説明

発光素子および照明装置

【課題】電力効率を向上させ、かつ、電球色のような自然な光色を有する発光素子を提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも3つの発光ユニットを積層した発光素子であって、発光素子の発光スペクトルは2つのピークを有しており、その2つのピークのうち1つのピークは2つの発光ユニットからの発光スペクトルを合成したものである。該ピークは黄色から橙色の波長領域にあり、かつ、該ピークの波長は560nm以上580nm未満にある。これにより、視感度の高い波長領域を利用することができ、電力効率を高めることができる。発光素子から発光される光の色は、色度図における黒体軌跡に近くなり、電球色のような自然な光の色を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エレクトロルミネッセンスを利用した発光素子に関する。また、発光素子を用いた発光装置または照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス(Electroluminescence)を利用した発光素子に関する研究開発が盛んに行われている。エレクトロルミネッセンスを利用した発光素子の基本的な構成は、一対の電極間に発光性の物質を含む層(以下、発光層という)を挟んだものである。発光素子の電極間に電圧を印加することにより、発光性の物質から発光を得ることができる。
【0003】
エレクトロルミネッセンスを利用した発光素子のなかで、特に、発光性の物質が有機化合物であるものは、薄膜を積層して発光素子を形成することが可能である。そのため、薄型軽量に作製でき、大面積化も容易であることから、面光源としての応用が期待されている。また、当該発光素子は、白熱電球や蛍光灯をしのぐ発光効率が期待されるため、照明器具に好適であるとして注目されている。
【0004】
上記発光素子は、発光性の物質の種類によって様々な発光色を提供することができる。特に、照明への応用を考えた場合、白色発光またはそれに近い色の発光が高効率で得られる発光素子が求められている。
【0005】
白色発光が得られる発光素子として、例えば、赤、緑、青の各波長領域にピークを有する複数の発光ユニットを積層した白色発光素子が提案されている(例えば、特許文献1)。また、補色の関係にある各波長領域(例えば、青と黄)にピークを有する2つの発光ユニットを積層した白色発光素子が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−518400号公報
【特許文献2】特開2006−12793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記赤、緑、青の各波長領域にピークを有する複数の発光ユニットを積層したものは、視感度の低い赤色と青色の波長領域を使うことで白色発光を実現している。
【0008】
また、上記補色の関係にある各波長領域(例えば、青と黄)にピークを有する2つの発光ユニットを積層したものは、視感度の低い色(例えば青色)の割合を多くすることで白色発光を実現している。
【0009】
このように、これまで提案されている白色発光を実現する発光素子は、白色発光を得ることを優先していたため、視感度の低い波長領域の光をある程度の割合で使わざるをえなかった。したがって、電力効率の向上には限界があった。電力効率[lm/W]の単位に含まれる光束[lm]は、視感度を考慮した物理量であるためである。
【0010】
そこで、電力効率を向上させることを最優先の課題とし、色味は白色でなくても電球色や温白色のような自然な光色を有する発光素子を提供することを課題の一とする。また、該発光素子を光源として有する照明装置を提供することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、少なくとも3つの発光ユニットを積層した発光素子に係るものである。発光ユニットはそれぞれ1つの発光色を呈する発光層を有している。少なくとも3つの発光ユニットを積層した発光素子の発光スペクトルは、2つのピークを有している。2つのピークのうち1つのピークは2つの発光ユニットからの発光スペクトルを合成したものである。該ピークは黄色から橙色の波長領域にあり、かつ、該ピークの波長は560nm以上580nm未満にある。2つのピークのうち他の1つのピークは青色の波長領域(400nm以上480nm未満)にある。
【0012】
上記において、少なくとも3つの発光ユニットのうち2つの発光ユニットは、それぞれ、発光スペクトルを合成する前の発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある発光性の物質を有する発光層を有している。この2つの発光ユニットからの発光スペクトルのピークの波長は、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。2つの発光ユニットがそれぞれ有する発光層が有する発光性の物質が同じ物質であれば、2つの発光ユニットからの発光スペクトルのピークの波長を同じにすることができる。2つの発光ユニットがそれぞれ有する発光層が有する発光性の物質が異なる物質であれば、2つの発光ユニットからの発光スペクトルのピークの波長を異なるものとすることができる。いずれにせよ、2つの発光ユニットからの発光スペクトルが合成されることにより、1つのピークを有する発光スペクトルになり、そのピークが黄色から橙色の波長領域にあり、かつ、該ピークの波長が560nm以上580nm未満にあるものであればよい。
【0013】
上記において、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある発光性の物質として、燐光を発する燐光性の有機化合物(燐光性化合物ともいう)を用いることが好ましい。燐光性化合物を用いることにより、蛍光性化合物を用いた場合と比べて電力効率を3〜4倍高めることができる。また、黄色や橙色の燐光性化合物を用いた素子は、青色の燐光性化合物を用いた素子に比べ、長寿命が得やすい。有機化合物では、燐光とは、電子スピン多重度の異なる電子状態間の遷移に基づく発光をいう。一般に有機化合物の基底状態は一重項状態である。燐光は、最低励起三重項状態から基底一重項状態への遷移に基づく発光である。
【0014】
一方、少なくとも3つの発光ユニットのうち他の1つの発光ユニットは、発光スペクトルのピークが青色の波長領域にある発光性の物質を有する発光層を有している。
【0015】
上記において、発光スペクトルのピークが青色の波長領域(400nm以上480nm未満)にある発光性の物質として、蛍光を発する蛍光性の有機化合物(蛍光性化合物ともいう)を用いることが好ましい。青色の発光性の物質として蛍光性化合物を用いることにより、青色の発光性の物質として燐光性化合物を用いた場合と比べて長寿命の発光素子を得ることができる。有機化合物では、蛍光とは、同じスピン多重度をもつ電子状態間の電子遷移による発光をいう。一般に有機化合物の基底状態は一重項状態であり、最低励起一重項状態から基底状態への遷移によって蛍光が観測される。
【0016】
発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にあるものを用いることにより、視感度の高い波長領域を利用することができ、電力効率を高めることができる。少なくとも3つの発光ユニットのうち2つの発光ユニットにおいて、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある発光性の物質を有する発光層を用いることにより、発光素子全体の電力効率を高めることができる。すなわち、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある視感度の高い波長領域を利用した発光ユニットを複数積層して用いることにより、発光素子全体の電力効率を高めることができる。このような構成は、例えば緑色の発光ユニットと赤色の発光ユニットを積層して黄色から橙色を得るような場合に比べ、視感度の観点で有利であり、電力効率を高められる。また、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある視感度の高い波長領域を利用した発光ユニットが1段のみの場合に比べ、視感度の低い青色の波長領域の発光強度が相対的に小さくなるため、発光色は電球色(あるいは温白色)に近づき、かつ電力効率は高くなる。
【0017】
つまり、上記において、黄色から橙色の波長領域にピークを有し、かつ、ピークの波長が560nm以上580nm未満にある光と、青色の波長領域にピークを有する光と、を合成した光の色(つまり、発光素子から発光される光の色)は、白色ではないが、温白色や電球色のような自然な光の色を実現することができる。特に電球色を実現しやすい。
【0018】
すなわち、発光素子から発光される光の色は、色度図における黒体放射の軌跡(黒体軌跡ともいう)付近になり、その色温度は3000K〜3500K近傍となる。具体的には、発光素子の発光スペクトルの色は、色度図における黒体軌跡から±0.02uvの範囲内にあり、その色温度は2600K以上3700K以下となる。色度図における黒体軌跡付近に位置する色は、太陽光の自然な色味に近い、自然な光の色であることを表している。色温度が3000K近傍(2600K以上3150K以下)の色は、電球色である。また、色温度が3500K近傍(3200K以上3700K以下)の色は、温白色である。
【0019】
ここで、少なくとも3つの発光ユニットのうち2つの発光ユニットに、上述したような黄色から橙色の波長領域に発光ピークを有する燐光性化合物を用い、かつ、他の1つの発光ユニットに、上述したような青色の波長領域に発光ピークを有する蛍光性化合物を用いた場合、以下のような効果が得られることを本発明者らは見出した。
【0020】
まず、視感度の高い黄色から橙色の発光ユニットを2つ用いている上に、それらの発光ユニットの発光物質が燐光性化合物であるため、電力効率が最大限に高まる。さらに、この2つのユニットに対し、青色の蛍光性化合物を用いた発光ユニットを1つだけ加えることにより、最大限の電力効率を維持しつつ、色温度がちょうど電球色や温白色の規格(黒体軌跡から±0.02uvの範囲内)に収まることを本発明者らは見出した。しかも、このようにして得られた少なくとも3つの発光ユニットを有する発光素子は、上述したとおり長寿命の発光ユニット同士を積層できるため、長寿命を達成できるというメリットもある。
【0021】
このような構成により、有機エレクトロルミネッセンス素子における電力効率および寿命は、電球色や温白色の色合いにおいて最も高められることを本発明者らは見出した。一方で、無機のLEDを用いた照明は一般に、青色のLEDに他の発光色の蛍光体を組み合わせて形成するため、昼白色(〜5000K)のように高い色温度においては高い電力効率を達成できるが、電球色のように低い色温度においては、蛍光体の色変換効率の問題で電力効率が低くなってしまう。すなわち、本発明の一態様の発光素子を用いた照明は、LEDを用いた照明とは逆の性質を有していることになり、照明として特徴的である。
【0022】
なお上記において、発光素子は、陽極と、陰極と、を有し、陽極と陰極との間に、第1の発光層と、第2の発光層と、第3の発光層と、第1の中間層と、第2の中間層と、を有している。第1の中間層は、第1の発光層と第2の発光層との間に設けられている。第2の中間層は、第2の発光層と第3の発光層との間に設けられている。陽極または陰極の一方と、第1の発光層と、第1の中間層とで、第1の発光ユニットが構成される。第1の中間層と、第2の発光層と、第2の中間層とで、第2の発光ユニットが構成される。第2の中間層と、第3の発光層と、陽極または陰極の他方とで、第3の発光ユニットが構成される。
【0023】
上記において、第1乃至第3の発光層のいずれか2つの発光層からの発光スペクトルは、黄色から橙色の波長領域にピークを有している。2つの発光層からの発光スペクトルを合成した発光スペクトルは1つのピークを有し、該ピークの波長は560nm以上580nm未満にある。
【0024】
上記において、第1乃至第3の発光層の他の1つの発光層からの発光スペクトルは、青色の波長領域にピークを有している。
【0025】
上記において、第1の中間層として、第1の発光層および第2の発光層の一方に電子を注入し、第1の発光層および第2の発光層の他方に正孔を注入する機能を有する材料を用いることができる。例えば、第1の中間層として、第1の発光層および第2の発光層の一方に電子を注入する層と、第1の発光層および第2の発光層の他方に正孔を注入する層とを積層した積層膜を用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある視感度の高い波長領域を利用した発光ユニットを複数積層して用いることにより、発光素子全体の電力効率を向上させることができる。そのうえ、発光素子から発光される光の色は、色度図における黒体軌跡付近になり、電球色や温白色のような自然な光の色を実現することができる。したがって、電力効率を向上させ、かつ、電球色や温白色のような自然な光色を有する発光素子を提供することができる。
