説明

発根ゴマ抽出物及び毛髪用化粧料

本発明は、メラニン合成能が低下したり、停止したり、又は細胞死の傾向にある毛包メラノサイトの活性を、亢進させたり、回復させたりして、毛髪の白髪化を防止改善する白髪防止改善剤・育毛促進剤を提供することをその課題とする。 温度ショック及び/又は光線照射下で発芽させ培養した発根ゴマ抽出物であって、抗ヒートショックプロテイン(HSP)抗体、抗線維細胞増殖因子(FGF)抗体及び/又は抗メラノサイト刺激ホルモン(MSH)抗体に反応性を有する発根ゴマ抽出物を必須成分として毛髪化粧料に配合することで解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、毛髪の白髪化を予防あるいは改善する白髪予防改善剤を含む毛髪化粧料及び医薬組成物又は育毛剤に関する。
【背景技術】
ヒトの頭皮は、日光、紫外線、温度変化、化学物質、細菌汚染などの多くの環境ストレスに曝されている。また解剖学的には、精神的緊張に伴って帽状腱膜(galea aponeurotica)が頭蓋骨に圧着されて頭皮の緊張が高まり、これが頭皮血管を圧迫して血流量低下を来たす説も唱えられている。いずれにしてもこのようなストレスは、頭皮を構成する細胞に対して抑制的にはたらき、細胞が蛋白を合成してその立体構造を完成させるなどの正常機能が弱体化する。ヒト頭皮の毛包組織は、外毛根鞘、内毛根鞘、毛母細胞、毛包メラノサイト、毛乳頭、皮脂腺などから構成された複雑な組織であり、毛髪を生産する臓器とも解釈されている。そのうち、毛包メラノサイトhair−follicular melanocyteは、毛母細胞が集団を作っている毛球部hair bulbの中で、毛乳頭との境界部付近に多く認められ、その樹状突起を毛母細胞の集団内に伸ばしている。毛包メラノサイトでは、細胞質内のメラノソームがメラニンを合成し、そのメラノソームを毛母細胞に供給している。この毛母細胞が毛髄や毛皮質へと分化することにより、メラニンを含んだ毛髪が完成する。毛包メラノサイトは、毛周期hair cycleに連動して毛包メラノサイト周期hair−follicular melanocyte cycleを繰り返す。すなわち、毛周期退行期では、毛包メラノサイトも退行期に入り、成熟型のメラノソームは消失し、少数の未熟なメラノソームを含むのみである。毛周期休止期では、毛髪の根元は、角化が進んでクラブ型に膨らむ。この時期では、毛母細胞も毛包メラノサイトも、また毛乳頭も消失する。
又毛髪の色は、前術したとおり毛包メラノサイト内のメラノソームの成熟度、メラノソームが合成するメラニンの種類や質や量、メラノソームの毛母細胞への移行度、毛皮質細胞やその角化層におけるメラノソームの分布密度、形態、崩壊の有無などに依存する。メラノソームが合成するメラニンは、黒色のユウメラニンeumelanin(真性メラニンともいう)と黄褐色のフェオメラニンpheomelanin(仮性メラニンともいう)に大別される。黒色の髪ではユウメラニンが主体をなし、金髪blondではフェオメラニンが主体をなし、褐色髪などでは両メラニンが混在する。
日本人の黒い毛髪は、毛母細胞と共存している毛包メラノサイトがメラニン(正確にはユウメラニン(eumelanin))を合成し、これを毛母細胞に供給し、この毛母細胞がメラニン含有の毛皮質細胞に分化することにより完成する。加齢と共に起こる白髪については、薄毛や禿とならんで一般の関心が高いが、その成因については不明の点も多い。細胞レベルでは、白髪は、毛根部に存在する毛包メラノサイトの機能低下あるいは細胞死(アポトーシス)によりメラニン供給が停止したため起こるのであり、ストレスや加齢がその誘因と思われている。細胞動態からみると、毛包メラノサイトは、毛包の毛周期と連動してメラノサイト周期を繰り返しているが、毛包メラノサイトの生命力は毛母細胞のそれよりも弱く、ストレスや老化その他の要因で傷つき易い。白髪についての電子顕微鏡的研究では、毛包メラノサイトが完全に死滅したわけではなく、その細胞質内の空胞出現やメラノゾームの著しい減少が観察されていて、その機能低下が示唆されている。
白髪防止の試みは育毛よりも難事とされ、白髪防止製品は育毛剤に比べて数少ない。現行の白髪防止改善剤は、メラノサイトのメラニン産生増強もしくはチロシナーゼ活性増強を指標に、無作為スクリーニングや特定した物質についてその有効性を述べたものが多い。例えば、ベンソフェノン誘導体がメラノーマ培養細胞に対してメラニン生成増加およびチロシナーゼ活性促進効果を起こすとしてこれを利用したもの(特許文献1)、多様な細胞機能増進作用を持つサイクリックAMPを増加させる化学物質がメラノサイトの活性化を起こすとしてこれを利用したもの(特許文献2)、サイクリックAMPもしくはその誘導体が毛根メラノサイト活性化を起こすとしてこれを利用したもの(特許文献3)、特定のクロモン誘導体が毛包メラノサイトの活性化を起こすとしてこれを利用したもの(特許文献4)、広葉樹の木質から単離したルグニンがメラノサイトのチロシナーゼ活性促進を起こすとしてこれを利用したもの(特許文献5)、血管収縮作用・細胞増殖作用をもつエンドセリンがメラノサイトの増殖およびメラニン産生増加を起こすとしてこれを利用したもの(特許文献6)、アデノシン環状リン酸化合物およびフォルスコリンまたはその誘導体がメラノサイトの活性化を起こすとしてこれを利用したもの(特許文献7)、熱帯植物のコパイバの抽出物が培養メラノーマ細胞のメラニン産生を促進するとしてこれを利用したもの(特許文献8)、アデノシンリン酸化合物(AMP、ADP、ATP)が毛包メラノサイトの増殖とチロシナーゼ活性上昇を起こすとしてこれを利用したもの(特許文献9)などが挙げられるが、実用面で白髪改善効果を確認していない。
ところで、生物組織細胞が常温度より5〜10℃高温に曝されたときに細胞内に生成され、細胞を庇護する機能を有する熱ショック蛋白(heat−shock protein、以下、「HSP」ともいう。)は、本来、高温で合成が誘導される一群の蛋白であるが、高温以外のさまざまな環境ストレスでも誘導されるのでストレス蛋白とも呼ばれる。環境ストレスとしては、物理学的には温度変化、紫外線、放射線、気圧変化など、化学的にはさまざまな化学物質、薬物、毒物、金属イオンなど、生物学的には細菌、ウイルス、炎症、虚血、栄養不足、低酸素、活性酸素などが挙げられる。HSPは、これらの環境の悪条件に対応する生体の防御機構に関与すると考えられている。
HSPの主な分子生物学的機能は、細胞内で合成されたばかりでまだ立体構造をとっていない新しい蛋白に結合し、その分子間会合形成による変性を防いで正しい立体構造が完成するようにしたり、変性した蛋白の分解や再生を促したりすることなど、いわゆるシャペロン(付き添い役)機能である。
HSPは、分子量の大きさを付して呼ばれ、分子量が90,000、70,000、60,000(質量ではそれぞれ、90kDa、70kDa、60kDa)などと大きいものがよく知られており、それぞれHSP90、HSP70、HSP60などと呼ばれている。一方、分子量が50,000以下の小さいHSPも存在し、これらはsmall HSP(sHSP)と呼ばれ、細胞死(アポトーシス)を回避する機能や幼若細胞の分化を支援する機能が近年注目されている。sHSPは、動物細胞や酵母では多くないが、植物細胞では多く存在するとされている。一般に、HSPは、細菌から高等動植物まで広く生物界に存在し、しかも相同性が高い。この蛋白は、細胞の生存に必須得の分子であるから、生物進化の歴史の中で、種を超えて良く保存されてきたものと考えられる。HSPのうち、分子量27,000であるHSP27や分子量25,000であるHSP25の機能については、アポトーシス抑制機能(非特許文献1など)、シャペロン機能により蛋白合成の機能低下を回復させる機能(非特許文献2など)、腫瘍壊死因子TNFの壊死作用を阻害する機能(非特許文献3、4など)、幼若細胞の分化を支援する機能(非特許文献5)、子宮内膜で受精卵の着床と発育、胎盤の維持を支援する機能(非特許文献6)などの報告がある。しかしHSP27やHSP25などが白髪改善予防や育毛の作用を有することは知られていない。
一方、白髪と並んで、薄毛や脱毛症に対抗する育毛剤への需要も大きい。脱毛症の分類としては、1)生理的脱毛症(男性型脱毛症male pattern alopeciaまたはアンドロゲン性脱毛症androgenetic alopecia、加齢に伴う脱毛症、など)、2)先天性脱毛症、3)後天的脱毛症(円形脱毛症alopecia areataや皮膚疾患に伴った脱毛症など)に大別され、そのうち育毛剤の対象となるものは、生理的脱毛症や後天的脱毛症の一部である。生理的あるいは後天的の脱毛症の発生機序を組織あるいは細胞の面から分析すると、脱毛は頭皮毛包の毛周期休止期において毛髪を維持する毛根鞘細胞の活性低下、その結果として起こる抜け毛の増加、成長期毛包での毛母細胞や毛乳頭細胞の活性低下あるいは、その結果として毛髪生成能の低下などにより発生する。十分な数の毛髪を維持するためには、休止期毛包の毛根鞘細胞が活性を保って毛髪の脱落を防ぎ、成長期毛包の毛母細胞やそれを支える毛乳頭細胞が活性を保って常に毛髪を合成すること、毛乳頭や結合織性毛包の毛細血管が活性を保って十分な血行を維持すること、など必要である。市販の各種の育毛剤の有効成分は、機能上、1)毛包細胞の活性化、2)男性ホルモン抑制、3)頭皮の血行促進、4)頭皮の一般的ケア、などに分類できる。1)の毛包細胞の活性化を目指すものとしては、ペンタデカン酸グリセリド、プロシアニジン、など、2)男性ホルモン抑制を目指すものとしては、アロマターゼ、ジエチルスチルベステロール、グリチルリチン酸ジカリウムなど、3)の血行促進を目指すものとしてはミノキシジル、ビタミンE、ナイアシン、塩化カルプロニウム、ニンニクエキスなど、4)の頭皮ケアを目指すものとしては、アロエエキス、プラセンタエキス、ヒノキチオール、アミノ酸などが挙げられ、それぞれが目的別の有効性を謳っている。
一方、発芽ゴマを利用した毛髪化粧料としては、37℃で培養して発芽させたゴマから含水低級アルコール(メチルアルコールなど)でリグナン配糖体を抽出し(特許文献10)、これをビタミン類または細胞賦活剤とを組み合わせることにより、毛髪化粧効果を得たというもの(特許文献11)があるが、ゴマの培養中に与える光線や温度変化などの物理的刺激がゴマ抽出物中に白髪改善効果を有する抗ヒートショックプロテイン(HSP)抗体、抗線維細胞増殖因子(FGF)抗体、抗メラノサイト刺激ホルモン(MSH)抗体からなる群のいずれか1種又は2種以上の抗体に反応性を有する物質を誘導することは何らの記載も示唆もない。また、発芽させたゴマから含水アルコール抽出で得たリグナン配糖体とチロシナーゼ活性阻害剤とを組み合わせた皮膚外用剤が開示されている(特許文献12及び13)が、発芽させた含水メタノール抽出物は単独でチロシナーゼ活性阻害効果を有しており、また、上記皮膚外用剤はこれを他のチロシナーゼ活性阻害剤と組み合わせて相乗的な美白効果を期待するものであり、チロキシナーゼを活性化させる必要がある白髪防止改善作用とは全く逆の効果を有するものである。
【発明の開示】
本発明は、メラニン合成能低下を来たしている毛包メラノサイト、あるいは皮膚や組織のメラニン生産細胞活性を亢進させ、メラニン合成能を回復させて、毛髪の白髪化を防止あるいは改善する白髪防止改善剤又は育毛剤を提供することを課題とする。
