説明

発光装置

【課題】駆動電圧の低減化を損なうことなく、複数設けられた有機EL素子のうち選択されたもの以外の点灯が防止されるようになる発光装置を提供すること。
【解決手段】複数組の陽極12および陰極が互いに対向配置され、これらの陽極12および陰極の間に電荷注入層(電子注入層14)及び発光層が形成されることにより、複数の有機EL素子1が単独発光可能に設けられている発光装置であって、互いに隣接する陽極12の間に、陽極12のエッジを覆う絶縁膜18が設けられ、電荷注入層の導電率σは、複数の有機EL素子1のうち選択された有機EL素子から別の選択されていない有機EL素子への漏れ電流が当該選択された有機EL素子に導通される電流の1/100以下となるように設定され、前記選択された有機EL素子に導通される電流の電流密度Jと前記選択されていない有機EL素子に導通される電流の電流密度Jが、J<J/100を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極の間に少なくとも電荷注入層と発光層とが介装された有機EL(Electroluminescence)素子を複数備えた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光を利用したエレクトロルミネッセンス素子(以下EL素子という)は、自己発光であるため視認性が高いうえ、完全固体素子であるため耐衝撃性に優れているので、各種表示装置における発光素子としての利用が注目されている。 このEL素子には、発光
材料として無機化合物を用いた無機EL素子と、発光材料に有機化合物を用いた有機EL素子とがある。このうち、特に有機EL素子は、無機EL素子に比べて駆動電圧が大幅に低くて済むうえに小型化が容易であるため、実用化に向けての研究開発が盛んに行われている。
有機EL素子を実用化するためには、素子性能の高効率化および駆動寿命の向上が不可欠であり、これらの課題を解決するために、発光材料および素子構成の改良が行われている。
【0003】
有機EL素子は、陽極/有機発光層/陰極という積層型の素子構成を基本とし、これに電荷注入層として正孔注入輸送層や電子注入輸送層を適宜設けたもの、例えば、陽極/正孔注入輸送層/有機発光層/陰極という構成のものや、陽極/正孔注入輸送層/有機発光層/電子注入輸送層/陰極という構成のもの等が知られている。
ここで、正孔注入輸送層は、陽極より正孔を効率よく注入させるとともに当該正孔を発光層まで輸送する機能を有するものであり、正孔注入層と正孔輸送層とで構成される場合が多い。
また、電子注入輸送層は、陰極より電子を効率よく注入させるとともに当該電子を発光層へ輸送する機能を有するものであり、発光層は、注入された正孔および電子の再結合により発光する機能を備えたものである。なお、この電子注入輸送層を電子注入層と電子輸送層とで構成する場合もある。
【0004】
このような有機EL素子は、各種の表示装置に応用することも可能であると考えられており、有機EL素子で表示装置を構成するにあたり、複数の有機EL素子が単純マトリックス駆動可能となったドットマトリックスパネルを採用することが考えられる。
この際、有機EL素子を利用した表示装置の製造方法としては、表面にITO(Indium Tin Oxide)膜からなる透明な陽極電極がストライプ状にパターン化されたガラス製の基板を用い、この基板の表面に所定の材料を順次真空蒸着し、少なくとも電荷注入層および発光層を含む複数の有機EL素子を形成し、その上に、金属を蒸着して陰極電極を形成する方法が採用できる。
なお、この方法では、有機EL素子を形成する電荷注入層および発光層等の各層は、前述の基板の表面に均一に蒸着されるのが一般的である。
このような方法で製造された表示装置では、基板に形成された透明電極、例えば、ITO電極のエッジが急峻であるので、ITO電極の側面に成膜される膜の厚さが他の部分よりも薄くなりやすく、電気的に短絡するという欠陥が発生することがある。
また、表示能力が高精細である表示装置ほど、基板に形成されたITO電極の総延長が長くなり、急峻なエッジ長も長くなることから、短絡欠陥が発生するおそれが増大する。
【0005】
このため、電荷注入層である正孔注入層を成膜する際に、正孔注入層の膜厚を厚くし、正孔注入層でITO電極を完全に覆い、ITO電極のエッジが正孔注入層で隠蔽されるようにし、ITO電極のエッジが急峻であっても、短絡欠陥が発生しないようにするのが一般的である。これは、通常、正孔注入層の導電率が高いため、厚膜化した場合の駆動電圧上昇が比較的小さく抑えられるからである。
一方、有機EL素子を実用化するにあたり、その消費電力の低減が不可欠であり、そのために駆動電圧の低減が図られている。例えば、特開平4−145192号公報や、特開平9−45479号公報には、有機EL素子に設けられる正孔注入層の材質として、導電率の高い導電性高分子を採用することにより、駆動電圧の低減を図ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−145192号公報
【特許文献2】特開平9−45479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、正孔注入層の材質として、導電率の高い導電性高分子を採用すると、前述のような表示装置では、正孔注入層が厚膜となるので、隣接配置された複数の有機EL素子間の直流抵抗が低くなり、一の有機EL素子に電圧を印加すると、他の有機EL素子へ漏れ電流が流れ、選択していない有機EL素子も点灯してしまうという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、駆動電圧の低減化を損なうことなく、複数設けられた有機EL素子のうち選択されたもの以外の点灯が防止されるようになる発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数組の陽極および陰極が互いに対向配置されるとともに、これらの陽極および陰極の間に電荷注入層および発光層が形成されることにより、複数の有機EL素子が単独発光可能に設けられている発光装置であって、互いに隣接する前記陽極の間に、前記陽極のエッジを覆う絶縁膜が設けられ、前記電荷注入層の導電率σは、前記複数の有機EL素子のうち選択された有機EL素子から別の選択されていない有機EL素子への漏れ電流が当該選択された有機EL素子に導通される電流の1/100以下となるように設定され、前記選択された有機EL素子に導通される電流の電流密度Jと前記選択されていない有機EL素子に導通される電流の電流密度Jが下記式1を満たしていることを特徴とする。
【0010】
[数1]
<J/100 …式1
【0011】
このような本発明では、複数の有機EL素子のうち、一の有機EL素子から他の有機EL素子への漏れ電流が充分小さくなるように導電率が設定されていることから、選択された一の有機EL素子に電圧を印加しても、選択していない有機EL素子が点灯することがない。
