説明

癌ワクチン

【課題】腫瘍免疫を効率的に誘導できるペプチド、そのペプチドを含有する組成物、そのペプチド由来の抗原を提示した抗原提示細胞、この抗原提示細胞によって刺激された細胞障害性T細胞、およびこれらのペプチドや細胞を利用した癌ワクチン、および腫瘍の治療方法を提供すること。
【解決手段】特定の配列を有するペプチド、そのペプチドを含有する組成物、そのペプチド由来の抗原を提示した樹状細胞などの抗原提示細胞、この抗原提示細胞によって活性化された細胞障害性T細胞などのT細胞を作製し、特定配列を有するペプチド、抗原提示細胞、細胞障害性T細胞をワクチンとして、腫瘍患者に投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、腫瘍免疫学において、免疫細胞による腫瘍抗原認識機構がかなり解明されてきた。それによると、まず、抗原提示細胞である樹状細胞(dendritic cells または DC)は、細胞内で、腫瘍が発現するタンパク質を分解する際に生じた8〜10個のアミノ酸からなる抗原ペプチドを、主要組織適合性抗原複合体(major histocompatibility complex または MHC;ヒトでは、human leukocyte antigen または HLA)と共に細胞表面に提示する。細胞障害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte または CTL)は、樹状細胞表面のHLAクラスIに結合した抗原ペプチドを認識し、活性化・増殖し、腫瘍内に侵入し、抗原ペプチドが由来するタンパク質を有する腫瘍細胞に対し細胞障害を生じる(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
この機構を利用して、腫瘍の治療方法として癌ワクチンが開発されてきた。例えば、腫瘍特異的タンパク質由来の抗原ペプチドを細胞表面に提示する樹状細胞をin vitroで作製し、増殖させ、腫瘍患者に投与したり、その樹状細胞によって教育された細胞障害性T細胞を投与したりすることにより、腫瘍患者の体内で腫瘍免疫を誘導させる。あるいは、腫瘍特異的タンパク質を腫瘍患者に投与し、患者の体内で、腫瘍免疫機構の全過程を誘導させるのである(例えば、非特許文献2〜7参照)。
【0004】
メラノーマ特異的腫瘍抗原については臨床試験における成果が報告されている。例えば、メラノーマ抗原gp100ペプチドをメラノーマ患者に皮下投与し、インターロイキン−2を静脈内投与することにより、42%の患者で腫瘍の縮小が認められている(例えば、非特許文献8参照)。
【非特許文献1】Arch.Surg.(1990)126:200−205
【非特許文献2】Science(1991)254:1643−1647;
【非特許文献3】J.Exp.Med.(1996)183:1185−1192;
【非特許文献4】J.Immunol.(1999)163:4994−5004;
【非特許文献5】Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1995)92:432−436
【非特許文献6】Science(1995)269:1281−1284
【非特許文献7】J.Exp.Med.(1997)186:785−793
【非特許文献8】Nature Medicine(1998)4:321
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、腫瘍免疫を効率的に誘導することのできる腫瘍特異的タンパク質は、一部の腫瘍において、ほんの少数の例が知られているだけである。
