説明

発光デバイスおよびその用途

【課題】
反射率調整構造体が配置された発光デバイスであって、その発光材料が熱による損傷を受け難い発光デバイスを提供すること。
【解決手段】
発光性化合物層と、
前記発光性化合物層における視聴者側に配置された、正孔を注入するための陽極と、
前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置された、電子を注入するための陰極と
を備える発光デバイスであって、
前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に仕事関数が低い金属のフッ化物もしくは酸化物からなる光吸収層を含む反射率調整構造体が配置されていることを特徴とする発光デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光デバイスおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイデバイスの1種に、発光材料として有機材料を使用するものが挙げられる。この種のデバイスの基本的な構造は、発光性化合物層、例えば、ポリ(p−フェニレンビニレン(「PPV」)からなる膜が2つの電極間に介装されていることにある。一方の電極(陰極)からは負の電荷担体(電子)が注入され、他方の電極(陽極)からは正の電荷担体(正孔)が注入される。電子および正孔は、発光性化合物層内で結合してフォトンを生成する。発光材料は、たとえば国際公開WO90/13148号パンフレットおよび米国特許第4,539,507号明細書に記載されている。国際公開WO90/13148号パンフレットにおいては、発光材料は高分子である。米国特許第4,539,507号明細書においては、発光材料は、(8−ヒドロキシキノリノ)アルミニウム(「Alq3」)のような低分子材料として知られている種類のものである。実際のデバイスでは、一方の電極は典型的には透明であり、このため、フォトンがデバイスから離脱することが可能となる。
【0003】
図1に、有機発光素子(有機EL素子)の典型的な断面構造を示す。有機発光素子は、典型的には、インジウム−スズ酸化物(「ITO」)のような透明な陽極2が被覆されたガラスまたはプラスチック基板1の上に作製される。この種の被覆された基板は市販されている。このITO被覆基板は、少なくとも有機発光材料の薄膜3(発光性化合物層3)と、典型的には金属または合金からなりかつ陰極4を形成する最終層とで被覆されている。なお、例えば、電極と有機発光材料との間の電荷輸送を向上させるために、他の層を有機発光素子に付加することもできる。
【0004】
ディスプレイに入射した光が視聴者に向かって反射されるような場合、特に本来暗くしなければならない画素から反射が起こると、ディスプレイの画素間の見かけ上のコントラストが低減する。このことは、ディスプレイとしての効率性を低減させてしまう。
【0005】
多くのディスプレイデバイスは、省電力性が非常に重要となる用途において使用されている。例としては、移動電話およびポータブルコンピュータのような電池を電源とするデバイスが挙げられる。したがって、ディスプレイデバイスの効率を向上させる駆動部が存在する。
【0006】
特表2002−532830号公報(特許文献1)においては、反射率調整構造体が配置され、発光材料として具体的には蛍光を発する共役重合体を用いたディスプレイデバイスが提案されている。
【特許文献1】特表2002−532830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この特許文献1に開示されたディスプレイデバイスにおいては、波長選択反射機能や反射防止機能の付与を目的とする反射率調整構造体によって陰極が修飾されるために、陰極の電気抵抗が非修飾の従来の陰極よりも上昇してしまう。その結果、陰極にかかる電圧が上昇し、より多くの熱が陰極で発生するために、この熱により発光材料が損傷を受け易いという問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであり、陰極に反射率調整構造体を備えていても、発光材料が熱による損傷を受け難い発光デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究し、発光材料として電流発光効率の高い材料、たとえば燐光発光性材料を用いれば、発光デバイスを従来と同等以上の明るさに発光させるために必要な電流が少なくてすむため、反射率調整構造体が備えられた陰極での熱の発生を抑え、結果として、該発光デバイスを高輝度で点灯させても、発光材料の損傷を抑えられることを見出し、本発明を完成させた。本発明は以下の〔1〕〜〔44〕に関する。
【0010】
〔1〕
発光性化合物層と、
前記発光性化合物層における視聴者側に配置された、正孔を注入するための陽極と、
前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置された、電子を注入するための陰極と
を備える発光デバイスであって、
前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に仕事関数が低い金属のフッ化物もしくは酸化物からなる光吸収層を含む反射率調整構造体が配置されていることを特徴とする発光デバイス。
【0011】
〔2〕前記発光性化合物層が有機発光材料を含んでなることを特徴とする上記〔1〕に記載の発光デバイス。
【0012】
〔3〕前記発光性化合物層内の発光層が燐光発光性材料を含んでなることを特徴とする上記〔1〕または〔2〕に記載の発光デバイス。
【0013】
〔4〕前記発光性化合物層内の発光層が非共役高分子発光材料を含んでなることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0014】
〔5〕前記発光性化合物層内の発光層が燐光発光性非共役高分子材料を含んでなることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0015】
〔6〕前記陽極が少なくとも部分的に光透過性を有することを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0016】
〔7〕前記反射率調整構造体が、前記陰極上で、前記発光性化合物層とは反対側に配置されることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0017】
〔8〕前記陰極が少なくとも部分的に光透過性を有することを特徴とする上記〔7〕に記載の発光デバイス。
【0018】
〔9〕前記陰極の厚みが30nm未満であることを特徴とする上記〔7〕または〔8〕に記載の発光デバイス。
【0019】
〔10〕前記反射率調整構造体が、前記陰極に隣接していることを特徴とする上記〔7〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【0020】
〔11〕前記陰極が前記反射率調整構造体の機能を有することを特徴とする上記〔1〕
〜〔6〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0021】
〔12〕前記陰極が低い仕事関数を有する金属のフッ化物または酸化物からなることを特徴とする上記〔11〕に記載の発光デバイス。
【0022】
〔13〕前記陰極がアルミニウムを含むことを特徴とする上記〔12〕に記載の発光デバイス。
【0023】
〔14〕前記反射率調整構造体が、前記発光性化合物層から発せられて前記陰極を通過して到達した光および/または入射光を吸収する機能を有することを特徴とする上記〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0024】
