説明

発光色変換部材およびそれを用いた発光デバイス

【課題】輝度ムラや色度ムラが少なく均質な光を得ることが可能な発光色変換部材を提供する。
【解決手段】ガラス粉末および無機蛍光体粉末を含有する混合粉末の焼結体からなる発光色変換部材であって、(ガラス粉末の最大粒径D99)≦100μm、かつ、(ガラス粉末の平均粒径D50)/(無機蛍光体粉末の平均粒径D50)≦1.4であることを特徴とする発光色変換部材。ガラス粉末の平均粒径D50が50μm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED)素子からの青色光や近紫外光を白色等の目的発光色に変換するための発光色変換部材およびそれを用いた発光デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白色LEDの開発が盛んになっている。白色LEDは、例えば青色または紫外の励起光を発するLEDと、無機蛍光体粉末が樹脂等のマトリクス中に分散されてなる発光色変換部材から構成されている。無機蛍光体粉末はLEDからの励起光を受けて励起光とは異なる波長の光(蛍光)を発する。一方、LEDからの励起光のうち一部は波長変換に寄与せずに発光色変換部材を透過する。これらの光が混ざり合って白色光が得られる。
【0003】
白色LEDは白熱灯や蛍光灯に比べ消費電力が低く寿命が長いことを特徴としており、携帯電話やデジタルカメラ等のバックライトとして使用されつつある。今後は、白熱灯や蛍光灯に替わる次世代の光源として、一般照明用途への応用が期待されている。
【0004】
ところで、白色LEDは用途によってはますます高い輝度(ハイパワー化)が要求されている。従来のように樹脂マトリクス中に無機蛍光体粉末を分散させる方法では、LEDからの熱によって樹脂マトリクスが変色し、長期間使用すると輝度が低下するという問題があった。また、無機蛍光体粉末を含有する樹脂をLED上に塗布する際、厚さにばらつきが生じやすく、配光性低下の原因にもなっていた。
【0005】
これらの問題を解決するために、無機蛍光体粉末をガラスマトリクス中に分散させ、発光色変換部材を完全に無機化する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該方法によれば、発光色変換部材の耐熱性および耐候性を向上させることが可能となる。具体的には、長時間の高温環境下(例えば、150℃、600時間)や長時間の高温高湿環境下(例えば、2000時間、温度85℃、湿度85%)に晒しても白色LEDの発光特性がほとんど変化せず、また太陽光の紫外線に長時間晒されても着色や劣化がほとんどない。さらには、加工性に優れることから、厚さばらつきによる配光性の低下も抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−258308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
無機蛍光体粉末をガラスマトリクスに分散させてなる発光色変換部材は、従来品と比較して長期安定性に優れるものの、輝度ムラや色度ムラが生じやすく、均質な光が得られにくいという問題があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、輝度ムラや色度ムラが少なく均質な光を得ることが可能な発光色変換部材およびそれを用いた発光デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ガラス粉末および無機蛍光体粉末を含有する混合粉末の焼結体からなる発光色変換部材であって、(ガラス粉末の最大粒径D99)≦100μm、かつ、(ガラス粉末の平均粒径D50)/(無機蛍光体粉末の平均粒径D50)≦1.4であることを特徴とする発光色変換部材に関する。
【0010】
本発明者は種々検討した結果、ガラス粉末および無機蛍光体粉末を含有する混合粉末を焼結してなる発光色変換部材を用いた発光デバイスにおいて、輝度ムラや色度ムラが生じる原因は、発光色変換部材中における無機蛍光体粉末の分散性に劣ることが原因であることを突き止めた。
【0011】
本発明では、発光色変換部材の原料として用いられるガラス粉末の最大粒径D99、および、ガラス粉末の平均粒径D50と無機蛍光体粉末の平均粒径D50の比率を上記の通り規制することにより、発光色変換部材中において、無機蛍光体粉末の分散状態を良好なものとすることができ、結果として、当該発光色変換部材を用いた発光デバイスにおいて輝度ムラや色度ムラの発生を極力低減することが可能となる。
【0012】
第二に、本発明の発光色変換部材は、ガラス粉末の平均粒径D50が50μm以下であることが好ましい。