そこで、本発明は、腫瘍免疫を効率的に誘導できるペプチド、そのペプチドを含有する組成物、そのペプチドを提示した抗原提示細胞、この抗原提示細胞によって刺激されたT細胞、およびこれらのペプチドや細胞を利用した癌ワクチン、及びそれらを用いた腫瘍患者の治療方法を提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、転写因子であるSOX6が、様々な腫瘍で高度に発現していることを既に見いだしている(Ueda et al., Oncogene 23, 1420-1427, 2004;国際公開番号WO2006/077941明細書)。この知見に基づき、SOX6の様々な部分ペプチドに対し、HLAクラスI拘束性に細胞障害性T細胞に認識されるかどうか調べたところ、樹状細胞に添加したとき、効率よく細胞障害性T細胞によって認識されるいくつかの部分ペプチドを同定することができ、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明にかかるペプチドは、配列番号1(ALFGDQDTV)または配列番号2(KLGPGVIDL)の配列を有する。これらのペプチドを提示した抗原提示細胞、及びこの抗原提示細胞によって誘導され、SOX6を発現する細胞を認識するT細胞も、本発明の技術的範囲に属する。このT細胞は細胞障害性T細胞であることが好ましく、SOX6を発現する細胞は腫瘍細胞であることが好ましく、例えば、グリオーマ細胞、ニューロブラストーマ細胞、膵臓癌細胞、肝癌細胞、肺癌細胞、食道癌細胞、メラノーマ細胞、前立腺癌細胞、乳癌細胞、腎癌細胞、胃癌細胞、大腸癌細胞、または白血病細胞が例示される。
【0008】
さらに、本発明にかかる癌ワクチンは、配列番号1(ALFGDQDTV)を有するペプチドまたは配列番号2(KLGPGVIDL)を有するペプチドのいずれか又は両方のペプチド、上記抗原提示細胞、上記T細胞のうち、少なくとも一つを含有する。この癌ワクチンは、神経膠腫(グリオーマ)、神経芽腫(ニューロブラストーマ)、膵臓癌、肝癌、肺癌、膵癌、食道癌、黒色腫(メラノーマ)、前立腺癌、乳癌、腎癌、胃癌、大腸癌、または白血病に対する癌ワクチンであることが好ましい。
【0009】
本発明にかかる腫瘍治療方法は、ヒト及びヒト以外の脊椎動物に対しこの癌ワクチンを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、腫瘍免疫を効率的に誘導できるペプチド、そのペプチドを含有する組成物、そのペプチドを提示した抗原提示細胞、この抗原提示細胞によって刺激されたT細胞、およびこれらのペプチドや細胞を利用した癌ワクチン、及びそれらを用いた腫瘍患者の治療方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0012】
==HLAクラスIと結合性が高いペプチドのスクリーニング==
ウエブサイト上のデータベースであるBioInformatics & Molecular Analysis Section (BIMAS) のHLA Peptide Binding predictions Program を用い、SOX6遺伝子がコードするアミノ酸配列から、A0201タイプのHLAクラスIと結合性が高い、9アミノ酸残基のペプチド配列を特定した。表1に、このスクリーニングによって得られたスコアの高いペプチド配列の例(SOX6−252、SOX6−521、SOX6−447)を示す。
【0013】
【表1】

【0014】
これらのペプチドのうち、実際に合成し、抗原として抗原提示細胞である樹状細胞に投与したとき、HLAクラスI分子に結合することにより細胞表面に提示され、細胞障害性T細胞に認識されることで特異的な細胞障害性T細胞を誘導できるペプチドを同定するため、樹状細胞と共培養された細胞障害性T細胞のヒト・グリオーマ細胞または膵臓癌細胞に対する反応性を調べた。その結果、SOX6−447(配列番号1)及びSOX6−521(配列番号2)のペプチドを細胞表面に提示する樹状細胞が効率よく細胞障害性T細胞を刺激し、また各ペプチドの刺激により樹立された細胞障害性T細胞がSOX6を発現するグリオーマ細胞または膵臓癌細胞を効率よく認識することが明らかになった。
【0015】
以下の実施例には、これらの実験結果を示すことにより、配列番号1または配列番号2を有するペプチドを抗原提示細胞に添加すると、それらのペプチドがHLA上に提示され、共培養したT細胞を刺激することにより抗原特異的なT細胞を誘導すること、そして、この抗原特異的なT細胞はSOX6を発現する細胞と反応し、その細胞に対し細胞障害性を有することを示す。
【0016】
