説明

発光表示デバイスの作成に使用するための部材

発光表示デバイスの作成のための部材が説明される。この部材は、ガラスまたはガラスセラミック基板、基板の一方の表面上に被着され、基本的に、単体であるかまたは混合体であり、ドープされているかまたはされていない、少なくとも1つの導電性透明酸化物(TCO)を含む第1の層及び、以降第2TCO層と称される、単体であるかまたは混合体であり、ドープされているかまたはされていない、少なくとも1つの導電性透明酸化物の第2のTCO層からなり、第1TCO層及び第2TCO層は、第1TCO層が1nmより大きい粗さを有し、第2TCO層が1nm以下の粗さを有し、いずれのTCO層も有する製品の可視光範囲における透過率が少なくとも80%に等しく、第2TCO層の仕事関数が第1TCO層の仕事関数より高く、4.6eVより高く、好ましくは4.8eVより高いような層である。第1TCO層はスズドープ酸化インジウム(ITO)層であり、第2TCO層はアンチモンドープ酸化スズ(ATO)層であることが有利である。発光表示デバイス、特に陽極側にそのような部材を組み込んでいる有機発光ダイオードも説明されている。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2002年9月3日に出願された仏国特許出願公開第02−10865号明細書による優先権の利益を主張する。上記明細書の内容は本明細書に参照として含まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は発光表示デバイス、特に有機発光ダイオードの作成に使用するための部材に関する。本発明は、また、表示デバイス、特にそのような部材を組み込んでいる有機発光ダイオードに関し、さらにそのような部材を作成するためのプロセスにも関する。
【背景技術】
【0003】
表示装置、特に表示スクリーンは現在様々な開発の途上にある。OLEDとして知られる有機発光ダイオードは、より明るく、より安価で、より効率が高い、表示モジュールをもたらした技術の根幹をなし、疑いなく、次世代の発光型スクリーンの基礎をなすであろう。それにもかかわらず、特に平面スクリーンの開発に適用可能であるべき本技術は、未だに信頼性が十分ではなく、良く理解されてもいない。基本OLEDセルは、積層された、透明陽極と陰極として作用する金属層の間に挟み込まれている薄い有機層で構成されていることを思い起こすべきである。
【0004】
従来、有機層には、正孔注入層、正孔輸送層、光子放射層及び電子輸送層などがある。適当な電流がOLEDセルに印加されると、発光層で正電荷と負電荷が結合して光を生じる。有機層の構造及び用いられる陽極及び陰極のタイプは、発光層における再結合過程を最大限にするように選ばれ、これにより、OLEDデバイスからの光放射も向上する。したがって、OLED型表示デバイスは、より軽く、より嵩張らないスクリーン上へのより優れた情報表示ももたらす。OLED技術は現在急速な発展の途上にあるが、未だに多くの困難を抱えている。
【0005】
OLED型ダイオードの開発への現在の主要なアプローチの1つは、陽極として作用する透明導電層として、一般に簡易型ITOとして知られる、スズドープ酸化インジウム(In:Sn)層を利用する。基板上に直接被着され、陽極として作用するこのITO層は優れた電気伝導及び非常に良好な透明度という利点を有するが、残念なことに、基本的にこのITO層をガラス基板上に被着するために用いられる技術のため、OLEDデバイスが良好に機能することを阻害する非常に粗い表面を有し、このため、電流密度にかなりの不均一性が生じ、短絡さえ生じる、という欠点を有することが技術上良く知られている。
【0006】
ITO層をもつOLED型デバイスの別の欠点は、ITO層内のインジウム原子が電場の作用を受けて移動しやすいことである。
【0007】
さらに、ITO層の欠点は仕事関数が低いことである。
【0008】
陽極の導電度を低下させすぎずにOLEDセル内で仕事関数を改善しようとすると同時に、上記の欠点の内のいくつかの解決を試みて、これまで数多くの研究がなされてきた。
【0009】
基板上に被着される透明層の粗さを低減する試みにおける結果として、特許文献1は基板の粗さを減じる目的で基板を化学処理にかけることを提案している。
【0010】
特許文献2は、表面粗さを低減するための、ITO層を被着するためのプロセスの改変を示唆している。
【0011】
