説明

発光パネルの製造装置及び発光パネルの製造方法、並びに電子機器

【課題】高い製造効率で発光特性に優れた発光パネルを量産化することができる発光パネルの製造装置及びその製造方法を提供する。また、素子寿命や発光特性に優れ、発光輝度のばらつきが抑制された発光パネルを備えた電子機器を提供する。
【解決手段】ノズルコート成膜装置100は、基板11表面へのインクの塗布工程においては、基板11表面に塗布用マスク21を密着させた状態で、ノズルヘッド111をX方向に走査させて、塗布用マスク21の各列のスリット21a内にインクを塗布する。次いで、全ての列のスリット21a内に有機溶液14xが塗布、充填された基板11を、減圧した状態で加熱処理して、均一かつ一括して乾燥させて、各画素PIXのEL素子形成領域Relに露出する画素電極12上に有機EL層14を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光パネルの製造装置及びその製造方法、並びに電子機器に関し、特に、ノズルプリンティング法(又は、ノズルコーティング法)により液状材料を塗布することにより発光機能層を成膜する発光パネルの製造装置及びその製造方法、並びに、該製造方法により製造された発光パネルを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や携帯音楽プレーヤ等の電子機器の表示デバイスとして、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略記する)等の発光素子を2次元配列した表示パネル(発光素子型表示パネル)を適用したものが知られている。特に、アクティブマトリクス駆動方式を適用した発光素子型表示パネルにおいては、広く普及している液晶表示装置に比較して、表示応答速度が速く、視野角依存性も小さく、また、高輝度・高コントラスト化、表示画質の高精細化等が可能であるという特長を有している。加えて、発光素子型表示パネルは、液晶表示装置のようにバックライトや導光板を必要としないので、一層の薄型軽量化が可能であるという特長を有している。
【0003】
このような表示パネルに適用される発光素子として、近年、高分子系の有機材料を発光機能層に用いた有機EL素子の開発が進んでいる。この高分子系有機EL素子は、概略、有機EL層(発光機能層)を挟むように、アノード電極(陽極)とカソード電極(陰極)を形成した構造を有している。そして、有機EL層に発光しきい値を越えるようにアノード電極とカソード電極に電圧を印加することにより、有機EL層内でホールと電子が再結合する際に生じるエネルギーに基づいて光(励起光)が放射される。
【0004】
ところで、高分子系有機EL素子における発光機能層の形成方法としては、例えばインクジェット法(液滴吐出法)やノズルプリンティング法(又は、ノズルコーティング法)等を用いて、基板上に発光機能層を形成するための有機材料を塗布する手法が知られている。このような発光機能層の形成方法においては、基板上に配列される各有機EL素子の形成領域を画定するとともに、各形成領域における有機材料の塗布状態(すなわち発光機能層の成膜状態)を均一化するために、基板上の各形成領域間(境界領域)に隔壁を設けた基板構造を適用することが知られている。このような隔壁を備えた有機EL表示パネルについては、例えば、特許文献1、2等に記載されている。これらの特許文献には、基板上に格子状に突出して形成された隔壁を設けた基板構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−076881号公報
【特許文献2】特開2008−108737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1、2に開示されたような発光機能層の形成方法においては、次のような問題を有していた。すなわち、基板に配列される各有機EL素子間の境界領域に格子状に隔壁を設けた基板構造の場合、有機材料を塗布する際に、各有機EL素子の形成領域に有機材料を均一に塗布するためにインクジェット法が用いられている。ここで、インクジェット法は、所望の吐出量の有機材料を、各有機EL素子の形成領域に直接かつ精度良く塗布して、均一な発光機能層を形成することができるという特長を有している。
【0007】
しかしながら、インクジェット法においては、各有機EL素子の形成領域に有機材料を直接塗布するため、基板表面への着滴時に有機材料の跳ね返りや飛散が発生する場合があるという問題を有していた。また、インクジェット法においては、各有機EL素子の形成領域にインクノズルのヘッドを高精度に位置合わせする必要があるため、例えば高精細の表示パネルの製造に適用する場合、制御が複雑かつ煩雑になるという問題も有していた。そのため、高い製造効率で、表示パネルを量産化することができる技術が求められている。
【0008】
なお、上述したような問題を解決する手法として、インクジェット法に換えてノズルコーティング法(又はノズルプリンティング法)を用い、有機材料を塗布する方法も考えられる。しかしながら、基板上に格子状の隔壁を設けた基板構造の場合、ノズルから吐出される有機材料の液流の一部が隔壁上に残留するため、各形成領域に有機材料が均一に塗布されず、有機EL素子の寿命や発光特性の劣化、発光輝度のばらつき等を招くという問題を有していた。なお、ノズルコーティング法を用いた場合の問題については、後述する発明の実施形態において詳しく説明する。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑み、高い製造効率で発光特性に優れた発光パネルを量産化することができる発光パネルの製造装置及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、素子寿命や発光特性に優れ、発光輝度のばらつきが抑制された発光パネルを備えた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、基板上に第一電極、少なくとも一層からなる発光機能層、第二電極が積層された発光素子を備え、少なくとも特定の列に2つ以上配列されている複数の画素が配列された発光パネルの製造装置において、前記基板上に設定された前記画素の各形成領域にインクを吐出して塗布するノズルと、少なくとも前記特定の列の2つ以上の前記画素の形成領域が露出する開口部を有するマスクの密着面を、前記基板上に着脱可能に密着させるマスク密着制御部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発光パネルの製造装置において、前記マスクは、前記密着面が撥液性を有していることを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載の発光パネルの製造装置において、前記インクが塗布、充填された前記基板を、減圧した状態で加熱処理するインク乾燥処理部を、さらに備えていることを特徴とする。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発光パネルの製造装置において、前記マスクは、前記基板上に配列された全ての前記画素の形成領域に対応して、複数条の前記開口部が設けられていることを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発光パネルの製造装置において、前記マスクは、前記基板上に配列された特定の列の前記画素の形成領域にのみ対応して、複数条の前記開口部が設けられていることを特徴とする。
請求項6記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の発光パネルの製造装置において、前記マスクは、磁性体材料からなり、前記マスク密着制御部は、前記マスクを磁力により引き寄せて基板上に密着させることを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の発明は、基板上に第一電極、少なくとも一層からなる発光機能層、第二電極が積層された発光素子を備えた複数の画素と、前記複数の画素の各形成領域を画定する隔壁と、が設けられた発光パネルの製造方法において、前記基板上に列方向に配列された前記複数の画素の形成領域が露出し、内部が親液性を有する複数条の開口部が設けられたマスクの密着面を、前記隔壁上に密着させる工程と、前記開口部に沿ってノズルを走査しつつインクを吐出して、前記開口部の内部に前記インクを塗布、充填する工程と、前記インクが塗布、充填された前記基板を、乾燥させて、前記画素の発光機能層を成膜する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発光パネルの製造方法において、前記マスクは、前記基板上に配列された特定の列の前記画素の形成領域にのみ対応して前記開口部が設けられ、前記マスクを前記隔壁上で着脱し、前記開口部を前記基板上の異なる列に移動して位置合わせしつつ、前記開口部の内部に前記インクを塗布、充填する工程と前記基板を加熱処理する工程を、繰り返し実行することを特徴とする。
