説明

発光装置、発光装置の製造方法および表示装置

【課題】文字や画像などの情報を簡便に表示することができる発光装置およびその製造方法ならびにその発光装置を含む表示装置を提供する。
【解決手段】発光中心を含む第1母体結晶からなる発光層と、発光中心と同一種の発光中心を含む第2母体結晶からなる発光中心供給層と、が積層され、発光層は局所的に発光層の他の部分よりも発光中心の濃度が高い部分を有しており、発光層における発光中心の濃度が高い部分の直上および/または直下における発光中心供給層の部分は局所的に発光中心供給層の他の部分よりも発光中心の濃度が低くなっている発光装置およびその製造方法ならびにその発光装置を含む表示装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置、発光装置の製造方法および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、発光中心を含む母体結晶からなる発光層中の発光中心を励起することによって発光させる技術が知られている。ここで、発光層から得られる発光強度の最大値は母体結晶を構成する元素に対する発光中心の濃度に大きく影響されるため、母体結晶を構成する元素に対する発光中心の濃度を最適化するとともに、発光中心の励起強度を制御して所望とする発光強度の光を発光させている。
【0003】
たとえば、非特許文献1には、LaP514からなる母体結晶中におけるTb3+イオンからなる発光中心の発光強度の濃度依存性について示されている。ここでは、Tb3+イオンの濃度が0.1%であるときに発光強度が最大値をとり、その濃度よりも高くなると濃度消光により発光強度が低下することから、発光強度を最大とするためにはTb3+イオンの濃度が0.1%に最適化される。
【非特許文献1】蛍光体同学会編,「蛍光体ハンドブック」,オーム出版,昭和62年12月15日,p.78
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発光中心の励起強度を局所的あるいは時間的に変化させる手段を有しない場合には、発光層から発せられる光の強度は発光層中の発光中心の濃度により決まってしまうため、発光層は決まった強度の光を発生させる役割を担うに留まっていた。したがって、従来においては、CRT(Cathode Ray Tube)のような大掛かりな装置を用いない限り、文字や画像を表示させることはできなかった。
【0005】
本発明の目的は、文字や画像などの情報を簡便に表示することができる発光装置およびその製造方法ならびにその発光装置を含む表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、発光中心を含む第1母体結晶からなる発光層と、発光中心と同一種の発光中心を含む第2母体結晶からなる発光中心供給層と、が積層され、発光層は局所的に発光層の他の部分よりも発光中心の濃度が高い部分を有しており、発光層における発光中心の濃度が高い部分の直上および/または直下における発光中心供給層の部分は局所的に発光中心供給層の他の部分よりも発光中心の濃度が低くなっている発光装置である。
【0007】
ここで、本発明の発光装置においては、発光層の第1母体結晶を構成する金属元素の少なくとも1つのイオン半径が発光中心のイオン半径の90%以上であり、発光中心供給層の第2母体結晶を構成する金属元素の少なくとも1つのイオン半径が発光中心のイオン半径の90%未満であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の発光装置においては、発光中心がEu2+、Eu3+、Sm2+、Sm3+、Mn2+、Mn4+、Sn2+、Tb3+、Ce3+、Pb2+、Sb3+、Ti4+、Fe3+、Dy3+、Yb2+、Yb3+、Tm2+、Tm3+、Pr3+、Er3+、Nd3+、Ge2+、Bi3+またはCr3+からなることが好ましい。
【0009】
また、本発明の発光装置においては、発光層の第1母体結晶は発光中心と同一の価数の元素を含み、発光中心供給層の第2母体結晶は発光中心と同一の価数の元素を含むことが好ましい。
【0010】
また、本発明は、上記のいずれかの発光装置を製造するための方法であって、発光層前駆体の少なくとも一方の主面上に発光中心を含む発光中心供給層前駆体を積層することによって積層体を形成する工程と、積層体を局所的にアニールすることによって発光中心供給層前駆体中の発光中心を局所的に発光層前駆体に移動させて上記のいずれかの発光装置を製造する工程と、を含む、発光装置の製造方法である。
【0011】
また、本発明の発光装置の製造方法においては、積層体に局所的に光を照射することによってアニールすることができる。
