説明

発光装置および電気機器

【課題】一対の電極間に発光物質を含む層と透明導電膜を有する発光素子において、透明導電膜と反射金属との電蝕を防止することができる発光素子および発光素子を用いた発光装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、陽極101と、陰極106との間に、発光物質を含む第1の層102、N型半導体を含む第2の層103、透明導電膜から構成される第3の層104、ホール輸送媒体を含む第4の層105と有し、発光物質を含む第1の層102、N型半導体を含む第2の層103、透明導電膜から構成される第3の層104、ホール輸送媒体となる材料を含む第4の層105、陰極106が順に設けられており、陰極は反射金属を含む層を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極と、電界を加えることで発光が得られる有機化合物を含む層と、
を有する発光素子に関する。また、このような発光素子を有する発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光材料を用いた発光素子は、薄型軽量、高速応答性、直流低電圧駆動などの特徴を有
しており、次世代のフラットパネルディスプレイへの応用が期待されている。また、発光
素子をマトリクス状に配置した発光装置は、従来の液晶表示装置と比較して、視野角が広
く視認性が優れる点に優位性があると言われている。
【0003】
発光素子の発光機構は、一対の電極間に発光層を挟んで電圧を印加することにより、陰
極から注入された電子および陽極から注入されたホールが発光層の発光中心で再結合して
分子励起子を形成し、その分子励起子が基底状態に戻る際にエネルギーを放出して発光す
るといわれている。励起状態には一重項励起と三重項励起が知られ、発光はどちらの励起
状態を経ても可能であると考えられている。
【0004】
このような発光素子に関しては、その素子特性を向上させるために、素子構造の改良や
材料開発等が行われている。
【0005】
例えば、発光領域と反射金属との距離を制御して、輝度の劣化を伴うことなく、外部量
子効率を向上させる手段として、発光部と反射金属との間にITOを挟んで、発光部から
反射電極までの光学距離Lを制御する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1で開示されている素子構成の概略を図2に示す。透明電極201、発光部2
02、透明導電膜203、金属電極204が積層された構成としており、透明導電膜20
3の膜厚を調整することにより、金属電極と発光領域との光学距離Lを最適化し、外部量
子効率を向上させている。
【0007】
しかし、特許文献1の構成によると、透明導電膜203と反射金属(金属電極)204
とが接しているため、自然電位の違いにより、電蝕の懸念があった(例えば、特許文献2
参照)。特許文献2では、3.5%塩化ナトリウム水溶液
(液温27℃)を用い、参照電極は銀/塩化銀を用いて測定したときの自然電位は記載さ
れている。この条件において、反射率の高い反射金属として知られているアルミニウムの
自然電位は約−1550mVであり、透明導電膜であるITO(In23−10wt%S
nO2)の自然電位は約−1000mVであり、その差が大きく、アルミニウムとITO
の界面で酸化還元反応が進行し、電蝕されてしまう可能性が高かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−272855号公報
【特許文献2】特開2003−89864号公報
【0009】
なお、自然電位とは、反応物をある溶液に浸したとき、外部より電流を与えない状態で
参照電極に対して示す電位、つまり閉回路における電位であり、静止電位とも呼ばれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記問題を鑑み、本発明は、一対の電極間に発光物質を含む層と透明導電膜を有する発
光素子において、透明導電膜と反射金属との電蝕を防止することができる発光素子および
発光素子を用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、陽極と、陰極との間に、発光物質を含む第1の層、N型半導体を含む第2の
層、透明導電膜から構成される第3の層、ホール輸送媒体を含む第4の層と有し、発光物
質を含む第1の層、N型半導体を含む第2の層、透明導電膜から構成される第3の層、ホ
ール輸送媒体となる材料を含む第4の層が順に設けられており、陰極は反射金属を含む層
を有することを特徴とする。
【0012】
上記構成において、反射金属としては、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、またはこ
れらを含む合金であるAlLi合金、MgAg合金等が挙げられる。
【0013】
また、透明導電膜からなる第3の層を構成する材料としては、インジウム錫酸化物、ま
たは珪素を含有したインジウム錫酸化物、2〜20%の酸化亜鉛を含む酸化インジウム等