別の文献は、特に特許文献3及び特許文献4の場合のように、ITO層のプラズマ処理を提案している。
【0012】
特許文献3はITO層のプラズマ処理による仕事関数の改善を提案している。
【0013】
特許文献5は仕事関数を改善するための半透明金属層の使用を説明している。
【0014】
特許文献6は、ITO層の被着中の酸化からOLEDセルの有機層を実質的に保護するための、ある程度酸化された金属の中間層の使用を説明している。
【0015】
特許文献7は、仕事関数を高めるために陽極と発光層の間に1つまたはそれより多くの高分子材層が挿入される、OLED型部材を説明している。同様に、特許文献8,特許文献9及び特許文献10は、陽極と発光層の間に有機層をもつOLED型デバイスを説明している。
【0016】
上掲の文献におけるデバイスは全て、ITO層使用の既知の欠点の内の少なくとも1つの軽減、特にITO層の表面粗さの低減及び仕事関数の高揚を目的としている。
【0017】
したがって、上掲の文献は全て、上述した欠点の内の少なくとも1つを排除することによって、OLEDデバイスの機能を向上させようとしている。
【0018】
文献に挙げられたデバイスの中で、特に注目されると思われるデバイスは、透明ITO陽極、有機発光層及び、正孔注入層の効率を改善し、ITO層の粗さの好ましくない効果を低減する、導電性有機層、特に、PEDOTとして知られる、ポリ(エチレンジオキシ)チオフェンのような、ドープト高分子材を有する層をもつ。
【0019】
しかし、有機高分子材は、たとえ緻密化されているとしても、化学的安定性が乏しく、導電度がかなり低い(ITOの10−4Ω・cmに対し、一般には約1〜5×10−2Ω・cm)という欠点を有する。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0010786号明細書
【特許文献2】国際公開第01/45182号パンフレット
【特許文献3】国際公開第97/48115号パンフレット
【特許文献4】米国特許第6259202号明細書
【特許文献5】米国特許第6262441号明細書
【特許文献6】国際公開第01/15244号パンフレット
【特許文献7】国際公開第99/13692号パンフレット
【特許文献8】米国特許第5998803号明細書
【特許文献9】米国特許第5714838号明細書
【特許文献10】米国特許第6087730号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
OLED型デバイスの陽極層として従来用いられるITO層にかかわる、表面粗さ、低い仕事関数及び電場の効果の下でのインジウム原子の移動の問題を克服する手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
ITO陽極と発光層の間に導電性高分子材層をもつOLED型デバイスにおけるこの高分子材層をITOより仕事関数が高い導電性透明酸化物を有する層で置き換えることによって、ITO層の使用に関わる従来技術の既知の欠点の全てを排除することが可能になるであろうと本発明の発明者等は着想した。
【0022】
さらに詳しくは、そのような導電性透明酸化物の層、特にゾル−ゲル型プロセスを用いて被着された導電性透明酸化物層では表面粗さがかなり低減されること、導電性透明酸化物を適切に選択することによって、中間有機層で達成されるよりずっと高い仕事関数が得られることも、有機層の化学的安定性が不十分であることに関わる問題、特に使用中の酸化の危険が回避されることも可能であろうということが見いだされた。
【0023】
さらに、導電性透明酸化物を適切に選択することによって、電場の効果の下でITO層から出てくるインジウムの移動を大きく制限することが可能であり、この導電性酸化物層が移動を防止するための遮蔽として作用することが見いだされた。
【0024】
したがって、そのような導電性透明酸化物層の使用の別の恩恵は、デバイスが用いられるときに発生する電場による、ITO層から出てくるインジウムのイオンに対する遮蔽を導電性透明酸化物層が形成することである。
【0025】
この面における研究を進めて、本発明の発明者等は、第1の導電性透明酸化物が有する粗い表面上への、基本的に第1の導電性酸化物層の仕事関数より高い仕事関数をもつ第2の導電性透明酸化物からなる層の被着という同じ概念をITO以外の透明酸化物に拡張でき、陽極として用いられる第1の層の仕事関数と発光層の仕事関数の間の仕事関数をもつ別の導電性透明金属酸化物の第2の層をOLED型デバイスのための陽極として用いられるいずれかの粗い金属酸化物層の表面上に被着することによって、そのような粗い金属酸化物層の欠点を回避することが可能になることを見いだした。