【0012】
また、本発明の発光装置の製造方法においては、積層体に局所的に加熱体を接触させることによってアニールすることができる。
【0013】
さらに、本発明は、上記のいずれかの発光装置を含む、表示装置である。
なお、本発明において、「同一種の発光中心」とは、元素および価数がそれぞれ同一である発光中心のことを意味する。
【0014】
また、本発明においては、説明の便宜のため、本発明の発光装置の発光層に相当する層について、アニール前を「発光層前駆体」、アニール後を「発光層」と表現するものとする。
【0015】
また、本発明においては、説明の便宜のため、本発明の発光装置の発光中心供給層に相当する層について、アニール前を「発光中心供給層前駆体」、アニール後を「発光中心供給層」と表現するものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、文字や画像などの情報を簡便に表示することができる発光装置およびその製造方法ならびにその発光装置を含む表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0018】
(発光装置)
図1(a)に本発明の発光装置の好ましい一例の模式的な断面図を示す。ここで、本発明の発光装置1は、発光中心を含む第1母体結晶からなる発光層2と、発光層2中の発光中心と同一種の発光中心を含む第2母体結晶からなる発光中心供給層3と、が積層された構成を有している。また、本発明の発光装置1においては、図1(b)に示す発光中心の濃度分布からわかるように、発光層2は局所的に発光層2の他の部分13よりも発光中心の濃度が高い部分4を有しており、その発光層2における発光中心の濃度が高い部分4の直下における発光中心供給層3の部分5は局所的に発光中心供給層3の他の部分14よりも発光中心の濃度が低くなっている。
【0019】
このように、本発明の発光装置1においては、発光層2と発光中心供給層3とが積層された構造で、局所的に発光中心の濃度が高い部分と低い部分とがあるため、発光強度を局所的に変化させることができる。すなわち、発光層2における局所的に発光中心の濃度が高い部分4の直下における発光中心供給層3の部分5は局所的に発光中心の濃度が低くなっているので、発光層2の部分4からの光は発光中心に阻害されることなく外部へ取り出される。一方、発光層2の局所的に発光中心の濃度が低くなっている部分13の直下における発光中心供給層3の部分14は局所的に発光中心の濃度が高くなっているので、発光層2の部分13からの光は発光中心に吸収されて外部に取り出されにくくなる。
【0020】
したがって、本発明の発光装置1においては、発光層2と発光中心供給層3における発光中心の濃度分布が反転していることにより、発光層2の主面において発光強度の差異をより強調することができるために、その発光強度の差異を利用して文字や画像などの情報を簡便に表示することができる。
【0021】
また、本発明の発光装置1において、発光層2の第1母体結晶としては、第1母体結晶の結晶構造を歪ませることなく発光中心を第1母体結晶中に安定に存在させることができ、後述する局所的なアニールによって移動してきた発光中心を取り込みやすい性質を有するものが好ましい。したがって、このような観点からは、発光層2の第1母体結晶としては、以下の(1)または(2)のいずれか一方の要件を満たすものを用いることが好ましく、以下の(1)および(2)の双方の要件を満たすものを用いることがさらに好ましい。
(1)発光層2の第1母体結晶を構成する金属元素の少なくとも1つのイオン半径が発光中心のイオン半径の90%以上となること。
(2)発光層2の第1母体結晶が発光中心と同一の価数の元素を含むこと。
【0022】
すなわち、上記の(1)の要件を満たす場合には、第1母体結晶を構成する金属元素の一部が発光中心と置換したときでも、金属元素の大きさは置換される発光中心の大きさに対して十分な大きさを有しているため、発光中心の置換によって第1母体結晶に結晶構造の歪みが生じにくく、発光中心は安定して第1母体結晶中に存在する傾向にある。また、上記の(2)の要件を満たす場合には、後述する局所的なアニールによって移動してきた発光中心が第1母体結晶の金属元素の格子位置において金属元素と置換しやすくなるために、発光中心を取り込みやすくなる。
【0023】
上記の(1)および(2)の双方の要件を満たす発光層2の第1母体結晶の一例としては、たとえば、発光中心がSm3+の場合において、Sm3+と価数が同一で、イオン半径がSm3+のイオン半径の94%となるY(イットリウム)を含むY23(酸化イットリウム)が挙げられる。
【0024】
