説明

発光素子

【課題】本発明は発光効率よく及びむらなく発光する発光素子を提供する。
【解決手段】本発明の発光素子は、pn接合するp型半導体部及びn型半導体部を少なくとも上面に有する基板と、前記基板の上に設けられかつ発光体を内部に有する透光性の絶縁体層と、前記絶縁体層の上に設けられた透光性電極と、前記p型半導体部の表面でありかつ上に前記絶縁体層が設けられていない部分の上に設けられた第1電極と、前記n型半導体部の表面でありかつ上に前記絶縁体層が設けられていない部分の上に設けられた第2電極とを備え、前記基板の上面の前記p型半導体部及び前記n型半導体部がpn接合した部分の上に前記絶縁体層および前記透光性電極がこの順で設けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、自己発光する光源として、別途の光源が不要な新たな表示素子等としての利用が期待されているものである。
従来のEL素子には、「分散型」と「薄膜型」の2つのタイプが存在し、その多くが交流駆動によって、発光する。
【0003】
従来の分散型と薄膜型のEL素子については、特許文献1や非特許文献1に記載されているように無機EL素子が無機化合物を用いて実現されている。
従来の分散型EL素子は、電極間に電流経路が遮断された蛍光体粒子(例えば、ZnS:Cu,Clなど)を有する素子に交流電圧を印加することにより、蛍光体粒子が電界発光をする。この蛍光体粒子の粒子径は10μm程度が最適であると考えられ、2〜3μmよりも小さくなると発光輝度が著しく低下することが知られている。なお、この分散型EL素子は、ドナー・アクセプタ間の再結合により発光すると考えられている。
【0004】
また、従来の薄膜型EL素子は、電極間に絶縁層で挟まれた蛍光体の発光層(例えば、発光中心となるMnを母材ZnS中にドープしたZnS:Mnなど)を有する素子に交流電圧を印加することにより、発光層が電界発光する。なお、この薄膜型EL素子は、母材中を走るホットエレクトロンによる発光中心の衝突励起により発光すると考えられている。
【0005】
その一方で、シリコン基板上に無機EL素子を作製する技術の開発が盛んに行われている。情報処理装置や記憶装置であるCMOS回路などはシリコンを基幹として実現されているため、シリコン基板上に無機EL素子を作製することができれば、情報処理装置や記憶装置と発光素子を同一基板上に作製することができる。このことにより、光によるチップ間通信や光コンピューティング技術が可能となり、更なるデジタル電子機器の発展につながることが期待されている。
【0006】
例えば、特許文献2では、シリコン基板上のシリコン窒化膜(絶縁体)中にシリコン又はゲルマニウムのナノメートルオーダーの微粒子を形成し、このシリコン窒化膜に電圧を印加することによって約650nmのピークを有するエレクトロルミネセンスが確認されたことが報告されている。
【0007】
なお、従来の絶縁体膜中に微粒子を形成した発光素子は、絶縁体膜の両側の電極に電圧を印加し、絶縁体膜に数MV/cm程度の強い電界を印加することが必要である。このことにより、電極の電子が絶縁体膜の伝導帯にFN(ファウラー・ノルドハイム)トンネリングによって供給され、この電子が電界により加速され十分な運動エネルギーを得た後、微粒子に衝突すると考えられる。衝突した電子は、微粒子のエネルギー準位を励起し、この励起されたエネルギー準位から発光すると考えられている。
【特許文献1】特開2007−265986号公報
【非特許文献1】最新無機EL開発動向〜材料特性と製造技術・応用展開〜、第1版、情報機構、2007年3月27日
【特許文献2】特開平11−310776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
絶縁体膜中に微粒子を形成した従来の発光素子は、絶縁体膜に数MV/cm程度の強い電界を印加することが必要であり発光効率が低い。また、絶縁体膜の一箇所に電界が集中し破壊すると素子全体が破壊してしまうという問題がある。また、従来の発光素子では、発光にむらが生じるという問題がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、発光効率よくかつむらなく発光する発光素子を提供する。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
本発明の発光素子は、pn接合するp型半導体部及びn型半導体部を少なくとも上面に有する基板と、前記基板の上に設けられかつ発光体を内部に有する透光性の絶縁体層と、前記絶縁体層の上に設けられた透光性電極と、前記p型半導体部の表面でありかつ上に前記絶縁体層が設けられていない部分の上に設けられた第1電極と、前記n型半導体部の表面でありかつ上に前記絶縁体層が設けられていない部分の上に設けられた第2電極とを備え、前記基板の上面の前記p型半導体部及び前記n型半導体部がpn接合した部分の上に前記絶縁体層および前記透光性電極がこの順で設けられたことを特徴とする。