〔15〕 前記反射率調整構造体が前記陰極に隣接することにより、前記陰極が前記発光性化合物層から発せられた光および/または入射光に対して実質的に非反射性となっていることを特徴とする上記〔10〕〜〔14〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0025】
〔16〕前記陰極が導電性材料からなることを特徴とする上記〔1〕〜〔15〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0026】
〔17〕前記反射率調整構造体が導電性を有することを特徴とする上記〔1〕〜〔16〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0027】
〔18〕
発光性化合物層と、
前記発光性化合物層における視聴者側に配置された、正孔を注入するための陽極と、
前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置された、電子を注入するための陰極と
を備える発光デバイスであって、
前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に反射率調整構造体が配置され、さらに、
光反射層と、前記陰極と前記光反射層との間に配置された光透過性のスペーサ層とを備え、
前記スペーサ層は、前記光反射層の反射面を、少なくとも前記発光性化合物層の一部から前記デバイスの光学的モードの約半波長だけ離間させるような厚みである
ことを特徴とする発光デバイス。
【0028】
〔19〕前記発光性化合物層が有機発光材料を含んでなることを特徴とする上記〔18〕に記載の発光デバイス。
【0029】
〔20〕前記発光性化合物層内の発光層が燐光発光性材料を含んでなることを特徴とする上記〔18〕または〔19〕に記載の発光デバイス。
【0030】
〔21〕前記発光性化合物層内の発光層が非共役高分子発光材料を含んでなることを特徴とする上記〔18〕〜〔20〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0031】
〔22〕前記発光性化合物層内の発光層が燐光発光性非共役高分子材料を含んでなることを特徴とする上記〔18〕〜〔21〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0032】
〔23〕前記発光性化合物層の前記一部において、デバイスの動作中に、電子と正孔との再結合が活発に行われることを特徴とする上記〔18〕〜〔22〕のいずれかに記載の
発光デバイス。
【0033】
〔24〕前記発光性化合物層の前記一部が、電子と正孔とが再結合する主領域であることを特徴とする上記〔23〕に記載の発光デバイス。
【0034】
〔25〕反射層の前記面は、前記発光性化合物層に近い側の前記光反射層の主面であることを特徴とする上記〔18〕〜〔24〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0035】
〔26〕前記陰極が導電性を有することを特徴とする上記〔18〕〜〔25〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0036】
〔27〕前記反射率調整構造体が導電性を有することを特徴とする上記〔18〕〜〔26〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0037】
〔28〕
発光性化合物層と、
前記発光性化合物層における視聴者側に配置された、正孔を注入するための陽極と、
前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置された、電子を注入するための陰極と
を備える発光デバイスであって、
異なる波長の入射光に対して異なる反射率を有するとともに、その反射率がピークとなる波長範囲内に前記発光性化合物層の発光波長が包含される反射構造体を含むコントラスト向上構造体が前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置される
ことを特徴とする発光デバイス。
【0038】
〔29〕前記発光性化合物層が有機発光材料を含んでなることを特徴とする上記〔28〕に記載の発光デバイス。
【0039】
〔30〕前記発光性化合物層内の発光層が燐光発光性材料を含んでなることを特徴とする上記〔28〕または〔29〕に記載の発光デバイス。
【0040】
〔31〕前記発光性化合物層内の発光層が非共役高分子発光材料を含んでなることを特徴とする上記〔28〕〜〔30〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0041】
〔32〕前記発光性化合物層内の発光層が燐光発光性非共役高分子材料を含んでなることを特徴とする上記〔28〕〜〔31〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0042】
〔33〕前記反射構造体が分布型ブラッグ反射体であることを特徴とする上記〔28〕〜〔32〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0043】
〔34〕前記陰極が前記反射構造体における視聴者側とは反対側に配置された層を有し、さらに、該層と前記発光性化合物層との間を導電させるために前記反射構造体を通過する複数のスルーパスを有することを特徴とする上記〔28〕〜〔33〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0044】
〔35〕前記スルーパスの占有する領域が前記デバイスの発光性化合物層の15%未満であることを特徴とする上記〔34〕に記載の発光デバイス。
【0045】
〔36〕陰極が前記反射構造体と前記発光性化合物層との間に介装された透明層を有することを特徴とする上記〔28〕〜〔35〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0046】
〔37〕前記透明層が前記スルーパスに接触していることを特徴とする上記〔34〕〜〔36〕のいずれかに発光デバイス。
【0047】
〔38〕前記陰極が導電性材料からなることを特徴とする上記〔28〕〜〔37〕のいずれかに記載の発光デバイス。
【0048】
〔39〕上記〔1〕〜〔38〕のいずれかに記載の発光デバイスを備えた面発光光源。
【0049】
〔40〕上記〔1〕〜〔38〕のいずれかに記載の発光デバイスを備えた表示装置用バックライト。
【0050】
〔41〕上記〔1〕〜〔38〕のいずれかに記載の発光デバイスを備えた表示装置。
【0051】
〔42〕上記〔1〕〜〔38〕のいずれかに記載の発光デバイスを備えた照明装置。
【0052】
〔43〕上記〔1〕〜〔38〕のいずれかに記載の発光デバイスを備えたインテリア。
【0053】
〔44〕上記〔1〕〜〔38〕のいずれかに記載の発光デバイスを備えたエクステリア。
【発明の効果】
【0054】
本発明の発光デバイスにおいては、陰極に反射率調整構造体を備えているにもかかわらず、該発光デバイスを高輝度で点灯させても、発光材料は熱による損傷を受け難い。
本発明の面発光光源、表示装置用バックライト、表示装置、照明装置、インテリアおよびエクステリアは、高輝度で点灯させても発光材料が熱損傷を受け難い本発明の発光デバイスを用いているので、それらの機能は長期間、安定して発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下に、本発明の発光デバイスについてさらに詳細に説明する。