本発明者は、熱ショック蛋白(HSP)及び線維芽細胞増殖因子(FGF)及びメラノサイト刺激性因子(MSH)に着目した。そして、ヒトの頭皮組織についての免疫組織化学的研究により、HSPのうち、sHSPである、分子量25,000のHSP25、および分子量27,000のHSP27と反応性を有する抗体と反応する物質が、ヒトの頭皮の毛球細胞に存在すること、そしてこれら抗体と反応する物質をゴマの新根から取得することが出来ること、HSP25およびHSP27と反応する抗体(抗HSP抗体)と結合性を有する物質を含むゴマ新根抽出物が、白髪予防改善作用、育毛促進作用を有することなどを見出した。さらに免疫組織化学的研究を進めることにより、細胞増殖因子であるFGF2およびFGF4と反応性を有する抗体(抗FGF抗体)と結合する物質がヒトの頭皮の毛球細胞および毛根鞘細胞に存在すること、これらの特定抗体に対して結合する物質を生産させるためには温度ショックを与えるなど特定の条件下でゴマを発根させることが必要なこと、この発根ゴマ抽出物が、育毛作用を有すること等を見出した。
また、上記の特定条件に加えて光の照射下で培養したゴマの新根(直根)の一部の細胞がメラノサイト刺激ホルモン抗体(抗MSH抗体)と反応性を有する物質を生成し、他の細胞がメラニンを生成する、という新たな発見をした。さらに、この条件下で培養した発根ゴマの抽出物は上述した抗HSP抗体及び抗FGF抗体に反応し、白髪に対して再メラニン化を起こすことより、白髪防止改善作用、育毛促進作用を有することを見出した。
ここで、上記抗MSH抗体反応性を有する物質の発見に至る契機について付言する。本願発明者らは、当初,抗HSP抗体、抗FGF抗体と反応性を有する物質の探索を目的として研究を行っていた。ゴマ培養に際しては、熱ショック以外のショック因子が関わることを避けるため、培養中のゴマには窓からの日光が当たらないよう、窓のカーテンを閉め切った条件下で行っていた。しかし、或る夜、窓のカーテンを閉め忘れたため、朝日の直射日光が培養中の発根ゴマに当たる、という失敗をしてしまった。そのゴマの新根を仔細に観察すると、通常は純白の新根が、かすかに黄ばんでいるように見えた(実施例6、および図11参照)。このかすかな変色を直射日光による傷害と解釈し、この発根ゴマを廃棄しようとしたが、それを思いとどまり、組織学的にこの黄ばみの正体を解明することにした。ただちにこの発根ゴマをホルマリン固定し、パラフィン包埋して組織切片を作製した。ゴマ新根の着色がもしやメラニンによるかと思い、期待外れは覚悟しつつも、このゴマ新根の組織切片にFontana銀法によるメラニン染色を施したところ、ゴマ新根の表皮細胞の細胞質が黒色に染まり、メラニン陽性であることを発見した(実施例7、および図13参照)。
再確認のため、ゴマの培養を、最初から日光が当たる場所で行ったが、ゴマ新根の顕微鏡所見は、同じであった。黒ゴマと白ゴマを比較すると、顕微鏡所見では、白ゴマのほうがメラニン量は多かった。光を厚紙などで遮った状態でゴマを培養した場合、メラニン量は、明らかに減少した(図15参照)。直射日光に当たりつつ発根したゴマを肉眼的に観察すると、この着色は、新根の根元の部分に起こることが分かった。
発根ゴマ表皮細胞にメラニンが作られたことは、新根組織のどこかにメラノサイト刺激ホルモン産生細胞が存在することを示唆する。本願発明者は、まさかと思いつつも、これらゴマ新根の組織切片につき、アルファ・メラノサイト刺激ホルモン(α−melanocyte stimulating hormone)(以下、α−MSH)に対する抗体である抗アルファ・メラノサイト刺激ホルモン抗体(anit−α−melanocyte stimulating hormone antibody)を利用して免疫組織化学的染色(以下、免疫染色とする)を試みたところ、ゴマ新根内部に、細胞質がα−MSH抗体陽性に染まる細胞を発見した(実施例8、および図14参照)。
次に、透過型電子顕微鏡によりメラニンおよびα−MSH分泌細胞を確認するため、直射日光に当りつつ発根したゴマ新根を、通常の電子顕微鏡的方法により観察したところ、ゴマ新根の根元に近い部分の表皮細胞で、細胞質内および核膜に沿ってメラニンと思われる高電子密度物質を認めた(実施例9、および図16a参照)。先に光学顕微鏡観察でα−MSH抗体陽性細胞を認めていたゴマ新根部分を電子顕微鏡的方法により観察したところ、豊富なゴルジ装置および分泌顆粒を含む細胞を見出した(実施例9、および図16b参照)。
ここで植物解剖学的にゴマ新根組織を解説すると、ゴマが十分吸水して発根が始まると、胚軸から先ず幼根radicleが突出し、殻を破って外に伸びだして新根となる。新根は、直根taproot(または主根main root)とも呼ばれ、その組織構造は、最表層が表皮epidermis、その内方が皮層cortex、皮層の最内層の細胞が内皮endodermisである。皮層の内側から直根中心までの部分が中心柱stele(central cylinder)である。中心柱では、表層に内鞘pericycleが、その内方には維管束vascular bundleが形成されている。維管束は、水や無機栄養分の通り道となる木部xylem、有機栄養分の通り道となる篩部phloem、ならびに両者の間を埋める柔細胞parenchyma cellから形成されている(図12参照)。
これらの構造をもとに、メラニンおよびα−MSHについての免疫染色標本を検討すると、メラニン陽性細胞は、表皮細胞であり、α−MSH陽性細胞は、内皮細胞(もしくは内鞘細胞)と思われる。本発明においてゴマ新根細胞中に新発見したα−MSHは、ゴマ内部で生成し、これが新根の表皮細胞に作用してメラニンを生産させたものと思われる。新根の中心柱は、新根のライフラインとも言うべき維管束の形成に関与する前形成層procambium、および、根の伸長や分化をもたらす側方分裂組織lateral meristem of root、という重要な幼若細胞群を含む。表皮に形成されたメラニンは、中心柱内のこれらの幼若細胞群を光線傷害から防御しているものと考えられる。そしてこの発根ゴマから抽出した抽出物は抗HSP、抗FGF抗体に反応するとともに抗MSH抗体に反応し白髪を黒化するという効果を有していることを見出した。
ここでメラノサイト刺激ホルモン(MSH)について付言する。
メラニンは、動物・植物などの高等生物に限らず、微生物など生物界に広く存在する高分子色素であり、メラノサイトより合成され、過剰な光の吸収に役立つ。人体では、メラノサイトは、光線が当たる皮膚に限らず、古くから、身体内部の至る所、たとえば通常は光線が当たらない口腔、咽頭、副鼻腔、食道などに確認されている(非特許文献7)。このような部位にあるメラノサイトの機能については、たとえば、口腔粘膜の場合、口の中にやけどしそうな熱いものが入ってきたときなどにもメラノサイトがメラニン産生を起こすところから、メラニンは、光あるいは紫外線を遮る物質であるほか、局所に加わった各種のストレスや傷害性因子による組織傷害を緩和する、あるいは傷害から回復させるために作動する生体物質のひとつと考えられる。
メラノサイトを刺激してメラニン合成を起こすものがメラノサイト刺激ホルモン(MSH)と呼ばれるペプチドホルモン(サイトカイン)であり、α、β、γの3形が存在する。近年の研究によれば、MSHならびにその近縁物質は、後述のとおり、さまざまなその他の生理機能をもつことが判明しつつある。
そのうちのα−MSHは、動物種差がなく、その一次構造は同一で、N末端のserがアセチル化された13個のアミノ酸残基で構成された直鎖のポリペプチドである。α−MSHがゴマを含む植物で発見された報告は、検索した範囲では見つからない。脊椎動物では、MSHは、ACTH(adrenocorticotrophic hormone副腎皮質刺激ホルモン)やβ−エンドルフィン(β−endorphin)などの共通前駆体蛋白であるプロピオメラノコルチン(proopiomelanocortine)(以下、POMC)から細胞内プロセシングにより作られることが知られている。哺乳類のPOMC遺伝子は皮膚、消化管、肺、腎、胎盤、精巣、卵巣など種々の組織で発現し、傍分泌(paracrine)されて局所の細胞に多様な機能を発揮していると考えられている(非特許文献8)。抗体を利用したゲル濾過クロマトグラフィー法により、脳下垂体以外の組織である精巣、十二指腸、腎、結腸、肝、肺、胃、脾などで微量ながらPOMCを検出した報告がある(非特許文献9)。
また、MSH作用のほとんどがACTHの作用と共通すること、両者には共通のアミノ酸配列を含むものがあることなどより、MSHとACTHを合わせてメラノコルチン(melanocortine)と総称されることがある。近年、MSHあるいはメラノコルチンのレセプター(受容体)は、メラノサイトに留まらず、人体各部の細胞に発見され始め、その機能や医療あるいは健康維持の利用法が注目を浴びている。
たとえば、マクロファージで発現していることから、抗炎症性ペプチドとしての利用が(非特許文献10)、脂肪組織にも発現しているところから脂肪分解作用が(非特許文献11)、中枢神経では海馬、視床、視床下部、脳幹や大脳皮質などに発現しているところから学習、記憶、視覚、聴覚や行動全身などの高次脳神経活動に関与する作用が(非特許文献12)、またα−MSHがマウス脳内の腫瘍壊死因子−α−TNF(tumor necrosis factor−alpha)を抑制したところから脳虚血に対する脳庇護作用が(非特許文献13)、移植心の保護作用から移植医学への利用が(非特許文献14)、またPOMCから細胞内プロセシングによりメラノコルチンを作るプロセシング酵素のひとつであるPC1が、膵臓のランゲルハンス島のインスリン細胞(β細胞)に局在するところから糖尿病の抑制(非特許文献15)、またα−MSHとTGFβ2(transforming growth factor−beta 2)の両者を併用することにより実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎を抑制できたことより自己免疫性炎症性疾患への利用(非特許文献16)などがそれぞれ報告されており、炎症治療、肥満抑制、脳活動支援、糖尿病などの内分泌性疾患、脳卒中、臓器移植、自己免疫性疾患などの広範な医療領域や健康維持に対処する医薬組成物や飲食品への利用も可能である。このようにMSHの作用を制御することによって多様な効果を得ることができる。
特許文献1:特開平11−5720号公報
特許文献2:特許第2937446号明細書
特許文献3:特開平8−67612号公報
特許文献4:特開平9−188608号公報
特許文献5:特開平6−256145号公報
特許文献6:特開平6−78224号公報
特許文献7:特開平4−360836号公報
特許文献8:特開2000−169348号公報
特許文献9:特開平6−48925号公報
特許文献10:特許第3120827号明細書
特許文献11:特開平10−279440号公報
特許文献12:特開平10−279460号公報
特許文献13:特開平10−279462号公報
非特許文献1:Mehlen P,Schulze−Osthoff K,Arrigo AP:Small stress proteins as novel regulators of apotosisi.J Biol Chem 1996;271:16510−4
非特許文献2:Carpaer SW,Rocheleau TA,Cimino D,Storm FK:Heat shock protein 27 stimulates recovary of RNA and protein synthesis folowing a heat shock:J Cell Biochem 1997; 66:153−64.