【0010】
本発明者は、鋭意研究を行ったところ、本発明の発光素子において、p型半導体部に接続された第1電極に負の電圧を印加し、透光性電極に正の電圧を印加し、n型半導体部に接続された第2電極を第1電極と透光性電極の間の電位にすること、例えば接地することにより、FNトンネリングを利用した従来の発光素子に比べより低い電圧で発光素子を効率よく発光させることができるという知見を得て本発明の完成に至った。このことを図面を用いて説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態の発光素子の概略断面図である。図2は、本発明の一実施形態の発光素子のpn接合の近傍の半導体のバンド図である。図1に示すように、発光素子9の第1電極7に負の電圧、第2電極8にGND電圧を印加すると、逆バイアスとなり、その電位差が低い場合には、p型半導体部2とn型半導体部3の間では電流は流れない。第1電極7にある程度高い負の電圧を印加すると、図2のようなエネルギーバンドとなり、接合部にかかる電界が高くなるため、p型半導体の価電子帯の電子がn型半導体の伝導帯に流れるトンネル電流が発生する。このp型半導体の価電子帯からn型半導体の伝導帯に流れる電子は、第1電極7と第2電極8との間の電界又は第1電極7と正の電圧に印加された透光性電極6の間の電界により加速され、格子原子に衝突し、ホットエレクトロンとホットホールのペアが生じる。このホットエレクトロンの一部が第1電極7と透光性電極6または第2電極8と透光性電極6の間の電界により加速され、絶縁体層4に供給される。このホットエレクトロンが絶縁体層4の内部の発光体5と相互作用し、発光体5のエネルギー準位を励起し、発光体5を発光させることができると考えられる。
以下、発光原理に関する説明は上記のホットエレクトロンを例に進めるが、透光性電極6が負の電圧に印加されている場合は、ホットホールが絶縁体層4の内部の発光体5と相互作用し、発光体5のエネルギー準位を励起するため、上記と同様の発光を実現することが可能であると考えられる。
【0012】
この発光素子9を発光させるためには、トンネル電流が生じることができる電界を第1電極7と第2電極8の間に印加することと、発生したホットエレクトロンを絶縁体層4に供給することができる電界を第1電極7と透光性電極6の間または第2電極8と透光性電極6の間に印加することが必要である。この第1電極7と透光性電極6の間または第2電極8と透光性電極6の間に印加する電界は、FNトンネリングにより絶縁体層4の伝導帯に電子を供給できる電界よりも小さい電界である。このことにより、本発明の発光素子9では、絶縁体層4への電子注入効率はFNトンネリングに比べ高くなる。本発明の発光素子9の電子注入効率とFNトンネリングを利用した従来の発光素子の電子注入効率の比は、実験結果から、およそ7:1と算出された。従って、本発明の発光素子は、FNトンネリングを利用した従来の発光素子に比べより低い電圧で発光素子を効率よく発光させることができる。また、本発明の発光素子と従来の発光素子に同じ電圧を印加した場合、本発明の発光素子の方が輝度が大きくなる。また、本発明の発光素子では、絶縁体層の一箇所に電界が集中し素子全体が破壊してしまうという問題は生じない。
さらには、従来例に見られるFNトンネリングを利用した電子注入方法では、ホットエレクトロンの発生箇所および加速箇所が絶縁体層であるため、発光に必要な電圧を印加したとき、絶縁体層には多大なダメージが入るのに対し、本発明の電子注入方法によると、ホットエレクトロンの発生箇所はpn接合部であって、また、加速箇所は絶縁体層であり、分かれているために、高電界が印加される絶縁体層へのダメージが小さいという利点がある。
【0013】
また、FNトンネリングを利用した従来の発光素子では、電極間の電界が最も大きい箇所で強く発光が生じ、電極間の電界が小さい箇所ではほとんど発光しないため発光のむらが生じる。従って、絶縁体層4の膜厚ばらつきが発光むらに直接影響してしまう。
一方で、本発明の発光素子9では、基板1内のpn接合近傍で発生したホットエレクトロンが発光体5に相互作用することにより発光体5を発光させると考えられる。本方法で発生したホットエレクトロンのエネルギーは、第1電極7と透光性電極6または第2電極8と透光性電極6の間に印加された電界によって決まり、絶縁体層4の膜厚ばらつきと無関係にホットエレクトロンの得るエネルギーが決まる。従って、絶縁体層4の膜厚の影響は小さいため、発光むらを小さく抑えることが可能である。