【0014】
請求項9記載の発明に係る電子機器は、前記請求項7又は8に記載の製造方法を適用して形成された発光パネルが実装されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る発光パネルの製造装置及びその製造方法によれば、高い製造効率で発光特性に優れた発光パネルを量産化することができる。また、本発明に係る電子機器によれば、素子寿命や発光特性に優れ、発光輝度のばらつきが抑制された画像表示を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る発光パネルの製造装置を適用したノズルコート成膜装置を示す概略構成図である。
【図2】第1の実施形態に係るノズルコート成膜装置の基板ステージを示す要部構成図である。
【図3】第1の実施形態に係るノズルコート成膜装置により製造される表示パネルの一例を示す概略平面図である。
【図4】第1の実施形態に係るノズルコート成膜装置により製造される表示パネルの一例を示す概略断面図である。
【図5】第1の実施形態に係るノズルコート成膜装置を適用した表示パネルの製造方法の一例を示す工程断面図(その1)である。
【図6】第1の実施形態に係るノズルコート成膜装置を適用した表示パネルの製造方法の一例を示す工程断面図(その2)である。
【図7】第1の実施形態に係るノズルコート成膜装置を適用した表示パネルの製造方法の一例を示す工程断面図(その3)である。
【図8】第1の実施形態に係るノズルコート成膜装置を適用した表示パネルの製造方法の具体例を示す基板及び基板ステージの平面図(その1)である。
【図9】第1の実施形態に係るノズルコート成膜装置を適用した表示パネルの製造方法の具体例を示す基板及び基板ステージの平面図(その2)である。
【図10】第1の実施形態に係るノズルコート成膜装置を適用した表示パネルの製造方法の要部具体例を示す工程断面図(その1)である。
【図11】第1の実施形態に係るノズルコート成膜装置を適用した表示パネルの製造方法の要部具体例を示す工程断面図(その2)である。
【図12】第1の実施形態に係るノズルコート成膜装置を適用した表示パネルの製造方法の要部具体例を示す工程断面図(その3)である。
【図13】比較対象となる表示パネルの製造方法の一例を示す基板及び基板ステージの平面図である。
【図14】比較対象となる表示パネルの製造方法の一例を示す工程断面図である。
【図15】第2の実施形態に係る表示パネルの製造方法(有機EL層の成膜工程)の具体例を示す基板の概略図である。
【図16】第2の実施形態に係る表示パネルの製造方法の一例を示す工程断面図である。
【図17】第3の実施形態に係るデジタルカメラの構成を示す斜視図である。
【図18】第3の実施形態に係るモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図19】第3の実施形態に係る携帯電話の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る発光パネルの製造装置及びその製造方法、並びに、該製造方法により形成される発光パネルを備えた電子機器について、実施形態を示して詳しく説明する。
【0018】
<第1の実施形態>
(発光パネルの製造装置)
まず、本発明に係る発光パネルの製造装置について、図面を参照して説明する。ここでは、本発明に係る発光パネルの製造装置をノズルコート成膜装置に適用し、発光パネルとして、有機EL素子を備えた複数の画素が配列された表示パネルを製造する場合について説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る発光パネルの製造装置を適用したノズルコート成膜装置を示す概略構成図である。図1(a)は、ノズルコート成膜装置の基板ステージを上方から俯瞰した概略平面図であり、図1(b)は、ノズルコート成膜装置の全体構成を示す概略ブロック図である。また、図2は、本実施形態に係るノズルコート成膜装置の基板ステージを示す要部構成図である。図2(a)は、ノズルコート成膜装置の基板ステージ上に載置、固定された基板を上方から俯瞰した概略平面図であり、図2(b)は、該基板ステージを側方から俯瞰した概略側面図である。なお、図2(a)においては、図示を明瞭にするため、一部の構成にハッチングを施して示した。
【0020】
第1の実施形態に係るノズルコート成膜装置(発光パネルの製造装置)100は、大別して、インク吐出機構部と、基板可動機構部と、を有している。インク吐出機構部は、パネル基板(基板)に対してノズルヘッドを特定方向(X方向)に走査しながら有機EL層(担体輸送層や発光層等;発光機能層)となるインクの液流を連続的に流し続ける機能を備えている。すなわち、本実施形態に係るノズルコート成膜装置は、周知のインクジェット成膜装置のように、パネル基板に対して複数の液滴を不連続に吐出するものとは異なる。また、基板可動機構部は、上記ノズルヘッドの走査方向に対して垂直方向(基板平面内で直交する方向;Y方向)にパネル基板を移動させることにより、ノズルヘッドがパネル基板に対して相対的に2次元座標方向に移動するように制御する機能を備えている。
【0021】
ここで、本実施形態に係るノズルコート成膜装置においては、有機EL素子の有機EL層(正孔輸送層;担体輸送層)を形成するための正孔輸送材料として、例えば導電性ポリマーであるポリエチレンジオキシチオフェンPEDOTと、ドーパントであるポリスチレンスルホン酸PSS(以下、「PEDOT/PSS」と略記する)を、水に分散したものに高沸点の溶媒を加えてなる有機溶液(上述したインクに相当する)を用いる。また、本実施形態においては、有機EL素子の有機EL層(電子輸送層兼発光層;担体輸送層)を形成するための電子輸送性発光材料として、例えばポリフェニレンビニレン系ポリマーやポリフルオレン系ポリマー等の共役系高分子を、高沸点の溶媒に加えてなる有機溶液(上述したインクに相当する)を用いる。
【0022】
以下、本実施形態に係るノズルコート成膜装置の各機構部について具体的に説明する。
(インク吐出機構部)
インク吐出機構部は、例えば図1(a)、(b)に示すように、ノズルヘッド(ノズル)111と、ポンプ部112と、流量制御部113と、インクタンク114と、ヘッド走査部115と、吐出制御部116と、備えている。ここで、流量制御部113とヘッド走査部115と吐出制御部116は本発明に係るインク塗布制御部に対応する。
【0023】
ノズルヘッド111は、基板ステージ121上に載置、固定された基板(パネル基板)11に対して、上記インクを吐出して塗布する。ここで、ノズルヘッド111は、ヘッド走査部115に支持され、後述するロボット制御部125からの制御信号に基づいて、基板ステージ121に対してX方向(主走査方向;図1中、両矢印Xmで表記)に移動する。
【0024】
ポンプ部112は、図1(b)に示すように、流量制御部113から出力される駆動信号に基づいて、インクタンク114に貯蔵されたインクを一定圧力にて送出する。流量制御部113は、流量計とバルブを備えており、測定した流量を元にバルブを制御し、吐出制御部116より指定された流量に制御する。
【0025】
吐出制御部116は、上記ノズルヘッド111から吐出するインクの量(吐出量)を制御する。具体的には、吐出制御部116は、後述する画像処理部124により基板11の載置位置に関する画像情報データを解析した結果に基づいて、ノズルヘッド111が基板11上に吐出するインクの量(吐出量)を制御する制御信号を出力するとともに、吐出量データを上記流量制御部113に出力する。
【0026】
これにより、吐出制御部116が演算する吐出量に基づき、流量制御部113が流量調節することにより、ノズルヘッド111の吐出口から所定量のインクが基板ステージ121上の基板11に向けて吐出される。
【0027】
なお、ノズルヘッド111は、図1(b)に示すように、X方向(主走査方向)の移動に加え、基板ステージ121の載置面(基板平面)に対して垂直方向(Z方向;図中、両矢印Zmで表記)の任意の位置に昇降自在に制御されるものであってもよい。これにより、ノズルヘッド111と基板11(又は、基板ステージ121)との間のクリアランス(離間距離)を任意に調整することができる。
【0028】
(基板可動機構部)