を用いることができる。
【0014】
また、上記構成において、N型半導体を含む第2の層及びホール輸送媒体を含む第4の
層はそれぞれ単層で構成されていてもよいし、複数の層が積層されている構成であっても
よい。ここで、N型半導体は、金属酸化物であることが好ましく、特に、酸化亜鉛、酸化
錫、および酸化チタンからなる群より選ばれるいずれかの一または二以上の化合物である
ことが好ましい。
【0015】
本発明は、陽極と、陰極との間に、発光物質を含む第1の層、有機化合物および電子供
与性を示す物質を含む第2の層、透明導電膜から構成される第3の層、ホール輸送媒体を
含む第4の層と有し、発光物質を含む第1の層、N型半導体を含む第2の層、透明導電膜
から構成される第3の層、ホール輸送媒体となる材料を含む第4の層が順に設けられてお
り、陰極は反射金属を含む層を有することを特徴とする。
【0016】
上記構成において、有機化合物および電子供与性を示す物質を含む第2の層及びホール
輸送媒体を含む第4の層はそれぞれ単層で構成されていてもよいし、複数の層が積層され
ている構成であってもよい。ここで、有機化合物は、電子輸送性を示す有機化合物である
ことが好ましく、特に、π共役骨格を含む配位子を有する金属錯体が好ましい。また、電
子供与性を示す物質はアルカリ金属またはアルカリ土類金属または希土類金属であること
が好ましい。
【0017】
また、上記構成において、陰極は、反射金属の単層で構成されていてもよいし、反射金
属と他の電極材料との積層した構成であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の構成とすることにより、反射金属と透明導電膜とが直に接することがないため
、自然電位の違いによる電蝕を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の発光素子の素子構造を説明する図。
【図2】従来の発光素子の素子構造を説明する図。
【図3】本発明の発光素子の素子構造を説明する図。
【図4】本発明の発光素子の素子構造を説明する図。
【図5】発光装置について説明する図。
【図6】電気機器について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説
明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様
々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実
施の形態の記述内容に限定して解釈されるものではない。
【0021】
なお、本発明において発光素子の一対の電極のうち、陽極として機能する電極とは当該
電極の方が高くなるように電圧をかけた際、発光が得られる方の電極を言い、陰極として
機能する電極とは当該電極の方が低くなるように電圧をかけた際、発光が得られる方の電
極を言う。
【0022】
(実施の形態1)
図1に、本発明における発光素子の素子構成を模式的に示す。本発明の発光素子は、陽
極101と陰極106との間に、第1の層102、第2の層103、第3の層104、第
4の層105が、陽極101から陰極106の方向に対して順に設けられた構成となって
いる。
【0023】
本実施の形態では、陰極106は反射金属で構成されており、第1の層102からの発
光は陽極側から取り出す構造となっている。
【0024】
陽極101としては、透光性を有する材料を用いることが好ましく、具体的には、イン
ジウム錫酸化物(略称:ITO)、または珪素を含有したインジウム錫酸化物、2〜20
%の酸化亜鉛を含む酸化インジウム等を用いることができる。
【0025】
第1の層102は、発光物質を含む層であり、公知の材料から構成されている。第1の
層102は、単層で構成されていてもよいし、複数の層から構成されていてもよい。例え
ば、発光層以外に、電子注入層、電子輸送層、ホールブロッキング層、ホール輸送層、ホ
ール注入層等の機能性の各層を自由に組み合わせて設けてもよい。また、これらの各層を
合わせた混合層又は混合接合を形成しても良い。発光層の層構造は変化しうるものであり
、特定の電子注入領域や発光領域を備えていない代わりに、もっぱら電子注入を目的とし
た電極を備えたり、発光性の材料を分散させて備えたりする変形は、本発明の趣旨を逸脱
しない範囲において許容されうるものである。
【0026】
第2の層103は、電子を発生するドナー準位を有する材料を含む層である。具体的に
は、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、硫化亜鉛、セレン化亜鉛、テルル化亜鉛などのN型
半導体からなる構成であるか、またはそれらN型半導体を含む構成であればよい。あるい
はまた、有機化合物に電子供与性を示す物質をドープした構成であってもよい。この時の
有機化合物としては電子輸送性材料が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−
tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)や、先に
述べたOXD−7、TAZ、p−EtTAZ、BPhen、BCPが挙げられ、この他に
従来では駆動電圧の上昇が見られたAlq3、トリス(5−メチル−8−キノリノラト)
アルミニウム(略称:Almq3)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]−キノリナト
)ベリリウム略称:BeBq2)などのキノリン骨格またはベンゾキノリン骨格を有する
金属錯体や、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−フェニルフェノラト−アルミ
ニウム(略称:BAlq)が挙げられる。一方、電子供与性を示す物質としては、Liや
Cs等のアルカリ金属、およびMg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、またはE
r、Yb等の希土類金属が挙げられる。この他に、例えばAlq3に対して電子供与性を
示すテトラチアフルバレンやテトラメチルチアフルバレンのような有機化合物であっても
よい。
【0027】
第3の層104は、透光性を有し、キャリアを発生する材料を含む層である。具体的に
は、インジウム錫酸化物(略称:ITO)、または珪素を含有したインジウム錫酸化物、
2〜20%の酸化亜鉛を含む酸化インジウム等の透明導電膜を用いることができる。
【0028】
第4の層105は、ホール輸送媒体を含む層である。ホール輸送媒体としては、有機化
合物からなるホール輸送性材料、有機化合物に電子受容性を示す物質をドープした材料、
無機化合物からなるホール輸送性材料が挙げられる。第4の層105には、これらのホー
ル輸送媒体を用いることができるが、より好ましくは、ホールを発生するアクセプター準
位を有する材料、すなわち、有機化合物に電子受容性を示す物質をドープした材料、また
は、無機化合物からなるホール輸送性材料を用いるとよい。
【0029】
第4の層を有機化合物からなるホール輸送性材料を含む構成とする場合、用いるホール
輸送性材料としては、芳香族アミン骨格(すなわち、ベンゼン環−窒素の結合を有するも
の)を有する化合物が好適である。広く用いられている材料として、例えば、N,N’−
ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,
4’−ジアミン(略称:TPD)の他、その誘導体である4,4’−ビス[N−(1−ナ
フチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(略称:α−NPD)や、4,4’,4
’’−トリス(N−カルバゾリル)−トリフェニルアミン(略称:TCTA)、4,4’
,4’’−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン(略称:TDA
TA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニル−アミ
ノ]−トリフェニルアミン(略称:MTDATA)などのスターバースト型芳香族アミン
化合物が挙げられる。
【0030】
また、第4の層105を有機化合物に電子受容性を示す物質をドープした構成とする場
合には、用いる有機化合物としてはホール輸送性材料が好ましく、芳香族アミン骨格を有
する化合物が好適である。例えば、TPDの他、その誘導体であるα−NPD、あるいは
TDATA、MTDATAなどのスターバースト型芳香族アミン化合物が挙げられる。一
方、電子受容性を示す物質としては、例えばα−NPDに対して電子受容性を示す酸化モ
リブデン、酸化バナジウムや酸化レニウムのような金属酸化物が挙げられる。また、α−
NPDに対して電子受容性を示すテトラシアノキノジメタン(略称:TCNQ)や2,3
―ジシアノナフトキノン(略称:DCNNQ)のような有機化合物であってもよい。
【0031】
また、第4の層105を無機化合物からなるホール輸送性材料を含む構成とする場合は
、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ニッケルなどのP
型半導体からなる構成であるか、またはそれらP型半導体を含む構成であればよい。
【0032】
また、陰極106としては、反射率の高い金属を用いることが好ましく、アルミニウム
(Al)、銀(Ag)、またはこれらを含む合金であるAlLi合金、MgAg合金等を
用いることができる。また、陰極106は、反射金属と他の電極材料との積層構造として
もよく、例えば、カルシウム(Ca)とAgとの積層、CaとAlとの積層、LiとAl
との積層等の積層構造としてもよい。アルカリ金属やアルカリ土類金属の膜を薄く(例え
ば5nm程度)形成し、反射金属と積層させることにより、電子注入性を高めることが可
能となる。
【0033】
本実施の形態で示す構造では、陰極106と、第3の層104との間に、第4の層10
5を有しており、反射金属で構成された陰極106と、透明導電膜で構成された第3の層
