説明

発光素子

有機発光素子に用いられる組成物であって、同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料を含有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機発光素子及び有機発光素子の製造に用いられる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、有機発光素子(OLED)は、カソード、アノード、及びこれらカソードとアノードの間に配置される有機発光領域を有する。US4539507(特許文献1)等に記載の小分子材料やPCT/WO90/13148(特許文献2)等に記載のポリマー材料を有機発光材料として使用できる。カソードは発光領域に電子を注入し、アノードは正孔を注入する。これら電子と正孔が結合して光子が発生する。
【0003】
OLEDの典型的な断面構造を図1に示す。通常、このOLEDは、インジウムスズ酸化物(ITO)層等の透明アノード2で被覆したガラス又はプラスチックの基板1の上に形成される。このITO付き基板を、少なくとも有機電界発光材料からなる層3及びバリウム等の低仕事関数金属からなるカソード材料4で被覆し、更に任意にアルミニウムからなるキャッピング層(図示せず)で被覆する。例えば電極と電界発光材料の間の電荷輸送を改善するといった目的で、素子に更なる層を追加してもよい。
【0004】
OLEDをディスプレイ用途に用いると従来のディスプレイよりも優れた特性を示す可能性があるため、このような用途に関心が高まっている。OLEDは比較的低い動作電圧及び電気消費量を示し、また容易に加工して大面積ディスプレイを製造できる。実用レベルでは、高輝度で効率良く作動し、一方で製造信頼性及び使用安定性が高いOLEDを製造する必要がある。
【0005】
OLEDをフラットパネルディスプレイ用バックライトのような照明に用いることも可能である。この用途では、白色発光OLEDの製造に特に関心が持たれている。しかしながら、ほぼ白色のCIE(Commission Internationale d'Eclairage、国際照明委員会)座標を示す光を放出可能なOLEDの製造について提案がなされてきたが、本出願者らは実用に堪えるOLEDを製造できた成功例は認知していない。
【0006】
US5683823(特許文献3)は、青緑色領域の発光を示す蛍光ホスト材料中に赤色蛍光発光材料を分散してなる蛍光発光層を有し、そのため実質的に白色の発光を示す電界発光素子に関するものである。
【0007】
US6127693(特許文献4)は、白色に近い発光が可能な発光ダイオード(LED)を提供している。この素子の有機発光層は、青色蛍光発光性ポリ(p−フェニレンビニレン)と赤色蛍光発光性アルコキシ置換PPV誘導体の混合物を含有し、そのため太陽光に類似の黄白色光の発光が可能である。
【0008】
Polymer Preprints, 41, 835 (2000)(非特許文献1)において、チェン(Chen)らは白色発光を意図した発光ダイオードについて述べている。記載されている2層素子は架橋正孔輸送層に隣接する青色−緑色ドープポリマー層を有し、電荷トラップによって赤色光を発する。この青色/緑色層は、緑色蛍光色素ピロメテン546(Py546)をドープした9,9−ビス(2’−エチルヘキシル)−ポリフルオレン(DEHF)からなる。青色、緑色、及び赤色の3色を鮮明に発光させ、これを組み合わせて白色発光を得るために、緑色ドーパント色素が必要とされる。
【0009】
US2005/013289(特許文献5)は有機白色発光素子を提供している。青色発光特性を有するホストと、橙色発光特性又は赤色発光特性を有するゲストとが、発光層にドープされる。電子輸送層は緑色発光特性を有する材料を含有する。
【0010】
EP1434284(特許文献6)は有機白色電界発光素子に関するものである。この素子は、少なくとも2種のエレクトロルミネセント(EL)材料と少なくとも1種のフォトルミネセント(PL)材料とを含有する。青色EL材料、赤色EL材料、及び緑色PL材料の組み合わせによる白色発光が開示されている。
【0011】
Advanced Materials, 17, 2053-2058 (2005)(非特許文献2)において、ゴング(Gong)らは、発光性半導体ポリマーと有機金属錯体の混合物を発光層に用いた多層白色発光PLEDを開示している。この混合物は青色蛍光ポリマー、緑色蛍光ポリマー、及び赤色燐光有機金属錯体を含有する。
【0012】
要約すると、青色発光体及び赤色発光体を混合し、更に任意に緑色発光体を用いて、白色光を生成する試みが知られている。
【0013】
しかしながら、十分に安定で、且つ照明用白色光源としての実用に適した効率で作動する有機発光素子が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4539507号
