説明

発光装置、その駆動回路、電子機器および調整装置

【課題】 各部の特性のバラツキを高精度に補償する。
【解決手段】 電流源トランジスタ441は、ゲートに印加される制御電圧VRSに応じた基準電流IRを生成する。電圧生成トランジスタ443は、基準電流IRに応じた基準電圧VRを生成する。各データ出力回路41は、電圧生成トランジスタ443が生成した基準電圧VRに応じたデータ信号Xを階調データDに基づいて生成してデータ線14に出力する。電圧制御回路46は、電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthに応じた特性信号Sfを取得し、この特性信号Sfに応じた制御電圧VRSを生成して電流源トランジスタ441のゲートに印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオード(以下「OLED(Organic Light Emitting Diode)」という)素子などの発光素子の挙動を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の発光素子を面状ないし線状に配列した発光装置が各種の電子機器の表示装置や露光装置として従来から提案されている。例えば特許文献1には、複数の発光素子が配列された領域を区分したブロックごとに基準電流を生成し、各ブロックの発光素子をそのブロックの基準電流に応じた電流信号の供給によって発光させる駆動回路が開示されている。さらに、同文献に開示された構成においては、ブロックごとに設置された電流源によって調整用の電流が生成され、この電流の加算によって基準電流がブロックごとに調整される。この構成によれば、駆動回路を構成するトランジスタなど各部の特性が所期値から相違していても、ブロックごとに調整用の電流を設定することによって、この相違に起因した各発光素子の輝度のバラツキを抑制することが可能である。
【特許文献1】特開2004−145027号公報(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の技術においては、各ブロックの電流源が生成する調整用の電流を高い精度で所期の電流値に調整することが困難であるため、各発光素子の輝度を所期値に調整する精度には限界がある。本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、各部の特性のバラツキを高精度に補償するという課題の解決を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題を解決するために、本発明に係る駆動回路は、データ信号に応じて輝度が制御される発光素子を備えた発光装置の駆動回路であって、ゲートに印加される制御電圧に応じた基準電流を生成する電流源トランジスタと、電流源トランジスタが生成した基準電流に応じた基準電圧を生成する電圧生成手段(例えば図2に示される電圧生成トランジスタ443)と、電圧生成手段が生成した基準電圧に応じたデータ信号を階調データに基づいて生成して出力するデータ出力回路と、電流源トランジスタの特性に応じた制御電圧を当該電流源トランジスタのゲートに印加する制御電圧供給回路とを具備する。
【0005】
この構成によれば、電流源トランジスタの特性に応じた制御電圧が当該電流源トランジスタのゲートに印加されるから、電流源トランジスタの特性に拘わらず、基準電流の電流値や当該基準電流に応じた基準電圧の電圧値を高い精度で所期値(設計値)に制御することができる。したがって、本実施形態によれば、各発光素子の輝度を指定するデータ信号のバラツキを抑制することができる。
【0006】
本発明の望ましい態様においては、電流源トランジスタの特性を特定する測定回路がさらに設けられ、制御電圧供給回路は、測定回路が特定した特性に応じた制御電圧を生成する。この構成によれば、発光装置の使用に際して随時に電流源トランジスタの特性の特定およびその結果に応じた制御電圧の調整を実施することが可能である。したがって、電流源トランジスタの特性が経時的に変化した場合であっても、この変化後の特性に応じた制御電圧によって電流源トランジスタの特性のバラツキを補償することができる。
【0007】
より具体的な態様において、測定回路は、電流源トランジスタの特性に応じた電圧を出力する特性出力回路と、各々の電圧値が相違する複数の参照電圧と特性出力回路が出力した電圧との比較の結果に応じて複数の参照電圧の何れかを選定する比較回路と、比較回路が選定した参照電圧を指定するデータ(電圧指定データ)を記憶する記憶回路(例えば図4に示されるメモリ463)とを含み、制御電圧供給回路は、記憶回路に記憶されたデータに基づいて、各々の電圧値が相違する複数の参照電圧の何れかを選択する選択回路と、選択回路が選択した参照電圧に応じた制御電圧を生成して電流源トランジスタのゲートに出力する出力回路とを含む。この態様によれば、電流源トランジスタの特性に応じた参照電圧の選択という簡易な構成によって電圧指定データを生成することができる。さらに、電圧指定データに応じた参照電圧の選択という簡易な構成によって制御電圧を生成することができる。