非特許文献3:Mehlen P,Preville X,Chareyron P,Briolay J,Klementz R,Arrigo AP:Consitutive expression of Human HSP27,Drosophilia HSP27,or Human αB−Crystallin confers resisitance to TNF−and oxidative stress−induced cytotoxicity in stably trensfected murine L929 fibroblasts.J Immunol 1995;154:363−74.
非特許文献4:Wang G,Klostergard J,Khodadadian M,Wu J,Wu TW,Fung KP,Carper SW,Tomasovic SP:Murine cells transfected with HSP 27 cDNA resist TNF−induced cytotoxicity.J Immunotherapy;with Emphasis on Tumor Immunol 1996;19:9−20
非特許文献5:Marin−R,Tanguay−RM:Stage−specific localization of the small heat shock protein HSP27 during oogenesis in Drosophila melanogaster:Chromosoma 1996;105:142−9
非特許文献6:Ciacca DR,Stati AO,Fanelli MA,Gaester M:Expression of heat shock protein 25,000 in rat uterus during pregnancy and pseudopregnancy.Biol Reprod.1996;54:1326−35.
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非特許文献17:Copeland LOら編集の書籍「種子科学と技術(Seed science and Technology)」Kluwer Academic Publishersボストン・ドルデレヒト・ロンドン2001年、71頁
本発明は、このような背景においてなされたものであって以下のような構成からなる。
(1) 抗ヒートショックプロテイン(HSP)抗体、抗線維細胞増殖因子(FGF)抗体、抗メラノサイト刺激ホルモン(MSH)抗体からなる群のいずれか1種又は2種以上の抗体に反応性を有することを特徴とする発根ゴマ抽出物。
(2) 抗ヒートショックプロテイン(HSP)がHSP25及び/又はHSP27である(1)記載の発根ゴマ抽出物。
(3) 抗線維細胞増殖因子(FGF)がFGF2及び/又はFGF4である(1)又は(2)記載の発根ゴマ抽出物。
(4) 抗メラノサイト刺激ホルモン(MSH)がα−MSHである(1)乃至(3)記載の発根ゴマ抽出物。
(5) HSP25及び/又はHSP27抗体、FGF2及び/又はFGF4抗体、α−MSH抗体からなる群のいずれか1種又は2種以上の抗体に反応性を有することを特徴とする発根ゴマ抽出物。
(6) (1)乃至(5)記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする毛髪用化粧料。
(7) (1)乃至(5)記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする白髪予防及び/又は改善剤。
(8) (1)乃至(5)記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする医薬用組成物。
(9) (1)乃至(5)記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする育毛促進剤。
(10)(1)乃至(5)記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする飲食品。
なお、本明細書において「発根ゴマ」とは、次のような定義で使用する。
一般に発芽(germination,sprouting,seedling)と呼ばれている現象は、植物生理学の成書(非特許文献17)ではemergence of the radicle through the seed coat(種子殻からの幼根の出現)と定義されているところから、発芽は、発根としてよい。しかし、発根ということばは一般的でないので、本明細書では、以後、時に応じ、発根(発芽)と、両者を併記することもある。ゴマの種子の殻を破って伸びだした新根は、ゴマの場合、直根taproot(または主根primary root)と呼ばれることもある。
【図面の簡単な説明】
第1図は、ヒト頭皮のHSP27免疫染色標本で認めた毛根組織の顕微鏡写真である。(200倍)。毛母細胞の細胞質がHsp陽性を示して、この白黒写真では暗調に示されている(矢印)。
第2図は、ヒト頭皮のFGF−2免疫染色標本で認めた毛根組織の顕微鏡写真である。(400倍)。毛乳頭細胞の細胞質がFGF−2陽性を示して、この白黒写真では暗調に示されている(矢印)。
第3図は、ヒト胎盤のHSP27免疫染色標本で認めた脱落膜細胞の顕微鏡写真である。(400倍)。脱落細胞の細胞質がHsp27陽性を示して、この白黒写真では暗調に示されている(矢印)。
第4図は、ヒト胎盤のHSP27免疫染色標本で認めた絨毛栄養細胞の顕微鏡写真である。(400倍)。細胞性栄養細胞cytotrophoblast(矢印)および合胞性栄養細胞syncytiotrophoblast(矢頭)の細胞質がHsp27陽性を示して、この白黒写真では暗調に示されている。
第5図は、発根ゴマのHSP27免疫染色標本で認めた新根先端部組織の顕微鏡写真である。(200倍)。新根先端の表層細胞の細胞質がHsp27陽性を示して、この白黒写真では暗調に示されている(矢印)。
第6図は、発根ゴマのMIB1免疫染色標本で認めた新根先端部組織の顕微鏡写真である。(200倍)。新根の先端部及び髄部の増殖期の細胞の核がMIB1陽性を示して、この白黒写真では暗調に示されている(矢印)。
第7図は、発根ゴマのFGF−2免疫染色標本で認めた新根先端部組織の顕微鏡写真である。
(100倍)。新根先端の表層及び髄部の細胞の細胞質がFGF−2陽性を示して、この白黒写真では暗調に示されている(矢印)。
第8図は、発根ゴマのFGF−2免疫染色標本で認めた新根先端部組織の顕微鏡写真である。(50倍)。原始葉脈に相当する樹枝状構造がFGF−2陽性を示して、この白黒写真では暗調に示されている(矢印)。
第9図は、ヒト毛髪の発根ゴマ抽出物・ローションにより黒化した部分のFontana銀法によるメラニン染色で真っ黒に染まった標本顕微鏡写真を示す(100倍)。
第10図は、ヒト毛髪の発根ゴマ抽出物・ローションにより毛根部が黒化した毛髪の先端部の顕微鏡写真を示す(100倍)。先端部には黒化が及んでおらず、白髪のままである。
第11図は、発根ゴマの拡大写真である。a:日中は光線を当てながら培養した発根ゴマ。b:日中は光線を当て、夜間に低温ショックを与えて培養した発根ゴマ。c:日中は光線を遮断し、夜間に低温ショックを与えて培養した発根ゴマ。光線を当てながら培養した発根ゴマでは、新根の基部に淡黄褐色の着色が認められるが(矢印)、光線を遮断して培養した発根ゴマでは、同部は白色である(矢頭)。(尺度は、1目盛が1ミリ)
第12図は、発根ゴマの組織構造を示す略図である。
第13図は、a:光線を当てながら培養した発根ゴマのマッソン・フォンタナ法によるメラニン染色標本の顕微鏡写真である。ゴマの新根基部の淡黄褐色の部分の表皮細胞に黒色の陽性所見が認められる(四角で囲んだ部分)。撮影倍率は100倍。
b:メラニン染色陽性の細胞の拡大写真である。マッソン・フォンタナ法によって生じた黒色の銀粒子が表層の細胞だけでなく第2層、第3層の細胞にも認められる(四角で囲んだ部分)。撮影倍率は400倍。
第14図は、a:光線を当てながら培養した発根ゴマの抗α−メラノサイト刺激ホルモン(α−MSH)抗体を用いた免疫染色標本の顕微鏡写真である。ゴマ新根基部の皮質深層の一層の細胞の細胞質が褐色(当該写真では黒色)に着色し、α−MSH陽性所見が認められる(四角で囲んだ部分)。撮影倍率は100倍。b:発根ゴマの抗α−MSH抗体を用いた免疫染色標本で、陽性の細胞の拡大写真である。皮質最深層の細胞の細胞質が褐色(当該写真では黒色)に着色し、α−MSH陽性所見が認められる(四角で囲んだ部分)。撮影倍率は400倍。
第15図は、a:光線を遮断して培養した発根ゴマのマッソン・フォンタナ法によるメラニン染色標本の顕微鏡写真である。ゴマ新根の基部では、その表皮細胞に僅かな黒色の陽性所見が認められるのみである(四角で囲んだ部分)。撮影倍率は100倍。b:メラニン染色標本の細胞の拡大写真である。マッソン・フォンタナ法によって生じた黒色の銀粒子が表層の細胞の核周囲に少数認められるが(四角で囲んだ部分)、第2層、第3層の細胞にはほとんど認められない。撮影倍率は400倍。
第16図は、光線を当てながら培養した発根ゴマの透過型電子顕微鏡写真である。a:表皮細胞の細胞質内にメラニンと思われる高電子密度の細顆粒が多数認められる。また核膜に沿って均一無構造の高電子密度物質の沈着が認められる。b:新根基部の皮質最深層細胞の細胞質の一部を示す。ゴルジ装置(△)が著しく発達しており、その付近に分泌物と思われる高電子密度の輪状構造(↓)が認められる。写真倍率は34、500倍。
c:新根基部の皮質最深層細胞のα−MSH免疫電子顕微鏡写真を示す。その細胞質内に直径120〜150nmの高電子密度の小型顆粒(矢印でそのうちの1個を示す)を多数みとめ、この小型顆粒がα−MSH陽性であることからα−MSH顆粒と断定した(図16c参照)。写真倍率は34,500倍。
第17図は、光線を当てながら培養した発根ゴマの抽出物を、白毛を含む眉部に2ヶ月間 塗布した後抜去した眉毛サンプルの拡大写真である。白髪のままのもの1本(a)、および根元が黒化しているが先端部は白髪のままのもの1本(b)を示す。白髪のままのものは、毛根端が棒状に膨れている点から、ヘアサイクル休止期のものである。途中から黒化したものは、毛根端がカップを逆さまにしたように膨れている点から、ヘアサイクル成長期のものである。
第18図は、抽出溶媒を変更することによる抗MSH抗体と反応する物質の抽出量の変動を示す。
