説明

発光分光分析装置

【課題】目的元素の定量分析の際に任意の元素の半定量分析も実行して、目的元素の定量値を評価する際に有用な情報を同時に表示する。
【解決手段】ユーザーは予め定量分析を実行する目的元素と半定量分析を実行する元素とを設定し、目的元素については標準試料の濃度等の設定も行っておく。分析が開始されると、まず標準試料の測定を実行して得られたデータに基づき定量分析処理部201は検量線を作成して検量線保存部204に格納する。次に未知試料の測定を実行して蓄積部22にデータを格納すると、定量分析処理部201は設定波長のデータを読み出して検量線を参照して目的元素毎に定量値を求め、半定量分析処理部202は定性データベース205を参照して波長を決めて該波長に対応するデータから半定量値を計算する。処理制御部206は計算された定量値、半定量値を併せて表示部25に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma=ICP)発光分光分析装置やレーザ励起発光分光分析装置等の各種の発光分光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ICP発光分光分析装置では、試料をICPトーチ中の高温のプラズマ内に導入して励起発光させ、その発光光を波長分散させて検出器で検出することにより発光スペクトルを取得し、その発光スペクトルに現れているスペクトル線(輝線スペクトル)の波長から試料に含まれる元素の定性分析(同定)を、スペクトル線の強度からその元素の定量分析を行う。
【0003】
通常、定量分析では、ユーザーが予め既知の濃度の標準試料を分析することで作成した検量線を参照して正確な定量値(濃度)を算出するが、こうした検量線を作成するには目的元素毎に標準試料を分析して検量線を作成しておく必要があるため、作業は煩雑で面倒である。これに対し、定量分析ほどの精度を必要としないおおよその含有量を知りたい場合や、厳密な定量分析に先立って共存元素の妨害の可能性や妥当な定量濃度範囲等の推定を行いたい場合などには、標準試料の測定を伴わない、より簡単な測定で結果を得られることが望ましい。こうした目的のためには、装置メーカーから提供される定性データベースを用いて目的元素の濃度や含有量の概略値(半定量値、定性値と呼ぶ場合もある)を求める半定量分析が有用である。
【0004】
上述のように定量分析では、実際の標準試料の測定に基づいて作成される検量線を参照して定量値が計算される。またICP発光分光分析装置では、多くの場合、1つの元素に対して複数の波長の輝線スペクトルが得られるが、定量分析では定量計算を行う輝線スペクトルの波長をユーザーが指定するのが一般的である。これに対し半定量分析では、装置に内蔵されたデータベースを参照して半定量値が計算される。また、半定量計算を行うための波長はユーザーにより指定されず、データベースに基づいて適切な波長が自動的に選択されるのが一般的である。このように定量分析と半定量分析とはいずれも目的元素の含有量を求めるという点では同じであるものの、その処理内容がかなり異なる。そのため、従来のICP発光分光分析では、定量分析ソフトウエアと半定量分析ソフトウエアとは別々に用意されており、ユーザーはいずれかを選択して測定やデータ処理を実行させるようにしている(例えば非特許文献1など参照)。
【0005】
【非特許文献1】「ICP発光分析装置(シーケンシャルシリーズ) ULTIMA2」、[Online]、HORIBA JOBIN YVON(ホリバ・ジョバンイボン)、[平成18年6月7日検索]、インターネット<URL : http://www.jyhoriba.jp/product_j/icp/ultima2/software.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば或る試料に含まれる目的元素の定量分析を行いたい場合に、目的元素の定量計算を行う輝線スペクトルに対する干渉がないかどうかを調べるには、干渉の原因となる元素の定量分析も同時に行う必要があるが、そのためには目的元素だけでなく干渉元素の標準試料の測定も行う必要があり面倒である。また、目的元素については定量分析を実行し干渉元素のみを半定量分析に供することも可能ではあるが、ユーザーにとってはそうした作業も面倒であって分析結果も分かりにくい。
【0007】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、定量分析と半定量分析とを組み合わせて利用価値の高い情報を提供するとともに分析作業の効率化を図ることができる発光分光分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明は、1乃至複数の元素を含む試料を励起して光を放出させ、その光を分光測定して所定波長範囲の発光スペクトルデータを取得する発光分光分析装置において、