【0008】
本発明の他の態様において、特性出力回路は、電流源トランジスタをダイオード接続するスイッチング素子(例えば図2に示されるスイッチング素子SW2)を含み、このスイッチング素子を介してダイオード接続されているときの電流源トランジスタのゲート(あるいはドレイン)の電圧を出力する。この態様によれば、電流源トランジスタの閾値電圧に応じた電圧を容易に生成して出力することができる。また、電流源トランジスタがダイオード接続されているときに基準電流の経路を遮断するスイッチング素子(例えば図2に示されるスイッチング素子SW3)が配置された構成によれば、電流源トランジスタの特性の測定中に制御電圧が未確定のまま基準電流や基準電圧が生成される事態が回避される。
【0009】
本発明においては、電流源トランジスタや電圧生成手段や制御電圧供給回路がデータ出力回路ごとに設置された構成としてもよいが(例えば図5参照)、より望ましい態様においては、電圧生成手段が生成した基準電圧が印加される基準電圧線に対して各々が共通に接続された複数のデータ出力回路を含み、各データ出力回路は、基準電圧線の基準電圧に応じたデータ信号を生成する(例えば図1参照)。この態様によれば、電圧生成手段や電流源トランジスタあるいは制御電圧供給回路が複数のデータ出力回路によって共用されるから、駆動回路の構成が簡素化されるとともにその製造のコストが低減されるという利点がある。
【0010】
本発明は、以上に説明した各態様の駆動回路を具備する発光装置としても特定される。この発光装置は、データ信号に応じて輝度が制御される発光素子と、ゲートに印加される制御電圧に応じた基準電流を生成する電流源トランジスタと、電流源トランジスタが生成した基準電流に応じた基準電圧を生成する電圧生成手段と、電圧生成手段が生成した基準電圧に応じたデータ信号を階調データに基づいて生成して出力するデータ出力回路と、電流源トランジスタの特性に応じた制御電圧を当該電流源トランジスタのゲートに印加する制御電圧供給回路とを具備する。この発光装置によっても本発明の駆動回路と同様の効果が奏される。
【0011】
本発明に係る発光装置は各種の電子機器に利用される。この電子機器の典型例は、発光装置を表示装置として利用した機器である。この種の電子機器としては、パーソナルコンピュータや携帯電話機などがある。もっとも、本発明に係る発光装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光線の照射によって感光体ドラムなどの像担持体に潜像を形成するための露光装置(露光ヘッド)としても本発明の発光装置を適用することができる。
【0012】
さらに、本発明は、駆動回路の制御電圧を設定するための装置(例えば図7参照)としても特定される。この調整装置は、ゲートに印加される制御電圧に応じた基準電流を生成する電流源トランジスタと、電流源トランジスタが生成した基準電流に応じた基準電圧を生成する電圧生成手段と、電圧生成手段が生成した基準電圧に応じたデータ信号を階調データに基づいて生成して出力するデータ出力回路と、記憶回路に記憶されたデータに基づいて制御電圧を生成して当該電流源トランジスタのゲートに印加する制御電圧供給回路とを含む駆動回路に利用されて制御電圧を設定する装置であって、電流源トランジスタの特性を特定する測定手段と、測定回路が特定した特性に応じたデータを記憶回路に書き込む書込手段とを具備する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る発光装置の構成を示すブロック図である。同図に示されるように、この発光装置Dは、複数の単位回路Pがマトリクス状に配列された素子アレイ部10と、各単位回路Pを駆動する走査線駆動回路20およびデータ線駆動回路40とを含む。素子アレイ部10には、X方向に延在する複数の走査線12と、X方向と直交するY方向に延在するn本(nは自然数)のデータ線14とが形成される。各単位回路Pは走査線12とデータ線14との交差に対応した位置に配置される。ひとつの単位回路Pは、有機EL(ElectroLuminescent)材料からなる発光層を陽極と陰極との間隙に介在させたOLED素子17を含む。
【0014】
走査線駆動回路20は、各走査線12に対する走査信号の出力によって複数の単位回路Pを行単位で順次に選択する。一方、データ線駆動回路40は、走査線駆動回路20による選択行の各単位回路Pに対して各データ線14を介してデータ信号X(X1,X2,……,Xn)を出力する。データ信号Xj(jは1≦j≦nを満たす整数)は、第j列目に位置する単位回路PのOLED素子17の輝度(階調)を指定する電流信号である。各単位回路PのOLED素子17は、データ線14を介して供給されるデータ信号Xに応じた輝度に発光する。なお、単位回路Pの構成は任意であり、走査線12とデータ線14とがOLED素子17の陽極や陰極として機能する構成(パッシブマトリクス型)であってもよいし、OLED素子17に供給される電流をデータ信号Xに応じて制御するスイッチング素子を含む構成(アクティブマトリクス型)であってもよい。