ここで、T細胞による障害の対象とする細胞は、SOX6を発現していれば特に限定されない。例えば、ヒト正常組織においては胎児脳または成人精巣しかSOX6の発現が検出されないものの、腫瘍細胞においては、様々な腫瘍や腫瘍細胞株で、その発現が検出されている(国際公開番号WO2006/077941明細書)ので、腫瘍細胞、例えば、グリオーマ細胞、ニューロブラストーマ細胞、膵臓癌細胞、肝癌細胞、肺癌細胞、膵癌細胞、食道癌細胞、メラノーマ細胞、前立腺癌細胞、乳癌細胞、腎癌細胞、胃癌細胞、大腸癌細胞、または白血病細胞をT細胞による障害の対象とすることができる。従って、配列番号1または配列番号2を有するペプチド、そのペプチドを細胞表面に提示した抗原提示細胞、及びその抗原提示細胞の刺激によって樹立された細胞障害性T細胞は、例えば、神経膠腫(グリオーマ)、神経芽腫(ニューロブラストーマ)、膵臓癌、肝癌、肺癌、膵癌、食道癌、黒色腫(メラノーマ)、前立腺癌、乳癌、腎癌、胃癌、大腸癌、または白血病に対する癌ワクチンとして有用である。
【0017】
==癌ワクチンの投与方法==
現在、癌ワクチンとして、腫瘍特異的癌抗原、癌抗原提示抗原提示細胞、または癌抗原反応性細胞障害性T細胞を腫瘍患者に投与する方法が開発されている。本発明においては、SOX6の部分ペプチドを用いているので、治療(予防も含まれる)対象となる腫瘍は、SOX6が発現している腫瘍であれば何でもよく、例えば、神経膠腫(グリオーマ)、神経芽腫(ニューロブラストーマ)、膵臓癌、肝癌、肺癌、膵癌、食道癌、黒色腫(メラノーマ)、前立腺癌、乳癌、腎癌、胃癌、大腸癌、または白血病も治療対象の一つとなる。主な治療対象は、こうした腫瘍を有するヒト患者であるが、腫瘍を有するヒト以外の脊椎動物でもかまわない。
【0018】
治療対象となる腫瘍を有する患者に対し投与する癌ワクチンは、腫瘍特異的癌抗原となりうる配列番号1及び配列番号2を有するペプチドを含有してもよい。この場合、あらかじめ患者のHLAクラスIのタイプを調べ、A0201である場合に、この癌ワクチンを投与する。投与するペプチドは、一種類であっても複数種類であってもよい。投与部位に関しては、皮内投与、皮下投与、静脈内投与、腹腔内投与などが考えられ、特に限定されることはない。また、投与する際には、免疫誘導能を高めるアジュバントなどとともにペプチドを投与してもよい。また、投与されるペプチドは、生体内で分解されにくくするような修飾が施されていてもよい。
【0019】
また、上記癌ワクチンは配列番号1または配列番号2を有するペプチドを提示した抗原提示細胞を含有してもよい。ここで、細胞表面に提示されているペプチドは、配列番号1または配列番号2を有するペプチドそのものでもよく、糖やリン酸などで修飾されてもよい。抗原提示細胞としては、樹状細胞の他にマクロファージ、B細胞等が考えられるが、抗原提示能の高さなどから、樹状細胞が好ましい。以下、樹状細胞の単離方法の例を記述する。
【0020】
まず、脊椎動物個体の末梢血から単核球を単離する。この単核球は、治療対象となる個体自身から分離することが好ましいが、他の個体から単離してもよい。また、この単核球はCD14陽性であることが好ましい。単離した単核球を、GM−CSFとIL−4で7 日前後培養すると、未熟な樹状細胞に分化誘導することができる。このようにして分化誘導された樹状細胞は、抗原提示分子であるMHC分子を高発現している。この未熟な樹状細胞に、配列番号1または配列番号2を有するペプチドを添加し結合させる。樹状細胞のHLAクラスIタイプがA0201である場合に、配列番号1または配列番号2を有するペプチドを添加する。添加するのは、人工合成ペプチドに限らず、ペプチドを発現させた細胞の抽出物(extractやlysate)や精製物などでもよい。こうして得られた抗原提示樹状細胞を、腫瘍を有する個体に投与する。投与部位に関しては、皮内投与、皮下投与、静脈内投与、リンパ節内投与などが考えられ、特に限定されることはないが、生理的な樹状細胞の抗原提示が、樹状細胞投与部位の所属リンパ節にて行なわれることを考えると、リンパ節内への直接投与が好ましい。
【0021】