a)標準試料の測定によって作成された検量線を参照して目的元素についての発光スペクトルデータより定量値を算出する定量分析手段と、
b)予め設定されている定性データベースを参照して目的元素についての発光スペクトルデータより半定量値を算出する半定量分析手段と、
c)定量値を求めたい第1元素群と半定量値を求めたい第2元素群とをユーザーが入力設定するための入力設定手段と、
d)前記入力設定手段により設定された第1元素群の各元素について前記定量分析手段によりそれぞれ定量値を算出するとともに、第2元素群の各元素について前記半定量分析手段によりそれぞれ半定量値を求め、それら定量値及び半定量値の算出結果を併せて且つ定量/半定量の区別が可能であるように出力する処理制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る発光分光分析装置の典型的な一態様はICP発光分光分析装置である。なお、本発明に係る発光分光分析装置はいわゆるシーケンシャルICPでも適用は可能ではあるが、好ましくは、分光器により波長分散された光を一斉に検出する多元素同時検出型の検出器を備えるマルチタイプICPとするとよい。
【0010】
本発明に係る発光分光分析装置では、例えば未知試料の測定実行前に予め定量分析結果を得たい目的元素(第1元素群)と半定量分析結果を得たい目的元素(第2元素群)とを入力設定手段により設定しておく。また定量分析結果を得たい目的元素については各元素毎に検量線を作成するための標準試料の濃度等の情報を設定しておく。その上で分析が開始されると、処理制御手段は、試料についての所定波長範囲の発光スペクトルデータを収集し、第1元素群の各元素については定量分析手段に対して分析を実行するように指示し、第2元素群の各元素については半定量分析手段に対して分析を実行するように指示する。
【0011】
指示を受けた定量分析手段は、まず標準試料の測定を実行することで検量線を作成し、その検量線を参照して目的元素についての発光スペクトルデータより定量値を算出する。一方、指示を受けた半定量分析手段は、定性データベースを参照して目的元素についての発光スペクトルデータより半定量値を算出する。即ち、濃度の算出の元となるのは同じ発光スペクトルデータであり、定量分析と半定量分析との大きな相違は前者が検量線があるのに対し後者は検量線が無いために定性データベースを利用することである。そして、処理制御手段は、定量値及び半定量値の算出結果が得られたならば、両者を併せて且つ定量/半定量の相違が容易に分かるようにして例えば表示画面上に表示したりプリンタ等から印刷出力したりする。
【0012】
また、試料の測定により既に収集された発光スペクトルデータを用いて、解析処理だけを行うことで定量値及び半定量値を求めることもできる。この場合には、第1元素群としては既に検量線が作成されているものを選択し、検量線がないものは第2元素群として入力設定すればよい。
【0013】
本発明に係る発光分光分析装置の典型的な使用方法としては、高い精度で以て定量を行いたい1乃至複数の目的元素を第1元素群として設定し、この目的元素の定量を行う輝線スペクトルの波長に干渉の影響を及ぼすおそれのある1乃至複数の元素を第2元素群として設定しておくことができる。第2元素群の各元素の半定量値はおおよその値ではあるが、その値により定量値を求めた際の波長の選択が適切であったか否かを判定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る発光分光分析装置によれば、目的元素の定量値を表示する際に他の任意の元素の半定量値を併せて表示することができるため、例えばこの半定量値を利用して定量計算に利用した波長に干渉の影響がないことを示し、データの信頼性のよりどころとする等、分析結果の価値を高めることができる。また、こうした分析結果を得るために追加的な検量線作成用の試料の測定も不要であり、定量分析と半定量分析とを別々に実行する必要もないため、ユーザーの作業が煩雑になるのを回避することができる。
【0015】
さらにまた、定量値と並行して求めた半定量値に基づいて分光干渉に起因する誤差が大きいと自動的に判断した場合に、定量値を計算するための輝線スペクトルの波長を自動的に変更して再計算を実行したり、或いは干渉誤差を軽減するような補正演算を実行するようにすることもできる。また半定量値に基づいて高濃度元素をスクリーニングし、検量線作成用の試料が目的試料の分析のために適切なものであるか否かを評価することもできる。さらにその結果から、マトリックスマッチング等の検量線作成用試料の調製方法をユーザーに提示することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施例によるICP発光分光分析装置について図面を参照して説明する。図1は本実施例のICP発光分光分析装置の概略構成図である。
【0017】