また、有機EL素子に接続される陽極および陰極を形成する電極の寸法や、電極の間隔等に応じて、導電率を適宜設定すれば、前記有機EL素子からの漏れ電流が当該有機EL素子に導通される電流の1/100以下となる導電率を採用しても、有機EL素子は、低電圧で駆動することが可能となり、駆動電圧の低減化を損なうことはない。
このような有機EL素子の構成にすれば、ITO等の陽極のエッジが絶縁膜で保護されるため、リークを有効に防止できるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の原理・作用を説明するための断面図である。
【図2】本発明の原理・作用を説明するための平面図である。
【図3】本発明の原理・作用を説明するための等価回路図である。
【図4】本発明の原理・作用を説明するためのグラフ図である。
【図5】本発明の原理・作用を説明するための図4とは異なるグラフである。
【図6】本発明の一実施形態に係る発光装置を示す一部破断した斜視図である。
【図7】本発明の別の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
以下、電荷注入層が正孔注入層の場合として説明するが、電子注入層であっても、同様の議論が可能である。
図1および図2を参照して本発明を具体的に説明すると、複数組の陽極11および陰極12の各々は、互いに対向する対向面のうち正対する部分13が同一面積の矩形とされ、正孔注入層14の導電率σがJ/10<σ<l/(100・d)となるように設定されていることが好ましい。
なお、図1及び図2においては、正孔注入層14以外の層は省略してある。Vは、有機EL素子1に印加される電圧であり、Jは、有機EL1に流れる電流Iの電流密度であり、lは、隣接する有機EL素子1の間隔であり、dは、前記陽極11および陰極12の正対する矩形部分13の辺のうち、有機EL素子1の配列方向に沿った辺の寸法であり、dは、陽極11の厚さであり、dは陽極11および陰極12の間隔である。なお、図2において、dは、前記陽極11おび陰極12の正対する矩形部分13の辺のうち、有機EL素子1の配列方向とは直交する方向に沿った辺の寸法である。
【0014】
このような本発明の原理・作用を以下に説明する。
図1において、二つの有機EL素子1A,1Bのうち、選択された有機EL素子1Aに電圧Vが印加されると、有機EL素子1Aには、電流Iが流れ、有機EL素子1Bには、漏れ電流I’が流れる。このような発光装置には、有機EL素子1A,1Bの間の正孔注入層あるいは電子注入層14Aより、図3の等価回路の如く、直流抵抗Rが形成されている。この直流抵抗Rは、以下の式2で表される。
【0015】
[数2]
R=l/(σd) ・・・式2
【0016】
また、有機EL素子1Bの両端の電圧V’は、電圧Vから直流抵抗Rの電圧降下分を減じた値となるので、有機EL素子1Bを流れる電流I’は、以下の式3で表される。
【0017】
[数3]
I’=(V−V’)/R ・・・式3
【0018】
ここで、有機EL素子1の電流密度Jと印加電圧Vとの関係は、図4に示されるように、非線形の関数f(V)で表されている。ここで、座標(V,J)で示される点は、有機EL素子1Aの動作点Pとなっている。
【0019】
有機EL素子1Bの電流密度J’は、電流I’を矩形部分13の面積S(=d)で除したものであるので、有機EL素子1Bに流れる電流I’と電圧V’との関係は、前述の関数f(V)を用いると、以下の式4で表される方程式が得られる。
【0020】
[数4]
J’=I’/(d)=f(V’) ・・・式4
【0021】
また、上記式3から、以下の式5で表される方程式が得られる。
【0022】
[数5]
J’=I’/(d)=(V−V’)/(dR)・・・式5
【0023】
従って、有機EL素子1Aに電圧Vが印加された際に、有機EL素子1Bに加わる電圧V’および有機EL素子1Bに流れる電流I’は、図5に示されるように、J’=f(V’)が表す曲線と、J’=(V−V’)/(dR)が表す直線とが交差する点が示す座標(V,J)から決められる。
そして、有機EL素子1Bを非選択時に点灯させないようにするには、有機EL素子1Bの非選択時における電流密度J’が、有機EL素子1Aを選択し、駆動する時に流れる電流Iの電流密度Jの1/100以下であればよいので、以下の式6が成立する。
【0024】
[数6]
<J/100 ・・・式6
【0025】
ここで、JのかわりにJ(V’=0)を用いて、式6を評価する。有機EL素子1Bを非駆動時に点灯させないようにするには、以下の式7を満たすようにRを設定すればよい。
【0026】
[数7]
/(dR)<J/100 ・・・式7
【0027】
そして、式7に式2を代入して変形すると、次の式8が求められ、このような式8を満たす導電率σを設定すれば、非駆動時に有機EL素子1Bが点灯するのを防止することが可能となり、次の式8で導電率σの上限が規定される。
【0028】
[数8]
σ<l/(100・d) ・・・式8
【0029】
ただし、実際には、J<J(V’=0)だから、正確には、J<J/100より求まるσの上限値は、式8よりもやや大きくなる。
一方、電圧印加時における正孔注入層14の電圧降下ΔVが10V未満であれば、有機EL素子1が低電圧で駆動(点灯)可能であるといえる。この電圧降下ΔVは、次の式9で表される。
【0030】
[数9]
ΔV=I・d/(σd
=J・d/(σd
=J/σ<10 ・・・・・・式9
【0031】
従って、次の式10を満たす導電率σを設定すれば、有機EL素子1が低電圧で駆動(点灯)可能となり、式10により導電率σの下限が規定される。
【0032】
[数10]
/10<σ ・・・式10
【0033】
以上において、前記陽極として、帯状に延びる複数の電極がその幅方向に配列され、前記陰極として、帯状に延びるとともに、前記陽極と交差する複数の電極がその幅方向に配列され、これらの陽極および陰極により、前記複数の有機EL素子が単純マトリックス駆動可能となっていることが望ましい。
このようにすれば、二次元配列された多数の有機EL素子を、アットランダムに高速駆動することが可能となり、テレビ受像機用のディスプレイや、パーソナルコンピュータ用のディスプレイとして薄形高性能のものが実現される。
【0034】
前記電荷注入層は、有機化合物および酸化性ドーパントの組み合わせ、有機化合物および還元性ドーパントの組み合わせ、あるいは有機化合物および導電性微粒子の組み合わせであることが好ましい。
具体的に、有機化合物および導電性微粒子の好ましい組み合わせとしては、有機EL素子に通常用いられる有機化合物、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリアニリン、ポリスチレン、アミン誘導体、ポルフィリン、フタロシアニン類等に対して、導電性金属粒子や導電性無機粒子を混合分散した材料が挙げられる。 また、導電性微粒子の種類として
は、金、銀、銅、ニッケル、半田、アルミニウム、酸化インジュウム、酸化スズ、酸化亜鉛等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。また、導電性金属粒子の平均粒子径を0.001〜1μmの範囲内の値とすることが好ましい。さらに、導電性微粒子の添加量を、有機化合物100重量部に対して、0.1〜50重量部の範囲内の値とするのが好ましい。