第19図は、抽出溶媒に酢酸又は冷水を採用した場合の酢酸濃度の変動による抗MSH抗体と反応する物質の抽出量変化を示す。
第20図は、発根条件に与える水質の影響を検討した結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
1.抗HSP抗体、抗FGF抗体に反応性を有する発根ゴマ抽出物の調製
ヒト頭皮には、前述のごとく紫外線その他の種々のストレスが加わって毛包細胞に悪影響を与えている。このストレスから毛母細胞や毛包メラノサイトを守るため、生体防御機構として毛包には熱ショック蛋白(ストレス蛋白)が産生されている可能性が考えられる。熱ショック蛋白の種類は多いが、髪の育成には女性ホルモンが関連していることが知られているので、熱ショック蛋白の中でも、特に女性ホルモンに関連している熱ショック蛋白であるHSP25およびHSP27に着目し、検討したところ、抗HSP27および抗HSP25抗体に反応する物質がヒト頭皮の毛球の細胞に存在していることを免疫組織化学的に見出した。(実験例1参照)
さらに抗HSP25および抗HSP27抗体と女性ホルモンとの関連性を知るため、ヒト胎盤組織につき抗HSP25および抗HSP27抗体との反応性を検討したところ、HSP25およびHSP27が胎盤の脱落膜細胞decidual cellの胞体および胎盤絨毛の栄養細胞trophoblastの胞体に存在していることを免疫組織化学的に見出した。(実験例2参照)。
他方、毛髪化粧料の原料の面からは、昔から髪に良いとされるゴマに注目し、ゴマを温度変動のストレスをかけた状態で発根させて抗HSP25および抗HSP27抗体に反応する物質が産生されることを見出した(実施例1参照)。
抗HSP25あるいは抗HSP27抗体に反応する物質がゴマ新根(最初に出てくる根)細胞に証明されたことは、これらがゴマ新根の幼若細胞をストレスから庇護し、シャペロンとしてその蛋白合成を支援し、さらに細胞死(アポトーシス)予防に作用しているものと思われる。
抗HSP25および抗HSP27抗体に反応する物質は、温度差を与えながらゴマを発根させて、そのゴマの新根細胞より得たものを使用できる。ゴマ新根から抽出して得ることができる抗HSP25あるいは抗HSP27抗体と反応性を有する物質を含有する抽出液を頭皮に補給することにより、メラニン合成が弱くなったり停止したりあるいは細胞死に傾いている毛包メラノサイトの活性を回復させ、白髪を予防改善することができる。すなわち、植物細胞のもつストレス回避成分であるHSP25あるいはHSP27をヒトに利用し、毛母細胞や毛包メラノサイト細胞の賦活作用に優れた毛髪化粧料とすることができる。
HSP25あるいはHSP27は、メラニン合成能が低下したり、停止したり、又は細胞死の傾向にある毛包メラノサイトの活性を回復し、毛髪の白髪化を予防改善する。したがって、HSP25あるいはHSP27を、白髪を有する頭皮に適用することにより、白髪の黒化を誘導することができる。
抗HSP25や抗HSP27抗体と反応する物質は、蛋白であるところから、その化粧料として利用する際の溶媒は、蛋白を凝固するものは不向きである。また抗HSP25や抗HSP27抗体と反応する物質は、分解や変性を受け易いため、それを防ぐための工夫、例えばマイクロカプセルやリポソームで庇護する、あるいはフリーズドライする、などして、これを化粧料として安定して提供することができる。
本発明で使用するゴマは、その細胞が生きているものであればよく、具体的には、生ゴマ(種ゴマ)を使用する。天日干しや燻蒸などの処理が施されているものは、その細胞が死滅しており利用できない。
本発明で用いる発根ゴマを製造するには、温度管理、給水、換気、採光などに適切な配慮が必要である。種ゴマが春先に畑に蒔かれた時の自然環境といえる、日中は暖かく夜間は冷え込む、という寒暖の差の中で根を伸ばすという自然界での発根状況に近似させた条件を選択することが好ましい。一般に、熱ショック蛋白は、細胞が10℃の温度差に数時間さらされると生成するとされているので、本発明の発根ゴマの作製にはこの温度差を利用すれば良い。給水や換気などの条件は、使用する種ゴマにより適宜設定すればよい。一般には、水分は、ゴマが乾かない程度にあれば良く、水を用いる場合は水が変質しないよう適宜に換水するが、水の代わりにミストや水蒸気を利用することもできる。使用する水は、水道水でも良いが、水道水の水質に問題がある場合は地下水を使用するほうが良く、また、各種ミネラルウオータ、海洋深層水、温泉水などを使用しても良い。発根したゴマの酸素要求度は、時間経過と共に高まるので、時期やゴマの密度に対応した酸素補給が望ましい。
なお、ゴマの成分として広く知られているセサミンは、ゴマ発根から2日ないし3日目には消失しているため、本発明における発根ゴマではこの成分については期待できない。ゴマ油についても、発根ゴマを電子顕微鏡で観察すると、一部の細胞の細胞質内に脂肪の微細滴を少数認めることがあるが、脂肪滴が微細である点より、これらは、ゴマ油ではなく、病理学的には、栄養不足や酸素不足などに基づく脂肪変性と解釈される。
ゴマが発根し、新根が2〜3ミリに達したら培養を中止し、新根を傷めないよう注意して、新根のホモジネートを作るが、新根は傷つき易く、もし、これが傷つくと、細胞からHSPなどの有効成分が失われ易いので、それを避けるため、新根を分離せず、発根ゴマ全体をそのままホモジネートしても良い。今回行った免疫組織化学的研究では、新根以外の細胞に抗FGF2および抗FGF4抗体と反応する物質を新根以外の組織にも発見したので、むしろ発根ゴマ全体をホモジネートするほうが望ましい。発根ゴマをホモジネートする際、有効成分の分解や変性を防ぐ処置が必要である。処置の一例としては、ホモジネート操作を低温でなるべく短時間内に完成させること、有効成分の抽出溶媒としては、水その他の中性溶媒(例えば50mMTris−HCl緩衝液等)を用いるのが好ましいが、アルコールその他の有機溶媒を用いる場合は、有効成分を変質させない濃度とすることが必要である。ホモジネートを濾過あるいは遠心沈殿し、濾液あるいは上澄みを発根ゴマ抽出物とするが、発芽ゴマ抽出物と呼称しても良い。この抽出物を原料として、毛髪化粧料に配合することができる。発根ゴマ抽出物は、変質分解しやすいので、その原液は、冷凍保存することが好ましい。通常はこのような発根ゴマ抽出物中には抗HSP25、抗HSP27、抗FGF2あるいは抗FGF4抗体と反応する物質が抽出物1ml当たり0.01pg〜100μg含有している。
抗HSP25、抗HSP27、抗FGF2あるいは抗FGF4抗体と反応する物質を含有する発根ゴマ抽出物を毛髪化粧料として提供できる。発根ゴマ抽出物を毛髪化粧料に配合する場合、その配合量は、発根状態、抽出物の抽出法、抽出効率や有効成分安定化処理法などにより異なるし、また、使用対象や化粧料剤型により異なるので、諸事情により適宜設定することができる。例えば、発根ゴマの湿質量とほぼ等質量の発根ゴマ抽出物を製造した場合、毛髪化粧料へは、同抽出物を10〜30質量%の比率で配合することができる。
毛髪化粧料には、植物油のような油脂類、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、防腐剤、糖類、金属イオン封鎖剤、水溶性高分子のような高分子、増粘剤、粉体成分、紫外線吸収剤、紫外線遮断剤、香料、pH調整剤等を含有させることができる。また、ビタミン類、皮膚賦活剤、血行促進剤、活性酸素消去剤、抗炎症剤、殺菌剤等の他の薬効成分、生理活性成分を含有させることもできる。
本発明の発根ゴマ抽出物を含有する組成物は、例えば水溶液、油剤、乳液、けんだく液等の液剤、ゲル、クリーム等の半固形剤の形態で適用可能である。従来から公知の方法でこれらの形態に調製し、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、エアゾル剤等の種々の剤型とすることができる。これらを頭皮に塗布、噴霧等により適用することができる。特にこれら剤型の中で、ローション剤、乳剤、クリーム剤、エアゾル剤等が適している。通常、化粧料において使用される製剤化方法にしたがって、これらの剤型として製造することができる。
ゴマは、本来、食品であるから、大豆から作るもやし同様、発根ゴマを食品あるいはサプリメントとして利用することも出来る。その際、フリーズドライなどの処理を行うことにより、有効成分の生理活性が低下しないようにすることが好ましい。
食品としては、そのまま、又は種々の栄養成分を加えて、若しくは飲食品中に含有せしめて、白髪の予防又は治療に有用な保健用食品又は食品素材として食される。適当なでんぷん、植物油脂などの助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して食用に供してもよく、また種々の食品、例えば、パン、発酵乳製品に添加して使用したり、清涼飲料などの飲料に添加して使用してもよい。
2.抗MSH抗体と反応性を有する発根ゴマ抽出物の製造
本願発明者らは、培養したゴマの免疫組織化学的研究により、その新根に抗α−MSH抗体陽性細胞を見出した。発根したゴマをホモジネートして発根ゴマ抽出物を作り、これを白髪を有する男性の頭皮や眉毛部に塗布したところ、強い白髪改善効果が確認された(実施例6、図7参照)。
実施例6で言う「光線を当てながら行うゴマ培養」とは、培養中のゴマから新根が殻の外に現れた段階で、これに光線、たとえば、太陽光線、紫外線、各種の人工燈光線などを当てることを指す。先述のように、新根は、根の伸長および分化に携わる未分化な幼若細胞を多く含み、これらは、光線傷害を受け易い。したがって、ゴマ新根に抗α−MSH抗体と反応する物質を適切に生産させるための光線の種類、強度、照射時間のスケジュールなどは、ゴマ新根の生育状況を観察しつつ決めなければならない。(実施例7参照)
発根ゴマに当てる光線強度は、500〜50,000ルクスの範囲で決めればよい。(室内の通常照明の明るさは1,000〜2,000ルクス、太陽光線は1万〜10万ルックスとされている)。無論、光照射を必要としない生産条件であっても、抗α−MSH抗体と反応する物質を含有する条件で培養し調製された発根ゴマ抽出物であれば本願発明に包含される。なお、本願明細書は抗α−MSH抗体と反応する物質をα−MSHと記載する場合がある。
本発明抗α−MSH抗体と反応する成分を含有する発根ゴマ抽出物を得るために使用するゴマは、上記抗HSP抗体、抗FGF抗体と反応性を有するゴマ抽出物生産と同様でよい。