図1において、制御部21により制御されるオートサンプラ12から供給された試料溶液は、図示しないネブライザで霧化された後、発光部10に導入されプラズマ炎11により励起される。これにより発生した光は集光レンズ13により集光され、エシェル回折格子を含む分光器14に送られる。そして、分光器14で波長分散された光は、例えばCCDセンサ等のマルチチャンネル型検出器15でほぼ同時に検出され、その検出信号はデータ処理部20へと送られる。
【0018】
データ処理部20は該検出信号をデジタルデータ(発光スペクトルデータ)に変換し、スペクトルデータ蓄積部22に格納するとともに所定のアルゴリズムに従って演算処理することにより、試料の定性分析、半定量分析、定量分析を実行する。そのために、データ処理部20は、定性分析処理部203、半定量分析処理部202、定量分析処理部201、定性分析及び半定量分析に使用される定性データベース205、定量分析に使用される検量線を保存するための検量線保存部204、を機能として備える。さらにまた、後述するように半定量分析と定量分析とを組み合わせて実行するために処理制御部206を備える。上記データ処理部20やそのほかの各部の動作は制御部21により統括的に制御されており、制御部21とデータ処理部20の機能の多くは汎用のパーソナルコンピュータ23上で所定のプログラムを実行することによって達成される。また、パーソナルコンピュータ23には、ユーザーが分析条件等を入力するためのキーボード等から成る入力部24と、測定結果等を表示するためのディスプレイ等から成る表示部25とが接続されている。
【0019】
次に、本実施例のICP発光分光分析装置において特徴的な分析動作について一例を挙げて説明する。いま、定量/半定量同時分析を実行したい場合に、ユーザーが入力部24より所定の操作を行うと表示部25には図2に示すような測定元素登録テーブル30が表示されるから、ユーザーはこのテーブル30の各欄に必要な入力を行う。この例では、Cd、Asの2つの元素の正確な濃度(定量値)を求めるとともに、Cdの定量に干渉の影響を及ぼす可能性のあるFeの元素についておおよその濃度(半定量値)を求めるものとする。この場合、図2に示すように、測定元素登録テーブル30の元素名記入欄にそれぞれCd、As、Feを入力し、定量分析を行う2元素については定量計算を行う波長を入力する。そして、分析のタイプとして定量、又は半定量を指定する。
【0020】
また、定量分析を行う2元素については、図3に示すように表示部25に表示させた標準試料登録テーブル31において、それら元素を既知濃度で以て含む検量線作成用の標準試料を登録する。なお、こうした標準試料は予め調製しておき、分析目的である未知試料とともにオートサンプラ12に装着しておく。
【0021】
上記のような準備が整った上で分析開始が指示されると、まず制御部21の制御の下にオートサンプラ12は標準試料を選択して発光部10に導入し、データ処理部20はこれによる発光光に対する発光スペクトルデータを収集する。そして、定量分析処理部201は標準試料登録テーブル31に設定された波長におけるスペクトルの強度を抽出し、濃度と強度との関係を表す図4に示すような検量線を作成して、それを検量線保存部204に格納する。即ち、これによって作成されるのは、CdとAsに対する検量線だけである。
【0022】
次に、オートサンプラ12は未知試料を選択して発光部10に導入し、データ処理部20はこれによる発光光に対する発光スペクトルデータを収集しスペクトルデータ蓄積部22に格納する。このときに得られるスペクトルデータは所定の波長範囲に亘り所定の波長分解能を有している。発光スペクトルデータが得られると、定量分析処理部201は測定元素登録テーブル30で設定された元素Cd、Asに対する波長のデータ(強度)を読み出し、検量線保存部204に格納されている元素毎の検量線を参照して濃度、つまり定量値を算出する。
【0023】
一方、半定量分析処理部202は測定元素登録テーブル30で設定された元素Feについて、定性データベース205を参照してまず半定量値を計算する波長を決定し、その波長のスペクトルデータ(強度)を読み出す。そして、検量線に代わるものとして定性データベース205に含まれる半定量用データベースを参照しておおよその濃度、つまり半定量値を算出する。但し、共存元素による干渉が問題となる場合には、始めに決定した波長以外の他の波長のスペクトルデータを利用したり、或いは干渉による誤差の補正をする等の適宜の処理を実行することで、半定量値の精度の向上を図ることができる。
【0024】
そして、処理制御部206は元素Cd、Asの定量値と元素Feの半定量値の計算結果を受け取り、図5に示すように、定量値、半定量値のいずれであるのかが明確に識別可能な形式で以てそれら値を同時に表示するように表示部25に出力する。従来、定量分析を実行した場合には元素Feのように検量線を作成しなかったものについては同時に半定量値を出力することができなかったが、この実施例の装置によれば、同時に元素Feの半定量値を表示することができる。ここでは、Cd、As等の元素の定量値をFeの干渉のない(又は小さい)波長で以て計算していることが分かるので、定量値の信頼性が高いことが分かる。
