説明

発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物およびこれを用いた発光素子搭載基板、発光装置

【課題】発光素子搭載基板の抗折強度を低下させずにサーマルビアの凸状高さを低くした発光装置を提供する。
【解決手段】モル百分率表示で、SiOを57〜65%、Bを14〜18%、 CaOを9〜23%、Alを3〜8%、KOおよびNaOの少なくともいずれか一方を合計で3〜6%でかつNaOを2%以上含有し、鉛酸化物を含有しないガラス粉末とセラミックスフィラーとを含有する発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオードデバイス、高輝度(HB)光ダイオードバックライト、ディスプレイに関連する光源、自動車照明、装飾照明、標識および広告照明、および情報ディスプレイ用途を含む照明デバイスの形成に好適な発光装置に用いられる発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物、およびこれを用いた発光素子搭載基板、発光装置に関する。ここで発光装置とは発光ダイオードチップを実装して取り付ける発光素子搭載基板(絶縁基板)およびリフレクタを含むものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(以下、LEDと記すことがある。)デバイスなど発光素子の高輝度、白色化に伴い、携帯電話や大型液晶TV等のバックライトにLEDを用いた発光装置が使われるようになってきた。
しかしながら、発光素子の高輝度化に伴い、発光装置から発生する熱も増加している。そこで、温度上昇による発光素子の輝度の低下をなくすためには、発生した熱を発光素子より速やかに放散する高い熱放散性を有する発光素子搭載基板および発光装置(以下、LEDパッケージと記すことがある。)が求められている。
【0003】
発光装置の基板としては、従来から配線基板の絶縁基板に用いられてきたアルミナ基板が使用されることが多かったが、アルミナ基板は熱伝導率が小さく約15〜20W/m・Kであるという問題があった。また、アルミナ基板に代わるものとして、高い熱伝導率を有する窒化アルミニウム基板が注目され始めた。しかし、窒化アルミニウム基板は、原料コストが高い、熱膨張係数が4×10−6〜5×10−6/℃と小さいため、汎用品である9×10−6/℃以上の熱膨張係数を持つプリント基板へ実装した際に大きな熱膨張係数差により接続信頼性が低下するという問題があった。さらに、アルミナ基板や窒化アルミニウム基板は難焼結性であるため高温焼成が必要であり、プロセスコストが高くなるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、LEDパッケージ基板として低温同時焼成セラミック基板(以下、LTCCまたはLTCC基板と記すことがある。)が使われるようになった。
LTCCは、ガラスとアルミナフィラーなどセラミックスフィラーとからなり、そのガラスの屈折率とセラミックスフィラーの屈折率の差が大きく、かつ、LTCC中に分散しているセラミックスフィラーの数が多いので光を反射する界面の面積が大きく、しかもその界面の両側のガラスまたはセラミックスフィラーの厚みが光の波長より大きいので反射率が高い。したがって、LTCCは発光素子からの光を効率よく反射することができ、また、その結果、熱発生が少なくできる。
【0005】
また、LTCCは無機酸化物により形成されているので、樹脂基板のように、光源による劣化がなく、長期間に渡って色調を安定に保つことができる。
【0006】
しかし、LTCCは熱伝導率が充分大きいとはいえないので発光素子の輝度低下が起こりやすいという問題がある。これを解決するために従来、熱をLEDから基板の反対側のヒートシンクに伝達する放熱用の貫通導体すなわちサーマルビアを設けて熱抵抗を減少することが知られている。なお、貫通導体はビア導体と言われることもある。
【0007】
図1は、従来の発光ダイオードパッケージの例として特許文献1の図2を転記したものである。発光素子であるLEDチップ(LED素子)21の直下に貫通導体(サーマルビア)10を設置し、サーマルビア10の上に接着剤29を介してLEDチップ21を取り付ける。なお、LEDから基板背後への低い熱抵抗を実現するには比較的大きな直径のビアが必要である。また、サーマルビアの直径が単一のビアによって伝達し得る熱の量を制限するため、サーマルビアは普通多数本のビアによって基板の中に形成することが行われる。