104とは、直に接することがない。そのため、自然電位の違いによる電蝕を防ぐことが
できる。つまり、反射金属と透明導電膜とが反応してしまうことを防ぐことができる。
【0034】
また、透明導電膜から構成される第3の層104だけでなく、第4の層105の膜厚も
自由に設定することができるため、発光物質を含む第1の層102中の発光領域から反射
金属までの光学距離Lを最適化するための自由度がより広がる。そのため、外部量子効率
を向上するように光学距離を最適化することや、発光色の色純度を向上するように光学距
離を最適化することがより容易となる。
【0035】
また、第1の層102、第2の層103、第3の層104、第4の層105、陰極10
6が積層した構成となっているため、第3の層から電子とホールとは発生することが可能
となる。第3の層104から発生した電子は、第2の層103が電子を発生するドナー準
位を有する材料を含んでいるため、第3の層104から第2の層103への電子移動の障
壁が小さく、容易に第2の層103に移動し、第1の層102で陽極から注入されたホー
ルと再結合し、発光する。一方、第3の層から発生したホールは、透明導電膜から構成さ
れる第3の層104からール輸送媒体を含む第4の層105へのホール移動の障壁が低く
、容易に第4の層に移動し、陰極106まで輸送される。
【0036】
つまり、本発明の構成では、実質的な電子の移動距離が短くなり、駆動電圧を低減する
ことが可能となる。従って、外部量子効率や色純度を向上させるため光学距離を最適化し
、発光物質を含む層中の発光領域から反射金属までの距離をある一定距離に設定した場合
、本発明を用いることで電子の実質的な移動距離は短くなり、駆動電圧を低減することが
可能となる。
【0037】
また、光学距離を最適化するために、発光物質を含む層中の発光領域から反射金属まで
の距離を大きくし、膜厚を厚くした場合でも、駆動電圧の上昇を抑制することが可能とな
る。
【0038】
また、第3の層104を挟んで、第2の層103と第4の層105を積層した構成とす
ることにより、第2の層103と第4の層105との接触抵抗を低減することが可能にな
る。よって、より駆動電圧を低減することができる。また、間に第3の層104が存在す
ることにより、第2の層103、第4の層105、それぞれを構成する材料の選択の幅が
広がる。
【0039】
なお、第2の層103と第3の層104との接触抵抗、第3の層104と第4の層10
5との接触抵抗は、小さい方が好ましい。
【実施例1】
【0040】
本実施例では、本発明の発光素子の構造について図3を用いて説明する。
【0041】
まず、基板300上に発光素子の陽極301を形成する。材料として透明導電膜である
ITOを用い、スパッタリング法により110nmの膜厚で形成する。陽極301の形状
は2mm角とする。
【0042】
次に、陽極301上に発光物質を含む第1の層302を形成する。なお、本実施例にお
ける発光物質を含む第1の層302は、3つの層311、312、313からなる積層構
造を有している。
【0043】
陽極301が形成された基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに陽極301が形成された
面を下方にして固定し、真空蒸着装置の内部に備えられた蒸発源に銅フタロシアニン(以
下、Cu−Pcと示す)を入れ、抵抗加熱法を用いた蒸着法により20nmの膜厚でホー
ル注入性の材料から成るホール注入層311を形成する。なお、ホール注入層311を形
成する材料としては、公知のホール注入性材料を用いることができる。
【0044】
次に、ホール輸送性に優れた材料によりホール輸送層312を形成する。ホール輸送層
312を形成する材料としては、公知のホール輸送性材料を用いることができるが、本実
施例では、α−NPDを同様の方法により、40nmの膜厚で形成する。
【0045】
次に、発光層313を形成する。発光層313を形成する材料としては、公知の発光物
質を用いることができるが、本実施例では、Alq3を同様の方法により、40nmの膜
厚で形成する。
【0046】
このようにして、3つの層311、312、313を積層して形成する。次に、第2の
層303を形成する。本実施例では、電子輸送性材料(ホスト材料)としてAlq3を、
Alq3に対して電子供与性を示す物質(ゲスト材料)としてMgを用い、30nmの膜
厚で共蒸着法により第2の層303を形成する。ゲスト材料の割合は1質量%とする。
【0047】
次に、第3の層304が形成される。本実施例では、ITOを用い、140nmの膜厚
で、透明導電層を形成する。
【0048】
次に、第4の層305が形成される。本実施例では、ホール輸送性材料(ホスト材料)
としてα−NPDを、α−NPDに対して電子受容性を示す物質(ゲスト材料)として酸
化モリブデンを用い、150nmの膜厚で共蒸着法により第3の層を形成する。ゲスト材
料の割合は25質量%とする。
【0049】
次に、陰極306をスパッタリング法または蒸着法により形成する。なお、本実施例で