【0025】
また上記実施例では、測定元素を登録した後に実際に未知試料の測定を実行したが、未知試料の測定により得られた所定波長範囲の発光スペクトルデータは全て、つまり波長に拘わらずスペクトルデータ蓄積部22に保存されているから、後で測定元素登録テーブル30に半定量分析を行う任意の元素を追加して再解析を実行することにより、実際の未知試料の再測定無しに定量値、半定量値を求めることができる。
【0026】
また、上記説明では予めユーザーにより設定された元素の定量値又は半定量値を算出して表示するだけであるが、さらに半定量値の大きさやその波長を判断することにより、定量値を計算した際の波長における干渉の程度を判定し、干渉の程度が大きい場合には定量分析を実行する波長を自動的に変更して再分析を実行する等の処理を行うように拡張することができる。
【0027】
また、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜に変更や修正、追加を行っても本願発明に包含されることは当然である。例えば上記実施例ではマルチタイプICPを示したが、本発明はシーケンシャルICPにも適用可能である。但し、当然のことながらシーケンシャルICPでは所定波長範囲の発光スペクトルデータを漏れなく収集しようとすると時間を要するため、測定時間が掛かるのみならずその間に未知試料を供給し続ける必要がある等の制約がある。その点からマルチタイプICPが好ましいのは言うまでもない。
【0028】
また、本発明は上記のようなICP発光分光分析装置のみに適用されるものではなく、それ以外のレーザ励起プラズマ発光分光分析装置や固体発光分光分析装置、グロー放電発光分光分析装置等の種々の発光分光分析装置に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例であるICP発光分光分析装置の概略構成図。
【図2】本実施例のICP発光分光分析装置において表示部に表示される測定元素登録テーブルの一例を示す図。
【図3】本実施例のICP発光分光分析装置において表示部に表示される標準試料登録テーブルの一例を示す図。
【図4】本実施例のICP発光分光分析装置において作成される検量線の一例を示す図。
【図5】本実施例のICP発光分光分析装置において表示部に表示される分析結果の一例を示す図。
【符号の説明】
【0030】
10…発光部
11…プラズマ炎
12…オートサンプラ
13…集光レンズ
14…分光器
15…マルチチャンネル型検出器
20…データ処理部
201…定量分析処理部
202…半定量分析処理部
203…定性分析処理部
204…検量線保存部
205…定性データベース
206…処理制御部
21…制御部
22…スペクトルデータ蓄積部
23…パーソナルコンピュータ
24…入力部
25…表示部
30…測定元素登録テーブル
31…標準試料登録テーブル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1乃至複数の元素を含む試料を励起して光を放出させ、その光を分光測定して所定波長範囲の発光スペクトルデータを取得する発光分光分析装置において、
a)標準試料の測定によって作成された検量線を参照して目的元素についての発光スペクトルデータより定量値を算出する定量分析手段と、
b)予め設定されている定性データベースを参照して目的元素についての発光スペクトルデータより半定量値を算出する半定量分析手段と、
c)定量値を求めたい第1元素群と半定量値を求めたい第2元素群とをユーザーが入力設定するための入力設定手段と、
d)前記入力設定手段により設定された第1元素群の各元素について前記定量分析手段によりそれぞれ定量値を算出するとともに、第2元素群の各元素について前記半定量分析手段によりそれぞれ半定量値を求め、それら定量値及び半定量値の算出結果を併せて且つ定量/半定量の区別が可能であるように出力する処理制御手段と、
を備えることを特徴とする発光分光分析装置。
【請求項2】
分光器により波長分散された光を一斉に検出する多元素同時検出型の検出器を備えることを特徴とする請求項1に記載の発光分光分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−333501(P2007−333501A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164377(P2006−164377)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】