説明

発光装置及びそれを用いる照明装置

【課題】小型化が可能で、色むらを低減した、色温度が可変の発光装置及びそれを用いる照明装置を提供する。
【解決手段】発光装置1はLEDチップ4及び波長変換部材6を備える。波長変換部材6には、LEDチップ4からの放射光の一部で励起されてLEDチップ4の放射光とは波長が異なる光を放射する蛍光体8が含まれており、LEDチップ4の放射光と蛍光体8の放射光とを混色して得た白色光が発光装置1から照射される。波長変換部材6に含まれる蛍光体8の外部量子効率は、波長変換部材6の温度が80℃以上となる温度領域で、10℃の温度上昇に対して、5%以上且つ90%以下の範囲で低下するような温度依存性を有している。制御回路10がLEDチップ4への駆動電流を増加させることによって、波長変換部材6の温度を上昇させると、蛍光体8の外部量子効率が低下し、蛍光体8からの放射光が減少するので、混色光の色温度が変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置及びそれを用いる照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LED(Light Emitting Diode)の高出力化によって、LEDを光源とした照明装置が普及しつつある。照明用途では白色光を得る必要があり、例えば赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の3原色のLEDを組み合わせ、各色のLEDの放射光を混色することで、白色光を得るものがあった。しかしながら、この方式では演色性が低いため、高い演色性が要求される照明用途では、LEDと、LEDからの放射光で励起されてLEDとは異なる波長の光を発する蛍光体を組み合わせて白色光を得る方式が主流となっている。
【0003】
ところで、同じ照明空間でも、様々に変化する生活シーンに応じて照明光の色温度を変化させたいというユーザの要望があり、LEDを光源とする照明装置においても、色温度を変化させる機能を有するものが提案されていた。例えば発光波長域が異なる複数種類のLED(例えばR、G、Bの3原色のLED)を組み合わせて白色光を得る照明装置では、各LEDの光出力を制御することによって、混色光の光色を変化させるようにしていた。しかしながら、このような照明装置では、演色性が低いという問題に加え、種類の異なるLEDを組み合わせるため、LEDの初期特性や経時変化特性のばらつきが大きく、色温度の調整が難しいという問題があった。
【0004】
そこで、青色発光LEDのみを利用した発光部と、青色発光LEDに緑色蛍光体を組み合わせた発光部と、青色発光LEDに赤色蛍光体を組み合わせた発光部とを用いた照明装置が従来提案されていた(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示された照明装置では、各発光部の光出力を調整することで、照明光の色温度を変化させていた。この照明装置では、各々の発光部に同じ種類のLEDが使用されるため、各発光部のLEDの初期特性や経時変化特性のばらつきを小さくでき、色温度の調整が容易になる。また蛍光体を用いることで波長域の広い光が得られるから、高い演色性が得られるという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−122950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献に開示された照明装置では、複数の色温度を得るためには、放射光の色が異なる複数の発光部が必要になるので、発光部の数が増えることによって、照明装置全体が大型化し、その照射面に色むらが発生するという問題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、小型化が可能で、色むらを低減した、色温度が可変の発光装置及びそれを用いる照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の発光装置は、LEDチップと、波長変換部材と、温度調整手段を備える。波長変換部材は、LEDチップからの放射光によって励起され、放射光とは波長が異なる光を放射する第1蛍光体を含んでいる。波長変換部材に含まれる第1蛍光体の外部量子効率は、波長変換部材の温度が80℃以上となる温度領域で、10℃の温度上昇に対して、外部量子効率が5%以上且つ90%以下の範囲で低下するような温度依存性を有している。温度調整手段は、第1蛍光体の外部量子効率が温度依存性を有する温度領域を少なくとも含む温度調整範囲で波長変換部材の温度を調整する。