【特許文献2】PCT/WO90/13148
【特許文献3】米国特許第5683823号
【特許文献4】米国特許第6127693号
【特許文献5】US2005/013289
【特許文献6】欧州特許第1434284号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Polymer Preprints, 41, 835 (2000)
【非特許文献2】Advanced Materials, 17, 2053-2058 (2005)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、赤色蛍光発光材料及び青色蛍光発光材料を用いた素子では、素子耐用期間にわたって青色領域への色変化が起こることを発見した。更に、本発明者らは、赤色燐光発光材料及び青色蛍光発光材料を用いた素子では、耐用期間にわたって赤色領域への色変化が起こることを発見した。理論に拘束されるものではないが、素子の耐用期間中、赤色蛍光材料のフォトルミネセント効率は青色材料と比較してより低下するが、一方で赤色燐光材料のフォトルミネセント効率は青色材料と比較してより上昇すると言える。また、赤色材料と青色材料の間のエネルギー伝達(例えばフォスター伝達)の速度変化の影響でこのような結果が得られたと仮定できる。素子の耐用期間中に発光色が有意に変化しないのが望ましいのは明らかである。
【0017】
本発明者らは、青色発光材料と共に赤色蛍光材料と赤色燐光材料の両方を用いた素子によって、上記問題を解決した。このような素子は、耐用期間中に大きな色変化を起こさずに安定した白色光を放出できる。素子の耐用期間中、赤色燐光材料からの赤色発光と比較して、赤色蛍光材料からの赤色発光の比率は低下する。この2つの成分が互いに補い合い、素子全体の赤色光と青色光の比率は一定に保たれ、発光スペクトルは比較的安定なまま保持される。
【0018】
本発明者らは、色安定性に問題があるどんな有機発光素子に対しても、上記白色発光素子の原理は広範に適用できることを見出した。具体的には、蛍光材料と燐光材料の安定特性の相違を利用することによって、有機発光素子の耐用期間中にこれら材料を互いに補い合わせ、素子全体の発光スペクトルをより安定化することができる。
【0019】
上記の観点から、本発明では、有機発光素子に用いられる組成物であって、同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料を含有する組成物が提供される。
【0020】
発明者らは、異なる色の有機蛍光発光材料と有機燐光発光材料を含有する組成物が公知であることは承知しているが、有機発光素子に同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料を用いた例については認知していない。実際のところ、従来は、同じ色を示す2種の異なる材料を用いる必要は無いと考えられてきた。
【0021】
しかしながら、本発明者らが有機発光素子の耐用期間における蛍光材料及び燐光材料の発光特性について研究した結果、同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料を用いると、素子の色安定性を改善できるという利点があることが分かった。
【0022】
「同一色」とは、例えば上記材料が共に赤色電界発光材料、黄色電界発光材料、緑色電界発光材料、又は青色電界発光材料であることを意味する。青色電界発光材料は通常は蛍光発光性であることから、上記材料は好ましくは共に赤色電界発光材料、黄色電界発光材料、又は緑色電界発光材料である。両材料は共に赤色電界発光材料であることが最も好ましい。素子の耐用期間中により高い色安定性を示す白色発光素子において、赤色蛍光発光材料及び赤色燐光発光材料が特に有用であることを発見した。また、青色電界発光材料を含有する白色発光組成物において、両材料は共に黄色電界発光材料であってもよい。
【0023】
「赤色電界発光材料」は電界発光により600〜750nm、好ましくは600〜700nm、より好ましくは610〜650nmの波長の光を放射する有機材料であり、最も好ましくは約650〜660nmに発光ピークを有する。本発明の目的では、赤色発光は、0.4以上、好ましくは0.64のCIE−x座標、及び0.4以下、好ましくは0.33のCIE−y座標を示す発光と定義できる。
【0024】
「緑色電界発光材料」は電界発光により510〜580nm、好ましくは510〜570nmの波長の光を放射する有機材料である。
【0025】
「青色電界発光材料」は電界発光により400〜500nm、より好ましくは430〜500nmの波長の光を放射する有機材料である。本発明の目的では、青色発光は、0.25以下、より好ましくは0.2以下のCIE−x座標、及び0.25以下、より好ましくは0.2以下のCIE−y座標を示す発光と定義できる。
