説明

発光素子の製造方法

【課題】デバイス設計性を向上させた発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】透明基板2の一面に半導体層3を形成する第1工程と、前記透明基板2の他面側から所定の光Lを照射して、前記透明基板2と前記半導体層3とを分離する第2工程とを備えている第2工程は、所定の光Lとして、紫外領域の1fs〜1000fsの極短パルスのレーザ光L3を用いて、半導体層3と透明基板2との界面をアブレーション加工することにより、透明基板2を半導体層3から容易に分離することができる。
【選択図】図2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の発光素子の製造方法として、透明基板にダイシング溝を形成し、その上に半導体層を成長させて、レーザ光の照射時に、透明基板の分離を容易にする技術がある(特許文献1参照)。
【0003】
この技術では、半導体層に微細凹凸構造が形成されないので、光の取り出し効率の向上が望めない。
【0004】
そこで、透明基板にレーザ光を照射して、半導体層から分離するとともに、この半導体層の分離面を擦ることで、スクラッチ痕による凹凸形状を形成する技術がある(特許文献2参照)。
【0005】
この技術では、半導体層に対する凹凸形状の形成と透明基板の分離とが行えるので、光の取り出し効率を向上させることができる。
【特許文献1】特開2000−101139号公報
【特許文献2】特開2003−218394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献2の技術では、半導体層に対する凹凸形状がランダムなものとなり再現性が得られにくいので、予めシミュレーション等のデバイス設計で得られる最適形状の光学設計を実現することが困難であった。
【0007】
本発明は、前記問題を解消するためになされたもので、デバイス設計性を向上させた発光素子の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、透明基板の一面に半導体層を形成する第1工程と、前記透明基板の他面側から所定の光を照射して、前記透明基板と前記半導体層とを分離する第2工程とを備え、前記第2工程は、所定の光として、紫外領域の1fs〜1000fsの極短パルスのレーザ光を用いて、前記半導体層と前記透明基板との界面をアブレーション加工して、前記透明基板と前記半導体層とを分離するものである。
【0009】
前記発光素子の製造方法において、請求項2のように、前記レーザ光は、少なくとも2種類以上の異なる波長のレーザ光であり、これらのレーザ光の強度分布で、前記半導体層の前記透明基板の一面との界面に微細凹凸構造を形成することができる。
【0010】
前記発光素子の製造方法において、請求項3のように、前記レーザ光の強度分布を制御する手段として、前記透明基板の他面に、組成比が可変であるパターニング材料をエピタキシャル成長させ、このパターニング材料によりレーザ光の透過率を制御することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、極短パルスのレーザ光によるアブレーション加工によって、透明基板を半導体層から容易に分離することができるから、発光素子の放熱性が向上するとともに、発光素子を小型化でき、デバイス設計性も向上するようになる。また、極短パルスのレーザ光であるので、加工時の熱発生を抑制することができ、クラック発生の防止、加工精度の向上等によって、歩留まりを向上することができる。
【0012】
請求項2によれば、異なる波長のレーザ光の強度分布によって、半導体層の透明基板の一面との界面に予めデバイス設計にて決めた微細凹凸構造を精度良く形成できるから、光の取り出し効率が向上するようになる。
【0013】
また、1回の光照射のみで、半導体層に対する微細凹凸構造の精度良い形成と透明基板の分離とが同時に行えるから、製造時間や製造コストを大幅に削減することが可能になる。
【0014】
請求項3によれば、異なる波長のレーザ光とパターニング材料による異なる透過率のレーザ光との併用で、分解物層の厚みにも空間的分布を待たせることが可能となる。したがって、塩酸等によって分解物層を除去すると、半導体層の透明基板の一面との界面に、請求項2の場合よりも高アスペクト比の予めデバイス設計にて決めた微細凹凸構造を精度良く形成できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は実施形態の発光素子1の製造方法である。
【0017】
図1(a)の第1工程では、透明基板〔例えば、サファイア(Al)基板〕2の一面(図では下面)に、半導体層〔例えば、窒化ガリウム(GaN)層…N型GaN+P型GaN〕3を形成する。かかる発光素子1の構造自体は公知である。
【0018】
1では、製造工程で用いる発光素子1は、簡略のため1つの発光素子1のチップを用いた例を示しているが、ウエハ上に複数個の発光素子のチップを設けたものを使用しても良い。
【0019】
図1(b)の第2工程では、前記透明基板2の他面側から所定の光Lを照射して、前記透明基板2と前記半導体層3とを分離する。なお、図1(b)では、前記透明基板2を分離する途中の傾けた状態で描いているが、所定の光Lを照射する際は、透明基板2は水平状態である。
【0020】