【0009】
この発光装置において、温度調整手段が、駆動電流の増減に応じて光出力が増減するLEDチップで構成されることも好ましい。
【0010】
また、この発光装置において、温度調整手段が、波長変換部材の表面に取着され、通電に応じて発熱する透明熱源で構成されたことも好ましい。
【0011】
また、この発光装置において、LEDチップの発光スペクトルのピーク波長が480nm以上且つ490nm以下であり、第1蛍光体の発光スペクトルのピーク波長が580nm以上且つ620nm以下であることも好ましい。
【0012】
さらに、この発光装置において、第1蛍光体は、発光スペクトルのピーク波長が互いに異なる複数種類の蛍光体からなり、これら複数種類の蛍光体は、温度に対する外部量子効率の特性が略同じ特性であることも好ましい。
【0013】
また、この発光装置において、波長変換部材は、第1蛍光体に比べて発光スペクトルのピーク波長が短波長である第2蛍光体を含み、この第2蛍光体の外部量子効率は、波長変換部材の温度が80℃以上となる温度領域で、10℃の温度上昇に対する外部量子効率の変化分が第1蛍光体よりも小さいような温度依存性を有することも好ましい。
【0014】
また本発明の照明装置は、上述した何れかの発光装置と、温度調整手段による温度調整を制御する制御回路とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小型化が可能で、色むらを低減した、色温度が可変の発光装置及びそれを用いる照明装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1の照明装置の概略構成図である。
【図2】同上の照明装置に用いる波長変換部材の温度と蛍光体の外部量子効率との関係を示す図である。
【図3】同上の照明装置による照射光の色温度を説明するxy色度図である。
【図4】実施形態2の照明装置の概略構成図である。
【図5】実施形態3の照明装置による照射光の色温度を説明するxy色度図である。
【図6】実施形態4の照明装置による照射光の色温度を説明するxy色度図である。
【図7】実施形態5の照明装置の概略構成図である。
【図8】同上の照明装置による照射光の色温度を説明するxy色度図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
(実施形態1)
本発明に係る発光装置を用いた照明装置の実施形態1を図1〜図3に基づいて説明する。
【0019】
図1は照明装置Aの概略構成図である。この照明装置Aは、発光装置1と、発光装置1からの照射光の光色を制御する制御回路10を主要な構成として備える。
【0020】
発光装置1は、例えばシリコン基板からなる実装基板2を備え、この実装基板2の一表面(図1における上面)2aをエッチングすることによってすり鉢状の収納凹部3が形成されており、収納凹部3の底部にはLEDチップ4が実装されている。
【0021】
LEDチップ4は、例えば窒化ガリウム(GaN)系の発光ダイオードからなり、発光スペクトルのピーク波長が430nm以上且つ490nm以下の青色光を放射する。このLEDチップ4は、例えば縦横の寸法が約1mm、厚み寸法が約100μmとなっており、一面(例えば図1の下面)にアノード電極とカソード電極が設けられている。アノード電極及びカソード電極は、例えばNi膜とAu膜との積層膜で構成されているが、電極材料をNi膜やAu膜に限定する趣旨のものではなく、良好なオーミック特性が得られる材料であればよい。
【0022】
実装基板2には、上記の一表面2aから収納凹部4の底部にかけて、制御回路10からLEDチップ4に給電するための配線パターン5a,5bが形成されている。LEDチップ4はアノード電極及びカソード電極をそれぞれ対応する配線パターン5a,5bに対向させた状態で収納凹部3内に配置され、Auバンプ(図示せず)などを用いてアノード電極及びカソード電極が配線パターン5a,5bに電気的に接合されている。実装基板2は、例えば、最表面にAuでめっきされた配線パターンを有するアルミナセラミックス基板(例えば窒化アルミニウム系セラミックス基板)からなり、側面にも配線パターンが続いており、さらに裏面にもリフロー用のパターンが形成されている。したがって、この実装基板2は、はんだリフロー工程によりプリント配線板(図示せず)に実装される。尚、実装基板2の表面2aには収納凹部3が形成されているが、実装基板2の形状は図1に示した形状に限定されるものではなく、実装基板2が平板状に形成されていてもよい。また収納凹部3内に透光性を有する樹脂(例えばシリコーン樹脂やエポキシ樹脂など)を充填して、LEDチップ4を樹脂封止してもよい。