本発明の第1の発光デバイスは、発光性化合物層と、前記発光性化合物層における視聴者側に配置された、正孔を注入するための陽極と、前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置された、電子を注入するための陰極とを備える発光デバイスであって、前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に仕事関数が低い金属のフッ化物もしくは酸化物からなる光吸収層を含む反射率調整構造体が配置されている。
【0056】
また、本発明の第2の発光デバイスは、発光性化合物層と、前記発光性化合物層における視聴者側に配置された、正孔を注入するための陽極と、前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置された、電子を注入するための陰極とを備える発光デバイスであって、前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に反射率調整構造体が配置され、さらに、光反射層と、前記陰極と前記光反射層との間に配置された光透過性のスペーサ層とを備え、前記スペーサ層の厚みは、前記光反射層の反射面を、少なくとも前記発光性化合物層の一部から前記デバイスの光学的モードの約半波長だけ離間させるような厚みである。
【0057】
陽極は、デバイスが放出可能な任意のまたは全ての波長の光に対して少なくとも部分的に光透過性であることが好ましく、実質的に透明であることが最も好ましい。陽極は、例えば、ITO(インジウム−スズ酸化物)、TO(酸化スズ)、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)、ZnO(酸化亜鉛)または金から形成することができる。陽極は、発光性化合物層から視聴者側に配置されていることが好ましい。すなわち、発光性化合物層と視聴
者がいると想定される場所との間に配置するとよい。陽極は、層の形態であってもよい。デバイスが1つ以上の画素を有するものであるときには、1つ以上の陽極は、(陰極との共同作用下に)各画素を個々にアドレスすることができる。
【0058】
陰極は、デバイスが放出可能な任意のまたは全ての波長の光に対して少なくとも部分的に光透過性であってもよく、実質的に透明であると好適である。これは、陰極を光透過性の物質で形成したり、陰極を比較的薄く形成したりすることにより達成することができる。例えば、陰極の厚みを2nm未満、5nm未満、10nm未満、20nm未満または30nm未満にすればよい。陰極の好適な構成材料としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ba、Ca、Sr、Yb、Smなどの金属、ITOが挙げられる。また、陰極を、反射体や非反射体/光吸収体とすることもできる。この場合、陰極は、陰極それ自身が反射率を調整可能な構造のものであることが好ましい。陰極が光吸収体である場合には、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ba、Ca、Sr、Yb、Sm等の仕事関数が低い金属のフッ化物や酸化物のような光吸収性物質を使用して形成することができる(酸化物やフッ化物とともにAl等の導電性材料を成膜することもできる)。または、低仕事関数金属のフッ化物や酸化物には、炭素のような光吸収体が取り込まれていてもよいし、両者がともに成膜されていることも好ましい。前記低仕事関数金属の仕事関数は、4.0eV未満であってもよい。前記低仕事関数金属の仕事関数は、3.5eV未満であってもよい。前記低仕事関数金属の仕事関数は、3.2eV未満であってもよい。前記低仕事関数金属の仕事関数は、3.0eV未満であってもよい。陰極の適切な厚みは10〜1000nmであるが、50〜150nmであることが好ましい。
【0059】
陽極および/または陰極は、例えば、金属質材料等の導電性物質からなることが好ましい。電極の一方(正孔注入電極)は、4.3eVより大きい仕事関数を有するものであることが好ましい。この層は、金属酸化物、例えばインジウム−スズ酸化物(「ITO」)もしくは酸化スズ(「TO」)であってもよいし、または、仕事関数が高い金属、例えばAuもしくはPtから構成するようにしてもよい。この電極が、陽極または陰極となる。他方の電極(電子注入電極)は、3.5eV未満の仕事関数を有するものであることが好ましい。この層は、好適には仕事関数が低い金属(Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ba、Ca、Sr、Yb、Sm等)もしくは合金、または、1以上のこの種の金属からなる多層構造体により構成することができる。必要に応じて、他の金属(例えばAl、Ag、Cu)をともに使用するようにしてもよい。この電極が、陰極または陽極となる。後方の電極は、少なくとも部分的に光吸収体であることが好ましい。これは、炭素のような光吸収物質の層を電極中に取り込むことにより達成することが可能である。また、そのような物質は、導電体でもあることが好ましい。
【0060】
反射率調整構造体は、陰極に隣接して配置することができる。反射率調整構造体は、(例えば)概ね光吸収体または概ね光反射体であり、デバイスの後方(視聴者とは反対側)の反射率を適切に調整可能なものである。反射率調整構造体は、概ね光吸収性の領域と概ね光反射性の領域とを別個に含むものであってもよい。
【0061】
本発明の第1の発光デバイスにおいては、反射率調整構造体は光吸収層からなるものであってもよい。そのような層は、(発光性化合物層内の)発光領域から発せられた光の陰極による反射あるいは陰極を介しての反射を低減したり、陰極を経由して透過した光を吸収したり、他の発光源からデバイスに入射した光を吸収したりする際に有用である。そのような光吸収層は、陰極に隣接して配置することが好ましいが、例えば、絶縁材料によって陰極から光吸収層を離間させるようにしてもよい。陰極に隣接して、さらに一般的には後方に位置する反射率調整構造体を設けることにより、陰極が、発光領域から発せられた光に対して本質的に非反射的となる。そのような光吸収層は、光吸収物質から形成されることが好ましい。例えば、反射率調整構造体からなる光吸収層は、炭素から構成すること
ができる。デバイスが独立画素を複数個有するものである場合、光吸収層は複数個の画素に対して共通するものであることが好ましい。
【0062】
本発明の第2の発光デバイスにおいては、反射率調整構造体を光反射層で構成するようにしてもよい。そのような層は、デバイス内で光学場(例えば光学場の非ノード)と発光領域の一部とが同時発生することを調整するのに適切である。そのような一部は、電子と正孔との再結合が幾分かまたは活発に行われる(好ましくは光子が生成する)領域であることが適切である。前記一部は、発光性化合物層において電子と正孔との再結合が主に行われる部位または面であることが好ましい。前記一部がデバイスにおける再結合が最も活発な部位または面であることが最も好ましい。反射率調整構造体は、発光性化合物層から光反射層を適切な所望の間隔で離間させるために、光透過性のスペーサ層を有することが好ましい。このスペーサ層は、陰極と一体的に形成されることが好ましい。すなわち、スペーサ層は、陰極の厚みによって形成される。そして、スペーサの厚みは、反射率調整構造体の反射体を、少なくとも前記発光領域の一部から前記デバイスの光学的モードの約半波長だけ離間させるような厚みであることが好ましい。前記反射体は、反射層の主面の1つであってもよく(発光性化合物層に近い側または遠い側)、反射層によって定義される反射構造体(例えば、分布型ブラッグ反射体)であってもよい。スペーサの厚みは、反射体が、光学場が概ねそのピークにある発光領域から、デバイスの光学的モードの概ね半波長分離間させる厚みであることが最も好ましい。