【0013】
第三に、本発明の発光色変換部材は、無機蛍光体粉末を0.01〜30質量%含有することが好ましい。
【0014】
第四に、本発明の発光色変換部材は、ガラス粉末が、SiO−B系ガラス、SiO−RO(RはMg、Ca、SrまたはBaを表す)系ガラス、SiO−B−RO系ガラス、SiO−B−R’O(R’はLi、NaまたはKを表す)系ガラス、SiO−B−Al系ガラス、SiO−B−ZnO系ガラス、ZnO−B系ガラスまたはSnO−P系ガラスであることが好ましい。
【0015】
第五に、本発明は、前記いずれかの発光色変換部材を用いたことを特徴とする発光デバイスに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、輝度ムラや色ムラが少なく、均質な光を得ることが可能な発光色変換部材およびそれを用いた発光デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において使用するガラス粉末には、無機蛍光体粉末を安定に保持するための媒体としての役割がある。使用するガラス組成系によって、発光色変換部材の色調が異なり、また無機蛍光体粉末との反応性に差が出るため、種々の条件を考慮して使用するガラス組成を選択する必要がある。
【0018】
ガラス粉末としては、無機蛍光体粉末と反応しにくいものであれば、特に制限はないが、850℃以下、好ましくは800℃以下の軟化点を有するものを用いることが好ましい。ガラス粉末の軟化点が高くなると、焼成温度も高くなるため、無機蛍光体粉末が劣化して、発光効率の高い発光色変換部材が得られにくくなる。
【0019】
ガラス粉末としては、例えば、SiO−B系ガラス、SiO−RO(RはMg、Ca、SrまたはBaを表す)系ガラス、SiO−B−RO系ガラス、SiO−B−R’O(R’はLi、NaまたはKを表す)系ガラス、SiO−B−Al系ガラス、SiO−B−ZnO系ガラス、ZnO−B系ガラスおよびSnO−P系ガラス等を用いることができる。
【0020】
ここで、低温焼成を目的とする場合は、比較的低い軟化点(例えば400℃以下、さらには380℃以下)が得られやすいZnO−B系ガラスまたはSnO−P系ガラスを選択することが好ましい。
【0021】
発光色変換部材の耐候性を向上させたい場合は、SiO−B系ガラス、SiO−RO系ガラス、SiO−B−RO系ガラス、SiO−B−R’O系ガラス、SiO−B−Al系ガラスまたはSiO−B−ZnO系ガラスを選択すればよい。
【0022】
なお、本発明において「〜系ガラス」とは、該当する成分を合計50質量%以上含有するガラスをいう。
【0023】
例えば、SiO−B−RO系ガラスとしては、ガラス組成として質量%で、SiO 30〜70%、B 1〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜25%、SrO 0〜10%、BaO 8〜40%、RO 10〜45%、Al 0〜20%およびZnO 0〜10%を含有するものであることが好ましい。また、上記成分以外にも、本発明の主旨を損なわない範囲で種々の成分を含有することができる。例えば、アルカリ金属酸化物(LiO、NaOまたはKO)、P、La等を合量で30%以下の範囲で含有してもよい。
【0024】
また、SnO−P系ガラスとしては、ガラス組成としてモル%で、SnO 30〜90%およびP 10〜60%を含有するものであることが好ましい。また、上記成分以外にBを0〜30%、さらには1〜30%含有することができる。その他、本発明の主旨を損なわない範囲で種々の成分を添加することができる。例えば、SiO、Al、P、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrOまたはBaO)等を合量で30%まで含有してもよい。
【0025】
本発明において、ガラス粉末の最大粒径D99は100μm以下、95μm以下、特に90μm以下であることが好ましい。ガラス粉末の最大粒径D99が大きすぎると、発光色変換部材中において、ガラス粉末の粗大粒子の割合が多くなり、無機蛍光体粉末の分散状態が低下しやすくなる。その結果、当該発光色変換部材を用いた発光デバイスにおいて、輝度ムラおよび色度ムラが発生しやすくなる。
【0026】
ガラス粉末の平均粒径D50は50μm以下、30μm以下、特に20μm以下であることが好ましい。ガラス粉末の平均粒径D50が大きすぎると、発光色変換部材中における無機蛍光体粉末の分散状態に劣り、当該発光色変換部材を用いた発光デバイスにおいて輝度ムラおよび色度ムラが発生しやすくなる。なお、ガラス粉末の平均粒径D50が小さすぎると、二次凝集して粗大粒子が多くなりやすく、結果として、発光色変換部中における無機蛍光体粉末の分散性が低下する傾向がある。また、製造コストが高騰しやすくなる。以上に鑑み、ガラス粉末の平均粒径D50は0.1μm以上、特に1μm以上であることが好ましい。
