説明

発光甲虫由来赤色発光酵素安定体の生産及び精製法

【課題】発光甲虫由来発光酵素をより多く生産し、安定性を向上させる。
【解決手段】発光甲虫由来発光酵素遺伝子を適当なプロモータ及び大腸菌を選択、培養、精製条件を最適化した生産法を確立、併せて安定化試薬を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光甲虫由来赤色発光酵素安定体を生産するための遺伝子構築物、該構築物を含む発現ベクター、該構築物または発現ベクターを含む形質転換された大腸菌、その培養及びその精製を通じた高活性な発光甲虫由来赤色発光酵素の製造法、さらには発光甲虫由来赤色発光酵素の保存法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光甲虫由来発光酵素ルシフェラーゼ(FFL)は発光基質ルシフェリン(LH2)の酸化・発光反応を触媒する酵素である。ルシフェリンとルシフェラーゼが充分量存在すれば、ATP量と発光反応生成物、つまりATP量と発光量が比例することから、発光量でATP量を定量することが出来る。また、生バクテリアがATPを持つことから、加工食品等に混在した生バクテリアのATP量をルシフェリン・ルシフェラーゼ発光で測定、バクテリアの混入量を評価することも可能である。ルシフェラーゼ標品は天然のホタルより抽出精製した製品(シグマ社L9605等)、組み換え体より生産精製した製品(シグマ社L4899、和光純薬126-03911等)があり、この標品よりATP量測定が行われている。しかしながら、市販されているルシフェラーゼはホタル科由来に限られ、その最大発光波長も550-570nmの範囲のものである。
【0003】
鉄道虫由来赤色発光酵素ルシフェラーゼは発光甲虫由来発光酵素の中で最も長波長の最大発光波長を持つ酵素である。ホタル科由来の発光酵素が発光反応溶液のpHに依存し発光スペクトルが変化するのに対して、発光スペクトルは一定である。一方、生体内から発した光は赤色であるほど透過性を増すことから、生細胞内での鉄道虫由来赤色発光酵素の有用性は高く、例えば、生態細胞内に導入すれば、細胞内のATP量を定量できる。また、既存の多くの発光酵素の最大発光波長が460-570nmであることから、赤色発光酵素は他のシステムとの併用も可能である。しかしながら、鉄道虫由来赤色発光酵素の発現は大腸菌で可能であるが(特許文献1)、大量発現及び精製に成功していない(非特許文献1)。
【0004】
発光甲虫由来の発光酵素及びその融合体を大腸菌や哺乳類細胞により生産するシステムは特許化されているが(特許文献2)、本特許及び既存の方法では鉄道虫由来赤色発光酵素の大量発現及び精製品を得ることはできない。既存の発光酵素と異なる発光色である赤色発光酵素は有用性が高く、本酵素を大量発現・精製する技術の構築が必須である。
【特許文献1】US2002/0119542-A1
【特許文献2】US5700673
【非特許文献1】Balan Venkatesh and Yoshihiro Ohmiya"Chaperone mediated folding of beetle lu ciferases"14th International Congress on Photobiology. Program & Abstract p14 2 (Jeju Korea, June 13th Jun, 2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞内外のATP定量やバクテリアの検出等に用いることが可能な発光甲虫由来赤色発光酵素標品を効率良く生産、精製、安定保存できる方法を開発し、生命科学での細胞内機能解析を通じた病態の治療,検査及び新薬開発に、或いは菌体検出等を通じた食品衛生検査等に利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、発光酵素を特定プロモータを選択することによって誘導できる遺伝子構築物を作製し、低温で培養することで大量に生産できることを見出した。
【0007】
本発明は、以下の鉄道虫由来赤色発光酵素安定体の生産及び精製法に関する。
1. 発光甲虫に由来する赤色発光酵素遺伝子を低発現誘導性プロモータの制御下に組み込んでなる遺伝子構築物。
2. 発光甲虫が鉄道虫である項1に記載の遺伝子構築物。
3. 低発現誘導性プロモータがlacIqプロモータである項1または2に記載の遺伝子構築物。
4. 項1〜3のいずれかに記載の遺伝子構築物を含む発現ベクター。
5. 項1〜3のいずれかに記載の遺伝子構築物または項4に記載の発現ベクターで形質転換された大腸菌。
6. 項5に記載の大腸菌を培養し、鉄道虫由来赤色発光酵素を回収することを特徴とする鉄道虫由来赤色発光酵素の製造法。
