説明

発光体

本発明は、化合物半導体を主たる構成材料とする無機組成物であって、イリジウム元素を含むことを特徴とする無機組成物に関する。本発明はまた、密閉容器内で、火薬および/または爆薬と共に、化合物半導体を主たる構成材料とする無機組成物を爆破させることを特徴とする、発光材料の製造に用いられる無機複合物の製造方法に関する。
無機組成物に爆破処理、加熱処理などのドーピング処理を行うことによって発光材料の製造に用いられる無機複合物を製造することができる。この無機複合物をさらに加熱処理することによって発光材料を製造することができる。得られる発光材料は層状に形成されて無機EL素子における発光体層を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光体、より具体的には発光材料の製造に用いられる無機複合物およびその製造方法、ならびに発光材料に関する。さらに詳しくは、密閉容器内で、火薬および/または爆薬と共に、無機組成物を爆破させる無機複合物の製造方法、イリジウム元素を含む無機組成物を用いる発光材料の製造に用いられる無機複合物の製造方法、および該無機複合物を熱処理して得られる発光材料に関する。本発明の発光材料は発光効率に優れているので、エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)に好ましく用いられる。
【0002】
本発明はまた無機組成物に関する。さらに詳しくは、化合物半導体を主たる構成材料とする無機組成物であって、イリジウム元素を含むことを特徴とする無機組成物に関する。本発明の無機組成物は、電気または光エネルギーの光変換が高効率を示す無機EL素子を製造するための発光材料の原料として好ましく用いられる。
【0003】
本発明はさらに、直流で発光可能な無機EL素子に関する。
【背景技術】
【0004】
エレクトロルミネッセンス素子は、物質に電界をかけた際に発生する発光現象を利用した発光素子であり、アルミキノリノール錯体等の金属錯体類、または、ポリフェニレンビニレン等の共役高分子類などの有機材料をベースにした有機EL素子と、硫化亜鉛や酸化アルミニウム塩等の無機材料をベースにした無機EL素子とに大別することができる。
【0005】
このうち無機EL素子は、有機EL素子に比べて耐久性に優れ、かつ、消費電力を低く抑えることができるので、軽量、大型のフラットパネルディスプレイ等の画像表示装置への応用が期待されている。また、無機EL素子は、更に発光材料を無機物または有機物のバインダ中に分散させた分散型EL素子と発光材料の結晶薄膜を用いる薄膜型とに分けられ、各々直流または交流の電流を流すことによって発光素子として機能するが、一般には、薄膜型素子の方が、高輝度、省電力素子として優れている。
【0006】
ここで、画像表示装置を作製するためには、赤色、緑色、青色等の発光材料が必要であるが、従来、無機EL素子は、ZnSや、SrSといったII族元素とVI族元素から構成されるII-VI族化合物をベースに作製されており、ZnSにMn(マンガン)を微量添付したものは黄橙色の発光を示し(例えば、非特許文献1参照)、ZnSにTb(テルビウム)等を添加したものは緑色の発光を示し(例えば、非特許文献2参照)、ZnSにCu(銅)等を添加したものは青色の発光を示す(例えば、非特許文献3参照)ことが知られている。
【0007】
これらの材料は、一般に、ベースとなる担体に、焼成などの方法によって、微量の金属をドーピングすることによって(例えば、特許文献1参照)、更には、液相などで粒子を調製する段に、同時にドーピングすることによって得られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、この無機EL材料の対向する面のそれぞれに電極を形成することで無機EL素子が作製されており、この無機EL素子の二つの電極間に所定電圧をかけると、使用する無機EL材料固有の発光現象が現れる。
【0009】
しかしながら、このような無機EL材料では、画像表示装置に使用できる発色と発光強度を有する発光体を得ることは難しく、これまで得られた発光体は、発光輝度が充分でなかったり、寿命が他の照明に比較して短かったりする問題を有していた(特許文献3)。発光輝度を上昇させる方法として、印加電圧を上げる方法もあるが、印加電圧の増加にともなって発光体の寿命が短くなる傾向にあり、結果として発光輝度か寿命かの選択をしなければならなかった。
【非特許文献1】Journal of Crystal Growth 169(1996) p33-39
【非特許文献2】Applied Surface Science 244(2005)p524-527
【非特許文献3】Journal of luminescence 99(2002)p325-334
【特許文献1】特開平8−183954号公報
【特許文献2】特開2003−73119公報
【特許文献3】特開2002−241753公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、発光輝度および発光体の寿命が高いレベルで両立する新規の発光材料を得るための製造方法とそれに用いる無機複合物および発光材料を提供することにある。
本発明の他の目的は、新規な材料構成によって効率よく光を発生させることができる発光材料の原料となる無機組成物を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、モバイル用途の使用時などにおける光源や、照明など高輝度な用途に有用な直流駆動可能である無機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下のものを提供する。
[1] 密閉容器内で、火薬および/または爆薬と共に、化合物半導体を主たる構成材料とする無機組成物を爆破させることを特徴とする、発光材料の製造に用いられる無機複合物の製造方法。
【0013】
[2] 無機組成物がイリジウム元素を含む、[1]に記載の無機複合物の製造方法。
[3] 化合物半導体を主たる構成材料とする無機組成物であって、イリジウム元素を含むことを特徴とする無機組成物。
【0014】
[4] 無機組成物が遷移金属、ハロゲンまたは希土類元素を含む、[3]に記載の無機組成物。
[5] 化合物半導体がII−VI族半導体である、[3]または[4]に記載の無機組成物。
【0015】
[6] [3]〜[5]の何れか一項に記載の無機組成物から得られる、発光材料の製造に用いられる無機複合物。
[7] [3]〜[5]の何れか一項に記載の無機組成物を加熱処理することを特徴とする無機複合物の製造方法。
【0016】
[8] [1]または[7]に記載の製造方法よって得られた無機複合物を加熱処理することを特徴とする発光材料の製造方法。
[9] [8]に記載の製造方法によって得られた発光材料。
【0017】
[10] [9]に記載の発光材料を用いてなる無機EL素子。
[11] 少なくとも2層の電極層と、該電極層間に設けられる[9]に記載された発光材料からなる発光体層とを備える無機EL素子において、直流駆動時の到達輝度が10000cd/m以上であることを特徴とする無機EL素子。
【0018】