【0027】
上記発光素子は、電球色や温白色のような自然な光色を有するので、屋内用の照明装置、または屋外用の照明装置の光源として用いることができる。上記発光素子を用いることにより、電力効率が高く、省電力な照明装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】発光素子の例を示す図。
【図2】発光素子の発光スペクトルの例を示す図。
【図3】標準比視感度曲線を示す図。
【図4】色度図における発光素子の発光スペクトルの色座標と黒体軌跡を示す図。
【図5】色度図における発光素子の発光スペクトルの色座標と黒体軌跡を示す図。
【図6】発光素子の例を示す図。
【図7】比較素子の例を示す図。
【図8】比較素子の例を示す図。
【図9】発光素子、比較素子の電気特性の例を示す図。
【図10】発光素子、比較素子の電気特性の例を示す図。
【図11】発光素子、比較素子の電気特性の例を示す図。
【図12】色度図における発光素子、比較素子の発光スペクトルの色座標と黒体軌跡を示す図。
【図13】発光素子、比較素子の発光スペクトルの例を示す図。
【図14】発光素子の電気特性の例を示す図。
【図15】発光素子の電気特性の例を示す図。
【図16】発光素子の電気特性の例を示す図。
【図17】色度図における発光素子の発光スペクトルの色座標と黒体軌跡を示す図。
【図18】発光素子の発光スペクトルの例を示す図。
【図19】発光素子の電気特性の例を示す図。
【図20】発光素子の電気特性の例を示す図。
【図21】発光素子の電気特性の例を示す図。
【図22】色度図における発光素子の発光スペクトルの色座標と黒体軌跡を示す図。
【図23】発光素子の発光スペクトルの例を示す図。
【図24】発光素子の例を示す図。
【図25】発光素子の電気特性の例を示す図。
【図26】発光素子の電気特性の例を示す図。
【図27】発光素子の電気特性の例を示す図。
【図28】色度図における発光素子の発光スペクトルの色座標と黒体軌跡を示す図。
【図29】発光素子の発光スペクトルの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施の形態1)
本実施の形態では、発光素子の構成の一例について、図1、図2、図3、図4、図5を用いて説明する。
【0030】
図1に示す発光素子360は、基板300上に設けられ、陽極301と、陰極302と、を有し、陽極301と陰極302との間に、第1の発光層311と、第2の発光層312と、第3の発光層313と、第1の中間層321と、第2の中間層322と、を有している。第1の中間層321は、第1の発光層311と第2の発光層312との間に設けられている。第2の中間層322は、第2の発光層312と第3の発光層313との間に設けられている。陰極302と、第1の発光層311と、第1の中間層321とで、第1の発光ユニット310が構成される。第1の中間層321と、第2の発光層312と、第2の中間層322とで、第2の発光ユニット320が構成される。第2の中間層322と、第3の発光層313と、陽極301とで、第3の発光ユニット330が構成される。第1の発光ユニット310と、第2の発光ユニット320と、第3の発光ユニット330とは直列に接続されている。このように、図1に示す発光素子は、第1の発光ユニット310と、第2の発光ユニット320と、第3の発光ユニット330とが積層された構造を有している。そのため、このような構造を有する発光素子を積層型の発光素子という。図1において、陽極301は透光性を有する電極であり、陰極302は光反射性を有する電極である。
【0031】
図1に示す少なくとも3つの発光ユニットを積層した発光素子360の発光スペクトルの例を図2に示す。図2に示すように、発光素子360の発光スペクトルは2つのピークを有している。2つのピークのうち1つのピークが示す発光スペクトル304は第1の発光ユニット310と、第2の発光ユニット320からの発光スペクトルを合成したものである。第1の発光ユニット310と、第2の発光ユニット320を合成した発光スペクトル304は、黄色から橙色の波長領域にピークを有している。第1の発光ユニット310と、第2の発光ユニット320からの発光スペクトルを合成した発光スペクトル304は1つのピークを有し、該ピークの波長は560nm以上580nm未満にある。
【0032】
図2に示す発光素子360の発光スペクトルが有する2つのピークのうち他の1つのピークが示す発光スペクトル305は第3の発光ユニットからの発光スペクトルである。第3の発光ユニットの発光スペクトル305は、青色の波長領域(400nm以上480nm未満)にピークを有している。
【0033】
第1の発光ユニット310と、第2の発光ユニット320は、それぞれ、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある発光性の物質を有する発光層を有している。この2つの発光ユニットからの発光スペクトルのピークの波長は、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。2つの発光ユニットがそれぞれ有する発光層が同じ発光性の物質で構成されていれば、2つの発光ユニットからの発光スペクトルのピークを同じ波長とすることができる。2つの発光ユニットがそれぞれ有する発光層が異なる発光性の物質で構成されていれば、2つの発光ユニットからの発光スペクトルのピークを異なる波長とすることができる。いずれにせよ、2つの発光ユニットからの発光スペクトルが合成されることにより、1つのピークを有する発光スペクトルになり、そのピークが黄色から橙色の波長領域にあり、かつ、該ピークの波長が560nm以上580nm未満にあるものであればよい。
【0034】
上記において、2つの発光スペクトルのピークが異なる波長であっても、ピークの波長の差が小さければ(差が20nm以下であれば)、それら2つのピークを有する発光スペクトルを合成したものは分離が困難となり、1つのピークを有するものとみなすことができる。
【0035】
図3に標準比視感度曲線を示す。視感度とはヒトの目が最も強く感じる波長555nmの光を1として、他の波長の明るさを感じる度合いを、比を用いて表したものである。図3の標準比視感度曲線に示されるように、黄色から橙色(黄色よりやや長波長側の色)の波長領域は視感度が高いことがわかる。すなわち、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある光を使うことにより、視感度の高い波長領域を利用することができ、電力効率を高めることができる。すなわち、本発明の一態様の構成は、例えば緑色の発光ユニットと赤色の発光ユニットを積層して黄色や橙色を得るような場合に比べ、視感度の観点で有利であり、電力効率を高められる。
【0036】
図1に示す発光素子360は、少なくとも3つの発光ユニットのうち2つの発光ユニット(第1の発光ユニット310、第2の発光ユニット320)において、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある発光性の物質を有する発光層を用いている。黄色から橙色の波長領域は、視感度の高い波長領域である。したがって、視感度の高い波長領域を利用した発光ユニットを2段積層して用いることにより、発光素子全体の電力効率を向上させることができる。この発光素子は、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある視感度の高い波長領域を利用した発光ユニットが1段のみの場合に比べると、視感度の低い青色の波長領域の発光強度(第3の発光ユニット330の発光強度)が相対的に小さくなるため、発光色は電球色(あるいは温白色)に近づき、かつ電力効率は高くなる。
【0037】
図4にCIE色度図を示す。図4に示すCIE色度図は、図1および図2に示す発光素子360の発光スペクトルが有する発光スペクトル304および発光スペクトル305の色座標をプロットした例である。図4に四角で示すプロット1304は発光スペクトル304の光の色を色座標で表している。図4に丸で示すプロット1305は発光スペクトル305の光の色を色座標で表している。また、図4に示すCIE色度図には、黒体放射の軌跡(黒体軌跡ともいう)370を示している。
【0038】
発光素子360から発光される色は、図4のCIE色度図においてプロット1304とプロット1305とを結んだ線(図4に示す点線)上付近の色座標で表される色になる。この線上付近のどの色座標になるかは、概ね、図1および図2に示される発光スペクトル304と、発光スペクトル305の強度比によって決められる。
【0039】
図4に示されるように、プロット1304とプロット1305とを結んだ線(図4に示す点線)は黒体軌跡370と交わる部分を有し、広範囲にわたって黒体軌跡付近に位置することがわかる。例えば、発光スペクトル304と発光スペクトル305との強度比が8対1から6対1の範囲であっても、発光素子360から発光される色を太陽光の自然な色味に近い色とすることが可能である。
【0040】
図5にCIE色度図を示す。図5に示すCIE色度図は、図1および図2に示す発光素子360の発光スペクトルの色座標をプロットした例である。図5に菱形で示すプロットは発光素子360の発光スペクトルの光の色を色座標で表している。また、図5に示すCIE色度図には、黒体軌跡370を示している。また、図5に示すCIE色度図には、黒体軌跡370から±0.02uvの範囲内の領域380を示している。
【0041】
図5に示されるように、発光素子360の発光スペクトルの色(色座標)は、CIE色度図における黒体軌跡から±0.02uvの範囲内の領域380にあることがわかる。図5に示されるように、発光素子360の発光スペクトルの色(色座標)は、黒体軌跡付近に位置し、太陽光の自然な色味に近い、自然な光の色を有していることがわかる。また、その色温度は3000K近傍であり、電球色を示している。
【0042】
図1に示す第1の発光ユニット310が有する第1の発光層311、および第2の発光ユニット320が有する第2の発光層312は、それぞれ黄色から橙色の波長領域にピークを有する発光性の物質を有している。例えば、黄色から橙色の波長領域にピークを有する発光性の物質として、ピラジン誘導体を配位子とする有機金属錯体を用いることができる。また、発光性の物質(ゲスト材料)を他の物質(ホスト材料)に分散させることにより、発光層を構成することもできる。上記黄色から橙色の波長領域にピークを有する発光性の物質として、燐光性化合物を用いることができる。燐光性化合物を用いることにより、蛍光性化合物を用いた場合と比べて電力効率を3〜4倍高めることができる。上述したピラジン誘導体を配位子とする有機金属錯体は燐光性化合物であり、発光効率が高い上に、黄色から橙色の波長領域の発光を得やすく、本発明に好適である。
【0043】
図1に示す第3の発光層313は、青色の波長領域にピークを有する発光性の物質を有している。例えば、青色の波長領域にピークを有する発光性の物質として、ピレンジアミン誘導体を用いることができる。上記青色の波長領域にピークを有する発光性の物質として、蛍光性化合物を用いることができる。青色の発光性の物質として蛍光性化合物を用いることにより、青色の発光性の物質として燐光性化合物を用いた場合と比べて長寿命の発光素子を得ることができる。上述したピレンジアミン誘導体は蛍光性化合物であり、極めて高い量子収率が得られる上に、長寿命である。
【0044】
図4で説明したとおり、黄色から橙色の波長領域にピークを有する発光スペクトル304と、青色の波長領域にピークを有する発光スペクトル305との強度比が8対1から6対1の範囲であっても、発光素子360から発光される色を太陽光の自然な色味に近い色とすることが可能である。
【0045】
ここで、黄色から橙色の発光ユニット2つを燐光性化合物で構成し、青色の発光ユニット1つを蛍光性化合物で構成し、これら3つの発光ユニットを積層する場合を考える。この場合、黄色から橙色の発光スペクトル304と、青色の発光スペクトル305との強度比は、概ね8対1から6対1の範囲となる。したがって、黄色から橙色の発光ユニット2つを燐光性化合物で構成し、青色の発光ユニット1つを蛍光性化合物で構成し、これら3つの発光ユニットを積層した発光素子において、発光素子から発光される色を太陽光の自然な色味に近い色とすることが可能となる。しかも、視感度の高い黄色から橙色の発光ユニットを2つ用いている上に、それらの発光ユニットの発光物質が燐光性化合物であるため、電力効率が最大限に高まる。さらには、このようにして得られた少なくとも3つの発光ユニットを有する発光素子は、上述したとおり長寿命の発光ユニット同士を積層できるため、長寿命を達成できるというメリットもある。
【0046】
