説明

発光装置

有機EL素子は、他の発光素子と比べ多くの優れた面を有する反面、素子寿命が十分でないという問題を抱えている。また、携帯型のディスプレイなどへの応用が期待されていることから、電力効率を向上させることも重要である。そこで、電力効率を向上させつつ素子寿命の向上を実現する素子構造を提供することを課題とする。本発明の有機EL素子の構成は第1の陽極302と陰極304とで第1の電界発光膜303を挟み込み、さらに陰極304の上に第2の電界発光膜305と第2の陽極306とを積層させる。このとき、第1の陽極302と第2の陽極306とのコンタクトをとり並列回路を形成することによって、各電界発光膜に流す電流を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、陽極と、陰極と、電界を加えることで発光が得られる有機化合物を含む膜(以下、「電界発光膜」と記す)を有する発光素子を用いた発光装置に関する。
【背景技術】
有機化合物は無機化合物に比べて、材料系が多様であり、適した分子設計により様々な機能を有する材料を合成できる可能性がある。また、膜等の形成物が柔軟性に富み、さらには高分子化することにより加工性にも優れるという特長もある。これらの利点から、近年、機能性有機材料を用いたフォトニクスやエレクトロニクスに注目が集まっている。
有機材料の光物性を利用したフォトニクスは、現在の工業技術において既に重要な役割を果たしている。例えば、フォトレジストなどの感光材料は、半導体の微細加工に用いられるフォトリソグラフィ技術にとって欠かせない材料である。加えて、有機化合物自体、光の吸収およびそれに伴う発光(蛍光や燐光)という性質を有しているため、レーザー色素等の発光材料としての用途も大きい。
一方、有機化合物はそれ自身キャリアを持たない材料であるため、本質的には優れた絶縁性を有する。従って、有機材料の電気物性を利用したエレクトロニクスに関しては、旧来は絶縁体としての機能を利用することが主であり、絶縁材料、保護材料、被覆材料として使用されてきた。
しかしながら、本質的には絶縁体である有機材料に大量の電流を流す手段は存在し、エレクトロニクスの分野でも実用されつつある。この手段は、大きく分けると二通りに分けられる。
そのうちの一つは、導電性高分子に代表されるように、π共役系有機化合物にアクセプタ(電子受容体)またはドナー(電子供与体)をドープすることにより、そのπ共役系有機化合物にキャリアを持たせる手段である(非特許文献1参照)。ドープ量を増やすことによってキャリアはある程度の領域まで増加していくため、暗導電率もそれに伴い上昇し、多くの電流が流れるようになる。
その電流量は、通常の半導体かそれ以上のレベルにまで到達できるため、このような挙動を示す材料の一群は、有機半導体(場合によっては有機導電体)と呼ぶことができる。
このように、アクセプタまたはドナーをドープすることによって暗導電率を向上させ、有機材料に電流を流す手段は、一部では既にエレクトロニクスの分野で応用されている。例えば、ポリアニリンやポリアセンを用いた充電可能な二次電池や、ポリピロールを用いた電界コンデンサなどがある。
有機材料に大量の電流を流すもう一つの手段は、空間電荷制限電流(SCLC;Space Charge Limited Current)を利用する手段である。SCLCとは、外部から空間電荷を注入して移動させることにより流れる電流であり、その電流密度はチャイルドの法則、すなわち下記式(1)で表される。Jは電流密度、εは比誘電率、εは真空誘電率、μはキャリア移動度、Vは電圧、dはVが印加されている電極間の距離(以下、「厚さ」と記す)である。

なお、上記式(1)で表されるSCLCは、SCLCが流れる際のキャリアのトラップを一切仮定しない式である。キャリアのトラップによって制限される電流はTCLC(Trap Charge Limited Current)と呼ばれ、電圧のべき乗に比例するが、これらはどちらもバルク律速の電流であるので以下では同様の扱いとする。
ここで、対比のために、オームの法則に従うオーム電流が流れる際の電流密度を表す式を、下記式(2)に示す。σは導電率、Eは電界強度である。

式(2)中の導電率σは、σ=neμ(nはキャリア密度、eは電荷)で表されるため、キャリア密度が流れる電流量の支配因子に含まれる。したがって、ある程度のキャリア移動度を持つ有機材料に対し、先に述べたようなドーピングによるキャリア密度の増大を図らない限り、通常キャリアがほとんど存在しない有機材料にはオーム電流は流れない。
ところが、式(1)を見てわかるとおり、SCLCを決定する因子は、誘電率、キャリア移動度、電圧、および厚さであり、キャリア密度は関係ない。すなわち、キャリアを持たない絶縁体である有機材料であっても、厚さdを十分薄くし、キャリア移動度μが大きい材料を選ぶことにより、外部からキャリアを注入して電流を流すことができるのである。