【0023】
実装基板2の上面には、収納凹部3の開口を閉塞するように、平板状の波長変換部材6が取着されている。この波長変換部材6は、透光性を有する透明な樹脂9(例えばシリコーン樹脂やエポキシ樹脂など)に、後述の蛍光体8(第1蛍光体)が分散されて形成されている。なお波長変換部材6には、必要に応じて拡散材を分散させることも好ましい。拡散材としては、例えば酸化アルミニウムやシリカなどの無機材料或いはフッ素系樹脂などの有機材料からなる、平均粒径が1μmの材料を用いればよい。
【0024】
波長変換部材6は、上述のように、収納凹部3の開口の形状に合わせて略平板状に形成されている。この波長変換部材6は、収納凹部3の開口周縁に接着剤を用いて接着され、収納凹部3の開口を閉塞する。波長変換部材6を接着する接着剤には、透光性を有する接着剤(例えばシリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂など)を用いればよい。この波長変換部材6の厚みは0.1〜2.0mmとするのが好ましい。尚、波長変換部材6の形状は、LEDチップ4が実装された実装基板2の形状に合わせて適宜変更が可能である。実装基板2が平板状で、その表面にLEDチップ4が実装されていれば、波長変換部材6をドーム状に形成し、LEDチップ4を覆うようにしてドーム状の波長変換部材6を実装基板2に取り付ければよい。
【0025】
波長変換部材6に分散させた蛍光体8は、LEDチップ4からの放射光の一部を吸収して波長変換し、長波長側にピーク波長を有する光を放射する。本実施形態ではLEDチップ4が青色光(例えばピーク波長が430nm〜490nm)を放射しており、波長変換部材6に分散させた蛍光体8は、LEDチップ4からの青色光を吸収して黄色光へと波長変換する。
【0026】
制御回路10は、配線パターン5a,5bを介してLEDチップ4に駆動電流を供給し、LEDチップ4を発光させる。また制御回路10は、操作ボリューム11からの操作入力に応じてLEDチップ4に供給する駆動電流を増加又は減少させている。
【0027】
ここで、LEDチップ4が点灯すると、蛍光体8によってLEDチップ4からの放射光の一部は波長の異なる光に変換されるのであるが、波長変換されなかったエネルギは熱に変換されるため、この熱によって波長変換部材6の温度が上昇する。制御回路10がLEDチップ4への駆動電流を増加させると、LEDチップ4からの放射光が増加し、それによって波長変換されずに、熱に変換されるエネルギが増加するため、波長変換部材6の温度がさらに上昇する。また、波長変換部材がLEDチップ4の表面に接するように設けられた場合、LEDチップ4への駆動電流が増加すると、LEDチップ4自体の損失によってもLEDチップ4の発熱が増加するため、LEDチップ4への駆動電流を増加させることで、波長変換部材6の温度を上昇させることができる。
【0028】
ところで、図2は、波長変換部材6の温度と蛍光体8の外部量子効率との関係を示し、図3はこの照明装置Aの色度範囲を示している。
【0029】
この照明装置Aでは蛍光体8として、外部量子効率の温度依存性が高いものを用い、波長変換部材6の温度が80℃以上の温度領域において、10℃の温度上昇に対して、5%以上且つ90%以下の範囲で外部量子効率が低下するような蛍光体を使用している。このような温度依存性を外部量子効率が有する蛍光体としては、例えば(Sr,Ba,Mg)2SiO:Euがある。
【0030】
ここで、制御回路10がLEDチップ4への駆動電流を制御することによって、波長変換部材6の温度が低温度域の温度T1(約80℃)に制御されると、蛍光体8の外部量子効率は相対的に高い値η1(約90%)に変化する。外部量子効率の増加に伴って蛍光体8から放射される黄色光が増加すると、混色光である照明光は黄色味がかった白色光となり、その色温度は約3000Kに変化し、図3のxy色度図上において点C1にプロットされる。図3のxy色度図において実線B1で囲まれた領域は電球色の領域であり、波長変換部材6の温度が低温度域に制御された場合の照明光は電球色となる。
【0031】
一方、波長変換部材6の温度が低温度域となっている状態から、制御回路10がLEDチップ4への駆動電流を増加させると、LEDチップ4から放射される青色光が増加する。LEDチップ4からの放射光量が増加すると、それに伴って波長変換されずに熱に変換されるエネルギが増加し、波長変換部材6の温度が高温度域の温度T2(約150℃)に変化する。ここで、波長変換部材6の温度がT2に上昇すると、蛍光体8の外部量子効率は相対的に低い値η2(約40%)に変化し、蛍光体8から放射される黄色光が減少する。したがって、混色光である白色光は青みがかった白色となり、その色温度は約5000Kに変化し、図3のxy色度図上では点C5にプロットされる。図3のxy色度図において実線B2で囲まれた領域は昼白色の領域であり、波長変換部材6の温度が高温度域に制御された場合の照明光は昼白色に変化する。