【0015】
図1に示されるように、本実施形態におけるデータ線駆動回路40は、各々が別個のデータ線14に接続された複数(データ線14の総本数に相当するn個)のデータ出力回路41と、基準電圧生成回路44および電圧制御回路46とを含む。図2は、各データ出力回路41および基準電圧生成回路44の構成を示す回路図である。なお、同図においては第j列目のデータ出力回路41の構成のみが詳細に図示されているが、その他のデータ出力回路41の構成も同様である。
【0016】
第j列目のデータ出力回路41は、第j列目の単位回路Pについて外部から入力された階調データDjに基づいてデータ信号Xjを生成して第j列目のデータ線14に出力するD/A変換器であり、階調データDjのビット数に相当する4個のトランジスタTa(Ta1ないしTa4)と、各々のドレインがトランジスタTaのソースに接続された4個のトランジスタTb(Tb1ないしTb4)とを含む。第j列目のデータ出力回路41に属するトランジスタTa1ないしTa4のドレインは第j列目のデータ線14に対して共通に接続される。また、トランジスタTa1ないしTa4の各々のゲートには階調データDjの各ビットが供給される。一方、トランジスタTb1ないしTb4の各々は、ソースが接地されるとともにゲートが共通の配線(以下「基準電圧線」という)42に接続される。トランジスタTb1ないしTb4の特性(特に利得係数)は、基準電圧線42の電圧(以下「基準電圧」という)VRが各々のゲートに印加されたときに各トランジスタTbに流れる電流I1ないしI4の相対比が「I1:I2:I3:I4=1:2:4:8」となるように選定されている。
【0017】
以上の構成において、4個のトランジスタTa1ないしTa4のうち階調データDjの各ビットに応じたトランジスタTaが選択的にオン状態とされる。そして、ここでオン状態となったトランジスタTaに接続された1以上のトランジスタTbにその特性と基準電圧VRに応じた電流I(I1ないしI4のなかから選択された1以上の電流)が流れ、これらの電流を加算した信号がデータ信号Xjとして第j列目のデータ線14に流れる。
【0018】
基準電圧生成回路44は、各データ出力回路41が生成するデータ信号X(X1,X2,……,Xn)の基準となる基準電圧VRを生成して基準電圧線42に印加するための手段である。図2に示されるように、本実施形態における基準電圧生成回路44は、ソースが電源線(電源電圧Vdd)に接続されたpチャネル型のトランジスタ(以下「電流源トランジスタ」という)441と、ソースが接地されたnチャネル型のトランジスタ(以下「電圧生成トランジスタ」という)443とを含む。電流源トランジスタ441は、ゲートに印加される電圧(以下「制御電圧」という)VRSに応じた電流(以下「基準電流」という)IRを生成するための電流源として機能する。一方、電圧生成トランジスタ443は、ゲートおよびドレインの双方が基準電圧線42に接続され、電流源トランジスタ441によって生成された基準電流IRに応じた基準電圧VRを生成して基準電圧線42に印加する手段として機能する。
【0019】
以上に説明したように、各データ信号Xの基礎となる基準電圧VRは基準電流IRに応じて決定される。そして、この基準電流IRは、制御電圧VRS(より具体的には電流源トランジスタ441のゲート・ソース間の電圧)と電流源トランジスタ441の特性とに応じた電流値となる。ここで、電流源トランジスタ441の特性(例えば閾値電圧Vth)は例えばその製造のプロセスに起因して所期値から相違する場合がある。したがって、制御電圧VRSの電圧値が電流源トランジスタ441の特性とは無関係に固定的に選定されるとすれば、基準電流IRやこれに応じて決定される基準電圧VRが電流源トランジスタ441の特性に応じて所期値(設計値)から相違し、この結果として各単位回路Pに対して所期の電流値のデータ信号Xを供給することができないという問題が生じ得る。そこで、本実施形態においては、電流源トランジスタ441の特性(ここでは閾値電圧Vth)が事前に特定されたうえで、この特性に応じて制御電圧VRSが決定される。図2の特性出力回路45は、電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthに応じた信号(以下「特性信号」という)Sfを出力するための手段である。なお、同図においては特性出力回路45が基準電圧生成回路44に内蔵された構成が例示されているが、これが基準電圧生成回路44とは別個に設置された構成としてもよい。
【0020】
図2に示されるように、特性出力回路45は、外部の制御回路(図示略)から供給される信号(S1,S2,S3)に応じて各々の状態が個別に制御される3個のスイッチング素子(SW1、SW2、SW3)を含む。このうちスイッチング素子SW1は、電流源トランジスタ441のドレインと抵抗素子445の一端との間に介挿され、ゲートに供給される信号S1に応じて両者の導通および非導通を切り替えるnチャネル型のトランジスタである。抵抗素子445の他端は接地される。