ここで、所定の光Lとは、透明基板2を透過して、半導体層3で吸収されるような光であり、この所定の光Lによって半導体層3の透明基板2との界面をアブレーション加工することで、半導体層3から透明基板2が分離(剥離)されるようになる。この透明基板2を分離した後の半導体層3の界面に残る分解物(ガリウム)層は、塩酸や燐酸等によって除去することが可能である。
【0021】
ところで、透明基板2を分離する際に、透明基板2と半導体層3との界面において、半導体(窒化ガリウム)層3が分解されて生成する分解物(ガリウム)層の厚みは、照射される光の強度に大きく依存する。
【0022】
したがって、光照射強度に空間的分布〔図1(b)の強照射領域aと弱照射領域b〕を持たせることで、分解物(ガリウム)層の厚みにも空間的分布〔図1(b)の凹部cと凸部d〕を待たせることが可能となる。したがって、塩酸等によって分解物(ガリウム)層を除去すると、図1(c)のように、半導体層3の透明基板2の一面との界面に微細凹凸構造3aを形成することが可能となる。なお、微細凹凸構造3aは、例えば、発光素子1から光取り出し効率が最適となるように、シミュレーション等のデバイス設計を用いて予めその形状が決められている。
【0023】
(a)の第2工程では、前記透明基板2の他面側から所定の光Lを照射して、前記透明基板2と前記半導体層3とを分離する。
【0024】
ここで、前記所定の光Lとは、紫外領域の1fs〜1000fsの極短パルスのレーザ光であり、このレーザ光によって半導体層3の透明基板2との界面をアブレーション加工することで、半導体層3から透明基板2が分離(剥離)されるようになる。
【0025】
極短パルスのレーザ光を発生する紫外光源としては、フェトム秒THG−Ti−Sapphireレーザ、フェトム秒パルス励起したフェトム秒XeClエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、ArFエキシマレーザ、Fエキシマレーザ、THG−YAGレーザ、FHG−YAGレーザなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0026】
なお、各英字の略称は、通常使われているものであるが、THGはThird Harmonic Generation(3倍高調波)、Ti−Sapphireはチタンサファイア、XeClは塩化キセノン、KrFはフッ化クリプトン、ArFはフッ化アルゴン、YAGはYttrium Aluminium Garnet(イットリウム アルミニウム ガーネット)、FHGはFourth Harmonic Generation(4倍高調波)をそれぞれ意味するものである。
【0027】
透明基板2としては、サファイアが用いられている場合、サファイアは赤外線から波長140nm程度までの光に対して透明であるので、この範囲のレーザ光であれば、サファイア製の透明基板2を分離することが可能である。
【0028】
サファイア製の透明基板2に、窒化ガリウム製の半導体層3が積層形成されている場合、加工条件としては、透明基板2と半導体層3の温度を30〜100℃に制御し、加工面でのレーザエネルギー密度が0.1〜1J/cm程度であることが適切である。レーザ照射方法としては、集光ビームを走査する方法や均一なビーム強度を持つ大口径のレーザを照射することが挙げられる。
【0029】
前記実施形態の発光素子1の製造方法では、極短パルスのレーザ光L3によるアブレーション加工によって、透明基板2を半導体層3から容易に分離することができるから、発光素子1の放熱性が向上するとともに、発光素子1を小型化でき、デバイス設計性も向上するようになる。
【0030】
また、極短パルスのレーザ光であるので、加工時の熱発生を抑制することができ、クラック発生の防止、加工精度の向上等によって、歩留まりを向上することができる。
【0031】
前記実施形態の発光素子1の製造方法において、図(b)の第1変形例のように、少なくとも2種類以上の異なる波長のレーザ光L3を用いると、これらのレーザ光L3の強度分布で、半導体層3の透明基板2の一面との界面に予めデバイス設計にて決めた微細凹凸構造3aを精度良く形成することができる。
【0032】
一般的に、レーザ光は波長が短いほど光照射強度が小さく、吸収率が大きく、生成する半導体層3の厚さが小さくなる。
【0033】
そこで、レーザ光L3として、波長の異なるFHG−YAGレーザ(λ=266nm)とTHG−YAGレーザ(λ=355nm)とを用いて、光照射強度に空間的分布(強照射領域aと弱照射領域b)を持たせることで、分解物(ガリウム)層の厚みにも空間的分布(凹部cと凸部d)を待たせることが可能となる。したがって、塩酸等によって分解物(ガリウム)層を除去すると、半導体層3の透明基板2の一面との界面に予めデバイス設計にて決めた微細凹凸構造3a〔図1(c)を参照〕を精度良く形成できるようになる。
【0034】
第1変形例の発光素子1の製造方法では、異なる波長のレーザ光の強度分布によって、半導体層3の透明基板2の一面との界面に予めデバイス設計にて決めた微細凹凸構造3aを精度良く形成できるから、光の取り出し効率が向上するようになる。
【0035】
また、1回の光照射のみで、半導体層3に対する微細凹凸構造3aの精度良い形成と透明基板2の分離とが同時に行えるから、製造時間や製造コストを大幅に削減することが可能になる。
【0036】
