説明

癌を治療するための方法及び組成物

本発明は、ルテニウム化合物を使用して、増殖性疾患、特に癌を治療するための使用及び方法、並びにそれを含有する組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム化合物を使用して、増殖性疾患、特に癌を治療するための使用又は方法、及びそれを含有する組成物に関する。
【0002】
白金錯体は、高い抗腫瘍活性を有することが知られている。白金錯体のうち最もよく知られているのはシスプラチンであり、これは、多くの癌の臨床治療に一般的に使用されている。いくらかの癌細胞の白金に対する耐性及び白金固有の毒性が、この化合物を使用するときに遭遇する問題のうちの1つである。70年代以降、シスプラチンの代わりになり得る分子を見出すための研究が強化され、数年の間に、ルテニウムを含有する化合物が、白金を含有する化合物の代わりになり得る対象であるということが分かってきた。それによって、既にいくつかのルテニウム錯体が抗癌治療のための代替物となり得ると報告されている。
【0003】
したがって、現在用いられている抗癌剤の代わりとなり得る新規抗癌剤が必要とされており、それは、有利には、より効果が高く及び/又は有害な副作用が少ない。
【0004】
したがって、本発明は、特に興味のある抗腫瘍特性を示すルテニウム化合物について開示する。これらの化合物は有機金属化合物である、すなわち、前記化合物は少なくとも1つの炭素−金属共有結合(C−M、Mはルテニウムである)を含有する。更に、このC−Ru結合は、2つの他の分子内窒素−ルテニウム結合(N−Ru)によって安定化され、前記窒素原子は、炭素原子を介してルテニウムに結合している有機部分の元素である。
【0005】
したがって、この種の原子配列では、ルテニウムは環状体に属し、そして、化合物のこのクラスは、この分野における化学者から一般にシクロメタル化化合物のクラスと呼ばれている。ルテニウムを含有する環状体は、メタロサイクルと呼ばれている。したがって、前記メタロサイクルにおいて、ルテニウムは、炭素−ルテニウム共有結合と2つのドナーアクセプター型(ルイス酸−塩基、又は配位結合)窒素−ルテニウム結合との両方を介して、有機配位子に結合している。有機金属分子における前記金メタロサイクルの存在は、特に、反応性及び熱力学的安定性の点で有機金属分子に特定の特性を付与する。様々な種類の炭素原子(芳香族、ベンジル、又は脂肪族)をメタル化することができ、ドナー原子(窒素)と炭素原子との間の結合の種類は複数の方法で変更することができる。
【0006】
第1の局面によれば、本発明の目的は、薬学的に許容しうる媒体において、以下の一般式:
【化1】