【0026】
白色光は、好ましくは3000〜9000Kの黒体による発光に等価なCIE−x座標を示し、且つ黒体による発光の0.05の範囲内のCIE−y座標を示す光である。「純粋な」白色光は0.33、0.33のCIE座標を示す。
【0027】
蛍光材料及び燐光材料の発光スペクトル中の主要ピークが重なり合うのが好ましい。これら2種の材料の発光スペクトルの主要ピークの半値全幅(FWHM)が重なり合うのがより好ましい。これら2種の材料の発光スペクトル中、主要ピークのピーク波長が互いの40nmの範囲内、更には20nmの範囲内であるのが更に好ましく、10nmの範囲内であるのが最も好ましい。
【0028】
本発明の一実施形態においては、組成物は、異なる発光色の更なる有機発光材料を含有する。更なる有機発光材料は青色蛍光材料等の蛍光材料であってよい。赤色蛍光材料及び赤色燐光材料と青色蛍光材料との組み合わせは、色安定性に優れた白色発光素子の形成に有用であることを発見した。しかしながら、本発明の思想を用いた他の材料の組み合わせも使用できると考えられる。例えば、第1の色を示す蛍光材料及び燐光材料、第1の色とは異なる第2の色を示す蛍光材料及び燐光材料、並びに更なる発光材料を含有する色安定性素子を製造できる。このような素子は、例えば赤色蛍光材料及び赤色燐光材料、緑色蛍光材料及び緑色燐光材料、並びに青色蛍光材料を含有する白色発光素子であってよい。この場合、赤色材料及び緑色材料の色安定性について明らかにする。
【0029】
燐光材料からの発光が同一色の蛍光材料によって消光されてしまうのではないかと考えられる。しかしながら、意外にもこのような現象は起こらないことが分かった。組成物中の同一色の燐光材料及び蛍光材料の濃度は低いことが好ましく、例えば、更なる発光材料に対して、好ましくは5モル%未満、より好ましくは1モル%未満である。赤色又は黄色の燐光材料と赤色又は黄色の蛍光材料とを、青色発光材料に対して低濃度で用いると、組成物の主成分である青色発光材料は赤色燐光材料よりも高い三重項エネルギーを示すため、消光の問題が低減又は除去されると考えられる。
【0030】
蛍光材料又は燐光材料をポリマーの繰り返し単位として付与する場合、該材料のモル百分率は、組成物中の他の単位(重合性単位又は非重合性単位)に対する、繰り返し単位のモル数で示す。
【0031】
組成物中の材料は、別個の材料として混合物中で混合されていてよい。或いは、組成物中の材料が互いに化学的に結合していてもよい。特に好ましい一例においては、材料はコポリマー中で化学的に結合している。例えば、赤色蛍光発光単位、赤色燐光発光単位、及び青色蛍光発光単位を含む白色発光性コポリマーを調製してよい。これら材料を混合する方法と化学的に結合する方法を組み合わせて用いてもよい。例えば、赤色蛍光発光単位及び青色蛍光発光単位を含むコポリマーを、赤色燐光発光材料と混合して、組成物として白色発光混合物を調製してもよい。
【0032】
有機正孔輸送材料及び/又は有機電子輸送材料のような他の非発光材料を組成物に加えてもよい。その代わりに、又は更に加えて、1以上の発光材料が正孔輸送性及び/又は電子輸送性を有していてよい。組成物が、発光性繰り返し単位に加えて、正孔輸送性繰り返し単位及び/又は電子輸送性繰り返し単位を含む発光性コポリマーを含有するのが好ましい。
【0033】
好ましくは、組成物中の材料は溶解処理可能であり、組成物は溶媒を含有し、該溶媒中に材料が溶解又は分散される。即ち、溶解処理法を用いて組成物を堆積させることができる。本発明の組成物は、インクジェット印刷、スピンコーティング、ディップコーティング、ロール印刷、スクリーン印刷等のいかなる溶解処理法で堆積させてもよい。
【0034】
組成物中の1以上の材料が架橋可能なものであってよい。このような場合、組成物を堆積させた後、1以上の材料を架橋させてより堅牢で安定な架橋層を形成して、有機発光素子を製造することができる。
【0035】
一例においては、組成物中の1つ以上の材料が選択的に架橋可能であり、そのため組成物を堆積させた後に選択的に架橋することにより、相互貫入網目構造(interpenetrating network)又は半相互貫入網目構造(semi-interpenetrating network)を形成することができる。一実施形態において、組成物は2種のポリマーを含有する。ポリマーの一方のみが架橋され、他方が例えば単純な直鎖状の非官能性ポリマーであり、架橋マトリクスを通して相分離凝集体ではなく連続相として存在していれば、半相互貫入網目構造が形成される。両方のポリマーが選択的に架橋され、第1架橋マトリクスが第2架橋マトリクスを通して連続相として存在し、これにより第1架橋マトリクスと第2架橋マトリクスが相互貫入網目構造を形成していてもよい。このような場合、2種のポリマー同士が架橋されることは殆ど又は全くない。
【0036】