7. 大腸菌の培養を5〜25℃で行うことを特徴とする項5に記載の方法。
8. 鉄道虫由来赤色発光酵素を含む粗生成物をアフィニティクロマトグラフィーに吸着させ、イミダゾールを含む溶出液で溶出することを特徴とする鉄道虫由来赤色発光酵素の精製方法。
9. 鉄道虫由来赤色発光酵素とイミダゾールを含む鉄道虫由来赤色発光酵素の安定化組成物。
10. 溶液の形態であり、鉄道虫由来赤色発光酵素1U当たり、イミダゾールが220〜360mM配合してなる項9に記載の組成物
11. 鉄道虫由来赤色発光酵素溶液にイミダゾールを配合することを特徴とする鉄道虫由来赤色発光酵素の安定化方法。
12. 鉄道虫由来赤色発光酵素溶液にグリセロールを配合することを特徴とする鉄道虫由来赤色発光酵素の安定化方法。
13. 鉄道虫由来赤色発光酵素とグリセロールを含む鉄道虫由来赤色発光酵素の安定化組成物。
14. 溶液の形態であり、鉄道虫由来赤色発光酵素1mg/ml当たり、グリセロールを80〜120mg配合してなる項13に記載の組成物。
本明細書において、発光甲虫としては、鉄道虫、ヒカリコメツキ、イリオモテボタル等が挙げられる。
【0008】
「発光酵素」は、ルシフェリンの存在下に赤色、橙色、黄色、黄緑、緑色などの色を発光し得る酵素であり、その発光波長は535〜635nm程度である。
【0009】
発光甲虫由来発光酵素としては、鉄道虫由来赤色発光酵素、鉄道虫由来緑色発光酵素、イリオモテボタル橙色発光酵素、イリオモテボタル緑色発光酵素等が例示され、好ましくは鉄道虫由来赤色発光酵素である。
鉄道虫由来赤色発光酵素遺伝子とは、鉄道虫に由来する発光酵素遺伝子またはその変異体であって、最大発光波長が600〜635nm程度であるものを意味する。該遺伝子としては、配列番号1で示される遺伝子が挙げられ、該変異体としては、該遺伝子(配列番号1)とストリンジェントな条件下にハイブリダイズし得る遺伝子、該発光酵素(配列番号2)の1又は複数のアミノ酸が置換、付加、欠失または挿入され、且つ発光酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を該発光酵素遺伝子として使用することが可能である。
【0010】
低発現誘導性プロモータとしては、lacIqプロモータ等が例示される。lacIqプロモータはIPTGの添加により該プロモータの下流の遺伝子の発現が誘導される。
【0011】
大腸菌で発現させるのに好適な発現ベクターとしては、pBluescript, pET21d, pTrc99A, pCA24N、pUC18、pUC19、pBR322などが挙げられ、好ましくはlacIqプロモータを含むpCA24Nが挙げられる。本発明の発光甲虫由来赤色発光酵素遺伝子の発現では、通常用いられる強力な転写活性を有するプロモータ(例えばT7プロモーター、tacプロモータ)は好ましくない。
【0012】
発現ベクターの大腸菌への導入は、Sambrook,J.ら,Molecular Cloning, A Laboratory Manual(2nd edition),Cold Spring Harbor Laboratory,1.74(1989)に記載の塩化カルシウム法または塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法、エレクトロインジェクション法、PEGなどの化学的な処理による方法、遺伝子銃などを用いる方法などが挙げられる。
該発現ベクターで形質転換された大腸菌の培養は、宿主細胞(形質転換体)の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、たとえばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖、メタノールなどが、例示される。無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスターチ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。また、所望により他の栄養素(例えば無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)など)を含んでいてもよい。培養は、当業界において知られている方法により行われる。培養条件、例えば温度、培地のpH及び培養時間は、本発明の発光甲虫由来赤色発光酵素が大量に生産されるように適宜選択される。
【0013】
特に培養温度は、比較的低温であるのが好ましく、例えば5〜25℃、好ましくは10〜25℃、より好ましくは15〜20℃である。