[12] 発光体層の厚みが0.05μm〜100μmであることを特徴とする[11]に記載の無機EL素子。
[13] 発光体層が互いに異なる組成を有する複数の発光層を備えることを特徴とする、[11]又は[12]に記載の無機EL素子。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、無機複合物の製造方法を提供することができる。本発明の製造方法によって得られた無機複合物を熱処理して得た発光材料は、発光輝度が改善されるとともに発光体の寿命の改善もなされているので、無機EL素子として好ましく使用される。
【0020】
本発明によればまた、イリジウム元素を含む無機組成物を提供することができる。本発明の無機組成物を発光材料の製造原料として作製した無機EL素子は、材料構成によって効率よく光を発生させることができるので、本発明の無機組成物は、凝集などの新たな問題を発生する微粒子化などの手段を講じることなく、優れた発光体を得るための発光材料とすることができる。
【0021】
本発明によればまた、モバイル用途などで有用な、直流駆動による無機EL発光素子を提供することができる。また、高い輝度を有することにより、種々の用途に使用できる光源を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の無機組成物は、発光材料の製造原料に用いることができる。この無機組成物に爆破処理、加熱処理などのドーピング処理を行うことによって発光材料の製造に用いられる無機複合物を製造することができる。この無機複合物をさらに加熱処理することによって発光材料を製造することができる。得られる発光材料は層状に形成されて無機EL素子における発光体層を構成する。
【0023】
[無機組成物]
化合物半導体を主たる構成材料とする無機組成物は、蛍光、リン光などの発光材料、蓄光材料などの分野で用いられている。これらには、電気エネルギーによって光を発する特性を有するものもあり、主として光源として用いられており、表示などの用途でも一部用いられている。
【0024】
しかしながら、現在知られている材料は、電気エネルギーの光変換効率が不十分であるため発熱や消費電力などの問題があり、用途が限定される要因となっている。これまで、エネルギーの変換効率を高めるための幾つかの方法が検討されており、例えば次のものが知られている。
(1)材料を超微粒子化する方法(特許文献4)
(2)セリウムなどドーピング材料を選定する方法(非特許文献4)
(3)更に塩化物などをコドーピングする方法(非特許文献5)
(4)素子の作り方自体を変更する方法(非特許文献6)
【特許文献4】特開2003-173878公報
【非特許文献4】Journal of Applied Physics, vol. 93, 12, Jun 15, 2003, p 9597-9603
【非特許文献5】Applied Physics Letters, vol. 76, 10, Mar, 2000, p 1276
【非特許文献6】Japanese Journal of Applied Physics, Part 1: Regular Papers & Short Notes & Review Papers, vol. 33, 10, Oct, 1994, p 5801-5806
【0025】
(1)特許文献4に開示された材料を超微粒子化する手段は、特に限定されてはいないが、機械的な方法を採用すると、破砕する際に使用する機器由来の不純物が混入する問題がある。また、一般的に超微粒子では、保存中に、粒子が凝集し、結果的に大粒子を使用した場合と同様の挙動になるなど、二次凝集の問題を解決しなければならず、そのため、分散剤を使用する必要があり、効率が低下するなどの問題がある。
【0026】
(2)非特許文献4や非特許文献5に開示されたドーピング、コドーピング材料では、未だ十分に効率を高める組成が見出されておらず、(3)素子の製造方法を非特許文献6に開示されたような特殊な方法であるマグネトロンなどに変更することは、より素子作製を複雑にし、工程が長くなること、装置価格が高いこと、総エネルギー量が多くなるなど経済的ではない。
【0027】
従って、新規な材料構成によって効率よく光を発生させることができる発光材料の原料となる無機組成物が求められている。本発明の無機組成物はこのような従来技術の問題点を解決するものである。
【0028】
無機組成物は、例えば、イリジウム、マンガン、銅、銀、金、ハフニウム等の遷移金属、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、イットリウム等の希土類元素を含んでいれば、後述するドーピング処理を施すことにより化合物半導体中にその遷移金属等が取り込まれ、発光中心となるが、本発明の無機組成物では、特に、その遷移金属としてイリジウム元素を採用したことを特徴とする。
【0029】
(化合物半導体)
本発明で用いる化合物半導体は、室温における電気伝導率が、金属と絶縁体の中間の10〜10−10S/cm程度の物質であり、具体的には、
シリコン、ゲルマニウムなどのIV族元素;
II族およびVI族元素の化合物から構成されるII−VI族化合物半導体;
III族およびV族元素の化合物から構成されるIII−V族化合物半導体;
I族およびV族元素の化合物から構成されるI−V族化合物半導体;
I族およびVI族元素の化合物から構成されるI−VI族化合物半導体;
I族およびVII族元素の化合物から構成されるI−VII族化合物半導体;
II族およびIV族元素の化合物から構成されるII−IV族化合物半導体;
II族およびV族元素の化合物から構成されるII−V族化合物半導体;
II族およびVII族元素の化合物から構成されるII−VII族化合物半導体;
III族およびVI族元素の化合物から構成されるIII−VI族化合物半導体
などを挙げることができる。
【0030】
IV族元素としては、上述したシリコン、ゲルマニウムの他、炭素、スズ、炭化ケイ素、シリコンゲルマニウムなどを挙げることができる。
II-VI族化合物半導体としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、水銀などのII族元素より選ばれる一種類以上の元素と、酸素、硫黄、セレン、テルルなどのVI族元素より選ばれる一種類以上の元素との化合物を挙げることができる。具体的には、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫化バリウム、硫化カドミウム、硫化マグネシウム、硫化カルシウム、硫化ストロンチウム、セレン化亜鉛、セレン化バリウム、セレン化カドミウム、セレン化マグネシウム、セレン化カルシウム、セレン化ストロンチウム、セレン化バリウム、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム、テルル化ストロンチウム、テルル化バリウムなどを例示することができる。上記のような元素が1:1で構成される化合物半導体だけではなく、硫セレン化カルシウムストロンチウムのように、II族元素および/またはVI族元素が二種類以上含有されたものであってもよい。入手性、化合物の安定性を考慮して、硫化亜鉛、硫化カドミウム、セレン化亜鉛またはセレン化カドミウムが好ましく、硫化亜鉛が最も好ましい。