また、絶縁体層4と接する基板1の上面に一定の間隔でpn接合を形成することにより又はpn接合を均一に形成することにより、絶縁体層4内で発光する発光体5を均一に設定することができるため、発光のむらをなくすことができる。
また、発光体5をGeO及びGeO2を含む微粒子とすることができる。このことにより、発光素子を340〜440nmの範囲内に発光ピークを有するエレクトロルミネッセンス発光させることができる。特許文献2などの絶縁体膜中に微粒子を形成した従来の発光素子の発光は可視光領域であり、そのほとんどは赤色など波長の比較的長い領域の発光であり、ディスプレイ等への応用の観点から、より短波長領域で発光する発光素子が望まれている。従って、本発明の発光素子は、ディスプレイ等への応用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0015】
1.発光素子の構造
本実施形態の発光素子9は、pn接合するp型半導体部2及びn型半導体部3を少なくとも上面に有する基板1と、基板1の上に設けられかつ発光体5を内部に有する透光性の絶縁体層4と、絶縁体層4の上に設けられた透光性電極6と、p型半導体部2の表面でありかつ上に絶縁体層4が設けられていない部分の上に設けられた第1電極7と、n型半導体部3の表面でありかつ上に絶縁体層4が設けられていない部分の上に設けられた第2電極8とを備え、基板1の上面のp型半導体部2及びn型半導体部3がpn接合した部分の上に絶縁体層4および透光性電極6がこの順で設けられたことを特徴とする。
以下、本実施形態の発光素子9の各構成要素について説明する。
【0016】
1−1.基板
基板1は、少なくとも上面にpn接合するp型半導体部2及びn型半導体部3を有すれば特に限定されない。例えばp型のシリコン基板の上部にn型領域が形成されたものでもよく、n型のシリコン基板の上部にp型領域が形成されたものでもよい。また、SiO2基板などの上にp型シリコンとn型シリコンを形成したものでもよく、Si基板の上にSiO2などの絶縁体層を形成し、その上にp型シリコンとn型シリコンを形成したものでもよい。その場合、SOI(Silicon On Insulator)基板上に本発明の素子を結晶シリコン基板上に形成してもよいし、または、CVD法等を用いてSiO2などの絶縁体層にアモルファスシリコンを形成し、その上に本発明の素子を形成してもよい。
【0017】
図3(a)は、本発明の一実施形態の発光素子の基板の一例であり、p型シリコン基板にn型シリコンを上面にくし型に形成し、p型シリコンの上面に第1電極7を形成し、n型シリコンの上面に第2電極8を形成した基板の平面図である。なお、図3(a)の点線で囲んだ部分に絶縁体層4及び透光性電極6を形成することができる。図3(b)は、本発明の一実施形態の発光素子の基板の一例であり、p型シリコン基板にn型シリコンを上面に井桁型に形成し、p型シリコンの上面に第1電極7を形成し、n型シリコンの上面に第2電極8を形成した基板の平面図である。なお、図3(b)の点線で囲んだ部分に絶縁体層4及び透光性電極6を形成することができる。図3(c)は、図3(a)の一点破線X−Y又は図3(b)の一点破線S−Tにおける発光素子の概略断面図である。基板1は具体的には図3(a)〜(c)のように形成することができる。
【0018】
1−2.p型半導体部
p型半導体部2は、基板1に含まれるp型半導体の部分でありn型半導体部3とpn接合すれば特に限定されないが、例えばp型シリコンであり、不純物濃度は、例えば1×1019〜1×1020/cm3(例えば1×1016、1×1017及び1×1018の何れか2つの間の範囲)である。
【0019】
1−3.n型半導体部
n型半導体部3は、基板1に含まれるn型半導体の部分でありp型半導体部2とpn接合すれば特に限定されないが、例えばn型シリコンであり、不純物濃度は、例えば1×1016〜1×1018/cm3である。
p型半導体部2およびn型半導体部3の不純物濃度は、p型半導体部2に負の電圧を印加し、透光性電極6に正の電圧を印加し、n型半導体部3にGND電圧を印加する場合の目安である。上記で説明したように本発明は、p型半導体部2にGND電圧を印加し、透光性電極6に負の電圧を印加し、n型半導体部3に正の電圧を印加しても同様の発光効果を奏すると考えられ、その場合はp型半導体部2およびn型半導体部3の不純物濃度を上記の目安の濃度と入れ替えればよい。
【0020】
1−4.pn接合
pn接合は、p型半導体部2とn型半導体部3が接する界面である。また、このpn接合する部分を絶縁体層4と接する基板1の上面に一定の間隔で形成することができる。また、pn接合する部分を絶縁体層4と接する基板1の上面に均一に形成することができる。具体的には、図3(a)又は(b)のようにpn接合を形成することができる。