[(式(I)中、
、L、Lは、同一であるか又は異なり、各々、窒素、酸素、リンもしくは硫黄原子を介する2個の電子のドナー配位子を表すか、又はハロゲン原子を表し、Yは、対イオン(m=1である場合)であり、mは、0又は1であり、X及びXは互いに異なり、一方が窒素原子を表し、そして他方が炭素原子を表し、曲線によって表されるXとXとの間には、一連の原子が存在し、式中に表されるX、X及びRuと共に、5〜8個の原子で構成される環を形成し、そして、別の曲線によって表されるNとXとの間には、一連の原子が存在し、式中に表される窒素原子、X、及びRuと共に、5〜8個の原子で構成される環を形成する]
で表される少なくとも1つの錯体ルテニウム化合物を含む医薬組成物である。
【0007】
本発明においては、用語≪薬学的に許容しうる媒体≫は、医薬品を調製するために活性成分と組み合わせて従来から使用されている、賦形剤、溶剤、添加剤、緩衝液等の物質を意味する。前記媒体の選択は、本質的に、予定される投与経路に依存する。
【0008】
本発明の化合物は、薬学的に許容しうる塩、溶媒和物及び/又はプロドラッグの形態であってもよい。プロドラッグは、本発明に係る一般式で表される化合物にインビボで変換され得る本発明の化合物の変異体である。
【0009】
≪ハロゲン原子≫とは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子を指定することを意味する。ハロゲン原子は、有利には塩素原子である。
【0010】
窒素、酸素又は硫黄原子による2個の電子のドナー配位子は、例えば、HO、ジ((C1−6)アルキル)O、ジ((C1−6)アルキル)S、ジ((C1−6)アルキル)S(O)、(C1−6)アルキルSO、ジ((C1−6)アルキル)C=O、(C1−6)アルキルCOを含む。
【0011】
、L及び/又はLについて他の可能な配位子は、特に、式(C1−6)アルキルCN(特に、CHCH)の配位子等のニトリル配位子及びピリジン配位子を含み、これらは、場合により、ピリジン環のうちの1つ以上の炭素原子が、ハロゲン原子、基:アルキル、アリール、ヒドロキシル、アルコキシル(O−アルキル)、アリールオキシル(O−アリール)、カルボン酸、エステル(CO−アルキル)、チオール、チオエーテル(S−アルキル)、スルフィン酸、スルホン酸、ニトロ、ニトロキシル、アミン(N(アルキル又はアリール)2−x[式中、xは、整数であり、0、1又は2であり得る])、トリアルキルアンモニウム(N(アルキル又はアリール)3−y[式中、yは、整数であり、0、1、2又は3であり得る])、ヒドロキシルアミン(N(OH)(アルキル又はアリール)2−z[式中、zは、整数であり、1又は2であり得る])、ヒドラジン、アゾ(N=N−(アルキル又はアリール)、ジアゾニウム、アミド(CO−NH(アルキル又はアリール)2−w[式中、wは、整数であり、0、1又は2であり得る])又はシアノによって置換される。この段落において示される化学基の定義は、本願におけるこれらの用語の全ての使用に有効である。
【0012】
他の配位子の中で、メチルアミン又はエチルアミン等の一級アミン:(C1−6)アルキルNHに、特に言及してもよい。
【0013】
リン原子を介する2個の電子のドナー配位子は、ホスフィン型の配位子を含む。それらは有利には、式P(Ph)3x(アルキル)[式中、xは、0、1又は2を表し、好ましくはxは2を表し、そして、Phはフェニル基を表す]である。これらの配位子中で、P(Ph)(CHに、特に言及してもよい。
【0014】
本発明によれば、用語≪アルキル≫は、直鎖又は分岐鎖の、飽和又は不飽和の炭化水素基を意味し、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル等の、有利には1〜6つの炭素原子を有するものである。1〜4つの炭素原子を有する基が好ましい。アルキル基は、アリール基によって置換されてもよく、この場合、この基は、アリールアルキル基と呼ばれる。アリールアルキル基の例は、特にベンジル及びフェネチルである。アルキル基又はアリールアルキル基は、場合により、1つ以上の置換基を有してもよく、特に、ハロゲン原子、基:アルキル、アリール、ヒドロキシル、アルコキシル(O−アルキル)、アリールオキシ(O−アリール)、カルボン酸、エステル(CO−アルキル)、チオール、チオエーテル(S−アルキル)、スルフィン酸、スルホン酸、ニトロ、ニトロキシル、アミン(N(アルキル又はアリール)2−x[式中、xは、整数であり、0、1又は2であり得る])、トリアルキルアンモニウム(N(アルキル又はアリール)3−y[式中、yは、整数であり、0、1、2又は3であり得る])、ヒドロキシルアミン(N(OH)(アルキル又はアリール)2−z)[式中、zは、整数であり、1又は2であり得る])、ヒドラジン、アゾ(N=N−(アルキル又はアリール))、ジアゾニウム、アミド(CO−NH(アルキル又はアリール)2−w[式中、wは、整数であり、0、1又は2であり得る])又はシアノの中から選択される。
【0015】
≪アリール≫基は、単環の、二環の、又は三環の芳香族炭化水素であり、場合により、少なくとも1つのヘテロ原子(特にO、S又はN)によって分断される。好ましくは、アリール基は、6〜18個の炭素原子、更に好ましくは6個の炭素原子を有する単環の又は二環の芳香族炭化水素系を含む。例えば、フェニル、ナフチル、及びビフェニル基に言及してもよい。ヘテロ原子によって分断される場合、アリール基は、ピリジル、イミダゾイル、ピロリル及びフラニル環を含む。アリール基は、場合により、1つ以上の置換基を有してもよく、特に、ハロゲン原子、基:アルキル、アリール、ヒドロキシル、アルコキシル(O−アルキル)、アリールオキシ(O−アリール)基、カルボン酸、エステル(CO−アルキル)、チオール、チオエーテル(S−アルキル)、スルフィン酸、スルホン酸、ニトロ、ニトロキシル、アミン(N(アルキル又はアリール)2−x[式中、xは、整数であり、0、1又は2であり得る])、トリアルキルアンモニウム(N(アルキル又はアリール)3−y[式中、yは、整数であり、0、1、2又は3であり得る])、ヒドロキシルアミン(N(OH)(アルキル又はアリール)2−z)[式中、zは、整数であり、1又は2であり得る])、ヒドラジン、アゾ(N=N(アルキル又はアリール))、ジアゾニウム、アミド(CO−NH(アルキル又はアリール)2−w[式中、wは、整数であり、0、1又は2であり得る])、又はシアノの中から選択される。
【0016】
1つの具体的な態様によれば、基L、L及びLのうちの2つ又は3つは、少なくとも1つの共有結合によって結合されてもよい。これに関して、ビピリジン、フェナントロリン、又はテルピリジン単位に特に言及してもよく、特に、少なくとも一つの、ハロゲン原子、基:アルキル、アリール、ヒドロキシル、アルコキシル(O−アルキル)、アリールオキシ(O−アリール)、カルボン酸、エステル(CO−アルキル)、チオール、チオエーテル(S−アルキル)、スルフィン酸、スルホン酸、ニトロ、ニトロキシル、アミン(N(アルキル又はアリール)2−x[式中、xは、整数であり、0、1又は2であり得る])、トリアルキルアンモニウム(N(アルキル又はアリール)3−y[式中、yは、整数であり、0、1、2又は3であり得る])、ヒドロキシルアミン(N(OH)(アルキル又はアリール)2−z[式中、zは、整数であり、1又は2であり得る])、ヒドラジン、アゾ(N=N−(アルキル又はアリール))、ジアゾニウム、アミド(CO−NH(アルキル又はアリール)2−w[式中、wは、整数であり、0、1、又は2であり得る])又はシアノによって、場合により置換されている。
【0017】
好ましくは、本発明の化合物は、窒素原子を介する2個の電子のドナー配位子を表す1つ、2つ又は3つのL、L及びL基を有する。
特に、L、L及び/又はLは、単独で、又は2つずつで、又は3つで、ピリジン、ビピリジン、フェナントロリン又はテルピリジン基を表してもよく、前記基は、特に、少なくとも1つの、ハロゲン原子、基:アルキル、アリール、ヒドロキシル、アルコキシル(O−アルキル)、アリールオキシ(O−アリール)、カルボン酸、エステル(CO−アルキル)、チオール、チオエーテル(S−アルキル)、スルフィン酸、スルホン酸、ニトロ、ニトロキシル、アミン(N(アルキル又はアリール)2−x[式中、xは、整数であり、0、1又は2であり得る])、トリアルキルアンモニウム(N(アルキル又はアリール)3−y[式中、yは、整数であり、0、1、2又は3であり得る])、ヒドロキシルアミン(N(OH)(アルキル又はアリール)2−z[式中、zは、整数であり、1又は2であり得る])、ヒドラジン、アゾ(N=N−アルキル又はアリール)、ジアゾニウム、アミド(CO−NH(アルキル又はアリール)2−w[式中、wは、整数であり、0、1又は2であり得る])又は、シアノによって、場合により置換されている。
【0018】
より具体的には、本発明の化合物は、3つの基L、L及びLが共に窒素原子を介する2個の電子のドナー配位子を形成するような化合物であり、例えば、L、L及びLは共に、場合により、少なくとも1つの、ハロゲン原子、基:アルキル、アリール、ヒドロキシル、アルコキシル(O−アルキル)、アリールオキシル(O−アリール)、カルボン酸、エステル(CO−アルキル)、チオール、チオエーテル(S−アルキル)、スルフィン酸、スルホン酸、ニトロ、ニトロキシル、アミン(N(アルキル又はアリール)2−x[式中、xは、整数であり、0、1、又は2であり得る])、トリアルキルアンモニウム(N(アルキル又はアリール)3−y[式中、yは、整数であり、0、1、2又は3であり得る])、ヒドロキシルアミン(N(OH)(アルキル又はアリール)2−z[式中、zは、整数であり、1又は2であり得る])、ヒドラジン、アゾ(N=N−(アルキル又はアリール))、ジアゾニウム、アミド(CO−NH(アルキル又はアリール)2−w[式中、wは、整数であり、0、1、又は2であり得る])、又はシアノによってピリジン環の1つ以上の炭素原子が置換される、テルピリジン又は2−(2−ピリジル)−1,10−フェナントロリンを形成することができる。好ましくは、前記置換基は、アリール基、好ましくはフェニル、有利にはメチル又はメトキシ基によって置換されるそれ自体である。
【0019】
本発明によれば、用語≪ビピリジン≫、≪フェナントロリン≫、≪テルピリジン≫及び≪2−(2−ピリジル)−1,10−フェナントロリン≫は以下:
【化2】