【0063】
上記した反射率調整構造体からなる光吸収層または光反射層は、発光性化合物層からの光が該光吸収層または光反射層に到達するように、デバイスの発光性化合物層に光学的に接続することが好ましい。
【0064】
反射率調整構造体は、導電体であることが好ましい。これにより、該反射率調整構造体を介しての陰極との電気的な接続が確保されるからである。
本発明の第3の発光デバイスは、発光性化合物層と、前記発光性化合物層における視聴者側に配置された、正孔を注入するための陽極と、前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置された、電子を注入するための陰極とを備える発光デバイスであって、異なる波長の入射光に対して異なる反射率を有するとともに、その反射率がピークとなる波長範囲内に前記発光性化合物層の発光波長が包含される反射構造体を含むコントラスト向上構造体が前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置される。
【0065】
本発明の第3の発光デバイスにおいては、反射構造体が分布型ブラッグ反射体であることが好ましい。また、前記陰極が前記反射構造体における視聴者側とは反対側に配置された層を有し、さらに、該層と前記発光性化合物層との間を導電させるために前記反射構造体を通過する複数のスルーパスを有することが好ましい。スルーパスがデバイスの発光性化合物層を占める割合は、15%未満または10%未満であることが好ましい。本発明のこの態様では、陰極が反射体と発光性化合物層との間に介装された透明層からなるものであってもよい。この透明層は、スルーパスに接触していてもよい。
【0066】
本発明の発光デバイスにおける発光性化合物層、すなわち発光層、ホール輸送層、及び電子輸送層に使用する化合物としては、有機化合物が適切であり、低分子化合物及び高分子化合物のいずれをも使用することができる。
【0067】
本発明の発光デバイスの発光層を形成する発光材料としては、大森裕:応用物理、第70巻、第12号、1419−1425頁(2001年)に記載されている低分子発光材料及び高分子発光材料などを例示することができる。この中でも、素子作製プロセスが簡素化されるという点で高分子発光材料が好ましく、発光効率が高い点で燐光発光性材料が好ましい。従って、特に燐光発光性高分子材料がさらに好ましい。
【0068】
電流により発生する熱量は電流の二乗に比例して大きくなるところ、燐光発光性材料のような電流発光効率の高い材料を用いれば、発光デバイスを従来と同等以上の明るさに発光させるために必要な電流が少なくてすむことから、反射率調整構造体が備えられた陰極での熱の発生を抑え、結果として発光材料および発光材料−陰極界面の損傷を防ぐことができる。
【0069】
また、高分子発光材料は、共役高分子発光材料と非共役高分子発光材料とに分類することもできるが、中でも非共役高分子発光材料が好ましい。
上記の理由から、本発明で用いられる発光材料としては、燐光発光性非共役高分子材料(前記燐光発光性材料であり、かつ前記非共役高分子発光材料でもある発光材料)が特に好ましい。
【0070】
本発明の発光デバイスにおける発光層は、好ましくは、燐光を発光する燐光発光性単位とキャリアを輸送するキャリア輸送性単位とを一つの分子内に備えた、燐光発光性高分子を少なくとも一つ含む。前記燐光発光性高分子は、重合性置換基を有する燐光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物を共重合することによって得られる。燐光発光性化合物はイリジウム、白金および金の中から一つ選ばれる金属元素を含む金属錯体であり、中でもイリジウム錯体が好ましい。
【0071】
前記重合性置換基を有する燐光発光性化合物としては、例えば下記式(E−1)〜(E−42)に示す金属錯体の一つ以上の水素原子を重合性置換基で置換した化合物を挙げることができる。
【0072】
【化1】

【0073】
【化2】

【0074】
【化3】

【0075】
【化4】

【0076】
【化5】

【0077】
なお、上記式(E−39)〜(E−42)において、Phはフェニル基を表す。
これらの燐光発光性化合物における重合性置換基としては、例えばビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基及びその誘導体、ビニルアミド基及びその誘導体などが挙げられ、中でもビニル基、メタクリレート基、スチリル基及びその誘導体が好ましい。これらの置換基は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を介して金属錯体に結合していてもよい。
【0078】
前記重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物は、ホール輸送性および電子輸送性の内のいずれか一方または両方の機能を有する有機化合物における一つ以上の水素原子を重合性置換基で置換した化合物を挙げることができる。このような化合物の代表的な例として、下記式(E−43)〜(E−60)に示した化合物を挙げることができる。
【0079】
【化6】

【0080】
【化7】

【0081】
例示したこれらのキャリア輸送性化合物における重合性置換基はビニル基であるが、ビニル基をアクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基及びその誘導体、ビニルアミド基及びその誘導体などの重合性置換基で置換した化合物であってもよい。また、これらの重合性置換基は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を介して結合していてもよい。
【0082】
重合性置換基を有する燐光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物の重合方法は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、付加重合のいずれでもよいが、ラジカル重合が好ましい。また、重合体の分子量は重量平均分子量で1,000〜2,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。ここでの分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法を用いて測定されるポリスチレン換算分子量である

【0083】
前記燐光発光性高分子は、一つの燐光発光性化合物と一つのキャリア輸送性化合物、一つの燐光発光性化合物と二つ以上のキャリア輸送性化合物を共重合したものであってもよく、また二つ以上の燐光発光性化合物をキャリア輸送性化合物と共重合したものであってもよい。
【0084】
燐光発光性高分子におけるモノマーの配列は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれでもよく、燐光発光性化合物構造の繰り返し単位数をm、キャリア輸送性化合物構造の繰り返し単位数をnとしたとき(m、nは1以上の整数)、全繰り返し単位数に対する燐光発光性化合物構造の繰り返し単位数の割合、すなわちm/(m+n)の値は0.001〜0.5が好ましく、0.001〜0.2がより好ましい。
【0085】