このことにより本実施形態の発光素子9に電圧を印加することにより絶縁体層4をむらなく発光させることができる。これは、本実施形態の発光素子9では、pn接合近傍の半導体から絶縁体層4に電子を供給し、発光させるものであるため、pn接合する部分と透光性電極6との間の発光体5が発光するためである。
【0021】
1−5.第1電極
第1電極7は、p型半導体部2の表面でありかつ上に絶縁体層4が設けられていない部分の上に設けられ、p型半導体部2とオーミック接触することができる電極であれば特に限定されない。第1電極7は、例えば、Au、Pt、Ag、Co、Ni、Ti、Ta、Wなどである。
【0022】
1−6.第2電極
第2電極8は、n型半導体部3の表面でありかつ上に絶縁体層4が設けられていない部分の上に設けられ、n型半導体部3とオーミック接触することができる電極であれば特に限定されない。第2電極8は、例えば、Au、Pt、Ag、Co、Ni、Ti、Ta、Wなどである。
【0023】
1−7.透光性電極
透光性電極6は、波長300nm以上500nm以下の光の透過率が60%以上99.99%以下の電極であれば特に限定されない。透光性電極6は、例えば、ITOなどの金属酸化物薄膜またはAl、Ti、Taなどの金属薄膜またはSi、SiC、GaNなどの半導体薄膜である。
【0024】
1−8.絶縁体層
絶縁体層4は、基板1の上に設けられかつ発光体5を内部に有しかつ透光性であれば特に限定されない。例えば、絶縁体層4は、酸化シリコン、窒化シリコン又は酸窒化シリコンからなる。この場合、シリコン系の絶縁体であり、シリコンはゲルマニウムよりも酸素と結合しやすいので、ゲルマニウム原子が不必要に酸素と結合せず、また酸化シリコン、窒化シリコン又は酸窒化シリコンは比較的酸素を透過しにくいのでゲルマニウム原子が外気の浸透によって酸化されないので、発光が安定し劣化も少ない。また、酸化シリコン、窒化シリコン又は酸窒化シリコンは通常のシリコン半導体プロセスで製膜可能であるので量産性に優れる上、他の電子回路と組み合わせることが可能である。
絶縁体層4の厚さは、例えば10nm以上100nm以下(例えば10、20、30、40、50、60、70、80、90及び100nmのうちいずれか2つの間の範囲)である。
なお、本発明で透光性とは、本発明の発光素子9が発光する光を透過することができることをいう。絶縁体層4の光透過率は、例えば波長300〜500nmの光の透過率が80%以上であることが好ましい。発光体5がGeO及びGeO2を含む微粒子の場合、発光体5から放出される光のピーク波長は390nm前後であるので、波長300〜500nmでの光透過率が高ければその分だけ光取り出し効率が高くなるからである。
【0025】
1−9.発光体
発光体5は、絶縁体層4に形成されたもので発光源となるものであれば、特に限定されない。また、発光体5は絶縁体層4に複数形成されたものでもよい。
また、発光体5は、例えば微粒子、金属原子、金属イオンであり、また、例えば、ゲルマニウム、シリコン又はスズの微粒子である。また、発光体5は例えばGeO及びGeO2を含む微粒子とすることができる。この場合、発光体5はゲルマニウム(金属)を含んでもよい。発光体5の数密度は、特に限定されないが例えば、1×1016個/cm3〜1×1021個/cm3である。
【0026】
発光体5が微粒子の場合、発光体5は、好ましくは、最大粒径が1nm以上20nm以下である。この場合、発光効率が特に高くなるからである。本発明において、「最大粒径」とは、絶縁体層4の任意の断面(図1のような断面であってもよく、紙面に垂直な断面であってもよい。)の100nm角の範囲をTEM観察した場合に観察できた微粒子のうち粒径が最も大きいものの粒径を意味する。また、本発明において「粒径」とは、断面TEM写真で見た場合に、TEM写真に射影され微粒子の平面像が含むことのできる最も長い線分の長さを意味する。発光体5である微粒子の最大粒径は、例えば、1,2,3,4,5,6,7,8,9、10、12、14、16、18又は20nmである。発光体5である微粒子の最大粒径は、ここで例示した何れか2つの数値の間の範囲内であってもよく、何れか1つの数値以下であってもよい。
【0027】
酸化ゲルマニウム全体(GeO2+GeO)に対するGeOの割合は、XPSスペクトルのGeの3dピーク付近のスペクトルにおいて、GeO2に起因するピークの面積SGeO2と、GeOに起因するピークの面積SGeOを求め、SGeO/(SGeO2+SGeO)を算出することによって求めることができる。XPS測定のためのX線源には、例えば単色化したAl、Kα線(1486.6eV)を用いることができる。GeO2に起因するピークとGeOに起因するピークは、裾野が重なるが、図4に示すようにガウスフィッティングを行ってGeO2に起因するピークとGeOに起因するピークとを波形分離することによって面積SGeO2及びSGeOを求めることができる。GeO2及びGeOのピークエネルギーは、それぞれ約33.5,32eVである。