本発明の他の態様によれば、アノード、カソード、及びこれらアノードとカソードの間に配置される有機発光領域を有する有機発光素子が提供され、該有機発光領域は同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料を含有する。
【0037】
同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料は、別々の層に含まれていても同一の層に含まれていてもよく、好ましくは同一の層に含まれる。
【0038】
上記有機発光素子は、フラットパネルディスプレイ用バックライトや、他の照明用途(特に環境照明光源)にも使用し得る。
【0039】
本発明の他の態様によれば、白色光を発する有機発光素子であって、駆動中にその発光輝度が当初の半分に低下するまでの期間にわたって、色変化がCIE座標で0.02未満である有機発光素子が提供される。即ち、この有機発光素子からの発光は、CIEチャートの白色領域を中心とする半径がCIE座標0.02の円内に保持される。この円の半径は、より好ましくはCIE座標0.015未満であり、最も好ましくはCIE座標0.013未満である。
【0040】
典型的には、上記素子は3成分発光系を含有し、その他の発光材料を含まない。例えば、素子は赤色蛍光材料、赤色燐光材料、及び青色電界発光材料を含有してよい。
【0041】
青色電界発光材料は、好ましくは青色電界発光性ポリマーを含有し、より好ましくは共役ポリマー(通常はコポリマー)を含有する。このポリマーは溶解処理可能であることが好ましい。青色電界発光材料は好ましくは蛍光発光性である。
【0042】
青色電界発光材料は好ましくは半導体ポリマーであり、トリアリールアミン繰り返し単位を含んでいてよい。特に好ましいトリアリールアミン繰り返し単位は、下記式1〜6:
【化1】

(式中、X、Y、A、B、C、及びDはそれぞれ独立にH及び置換基から選ばれる。)により表されるものである。より好ましくは、X、Y、A、B、C、及びDのうち1つ以上が、それぞれ独立に、任意に置換された分岐状又は直鎖状のアルキル基、アリール基、パーフルオロアルキル基、チオアルキル基、シアノ基、アルコキシ基、ヘテロアリール基、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基からなる群から選ばれる。最も好ましくは、X、Y、A、及びBがC1−10アルキルである。繰り返し単位1〜6中の任意の2つのフェニル基は、いずれも直接結合又は2価部位(好ましくはヘテロ原子、より好ましくはO又はS)によって連結されていてよい。
【0043】
赤色蛍光材料は、好ましくは赤色電界発光性ポリマーを含有し、より好ましくは共役ポリマー(通常はコポリマー)を含有する。このポリマーは溶解処理可能であることが好ましい。
【0044】
好ましい赤色蛍光材料は、下記式(8):
【化2】

(式中、X、Y、及びZはそれぞれ独立にO、S、CR、SiR、又はNRであり、より好ましくはO又はSであり、最も好ましくはSであり、Rはそれぞれ独立にアルキル、アリール、又はHである。)により表される任意に置換された繰り返し単位を含むポリマーを含有する。式(8)で表される繰り返し単位の好ましい置換基はC1−20アルキルであり、これは該単位中の1つ以上の環上に存在していてよい。
【0045】
式(8)で表される繰り返し単位が置換されている場合、アルキル、アルコキシ、並びに任意に置換されたアリール及びヘテロアリールからなる群から選ばれる1つ以上の置換基で置換されているのが好ましい。
【0046】
より好ましくは、赤色蛍光材料は、任意に置換された式(8)で表される繰り返し単位と、電子輸送性繰り返し単位及び/又は正孔輸送性繰り返し単位とを含むコポリマーである。電子輸送性繰り返し単位は、任意に置換された2,7−結合フルオレンを含むのが特に好ましく、下記式(7):
【化3】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素、並びに任意に置換されたアルキル、アルコキシ、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、及びヘテロアリールアルキルから選ばれる。)により表される繰り返し単位であるのが最も好ましい。R及びRの少なくとも1つが任意に置換されたC−C20アルキル又はアリール基を含むのがより好ましい。
【0047】
赤色蛍光発光性コポリマー中の正孔輸送性繰り返し単位は、上記式1〜6のトリアリールアミン繰り返し単位を含むのが特に好ましい。
【0048】