また、上記癌ワクチンは、配列番号1または配列番号2を有するペプチドに由来するペプチドを提示した抗原提示細胞の刺激によって樹立されたT細胞を含有してもよい。配列番号1または配列番号2を有するペプチドに由来するペプチドを提示した抗原提示細胞に対し、T細胞を共培養し、抗原提示細胞で刺激する。このようにして樹立されたT細胞を腫瘍を有する個体に投与してもよい。ここでのT細胞は、細胞障害性T細胞が好ましいが、ヘルパーT細胞等でもよい。投与部位に関しては、皮内投与、皮下投与、静脈内投与、腫瘍内投与などが考えられ、特に限定されることはないが、細胞障害性T細胞の場合、抗原を発現する細胞を直接攻撃できるため、腫瘍内投与が好ましい。
【実施例】
【0022】
〈実施例1〉抗原刺激によって樹立された細胞障害性T細胞の細胞傷害活性の評価
==実験初日==
HLAクラス1のタイプがA0201の健常人末梢血から、以下のように単核球を分離した。まず、ヘパリン5mlで洗浄したシリンジで、末梢血を50ml採血した。等量のLymphoprep (Fresenius kabi Norge AS, Axis-Shield PoC AS, Oslo, Norway) を転倒混和し、遠心(20℃、2000rpm、35分間 、ブレーキなし)し、中間層を吸引して採取した。これにPBSを加えて再混濁し、遠心(20℃、2000 rpm、10分間)する操作を3回繰り返して、得られた単核球を洗浄した。
この単核球を初代細胞培養用培養皿(FALCON MULTIWELL PRIMARIA 24 well)に5x10個/ウエルの密度で播種し、37℃、5%CO存在下で4時間培養した。培養液はAIM-V(GIBCO)とRPMI-1640を1:1に混合したもの(基本培養液)を用いた。培養皿の底面に接着した細胞を回収し、4x10個/ウエルの密度で新しい24ウエルの培養皿に播種し、GM-CSF(10ng/ml), IL-4(1ng/ml)添加した基本培養液を用いて、37℃、5%CO存在下で7日間培養し、樹状細胞を分化させた。
【0023】
==実験7日目==
培養7日目に分化した樹状細胞を抗原提示細胞(antigen presenting cells;APCs)として用いた。得られた樹状細胞をirradiate (60Gy)したのち、合成・精製したペプチド(それぞれ配列番号1〜3を有するSOX6由来のペプチドであるSOX6-251、SOX6-447、及びSOX6-521)を10μM添加し、37℃、5%CO存在下で2時間培養して細胞に結合させ、PBSで2回洗浄し、刺激細胞(stimulator cells)とした。
一方、この日(培養7日目当日)、実験15日目に樹状細胞を得るために、初日と同じ操作で単核球を培養した。
その過程で、単核球を4時間培養後、培養皿に接着せず、培養上清に浮遊している細胞を回収し、1x10個の細胞に対しIMag anti-human CD8 particules −DM (BD Biosciences社)100μlを、4℃、30分間反応させた。磁石を用いてCD8陽性細胞を吸着・回収し、応答細胞(responder cells)とした。
このようにして得られた応答細胞2x10個を、上記刺激細胞のウエルに添加し、共培養した。なお、培養液として、IL-1α(10 unit/ml), IL-2(20 unit/ml), IL-4(1 ng/ml), IL-6(125 unit/ml), IL-12(1 ng/ml)を添加した基本培養液を用いた。
【0024】
==実験15日目==
培養7日目から培養し、分化させた樹状細胞を用いて、上記と同様の操作で刺激細胞を調整した。
また、培養7日目より刺激細胞と共培養した応答細胞を回収し、新たに調整した刺激細胞と、同様に共培養した。ただし、培養液は培養7日目に用いた上記培養液においてIL−12を含まない培養液を用いた。
なお、実験22日目に樹状細胞を得るための単核球の培養を、同様にして、新たに始めておいた。
【0025】
==実験22日目==
実験15日目と同様に、刺激細胞と共培養を続けている応答細胞を回収し、新たに調整した刺激細胞と共培養した。
なお、樹状細胞を得るための単核球の培養を始めたが、96ウエルの培養皿を用い、4x10個/ウエルに調整して播種し、培養した。
【0026】
==実験28日目==