に定義されるようなものであり、それぞれ、配位子5、6、7及び8に対応する。
【0020】
本発明の化合物におけるYは対イオンであり、そしてルテニウム錯体が正電荷を有する場合にのみ化合物の中に存在する。Yは、求核性のほとんどないアニオンであり、好ましくは、BF、B(C、PF、CFSO、トシラート(p−トリルSO)、メシラート(MeSO)、SO2−、CFCO2−、CHCO、重炭酸イオン(HCO)、ClO又はNO等であり、特に、PFである。
【0021】
配位子L、L及びLは、ルテニウムの配位球面を完成させるためにのみその存在が必要とされるいわゆる補助配位子である。その性質は、請求される化合物の生物活性に重大な影響はないと考えられ、このような活性は、メタロサイクルの種類に主に関係している。
【0022】
本発明の1つの具体的な態様によれば、mは1である。
【0023】
曲線は、一般式におけるX、X及びRuと共に、環を表す。この環は、一般に、5〜8つの原子(式(I)中、X、X及びRuによって表される原子を含む)、好ましくは5〜6つの原子、そして、更に好ましくは5つの原子で形成される。典型的に、前記環の原子(一般式中に表される原子以外)は、炭素、窒素、酸素及び硫黄原子から選択される。これらの原子は炭素原子のみであることが好ましい。これらの原子の各々は、前記環とは無関係に、飽和していようとしていまいと、直鎖又は環状の構造を形成し、そのための制限は特にない。
【0024】
曲線は、一般式におけるX、N及びRuと共に、第1の環とRu−X結合を共有する別の環を表す。この環は、一般に、5〜8つの原子[式(I)中、X、N及びRuによって表される原子を含む]、好ましくは5〜6つの原子、そして、更に好ましくは5つの原子で形成される。典型的に、前記環の原子(一般式中に表される原子以外)は、炭素、窒素、酸素及び硫黄原子から選択される。これらの原子は炭素原子のみであることが好ましい。これらの原子の各々は、前記環とは無関係に、飽和していようとしていまいと直鎖又は環状の構造を形成し、そのための制限は特にない。
【0025】
したがって、2つの曲線を含む構造単位の中でも、以下:
【化3】


に示す2つの基に特に言及することができる。
【0026】
また、本発明の化合物は、式(I)で表される化合物の、個別に又は混合物(特に、ラセミ化合物)として得られる光学異性体及び幾何異性体を含む。
【0027】
一般式(I)に含まれる化合物の中でも、図1に例示される化合物((1)〜(12)の番号が付けられた化合物)に特に言及することができる。1つの具体的な局面によれば、本発明の化合物は、化合物(1)〜(12)のうちの少なくとも1つを含む。
【0028】
調製方法:
本発明の化合物を合成するためのいくつかの方法が存在する。最も有利なものは、C−H結合からのC−Ru結合の形成を直接導くいわゆる分子内CH活性化反応、又はシクロメタル化反応(A.D Ryabov, Chem. Rev. 1990, 90, 403-424を参照されたい)を使用する方法である。
【0029】
別の方法は、例えば、対応するリガンドをn−BuLi等の強塩基と反応させることにより、そのリチウムが後にルテニウムによって置換される有機リチウムを導いて、ルテニウムに結合させることを意図する炭素を事前にメタル化することを含む。この第2の合成経路を用いて、化合物(1)に類似するが、配位子であるビス(2−ピリジル)−1,3−ベンゼンのピリジン基がCHNMe体によって置換されている化合物を得ることに成功している(Organometallics, 1996, 15, 941-948を参照されたい)。
【0030】
刊行物:J. Am. Chem. Soc. 1991, 113, 8521-8522 and Inorg. Chem. 1993, 32, 4539-4543に記載のプロトコールに従い、以下の式:
【化4】