【0035】
また、有機化合物および酸化性ドーパントの組み合わせとしては、次のものが挙げられる。即ち、有機化合物は、正孔輸送性ユニットを有するものであり、該正孔輸送性ユニットが、(1)非共役結合により互いに連結されて形成された高分子、又は(2)非共役性高分子と正孔輸送性低分子の混合物からなるものである。ここで、(2)非共役結合により互いに連結されて形成された高分子とは、オリゴマーをも含むものである。
具体的には、有機化合物としては、主鎖にアミンを含有するポリカーボネート又はポリエーテル、アミンオリゴマー、ポリビニルカルバゾール及びポリカーボネートとアミン化合物の混合物が挙げられ、酸化性ドーパントとしては、キノン誘導体、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、ハロゲン化金属塩、ルイス酸塩、フラーレン類、および有機酸塩等の化合物が挙げられる。
したがって、より具体的な有機化合物および酸化性ドーパントの組み合わせとしては、ポリビニルカルバゾールおよび塩化アンチモン、ポリアニリンおよび塩化アンチモン、アミン誘導体およびC60(フラーレン)、NPD(N,N’−ビス(ナフチル−1−イル)−N,N’−ジフェニル−4,4’−ベンジジン)およびチオケトン、ポルフィリンおよびテトラシアノキノジメタン(TCNQ)、銅フタロシアニンおよび(テトラシアノエチレン(TCNE)、アミンオリゴマーおよびDDQ、またはアミンデンドリマーおよびDDQ等を挙げることができる。
ここで、DDQとは、次の構造式で示される化合物である。
【0036】
【化1】

【0037】
なお、有機化合物と酸化性ドーパントとを組み合わせる場合、有機化合物に対する添加比率を1:1〜20:1(モル比)の範囲内の値とすることが好ましい。有機化合物と酸化性ドーパントとの添加比率がこれらの範囲外となると、有機EL素子の発光輝度が低下したり、寿命が短くなる場合があるためである。したがって、有機化合物と酸化性ドーパントとの添加比率を1:1〜10:1(モル比)の範囲内の値とすることがより好ましく、1:1〜5:1の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0038】
また、有機化合物および還元性ドーパントの組み合わせとしては、Alq(トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム)、DPAVBi(4,4’−ビス[2−{4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル)またはPBD等からなる有機化合物に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物または希土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも一つの還元性ドーパントを組み合わせることが好ましい。さらに、還元性ドーパントの添加量を、酸化性ドーパントの有機化合物に対する添加比率と同様の値とすることができる。なお、前記有機化合物は電子輸送性の方が好ましく、又、前記アルカリ金属はCs、およびLiが好ましい。ここで、PBDとは、次の構造式で示される化合物である。
【0039】
【化2】

【0040】
ただし、電荷注入層が正孔注入層の場合には、正孔注入性がより良好となることから有機化合物および酸化性ドーパントの組み合わせ、あるいは有機化合物および導電性微粒子の組み合わせがより好ましい。また、電荷注入層が電子注入層の場合には、電子注入性がより良好となることから有機化合物および還元性ドーパントの組み合わせ、あるいは有機化合物および導電性微粒子の組み合わせがより好ましい。
特に、電荷注入層が電子注入層の場合には、電子輸送性化合物と還元性ドーパントの組み合わせが好ましい。
【0041】
(電子輸送性化合物)
電子輸送性化合物としては、陰極から注入された電子を有機発光媒体に伝達する機能を有している化合物であれば、広く使用することができる。具体的に、例えば、窒素原子を含まない芳香族環からなる芳香族環化合物(単に、非窒素複素環化合物と称する場合がある)や、含窒素複素環化合物を含有する有機化合物(単に、含窒素複素環化合物と称する場合がある)を挙げることができる。
【0042】
[1]非窒素複素環化合物
非窒素複素環化合物は、すなわち、炭素(C)および水素(H)からなる芳香族環を含む化合物、または、炭素(C)、水素(H)および酸素(O)からなる芳香族環を含む化合物と定義される。ただし、芳香族環以外の分子中に窒素原子を含むことは差し支えなく、窒素原子を含まない芳香族環同士を、例えば窒素原子により結合することはむしろ好ましい。また、炭素および水素からなる芳香族環の化合物と、炭素、水素および酸素からなる芳香族環の化合物とは、それぞれ単独で使用しても良いし、あるいは組み合わせて使用しても良い。
【0043】
このように非窒素複素環化合物を後述する還元性ドーパントと併用することにより、優れた電子注入性が得られるとともに、隣接する発光域の構成材料と反応することを抑制することができる。すなわち、非窒素複素環化合物は、炭素および水素からなる芳香族環、または炭素、水素および酸素からなる芳香族環から構成されており、窒素含有芳香族環や電気吸引基(例えば−CN基、−NO基、アミド基、イミド基)といった窒素含有基を含んでいない。したがって、電子注入域と発光域との界面に、発光効率の低い電荷移動錯体またはエキシプレックスが発生することを効率的に抑制することができる。
好ましい非窒素複素環化合物として、アントラセン、フルオレン、ペリレン、ピレン、フェナントレン、クリセン、テトラセン、ルブレン、ターフェニレン、クォーターフェニレン、セクシフェニレン、トリフェニレン、ピセン、コロネル、ジフェニルアントラセン、ベンツ[a]アントラセンおよびビナフタレンからなる群から選択される少なくともひとつの芳香族環を含む芳香族環化合物が挙げられる。
また、非窒素複素環化合物は、スチリル基置換された芳香族環、ジスチリル基置換された芳香族環またはトリススチリル基置換された芳香族環を有するとさらに良い。このようにスチリル基置換(ジスチリル基置換およびトリスチリル基置換を含む。以下、同様である。)された芳香族環を有することにより、有機EL素子の発光輝度や寿命をより向上させることができる。
【0044】
このようにスチリル基置換された基を含む芳香族環化合物としては、例えば、有機発光媒体に使用される一般式(10)〜(12)で表される芳香族環化合物と同様の芳香族環化合物が挙げられる。
【0045】
【化3】

【0046】
[一般式(10)中、Arは、炭素数が6〜40の芳香族基であり、Ar、Ar、およびArは、それぞれ水素原子または炭素数が6〜40の芳香族基であって、少なくとも一つは芳香族基であり、縮合数nは、1〜6の整数である。]
【0047】
【化4】