燐光発光性高分子のさらに具体的な例と合成法は、例えば特開2003−342325号公報、特開2003−119179号公報、特開2003−113246号公報、特開2003−206320号公報、特開2003−147021号公報、特開2003−171391号公報、特開2004−346312号公報、特開2005−97589号公報に開示されている。
【0086】
本発明の発光デバイスにおける発光層は、好ましくは、前記燐光発光性材料を含む層であるが、発光層のキャリア輸送性を補う目的で正孔輸送材料や電子輸送材料が含まれていてもよい。これらの目的で用いられる正孔輸送材料としては、例えば、TPD(N,N’−ジメチル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン)、α−NPD(4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル)、m−MTDATA(4、4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)などの低分子トリフェニルアミン誘導体や、ポリビニルカルバゾール、前記トリフェニルアミン誘導体に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物、ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアルキルフルオレンなどが挙げられ、また、電子輸送材料としては、例えば、Alq3(アルミニウムトリスキノリノレート)などのキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリアリールボラン誘導体などの低分子材料や、上記の低分子電子輸送性化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどの既知の電子輸送材料が使用できる。
【0087】
本明細書において示されたデバイスの物理的な配置は、必ずしも使用または製造の際におけるその物理的な配置に合わせたものではない。
添付の図面を参照して、本発明の内容を例示的に説明する。なお、図面は、実際の寸法に合ったものではない。
【0088】
図2に示すデバイスは、陽極層10と、陰極層11とを有し、両電極層の間には発光材料からなる層が介装されている。陽極は透明なインジウム−スズ酸化物(ITO)で形成されており、一方、陰極はバリウムで形成されている。陰極は、反射率があまり高くならないように充分に薄膜化されている。陰極の後方には、炭素層13が形成されている。両電極間に適切な電圧が印加されると、発光材料から概ね全方向に光が発せられる。光の幾らかは前方の陽極に向かって発せられ、この陽極を通過した後にデバイスから直接外部に発せられる。光の幾らかは後方の陰極に向かって発せられる。外部の光源から画面上に入射された光は、炭素層13によって吸収される。このため、この光が視聴者に向かって反射されることはない。したがって、後述するように、ディスプレイとしての効率性が向上
する。
【0089】
図2に示すデバイスは、市販品のITO被覆ガラスシートを出発材料として製造することが可能である。ガラスシート(図2中、14で示す)は、後述する各成膜工程において積層される各層の基板として使用される。ガラスシートとしては、例えば、0.7mmの厚みを有するソーダライムガラスまたはホウケイ酸ガラスのシートを用いることができる。ガラスを用いる代わりに、パースペックス(Perspex)を用いるようにしてもよい。I
TO被覆層の厚みは、100〜200nmとすることが好適であり、ITOのシート抵抗は、10〜30Ω/□とすることが好適である。ITO陽極上には、陽極バッファー層15が成膜されている。陽極バッファー層は、PEDOT:PSSを含有する溶液から成膜される。ここで、PEDOTとPSSの比は約1:5である。陽極バッファー層の厚みは、約50nmとするのが好適である。陽極バッファー層は、典型的には、溶液がスピンコートされた後、窒素雰囲気中において200℃、1時間の熱処理が施されることによって形成される。ELPの3%トルエン溶液を含むエレクトロルミネッセント層(EL層)12は、溶液を陽極バッファー層上にスピンコートすることによって成膜され、通常は、90nmの厚みを有する。ここで、ELPとは、燐光発光性高分子(芳香族アミン(ホール輸送材料部分)とホウ素系分子(電子輸送材料部分)とイリジウム錯体(燐光発光色素部分)の分子構造を含む三成分系の共重合体(poly[viTPD-viTMB-viIr(ppy)2(acac)])を意味する。このpoly[viTPD-viTMB-viIr(ppy)2(acac)]は、重量平均分子量が50,000であり、その合成の際の仕込み比(モル比)は、viTPD:viTMB:viIr(ppy)2(acac)=45:45:10である。さらに、バリウム等の仕事関数が低い透明または半透明の層を高真空中(基準圧力10-3Pa未満)でEL層に熱蒸着して陰極層11が形成される。この層の厚みは、1nmを超えていることが好ましいが、バリウム層が不透明になるような厚み(通常、約20nm)よりも薄くする。この層の上には、100〜500nmの厚みの炭素層13が基準圧力10-8mbarの電子ビーム蒸着またはスパッタ法によって成膜されている。また、この層の上には、100〜1000nmの厚みのアルミニウム層16が高真空中(基準圧力10-3Pa未満)のスパッタまたは抵抗加熱蒸着によって成膜されている。本実施の形態においては、層11の仕事関数は、発光性化合物層に効果的に電子を注入させることが可能な程度に低く設定されている。炭素層13は、光吸収層として機能するとともに、デバイスの駆動電圧を大幅に増加させるようなことがない低い導電率を有する。アルミニウム層16は、ピンホール密度が低く、粒径が小さな小型の封止材として機能する。デバイスには、接点が設けられている(層16と層10との間)。最終的に、デバイスは、周囲を補強するためにエポキシ樹脂内に封止される。
【0090】
図3および図4に、図2に示したデバイスを参照して説明した上記の原理を利用した多画素ディスプレイデバイスを示す。図3および図4のデバイスは、共通陽極面に設けられた平行な陽極ストリップ20の組と、陽極面から離間した共通陰極面に設けられた平行な陰極ストリップ21の組とを有する。陽極と陰極との間には、発光性化合物層22が存在する。陽極ストリップと陰極ストリップとが重なり合う各領域がディスプレイデバイスの画素として定義される。パッシブマトリックスアドレッシング方式を採用することによって、個々の画素を発光させることができる(デバイスには、パッシブマトリックスアドレッシング方式の代わりに、アクティブマトリックス方式、または他のアドレッシング方式を採用することもできる)。図4に示すように、各陰極は、注入層75、中間層76および導電層77の3つの層を有する。注入層75は、発光性化合物層22に隣接して設けられたバリウム等の仕事関数が低い材料からなる層である。中間層76は、炭素等の光吸収材料の層である。また、導電層77は、アルミニウムなどの高導電率材料の層である。これらの層によって、陰極面81が形成されている。一般的に、注入層は、発光性化合物層22に対する良好な注入特性を示す材料で形成するのが適している。また、中間層は、良好な光吸収特性を示す材料で形成するのが適しており、導電層は、導電率が高い材料で形成するのが適している。導電層を他の層よりも厚くした上、電極構造に均一に電荷が分布