による第1経路を使用して、化合物(1)を得た。
【0031】
また、Eur. J. Inorg. Chem. 2000, 113-119に記載のプロトコールに従い、第1の経路を使用して、化合物(2)及び(3)を合成した。反応スキームを以下に示す:
【化5】

【0032】
Inorg. Chem, 2009, 5685-5696に記載されている類似の合成経路を使用して、化合物(4)〜(7)及び(10)〜(12)を合成した。
【0033】
それぞれ、配位子である2,6−ビス(2’ピリジル)−4−カルボメトキシベンゼン及び2,6−ビス(2’ピリジル)−4−メチルベンゼンのメタル化によって化合物(8)及び(9)を合成した。
【0034】
また、本発明は、化合物(8)及び(9):
【化6】


の中から選択されることを特徴とするルテニウム化合物に関する。
【0035】
上述のように、本発明の組成物は、細胞の過剰増殖に関する疾患、特に癌を治療するために特に有益である。癌は、固形又は液体腫瘍を伴うものを含む。癌は、特に、膠芽腫、神経芽細胞腫、前骨髄球性白血病、前立腺癌、卵巣癌、肺癌、乳癌、及び消化管癌、特に、肝臓癌、膵臓癌、頭頸部癌、結腸癌、非ホジキンリンパ腫及び黒色腫に関する。
【0036】
本発明の更なる目的は、細胞の過剰増殖に関する疾患、特に癌の治療において使用するための、上に定義したような式(I)で表される化合物である。
【0037】
本発明の更なる目的は、細胞の過剰増殖に関する疾患、特に癌を治療することを目的とする医薬組成物を調製するための、上に定義したような少なくとも1つの式(I)で表される化合物の使用である。
【0038】
本発明の化合物は、腫瘍細胞に対して抗増殖性効果を有する。本発明の化合物は、G0/G1期又はG2/M期に腫瘍細胞を蓄積させることによって、そして、場合により、腫瘍細胞のアポトーシス又は他の種類の細胞死を誘導することによって、癌を治療するために特に有用である。
【0039】
本発明に関するいずれの理論に縛られるものでもないが、本発明の化合物は、特に、G0/G1期又はG2/M期に腫瘍細胞を蓄積させることができるので、腫瘍細胞の細胞周期をブロックすることができると考えられるが、特に濃度が増加したとき、用量依存的な毒性の指標である急死を生じさせることもできると考えられる。
【0040】
更に、本発明の化合物は、シスプラチン又は他の抗癌薬に対して耐性である腫瘍を治療するために特に有用である。
【0041】
本発明の組成物は、様々な方法及び様々な形態で投与することができる。例えば、経口経路を介して、吸入又は注射を介して、例えば、静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、経皮経路、動脈内経路等を介して全身に投与することができ、静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、経口経路、及び、吸入経路が好ましい。注射する場合、前記組成物は、一般的に、例えば注射器又は点滴を使用して注射することができる液体懸濁液の形態である。これに関して、前記化合物は、一般的に、製薬用途に適合しており、そして、当業者に公知である生理食塩水、生理学的、等張、緩衝液等に溶解した状態である。したがって、本発明の組成物は、分散剤、可溶化剤、安定剤、保存剤等の中から選択される1つ以上の剤又は溶剤を含有してもよい。液体の及び/又は注射可能な製剤において使用することができる剤及び溶剤は、特にメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリソルベート80、マンニトール、ゼラチン、ラクトース、植物油、アラビアゴム等である。
【0042】
また、前記組成物は、場合により、ガレヌス製剤形態(galenic form)又は装置を用いることによって、ゲル、油、錠剤、坐剤、散剤、軟質カプセル剤、硬質カプセル剤、エアゾール剤等の形態で投与されて、確実に持続及び/又は遅延放出させることもできる。この種の製剤の場合、セルロース、炭酸塩又はデンプン等の物質を用いることが有利である。
【0043】
明らかに、注射速度及び/又は注射される用量は、患者、関連する病状、投与方法等に関連して、当業者が適応させることができる。典型的には、本発明の化合物は、0.1μg〜100mg/kg(体重)、より一般的には0.01〜10mg/kg、典型的には0.1〜10mg/kgで変動し得る用量で投与される。更に、繰り返し注射してもよい。また、慢性処置については、持続放出系及び/又は遅延放出系が有利である場合もある。
【0044】
また、本発明は、細胞の過剰増殖に関する病状、特に癌を治療するための方法であって、前記病状に罹患している個体に本発明に係る組成物を投与することを介する方法に関する。
【0045】
本発明に従って治療され得ると意図される他の種類の細胞の過剰増殖の中でも、良性の腫瘍に言及してもよい。
本発明の状況において、用語≪治療≫は、予防的治療、根治的治療、対症療法、及び患者の管理(苦痛を低減する、寿命を延ばす、疾患の進行を遅らせる、腫瘍の増殖を低減する等)を指す。また、前記治療は、他の化学もしくは理学剤、又は治療(化学療法、放射線療法、遺伝子治療等)と組み合わせて行ってもよい。本発明の治療及び医薬品は、より具体的にはヒトを対象とする。
【0046】
したがって、本発明の化合物は、放射線療法等の放射線を使用する抗癌治療と組み合わせて有利に使用することができる。
本発明の別の局面によれば、本発明の組成物は、以下の治療用化学剤:シスプラチン、カルボプラチン、タキソテール又はタキソール(有利には、タキソール)等の他の化学剤又は抗癌治療処置と共に用いてもよい。本発明の化合物は、好ましくは、パッケージ化されて、他の治療剤又は治療に対して、組み合わせて、別々に、又は順次投与される。
【0047】
また、本発明は、腫瘍細胞の増殖をインビボ、インビトロ、又はエキソビボで阻害するための方法であって、本発明に係る組成物と前記腫瘍細胞とを接触させる工程を含む方法に関する。前記腫瘍細胞は、特に、上記の指定された病状の腫瘍細胞であってもよい。
【0048】
以下の図及び実施例において、用語≪RDC≫は、ルテニウムに由来する化合物(Ruthenium Derived Compound)を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】式(I)で表される化合物の例。
【図2】化合物1、2及び3のA172細胞に対するMTT試験の結果。グラフは、4つの実施された実験のうちの代表的な実験における8点の平均を標準偏差と共に示す。太い横線は、各グラフのIC50を示す。
【図3】化合物4〜12のA172細胞に対するMTT試験の結果:関心化合物の濃度(μM)に対する細胞の生存率(%)。太い横線は、各グラフのIC50を示す。
【図4】様々な濃度の化合物8及び9で処理されたHCT116細胞の細胞周期のプロファイル。
【図5】参照化合物で処理された細胞と比較した、化合物8又は化合物9で処理されたA172腫瘍細胞のCHOPタンパク質の発現、及びセリン部位137におけるヒストンH2AXのリン酸化。
【図6】F10B16腫瘍を有するマウスにおける、化合物9による処理日数に対する腫瘍体積(mm3)を示すグラフ。
【図7】F10B16腫瘍を有するマウスにおける、化合物8による処理日数に対する腫瘍体積(mm3)を示すグラフ。