【0021】
一方、スイッチング素子SW2は、電流源トランジスタ441のドレインとゲートとの間に介挿され、ゲートに供給される信号S2に応じて両者の導通および非導通を切り替えるnチャネル型のトランジスタである。このスイッチング素子SW2がオン状態に遷移すると電流源トランジスタ441はダイオード接続される。スイッチング素子SW2がオン状態を維持しているときの電流源トランジスタ441のゲートの電圧(すなわちドレインの電圧)が特性信号Sfとして出力される。
【0022】
スイッチング素子SW3は、電流源トランジスタ441のドレインと電圧生成トランジスタ443のドレインとの間に介挿され、ゲートに供給される信号S3に応じて両者の導通および非導通を切り替えるnチャネル型のトランジスタである。スイッチング素子SW3がオン状態に遷移すると、電源線から電流源トランジスタ441および電圧生成トランジスタ443を経由して接地線に至る基準電流IRの経路が形成される。一方、スイッチング素子SW3がオフ状態に遷移すると、この基準電流IRの経路が遮断される。
【0023】
次に、図3は、特性出力回路45の動作を示すタイミングチャートである。発光装置Dの電源が投入されるたびに図3の動作が実行されて電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthに応じた特性信号Sfが出力される。図3に示されるように、第1期間P1においては、信号S1および信号S2がハイレベルに遷移するとともに信号S3がローレベルに遷移する。したがって、スイッチング素子SW3がオフ状態となることによって基準電流IRの経路が遮断されたうえで、電流源トランジスタ441がスイッチング素子SW2によってダイオード接続されるとともにそのドレインがスイッチング素子SW1と抵抗素子445とを介して接地される。この動作によって電流源トランジスタ441のドレイン(ゲート)の電圧Vxは、接地電圧Gndに近い電圧値V0まで引き下げられる。また、第1期間P1においてはスイッチング素子SW3がオフ状態となって基準電流IRの経路が遮断されるから、電圧生成トランジスタ443による基準電圧VRの出力は停止される。すなわち、未だ調整の段階にある制御電圧VRSに応じた基準電圧VRが各データ出力回路41に供給される事態は回避される。
【0024】
第1期間P1に続く第2期間P2において、信号S2および信号S3は第1期間Pと同様のレベルに維持されるとともに信号S1はローレベルに遷移する。したがって、スイッチング素子SW1がオフ状態に遷移して電流源トランジスタ441のドレインは接地線から切り離される。ここで、電流源トランジスタ441の近傍にはそのゲート容量や各配線に寄生する容量が存在するから、スイッチング素子SW1がオフ状態に遷移した直後から電流源トランジスタ441のドレインの電圧Vxは徐々に上昇していき、最終的には電源電圧Vddと閾値電圧Vthとの差分値(Vx=Vdd−Vth)に収束する。この収束後の電圧値Vxが特性信号Sfとして特性出力回路45から出力される。
【0025】
各単位回路Pの駆動は第2期間P2の経過後に開始される。この段階において信号S1および信号S2はローレベルを維持する。したがって、電流源トランジスタ441のダイオード接続は解除される。また、信号S3はハイレベルに遷移する。したがって、スイッチング素子SW3がオン状態となって電流源トランジスタ441から電圧生成トランジスタ443に至る基準電流IRの経路が形成され、これにより各データ出力回路41に対する基準電圧VRの出力が開始される。
【0026】
図1に示される電圧制御回路46は、特性出力回路45から出力された特性信号Sfに基づいて制御電圧VRSを制御する手段である。図4は、この電圧制御回路46の構成を示すブロック図である。同図に示されるように、電圧制御回路46は、比較回路462と、参照電圧生成回路461と、メモリ463と、選択回路464と、設定回路465と、出力回路466とを含む。図2に示した特性出力回路45と、図4に示した比較回路462・参照電圧生成回路461およびメモリ463とは、電流源トランジスタ441の特性を特定するための測定回路C1として機能する。一方、図4に示したメモリ463・選択回路464・設定回路465および出力回路466は、測定回路C1が特定した特性に応じて制御電圧VRSを生成する制御電圧供給回路C2として機能する。このように本実施形態においては、参照電圧生成回路461とメモリ463とが測定回路C1と制御電圧供給回路C2とで兼用される構成を例示するが、これらの要素が測定回路C1と制御電圧供給回路C2とで別個に設置された構成としてもよい。
【0027】