【0031】
III-V族化合物半導体としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムなどのIII族元素より選ばれる一種類以上の元素と、窒素、リン、砒素、アンチモン、ビスマスなどのV族元素より選ばれる一種類以上の元素との化合物を挙げることができる。具体的には、窒化ホウ素、リン化ホウ素、砒化ホウ素、窒化アルミニウム、リン化アルミニウム、砒化アルミニウム、アンチモン化アルミニウム、窒化ガリウム、リン化ガリウム、砒化ガリウム、アンチモン化ガリウム、窒化インジウム、リン化インジウム、砒化インジウム、アンチモン化インジウムなどを例示することができる。上記のような元素が1:1で構成される化合物半導体だけではなく、砒素リン化アルミニウムのように、III族元素および/またはV族元素が二種類以上含有されたものであってもよい。
【0032】
I-V族化合物半導体としては、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウムなどのI 族元素より選ばれる一種類以上の元素と、窒素、リン、砒素、アンチモン、ビスマスなどのV族元素より選ばれる一種類以上の元素との化合物を挙げることができる。具体的には、アンチモン化ナトリウム、アンチモン化カリウム、アンチモン化セシウム、アンチモン化3リチウム、ビスマス化3リチウム、アンチモン化3ナトリウム、アンチモン化3カリウム、アンチモン化3ルビジウム、アンチモン化3セシウム、ビスマス化3セシウム、ビスマス化3ルビジウムなどを例示することができる。上記のような元素が1:1で構成される化合物半導体だけではなく、アンチモン化ナトリウムカリウム、アンチモン化セシウムカリウムのように、I族および/またはV族元素が二種類以上含有されたものであってもよい。
【0033】
I-VI族化合物半導体としては、銅、銀などのI族元素より選ばれる一種類以上の元素と、酸素、硫黄、セレン、テルルなどのVI族元素より選ばれる一種類以上の元素との化合物を挙げることができる。具体的には、酸化銅、酸化2銅、硫化2銅、セレン化銅、テルル化銅、酸化銀、硫化銀、セレン化銀、テルル化銀などが例示される。上記のような元素が1:1で構成される化合物半導体だけではなく、銅−銀酸化物のようにI族および/またはVI族元素が二種類以上含有されたものであってもよい。
【0034】
I-VII族化合物半導体としては、銅、銀などのI族元素より選ばれる一種類以上の元素と、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのVII族元素より選ばれる一種類以上の元素との化合物を挙げることができる。具体的には、フッ化銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀などが例示される。上記のような元素が1:1で構成される化合物半導体だけではなく、I族および/またはVII族元素が二種類以上含有されたものであってもよい。
【0035】
II-IV族化合物半導体としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのII族元素より選ばれる一種類以上の元素と、炭素、珪素、ゲルマニウム、スズ、鉛などのIV族元素より選ばれる一種類以上の元素との化合物を挙げることができる。具体的には、珪素化2マグネシウム、ゲルマニウム化2マグネシウム、錫化2マグネシウム、鉛化2マグネシウム、珪素化2カルシウム、錫化2カルシウム、鉛化2カルシウムなどを例示することができる。上記のような元素が1:1で構成される化合物半導体だけではなく、II族および/またはIV族元素が二種類以上含有されるものであってもよい。
【0036】
II-V族化合物半導体としては、マグネシウム、亜鉛、カドミウム、水銀などのII族元素より選ばれる一種類以上の元素と、砒素、リン、アンチモンなどのV族元素より選ばれる一種類以上の元素との化合物を挙げることができる。具体的には、2砒化3マグネシウム、2リン化3亜鉛、2砒化3亜鉛、2リン化3カドミウム、2砒化3カドミウム、3アンチモン化4亜鉛、3アンチモン化4カドミウム、アンチモン化亜鉛、アンチモン化カドミウム、2リン化亜鉛、2砒化亜鉛、2リン化カドミウム、2砒化カドミウム、4リン化カドミウムなどを例示することができる。上記のような元素が1:1で構成される化合物半導体だけではなく、II族および/またはV族元素が二種類以上含有されるものであってもよい。
【0037】
またII-VII族化合物半導体としては、カドミウム、水銀などのII族元素より選ばれる一種類以上の元素と、塩素、臭素、ヨウ素などのVII族元素より選ばれる一種類以上の元素との化合物を挙げることができる。具体的には、塩化カドミウム、臭化カドミウム、ヨウ化カドミウムなどを例示することができる。上記のような元素が1:1で構成される化合物半導体だけではなく、II族および/またはVII族元素が二種類以上含有されるものであってもよい。
【0038】
またIII-VI族化合物半導体としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムなどのIII族元素より選ばれる一種類以上の元素と、酸素、硫黄、セレン、テルルなどのVI族元素より選ばれる一種類以上の元素との化合物を挙げることができる。具体的には、硫化ガリウム、セレン化ガリウム、テルル化ガリウム、硫化インジウム、セレン化インジウム、テルル化インジウム、硫化タリウム、セレン化タリウム、テルル化タリウム、3硫化2ガリウム、3セレン化2ガリウム、3テルル化2ガリウム、3硫化2インジウム、3セレン化2インジウム、3テルル化2インジウムなどを例示することができる。上記のような元素が1:1で構成される化合物半導体だけではなく、III族および/またはVI族元素が二種類以上含有されるものであってもよい。
【0039】
このうち、II-VI族化合物半導体はバンドギャップを大きく変化させることができ、可視光を得る上で望ましい。またIII-V族化合物半導体はバンドギャップが可視光領域にあるため、やはり望ましい。
【0040】
(イリジウム源)
本発明の無機組成物はイリジウム元素を含むことを特徴とするが、イリジウム元素をドーピングするために、イリジウム源を使用する。イリジウム源は、イリジウム元素単独で構成されていてもよいし、酸化物、硫化物の形であってもよい。さらに、他の元素との塩の形で構成されていてもよい。このようなイリジウム化合物としては、例えば、塩化イリジウム、硫酸イリジウム、硝酸イリジウム、亜硝酸イリジウム、酸化イリジウム、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸アンモニウム、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸n水和物、クロロカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)イリジウム(I)、塩化ナトリウムイリジウム(III)n水和物等を挙げることができる。これらは、単独で使用しても、複数種を混合して使用してもよい。
【0041】
(イリジウム源以外の金属源)