この日まで、培養7日目より刺激細胞と共培養した応答細胞を回収し、エフェクター細胞として、SOX6由来ペプチドSOX6−251の刺激により樹立したCTL(CTL−SOX6−251)、SOX6由来ペプチドSOX6−447の刺激により樹立したCTL(CTL−SOX6−447)、SOX6由来ペプチドSOX6−521の刺激により樹立したCTL(CTL−SOX6−521)を準備した。
また、ターゲット細胞として、HLA−A,B欠損ヒトB細胞株CIRにHLA−A0201のcDNAを導入したCIR−A0201、CIR−A0201株にSOX6遺伝子を導入したCIR−A0201(SOX6)、HLA−A0201とSOX6が共に発現しておりHLA−A24は発現していないグリオーマ細胞U87、HLA−A2402とSOX6が共に発現しておりHLA−A0201は発現していないMarcus、HLA−A0201とSOX6が共に発現しておりHLA−A24は発現していない他の癌細胞(膵臓癌由来Panc−1)を準備した。これらの細胞5X10個に対して500μlのFetal Bovine Serum(FBS)、51Cr(1.85MBq/50μl)を50μl添加し、37℃、5%CO2下で60分振蕩培養した。その後洗浄を3回行い、5x10/100μlに調整して96穴プレート(COSTER 3595-96 well)の各ウエルに100μlずつ添加した。
E/T ratio (エフェクター細胞/ターゲット細胞の比)は、60:1(エフェクター細胞は3x105/ウエル) 、30:1(エフェクター細胞は1.5x105/ウエル) 、15:1 (エフェクター細胞は7.5X104/ウエル)の3群を設けて、それぞれの数のエフェクター細胞を51Crでラベルした96穴プレート上のターゲット細胞に添加した。これらを37℃、5%CO下で4時間培養した。
各ウエルのcpm(cpm experimental release)を計測し、特異的溶解率(Percentage of specific lysis)を以下の式から算出した。
特異的溶解率= (cpm−csr)/(cmr−csr) x100
(なお、csr(cpm spontaneous release)はエフェクター細胞を含まない培地を添加したウエルのcpmであり、cmr(cpm maximal release)はエフェクター細胞を含まない0.1% Triton Xを添加したウエルのcpmである。)
【0027】
==結果==
健常人(HLAクラスI:A0201/A2402)の末梢血リンパ球から樹立したCTL-SOX6-447とCTL-SOX6-521は、HLA-A0201とSOX6を共に発現しているCIR-A0201-SOX6(図1A)及びグリオーマ細胞由来のU87(図1B)をE/T ratio依存性に傷害した。一方、CTL-SOX6-252はそれらを傷害しなかった(図1A、B)。このCTL-SOX6-447とCTL-SOX6-521はHLA-A0201を発現しているがSOX6を発現していないCIR-A0201を傷害しなかった(図1C)。
次に別のタイプのHLAクラスIを有する健常人(HLAクラスI:A0201/ - )の末梢血リンパ球をSOX6-447によって刺激してCTL-SOX6-447を樹立し、それぞれの細胞傷害活性を検証した。CTL-SOX6-447は、HLA-A0201とSOX6を共に発現している細胞であるCIR-A0201-SOX6、グリオーマ細胞由来のU87、膵臓癌細胞由来のPanc-1をE/T ratio依存性に傷害した(図2)。一方、HLA-A0201を発現しているがSOX6を発現していない細胞CIR-A0201を傷害しなかった(図2)。
このように、SOX6に由来するペプチドSOX6-447とSOX6-521を用いて、それらのペプチドを提示した抗原提示細胞を作製することができ、さらに、その抗原提示細胞によって刺激することにより、各ペプチドのみならずSOX6を発現した細胞を認識する特異的T細胞が誘導される。
【0028】
〈実施例2〉ペプチド刺激によって樹立された細胞障害性T細胞(エフェクター細胞)の、刺激ペプチドに対する反応特異性の評価
本実施例では、SOX6−447の刺激により樹立されたHLA拘束性SOX6特異的細胞傷害活性を有するCTLは、SOX6−447を提示した抗原提示細胞をペプチド特異的に傷害するかどうかを検証した。