この手段を用いた場合でも、その電流量は、通常の半導体かそれ以上のレベルにまで到達できるため、キャリア移動度μが大きい有機材料、言い換えれば潜在的にキャリアを輸送できる有機材料は有機半導体と呼ぶことができる。
ところで、このようなSCLCを利用した有機半導体素子の中でも特に、機能性有機材料の光物性・電気物性の両方を活かしたフォトエレクトロニクスデバイスとして、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と記す)が近年めざましい発展を見せている。
有機EL素子の最も基本的な構造は、1987年に報告されている(非特許文献2参照)。非特許文献2で報告されている素子は、正孔輸送性の有機化合物と電子輸送性の有機化合物とを積層させた合計約100nm程度の電界発光膜を電極で挟んだダイオード素子の一種であり、電子輸送性の化合物として発光性の材料(蛍光材料)を用いている。このような素子に電圧を印加することにより、発光ダイオードのように発光を取り出すことができる。
その発光機構は、電極で挟んだ電界発光膜に電圧を加えることにより、電極から注入された正孔および電子が電界発光膜中で再結合して励起状態の分子(以下、「分子励起子」と記す)を形成し、その分子励起子が基底状態に戻る際に光が放出されると考えられている。
なお、有機化合物が形成する分子励起子の種類としては一重項励起状態と三重項励起状態が可能であり、基底状態は通常一重項状態であるため、一重項励起状態からの発光は蛍光、三重項励起状態からの発光は燐光と呼ばれる。本明細書中においては、どちらの励起状態が発光に寄与する場合も含むこととする。
このような有機EL素子において、通常、電界発光膜は100〜200nm程度の薄膜で形成される。また、有機EL素子は、電界発光膜そのものが光を放出する自発光型の素子であるため、従来の液晶ディスプレイに用いられているようなバックライトも必要ない。したがって、有機EL素子は極めて薄型軽量に作製できることが大きな利点である。
また、例えば100〜200nm程度の電界発光膜において、キャリアを注入してから再結合に至るまでの時間は、電界発光膜のキャリア移動度を考えると数十ナノ秒程度であり、キャリアの再結合から発光までの過程を含めてもマイクロ秒オーダー以内で発光に至る。したがって、非常に応答速度が速いことも特長の一つである。
こういった薄型軽量・高速応答性などの特性から、有機EL素子は次世代のフラットパネルディスプレイ素子として注目されている。また、自発光型であり視野角が広いことから、視認性も比較的良好であり、携帯機器の表示画面に用いる素子として有効と考えられている。
しかし上記ようなすばらしい特徴を有する反面、あまり実用化に至っていない原因として素子寿命が十分でない点が上げられる。
有機EL素子を構成する電界発光膜は、電流が流れることによってその有機半導体の機能の劣化が促進される。有機EL素子においては、初期輝度にほぼ反比例、言い換えれば流す電流の量に反比例する形で素子寿命(発光輝度の半減期)が悪くなることが知られている(非特許文献3)。
このことから有機EL素子の電界発光膜に流す電流量を減少させることは、消費電力の観点はもちろんのこと、素子寿命の観点からも重要であるといえる。
非特許文献1 白川 英樹 他著 「シンセシス オブ エレクトリカリー コンダクティング オーガニック ポリマーズ:ハロゲン デリバティブズ オブ ポリアセチレン,(CH)」(Synthesis of Electrically Conducting Organic Polymers:Halogen Derivatives of Polyacetyrene,(CH)),ケミカル コミュニケーションズ,1977,16,578−580
非特許文献2 C.W.タン 他著,「オーガニックエレクトロルミネッセント ダイオード」(Organic electroluminescent diodes),アプライド フィジックス レターズ,Vol.51,No.12,913−915(1987)
非特許文献3 佐藤佳晴、「応用物理学会 有機分子・バイオエレクトロニクス分科会会誌」、Vol.11,No.1,(2000)、86−99
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、有機EL素子の電界発光膜に流す電流量を減少させ、素子寿命を向上させる素子構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明は、基板上に第1の電極があり、前記第1の電極に接して第1の電界発光膜があり、前記第1の電界発光膜に接して第2の電極があり、前記第2の電極に接して第2の電界発光膜があり、前記第2の電界発光膜に接して第3の電極があり、前記第1の電極および前記第3の電極は陽極または陰極の一方として機能し、前記第2の電極は陽極または陰極の他方として機能することを特徴とする発光装置である。