参照電圧生成回路461は、各々の電圧値が相違する複数の電圧(以下「参照電圧」という)V1ないしV4を例えば抵抗分圧によって生成する手段である。比較回路462には、参照電圧生成回路461から出力された参照電圧V1ないしV4と特性出力回路45から出力された特性信号Sfとが入力される。この比較回路462は、特性信号Sfの電圧値Vx(=Vdd−Vth)と参照電圧V1ないしV4の各々とを比較することにより、参照電圧V1ないしV4のうち特性信号Sfの電圧値Vxに最も近い電圧Vbを特定する。そして、比較回路462は、ここで特定した電圧Vbを識別するためのデータ(以下「電圧指定データ」という)Dvを生成してメモリ463に書き込む。すなわち、電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthに応じた電圧指定データDvがメモリ463に書き込まれる。なお、メモリ463は、電圧指定データDvを不揮発的に記憶する記憶回路(例えばEEPROM)である。
【0028】
一方、制御電圧供給回路C2の選択回路464には、参照電圧生成回路461から出力された参照電圧V1ないしV4とメモリ463から読み出された電圧指定データDvとが供給される。この選択回路464は、参照電圧V1ないしV4のうち電圧指定データDvによって指定される電圧Vbを選択して出力する。ここで選択された電圧Vbは、電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthに応じた電圧となる。
【0029】
設定回路465は、基準電流IRや基準電圧VRを決定する電圧ΔVを設定するための手段である。本実施形態における設定回路465は、予め設定された電圧ΔVを保持する回路(メモリ)である。ただし、例えば利用者による操作子(図示略)への操作や外部の機器から供給される信号に応じて設定回路465が電圧ΔVを更新する構成としてもよい。
【0030】
出力回路466は、選択回路464から出力された電圧Vb(参照電圧V1ないしV4の何れか)に応じた制御電圧VRSを生成して電流源トランジスタ441のゲートに出力する手段である。本実施形態における出力回路466は、設定回路465が設定した電圧ΔVを電圧Vbから減算することによって制御電圧VRS(=Vb−ΔV)を生成する。
【0031】
ここで、以上の手順で生成された制御電圧VRSの印加によって電流源トランジスタ441に流れる基準電流IRについて検討する。電流源トランジスタ441が飽和領域で動作するとすれば、基準電流IRは以下の式(1)によって表現される。
IR=β/2・(Vgs−Vth)2 ……(1)
ただし、式(1)における「β」は電流源トランジスタ441の利得係数である。また、「Vgs」は電流源トランジスタ441のゲート・ソース間の電圧である。したがって、電圧Vgsは、電源電圧Vddと制御電圧VRSとの差分値(Vgs=Vdd−VRS)として定義される。
【0032】
いま、参照電圧V1ないしV4の何れか(電圧Vb)が特性信号Sfの電圧値Vx(=Vdd−Vth)に略等しいとすれば、出力回路466から出力される制御電圧VRSはこの電圧値Vx(=Vdd−Vth)と電圧ΔVとの差分値(Vdd−Vth−ΔV)に相当するから、式(1)は以下の式(2)に変形される。
IR=β/2・{(Vdd−VRS)−Vth}2
=β/2・{Vdd−(Vdd−Vth−ΔV)−Vth}2
=β/2・(ΔV)2 ……(2)
式(2)から判るように、基準電流IRは、設定回路465が設定した電圧ΔVによって決定され、電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthには依存しない。
【0033】
以上に説明したように、本実施形態においては、電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthに応じて制御電圧VRSが調整されるから、電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthに影響されない基準電流IRを生成することができる。したがって、各データ信号Xの電流値の基礎となる基準電圧VRは、電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthに拘わらず所期値(設計値)となる。すなわち、本実施形態によれば、電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthのバラツキを補償して各OLED素子17の輝度を高い精度で所期値に制御することができる。
【0034】
<B:第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る発光装置Dについて説明する。図5は、本実施形態におけるデータ線駆動回路40の構成を示すブロック図である。なお、本実施形態のうち第1実施形態と同様の要素については共通の符号を付してその説明を適宜に省略する。
【0035】