例えば、赤色燐光材料は、金属(M)が3つの任意に置換された二座配位子で囲まれてなる金属錯体であってよい。このような赤色燐光材料の例として、トリス(フェニルイソキノリン)イリジウム(III)が挙げられる。金属錯体はアルキル基やアルコキシ基等の可溶化置換基で置換されていてよい。赤色燐光材料が、1つ以上のデンドロンで囲まれたデンドリマーのコア部を形成していてよい。デンドロンは共役しているのが好ましく、デンドリマーを可溶化するための表面基を有するのが好ましい。特に好ましいデンドロンはWO02/066552に開示されている。赤色燐光材料を、ポリマーの繰り返し単位及び/又は末端キャッピング基として付与してもよい。繰り返し単位として付与する場合、赤色燐光材料をポリマー主鎖中の繰り返し単位として、又は主鎖から延びる置換基として用いてよい。
【0049】
正孔輸送材料を含有する正孔輸送層をアノードと有機発光領域の間に配置してもよい。適当な正孔輸送材料としては、正孔輸送性ポリマー(特にトリアリールアミン繰り返し単位を含むポリマー)が挙げられる。好ましいトリアリールアミン繰り返し単位としては、一般式1〜6で表されるものが挙げられる。
【0050】
特に好ましいこの種の正孔輸送性ポリマーは、フルオレン繰り返し単位とトリアリールアミン繰り返し単位のABコポリマーである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】OLEDの典型的な断面を示す図である。
【図2】赤色蛍光材料及び青色蛍光材料を含有する素子の駆動中の発光スペクトル変化を示す図である。
【図3】赤色蛍光材料、赤色燐光材料、及び青色蛍光材料を含有する素子の駆動中の発光スペクトル変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、添付図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
図1に示すように、本発明による電界発光素子は、透明なガラス又はプラスチックからなる基板1、インジウムスズ酸化物からなるアノード2、及びカソード4を含む構造を有する。アノード2とカソード4の間には有機発光領域3が形成される。
【0053】
アノード2とカソード3の間に、電荷輸送層、電荷注入層、及び/又は電荷ブロック層といった更なる層を配置してもよい。
【0054】
特に、アノード2と電界発光層3の間にドープ有機材料からなる導電性正孔注入層を形成し、アノードから該層又は半導体ポリマー層への正孔注入を補助するのが望ましい。ドープ有機正孔注入材料の例としては、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDT)、特にEP0901176及びEP0947123に開示されているようなポリスチレンスルホネート(PSS)をドープしたPEDTや、US5723873及びUS5798170に開示されているようなポリアニリン等が挙げられる。
【0055】
アノード2と電界発光層3の間に正孔輸送層を配置する場合は、正孔輸送層のHOMO準位は好ましくは5.5eV以下、より好ましくは4.8〜5.5eV程度である。
【0056】
電界発光層3とカソード4の間に電子輸送層を配置する場合は、電子輸送層のLUMO準位は好ましくは3〜3.5eV程度である。
【0057】
有機発光領域3は同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料を含有する。
【0058】
カソード4の材料は、有機発光領域に電子を注入し得るような仕事関数を有する材料から選択される。カソード材料を選択する際には、カソードと有機発光領域が不都合な相互作用を起こす可能性といった他の要因も考慮する。カソードはアルミニウム層のような単一材料からなるものであってよい。或いは、カソードは複数の金属を含有してもよく、例えば、WO98/10621に開示されているようなカルシウムとアルミニウムの二層、WO98/57381、Appl. Phys. Lett. 2002, 81(4), 634、及びWO02/84759に開示されているバリウム元素、又は電子注入を補助する金属化合物の薄層等を含んでよい。この金属化合物としては、WO00/48258に開示されているフッ化リチウム、Appl. Phys. Lett. 2001, 79(5), 2001に開示されているフッ化バリウム、酸化バリウム等が挙げられる。素子に電子を効率的に注入するためには、カソードの仕事関数は、好ましくは3.5eV未満、より好ましくは3.2eV未満、最も好ましくは3eV未満である。
【0059】
光学的素子は水分や酸素の影響を受けやすい傾向がある。従って、水分や酸素が素子内部に侵入するのを防ぐために、基板は良好な遮断特性を有することが好ましい。基板は通常はガラスからなるが、特に柔軟な素子を所望する場合等は、代替基板を用いてよい。例えば、基板は、米国特許第6268695号に記載されているようにプラスチックを含有してよい。該文献はプラスチックと障壁層を交互に用いた基板を開示している。また、欧州特許第0949850号に開示されているように、基板は薄ガラスとプラスチックの積層物であってもよい。
【0060】