【0027】
本発明で用いられる無機蛍光体粉末は、可視域(380〜780nm)に発光ピークを有するものであれば、特に限定されるものではない。このような無機蛍光体粉末として、YAG系化合物等の酸化物、窒化物、酸窒化物、塩化物、酸塩化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、カルコゲン化物、アルミン酸塩またはハロリン酸塩化物からなる無機蛍光体粉末が挙げられる。ここで、窒化物、酸窒化物、塩化物、酸塩化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、カルコゲン化物、アルミン酸塩またはハロリン酸塩化物からなる無機蛍光体粉末は、焼成時にガラスと反応して発泡や変色などの異常反応を起こしやすく、その程度は焼成温度が高温であるほど著しくなる。このような無機蛍光体粉末を用いる場合でも、ガラスの軟化点が低く低温焼成が可能なZnO−B系ガラスやSnO−P系ガラスを組み合わせることにより、上記異常反応を抑制することが可能となる。
【0028】
無機蛍光体粉末の平均粒径D50は特に限定されないが、例えば35μm以下、特に25μm以下であることが好ましい。無機蛍光体粉末の平均粒径D50が大きすぎると、発光色変換部材中における無機蛍光体粉末の分散状態に劣り、当該発光色変換部材を用いた発光デバイスにおいて輝度ムラおよび色度ムラが発生しやすくなる。一方、無機蛍光体粉末の平均粒径D50が小さすぎると、焼成時にガラス粉末と反応しやすくなり、発光強度が低下するおそれがあるため、0.05μm以上、0.1μm以上、特に1μm以上であることが好ましい。
【0029】
本発明において、(ガラス粉末の平均粒径D50)/(無機蛍光体粉末の平均粒径D50)は1.4以下、特に1.2以下であることが好ましい。当該比率が大きすぎると、発光色変換部材において無機蛍光体粉末の分散状態に劣り、当該発光色変換部材を用いた発光デバイスにおいて輝度ムラおよび色度ムラが発生しやすくなる。当該比率の下限については特に限定されないが、小さすぎると、ガラス粉末が二次凝集しやすくなるため、0.1以上、0.4以上、特に0.8以上であることが好ましい。
【0030】
発光色変換部材の発光効率は、ガラス中に分散した無機蛍光体粉末の含有量および部材の厚みなどによって変化する。よって、無機蛍光体粉末の含有量と発光色変換部材の厚みは、発光効率が最適になるように適宜調整することが好ましい。
【0031】
無機蛍光体粉末の含有量が多すぎると、焼結しにくくなる、気孔率が大きくなって励起光が効率良く無機蛍光体粉末に照射されにくくなる、あるいは、発光色変換部材の機械的強度が低下しやすくなるなどの問題が生じやすくなる。一方、無機蛍光体粉末の含有量が少なすぎると、十分な発光強度が得られにくくなる。従って、発光色変換部材における無機蛍光体粉末の含有量は0.01〜30質量%、0.05〜20質量%、特に0.08〜15質量%であることが好ましい。
【0032】
発光色変換部材が板状である場合、その厚みは0.01〜1mm、0.02〜0.5mm、0.03〜0.3mm、特に0.05〜0.2mmであることが好ましい。発光色変換部材の厚みが小さすぎる場合は、機械的強度が不十分となる傾向がある。一方、発光色変換部材の厚みが大きすぎる場合は、励起光が透過しにくくなり、所望の色を有する光が得られにくくなる。
【0033】
なお、本発明の発光色変換部材には、ガラス粉末および無機蛍光体粉末以外にも、シリカやアルミナ等の拡散材を合量で30質量%以下含有していても構わない。
【0034】
本発明の発光色変換部材は、ガラス粉末および無機蛍光体粉末を含有する混合粉末を焼成することによって作製される。
【0035】
焼成雰囲気としては大気中でも構わないが、緻密な焼結体を得る場合や、ガラス粉末と無機蛍光体粉末の反応を少なくする場合には、減圧または真空の雰囲気中、あるいは、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で焼成することが好ましい。
【0036】
例えばSnO−P系ガラスは、焼成温度が300〜400℃の範囲であることが好ましい。焼成温度が高すぎると、ガラス粉末と無機蛍光体粉末が反応して、発光効率が著しく低下するおそれがある。一方、焼成温度が低すぎると、焼結体の気孔率が増大し、励起光が透過しにくくなる。
【0037】
なお、原料である混合粉末は、一旦予備成形した後に焼成することが好ましい。予備成形体としては、混合粉末を所望の形状に加圧成形したものであってもよいし、ペーストの形態であってもよいし、グリーンシートの形態であってもよい。