【0032】
このように、制御回路10がLEDチップ4への駆動電流を制御することで、蛍光体8で波長変換されずに熱に変換されるエネルギが変化し、波長変換部材6の温度が変化させられるので、波長変換部材6に含まれる蛍光体8の温度が変化する。ここで、波長変換部材6に含まれる蛍光体8は、高温になるほど外部量子効率が低下するような温度特性を有している。特に本実施形態では、波長変換部材6に含まれる蛍光体8として、波長変換部材6の温度が80℃以上の温度領域で、10℃の温度上昇に対して、5%以上且つ90%以下の範囲で外部量子効率が低下するような温度特性のものを選択している。したがって、制御回路10がLEDチップ4への駆動電流を調整し、波長変換部材6の温度を変化させることによって、波長変換部材6に含まれる蛍光体8の外部量子効率を変化させることができる。
【0033】
蛍光体8の外部量子効率が変化すると、LEDチップ4からの放射光で励起された蛍光体8から放射される黄色光の光量が変化するので、蛍光体8からの放射光とLEDチップ4からの放射光との混色光の色温度を変化させることができる。したがって、1つのLEDチップ4であっても、このLEDチップ4への駆動電流を調整することで照射光の光色が変化させられるので、色温度の制御を容易に行うことができる。また、複数色のLEDの光量を個別に調整することで色温度を変化させる従来例に比べて、1つのLEDチップ4だけで色温度の調整が可能であるので、色むらの少ない均一な照明光を得ることができる。また、色温度を変化させるために複数種類(複数色)のLEDチップを備える必要がないので、照明装置全体として小型化を図ることができ、小型化が可能で、色むらを低減した、色温度が可変の照明装置を実現することができる。
【0034】
また、波長変換部材6の温度を調整する温度調整手段がLEDチップ4で兼用されているので、温度調整手段を別途備える必要が無く、照明装置Aの小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0035】
尚、本実施形態では蛍光体8として黄色蛍光体を用いているが、外部量子効率の温度依存性が比較的高い蛍光体であれば、LEDチップ4からの青色光を吸収して、緑色光から赤色光の長波長側に発光ピークを有する光へと波長変換するものでもよい。LEDチップ4からの青色光と混色させて白色の照明光を得るためには、蛍光体8として黄色蛍光体を用いればよいが、より演色性の高い白色光を得るために、緑色蛍光体と赤色蛍光体とを混合して使用することも好ましい。尚、波長変換部材6に第1蛍光体として緑色蛍光体と赤色蛍光体を含有させた場合、LEDチップ4からの青色光の一部は波長変換部材6に含まれた緑色蛍光体、赤色蛍光体で吸収されて、緑色蛍光体及び赤色蛍光体から緑色光、赤色光がそれぞれ放射される。上述と同様、LEDチップ4への駆動電流を増加させると、波長変換部材6の温度が上昇し、温度上昇に伴って緑色蛍光体及び赤色蛍光体の外部量子効率が低下する。緑色蛍光体及び赤色蛍光体の外部量子効率が低下すると、青色光を波長変換して得た緑色光、赤色光が減少するので、照明装置Aの照明光は青みがかった白色光(昼白色)に変化することになり、照明光(混色光)の色温度を変化させることができる。
【0036】
(実施形態2)
本発明に係る発光装置を用いた照明装置の実施形態2を図4に基づいて説明する。尚、照明装置Aの構成は実施形態1と同様であるので、共通する構成要素には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0037】
実施形態1ではLEDチップ4自体が温度調整手段を兼用しているのに対して、本実施形態では、図4に示すように波長変換部材6の表面に透明熱源7を設けている。
【0038】
透明熱源7は、石英ガラスなどの透明材料により平板状に形成された基材を有し、この基材の一表面に酸化スズやITOなどの透明導電膜(図示せず)を蒸着して形成される。そして、制御回路10から透明熱源7の透明導電膜に通電されると、透明熱源7の表面から遠赤外線が輻射され、透明熱源7に対向する波長変換部材6が加熱される。
【0039】
この透明熱源7は、透明導電膜が形成された表面を波長変換部材6に対向させるようにして、波長変換部材6の表面に接着される。尚、透明熱源7を接着する接着剤には、透光性を有する接着剤(例えばシリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂など)を用いればよい。