水分及び酸素の侵入を防ぐために、カプセル材料(図示せず)を用いて素子を封入するのが好ましい。適当なカプセル材料としては、ガラス板や適当な遮断特性を有するフィルム(WO01/81649等に開示されているようなポリマーと誘電体の交互積層物、WO01/19142等に開示されているような密閉容器等)が挙げられる。基板やカプセル材料を透過して侵入する大気中の水分及び/又は酸素を吸収するために、基板とカプセル材料の間にゲッター材料を配置してもよい。
【0061】
実用素子においては、光が吸収(光応答性素子の場合)又は放出(OLEDの場合)されるように、電極のうち少なくとも一方を半透明とする。アノードが透明である場合、典型的にはインジウムスズ酸化物を含有する。透明カソードの例はGB2348316等に開示されている。
【0062】
図1の実施形態に示す素子は、まずアノードを基板上に形成し、その上に電界発光層及びカソードを積層して得られる。しかしながら、本発明の素子は、まずカソードを基板上に形成し、その上に電界発光層及びアノードを積層しても得られる。
【0063】
本発明の実施形態によるポリマーの調製方法としては、WO00/53656等に記載の鈴木重合、及びT. Yamamoto, “Electrically Conducting And Thermally Stable π-Conjugated Poly(arylene)s Prepared by Organometallic Processes”, Progress in Polymer Science 1993, 17, 1153-1205等に記載の山本重合が好ましい。これら重合法は共に「金属挿入」によって重合を行うものであり、金属錯体触媒の金属原子がモノマーのアリール基と脱離基の間に挿入される。山本重合ではニッケル錯体触媒を使用し、鈴木重合ではパラジウム錯体触媒を使用する。
【0064】
例えば山本重合によって直鎖状ポリマーを合成する際には、2つの反応性ハロゲン基を有するモノマーを用いる。同様に、鈴木重合による方法においては、少なくとも1つの反応性基がボロン酸やボロン酸エステル等のホウ素誘導体基であり、他の反応性基がハロゲンである。ハロゲンは好ましくは塩素、臭素、又はヨウ素であり、最も好ましくは臭素である。
【0065】
従って、本願で述べるアリール基を含む繰り返し単位及び末端基は、適当な脱離基を有するモノマーから誘導されるものであってよいと解される。
【0066】
鈴木重合を用いて位置規則的コポリマー、ブロックコポリマー、又はランダムコポリマーを調製してよい。特に、一方の反応性基がハロゲンであり、他方の反応性基がホウ素誘導体基であるとき、ホモポリマー又はランダムコポリマーを調製できる。また、第1モノマーの反応性基が共にホウ素であり、第2モノマーの反応性基が共にハロゲンであるときは、ブロックコポリマー又は位置規則的コポリマー(特にABコポリマー)を調製できる。
【0067】
ハロゲン化物の代替物として、金属挿入に利用可能な他の脱離基を用いてもよく、その例としては、トシレート基、メシレート基、及びトリフレート基が挙げられる。
【0068】
単一のポリマー又は複数のポリマーを溶液から堆積させて層を形成してよい。ポリアリーレン(特にポリフルオレン)に適した溶媒としては、トルエンやキシレン等のモノ−又はポリ−アルキルベンゼン類が挙げられる。特に好ましい溶液堆積法はスピンコーティング及びインクジェット印刷である。
【0069】
スピンコーティングは、電界発光材料のパターニングが不要な素子(例えば照明や単純なモノクロ分割ディスプレイ)に特に適している。
【0070】
インクジェット印刷は、高情報量ディスプレイ、特にフルカラーディスプレイに特に適している。OLEDのインクジェット印刷については、例えば欧州特許第0880303号に記載されている。
【0071】
素子の多層構造を溶解処理によって形成する場合、隣接する層の混合を防ぐ方法は当業者に自明であろう。例えば、次の層を積層する前に層を架橋する方法、第1層に用いる材料が第2層の積層に用いる溶媒に溶解しないように隣接層の材料を選択する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0072】
WO00/53656に記載されているように、鈴木重合によって、式4で表される青色蛍光発光性トリアリールアミン繰り返し単位及び式8で表される赤色蛍光発光性繰り返し単位を含む白色発光性ポリマーを調製した。
【0073】
WO02/066552に記載されているように、トリス(フェニルイソキノリン)イリジウム(III)を含む赤色燐光性デンドリマー材料を調製した。
【0074】