本発明の発光甲虫由来赤色発光酵素は、上記培養により得られる培養物より以下のようにして取得することができる。すなわち、本発明のタンパク質が宿主細胞内に蓄積する場合には、遠心分離やろ過などの操作により宿主細胞を集め、これを適当な緩衝液(例えば濃度が10M〜100mM程度のトリス緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液などの緩衝液。pHは用いる緩衝液によって異なるが、pH5.0〜9.0の範囲が望ましい)に懸濁した後、用いる宿主細胞に適した方法で細胞を破壊し、遠心分離により宿主細胞の内容物を得る。一方、本発明のタンパク質が宿主細胞外に分泌される場合には、遠心分離やろ過などの操作により宿主細胞と培地を分離し、培養ろ液を得る。宿主細胞破壊液、あるいは培養ろ液はそのまま、または硫安沈殿と透析を行なった後に、本発明のタンパク質の精製、単離に供することができる。
【0014】
本発明の発光甲虫由来赤色発光酵素は、Hisタグやマルトース結合タンパクと融合体として、NiやCoなどの金属イオンアミロースなどをリガンドとしたアフィニティーカラムを利用して精製を行うことができる。アフィニティーカラムとしては、例えば、Niセファロース、アミロース結合ゲル等を使用できる。
【0015】
アフィニティカラムからの溶出は、イミダゾールを使用するのが好ましい。イミダゾールの濃度は、通常100〜1000mM程度、好ましくは200〜300mM程度である。イミダゾールは、溶出液を濃縮ないし凍結乾燥等して保存する場合にも、発光甲虫由来赤色発光酵素の安定剤として機能するため好ましい。
【0016】
本発明の発光甲虫由来赤色発光酵素を固体状態で安定に保存するためには、鉄道虫由来赤色発光酵素1g当たり、イミダゾールを15〜25g程度配合するのが好ましい。
【0017】
また、発光甲虫由来赤色発光酵素を溶液状態で安定に保存するためには、発光甲虫由来赤色発光酵素1U当たり、イミダゾールを220〜360mM程度配合するのが好ましい。
【0018】
本発明の発光甲虫由来赤色発光酵素を固体状態で安定に保存するためには、発光甲虫由来赤色発光酵素1mg/ml当たり、グリセロールを80〜120mg程度配合するのが好ましい。
【0019】
本発明の遺伝子は、発光甲虫由来遺伝子であれば、いずれの発光甲虫の遺伝子を使用してもよく、特に鉄道虫及びその類縁の発光甲虫由来遺伝子に適用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、鉄道虫由来赤色発光酵素の大量発現及び精製品を得ることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を図面に基づきより詳細に説明する。
実施例1
クローン化した鉄道虫由来赤色発光酵素遺伝子pB-RELU(US2002/0119542-A1 ;pBluescript(lacZプロモータ)に挿入)をプライマー配列(N末;CCATGGAAGAAGAAAACATTGTGAAT(配列番号5)、C末;TTATAATTTTGATTTTGCCTGTTC(配列番号6))でPCR増幅しpTOPOベクターに挿入し、その後、NcoI、HindIIIで切り出し、同じくNcoI、HindIIIで切断した大腸菌発現用ベクターpET21d( T7プロモータ)、pTrc99A(Trcプロモータ)、に挿入しpET21d-RELF、pTrc99A-RELFの遺伝子構築物を作成した。大腸菌BL21-DE3に遺伝子導入し、LB培地に1mM-IPTGの有無、培養温度の違い(25,37℃)における、発現タンパク量を破砕物のルシフェラーゼ活性で比較検討した(図1A)。その結果、pET21d-RELFにおいて最も高い活性を示した。しかしながら、破砕物の抽出液と、残渣を電気泳動した結果、多くの発現タンパクがインクルージョンボディを形成し(図1B)、精製を進めることができないことが明らかとなった。よって、従来法であるT7プロモータのようなプロモータ活性の高いベクターを選択したホタルルシフェラーゼ組換え体では大腸菌内で発現させることは可能ではあるが、酵素活性の高い鉄道虫赤色発光酵素標品が得ることが難しいことが明らかとなった。
【0022】
実施例2