【0048】
[一般式(11)中、Arは、炭素数が6〜40の芳香族基であり、ArおよびArは、それぞれ水素原子または炭素数が6〜40の芳香族基であり、Ar、ArおよびArの少なくとも一つはスチリル基で置換されており、縮合数mは、1〜6の整数である。]
【0049】
【化5】

【0050】
[一般式(12)中、Ar〜Ar13は、それぞれ炭素数が6〜40の芳香族基であり、ArおよびAr14は、水素原子または炭素数が6〜40の芳香族基であり、Ar〜Ar14の少なくとも一つはスチリル基で置換されており、縮合数p、q、r、sは、それぞれ0または1である。]
【0051】
[2]含窒素複素環化合物
また、電子輸送性化合物として、含窒素複素環化合物を挙げることができる。このように含窒素複素環化合物を用いた場合であっても、後述する還元性ドーパントのうち、仕事関数が2.9eV以下の還元性ドーパントを使用することにより、有機発光媒体材料と反応することを効率的に抑制して、高い発光輝度を得ることができる。
このような含窒素複素環化合物は、窒素原子を有する複素環を有する化合物と定義されるが、具体的に、含窒素錯体や含窒素環化合物が挙げられる。好ましい含窒素錯体として、8−キノリノール誘導体を配位子とする金属錯体やフタロシアニン誘導体、あるいは金属フタロシアニンが挙げられる。また、好ましい含窒素環化合物としては、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、キノキサリン誘導体およびキノリン誘導体等を挙げることができる。さらに、含窒素複素環化合物として、アントロン誘導体、フレオレニリメタン誘導体、カルボジイミド、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物を使用することも好ましい。
【0052】
(還元性ドーパント)
[1]種類
還元性ドーパントとは、芳香族環化合物が酸化された場合に、それを還元できる物質と定義される。したがって、還元性ドーパントの種類は、一定の還元性を有するものであれば特に制限されるものではないが、電荷注入層に用いられる還元性ドーパントと同様の種類とするのが好ましい。
より具体的に、好ましいアルカリ金属としては、例えば、Li(リチウム、仕事関数:2.93eV)、Na(ナトリウム、仕事関数:2.36eV)、K(カリウム、仕事関数:2.3eV)、Rb(ルビジウム、仕事関数:2.16eV)およびCs(セシウム、仕事関数:1.95eV)が挙げられる。なお、括弧内の仕事関数の値は、化学便覧(基礎編II,P493,日本化学会編)に記載されたものであり、以下同様である。
また、好ましいアルカリ土類金属としては、例えば、Ca(カルシウム、仕事関数:2.9eV)、Mg(マグネシウム、仕事関数:3.66eV)、Ba(バリウム、仕事関数:2.52eV)、およびSr(ストロンチウム、仕事関数:2.0〜2.5eV)が挙げられる。なお、ストロンチウムの仕事関数の値は、フィジィックス オブ セミコンダクターデバイス(N.V.ワイロー1969年,P366)に記載されたものである。
また、好ましい希土類金属としては、例えば、Yb(イッテルビウム、仕事関数:2.6eV)、Eu(ユーロビウム、仕事関数:2.5eV)、Gd(ガドニウム、仕事関数:3.1eV)およびEn(エルビウム、仕事関数:2.5eV)があげられる。
また、好ましいアルカリ金属酸化物としては、例えば、LiO、LiOおよびNaOがあげられる。また、好ましいアルカリ土類金属酸化物としては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeOおよびMgOがあげられる。
【0053】
また、好ましいアルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、LiF、NaFおよびKFといったフッ化物のほかに、LiCl、KClおよびNaClが挙げられる。また、好ましいアルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF、BaF、SrF、MgFおよびBeFといったフッ化物や、フッ化物以外のハロゲン化物が挙げられる。好ましい希土類ハロゲン化物としては、例えば、LaF,YbF,EuFなどのフッ化物が挙げられる。
また、好ましい還元性ドーパントとして、アルカリ金属が配位した芳香族化合物も挙げられる。このアルカリ金属が配位した芳香族化合物は、例えば、下記一般式(13)で表される。
【0054】
【化6】

【0055】
ただし、一般式(13)中のAは、アルカリ金属を表す。また、Ar20は、炭素数10〜40の芳香族化合物である。この(13)式で表される芳香族化合物としては、例えば、アントラセン、ナフタレン、ジフェニルアントラセン、ターフェニル、クォーターフェニル、キンクフェニル、セクシフェニルおよびこれらの誘導体があげられる。
【0056】
[2]添加量
電子注入域における還元性ドーパントの添加量を、電子注入域を構成する材料全体を100重量%としたときに、0.01〜50重量%の範囲内の値とすることが好ましい。還元性ドーパントの添加量が、0.01重量%未満となると、有機EL素子の発光輝度が低下したり、寿命が短くなる傾向がある。一方、還元性ドーパントの添加量が50重量%を超えると、逆に、発光輝度が低下したり、寿命が短くなる傾向がある。
したがって、発光輝度や寿命のバランスがより良好となる観点から、還元性ドーパントの添加量を0.2〜20重量%の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0057】
また、還元性ドーパントの添加量に関して、芳香族環化合物と還元性ドーパントとの添加比率を1:20〜20:1(モル比)の範囲内の値とすることが好ましい。電子輸送性化合物と還元性ドーパントとの添加比率がこれらの範囲外となると、有機EL素子の発光輝度が低下したり、寿命が短くなる傾向がある。
したがって、芳香族環化合物と還元性ドーパントとの添加比率を1:10〜10:1(モル比)の範囲内の値とすることがより好ましく、1:5〜5:1の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0058】
(電子親和力)
電子注入域の電子親和力を1.8〜3.6eVの範囲内の値とすることが好ましい。電子親和力の値が1.8eV未満となると、電子注入性が低下し、駆動電圧の上昇,発光効率の低下をまねく傾向があり、一方で、電子親和力の値が3.6eVを超えると、発光効率の低い錯体が発生しやすくなったり、ブロッキング接合の発生を効率的に抑制することができる。
したがって、電子注入域の電子親和力を、1.9〜3.0eVの範囲内の値とすることがより好ましく、2.0〜2.5eVの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0059】
さらに、前記電荷注入層における正孔注入層の材料としては、導電性高分子が採用できる。例えば、ポリアニリン、ポリチェニレンビニレン、ポリアリーレンビニレンおよびポリチオフェン等が挙げられる。