【0050】
本出願の他の曲面及び利点は、以下の実施例を読むことによって明らかになるが、これら実施例は、例示であり、限定するものではないと解釈すべきである。
【0051】
実施例
実施例1:化合物8及び9の合成及び特性評価
シクロメタル化された化合物は、特にルテニウムによる配位子のメタル化段階において、空気中の酸素及び酸に対する感受性が高い。したがって、Schlenk管技術を使用して、制御雰囲気(窒素又はアルゴン)下で操作を実施することが望ましい。窒素(又はアルゴン)下で、溶媒をそれを使用する前に、乾燥及び蒸留させる。
【0052】
化合物8の合成:
Schllenk管に、MeCN4mL中における2,6−ビス(2’ピリジル)−4−カルボメトキシベンゼン(LH)(62mg、0.2mmol)、[RuCl(η(エータ)−C(52mg、0.1mmol)、KPF(80mg、0.4mmol)、フレーク状のNaOH(8mg、0.2mmol)を添加する。45℃で15時間この混合物を加熱する。標準化されたアルミナカラム(カラム長さ:直径2cmの管において15cm)を用いて不活性雰囲気下で得られる橙色の溶液を濾過し、そして、この溶液を0.5mLになるまで体積を濃縮して減少させる。10mLのEt0の添加によって、実験式[RuL(MeCN)PF−(収量91mg、収率69%)を満たす橙色の生成物が沈殿する。
【0053】
[RuL(MeCN)PF(18mg、0.027mmol)、及び1,10−フェナントロリン(5.4mg、0.027mmol)のMeOH(2mL)溶液を、12時間還流下で加熱する。次いで、真空内で溶媒を除去し、暗褐色の粉末を得る。MeCN5mLにこの粉末を溶解させ、溶出剤としてMeCNを使用して、標準化されたアルミナ(カラム長さ:直径2cmのチューブにおいて5cm)を通して濾過する。紫色の分画を回収し、そして、溶媒を真空内で蒸発させる。ペンタンがゆっくり拡散する最小体積のCHCl中で前述の粉末の溶液から暗紫色の結晶の形態の生成物8を得る(収量:18mg、収率88%)。
MS (ES, m/z): Calculated for C32H24F6O2Ru: 612.098 (M); Found: 612.109.
IR (cm-1): 2264 (vN≡C), 840 (vPF).
1H NMR (400.13 MHz, CD3CN, 300K): 10.02 (dd, 1H, 3J=5.1, 4J=1.8, H0), 8.81 (dd, 1H, 3J=8.3, 4J=1.3, Hp), 8.62 (s, 2H, H5), 8.35 (dd, 1H, 3J=8.1, 4J=4.9, Hm), 8.21 (d, 1H, 3J=8.8, Hphen), 8.20 (d, 2H, 3J=8.0, H1), 8.06 (dd, 3J=8.1, 4J=1.2, H0), 7.99 (d, 1H, 3J=8.9, Hphen), 7.70 (td, 2H, 3J=7.6, 4J=1.7, H2), 7.57 (d, 2H, 3J=7.57, H3), 7.32 (dd, 1H, 3J=5.5, 4J=1.2, Hp), 7.11 (dd, 1H, 3J=8.1, 4J=4.9, Hm), 6.81 (td, 1H, 3J=6.6, 4J=1.3, H4), 4.05 (s, 3H, CH3), 2.10 (s, 3H, NCCH3).
13C NMR (100.62 MHz, CD3CN, 300K): 169.2, 168.5, 155.3, 153.8, 151.2, 146.3, 145.4, 137.1, 136.1, 134.8, 131.7, 131.1, 128.7, 128.4, 127.0, 125.2, 124.4, 123.4, 120.7.
Anal: Calculated C32H24F6N5O2PRu: C, 50.80; H, 3.20; N, 9.26. Found: C, 50.02, H, 3.25; N, 9.26 %.
【0054】
化合物9の合成:
今回の出発配位子が2,6−ビス(2’ピリジル)−4−メチルベンゼン(LH)であったことを除いて、8を得るために用いた方法と同一の合成方法を用いた。暗紫色の結晶の形態の化合物9が得られ、その収率は、8について観察された収率と同程度であった。
MS(ES, m/z): Calculated: C31H24F6Ru: 568.108 (M). Found: 568.119.
IR (cm-1): 2265 (medium, vN≡C), 841 (strong, vPF).
IH NMR (300 MHz, CD3CN, 300K): 10.01 (dd, 1H, 3J=5.0, 4J=1.3, H0), 8.76 (dd, 1H, 3J=8.1, 4J=1, Hp), 8.31 (dd, 1H, 3J=8.1, 4J=5.0, Hphen), 7.99-8.04 (m, 3H, H0+, H1+ Hphen), 7.97 (s, 2H, H5), 7.65 (td, 2H, 3J=7.7, 4J=1.5, H2), 7.52 (m, 2H, H3), 7.37 (td, 1H, 3J=5.5, 4J=1.3, Hp), 7.14 (dd, 2H, 3J=5.4, 4J=2.7, Hm), 6.73 (td, 2H, 3J=6.6, 4J=1.3, H4), 2.66 (s, 3H, CH3), 2.09 (s, 3H, NCCH3).
13C NMR (100.62 MHz, CD3CN, 300K): 165.5, 155.4, 153.8, 151.1, 145.0, 136.8, 135.4, 134.0, 131.7, 131.1, 130.2, 128.7, 128.3, 126.9, 125.6, 124.9, 122.6, 120.1,
Anal.: Calculated for C31H24F6N5PRu:
C, 52.25; H, 3.39; N, 9.83. Found: C, 50.87; H, 3.21; N, 9.70 %.
【0055】
実施例2:膠芽腫及び結腸癌のヒト細胞系の培養における、ルテニウムに由来する化合物の細胞増殖抑制及び細胞毒性効果の分析
ルテニウム由来化合物の抗癌効果の特性評価の第一段階は、培養によって保持されている腫瘍株に対する前記化合物の活性を試験し、そして、抗癌治療に対して異なる耐性を有する株に対する前記化合物の効果を比較することを含む。ヒトの膠芽腫株(A172)及び結腸癌株(HCT116)を使用して、本発明に係る化合物の細胞増殖抑制効果を試験した。比較のための細胞毒性剤としてシスプラチンを選択した。第1のアプローチとして、MTT試験を使用してミトコンドリア酵素の活性を測定し、細胞の数を推定した。
【0056】
結果
いくつかのルテニウムに由来する化合物は、試験した株A172、HCT116のうちの1つ以上の腫瘍細胞の数を低減した。最も活性の高い化合物(化合物(1)〜(12))については、シスプラチンと同程度の濃度又はシスプラチンよりも低い濃度でこの効果がみられた。これらの実験に基づいて、対照条件と比較して存在する腫瘍細胞の量を半分に減少させるのに必要とされる濃度に対応するIC50値を推定した。これら結果を表1に要約する。
【0057】
【表1】