さらに、FHG−YAGレーザは、THG−YAGレーザよりも出力が小さいため、この2種類のレーザを選択することで、微細凹凸構造3aのアスペクト比が得やすくなる。なお、この他に、XeClエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、ArFエキシマレーザ、Fエキシマレーザ等を適宜に組み合わせることもできる。
【0037】
(c)の第2変形例は、図(b)の第1変形例と同様に、少なくとも2種類以上の異なる波長のレーザ光L3を用いる。これに加えて、レーザ光L3の強度分布を制御する手段として、透明基板2の他面に、組成比が可変であるパターニング材料7をエピタキシャル成長させ、このパターニング材料7によりレーザ光L3の透過率を制御することができる。
【0038】
具体的には、パターニング材料7として、例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGa1−xN)をエピタキシャル成長させた後、フォトリソグラフィ等を利用してパターニングする。
【0039】
パターニング材料7としては、3元系の窒化アルミニウムガリウム(AlGa1−xN)の他に、硫化カドミウム亜鉛(ZnCd1−xS)、窒化アルミニウムホウ素(Al1−xN)、窒化インジウムホウ素(In1−xN)、窒化ガリウムホウ素(Ga1−xN)、窒化インジウムアルミニウム(InAl1−xN)が可能である。
【0040】
また、4元系の窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)、窒化アルミニウムインジウムホウ素(AlInBN)、窒化インジウムガリウムホウ素(InGaBN)、窒化アルミニウムガリウムホウ素(AlGaBN)が可能である。
【0041】
レーザ光L3として、波長の異なるKrFエキシマレーザ光(λ=248nm)とXeClエキシマレーザ(λ=308nm)とを用いて、光照射強度に空間的分布(強照射領域aと弱照射領域b)を持たせることができる。なお、レーザ光L3としては、FHG−YAGレーザ、THG−YAGレーザ、ArFエキシマレーザ、Fエキシマレーザ等を適宜に組み合わせることもできる。
【0042】
また、パターニング材料7の窒化アルミニウムガリウムの組成比xをλ>248nmとなるように変化させれば、窒化アルミニウムガリウムを透過するレーザ光は減衰して、光照射強度に空間的分布(強照射領域aと弱照射領域b)を持たせることができる。
【0043】
第2変形例の発光素子1の製造方法では、異なる波長のレーザ光L3とパターニング材料7による異なる透過率のレーザ光L2との併用で、分解物(ガリウム)層の厚みにも空間的分布〔図2(b)の凹部cと凸部d〕を待たせることが可能となる。したがって、塩酸等によって分解物(ガリウム)層を除去すると、半導体層3の透明基板2の一面との界面に、第1変形例よりも高アスペクト比の予めデバイス設計にて決めた微細凹凸構造3a〔図1(c)を参照〕を精度良く形成できるようになる。
【0044】
なお、上述した実施形態と第1変形例との組み合わせ、実施形態と第1変形例と第2変形例との組み合わせの他に、実施形態と第2変形例との組み合わせも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る発光素子の製造工程の基本原理図である。
【図2】(a)は、本発明に係る発光素子の製造工程図、(b)(c)はそれぞれ変形例の製造工程図である。
【符号の説明】
【0046】
1 発光素子
2 透明基板
3 半導体層
3a 微細凹凸構造
7 パターニング材料
L 所定の光
L2 異なる透過率の光
L3 異なる波長のレーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の一面に半導体層を形成する第1工程と、
前記透明基板の他面側から所定の光を照射して、前記透明基板と前記半導体層とを分離する第2工程とを備え、
前記第2工程は、所定の光として、紫外領域の1fs〜1000fsの極短パルスのレーザ光を用いて、前記半導体層と前記透明基板との界面をアブレーション加工して、前記透明基板と前記半導体層とを分離することを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記レーザ光は、少なくとも2種類以上の異なる波長のレーザ光であり、これらのレーザ光の強度分布で、前記半導体層の前記透明基板の一面との界面に微細凹凸構造を形成することを特徴とする請求項記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光の強度分布を制御する手段として、前記透明基板の他面に、組成比が可変であるパターニング材料をエピタキシャル成長させ、このパターニング材料によりレーザ光の透過率を制御することを特徴とする請求項または記載の発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−10427(P2009−10427A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263750(P2008−263750)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【分割の表示】特願2004−216338(P2004−216338)の分割
【原出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】