このように、導電性高分子からなる正孔注入層を採用すれば、導電性高分子は、クロロホルム等の溶液に溶解され、成膜を行うにあたり、大気圧で成膜が行えるスピンコート法等が採用可能となり、正孔注入層の成膜が容易に行えるようになる。
【0060】
あるいは、前記電荷注入層における正孔注入層の材料としては、無機半導体が採用できる。例えば、α−Si、μc−Si、μc−SiC、CdS、CdSSe、CdTeならびに非結晶質炭素および結晶質炭素が挙げられる。非結晶質炭素および結晶質炭素としては、ダイアモンドライク炭素、ダイアモンド、窒素添加炭素およびリン添加炭素等が採用できる。
このように、無機半導体からなる正孔注入層を採用すれば、無機半導体へのドーパントの添加量を調節する等により、正孔注入層の導電率σが正確に設定可能となり、式8および式10で規定される導電率σが容易かつ確実に設定されるようになる。
【0061】
さらに、本発明の実施の一形態を図面に基づいて説明する。
図6には、本実施形態の発光装置2が示されている。この発光装置2は、透明な基板3と、互いに対向する陽極11および陰極12とを有している。
陽極11は、基板3の表面に形成された透明電極であって、帯状に延びるとともに、その幅方向に複数配列されている。
陰極12は、陽極11と直交する方向へ帯状に延びる電極であって、その幅方向に複数配列されている。
これらの陽極11および陰極12の各々は、互いに対向する対向面のうち正対する部分が同一面積の長方形となった矩形部分13を多数有している。
これらの陽極11および陰極12の間には、基板3側から正孔注入層14、正孔輸送層15、発光層16および電子輸送層17が順次形成されている。
【0062】
これにより、陽極11および陰極12のそれぞれが有する多数の矩形部分13の間がそれぞれ単独発光可能な有機EL素子1(図示略)とされ、これらの陽極11および陰極12により、複数の有機EL素子1が単純マトリックス駆動可能となっている。そして、有機EL素子1の発光は、基板3を通じて外部に取り出されるようになっている。
この際、基板3は、ガラス等の透明な材料で形成され、陽極11は、ITO膜等の透明導電物質から形成され、陰極12は、蒸着に適した金属等の導電物質から形成され、正孔注入層14は、非共役性高分子と正孔輸送性低分子及び酸化性ドーパントから形成されている。
【0063】
さらに、隣接する有機EL素子1の間隔となる陽極11の間隔lは、30μmとされ、矩形部分13の辺のうち、有機EL素子1の配列方向とは直交する方向に沿った辺の寸法となる陰極の幅dは、300μmとされ、矩形部分13の辺のうち有機EL素子1の配列方向に沿った辺の寸法となる陽極11の幅dは、300μmとされている。そして、陽極11の厚さdは、100nmとされ、陽極11および陰極12の間隔dは、200nmとされている。
具体的には、本装置の場合、有機EL素子1に印加される電圧Vは、10Vとされ、有機EL素子に流れる電流Iの電流密度Jは、150mA/cmとなっている。
このような発光装置2では、正孔注入層14の導電率σは、式8および式10に基づいて算出すると、3×10−5S/mより大きく、1.35×10−1S/mよりも小さく設定されることが必要である。具体的には、4×10−4S/m程度であった。
【0064】
このような本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、発光装置2に設けられた正孔注入層14の導電率σをJ/10<σ<l/(100・d)となるように設定し、有機EL素子1のおける漏れ電流の電流密度J’が、隣接する他の有機EL素子1の駆動時に流れる電流Iの電流密度Jの1/100以下となるようにしたので、複数設けられた有機EL素子のうち選択されたもの以外の点灯を防止でき、低電圧で駆動しても充分な輝度を確保でき、表示装置として利用する場合には、コントラストを向上することができる。
【0065】
また、陽極11として、基板3の表面に形成された透明電極であって、帯状に延びるとともに、その幅方向に複数配列されたものを採用し、かつ、陰極12として、陽極11と直交する方向へ帯状に延びる電極であって、その幅方向に複数配列されたものを採用し、これらの陽極11および陰極12により、複数の有機EL素子1が単純マトリックス駆動可能としたので、二次元配列された多数の有機EL素子1を、アットランダムに高速駆動することが可能となり、テレビ受像機用のディスプレイや、パーソナルコンピュータ用のディスプレイとして薄形高性能のものを実現することができる。
【0066】
さらに、正孔注入層14の材料をクロロホルム等の溶液に溶解すれば、成膜を行うにあたり、大気圧で成膜が行えるスピンコート法等が採用可能となり、正孔注入層14の成膜作業を容易に行うことができる。
【0067】
以下に、前記実施形態における構造を有する発光装置2を作製する具体的な手順を含んだ実施例について説明する。
[実施例1]
[作製手順]
表面にITO膜の透明電極が設けられた透明なガラス製の基板3を採用する。この基板3は、幅100mm×長さ120mm×厚さ1.1mmのサイズを有したものとなっている。
また、基板3の表面に設けられた透明電極は、発光装置2の陽極11となるものであり、幅(d)300μm、厚さ(d)120nmの帯状電極が、その幅方向に多数配列されたストライプ状にパターニングされている。透明電極の隣接する各帯状電極の間隔(ギャップ)lは、20μmとされている。
【0068】
まず、このような基板3をイソプロピルアルコールで5分間超音波洗浄してから、純水で5分間洗浄した後、再度、イソプロピルアルコールで5分間超音波洗浄する。超音波洗浄が完了したら、乾燥窒素を吹き付けて基板3の表面からイソプロピルアルコールを除去した後、UV/オゾン洗浄を行う。
【0069】
続いて、基板3に非共役性高分子と正孔輸送性低分子及び酸化性ドーパントからなる正孔注入層14をスピンコート法で成膜する。すなわち、正孔注入層14の原材料として、導電率σが4×10−4S/m程度となるように、47mgのポリカーボネート(以下、PCと略す)と、112mgのN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’ビフェニル]−4,4’−ジアミン(以下、TPDと略す)と、112mgのトリス(4−ブロモフェニル)アルミニウムヘキサクロロアンチモネート(以下、TBAHAと略す)を5mlのクロロホルムに溶かした溶液を採用する。
【0070】
この溶液を回転(2000rpm)する基板3に滴下し、スピンコートにより、基板3の表面に成膜を行う。この後、温度が85℃の空気中で基板3を1時間乾燥し、これにより、基板3の表面にPC:TPD:TBAHAの混合物からなる厚さ200nmの正孔注入膜14を完成させる。
【0071】
次に、正孔輸送層15、発光層16および電子輸送層17を、真空蒸着法により、基板3に形成した正孔注入層14の上に順次成膜する。
具体的には、正孔輸送層15の原材料として、4,4’−ビス[N−フェニル−N−(1−ナフチル)−4−アミノフェニル]トリフェニルアミン(以下、TPD78と略す)を採用する。