しやすくすることが好ましい。複数の層の機能を有する材料を用いて層の1つを形成することによって、層の数を減らすことも可能である。例えば、選択された発光性材料が、炭素からの電荷が良好に注入されるものであれば、層75を設けなくともよい。また、層75や層76が適度な導電率を有する場合には、層77を設けなくともよい。光吸収層76は、他の2層(2層が存在する場合)の間に介装することが好ましい。この場合、光吸収層76は、導電性材料で形成される。また、光吸収層76を他の2層の後方に設けてもよい。光吸収層76の代わりに、または、光吸収層76を設けた上で、構造体全体を被覆するような光吸収層(図4において層29として示す)を設けるようにしてもよい。層が炭素等の導電性材料からなる場合には、陰極ストリップ21間の短絡を防ぐために、絶縁層23を設けるようにすればよい。
【0091】
光吸収層76を設けることによって、ディスプレイに入射された光が吸収され、コントラストの低下を引き起こすようなディスプレイからの光の反射を防ぐことができるという効果が得られる。このことを、図4おいて光線80で示す。光線80は、層23および層29によって吸収される。したがって、光吸収層はコントラストの向上に役立つ。さらに、光吸収層は、発光性化合物層22から発せられた光のデバイス内での透過を低減させる。これにより、ある画素から発せられた光が異なる画素の部位で視認されるようなことがなくなるので、デバイスからそのような光が出現することを回避することができ、結局、コントラストが向上する。
【0092】
ディスプレイ駆動部からの接点の一方は、層77に取り付けられる。
環境光の反射をさらに低減するために、炭素層または他の非反射性層を、発光性化合物層22の前面の各画素の間に存在する間隙に設けてもよい。
【0093】
以上のように、図2〜図4に示す装置を参照して説明した上記の原理によって、傾斜角の付いた発光が低減し、かつ環境光の反射が低減する。これにより、デバイスにおける隣接する画素間のコントラストを向上させ、ある一個の画素から発せられた光のパターンを向上させることができる。
【0094】
図5に別の形態に係るディスプレイデバイスを示す。図5のデバイスは、陽極層40と陰極層41とを有する。両電極層の間には、発光性化合物層42が設けられる。陽極および陰極は、透明ITOで形成される。また、例えば、カルシウム等の仕事関数が低い金属からなる薄層として各電極を形成し、該電極を、ITO、TO、IZO、ZnO等の材料から形成された透明スペーサ層に隣接させてもよい。両電極間に適切な電圧が印加されると、発光材料から概ね全方向に光が発せられる。光の幾らかは前方の陽極に向かって発せられ、この陽極を通過してデバイスから直接外部に発せられる。光の幾らかは、後方の陰極に向かって発せられ、この陰極を通過して43として示す反射構造体に入射する。反射構造体は、反射層44と透明スペーサ層46とからなる。スペーサ層は、陰極41と反射層44との間に配置され、発光性化合物層42から反射層を離間させる。反射層は、後方に発せられた光を前方に反射する。その結果、この光は、再び陰極41を通過して、発光性化合物層42、陽極40およびガラス基板47を通過した後、デバイスの外部に発せられる(光線48参照)。
【0095】
図5において、曲線49は光学場を示し、領域50はデバイス内において光子を生成するための電子と正孔との再結合が最も活発となるゾーンを示している。図1のデバイスにおいても、同じような特徴が表れる部分が60および61によって示されている。図5のデバイスにおけるスペーサ層の厚みは、理想的には、発光を後方へと返す機能を果たす反射層44の平面(複数の平面が存在する場合にはそのうちの1つの平面)が、デバイスの少なくとも1つの発光波長において、全体の反射配列(曲線49参照)の光学的モードのピークが該デバイスの発光性化合物層内での正孔と電子との再結合ゾーンに一致するよう
な距離をもって発光性化合物層から離間するように選定される。このように、光学場のピーク(非ノード)と発光性化合物層の正孔/電子再結合ゾーンとを一致させることにより、図5のデバイスの平面で、図1のデバイスに比して効率的に光を発生させることができるようになるという利点が得られる。すなわち、所定の波長における効率的な光の発生部位を最適化することができる。最適化されたデバイスの波長は、ピーク強度発光波長と同じであるか、または近傍である。配列を理想的なものにするためには、極めて厳密に各層間の距離を設定する必要があるが、概ね上記のように層を配置することによって、大きな効果が得られる。
【0096】
図5のデバイスは、陰極の形成に至るまで、図2のデバイスと概ね同様の手順で作製することができる。図5のデバイスにおいては、さらに、ITO、TO、IZO、ZnO等を、好ましくは、バリウム等の仕事関数が低い金属の薄膜上に必要な厚みで成膜することによってスペーサ層46が形成される。ITOスペーサ層上には、アルミニウムなどの反射性材料によって反射層44が成膜される。代替的な実施の形態においては、反射部として、導電性の誘電積層体を設けるようにしてもよい。この誘電積層体は、陰極に隣接させてもよいし、陰極から離間させてもよい。このような積層体は、例えば、ITOおよびNiOを交互に積層させることによって形成することができる。
【0097】
別の実施の形態においては、電極のうちの一方を、反射率調整材料によって形成することができる。陽極や陰極は、所望の反射特性、導電特性、注入特性を有する材料を用いることによって、反射体としてもよいし、非反射体(光吸収体)としてもよい。電気的に好適な材料に対し、処理(例えば、表面処理や反射率調整材の添加処理等)を施すことによって、所望の反射特性を有する材料を得ることができる。
【0098】
非反射性電極は、後方の電極(視聴者から遠い側の電極)の具体的な例の1つである。図1〜図5に示すデバイス構成に概ね準拠したデバイスにおいては、陰極を非反射体とすることが必要である(他のデバイスにおいては、陽極を後方の電極にしてもよい)。反射性を有する陰極、または、反射性を有さない陰極に好適に用いられる材料の一例は、LiF:Alである。LiF:Al膜におけるAl成分が50%を超えていれば、このLiF:Al膜は反射性を有する。LiF:Al膜におけるAl成分が30〜50%の範囲内であれば、このLiF:Al膜は反射性を有さない。LiF:Al膜におけるAl成分が30%未満であれば、このLiF:Al膜は半透明になるだけでなく、極めて高い抵抗率を有するようになる。したがって、LiF:Alの比が50:50〜70:30となるようなLiF/Al膜がブラック(非反射性)陰極を作製するにあたって好適である。
【0099】
非反射体である後方の電極(この場合、陰極)は、例えば、以下のようにして製造することができる。陽極として機能する厚み150nmのITO層をガラス基板上に成膜する。次に、陽極バッファー層として機能する厚み50nmのPEDOT/PSS層を成膜し、その上に、前記ELPからなる厚み80nmのELポリマー層を形成する。最後に、非反射性の陰極層として、LiFとAlをともに蒸着させて厚み200nmの層を成膜する。なお、蒸着されたLiF:Alの比は60:40である。この層の上に、厚み400nmのAl層を成膜する。このデバイスの設計に変更を加える際には、LiFとAlとからなる層の厚みを、LiFとAlの組成に依存して変化させなければならないことに留意する必要がある。なぜなら、層に含まれるLiFの割合が大きくなるほど層の透明度が増加するからである。LiF:Alが60:40となる組成の層であれば、200nmの厚みは充分な厚みであるといえる。厚みの好適な範囲は、50〜1000nmである。
【0100】
非反射性陰極材料の代替的なものとしては、仕事関数が低いLi、Na、K、Rb、Cs等の金属の一般的なフッ化物および酸化物が挙げられる。また、AlやCuなどの本質的に極めて高導電率の金属(Cuはポリマーの蛍光性を弱める傾向があるので、適さない