なお、前記第1の電極および前記第3の電極は電気的に接続されていてもよい。
また、他の構成としては基板上に複数の陽極と複数の陰極が交互に形成され、各陽極と陰極の間に電界発光膜があることを特徴とする発光装置である。
前記発光装置において、複数の陽極が電気的に接続され、複数の陰極が電気的に接続されていてもよい。
また、前記発光装置において、前記陽極および前記陰極のいずれかから選ばれる電極のうち、前記基板から最も遠い位置の電極のみを光が透過しないようにすることによって、基板側から光を取り出すことができる。
また、前記発光装置において、前記陽極および前記陰極のいずれかから選ばれる電極のうち、前記基板から最も近い位置の電極のみ光が透過しないようにすることによって、基板と逆側から光を取り出すこともできる。
さらに前記発光装置において、前記発光素子に含まれるすべての陽極および陰極を透光性とすることによって、基板側と基板と逆側の両方から光を取り出すこともできる。
なお、前記発光装置において、前記複数の発光素子に異なる発光色を示す2種類以上の発光素子を用いることもできる。
また、前記発光装置において、前記複数の発光素子は、少なくとも一つの赤色発光を示す発光素子と、少なくとも一つの緑色発光を示す発光素子と、少なくとも一つの青色発光を示す発光素子を用いることにより白色発光させることもできる。
なお、本明細書中における発光装置とは、発光素子として電界発光膜を有する発光素子を用いた画像表示デバイスもしくは発光デバイスを指す。また、発光素子にコネクター、例えば異方導電性フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)もしくはTAB(Tape Automated Bonding)テープもしくはTCP(Tape Carrier Package)が取り付けられたモジュール、TABテープやTCPの先にプリント配線板が設けられたモジュール、または発光素子にCOG(Chip On Glass)方式によりIC(集積回路)が直接実装されたモジュールも全て発光装置に含むものとする。
【発明の効果】
本発明は、電界発光膜を電極に対して並列に接続し、かつ、垂直に積層させることによって、単位面積当たりのパワー効率を向上させることができることを特徴とする。また、電界発光膜へ供給する電流量を低減させることによって、素子寿命を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の基本的構成を示す図である。
図2は本発明の基本的構成を示す図である。
図3は本発明の基本的構成の最小構成を示す図である。
図4は本発明の最小構成での電子と正孔の流れる様子を示す図である。
図5は本発明と従来技術との比較を示す図である。
図6はアクティブマトリックス構造の発光装置を示す図である。
図7は電界発光膜の詳細図(実施例2)である。
図8は電界発光膜の詳細図(実施例3)である。
図9は光の出射方向を示す図である。
図10は発光装置の応用例である。
【発明を実施するための最良の形態】
(実施の形態1)
図1、図2は本発明の概略図である。図1では基板101上に基板に近い方から第1の陽極102、第1の陰極104、第2の陽極106、第2の陰極108、...第nの陰極109、第n+1の陽極111と、同じ外部電極に接続された陽極と陰極が交互に設けられている。そして、第1の陽極102と第1の陰極104の間には第1の電界発光膜103が、第1の陰極104と第2の陽極106の間には第2の電界発光膜105が、第2の陽極106と第2の陰極108の間には第3の電界発光膜107が、...第nの陰極109と第n+1の陽極111の間には第2nの電界発光膜110が形成され、1対の陽極と陰極の間に挟持された電界発光膜で1つの発光素子を形成している。図2は基板201上に陰極202、陽極204、陰極206、...陽極209、陰極211と電極が積層され、これらの間に電界発光膜203,205,207,210が形成された例であり、電極の積層の順番が異なるのみで図1と同様である。また、図1と図2では基板上での電極の積層が陽極から始まっていれば陽極で終わっており、陰極で始まっていれば陰極で終わっているが、もちろん陽極から積層されていても陰極で終わって良いし、またその逆もありえる。積層する陽極と陰極の数は使用者が必要に応じて適宜設定すれば良い。