このような構成により、有機エレクトロルミネッセンス素子における電力効率および寿命は、電球色や温白色の色合いにおいて最も高められる。一方で、無機のLEDを用いた照明は一般に、青色のLEDに他の発光色の蛍光体を組み合わせて形成するため、昼白色(〜5000K)のように高い色温度においては高い電力効率を達成できるが、電球色のように低い色温度においては、蛍光体の色変換効率の問題で電力効率が低くなってしまう。すなわち、本発明の一態様の発光素子を用いた照明は、LEDを用いた照明とは逆の性質を有していることになり、照明として特徴的である。
【0047】
なお、第1の発光ユニット310と、第2の発光ユニット320とは逆の積層順であってもよい。また、第1の発光ユニット310と、第2の発光ユニット320と、第3の発光ユニット330との積層順は、図1に示す積層順と逆の積層順であってもよい。
【0048】
本実施の形態によれば、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある視感度の高い波長領域を利用した発光ユニットを複数積層して用いることにより、発光素子全体の電力効率を向上させることができる。そのうえ、発光素子から発光される光の色は、色度図における黒体軌跡付近になり、電球色のような自然な光の色を実現することができる。したがって、電力効率を向上させ、かつ、電球色のような自然な光色を有する発光素子を提供することができる。
【0049】
本実施の形態によれば、黄色から橙色の発光ユニット2つを燐光性化合物で構成し、青色の発光ユニット1つを蛍光性化合物で構成し、これら少なくとも3つの発光ユニットを積層した発光素子を採用した場合でも、発光素子から発光される色を太陽光の自然な色味に近い色とすることが可能となる。したがって、電力効率が高く、長寿命であり、かつ、自然な光色を有する発光素子を提供することができる。
【0050】
本実施の形態に示した発光素子は、自然な光色を有するので、屋内用の照明装置、または屋外用の照明装置の光源として用いることができる。本実施の形態に示した発光素子を用いることにより、電力効率が高く、省電力な照明装置を提供することができる。
【0051】
本実施の形態は、他の実施の形態、実施例と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0052】
(実施の形態2)
本実施の形態では、発光素子の構成の一例について、図1を用いて説明する。本実施の形態では、実施の形態1で示した図1に示す発光素子360の具体的な構成について説明する。
【0053】
実施の形態1でも説明したとおり、図1に示す発光素子360は、基板300上に設けられ、陽極301と、陰極302と、を有し、陽極301と陰極302との間に、第1の発光層311と、第2の発光層312と、第3の発光層313と、第1の中間層321と、第2の中間層322と、を有している。第1の中間層321は、第1の発光層311と第2の発光層312との間に設けられている。第2の中間層322は、第2の発光層312と第3の発光層313との間に設けられている。陰極302と、第1の発光層311と、第1の中間層321とで、第1の発光ユニット310が構成される。第1の中間層321と、第2の発光層312と、第2の中間層322とで、第2の発光ユニット320が構成される。第2の中間層322と、第3の発光層313と、陽極301とで、第3の発光ユニット330が構成される。第1の発光ユニット310と、第2の発光ユニット320と、第3の発光ユニット330とは直列に接続されている。このように、図1に示す発光素子は、第1の発光ユニット310と、第2の発光ユニット320と、第3の発光ユニット330とが積層された構造を有している。そのため、このような構造を有する発光素子を積層型の発光素子という。図1において、陽極301は透光性を有する電極であり、陰極302は光反射性を有する電極である。
【0054】
第1の発光ユニット310が有する第1の発光層311、および第2の発光ユニット320が有する第2の発光層312は、黄色から橙色の波長領域にピークを有する発光性の物質を有している。黄色から橙色の波長領域にピークを有する発光性の物質として、ルブレン、(2−{2−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル}−6−メチル−4H−ピラン−4−イリデン)プロパンジニトリル(略称:DCM1)、2−{2−メチル−6−[2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H−ベンゾ[ij]キノリジン−9−イル)エテニル]−4H−ピラン−4−イリデン}プロパンジニトリル(略称:DCM2)、ビス[2−(2−チエニル)ピリジナト]イリジウムアセチルアセトナート(Ir(thp)(acac))、ビス(2−フェニルキノリナト)イリジウムアセチルアセトナート(Ir(pq)(acac))、トリス(2−フェニルキノリナト−N,C2’)イリジウム(III)(略称:Ir(pq))、ビス(2−フェニルベンゾチアゾラト−N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(bt)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス[2,3−ビス(4−フルオロフェニル)−5−メチルピラジナト]イリジウム(III)(略称:Ir(Fdppr−Me)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス{2−(4−メトキシフェニル)−3,5−ジメチルピラジナト}イリジウム(III)(略称:Ir(dmmoppr)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス(3,5−ジメチル−2−フェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(mppr−Me)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス(5−イソプロピル−3−メチル−2−フェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(mppr−iPr)(acac))などを用いることができる。また、黄色から橙色の波長領域にピークを有する発光性の物質としては、上述したとおり、Ir(thp)(acac)、Ir(pq)(acac)、Ir(pq)、Ir(bt)(acac)、Ir(Fdppr−Me)(acac)、Ir(dmmoppr)(acac)、Ir(mppr−Me)(acac)、Ir(mppr−iPr)(acac)のような燐光性化合物が好ましい。中でも特に、Ir(Fdppr−Me)(acac)、Ir(dmmoppr)(acac)、Ir(mppr−Me)(acac)、Ir(mppr−iPr)(acac)のようなピラジン誘導体を配位子とする有機金属錯体が、高効率であるため好ましい。また、これらの発光性の物質(ゲスト材料)を他の物質(ホスト材料)に分散させることにより、発光層を構成しても良い。この場合のホスト材料としては、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)や4−(9H−カルバゾール−9−イル)−4’−(10−フェニル−9−アントリル)トリフェニルアミン(略称:YGAPA)などの芳香族アミン化合物や、2−[4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]−3−フェニルキノキサリン(略称:Cz1PQ)、2−[4−(3,6−ジフェニル−9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]−3−フェニルキノキサリン(略称:Cz1PQ−III)、2−[4−(3,6−ジフェニル−9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2CzPDBq−III)、2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq−II)のような複素環化合物が好適である。また、ポリ(2,5−ジアルコキシ−1,4−フェニレンビニレン)等のポリマーを用いても良い。
【0055】
第3の発光層313は、青色の波長領域にピークを有する発光性の物質を有している。青色の波長領域にピークを有する発光性の物質として、ペリレン、2,5,8,11−テトラ(tert−ブチル)ペリレン(略称:TBP)などを用いることができる。また、4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(略称:DPVBi)などのスチリルアリーレン誘導体や、9,10−ジフェニルアントラセン、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(略称:DNA)、9,10−ビス(2−ナフチル)−2−tert−ブチルアントラセン(略称:t−BuDNA)などのアントラセン誘導体を用いることができる。また、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)等のポリマーを用いることができる。また、N,N’−ビス[4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]−N,N’−ジフェニルスチルベン−4,4’−ジアミン(略称:YGA2S)や、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)スチルベン−4,4’−ジアミン(略称:PCA2S)などのスチリルアミン誘導体を用いることができる。また、N,N’−ビス〔4−(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)フェニル〕−N,N’−ジフェニルピレン−1,6−ジアミン(略称:1,6−FLPAPrn)、N,N’−ビス〔4−(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)フェニル〕−N,N’−ビス(4−tert−ブチルフェニル)ピレン−1,6−ジアミン(1,6tBu−FLPAPrn)のようなピレンジアミン誘導体を用いることができる。また、青色の波長領域にピークを有する発光性の物質としては、上述したとおり蛍光性化合物を用いることが好ましく、特に1,6−FLPAPrn、1,6tBu−FLPAPrnのようなピレンジアミン誘導体は、460nm付近にピークを有している上に、極めて高い量子収率が得られ、長寿命であるため好ましい。また、これらの発光性の物質(ゲスト材料)を他の物質(ホスト材料)に分散させることにより、発光層を構成しても良い。この場合のホスト材料としては、アントラセン誘導体が好ましく、9,10−ビス(2−ナフチル)−2−tert−ブチルアントラセン(略称:t−BuDNA)、9−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:CzPA)、9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:PCzPA)などが好適である。特に、CzPAやPCzPAは電気化学的に安定であるため好ましい。
【0056】
なお、上記した発光性の物質の発光色は、ホスト材料や素子構成により、多少変化する場合がある。
【0057】
なお、第1の発光ユニット310と、第2の発光ユニット320とは逆の積層順であってもよい。また、第1の発光ユニット310と、第2の発光ユニット320と、第3の発光ユニット330との積層順は、図1に示す積層順と逆の積層順であってもよい。
【0058】
図1において、基板300は、発光素子の支持体として用いられる。基板300としては、例えばガラス、またはプラスチックなどを用いることができる。なお、発光素子の作製工程において支持体として機能するものであれば、これら以外のものでもよい。
【0059】