場合もある)を混合することが好ましい。具体的な例としては、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、Li2Oが挙げられる。LiF、NaF、KF、RbF、CsF、Li2Oは、Alとともに蒸着するようにしてもよいし、Alを含有するターゲットからスパッタするようにしてもよい。いずれの場合においても、導電体(Al)と絶縁体であるフッ化物および酸化物の比は、実験によって簡単に求めることができるが、上述したLiF:Al系と同様になると考えられる。反射率が低い、または非反射性材料、すなわち、陰極を作製する別の方法は、仕事関数が低い材料を炭素とともに蒸着やスパッタすることである。仕事関数が低い材料の例としてはLi等や、上記したフッ化物および酸化物が挙げられる。
【0101】
図6は別の代替的なデバイスを示す平面図であり、図7はその断面図である。このデバイスは、陽極60と、陽極バッファー層62と、陰極63と、発光性化合物層64と、分布型ブラッグ反射層(DBR)65とを有する。DBRは、発光性化合物層上における視聴者側とは反対側に位置する。陰極63の大部分(66)は、DBR上における視聴者側とは反対側に位置する。電荷が陰極を通過して発光性化合物層に達するようにするため、DBRに陰極バイアス67が設けられる。このバイアスがデバイスにおいて占める領域は比較的小さく、例えば、約5%〜15%である。発光性化合物層への電荷の注入を均一にするために、充分に薄くて透明な別の層68がDBRと発光性化合物層との間に設けられている。DBRが導電性を有する場合、バイアスの間隔が密になっている場合、または、電荷の均一性が別の何らかの方法によって達成される場合であれば、層68を設けなくともよい。バイアスの網目状構造(図6参照)は、シャドウマスクを用いて成膜することによって形成することができる。
【0102】
DBRは、反射率の高い誘電体と反射率の低い誘電体(光透過性材料)とが、規則的かつ交互に配置する積層体であり、特定の波長での反射に適したブラッグの条件が実現するように構成されている。ブラッグの条件は、誘電積層体における周期性の光路長が半波長に相当するときに生じ、DBR積層体が以下の式に従っているときに、反射率がより最適化される。
【0103】
1/2λ=n11+n22
上記式において、n1およびn2はそれぞれ屈折率であり、d1およびd2は対応する成分のDBR内での膜厚であり、λは所望の反射波長である。図8は、波長に対する反射率を示すグラフであり、反射率は、波長がそのように最適化されているときにピークとなり、他の波長の場合にはかなり低くなる。
【0104】
図6および図7のデバイスにおいて、DBRは、発光性化合物層の発光波長(または、発光主波長)がDBRの反射率のピークの範囲内となるように配置される。最も好適には、DBRは、発光性化合物層の発光波長が、DBRの反射率が最大に(概ね最大に)なるような範囲に配置される。このようにして、DBRによってデバイスの効率をさほど低下させることなくコントラストを向上させることができるという効果が得られる。発光性化合物層から後方に発せられた光は、DBRによって効率的に(例えば、約95%〜100%の反射率で)視聴者に向かって反射する。入射光の波長が、発光性化合物層の発光波長または発光性化合物層の発光波長の近傍波長でない場合、すなわち、入射光の波長が、DBRの反射率がピークとなる範囲外である場合、この入射光の反射はかなり少なくなり(例えば、約5%〜10%)DBRによって吸収されてしまうため、デバイスのコントラストが向上する。さらに、DBRのピーク反射率によって、デバイスから発せられる光の色の純度が高められる。
【0105】
バイアスは、ある範囲の波長に対しては反射性を有するようにしてもよい。従って、バイアスによって占有される領域の割合を最小にするのが好ましい。その割合は、例えば1
5%未満であり、好ましくは10%未満である。
【0106】
次に、上述したデバイスの変形例について説明する。どのようなデバイスであっても、発光性化合物層と電極(一方または両方の電極)との間に一つ以上の電荷輸送層(例えば、層15、70、71)を形成することにより、各電極と発光性化合物層との電荷の輸送を支援するとともに逆方向への電荷の輸送が抑制されるようにしてもよい。上述した原理は、他の種類の有機または無機のディスプレイディバイスにも適用可能である。別の具体例の1つは、例えば、「有機ELダイオード」(C.W.Tang and S.A.VanSlyke,Appl
.Phys.Lett.51,913-915 (1987))に記載されているような、発光用の昇華性分子膜を用いるタイプのディスプレイデバイスである。電極の配置を逆にして、陰極がディスプレイの前面(視聴者に近い側)に配置させ、陽極を後方に配置させるようにしてもよい。デバイス性能が低下する可能性があるが、本明細書中で説明したものとは別の材料、または別の種類の材料を用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】代表的な有機発光素子(有機EL素子)の断面構造を示す図である。
【図2】第1のデバイスの断面図である。
【図3】第2のデバイスの平面図である。
【図4】図3のデバイスのA−A線に沿った断面図である。
【図5】第3のデバイスの断面図である。
【図6】第4のデバイスの平面図である。
【図7】第4のデバイスの断面図である。
【図8】波長に対するDBRの反射率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0108】
1 基板
2 陽極
3 発光性化合物層
4 陰極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光性化合物層と、
前記発光性化合物層における視聴者側に配置された、正孔を注入するための陽極と、
前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置された、電子を注入するための陰極と
を備える発光デバイスであって、
前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に仕事関数が低い金属のフッ化物もしくは酸化物からなる光吸収層を含む反射率調整構造体が配置されていることを特徴とする発光デバイス。
【請求項2】
前記発光性化合物層が有機発光材料を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項3】
前記発光性化合物層内の発光層が燐光発光性材料を含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の発光デバイス。
【請求項4】
前記発光性化合物層内の発光層が非共役高分子発光材料を含んでなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項5】
前記発光性化合物層内の発光層が燐光発光性非共役高分子材料を含んでなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項6】
前記陽極が少なくとも部分的に光透過性を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項7】
前記反射率調整構造体が、前記陰極上で、前記発光性化合物層とは反対側に配置されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項8】
前記陰極が少なくとも部分的に光透過性を有することを特徴とする請求項7に記載の発光デバイス。
【請求項9】
前記陰極の厚みが30nm未満であることを特徴とする請求項7または8に記載の発光デバイス。
【請求項10】
前記反射率調整構造体が、前記陰極に隣接していることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【請求項11】