【0028】
発光体5がGeO及びGeO2を含む微粒子の場合、発光体5に含まれるGeOとGeO2の合計を100%としたときGeOを10%以上含むことができる。GeOの割合が小さすぎると発光しなかったり発光強度が小さくなりすぎる可能性がある。GeOの割合は、具体的には例えば10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、100%である。GeOの割合は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0029】
ところで、XPSスペクトルのGeの2pピーク付近のスペクトルにおいて、ゲルマニウム(Ge)に起因するピークの面積SGeと、酸化ゲルマニウム(GeO+GeO2)に起因するピークの面積S酸化Geを求め、SGeO/(SGe+S酸化Ge)を算出することによってGeの酸化率を求めることができる。この酸化率の平均値は、特に限定されないが、例えば、1,5,10,15,20,25,30,34.9,35,40,45,50,55,60,60.1,65,70,70.1,75,80,85,90,95,99,100%である。この酸化率の平均値は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0030】
1−10.発光波長
本実施形態の発光素子9は、上記の電圧印加をした際のエレクトロルミネッセンス(EL)の波長のピークが340〜440nm(より厳密には、350〜430nm,360〜420nm,370〜410nm,380〜400nm又は385〜395nm)の範囲内である。または、絶縁体層4に対して電子線を5keVで照射した際のカソードルミネッセンス(CL)の波長のピークが340〜440nm(より厳密には、350〜430nm,360〜420nm,370〜410nm,380〜400nm又は385〜395nm)の範囲内であってもよい。ELの波長は、CLの波長から若干ずれる可能性があるが、CLの波長とほぼ同じである。
【0031】
1−11.発光素子の使用方法
本実施形態の発光素子9は、第1電極7に負の電圧を印加し、透光性電極6に正の電圧を印加し、第2電極8を第1電極7と透光性電極6の間の電位にすること、例えば接地することにより、発光させることができる。
印加する電圧の大きさは、第1電極7と第2電極8の間でトンネル電流を流すことができる電界を印加することができ、トンネル電流により発生したホットエレクトロンを絶縁体層4に供給することができる電界を印加することができれば特に限定されない。例えば、第1電極7に−10Vの電圧を印加し、透光性電極6に+25Vの電圧を印加し、第2電極を接地することにより、発光させることができる。
なお、本実施形態の発光素子9では、ホットエレクトロンによる発光に加え、FNトンネリングによる発光を伴ってもよい。
【0032】
2.発光素子の製造方法
2−1.基板の形成
pn接合するp型半導体部2及びn型半導体部3を少なくとも上面に有する基板1を形成する。形成方法は、特に限定されないが、例えばp型シリコン基板に所望の形状でマスクを形成し、n型不純物であるリンをイオン注入し、その後マスクを除去することにより、上面にp型シリコンとn型シリコンが形成された基板を形成することができる。
【0033】
2−2.絶縁体層の形成
基板1の上に透光性の絶縁体層4を形成する。例えば酸化シリコンや窒化シリコンをCVDやスパッタリングで堆積し形成することができる。
【0034】
2−3.発光体の形成
絶縁体層4の内部に発光体5を形成する。絶縁体層4の内部に発光体5を形成する方法は、特に限定されないが、発光体5がGeO及びGeO2を含む微粒子の場合、絶縁体層4に対してゲルマニウムをイオン注入し、その後、熱処理を行う方法が考えられる。イオン注入後の熱処理によってイオンが凝集して多数の微粒子が絶縁体層4中に形成されるとともにGeが酸化されてGeOおよびGeO2が形成される。ゲルマニウムのイオン注入は、例えば、注入エネルギー5〜100keVで注入量1×1014〜1×1017ions/cm2の条件で行うことができる。
【0035】