【0040】
制御回路10は、配線パターン5a,5bを介してLEDチップ4に駆動電流を供給し、LEDチップ4を発光させる。また制御回路10は、操作ボリューム11からの操作入力に応じて透明熱源7に供給する電力を変化させており、透明熱源7からの輻射熱を調整することで、波長変換部材6の温度を変化させることができる。
【0041】
波長変換部材6に分散させた蛍光体8(第1蛍光体)には、実施形態1と同様に、外部量子効率の温度依存性が高いものが使用され、制御回路10が透明熱源7の発熱量を制御して、波長変換部材6の温度を変化させると、蛍光体8の外部量子効率も変化する。ここで、波長変換部材6の温度が80℃以上の温度領域において、10℃の温度上昇に対して、5%以上且つ90%以下の範囲で外部量子効率が低下するような蛍光体が使用されている(図2参照)。尚、このような温度依存性を有する蛍光体8としては、例えば(Sr,Ba,Mg)2SiO:Euがある。
【0042】
したがって、制御回路10が透明熱源7への駆動電流を制御することによって、波長変換部材6の温度が低温度域の温度T1(約80℃)に制御されると、蛍光体8の外部量子効率は相対的に高い値η1(約90%)に変化する。外部量子効率の増加に伴って蛍光体8から放射される黄色光が増加すると、混色光である照明光は黄色味がかった白色光となり、その色温度は約3000Kに変化し、図3のxy色度図上において点C1にプロットされる。図3のxy色度図において実線B1で囲まれた領域は電球色の領域であり、波長変換部材6の温度が低温度域に制御された場合の照明光は電球色となる。
【0043】
一方、波長変換部材6の温度が低温度域となっている状態から、制御回路10が透明熱源7への駆動電流を増加させると、波長変換部材6の温度が高温度域の温度T2(約150℃)に変化する。ここで、波長変換部材6の温度がT2に上昇すると、蛍光体8の外部量子効率は相対的に低い値η2(約40%)に変化し、蛍光体8から放射される黄色光が減少する。したがって、混色光である白色光は青みがかった白となり、混色光の色温度は約5000Kに変化して、図3のxy色度図上では点C5にプロットされる。図3のxy色度図において実線B2で囲まれた領域は昼白色の領域であり、波長変換部材6の温度が高温度域に制御された場合の照明光は昼白色に変化する。
【0044】
このように、本実施形態では、制御回路10が透明熱源7への供給電力を制御することによって、透明熱源7の発熱量を変化させて、波長変換部材6に含まれる蛍光体8の温度を変化させている。ここで、波長変換部材6に含まれる蛍光体8は、高温になるほど外部量子効率が低下するような温度特性を有している。特に本実施形態では、波長変換部材6に含まれる蛍光体8として、波長変換部材6の温度が80℃以上の温度領域で、10℃の温度上昇に対して、5%以上且つ90%以下の範囲で外部量子効率が低下するような温度特性のものを選択している。したがって、透明熱源7の発熱量を変化させることによって、波長変換部材6に含まれる蛍光体8の温度を変化させ、蛍光体8の外部量子効率を変化させることができる。蛍光体8の外部量子効率が変化すると、LEDチップ4からの放射光で励起された蛍光体8から放射される光の光量が変化するので、LEDチップ4からの放射光と蛍光体8からの放射光との混色の割合が変化し、混色光の色温度を変化させることができる。
【0045】
このように、1つのLEDチップ4であっても、このパッケージに取着された透明熱源7への供給電力を調整することで照射光の光色を変化させることができるから、色温度の制御を容易に行うことができる。また、複数色のLEDの光量を個別に調整することで色温度を変化させる従来例に比べて、1つのLEDチップ4だけで色温度の調整が可能であるので、色むらの少ない均一な照明光を得ることができる。また、色温度を変化させるために複数種類(複数色)のLEDチップを備える必要がないので、照明装置全体として小型化を図ることができ、小型化が可能で、色むらを低減した、色温度が可変の照明装置を実現することができる。また、透明熱源7は透明な材料で形成されているので、波長変換部材6から照射される光束を低下させることなく、色温度の調整を行うことができる。
【0046】
(実施形態3)
本発明に係る発光装置を用いた照明装置の実施形態3を図5に基づいて説明する。尚、照明装置Aの構成は実施形態1又は2と同様であるので、共通する構成要素には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0047】