基板可動機構部は、例えば図1(a)、(b)に示すように、基板ステージ121と、1軸ロボット122と、アライメント(位置合わせ)用カメラ123と、画像処理部124と、ロボット制御部125と、を備えている。ここで、画像処理部124とロボット制御部125は本発明に係るインク塗布制御部に対応する。
【0029】
基板ステージ121は、その上面に基板11が載置、固定される。また、基板ステージ121は、図1(a)に示すように、1軸ロボット122によって上述したヘッド走査部115によるノズルヘッド111の走査方向(X方向;矢印Xm)に対して直交するY方向(副走査方向;図中、両矢印Ymで表記)の任意の位置に移動自在に制御される。
【0030】
アライメント用カメラ123は、ノズルヘッド111及び基板ステージ121を所定の基準位置に設定した状態で、ノズルヘッド111に対する基板ステージ121上の基板11の載置位置を検出する。画像処理部124は、該アライメント用カメラ123により撮像された画像を解析する。そして、ロボット制御部25は、画像処理部124における該解析結果に基づいて1軸ロボット122を駆動制御して、ノズルヘッド111及び基板ステージ121間の相対的な位置関係を調整する。
【0031】
具体的には、ロボット制御部125は、基板ステージ121の上面に搭載、固定された基板11に配列される画素(有機EL素子)のピッチ(間隔)に対応して、基板ステージ121がノズルヘッド111に対して所定のピッチでY方向に移動するように1軸ロボット122を駆動制御する。ここで、ノズルヘッド111は、上述したように、ロボット制御部125からの制御信号に基づいて、ヘッド走査部115により基板ステージ121に対してX方向に走査されるので、ノズルヘッド111は、基板11に対してX−Y2軸方向(2次元座標方向)に相対的に移動することになる。これにより、基板11の画素アレイ領域に配列された全ての画素に、ノズルヘッド111から吐出された液流状のインクが塗布される。
【0032】
また、基板ステージ121は、図示を省略したが、その上面に載置された基板11を所定の位置に固定するための、真空吸着機構や機械的な固定機構を備えている。また、基板ステージ121は、基板11に対するノズルヘッド111の初期吐出位置のアライメント(位置合わせ)のために、上記1軸ロボット122によるY方向の移動に加え、図1(a)に示すように、基板ステージ121の載置面の重心を軸として当該載置面を基板平面内で回転させる回転方向(θ方向)に対しても微調整移動が可能な構造になっている。なお、ノズルコート成膜装置100は、このような基板ステージ121を回転させる移動構造に換えて、ノズルヘッド111を支持するヘッド走査部115を、基板ステージ121(基板平面)に平行な面内で回転させることにより、ノズルヘッド111の初期吐出位置を調整するものであってもよい。
【0033】
さらに、本実施形態に係る基板ステージ121においては、図1、図2に示すように、その上面に載置、固定された基板11上に、塗布用マスク21を密着させるための機構が設けられている。ここで、塗布用マスク21は、詳しくは後述するが、図2(a)に示すように、基板11上のX方向(すなわち、ノズルヘッド111の走査方向)に配列される複数の画素(有機EL素子)PIXの形成領域が露出するように開口されたストライプ状の開口部(以下、「スリット」と記す)21aが複数条形成されている。
【0034】
本実施形態に適用される塗布用マスク21の密着機構は、具体的には、塗布用マスク21として例えば磁性体材料を用いる場合には、図2(b)に示すように、基板ステージ121の下部や内部に塗布用マスク21を磁力で引き寄せて基板11表面に密着させるための電磁石126と、当該電磁石126を駆動制御するための電磁石駆動制御部127と、を備えている。ここで、電磁石126は、塗布用マスク21が例えば基板11の画素アレイ領域に対応する大きさを有している場合には、当該画素アレイ領域の全域で塗布用マスク21を密着させるだけの作用面を有している。なお、電磁石126と電磁石駆動制御部127は本発明に係るマスク密着制御部に対応する。
【0035】
そして、本実施形態に係るノズルコート成膜装置は、基板11表面へのインクの塗布工程においては、電磁石駆動制御部127により、基板11表面に塗布用マスク21を密着させた状態で、ノズルヘッド111をX方向に走査させて、塗布用マスク21のスリット21a内にインクを塗布する。一方、インクの塗布工程終了後(厳密には、インクの減圧乾燥処理後;詳しくは後述する)においては、電磁石駆動制御部127により、基板11表面に密着された塗布用マスク21を取り外す(離脱させる)。このように、塗布用マスク21の密着機構は、基板11表面への塗布用マスク21の着脱が可能なように構成されている。なお、塗布用マスク21の密着機構は、図2に示したような磁力を用いて塗布用マスク21を基板11表面に密着する機構に換えて、例えば、塗布用マスク21を基板11表面に機械的に押圧して密着させる固定(クランプ)機構を備えるものであってもよい。この場合にあっては、塗布用マスク21は、平坦かつ丈夫な薄膜であって、上記スリット21aを精度良くパターニングできるものであれば、磁性体材料以外の素材によるものであってもよい。
【0036】
(表示パネル)
次に、本実施形態に係るノズルコート成膜装置により製造される表示パネル(発光パネル)について説明する。
【0037】
図3は、本実施形態に係るノズルコート成膜装置により製造される表示パネルの一例を示す概略平面図である。図4は、本実施形態に係るノズルコート成膜装置により製造される表示パネルの一例を示す概略断面図である。ここで、図4(a)は、図3における表示パネルのIVA−IVA線(本明細書においては図3中に示したローマ数字の「4」に対応する記号として便宜的に「IV」を用いる)に沿った断面を示す概略断面図であり、図4(b)は、図3における表示パネルのIVB−IVB線に沿った断面を示す概略断面図であり、図4(c)は、図3における表示パネルのIVC−IVC線に沿った断面を示す概略断面図である。なお、図3に示す平面図においては、説明の都合上、表示パネル(基板)の一面側(有機EL素子の形成面側)から見た場合の、各画素に設けられる画素電極と、各画素の形成領域(EL素子形成領域)を画定する隔壁(バンク)と、の配置関係のみを示し、また、隔壁の配置を明瞭にするために、便宜的にハッチングを施して示した。
【0038】
図3に示すように、本実施形態に係るノズルコート成膜装置により製造される表示パネル(発光パネル)10は、ガラス等の絶縁性の基板11の一面側の画素アレイ領域Rpxに、発光素子である有機EL素子OELを備えた複数の画素PIXが、行方向(図面左右方向;上述したノズルコート成膜装置におけるY方向に対応する)及び列方向(図面上下方向;上述したノズルコート成膜装置におけるX方向に対応する)に2次元配列されている。
【0039】
また、表示パネル10は、図3、図4(a)〜(c)に示すように、基板11の一面側から突出し、格子状の開口部13aを有して形成された隔壁(バンク)13により、基板11の一面側に2次元配列された各画素PIXの有機EL素子OELの形成領域(以下、「EL素子形成領域」と記す)Relが画定される。ここで、格子状の平面パターンを有する隔壁13は、上記のEL素子形成領域Relを個別の領域として画定する役割に加え、当該隔壁13が形成される境界領域に、有機EL素子OELを発光駆動するための回路素子(薄膜トランジスタ等)や配線層を配置して、表示パネル10の開口率を確保するという役割も有している。尚、隔壁13は、有機EL素子OELを発光駆動するための回路素子や配線層を配置して、表示パネル10の開口率を確保するための第一隔壁と、EL素子形成領域Relを個別の領域として画定するための第二隔壁と、の二層構造からなるものでもよい。
【0040】
そして、各画素PIXのEL素子形成領域Relには、図4(a)、(b)に示すように、画素電極(例えばアノード電極)12と、有機EL層14(例えば正孔輸送層14a及び電子輸送性発光層14b)と、対向電極(例えばカソード電極)15と、が設けられて、各有機EL素子OELが形成されている。ここで、有機EL層14(正孔輸送層14a及び電子輸送性発光層14b)は、上述したノズルコート成膜装置100により所定のインクを各画素電極12上に塗布することにより形成される。また、対向電極15は、各画素PIXの有機EL層14を介して各画素電極12に共通して対向するように、単一の電極層(べた電極)により形成されている。また、図4(a)〜(c)において、16は保護絶縁膜又は封止樹脂層である。
【0041】