第1実施形態においては、n個のデータ出力回路41がひとつの基準電圧生成回路44と電圧制御回路46とを共用する構成を例示した。これに対し、本実施形態におけるデータ線駆動回路40は、図5に示されるように、各々が別個のデータ線14に対応するn個の処理ユニットUを有する。各処理ユニットUは、データ線14に対してデータ信号Xを出力するデータ出力回路41と、このデータ信号Xの電流値の基準となる基準電圧VRを電流源トランジスタ441および電圧生成トランジスタ443によって生成する基準電圧生成回路44と、基準電圧VRを決定するための制御電圧VRSを電流源トランジスタ441の特性(閾値電圧Vth)に応じて制御する電圧制御回路46とを含む。すなわち、本実施形態においては、第1実施形態にて説明した基準電圧生成回路44と電圧制御回路46とがデータ出力回路41ごと(データ線14ごと)に設置される。
【0036】
本実施形態においても、各基準電圧生成回路44が生成する基準電圧VRをその電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthに拘わらず所期値に設定することができるから、各発光素子の輝度を高い精度で制御することが可能となる。
【0037】
なお、ここではひとつのデータ出力回路41に対してひとつの基準電圧生成回路44とひとつの電圧制御回路46とが設置された構成を例示したが、複数のデータ出力回路41に対してひとつの基準電圧生成回路44とひとつの電圧制御回路46とが設置された構成としてもよい。すなわち、この構成においては、n本のデータ線14をN本(Nは自然数。図5の構成はN=1の場合に相当する)ごとに区分した各ブロックについて処理ユニットUが配置される。そして、ひとつの処理ユニットUは、各々がデータ線14に接続されたN個のデータ出力回路41と、これらのデータ出力回路41によって共用される基準電圧生成回路44および電圧制御回路46とを含む。
【0038】
<C:変形例>
以上の各形態には様々な変形を加えることができる。具体的な変形の態様を例示すれば以下の通りである。なお、以下の各態様を適宜に組み合わせてもよい。
【0039】
(1)変形例1
各実施形態においては、発光装置Dの電源の投入時に特性信号Sfの出力およびこれに応じた制御電圧VRSの生成が実行される構成を例示したが、これらの動作が実行されるタイミングや契機は任意である。例えば、利用者によって指示が入力されるたびに実行されてもよいし、発光装置Dの動作を休止するモードに遷移したときに実行されてもよい。
【0040】
(2)変形例2
各実施形態においては、電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthを特定する測定回路C1がデータ線駆動回路40に内蔵された構成を例示した。この構成によれば、発光装置Dの出荷後であっても随時に制御電圧VRSが調整されるから、例えば電流源トランジスタ441の特性が経時的に変化した場合であっても、その変化後の特性に応じた制御電圧VRSを生成して基準電流IRや基準電圧VRの生成に利用することができるという利点がある。ただし、発光装置Dが測定回路C1を備えていることは必ずしも必要ではない。例えば、図6に示されるように、制御電圧供給回路C2のみを含む電圧制御回路46(測定回路C1を含まない構成)を採用してもよい。この構成においては、図7に示されるように発光装置Dとは別体に用意された測定回路C1により、第1実施形態と同様の手順によって電流源トランジスタ441の特性の測定が実施され、この測定値に応じた電圧指定データDvが比較回路462によってメモリ463に不揮発的に記憶される。そして、発光装置Dの使用時には、電流源トランジスタ441の特性の測定は実施されず、メモリ463に記憶された電圧指定データDvに応じた制御電圧VRSが図6の構成によって第1実施形態と同様の手順で生成される。この構成によっても、電流源トランジスタ441の特性に拘わらず所期の基準電圧VRを生成できるという効果は奏される。
【0041】
(3)変形例3
各実施形態においては、参照電圧V1ないしV4の何れかを特性信号Sfに応じて選択することによって電圧指定データDvが生成される構成を例示したが、電流源トランジスタ441の特性をメモリ463に保持するための方法はこれに限定されない。例えば、特性信号Sfの電圧値Vx(=Vdd−Vth)のデジタルデータを生成するA/D変換器を測定回路C1に設け、このデジタルデータを電圧指定データDvとしてメモリ463に格納する構成としてもよい。
【0042】
また、各実施形態においては、参照電圧V1ないしV4のうち電圧指定データDvに応じて選択された電圧Vbに応じて制御電圧VRSが生成される構成を例示したが、電圧指定データDvに応じた制御電圧VRSを生成するための方法はこれに限定されない。例えば、電圧指定データが指定した電圧Vbを生成するD/A変換器を制御電圧供給回路C2に設け、この電圧Vbと設定回路465が設定した電圧ΔVとに基づいて制御電圧VRSを生成する構成としてもよい。
【0043】
(4)変形例4