【0026】
さらに、2つのタイプの金属酸化物を適切に選択することによって、電場の効果による第1の層から出てくる原子の移動に対する遮蔽を、第2の金属酸化物層を用いて、形成することが可能である。
【0027】
本発明のその他の利点及び特徴は以下の説明から、また、正確な尺度で描かれてはいない略図である図1及び2を参照することで、明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
すなわち、第1の態様にしたがえば、本発明は透明基板、さらに詳しくは、主としてそれぞれの透明度及び粗さ及び仕事関数値によって選ばれる2つの導電性酸化物層で被覆された、ガラスまたはガラスセラミック基板を有する新しいサンドイッチ型部材に関する。
【0029】
第2の態様にしたがえば、本発明は発光表示デバイス、特に、上記部材が組み込まれているOLED型ダイオードに関する。
【0030】
第3の態様にしたがえば、本発明はそのような部材を製造するためのプロセスに関する。
【0031】
基本的特徴の1つにしたがえば、本発明は、
−ガラスまたはガラスセラミック基板、
−基板の片面に被着され、単体または混合体の、ドープさているかまたはされていない、少なくとも1つの導電性透明酸化物を有する、以降第1TCO層と称される、第1の層、及び
−第1TCO層上に被着され、単体または混合体の、ドープさているかまたはされていない、少なくとも1つの導電性透明酸化物を有する、以降第2TCO層と称される、第2の層、
を有し、第1TCO層及び第2TCO層は、
−第1TCO層が1nmより大きい粗さを有し、第2TCO層が1nm以下の粗さを有し、
−第1及び第2TCO層を有する製品の可視光範囲における透過率が少なくとも80%に等しく、
−第2TCO層の仕事関数が第1TCO層の仕事関数より高く、4.6eVより高く、好ましくは4.8eVより高い、
ような層である、部材に関する。
【0032】
そのような部材が図1にごく簡略に示される。
【0033】
そのような部材はガラスまたはガラスセラミック基板1を有するサンドイッチ型部材である。
【0034】
基板は、表面粗さが大きい導電性透明酸化物の第1の層2で被覆される。この粗さは、第1TCO層2と第2TCO層3の間の界面において破線として、図1の略図に簡素化された態様で描かれている。
【0035】
第1の導電性透明酸化物層は一般に、通常の真空蒸着プロセスによるか、または化学的気相成長(CVD)法によって基板上に被着される。
【0036】
与えられた酸化物タイプに対する上記のタイプの被着の結果、技術上知られているように、一般に、優れた導電特性が得られるが、比較的大きな表面粗さも生じる。
【0037】
第1の層2上に被着される第2の導電層3によって、表面の平滑化を達成することが可能となり、第2の導電層3は電気伝導度または透明度をそれほど低下させないように選ばれる。
【0038】
第2の導電性酸化物層は、1nm以下の粗さを達成するため、ゾル−ゲル型プロセスによって被着されることが有利であるが、これには決して限定されない。
【0039】
さらに、本発明の部材の主要な用途を考慮して、2つの連続するTCO層の仕事関数は、第2の層の仕事関数が第1の層の仕事関数より高く、第2の層の仕事関数は4.6eVより高く、好ましくは4.8eVより高いように選ばれる。
【0040】
連続するTCO層はいずれも基本的に、必要であれば、基本的にガリウム、アンチモン、フッ素、アルミニウム、マグネシウム及び亜鉛からなる群からの少なくとも1つの元素と組み合わされた、スズ、亜鉛、インジウム及びカドミウムを含む群から選ばれる少なくとも1つの金属の、単体酸化物または共酸化物の形態にある少なくとも1つの酸化物あるいは酸化物の混合体からなり、上記の元素は上記の共酸化物または酸化物の混合体の組成に入るか、あるいは上記の酸化物に対するドーピング材として作用する。
【0041】
これらの酸化物は単体酸化物または共酸化物または酸化物の混合体とすることができる。
【0042】
共酸化物の例には、
− Ga-In-O
− Ga-In-Sn-O
− Zn-In-O
− Zn-In-Sn-O
− Sb-Sn-O
− Zn-Sn-O
− Mg-In-O
− Cd-In-O
− Cd-Sn-O