【0058】
方法:MTT試験
縦型クリーンベンチ下で実験を行った。細胞増殖培地は、DMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)、HEPES、10%のFCS(ウシ胎仔血清)、5%のPS(ペニシリン、ストレプトマイシン)で構成されており、そして+4℃にて、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH=7.4)中で保存された。トリプシン−EDTA(1mMのNa(EDTA)中0.25%のトリプシン)及びFCSを−15℃で保存し、使用前に解凍した。MTT(4,5−ジメチルチアゾール−2−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)はAldrichによって製造されている黄色の固体である。MTTを5mg/mLの濃度で無菌溶液に入れ、+4℃で保存した。生細胞の染色剤として使用するとき、細胞培養培地で10%に希釈した。
【0059】
European Type Culture Collectionからヒトの結腸癌細胞(HCT−116)又は膠細胞(A−172)を購入し、10mLの培地を含む円形のペトリ皿(直径10cm)に入れて、37℃、5%COのインキュベータ内に置いた。十分に多数になったとき(70%コンフルエント)、周囲温度にてPBSで洗浄し、次いで、1.5mLのトリプシン−EDTAと混合して、ペトリ皿から前記細胞を分離させた。この細胞懸濁液を37℃に加熱した培養培地に入れ、次いで、この溶液を96−ウェル細胞培養プレート(100μL/ウェル)に広げ、細胞が50%コンフルエントに達するまで24〜48時間インキュベートした。前記培地を、37℃で様々な濃度のRDC及びシスプラチンを含有する細胞培地に交換し、これをインキュベートした。48時間後、前記培地を、培地中37℃のMTT溶液に交換し、これを少なくとも1時間、又はMTTの錯体形成による紫色結晶が各ウェルの底部で定量的に形成されるまでインキュベートした。最後に、周囲温度で前記培地をHCl/PrOHの0.04M溶液(100μL/ウェル)に交換し、結晶を溶解させた。得られた溶液の光学密度を読み取った。RDC又はシスプラチンで処理されたウェルの光学密度を、未処理ウェル(対照)の光学密度と比較した。
【0060】
操作は、4枚のプレート(3×RDC及びシスプラチン)の処理を含んでいた。各プレートは、異なる濃度の単一の生成物を含有していた。50、20、15、10、7.5、5、2.5、1、及び0.2μMで9本のカラムを処理し、そして対照として3本のカラムを残した。プレートの各端に位置する対照カラムは、考慮に入れなかった。計算のために3番目の対照カラムは考慮に入れた。
【0061】
Prism GraphPadソフトウェアv.4を使用して、IC50の決定及び統計学的Newmann-Keuls分散検定を行った。
【0062】
MTT試験の結果:
A172細胞についてのMTT試験の結果を図2及び3に示す。
【0063】
A172のウェルを、96−ウェルプレートで10%の子ウシ血清を含むDMEM培地中にて培養した。50%コンフルエントで、シスプラチン(cisp)、又は指定の濃度(1、5、15、50μM)の様々なルテニウム由来化合物を用いて細胞を処理した。MTT試験(MTT、Sigma)を使用してウェル中に存在する細胞の量を評価し、その反応生成物をElisaプレートリーダ(Metertech, USA)(490〜650nm)で定量した。得られた結果を対照状態(100%生存率)の値と比較した。
【0064】
実施例3:本発明の化合物による癌細胞の増殖の阻害に関する研究
化合物8及び9が癌細胞の増殖を阻害する能力について、既に記載したMTT方法を使用して研究し、これによって細胞の数を推定した。既に記載した培養条件下で、様々な起源(表2を参照)の癌株に対してこれらの研究を行った。各株についてIC50値(μM)を決定し、そして、参照であるルテニウム由来化合物について得られた値と比較した。実施した全ての実験において、WO 2006/016069に記載されており、そして以下の式:
【0065】
【化7】