なお、表示パネル10は、保護絶縁膜(又は封止樹脂層)16上に、封止基板(図示を省略)がさらに設けられているものであってもよい。また、本実施形態においては、基板11上に有機EL素子OELの画素電極12が直接形成された素子構造を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明に係る表示パネル(発光パネル)10は、基板11上に絶縁膜を介して画素電極12が形成された素子構造を有するものであってもよい。
【0042】
また、表示パネル(発光パネル)10は、アクティブマトリクス駆動型であってもよいし、単純マトリクス(パッシブマトリクス)駆動型であってもよい。表示パネル10がアクティブマトリクス駆動型の場合には、例えば、基板11上に有機EL素子OELを発光駆動するための回路素子(薄膜トランジスタやキャパシタ等)や配線層が形成され、これらを被覆する層間絶縁膜や平坦化膜上に、画素電極12が形成された素子構造を有するものであってもよい。
【0043】
さらに、表示パネル10に設けられる有機EL素子OELは、ボトムエミッション型の発光構造を有するものであってもよいし、トップエミッション型の発光構造を有するものであってもよい。有機EL素子OELがボトムエミッション型の発光構造を有する場合、有機EL層14で発光した光は、画素電極12及び基板11を介して、基板11の他面側(図4の下方)に出射される。また、有機EL素子OELがトップエミッション型の発光構造を有する場合、有機EL層14で発光した光は、対向電極15及び保護絶縁膜(又は封止樹脂層)16を介して、基板11の一面側(図4の上方)に出射される。
【0044】
(表示パネルの製造方法)
次に、上述したようなノズルコート成膜装置を適用した表示パネル(発光パネル)の製造方法について説明する。ここでは、表示パネル10に形成される有機EL素子OELがボトムエミッション型の発光構造を有する場合について説明する。
【0045】
図5〜図7は、本実施形態に係るノズルコート成膜装置を適用した表示パネルの製造方法の一例を示す工程断面図である。ここで、図5は、図3に示した表示パネル10のIVA−IVA線に沿った断面における工程断面図である。図6は、図3に示した表示パネル10のIVB−IVB線に沿った断面における工程断面図である。図7は、図3に示した表示パネル10のIVC−IVC線に沿った断面における工程断面図である。
【0046】
図8、図9は、本実施形態に係るノズルコート成膜装置を適用した表示パネルの製造方法(有機EL層の成膜工程)の具体例を示す基板及び基板ステージの平面図である。なお、図8においては、便宜的に、特定の列の画素に対応する領域に対してのみ、有機溶液を塗布する場合について示す。また、図8、図9に示す平面図においては、隔壁と塗布用マスクの配置関係、並びに、有機溶液の塗布状態を明瞭にするために、便宜的にハッチングを施して示した。
【0047】
図10〜図12は、本実施形態に係るノズルコート成膜装置を適用した表示パネルの製造方法(有機EL層の成膜工程)の要部具体例を示す工程断面図である。ここで、図10は、図8(a)に示す基板11のXD−XD線(本明細書においては図8(a)中に示したローマ数字の「10」に対応する記号として便宜的に「X」を用いる)に沿った断面における工程断面図である。図11は、図8(a)に示す基板11のXIE−XIE線(本明細書においてはローマ数字の「11」に対応する記号として便宜的に「XI」を用いる)に沿った断面における工程断面図である。図12は、図8(a)に示す基板11のXIIF−XIIF線(本明細書においてはローマ数字の「12」に対応する記号として便宜的に「XII」を用いる)に沿った断面における工程断面図である。
【0048】
本実施形態に係る表示パネル(発光パネル)10の製造方法は、まず、図5(a)、図6(a)、図7(a)に示すように、ガラス基板等からなる絶縁性の基板11の一面側(図面上面側)であって、各画素PIXの有機EL素子OELの形成領域(EL素子形成領域)Relに、画素電極(例えばアノード電極)12を形成する。ここで、画素電極12は、例えば錫ドープ酸化インジウム(Indium Thin Oxide;ITO)や亜鉛ドープ酸化インジウム等の透明電極材料を用いて形成される。次いで、隣接して配列される画素PIX(EL素子形成領域Rel)との境界領域に、隔壁(バンク)13を形成する。ここで、隔壁13は、例えば感光性の樹脂材料等を用いて形成される。隔壁13は、図5(a)、図6(a)、図7(a)に示すように、基板11の表面から連続的に突出した断面形状を有している。また、隔壁13は、図3に示したように、各画素PIXの画素電極12の上面が露出するように、格子状の開口部13aを備えた平面形状を有している。尚、隔壁13は、有機EL素子OELを発光駆動するための回路素子や配線層を配置して、表示パネル10の開口率を確保するための第一隔壁と、EL素子形成領域Relを個別の領域として画定するための第二隔壁と、の二層構造であってもよい。この場合、まず、回路素子や配線層を覆うように、第一隔壁を成膜する。なお、第一隔壁は、プラズマCVDによって窒化シリコン等を成膜したものである。この第一隔壁をフォトリソグラフィーでパターニングすることで画素電極12の上面が露出するように、複数の開口部13aを形成する。次いで、ポリイミド等の感光性樹脂を堆積後、露光してEL素子形成領域Relを個別の領域として画定するための第二隔壁を形成する。
【0049】
次いで、上記画素電極12及び隔壁13が形成された基板11を純水やアルコールにより洗浄した後、例えば酸素プラズマ処理やUVオゾン処理等を施すことにより、各EL素子形成領域Relに露出する画素電極12の表面を親液化処理する。これにより、画素電極12の表面が、少なくとも後述する有機EL層14(例えば正孔輸送層14a及び電子輸送性発光層14b)を形成する際に塗布される有機溶液(インク)14xに対して親液化する。
【0050】
次いで、基板11を例えば四フッ化炭素CF等のフッ化ガスによりプラズマ処理を行うことにより、隔壁13の表面が撥水、撥油性を示し、塗布される有機溶液14xに対して撥液化する。尚、隔壁13が、第一隔壁と第二隔壁をもつ二層構造である場合、上層である第二隔壁のみを撥液化しても良い。ここで、隔壁13を感光性ポリイミドで形成した場合、四フッ化炭素CFによるプラズマ処理を行うことにより、ポリイミド表面の接触角は、有機溶液の溶剤として用いる水の場合で100°程度、キシレンで50°程度の数値を示す。ここで、フッ化ガスによるプラズマ処理を用いた撥液化処理においては、酸化膜や窒化膜とは反応しないので、EL素子形成領域Rel内に露出する、ITO等の金属酸化物からなる画素電極12の表面は撥液化しない。したがって、画素電極12の表面は、上述した親液化処理(酸素プラズマ処理やUVオゾン処理)により付与された親液性を保持する。
【0051】
なお、本実施形態において使用する「撥液性」とは、後述する正孔輸送層14aとなる正孔輸送材料を含む有機溶液14xや、電子輸送性発光層14bとなる電子輸送性発光材料を含む有機溶液、もしくは、これらの溶液に用いる有機溶媒を基板11上等に滴下して、接触角の測定を行った場合に、当該接触角が50°以上になる状態と規定する。また、「撥液性」に対する「親液性」とは、本実施形態においては、上記接触角が40°以下になる状態と規定する。
【0052】
次いで、上述したノズルコート成膜装置100を適用して、基板11に配列された複数の画素PIXのEL素子形成領域Relに対して有機溶液を塗布して有機EL層14(正孔輸送層14a及び電子輸送性発光層14b)を成膜する。まず、基板11への有機溶液の塗布に先立って、図6(b)、図7(b)、図8(a)に示すように、基板11表面に塗布用マスク21を密着させる処理が実行される。具体的には、図2に示すように、ノズルコート成膜装置100の基板ステージ121上に基板11を載置、固定した状態で、磁性体材料からなる塗布用マスク21が基板11表面に載置される。そして、基板ステージ121の下部に設けられた電磁石126を駆動することにより、塗布用マスク21が磁力により基板ステージ121方向に引き寄せられて、基板11表面に密着する。
【0053】