は、第4の層305上にアルミニウム(150nm)を蒸着法により形成することにより
陰極306を得る。
【0050】
以上のようにして、本発明の発光素子を形成する。本実施例で示す構造では、第1の層
である発光物質を含む層におけるキャリアの再結合により生じる光は、陽極301から外
部に出射される。
【0051】
本実施例で示す構造は、第3の層であるITOと陰極であるアルミニウムとの間に第4
の層が設けられているので、ITOとアルミニウムとが直に接することがなく、ITOの
自然電位とアルミニウムの自然電位との違いによる電蝕を防ぐことができる。
【0052】
また、第3の層と第4の層の膜厚を自由に設定できることから、第1の層中の発光領域
と反射金属からなる陰極との光学距離Lを最適化することがより容易となる。
【0053】
また、第3の層からキャリアを発生することができるため電子の移動距離が、従来の構
成の素子よりも短くなり、駆動電圧を低減することが可能となる。
【実施例2】
【0054】
本実施例では、本発明の発光素子の構成について図4を用いて説明する。
【0055】
なお、基板400、陽極401、第1の層402、第2の層403、第3の層404、
第4の層405、陰極406については、実施の形態1と同様の材料を用いて、同様にし
て形成することができるため説明を省略する。
【0056】
また、図4では、基板400上に陰極406が形成され、陰極406上に第4の層405
が形成され、第4の層405上に第3の層404が形成され、第3の層404上に第2の
層403が形成され、第2の層403上に発光物質を含む第1の層402が形成され、そ
の上に陽極401が形成された構造を有する。
【0057】
本実施例で示す構造では、第1の層である発光物質を含む層におけるキャリアの再結合
により生じる光は、陽極401から外部に出射される。
【0058】
本実施例で示す構造においても、実施例1で示した構造と同様の効果を得ることができ
る。具体的には、第3の層と陰極との間に第4の層が設けられているので、自然電位の差
による電蝕を防ぐことができる。また、第3の層と第4の層の膜厚を自由に設定できるこ
とから、第1の層中の発光領域と反射金属からなる陰極との光学距離Lを最適化すること
がより容易となる。また、第3の層からキャリアを発生することができるため電子の移動
距離が、従来の構成の素子よりも短くなり、駆動電圧を低減することが可能となる。
【実施例3】
【0059】
本実施例では、画素部に本発明の発光素子を有する発光装置について図5を用いて説明
する。なお、図5(A)は、発光装置を示す上面図、図5(B)は図5(A)をA−A’
で切断した断面図である。点線で示された501は駆動回路部(ソース側駆動回路)、5
02は画素部、503は駆動回路部(ゲート側駆動回路)である。また、504は封止基
板、505はシール材であり、シール材505で囲まれた内側は、空間507になってい
る。
【0060】
なお、508はソース側駆動回路501及びゲート側駆動回路503に入力される信号
を伝送するための配線であり、外部入力端子となるFPC(フレキシブルプリントサーキ
ット)509からビデオ信号、クロック信号、スタート信号、リセット信号等を受け取る
。なお、ここではFPCしか図示されていないが、このFPCにはプリント配線基盤(P
WB)が取り付けられていても良い。本明細書における発光装置には、発光装置本体だけ
でなく、それにFPCもしくはPWBが取り付けられた状態をも含むものとする。
【0061】
次に、断面構造について図5(B)を用いて説明する。素子基板510上には駆動回路
部及び画素部が形成されているが、ここでは、駆動回路部であるソース側駆動回路501
と、画素部502が示されている。
【0062】
なお、ソース側駆動回路501はnチャネル型TFT523とpチャネル型TFT52
4とを組み合わせたCMOS回路が形成される。また、駆動回路を形成するTFTは、公
知のCMOS回路、PMOS回路もしくはNMOS回路で形成しても良い。また、本実施
の形態では、同一基板上に画素部と駆動回路とを形成した形態を示すが、必ずしもその必
要はなく、駆動回路を、画素部が形成された基板上ではなく外部に形成することもできる

【0063】
また、画素部502はスイッチング用TFT511と、電流制御用TFT512と電流
制御用TFTのドレインに電気的に接続された第1の電極513とを含む複数の画素によ
り形成される。なお、第1の電極513の端部を覆って絶縁物514が形成されている。
ここでは、ポジ型の感光性アクリル樹脂膜を用いることにより形成する。
【0064】
また、被覆性を良好なものとするため、絶縁物514の上端部または下端部に曲率を有
する曲面が形成されるようにする。例えば、絶縁物514の材料としてポジ型の感光性ア
クリルを用いた場合、絶縁物514の上端部のみに曲率半径(0.2μm〜3μm)を有
する曲面を持たせることが好ましい。また、絶縁物514として、感光性の光によってエ
ッチャントに不溶解性となるネガ型、或いは光によってエッチャントに溶解性となるポジ