【0038】
上記のようにして得られた発光色変換部材をLEDの発光チップの発光面側に配置することで、白色LED等の発光デバイスが得られる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
表1は、本発明の実施例(試料No.1〜5)および比較例(試料No.6)をそれぞれ示している。
【0041】
【表1】

【0042】
各試料は、次のようにして調製した。
【0043】
まず、ガラス組成としてモル%で、SnO 62%、P 21.5%、B 11%、Al 2.5%およびMgO 3%となるようにガラス原料を秤量して混合し、この混合物を白金坩堝中において950℃で40分間溶融してガラス化した。溶融ガラスをフィルム状に成形し、得られたフィルム状ガラスをらいかい機、ボールミルまたはジェットミルで粉砕した後、500メッシュ、53メッシュまたは38メッシュの篩に通して分級し、表1に示すような種々の粒径を有するガラス粉末を得た。
【0044】
得られたガラス粉末の平均粒径D50および最大粒径D99はレーザー散乱式粒度分布計を用いて測定した。また、得られたガラス粉末について軟化点を測定したところ350℃であった。軟化点はマクロ型示差熱分析計を用いて得られたグラフの第四変曲点の値を採用した。
【0045】
次に、得られたガラス粉末に対しYAG蛍光体粉末を、質量比で95:5となるように混合し、金型を用いて加圧成形して直径1cmの円柱状の予備成形体を作製した。予備成形体を100Paの減圧雰囲気下、395℃で焼成し、焼結体(発光色変換部材)を得た。焼結体に対し研磨処理を施して、直径8mm、厚さ0.5mmの円盤状に加工した後、青色LED上に接着して発光デバイスを作製した。得られた発光デバイスについて、輝度ムラおよび色度ムラの評価を行った。
【0046】
輝度ムラおよび色度ムラの評価は、発光色変換部材の下方から青色光を照射し、部材の上方からデジタルマイクロスコープで発光面を観察することで行った。発光面において輝度ムラおよび色ムラがほとんどなく色調が均一なものを「◎」、発光面において輝度ムラおよび色ムラが多少確認されるが、程度の低いものを「○」、発光面において輝度ムラおよび色ムラが著しく確認され、色調が不均一なものを「×」として評価した。
【0047】
表1から明らかなように、本発明の実施例である試料No.1〜5の発光色変換部材を用いた発光デバイスは、その発光面において輝度ムラおよび色度ムラが少なかった。特に、試料No.3および4では、輝度ムラおよび色度ムラがほとんど観察されなかった。一方、比較例である試料No.6の発光色変換部材を用いた発光デバイスは、その発光面において輝度ムラおよび色度ムラが著しく確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の発光色変換部材は、LED用途に限られるものではなく、レーザーダイオード等のようにハイパワーの励起光を光源とする発光デバイスに用いることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粉末および無機蛍光体粉末を含有する混合粉末の焼結体からなる発光色変換部材であって、(ガラス粉末の最大粒径D99)≦100μm、かつ、(ガラス粉末の平均粒径D50)/(無機蛍光体粉末の平均粒径D50)≦1.4であることを特徴とする発光色変換部材。
【請求項2】
ガラス粉末の平均粒径D50が50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の発光色変換部材。
【請求項3】
無機蛍光体粉末を0.01〜30質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の発光色変換部材。
【請求項4】
ガラス粉末が、SiO−B系ガラス、SiO−RO(RはMg、Ca、SrまたはBaを表す)系ガラス、SiO−B−RO系ガラス、SiO−B−R’O(R’はLi、NaまたはKを表す)系ガラス、SiO−B−Al系ガラス、SiO−B−ZnO系ガラス、ZnO−B系ガラスまたはSnO−P系ガラスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の発光色変換部材を用いたことを特徴とする発光デバイス。

【公開番号】特開2013−30536(P2013−30536A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164162(P2011−164162)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】