ここで、塗布用マスク21は、図3に示した表示パネル10の画素アレイ領域Rpxに対応する形状及び大きさを有している。また、塗布用マスク21は、図2(a)に示す基板ステージ121のX方向(図2(a)の左右方向;矢印Xm)、すなわち、図8(a)に示す基板11の列方向(図8(a)の上下方向;矢印Xm)に配列される複数の画素PIX(EL素子形成領域Rel)が露出するスリット21aが複数条設けられている。また、塗布用マスク21は、基板ステージ121に載置、固定された基板11上に設けられた隔壁13に対して、良好に着脱(密着、離脱)する素材により形成されていることが望ましい。このようなことから、上述したように、基板ステージ121に設けられた電磁石126による磁力を用いて、基板11上に塗布用マスク21を密着させる場合には、塗布用マスク21として、例えばインバー(不変鋼)等の磁性体金属の薄膜を良好に適用することができる。この場合、塗布用マスク21の膜厚は、塗布用マスク21の材質、スリット21a内に塗布される有機溶液の量、当該有機溶液に対する親液性、撥液性の度合い、隔壁13との密着性の程度、スリット21aの加工精度等に基づいて設定されるが、上記インバー等の磁性体金属薄膜を適用した場合には、例えば50μm程度に設定される。
【0054】
そして、塗布用マスク21は、各スリット21a内に、少なくともX方向(又は列方向)に配列された各画素PIX(EL素子形成領域Rel)の画素電極12が露出するように位置合わせされて、基板11表面に密着される。すなわち、図6(b)、図7(b)、図8(a)に示すように、塗布用マスク21は、図2(a)に示す基板ステージ121のY方向(図2(a)の上下方向)、すなわち、図8(a)に示す基板11の行方向(図8(a)の左右方向)に隣接する画素PIX(EL素子形成領域Rel)相互の境界領域に形成された隔壁13上に、スリット21a間の連結部21bが密着される。これにより、塗布用マスク21の各スリット21aには、図8(a)に示すように、X方向(又は列方向)に配列された各画素PIXの画素電極12と、該画素電極12を取り囲む隔壁13の一部が露出する。
【0055】
ここで、塗布用マスク21は、後述する有機溶液14xの塗布工程において、塗布用マスク21と隔壁13との密着面21cに当該有機溶液14xが浸透して入り込まないように、隔壁13との密着面21cが撥液性を有していることが望ましい。加えて、塗布用マスク21は、後述する有機溶液14xの塗布工程において、各スリット21a内に塗布、充填された有機溶液14xがスリット21aの側壁に接することにより適度に引き寄せられるように、親液性を有していることが望ましい。塗布用マスク21の密着面21cの撥液化処理は、例えば、フッ素系表面処理剤にメタルマスクを浸漬し、5〜10nmの撥液層を形成することで行なう。フッ素系表面処理剤の一例として、3M社製EGC−1720がある。撥液層は、長期間効果が持続するものであることが好ましい。スリット21a側面の親液化処理は、例えば、上記の撥液化処理をした後、メタルマスクを電磁石に密着させた状態で、UVオゾン処理を行なう。これにより電磁石と密着した面の撥液性を損なうことなく、スリット側面の親液化が可能となる。親液性が劣化した場合は、再度上記の手法を用いることで親液化が可能である。
【0056】
次いで、図5(c)、図6(c)、図7(c)、図8(a)に示すように、ノズルヘッド111を基板ステージ121のX方向(列方向)に走査させつつ、基板ステージ121に載置された基板11に対して正孔輸送材料(例えば、上述したPEDOT/PSS)を高沸点(例えば沸点が200℃以上)の溶媒に加えてなる有機溶液(インク)14xを塗布する。すなわち、有機溶液14xは、塗布直後に乾燥する速乾性のものではなく、後述する乾燥工程(減圧、加熱処理)において、基板11に塗布された有機溶液14xを均一かつ一括して乾燥させることができるものを用いる。また、ノズルヘッド111から液流状に吐出される有機溶液14xは、上述した吐出制御部116により吐出量が設定される。これにより、図8(b)に示すように、基板11の列方向に配列された複数の画素PIXのEL素子形成領域Relが露出する塗布用マスク21のスリット21a内に、ノズルヘッド111から連続的に吐出された有機溶液14xが塗布、充填される。
【0057】
そして、このような特定の列の画素PIX(EL素子形成領域Rel)が露出するスリット21a内に有機溶液14xを塗布する処理を、基板11上に密着された塗布用マスク21の全てのスリット21aについて繰り返す。具体的には、ノズルヘッド111を特定の列のスリット21aに沿って列方向(X方向)に走査しつつ、有機溶液14xを塗布した後、隣接する列のスリット21aの位置にノズルヘッド111が移動するように、1軸ロボット122により基板ステージ121を行方向(Y方向)にピッチ移動させる。このような列方向にノズルヘッド111を移動させて有機溶液14xを塗布する動作と、基板ステージ121を行方向(Y方向)にピッチ移動させてノズルヘッド111を隣接する列のスリット21aの位置に移動させる動作を、交互に繰り返し実行することにより、全ての列のスリット21a内に有機溶液14xが塗布、充填される。これにより、表示パネル10に配列される全ての画素PIXのEL素子形成領域Relに有機溶液14xが塗布される。
【0058】
次いで、全ての列のスリット21a内に有機溶液14xが塗布、充填された基板11を、図示を省略した乾燥処理室(インク乾燥処理部)内で減圧した状態で加熱処理して、有機溶液14xの溶媒を気化させ、均一かつ一括して乾燥させて、図5(d)、図6(d)、図9に示すように、各画素PIXのEL素子形成領域Relに露出する画素電極12上に正孔輸送層14aを成膜する。
【0059】
次いで、上述した正孔輸送層14aの成膜工程と同様に、ノズルヘッド111及び基板ステージ121を各々X、Y方向に移動させつつ、有機高分子系の電子輸送性発光材料(例えば、上述したポリフェニレンビニレン系ポリマー)を高沸点(例えば沸点が200℃以上)の溶媒に加えてなる有機溶液(インク)を、塗布用マスク21の各スリット21a内に塗布、充填する。そして、全ての列のスリット21a内に当該有機溶液14xが塗布、充填された状態で、基板11を減圧、加熱処理して、有機溶液14xを均一かつ一括して乾燥させることにより、図5(e)、図6(e)に示すように、各画素PIXのEL素子形成領域Relに形成された正孔輸送層14a上に、電子輸送性発光層14bが成膜される。これにより、各画素PIXの画素電極12上に、正孔輸送層14a及び電子輸送性発光層14bからなる有機EL層14が形成される。
【0060】
ここで、本実施形態に係る有機EL層14の成膜方法(すなわち、上述した有機溶液14xを塗布した後、加熱乾燥して有機EL層14を成膜する一連の処理工程)と、基板11上に密着される塗布用マスク21との関係について、さらに詳しく説明する。
【0061】
本実施形態に係るノズルコート成膜装置100を用いた有機EL層14の成膜工程においては、図8(a)に示したように、基板11上に密着された塗布用マスク21のスリット21aに沿って、ノズルヘッド111を列方向(X方向)に走査しつつ、有機溶液14xを連続的に吐出する。これにより、図8(b)に示したように、スリット21a内に有機溶液14xが充填されて(滞留して)、スリット21a内部に露出する各画素PIXのEL素子形成領域Rel及びその周辺の隔壁13上に有機溶液14xが塗布される。
【0062】
ここで、上述したように、各画素PIXのEL素子形成領域Relに露出する画素電極12の表面は親液性を有するのに対して、隔壁13の表面は撥液性を有している。また、隔壁13上に密着される塗布用マスク21のスリット21aの側壁は親液性を有している。そのため、ノズルヘッド111からスリット21aに沿って吐出された有機溶液14xは、親液性を有する各画素電極12上では馴染んで拡がる。一方、撥液性を有する隔壁13に接する部分でははじかれる挙動を示し、塗布用マスク21のスリット21a側壁では引き寄せられる挙動を示す。これにより、塗布直後の有機溶液は、図10(a)、図11(a)、図12(a)に示すように、隔壁13上に密着された塗布用マスク21のスリット21a側壁(又は連結部21b)をガイドとして隣接する列に漏出することなく、スリット21a内の全域に良好に滞留する。
【0063】
そして、有機溶液14xの塗布後、時間の経過に伴って、図10(b)、図11(b)、図12(b)に示すように、隔壁13上に滞留していた有機溶液14xがスリット21a側壁(連結部21b)に沿って引き寄せられた状態で列方向に移動し、隔壁13を介して隣接する各EL素子形成領域Relに流れ込む。これにより、隔壁13上に滞留していた有機溶液14xの挙動が安定して、有機溶液14xが隔壁13を介して隣接するEL素子形成領域Relに略均等に流れ込むので、各画素PIXのEL素子形成領域Rel内に滞留する有機溶液14xの量が略均一になる。
【0064】
