説明

発光装置及びその製造方法、並びに電子機器

【課題】 簡便な工程で、例えばR、G、Bの各色に発光するサブ画素部に光共振構造を形成する。
【解決手段】 下地絶縁膜2を構成する誘電体膜2a及び2bは、有機EL素子72Bで発生する青色の光のうち特定の波長の有する光を共振できるように厚み及び屈折率が設定された誘電体ミラーとして機能する。より具体的には、例えば、誘電体膜2aは、厚みが77nmであり、屈折率が1.5であるシリコン酸化膜(SiO)である。誘電体膜2bは、厚みが60nmであり、屈折率が1.8であるシリコン窒化膜(SiN)である。このような誘電体膜2a及び2bを含む下地絶縁膜2は、下地絶縁膜2上に形成された有機EL素子72Bで発生した青色の光のうち特定の波長を有する光のみを増幅し、有機EL素子72B側に反射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、有機EL装置等の発光装置及びその製造方法、並びにそのような発光装置を備えた電子機器の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の発光装置の一例である有機EL装置では、各画素部に含まれる発光層から出射された光を共振させることによって表示特性を高める技術が各種開示されている。例えば、特許文献1は、微小共振器構造をディスプレイ内に作り込むことによって、有機EL素子で生じた光の利用効率を向上させ、消費電力を低減しながら光の指向性を高める技術を開示している。また、特許文献2は、発光素子を駆動する薄膜トランジスタが埋め込まれた平坦化膜上に誘電体ミラーを形成し、発光素子で発生した光を共振させることによって発光素子で発生した光に高い指向性を持たせる技術を開示している。
【0003】
【特許文献1】特開2001−71558号公報
【特許文献2】特開2002―299066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された技術は、ディスプレイ等の発光装置に光共振器構造を作り込むために、薄膜トランジスタ等の素子及びこのような素子が埋め込まれる絶縁膜を形成する工程とは別に共振器を形成する工程が必要となる。また、共振器構造を形成するために、例えば誘電体ミラーをパターニングするためのマスクが必要となる。よって、発光装置の製造プロセスが煩雑になると共に、製造コストの増大を招く問題点がある。
【0005】
よって、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、製造工程を増やすことなく特定の波長の光を共振させることができる光共振器構造が形成された有機EL装置等の発光装置及びその製造方法、並びにそのような発光装置を備えた電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る発光装置は上記課題を解決するために、基板と、該基板上に形成された発光層と、前記基板上に前記基板側からみて前記発光層を避けるように形成されており、前記発光層を発光させる駆動素子と、前記基板の基板面に沿って前記駆動素子側から前記発光層側に向かって延在するように形成された互いに屈折率が異なる複数の誘電体膜の一部を含んでおり、前記駆動素子を内包する絶縁部と、前記複数の誘電体膜のうち前記発光層の下側に延在された部分を含んでおり、前記発光層で発生した光を共振させる光共振器構造を構成する一対の反射膜の一方とされる第1反射膜部と、前記発光層の上側に形成されており、前記一対の反射膜の他方とされる第2反射膜部とを備える。
【0007】
本発明に係る発光装置では、例えば有機EL材料を基板上の所定の領域に塗布することによって形成された発光層を備えている。このような発光層を形成する際の塗布方法としては、例えばインクジェット法が挙げられる。駆動素子は、例えば発光層が電流駆動型で駆動される場合には、発光層に駆動電流を供給する駆動トランジスタである。尚、駆動素子は、駆動トランジスタに限定されるものでは、例えば、発光層を含む画素部に設けられた画素回路を構成する素子であれば如何なる素子を含んでいてもよい。このような駆動素子は光透過性を有していないため、基板上に基板側から見て発光層を避けるように形成されている。より具体的には、例えば最終的に基板側から光を出射するボトムエミッション型の有機EL装置では、発光層から光が出射される領域を避けるように駆動トランジスタ等の駆動素子が基板上に形成されていることになる。
【0008】
絶縁部は、駆動素子を内包しており、これにより発光装置の他の構成要素から駆動素子を絶縁すると共に保護する。ここで、「駆動素子を絶縁する」とは、所要の配線等の導電部と駆動素子とは電気的に接続された状態を維持しながら、このような導電部を除く部分から駆動素子を絶縁、及び保護することを意味している。絶縁部に含まれる複数の誘電体膜は、例えば基板上の他の構成要素から駆動素子を絶縁する絶縁膜としても機能する。
【0009】
第1反射膜部は、絶縁部に含まれる複数の誘電体膜のうち発光層の下側に絶縁された部分を含んでいる。複数の誘電体膜は、絶縁部では、駆動素子を他の構成要素から絶縁し、発光層の下側に延在する部分が発光層で発生した光を反射する誘電体ミラーとして実質的に機能する。したがって、駆動素子側から発光層側にこれら誘電体層を延在させておけば、例えば別途誘電体ミラーを形成する製造プロセスを追加することなく、光共振器を構成する一方の反射膜を形成できる。より具体的には、例えば、一般的な液晶装置の製造する際に、薄膜トランジスタが搭載された素子アレイ基板を製造する工程を利用して光共振器構造を発光装置に作り込むことが可能である。この場合、例えば素子アレイ基板に薄膜トランジスタ及びこのトランジスタの周囲に形成される絶縁膜を形成する際に用いられるマスクのみを用いて光共振器構造を形成できる。
【0010】
第2反射膜部は、発光層に上側に形成されている。したがって、本発明の発光装置は、発光層で発生した光を第1反射膜部及び第2反射膜部間で共振させることによって特定の波長を有する光を出射できる。
【0011】
よって、本発明に係る発光装置によれば、別途第1反射膜部を形成する工程を追加することなく、駆動素子或いは駆動素子を内包する絶縁部を形成する工程を実施すると同時に、実質的に誘電体ミラーとして機能する複数の誘電体膜を形成することが可能であり、製造プロセスの煩雑化及び製造コストの増大を招くことなく、表示特性に優れた発光装置を提供できる。
【0012】
本発明に係る発光装置の一の態様においては、前記複数の誘電体膜の夫々は、前記光のうち所定の波長を有する光を共振させるように厚み及び屈折率が設定されていてもよい。
【0013】
この態様によれば、例えば発光層で発生した光のうち特定の波長を有する光を共振できるように、誘電体膜の厚み及び屈折率を設定しておくことが可能である。例えば、発光層は、膜厚バラツキ、或いは膜質バラツキによって発生する光の波長にバラツキが生じ、発光層に供給された駆動電流に応じて特定の波長の光を効率良く発生できない場合が多い。このような場合、発光層で発生した特定の波長の光を共振させることによって、この波長を有する光を選択的に増幅して発光層から出射できる。したがって、狙いの波長を有する光を発光層から高い強度で選択的に出射することが可能になる。加えて、光の指向性も高めることが可能である。