無機組成物は、後述するドーピング処理を施すことによってイリジウム以外の金属源を含む場合でも発光材料の製造原料となる。そのような金属源はその金属元素やその金属化合物である。その金属元素としては、例えば、マンガン、銅、銀、金、ハフニウムなどの遷移金属;セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、イットリウムなどの希土類元素などが挙げられ、その金属化合物としては、例えば、これら金属の硫化物、ハロゲン化物、酸化物などが挙げられる。これら金属源は後述する付活剤として無機組成物に添加することもできる。
【0042】
(付活剤)
本発明の無機組成物は、特に、イリジウム元素を含むことを特徴とし、さらに発光材料とし、無機EL素子を構成することにより発光効率を向上させることができるが、さらに付活剤を加えて化合物半導体へドーピングすると発光効率をさらに向上させることができ好ましい。
【0043】
このような付活剤としては、遷移金属、ハロゲンまたは希土類元素が好ましい。遷移金属としては、マンガン、銅、銀、金、ハフニウムなどを挙げることができ、ハロゲンとしては、塩素、臭素などを挙げることができ、希土類元素としては、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、イットリウムなどを挙げることができる。これらは、単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。また、硫化物、ハロゲン化物、酸化物などの形で使用しても構わない。
【0044】
(配合組成)
本発明の複合体に転換される前の無機組成物の配合組成は特に限定されないが、例えば以下のものが挙げられる。
【0045】
化合物半導体:80〜95重量部、好ましくは85〜93重量部;
イリジウム源および/またはその他の金属源:0.001〜3重量部、好ましくは0.005〜1重量部;及び
付活剤:3〜9重量部、好ましくは4〜7重量部。
【0046】
[無機複合物およびその製造方法]
ドーピング処理の第1の態様において、火薬および/または爆薬を用いて、密閉容器内で無機組成物を爆破させることにより無機複合物を製造する(爆破法)。
【0047】
爆破に用いられる火薬および爆薬は、特に制限されるものではなく、ニトログリセリン、TNT、ニトロセルロース、ニトロ化ペンタエリスリトール、黒鉛火薬、無煙火薬、RDXなどの爆薬、火薬を用いることができる。
【0048】
爆破において、使用する爆薬および/または火薬の量は、用いる装置によって異なり、使用する爆薬によっても異なるため一概に決められないが、通常、用いる無機組成物100重量部に対し1〜10000重量部、経済性、安全性を考慮して2〜9000重量部の範囲で使用される。
【0049】
爆破によって、無機組成物が受ける影響としては、使用する爆薬および/または火薬の量、用いる装置によって異なり、使用する爆薬によっても異なるため定かではないが、無機組成物が曝される温度としては、一般に、500〜4000℃の範囲、より好ましくは、600〜3000℃の範囲である。
【0050】
爆破によって無機組成物が高温に曝される時間も同様に定かではないが、通常10分の1秒〜10,000分の1秒の範囲である。光によるエネルギー移送も想定され、通常、暴露時間としては、10分の1秒〜10,000分の1秒の範囲である。
【0051】
本発明の爆破法によれば、爆破により材料が飛散する速度(所謂爆速)もまた重要である。爆速の程度により、爆破によって得られる無機複合物中の炭素のような不純物量に差が生じるので、爆速としては100m/秒〜2000m/秒が好ましく、300m/秒〜1000m/秒がより好ましい。
【0052】
更に、衝撃波による瞬間的な圧力およびそれに伴う温度上昇も想定され、少なくとも、0.1GPa〜50GPaの衝撃に付されていることが想定される。この衝撃波にあわせて発生する熱も想定されるが、上記温度上昇に合わされているので、どの程度の寄与があるかは一概にいえない。
【0053】
本発明の爆破法は、図1に示すような耐圧反応容器を用いて実施することができる。図1において、1は耐圧反応容器、2は薬品挿入部、3は反応容器、4は加熱ヒーター、5および6は加熱部電源供給部である。反応は密閉した耐圧反応容器内で行なわれる。図2は耐圧反応容器の反応室の拡大図であり、7は爆薬または火薬、8は無機組成物である。爆破によって人工ダイヤを製造する装置(例えば、特許文献5、特許文献6に開示された装置)等によって製造することも可能である。
【特許文献5】特開昭63−243205号公報
【特許文献6】特開2002−153747公報
【0054】
無機組成物は金属源として特にイリジウム源を含むことが好ましい。無機組成物がイリジウム源を含む場合であってもイリジウム源を化合物半導体へドーピングする方法としては、特に限定されるものではなく、化合物半導体、特にII-VI族化合物半導体を形成するときに、例えば液相での還元反応時にドーピングすることも可能であり、化合物半導体、特にII-VI族化合物半導体と上記イリジウム源を、不活性ガス雰囲気下、または、硫化水素などの還元性ガス雰囲気下に、700℃以上に加熱焼成してドーピングすることも可能である。化合物半導体、特にII-VI族化合物半導体とイリジウム源とを含む無機組成物を密閉容器内に収納し、火薬および/または爆薬と共に爆破させる方法(爆破法)を採用することもできる。
【0055】
イリジウム源および/またはその他の金属源の化合物半導体へのドーピング量としては、特に限定されるものではなく、化合物半導体100重量部に対して、通常1×10−5重量部〜2重量部、発光効率、経済性を考慮して、5×10−5重量部〜0.5重量部の範囲でドーピングされる。
【0056】
付活剤のドーピング量は特に限定されるものではなく、総金属重量として、化合物半導体100重量部に対して、通常1×10−3重量部〜10重量部、好ましくは1.5×10−3重量部〜1重量部、発光効率などを考慮して2×10−3重量部〜0.5重量部の範囲でドーピングされる。
【0057】
更に、無機組成物は、電子線、スパッタリングなどの方法によって、硫化亜鉛などのII-VI族化合物半導体を製膜する際に、直接同時に薄膜調製に使用することもできる。化合物半導体とイリジウム源および/またはその他の金属源および付活剤を、電子線、スパッタリングなどの方法で組成物化する場合のイリジウム源は、イリジウム元素単独で構成されていてもよいが、酸化物、硫化物、塩化物、フッ化物などのハロゲン化物の形であることが好ましい。
【0058】
化合物半導体にイリジウム元素および/またはその他の金属元素がドーピングされたことは量子効率を測定することによって確認することができる。量子効率とは、入射光による励起によって放出された光子の数と物質に吸収された入射光の光子数との比であり、この数値が大きいほどドーピング効果が高いことを意味し、分光蛍光光度計によって測定することができる。
【0059】
[発光材料]
本発明において、爆破法により得られた無機複合物は、熱処理をすることにより、発光材料とされる。熱処理は、数回に分けて実施してもよく、途中で、粉砕などの粒度調整の処理を入れても構わない。
【0060】