GeOとGeO2の割合は、ゲルマニウムの注入量、熱処理時間、熱処理温度、熱処理雰囲気等を変化させることによって適宜調節することができる。具体的には熱処理雰囲気中の酸素の分圧や流量を調整することによってGeOの割合を高めることができる。例えば膜厚100nmの酸化シリコン中のゲルマニウムの原子濃度が10%以下の場合において、1時間、800℃の熱処理においては、真空引き(毎分400リットル)しながら不活性ガスを供給(毎分50ミリリットル)した場合は、ゲルマニウムは一部酸素と結合するが酸素が不足しているので完全には酸化されずGeOが生成できる。不活性ガスに体積20%の酸素を混合した1気圧の雰囲気中では、酸素の供給過多でGeO2が多く形成され、GeOが減少する。GeOの割合を高めるのに適した雰囲気は、ゲルマニウムの注入条件や熱処理時間、温度など他のパラメーターにも左右されるが、一例では、ゲルマニウムの原子濃度を比較的高くし、不活性ガスに酸素を混合したガスを真空引きしながら供給することによってGeOの割合を高めることができる。
【0036】
また、ゲルマニウムは、絶縁体層4中のゲルマニウム濃度が0.1〜10.0原子%になるようにイオン注入することが好ましい。1時間、600℃の熱処理において、真空引き(毎分400リットル)しながら不活性ガスを供給(毎分50ミリリットル)した場合は、この範囲であれば発光効率が比較的高くなるからである。ゲルマニウム濃度は、具体的には例えば0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1.0,2.0,3.0,4.0,5.0,6.0,7.0,8.0,9.0,10.0原子%である。この濃度は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。ゲルマニウム濃度は、例えば高分解能RBS(ラザフォード後方散乱)法によって測定することができる。その他、SIMS(二次イオン質量分析法)等の様々な分析法によって測定することが可能である。なお、ゲルマニウム濃度の測定は、ゲルマニウム濃度がピーク値の1/100以上となる範囲で行う。熱処理の温度は、400〜900℃が好ましく500〜800℃がさらに好ましい。この範囲であれば発光効率が比較的高くなるからである。
【0037】
2−4.透光性電極の形成
発光体5が形成された絶縁体層7の上に透光性電極6を形成する。例えばITO電極であれば塗布法、スパッタリング等により形成することができる。
【0038】
2−5.第1電極及び第2電極の形成
第1電極7をp型半導体部2の表面でありかつ上に絶縁体層4が設けられていない部分の上に形成する。また、第2電極をn型半導体部の表面でありかつ上に絶縁体層4が設けられていない部分の上に形成する。形成方法は特に限定されないが、例えば、塗布法、スパッタリング等により形成することができる。
【0039】
3−1.EL実験
以下の方法で本発明の発光波長特性および発光原因を確認するための参考実験としてEL実験を行った。
まず酸素雰囲気中,1050℃、100分でシリコン基板を熱酸化することによって表面にシリコン熱酸化膜を形成した。
次に、シリコン熱酸化膜中にGeイオンを50keVで1.4×1016ions/cm2、20keVで3.2×1015ions/cm2、10keVで2.2×1015ions/cm2の条件でこの順番で多重に注入した。
【0040】
次に、ロータリーポンプで引きながら、窒素を流入させ、800℃で1時間熱処理した。この熱処理中に注入したGeの凝集及び酸化によってGeが酸化されて少なくとも一部がGeO及びGeO2に酸化される。
次に、シリコン熱酸化膜上にITO電極を形成し、シリコン基板側にアルミニウム電極を形成し、EL実験に用いる発光素子を得た。
この発光素子のITO電極とアルミニウム電極の間に30V程度の電圧を印加したところ青色の発光が確認された。
また、この青色の発光の発光スペクトルを図5に示す。図5を参照すると、確認された青色の発光は、340nmから550nmの波長の光であり、340nmから440nmの間にピークを有するエレクトロルミネッセンス発光であることが分かった。
【0041】
3−2.GeO及びGeO2と発光との関係
以下に示す方法によって、GeO及びGeO2が本発明の発光素子の発光に関与していることを確認した。
【0042】
まず、発光機構について2つの仮説を考えた。第1の仮説は、Geナノ粒子が量子サイズ効果によって発光が起こっているというものである。この発光機構は、通常のナノ粒子の発光機構と同じであり、発光波長が粒子サイズに依存する。第2の仮説は、GeO及びGeO2が発光に関与するというものである。GeOの励起状態と基底状態のエネルギー準位差は、2.9〜3.2eV(387〜427nm)であるので(L. Skuja, J. Non-Cryst. Solids, 239 (1998) 16-48.を参照)、第2の仮説によれば、発光波長は、387〜427nm程度になり、この波長は粒子サイズに依存しないと考えられる。
【0043】