【0029】
==実験方法==
まず、ターゲット細胞として、2種類の細胞を準備した。まず、HLA−A0201とSOX6を発現しているグリオーマ細胞SF−126を実施例1と同様の手順にて51Crでラベルした(Hot target cell)。また、コンペティターのターゲット細胞として、HLA−A0201を発現しているがSOX6を発現していないCIR−A0201に対し、SOX6由来ペプチド(SOX6−447)をパルスしたCIR−A0201(SOX6−447)、SOX6と無関係な配列を有するインフルエンザウィルス(Flu)由来ペプチドFlu−M158−66(GILGFVFTL:配列番号4)をパルスしたCIR−A0201(Flu−M1)、ペプチドをパルスしないCIR−A0201(no peptide)を準備し、51Crでラベルしないで、96穴プレートに各ウエル1x10/50μlずつ播種した(Cold target cell)。
一方、実施例1と同様に、エフェクター細胞として、SOX6由来ペプチドSOX6−447の刺激により樹立したCTL−SOX6−447を準備した。
E/T ratio は80:1(エフェクター細胞は8×104/100μl/ウエル)、40:1(エフェクター細胞は4×104/100μl/ウエル)、20:1(エフェクター細胞は2×104/100μl/ウエル)の3群を設けた。それぞれの数のエフェクター細胞をCIR−A0201 (Cold target cell) に添加し、37℃、5%CO下で1時間培養したのち、1x10個のSF−126 (Hot target cell)を添加し、37℃、5%CO下でさらに4時間培養した。
培養後、各ウエルのcpmを計測し、実施例1と同様に特異的溶解率(Percentage of specific lysis)を算出した。
【0030】
==結果==
以上のようにして、各種ペプチドをパルスしたコンペティターCIR−A0201(Cold target cell)の存在下で、グリオーマ細胞SF−126(Hot target cell)に対するCTL−SOX6−447の細胞傷害活性を調べたところ、CTL−SOX6−447は、E/T ratio依存性に51CrでラベルしたSF−126に対する細胞傷害活性を有し、かつその細胞傷害活性は、ネガティブコントロールであるCIR−A0201(no peptide)の存在下の場合と比べ、CIR−A0201(Flu−M1)の存在下では抑制されなかったが、CIR−A0201(SOX6−447)の存在下で顕著に抑制された(図3)。
このように、CTL−SOX6−447は、提示されたペプチド特異的にSOX6−447をパルスしたCIR−A0201を認識し、傷害し得た。
【0031】
〈実施例3〉ペプチド刺激によって樹立された細胞障害性T細胞(エフェクター細胞)のターゲット細胞に対する障害活性の、ターゲット細胞作製時にパルスするペプチド濃度に対する濃度依存性
本実施例では、CTL−SOX6−447は、どの程度の刺激ペプチド濃度でパルスするとそのペプチドを提示した抗原提示細胞を認識して傷害するのかを検証した。
【0032】
==実験方法==
ターゲット細胞として、SOX6−447ペプチドを様々な濃度(0nM、0.1nM、1nM、10nM、100nM)でパルスしたCIR−A0201(SOX6−447)を準備した。これらの細胞5x10個に対して500μlのFBS、51Cr(1.85MBq/50μl)を50μl添加し、37℃、5%CO下で60分振蕩培養後、洗浄を3回行い、5x10/100μlに調整して96穴プレート(COSTER 3595-96 well)の各ウエルに100μlずつ添加した。
エフェクター細胞として、実施例1と同様に、SOX6由来ペプチドSOX6−447の刺激により樹立したCTL−SOX6−447を準備した。
E/T ratio は30:1(エフェクター細胞は1.5x105/100μl)及び15:1(エフェクター細胞は7.5x104/100μl)とし、それぞれの数のエフェクター細胞を、96穴プレート上の51CrでラベルしたCIR−A0201(SOX6−447)に添加し、37℃、5%CO下で4時間培養した。