陽極301および陰極302には、様々な金属、合金、その他の導電性材料、およびこれらの混合物などを用いることができる。例えば、仕事関数の大きい材料である、酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide)、珪素または酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO:Indium Zinc Oxide)、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム(IWZO)等の導電性を有する金属酸化物膜を用いることができる。これらの金属酸化物膜は、スパッタリング法により形成することができる。または、ゾル−ゲル法などを用いて形成することができる。例えば、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO)は、酸化インジウムに対し1〜20wt%の酸化亜鉛を加えたターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。また、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム(IWZO)は、酸化インジウムに対し酸化タングステンを0.5〜5wt%、酸化亜鉛を0.1〜1wt%含有したターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。この他、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、または金属材料の窒化物(例えば、窒化チタン)等を用いることができる。また、仕事関数の小さい材料である、元素周期表の第1族または第2族に属する元素、すなわちリチウム(Li)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属、またはこれらを含む合金(マグネシウムと銀の合金、アルミニウムとリチウムの合金)を用いることができる。また、ユーロピウム(Eu)、イッテルビウム(Yb)等の希土類金属、またはこれらを含む合金等を用いることができる。また、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、アルミニウムを含む合金(AlSi)等を用いることができる。アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはこれらを含む合金の膜は、真空蒸着法を用いて形成することができる。また、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む合金の膜はスパッタリング法により形成することも可能である。また、これらの電極は、単層膜に限らず、積層膜で形成することもできる。
【0060】
なお、キャリアの注入障壁を考慮すると、陽極としては、仕事関数の大きい材料を用いることが好ましい。また、陰極としては、仕事関数の小さい材料を用いることが好ましい。
【0061】
第1の中間層321は、第1の発光ユニット310において正孔を注入する機能を有し、第2の発光ユニット320において電子を注入する機能を有する。第2の中間層322は、第2の発光ユニット320において正孔を注入する機能を有し、第3の発光ユニット330において電子を注入する機能を有する。したがって、第1の中間層321および第2の中間層322は、少なくとも正孔を注入する機能を有する層と電子を注入する機能を有する層とを積層した積層膜を用いることができる。
【0062】
また、第1の中間層321および第2の中間層322は、発光素子の内部に位置する層であるため、光の取り出し効率の点から、透光性を有する材料を用いることが好ましい。また、第1の中間層321および第2の中間層322のうちの一部は、陽極および陰極に用いる材料と同じ材料を用いて形成することが可能である。または、第1の中間層321および第2の中間層322は、陽極および陰極よりも導電率の低い材料を用いて形成することが可能である。
【0063】
第1の中間層321および第2の中間層322のうち電子を注入する機能を有する層として、例えば、酸化リチウム、フッ化リチウム、炭酸セシウム等の絶縁体や半導体を用いることができる。または、電子輸送性の高い物質に、ドナー性物質を添加した材料を用いることもできる。
【0064】
電子輸送性の高い物質としては、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Alq)、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(略称:BeBq)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム(略称:BAlq)などのキノリン骨格またはベンゾキノリン骨格を有する金属錯体等を用いることができる。また、この他に、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンズオキサゾラト]亜鉛(略称:Zn(BOX))、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(略称:Zn(BTZ))などのオキサゾール系、チアゾール系配位子を有する金属錯体なども用いることができる。また、金属錯体以外にも、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)なども用いることができる。ここに挙げた物質は、主に10−6cm/Vs以上の電子移動度を有する物質である。なお、正孔よりも電子の輸送性の高い物質であれば、上記以外の物質を用いることも可能である。
【0065】
電子輸送性の高い物質に、ドナー性物質を添加することにより、電子注入性を高くすることができる。そのため、発光素子の駆動電圧を低減することができる。ドナー性物質としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属または希土類金属または元素周期表における第13族に属する金属またはその酸化物またはその炭酸塩を用いることができる。具体的には、リチウム(Li)、セシウム(Cs)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、イッテルビウム(Yb)、インジウム(In)、酸化リチウム、炭酸セシウムなどを用いることが好ましい。また、テトラチアナフタセンのような有機化合物をドナー性物質として用いてもよい。
【0066】
また、第1の中間層321および第2の中間層322のうち正孔を注入する機能を有する層として、例えば、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化レニウム、酸化ルテニウム等の半導体や絶縁体を用いることができる。あるいは、正孔輸送性の高い物質に、アクセプター性物質を添加した材料を用いることができる。また、アクセプター性物質からなる層を用いても良い。
【0067】
正孔輸送性の高い物質としては、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPBまたはα−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(略称:TPD)、4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’−ビス[N−(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)−N―フェニルアミノ]−1,1’−ビフェニル(略称:BSPB)などの芳香族アミン化合物等を用いることができる。ここに挙げた物質は、主に10−6cm/Vs以上の正孔移動度を有する物質である。但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、上記以外の物質を用いても構わない。また、上述のホスト材料を用いてもよい。
【0068】
正孔輸送性の高い物質に、アクセプター性物質を添加することにより、正孔注入性を高くすることができる。そのため、発光素子の駆動電圧を低減することができる。アクセプター性物質としては、7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロキノジメタン(略称:F−TCNQ)、クロラニル等を用いることができる。また、遷移金属酸化物を用いることができる。また元素周期表における第4族乃至第8族に属する金属の酸化物を用いることができる。具体的には、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化レニウムは電子受容性が高いため好ましい。中でも特に、酸化モリブデンは大気中でも安定であり、吸湿性が低く、扱いやすいため好ましい。
【0069】
また、正孔輸送性の高い物質にアクセプター性物質を添加した構成および電子輸送性の高い物質にドナー性物質を添加した構成のいずれか一方または両方の構成を用いることにより、第1の中間層321および第2の中間層322を厚膜化しても、駆動電圧の上昇を抑制することができる。よって、第1の中間層321および第2の中間層322を厚膜化することにより、微小な異物や衝撃等によるショートを防止することができ、信頼性の高い発光素子を得ることができる。
【0070】
なお、中間層において、正孔を注入する機能を有する層と電子を注入する機能を有する層との間に、必要に応じて他の層を導入しても良い。例えば、ITOのような導電層や電子リレー層を設けても良い。電子リレー層は、正孔を注入する機能を有する層と電子を注入する機能を有する層との間で生じる電圧のロスを低減する機能を有する。具体的には、LUMO準位がおよそ−5.0eV以上である材料を用いるのが好ましく、−5.0eV以上−3.0eV以下である材料を用いるのがより好ましい。例えば、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(略称:PTCDA)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックビスベンゾイミダゾール(略称:PTCBI)などを用いることができる。
【0071】
上記した発光素子に対し、陽極301をプラスに、陰極302をマイナスに電圧を印加すると、ある電流密度Jの電流が発光素子360に流れる。このとき、陰極302から第1の発光層311に電子が、第1の中間層321から第1の発光層311に正孔がそれぞれ注入され、再結合に至ることにより、第1の発光ユニット310からの発光が得られる。そして、第1の中間層321から第2の発光層312に電子が、第2の中間層322から第2の発光層312に正孔がそれぞれ注入され、再結合に至ることにより、第2の発光ユニット320からの発光が得られる。この第1の発光ユニット310および第2の発光ユニット320からの発光は、例えば、図2に示すように、第1の発光スペクトル304を有する。第1の発光スペクトル304は1つのピークを有する。
【0072】
そして、第2の中間層322から第3の発光層313に電子が、陽極301から第3の発光層313に正孔がそれぞれ注入され、再結合に至ることにより、第3の発光ユニット330からの発光が得られる。この第3の発光ユニット330からの発光は、図2に示すように、第2の発光スペクトル305を有する。第2の発光スペクトル305は1つのピークを有する。
【0073】
なお、等価回路上では、第1の発光ユニット310、第2の発光ユニット320および第3の発光ユニット330に共通の電流密度Jの電流が流れ、それぞれその電流密度Jに対応した輝度で発光することになる。ここでは、第1の中間層321及び第2の中間層322および陽極301に透光性の材料を用いることにより、第1の発光ユニット310からの発光、第2の発光ユニット320からの発光、第3の発光ユニット330からの発光の全てを取り出すことができる。また、陰極302に光反射性を有する材料を用いることにより、陰極302で発光を反射させ、光を取り出す面側に効率よく発光を取り出すことができる。
【0074】
図1の説明では、陰極302を光反射性の電極とした例を示したが、陰極302を透光性の電極とし、さらに陰極302の上方に光反射性の膜を形成する構造としてもよい。光反射性の電極は、電気抵抗の低い材料、例えばアルミニウム(Al)、銀(Ag)などを含む導電性材料を用いると、発光素子の低消費電力化が図れるため好ましい。
【0075】
また、図1では、基板側に陽極を設ける構成を示したが、基板側に陰極を設ける構成であってもよい。
【0076】
本実施の形態によれば、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある視感度の高い波長領域を利用した発光ユニットを複数積層して用いることにより、発光素子全体の電力効率を高めることができる。そのうえ、発光素子から発光される光の色は、色度図における黒体軌跡付近になり、電球色や温白色のような自然な光の色を実現することができる。したがって、電力効率を向上させ、かつ、電球色や温白色のような自然な光色を有する発光素子を提供することができる。
【0077】
本実施の形態によれば、黄色から橙色の発光ユニット2つを燐光性化合物で構成し、青色の発光ユニット1つを蛍光性化合物で構成し、これら少なくとも3つの発光ユニットを積層した発光素子を採用した場合でも、発光素子から発光される色を太陽光の自然な色味に近い色とすることが可能となる。したがって、電力効率が高く、長寿命であり、かつ、自然な光色を有する発光素子を提供することができる。
【0078】
本実施の形態に示した発光素子は、自然な光色(具体的には電球色や温白色)を有するので、屋内用の照明装置、または屋外用の照明装置の光源として用いることができる。本実施の形態に示した発光素子を用いることにより、電力効率が高く、省電力な照明装置を提供することができる。
【0079】
本実施の形態は、他の実施の形態、実施例と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0080】
本実施例では、本発明の一態様である発光素子について、図6、図9〜図13を用いて説明する。また、比較素子1について、図7、図9〜図13を用いて説明する。また、比較素子2について、図8、図9〜図13を用いて説明する。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。