【0014】
本発明に係る発光装置の他の態様においては、前記発光層は、前記絶縁部を含む素子分離部によって互いに離隔された複数の発光層であり、該複数の発光層は、互いに異なる色に発光してもよい。
【0015】
この態様によれば、複数の発光層の夫々から互いに異なる色の光を出射できる。例えば、R(赤色)、G(緑色)、及びB(青色)の光を夫々対応する発光層から出射すれば、発光装置はカラー表示できる。即ち、この態様によれば、各色に発光する発光層毎に別途光共振器構造を形成することなく、例えば、予め発光層の下側に延びる複数の誘電体膜が光共振器構造の一方の反射膜として機能するようにしておけばよいのである。ここで、素子分離部とは、例えば、有機EL装置等の発光装置では、各発光層を互いに隔てる隔壁及びこの隔壁の下側の部分全体を意味する。
【0016】
この態様においては、前記第1反射膜部は、前記複数の発光層毎に複数設けられており、該複数の発光層毎に設けられた複数の誘電体膜は、前記異なる色に応じた所定の波長を有する光を共振させるように前記色毎に厚み及び屈折率が設定されてよい。
【0017】
この態様によれば、異なる色の夫々について特定の波長を有する光を共振させることが可能であり、例えば、RGBの3色に夫々発光する発光層を備えた発光装置は、色純度に優れた3色の光を用いて色再現性に優れた画像表示を行うことが可能である。ここで、複数の誘電体膜は、各色の光を発光する発光層毎に前記厚み及び前記屈折率が設定されていればよい。より具体的には、複数の誘電体層のうち、一の発光層の第1反射膜部において実質的に誘電体ミラーとして機能する誘電体層は、この発光層が発光する光の波長に合わせて厚み及び屈折率が設定されていればよい。また、他の発光層で実質的に誘電体ミラーとして機能する誘電体層は、この発光層が発光する光の波長に合わせて厚み及び屈折率が設定されていればよい。尚、このような厚み及び屈折率は、駆動素子を内包する絶縁部を形成する際に予め設定しておけばよい。
【0018】
本発明に係る発光装置の他の態様においては、前記駆動素子は薄膜トランジスタであり、前記複数の誘電体膜は、前記薄膜トランジスタ及び前記基板間に介在する下地絶縁膜、前記薄膜トランジスタのゲート電極を被うように形成された層間絶縁膜、及び前記薄膜トランジスタ上に形成された保護膜のうち少なくとも一つと兼用されていてもよい。
【0019】
この態様によれば、第1反射膜部に含まれる複数の誘電体層を別途形成する工程を追加することなく、光共振器構造を形成することが可能である。
【0020】
本発明に係る発光装置の他の態様においては、前記第1反射膜部は、前記光を共振させるように光学長を調整する調整膜を含んでおり、該調整膜は、前記保護膜と兼用されていてもよい。
【0021】
この態様によれば、複数の誘電体膜を含む第1反射膜部で光学長を調整できない場合でも、特定の波長の光を共振させることが可能である。より具体的には、例えば基板上に互いに異なる色に発光する発光層が複数形成されている場合には、複数の誘電体膜の厚み及び屈折率を設定するだけでなく、第1反射膜部を除く部分で光学長を調整することによって、特定の波長の複数の発光層の夫々で各色に応じた特定の波長の光を共振させることが可能である。このような調整膜は、例えば第1反射膜部及び発光層間に設けられる。
【0022】
本発明に係る発光装置の他の態様においては、前記第1反射膜部及び前記発光層間に設けられた透明電極を更に備えていてもよい。
【0023】
この態様によれば、発光層で発生した光を透明電極を介して第1反射膜部に透過させることが可能である。加えて、第1反射膜部で反射された反射光を透明電極を介して発光層及び第2反射膜部に伝達することが可能である。
【0024】
本発明に係る発光装置の他の態様においては、前記第2反射膜部は、前記発光層に電気的に接続された電極を含んでいてもよい。
【0025】
この態様によれば、例えば金属薄膜等の陰極で光を反射することによって、発光装置に形成されるべき電極をそのまま用いて光を共振させることができる。
【0026】
本発明に係る発光装置の製造方法は上記課題を解決するために、基板上に発光層を形成する工程と、前記基板上に前記基板側からみて前記発光層を避けるように、前記発光層を発光させる駆動素子を形成する工程と、前記基板の基板面に沿って前記駆動素子側から前記発光層側に向かって延在するように形成された互いに屈折率が異なる複数の誘電体膜の一部を含んでおり、前記駆動素子を内包する絶縁部を形成する工程と、前記複数の誘電体膜のうち前記発光層の下側に延在された部分を含んでおり、前記発光層で発生した光を共振させる光共振器構造を構成する一対の反射膜の一方とされる第1反射膜部を形成する工程と、前記発光層の上側に、前記一対の反射膜の他方とされる第2反射膜部を形成する工程とを備える。
【0027】
本発明に係る発光装置の製造方法によれば、上述した本発明の発光装置と同様に、別途光共振器構造を形成するための工程を追加することなく、表示特性に優れた発光装置を製造することが可能である。
【0028】
本発明に係る電子機器は上記課題を解決するために、上述した本発明の発光装置を具備している。
【0029】
本発明に係る電子機器によれば、上述した本発明の発光装置を具備してなるので、高品位の表示が可能な、投射型表示装置、携帯電話、PDA、電子手帳、ワードプロセッサ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネル、更には発光装置を露光用ヘッドとして用いたプリンタ、コピー、ファクシミリ等の画像形成装置などの各種電子機器を実現できる。更に、本発明の電子機器は、車両に搭載されるカーナビゲーション等が備える表示装置、及び車両の動作状態を示すインパネに設けられる表示部等のように高品位の表示特性が要求されるものに適用可能である。
【0030】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら本発明の発光装置、及びその製造方法、並びに電子機器の各実施形態を詳細に説明する。本実施形態では、発光装置としてカラー表示可能な有機EL装置を例に挙げる。
【0032】
図1は、本実施形態の有機EL装置10の全体構成を示すブロック図である。有機EL装置10は、駆動回路内蔵型のアクティブマトリクス駆動方式で駆動される表示装置であり、有機EL装置10が有する各画素部70は有機EL素子72を備えている。
【0033】
有機EL装置10の画像表示領域110には、縦横に配線されたデータ線114及び走査線112が設けられており、それらの交点に対応する各サブ画素部70R、70G、及び70Bはマトリクス状に配列され、これら3つのサブ画素部を一組として一つの画素部70が構成されている。サブ画素部70R、70G及び70Bは、赤色に発光する有機EL素子72R、緑色に発光する有機EL素子72G及び青色に発光する有機EL素子72Bを夫々有している。更に、画像表示領域110には各データ線114に対して配列されたサブ画素部70R、70G及び70Bに対応する電源供給線117が設けられている。