必要とする温度は、原料に使用する無機複合体によって異なるが、通常、500〜1000℃、好ましくは600〜800℃である。熱処理に付される時間は特に制限されるものではなく、一般に、1〜20時間、好ましくは2〜10時間の範囲である。
【0061】
熱処理する前に、無機複合体に、酸化ガリウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫などの導電性化合物や、砒化ガリウム、砒化インジウム、リン化ガリウム、リン化インジウムなどの化合物半導体を添加しても構わない。
【0062】
以下に詳細に説明するが、本発明の発光材料は、蒸着処理などを付すことにより、無機EL素子とすることができる。蒸着の方法については、特に制限されるものではなく、EB(電子ビーム)法、スパッタリング法、フラッシュ法などの常法を使用することができる。
【0063】
[誘電体]
本発明に係る発光材料を用いて交流駆動素子を作製する際には、図3に示したように、発光体層を誘電体層で挟む構成を採用する。誘電体としては、酸化イットリウム、酸化タンタル、窒化アルミニウム、窒化珪素、チタン酸バリウムなどの公知の材料を用い、スパッタリング、蒸着、スクリーン印刷等によって0.1〜1μm程度の膜厚の薄膜を形成する。
【0064】
図3は本発明の発光材料を用いたEL素子の一例の断面図であり、18は背面電極、19および21は誘電体、20は発光体、22は電極、23は透明電極、24はガラス基板である。
【0065】
[無機EL素子]
前述したように、電界発光素子(EL素子)は発光体材料の違いにより無機EL素子と有機EL素子とに大別される。発光体に無機材料を用いる無機EL素子は、発光体に有機材料を用いる有機EL素子と比較して発光寿命が長いという特性を有しており、キャッシュレジスター用表示装置や車載用モニタや時計のバックライト等、高い耐久性が必要とされる用途を中心に実用化されている。
【0066】
図4は、従来の無機EL素子の代表的な構成の要部を示す斜視図である。EL素子110は、二重絶縁型薄膜EL素子であり、電気絶縁性を有する透明基板111上に、下部電極112、下部絶縁体層113、発光体層114、上部絶縁体層115、及び上部電極120がこの順に積層されたものである(特許文献7の図3参照)。
【特許文献7】特開2004−265740号公報
【0067】
透明基板111としては、一般にLCD(液晶ディスプレイ)やPDP(プラズマディスプレイパネル)等に用いられている青板ガラス等の透明基板が採用されている。また、下部電極112は、通常、膜厚0.1〜1μm程度のITO(Indium Tin Oxide)から構成される。一方、上部電極120は、Al等の金属から構成される。下部絶縁体層113及び上部絶縁体層115は、スパッタリングや蒸着等により形成された厚さ0.1〜1μm程度の薄膜であり、通常、Y、Ta、AlN、BaTiO等から成る。発光体層114は、一般に、発光中心となるドーパントを含む発光体から成り、その膜厚は通常0.05〜1μm程度である。
【0068】
かかる構成の従来のEL素子では、この電極に交流電源121から交流電圧又はパルス電圧が印加されることにより、発光体層114が電界発光し、その出射光が透明基板111側から取り出される。また無機EL素子をディスプレイとして用いる場合には、下部電極112、上部電極120がストライプ状に設けられ、一方が行電極、他方が列電極とされ、両者の延伸方向が互いに直交するように配置されている。すなわち、両電極112、120によりマトリックス電極が構成され、行電極と列電極の交差部における発光体層が画素となり、選択的に交流電圧又はパルス電圧が選択的に印加されることにより、特定の画素を発光させ、その出射光が透明基板111側から取り出される。
【0069】
しかし、これらの無機EL素子では通常100V以上の交流電圧を数百Hz〜数十KHzの周波数で印加することが必要であり、バッテリーを使用するノートパソコンや携帯電話などのモバイル機器等では、直流−交流変換素子を必要とする事などの理由から使用されなくなりつつある。
【0070】
これに対し、直流駆動可能な素子として有機EL素子が近年着目されており、バッテリーを使用する車載用途や携帯電話などで商品化されている。しかしながら有機EL素子の発光層の材料である蛍光性の有機固体は、水分・酸素等に弱い。また、発光層上に直接または正孔注入層若しくは電子注入層を介して設けられる電極は酸化により特性が劣化しやすい。このため、従来の有機EL素子を大気中で駆動させると発光特性が急激に劣化するという課題を有する。これに対する各種の取組みも行なわれているが(例えば特許文献8参照)、寿命という点では完全に解決されてはいない。
【特許文献8】特開平11−329718号公報
【0071】
そこで、無機ELの長寿命という特長を生かしつつ、直流駆動可能な直流無機EL素子が検討されている(例えば特許文献9、特許文献10参照)。
【特許文献9】特開平5−74572号公報
【特許文献10】特開2002−313568号公報
【0072】
しかしながら、上記特許文献9および特許文献10記載のものを初めとする従来の直流無機EL素子は、輝度について記載されておらず、高輝度化に対する対応が充分に行なわれていない。
【0073】
そこで、モバイル用途の使用時などにおける光源や、照明など高輝度な用途に有用な直流駆動可能である無機EL素子が求められている。
本発明の直流無機EL素子は、少なくとも複数の電極層と、該電極層間に設けられる無機組成物による発光体層を備える無機EL素子であって、直流駆動時の到達輝度が10000cd/m以上であることが好ましい。ここで「輝度」とは該無機EL素子の発光面の法線方向から見て、測定視野角1度の光を望遠型輝度計で測定した値を指す。また、本発明の無機EL素子は、EL発光体層の厚みが0.05μm以上、50μm以下であることが好ましい。発光層の厚みを最適化することで、低電圧駆動かつ両電極間の短絡を防止することができる。また、本発明の無機EL素子は、前記2層の電極との界面において、発光体層が異なる組成からなることが好ましい。電極との界面の組成を各々変更し最適化することにより、発光効率の向上や電極との密着力向上による寿命の向上などの性能を向上させることが可能となる。
【0074】
本実施形態の無機EL素子は、少なくとも複数の電極層間に無機複合物による発光体層を備える無機EL素子において、直流駆動での到達輝度が10000cd/m以上である。高輝度を必要とする用途では、50000cd/m以上であることがより望ましく、100000cd/m以上であることがより望ましく、300000cd/m以上であることがより望ましく、500000cd/m以上であることがより望ましい。
【0075】
通常、発光体層は第一電極層と第二電極層の二つの間に挟まれており、これら第一電極と第二電極が発光体層の表裏の主面全体をそれぞれ覆うことで発光体層全体に効率よく通電できるため、明るく均一な発光が得られ、望ましい。
【0076】
発光体層を挟む複数の電極層は、高輝度化させる場合には大電流が流れることから電極層の抵抗値による発熱を抑えるために表面抵抗率が低いことが好ましい。表面抵抗率としては5Ω/□以下が好ましく、1Ω/□以下がより好ましい。
【0077】