これらの仮説のどちらが正しいのかを検証するために、互いに異なる種々の温度条件と注入条件で発光素子を作製し、この素子に上記の方法で電圧を印加したときのEL波長を測定した。EL波長の測定には、「島津製作所製 分光蛍光光度計RF−5300PC」を用いた。発光素子の作製方法は、熱処理温度やGe注入量を適宜変化させた以外は「3−1.EL実験」で説明した通りである。
【0044】
得られた結果を図6,図7に示す。図6中の温度は、熱処理温度(時間は1時間)を示す。図7中の「原子%」は、Ge注入後のシリコン酸化膜内でのGe濃度を示す。図6でのGe濃度は5.0原子%であり、図7での熱処理温度は700℃(時間は1時間)である。
【0045】
図6,図7を参照すると、熱処理温度やGe濃度が変わってもELのピーク波長は、ほぼ390nmで一定であることが分かる。熱処理温度やGe濃度が変わると、形成されるナノ粒子のサイズも変化するので、発光機構が第1の仮説に従うのであればELのピーク波長がずれるはずである。従って、図6,図7で確認されたELの波長は、第1の仮説では説明ができない。一方、波長390nmは、第2の仮説で予測された発光波長(387〜427nm)の範囲内である。
【0046】
以上より、本発明の発光素子からのEL波長は、第1の仮説では説明できず、第2の仮説で説明できることが分かる。従って、本発明の発光素子の発光には、GeO及びGeO2が関与していることが確認できた。
【0047】
ところで、図6を参照すると、熱処理温度は、600〜700℃が好ましいことが分かる。また、図7を参照すると、Ge濃度は、3.0原子%以上が好ましく、3.0〜5.0原子%がさらに好ましいことが分かる。
【0048】
3−3.Ge,GeO,GeO2の割合の深さ方向分布
「3−1.EL実験」で説明した方法に従って発光素子を作製し、シリコン酸化膜内でのGe,GeO,GeO2の割合の深さ方向分布を調べた。ここで作製した発光素子のGe濃度は5.0原子%であり、熱処理温度は800℃(時間は1時間)である。
XPSは通常試料表面から深さ数nmの範囲の分析ができるので、アルゴンイオンビームによるエッチングとXPS測定を交互に行うことによって、深さ50nmまでの領域においてGe,GeO,GeO2の割合の深さ方向の変化を調べた。アルゴンイオンビームのエネルギーは4kV,ビーム電流は15mAで、1回当り300秒照射した。その時のXPS測定結果を各深さについて、分かり易いように縦方向にグラフを平行移動して並べたものを図8(a)に示す。また、各深さに含まれるGe原子の状態を、Ge(金属Ge),GeO,GeO2の割合で示したグラフを図8(b)に示す。
【0049】
これによると、「3−1.EL実験」で説明した注入方法でGeの注入濃度が比較的高い深さ10〜50nmの領域では、酸化されていないGeの割合は30〜70%である。GeO2は0〜20%の間で、およそ10%である。Geが完全に酸化されず一部酸化したGeOは10〜50%の間である。
【0050】
各深さでのGe,GeO,GeO2の割合は、スペクトルのGeの3dピーク付近のXPSスペクトルにおいて、Geに起因するピークの面積SGeと、GeOに起因するピークの面積SGeOと、GeO2に起因するピークの面積SGeO2とを求め、(SG,SGeO,SGeO2)/(SG+SGeO+SGeO2)を各深さで算出することによって求めた。また、各深さでの、酸化ゲルマニウム全体(GeO2+GeO)に対するGeO,GeO2の割合を図9のグラフに示す。
【0051】
これによると、酸化ゲルマニウムの内、完全に酸化されてGeO2となっている割合は、ゲルマニウムの濃度が低く、雰囲気の影響を強く受けてゲルマニウムが完全に酸化されやすい表面近傍を除いて、およそ20〜60%の間で、Geが完全に酸化されず一部酸化したGeOはおよそ40〜80%の間である。「3−1.EL実験」で説明した注入方法でGeの注入濃度が比較的高い深さ10〜40nmの領域では、酸化ゲルマニウムの内、完全に酸化されてGeO2となっている割合はおよそ50%以下で、およそ20〜30%である。Geが完全に酸化されず一部酸化したGeOはおよそ50%以上で70〜80%である。各深さでのGeO,GeO2の割合は、スペクトルのGeの3dピーク付近のXPSスペクトルにおいて、GeOに起因するピークの面積SGeOと、GeO2に起因するピークの面積SGeO2とを求め、(SGeO,SGeO2)/(SGeO+SGeO2)を各深さで算出することによって求めた。XPSスペクトルは、X線源として単色化したAl、Kα線(1486.6eV)を用いて測定した。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態の発光素子の概略断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の発光素子のpn接合の近傍の半導体のバンド図である。