本抗MSH抗体と反応性を有する発根ゴマを製造するには、上記の光照射条件のほか、前記の抗HSP抗体、抗FGF抗体と反応性を有する抽出物を生産するときと同様に、温度管理、給水、換気、などに適切な配慮が必要である。ゴマの培養温度は、種ゴマが春先に畑に蒔かれた時の自然環境に近似させた条件を選択することが好ましく、25〜30℃が適正である。α−MSHがストレスホルモンのひとつである点より、ゴマ培養中、低温(あるいは高温)ショックなどのようなショック、あるいはなんらかのストレスを与えることは好ましいが、特に限定するものではない。
温度を変えて培養することによりショックを与える方法として、通常のゴマの培養においては適正温度とされている25〜30℃での培養、及びこの適正温度の下限より5〜20℃、好ましくは5〜10℃低い温度である5〜20℃、好ましくは15〜20℃での培養を行う。適正温度での培養及び低温での培養の順番は特に限定するものではないが、まず適正温度で培養してゴマを発根させた後に低温で培養し、必要に応じて適正温度での培養に戻すことが好ましい。低温での培養時間は、特に限定するものではないが、1〜10時間の範囲、好ましくは3〜7時間、より好ましくは5〜6時間である。
水や換気などの条件は、使用する種ゴマにより適宜設定すればよい。一般には、水分は、ゴマが乾かない程度にあれば良く、水を用いる場合は水が変質しないよう適宜に換水するが、水の代わりにミストや水蒸気を利用することもできる。使用する水は、水道水でも良いが、水道水の水質に問題がある場合はほかの適切な水を使用するほうが良く、また、ミネラル成分や有機成分を含む水、例えば地下水、ミネラルウオーター、海洋深層水あるいは温泉水など、を使用しても良い。発根したゴマの酸素要求度は、時間経過と共に高まるので、時期やゴマの密度に対応した酸素補給が望ましい。
発根ゴマの「抽出物」とは、望ましくは、発根ゴマのホモジネート(homogenate)から得た濾過液、あるいはそれを遠心沈殿して得た上澄み(supernatant)であるが、これ以外の方法で水性溶媒を用いて抽出しても良い。遠心沈殿による場合は、遠心分離機、好ましくは冷凍高速遠心分離機により、回転数は5,000〜10,000G、持続時間は10〜30分間処理して得られるものである。好ましい分離条件は、発根ゴマの種類、生育状況、ホモジネート状況や遠心分離機の種類などにより適宜決めなければならないが、目標とする分離条件は、発根ゴマのホモジネートから、殻破片、核や細胞壁破片を沈査として除き、抗α−MSH抗体と反応する物質を含むゴルジ装置や分泌顆粒あるいは細胞質内可溶性分画(soluble fraction)を残した上澄みを得ることである。
本発明において用いる発根ゴマ抽出物は、抗α−MSH抗体と反応する物質を含有する。本発明者は、本明細書においてこれらの物質を、αメラノサイト刺激ホルモン(α−MSH)と通称して言及するが、この用語は、メラノサイト刺激ホルモン全般についても用いるものとする。
また、抗α−MSH抗体と反応する物質は、光線照射のもとで培養した発根ゴマ由来のものであることが好ましいが、他の植物及び動物由来のもの、あるいは酵母などの微生物由来のものであっても、同様の効果を期待できる限りにおいて、それを使用することができる。
α−MSHは、実験室で細胞からこれを抽出する場合は酢酸緩衝液を用いることが多い。本発明実施例において開示するように、冷水による抽出に特に好ましい効果が得られている。発根ゴマ抽出液は、抗α−MSH抗体と反応する物質のほか、前記したように熱ショック蛋白や線維芽細胞増殖因子など、毛包に有用な蛋白を含んでいるため、毛髪化粧料の溶媒としては、好ましくは蛋白を凝固するものは使用しないほうが良い。また、これらの有用な蛋白は、分解や変性を受け易いため、それを防ぐための工夫、例えば、有機溶媒を使用する場合はその濃度を低くする、あるいはマイクロカプセルやリポソームで庇護する、あるいはフリーズドライする、あるいは真空加温処理などして、これを化粧料として安定して提供することができる。
培養されたゴマ新根から得ることができる抗α−MSH抗体と反応する物質を含有する抽出液を頭皮に補給することにより、メラニン合成能が低下している毛包メラノサイトの活性を回復させ、白髪を防止改善することができる。すなわち、植物細胞のもつメラノサイト刺激ホルモンのひとつである抗α−MSH抗体と反応する物質をヒトに利用し、毛包メラノサイト細胞の賦活作用に優れた白髪防止改善毛髪化粧料とすることができる。尚、本発明において好適に用いられる発根ゴマは、新根の長さが1〜10mm、好ましくは3〜5mmのものであるが、特に限定されるものではない。
尚、上述したようにゴマの成分として広く知られているセサミンは、ゴマ発根から2日ないし3日目には消失しているため、本発明における発根ゴマではこの成分については期待できない。ゴマ油も、発根の過程でエネルギー源として消費されて消失するため、本発明における発根ゴマ抽出物内には含まれない。
ゴマが発根し、新根が3〜5ミリに達したら培養を中止し、新根を傷めないよう注意して、新根のホモジネートを作るが、新根を分離せず、発根ゴマ全体をそのままホモジナイズしても良い。抗α−MSH抗体と反応する物質は、ゴマ新根に含まれ、生化学的にも安定した性質を持つが、本発明者が先に行った免疫組織化学的研究では、線維芽細胞増殖因子を新根以外の組織にも発見したので、むしろ発根ゴマ全体をホモジナイズするほうがよい。発根ゴマをホモジナイズする際、ホモジネートには、α−MSH以外の物質でα−MSHと作用機序は異なるものの、白髪防止改善作用をもつ有効成分であるHSP25、HSP27、あるいは育毛作用をもつFGF2などの蛋白も含まれるので、これらの蛋白の効果を無駄にしないためには、それの分解や変性を防ぐ処置をとることが好ましい。その目的のためには、簡単には、発根ゴマをいったん冷凍し、ホモジナイズする温度を氷点近くまで下げればよい。
特に望ましくは、発根ゴマのホモジネート(homogenate)から得た濾過液、あるいはそれを遠心沈殿して得た上澄み(supernatant)であるが、これ以外の方法で水性溶媒を用いて抽出しても良い。この発根ゴマ抽出物を原料として、毛髪化粧料に配合することができる。発根ゴマ抽出物の原液を保存する場合は、冷凍するなどして有効成分の分解や変性を防ぐことが望ましい。通常はこのような発根ゴマ抽出物中には抗α−MSH抗体及び/又は抗HSP25、抗HSP27、抗FGF2あるいは抗FGF4抗体と反応する物質が抽出物1ml当たり0.01pg〜100μg含有している。
本発明は、また光線をあてながら培養した発根ゴマ由来の抗α−MSH抗体と反応する物質を含む白髪防止改善剤を提供する。この白髪防止改善とは、機能低下した毛包メラノサイトを刺激してその機能を回復させて、白髪の発生を防止したり、白髪になったものを回復させることを意味する。
本発明は更に、抽出物の製造過程で蛋白変性防止の工夫を加えれば、HSP25、HSP27、FGF2などの有用な蛋白をも含有する発根ゴマ抽出物を毛髪化粧料として提供できる。HSP25及び/またはHSP27は、毛包メラノサイトのアポトーシスを予防することにより本発明と同様に白髪予防及び改善効果を有するものであり、またFGF2は毛乳頭の活性化することにより育毛効果を有するものである。
発根ゴマ抽出物を毛髪化粧料に配合する場合、その配合量は、発根状態、培養中に当てた光線の種類や量、抽出物の抽出法、抽出効率や有効成分安定化処理法などにより異なるし、また、使用対象や化粧料剤型により異なるので、諸事情により適宜設定することができる。例えば、発根ゴマの湿質量とほぼ等質量の発根ゴマ抽出物を製造した場合、毛髪化粧料へは、同抽出物を10〜50質量%の比率で配合することができる。有効成分の生理活性を保つため、発根ゴマ抽出物は、冷凍保存する、フリーズドライする、あるいはマイクロカプセルやリポソームで庇護する、あるいは殺菌目的で真空加温処理するなどしてもよい。
本発明の毛髪化粧料には、植物油のような油脂類、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、防腐剤、糖類、金属イオン封鎖剤、水溶性高分子のような高分子、増粘剤、粉体成分、紫外線吸収剤、紫外線遮断剤、香料、pH調整剤等を含有させることができる。また、ビタミン類、皮膚賦活剤、血行促進剤、活性酸素消去剤、抗炎症剤、殺菌剤等の他の薬効成分、生理活性成分を含有させることもできる。
本発明は更に、光線を当てながら培養した発根ゴマ抽出物を必須成分として含有することを特徴とする医薬組成物を提供する。
本発明の毛髪化粧料及び医薬用組成物は、例えば水溶液、油剤、乳液、懸濁液等の液剤、ゲル、クリーム等の半固形剤の形態で適用可能である。従来から公知の方法でこれらの形態に調製し、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、エアゾル剤等の種々の剤型とすることができる。これらを頭皮に塗布、噴霧等により適用することができる。特にこれら剤型の中で、ローション剤、乳剤、クリーム剤、エアゾル剤等が適している。通常、化粧料及び医薬用組成物において使用される製剤化方法にしたがって、これらの剤型として製造することができる。
更に、ゴマは、本来、食品であるから、大豆から作るもやし同様、発根ゴマを食品あるいはサプリメントとして利用することも出来る。その際、冷凍あるいはフリーズドライなどの処理を行うことにより、有効成分の生理活性が低下しないようにすることが好ましい。また衛生的見地から、殺菌目的で真空加温処理してもよい。
食品としては、そのまま、又は種々の栄養成分を加えて、若しくは飲食品中に含有せしめて、白髪の予防又は治療に有用な保健用食品又は食品素材として食される。適当なでんぷん、植物油脂などの助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して食用に供してもよく、また種々の食品、例えば、パン、発酵乳製品に添加して使用したり、清涼飲料などの飲料に添加して使用してもよい。尚、抽出物の形態で使用することもできる。
以下、実験例、参考例及び実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
参考例1
発根ゴマの新根の良否判定法