【0034】
画像表示領域110の周辺に位置する周辺領域には、走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150が設けられている。走査線駆動回路130は複数の走査線112に走査信号を順次供給する。データ線駆動回路150は、画像表示領域110に配線されたデータ線114に画像信号を供給する。尚、走査線駆動回路130の動作とデータ線駆動回路150の動作とは、同期信号線160を介して相互に同期が図られる。電源供給線117には、外部回路から画素部を駆動するための画素駆動用電源が供給される。図1中、一つの画素部70に着目すれば、画素部70には、有機EL素子72R、72G及び72Bが設けられると共に、例えばTFTを用いて構成されるスイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74、並びに保持容量78がサブ画素部毎に設けられている。スイッチング用トランジスタ76のゲート電極には走査線112が電気的に接続されており、スイッチング用トランジスタ76のソース電極にはデータ線114が電気的に接続され、スイッチング用トランジスタ76のドレイン電極には駆動用トランジスタ74のゲート電極が電気的に接続されている。また、駆動用トランジスタ74のドレイン電極には、電源供給線117が電気的に接続されており、駆動用トランジスタ74のソース電極には有機EL素子72の陽極が電気的に接続されている。尚、図1に例示した画素回路の構成の他にも、電流プログラム方式の画素回路、電圧プログラム方式の画素回路、電圧比較方式の画素回路、サブフレーム方式の画素回路等の各種方式の画素回路を採用することが可能である。
【0035】
次に、図2及び図3を参照しながら有機EL装置10の具体的な構成を説明する。図2は、有機EL装置10の概略構成を示す平面図であり、図3は図2のIII−III´線断面図である。尚、図2は、図3で示す陰極側から見た有機EL装置10の一部の領域の平面図であり、図2では陰極を図示していない。
【0036】
図2において、有機EL装置10は、基板1、画素部70、本発明の「素子分離部」の一例であるバンク部47、及び有機EL素子72を備えている。
【0037】
画素部70は、基板1上における画像表示領域110にマトリクス状に配設されている。画素部70は、図中横方向に沿って配列された3つのサブ画素部70R、70G及び70Bを一組として構成されており、画像表示領域110の図中縦方向及び横方向の夫々に沿って配列されている。サブ画素部70R、70G及び70Bの夫々は、赤色に発光する有機EL素子72R、緑色に発光する有機EL素子72G、及び青色に発光する有機EL素子72Bを備えている。バンク部47は、各画素領域においてこれら有機EL素子72が形成される凹部62を規定しつつ、基板1上における画像表示領域110の全体に格子状に延在している。
【0038】
図3において、有機EL装置10は、基板1、下地絶縁膜2、駆動トランジスタ74、層間絶縁膜4、保護膜5、有機EL素子72R、72G及び72B、並びに本発明の「素子分離部」の夫々一例であるバンク部47R、47G及び47Bを備えている。
【0039】
基板1は、例えばガラス基板であり、各有機EL素子72から図中下側に出射された光を透過させる。図1に示す駆動用トランジスタ74及びスイッチング用トランジスタ76は、基板1における有機EL素子72の下側の領域を避けるように形成された薄膜トランジスタである。基板1は、基板1上に有機EL素子72が形成されているだけでなく、図1に示す走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150の各種回路を備えている。このような回路は、基板1における画像表示領域110の周辺領域に設けられる。
【0040】
下地絶縁膜2は、基板1の表面に画素部70R、70G及び70Bが形成されるべき領域に渡って延在するように形成されている。下地絶縁膜2は、基板1側から順に積層された誘電体膜2a及び2bを備えている。下地絶縁膜2は、基板1及び駆動トランジスタ74間を絶縁する他、基板1の全面に形成されることで、基板1表面の荒れや汚れ等に起因する駆動トランジスタ74の素子特性の変化を低減する。下地絶縁膜2のうちサブ画素部70Bに延在された部分は、サブ画素部70Bにおいて本発明の「第1反射膜部」の一例を構成する。誘電体膜2a及び2bは、有機EL素子72Bで発生した光のうち所定の波長を有する光を共振させるように厚み及び屈折率が設定されている。尚、有機EL素子72Bで発生した光を共振させる光共振構造については後に詳細に説明する。
【0041】
駆動トランジスタ74は、下地絶縁膜2上に形成された薄膜トランジスタであり、サブ画素部70R、70B及び70Bの夫々に設けられている。駆動トランジスタ74は、光透過性を有していないため、基板1上に基板1側から見て有機EL素子72を避けるように形成されている。したがって、有機EL装置10は、最終的に基板1側から光を出射するボトムエミッション型の有機EL素子72を備えていることになる。
【0042】
駆動トランジスタ74は、半導体層3と、ゲート絶縁膜22、ゲート電極3a、ソース電極74s及びドレイン電極74dを備えている。半導体層3は、例えば低温ポリシリコン技術を用いて下地絶縁膜2上に形成された多結晶シリコン層或いはアモルファスシリコン層である。半導体層3上には、半導体層3を埋め込んで、スイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74のゲート絶縁膜22が形成されている。ゲート絶縁膜22は、半導体層3上を被うようにサブ画素部70R、70G及び70Bに渡って各サブ画素部に共通に形成されている。尚、ゲート絶縁膜22は、後述する各発光層50から出射される光を遮らないように発光層50の下側を避けて延在される。ゲート電極3aは図1に示す走査線112と共にゲート絶縁膜22上に形成されている。走査線112の一部は、スイッチング用トランジスタ76のゲート電極として形成されている。ソース電極74s及びドレイン電極74dは、ゲート絶縁膜22を貫通するコンタクトホールに形成されている。尚、ソース電極74s及びドレイン電極74dは、後述する層間絶縁膜4を貫通するコンタクトホールに内壁に沿って形成されており、陽極34に電気的に接続されている。駆動用トランジスタ74のソース電極74sは、図1に示す電源供給線117に電気的に接続されている。駆動用トランジスタ74は、図1に示すデータ線114を介してゲート電極3aに供給されるデータ信号に応じてオンオフされ、駆動電流を有機EL素子72に供給する。このような素子を含む回路は、有機EL素子72から基板1側に出射される光を遮らないように、有機EL素子72の下側を避けるように設けられている。駆動用トランジスタ74と同様に図1に示すスイッチング用トランジスタ76も下地絶縁膜2上に形成されている。