− Cd-Sn-In-O
があり、これらは全て、亜鉛、インジウム及びスズを含む群から選ばれる少なくとも1つの金属の共酸化物である。
【0043】
ドープト酸化物の例として、フッ素ドープ酸化スズ(SnO:F)またはアンチモンドープ酸化スズ(SnO:Sb)または、ITOとも称される、スズドープ酸化インジウム(In:Sn)が含まれる。
【0044】
本発明の特に有利な変形例にしたがえば、第1TCO層は、
−ITOとも称される、スズドープ酸化インジウム(In:Sn)
−FTOとも称される、フッ素ドープ酸化スズ(SnO:F)
−AZOとも称される、アルミニウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)
−ATOとも称される、アンチモンドープ酸化スズ(SnO:Sb)
を主要成分として含む。
【0045】
上で説明したように、最も普通に説明されるOLED型デバイスの陽極は、優れた電気伝導度を有するが、表面粗さのため、この表面粗さが良好なダイオード機能を損なう短絡を生じさせ得るから表示デバイスでの使用に関して欠点を示す、ITOからなる。
【0046】
これらの欠点にもかかわらず、また第1TCO層の平滑化を可能にするTCOの第2の層の使用という利点のため、ITOは依然として本発明にしたがう部材の第1TCO層を作成するための好ましい導電性透明酸化物である。
【0047】
したがって、本発明の特に有利な変形にしたがえば、部材はITOを有する第1TCO層及び、仕事関数が4.6eVより高く、好ましくは4.8eVより高い、第2TCO層からなる。
【0048】
この場合、第2TCO層を形成するために選ばれる酸化物は、
− SnO
− SnO:F
− SnO:Sb
− InSn12
− ZnIn
− ZnSnO
− ZnSnO
− GaInO
− MgIn
からなる群から選ばれることが有利である。
【0049】
この第2TCO層により、第1の層を平坦化し、したがって表面粗さが1nmより小さい第2の層を得ることが可能になる。
【0050】
さらに、選ばれるタイプの第2TCO層は電場効果によるITO層からのインジウム原子の移動を制限することができ、したがって、この移動に対する実質的な化学的障壁を構成する。
【0051】
上述した利点の全てまたは少なくとも一部は、上掲のリストから選ばれる第2の導電性透明酸化物層で覆われた第1ITO層を用いることにより達成することができる。
【0052】
第1の層がITO層である場合に第2TCO層として用いられる上述した様々な材料により、ITO層の比抵抗(一般に10−4Ω・cmと3×10−4Ω・cmの間)より高い、比較的高い比抵抗にも関わらず、導電度に関して完全に許容できる部材を得ることが可能になることに注目すべきである。
【0053】
下表は、第1の層がITO層である場合に第2TCO層として用いることができる導電性透明酸化物の例並びにそれらの仕事関数及び比抵抗値を与える。
【表1】

【0054】
要求される様々な機能に特に適する材料は、以降ATOと称されるアンチモンドープ酸化スズ(SnO:Sb)である。
【0055】
2つの連続する層として第1ITO層及び第2ATO層を選択することにより、有機高分子材正孔注入層を組み込んでいるダイオードに対する優れた代替が得られる。
【0056】
ATO層の特性は、ATO層が有機発光層の仕事関数(一般に5.2eV)に非常に近い、4.8eVをこえる仕事関数を有し、インジウム移動に対する優れた化学的障壁を形成するから、特に注目される。
【0057】
さらに、ITO層上に前駆体溶液からゾル−ゲル型プロセスによって被着される単ATO層により、ITO層の表面粗さをかなり低減することが可能になる。
【0058】
さらに、実施例から容易に分かるように、ITO層及びATO層で覆われたガラス基板を有する部材は、正孔を注入するために有効な陽極としてOLED型デバイスを構成するために用いることができる。
【0059】
さらに詳しくは、ガラスまたはガラスセラミック基板上に直接被着され、ATO層で被覆された、ITO層をもつデバイスの利点は、
−表面粗さを非常に小さくするゾル−ゲル型プロセスによって第2ATO層を被着でき、
−ATOの仕事関数はITOの仕事関数より大きく、有機発光層の仕事関数に近く、
−ATO層はITOより化学的に安定であり、したがって、ATO層は有機層に向かうインジウムの移動に対する化学的障壁として作用でき、
−ATOは、PEDOTまたはその他の高分子材のような、従来の正孔注入層より化学的に安定であり、