を満たす参照化合物よりも本発明の2つの化合物の効果の方が高かった。
【0066】
【表2】

【0067】
実施例4:本発明の化合物で処理した後の細胞周期のプロファイルに関する研究
ヨウ化プロピジウムで細胞を染色して、細胞DNAの量を可視化した後、FACS技術(蛍光活性化細胞選別器、すなわちフローサイトメーターと細胞選別器とが接続された装置)を使用して細胞プロファイルに対する化合物8及び9の効果を研究した。これらの分析で、本発明の化合物で処理した後に細胞が蓄積する細胞周期相を可視化することができ、アポトーシスによる細胞死が誘導されているかどうかが分かる。
【0068】
結果は、HCT116株において、化合物8及び9が、用いられる薬剤の濃度に比例してG1期で細胞周期の停止を誘導するか、又は細胞死(Sub−G1期を特徴とする)を誘導することを示す(図4を参照されたい)。
【0069】
この実験では、指定の用量(1μM及び5μM)でHCT116細胞を48時間処理した。48時間の処理時間後、PBS(リン酸塩緩衝生理食塩水)で細胞を3回洗浄し、そして90%のエタノールで固定した。次いで、ヨウ化プロピジウム/RNasaの溶液で細胞を染色した。次いで、FACScanフローサイトメーター及びCellQuestソフトウェア(Becton Dickinson)を使用して染色された細胞(1つのサンプル当たり10000個)をカウントし、DNA含量及び細胞周期のプロファイルを決定した。
【0070】
実施例5:本発明に係る化合物の急性毒性に関する研究
化合物8及び9によって誘導される急性毒性について、様々な濃度(1kg当たり2、7.5、15、30及び60μmol)で単回用量の生成物を注射した後、8週齢のBlack−6マウスにおいて研究した。50%の死亡率を誘導する用量(LD50)を計算し、以下の表3に示す。比較として、上記参照化合物の急性毒性を示す。この実験は、化合物8が参照化合物(57.5μmol/kg)よりも高い毒性(22.5μmol/kg)を有するが、一方、化合物9の毒性はより低い(>60μmol/kg)ことを示した。
【0071】
この実験では、1用量当たり5匹の動物群に腹腔内経路を介して注入を行った。15日間にわたって動物の体重及び生存を追跡した。
【0072】
【表3】

【0073】
実施例6:本発明に係る化合物の作用機序に関する研究
どの作用機序を介して化合物8及び9が細胞増殖の遅延又は細胞死を導くことができるのかを決定するために、2つの特異的マーカーの活性化、すなわち、CHOPタンパク質の発現、及びセリン部位137におけるヒストンH2AXのリン酸化をモニタした。CHOPタンパク質は、アポトーシス促進特性(細胞死の誘導)を有する。H2AXヒストンのリン酸化は、アポトーシス促進特性又は細胞増殖を遅延させる特性を有するタンパク質であるp53の活性化を導くDNA損傷のマーカーである。
【0074】
結果は、化合物8及び9が参照化合物よりもCHOPタンパク質の発現及びH2AXヒストンのリン酸化の誘導においてより効果的であることを示す(図5を参照)。
【0075】
これらの実験では、2つの濃度(5μM及び10μM)の前記化合物で腫瘍細胞A172を6時間処理した。6時間の処理時間後、細胞を溶解させ、そして、30gの可溶性タンパク質を12%のポリアクリルアミドゲルで分離した。泳動後、ウェスタンブロット技術を使用して、ニトロセルロース上にタンパク質を転写した。次いで、特異的な一次抗体を使用して、タンパク質CHOP及びH2AXを検出し、ECLキットを用いてそのペルオキシダーゼ活性が同定される対応する二次抗体によって前記タンパク質を認識した。
【0076】
実施例7:本発明に係る化合物の抗腫瘍活性に関する研究
これらの分子の抗癌能を決定するために、Black−6マウスに移植されたインビボ黒色腫モデルF10B16を使用して、腫瘍増殖に対する化合物8及び化合物9の効果を分析した。これらの結果を参照化合物の結果と比較した。腫瘍を有するマウスにおける慢性処置(7.5μmol/kgで週2回)によって、腫瘍増殖が低減された。腫瘍増殖の低減(処理された腫瘍の体積/処理されていない腫瘍の体積:T/C)は、化合物8で約80%、化合物9で約60%であった(表4、図6及び7を参照)。
【0077】
【表4】