【0008】
LTCCは通常、ガラス粉末とセラミックスフィラー(セラミックス粉末)を主成分とする原料粉末に樹脂等を加えてシート状に成形し、1000℃以下の温度で焼成して基板とされるものである。前記シート状の成形体はグリーンシートと呼ばれ、必要に応じて切断、穴あけなどの加工が施され、また導体ペーストを用いて導体が印刷され、通常は複数枚が積層されて焼成される。
LTCCは、熱伝導率の高い銀導体や銅導体の粉末をペーストにしてグリーンシートに設けた貫通孔に埋め込み等して銀導体や銅導体の粉末と同時に焼成して作製でき、放熱性に優れた貫通導体付き基板を効率的に生産することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−41230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来例として、図1に示すようなLEDパッケージ構造を採用する場合、後述する抗折強度を大きくしようとすると、サーマルビアは同時焼成時にLTCC基板(絶縁基板)から突き出て凸状部を形成するので、LEDチップはそのサーマルビアの凸状部に接着剤を介して取り付けられている。しかし、サーマルビアの凸状部の高さが高いと、接着剤を多く使用しなければならず、熱抵抗が増加することになる。したがって、抗折強度が大きく、かつ、サーマルビアの凸状部の高さが低いものが求められている。
本発明はこのような問題を解決できる発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物、ならびにこれを用いた発光素子搭載基板および発光装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、モル百分率表示でSiOを57〜65%、Bを14〜18%、CaOを9〜23%、Alを3〜8%、KOおよびNaOの少なくともいずれか一方を合計で3〜6%でかつNaOを2%以上含有し、鉛酸化物を含有しないガラス粉末と、セラミックスフィラーとを含有する発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物を提供する。
また、本発明は、モル百分率表示でSiOを57〜65%、Bを15〜18%、CaOを9〜23%、Alを3〜8%、KOおよびNaOの少なくともいずれか一方を合計で3〜6%でかつNaOを2%以上含有し、鉛酸化物を含有しないガラス粉末と、セラミックスフィラーとを含有する発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物を提供する。
また、前記セラミックスフィラーがアルミナ粉末である前記発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物を提供する。
また、前記セラミックスフィラーがアルミナ粉末およびジルコニア粉末を含有する前記発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物を提供する。
【0012】
また、前記発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物を焼結して得られた発光素子搭載基板を提供する。
また、前記発光素子搭載基板に発光素子を搭載した発光装置を提供する。
また、前記発光装置であって、発光ダイオード素子が実装されている発光素子搭載基板の面と対向する発光素子搭載基板の他方の面にヒートシンクが形成されており、貫通導体であって、その上に発光ダイオード素子が実装されているものの少なくとも1個がそのヒートシンクと接続されているサーマルビア(Thermal vias)である発光装置、すなわち、サーマルビアを有する発光素子搭載基板の一方の面上の発光ダイオード素子と発光素子搭載基板の他方の面側に形成されたヒートシンクとが、当該発光素子搭載基板中に形成された少なくとも1つのサーマルビアによって接続されている発光装置であって、発光素子搭載基板が、モル百分率表示でSiOを57〜65%、Bを14〜18%、CaOを9〜23%、Alを3〜8%、KOおよびNaOの少なくともいずれか一方を合計で3〜6%でかつNaOを2%以上含有し、鉛酸化物を含有しないガラス粉末と、セラミックスフィラーとを含有する発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物を焼成して得られたものである発光装置を提供することができる。