ゴマ新根の組織あるいは細胞の生育の良否判定は、発根ゴマの有効成分生成の良否を判定するだけでなく、もしも新根が変性した場合は、皮膚刺激性物質が生じたりして有害となることもあり得るので、重要である。ゴマ新根が最も陥りやすい傷害は、病理学的に見た場合、新根細胞の変性あるいは壊死である。ゴマ新根の変性あるいは壊死の原因は、ゴマ発根に用いた水質の不具合、当てた光線の不適、酸素の過不足、温度の不適、カビなどの微生物の繁殖による汚染、その他の要因である。新根細胞の変性や壊死は、肉眼での判定は不確実であり、組織標本を作製して顕微鏡的に判定することが確実である。顕微鏡的所見では、変性としては細胞質の水腫状変性や脂肪変性(微細脂肪滴の出現)、壊死としては液化壊死が認められる。変性や壊死が起こっていないかどうかを見るためには、発根したゴマの一部をサンプルとして採取し、ホルマリン固定、エタノール脱水、パラフィン包埋を経て組織切片を作製し、ヘマトキリン・エオジン二重染色を施し、顕微鏡で観察すればよい。もし、有効成分の生成状況の判定を行う場合は、組織切片についての免疫組織化学的判定が有効であるが、その手技は煩雑であり、必要経費も高い。したがって、便法としては、まず、肉眼的にゴマ新根の状態を観察して、メラニンによるかすかな淡黄色の着色を確認し、ついでヘマトキリン・エオジン二重染色標本による判定により、ゴマ新根の組織細胞が正常に育っているかどうかを判定し、有効成分が生成されたであろう推測することも一方法である。
実験例1
ヒト頭皮の毛包におけるHSP25、HSP27、FGF2およびFGF4についての免疫組織化学的検討:
ヒト頭皮の手術材料を10%ホルマリン液で固定し、自動脱水包埋装置にかけたのちパラフィンに包埋してパラフィンブロックを作製した。ミクロトームを用い、このパラフィンブロックから5ミクロン厚の頭皮組織切片を作製し、これをスライドグラスに貼付して乾燥した。同組織切片をキシロールで脱パラフィンし、抗HSP25抗体(フナコシSPA−801)、抗HSP27抗体(コスモバイオSC−1049)、抗FGF−2抗体(コスモバイオSC−79G)および抗FGF−4抗体(コスモバイオSC−1361)をそれぞれ用いて、各組織切片につき、一般的な免疫染色法であるABC法(Avidin−Biotin complex法)により免疫組織化学的染色(以下、「免疫染色」とする)を行った。染色した頭皮組織標本につき顕微鏡的に毛包組織を検討したところ、毛球を構成する細胞の細胞質が褐色に染まり、HSP25およびHSP27陽性所見を示しているのを発見した(図1)。HSP25とHSP27についての染色標本では、両者の間に差を見出すことは出来なかった。外毛根鞘細胞の細胞質がHSP27陽性を示すことは既に知られているが、毛球の構成細胞がHSP陽性を示すことは新しい知見である。毛包組織のHSP25の免疫染色は、これまでに報告を見ない。毛球内メラノサイトがHSP25あるいはHSP27に陽性であるか否かについては、メラノサイトの細胞質が黒色であるため、免疫染色による褐色の有無が識別できず、判定不能であった。FGF−2についての免疫染色では、毛球および毛根鞘を構成する細胞が陽性所見を示していたほか、毛乳頭の細胞も陽性を示していた(図2)。FGF−4についての免疫染色では、FGF−2類似の陽性所見を示していたが、毛乳頭の細胞は陰性所見を示した。
実験例2
ヒト胎盤におけるHSP25およびHSP27についての免疫染色による検討:
HSP25およびHSP27が女性ホルモン依存性の熱ショック蛋白である点から、女性ホルモンの支援のもとで胎児を安全に育む胎盤につき、HSP25およびHSP27の局在を確かめることにした。新鮮なヒト胎盤を10%ホルマリン液で固定し、脱落膜を含む胎盤組織片を切り出し、実施例1と同様の方法で、胎盤の組織切片を作製し、HSP25およびHSP27についての免疫染色を行った。顕微鏡的に検討したところ、脱落膜細胞(decidual cell)の細胞質(図3)および胎盤絨毛栄養細胞(trophoblast)の細胞質(図4)が褐色に染まり、HSP25−およびHSP27−陽性所見を呈していた。
【実施例1】
温度ショックを与えた発根ゴマの製法:
黒色および白色のゴマは、種専門店より購入した。種ゴマをステンレス篩に敷きつめ、ざっと水洗いし、この篩を平らなプラスティック容器に入れ、ミネラルウオーターをゴマが十分に浸るまで加えた。これを25℃では約40時間、30℃では約30時間培養すると、過半数のゴマの新根が1〜2ミリに達する。この時点で低温ショックとして、15℃で5〜6時間培養した。新根の長さが2〜3ミリに達したところで培養を中止し、発根ゴマの新根を傷めないよう注意して軽く水を切り、−20℃に冷凍した。
【実施例2】
発根ゴマの組織細胞におけるHSP25,HSP27、FGF−2、FGF−4およびMIB1についての免疫染色による検討:
実施例1において低温ショックを与えて作製した発根ゴマを約1グラム、サンプルとして採取し、これを食塩添加リン酸緩衝10%ホルマリン液で固定し、実施例1と同様の方法で、発根ゴマの組織切片を作製して、HSP25、HSP27、FGFおよびFGF−4についての免疫染色を行った。さらに、発根ゴマの組織内で、核分裂を行っている増殖細胞群を認識するため、核分裂期核内蛋白であるMIB1に対する抗Ki−67抗体(コスモバイオPRO229)を用いた免疫染色も行った。
染色した発根ゴマの組織標本を顕微鏡で観察すると、HSP25およびHSP27についての染色標本では、両者とも、ゴマ新根の先端部の表層細胞の細胞質が褐色に染まり、HSP25とHSP27につき陽性所見を呈していた(図5)核分裂期の核内蛋白抗原MIB1についての免疫染色では、新根先端部の表層細胞だけでなく、先端部全体およびこれに連なる髄部の細胞の核がそれぞれMIB1陽性を示した(図6)。この染色結果から、核分裂をしながら増殖している細胞のうち、低温ストレスから新根先端部や髄質の増殖細胞群を庇護するため、最表層の細胞がHSP25やHSP27を産生したものと考えられた。
一方、FGF−2についての染色標本では、陽性細胞は、新根の表層および髄質の細胞の細胞質および核に分布し(図7)、さらに枝分かれして子葉内部に樹枝状あるいは原始葉脈に相当する構造に分布していた(図8)。FGF−2は、塩基性線維芽細胞増殖因子であり、動物組織においては、血管新生因子としての作用などさまざまな中胚葉細胞への増殖作用が知られているが、植物における発現については、報告をみない。発根ゴマ組織内で、FGF−2陽性細胞が原始葉脈に相当する構造に一致して染色された顕微鏡像から見て、これらの細胞は、組織内栄養輸送にかかわっている可能性が高い。動物(ラット)の毛包では、FGF−2は、培養した毛乳頭細胞を刺激して増殖させることが報告されており(Matsuzaki T,Inamatsu M,Yoshizato K:Hair induction by dermal papilla cells cultured with conditioned medium of keratinocytes.In,van Neste DJJ & Randall VA(Eds),Hair Resarch for the Next Millenium(Proceedings of the First Tricontinental Meeting of Hair Research Societies),October 1995,Belgium,p447−51)、また、今回の実施例1におけるヒト頭皮毛包のFGF−2染色でも、毛乳頭細胞が陽性所見を示した点から、FGF−2がヒト頭皮の毛包毛乳頭に関わっている可能性がある。一方、FGF−4についての免疫染色では、FGF−2と異なり、新根ゴマに強い陽性部は発見できず、髄質細胞に弱い陽性所見が認められた。文献上、FGF−4のノックアウトマウスでは胎生期の細胞集塊の成育が出来ず胎児死亡が起こる(Feldman B et al.Science 267:246−9,1995)ことから、幼若細胞の発育にかかわっている増殖因子とされている。今回の発根ゴマではFGF−4の陽性度が弱かった理由に付いては、発根ゴマの発育が進行していて、原始的な幼若期を過ぎていたためと考えられる。
【実施例3】
発根ゴマ抽出物の製造
実施例1により作製した冷凍発根ゴマから抽出物製造の過程を説明する。まず発根ゴマの湿質量を秤量し、その質量と同量の冷ミネラルウオーターを加え、氷冷下で高速ホモジネーター(ヒスコトロン)で、最高15,000rpmの回転数でホモジナイズした。ホモジネートを冷凍超遠心分離機で4℃、10,000gで30分間、遠心沈殿した。上澄みは、黒ゴマの場合でもほぼ無色透明な水溶液となった。この上澄みを発根ゴマ抽出物とし、小容器に分注して−20℃で冷凍保存した。
【実施例4】
発根ゴマ抽出物を含む頭皮用ローションの白髪改善作用を見る実験:
実施例3で作製した発根ゴマ抽出物原液をミネラルウオーターで4倍に希釈し、これを発根ゴマ抽出物の頭皮用ローションとした。同ローションを2mlずつ小容器に分注して凍結保存したものを多数準備し、頭皮塗布に際しては、これを1本ずつ解凍して使用することにした。白髪混じりの頭髪をもつ被験者に1日1回、シャンプーのあとに頭皮に塗布させた。発芽ゴマ液塗布を2ヶ月間続けた後、一定の小部分から集中して頭髪を抜去し、頭髪の変化をまず肉眼的に観察した。観察の結果、白髪のままのものと、根元が黒くなっているものが認められた。白髪のままのものは、毛根端がクラブ型に膨れているところから、毛周期の上では休止期の頭髪と考えられる。毛根端が膨れていない頭髪では、全長が白髪のままのものと根元に近い部分が黒変しているものとが認められた。黒変している部分がメラニンによるものか否かを検討するため、この頭髪を食塩添加リン酸緩衝10%ホルマリン液で固定し、スライドグラスにゼラチン液で貼付け、Fontana銀染色によりメラニン染色を施し、顕微鏡で観察した。その結果、頭髪の根元の黒変している部分は、毛皮質が毛髄と全く区別できないほど強く黒変しており、この黒変部分がメラニンを含んでいることが証明できた(図9)。黒変していない白髪先端部では、毛皮質は灰色で髄質のみが断続的に黒色であった(図10)。メラニン陽性と判定した黒変した毛根部の長さは1〜1.2cmであり、毛髪の伸びが平均で1日0.3〜0.4mmであることからすると、2ヶ月間の発根ゴマローションの塗布が、この白髪の毛根部を再メラニン化したもの推定した。休止期の頭髪では黒化するものが見つからなかった理由は、休止期頭髪では、毛包メラノサイトが消失しているため、発根ゴマ抽出物・ローションの塗布によっても、メラニンの再生産が起こらなかったため、と推測した。また、成長期の頭髪で黒化するものと黒化しないものが見られた理由は、非活動化した毛包メラノサイトの回復は、それが早いものと遅いものがあり、早いものでは使用2ヶ月で白髪の黒化が観察された、と推測した。回復が遅い毛包メラノサイトの場合であっても、発根ゴマローションの塗布を2ヶ月以上連用することにより回復する可能性は考えられる。本発明の発根ゴマローションの連日塗布により、白髪改善の兆しが顕れるのは、早い場合は2ヶ月であるが、遅い場合は3−4ヶ月、あるいはそれ以上の月日を要すると思われる。白髪の改善は、休止期の毛髪では起らないため、休止期毛包が多くなる高齢者では、若年者よりも回復に月日を要すると想像される。