また、本発明の発光装置1において、発光中心供給層3の第2母体結晶としては、以下の(3)または(4)のいずれか一方の要件を満たすものを用いることが好ましく、以下の(3)および(4)の双方の要件を満たすものを用いることがさらに好ましい。
(3)発光中心供給層の第2母体結晶を構成する金属元素の少なくとも1つのイオン半径が発光中心のイオン半径の90%未満であること。
(4)発光中心供給層の第2母体結晶が発光中心と同一の価数の元素を含むこと。
【0025】
すなわち、上記の(3)の要件を満たす場合には、発光中心は、第2母体結晶の結晶構造に歪みを生じさせやすいため第2母体結晶中に安定に存在しにくいことから、後述する局所的なアニールによって第1母体結晶に移動しやすい。これにより、発光層2における発光中心の濃度差を大きくすることができる。
【0026】
また、発光中心供給層3の第2母体結晶が上記の(4)の要件を満たす場合には、発光中心供給層3中における発光中心の濃度を制御することが可能となる。
【0027】
上記の(3)および(4)の双方の要件を満たす発光中心供給層3の第2母体結晶の一例としては、たとえば、発光中心がSm3+の場合において、Sm3+と価数が同一で、イオン半径がSm3+のイオン半径の65%となるGa(ガリウム)を含むGa23(酸化ガリウム)が挙げられる。
【0028】
また、本発明の発光装置1において、発光中心はEu2+、Eu3+、Sm2+、Sm3+、Mn2+、Mn4+、Sn2+、Tb3+、Ce3+、Pb2+、Sb3+、Ti4+、Fe3+、Dy3+、Yb2+、Yb3+、Tm2+、Tm3+、Pr3+、Er3+、Nd3+、Ge2+、Bi3+またはCr3+からなることが好ましい。これらの発光中心はそれぞれ発光強度が大きく、優れた発光中心材料であることから、発光層2の主面における発光強度の差異をさらに強調することができる傾向にある。
【0029】
なお、上記においては、発光層2の下方の主面上に発光中心供給層3を積層した構成の発光装置1について説明したが、本発明の発光装置1においては、発光層2の上方の主面上に発光中心供給層3を積層してもよく、発光層2の上方の主面および下方の主面の双方の主面上に発光中心供給層3を積層してもよい。また、発光層2と発光中心供給層3との間には、発光層2および発光中心供給層3以外の他の層が挟まれていてもよい。
【0030】
(発光装置の製造方法)
以下、図2(a)〜(c)の模式的断面図を参照して、本発明の発光装置を製造する方法の好ましい一例について説明する。
【0031】
まず、図2(a)に示すように、基板6上に、たとえばスピンコート法またはディップ法などを用いて、たとえば発光中心が均一に分散されて含まれている発光中心供給層前駆体11と、たとえば発光中心供給層前駆体中の発光中心と同一種の発光中心が均一に分散されて含まれている発光層前駆体10と、を順次積層して、基板6上に発光層前駆体10と発光中心供給層前駆体11とからなる積層体9を形成する。
【0032】
そして、図2(b)に示すように、光源7からの光をレンズ8で集光して積層体9に光を局所的に照射することによって、積層体9の光の照射部分を局所的にアニールする。ここで、光の照射部分または非照射部分が文字や画像などの形状となるように光を照射することによって、文字や画像などの情報の表示が可能となる。また、上記のように光を照射することによって局所的なアニールをする場合には、光の照射部分を移動させたり、光の照射部分の大きさを変更したりすることが容易となる。
【0033】
この光の照射による局所的なアニールにより、発光中心供給層前駆体11における光の照射部分に存在していた発光中心が熱拡散によってその直上の発光層前駆体10の部分に局所的に移動して、図2(c)に示すように、基板6上に、局所的に発光中心の濃度が高い部分4を有する発光層2と局所的に発光中心の濃度が低い部分5を有する発光中心供給層3とからなる本発明の発光装置1が形成される。
【0034】
なお、上記においては、発光中心が含まれている発光層前駆体10を用いて本発明の発光装置1を形成する場合について説明したが、本発明においては発光層前駆体10に発光中心が含まれていなくてもよい。
【0035】
また、上記においては、積層体9に光を局所的に照射することにより積層体9の局所的なアニールを行なったが、本発明においては積層体9に局所的に加熱体を接触させることによっても積層体9を局所的にアニールすることができる。積層体9に局所的に加熱体を接触させて積層体9の局所的なアニールを行なった場合には、容易に積層体9の局所的なアニールを行なうことが可能となる。この場合には、たとえば、加熱体の形状を文字や画像などの形状とすることによって、文字や画像などの情報の表示が可能となる。
【0036】