【0078】
これらの実験では、8週齢のBlack−6マウスにF1PB16細胞(200 000細胞)を皮下移植した。1条件当たり6匹のマウス群を形成した。腫瘍が約100mm3の体積であることが明白になったとき、処置を開始した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に許容しうる媒体中に、以下の一般式:
【化8】


[式中、
、L、Lは、同一であるか又は異なり、窒素、酸素、リンもしくは硫黄原子を介する2個の電子のドナー配位子を表すか、又はハロゲン原子を表し、
は、対イオン(m=1である場合)であり、
mは、0又は1であり、
及びXは互いに異なり、一方が窒素原子を表し、そして他方が炭素原子を表し、
曲線によって表されるXとXとの間には、一連の原子が存在し、式中に表されるX、X及びRuと共に、5〜8個の原子で構成される環を形成し、そして、
別の曲線によって表されるNとXとの間には、一連の原子が存在し、式中に表される窒素原子、X、及びRuと共に、5〜8個の原子で構成される環を形成する]
で表される少なくとも1つの錯体ルテニウム化合物を含む医薬組成物。
【請求項2】
、L及び/又はLが、場合により、特に少なくとも1つの、ハロゲン原子、基:アルキル、アリール、ヒドロキシル、アルコキシル(O−アルキル)、アリールオキシ(O−アリール)、カルボン酸、エステル(CO−アルキル)、チオール、チオエーテル(S−アルキル)、スルフィン酸、スルホン酸、ニトロ、ニトロキシル、アミン(N(アルキル又はアリール)2−x[式中、xは、整数であり、0、1又は2であり得る])、トリアルキルアンモニウム(N(アルキル又はアリール)3−y[式中、yは、整数であり、0、1、2又は3であり得る])、ヒドロキシルアミン(N(OH)(アルキル又はアリール)2−z[式中、zは、整数であり、1又は2であり得る])、ヒドラジン、アゾ(N=N−(アルキル又はアリール))、ジアゾニウム、アミド(CO−NH(アルキル又はアリール)2−w[式中、wは、整数であり、0、1、又は2であり得る])又はシアノによって置換される、ピリジン、ビピリジン、フェナントロリン、又はテルピリジン基を表すことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
3つの基L、L及びLが、場合により、少なくとも1つの、ハロゲン原子、基:アルキル、アリール、ヒドロキシル、アルコキシル(O−アルキル)、アリールオキシル(O−アリール)、カルボン酸、エステル(CO−アルキル)、チオール、チオエーテル(S−アルキル)、スルフィン酸、スルホン酸、ニトロ、ニトロキシル、アミン(N(アルキル又はアリール)2−x[式中、xは、整数であり、0、1、又は2であり得る])、トリアルキルアンモニウム(N(アルキル又はアリール)3−y[式中、yは、整数であり、0、1、2又は3であり得る])、ヒドロキシルアミン(N(OH)(アルキル又はアリール)2−z[式中、zは、整数であり、1又は2であり得る])、ヒドラジン、アゾ(N=N−(アルキル又はアリール)、ジアゾニウム、アミド(CO−NH(アルキル又はアリール)2−w[式中、wは、整数であり、0、1、又は2であり得る])、又はシアノによってピリジン環の1つ以上の炭素原子が置換される、窒素原子を介する2個の電子のドナー配位子、特にテルピリジン又は2−(2−ピリジル)−1,10−フェナントロリンを形成することを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
テルピリジン又は2−(2−ピリジル)−1,10−フェナントロリンが有する置換基が、アリール基、特にメチル又はメトキシによって置換されるフェニルであることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
が、BF、B(C、PF、CFSO、トシラート(p−トリルSO)、メラレート(MeSO)、SO2−、CFCO2−、CHCO、重炭酸イオン(HCO)、ClO又はNOであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
mが1であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
曲線が、一般式中のX、X及びRuと共にならびに/又はX、N及びRuと共に、5又は6個の原子で形成される環を表すことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
環の原子が全て炭素原子であることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
一般式(I)中の2本の曲線を含む集合が以下の構造単位:
【化9】


の1つを表すことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
化合物が以下の錯体(1)〜(12):
【化10】


の中から選択されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
化合物が式(1)で表される錯体であることを特徴とする、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
細胞の過剰増殖に関連する疾患を治療することを目的とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
癌を治療することを目的とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
膠芽腫、前骨髄球性白血病、前立腺癌、卵巣癌、肺癌、乳癌、消化管癌、特に、肝臓癌、膵臓癌、頭頸部癌、結腸癌、非ホジキンリンパ腫、又は黒色腫を治療することを目的とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
G0/G1期又はG2/M期に腫瘍細胞を蓄積させることによって、そして、場合により、アポトーシス又は他の種類の細胞死を誘導することによって、癌を治療することを目的とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
シスプラチン又は他の抗癌薬に対して耐性である癌を治療することを目的とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
放射線療法等の放射線を使用する抗癌治療と併用して癌を治療することを目的とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
パッケージ化され、そして、組み合わせて、別々に、又は順次投与される、少なくとも1つの他の抗癌化学剤と併用して癌を治療することを目的とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
化合物(8)及び(9):
【化11】


の中から選択されることを特徴とするルテニウム化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−531461(P2012−531461A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518117(P2012−518117)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051367
【国際公開番号】WO2011/001109
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(500262120)ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール (3)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE STRASBOURG
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】