【実施例5】
抜け毛検査による育毛効果判定:
発根ゴマ抽出物塗布による育毛効果を判定するため、抜け毛検査を実施した。30歳代1名、40歳代2名の男性に、毎日、夜のシャンプーのあとと朝の2回、実施例6で使用したものと同じ発根ゴマ抽出物を含む頭皮用ローションを毎回1−1.5mlづつ頭皮に塗布する実験を2ヶ月続けた。実験開始前と終了後と各1回、抜け毛数算定を行った。方法は、型のごとく、ストッキングの布地をフィルターとして洗髪用流しに敷き、シャンプーのあと、抜け毛総数を数えた。実験開始前の測定では、被験者3名の抜け毛総数は、それぞれ120、98、92本であったが、実験後ではそれぞれ66、70、61本となり、抜け毛の減少は明らかであった。この実験から、発根ゴマ抽出物を含む頭皮用ローションは、毛周期休止期の短縮を予防し、育毛効果があることが証明された。
【実施例6】
発根ゴマの製法(光線を当てながらの培養、および、光を遮っての培養)
種子ゴマ(以下、ゴマ)は、種専門店より購入した。ゴマを、光線を当てながら培養するものと、光線を遮って培養するものとに分け、別々のステンレス製の篩に敷きつめ、ざっと水洗いした後、篩をプラスティック容器に入れ、ミネラルウオーターあるいは海洋深層水をゴマが十分に浸るまで加え、約15時間、ゴマに吸水させた。その後、小型空気ポンプで水に給気をしながら25℃でゴマを培養した。光を当てながら培養するゴマの場合は、新根が殻を破って現れ始めたら日光に当たるようにした。
光の当てかたは、夏季では直射日光が長時間ゴマに当たらないようにして明るい窓際に置いたが、冬季では窓ガラスを透った直射日光を当ててもよい。対照実験である光を当てないゴマの培養の場合は、厚手の黒い紙で作ったカバーをゴマ培養容器にかぶせて光を遮って行った。いずれの場合も、約40時間培養して新根の長さが2〜3ミリに達したら、低温ショックを与えるため、給気しながら15℃で5〜6時間培養した。その後再び25℃の培養条件に戻し、新根の長さが3〜5ミリに達したところで培養を中止し、新根を傷めないよう注意して簡単に水洗いした。発根ゴマ抽出物を作る分は、発根ゴマを−20℃に冷凍した。顕微鏡的組織標本を作る分は、食塩添加燐酸緩衝10%ホルマリン液に入れてホルマリン固定した。光を当てながら培養したゴマの新根は、淡黄色を示したが、光を遮って培養したゴマの新根は白かった。(図11参照)
なお、発根ゴマの組織構造を図12に示す。
【実施例7】
発根ゴマのメラニン染色
実施例6で作製してホルマリン液で固定した発根ゴマ約1グラムを試料カセットに入れ、自動組織脱水包埋装置にかけて脱水およびパラフィン浸透を行った後、パラフィンに包埋してパラフィンブロックを作製した。ミクロトームを用い、このパラフィンブロックから5ミクロン厚の発根ゴマの組織切片を作製し、スライドグラスに貼付して乾燥した。同切片を、通常の方法で脱パラフィン、エタノール系列、水道水へと処理し、マッソンのフォンタナ銀法によりメラニン染色を施した。染色した標本を顕微鏡観察すると、光を当てながら培養したゴマ新根の表皮細胞の細胞質が強く黒色に染まり、メラニン陽性であることを確認した(図13参照)。
一方、光を遮って培養した発根ゴマの標本では、ゴマ新根の表皮細胞のメラニン陽性所見は極めて弱かった(図15参照)。ゴマでは、ヒトに認められるメラノゾームは認められないので、表皮細胞がメラニンを産生しているものと思われる。黒ゴマと白ゴマとでメラニン陽性度を比較すると、その程度は、白ゴマのほうが強かった。
【実施例8】
発根ゴマのα−MSH免疫染色による検討
実施例6で作製してホルマリン液で固定した発根ゴマを、実施例7と同様の方法で処理して組織切片を作製し、抗α−MSH抗体(コスモバイオAB946)用いて通常のABC法による免疫染色を行った。染色した組織標本を顕微鏡で観察すると、光を当てながら培養したゴマでは、新根の中心柱最外層の内鞘細胞pericycle(または皮層最内層の内皮細胞endodermis)の細胞質が褐色に染まり、α−MSH陽性を示した(図14参照)。光を遮って培養したゴマでは、新根のα−MSH陽性細胞は、その数が少なく、個々の細胞の陽性度は弱かった。
実施例7でのメラニン染色および本実施例3のα−MSH免疫染色の結果から、光を当てながら培養した発根ゴマの新根内部のα−MSH分泌細胞から分泌されたα−MSHが、ゴマ新根の表皮細胞に作用してメラニンを産生させたものと推測された。培養中の低温ショックがα−MSH産生に与える影響については、低温ショックを与えて培養したゴマのほうが、低温ショックを与えず培養したゴマよりもα−MSH陽性度が強い傾向を示したことから、低温ショックは、抗α−MSH抗体と反応する物質産生を促進した可能性が考えられる。
【実施例9】
発根ゴマの電子顕微鏡による検討
実施例7および実施例8で証明した発根ゴマの新根のメラニン染色陽性細胞およびα−MSH陽性細胞を、透過型電子顕微鏡を用いて確認するため、直射日光に当てて発根させたゴマ新根の新鮮な組織片を、通常の透過型電子顕微鏡試料作製法により、グルタールアルデヒド・オスミウム二重固定し、上昇エタノール系列により脱水し、プロピレンオキサイドによりエタノールを置換し、電子顕微鏡用エポキシ樹脂製剤(以下、エポン)を浸透させてカプセル包埋し、エポンを熱重合させてエポンブロックを作製し、ウルトラトームとダイアモンドナイフを用いてエポンブロックから発根ゴマ新根の超薄組織切片を作製し、銅製グリッドに載せ、ウラン・酢酸鉛二重電子染色し、日立電子顕微鏡による観察を行った。
ゴマ新根の根元に近い着色部分の表皮細胞を観察すると、細胞質内にメラニンと思われる直径0.5〜0.05ミクロンの高電子密度で不定形をした多数の小型顆粒、および核膜に沿う高電子密度物質が観察された(図16a参照)。実施例3において光学顕微鏡でα−MSH陽性細胞を認めていたゴマ新根部分を電子顕微鏡的に観察したところ、豊富なゴルジ装置および分泌顆粒を含む細胞を見出した(図16b参照)。
また、免疫電子顕微鏡技術を用いてα−MSH陽性細胞を確認するため、直射日光に当てて発根させたゴマ新根の新鮮な組織片を、食塩添加燐酸緩衝液0.4%パラフォルム固定液で固定し、実施例1と同様の方法で、発根ゴマの組織切片を作製して、α−MSHについての免疫染色を行った。光学顕微鏡によりα−MSH陽性細胞を確認した上で、同組織標本をエタノールおよびプロピレンオキサイドで脱水し、エポンを浸透させ、予め重合させたエポンブロックをα−MSH陽性細胞の上に接着し、エポンの熱重合を完了させた。α−MSH陽性細胞を含んだエポンブロックをスライドグラスから剥離し、このエポンブロックを用い、上記同様の方法で超薄切片を作製し、電子染色をせず、日立電子顕微鏡による観察を行った。電子顕微鏡上、α−MSH陽性細胞の細胞質内に直径120〜150nmの高電子密度の小型顆粒を多数みとめ、この小型顆粒がα−MSH陽性であることからα−MSH顆粒と断定した(図16c参照)。
【実施例10】
発根ゴマ抽出物の製造
実施例6により作製した発根ゴマから抽出物製造の過程を説明する。まず発根ゴマの湿質量を秤量し、それと同量のミネラルウオーター(もしくは海洋深層水)を加え、高速ホモジネーター(ヒスコトロン)で、最高15,000rpmの回転数でホモジナイズした。ホモジネートを超遠心分離機で4℃、8000Gで20分間、遠心沈殿した。上澄みは、黒ゴマの場合でもほぼ無色透明な水溶液となった。この上澄みを発根ゴマ抽出物とし、小容器に分注して−20℃で冷凍保存した。
【実施例11】
発根ゴマ抽出物を含むローションの白髪改善効果
実施例6および実施例9で作製した発根ゴマ抽出物原液をミネラルウオーターで2倍希釈して発根ゴマ抽出物ローションとし、これを2mlずつ小容器に分注して凍結保存した。同ローションの白髪改善効果を白髪交じりの毛髪および眉毛で検討した。眉毛は、1箇所から2〜3本ずつ生えている頭髪と異なり、1本ずつ独立して生えている上、その長さが短く、その根元の色変化がつぶさに観察できる点で好都合である。小容器に分注して凍結保存しておいた同ローションを、毎回、1個ずつを解凍して使用することにした。白髪混じりの頭髪をもつ男性被験者に1日1回、シャンプーのあとに同ローションを頭皮に塗布させた。眉毛部では、同ローションを1−2滴擦り込ませた。
発根ゴマ液塗布を2ヶ月間続けた後、頭髪の場合は一定の小部分から集中して抜去し、眉毛の場合は白毛あるいは色変化が起こった毛のみを抜去し、肉眼的に観察した。頭髪には白髪のままのもの、灰白色のもの、根元がさまざまな程度に黒くなっているものなどが認められた。眉毛は、頭髪よりも直径が太いため、変化がより明瞭に観察できた。図17に抜去した白毛のままの眉毛と根元が黒くなった眉毛の例を示した。白毛のままの眉毛は、毛根端が膨れている点から、ヘアサイクルの上では休止期のものと判断された。ヘアサイクル休止期においては、メラノサイトサイクルも休止期に入り、毛根端では毛包メラノサイトが消失しているため、メラニンの再生産が起こらなかった、と推測される。
一方、毛の根元のほうが黒くなっているものは、毛根端がカップを逆さまにしたように膨れている点から、ヘアサイクルの上では成長期のものと判断された。この白毛は、メラニン産生を中止していたものの、発根ゴマローション塗布によりメラニン産生を再開したものと思われる。途中まで黒変した毛根部の長さは1〜1.2cmであり、毛の成長が平均で1日0.3〜0.4mmであることから、2ヶ月間の発根ゴマローションの塗布期間内のいずれかの時期に、毛包メラノサイトのメラニン産生の再開が起こったものと推定される。一方、頭髪においては、毛端の形から成長期と判断される頭髪でも、まったく黒化しないもの、さまざまな程度に黒化するものなどが見られた。