型のいずれも使用することができ、有機化合物に限らず無機化合物、例えば、酸化珪素、
酸窒化珪素、シロキサン系等、の両者を使用することができる。
【0065】
第1の電極513上には、第1の層から第4の層516、および第2の電極517がそ
れぞれ形成されている。ここで、第1の電極513に用いる材料としては、透光性を有す
る材料を用いることが好ましい。例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、または珪素を
含有したインジウム錫酸化物、2〜20%の酸化亜鉛(ZnO)を含む酸化インジウム等
を用いることができる。
【0066】
また、第1の層から第4の層516は、蒸着マスクを用いた蒸着法、またはインクジェ
ット法によって形成される。第1の層から第4の層516には、発光物質を含む第1の層
、第2の層と、透明導電膜から構成される第3の層、第4の層と、を有し、陽極から陰極
の方向に対し、第1の層と第2の層と第3の層と第4の層とが順次積層され、第4の層が
陰極に接するように形成される。また、発光物質を含む層に用いる材料としては、通常、
有機化合物を単層、積層もしくは混合層で用いる場合が多いが、本発明においては、有機
化合物からなる膜の一部に無機化合物を用いる構成も含めることとする。
【0067】
さらに、第1から第4の層516上に形成される第2の電極(陰極)517に用いる材
料としては、反射率の高い金属を用いることが好ましく、アルミニウム(Al)、銀(A
g)、またはこれらを含む合金であるAlLi合金、MgAg合金等を用いることができ
る。
【0068】
さらにシール材505で封止基板504を素子基板510と貼り合わせることにより、
素子基板510、封止基板504、およびシール材505で囲まれた空間507に発光素
子518が備えられた構造になっている。なお、空間507には、充填材が充填されてお
り、不活性気体(窒素やアルゴン等)が充填される場合の他、シール材505で充填され
る場合もある。
【0069】
なお、シール材505にはエポキシ系樹脂を用いるのが好ましい。また、これらの材料
はできるだけ水分や酸素を透過しない材料であることが望ましい。また、封止基板504
に用いる材料としてガラス基板や石英基板の他、FRP(Fiberglass−Rei
nforced Plastics)、PVF(ポリビニルフロライド)、マイラー、ポ
リエステルまたはアクリル等からなるプラスチック基板を用いることができる。
【0070】
以上のようにして、本発明の発光素子を有する発光装置を得ることができる。
【実施例4】
【0071】
例えば、本発明の発光素子を有する発光装置を表示部として有する様々な電気機器を提
供することができる。
【0072】
本発明の発光素子を有する発光装置を用いて作製された電気機器として、ビデオカメラ
、デジタルカメラ、ゴーグル型ディスプレイ、ナビゲーションシステム、音響再生装置(
カーオーディオ、オーディオコンポ等)、コンピュータ、ゲーム機器、携帯情報端末(モ
バイルコンピュータ、携帯電話、携帯型ゲーム機または電子書籍等)、記録媒体を備えた
画像再生装置(具体的にはデジタルビデオディスク(DVD)等の記録媒体を再生し、そ
の画像を表示しうる表示装置を備えた装置)などが挙げられる。これらの電気機器の具体
例を図6に示す。
【0073】
図6(A)はテレビ受像機であり、筐体9101、支持台9102、表示部9103、
スピーカー部9104、ビデオ入力端子9105等を含む。本発明の発光素子を有する発
光装置をその表示部9103に用いることにより作製される。なお、テレビ受像機は、コ
ンピュータ用、TV放送受信用、広告表示用などの全ての情報表示用装置が含まれる。
【0074】
図6(B)はコンピュータであり、本体9201、筐体9202、表示部9203、キ
ーボード9204、外部接続ポート9205、ポインティングマウス9206等を含む。
本発明の発光素子を有する発光装置をその表示部9203に用いることにより作製される

【0075】
図6(C)はゴーグル型ディスプレイであり、本体9301、表示部9302、アーム
部9303を含む。本発明の発光素子を有する発光装置をその表示部9302に用いるこ
とにより作製される。
【0076】
図6(D)は携帯電話であり、本体9401、筐体9402、表示部9403、音声入
力部9404、音声出力部9405、操作キー9406、外部接続ポート9407、アン
テナ9408等を含む。本発明の発光素子を有する発光装置をその表示部9403に用い
ることにより作製される。なお、表示部9403は黒色の背景に白色の文字を表示するこ
とで携帯電話の消費電力を抑えることができる。
【0077】
図6(E)はビデオカメラであり、本体9501、表示部9502、筐体9503、外
部接続ポート9504、リモコン受信部9505、受像部9506、バッテリー9507
、音声入力部9508、操作キー9509、接眼部9510等を含む。本発明の発光素子
を有する発光装置をその表示部9502に用いることにより作製される。
【0078】
以上の様に、本発明の発光素子を有する発光装置の適用範囲は極めて広く、この発光装