発光体層を挟む複数の電極層は、互いに同一であっても異なっていてもよいが、無機発光体層の光の出射が発光体層を覆う第一電極層を通して行われる場合には、第一電極層は光の透過性を有する必要がある。該第一電極層のシート抵抗は5Ω/□以下、可視光透過率は90%以上であることが望ましい。ITOやIZO(Indium Zinc Oxide)、GZO(Gallium Zinc Oxide)、ZnO(Zinc Oxide)、AZO(Antimony Zinc Oxide)、またはATO(Antimony Tin Oxide)などの透明導電材料を単層または複層で構成するか、銀などの導電性材料を光が透過する程度の薄膜として用いることが望ましい。通常、導電材料はガラス、サファイヤなどの透明基板上にスパッタ法などで成膜して電極層とする。
【0078】
発光体層を覆う第一電極層を介して光を出射させるのではなく、発光体層の端部より発光させる端面発光を行う場合や、第一電極層に開口部を設けて出光させる場合には、第一電極層は透明である必要が無い。この場合、電極を銀、銅やアルミニウムなど反射性と導電性を兼ね備えた材料で構成することで、光を前記端面や前記開口部から効率良く出光できる。
【0079】
光透過性を必要としない電極層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、通常の金属、例えば銀やアルミニウムなどを真空蒸着法などで形成する方法や、背面基板から本素子を形成する場合には、導電性シリコン基板等の導電性があり平坦な基板をそのまま電極とするなどの方法がある。
【0080】
発光体層については、高い輝度で発光可能な無機複合物を発光材料とする必要がある。前記発光材料の製法については特に限定されないが、例えば無機組成物を爆破させることで前記発光材料として好適な特別の構造を持った無機複合物を製造する方法がある。発光材料の特性としてはPL(Photo Luminescence)により発光することが好ましい。発光体層の厚みは厚くなりすぎると発光に必要な電界強度を得るために両電極間の電圧が上昇するので、低電圧化させる観点、および生産性の観点から50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、5μm以下が更に好ましい。また厚みが薄くなりすぎると、EL発光体層の両面にある電極層が短絡しやすくなるので、これを避ける観点から、厚みは0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0081】
成膜方法としては、真空下での物理的蒸着法である真空蒸着法やスパッタリングやイオンプレーティングなどの無機材料を成膜する方法が用いられる。高輝度化するための無機EL発光層に用いる材料は本質的に安定であるが高融点であるため、融点が高い材料を蒸着することが可能で、材料を担持するルツボ等からの汚染を抑制することが可能な電子ビーム(EB)蒸着や、無機材料をターゲット化できる場合にはスパッタリング等の成膜方法を用いることが好ましい。
【0082】
また、発光体層と電極との2つの界面における組成を変更する方法としては、たとえば、第二の成分を別の蒸着源やターゲットにセットし、第二成分の成膜率を変化させる方法がある。また2種類の異なる組成物を別々の蒸着源やターゲットとし、成膜の進行に従い両者の成膜率を徐々に変えることや、成膜中に成膜対象を第一の材料から第二の材料に変更することなどでも良い。同様に三成分以上の層を形成することもできる。成膜率を徐々に変えることや、三成分以上の層を形成することで界面間の剥離が起こり難くなり望ましい。更に同様にして、発光層の両主表面を同じ組成として、該主表面間の組成を別の組成とする多層構成とすることもできる。このような構成は電極層との接着性を高めることに有利な組成を主表面に配し、発光輝度を高めることに有利な組成をその間に配すことができ、特に発光層を挟む二つの電極層が同じ材料である場合に効果的である。
【0083】
発光体層と電極層の接着性を高める上では、発光材料に別の金属を混合することで、電極層との親和性を高める方法などが挙げられる。
さらに、輝度の向上を目的として、発光層と電極との間に、砒化ガリウム、リン化インジウム等の化合物半導体などからなる層を設けてもよい。
【0084】
[実施例]
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
(比較例1−1:試料Aの調製)
硫化亜鉛100g、酸化亜鉛0.5g、硫酸銅(II)0.5g、フッ化バリウム3g、塩化マグネシウム3g、および塩化ナトリウム2gを秤量し、アルミナ製坩堝に入れた。真空置換した後、窒素で置換した真空焼成炉内に坩堝を静置し、1000℃で6時間焼成した。冷却後、脱イオン水で洗浄して余分の塩を除去し、乾燥させた。得られた焼成ケークを分級粉砕機により粉砕して粒径5〜20μmの粉体とした。
【0086】
粉体をアルミナ坩堝に入れ、真空置換した後、窒素で置換した真空焼成炉内に坩堝を静置し、窒素気体中にて約700℃の温度で約8時間焼成した。生成物を氷酢酸で洗浄して、過剰の化合物、余分の塩および不純物を除去し、脱イオン水で洗浄した。次いで生成物をろ過し、約180℃で乾燥した後、冷却し、発光材料(試料A)を得た。
【0087】
(実施例1−1:試料Bの調製)
硫化亜鉛100g、酸化亜鉛0.5g、硫酸マンガン(II)0.27g、フッ化バリウム3g、塩化マグネシウム3g、塩化ナトリウム2gおよび塩化イリジウム(III)0.012gを秤量し、アルミナ製坩堝に入れた。真空置換した後、窒素で置換した真空焼成炉内に坩堝を静置し、1000℃で6時間焼成した。冷却後、脱イオン水で洗浄して融剤を除去し、乾燥させた。得られた焼成ケークを分級粉砕機により粉砕して粒径5〜20μmの粉体とした。
【0088】
粉体をアルミナ坩堝に入れ、真空置換した後、窒素で置換した真空焼成炉内に坩堝を静置し、窒素気体中にて約700℃の温度で約8時間焼成した。生成物を氷酢酸で洗浄して、過剰の化合物、融剤および不純物を除去し、次いで脱イオン水で洗浄した。次いで生成物をろ過し、約180℃で乾燥した後、冷却し、発光材料(試料B)を得た。
【0089】
(実施例1−2:試料Cの調製)
硫化亜鉛100g、硫酸銅(II)0.5g、酸化亜鉛0.5g、フッ化バリウム3g、塩化マグネシウム3gおよび塩化ナトリウム2gを混合し、図2に示す無機組成物8とし、図1に示す反応容器1の図2に示す反応室2に収納した。次いで、爆薬7としてTNTを500気圧計算量である32g添加し、高耐圧反応容器1を密閉し、0.01mmHgに減圧した後、ヒーター4に通電して反応室2を450℃の温度に加熱し、TNTの爆発を誘発せしめ焼成ケークを形成した。
【0090】
焼成ケークを反応容器1から取り出し、冷却した後、脱イオン水で洗浄して融剤を除去し、乾燥させた。得られた焼成ケークを分級粉砕機により粉砕して粒径5〜20μmの粉体とし、円筒管状電気炉の石英管反応容器に入れ、石英管中窒素気体中にて約700℃の温度で約8時間焼成した。得られた生成物を氷酢酸で洗浄して過剰の化合物並びに融剤および不純物を除去し、脱イオン水で洗浄した。次いで、生成物をろ過し、約180℃で乾燥した後、冷却し、分級機により篩い分けして発光材料を得た(試料C)。