【0043】
走査線112や駆動用トランジスタ74のゲート電極3aを埋め込んで、ゲート絶縁層2上には図2に示す層間絶縁層4が形成されている。層間絶縁層4上には、例えばアルミニウム(Al)又はITO(Indium Tin Oxide)を含む導電材料から夫々構成される、データ線114及び電源供給線117、更には駆動用トランジスタ74のソース電極74sが形成されている。層間絶縁層4には、層間絶縁層4の表面から層間絶縁層4及びゲート絶縁層22を貫通して、駆動用トランジスタ74の半導体層3に至るコンタクトホール501及び502が形成されている。電源供給線117及びドレイン電極74dを構成する導電膜は、コンタクトホール501及び502の各々の内壁に沿って半導体層3の表面に至るように連続的に形成されている。層間絶縁層4上には、電源供給線117及びドレイン電極74dを埋め込んで、保護層5が形成されている。保護層5上には、例えばシリコン酸化膜よりなる第1バンク部47aが形成され、更に第1バンク部47a上に第2バンク部47bが形成されている。第1バンク部47a及び第2バンク部47bによって、各サブ画素部における発光層50の形成領域が規定されている。
【0044】
層間絶縁膜4は、基板1の基板面に沿ってサブ画素部70R、70G及び70Bに渡って延在するように形成された後、サブ画素部70Bが形成されるべき領域の一部が除去されている。層間絶縁膜4は、基板1側から順に積層された誘電体膜4a及び4bを備えており、サブ画素部70Gにおいて本発明の「第1反射膜部」の一例を構成する。誘電体膜4a及び4bは、有機EL素子72Gで発生した光のうち所定の波長を有する光を共振させるように厚み及び屈折率が設定されている。尚、有機EL素子72Bで発生した光を共振させる光共振構造については後に詳細に説明する。
【0045】
保護膜5は、層間絶縁膜4上に形成されている。保護膜5は、基板1の基板面に沿ってサブ画素部70R、70G及び70Bに渡って延在するように形成された後、サブ画素部70G及び70Bが形成されるべき領域の一部が除去されている。保護膜5は、層間絶縁膜4側から順に積層された誘電体膜5a、5b及び5cを備えている。誘電体膜5a及び5bは、サブ画素部70Rにおいて本発明の「第1反射膜部」の一例を構成する。誘電体膜5a及び5bは、有機EL素子72Rで発生した光のうち所定の波長を有する光を共振させるように厚み及び屈折率が設定されている。誘電体膜5b上に形成された誘電体膜5cは、本発明の「調整膜」の一例を構成する。尚、有機EL素子72Rで発生した光を共振させる光共振構造については後に詳細に説明する。
【0046】
バンク部47は、有機EL素子72R、72G及び72Bを互いに離隔するように保護膜5上に形成されている。バンク部47は、有機EL素子72R、72G及び72Bを互いに離隔するバンク部47R、47G及び47Bから構成されている。より具体的には、バンク部47Rは、有機EL素子72Rと、図中有機EL素子72Rの左側に位置する有機EL素子72Bを互いに離隔している。同様に、バンク部47Gは、有機EL素子72R及び72Gを互いに離隔し、バンク部47Bは有機EL素子72G及び72Bを互いに離隔している。バンク部47は、第1バンク部47a及び第2バンク部47bから構成されており、有機EL層50が形成される凹部62を規定する。第1バンク部47aは、SiO、SiO又はTiO等の無機材料で構成される絶縁層であり、例えば、陽極34上にCVD(Chemical Vapor Deposition;化学蒸着)法、コート法、スパッタ法等の膜形成法を用いて形成されている。尚、第1バンク部47aには、陽極34が露出するように開口部が形成されている。
【0047】
第2バンク部47bは、アクリル樹脂、又はポリイミド樹脂等の有機材料で構成される有機材料層であり、図中上側に向かって先細りとなるテーパー形状を有している。第2バンク部47bは、第1バンク部47a上に有機材料層を形成した後、この有機材料層をフォトリソグラフィ技術等を用いてパターニングすることによって形成されている。
【0048】
下地絶縁膜2、層間絶縁膜4、及び保護膜5のうちバンク部47の下側に延在する部分は、駆動トランジスタ74を内包する絶縁部30に含まれている。絶縁部30は、有機EL装置10の他の構成要素から駆動トランジスタ74を絶縁すると共に保護する。但し、絶縁部30は、所要の配線等の導電部と駆動トランジスタ74とが電気的に接続された状態を維持しながら、このような導電部を除く部分から駆動トランジスタ74を絶縁、及び保護する。尚、絶縁部30に内包される素子は、駆動トランジスタ74に限定されるものではなく、図1に示したスイッチング用トランジスタ76及び保持容量78を内包していてもよい。即ち、絶縁部30の夫々は、サブ画素部70R、70G及び70Bの夫々に設けられた画素回路を構成する素子であれば如何なる素子を含んでいてもよい。
【0049】
層間絶縁膜4及び保護膜5は、各有機EL素子72が基板1上に形成される前に画素部間に渡って形成された後、有機EL素子72を形成すべき領域に延びる部分が除去されている。より具体的には、有機EL素子72Bが形成される領域では、層間絶縁膜4及び保護膜5のうちサブ画素部70Bに延びる部分が除去されている。有機EL素子72Bは、層間絶縁膜4及び保護膜5が除去されることによって露出する下地絶縁膜2上に形成されている。同様に、有機EL素子72Gは、保護膜5が除去されることによって露出する層間絶縁膜4上に形成されており、有機EL素子72Rは、保護膜5上に形成されている。そして、下地絶縁膜2、層間絶縁膜4及び保護膜5の夫々は、各有機EL素子で発生する光を共振可能なように厚み及び屈折率が設定されている。
【0050】
したがって、下地絶縁膜2、層間絶縁膜4及び保護膜5は、各サブ画素部70R、70G及び70Bで駆動トランジスタ20を内包する絶縁部30を構成する絶縁膜として機能するとともに、各有機EL素子72側に延びる部分が有機EL素子で発生した光を反射する反射膜として機能する。
【0051】
有機EL素子72は、陽極34、正孔注入層51、発光層50、及び本発明の「第2反射膜部」の一例を構成する陰極49を備えている。
【0052】
陽極34は、各サブ画素部において保護膜5を貫通するコンタクトホールの内壁及び保護膜5の表面に沿って形成されており、層間絶縁膜4上に延びるドレイン電極74dに電気的に接続されている。陽極34は、絶縁部30の上側から有機EL素子72の下側に向かって延在された透明電極であり、例えば透明電極材料であるITOを用いて形成されている。
【0053】
正孔注入層51は、第1バンク部47aに形成された開口部に正孔注入材料を塗布することによって形成されている。
【0054】
発光層50は、正孔注入層51上に形成されている。発光層50は、バンク部47に囲まれた凹部62に、例えば塗布法の一例であるインクジェット法を用いて有機EL材料を塗布することによって形成されている。