鉄道虫由来赤色発光酵素の特性としてインクルージョンボディを形成しやすいことが明らかとなったので、プロモータ活性は強くないが、発現量を増加させるベクターを選択、lacIqプロモータを含むpCA24N(Accession Number AB052891)に挿入したpCA-RELFの遺伝子構築物を作成した(図2)。図で示すようにpCA24Nの制限酵素StuIで切断後、CIP処理した。一方、鉄道虫由来赤色発光酵素遺伝子をテンプレートし、プライマー(N末;GCCGAAGAAGAAAACATTGTGAATGG(配列番号7)、C末;CCTAATTTTGATTTTGCCTGTTCCCG(配列番号8))でPCR増幅したフラグメントを前者の切断ベクター中に挿入した。作成されたpCA24N-RELU-GFPはGFP(緑色蛍光蛋白質)を含んでいることからNotI処理後、セルフライゲース反応により閉環させpCA24N-RELUを作成した。赤色発光酵素融合タンパクの塩基配列は配列番号3で、蛋白質配列は配列番号4である。pCA24N-RELUを形質転換した大腸菌DH5α菌体(レーン1-3)、pET21d-RELFを形質転換した大腸菌DH5α菌体(レーン4-6)及びpET21d-RELFを形質転換した大腸菌BL21-AI菌体(レーン7-9)をそれぞれ18℃で一昼夜培養後の発現タンパクについて、全抽出物(レーン1,4,7)、可溶化画分(レーン2,5,8)と非可溶化画分(レーン3,6,9)についてSDS電気泳動で比較した結果である(図3A)。pET21d-RELFを形質転換した大腸菌DH5αでは鉄道虫由来赤色発光酵素はほとんど発現しなかった。(可溶化画分)/(非可溶化画分)はpET21d-RELFを形質転換した大腸菌BL21-AI菌体は0.1であり、大部分が非可溶化画分に存在するのに対して、pCA24N-RELUを形質転換した大腸菌DH5α菌体での(可溶化画分)/(非可溶化画分)は0.5程度となり多くの赤色発光酵素が可溶画分に存在した。本結果より赤色発光酵素がインクルージョンボディを形成しやすい点の改善がみられた。これまで、大腸菌でタンパク発現を行う際にはT7のような強い発現誘導を示すプロモータが選択されていたが、鉄道虫由来赤色発光酵素では比較的弱い発現誘導を示すlacIqプロモータを用いた遺伝子構築物によりインクルージョンボディを形成せずタンパク発現できることを明らかにした。また、培養温度の違いがタンパク生産効率に大きく影響を及ぼすことから、pCA24N-RELUを大腸菌DH5αに形質転換した菌体の培養条件を検討した(図3B)。 LB培地培養温度の違い(18,25,37℃)における、発現タンパク量を破砕物のルシフェラーゼ活性で比較検討した結果、最も18℃において高活性な鉄道虫由来赤色発光酵素が確認できた。この結果を元に培養温度を18℃とした。

実施例3
大腸菌で発現した鉄道虫由来赤色発光酵素遺伝子の発現条件及び精製条件を図示する(図4A)。大腸菌DH5αのpCA-RELF遺伝子形質転換体コロニーを3mLの培地37℃で一晩振盪培養した。培養したものを450mLの培地に加え、さらに4時間37℃振盪培養した。これに1mM IPTGとなるようにし、さらに24時間18℃振盪培養する。培養後、菌体を遠心(5,000rpm x 15min)し集め、菌体ペレットをプロテアーゼインヒビタを加えた50mM リン酸バッファー300mM NaCl(pH7.5)に再懸濁し、即座に、フレンチプレス1,500psi下で破砕した。破砕液は遠心(15,000rpm x 30 min)し、上清液にNi-NTAゲル(キアゲン社)を1mL添加、45分間室温振盪した。このゲルを加えた上清液をカラムに移し、洗浄バッファー50mM リン酸バッファー、300mM NaCl、5mM ATP、10mM KCl、 20mM MgCl2(pH7.2)、さらには50mM リン酸バッファー、300mM NaCl、20mM Imidazoleで溶出液のOD280nmが0付近になるまで溶出した。次に100-1000mM Imidazole、50mM リン酸バッファー、300mM NaCl(pH7.5) を順次加えて、カラムに吸着したタンパクを溶出させた。各フラクションを電気泳動した結果(図4B)、200-300mM Imidazoleにおいて分子量60kDa付近の均一バンドのタンパクが多く溶出され、高い発光活性を示した。この結果450mLの培地から2.7mgの精製赤色発光酵素が精製された。
【0023】
実施例4
アフィニティクロマトグラフィーで精製された鉄道虫由来赤色発光酵素にはImidazoleが含まれるので、Imidazole量と発光活性の相関を検討した。精製した赤色発光酵素50mM リン酸バッファー、300mM NaCl(pH7.5)中、最終濃度0、0.25、0.5M Imidazoleとなるよう調整し、発光活性を測定した(図5)。Imidazoleを加えなかった酵素に対して、0.25M Imidazole下では約1.5倍の発光活性を示した。赤色発光酵素ではImidazoleが発光活性を阻害することなく、0.25M Imidazoleにおいて高い活性を示した。一方、実用的に赤色発光酵素を使う場合、タンパクを安定に長期保存することが重要となる。特に多くの発光酵素が凍結溶解を繰り返す内に失活する可能性がある。