本実施形態では、LEDチップ4として、発光スペクトルのピーク波長が480nm以上且つ490nm以下である青色発光ダイオードを用いている。
【0048】
また、波長変換部材6に分散させる蛍光体8(第1蛍光体)として、発光スペクトルのピーク波長が580nm以上且つ620nm以下である蛍光体を用いている。
【0049】
図5は本実施形態の照明装置Aによる照射光の色温度を説明する説明図である。LEDチップ4の放射光(ピーク波長が約485nm)の色温度は図5のxy色度図において点C1にプロットされる。また蛍光体8の放射光(ピーク波長が約580nm)の色温度は図5のxy色度図において点C2にプロットされる。
【0050】
この照明装置Aでは、LEDチップ4からの放射光の一部を波長変換部材6の蛍光体8で波長変換した光と、LEDチップ4からの放射光とを混色した光が放射される。そして、実施形態1,2で説明したように波長変換部材6の温度を変化させると、波長変換部材6の温度変化に応じて、波長変換部材6に含まれる蛍光体8の外部量子効率が変化するので、混色光である照明光の色温度を変化させることができる。
【0051】
ここで、混色光の色度は、図5のxy色度図において点C1と点C2とを結んだ線分L1上を変化することになる。したがって、波長変換部材6の温度が比較的低温側(80℃前後)に変化させられた場合、線分L1上にある電球色が得られ、波長変換部材6の温度が上昇するにつれて、照明光の光色は線分L1上を青色側に変化する。そして、波長変換部材6の温度が比較的高温側(200℃前後)に変化すると、照明光の光色は線分L1上にある昼白色となる。
【0052】
上記の線分L1を昼白色から電球色にかけて黒体軌跡L2に近似させるためには、LEDチップ4として発光スペクトルのピーク波長が480nm以上且つ490nm以下のものを用い、蛍光体8として発光スペクトルのピーク波長が580nm以上且つ620nm以下のものを用いることが好ましい。このようなLEDチップ4及び蛍光体8を用いることで、照明装置Aから照射される照明光の色温度変化が、昼白色から電球色にかけて黒体軌跡L2に近似した変化となるので、自然な白色光を得ることができる。
【0053】
(実施形態4)
本発明に係る発光装置を用いた照明装置の実施形態4を図6に基づいて説明する。上述の実施形態1〜3では、波長変換部材8に第1蛍光体として1種類の蛍光体しか含まれていないが、本実施形態では、第1蛍光体として複数種類(例えば2種類)の蛍光体が波長変換部材6に含まれている。尚、波長変換部材6に複数種類の蛍光体が含まれている点を除いては、実施形態1〜3で説明した照明装置と同様であるので、共通する構成要素には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0054】
本実施形態では、LEDチップ4として、発光スペクトルのピーク波長が480nm以上且つ490nm以下である青色発光ダイオードを用いている。
【0055】
また、波長変換部材6には第1蛍光体として2種類の蛍光体8が含まれており、これら2種類の蛍光体8は、温度に対する外部量子効率の特性が略同じ特性となっている。本実施形態では、白色の照明光(混色光)が得られるように、LEDチップ4からの青色光を緑色に変化する緑色蛍光体と、LEDチップ4からの青色光を赤色光に変換する赤色蛍光体とを組み合わせて用いている。外部量子効率の温度依存性が同様に大きい緑色蛍光体と赤色蛍光体の組み合わせとしては、(Sr,Ba,Mg)2SiO:Eu緑色蛍光体と、(Sr,Ba,Mg)2SiO:Eu赤色蛍光体の組み合わせがある。尚、(Sr,Ba,Mg)2SiO:Eu蛍光体は、SrとBaとMgの配合比によって、その発光色が変化するものであり、その発光色を緑色から橙色にかけて変化させることができる。本実施形態ではSrとBaとMgとの配合比によって、発光色が緑色に設定された(Sr,Ba,Mg)2SiO:Eu緑色蛍光体と、発光色が赤色に設定された(Sr,Ba,Mg)2SiO:Eu赤色蛍光体を用いている。
【0056】
ここで、波長変換部材6の温度が温度調整範囲の低温側(80℃)に調整された場合に、得られる照明光が電球色となるように、2種の蛍光体の配合比が調整されている。図6のxy色度図において点C1はLEDチップ4からの青色光の色温度、点C2は低温側で緑色蛍光体から放射された緑色光の色温度、点C3は低温側で赤色蛍光体から放射された赤色光の色温度をそれぞれ示している。図6の点C4は低温側で得られた照明光(混色光)の色温度を示し、電球色の範囲(実線B1で囲まれる領域)の色温度となっている。
【0057】