培養後、各ウエルのcpmを計測し、実施例と同様に特異的溶解率(Percentage of specific lysis)を算出した。
【0033】
==結果==
図4に示すように、CTL−SOX6−447は、SOX6−447ペプチド濃度0.1nM以上でパルスした場合に、ペプチド濃度依存性にCIR−A0201を傷害した。この結果はE/T ratio=15とE/T ratio=30において同様であった。このように、ペプチド濃度0.1nM以上の場合、CTL−SOX6−447はSOX6−447/HLA−A0201複合体を認識して標的細胞を傷害し得た。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ターゲット細胞(CIR−A0201(SOX6)、U87、CIR−A0201)に対する、各ペプチド(SOX6−252、SOX6−447、SOX6−521)の刺激によって樹立された細胞障害性T細胞(エフェクター細胞)の細胞傷害活性を調べた結果を示す図である。
【0035】
【図2】ターゲット細胞(CIR−A0201、CIR−A0201(SOX6)、Panc−1、U87、Marcus)に対する、ペプチド(SOX6−447)の刺激によって樹立された細胞障害性T細胞(エフェクター細胞)の細胞傷害活性を調べた結果を示す図である。
【0036】
【図3】ペプチド(SOX6−447)の刺激によって樹立された細胞障害性T細胞(エフェクター細胞)の、刺激ペプチドに対する反応特異性を調べた結果を示す図である。
【0037】
【図4】ペプチド(SOX6−447)の刺激によって樹立された細胞障害性T細胞(エフェクター細胞)が、ターゲット細胞作製時にパルスするペプチド濃度に依存して、ターゲット細胞に対する障害活性を生じることを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1(ALFGDQDTV)または配列番号2(KLGPGVIDL)の配列を有するペプチド。
【請求項2】
配列番号1(ALFGDQDTV)または配列番号2(KLGPGVIDL)の配列を有するペプチドを提示した抗原提示細胞。
【請求項3】
樹状細胞であることを特徴とする請求項2の抗原提示細胞。
【請求項4】
請求項2または3に記載の抗原提示細胞によって誘導され、SOX6を発現する細胞を認識するT細胞。
【請求項5】
細胞障害性T細胞であることを特徴とする請求項4のT細胞。
【請求項6】
SOX6を発現する細胞が腫瘍細胞であることを特徴とする請求項4のT細胞。
【請求項7】
前記腫瘍細胞が、グリオーマ細胞、ニューロブラストーマ細胞、膵臓癌細胞、肝癌細胞、肺癌細胞、膵癌細胞、食道癌細胞、メラノーマ細胞、前立腺癌細胞、乳癌細胞、腎癌細胞、胃癌細胞、大腸癌細胞、または白血病細胞であることを特徴とする請求項6のT細胞。
【請求項8】
配列番号1(ALFGDQDTV)を有するペプチドまたは配列番号2(KLGPGVIDL)を有するペプチドのいずれか又は両方のペプチドを含有する癌ワクチン。
【請求項9】
請求項2または3に記載の抗原提示細胞を含有する癌ワクチン。
【請求項10】
請求項4〜7のいずれかに記載のT細胞を含有する癌ワクチン。
【請求項11】
神経膠腫(グリオーマ)、神経芽腫(ニューロブラストーマ)、膵臓癌、肝癌、肺癌、膵癌、食道癌、黒色腫(メラノーマ)、前立腺癌、乳癌、腎癌、胃癌、大腸癌、または白血病に対する癌ワクチンであることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の癌ワクチン。
【請求項12】
ヒト以外の脊椎動物に対し、請求項11に記載の癌ワクチンを用いた腫瘍の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−137857(P2009−137857A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313856(P2007−313856)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】