前記発光装置において、前記発光素子搭載基板は、モル百分率表示でSiOを57〜65%、Bを15〜18%、CaOを9〜23%、Alを3〜8%、KOおよびNaOの少なくともいずれか一方を合計で3〜6%でかつNaOを2%以上含有し、鉛酸化物を含有しないガラス粉末と、セラミックスフィラーとを含有する発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物を焼成して得られたものであってもよい。
【0013】
なお、発光ダイオード素子は発光ダイオードチップまたは単にチップと表わすことがあり、この発光素子搭載基板は絶縁基板と表わすことがある。
【0014】
また、発光素子搭載基板の抗折強度が250MPa以上である前記発光装置を提供することができる。
また、前記サーマルビアの導体が発光ダイオード素子が実装されている発光素子搭載基板の面から突き出ており、その突き出し量が5μm以下である前記発光装置、すなわち、発光ダイオード素子とヒートシンクとを接続しているサーマルビアの導体が、発光ダイオード素子が載っている発光素子搭載基板面から突き出ており、その突き出し量が5μm以下である前記発光装置を提供することができる。
【0015】
本発明における発光素子搭載基板または発光装置は、チップをマウントした後、切れ目を入れた部分を折り曲げて切断するか、発光素子搭載基板を焼成後ダイヤモンド砥石で、いわゆるダイシングすることにより切断する。このとき一緒に発光素子搭載基板自体が割れたり、チッピング(欠け)が起きると発光装置が破損することになり、コストが上昇する。このため発光素子搭載基板の抗折強度が大きいこと、典型的には250MPa以上であることが求められている。なお、抗折強度は通常アルミナ基板で400MPa、窒化アルミ基板で300MPaである。
【0016】
また、本発明における発光素子搭載基板は耐酸性に優れたものであることが望ましい。その理由は、発光素子搭載基板にはメッキ等が施されることがあり、そのために発光素子搭載基板が酸性のメッキ液等で処理される場合があるからである。
【0017】
本発明者は、モル%表示でSiOを81.6%、Bを16.6%、KOを1.8%含有するガラス(後出の例15のガラス)の粉末とアルミナ粉末とを用いてLTCC基板を作製したところ、耐酸性が良好であり、また貫通導体が大きく突き出す現象は認められなかったが、抗折強度は小さく190MPaであることを見出した。
【0018】
そこで、前記ガラス組成にCaO、およびAlを加えたところ、抗折強度は250MPaとなり強度を向上させることができた(後出の例13のガラス)。これは、ガラスの結晶化傾向が強まったためであると考えている。なお、析出結晶相はアノーサイトであると考えている。
しかし、CaO、およびAlを加えることによって貫通導体が大きく突き出す現象が現れた。
【0019】
貫通導体の突き出しを抑制するためには、貫通導体とグリーンシートとの焼成による収縮挙動のマッチングが重要である。本発明者は、原料粉末に含まれるガラスの組成に少量のアルカリ成分を加えることで、収縮挙動を貫通導体に近づけることに成功した(後出の例10、例11、および例12のガラス)。
【0020】
しかし、ガラスが結晶化傾向の強いものである場合には貫通導体の突き出しを充分に抑制することは困難であった。これは、ガラスが結晶化することによる体積収縮が大きく、貫通導体との収縮マッチングが困難なためと考えている。
本発明者は、以上の知見をもとに、抗折強度を上げながら、貫通導体の突き出し量を充分に小さくできるガラス組成を見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、貫通導体の突き出し量が充分に小さく、強度と放熱性に優れた発光装置を効率的に製造可能な発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物、ならびにこれを用いた発光素子搭載基板および発光装置を得ることができる。
また、実装信頼性を向上させることができ、寸法精度の高い発光装置を得ることが可能になる。
また、耐酸性が高い発光装置を製造可能な発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物ならびにこれを用いた発光素子搭載基板および発光装置を得ることも可能になる。
【0022】