【0091】
(実施例1−3:試料Dの調製)
硫化亜鉛100g、酸化亜鉛0.5g、硫酸マンガン(II)0.27g、フッ化バリウム3g、塩化マグネシウム3g、塩化イリジウム(III)0.012gおよび塩化ナトリウム2gを混合し、図2に示す無機組成物8とし、図1に示す反応容器1の図2に示す反応室2に収納した。次いで、爆薬7としてTNTを500気圧計算量である32g添加し、高耐圧反応容器1を密閉し、0.01mmHgに減圧した後、ヒーター4に通電して反応室2を450℃の温度に加熱し、TNTの爆発を誘発せしめ焼成ケークを形成した。
【0092】
焼成ケークを反応容器1から取り出し、冷却した後、脱イオン水で洗浄して融剤を除去し、乾燥させた。得られた焼成ケークを分級粉砕機により粉砕して粒径5〜20μmの粉体とし、円筒管状電気炉の石英管反応容器に入れ、石英管中窒素気体中にて約700℃の温度で約8時間焼成した。生成物を氷酢酸で洗浄して過剰の化合物並びに融剤および不純物を除去し、脱イオン水で洗浄した。次いで、生成物をろ過し、約180℃で乾燥した後、冷却し、分級機により篩い分けして発光材料を得た(試料D)。
【0093】
(発光輝度測定)
比較例1−1および実施例1−1〜1−3で得られた発光材料を分級して12〜18μmの粒子が80%以上含まれている発光体粒子を得た。この発光体粒子を濃度70重量%となるようにバインダー(デュポン製7155)中に分散させて発光体ペーストとした。次に、ITO膜23付きのガラス基板24からなる電極上にチタン酸バリウムペースト(デュポン製7153)、前記発光体ペースト、チタン酸バリウムペースト(デュポン製7153)をシルクスクリーンにより順次塗布し、それぞれチタン酸バリウム層21、発光層20、チタン酸バリウム層19とし、更にチタン酸バリウム層19の上に銀ペーストを塗布して電極18とした。更にITO膜23の外縁付近に銀ペーストを塗布し補助電極22とした。以上のようにして図3に示すような無機EL素子を得た。電極18と補助電極22に8kHzの交流電圧を印加した。印加電圧は280Vとした。0時間、24時間および100時間経過後の発光輝度を測定し、表1に示した。
【0094】
比較例1−1で得た発光材料では100時間後に初期輝度の1/2以下に輝度が低下するのに対し、実施例1−1〜1−3で得た発光材料は100時間後でも初期輝度の65%以上を維持していた。
【0095】
【表1】

【0096】
(実施例2−1)
硫化亜鉛100g、酸化亜鉛0.5g、硫酸マンガン(II)0.27g、フッ化バリウム3g、塩化マグネシウム3g、塩化ナトリウム2gおよび塩化イリジウム(III)0.012gを秤量し、アルミナ製坩堝に入れた。真空置換した後、窒素で置換した真空焼成炉内に坩堝を静置し、1000℃で6時間焼成した。冷却後、脱イオン水で洗浄して余分の塩を除去し、乾燥させた。得られた焼成ケークを分級粉砕機により粉砕して粒径5〜20μmの粉体とした。
【0097】
粉体を円筒管状電気炉の石英管反応容器に入れ、石英管中窒素気体中にて約700℃の温度で約8時間焼成した。生成物を氷酢酸で洗浄して、過剰の化合物、余分の塩および不純物を除去し、脱イオン水で洗浄した。次いで生成物をろ過し、約180℃で乾燥した後、冷却した。
【0098】
得られた蛍光体の量子効率を日本分光株式会社製の分光蛍光光度計FP−6500(蛍光積分球ユニット付、固体量子効率計算プログラム付属)を用い、測定条件 1mmスリット装着 励起波長350nm、励起バンド幅5nm、蛍光バンド幅1nmで測定した。結果を表2に示す。
【0099】
(比較例2−1)
実施例2−1において、塩化イリジウムを使用しないこと以外は実施例2−1と同様にして粉末蛍光体を得た。得られた蛍光体の量子効率を測定した結果を表2に示す。
【0100】
(実施例2−2)
実施例2−1において、硫酸マンガンに代えて0.27gの硫酸銅(II)を使用したこと以外は実施例2−1と同様にして粉末蛍光体を得た。得られた蛍光体の量子効率を測定した結果を表2に示す。
【0101】
(比較例2−2)
実施例2−2において、塩化イリジウムを使用しないこと以外は実施例2−2と同様にして粉末蛍光体を得た。得られた蛍光体の量子効率を測定した結果を表2に示す。
【0102】
(実施例2−3)
実施例2−1において、酸化亜鉛に代えて0.5gのセレン化亜鉛を使用したこと以外は実施例2−1と同様にして粉末蛍光体を得た。得られた蛍光体の量子効率を測定した結果を表2に示す。
【0103】
(比較例2−3)
実施例2−3において、塩化イリジウムを使用しないこと以外は実施例2−3と同様にして粉末蛍光体を得た。得られた蛍光体の量子効率を測定した結果を表2に示す。
【0104】
(実施例2−4)
硫化ストロンチウム100gにフッ化セリウム0.3g、塩化イリジウム(III)0.012g、塩化カリウム0.3gおよび硫黄5gを混合した後、100%のH2 S中、500℃で6時間加熱処理した後、さらに200℃で7時間処理して粉末蛍光体を得た。得られた蛍光体の量子効率を測定した結果を表2に示す。
【0105】
(比較例2−4)
実施例2−4において、塩化イリジウムを使用しないこと以外は実施例2−4と同様にして粉末蛍光体を得た。得られた蛍光体の量子効率を測定した結果を表2に示す。
【0106】
【表2】

【0107】
(実施例3−1〜3−2で用いた発光材料の作製)
硫化亜鉛100gに対し、硫酸マンガン(II) 0.27g、酸化亜鉛 0.5g、フッ化バリウム 3g、塩化マグネシウム 3g、塩化イリジウム(III) 0.012g、塩化ナトリウム 2gを配合し、高耐圧反応容器の反応室に入れ、ついで32gのトリニトロトルエンを添加し、反応容器を密閉し0.01mmHgまで減圧後、反応室を約450℃まで加熱して爆発を誘発させた。容器内部で爆発反応が発生したことを確認後、冷却後し粗生成物を回収した。これを水中に入れ、攪拌後、浮遊物を除去した。水分を除去し、室温で乾燥させ、焼成物15gを得た。焼成物を粉砕機で粉砕した後、ガリウム砒素5mgを加え混合した。これを窒素雰囲気下700℃の温度で8時間加熱し、粗発光体を得た。粗発光体に氷酢酸を加え、攪拌後、溶解物を除去した。次に脱イオン水を加え攪拌洗浄し、水を除去した。これを粉砕し、粉状にして発光材料とした。
【0108】
以上のようにして得られた発光材料を用いて、以下に説明する手順により、図5に示すような第一電極層(基板)101、第一発光体層102、第二発光体層103、第二電極層(銀薄膜)104及び直流電源109から構成されるEL素子回路を作製した。
【0109】
(実施例3−1:EL素子の製造)
コーニングガラス(#1737)を透明基板101として、その上に膜厚200nmのITO膜をスパッタ法で製膜し、第一電極層101とした。
【0110】
次にEB蒸着装置を用いて発光体層を形成した。発光体層の形成は前記発光材料を第一の蒸着源として、セレンを第二の蒸着源として、2×2mmの金属マスクを介して上記ITO膜付きガラス基板上に成膜した。第一の蒸着源からは一定の成膜レートで発光材料が与えられ、第二の蒸着源からは成膜前半にはセレンの重量比が0.5%以下で、成膜後半にはセレンの重量比が1%程度になるような成膜レートで二つの蒸着源から同時に成膜を実施した。成膜時の真空度は1×10−4Pa以下であり、成膜時にはガラス基板の温度を約300℃に加熱した。この結果、発光体層はセレンの組成比が少ない第一層102と、セレンの組成が多い第二層103との二層構成となったが、第一層の膜厚は約1μm、第二層の膜厚も約1μmであり、総厚みは約2μmであった。