【0055】
陰極49は、第2バンク部47bの表面及び発光層50の表面を被うように形成されている。陰極49は、薄膜形成法を用いて形成された例えばAl等の金属薄膜であり、第2バンク部47b及び発光層50上に延在する。尚、発光層50及び陰極49間に発光層50と別層とされる電子注入層或いは電子輸送層等の各種層が介在してもよい。陰極49は、基板1上で平面的に見て複数の有機EL素子72間で物理的に接続された電極、或いは一枚の連続した電極として延在している。陰極49は、発光層50で発生した光、及び下地絶縁膜2、層間絶縁膜4或いは保護膜5で反射された特定の波長を有する光を発光層50側に反射する。これにより、各サブ画素部70R、70G及び70Bの夫々で特定の波長の光を共振させることが可能である。
【0056】
次に、各サブ画素部70R、70G及び70B毎に設けられた光共振構造をサブ画素部毎に詳細に説明する。尚、以下では、バンク部47を各サブ画素部で区別して説明しないが、図示するように各サブ画素部に含まれるバンク部47には夫々発光層の発光色に合わせてR、G或いはBが付してある。
【0057】
先ず、サブ画素部70Bについて説明する。サブ画素部70Bに設けられた凹部62Bは、下地絶縁膜2が露出するように形成されている。より具体的には、有機EL素子72R、72G及び72Bを形成する前に、サブ画素部72R、72G及び72Bに渡って延在するように形成された層間絶縁膜4及び保護膜5の一部が除去され、その後下地絶縁膜2上に正孔注入層51B及び発光層50Bを順次形成することによって有機EL素子72Bが形成されている。したがって、サブ画素部70Bが備える絶縁部30から有機EL素子72Bの下側には、下地絶縁膜2のみが延在している。
【0058】
下地絶縁膜2を構成する誘電体膜2a及び2bは、有機EL素子72Bで発生する青色の光のうち特定の波長の有する光を共振できるように厚み及び屈折率が設定された誘電体ミラーとして機能する。より具体的には、例えば、誘電体膜2aは、厚みが77nmであり、屈折率が1.5であるシリコン酸化膜(SiO)である。誘電体膜2bは、厚みが60nmであり、屈折率が1.8であるシリコン窒化膜(SiN)である。このような誘電体膜2a及び2bを含む下地絶縁膜2は、下地絶縁膜2上に形成された有機EL素子72Bで発生した青色の光のうち特定の波長を有する光のみを増幅し、有機EL素子72B側に反射する。下地絶縁膜2によって反射された光は、陽極34及び発光層50を介して陰極49に到達し、再度陰極によって発光層50側に反射される。このように下地絶縁膜2及び陰極49間で光が往復することによって、特定の波長が増幅され、最終的に基板1側から特定の波長の光が出射される。即ち、下地絶縁膜2及び陰極49が有機EL素子72Bで発生した光のうち特定の波長の光を増幅する光共振器構造を構成する。加えて、下地絶縁膜2に含まれる誘電体膜2a及び2bを予めサブ画素部70Bにおいて共振させたい光の波長に合わせて設定しておくことにより、別途共振器構造を形成する工程を設けることなくサブ画素部70Bで所定の波長の光を共振させることが可能である。
【0059】
ここで、下地絶縁膜2及び陰極49間の光学長Lは、有機EL素子72Bで発生した光のうち共振させるべき光の波長λの1/2の整数倍になるように設定されている。波長λの光を増幅するためには、光学長Lは、式(1)を満足するように設定されている。より具体的には、下地絶縁膜2に含まれる誘電体膜2a及び2b、並びに陰極49及び下地絶縁膜2間に介在する発光層50B及び正孔注入層51Bの厚み及び屈折率は、式(1)を満足するように設定されている。
【0060】
【数1】


式(1)中、λは共振される光の波長、neffは下地絶縁膜2の有効屈折率、Δは下地絶縁膜に含まれる誘電体膜2a及び2bの屈折率の差、n及びdは陽極34、正孔注入層51B及び発光層50Bの夫々の屈折率及び厚みを意味する。θは、発光層50B、正孔注入層51B及び陽極34のそれぞれの界面、又は、陽極34及び下地絶縁膜2の界面に入射する光と、これら界面に立てた法線のなす角度を意味する。
【0061】
式(1)の右辺第1項である(λ/2)×(neff/Δ)は、共振している光が誘電体ミラーとして機能する下地絶縁膜2にしみ込む深さを表している。この第1項からわかるように、下地絶縁膜2の有効屈折率neff及び屈折率の差Δは、誘電体膜2a及び2bとして選択された材料によって決まる値であり、共振させる光の波長が決まれば予め設定可能である。したがって、式(1)の右辺第2項の含まれる陽極34、正孔注入層51B及び発光層50Bの夫々の屈折率n及び厚みdが固定されている場合には、第1項に含まれる下地絶縁膜2の有効屈折率neff及び屈折率の差Δを共振させる光の波長に合わせて設定しておけばよい。
【0062】
サブ画素部70Bは、下地絶縁膜2及び陰極49から構成される光共振器構造を有しているため、例えば、有機EL素子72Bで発生する青色の光の波長が揃っていない場合でも、特定の波長の光のみを共振させ、増幅できる。したがって、下地絶縁膜2及び陰極49からなる光共振器構造によれば、狙いの波長を有する光を基板側1から高い強度で選択的に出射することが可能になる。また、発光層50Bの膜厚バラツキ、或いは膜質バラツキによって発生する光の波長がばらつく場合や、発光層50Bに供給された駆動電流に応じて特定の波長の光を効率良く発生できない場合でも、発光層で発生した特定の波長の光を共振させることによって、この波長の光を選択的に増幅して指向性の高い光を出射できる。
【0063】
加えて、下地絶縁膜2が、光共振器構造を構成する一対の反射膜の一方として機能するため、別途反射膜を形成する工程を追加する必要がない。したがって、煩雑な製造工程を経ることなく光共振器構造を形成できる。より具体的には、例えば、一般的な液晶装置の製造する際に、薄膜トランジスタが搭載された素子アレイ基板を製造する工程を利用して光共振器構造を有機EL装置10に作り込むことが可能である。
【0064】
次に、サブ画素部70Gについて説明する。サブ画素部70Gに設けられた凹部62Gは、層間絶縁膜4が露出するように形成され、その後有機EL素子72Gが形成されている。より具体的には、有機EL素子72R、72G及び72Bを形成する前に、サブ画素部72R、72G及び72Bに渡って延在するように形成された保護膜5の一部が除去され、その後層間絶縁膜4上に正孔注入層51G及び発光層50Gを順次形成することによって有機EL素子72Gが形成されている。したがって、サブ画素部70Gが備える絶縁部30から有機EL素子72Gの下側には、下地絶縁膜2及び層間絶縁膜4が延在している。
【0065】