そこで、赤色発光酵素の安定性高めるために、グリセロールの効果を検討した。1mg/mLとした精製赤色発光酵素を0.25、0.5M Imidazole 、50mM リン酸バッファー、300mM NaCl(pH7.5)中、グリセロール最終濃度0,10,20%とした条件で、同じサンプルについて凍結融解を3、6、9、15日目に行い、それぞれ一部を取り出し、発行活性を測定した(図6)。グリセロールが入らないサンプルでは、発光活性は3日目には1000分の1以下になった。それに対して10%グリセロールが含まれるサンプルでは安定な発光活性を示し、15日目においても顕著な発光活性の低下は見られなかった。これらの結果より、Imidazole及びグリセロールは鉄道虫由来赤色発光活性の実用レベルの安定化に寄与することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】A)鉄道虫由来赤色発光酵素導入した大腸菌発現用遺伝子構築物のタンパク発現。B) 鉄道虫由来赤色発光酵素導入した大腸菌発現用遺伝子構築物より生産された発光蛋白質の可溶/非可溶画分での存在比。
【図2】pCA24Aベクターを用いた鉄道虫由来赤色発光酵素導入した大腸菌発現用遺伝子構築物の作成法。
【図3】A)鉄道虫由来赤色発光酵素導入した大腸菌発現用遺伝子構築物pET21d-RELF,pCA21A-RELFより生産された発光蛋白質の可溶/非可溶画分での存在比。B) 鉄道虫由来赤色発光酵素導入した大腸菌発現用遺伝子構築物pCA21A-RELFにおける培養温度と発現量の相関
【図4】A)鉄道虫由来赤色発光酵素導入した大腸菌発現用遺伝子構築物pCA21A-RELFより生産された発光蛋白質の精製法の概略図。B) アフィニティクロマトグラフの溶出フラクションの電気泳動パターン。
【図5】精製鉄道虫由来赤色発光酵素におけるイミダゾールの発光活性に及ぼす影響
【図6】精製鉄道虫由来赤色発光酵素における長期間凍結融解に関わるグリセロールの効果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光甲虫に由来する赤色発光酵素遺伝子を低発現誘導性プロモータの制御下に組み込んでなる遺伝子構築物。
【請求項2】
発光甲虫が鉄道虫である請求項1に記載の遺伝子構築物。
【請求項3】
低発現誘導性プロモータがlacIqプロモータである請求項1または2に記載の遺伝子構築物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の遺伝子構築物を含む発現ベクター。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の遺伝子構築物または請求項4に記載の発現ベクターで形質転換された大腸菌。
【請求項6】
請求項5に記載の大腸菌を培養し、発光甲虫由来赤色発光酵素を回収することを特徴とする発光甲虫由来赤色発光酵素の製造法。
【請求項7】
大腸菌の培養を5〜25℃で行うことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
発光甲虫由来赤色発光酵素を含む粗生成物をアフィニティクロマトグラフィーに吸着させ、イミダゾールを含む溶出液で溶出することを特徴とする発光甲虫由来赤色発光酵素の精製方法。
【請求項9】
発光甲虫由来赤色発光酵素とイミダゾールを含む発光甲虫由来赤色発光酵素の安定化組成物。
【請求項10】
溶液の形態であり、発光甲虫由来赤色発光酵素1U当たり、イミダゾールが220〜360mM配合してなる請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
発光甲虫由来赤色発光酵素溶液にイミダゾールを配合することを特徴とする発光甲虫由来赤色発光酵素の安定化方法。
【請求項12】
発光甲虫由来赤色発光酵素溶液にグリセロールを配合することを特徴とする発光甲虫由来赤色発光酵素の安定化方法。
【請求項13】
発光甲虫由来赤色発光酵素とグリセロールを含む発光甲虫由来赤色発光酵素の安定化組成物。
【請求項14】
溶液の形態であり、発光甲虫由来赤色発光酵素1mg/ml当たり、グリセロールを80〜120mg配合してなる請求項13に記載の組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−55082(P2006−55082A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240804(P2004−240804)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】