前記陰極が前記反射率調整構造体の機能を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項12】
前記陰極が低い仕事関数を有する金属のフッ化物または酸化物からなることを特徴とする請求項11に記載の発光デバイス。
【請求項13】
前記陰極がアルミニウムを含むことを特徴とする請求項12に記載の発光デバイス。
【請求項14】
前記反射率調整構造体が、前記発光性化合物層から発せられて前記陰極を通過して到達した光および/または入射光を吸収する機能を有することを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項15】
前記反射率調整構造体が前記陰極に隣接することにより、前記陰極が前記発光性化合物層から発せられた光および/または入射光に対して実質的に非反射性となっていることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項16】
前記陰極が導電性材料からなることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項17】
前記反射率調整構造体が導電性を有することを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項18】
発光性化合物層と、
前記発光性化合物層における視聴者側に配置された、正孔を注入するための陽極と、
前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置された、電子を注入するための陰極と
を備える発光デバイスであって、
前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に反射率調整構造体が配置され、さらに、
光反射層と、前記陰極と前記光反射層との間に配置された光透過性のスペーサ層とを備え、
前記スペーサ層は、前記光反射層の反射面を、少なくとも前記発光性化合物層の一部から前記デバイスの光学的モードの約半波長だけ離間させるような厚みである
ことを特徴とする発光デバイス。
【請求項19】
前記発光性化合物層が有機発光材料を含んでなることを特徴とする請求項18に記載の発光デバイス。
【請求項20】
前記発光性化合物層内の発光層が燐光発光性材料を含んでなることを特徴とする請求項18または19に記載の発光デバイス。
【請求項21】
前記発光性化合物層内の発光層が非共役高分子発光材料を含んでなることを特徴とする請求項18〜20のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項22】
前記発光性化合物層内の発光層が燐光発光性非共役高分子材料を含んでなることを特徴とする請求項18〜21のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項23】
前記発光性化合物層の前記一部において、デバイスの動作中に、電子と正孔との再結合が活発に行われることを特徴とする請求項18〜22のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項24】
前記発光性化合物層の前記一部が、電子と正孔とが再結合する主領域であることを特徴とする請求項23に記載の発光デバイス。
【請求項25】
前記光反射層の前記面は、前記発光性化合物層に近い側の前記光反射層の主面であることを特徴とする請求項18〜24のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項26】
前記陰極が導電性を有することを特徴とする請求項18〜25のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項27】
前記反射率調整構造体が導電性を有することを特徴とする請求項18〜26のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項28】
発光性化合物層と、
前記発光性化合物層における視聴者側に配置された、正孔を注入するための陽極と、
前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置された、電子を注入するための陰極と
を備える発光デバイスであって、
異なる波長の入射光に対して異なる反射率を有するとともに、その反射率がピークとなる波長範囲内に前記発光性化合物層の発光波長が包含される反射構造体を含むコントラスト向上構造体が前記発光性化合物層における視聴者側とは反対側に配置される
ことを特徴とする発光デバイス。
【請求項29】
前記発光性化合物層が有機発光材料を含んでなることを特徴とする請求項28に記載の発光デバイス。
【請求項30】
前記発光性化合物層内の発光層が燐光発光性材料を含んでなることを特徴とする請求項28または29に記載の発光デバイス。
【請求項31】
前記発光性化合物層内の発光層が非共役高分子発光材料を含んでなることを特徴とする請求項28〜30のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項32】
前記発光性化合物層内の発光層が燐光発光性非共役高分子材料を含んでなることを特徴とする請求項28〜31のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項33】
前記反射構造体が分布型ブラッグ反射体であることを特徴とする請求項28〜32のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項34】
前記陰極が前記反射構造体における視聴者側とは反対側に配置された層を有し、さらに、該層と前記発光性化合物層との間を導電させるために前記反射構造体を通過する複数のスルーパスを有することを特徴とする請求項28〜33のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項35】
前記スルーパスの占有する領域が前記デバイスの発光性化合物層の15%未満であることを特徴とする請求項34に記載の発光デバイス。
【請求項36】
陰極が前記反射構造体と前記発光性化合物層との間に介装された透明層を有することを特徴とする請求項28〜35のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項37】
前記透明層が前記スルーパスに接触していることを特徴とする請求項34〜36のいずれかに発光デバイス。
【請求項38】
前記陰極が導電性材料からなることを特徴とする請求項28〜37のいずれかに記載の発光デバイス。
【請求項39】
請求項1〜38のいずれかに記載の発光デバイスを備えた面発光光源。
【請求項40】
請求項1〜38のいずれかに記載の発光デバイスを備えた表示装置用バックライト。
【請求項41】
請求項1〜38のいずれかに記載の発光デバイスを備えた表示装置。
【請求項42】
請求項1〜38のいずれかに記載の発光デバイスを備えた照明装置。
【請求項43】
請求項1〜38のいずれかに記載の発光デバイスを備えたインテリア。
【請求項44】
請求項1〜38のいずれかに記載の発光デバイスを備えたエクステリア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−52978(P2007−52978A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236510(P2005−236510)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】