発光層16の原材料としては、9,10−ジ[4−(2,2’−ジフェニルビニル−1−イル)フェニル]アントラセン(以下、DPVDPANと略す)と、4,4’−ビス[2−{4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(以下、DPAVBiと略す)との混合物を採用する。
電子輸送層17の原材料としては、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(以下、Alqと略す)を採用する。また、真空蒸着には、市販の真空蒸着装置(日本真空技術社製)を採用する。
【0072】
真空蒸着を行うにあたり、まず、正孔注入層14を成膜した基板3を真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、当該真空蒸着装置に設けられている四個のモリブデン製抵抗加熱ボートの各々に、200mgのTPD78、200mgのDPVDPAN、200mgのDPAVBiおよび100mgのAlqをそれぞれ入れる。
次いで、真空蒸着装置の真空チャンバーを密閉し、真空チャンバー内を1.0×10−4Paまで減圧した後、TPD78の入った抵抗加熱ボートを加熱し、TPD78を蒸発させ、基板3に形成した正孔注入層14の上に、膜厚20nmの正孔輸送層15を成膜する。
【0073】
正札輸送層15の成膜が完了したら、DPVDPANの入った抵抗加熱ボートおよびDPAVBiの入った抵抗加熱ボートを同時に加熱し、DPVDPANおよびDPAVBiを蒸発させ、基板3に形成した正孔輸送層15の上に、膜厚40nmの発光層16を成膜する。ここで、発光層16におけるDPVDPANおよびDPAVABiの混合比は、重量比で、40:1となっている。
発光層16の成膜が完了したら、Alqの入った抵抗加熱ボートを加熱し、Alqを蒸発させ、基板3に形成した発光層16の上に、膜厚20nmの電子輸送層17を成膜する。
【0074】
次いで、陰極12の成膜を行うが、その前に、電子輸送層17までの成膜を完了した基板3を真空チャンバーから取り出し、電子輸送層17の上にステンレススチール製のマスクを設置する。
このマスクは、幅(d)500μmの帯状電極を、その幅方向へ多数配列されたストライプ状にパターニングするためのものである。なお、各帯状電極の間隔(ギャップ)は、500μmとされている。また、このマスクの設置方向は、形成される帯状電極が陽極11の帯状電極とは直交する方向となっている。
【0075】
この後、マスクを設置した基板3を真空蒸着装置の基板ホルダーに再度固定するとともに、アルミニウム(Al)とリチウム(Li)とからなるとともに、Li濃度5at%の合金母材を蒸着材料として真空蒸着装置に設置する。
そして、真空蒸着装置の真空チャンバーを密閉し、真空チャンバー内を1.0×10−4Paまで減圧した後、前述の蒸着材料を加熱し、蒸着速度が0.5〜1.0nm/秒の範囲となるように蒸着材料の温度を調節しながら、当該蒸着材料を蒸発させ、これにより、基板3に形成した電子輸送層17の上に、膜厚150nmの陰極12を成膜し、発光装置2を完成させる。
【0076】
ここで、式8および式10に基づいて算出すると、正孔注入層14の導電率σは、4×10−5S/mより大きく、9×10−2S/mよりも小さい値に設定すべきである。発光装置2の正札注入層14の導電率σを実際に測定すると、その導電率σは、4×10−4S/mとなっていた。
従って、発光装置2に複数設けられた有機EL素子のうち、選択されたもののみが点灯し、かつ、それ以外の点灯が防止され、また、有機EL素子は、低電圧で駆動できると考えられる。
【0077】
次に、上述の手順で作製した発光装置2の発光試験について説明する。
[発光試験]
上述の手順で作製した発光装置2に形成された多数の有機EL素子のうち、特定の有機EL素子を選択し、当該有機EL素子のみに、5.5Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が認められた。また、選択したもの以外の発光は認められなかった。
【0078】
次に、新たに選択した有機EL素子のみをパルス電圧(デュティー比1/100、電圧10V、基本周波数60Hz)で駆動したところ、当該有機EL素子のみに発光が認められた。一方、この有機EL素子に隣接する他の有機EL素子等、選択した有機EL素子以外の発光は認められなかった。
【0079】
前述の直流電圧駆動における有機EL素子の初期性能データとして、電流密度:1.2mA/cm、輝度:83cd/m、発光効率:7cd/A、色度:(0.184,0.344)が得られた。これらから、発光装置2の有機EL素子は高効率であるのが判った。
また、前述のパルス電圧駆動における有機EL素子の初期性能データとして、電流密度:179mA/cm、瞬間輝度:9050cd/m、発光効率:5cd/A、色度:(0.180,0.339)が得られた。
さらに、発光装置2の全有機EL素子を点灯し、発光装置2の表面を目視および輝度計(ミノルタ社製:CS−100)で観察したところ、発光面内に無点灯の有機EL素子は認められないうえ、有機EL素子の輝度は均等といえた。このことから、発光装置2は、発光の均一性に優れていることが判った。
【0080】
[実施例2]
[作製手順]
実施例1における正孔注入層14について、銅フタロシアニン(CuPc)とDDQを50:1(オングストローム/秒)の比で共蒸着させて形成した以外は実施例1と同様に作製した。
ここで、DDQとは、前出の化合物である。
【0081】
[発光試験]
上述の手順で作製した発光装置2に形成された多数の有機EL素子のうち、特定の有機EL素子を選択し、当該有機EL素子のみに、6.0Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が認められた。また、選択したもの以外の発光は認められなかった。
次に、新たに選択した有機EL素子のみをパルス電圧(デュティー比1/100、電圧10V、基本周波数60Hz)で駆動したところ、当該有機EL素子のみに発光が認められた。一方、この有機EL素子に隣接する他の有機EL素子等、選択した有機EL素子以外の発光は認められなかった。
前述の直流電圧駆動における有機EL素子の初期性能データとして、電流密度:1.8mA/cm、輝度:92cd/m、発光効率:5.1cd/A、色度:(0.180,0.330)が得られた。これらから、発光装置2の有機EL素子は高効率であるのが判った。
【0082】
[実施例3]
[作製手順]
実施例1における正孔注入層14について、TPDPとFeClを重量比100:5でスピンコート法により成膜し、形成した以外は実施例1と同様に作製した。
ここで、TPDPとは、次の構造式で表される化合物である。
【0083】
【化7】

【0084】
[発光試験]
上述の手順で作製した発光装置2に形成された多数の有機EL素子のうち、特定の有機EL素子を選択し、当該有機EL素子のみに、6.0Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が認められた。また、選択したもの以外の発光は認められなかった。