各実施形態においては、電流源トランジスタ441をダイオード接続したときのドレインの電圧Vxの検出によって電流源トランジスタ441の特性が特定される構成を例示したが、電流源トランジスタ441の特性を特定する方法はこれに限定されない。例えば、電流源トランジスタ441のゲートに印加される制御電圧VRSを変化させながら当該電流源トランジスタ441に流れる基準電流IRを測定し、基準電流IRの変化量が顕著となったとき(理想的には基準電流IRが流れ始めたとき)の制御電圧VRSを電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthとして特定してもよい。
【0044】
(5)変形例5
各実施形態においては電流源トランジスタ441の閾値電圧Vthが特定される構成を例示したが、制御電圧VRSの設定の指標となる電流源トランジスタ441の特性は閾値電圧Vthに限定されない。例えば、閾値電圧Vthとともに(またはこれに代えて)キャリア移動度を特定し、これらの特性に基づいて電圧制御回路46が制御電圧VRSを生成する構成としてもよい。すなわち、本発明においては、電流源トランジスタ441の特性に応じた制御電圧VRSがそのゲートに印加される構成であれば足りる。
【0045】
(6)変形例6
以上の説明においてはOLED素子17を利用した発光装置Dを例示したが、これ以外の発光素子を利用した発光装置にも本発明は適用される。例えば、無機EL素子を利用した表示装置、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)、表面導電型電子放出ディスプレイ(SED:Surface-conduction Electron-emitter Display)、弾道電子放出ディスプレイ(BSD:Ballistic electron Surface emitting Display)、発光ダイオードを利用した表示装置など各種の発光装置に本発明は適用される。
【0046】
<D:応用例>
次に、本発明に係る発光装置を利用した電子機器について説明する。図8は、以上に説明した何れかの形態に係る発光装置Dを表示装置として採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての発光装置Dと本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002が設けられている。この発光装置Dは発光素子としてOLED素子17を使用しているので、視野角が広く見易い画面を表示できる。
【0047】
図9に、実施形態に係る発光装置Dを適用した携帯電話機の構成を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、ならびに表示装置としての発光装置Dを備える。スクロールボタン3002を操作することによって、発光装置Dに表示される画面がスクロールされる。
【0048】
図10に、実施形態に係る発光装置Dを適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)の構成を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての発光装置Dを備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が発光装置Dに表示される。
【0049】
なお、本発明に係る発光装置が適用される電子機器としては、図8から図10に示したもののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンタ、スキャナ、複写機、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。また、本発明に係る発光装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光書込み型のプリンタや電子複写機といった画像形成装置においては、用紙などの記録材に形成されるべき画像に応じて感光体を露光する書込みヘッドが使用されるが、この種の書込みヘッドとしても本発明の発光装置は利用される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態に係る発光装置の構成を示すブロック図である。
【図2】各データ出力回路および基準電圧生成回路の構成を示す回路図である。
【図3】特性出力回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】基準電圧生成回路および電圧制御回路の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る発光装置の構成を示すブロック図である。
【図6】変形例に係る制御電圧供給回路の構成を示すブロック図である。
【図7】変形例に係る測定回路の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明に係る電子機器の具体的な形態を示す斜視図である。