【0111】
発光層が成膜された基板は、一旦、大気中に取り出し、結晶性の向上のために、窒素雰囲気の下で、650℃、60分間の熱処理を施す。熱処理後、発光層の上に、抵抗加熱式蒸着装置により、約200nmの膜厚の銀を蒸着し、第二電極層104とした。銀を成膜するときの真空度は7×10−4Paであり、基板の加熱は行わなかった。このようにして、第一電極層101を発光面とする図5のEL素子を得た。
【0112】
(実施例3−2:EL素子の製造)
シリコン単結晶基板を第一電極層101とする基板上に、発光部分となる2×2mmの金属マスクを介して、EB蒸着装置にて発光材料を成膜した。発光体層の形成は前記発光材料を第一の蒸着源として、セレンを第二の蒸着源として、2×2mmの金属マスクを介して上記シリコン単結晶基板上に成膜した。第一の蒸着源からは一定の成膜レートで、第二の蒸着源からは成膜前半にはセレンの重量比が0.5%以下で、成膜後半にはセレンの重量比が1%程度になるような成膜レートで二つの蒸着源から同時に成膜を実施した。成膜時の真空度は1×10−4Pa以下であり、成膜時にはガラス基板の温度を約300℃に加熱した。この結果、発光体層はセレンの組成比が少ない第一層102と、セレンの組成が多い第二層103との二層構成となるが、第一層の膜厚は約1μm、第二層の膜厚も約1μmであり、総厚みは約2μmであった。
【0113】
続いて銀を同一チャンバ内の別の蒸着源を使い0.1μm未満の厚みで積層させ第二電極層104とした。
このようにして、第二電極層104を発光面とする図5のEL素子を得た。
【0114】
(実施例3−1〜3−2で製造したEL素子の評価)
実施例3−1〜3−2のEL素子の第一電極層に直流電源のマイナス電極、第二電極層にそのプラス電極を接続し到達輝度を評価した。電圧を上げていくと5Vで、到達輝度375,000cd/mが得られた。
【0115】
(参考例)
実施例3−1〜3−2で使用した発光材料の製造工程においてドーピング法として爆破法の代わりに1200℃で、5時間無機組成物を加熱する以外は実施例3−1〜3−2と同様の方法で発光材料を作製し、実施例3−1〜3−2と同様の方法でEL素子を作製した。このEL素子の輝度は6000cd/mまでしか到達しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明により、無機複合物の製造方法を提供することができる。本発明の製造方法によって得られた無機複合物を熱処理して得られた発光材料は、発光輝度が改善されるとともに寿命の改善もなされているので、無機EL素子として好ましく使用され、産業上有用である。
【0117】
また本発明の無機組成物は、凝集などの新たな問題を発生する微粒子化などの手段を講じることなく、優れた発光体を得るための発光材料とすることができるので、産業上有用であり、本発明の無機組成物を発光材料の製造原料として作製した無機EL素子は、材料構成によって効率よく光を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】高耐圧反応容器の概略図である。
【図2】高耐圧反応容器の反応室の拡大図である。
【図3】実施例1−1〜1−3および比較例1−1で得られた発光材料を用いて製造したEL素子の断面図である。
【図4】従来の無機EL素子の代表的な構成の要部を示す斜視図である。
【図5】実施例3−1〜3−2および参考例で製造した直流無機EL素子の代表的な構成の要部を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0119】
1 耐圧反応容器
2 薬品挿入部
3 反応容器
4 加熱ヒーター
5 加熱部電源供給部
6 加熱部電源供給部
7 爆薬
8 無機組成物
18 背面電極
19 誘電体
20 発光体
21 誘電体
22 電極
23 透明電極
24 ガラス基板
101 第一電極層(基板)
102 第一発光体層
103 第二発光体層
104 第二電極層(銀薄膜)
109 直流電源
110 無機EL素子
111 透明基板
112 下部電極
113 下部絶縁体層
114 発光体層
115 上部絶縁体層
120 上部電極
121 交流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内で、火薬および/または爆薬と共に、化合物半導体を主たる構成材料とする無機組成物を爆破させることを特徴とする、発光材料の製造に用いられる無機複合物の製造方法。
【請求項2】
無機組成物がイリジウム元素を含む、請求項1に記載の無機複合物の製造方法。
【請求項3】
化合物半導体を主たる構成材料とする無機組成物であって、イリジウム元素を含むことを特徴とする無機組成物。
【請求項4】
無機組成物が遷移金属、ハロゲンまたは希土類元素を含む、請求項3に記載の無機組成物。
【請求項5】
化合物半導体がII−VI族半導体である、請求項3または4に記載の無機組成物。
【請求項6】
請求項3〜5の何れか一項に記載の無機組成物から得られる、発光材料の製造に用いられる無機複合物。
【請求項7】
請求項3〜5の何れか一項に記載の無機組成物を加熱処理することを特徴とする無機複合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1または7に記載の製造方法よって得られた無機複合物を加熱処理することを特徴とする発光材料の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法によって得られた発光材料。
【請求項10】
請求項9に記載の発光材料を用いてなる無機EL素子。
【請求項11】
少なくとも2つの電極と、該電極間に設けられる請求項9に記載された発光材料からなる発光体層とを備える無機EL素子において、直流駆動時の到達輝度が10000cd/m以上であることを特徴とする無機EL素子。
【請求項12】
発光体層の厚みが0.05μm〜100μmであることを特徴とする請求項11に記載の無機EL素子。
【請求項13】
発光体層が互いに異なる組成を有する複数の発光層を備えることを特徴とする、請求項11又は12に記載の無機EL素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2009−511645(P2009−511645A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518953(P2008−518953)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【国際出願番号】PCT/JP2006/320520
【国際公開番号】WO2007/043676
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(506297717)クラレルミナス株式会社 (20)
【Fターム(参考)】