また、各陽極はホール注入性に優れた物質が適しており、仕事関数が大きい物質(4.5〜5.5eV程度)が好ましい。例えば、Ti、TiN、TiSi、Ni、W、WSi、WN、WSi、NbN、Mo、Cr、Pt、Se、Pd、Ir、Au等であり、これらの混合物や合金でもよい。陰極に用いる材料としては、電子注入性に優れた仕事関数の小さい物質(2.5〜3.5eV程度)(代表的には周期表の1族もしくは2族に属する金属元素)や、これらを含む合金を用いることが好ましいとされている。中でも、陰極に用いる材料としては、MgAg、MgIn、AlLiなどの合金が望ましい。
(実施の形態2)
本発明の基本原理を本発明における最小の構成である図3の構造をもとに説明する。なお、本明細書において透光性とは、透明もしくは光を透過するのに十分な状態であることとする。
図3は透光性の基板301上に第1の陽極302、第1の電界発光膜303、陰極304、第2の電界発光膜305、第2の陽極306を形成した例である。302、304、306は透光性の電極を用いる。
図3の構造の素子に電流を流した場合の電子および正孔の流れる様子を図4に示す。正孔は図中401のように2つの陽極から注入され、電子は402のように中央の陰極から上下両方の電界発光膜に注入される。このとき図5(B)の矢印501のように外部電源から電流Iを供給すると、第1の陽極と第2の陽極に対して、それぞれ矢印502のようにI/2の電流が流れ、ついで第1の電界発光膜と第2の電界発光膜にそれぞれI/2の電流が流れる。1つの電界発光膜に電流Iが流れたときに放出されるフォトンの数をN個とすると、それぞれの電界発光膜からは矢印503のようにN/2個のフォトンが放出され、2つの電界発光膜から放出されるフォトンの合計はN個になる。
一方、図5(A)に示した1つの電界発光膜を陽極と陰極で挟んだ構造の素子に外部電源から矢印501のように電流Iを流した場合、図5(B)のときと同様に電界発光膜からN個のフォトンが放出される。
図5(A)と図5(B)を比較してみると、同じ数のフォトンを放出させようとしたとき、外部電源から供給される電流量はどちらもIだが、図5(B)の構造を用いた場合、ひとつの電界発光膜に流れる電流量はI/2ですむ為、電流による電界発光膜の劣化を減少させる事ができる。
また、消費電力について考えてみる。図5(A)の構造の素子において、N個のフォトンを電界発光膜から放出させるのに必要な電流をIとし、電流Iを流す為に必要な電圧をVとすると、この構造の素子の消費電力Pは以下のようになる。

これに対し図5(B)構造の素子において、2つの電界発光膜から合計N個のフォトンを放出させるのに必要な電流の合計はIであるが、回路が並列になっていることから、外部電源から供給する必要のある電圧は、式(1)からV/√2であることがわかる。ここで図5(B)素子でN個のフォトンを放出させるのに必要な電力Pを示す。


このように本発明で開示する構造を用いた場合、通常用いられる構造の素子に比べ、同じ数のフォトンを放出するのに必要とする電力を1/√2倍に減少することができる。
前記図3の構造を実現するためには、陽極302と陰極304および陰極304と陽極306が短絡することなく、陽極302と陽極306を接続させることが重要である。この手段としてはメタルマスクによる塗り分けが適当である。
上記では電界発光膜が2つの場合のみを述べたが、図1に示した3つ以上の電界発光膜を含む構造に関しても適用可能である。また、図2に示した構造に関しても同様に適用可能である。
【実施例1】
本実施例では、まず画素部に本発明の電界発光素子を有する発光装置について図6を用いて説明する。なお、図6(A)は、発光装置を示す上面図、図6(B)は図6(A)をB−B’で切断した断面図である。点線で示された601は駆動回路部(ソース側駆動回路)、602は画素部、603は駆動回路部(ゲート側駆動回路)である。また、604は封止基板、605はシール剤であり、シール剤605で囲まれた内側607は、空間になっている。
なお、608はソース側駆動回路601及びゲート側駆動回路603に入力される信号を伝送するための配線であり、外部入力端子となるFPC(フレキシブルプリントサーキット)609からビデオ信号、クロック信号、スタート信号、リセット信号等を受け取る。なお、ここではFPCしか図示されていないが、このFPCにはプリント配線基板(PWB)が取り付けられていても良い。本明細書における発光装置には、発光装置本体だけでなく、それにFPCもしくはPWBが取り付けられた状態をも含むものとする。
次に、断面構造について図6(B)を用いて説明する。基板610上には駆動回路部及び画素部が形成されているが、ここでは、駆動回路部であるソース側駆動回路601と、画素部602が示されている。