−2つの連続する導電性透明金属酸化物層の使用は、有機注入層が使用される必要がないことを意味し、
−基板及びATO/ITOはOLED型デバイスの作成のためにいつでも使用できることである。
【0060】
本発明のサンドイッチ型部材の様々な層の厚さが部材の用途に依存することは明らかである。
【0061】
それにもかかわらず、一般的に言って、透明なガラスまたはガラスセラミック基板の厚さは0.1mmと3mmの間にあることが有利である。
【0062】
OLED型部材に対しては、この厚さは1mmより小さくなるように選ばれることが有利である。
【0063】
第1TCO層の厚さは一般に、OLED型デバイスの透明陽極として現在用いられているITO層と同様の厚さの100nmと150nmの間にあるが、この値には限定されない。
【0064】
第2TCO層の厚さは30nmと200nmの間、好ましくは50nmと150nmの間にあることが有利である。
【0065】
先に説明したように、上述した部材は発光表示デバイスの陽極側として用いられる用途に特に適する。
【0066】
そのような発光表示デバイスの例として、発明者等は、大きさにかかわらず、極めて多くのタイプの発光表示スクリーン、特に移動電話、テレビジョン及びコンピュータスクリーンを挙げることができる。
【0067】
さらに詳しくは、発光表示デバイスには、本発明の部材が陽極側を構成し、エレクトロルミネッセンス層及び陰極で覆われる、有機発光ダイオード(OLED)がある。
【0068】
図2は、陽極側を形成する本発明の部材を備えるそのようなOLEDデバイスの略図である。層3は少なくとも1つの発光層を有する区画4及び金属陰極5で覆われている。
【0069】
様々な発光層4及び陰極5を形成する材料は全て、OLED型デバイスを作成するための既知の手順において現在用いられている材料である。
【0070】
最後の態様にしたがえば、本発明は、本発明の部材を作成するためのプロセス及びそのような部材を備えるデバイスにも関する。
【0071】
ガラス基板上への必要な粗さをもつ2つの連続する導電性酸化物層の被着を可能にする、従来技術の既知の技法の全てを用いることができる。
【0072】
それにもかかわらず、2つの連続するTCO層のそれぞれの粗さを考慮すると、1nmをこえる粗さを有する第1TCO層で先に被覆された基板上に第2TCO層を被着するためにはゾル−ゲル型被着が用いられることが好ましい。
【0073】
実際上、先に説明したように、このタイプのゾル−ゲル被着プロセスにより、特に1nmより小さい、特に低い表面粗さ値が得られる。
【0074】
一般に、第2TCO層については、ゾル−ゲル被着工程の後に熱固結工程が続くであろう。
【0075】
表面粗さ値がより大きい第1TCO層の被着は一般に、真空蒸着プロセスによるかあるいは化学的気相成長法により実行される。
【0076】
被着作業条件の選択は、被着されるべき酸化物のタイプ及び所望の厚さに依存するべきである。ゾル−ゲル型プロセスに関して、これらの条件は市販のTCO前駆体に依存して選ばれるであろう。酸化スズ被膜のための前駆体の例として、SnCl(OAc),SnCl,Sn(OEt)などのSn(II)のアルコキシド、エチル-2-ヘキサン酸スズ(II),SnCl,Sn(OtBu)などのSn(IV)のアルコキシドから選ぶことができる。スズの前駆体であることが知られているいずれかの塩または有機金属化合物も用いることができる。酸化アンチモン被着の場合には、酸化アンチモンを被着するために従来用いられている全ての前駆体を用いることができる。アンチモンの有機金属化合物及び塩、特にSb(III)のアルコキシド及びSbClまたはSbClのような塩化物がある。
【0077】
一般に、金属酸化物前駆体として、従来用いられている化合物であればどれを用いてもよい。特に、これらの金属の有機化合物または塩を用いることができる。さらに詳しくは、金属酸化物前駆体は、有機溶媒、例えば揮発性アルコール内の溶液または懸濁液で用いられる。揮発性アルコールの例として、直鎖型または有枝鎖型の、C1〜C10アルコール、特にメタノール、エタノール、ヘキサノール及びイソプロパノールなどがある。グリコール、特にエチレングリコール、あるいは酢酸エチルのような揮発性エステルも用いることができる。
【0078】
酸化物層の被着に用いられる組成には、その他の成分、特に、水または、ジアセトンアルコール、アセチルアセトン、酢酸及びホルムアミドのような、安定剤を有利に含めることができる。