層間絶縁膜4を構成する誘電体膜4a及び4bは、有機EL素子72Gで発生する緑色の光のうち特定の波長を有する光を共振できるように厚み及び屈折率が設定された誘電体ミラーとして機能する。より具体的には、例えば、誘電体膜4aは、厚みが92nmであり、屈折率が1.5であるシリコン酸化膜である。誘電体膜2bは、厚みが73nmであり、屈折率が1.8であるシリコン窒化膜である。このような誘電体膜4a及び4bを含む層間絶縁膜4は、層間絶縁膜4上に形成された有機EL素子72Gで発生した緑色の光のうち特定の波長を有する光のみを増幅し、有機EL素子72G側に反射する。層間絶縁膜4によって反射された光は、陽極34G及び発光層50Gを介して陰極49に到達し、再度陰極49によって発光層50G側に反射される。このように層間絶縁膜4及び陰極49間で光が往復することによって、特定の波長が増幅され、最終的に基板1側から特定の波長の光が出射される。即ち、層間絶縁膜4及び陰極49が有機EL素子72Gで発生した光のうち特定の波長の光を増幅する光共振器構造を構成する。
【0066】
ここで、層間絶縁膜4及び陰極49間の光学長Lは、有機EL素子72Gで発生した光のうち増幅すべき光の波長λの1/2の整数倍となるように設定されている。波長λの光を共振させるためには、式(1)をそのまま光学長Lに適用すればよい。より具体的には、層間絶縁膜4に含まれる誘電体膜4a及び4b、並びに陰極49及び層間絶縁膜4間に介在する発光層50G及び正孔注入層51Gの厚み及び屈折率は、式(1)を満足するように設定されている。尚、光学長L2を算出する場合には、式(1)中においてneffは層間絶縁膜4の有効屈折率、Δは層間絶縁膜4に含まれる誘電体膜4a及び4bの屈折率の差、n及びdは陽極34、正孔注入層51G及び発光層50Gの夫々の屈折率及び厚みを示す値を代入すればよい。θは、発光層50G、正孔注入層51G及び陽極34のそれぞれの界面、又は、陽極34及び層間絶縁膜4の界面に入射する光と、これら界面に立てた法線のなす角度である。
【0067】
したがって、サブ画素部70Gの設けられた光共振器構造も、サブ画素部70Bに設けられた光共振器構造と同様に、陽極34、正孔注入層51G及び発光層50Gの夫々の屈折率n及び厚みdが固定されている場合には、第1項に含まれる層間絶縁膜4の有効屈折率neff及び屈折率の差Δを、共振させる光の波長に合わせて設定しておけばよい。
【0068】
サブ画素部70Gは、層間絶縁膜4及び陰極49から構成される光共振器構造を有しているため、例えば、有機EL素子72Gで発生する緑色の光が波長の揃っていない光であっても、特定の波長の光のみを共振させて出射することが可能である。加えて、層間絶縁膜4が、光共振器構造を構成する一対の反射膜の一方として機能するため、別途反射膜を形成する工程を追加する必要がない。したがって、煩雑な製造工程を経ることなく光共振器構造を形成できる。より具体的には、例えば、一般的な液晶装置の製造する際に、薄膜トランジスタが搭載された素子アレイ基板を製造する工程を利用して光共振器構造を有機EL装置10に作り込むことが可能である。
【0069】
次に、サブ画素部70Rについて説明する。サブ画素部70Rに設けられた有機EL素子72Rは、保護膜5の一部と接するように形成されている。有機EL素子72Rは、陽極34、凹部62Rに順次形成された正孔注入層51R及び発光層50R、並びに各サブ画素部で共通とされる陰極49を備えている。
【0070】
陽極34は、保護膜5の表面に延在するように形成されており、バンク47R及び47Gで規定される凹部62Rの底部に陽極34の一部が露出する。正孔注入層51Rは、凹部62Rの底部、即ち凹部62Rから露出する陽極34の表面に形成されている。発光層50Rは、正孔注入層51R上に形成されており、その上に陰極49が延在している。したがって、サブ画素部70Gが備える絶縁部30から有機EL素子72Rの下側には、下地絶縁膜2、ゲート絶縁膜22、層間絶縁膜4、及び保護膜5が延在している。
【0071】
保護膜5を構成する誘電体膜5a及び5bは、有機EL素子72Rで発生する赤色の光のうち特定の波長を有する光を共振できるように厚み及び屈折率が設定された誘電体ミラーとして機能する。より具体的には、例えば、誘電体膜5aは、厚みが108nmであり、屈折率が1.5であるシリコン酸化膜である。誘電体膜5bは、厚みが85nmであり、屈折率が1.8であるシリコン窒化膜である。誘電体膜5a及び5bは、保護膜5上に形成された有機EL素子72Rで発生した赤色の光のうち特定の波長を有する光のみを増幅し、有機EL素子72R側に反射する。誘電体膜5a及び5bによって反射された光は、陽極34及び発光層50Rを介して陰極49に到達し、再度陰極49によって発光層50R側に反射される。このように誘電体膜5a及び5bからなる誘電体ミラーと、陰極49との間で光が往復することによって、特定の波長が増幅され、最終的に基板1側から特定の波長の光が出射される。即ち、誘電体膜5a及び5bからなる誘電体ミラーと陰極49とが有機EL素子72Rで発生した光のうち特定の波長の光を増幅する光共振器構造を構成する。尚、誘電体膜5cは、後述するように共振される光の光学長を調整する調整膜として機能する。
【0072】
誘電体膜5a及び5bと、陰極49との間の光学長Lは、有機EL素子72Rで発生した光のうち増幅すべき光の波長λの1/2の整数倍となるように設定されている。波長λの光を増幅するためには、式(1)を光学長Lにそのまま適用すればよい。より具体的には、保護膜5に含まれる誘電体膜5a及び5b、並びに陰極49及び保護膜5間に介在する発光層50R及び正孔注入層51Rの厚み及び屈折率は、式(1)を満足するように設定されている。ここで、保護膜5に含まれる誘電体膜のうち最も上側に形成された誘電体膜5cは、光共振器構造を構成する陰極お49及び誘電体膜5a及び5b間の光学長を調整するために形成された調整膜である。尚、光学長Lを算出する場合には、式(1)中においてneffは保護膜5の有効屈折率、Δは誘電体膜5a及び5bの屈折率の差、n及びdは誘電体膜5c、陽極34、正孔注入層51R、及び発光層50Rの夫々の屈折率及び厚みを意味する。θは、発光層50R、正孔注入層51R及び陽極34のそれぞれの界面、又は、陽極34及び保護膜5の界面に入射する光と、これら界面に立てた法線のなす角度を意味する。
【0073】
したがって、サブ画素部70Rの設けられた光共振器構造も、サブ画素部70Gに設けられた光共振器構造と同様に、陽極34、正孔注入層51R及び発光層50Rの夫々の屈折率n及び厚みdが固定されている場合には、第1項に含まれる保護膜5の有効屈折率neff及び屈折率の差Δを、共振させる光の波長に合わせて設定しておけばよい。
【0074】
サブ画素部70Rは、保護膜5及び陰極49から構成される光共振器構造を有しているため、例えば、有機EL素子72Rで発生する赤色の光が波長の揃っていない光であっても、特定の波長の光のみを増幅して出射することが可能である。加えて、保護膜5が、光共振器構造を構成する一対の反射膜の一方として機能するため、別途反射膜を形成する工程を追加する必要がない。したがって、煩雑な製造工程を経ることなく光共振器構造を形成できる。より具体的には、例えば、一般的な液晶装置の製造する際に、薄膜トランジスタが搭載された素子アレイ基板を製造する工程を利用して光共振器構造を有機EL装置10に作り込むことが可能である。