このような状態で、基板11を減圧、加熱処理して、有機溶液14xを乾燥させると、有機溶液14xは溶媒が気化することにより体積が減少することに伴って、スリット21a内の隔壁13上から有機溶液14xが退き、図10(c)〜(e)、図11(c)、図12(c)に示すように、各EL素子形成領域Relにのみ有機溶液14xが滞留する。さらに有機溶液14xの乾燥が進行すると、図9、図10(f)、図11(d)、図12(d)に示すように、隔壁13により囲まれた各EL素子形成領域Rel内にのみ、正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料が薄膜状に定着し、画素電極12上に膜質及び膜厚が均一な正孔輸送層14a又は電子輸送性発光層14bが成膜される。
【0065】
次いで、基板11の隔壁13上に密着された塗布用マスク21を取り外した後、図5(f)、図6(f)、図7(f)に示すように、基板11上に単一の電極層(べた電極)からなる対向電極(例えばカソード電極)15を形成する。ここで、対向電極15は、少なくとも表示パネル10の画素アレイ領域Rpxに対応する形状及び大きさを有し、上述した正孔輸送層14a及び電子輸送性発光層14bからなる有機EL層14を介して、各画素PIXの画素電極12に共通に対向するように形成される。その後、図4(a)〜(c)に示したように、対向電極15を含む基板11上に、保護絶縁膜(又は封止樹脂層)16を形成する。これにより、図3、図4に示したように、有機EL素子OELを備えた画素PIXが基板11上に2次元配列された表示パネル10が完成する。
【0066】
このように、本実施形態による有機EL層14の成膜工程においては、上述したノズルコート成膜装置100を用いて塗布された有機溶液(インク)14xが、基板11上に密着された塗布用マスク21のスリット21a内に滞留する。このとき、スリット21a内の、隣接する画素PIX間に設けられた隔壁13上に滞留していた有機溶液14xは、スリット21a間に設けられた連結部21bに沿って、隣接する画素PIXのEL素子形成領域Relに略均等に流れ込むので、各EL素子形成領域Relに滞留する有機溶液14xの量が略均一になる。
【0067】
したがって、本実施形態によれば、ノズルコーティング法(又はノズルプリンティング法)を用いた高い製造効率で、各画素の画素電極上に略均一な膜質及び膜厚を有する有機EL層(例えば正孔輸送層及び電子輸送性発光層)を形成することができる。このような有機EL層を有する有機EL素子(発光素子)においては、有機EL層の膜質や膜厚のバラツキに起因する、発光輝度や開口率のばらつき、素子寿命の劣化を抑制することができるので、発光特性に優れ、表示品質が良好な表示パネル(発光パネル)を量産化することができる。
【0068】
(作用効果の検証)
次に、上述したようなノズルコート成膜装置を用いた有機EL層の成膜方法を用いた場合の作用効果について、さらに詳しく説明する。ここでは、まず、比較対象として本実施形態に示した塗布用マスクを用いない有機EL層の成膜方法について説明し、その後、本実施形態における作用効果の優位性について説明する。
【0069】
図13は、比較対象となる表示パネルの製造方法(有機EL層の成膜工程)の一例を示す基板及び基板ステージの平面図である。なお、図13に示す平面図においては、隔壁の配置、並びに、有機溶液の塗布状態を明瞭にするために、便宜的にハッチングを施して示した。図14は、比較対象となる表示パネルの製造方法(有機EL層の成膜工程)の一例を示す工程断面図である。ここで、図14は、図13に示す基板11のXIVG−XIVG線(本明細書においてはローマ数字の「14」に対応する記号として便宜的に「XIV」を用いる)に沿った断面における工程断面図である。なお、図13、図14において、上述した実施形態と同等の構成については、同一又は同等の符号を付して示す。
【0070】
ここでは、上述した本発明が解決しようとする課題において言及したように、格子状の平面パターンを有する隔壁を設けた基板に対して、本実施形態に示したような塗布用マスクを用いることなく、ノズルコーティング法により直接有機溶液を塗布して有機EL層を成膜する方法を、比較対象とする。
【0071】
比較対象となる有機EL層の成膜方法は、具体的には、図13、図14(a)に示すように、2次元配列される各画素PIXの境界領域に格子状の開口部を有する隔壁が設けられた基板を、基板ステージ121上に載置、固定した状態で、特定の列の画素PIXのEL素子形成領域Relに沿って、ノズルヘッド111を列方向(X方向;図13の上下方向;矢印Xm)に走査しつつ、有機溶液14xを吐出する。これにより、当該列の各EL素子形成領域Rel及びその周辺の隔壁13上に有機溶液14xが塗布される。
【0072】
ここで、上述した表示パネルの製造方法に示した場合と同様に、各画素PIXのEL素子形成領域Relに露出する画素電極12の表面は親液性を有し、一方、隔壁13の表面は撥液性を有している。そのため、ノズルヘッド111から吐出された有機溶液14xは、親液性を有する各画素電極12上では馴染んで拡がる一方、撥液性(撥水、撥油性)を有する隔壁13に接する部分では弾かれる挙動を示す。
【0073】
特に、正孔注入層を形成するための有機溶液として、正孔輸送材料であるPEDOT/PSSを、水やエタノール、エチレングリコール等の水系溶媒に溶解又は分散させた強酸性の水系インクを用いる場合や、電子輸送性発光層を形成するための有機溶液として、電子輸送性発光材料であるポリフェニレンビニレン系ポリマーやポリフルオレン系ポリマー等の共役系高分子を、水やテトラリン、テトラメチルベンゼン、メシチレン、キシレン、トルエン等の芳香族系の有機溶媒に溶解又は分散させた水系インク或いは有機溶剤系インクを用いる場合には、当該有機溶液は、撥液性を有する隔壁13表面では非常に良く弾かれる。これにより、隔壁13上に滞留していた有機溶液14xは、図14(b)、(c)に示すように、隔壁13上から隣接する各EL素子形成領域Rel方向に流れ込む。このとき、隔壁13上から隣接するEL素子形成領域Relに不均一に流れ込むため、各画素PIXのEL素子形成領域Relに滞留する有機溶液14xの量にばらつきが生じる。なお、隔壁13表面の撥液性が十分でない場合には、隔壁13上に塗布された有機溶液14xが、そのまま滞留(残留)して、本来EL素子形成領域Relに流れ込んで滞留するはずの有機溶液14xの量が変化する場合もある。
【0074】
このような状態で、基板11を加熱処理して、有機溶液14xを乾燥させると、溶媒が気化することにより、隔壁13により囲まれた各EL素子形成領域Rel内において、図14(d)に示すように、各画素電極12上に正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料が薄膜状に定着する。このとき、上述したように、各EL素子形成領域Rel内に滞留する有機溶液14xの量にばらつきがあるため、成膜される正孔輸送層14a又は電子輸送性発光層14bの膜質や膜厚が不均一になるという問題を有している。
【0075】
これに対して、本実施形態による有機EL層の成膜方法においては、基板11上に塗布された有機溶液14xが、塗布用マスク21のスリット21a内に滞留することにより、有機溶液14xは、スリット21a間に設けられた連結部21bに沿って、隣接する画素PIXのEL素子形成領域Relに略均等に流れ込む。また、このとき、本実施形態では、隣接する画素PIX間の境界領域に設けられた隔壁13上に、塗布された有機溶液14xがそのまま滞留(残留)する現象は観測されなかった。
【0076】
したがって、本実施形態によれば、各EL素子形成領域Relに滞留する有機溶液14xの量を略均一にすることができるので、各画素PIXの画素電極12上に略均一な膜質及び膜厚を有する有機EL層14(例えば正孔輸送層及び電子輸送性発光層)を形成することができる。そして、このような有機EL層を有する有機EL素子(発光素子)が配列された表示パネル(発光パネル)によれば、発光輝度や開口率のばらつき、素子寿命の劣化を抑制して、良好な表示品質を実現することができる。
【0077】
<第2の実施形態>
次に、本発明に係る発光パネルの製造方法の第2の実施形態について説明する。
図15は、第2の実施形態に係る表示パネルの製造方法(有機EL層の成膜工程)の具体例を示す基板の概略図である。ここで、図15(a)は、隔壁13を有する基板11と塗布用マスク21との配置関係を示す概略平面図である。図15(b)は、図15(a)に示した基板11のXVH−XVH線(本明細書においてはローマ数字の「15」に対応する記号として便宜的に「XV」を用いる)に沿った断面を示す概略断面図である。なお、図15においては、便宜的に、特定の列の画素に対応する領域に対してのみ、有機溶液を塗布する場合について示す。また、図15(a)に示す平面図においては、隔壁と塗布用マスクの配置関係、並びに、有機溶液の塗布状態を明瞭にするために、便宜的にハッチングを施して示した。また、図16は、本実施形態に係る表示パネルの製造方法の一例を示す工程断面図である。ここで、図16は、図15(a)に示す基板11のXVH−XVH線に沿った断面における工程断面図である。なお、図15、図16において、上述した第1の実施形態と同等の構成については、同一又は同等の符号を付して、その説明を簡略化又は省略する。