【図3】(a)及び(b)は本発明の一実施形態の発光素子の基板の一例であり、(a)はくし型のn型半導体部を形成した基板の平面図であり、(b)は井桁型のn型半導体部を形成した基板の平面図である。(c)は、図3(a)の一点破線X−Y又は図3(b)の一点破線S−Tにおける発光素子の概略断面図である。
【図4】GeOの割合を算出するためにXPSスペクトルをガウスフィッティング分解した一例を示したグラフである。
【図5】EL測定実験のために作製した発光素子の発光スペクトルを示したグラフである。
【図6】種々の温度で熱処理を行って作製した発光素子についてのEL波長測定結果を示したグラフである。
【図7】種々のGe濃度の発光素子についてのEL波長測定結果を示したグラフである。
【図8】(a)は種々の深さで測定したXPSスペクトルを示す。(b)は、種々の深さでのGe、GeO、GeO2の割合を示すグラフである。
【図9】種々の深さでの酸化ゲルマニウム全体(GeO2+GeO)に対するGeO、GeO2の割合を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1: 基板 2:p型半導体部 3:n型半導体部 4:絶縁体層 5:発光体 6:透光性電極 7:第1電極 8:第2電極 9:発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pn接合するp型半導体部及びn型半導体部を少なくとも上面に有する基板と、
前記基板の上に設けられかつ発光体を内部に有する透光性の絶縁体層と、
前記絶縁体層の上に設けられた透光性電極と、
前記p型半導体部の表面でありかつ上に前記絶縁体層が設けられていない部分の上に設けられた第1電極と、
前記n型半導体部の表面でありかつ上に前記絶縁体層が設けられていない部分の上に設けられた第2電極とを備え、
前記基板の上面の前記p型半導体部及び前記n型半導体部がpn接合した部分の上に前記絶縁体層および前記透光性電極がこの順で設けられたことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記発光体は、GeO及びGeO2を含む微粒子である請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記p型半導体部及び前記n型半導体部がpn接合する部分は、前記絶縁体層と接する前記基板の上面に一定の間隔で形成された請求項1又は2に記載の素子。
【請求項4】
前記p型半導体部及び前記n型半導体部がpn接合する部分は、前記絶縁体層と接する前記基板の上面に均一に形成された請求項1〜3のいずれか1つに記載の素子。
【請求項5】
前記p型半導体部及び前記n型半導体部のうち少なくとも1つは、5×1018cm-3以上の不純物濃度を有する請求項1〜4のいずれか1つに記載の素子。
【請求項6】
前記p型半導体部及び前記n型半導体部は、シリコンを主成分とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の素子。
【請求項7】
前記透光性電極は、波長300nm以上500nm以下の光の透過率が60%以上99.99%以下である請求項1〜6のいずれか1つに記載の素子。
【請求項8】
前記透光性電極は、金属酸化物薄膜、金属薄膜または半導体薄膜からなる請求項1〜7のいずれか1つに記載の素子。
【請求項9】
前記発光体は、1nm以上20nm以下の最大粒径を有する微粒子である請求項1〜8のいずれか1つに記載の素子。
【請求項10】
第1電極に負の電圧を印加しかつ第2電極に第1電極に正の電圧を印加しかつ前記透光性電極に正または負の電圧を印加することによって発光する請求項1〜9のいずれか1つに記載の素子。
【請求項11】
前記発光体は、第1電極に負の電圧を印加しかつ第2電極に正の電圧を印加しかつ前記透光性電極に正または負の電圧を印加したとき、340〜440nmの範囲内に発光波長のピークを有するエレクトロルミネッセンスを示す請求項1〜10のいずれか1つに記載の素子。
【請求項12】
前記発光体は、GeO及びGeO2を含む微粒子でありかつ前記発光体に含まれるGeOとGeO2の合計を100%としたときGeOを10%以上含む請求項1〜11のいずれか1つに記載の素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−135259(P2010−135259A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312204(P2008−312204)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】