次に、新たに選択した有機EL素子のみをパルス電圧(デュティー比1/100、電圧10V、基本周波数60Hz)で駆動したところ、当該有機EL素子のみに発光が認められた。一方、この有機EL素子に隣接する他の有機EL素子等、選択した有機EL素子以外の発光は認められなかった。
前述の直流電圧駆動における有機EL素子の初期性能データとして、電流密度:1.6mA/cm、輝度:82cd/m、発光効率:5.1cd/A、色度:(0.180,0.340)が得られた。これらから、発光装置2の有機EL素子は高効率であるのが判った。
【0085】
[実施例4]
[作製手順]
実施例1における正孔注入層14について、ポリメチルメタクリレート(PMMA)とアンチモンドープ酸化スズを重量比1:1でスピンコート法により成膜し、形成した以外は実施例1と同様に作製した。
【0086】
[発光試験]
上述の手順で作製した発光装置2に形成された多数の有機EL素子のうち、特定の有機EL素子を選択し、当該有機EL素子のみに、6.0Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が認められた。また、選択したもの以外の発光は認められなかった。
次に、新たに選択した有機EL素子のみをパルス電圧(デュティー比1/100、電圧10V、基本周波数60Hz)で駆動したところ、当該有機EL素子のみに発光が認められた。一方、この有機EL素子に隣接する他の有機EL素子等、選択した有機EL素子以外の発光は認められなかった。
前述の直流電圧駆動における有機EL素子の初期性能データとして、電流密度:1.5mA/cm、輝度:76cd/m、発光効率:5.1cd/A、色度:(0.182,0.342)が得られた。これらから、発光装置2の有機EL素子は高効率であるのが判った。
【0087】
[比較例1]
[作製手順]
実施例1における正孔注入層14について、TBAHAを用いずに形成した以外は実施例1と同様に作製した。
【0088】
[発光試験]
上述の手順で作製した発光装置2に形成された多数の有機EL素子のうち、特定の有機EL素子を選択し、当該有機EL素子のみに、10Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が認められた。また、選択したもの以外の発光は認められなかった。
次に、新たに選択した有機EL素子のみをパルス電圧(デュティー比1/100、電圧10V、基本周波数60Hz)で駆動したところ、当該有機EL素子のみに発光が認められた。一方、この有機EL素子に隣接する他の有機EL素子等、選択した有機EL素子以外の発光は認められなかった。
前述の直流電圧駆動における有機EL素子の初期性能データとして、電流密度:1.0mA/cm、輝度:50cd/m、発光効率:5cd/A、色度:(0.184,0.340)が得られた。実施例1と比較すると、駆動電圧が5.5Vから10Vまで高電圧化した。この場合の正孔注入層の導電率σは10−6S/mより小さくなっており、正孔注入層の導電率σの値を本発明の範囲内にすることができなかった。
【0089】
[比較例2]
[作製手順]
実施例1における正孔注入層14について、ポリアニリンとショウノウスルホン酸から形成した以外は実施例1と同様に作製した。
【0090】
[発光試験]
上述の手順で作製した発光装置2に形成された多数の有機EL素子のうち、特定の有機EL素子を選択し、当該有機EL素子のみに、5.0Vの直流電圧を印加したが、非選択画素が発光した。
次に、新たに選択した有機EL素子のみをパルス電圧(デュティー比1/100、電圧10V、基本周波数60Hz)で駆動したところ、この有機EL素子に隣接する他の有機EL素子が発光した。
前述の直流電圧駆動における有機EL素子の初期性能データとして、電流密度:1.0mA/cm、輝度:70cd/m、発光効率:7cd/A、色度:(0.180,0.340)が得られた。この場合の正孔注入層の導電率σは1S/mとなっており、本発明の導電率σの値の上限を超えているため、画素選択性が失われた。
【0091】
[実施例5]
[作製手順]
実施例1における正孔注入層14について、TPDを60mm蒸着し、さらに実施例1の電子輸送層17をCuPcとLiを2:0.1(オングストローム/秒)の比で共蒸着させた以外は実施例1と同様に作製した。
【0092】
[発光試験]
上述の手順で作製した発光装置2に形成された多数の有機EL素子のうち、特定の有機EL素子を選択し、当該有機EL素子のみに、6.0Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が認められた。また、選択したもの以外の発光は認められなかった。
次に、新たに選択した有機EL素子のみをパルス電圧(デュティー比1/100、電圧10V、基本周波数60Hz)で駆動したところ、当該有機EL素子のみに発光が認められた。一方、この有機EL素子に隣接する他の有機EL素子等、選択した有機EL素子以外の発光は認められなかった。
前述の直流電圧駆動における有機EL素子の初期性能データとして、電流密度:1.7mA/cm、輝度:83cd/m、発光効率:4.9cd/A、色度:(0.179,0.330)が得られた。これらから、発光装置2の有機EL素子は高効率であるのが判った。
【0093】
[実施例6]
[作製手順]
電子輸送層17をAlq(トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム)とCsを2:0.3(オングストローム/秒)の比で共蒸着させた以外は実施例1と同様に作製した。
【0094】
[発光試験]
上述の手順で作製した発光装置2に形成された多数の有機EL素子のうち、特定の有機EL素子を選択し、当該有機EL素子のみに、6.0Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が認められた。また、選択したもの以外の発光は認められなかった。
次に、新たに選択した有機EL素子のみをパルス電圧(デュティー比1/100、電圧10V、基本周波数60Hz)で駆動したところ、当該有機EL素子のみに発光が認められた。一方、この有機EL素子に隣接する他の有機EL素子等、選択した有機EL素子以外の発光は認められなかった。
前述の直流電圧駆動における有機EL素子の初期性能データとして、電流密度:1.6mA/cm、輝度:83cd/m、発光効率:5.2cd/A、色度:(0.180,0.333)が得られた。これらから、発光装置2の有機EL素子は高効率であるのが判った。
【0095】
以上、本発明について好適な実施形態および実施例を挙げて説明したが、本発明は、これらの実施形態および実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の改良並びに設計の変更が可能である。
【0096】