【0078】
上述した第1の実施形態においては、表示パネル10(基板11)に配列される各列の画素PIXに対応して複数条のスリット21aが設けられた塗布用マスク21を基板11に密着させて、有機溶液14xを各スリット21aに沿って塗布する場合について説明した。第2の実施形態においては、スリット21aが複数列(例えば3列)おきに設けられた塗布用マスク21を用いて、有機溶液14xを塗布する成膜工程を有している。
【0079】
まず、第2の実施形態に係る表示パネルの製造方法に用いられる塗布用マスク21は、図15(a)、(b)に示すように、基板11(又は、表示パネル10の画素アレイ領域Rpx;図3参照)に対して、行方向(図面左右方向;Y方向)に延伸した形状及び大きさを有している。また、塗布用マスク21は、基板11の列方向(図15(a)の上下方向)に配列される複数の画素PIX(EL素子形成領域Rel内の画素電極12)が露出するスリット21aが、例えば3列おきに複数条設けられている。すなわち、図15(a)、(b)に示すように、塗布用マスク21は、幅の広い連結部21bにより複数条のスリット21aが離間するように設けられている。
【0080】
そして、塗布用マスク21は、基板11に配列された画素PIXのうち、複数列(3列)ずつ離間した列の各画素PIXのEL素子形成領域Rel(又は、画素電極12)が露出するようにスリット21aが位置合わせされて、基板11表面に密着される。このとき、スリット21aにより露出していない列の画素PIXのEL素子形成領域Relを画定する隔壁13上には、塗布用マスク21の連結部21bが密着して、当該EL素子形成領域Relが被覆される。これにより、塗布用マスク21の各スリット21aには、図15(a)、(b)に示すように、X方向(又は列方向)に配列された各画素PIXの画素電極12と、該画素電極12を取り囲む隔壁13の一部が露出する。そして、このような状態で、図15(a)、(b)に示すように、ノズルヘッド111を基板ステージ121のX方向(列方向)に走査させつつ、基板ステージ121に載置された基板11に対して有機溶液14xを塗布する。
【0081】
このような本実施形態に係る表示パネルの製造方法は、カラー表示に対応した表示パネルにおいて、隣接する各列の画素PIXのEL素子形成領域Relに対して、赤(R)、緑(G)、青(B)の各色の発光層を成膜する工程に良好に適用することができる。
【0082】
以下、本実施形態に係る表示パネルの製造方法(有機EL層の成膜工程)について、具体的に説明する。まず、上述した第1の実施形態に示した表示パネルの製造方法(有機EL層の成膜工程)を用いて、基板11に配列される全ての画素PIXのEL素子形成領域Relに正孔輸送材料を含む有機溶液が塗布され、画素電極12上に正孔輸送層14aが成膜される(図5(c)、(d)、図6(c)、(d)、図7(c)、(d)参照)。
【0083】
次いで、図16(a)に示すように、基板11に配列される画素PIXのうち、発光色が赤色(R)の列のEL素子形成領域Relが露出するように、塗布用マスク21の各スリット21aが位置合わせされた状態で、当該塗布用マスク21が基板11の隔壁13上に密着される。次いで、赤色の画素PIXのEL素子形成領域Relが露出する特定の列のスリット21aに沿って、ノズルヘッド111Rを走査することにより、上述した工程において正孔輸送層14aが形成された各EL素子形成領域Relを含むスリット21a内に、赤色の発光色に対応した電子輸送性発光材料を含む有機溶液14ryが塗布、充填される。
【0084】
次いで、基板ステージ121を2次元配列される画素PIXの3列分の距離だけピッチ移動させることにより、ノズルヘッド111Rに次の列のスリット21aが位置合わせされる。そして、上記と同様に、ノズルヘッド111Rを走査することにより、当該列のスリット21a内に、赤色の発光色に対応した有機溶液14ryが塗布、充填される。このような塗布処理を繰り返すことにより、基板11上の全ての赤色の画素PIXのEL素子形成領域Relに有機溶液14ryが塗布される。
【0085】
次いで、当該有機溶液14ryが塗布、充填された基板11を減圧、加熱処理して、有機溶液14ryを乾燥させることにより、図16(b)に示すように、各画素PIXのEL素子形成領域Relに形成された正孔輸送層14a上に、赤色の発光色に対応した電子輸送性発光層14rbが成膜される。これにより、赤色の各画素PIXの画素電極12上に、正孔輸送層14a及び電子輸送性発光層14rbからなる有機EL層14Rが形成される。
【0086】
このような特定の発光色の画素PIXにおける有機EL層の成膜処理は、他の発光色についても同様に実行される。すなわち、まず、上記のように赤色の発光色に対応した電子輸送性発光層14rbが成膜された基板11において、基板11表面に密着されていた塗布用マスク21が取り外される(密着が解除される)。そして、隣接する列であって、発光色が緑色(G)のEL素子形成領域Relが露出するように、塗布用マスク21の各スリット21aが位置合わせされた状態で、当該塗布用マスク21が基板11の隔壁13上に再度密着される。
【0087】
次いで、図16(c)に示すように、スリット21aに沿ってノズルヘッド111Gを走査することにより、当該スリット21a内に露出する各画素PIXのEL素子形成領域Relに、緑色の発光色に対応した電子輸送性発光材料を含む有機溶液14gyが塗布、充填される。このような処理を塗布用マスク21の各スリット21aに対して繰り返し実行することにより、基板11上の全ての緑色の画素PIXのEL素子形成領域Relに有機溶液14ryが塗布される。そして、当該有機溶液14gyが塗布、充填された基板11を減圧、加熱処理することにより、図16(d)に示すように、各画素PIXの画素電極12上に、正孔輸送層14a及び緑色の発光色に対応した電子輸送性発光層14gbからなる有機EL層14Gが形成される。
【0088】
次いで、発光色が青色(B)の各画素PIXについても同様に、まず、発光色が青色(B)の列のEL素子形成領域Relが露出するように、塗布用マスク21の各スリット21aを位置合わせした状態で、当該塗布用マスク21が基板11の隔壁13上に再度密着される。そして、図16(e)に示すように、スリット21aに沿ってノズルヘッド111Bを走査して、各画素PIXのEL素子形成領域Relに、青色の発光色に対応した電子輸送性発光材料を含む有機溶液14gyを塗布する。その後、当該基板11を減圧、加熱処理することにより、図16(f)に示すように、各画素PIXの画素電極12上に、正孔輸送層14a及び青色の発光色に対応した電子輸送性発光層14bbからなる有機EL層14Bが形成される。
【0089】
したがって、本実施形態に係る表示パネルの製造方法によれば、RGBの各色の画素PIXの有機EL層(発光層)を、ノズルコーティング法を用いて略均一な膜質及び膜厚になるように成膜することができるので、表示品質に優れたカラー表示パネルを高い製造効率で量産することができる。
【0090】
ところで、本実施形態においては、上述したようにスリット21a内への有機溶液14xの塗布時に、各画素PIX(EL素子形成領域Rel)間の境界領域に設けられた隔壁13上に塗布された有機溶液14xが、隣接する画素PIXのEL素子形成領域Relに均等に流れ込むようにすることを特徴としている。一方、上述した各実施形態に適用される塗布用マスク21においては、図8(a)や図15(a)に示したように、各スリット21aの長手方向の両端部で連結部21b相互が繋がった平面形状(塗布用マスク21の上下端部)を有している。そのため、各スリット21aの端部においては、塗布された有機溶液14xの挙動(流れ方)が、画素アレイ領域Rpx内部の、EL素子形成領域Relが相互に隣接して配置されている領域とは異なる可能性がある(図10(b)の左右端部参照)。
【0091】
具体的には、各スリット21aの端部においては親液性を有する塗布用マスク21に三辺を囲まれていることや、隔壁13の一方側にのみEL素子形成領域Relが配置されることにより、EL素子形成領域Relに流れ込む有機溶液14xの量が、スリット21aの両端部以外のEL素子形成領域Relとは同等にならず、膜質及び膜厚が均一にならない場合がある(図10(b)〜(f)の左右端部参照)。そこで、このような場合には、実質的に画像表示に寄与する画素アレイ領域Rpxの外方の基板上に、有機溶液14xを均等に流し込むためのダミー画素(又は、ダミーのEL素子形成領域)を配置した構成を有するものであってもよい(この場合、図10(a)〜(f)においては、左右端に配置された画素がダミー画素に相当する)。これによれば、上述した各実施形態に示した有機EL層の成膜工程を適用した場合であっても、画素アレイ領域Rpxの端部に配置される画素PIXの有機EL層の膜質及び膜厚を均一化することができる。