なお、ソース側駆動回路601はnチャネル型TFT623とpチャネル型TFT624とを組み合わせたCMOS回路が形成される。また、駆動回路を形成するTFTは、PMOS回路もしくはNMOS回路で形成しても良い。また、本実施の形態では、基板上に駆動回路を形成したドライバー一体型を示すが、必ずしもその必要はなく、基板上ではなく外部に形成することもできる。
また、画素部602はスイッチング用TFT611と、電流制御用TFT612とそのドレインに電気的に接続された第1の陽極613とを含む複数の画素により形成される。なお、第1の陽極613の端部を覆って絶縁物614が形成されている。ここでは、ポジ型の感光性アクリル樹脂膜を用いることにより形成する。
また、被覆率を良好なものとするため、絶縁物614の上端部または下端部に曲率を有する曲面が形成されるようにする。例えば、絶縁物614の材料としてポジ型の感光性アクリルを用いた場合、絶縁物614の上端部のみに曲率半径(0.2μm〜3μm)を有する曲面を持たせることが好ましい。また、絶縁物614として、感光性の光によってエッチャントに不溶解性となるネガ型、或いは光によってエッチャントに溶解性となるポジ型のいずれも使用することができる。
なお、絶縁物614には第1の陽極613と第2の陽極619とを接続させるための陽極コンタクト621を有する必要がある。
第1の陽極613上には、第1の電界発光膜616、第1の陰極617、第2の電界発光膜618、第2の陽極619がそれぞれ形成されている。
ここで第1の陽極613及び第2の陽極619に用いる材料としては、仕事関数の大きい材料を用いることが望ましい。例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)膜、インジウム亜鉛酸化物(IZO)膜、窒化チタン膜、クロム膜、タングステン膜、Zn膜、Pt膜などの単層膜の他、窒化チタンとアルミニウムを主成分とする膜との積層、窒化チタン膜とアルミニウムを主成分とする膜と窒化チタン膜との3層構造等を用いることができる。
なお、第1の陽極613及び第2の陽極619のうち少なくとも一つは光を透過するのに十分透明でなければならないので、光を透過するのに十分な薄さの金属薄膜を用いるか、透明導電膜を用いるか、金属薄膜と透明導電膜との積層を用いることとする。
また、第1の電界発光膜616、第2の電界発光膜618は、蒸着マスクを用いた蒸着法またはインクジェット法によって形成される。電界発光層に用いる材料としては、通常、有機化合物を単層もしくは積層で用いる場合が多いが、本発明においては、有機化合物からなる膜の一部に無機化合物を用いる構成も含めることとする。
また、第1の電界発光膜616と第2の電界発光膜618の間に保持される第1の陰極617上に用いる材料としては、仕事関数の小さい材料(Al、Ag、Li、Ca、またはこれらの合金MgAg、MgIn、AlLi、CaF、またはCaN)を用いればよい。
なお、第1の電界発光膜616と第2の電界発光膜618で生じた光が第1の陰極617を透過させるようにするには、第1の陰極617として、膜厚を薄くした金属薄膜を用いるか、あるいは透明導電膜(ITO(酸化インジウム酸化スズ合金)、酸化インジウム酸化亜鉛合金(In−ZnO)、酸化亜鉛(ZnO)等)等を用いるか、金属薄膜と透明導電膜との積層を用いるのが良い。
さらにシール剤605で封止基板604を素子基板610と貼り合わせることにより、素子基板610、封止基板604、およびシール剤605で囲まれた空間607に電界発光素子618が備えられた構造になっている。なお、空間607には、不活性気体(窒素やアルゴン等)が充填される場合の他、シール剤605で充填される構成も含むものとする。
なお、シール剤605にはエポキシ系樹脂を用いるのが好ましい。また、これらの材料はできるだけ水分や酸素を透過しない材料であることが望ましい。また、封止基板604に用いる材料としてガラス基板や石英基板の他、FRP(Fiberglass−Reinforced Plastics)、PVF(ポリビニルフロライド)、マイラー、ポリエステルまたはアクリル等からなるプラスチック基板を用いることができる。
以上のようにして、本発明の電界発光素子を有する発光装置を得ることができる。
【実施例2】
本実施例では、基板に最も近い位置の電極に陽極を用いた場合の電界発光素子の構造を説明する。
第1の陽極613上に積層する構造の詳細を説明する。ここで電界発光膜および、第1の陰極617は蒸着法により作製し、第1の陰極617には光を透過するのに十分薄い金属薄膜を用い第2の陽極619はスパッタリング法により作製する透明導電膜を用い、これらはすべてメタルマスクを通してパターニングして作製する。