例えば、発光装置としては、互いに隣接する陽極の間に、正孔注入層が設けられているものに限らず、図7に示されるように、互いに隣接する陽極12の間に、絶縁膜18が設けられているものでもよい。このような構成にすれば、ITOのエッジが絶縁膜18で保護されるため、リークを有効に防止できるという効果を得ることができる。
ここで、発光装置の有機EL素子1A,1Bの間に形成される直流抵抗R’は、絶縁膜18の上面の直流抵抗r’と、絶縁膜18の二つの側面の直流抵抗rとの和であり、直流抵抗r’は、前記実施例における直流抵抗Rに等しいと考えられる。
従って、直流抵抗R’は、以下の式11で表される。ただし、l’は、絶縁膜18の側面に沿って漏れ電流が流れる正孔注入層の長さであり、d’は、前記漏れ電流が流れる正孔注入層の厚さである。
【0097】
[数11]
R’=R+2・r =l/(σd)+2・l’/(σdd’)・・・式11
【0098】
このような発光装置では、l/l’が20程度の値となり、d/d’が10程度の値となり、直流抵抗R’が直流抵抗Rにほぼ等しくなるので、互いに隣接する陽極12の間に絶縁膜18が設けられている発光装置にも、式8および式10で示した導電率σの範囲はそのまま適用できる。
【0099】
また、正孔注入層の材料としては、導電性高分子に限らず、無機半導体でもよい。無機半導体からなる正孔注入層を採用すれば、無機半導体へのドーパントの添加量を調節する等により、正孔注入層の導電率σが正確に設定可能となり、式8および式10で規定される導電率σが容易かつ確実に設定可能となる。
【0100】
さらに、発光装置としては、二次元配列された有機EL素子が単純マトリックス駆動可能とされることにより、イメージ等も表示する表示装置となるものに限らず、オーディオ製品に見られるレベル計のように、単に、有機EL素子が直線上に配列されたものでもよく、要するに、一体化された有機層に複数の有機EL素子が形成されたものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上に述べたように、本発明によれば、複数設けられた有機EL素子のうち選択されたもの以外の点灯を防止でき、低電圧で駆動しても充分な輝度を確保でき、表示装置として利用する場合には、コントラストを向上することができる。
【符号の説明】
【0102】
1…有機EL素子
2…発光装置
11…陽極
12…陰極
13…陽極および陰極の互いに対向する対向面のうち正対する矩形部分
14…正孔注入層
15…正孔輸送層
16…発光層
17…電子輸送層
18…絶縁膜
…有機EL素子に印加される電圧
…有機EL素子に流れる電流の電流密度
…隣接する有機EL素子の間隔
…矩形部分の有機EL素子の配列方向に沿った辺の寸法
…陽極の厚さ
…陽極および陰極の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数組の陽極および陰極が互いに対向配置されるとともに、これらの陽極および陰極の間に電荷注入層および発光層が形成されることにより、複数の有機EL素子が単独発光可能に設けられている発光装置であって、
互いに隣接する前記陽極の間に、前記陽極のエッジを覆う絶縁膜が設けられ、
前記電荷注入層の導電率σは、前記複数の有機EL素子のうち選択された有機EL素子から別の選択されていない有機EL素子への漏れ電流が当該選択された有機EL素子に導通される電流の1/100以下となるように設定され、前記選択された有機EL素子に導通される電流の電流密度Jと前記選択されていない有機EL素子に導通される電流の電流密度Jが下記式1を満たしている
ことを特徴とする発光装置。
[数1]
<J/100 …式1
【請求項2】
請求項1に記載の発光装置において、
前記複数組の陽極および陰極の各々は、互いに対向する対向面のうち正対する部分が同一面積の矩形とされ、
前記電荷注入層の導電率σが、
/10<σ<l/(100・d
となるように設定されている
ことを特徴とする発光装置。
ただし、
は、前記有機EL素子に印加される電圧であり、
は、前記有機EL素子に流れる電流の電流密度であり、
は、隣接する前記有機EL素子の間隔であり、
は、前記陽極および前記陰極の正対する矩形部分の辺のうち、前記有機EL素子の配列方向に沿った辺の寸法であり、
は、前記陽極の厚さであり、
は、前記陽極および前記陰極の間隔である。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の発光装置において、
前記陽極として、帯状に延びる複数の電極がその幅方向に配列され、
前記陰極として、帯状に延びるとともに、前記陽極と交差する複数の電極がその幅方向に配列され、
これらの陽極および陰極により、前記複数の有機EL素子が単純マトリックス駆動可能となっている
ことを特徴とする発光装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の発光装置において、
前記電荷注入層が正孔注入層であって、有機化合物と酸化性ドーパントからなるものである
ことを特徴とする発光装置。
【請求項5】
請求項4に記載の発光装置において、
前記有機化合物が、正孔輸送性ユニットを有するものであり、
該正孔輸送性ユニットが、(1)非共役結合により互いに連結されて形成された高分子、又は(2)非共役性高分子と正孔輸送性低分子の混合物からなるものである
ことを特徴とする発光装置。
【請求項6】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の発光装置において、
前記電荷注入層が電子注入層であって、有機化合物と還元性ドーパントからなるものである
ことを特徴とする発光装置。
【請求項7】
請求項6に記載の発光装置において、
前記有機化合物が電子輸送性化合物である
ことを特徴とする発光装置。
【請求項8】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の発光装置において、
前記電荷注入層が正孔注入層であって導電性高分子からなる
ことを特徴とする発光装置。
【請求項9】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の発光装置において、
前記電荷注入層が正孔注入層であって無機半導体を含有している
ことを特徴とする発光装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の発光装置において、
前記導電率σが、4×10−5<σ<9×10−2
となるように設定されていることを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−248542(P2012−248542A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180286(P2012−180286)
【出願日】平成24年8月15日(2012.8.15)
【分割の表示】特願2000−557664(P2000−557664)の分割
【原出願日】平成11年6月23日(1999.6.23)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】