【0092】
<第3の実施形態>
次に、上述した第1及び第2の実施形態に係るノズルコート成膜装置(発光パネルの製造装置)を用いて製造された表示パネル(発光パネル)を適用した電子機器について、第3の実施形態として図面を参照して説明する。上述した有機EL素子OELからなる発光素子を各画素PIXに備える表示パネル10は、例えばデジタルカメラやモバイル型のパーソナルコンピュータ、携帯電話等、種々の電子機器に適用できるものである。
【0093】
図17は、本実施形態に係るデジタルカメラの構成を示す斜視図であり、図18は、本実施形態に係るモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図であり、図19は、本実施形態に係る携帯電話の構成を示す図である。
【0094】
図17において、デジタルカメラ200は、概略、本体部201と、レンズ部202と、操作部203と、上述した各実施形態に示した表示パネル10を備える表示部204と、シャッターボタン205とを備えている。これによれば、表示部204において、表示パネル10の各画素の発光素子が画像データに応じた適切な輝度階調で発光動作するので、良好かつ均質な画質を実現することができる。
【0095】
また、図18において、パーソナルコンピュータ210は、概略、本体部211と、キーボード212と、上述した各実施形態に示した表示パネル10を備える表示部213とを備えている。この場合においても、表示部213において、表示パネル10の各画素の発光素子が画像データに応じた適切な輝度階調で発光動作するので、良好かつ均質な画質を実現することができる。
【0096】
また、図19において、携帯電話220は、概略、操作部221と、受話口222と、送話口223と、上述した各実施形態に示した表示パネル10を備える表示部224とを備えている。この場合においても、表示部224において、表示パネル10の各画素の発光素子が画像データに応じた適切な輝度階調で発光動作するので、良好かつ均質な画質を実現することができる。
【0097】
なお、上述した各実施形態においては、本発明を有機EL素子OELからなる発光素子を各画素PIXに有する表示パネル10に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、本発明は、例えば有機EL素子OELからなる発光素子を有する複数の画素PIXが一方向に配列された発光素子アレイを備え、感光体ドラムに画像データに応じて発光素子アレイから出射した光を照射して露光する露光装置に適用するものであってもよい。この場合においても、発光素子アレイの各画素の発光素子を画像データに応じた適切な輝度で発光動作させることができるので、良好な露光状態を実現することができる。
【0098】
また、上述した各実施形態においては、有機EL素子OELの素子構造として、有機EL層14が正孔輸送層14a及び電子輸送性発光層14bからなる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明に適用される有機EL素子OELは、有機EL層14が例えば正孔輸送兼電子輸送性発光層のみからなる素子構造を有するものでもよく、あるいは、正孔輸送性発光層及び電子輸送層からなるものでもよく、また、これらの層の間に適宜電荷輸送層が介在するものでもよく、さらに、その他の電荷輸送層の組合せを有するものであってもよい。
【0099】
また、上述した各実施形態においては、ノズルヘッド111をX方向に走査させつつインクを塗布する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、ノズルヘッド111を固定して、基板11を載置した基板ステージ121をX方向に走査させつつインクを塗布するものであってもよい。また、上述した各実施形態においては、基板11をY方向に移動させることによりノズルヘッド111が基板11に対して相対的に2次元座標方向に移動する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、基板ステージ121を固定して、ノズルヘッド111をY方向に移動させることによりノズルヘッド111が基板11に対して相対的に2次元座標方向に移動するものであってもよい。
【符号の説明】
【0100】
11 基板
12 画素電極
13 隔壁
14 有機EL層
14a 正孔輸送層
14b 電子輸送性発光層
14x 有機溶液
15 対向電極
21 塗布用マスク
21a スリット
21b 連結部
21c 密着面
100 ノズルコート成膜装置
111 ノズルヘッド
115 ヘッド走査部
121 基板ステージ
PIX 画素
OEL 有機EL素子
Rel EL素子形成領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第一電極、少なくとも一層からなる発光機能層、第二電極が積層された発光素子を備え、少なくとも特定の列に2つ以上配列されている複数の画素が配列された発光パネルの製造装置において、
前記基板上に設定された前記画素の各形成領域にインクを吐出して塗布するノズルと、
少なくとも前記特定の列の2つ以上の前記画素の形成領域が露出する開口部を有するマスクの密着面を、前記基板上に着脱可能に密着させるマスク密着制御部と、
を備えることを特徴とする発光パネルの製造装置。
【請求項2】
前記マスクは、前記密着面が撥液性を有していることを特徴とする請求項1記載の発光パネルの製造装置。
【請求項3】
前記インクが塗布、充填された前記基板を、減圧した状態で加熱処理するインク乾燥処理部を、さらに備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光パネルの製造装置。
【請求項4】
前記マスクは、前記基板上に配列された全ての前記画素の形成領域に対応して、複数条の前記開口部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発光パネルの製造装置。
【請求項5】
前記マスクは、前記基板上に配列された特定の列の前記画素の形成領域にのみ対応して、複数条の前記開口部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発光パネルの製造装置。
【請求項6】
前記マスクは、磁性体材料からなり、
前記マスク密着制御部は、前記マスクを磁力により引き寄せて基板上に密着させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の発光パネルの製造装置。
【請求項7】
基板上に第一電極、少なくとも一層からなる発光機能層、第二電極が積層された発光素子を備えた複数の画素と、前記複数の画素の各形成領域を画定する隔壁と、が設けられた発光パネルの製造方法において、
前記基板上に列方向に配列された前記複数の画素の形成領域が露出し、内部が親液性を有する複数条の開口部が設けられたマスクの密着面を、前記隔壁上に密着させる工程と、
前記開口部に沿ってノズルを走査しつつインクを吐出して、前記開口部の内部に前記インクを塗布、充填する工程と、
前記インクが塗布、充填された前記基板を、乾燥させて、前記画素の発光機能層を成膜する工程と、
を含むことを特徴とする発光パネルの製造方法。
【請求項8】
前記マスクは、前記基板上に配列された特定の列の前記画素の形成領域にのみ対応して前記開口部が設けられ、
前記マスクを前記隔壁上で着脱し、前記開口部を前記基板上の異なる列に移動して位置合わせしつつ、前記開口部の内部に前記インクを塗布、充填する工程と前記基板を加熱処理する工程を、繰り返し実行することを特徴とする請求項7記載の発光パネルの製造方法。
【請求項9】
前記請求項7又は8に記載の製造方法を適用して形成された発光パネルが実装されてなることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−48915(P2011−48915A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193957(P2009−193957)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】