図7に図6の電界発光素子620の詳細な構造を示す。以下、正孔注入層702、正孔輸送層703、発光層704、電子輸送層705、電子注入層706は、メタルマスクを用いて第1の陽極613上に選択的に成膜し、陽極コンタクト部621には成膜されないように制御する。また、陰極と陽極とがショートしないようにメタルマスクを使い分ける。
まず、蒸着法により第1の陽極701上に正孔注入性の有機化合物である銅フタロシアニン(以下、Cu−Pcと示す)を20nmの膜厚で成膜し正孔注入層702とし、正孔輸送性の有機化合物である、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(以下、α−NPDと示す)を40nmの膜厚で成膜し正孔輸送層703とする。
ついで、蒸着法により電子輸送性発光材料の有機化合物である、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Alqと示す)を37.5nmの膜厚で成膜して発光層704とし、同じくAlq3を37.5nmの膜厚で成膜して電子輸送層705とする。発光層704と電子輸送層705は連続して成膜することができる。
さらに、陰極からの電子注入性を高めるために無機化合物であるフッ化カルシウム(以下、CaFと示す)を1nmの膜厚で成膜し電子注入層706とする。
以上のようにして第1の電界発光膜709を得ることができる。
さらに第1の陰極707としてアルミニウム(以下、Alと示す)を5nmの膜厚で成膜する。
その後、第1の陰極707の上に電子注入層706としてCaFを1nm成膜し、電子輸送層705としてAlqを37.5nm成膜し、発光層704としてAlqを37.5nm成膜し、正孔輸送層703としてα−NPDを40nm成膜し、正孔注入層702としてCu−Pcを20nm成膜して第2の電界発光膜710を得る。
さらに第2の陽極708をスパッタリング法により作製する。この時、第2の陽極708は図6の陽極コンタクト部621を通して第1の陽極613と接続するようにし、かつ、第1の陰極617とショートしないようにメタルマスクを使用し成膜部分を制御する。
以上により電界発光素子620が完成する。なおこの発光素子から放出される光は、すべての電極が透光性であることから、図9(A)のように基板側および逆側の両方から放出される。
【実施例3】
本実施例では、基板に最も近い位置の電極に陰極を用いた場合の電界発光素子の構造を説明する。
基板に最も近い位置の電極に陰極を用いた場合の電界発光膜の構成および、電界発光膜と電極との関係は図8に示した通りであり、図中の801は第1の陰極、807が第1の陽極、808が第2の陰極を表す。なお、各電界発光膜を構成する各層の詳細は前記実施例2と同じであり、同じ番号で示してある。
本実施例で示す素子は、前記実施例2の素子と同様の動作を示す。
【実施例4】
本実施例は、図9(B)のように基板と逆側からのみ光を放射させる構造について説明する。
前記実施例3で示したように基板に最も近い位置の電極を陰極とする。ただし、第1の陰極907は、光が透過しないように200nm程度のAlの厚膜を成膜する。
第1の陰極907以外の構造は前記実施例2と同じでよい。すると、発光層から放出される光のうち、基板側に放出された光は矢印905のように第1の陰極907で反射されるため、図9(B)に示す矢印906のように、光は基板と逆側からのみ出射される。
以上により基板と逆側からのみ光を放射させる構造が実現する。
【実施例5】
本実施例は、図9(C)のように基板側からのみ光を放出させる構造について説明する。
前記実施例3で示したように基板に最も近い位置の電極を陰極とする。ただし、図9(C)のように基板から最も遠い位置の陰極910は、光が透過しないように200nm程度のAlの厚膜を成膜する。
第1の陰極以外の構造は前記実施例2と同じでよい。すると、発光層から放出される光のうち、基板と逆側に放出された光は、矢印908のように厚膜の陰極910で反射されるため、図9(C)に示す矢印909のように、光は基板側からのみ出射される。
以上により基板側からのみ光を放出させる構造が実現される。
【実施例6】
本実施例では、2種類の異なる発色を示す発光素子を用いて白色発光する発光装置の説明をする。
本実施例の構成は、発光層以外は前記実施例2と同じ構成である。
本実施例では2つの発光層を補色の関係にある青色発光を示す発光素子と燈色発光を示す発光素子で構成する。ここで、補色の関係とは異なる2色の光を合わせて白色の光を作り出すことのできる色のことをいう。
本実施例の構成では2つの発光層は一つの電源系で制御されるため、両方の発光層が同時に光り、白色発光を実現する。
【実施例7】
本実施例では、3種類の異なる発色を示す発光素子を用いて白色発光する発光装置の説明をする。