2種類の蛍光体8には、外部量子効率の温度依存性が略同じ特性である蛍光体が用いられているので、波長変換部材6の温度上昇に伴って、緑色蛍光体及び赤色蛍光体から放射される緑色光及び赤色光が同程度の割合で低下する。したがって、波長変換部材6の温度上昇に伴って、照明光の色温度は、図6のxy色度図において、LEDチップ4からの放射光(青色光)の色温度に対応した点C1と、上記電球色の色温度に対応した点C4とを結ぶ線分L1上を青色側にシフトする。すなわち、ある温度における照明光の色温度は、図6のxy色度図において2点C2,C3を結ぶ線分L3を温度変化に応じて青色側にシフトさせた線分L3’と、2点C1,C4を結ぶ線分L1との交点から求まる色温度となる。そして、波長変換部材6の温度が、温度調整範囲内で比較的高温側(200℃前後)に変化されると、照明光の色温度は上記の線分L1上を点C5までシフトし、線分L3上にある昼白色が得られることになる。
【0058】
尚、波長変換部材6に複数種類の蛍光体8を混合させた場合、照明光の色温度は、複数種類の蛍光体8の色温度を結んでできる図形内で、各蛍光体8の混合比によって決定される色温度となる。波長変換部材6に含まれる蛍光体8が2種類であれば、2種の蛍光体8の色温度を結んでできる線分上の色温度となる。また、波長変換部材6に含まれる蛍光体8が3種類であれば、3種の蛍光体8の色温度を結んでできる三角形内の色温度となる。
【0059】
(実施形態5)
本発明に係る発光装置を用いた照明装置の実施形態5を図7及び図8に基づいて説明する。尚、照明装置の基本的な構成は実施形態1〜4で説明した照明装置と同様であるので、共通する構成要素には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0060】
図7は本実施形態の概略構成図であり、波長変換部材6は、透光性を有する樹脂9(例えばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)に複数種類(本実施形態では2種類)の蛍光体8a,8bを分散させて形成されている。すなわち、本実施形態では、第1蛍光体である蛍光体8aに加えて、第2蛍光体である蛍光体8bを波長変換部材6に分散させており、この点で上述した実施形態1,3,4の照明装置と相違しているので、この相違点について以下に説明する。尚、本実施形態においても、実施形態2と同様に、波長変換部材6を透明熱源7で加熱するようにしてもよい。
【0061】
2種類の蛍光体8a,8bのうち、変換光のピーク波長が相対的に長波長である蛍光体8aには、波長変換部材6の温度が80℃以上の温度領域で、10℃の温度上昇に対して、外部量子効率が5%以上且つ90%以下の範囲で低下するようなものが用いられる。また、変換光のピーク波長が相対的に短波長である蛍光体8b(第2蛍光体)には、波長変換部材6の温度が80℃以上の温度領域で、温度変化に対する外部量子効率の変化分が蛍光体8a(第1蛍光体)よりも小さい蛍光体が用いられている。なお、蛍光体8bとしては、波長変換部材6の温度が80℃以上の温度領域で、10℃の温度上昇に対する外部量子効率の変化分が蛍光体8aより小さいものを用いるのが好ましい。より好ましくは、波長変換部材6の温度が80℃以上の温度領域で、10℃の温度上昇に対する外部量子効率の変化分が蛍光体8aより小さく、且つ、10℃の温度上昇に対して外部量子効率が6%未満の範囲で低下するような蛍光体を用いるのが好ましい。
【0062】
本実施形態では、白色の照明光(混色光)が得られるように、LEDチップ4からの青色光(ピーク波長が約450nm)を緑色に変化する緑色蛍光体と、LEDチップ4からの青色光を赤色光に変換する赤色蛍光体とを組み合わせて用いている。そして、発光スペクトルのピーク波長が短波長側である緑色蛍光体には温度依存性が小さい蛍光体が用いられ、発光スペクトルのピーク波長が長波長側である赤色蛍光体には温度依存性が大きい蛍光体が用いられる。すなわち、第1蛍光体として赤色蛍光体8aが用いられ、第2蛍光体として緑色蛍光体8bが用いられる。このような温度特性を有する蛍光体8a,8bの組み合わせとしては、CaSc:Ce緑色蛍光体と、(Sr,Ba,Mg)2SiO:Eu赤色蛍光体の組み合わせがある。
【0063】
ここで、波長変換部材6の温度が温度調整範囲の低温側(80℃)に調整された場合に、得られる照明光が電球色となるように、2種の蛍光体8a,8bの配合比が調整されている。図8のxy色度図において点C1はLEDチップ4からの青色光の色度、点C2は低温側で緑色蛍光体8bから放射された緑色光の色度、点C3は低温側で赤色蛍光体8aから放射された赤色光の色度をそれぞれ示している。また図8の点C4は低温側で得られた照明光(混色光)の色度を示し、電球色の範囲B1内の色温度となっている。