【図9】本発明に係る電子機器の具体的な形態を示す斜視図である。
【図10】本発明に係る電子機器の具体的な形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
D……発光装置、P……単位回路、10……素子アレイ部、12……走査線、14……データ線、17……OLED素子、20……走査線駆動回路、40……データ線駆動回路、41……データ出力回路、42……基準電圧線、44……基準電圧生成回路、441……電流源トランジスタ、443……電圧生成トランジスタ、45……特性出力回路、46……電圧制御回路、461……参照電圧生成回路、462……比較回路、463……メモリ、464……選択回路、465……設定回路、466……出力回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ信号に応じて輝度が制御される発光素子を備えた発光装置の駆動回路であって、
ゲートに印加される制御電圧に応じた基準電流を生成する電流源トランジスタと、
前記電流源トランジスタが生成した基準電流に応じた基準電圧を生成する電圧生成手段と、
前記電圧生成手段が生成した基準電圧に応じたデータ信号を階調データに基づいて生成して出力するデータ出力回路と、
前記電流源トランジスタの特性に応じた制御電圧を当該電流源トランジスタのゲートに印加する制御電圧供給回路と
を具備する発光装置の駆動回路。
【請求項2】
前記電流源トランジスタの特性を特定する測定回路を具備し、
前記制御電圧供給回路は、前記測定回路が特定した特性に応じた制御電圧を生成する
請求項1に記載の発光装置の駆動回路。
【請求項3】
前記測定回路は、
前記電流源トランジスタの特性に応じた電圧を出力する特性出力回路と、
各々の電圧値が相違する複数の参照電圧と前記特性出力回路が出力した電圧との比較の結果に応じて前記複数の参照電圧の何れかを選定する比較回路と、
前記比較回路が選定した参照電圧を指定するデータを記憶する記憶回路とを含み、
前記制御電圧供給回路は、
前記記憶回路に記憶されたデータに基づいて、各々の電圧値が相違する複数の参照電圧の何れかを選択する選択回路と、
前記選択回路が選択した参照電圧に応じた制御電圧を生成して前記電流源トランジスタのゲートに出力する出力回路とを含む
請求項2に記載の発光装置の駆動回路。
【請求項4】
前記測定回路は、前記電流源トランジスタをダイオード接続するスイッチング素子を含む特性出力回路であって、このスイッチング素子を介してダイオード接続されているときの電流源トランジスタのゲートの電圧を出力する特性出力回路を含み、
前記制御電圧供給回路は、前記特性出力回路から出力された電圧に応じた制御電圧を生成する
請求項2に記載の発光装置の駆動回路。
【請求項5】
前記特性出力回路は、前記電流源トランジスタがダイオード接続されているときに前記基準電流の経路を遮断するスイッチング素子を含む
請求項4に記載の発光装置の駆動回路。
【請求項6】
前記電圧生成手段が生成した基準電圧が印加される基準電圧線に対して各々が共通に接続された複数の前記データ出力回路を含み、各データ出力回路は、前記基準電圧線の基準電圧に応じたデータ信号を生成する
請求項1に記載の発光装置の駆動回路。
【請求項7】
データ信号に応じて輝度が制御される発光素子と、
ゲートに印加される制御電圧に応じた基準電流を生成する電流源トランジスタと、
前記電流源トランジスタが生成した基準電流に応じた基準電圧を生成する電圧生成手段と、
前記電圧生成手段が生成した基準電圧に応じたデータ信号を階調データに基づいて生成して出力するデータ出力回路と、
前記電流源トランジスタの特性に応じた制御電圧を当該電流源トランジスタのゲートに印加する制御電圧供給回路と
を具備する発光装置。
【請求項8】
請求項7に記載の発光装置を具備する電子機器。
【請求項9】
ゲートに印加される制御電圧に応じた基準電流を生成する電流源トランジスタと、前記電流源トランジスタが生成した基準電流に応じた基準電圧を生成する電圧生成手段と、前記電圧生成手段が生成した基準電圧に応じたデータ信号を階調データに基づいて生成して出力するデータ出力回路と、記憶回路に記憶されたデータに基づいて制御電圧を生成して当該電流源トランジスタのゲートに印加する制御電圧供給回路とを含む駆動回路に利用されて制御電圧を設定する装置であって、
前記電流源トランジスタの特性を特定する測定手段と、
前記測定回路が特定した特性に応じたデータを前記記憶回路に書き込む書込手段と
を具備する調整装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−11181(P2007−11181A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194645(P2005−194645)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】