ガラス基板により支持されたインジウムスズ酸化物アノード(アプライド・フィルムズ社(Applied Films)製、米国コロラド州)の上に、スピンコーティングによって、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホネート(PEDT/PSS、エイチ・シー・スタルク(H C Starck)社製「Baytron P(登録商標)」、独国レバークーゼン)を積層した。このPEDT/PSS層上に、スピンコーティングによってキシレン溶液から厚さ約10nmの正孔輸送層を形成し、180℃で1時間加熱した。F8−TFB層上に、スピンコーティングによってキシレン溶液から上記蛍光性ポリマーと燐光性デンドリマーの混合物を65nm程度の厚さで積層した。この半導体ポリマー上に、バリウムからなる第1層を約10nm以下の厚さとなるよう蒸着し、且つアルミニウムからなる第2層を約100nmの厚さとなるように蒸着して、該ポリマー上にBa/Alカソードを形成した。最後に、得られた素子上にゲッター含有金属封入物を配置し、基板に接着して、素子を気密に封入した。
【0075】
素子をパルス駆動し、強度が当初の半分に低下するまで輝度を測定した。初期段階及び輝度が当初の半分に低下するまで駆動した後の時点で、発光スペクトルを測定した。
【0076】
結果を以下の表1に示す。第1項目の「赤色蛍光」は白色発光性ポリマーを用いた比較例であり、赤色発光は全て蛍光発光である。第2項目の「赤色蛍光+赤色燐光」は白色蛍光発光性ポリマーと赤色燐光材料の混合物を用いた実施例である。
【0077】
【表1】

【0078】
燐光材料を添加することによる素子寿命の有意な変化は見られない。しかしながら、発光スペクトルには有意な相違があり、白色発光材料のみを含む素子の色は駆動中に大きく変化し、一方で赤色燐光材料を加えた素子の色は駆動により大きくは変化しなかった。
【0079】
図2は、白色蛍光発光材料を用いた素子の駆動中の発光スペクトルがどのように変化するかを示す。図3は、赤色燐光材料を用いた素子の駆動中の発光スペクトルがどのように変化するかを示す。各スペクトル中、上の線は未駆動の素子の発光スペクトルであり、一方下の線は輝度が当初の半分に低下するまで素子を駆動した後の発光スペクトルである。
【0080】
白色蛍光発光材料のみを含有する素子の赤色領域における発光強度は、青色領域における発光強度と比較して、大きく減少している。その結果、素子の色は青色側にシフトしている。しかしながら、赤色燐光発光体を添加した素子の赤色領域における発光強度は、青色領域における発光強度と比較してほぼ一定に保持されており、素子の色は大きくは変わっていない。
【0081】
従ってこの結果から、同一色の有機蛍光材料及び有機燐光材料を用いることによって、素子の耐用期間にわたって良好な色安定性を示す有機発光素子が得られることが示された。
【0082】
以上、本発明を詳述し、その好ましい実施形態について説明したが、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の範囲から逸脱することなく、形態や細部において様々な変更が可能であることを当該分野の当業者は理解するであろう。
【符号の説明】
【0083】
1 基板
2 アノード
3 有機発光領域
4 カソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機発光素子に用いられる組成物であって、同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料を含有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記有機蛍光発光材料がポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記有機蛍光発光材料が赤色蛍光発光材料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記赤色蛍光発光材料が、下記式(8):
【化1】

(式中、X、Y、及びZはそれぞれ独立にO、S、CR、SiR、又はNRであり、より好ましくはO又はSであり、最も好ましくはSであり、Rはそれぞれ独立にアルキル、アリール、又はHである)により表される任意に置換された繰り返し単位を含むポリマーを含有することを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記有機燐光発光材料が有機金属錯体であることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記有機燐光発光材料が赤色燐光発光材料であることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記赤色燐光発光材料が、1つ以上の可溶化基が置換したトリス(フェニルイソキノリン)イリジウム(III)であることを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記有機蛍光発光材料及び前記有機燐光発光材料が別個の材料として混合物中で混合されているか、或いは化学的に結合していることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