置をあらゆる分野の電気機器に適用することが可能である。本発明の発光素子を用いるこ
とにより、駆動電圧を上昇させることなく、発光物質の含む層中の発光領域から反射金属
までの光学距離を最適化することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と第2の基板とシール材とで囲まれた空間に、前記第1の基板上に設けられた発光素子を有する発光装置であって、
前記発光素子は、
透光性を有する電極と、反射電極との間に、
発光物質を含む第1の層と、
第1の有機化合物および前記第1の有機化合物に対して電子供与性を示す物質を含む第2の層と、
透明導電膜を含む第3の層と、
ホール輸送性を有する第4の層と、を有し、
前記空間には気体が充填されていることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
第1の基板と第2の基板とシール材とで囲まれた空間に、前記第1の基板上に設けられた発光素子を有する発光装置であって、
前記発光素子は、
透光性を有する電極と、反射電極との間に、
発光物質を含む第1の層と、
N型半導体を含む第2の層と、
透明導電膜を含む第3の層と、
ホール輸送性を有する第4の層と、を有し、
前記空間には気体が充填されていることを特徴とする発光装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記第4の層は、第2の有機化合物を含むことを特徴とする発光装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、
前記第4の層は、第2の有機化合物および前記第2の有機化合物に対して電子受容性を示す物質を含むことを特徴とする発光装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記電子受容性を示す物質は、金属酸化物であることを特徴とする発光装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記電子受容性を示す物質は、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化レニウムからなる群より選ばれるいずれか一または二以上の化合物であることを特徴とする発光装置。
【請求項7】
請求項3乃至請求項6のいずれか一項において、
前記第2の有機化合物は、ホール輸送性材料であることを特徴とする発光装置。
【請求項8】
請求項3乃至請求項6のいずれか一項において、
前記第2の有機化合物は、芳香族アミン骨格を有することを特徴とする発光装置。
【請求項9】
請求項1または請求項2において、
前記第4の層は無機化合物を含むことを特徴とする発光装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記無機化合物は、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化コバルト、および酸化ニッケルからなる群より選ばれるいずれか一または二以上の化合物であることを特徴とする発光装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項において、
前記反射電極は、アルミニウム、銀、アルミニウムを含む合金、または銀を含む合金を有することを特徴とする発光装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか一項において、
前記透光性を有する電極は、インジウム錫酸化物、または珪素を含有したインジウム錫酸化物、2〜20%の酸化亜鉛を含む酸化インジウムのいずれか一を有することを特徴とする発光装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか一項において、
前記透明導電膜は、インジウム錫酸化物、または珪素を含有したインジウム錫酸化物、2〜20%の酸化亜鉛を含む酸化インジウムのいずれか一を有することを特徴とする発光装置。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれか一項において、
前記第4の層は蒸着法を用いて形成されていることを特徴とする発光装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか一項に記載の発光装置を表示部に用いた電気機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−186500(P2012−186500A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−120389(P2012−120389)
【出願日】平成24年5月28日(2012.5.28)
【分割の表示】特願2005−225844(P2005−225844)の分割
【原出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】