また、銀導体とグリーンシートを同時に焼成して発光素子搭載基板を作製するとき、発光素子搭載基板(LTCC基板)に反り等の変形が生じることがある。これは主として銀導体ペーストとグリーンシートの焼成による収縮量が異なるためであり、また、ガラス中に銀イオンが溶け出すことによって銀導体と接する部分のガラス組成が変化し、銀導体から遠い部分と銀導体に接する部分で収縮挙動が異なる結果になるためとも考えられる。
【0023】
本発明の発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物によれば、同時焼成時に発光素子搭載基板の反りが生じてもその反りが小さい発光素子搭載基板および発光装置を得ることが可能になる。
【0024】
また、LTCCの原料粉末に含まれるガラスと銀との反応によって発色(銀発色)することがある。これは銀導体からガラス中に溶け出した銀イオンが、その後に還元されてコロイド化するためと考えられる。
【0025】
本発明の発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物によれば、銀導体と同時に焼成したときに銀発色が起こらない、または起こりにくく、発光素子搭載基板の反射率を高くでき、または発光素子搭載基板の着色を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来の発光装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
本発明の発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物(以下、単に本発明の組成物という。)は、通常前記ガラス(以下、本発明の組成物に用いられるこのガラスを本発明のガラスという。)の粉末とセラミックスフィラー(典型的にはアルミナフィラーすなわちアルミナ粉末である。)とを含有し、またはこれらかなるグリーンシート化して使用される。
【0028】
本発明において、グリーンシートの作製は、好ましくは、以下のように行なわれる。すなわち、まず本発明の組成物とポリビニルブチラール、アクリル樹脂等の樹脂とを、必要に応じてフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ブチルベンジル等の可塑剤等も添加して混合する。次に、トルエン、キシレン、ブタノール等の溶剤を添加してスラリーとし、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム上に、ドクターブレード法等によって、このスラリーをシート状に成形する。最後に、このシート状に成形されたものを乾燥して溶剤を除去しグリーンシートとする。
【0029】
前記のグリーンシートには、必要に応じて、銀ペースト、銀導体等を用いてスクリーン印刷等によって配線パターンや貫通導体であるビアなどが形成される。
本発明のガラスは、発光素子搭載基板用ガラスとして好適である。
【0030】
前記グリーンシートは、焼成後所望の形状に加工されて基板とされる。この場合、被焼成体は1枚または複数枚の同じグリーンシートを重ねたものである。なお、該基板は本発明の発光素子搭載基板であり、前記焼成は典型的には850〜900℃に20〜60分間保持して行われる。より典型的な焼成温度は860〜880℃である。
なお、銀ペースト等と同時に焼成して配線パターンや貫通導体を焼成体すなわち発光素子搭載基板の内部に形成する場合、焼成温度は880℃以下であることが好ましい。焼成温度が880℃超では焼成時に銀または銀含有導体が軟化し配線パターンや貫通導体の形状が保持できなくなるおそれがあり、より好ましくは870℃以下である。
【0031】
本発明の組成物は、900℃以下の温度で焼成しても緻密な焼成体が得られるものであることが好ましい。このようなものであると、銀ペースト等の導体材料と900℃以下の温度で同時焼成できる。
【0032】
本発明の組成物は、質量百分率表示で、本発明のガラスの粉末を25〜55%、セラミックスフィラーを45〜75%含有することが好ましい。本発明のガラスの粉末の含有量が25%未満であると焼成によって緻密な焼成体を得ることが困難になるおそれがあり、好ましくは35%以上である。また、ガラスの粉末の含有量が55%超であると強度が不足するおそれがあり、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下である。
【0033】