【0081】
【化1】



【0082】
以下に、本実施例の発光素子1、比較素子1、および比較素子2の作製方法を示す。
【0083】
まず、発光素子1について説明する(図6参照)。ガラス基板500上に、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物をスパッタリング法にて成膜し、陽極501を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0084】
次に、陽極が形成された面が下方となるように、陽極501が形成された基板を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、陽極501上に、正孔輸送性の高い物質である9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:PCzPA)、と、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、有機化合物と無機化合物とを複合してなる複合材料を含む、第1の電荷発生層513aを形成した。その膜厚は110nmとし、PCzPAと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で4:2(=PCzPA:酸化モリブデン)となるように調節した。なお、共蒸着法とは、一つの処理室内で複数の蒸発源から同時に蒸着を行う蒸着法である。なお、PCzPAに酸化モリブデンを添加した上記の電荷発生層は、電荷移動錯体の形成に由来する吸収は観測されないが、電圧を印加した際には電荷発生層として機能する。また、該吸収が観測されないため、透光性に優れている。
【0085】
次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第1の電荷発生層513a上にPCzPAを10nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層513bを形成した。
【0086】
さらに、9−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:CzPA)と、N,N’−ビス〔4−(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)フェニル〕−N,N’−ジフェニルピレン−1,6−ジアミン(略称:1,6−FLPAPrn)と、を共蒸着することにより、正孔輸送層513b上に30nmの膜厚の発光層513cを形成した。ここで、CzPAと1,6−FLPAPrnとの重量比は、1:0.05(=CzPA:1,6−FLPAPrn)となるように調節した。なお、CzPAは電子輸送性を有する物質であり、ゲスト材料である1,6−FLPAPrnは青色の発光を示す蛍光性化合物である。
【0087】
その後抵抗加熱による蒸着法を用いて、発光層513c上にCzPAを膜厚5nm、次いでバソフェナントロリン(略称:BPhen)を15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層513dを形成した。これによって、第1の電荷発生層513a、正孔輸送層513b、発光層513c、及び電子輸送層513dを含む第3の発光層513を形成した。
【0088】
次いで、電子輸送層513d上に、酸化リチウム(LiO)を0.1nm蒸着することにより、電子注入バッファー522aを形成した。
【0089】
次いで、銅フタロシアニン(略称:CuPc)を蒸着することにより、電子注入バッファー522a上に、2nmの膜厚の電子リレー層522bを形成した。
【0090】
次に、電子リレー層522b上に、正孔輸送性の高い物質であるPCzPAと、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、第2の電荷発生層522cを形成した。その膜厚は30nmとし、PCzPAと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で4:2(=PCzPA:酸化モリブデン)となるように調節した。これによって、電子注入バッファー522a、電子リレー層522b、第2の電荷発生層522cを含む第2の中間層522を形成した。
【0091】
次いで、第2の発光層512を作製した。その作製方法は、まず、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第2の電荷発生層522c上に4−フェニル−4’−(9−フェニルフルオレン−9−イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)を20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層512aを形成した。
【0092】
その後、2−[4−(3,6−ジフェニル−9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]−3−フェニルキノキサリン(略称:Cz1PQ−III)と、4−フェニル−4’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBA1BP)と、(アセチルアセトナト)ビス(3,5−ジメチル−2−フェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(mppr−Me)(acac))と、を共蒸着することにより、正孔輸送層512a上に15nmの膜厚の発光層512bを形成した。ここで、Cz1PQ−IIIと、PCBA1BPと、Ir(mppr−Me)(acac)との重量比は、6:2:0.6(=Cz1PQ−III:PCBA1BP:Ir(mppr−Me)(acac))となるように調節した。なお、Ir(mppr−Me)(acac)は、橙色の発光を示す燐光性化合物である。さらに、Cz1PQ−IIIと、Ir(mppr−Me)(acac)と、を共蒸着することにより、発光層512b上に15nmの膜厚の発光層512cを形成した。ここで、Cz1PQ−IIIと、Ir(mppr−Me)(acac)との重量比は、1:0.06(=Cz1PQ−III:Ir(mppr−Me)(acac))となるように調節した。
【0093】
次いで、発光層512c上に、Cz1PQ−IIIを膜厚25nm、次いでBPhenを15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層512dを形成した。これによって、正孔輸送層512a、発光層512b、発光層512c、電子輸送層512dを含む第2の発光層512を形成した。
【0094】
次いで、電子輸送層512d上に、酸化リチウム(LiO)を0.1nm蒸着することにより、電子注入バッファー521aを形成した。
【0095】
次いで、CuPcを蒸着することにより、電子注入バッファー521a上に、2nmの膜厚の電子リレー層521bを形成した。
【0096】
次に、電子リレー層521b上に、正孔輸送性の高い物質であるPCzPAと、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、第3の電荷発生層521cを形成した。その膜厚は80nmとし、PCzPAと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で4:2(=PCzPA:酸化モリブデン)となるように調節した。これによって、電子注入バッファー521a、電子リレー層521b、第3の電荷発生層521cを含む第1の中間層521を形成した。
【0097】
次いで、第1の発光層511を作製した。その作製方法は、まず、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第3の電荷発生層521c上にBPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層511aを形成した。
【0098】
その後、Cz1PQ−IIIと、PCBA1BPと、Ir(mppr−Me)(acac)と、を共蒸着することにより、正孔輸送層511a上に15nmの膜厚の発光層511bを形成した。ここで、Cz1PQ−IIIと、PCBA1BPと、Ir(mppr−Me)(acac)との重量比は、6:2:0.6(=Cz1PQ−III:PCBA1BP:Ir(mppr−Me)(acac))となるように調節した。さらに、Cz1PQ−IIIと、Ir(mppr−Me)(acac)と、を共蒸着することにより、発光層511b上に15nmの膜厚の発光層511cを形成した。ここで、Cz1PQ−IIIと、Ir(mppr−Me)(acac)との重量比は、1:0.06(=Cz1PQ−III:Ir(mppr−Me)(acac))となるように調節した。
【0099】
次いで、発光層511c上に、Cz1PQ−IIIを膜厚25nm、次いでBPhenを15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層511dを形成した。電子輸送層511d上に、フッ化リチウム(LiF)を膜厚1nmで蒸着することにより電子注入層511eを形成した。これによって、正孔輸送層511a、発光層511b、発光層511c、電子輸送層511d、電子注入層511eを含む第1の発光層511を形成した。
【0100】
最後に、抵抗加熱による蒸着法を用い、電子注入層511e上にアルミニウムを200nmの膜厚となるように成膜することにより、陰極502を形成することで、発光素子1を作製した。
【0101】
次に、比較素子1について説明する(図7参照)。ガラス基板500上に、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物をスパッタリング法にて成膜し、陽極501を形成した。
【0102】
次に、陽極が形成された面が下方となるように、陽極501が形成された基板を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、陽極501上に、正孔輸送性の高い物質であるBPAFLP、と、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、有機化合物と無機化合物とを複合してなる複合材料を含む、第1の電荷発生層513aを形成した。その膜厚は100nmとし、BPAFLPと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で4:2(=BPAFLP:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0103】
次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第1の電荷発生層513a上にBPAFLPを10nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層513bを形成した。
【0104】
さらに、CzPAと、1,6−FLPAPrnと、を共蒸着することにより、正孔輸送層513b上に30nmの膜厚の発光層513cを形成した。ここで、CzPAと1,6−FLPAPrnとの重量比は、1:0.05(=CzPA:1,6−FLPAPrn)となるように調節した。
【0105】
その後抵抗加熱による蒸着法を用いて、発光層513c上にCzPAを膜厚5nm、次いでBPhenを15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層513dを形成した。これによって、第1の電荷発生層513a、正孔輸送層513b、発光層513c、及び電子輸送層513dを含む第3の発光層513を形成した。
【0106】
次いで、電子輸送層513d上に、酸化リチウム(LiO)を0.1nm蒸着することにより、電子注入バッファー522aを形成した。
【0107】
次いで、CuPcを蒸着することにより、電子注入バッファー522a上に、2nmの膜厚の電子リレー層522bを形成した。
【0108】
次に、電子リレー層522b上に、正孔輸送性の高い物質であるBPAFLPと、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、第2の電荷発生層522cを形成した。その膜厚は30nmとし、BPAFLPと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で4:2(=BPAFLP:酸化モリブデン)となるように調節した。これによって、電子注入バッファー522a、電子リレー層522b、第2の電荷発生層522cを含む第2の中間層522を形成した。
【0109】
次いで、第2の発光層512を作製した。その作製方法は、まず、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第2の電荷発生層522c上にBPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層512aを形成した。
