
【図19B】
【図20A−B】
【図20C−D】
【図20E】
【図20F】
【図21A】
【図21B】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26A】
【図26B】
【図26C】
【図27A−B】
【図27C】
【図28A】
【図28B−C】
【図29A1】
【図29A2−3】
【図29A4】
【図29B1】
【図29B2−3】
【図29B4】
【図30】
【図31】
【図32A】
【図32B】
【公表番号】特表2012−506426(P2012−506426A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533142(P2011−533142)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【国際出願番号】PCT/SG2009/000390
【国際公開番号】WO2010/047663
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(510299385)ダボス ライフ サイエンス ピーティーイー. リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【国際出願番号】PCT/SG2009/000390
【国際公開番号】WO2010/047663
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(510299385)ダボス ライフ サイエンス ピーティーイー. リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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