また、上記においては、基板6上に、先に発光中心供給層前駆体11を積層し、次に、発光層前駆体10を積層した場合について説明したが、発光層前駆体10と発光中心供給層前駆体11の積層順序は逆であってもよい。
【0037】
(表示装置)
本発明の発光装置を発光層の発光中心を励起させる手段と組み合わせることによって、発光中心の励起強度を局所的あるいは時間的に変化させる手段を有しなくとも文字や画像などの情報を簡便に表示することができる本発明の表示装置を提供することができる。ここで、発光層の発光中心を励起させる手段としては、たとえば、光による励起、電界印加による励起またはキャリア注入による励起などの励起手段を用いることができる。なかでも、発光層の発光中心を励起させる手段としては、励起光源などの光による励起手段が簡便であるため好ましい。
【0038】
また、本発明の表示装置において、発光層からの光を効率的に取り出すために、発光層の発光中心の励起は発光層の主面の一方向から行なわれることが好ましい。この観点からも、光による励起手段であれば、本発明の発光装置の一方の主面側に面状の励起光源を備えることで他方の主面から光を取り出すことができる。
【0039】
なお、上記において、励起光源としては、たとえば、発光ダイオード、レーザまたは管球光源などを用いることができる。
【0040】
(実施の形態1)
図1(a)に示す発光層2の第1母体結晶にSrAl24(Sr2+イオン半径:0.118nm)を用い、発光中心供給層3の第2母体結晶にMgAl24(Mg2+イオン半径:0.072nm)を用い、発光層2および発光中心供給層3にそれぞれ含まれる発光中心としてEu2+(Eu2+イオン半径:0.117nm)を用いた構成の本発明の発光装置1を作製する。この本発明の発光装置1は以下のようにして作製する。
【0041】
まず、Sr(NO32を1mmol、Al(NO33を2mmol、Eu(NO33を0.01mmol、それぞれ秤量して、これらを溶媒である水200ml中に溶かして、100℃で10時間反応させることによって湿潤ゲルからなる発光層前駆体を得る。そして、この湿潤ゲルからなる発光層前駆体を、スピンコート法またはディップ法によりサファイア基板の主面上に塗布した後に乾燥させて、サファイア基板の主面上に発光層前駆体を積層する。
【0042】
次に、Mg(NO32を1mmol、Al(NO33を2mmol、Eu(NO33を0.2mmol、それぞれ秤量して、これらを溶媒である水200ml中に溶かして、100℃で10時間反応させることによって湿潤ゲルからなる発光中心供給層前駆体を得る。そして、この湿潤ゲルからなる発光中心供給層前駆体を、スピンコート法またはディップ法により上記の発光層前駆体の主面上に塗布した後に乾燥させて、発光層前駆体の主面上に発光中心供給層前駆体を積層し、サファイア基板の主面上に発光層前駆体と発光中心供給層前駆体とからなる積層体を形成する。
【0043】
そして、2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを流した還元雰囲気下において、CO2レーザ装置を励起光源として用い、励起光源からの光をレンズにより集光して光の照射部分を絞って上記の積層体に光を照射して、積層体の局所的なアニールを行なう。これにより、発光中心供給層前駆体から発光層前駆体に光の照射部分に存在する発光中心を移動させるとともに、発光層前駆体および発光中心供給層前駆体の光の照射部分をそれぞれを結晶化して発光層2および発光中心供給層3を形成する。この局所的なアニールにより、光の照射部分に対応する発光層2の部分4の発光中心の濃度を局所的に高くするとともに発光層2の部分4の直下の発光中心供給層3の部分5の発光中心の濃度を局所的に低下させる。
【0044】
(実施の形態2)
図1(a)に示す発光層2の第1母体結晶にY23(Y3+イオン半径:0.09nm)を用い、発光中心供給層3の第2母体結晶にGa23(Ga3+イオン半径:0.062nm)を用い、発光層2および発光中心供給層3にそれぞれ含まれる発光中心としてSm3+(Sm3+イオン半径:0.096nm)を用いた構成の本発明の発光装置1を作製する。この本発明の発光装置1は以下のようにして作製する。
【0045】
まず、Ga(NO33を10mmol、Sm(NO33を1mmol、それぞれ秤量して、これらを溶媒である水200ml中に溶かして、100℃で10時間反応させることによって湿潤ゲルからなる発光中心供給層前駆体を得る。そして、この湿潤ゲルからなる発光中心供給層前駆体を、スピンコート法またはディップ法により、サファイア基板の主面上に塗布した後に乾燥させて、サファイア基板の主面上に発光中心供給層前駆体を積層する。
【0046】