【0110】
その後、Cz1PQ−IIIと、PCBA1BPと、(アセチルアセトナト)ビス[2,3−ビス(4−フルオロフェニル)−5−メチルピラジナト]イリジウム(III)(略称:Ir(Fdppr−Me)(acac))と、を共蒸着することにより、正孔輸送層512a上に15nmの膜厚の発光層512bを形成した。ここで、Cz1PQ−IIIと、PCBA1BPと、Ir(Fdppr−Me)(acac)との重量比は、6:2:0.6(=Cz1PQ−III:PCBA1BP:Ir(Fdppr−Me)(acac))となるように調節した。
【0111】
次いで、発光層512b上に、Cz1PQ−IIIを膜厚15nm、次いでBPhenを15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層512dを形成した。これによって、正孔輸送層512a、発光層512b、電子輸送層512dを含む第2の発光層512を形成した。
【0112】
次いで、電子輸送層512d上に、酸化リチウム(LiO)を0.1nm蒸着することにより、電子注入バッファー521aを形成した。
【0113】
次いで、CuPcを蒸着することにより、電子注入バッファー521a上に、2nmの膜厚の電子リレー層521bを形成した。
【0114】
次に、電子リレー層521b上に、正孔輸送性の高い物質であるBPAFLPと、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、第3の電荷発生層521cを形成した。その膜厚は120nmとし、BPAFLPと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で4:2(=BPAFLP:酸化モリブデン)となるように調節した。これによって、電子注入バッファー521a、電子リレー層521b、第3の電荷発生層521cを含む第1の中間層521を形成した。
【0115】
次いで、第1の発光層511を作製した。その作製方法は、まず、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第3の電荷発生層521c上にBPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層511aを形成した。
【0116】
その後、Cz1PQ−IIIと、PCBA1BPと、Ir(Fdppr−Me)(acac)と、を共蒸着することにより、正孔輸送層511a上に15nmの膜厚の発光層511bを形成した。ここで、Cz1PQ−IIIと、PCBA1BPと、Ir(Fdppr−Me)(acac)との重量比は、6:2:0.6(=Cz1PQ−III:PCBA1BP:Ir(Fdppr−Me)(acac))となるように調節した。
【0117】
次いで、発光層511b上に、Cz1PQ−IIIを膜厚15nm、次いでBPhenを15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層511dを形成した。電子輸送層511d上に、フッ化リチウム(LiF)を膜厚1nmで蒸着することにより電子注入層511eを形成した。これによって、正孔輸送層511a、発光層511b、電子輸送層511d、電子注入層511eを含む第1の発光層511を形成した。
【0118】
最後に、抵抗加熱による蒸着法を用い、電子注入層511e上にアルミニウムを200nmの膜厚となるように成膜することにより、陰極502を形成することで、比較素子1を作製した。
【0119】
次に、比較素子2について説明する(図8参照)。ガラス基板500上に、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物をスパッタリング法にて成膜し、陽極501を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0120】
次に、陽極が形成された面が下方となるように、陽極501が形成された基板を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、陽極501上に、正孔輸送性の高い物質であるPCzPA、と、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、有機化合物と無機化合物とを複合してなる複合材料を含む、第1の電荷発生層513aを形成した。その膜厚は50nmとし、PCzPAと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で4:2(=PCzPA:酸化モリブデン)となるように調節した。なお、共蒸着法とは、一つの処理室内で複数の蒸発源から同時に蒸着を行う蒸着法である。
【0121】
次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第1の電荷発生層513a上にPCzPAを30nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層513bを形成した。
【0122】
さらに、CzPAと、1,6−FLPAPrnと、を共蒸着することにより、正孔輸送層513b上に30nmの膜厚の発光層513cを形成した。ここで、CzPAと1,6−FLPAPrnとの重量比は、1:0.05(=CzPA:1,6−FLPAPrn)となるように調節した。なお、CzPAは電子輸送性を有する物質であり、ゲスト材料である1,6−FLPAPrnは青色の発光を示す蛍光性化合物である。
【0123】
その後抵抗加熱による蒸着法を用いて、発光層513c上にCzPAを膜厚5nm、次いでBPhenを15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層513dを形成した。これによって、第1の電荷発生層513a、正孔輸送層513b、発光層513c、及び電子輸送層513dを含む第3の発光層513を形成した。
【0124】
次いで、電子輸送層513d上に、酸化リチウム(LiO)を0.1nm蒸着することにより、電子注入バッファー522aを形成した。
【0125】
次いで、CuPcを蒸着することにより、電子注入バッファー522a上に、2nmの膜厚の電子リレー層522bを形成した。
【0126】
次に、電子リレー層522b上に、正孔輸送性の高い物質であるPCzPAと、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、第2の電荷発生層522cを形成した。その膜厚は40nmとし、PCzPAと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で4:2(=PCzPA:酸化モリブデン)となるように調節した。これによって、電子注入バッファー522a、電子リレー層522b、第2の電荷発生層522cを含む中間層522を形成した。
【0127】
次いで、第4の発光層514を作製した。その作製方法は、まず、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第2の電荷発生層522c上にBPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層514aを形成した。
【0128】
その後、Cz1PQ−IIIと、PCBA1BPと、Ir(mppr−Me)(acac)と、を共蒸着することにより、正孔輸送層514a上に15nmの膜厚の発光層514bを形成した。ここで、Cz1PQ−IIIと、PCBA1BPと、Ir(mppr−Me)(acac)との重量比は、6:2:0.6(=Cz1PQ−III:PCBA1BP:Ir(mppr−Me)(acac))となるように調節した。なお、Ir(mppr−Me)(acac)は、橙色の発光を示す燐光性化合物である。さらに、Cz1PQ−IIIと、Ir(mppr−Me)(acac)と、を共蒸着することにより、発光層514b上に15nmの膜厚の発光層514cを形成した。ここで、Cz1PQ−IIIと、Ir(mppr−Me)(acac)との重量比は、1:0.06(=Cz1PQ−III:Ir(mppr−Me)(acac))となるように調節した。
【0129】
次いで、発光層514c上に、Cz1PQ−IIIを膜厚25nm、次いでBPhenを15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層514dを形成した。電子輸送層514d上に、フッ化リチウム(LiF)を膜厚1nmで蒸着することにより電子注入層514eを形成した。これによって、正孔輸送層514a、発光層514b、発光層514c、電子輸送層514d、電子注入層514eを含む第4の発光層514を形成した。
【0130】
最後に、抵抗加熱による蒸着法を用い、電子注入層514e上にアルミニウムを200nmの膜厚となるように成膜することにより、陰極502を形成することで、比較素子2を作製した。
【0131】
以上により得られた発光素子1、比較素子1、比較素子2を窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子1、比較素子1、比較素子2がそれぞれ大気に曝されないように封止する作業を行った。その後、この発光素子1、比較素子1、比較素子2の動作特性について測定を行った。測定は、室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0132】
各素子の電圧−輝度特性を図9に、輝度−電流効率特性を図10に、輝度−電力効率特性を図11に、CIE色度を図12に、発光スペクトルを図13に、それぞれ示す。
【0133】
まず、発光素子1および比較素子1はいずれも少なくとも3つの発光ユニットを積層したものであり、視感度の低い波長領域の発光を示す発光ユニットを1段、視感度の高い波長領域の発光を示す発光ユニットを2段積層している。そのため、図11に示すとおり、発光素子1の電力効率は最大で54[lm/W]、比較素子1の電力効率は最大で65[lm/W]であり、いずれも高い電力効率を示した。
【0134】
しかしながら、図12に示すとおり、比較素子1のCIE色度は(x,y)=(0.40,0.50)であり、黒体軌跡370から大きく外れている。また、黒体軌跡370から±0.02uvの範囲内の領域380からも外れているため、照明としては適さない。一方で、発光素子1のCIE色度は(x,y)=(0.46,0.45)であり、黒体軌跡370から±0.02uvの範囲内の領域380に収まっており、照明として適していることがわかった。発光素子1の色温度は3000Kであり、良好な電球色を示した。
【0135】
この差異の要因は、図13の発光スペクトルを見るとわかる。発光素子1は、視感度の低い波長領域の発光ピークが470nm、視感度の高い波長領域の発光ピークが570nmであるのに対し、比較素子1は、視感度の低い波長領域の発光ピークが469nm、視感度の高い波長領域の発光ピークが556nmである。つまり、視感度の高い波長領域の発光ピークが適切でない。
【0136】
一方、比較素子2は2つの発光ユニットを積層したものであり、視感度の低い波長領域の発光を示す発光ユニットを1段、視感度の高い波長領域の発光を示す発光ユニットを1段積層している。比較素子2における視感度の高い波長領域の発光を示す発光ユニットは、発光素子1と同様の構成を適用しているため、図12に示すとおり、CIE色度は(x,y)=(0.40,0.41)と良好である。色温度は3600Kであり、温白色の照明として適用できる。
【0137】
しかしながら、図11に示すとおり、比較素子2の電力効率は最大で41[lm/W]であり、発光素子1よりも低い。これは、図13の発光スペクトルを見るとわかるように、比較素子2における視感度の低い波長領域の発光強度が、発光素子1に比べて強いことに起因している。すなわち、視感度の高い波長領域の発光ユニットを1段しか積層していないため、視感度の低い波長領域の発光強度が相対的に増大し、電力効率の低下を招いている。
【0138】
以上で述べたように、本発明の一態様である発光素子1は、高い電力効率と良好な電球色の双方を両立できることがわかった。
【実施例2】
【0139】
本実施例では、本発明の一態様である発光素子について、図6、図14〜図18を用いて説明する。
【0140】
本実施例の発光素子2は、第3の電荷発生層521c以外は、実施例1で示した発光素子1と同様に作製した。発光素子2においては、第3の電荷発生層521cの膜厚を90nmとなるように形成した。以上により、発光素子2を得た。
【0141】
発光素子2の電圧−輝度特性を図14に、輝度−電流効率特性を図15に、輝度−電力効率特性を図16に、CIE色度を図17に、発光スペクトルを図18に、それぞれ示す。
【0142】
図16に示すとおり、発光素子2の電力効率は最大で54[lm/W]であり、高い電力効率を示した。
【0143】