【0075】
このように有機EL10によれば、各サブ画素部70R、70G及び70Bの夫々で所定の波長の光を共振させることが可能であるため、指向性が高く且つ色純度に優れた3色の光を用いて画像表示を行うことが可能である。また、本実施形態の有機EL装置10は、単色の有機EL素子を複数備えている場合にも適用可能であることは言うまでもない。
【0076】
有機EL装置10は、陰極49側に封止板20を更に備えている。封止板20は、基板1上に接着剤によって接着されており、有機EL装置10の外気が有機EL素子72に触れないように有機EL素子72を封止する。基板1上に封止板20を接着する接着剤は、熱硬化樹脂或いは紫外線硬化樹脂を含んでおり、例えば、熱硬化樹脂の一例であるエポキシ樹脂を封止板20の周縁部にディスペンサ等の塗布手段を用いて塗布される。
【0077】
封止板20における陰極49に臨む側の面において、封止板20の周縁部は中央部に対して凸状となっており、有機EL素子72が封止板20によって封止された状態で、封止板20の中央部及び有機EL素子72の間に一定の空間が介在する。封止板20及び有機EL素子72間の空間には、不活性ガス、樹脂或いはオイル等の充填材が充填されてもよく、装置外部から侵入する水分を低減することが可能である。また、封止板20及び有機EL素子72間の空間は、封止板20及び基板1で封止された真空であってもよい。尚、封止板20は、例えば、ガラス板、又は防湿処理を施したプラスチック板を用いることができる。特に、封止板20としてガラス基板を用いた場合には、ガラス基板である基板1及び封止板20の熱膨張率が同等であることから、熱膨張率の違いに起因するこれら板間のひずみを低減することができ、装置全体の信頼性を高めることが可能である。
【0078】
次に、図4を参照しながら本実施形の有機EL装置の製造方法を説明する。図4は、本実施形態の有機EL装置の製造方法の工程フローを示すフローチャートである。
【0079】
図4において、基板1上に順次下地絶縁膜2を形成し、その上に駆動トランジスタを形成する(S101)。駆動トランジスタは、後の工程で形成される発光層を避ける領域に形成される。ここで、下地絶縁膜2として誘電体膜2a及び2bからなる積層膜が形成される。誘電体膜2a及び2bは、サブ画素部70Bで発生する光のうち所定の波長の光を共振可能なように屈折率及び厚みが設定されている。
【0080】
次に、駆動トランジスタ上に層間絶縁膜4及び保護膜5を形成し、駆動トランジスタを覆う絶縁部を形成する(S102)。ここで、層間絶縁膜4は、基板1の基板面に沿って基板1上の略全体に形成されている。ソース電極及びドレイン電極は、層間絶縁膜を貫通するように形成されたコンタクトホールの内壁に沿って形成されている。同時にサブ画素部70Bが形成されるべき領域に延びる層間絶縁膜4が除去される(S103)。次に、保護膜5が基板1の基板面に沿って基板1上の略全体に形成される。陽極34は、保護膜を貫通するように形成されたコンタクトホールの内壁に沿って形成されている。同時にサブ画素部70B及び70Gが形成されるべき領域に延びる保護膜5が除去される(S104)。これにより、各発光層の下側の夫々で反射膜として機能する下地絶縁膜2及び層間絶縁膜4が露出し、各サブ画素部70R、70G及び70Bの夫々における反射膜が形成される。尚、サブ画素部70Rでは、誘電体膜5a及び5cがそのまま反射膜として機能する。
【0081】
次に、各サブ画素部70R、70G及び70Bの最上層に沿って陽極34が形成され、その上に順次正孔注入層51及び発光層50が形成され、発光層50上に各サブ画素部に共通の陰極49を形成する(S105)。これにより、各サブ画素部において、陰極49を一方の反射膜とし、発光層50に下側に延在する誘電体膜を他方の反射膜とする光共振器構造を形成される。
【0082】
このような有機EL装置の製造方法によれば、別途光共振器構造を形成するための工程を追加することなく、表示特性に優れた発光装置を製造することが可能である。
(電子機器)
次に、図5乃至図7を参照しながら上述した有機EL装置を備えた各種電子機器を説明する。
【0083】
<A:モバイル型コンピュータ>
図5を参照しながらモバイル型のコンピュータに上述した有機EL装置を適用した例について説明する。図5は、コンピュータ1200の構成を示す斜視図である。
【0084】
図5において、コンピュータ1200は、キーボード1202を備えた本体部1204と、図示しない有機EL装置を用いて構成された表示部1005を有する表示ユニット1206とを備えている。表示部1005は、カラー表示可能であり、且つ各色の波長が揃っている。よって表示部1005が備える複数の有機ELディスプレイ基板に赤、緑、青の光の三原色の光を発光する有機EL素子の表示特性が高められている。
【0085】
<B:携帯型電話機>
更に、上述した有機EL装置を携帯型電話機に適用した例について、図6を参照して説明する。図6は、携帯型電話機1300の構成を示す斜視図である。
【0086】
図6において、携帯型電話機1300は、複数の操作ボタン1302と共に、本発明の一実施形態である有機EL装置を有する表示部1305を備えるものである。
【0087】
表示部1305は、上述の表示部1005と同様に高品質の画像を表示することができる。これにより、表示部1305が備える複数の有機EL素子が夫々赤、緑、青の光の三原色の光を発光することによって、該表示部1305はフルカラー表示で画像表示を行うこともできる。
【0088】
<C:プリンタ>
次に図7を参照しながら上述のプリンタヘッド1を備えたプリンタに係る実施形態について詳細に説明する。ここに図7は、本実施形態に係るプリンタの主要構成を示す図式的断面図である。尚、以下の実施形態では、プリンタヘッド1をYMCK用に4つ備えたカラープリンタを例に挙げて説明する。
【0089】
図7において、プリンタは、YMCK用の4つの画像形成ユニット1001Y、1001M、100C及び1001Kを備え、これらのユニットは夫々、本発明に係る「感光体」の一例たる感光ドラム1002と、その周囲に順に配置されたクリーナ1011、帯電器1012、プリンタヘッド1、及び現像器1013を備えて構成されている。
【0090】
次に本実施形態のプリンタ1000の構成をその動作と共に説明する。
【0091】
図7において、クリーナ1011により、前回のサイクルで感光ドラム1002の表面に残ったトナーが除去された後、今回のサイクル用に帯電器1012によって、コロナ放電等により感光ドラム1002の表面が帯電される。続いて、上述した実施形態のプリンタヘッド1によるデータ信号に応じた露光によって、感光ドラム1002の表面にデータ信号に応じた静電潜像が形成される。続いて、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)及びK(黒)のうち、各ユニットに対応する色のトナーを用いることで、現像器1021による現像が行われ、感光ドラム1002の表面には、トナー付着による可視像たるトナー画像の形成が行われる。他方、転写ベルト1020は、ローラ1021、1022等により回動されている。そして、各感光ドラム1002に対向する転写位置にて、転写ローラ1014で裏側から押された形で、感光ドラム1002上のトナー画像が転写ベルト1020上に転写される。この転写されたトナー画像は、搬送装置1030により搬送されるコピー用紙等の用紙上に更に転写される。そして、不図示の定着装置等を介して、排出トレー上に画像形成済みの用紙が排出される。