次に、Y(NO33を10mmol、Sm(NO33を0.001mmolそれぞれ秤量して、これらを溶媒である水200ml中に溶かして、100℃で10時間反応させることによって湿潤ゲルからなる発光層前駆体を得る。そして、この湿潤ゲルからなる発光層前駆体を、スピンコート法またはディップ法により上記の発光中心供給層前駆体の主面上に塗布した後に乾燥させて、発光中心供給層前駆体の主面上に発光層前駆体を積層し、サファイア基板の主面上に発光中心供給層前駆体と発光層前駆体とからなる積層体を形成する。
【0047】
その後、Nd:YAGレーザ装置を励起光源として用い、励起光源からの光をレンズにより集光して光の照射部分を絞って上記の積層体に光を照射して、積層体の局所的なアニールを行なう。これにより、発光中心供給層前駆体から発光層前駆体に光の照射部分に存在する発光中心を移動させて、光の照射部分に対応する発光層2の部分4の発光中心の濃度を局所的に高くするとともに発光層2の部分4の直下の発光中心供給層3の部分5の発光中心の濃度を局所的に低下させる。
【0048】
(実施の形態3)
図1(a)に示す発光層2の第1母体結晶に3.5MgO・0.5MgF2・GeO2(Ge2+イオン半径:0.039nm)を用い、発光中心供給層3の第2母体結晶にSiO2(Si4+イオン半径:0.026nm)を用い、発光層2および発光中心供給層3にそれぞれ含まれる発光中心としてMn4+(Mn4+イオン半径:0.039nm)を用いた構成の本発明の発光装置1を作製する。この本発明の発光装置1は以下のようにして作製する。
【0049】
まず、MgOを35mmol、MgF2を5mmol、GeO2を10mmol、それぞれ秤量した後にこれらを混合して、大気圧雰囲気下において1200℃で18時間の焼成を行なった後、焼成物を粉砕混合してさらに大気雰囲気下において1200℃で18時間の焼成を行なって、発光層前駆体を形成する。
【0050】
次に、Si(OC254を40mmol、Mn(OC254を5mmol、それぞれ秤量して、これらを25mmolのC25OHと240mmolの水の混合溶液に加えて、数時間攪拌する。そして、撹拌された上記混合溶液に1mol/lのHCl水溶液を1ml加えて攪拌しながら上記混合溶液を70℃に保ち、これを10時間反応させて湿潤ゲルからなる発光中心供給層前駆体を得る。この湿潤ゲルからなる発光中心供給層前駆体をスピンコート法またはディップ法によりFe基板の主面上に塗布して、大気雰囲気下において500℃で3時間焼成して、発光中心供給層前駆体を形成する。
【0051】
そして、それぞれ形成した発光層前駆体と発光中心供給層前駆体を重ねて積層して積層体を形成し、発光層前駆体に接触しているFe基板を酸処理により除去する。
【0052】
その後、アニールされる積層体の主面部分と良好に接触できる平面を有している700℃程度に加熱されたスタンパを積層体の主面に接触させ、発光中心供給層前駆体中の発光中心を局所的に発光層前駆体に移動させて、スタンパの接触部分に対応する発光層2の部分4の発光中心の濃度を局所的に高くするとともに発光層2の部分4の直下の発光中心供給層3の部分5の発光中心の濃度を局所的に低下させる。ここで、スタンパの形状は、適宜成形される。
【0053】
(実施の形態4)
図3に、本発明の表示装置の好ましい一例の模式的な斜視図を示す。本発明の表示装置13は、局所的アニールにより明暗パターン(ABC)を形成した本発明の発光装置1と、本発明の発光装置1の一方の表面の下方に設置された励起光源12と、から構成されている。
【0054】
ここで、本発明の発光装置1の発光層の第1母体結晶としてY23が用いられ、発光中心供給層の第2母体結晶としてGa23が用いられ、発光中心としてSm3+が用いられている。また、励起光源12としては、たとえばレーザ装置と導光板とを組み合わせた面発光の励起光源が用いられている。励起光源12のレーザ装置からの光に求められる波長としてはSm3+の吸収帯である405nm付近が好ましい。
【0055】
なお、上記の実施の形態1〜4においては、発光中心としてEu2+、Sm3+またはMn4+を用い、製造方法としてスピンコート法またはディップ法を用いた形態について説明したが、本発明においては、発光中心がEu3+、Sm2+、Mn2+、Sn2+、Tb3+、Ce3+、Pb2+、Sb3+、Ti4+、Fe3+、Dy3+、Yb2+、Yb3+、Tm2+、Tm3+、Pr3+、Er3+、Nd3+、Ge2+、Bi3+またはCr3+であるものおよび製造方法として蒸着法、化学気堆積法、分子線エピタキシ法、レーザーアブレーション法またはスパッタ法を用いた場合においても、本発明の効果を得ることができると考えられる。
【0056】