セラミックスフィラーは発光素子搭載基板の強度を高くする成分である。その含有量は、より好ましくは50%以上、特に好ましくは55%以上である。セラミックスフィラーの含有量が75%超であると、焼成によって緻密な焼成体を得ることが困難になる、または発光素子搭載基板表面の平滑性が損なわれるおそれがあり、好ましくは65%以下である。
【0034】
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分として無機物粉末、たとえば耐熱顔料などを含有することができる。その場合、当該その他の成分の含有量は、典型的には合計で5%以下ある。
【0035】
本発明の組成物の成分であるセラミックスフィラーは、典型的にはアルミナ粉末である。アルミナ粉末を含有することによって発光素子搭載基板の強度を高くすることができる。発光素子搭載基板の強度を高くするためにはアルミナ粉末を30%以上含有することが好ましい。
また、後述する発光素子搭載基板の反射率を特に高くしたい場合には、本発明の組成物は、屈折率が2を越える高屈折率セラミックスの粉末を含有することがより好ましい。高屈折率セラミックスとしては、たとえばチタニア、ジルコニアが挙げられる。反射率を高くしたい場合には、ジルコニア粉末の含有量は5%以上であることが好ましく、10%以上がより好ましい。この場合、アルミナ粉末を30%以上含有することが好ましい。
【0036】
セラミックスフィラーの50%粒径(D50)は0.5〜5μmであることが好ましい。D50が0.5μm未満では、たとえばグリーンシート中に粉末を均一に分散させることが困難になる、または粉末が凝集しやすくなって取り扱いにくくなる。D50は、より好ましくは1μm以上である。D50が5μm超では、緻密な焼成体が得にくくなり、より好ましくは3μm以下である。
【0037】
本発明の組成物の成分である本発明のガラスの粉末は、通常、溶融法によって得られたガラスを粉砕して製造される。粉砕の方法は、本発明の目的を損なわないものであれば限定されず、乾式粉砕でもよいし湿式粉砕でもよい。湿式粉砕の場合には溶媒として水を用いることが好ましい。また粉砕にはロールミル、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機を適宜用いることができる。ガラスは粉砕後、必要に応じて乾燥され、分級される。
【0038】
本発明の組成物の成分である本発明のガラスの粉末のD50は、0.5〜5μmであることが好ましい。D50が0.5μm未満では、たとえばグリーンシート中にガラスの粉末を均一に分散させることが困難になる、また粉末が凝集しにくくなって、取り扱いにくくなる。D50はより好ましくは1μm以上である。D50が5μm超では、緻密な焼成体が得にくくなり、より好ましくは3μm以下である。
【0039】
本発明における発光素子搭載基板には、放熱などの目的で1個以上の貫通導体が設けられており、その貫通導体の少なくとも1個の上にLED素子が実装されている。
そして、通常、その貫通導体は熱伝導率が高い銀が主成分である銀導体からなり、同時焼成は900℃以下で行われることが好ましい。銀導体が用いられるのは、銀は熱伝導率が高く放熱性に優れるからである。
貫通導体は、典型的には、前記グリーンシートの所定の位置に穴を形成して銀ペーストなど導体ペーストを充填したものを積層して焼成する方法によって形成することができる。この場合、貫通導体およびそれを形成するための導体ペーストは、熱伝導率を高くするために導体以外の無機成分を含有しないことが好ましい。
【0040】
本発明の発光素子搭載基板の発光素子搭載部にサーマルビアが設けられる場合、サーマルビアの導体は発光ダイオード素子が実装されている面から突き出ていることが好ましい。サーマルビアの導体が発光素子搭載基板表面に対して凹になっていると、サーマルビアの導体と発光ダイオード素子との間に隙間が生じ、または接着剤層が厚くなり、発光ダイオード素子からの熱をサーマルビアの導体に効率的に放出することができなくなるからである。サーマルビアの導体の突き出し量は、0〜5μmであることが好ましい。突き出し量が5μmを超えサーマルビアの導体が大きく凸になっていると、発光ダイオード素子と発光素子搭載基板の間に隙間が生じて多量の接着剤を使用するために放熱性が低下する、また実装するときに発光ダイオード素子が傾いてしまって、所定の位置への取り付けが難しくなることがあるからである。
【0041】