【0092】
以上説明したように本実施形態のプリンタ1000は、上述したプリンタヘッド100を備えるので、感光ドラム1002を高速且つ高解像度で露光可能である。しかも、プリンタヘッド100を小型化することで、プリンタにおける小型化を図れる。特に図7において、感光ドラム1002の回転軸方向には、プリンタヘッド100は、その長手方向として所望の長さに形成することが容易にして可能であり、しかも、感光ドラム1002の周方向に沿った方向についてのプリンタヘッド100の長さは、その短長方向の長さに他ならず、非常に短くすることができる。加えて、プリンタヘッド100は、上述した本発明の発光装置を備えるので指向性の高い光を出射することが可能である。よって、図7の如き感光ドラム1002の周囲を囲んで各種装置を配置する構成を有するプリンタに対して、本実施形態の如きプリンタヘッド100を適用することは、大変有利である。
【0093】
尚、本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う発光装置及び電子機器もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本実施形態の有機EL装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の有機EL装置の構成を示す平面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】本実施形態の有機EL装置のフロー示すフローチャートである。
【図5】本発明に電子機器の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明に電子機器の他の例を示す斜視図である。
【図7】本発明の電子機器の一例であるプリンタの概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0095】
1・・・基板、2・・・下地絶縁膜、4・・・層間絶縁膜、5・・・保護膜、10・・・有機EL装置、50・・・発光層、51・・・正孔注入層、70・・・画素部、72・・・有機EL素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板上に形成された発光層と、
前記基板上に前記基板側からみて前記発光層を避けるように形成されており、前記発光層を発光させる駆動素子と、
前記基板の基板面に沿って前記駆動素子側から前記発光層側に向かって延在するように形成された互いに屈折率が異なる複数の誘電体膜の一部を含んでおり、前記駆動素子を内包する絶縁部と、
前記複数の誘電体膜のうち前記発光層の下側に延在された部分を含んでおり、前記発光層で発生した光を共振させる光共振器構造を構成する一対の反射膜の一方とされる第1反射膜部と、
前記発光層の上側に形成されており、前記一対の反射膜の他方とされる第2反射膜部と
を備えたことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記複数の誘電体膜の夫々は、前記光のうち所定の波長を有する光を共振させるように厚み及び屈折率が設定されていること
を特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記発光層は、前記絶縁部を含む素子分離部によって互いに離隔された複数の発光層であり、
該複数の発光層は、互いに異なる色に発光すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記第1反射膜部は、前記複数の発光層毎に複数設けられており、
該複数の発光層毎に設けられた複数の誘電体膜は、前記異なる色に応じた所定の波長を有する光を共振させるように前記色毎に厚み及び屈折率が設定されていること
を特徴とする請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
前記駆動素子は、薄膜トランジスタであり、
前記複数の誘電体膜は、前記薄膜トランジスタ及び前記基板間に介在する下地絶縁膜、前記薄膜トランジスタのゲート電極を被うように形成された層間絶縁膜、及び前記薄膜トランジスタ上に形成された保護膜のうち少なくとも一つと兼用されていること
を特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記第1反射膜部は、前記光を共振させるように光学長を調整する調整膜を含んでおり、
該調整膜は、前記保護膜の少なくとも一部と兼用されていること
を特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記第1反射膜部及び前記発光層間に設けられた透明電極を更に備えていること
を特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記第2反射膜部は、前記発光層に電気的に接続された電極を含むこと
を特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項9】
基板上に発光層を形成する工程と、
前記基板上に前記基板側からみて前記発光層を避けるように、前記発光層を発光させる駆動素子を形成する工程と、
前記基板の基板面に沿って前記駆動素子側から前記発光層側に向かって延在するように形成された互いに屈折率が異なる複数の誘電体膜の一部を含んでおり、前記駆動素子を内包する絶縁部を形成する工程と、
前記複数の誘電体膜のうち前記発光層の下側に延在された部分を含んでおり、前記発光層で発生した光を共振させる光共振器構造を構成する一対の反射膜の一方とされる第1反射膜部を形成する工程と、
前記発光層の上側に、前記一対の反射膜の他方とされる第2反射膜部を形成する工程と
を備えたことを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項10】
請求項1から8の何れか一項に記載の発光装置を具備してなること
を特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−269326(P2006−269326A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87912(P2005−87912)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】