本実施例で示す構造は、3つの電界発光素子を含む構造である。図1および図2で陽極及び陰極に挟まれた電界発光膜が3つある場合に相当する。
本実施例の構造において、発光層以外は実施例2と同じである。
前記3つの電界発光素子を含む構造において、3つの発光層にはそれぞれ赤色発光を示す発光素子と、緑色発光を示す発光素子と、青色発光を示す発光素子の3色の発光素子を用いる。
これら3つの電界発光素子は、一つの電源系で制御されるため、同時に発光することにより白色発光を実現する。
【実施例8】
本実施例では、本発明の電界発光素子を有する発光装置を用いて完成させた様々な電気器具について説明する。
本発明の電界発光素子を有する発光装置を用いて作製された電気器具として、ビデオカメラ、デジタルカメラ、ゴーグル型ディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)、ナビゲーションシステム、音響再生装置(カーオーディオ、オーディオコンポ等)、ノート型パーソナルコンピュータ、ゲーム機器、携帯情報端末(モバイルコンピュータ、携帯電話、携帯型ゲーム機または電子書籍等)、記録媒体を備えた画像再生装置(具体的にはデジタルビデオディスク(DVD)等の記録媒体を再生し、その画像を表示しうる表示装置を備えた装置)などが挙げられる。これらの電気器具の具体例を図11に示す。
図10(A)は表示装置であり、筐体1001、支持台1002、表示部1003、スピーカー部1004、ビデオ入力端子1005等を含む。本発明の電界発光素子を有する発光装置をその表示部1003に用いることにより作製される。なお、表示装置は、パソコン用、TV放送受信用、広告表示用などの全ての情報表示用装置が含まれる。
図10(B)はノート型パーソナルコンピュータであり、本体1101、筐体1102、表示部1103、キーボード1104、外部接続ポート1105、ポインティングマウス1106等を含む。本発明の電界発光素子を有する発光装置をその表示部1103に用いることにより作製される。
図10(C)はモバイルコンピュータであり、本体1201、表示部1202、スイッチ1203、操作キー1204、赤外線ポート1205等を含む。本発明の電界発光素子を有する発光装置をその表示部1202に用いることにより作製される。
図10(D)は記録媒体を備えた携帯型の画像再生装置(具体的にはDVD再生装置)であり、本体1301、筐体1302、表示部A1303、表示部B1304、記録媒体(DVD等)読み込み部1305、操作キー1306、スピーカー部1307等を含む。表示部A1303は主として画像情報を表示し、表示部B1304は主として文字情報を表示するが、本発明の電界発光素子を有する発光装置をこれら表示部A、B1303、1304に用いることにより作製される。なお、記録媒体を備えた画像再生装置には家庭用ゲーム機器なども含まれる。
図10(E)はゴーグル型ディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)であり、本体1401、表示部1402、アーム部1403を含む。本発明の電界発光素子を有する発光装置をその表示部1402に用いることにより作製される。
図10(F)はビデオカメラであり、本体1501、表示部1502、筐体1503、外部接続ポート1504、リモコン受信部1505、受像部1506、バッテリー1507、音声入力部1508、操作キー1509、接眼部1510等を含む。本発明の電界発光素子を有する発光装置をその表示部1502に用いることにより作製される。
ここで、図10(G)は携帯電話であり、本体1601、筐体1602、表示部1603、音声入力部1604、音声出力部1605、操作キー1606、外部接続ポート1607、アンテナ1608等を含む。本発明の電界発光素子を有する発光装置をその表示部1603に用いることにより作製される。なお、表示部1603は黒色の背景に白色の文字を表示することで携帯電話の消費電力を抑えることができる。
以上の様に、本発明の電界発光素子を有する発光装置の適用範囲は極めて広く、この発光装置をあらゆる分野の電気器具に適用することが可能である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1の電極があり、
前記第1の電極に接して第1の電界発光膜があり、
前記第1の電界発光膜に接して第2の電極があり、
前記第2の電極に接して第2の電界発光膜があり、
前記第2の電界発光膜に接して第3の電極があり、
前記第1の電極および前記第3の電極は陽極または陰極の一方として機能し、
前記第2の電極は陽極または陰極の他方として機能することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
基板上に第1の電極があり、