【0079】
薄層は、当業者に知られる、液性組成物から被覆層を作成するために用いられるいずれかのプロセスによって被着することができる。この薄層被着は、被覆されるべき基板を前駆体溶液に浸漬することによるか、あるいは、遠心法または溶液が基板表面上にスプレーされるプロセスによって溶液を基板に塗布することにより、達成することができる。
【0080】
一般に、被着された層は次いで、通常22℃と150℃の間であって、60℃程度の温度におけることが有利な熱処理にかけられ、続いて、450℃から600℃の範囲の温度において2分間から1時間であって、550℃程度の温度において約15分間であることが有利な熱処理にかけられる。
【0081】
上述したように、ゾル−ゲル型プロセスは、特に平滑化が達成され、したがって必要な小さい粗さが得られるように、第2TCO層を被着するために用いられることが有利である。ゾル−ゲル型プロセスに基づく被着法をTCO層に用いることには、この層の上に規則的構造、特にOLED型ダイオードの発光層によって放射される波長範囲において周期的な微細構造を、固結させる前に、軟質平板印刷法により刻印することが可能になるという付加的恩恵がある。これにより、ダイオードの端における光損失が大幅に低減される。
【0082】
このゾル−ゲル型プロセスを用いてTCOを被着することの上記の付加的恩恵により、特許出願が本特許の出願と同日になされた発明に示されているように、現行OLEDの欠点の1つの軽減、すなわち、良く知られた導波効果のため、発光層によって放射される光がダイオード構造内に閉じ込められ、この効果が表示用途には役に立たない場所である、ダイオードの端からしか外に出ていかないという事実の結果としての低発光効率の改善が可能になる。実際上、導電性透明酸化物(TCO)層を通って発光面に垂直に出てくる光だけが、OLEDによって表示される像を形成するために有用に画素化される。
【0083】
ゾル−ゲル型プロセスを用いる被着、特に第2TCO層の被着を実行する場合に、原理上、ゾル−ゲル溶液被着についての従来の条件を用い得るであろうが、薄い基板を被覆する場合、特に厚さが1mmより薄い基板の場合には、プロセスを改変することがしばしば有利であることに、本発明の発明者等は気づいた。
【0084】
実際に、基板が比較的薄い場合、特に厚さが1mmを下回る場合には、ゾル−ゲル被着で得られる層の乾燥中に問題が生じた。被覆された基板の乾燥におけるこの困難は、基板が薄くなるほど悪化することが見いだされた。様々な解決策がこのタイプの問題を処理するために提案され、特に厚さが1mmより薄い基板上に、ゾル−ゲル型の方法を用いて層を被着するための改善された方法に関する同日に出願された特許の主題である。
【0085】
後者の同時係属出願特許明細書に示されるように、蒸発工程中の曇りの発生に関する乾燥問題を回避するため、3つの解決策がゾル−ゲル型プロセスを用いて比較的薄い基板上に層を被着する問題に対して提供された。
【0086】
さらに詳しくは、上記問題の解決を目的とする本発明の発明者等によって行われた研究により、熱及び/または蒸発速度を低くするように、溶媒を変更するかまたは被着に用いられる液媒を改変することにより、あるいは乾燥をより一様にするため、ゾル−ゲルプロセスに用いられる液媒の温度を高めることにより、あるいは液層による被覆の直後で、液媒の蒸発及び被着層の固結の前に、試料を加熱することにより、遭遇する困難を克服することが可能であることが示された。
【0087】
このタイプの改善されたプロセスが以降の実施例で実施された。以下の実施例は純粋に説明の目的で与えられ、決して本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0088】
作成され、用いられる様々な部材の特徴は以下の通りである。
【0089】
a.膜厚測定
膜厚はTENCOR P10型ニードル表面プロファイラを用いて決定した。以下に与えられる値は異なる位置における7つの測定値の平均値である。
【0090】
b.表面抵抗
膜抵抗は2mm間隔の金コンタクトに基づく、いわゆるリニア4点法を用いて24時間後に測定した。測定した抵抗値から層の抵抗値を得るため、理論にしたがって、係数4.53を用いた。
【0091】
c.粗さ
山−谷粗さ(Rpv)及び平均粗さ(Rrms)は白色光干渉計(Zygo New View 5000)及び原子間力顕微法(いわゆるAFM法)を用いて決定した。