【0064】
2種類の蛍光体の内、緑色蛍光体8bには、外部量子効率の温度依存性が小さい蛍光体を使用しているので、波長変換部材6の温度が変化した場合でも、緑色蛍光体8bによる色度は図8の点C2で略変化しない。一方、赤色蛍光体8aには外部量子効率の温度依存性が大きい蛍光体を使用しており、波長変換部材6の温度変化に応じて、赤色蛍光体8aによる発光スペクトルの色温度は、図8の点C3と点C5とを結ぶ線分L4上で変化する。尚、図8の点C5は、波長変換部材6の温度が高温度側に変化された場合での赤色蛍光体8aによる発光スペクトルの色温度を示している。
【0065】
ここで、波長変換部材6の温度を上昇させると、照明光(混色光)の色温度は、点C1(LEDチップ4の照射光の色温度)と点C4(低温時の照明光の色温度)とを結ぶ線分L1よりも、点C2(相対的に短波長である緑色蛍光体8bの色温度)に近付く軌跡L5で青色側にシフトする。そして、波長変換部材6の温度を比較的高温側(約200℃)まで変化させると、昼白色の照明光が得られ、この時の照明光の色温度は図8の点C6となる。このように、照明光の色温度を電球色から昼白色まで変化させる場合に、色温度が変化する軌跡は、点C1と点C3を結ぶ線分L4から、相対的に短波長である緑色蛍光体の色温度に対応した点C2に近付く軌跡L5上で変化する。したがって、照明装置Aから照射される照明光の色温度変化が、昼白色から電球色にかけて黒体軌跡に近似した変化となるので、自然な白色光を得ることができる。
【符号の説明】
【0066】
A 照明装置
1 発光装置
4 LEDチップ(温度調整手段)
6 波長変換部材
7 透明熱源(温度調整手段)
8,8a 蛍光体(第1蛍光体)
8b 蛍光体(第2蛍光体)
10 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LEDチップと、
このLEDチップからの放射光によって励起され、前記放射光とは波長が異なる光を放射する第1蛍光体を含む波長変換部材とを備え、
この波長変換部材に含まれる前記第1蛍光体の外部量子効率は、前記波長変換部材の温度が80℃以上となる温度領域で、10℃の温度上昇に対して、外部量子効率が5%以上且つ90%以下の範囲で低下するような温度依存性を有し、
前記第1蛍光体の外部量子効率が前記温度依存性を有する温度領域を少なくとも含む温度調整範囲で前記波長変換部材の温度を調整する温度調整手段を備えたことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記温度調整手段が、駆動電流の増減に応じて光出力が増減する前記LEDチップで構成されたことを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項3】
前記温度調整手段が、前記波長変換部材の表面に取着され、通電に応じて発熱する透明熱源で構成されたことを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項4】
前記LEDチップの発光スペクトルのピーク波長が480nm以上且つ490nm以下であり、前記第1蛍光体の発光スペクトルのピーク波長が580nm以上且つ620nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記第1蛍光体は、発光スペクトルのピーク波長が互いに異なる複数種類の蛍光体からなり、これら複数種類の蛍光体は、温度に対する外部量子効率の特性が略同じ特性であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記波長変換部材は、前記第1蛍光体に比べて発光スペクトルのピーク波長が短波長である第2蛍光体を含み、
この第2蛍光体の外部量子効率は、前記波長変換部材の温度が80℃以上となる温度領域で、10℃の温度上昇に対する外部量子効率の変化分が第1蛍光体よりも小さいような温度依存性を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の発光装置と、前記温度調整手段による温度調整を制御する制御回路とを備えたことを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−228538(P2011−228538A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98099(P2010−98099)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】