本発明のガラスのガラス転移点(Tg)は、550〜700℃であることが好ましい。Tgが550℃未満であると、グリーンシート中の有機物バインダ(樹脂)を除去しにくくなり、700℃超であると、焼成時の収縮開始温度が高くなり、発光素子搭載基板の寸法精度が低下するおそれがある。
【0042】
本発明のガラスは、典型的には850〜900℃で焼成したときに分相が生じるものであることが好ましい。分相が生じるものでなければ、焼成体の機械的強度が低くなるおそれがある。なお、ここでいう分相が生じるものとは、X線回折で結晶を検出することは困難であるが、高分解能の電子線顕微鏡で観察すると化学組成の異なる相の存在を確認できるものが典型的である。
【0043】
次に、本発明のガラスの成分について説明する。なお、以下では特に断らない限りガラス組成はモル百分率で表示する。
SiOはガラスのネットワークフォーマであり、必須である。SiOが57%未満では安定なガラスを得にくくなり、または化学的耐久性が低下する。耐酸性を高くしたい場合などには、SiOは好ましくは58%以上、より好ましくは59%以上、特に好ましくは60%以上である。SiOが65%超ではガラス溶融温度またはTgが高くなりすぎるおそれがあり、好ましくは64%以下、より好ましくは63%以下である。
【0044】
はガラスのネットワークフォーマであり、必須である。Bが13%未満ではガラス溶融温度またはTgが高くなりすぎるおそれがあり、好ましくは14%以上、より好ましくは15%以上である。Bが18%超では安定なガラスを得にくくなる、または化学的耐久性が低下するおそれがあり、好ましくは17%以下、より好ましくは16%以下である。
【0045】
Alはガラスの安定性、化学的耐久性または強度を高める成分であり、必須である。Alが3%未満ではガラスが不安定となり、好ましくは4%以上、より好ましくは5%以上である。Alが8%超ではガラス溶融温度またはTgが高くなりすぎ、好ましくは7%以下、より好ましくは6%以下である。
【0046】
CaOはガラスを安定化させる、ガラス溶融温度を低下させる、また焼成時に結晶を析出しやすくする成分であって必須であり、また、ガラスのTgを低下させる場合もある。CaOが9%未満ではガラス溶融温度が高くなりすぎるおそれがあり、好ましくは10%以上である。ガラスを溶融しやすくしたい場合などには、CaOは好ましくは12%以上、より好ましくは13%以上、特に好ましくは14%以上である。CaOが23%超ではガラスが不安定になるおそれがあり、好ましくは22%以下、より好ましくは21%以下、特に好ましくは20%以下、典型的には18%以下である。
【0047】
NaOおよびKOはTgを低下させる成分であり、少なくともいずれか一方を含有しなければならない。その合計(NaO+KO)が0.5%未満では、ガラス溶融温度またはTgが高くなりすぎるおそれがあり、好ましくは0.8%以上である。NaO+KOの合計量が6%超では化学的耐久性、特に耐酸性が悪化するおそれがある、または焼成体の電気絶縁性が低下するおそれがあり、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下である。
【0048】
貫通導体が凸状になることを防止または抑制したい場合、あるいは強度または化学的耐久性を高くしたい場合などには、CaOを17%以下、Alを4〜7モル%、KOおよびNaOの合計を4%以下とすることが好ましい。
本発明のガラスは、本質的に上記成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。当該その他の成分を含有する場合、それらの成分の含有量の合計は10%以下であることが好ましい。
【0049】
たとえば、ガラス融液の粘性を低下させる等の目的でTiOを含有してもよい場合があり、その場合のTiOの含有量は3%以下であることが好ましい。また、ガラスの安定性を向上する等の目的でZrOを含有してもよい場合があり、その場合のZrOの含有量は3%以下であることが好ましい。
なお、本発明のガラスは鉛酸化物は含有しないことが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0051】
表1の例1〜6、および表2の例10〜15においては、SiOからZrOまでの欄にモル%で示す組成となるように原料を調合、混合し、この混合された原料を白金ルツボに入れて1550〜1600℃で60分間溶融後、溶融ガラスを流し出し冷却した。得られたガラスを、アルミナ製ボールミルでエチルアルコールを溶媒として、20〜60時間粉砕してガラスの粉末を得た。