【0092】
d.仕事関数
ケルビンプローブ(KP-Technology Limited)を用いて測定を行った。
【0093】
e.光学特性
試料の透過率はCary 5E(Varian)型分光光度計を用い、基準として空気を用いて、200nmから3000nmの範囲で垂直入射に対して測定した。
【0094】
実施例1:ITO層及びATO層で被覆されたガラス支持体
1.真空蒸着法を用いてITO層で被覆され、Samsung Corningにより販売されている、0.7mm厚ガラス基板を用いた。
【0095】
ITO層の特性は、
−厚さ:192nm
−表面抵抗:7.6Ω/□
−5μmにかけて測定した平均粗さ(Rrms):4.7nm
−5μmにかけて測定した山−谷粗さ(Rpv):31.1nm
−仕事関数:4.3〜4.6eV
−可視光範囲における透過率:83%
であった。
【0096】
2.二酢酸二塩化スズSnCl(OAc)を、安定剤としての4-ヒドロキシ-4-メチル-ペンタノン(CAS 123-42-2)とともに、エタノールに溶解して被覆溶液を作成した。スズとアンチモンの比量は7モル%の最終ドープ量が得られるように計算した。スズに対する比安定剤濃度は2モル%とした。0.5モル/lの最終スズ濃度が得られるようにエタノールを加えた。
【0097】
この被覆溶液を、温度25℃の被覆溶液に基板を浸漬し、24cm/分の速度で引き出すことによって被着した。
【0098】
ATOの単層の被着後、被覆した基板を550℃で15分間加熱した。
【0099】
被膜の特性は、
−表面抵抗:17〜20Ω/□
−光透過率:82%
−仕事関数:4.8〜5.2eV
−被膜厚:108nm(+192nm:ITO分)
−平均粗さ(Rrms):100nm□で0.4nm
−山−谷粗さ(Rpv):100nm□で3.8nm
であった。
【0100】
実施例2(比較例)
比較目的のため、実施例1と同様であるがITO層で被覆されていないいガラス基板上に、実施例1に用いたものと同じ前駆体溶液から、同じ被着及び熱処理条件の下でATO層を直接被着した。
【0101】
以下の特性、
−表面抵抗:1890Ω/□
−光透過率:85%
−仕事関数:4.8〜5.2eV
−被膜厚:108nm
−100nm□における平均粗さ(Rrms):1nm
−100nm□における山−谷粗さ(Rpv):3.6nm
を有する被膜が得られた。
【0102】
実施例3(比較例)
比較目的のため、実施例2の基板と同様の基板上に、実施例2で用いたものと同じ前駆体溶液から、同じ被着及び後熱処理条件の下で連続する8つのATO層を直接被着した。
【0103】
以下の特性、
−表面抵抗:50〜55Ω/□
−光透過率:65%
−仕事関数:4.8〜5.2eV
-被膜厚:600nm
−100nm□における平均粗さ(Rrms):2.5nm
−100nm□における山−谷粗さ(Rpv):8nm
を有する被膜が得られた。
【0104】
ITO層だけで被覆された支持体に加え、本発明の実施例1(ATO/ITO)にしたがって被覆された支持体並びに比較例2及び3にしたがって被覆された支持体の、様々な支持体の特性が下表に与えられる。
【表2】

【0105】
実施例及び図面を用いて本発明を概略的および詳細に説明した。しかし、当業者であれば、本発明が具体的に開示された実施形態に限定される必要はなく、本発明の精神を逸脱することなく改変及び変形がなされ得ることを理解するであろう。したがって、ある変更が、添付される特許請求の範囲で定められる本発明の範囲を特に逸脱しない限り、そのような変更は本発明に含まれると解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明にしたがう部材の略図である
【図2】本発明の部材が組み込まれているOLEDデバイスである
【符号の説明】
【0107】
1 基板
2 第1TCO層
3 第2TCO層
4 発光層を含む区画
5 金属陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−ガラスまたはガラスセラミック基板、
−前記基板の片面に被着され、単体であるか混合体であり、ドープされているかまたはされていない、少なくとも1つの導電性透明酸化物を有する第1TCO層、及び
−前記第1TCO層上に被着され、単体であるか混合体であり、ドープされているかまたはされていない、少なくとも1つの導電性透明酸化物を有する第2TCO層、
を有し、前記第1TCO層及び前記第2TCO層は、