また、図17に示すとおり、発光素子2のCIE色度は(x,y)=(0.48,0.45)であり、黒体軌跡370から±0.02uvの範囲内の領域380に収まっており、照明として適していることがわかった。発光素子2の色温度は2700Kであり、良好な電球色を示した。なお図18に示すとおり、発光素子2は、視感度の低い波長領域の発光ピークが474nm、視感度の高い波長領域の発光ピークが574nmであった。
【実施例3】
【0144】
本実施例では、本発明の一態様である発光素子について、図6、図19〜図23を用いて説明する。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、実施例1にて用いた材料の化学式は省略した。
【0145】
【化2】

【0146】
以下に、本実施例の発光素子3の作製方法を示す。
【0147】
発光素子3について説明する(図6参照)。ガラス基板500上に、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物をスパッタリング法にて成膜し、陽極501を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0148】
次に、陽極が形成された面が下方となるように、陽極501が形成された基板を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、陽極501上に、正孔輸送性の高い物質であるPCzPAと、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、有機化合物と無機化合物とを複合してなる複合材料を含む、第1の電荷発生層513aを形成した。その膜厚は90nmとし、PCzPAと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で4:2(=PCzPA:酸化モリブデン)となるように調節した。なお、共蒸着法とは、一つの処理室内で複数の蒸発源から同時に蒸着を行う蒸着法である。なお、PCzPAに酸化モリブデンを添加した上記の電荷発生層は、電荷移動錯体の形成に由来する吸収は観測されないが、電圧を印加した際には電荷発生層として機能する。また、該吸収が観測されないため、透光性に優れている。
【0149】
次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第1の電荷発生層513a上にPCzPAを30nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層513bを形成した。
【0150】
さらに、CzPAと、1,6−FLPAPrnと、を共蒸着することにより、正孔輸送層513b上に30nmの膜厚の発光層513cを形成した。ここで、CzPAと1,6−FLPAPrnとの重量比は、1:0.05(=CzPA:1,6−FLPAPrn)となるように調節した。なお、CzPAは電子輸送性を有する物質であり、ゲスト材料である1,6−FLPAPrnは青色の発光を示す蛍光性化合物である。
【0151】
その後抵抗加熱による蒸着法を用いて、発光層513c上にCzPAを膜厚5nm、次いでバソフェナントロリン(略称:BPhen)を15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層513dを形成した。これによって、第1の電荷発生層513a、正孔輸送層513b、発光層513c、及び電子輸送層513dを含む第3の発光層513を形成した。
【0152】
次いで、電子輸送層513d上に、酸化リチウム(LiO)を0.1nm蒸着することにより、電子注入バッファー522aを形成した。
【0153】
次いで、銅フタロシアニン(略称:CuPc)を蒸着することにより、電子注入バッファー522a上に、2nmの膜厚の電子リレー層522bを形成した。
【0154】
次に、電子リレー層522b上に、正孔輸送性の高い物質であるPCzPAと、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、第2の電荷発生層522cを形成した。その膜厚は30nmとし、PCzPAと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で4:2(=PCzPA:酸化モリブデン)となるように調節した。これによって、電子注入バッファー522a、電子リレー層522b、第2の電荷発生層522cを含む第2の中間層522を形成した。
【0155】
次いで、第2の発光層512を作製した。その作製方法は、まず、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第2の電荷発生層522c上にBPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層512aを形成した。
【0156】
その後、2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq−II)と、PCBA1BPと、Ir(mppr−Me)(acac)と、を共蒸着することにより、正孔輸送層512a上に15nmの膜厚の発光層512bを形成した。ここで、2mDBTPDBq−IIと、PCBA1BPと、Ir(mppr−Me)(acac)との重量比は、6:2:0.6(=2mDBTPDBq−II:PCBA1BP:Ir(mppr−Me)(acac))となるように調節した。なお、Ir(mppr−Me)(acac)は、橙色の発光を示す燐光性化合物である。さらに、2mDBTPDBq−IIと、Ir(mppr−Me)(acac)と、を共蒸着することにより、発光層512b上に15nmの膜厚の発光層512cを形成した。ここで、2mDBTPDBq−IIと、Ir(mppr−Me)(acac)との重量比は、1:0.06(=2mDBTPDBq−II:Ir(mppr−Me)(acac))となるように調節した。
【0157】
次いで、発光層512c上に、2mDBTPDBq−IIを膜厚25nm、次いでBPhenを15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層512dを形成した。これによって、正孔輸送層512a、発光層512b、発光層512c、電子輸送層512dを含む第2の発光層512を形成した。
【0158】
次いで、電子輸送層512d上に、酸化リチウム(LiO)を0.1nm蒸着することにより、電子注入バッファー521aを形成した。
【0159】
次いで、CuPcを蒸着することにより、電子注入バッファー521a上に、2nmの膜厚の電子リレー層521bを形成した。
【0160】
次に、電子リレー層521b上に、正孔輸送性の高い物質であるPCzPAと、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、第3の電荷発生層521cを形成した。その膜厚は100nmとし、PCzPAと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で4:2(=PCzPA:酸化モリブデン)となるように調節した。これによって、電子注入バッファー521a、電子リレー層521b、第3の電荷発生層521cを含む第1の中間層521を形成した。
【0161】
次いで、第1の発光層511を作製した。その作製方法は、まず、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第3の電荷発生層521c上にBPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層511aを形成した。
【0162】
その後、2mDBTPDBq−IIと、PCBA1BPと、Ir(mppr−Me)(acac)と、を共蒸着することにより、正孔輸送層511a上に15nmの膜厚の発光層511bを形成した。ここで、2mDBTPDBq−IIと、PCBA1BPと、Ir(mppr−Me)(acac)との重量比は、6:2:0.6(=2mDBTPDBq−II:PCBA1BP:Ir(mppr−Me)(acac))となるように調節した。さらに、2mDBTPDBq−IIと、Ir(mppr−Me)(acac)と、を共蒸着することにより、発光層511b上に15nmの膜厚の発光層511cを形成した。ここで、2mDBTPDBq−IIと、Ir(mppr−Me)(acac)との重量比は、1:0.06(=2mDBTPDBq−II:Ir(mppr−Me)(acac))となるように調節した。
【0163】
次いで、発光層511c上に、2mDBTPDBq−IIを膜厚25nm、次いでBPhenを15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層511dを形成した。電子輸送層511d上に、フッ化リチウム(LiF)を膜厚1nmで蒸着することにより電子注入層511eを形成した。これによって、正孔輸送層511a、発光層511b、発光層511c、電子輸送層511d、電子注入層511eを含む第1の発光層511を形成した。
【0164】
最後に、抵抗加熱による蒸着法を用い、電子注入層511e上にアルミニウムを200nmの膜厚となるように成膜することにより、陰極502を形成することで、発光素子3を作製した。
【0165】
発光素子3の電圧−輝度特性を図19に、輝度−電流効率特性を図20に、輝度−電力効率特性を図21に、CIE色度を図22に、発光スペクトルを図23に、それぞれ示す。
【0166】
図21に示すとおり、発光素子3の電力効率は最大で52[lm/W]であり、高い電力効率を示した。
【0167】
また、図22に示すとおり、発光素子3のCIE色度は(x,y)=(0.46,0.45)であり、黒体軌跡370から±0.02uvの範囲内の領域380に収まっており、照明として適していることがわかった。発光素子3の色温度は3000Kであり、良好な電球色を示した。なお図23に示すとおり、発光素子3は、視感度の低い波長領域の発光ピークが471nm、視感度の高い波長領域の発光ピークが574nmであった。
【実施例4】
【0168】
本実施例では、本発明の一態様である発光素子について、図24〜図29を用いて説明する。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、実施例1、実施例3にて用いた材料の化学式は省略した。
【0169】
【化3】

【0170】
以下に、本実施例の発光素子4の作製方法を示す。
【0171】
発光素子4について説明する(図24参照)。ガラス基板500上に、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物をスパッタリング法にて成膜し、陽極501を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0172】
次に、陽極が形成された面が下方となるように、陽極501が形成された基板を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、陽極501上に、正孔輸送性の高い物質であるPCzPAと、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、有機化合物と無機化合物とを複合してなる複合材料を含む、第1の電荷発生層513aを形成した。その膜厚は110nmとし、PCzPAと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で1:0.5(=PCzPA:酸化モリブデン)となるように調節した。なお、共蒸着法とは、一つの処理室内で複数の蒸発源から同時に蒸着を行う蒸着法である。なお、PCzPAに酸化モリブデンを添加した上記の電荷発生層は、電荷移動錯体の形成に由来する吸収は観測されないが、電圧を印加した際には電荷発生層として機能する。また、該吸収が観測されないため、透光性に優れている。
【0173】
次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第1の電荷発生層513a上にPCzPAを30nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層513bを形成した。
【0174】
さらに、CzPAと、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス〔3−(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)フェニル〕ピレン−1,6−ジアミン(略称:1,6mMemFLPAPrn)と、を共蒸着することにより、正孔輸送層513b上に30nmの膜厚の発光層513cを形成した。ここで、CzPAと1,6mMemFLPAPrnとの重量比は、1:0.05(=CzPA:1,6mMemFLPAPrn)となるように調節した。なお、CzPAは電子輸送性を有する物質であり、ゲスト材料である1,6mMemFLPAPrnは青色の発光を示す蛍光性化合物である。
【0175】