異なる色の更なる有機発光材料を含有することを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記更なる有機発光材料が別個の材料として混合物中で前記同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料と混合されているか、或いは前記同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料の一方又は両方に化学的に結合していることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記更なる有機発光材料が青色蛍光材料であることを特徴とする請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項12】
前記青色蛍光材料が、下記式1〜6:
【化2】

(式中、X、Y、A、B、C、及びDはそれぞれ独立にH及び置換基から選ばれ、繰り返し単位1〜6中の任意の2つのフェニル基はいずれも直接結合又は2価部位(好ましくはヘテロ原子、より好ましくはO又はS)によって連結されていてよい)により表される任意に置換された繰り返し単位を1種以上含むポリマーを含有することを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物中、前記更なる発光材料に対して、前記同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料の濃度が5重量%未満、より好ましくは1重量%未満であることを特徴とする請求項9〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が白色発光組成物であることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
前記白色発光組成物が、3000〜9000Kの黒体による発光に等価なCIE−x座標を示し、且つ前記黒体による発光の0.05の範囲内のCIE−y座標を示すことを特徴とする請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
更に有機正孔輸送材料及び/又は有機電子輸送材料を含有することを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
アノード、カソード、及び前記アノードと前記カソードの間に配置される有機発光領域を有する有機発光素子であって、前記有機発光領域が同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料を含有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項18】
前記同一色の有機蛍光発光材料及び有機燐光発光材料が同一の層に含まれることを特徴とする請求項17に記載の有機発光素子。
【請求項19】
前記有機発光領域が請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物を含有することを特徴とする請求項17又は18に記載の有機発光素子。
【請求項20】
白色光を発することが可能な有機発光素子であって、前記有機発光素子を駆動した際にその発光輝度が当初の半分に低下するまでの期間にわたって、色変化がCIE座標で0.02未満であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項21】
前記有機発光素子を駆動した際にその発光輝度が当初の半分に低下するまでの期間にわたって、色変化がCIE座標で0.015未満、最も好ましくは0.013未満であることを特徴とする請求項20に記載の有機発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−506416(P2010−506416A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531893(P2009−531893)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【国際出願番号】PCT/GB2007/003746
【国際公開番号】WO2008/043979
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(503419985)シーディーティー オックスフォード リミテッド (21)
【出願人】(506061668)サメイション株式会社 (51)
【Fターム(参考)】