また、光の照射による局所的なアニールの光源としては、CO2レーザ装置やNd:YAGレーザ装置の他にも、紫外線光源や赤外線光源を用いてもよい。
【0057】
また、上記の実施の形態1〜2においては、サファイア基板を含む発光装置について説明したが、本発明の発光装置においては、サファイア基板以外にも、発光層からの光や励起光源からの光に対して透明な基板であれば、サファイア基板と同様に用いることができる。
【0058】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】(a)は本発明の発光装置の好ましい一例の模式的な断面図であり、(b)は(a)に示す発光装置の発光中心の濃度分布を示す図である。
【図2】(a)は基板上に形成された発光層前駆体と発光中心供給層前駆体とからなる積層体の好ましい一例の模式的な断面図であり、(b)は(a)に示す積層体の局所的なアニールの一例を図解する模式的な断面図であり、(c)は(b)に示す局所的なアニール後に基板上に形成された本発明の発光装置の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図3】本発明の表示装置の好ましい一例の模式的な斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1 発光装置、2 発光層、3 発光中心供給層、4,5 部分、6 基板、7 光源、8 レンズ、9 積層体、10 発光層前駆体、11 発光中心供給層前駆体、12 励起光源、13 表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光中心を含む第1母体結晶からなる発光層と、前記発光中心と同一種の発光中心を含む第2母体結晶からなる発光中心供給層と、が積層され、
前記発光層は局所的に前記発光層の他の部分よりも前記発光中心の濃度が高い部分を有しており、
前記発光層における前記発光中心の濃度が高い部分の直上および/または直下における前記発光中心供給層の部分は局所的に前記発光中心供給層の他の部分よりも前記発光中心の濃度が低くなっていることを特徴とする、発光装置。
【請求項2】
前記発光層の前記第1母体結晶を構成する金属元素の少なくとも1つのイオン半径が前記発光中心のイオン半径の90%以上であり、
前記発光中心供給層の前記第2母体結晶を構成する金属元素の少なくとも1つのイオン半径が前記発光中心のイオン半径の90%未満であることを特徴とする、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記発光中心がEu2+、Eu3+、Sm2+、Sm3+、Mn2+、Mn4+、Sn2+、Tb3+、Ce3+、Pb2+、Sb3+、Ti4+、Fe3+、Dy3+、Yb2+、Yb3+、Tm2+、Tm3+、Pr3+、Er3+、Nd3+、Ge2+、Bi3+またはCr3+からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記発光層の前記第1母体結晶は前記発光中心と同一の価数の元素を含み、前記発光中心供給層の前記第2母体結晶は前記発光中心と同一の価数の元素を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の発光装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の発光装置を製造するための方法であって、
発光層前駆体の少なくとも一方の主面上に発光中心を含む発光中心供給層前駆体を積層することによって積層体を形成する工程と、
前記積層体を局所的にアニールすることによって前記発光中心供給層前駆体中の前記発光中心を局所的に前記発光層前駆体に移動させて前記発光装置を製造する工程と、
を含む、発光装置の製造方法。
【請求項6】
前記積層体に局所的に光を照射することによってアニールすることを特徴とする、請求項5に記載の発光装置の製造方法。
【請求項7】
前記積層体に局所的に加熱体を接触させることによってアニールすることを特徴とする、請求項5に記載の発光装置の製造方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の発光装置を含む、表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−262225(P2007−262225A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88637(P2006−88637)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】