その後抵抗加熱による蒸着法を用いて、発光層513c上にCzPAを膜厚5nm、次いでバソフェナントロリン(略称:BPhen)を15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層513dを形成した。これによって、第1の電荷発生層513a、正孔輸送層513b、発光層513c、及び電子輸送層513dを含む第3の発光層513を形成した。
【0176】
次いで、電子輸送層513d上に、酸化リチウム(LiO)を0.1nm蒸着することにより、電子注入バッファー522aを形成した。
【0177】
次いで、銅フタロシアニン(略称:CuPc)を蒸着することにより、電子注入バッファー522a上に、2nmの膜厚の電子リレー層522bを形成した。
【0178】
次に、電子リレー層522b上に、正孔輸送性の高い物質であるPCzPAと、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、第2の電荷発生層522cを形成した。その膜厚は30nmとし、PCzPAと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で1:0.5(=PCzPA:酸化モリブデン)となるように調節した。これによって、電子注入バッファー522a、電子リレー層522b、第2の電荷発生層522cを含む第2の中間層522を形成した。
【0179】
次いで、第2の発光層512を作製した。その作製方法は、まず、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第2の電荷発生層522c上にBPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層512aを形成した。
【0180】
その後、2mDBTPDBq−IIと、PCBA1BPと、(アセチルアセトナート)ビス[5−イソプロピル−2,3−ビス(4−フルオロフェニル)ピラジナト]イリジウム(III)(略称:Ir(Fdppr−iPr)(acac))と、を共蒸着することにより、正孔輸送層512a上に30nmの膜厚の発光層512bを形成した。ここで、2mDBTPDBq−IIと、PCBA1BPと、Ir(Fdppr−iPr)(acac)との重量比は、6:2:0.6(=2mDBTPDBq−II:PCBA1BP:Ir(Fdppr−iPr)(acac))となるように調節した。なお、Ir(Fdppr−iPr)(acac)は、黄色の発光を示す燐光性化合物である。
【0181】
次いで、発光層512b上に、2mDBTPDBq−IIを膜厚25nm、次いでBPhenを15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層512dを形成した。これによって、正孔輸送層512a、発光層512b、電子輸送層512dを含む第2の発光層512を形成した。
【0182】
次いで、電子輸送層512d上に、酸化リチウム(LiO)を0.1nm蒸着することにより、電子注入バッファー521aを形成した。
【0183】
次いで、CuPcを蒸着することにより、電子注入バッファー521a上に、2nmの膜厚の電子リレー層521bを形成した。
【0184】
次に、電子リレー層521b上に、正孔輸送性の高い物質であるPCzPAと、アクセプター性物質である酸化モリブデン(VI)とを共蒸着することにより、第3の電荷発生層521cを形成した。その膜厚は100nmとし、PCzPAと酸化モリブデン(VI)との比率は、重量比で1:0.5(=PCzPA:酸化モリブデン)となるように調節した。これによって、電子注入バッファー521a、電子リレー層521b、第3の電荷発生層521cを含む第1の中間層521を形成した。
【0185】
次いで、第1の発光層511を作製した。その作製方法は、まず、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第3の電荷発生層521c上にBPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層511aを形成した。
【0186】
その後、2mDBTPDBq−IIと、PCBA1BPと、(ジピバロイルメタナト)ビス(3,5−ジメチル−2−フェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(mppr−Me)(dpm))と、を共蒸着することにより、正孔輸送層511a上に15nmの膜厚の発光層511bを形成した。ここで、2mDBTPDBq−IIと、PCBA1BPと、Ir(mppr−Me)(dpm)との重量比は、6:2:0.6(=2mDBTPDBq−II:PCBA1BP:Ir(mppr−Me)(dpm))となるように調節した。さらに、2mDBTPDBq−IIと、Ir(mppr−Me)(dpm)と、を共蒸着することにより、発光層511b上に15nmの膜厚の発光層511cを形成した。ここで、2mDBTPDBq−IIと、Ir(mppr−Me)(dpm)との重量比は、1:0.06(=2mDBTPDBq−II:Ir(mppr−Me)(dpm))となるように調節した。
【0187】
次いで、発光層511c上に、2mDBTPDBq−IIを膜厚25nm、次いでBPhenを15nm蒸着して積層することにより、電子輸送層511dを形成した。電子輸送層511d上に、フッ化リチウム(LiF)を膜厚1nmで蒸着することにより電子注入層511eを形成した。これによって、正孔輸送層511a、発光層511b、発光層511c、電子輸送層511d、電子注入層511eを含む第1の発光層511を形成した。
【0188】
最後に、抵抗加熱による蒸着法を用い、電子注入層511e上にアルミニウムを200nmの膜厚となるように成膜することにより、陰極502を形成することで、発光素子4を作製した。
【0189】
発光素子4の電圧−輝度特性を図25に、輝度−電流効率特性を図26に、輝度−電力効率特性を図27に、CIE色度を図28に、発光スペクトルを図29に、それぞれ示す。
【0190】
図27に示すとおり、発光素子4の電力効率は最大で51[lm/W]であり、高い電力効率を示した。
【符号の説明】
【0191】
300 基板
301 陽極
302 陰極
304 発光スペクトル
305 発光スペクトル
310 第1の発光ユニット
311 第1の発光層
312 第2の発光層
313 第3の発光層
320 第2の発光ユニット
321 第1の中間層
322 第2の中間層
330 第3の発光ユニット
360 発光素子
370 黒体軌跡
380 領域
500 ガラス基板
501 陽極
502 陰極
511 発光層
512 発光層
513 発光層
514 発光層
521 中間層
522 中間層
503d 電子輸送層
511a 正孔輸送層
511b 発光層
511c 発光層
511d 電子輸送層
511e 電子注入層
512a 正孔輸送層
512b 発光層
512c 発光層
512d 電子輸送層
513a 電荷発生層
513b 正孔輸送層
513c 発光層
513d 電子輸送層
514a 正孔輸送層
514b 発光層
514c 発光層
514d 電子輸送層
514e 電子注入層
521a 電子注入バッファー
521b 電子リレー層
521c 電荷発生層
522a 電子注入バッファー
522b 電子リレー層
522c 電荷発生層
1304 プロット
1305 プロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、を有し、
前記陽極と前記陰極との間に、第1の発光層と、第2の発光層と、第3の発光層と、第1の中間層と、第2の中間層と、を有し、
前記第1の中間層は、前記第1の発光層と前記第2の発光層との間に設けられ、
前記第2の中間層は、前記第2の発光層と前記第3の発光層との間に設けられ、
前記第1乃至第3の発光層のいずれか2つの発光層からの発光スペクトルは、黄色から橙色の波長領域にピークを有し、前記2つの発光層からの発光スペクトルを合成した発光スペクトルは1つのピークを有し、該ピークの波長は560nm以上580nm未満にあり、
前記第1乃至第3の発光層の他の1つの発光層からの発光スペクトルは、青色の波長領域にピークを有することを特徴とする発光素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記陽極または前記陰極の一方と、前記第1の発光層と、前記第1の中間層とで、第1の発光ユニットが構成され、
前記第1の中間層と、前記第2の発光層と、前記第2の中間層とで、第2の発光ユニットが構成され、
前記第2の中間層と、前記第3の発光層と、前記陽極または前記陰極の他方とで、第3の発光ユニットが構成されることを特徴とする発光素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記第1乃至第3の発光層のいずれか2つの発光層は、それぞれ発光性の物質を有し、該発光性の物質は燐光性化合物であることを特徴とする発光素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一において、
前記第1乃至第3の発光層の他の1つの発光層は、発光性の物質を有し、該発光性の物質は蛍光性化合物であることを特徴とする発光素子。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、
前記第1乃至第3の発光層のいずれか2つの発光層は、それぞれ第1の発光性の物質を有し、該第1の発光性の物質は燐光性化合物であり、
前記第1乃至第3の発光層の他の1つの発光層は、第2の発光性の物質を有し、該第2の発光性の物質は蛍光性化合物であることを特徴とする発光素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一において、
前記黄色から橙色の波長領域にピークを有し、該ピークの波長が560nm以上580nm未満にある光と、
前記青色の波長領域にピークを有する光と、
を合成した光の色は、色度図における黒体軌跡から±0.02uvの範囲内にあることを特徴とする発光素子。
【請求項7】
少なくとも3つの発光ユニットを積層した発光素子であって、
前記発光素子の発光スペクトルは、2つのピークを有し、
前記2つのピークのうちの1つのピークは、前記少なくとも3つの発光ユニットのうちの2つの発光ユニットからの発光スペクトルを合成したものであり、該ピークは黄色から橙色の波長領域にあり、かつ、該ピークの波長は560nm以上580nm未満にあり、
前記2つのピークのうちの他の1つのピークは青色の波長領域にあることを特徴とする発光素子。
【請求項8】
請求項7において、
前記少なくとも3つの発光ユニットのうちの前記2つの発光ユニットは、それぞれ、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にあることを特徴とする発光素子。
【請求項9】
請求項7または請求項8において、
前記少なくとも3つの発光ユニットのうちの前記2つの発光ユニットは、それぞれ、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある発光性の物質を有し、該発光性の物質は燐光性化合物であることを特徴とする発光素子。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一において、
前記少なくとも3つの発光ユニットのうちの1つの発光ユニットは、発光スペクトルのピークが青色の波長領域にある発光性の物質を有し、該発光性の物質は蛍光性化合物であることを特徴とする発光素子。
【請求項11】
請求項7または請求項8において、
前記少なくとも3つの発光ユニットのうちの前記2つの発光ユニットは、それぞれ、発光スペクトルのピークが黄色から橙色の波長領域にある第1の発光性の物質を有し、該第1の発光性の物質は燐光性化合物であり、
前記少なくとも3つの発光ユニットのうちの1つの発光ユニットは、発光スペクトルのピークが青色の波長領域にある第2の発光性の物質を有し、該第2の発光性の物質は蛍光性化合物であることを特徴とする発光素子。
【請求項12】
請求項7乃至11のいずれか一において、
前記黄色から橙色の波長領域に前記ピークを有し、かつ、前記ピークの波長が560nm以上580nm未満にある光と、
前記青色の波長領域に前記ピークを有する光と、
を合成した光の色は、色度図における黒体軌跡から±0.02uvの範囲内にあることを特徴とする発光素子。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一における前記発光素子を光源として用いたことを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2011−204673(P2011−204673A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39678(P2011−39678)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】