【0052】
例2〜5は本発明の実施例であり、例10〜15は比較例である。例1、6は参考例である。例7〜9も本発明の実施例であるが、先に述べたようなガラスの粉末の作製は行わなかった。
【0053】
各ガラスの粉末(例1〜6、および例10〜15)のD50(単位:μm)を、島津製作所社製SALD2100を用いて測定したが、いずれも2.5μmであった。
また、各ガラスの粉末のTg(単位:℃)、および軟化点Ts(単位:℃)を、マックサイエンス社製熱分析装置(TG−DTA2000)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で1000℃まで、それぞれ測定した。表中のTg、およびTsの欄に「*」と記載したものは、これらの方法によってはTgまたはTsを測定できなかったことを示す。なお、表中に括弧で示したものは組成から推定した値であり、後述するHおよび抗折強度についても同様である。
【0054】
質量百分率表示で、各ガラス粉末40%と昭和電工社製アルミナフィラーAL−45Hを60%の割合で混合した粉末50gに有機溶剤(トルエン、キシレン、2−プロパノール、2−ブタノールを質量比4:2:2:1で混合したもの)15g、可塑剤(フタル酸ジ−2−エチルヘキシル)2.5g、および樹脂(デンカ社製ポリビニルブチラールPVK#3000K)5gと分散剤(ビックケミー社製DISPERBYK180)を混合してスラリーとした。このスラリーをPETフィルム上にドクターブレード法を利用して塗布し、塗膜を乾燥して厚さが0.2mmのグリーンシートを得た。
【0055】
ビアペースト(導体ペースト)は、導電性粉末(大研化学工業社製の平均粒子径5μmの球状銀粉末)およびビヒクル(エチルセルロース)を質量比85:15の割合で調合し、固形分の濃度が質量百分率表示で85%となるように溶剤(αテレピネオール)に分散した後、磁器乳鉢中で1時間混練を行い、さらに三本ロールにて3回分散を行って作製した。
【0056】
前記で得たグリーンシートに孔空け機を用いて、直径0.3mmの孔をあけ、ビアホールを形成した。ビアホール内に、スクリーン印刷法により上記調合で作製したビアペーストを充填した。次いで、得られたグリーンシートを6枚積層し、550℃に5時間保持して樹脂成分を分解除去した後、870℃に30分保持して焼成を行った。得られた焼成体(発光素子搭載基板)を電子顕微鏡(日立ハイテック社製S3000H)によって観察し、導体ビアすなわち貫通導体の凸状高さを5点で計測した。これら5点の計測結果の平均値を表1および表2のHの欄に示す(単位:μm)。Hは5μm以下であることが好ましい。Hが5μm超ではLEDチップを実装する時に傾いてしまい、光量が低下してしまうおそれがある。
【0057】
抗折強度は次のような方法で測定した。すなわち、前記で得られたグリーンシートを6枚積層し、550℃に5時間保持して樹脂成分を分解除去した後、870℃に30分保持する焼成を行って抗折強度測定用焼成体を作製した。この焼成体を切断して厚さが約0.85mm、幅が5mmの短冊状に加工したもの10枚を用いて3点曲げ強度を測定した(測定装置:インストロン社製、INSTRON 856I)。スパンは15mm、クロスヘッドスピードは0.5cm/分とした。これら測定結果を表1、および表2の強度の欄に示す(単位:MPa)。抗折強度は250MPa以上であることが好ましい。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
例2と同じガラス粉末と前記アルミナ粉末AL−45Hと第一稀元素化学工業社製ジルコニア粉末HSY-3F-Jとを、表3のガラス粉末欄、アルミナ粉末欄、ジルコニア粉末欄に質量百分率表示で示した割合で混合した混合粉末を用いて前記と同じ方法でグリーンシートを作製した。得られたグリーンシートを6枚積層し、550℃に5時間保持して樹脂成分を除去した。その後、例2Aは885℃に30分、例2B、例2C、例2D、および例2Eは875℃に30分保持する焼成を行って焼成体を作製し、前記の方法で抗折強度を測定した。これら測定結果を例2の結果とあわせて表3の強度の欄に示す(単位:MPa)。この結果から、例2のガラスを用いて抗折強度を250MPa以上にしたい場合は、本発明の組成物が、質量百分率表示で、ガラスの粉末を25〜55%、セラミックスフィラーを45〜75%含有することが好ましいことがわかる。
【0061】