変化が多様である理由は、非活動化した毛包メラノサイトの回復には早いものと遅いものとがあり、回復が早いものでは同ローションの2ヶ月間の使用期間内にメラニン再産生が起こったが、回復が遅いものではそれが不十分であった、と推測した。毛包メラノサイトの回復が遅い毛包であっても、同ローションの塗布を2ヶ月以上連用することにより回復する可能性は考えられる。したがって、本発明の発根ゴマローションの連日塗布により、白髪改善の兆しが顕れるのは、早い場合は2ヶ月以内であるが、遅い場合は3〜4ヶ月、あるいはそれ以上を要すると思われる。休止期の白髪ではその再メラニン化は起り得ないが、休止期白髪が脱落し、世代交代によって生えてくる新生頭髪では再メラニン化が起こり得る。従って、休止期毛包の含有率が高くなる高齢者では、白髪の回復には若年者よりも長い月日を要すると思われる。
【実施例12】
ゴマに照射する光線として蛍光灯を使用した製造例
植物インキュベータを利用し、ゴマに当てる光線として蛍光灯光線を使用し、強度を変化させて、蛍光灯光線が発根ゴマにメラニンおよび抗α−MSH抗体と反応する物質の産生を起こすか否かを実験した。
準備: 蛍光灯(東芝蛍光ランプ メロウ5w、光源色 EX−W(3波長形白色))を照射光源とする植物インキュベータ(トミー工業製CFH−305)(以下、インキュベータという)を購入した。このインキュベータは、培養装置内の温度、照度および湿度があらかじめ時間を区切って自由に設定できる。従って、今回の実験では、ゴマ種子が畑に蒔かれた季節の自然環境を想像して、6ステップの培養条件を設定した。ゴマの培養容器は、実施例6と同様のステンレス篩と水を入れるポリ容器を用いた。培養用の水は、水道水を用いた。インキュベータ内にはこのゴマ培養容器を棚1段に2個ずつ、2段まで置いた。1個の篩の中でゴマが重ならないように蒔く場合の最大乾燥質量は、18gであった。
培養条件: 午前9時半、ゴマの吸水開始。インキュベータ内温度は、室温と同じ25℃、照度は0。
ステップ1.30分間かけて午前10時には、インキュベータ内を、温度25℃、照度2000ルックスになるようにした。湿度は、全ステップを通して60%とした。
ステップ2.2時間かけて正午には、インキュベータ内を、温度30℃、照度2000ルックスにした。
ステップ3.3時間かけて午後3時には、インキュベータ内を温度30℃、照度4000ルックスにした。
ステップ4.9時間かけて午前0時には、インキュベータ内を温度20℃、照度0ルックスにした。
ステップ5.以後6時間、午前6時まで、インキュベータ内を温度20℃、照度0ルックスに維持した。
ステップ6.3時間半かけて、午前9時半にはインキュベータ内を温度25℃、照度2000ルックスにした。
以下、ステップ1〜6を繰り返した。
ゴマの肉眼所見:
培養第2日目(培養開始後24時間目)の朝には、一部のゴマに発根が認められた。
培養第3日目(培養開始後48時間目)の朝には80%以上のゴマに発根が認められ、新根の長さは最大5mmに達していた。
発根ゴマの免疫染色とその評価:
発根ゴマの一部をサンプルとして燐酸緩衝10%ホルマリン固定液に入れて固定し、実施例2および実施例3と同様の方法でマッソンのフォンタナ銀法によるメラニン染色ならびにFGF2、HSP25、HSP27およびα−MSHについての免疫染色を行った。各染色標本についての顕微鏡的評価では、今回の植物インキュベータで蛍光灯光線を当てながら培養したゴマの新根は、実施例1による室内で自然光線を当てながら培養したゴマの新根と較べると、FGF2、HSP25、HSP27およびα−MSHについての免疫染色標本では、両者はほぼ同様の染色結果を示した。しかし、マッソンのフォンタナ銀法によるメラニン染色標本では、今回得られた新根のほうが実施例1の場合よりも強い陽性所見を示した。その理由は、自然界を想定して決めた最高照度4000ルックスという明るさが、実施例6における室内の照度より強かったためと解釈した。
【実施例13】
発根ゴマの培養条件、抽出条件の相違による抗MSH抗体と反応性を有する物質の変動
実施例6と同様にして植物インキュベーターを用いて発根ゴマの培養を行った。培養開始2日後にゴマを回収し抽出に用いた。培養条件は下記の条件とした。
条件1 2003年6月16日発根開始 黒ゴマ エアレーションなし 水道水 湿度60%
条件2 2003年6月23日発根開始 白ゴマ エアレーションなし 水道水 湿度60%
条件3 2003年9月8日発根開始 黒ゴマ エアレーションあり 海洋深層水 湿度35%
条件4 2003年9月29日発根開始 黒ゴマ エアレーションあり 海洋深層水 湿度60%
抽出方法
発根させたゴマは直ちに凍結乾燥(凍結乾燥機FRD−80、岩城硝子株式会社、千葉)し、試験開始までフリーザーにて保管した。乾燥させた発根ゴマはミルで粉砕した後、抽出に使用した。発根ゴマ粉砕物約5gは高速溶媒抽出装置ASE−200(日本ダイオネクス株式会社、大阪)を用い、抽出条件設定はPREHEAT 2min,HEAT 0min,STATIC 5min,FLUSH% 60vol,PURGE 60sec,CYCLE 3,PRESSURE 1500psi,TEMPERATURE 0℃(熱水の場合100℃)として、抽出した。抽出溶媒(冷水、熱水、10%エタノール、50%エタノール、100%エタノール、50%1,3ブチレングリコール、1%酢酸溶液、3%酢酸溶液、5%酢酸溶液)は蒸留水製造装置GSR−200(アドバンテック東洋株式会社、東京)で調製した蒸留水を用い、有機溶媒は市販(特級)のものを用いた。抽出溶液はロータリーエバポレーターNE(東京理化器械株式会社、東京)を用いて濃縮し、凍結乾燥した。抽出物は、乾燥質量から換算し、回収率4〜7%であった。
抗α−MSH抗体と反応する物質の定量は、α−MSH EIA kit(PHOENIX PHARMACEUTICALS,INC.)を用いて行った。各抽出物をキット付属の溶媒にて10mg/mlの濃度で溶解し、不溶性部分を遠心除去し、上清を測定に用いた。
抗MSH抗体と反応する物質の含量
冷水、熱水、10%エタノール、50%エタノール、100%エタノール、50%1,3−ブチレングリコールで抽出した発根ゴマ中の抗MSH抗体と反応する物質をα−MSHのEIA法で測定した。測定には条件1のゴマを用いた。その結果、冷水中のα−MSH量が最も多かった(図18)。
また、酢酸溶液にα−MSHが溶解することから、冷水と酢酸溶液で抽出した発根ゴマ中の抗α−MSH抗体と反応する物質量を同様に比較した。測定には条件3のゴマを用いた。その結果、酢酸溶液よりも冷水で抽出されやすいことがわかった(図19)。
上記方法に示した4種の条件で発根させたゴマ中の抗α−MSH抗体と反応する物質量をEIAで測定した。条件1と条件2の比較より白ゴマの方がα−MSH量が多いことが考えられる。また、エアレーションし海洋深層水を用いた条件3が最もα−MSH量が多かった(図20)。
実施例6で得た発根ゴマ抽出物を用い、下記「表1」に示す処方に従い、本発明のドリンク剤を調製した。

常法に従って、各成分を混合し、実施例14では糖度16、酸度0.63、pH3.4、実施例15では糖度6、酸度0.63、pH3.26のドリンク剤を得た。これを95℃で30秒間加熱し、ドリンク剤用容器に充填し、所望の発根ゴマ抽出物配合ドリンク剤を得た。このドリンク剤は1日30〜360ミリリットル服用することにより、すぐれた白髪改善と育毛促進効果が発揮される。
【産業上の利用可能性】
本発明により、メラニン合成能が低下したり、停止したり、又は細胞死の傾向にある毛包メラノサイトの活性を回復することにより、毛髪の白髪化を予防あるいは改善する白髪予防改善剤、及び白髪の予防、改善に有用な毛髪用化粧料、育毛促進剤が提供される。また、医薬品や飲食品へ利用して白髪の予防や治療に資することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒートショックプロテイン(HSP)抗体、抗線維細胞増殖因子(FGF)抗体、抗メラノサイト刺激ホルモン(MSH)抗体からなる群のいずれか1種又は2種以上の抗体に反応性を有することを特徴とする発根ゴマ抽出物。
【請求項2】
抗ヒートショックプロテイン(HSP)がHSP25及び/又はHSP27である請求の範囲第1項記載の発根ゴマ抽出物。
【請求項3】
抗線維細胞増殖因子(FGF)がFGF2及び/又はFGF4である請求の範囲第1項又は第2項記載の発根ゴマ抽出物。
【請求項4】
抗メラノサイト刺激ホルモン(MSH)がα−MSHである請求の範囲第1項、第2項又は第3項記載の発根ゴマ抽出物。
【請求項5】
HSP25及び/又はHSP27抗体、FGF2及び/又はFGF4抗体、α−MSH抗体からなる群のいずれか1種又は2種以上の抗体に反応性を有することを特徴とする発根ゴマ抽出物。
【請求項6】
請求の範囲第1項乃至第5項記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする毛髪用化粧料。
【請求項7】
請求の範囲第1項乃至第5項記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする白髪予防及び/又は改善剤。
【請求項8】
請求の範囲第1項乃至第5項記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする医薬用組成物。
【請求項9】
請求の範囲第1項乃至第5項記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする育毛促進剤。
【請求項10】
請求の範囲第1項乃至第5項記載の発根ゴマ抽出物を含有することを特徴とする飲食品。

【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【国際公開番号】WO2004/052323
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【発行日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502353(P2005−502353)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015470
【国際出願日】平成15年12月3日(2003.12.3)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(596175120)
【Fターム(参考)】