−前記第1TCO層が1nmより大きい粗さを有し、前記第2TCO層が1nm以下の粗さを有し、
−前記第1TCO層及び前記第2TCO層を有する製品の可視光範囲における透過率が少なくとも80%に等しく、
−前記第2TCO層の仕事関数は前記第1TCO層の仕事関数より高く、4.6eVより高い、
ような層であることを特徴とする部材。
【請求項2】
前記第2TCO層の前記仕事関数が4.8eVより高いことを特徴とする請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記第1TCO層及び前記第2TCO層がいずれも、必要に応じて、ガリウム、アンチモン、フッ素、アルミニウム、マグネシウム及び亜鉛からなる群からの少なくとも1つの元素と組み合わされた、スズ、亜鉛、インジウム及びカドミウムを含む群から選ばれる少なくとも1つの金属の、単体酸化物または共酸化物の形態にある少なくとも1つの酸化物あるいは酸化物の混合体を有し、上記の元素は上記の共酸化物または酸化物の混合体の組成に入るか、あるいは上記の酸化物に対するドーピング材として作用することを特徴とする請求項1に記載の部材。
【請求項4】
前記第1TCO層が基本成分として、
−スズドープ酸化インジウム(In:Sn)、
−フッ素ドープ酸化スズ(SnO:F)、
−アルミニウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、
−アンチモンドープ酸化スズ(SnO:Sb)、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の部材。
【請求項5】
前記第2TCO層が、
− SnO
− SnO:F、
− SnO:Sb、
− InSn12
− ZnIn
− ZnSnO
− ZnSnO
− GaInO
− MgIn
から実質的になる群から選ばれる、ドープされているかまたはされていない、少なくとも1つの酸化物を基本的に含むことを特徴とする請求項3に記載の部材。
【請求項6】
前記第2TCO層がアンチモンドープ酸化スズ(ATO),SnO:Sbの層であることを特徴とする請求項3に記載の部材。
【請求項7】
前記第2TCO層の厚さが30nmと200nmの間にあることを特徴とする請求項1に記載の部材。
【請求項8】
前記第2TCO層の厚さが50nmと150nmの間にあることを特徴とする請求項6に記載の部材。
【請求項9】
前記基板の厚さが0.1mmと3mmの間にあることを特徴とする請求項7に記載の部材。
【請求項10】
陽極及び陰極を有する発光表示デバイスにおいて、前記デバイスが陽極側に請求項1で定められる部材を有することを特徴とする発光表示デバイス。
【請求項11】
前記デバイスが、前記デバイスの陽極側に、前記部材の第2TCO層と金属陰極の間に挿入された少なくとも1つの発光層で被覆されている前記部材を組み込んでいる有機発光ダイオード(OLED)であることを特徴とする請求項10に記載の発光表示デバイス。
【請求項12】
部材またはデバイスを作成するためのプロセスにおいて、前記プロセスが、先に第1TCO層で被覆されているガラスまたはガラスセラミック基板上に、ゾル−ゲル型被覆プロセスを用いて第2TCO層を被着する工程を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項13】
前記プロセスが、前記第2TCO層のための熱固結工程も含むことを特徴とする請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記第1TCO層の前記先行被着が真空蒸着プロセスによるか、または気相における化学的被着の形態で実施されることを特徴とする請求項12に記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−516793(P2006−516793A)
【公表日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−534592(P2004−534592)
【出願日】平成15年9月3日(2003.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2003/027759
【国際公開番号】WO2004/023436
【国際公開日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】