また、反射率は、次のような方法で測定した。前記で得られたグリーンシートを積層して焼成し、一辺が30mm程度の正方形で、かつ厚みが300μm程度の各焼成体を得た。得られた焼成体の反射率を、オーシャンオプティクス社製分光器USB2000とオーシャンオプティクス社製小型積分球ISP−RFを用いて測定し、硫酸バリウム標準板の反射率を100として光波長460nmにおける反射率(単位:%)を算出した。結果を表3に示す。
発光素子搭載基板の厚みを薄くしたいなどの使用条件がある場合、反射率は85%以上であることが好ましい。例2Cでは、高い反射率が得られた。反射率が85%未満では、発光素子搭載基板の厚みを薄くしたときに光のもれが大きくなるおそれがある。
【0062】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物を用いた発光装置は、高輝度(HB)光ダイオードバックライト、ディスプレイに関連する光源、自動車照明、装飾照明、標識および広告照明、および情報ディスプレイ用途を含む照明デバイスの用途に好適であり、特には携帯電話や大型液晶TV等のバックライトに利用できる。
なお、2008年4月18日に出願された日本特許出願2008−108953号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0064】
1 :絶縁基板
1a、1b:主面
3a、3b:接続端子
5 :外部電極端子
7 :通電用ビア導体
9 :搭載部
10:サーマルビア(貫通導体)
21:LED素子
23:ボンディングワイヤ
25:発光装置
29:接着剤
31:モールド材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル百分率表示でSiOを57〜65%、Bを14〜18%、CaOを9〜23%、Alを3〜8%、KOおよびNaOの少なくともいずれか一方を合計で3〜6%でかつNaOを2%以上含有し、鉛酸化物を含有しないガラス粉末と、セラミックスフィラーとを含有する発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項2】
モル百分率表示でSiOを57〜65%、Bを15〜18%、CaOを9〜23%、Alを3〜8%、KOおよびNaOの少なくともいずれか一方を合計で3〜6%でかつNaOを2%以上含有し、鉛酸化物を含有しないガラス粉末と、セラミックスフィラーとを含有する発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項3】
前記セラミックスフィラーが、アルミナ粉末である請求項1または2記載の発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項4】
前記セラミックスフィラーが、アルミナ粉末およびジルコニア粉末を含有する請求項3記載の発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項5】
質量百分率表示で、前記ガラス粉末を25〜55%、前記セラミックスフィラーを
45〜75%含有する請求項1〜4のいずれかに記載の発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項6】
質量百分率表示で、アルミナ粉末を30%以上含有する請求項5記載の発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項7】
質量百分率表示で、ジルコニア粉末を5%以上含有する請求項6記載の発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の発光素子搭載基板用ガラスセラミックス組成物を焼結して得られた発光素子搭載基板。
【請求項9】
請求項8記載の発光素子搭載基板に発光素子を搭載した発光装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−229160(P2012−229160A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−169164(P2012−169164)
【出願日】平成24年7月31日(2012.7.31)
【分割の表示】特願2010−508173(P2010−508173)の分割
【原出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】