前記第1の電極に接して第1の電界発光膜があり、
前記第1の電界発光膜に接して第2の電極があり、
前記第2の電極に接して第2の電界発光膜があり、
前記第2の電界発光膜に接して第3の電極があり、
前記第1の電極および前記第3の電極は電気的に接続されて陽極または陰極の一方として機能し、
前記第2の電極は陽極または陰極の他方として機能することを特徴とする発光装置。
【請求項3】
基板上に第1の陽極があり、
前記第1の陽極に接して第1の電界発光膜があり、
前記第1の電界発光膜に接して陰極があり、
前記陰極に接して第2の電界発光膜があり、
前記第2の電界発光膜に接して第2の陽極があることを特徴とする発光装置。
【請求項4】
基板上に第1の陰極があり、
前記第1の陰極に接して第1の電界発光膜があり、
前記第1の電界発光膜に接して陽極があり、
前記陽極に接して第2の電界発光膜があり、
前記第2の電界発光膜に接して第2の陰極があることを特徴とする発光装置。
【請求項5】
基板上に複数の陽極と複数の陰極が交互に形成され、
各陽極と陰極の間に電界発光膜があることを特徴とする発光装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載した発光装置において、前記陽極および前記陰極のいずれかから選ばれる電極のうち、前記基板から最も遠い位置の電極のみを光が透過しないようにすることによって、基板側から光を取り出すことができることを特徴とした発光装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載した発光装置において、前記陽極および前記陰極のいずれかから選ばれる電極のうち、前記基板から最も近い位置の電極のみ光が透過しないようにすることによって、基板と逆側から光を取り出すことができることを特徴とした発光装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載した発光装置において、前記発光素子に含まれるすべての陽極および陰極を透光性とすることによって、基板側と基板と逆側の両方から光を取り出すことができることを特徴とした発光装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載した発光装置において、前記電界発光膜は、異なる発光色を示す2種類以上の電界発光膜からなることを特徴とした発光装置。
【請求項10】
請求項5に記載した発光装置において、前記電界発光膜は、少なくとも一つの赤色発光を示す電界発光膜と、少なくとも一つの緑色発光を示す電界発光膜と、少なくとも一つの青色発光を示す電界発光膜と、からなることを特徴とした発光装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載した発光装置において、前記陽極とは仕事関数が4.5eVから5.5eVの物質であり、前記陰極とは仕事関数が2.5eVから3.5eVの物質であることを特徴とする発光装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載した発光装置において、前記陽極とはTi、TiN、TiSi、Ni、W、WSi、WN、WSi、NbN、Mo、Cr、Pt、Se、Pd、Ir、Auから選ばれた物質、またはこれらから選ばれた物質を含む混合物、またはこれらから選ばれた物質を含む合金であり、前記陰極とは周期表の1族もしくは2族に属する物質または周期表の1族もしくは2族に属する物質を含む混合物、または周期表の1族もしくは2族に属する物質を含む合金であることを特徴とする発光装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載した発光装置が表示部として組み込まれた電子機器。
【請求項14】
請求項13の電子機器において、前記電子機器はビデオカメラ、デジタルカメラ、ゴーグル型ディスプレイ、ナビゲーションシステム、音響再生装置、ノート型パーソナルコンピュータ、ゲーム機器、携帯情報端末、又は記録媒体を備えた画像再生装置であることを特徴とする電子機器。

【国際公開番号】WO2004/068911
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【発行日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504667(P2005−504667)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000206
【国際出願日】平成16年1月14日(2004.1.14)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】