説明

発泡シート材

【課題】長期間安定した研磨加工を行うことができる発泡シート材を提供する。
【解決手段】研磨パッド10では、湿式成膜法により複数の発泡3と多数の微細孔6とが連続状に形成された発泡構造を有するポリウレタン樹脂製の発泡シート材2を備えている。多数の微細孔6の大きさは、発泡3の大きさより小さく形成されている。発泡シート材2に形成された発泡構造において、多数の微細孔6内に補強樹脂5が、微細孔6の体積に対する補強樹脂5の存在する体積の割合が30%以上となるように存在している。補強樹脂5は、樹脂エマルションを発泡シート材2に含浸させることで形成されたものである。補強樹脂5が発泡シート材2の発泡構造を補強する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨加工に用いられ、湿式成膜法により複数の発泡と、前記複数の発泡間に該複数の発泡より大きさの小さい多数の微細孔とが連続状に形成された発泡構造を有する発泡シート材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用アルミニウム基板、半導体デバイス用シリコンウエハ、液晶ディスプレイ用マザーガラス等、高精度に平坦性が要求される材料(被研磨物)では、研磨パッドや保持パッドを使用した研磨加工が行われている。例えば、被研磨物の両面を同時に研磨加工するときは、両面研磨機の対向する定盤にそれぞれ研磨パッドが装着される。また、被研磨物の片面を研磨加工するときは、片面研磨機の対向する定盤の一方に研磨パッドが装着され、他方に装着された保持パッドで被研磨物が保持される。このような被研磨物の精密研磨加工では、平坦性の向上を図るために一度研磨加工(一次研磨)した後に仕上げ加工(二次研磨)が広く行われている。研磨加工時には、被研磨物および研磨パッド間に研磨粒子を含む研磨液(スラリ)が供給される。
【0003】
一般に、研磨パッドには、湿式成膜法で形成されたポリウレタン樹脂製の発泡シート材が使用されている。湿式成膜法では、ポリウレタン樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中に浸漬することで樹脂がシート状に凝固再生される。得られた発泡シート材では、被研磨物と接触する面側に緻密な微小気泡が形成された表面層(スキン層)を有し、スキン層より内側に厚さ方向に縦長で、裏面側に発泡径が拡大された複数の発泡と、発泡より大きさの小さい多数の微細孔とが連続状に形成された発泡構造を有している。このような発泡構造を有する発泡シート材を備えた研磨パッドは、スキン層を有しており、仕上げ加工に適している。
【0004】
一方、発泡シート材のスキン層側にバフ処理等の研削処理を施し、表面(研磨面)に開口を形成させることがある。この研磨面に開口が形成された発泡シート材を研磨パッドに使用する場合、開口した発泡の近傍が可撓性を有しており、研磨加工中に被研磨物に対して柔軟に接触することができる。このため、この研磨パッドは、主に、一次研磨に広く用いられている。ところが、この発泡シート材を使用した研磨パッドで研磨加工を行うと、発泡シート材と被研磨物とが摺動することで、発泡シート材に繰り返し剪断応力がかかり、発泡シート材の微細孔が形成されている樹脂部分がちぎれやすく、発泡構造が破壊され元に戻らなくなる、いわゆる「凝集破壊」が発生するおそれがある。凝集破壊が発生すると、研磨性能が損なわれ、安定した研磨加工を行うことができなくなる。
【0005】
また、研磨面に開口が形成された研磨パッドでは、研磨加工時にかかる押圧力により発泡が伸縮するため、スラリが発泡内に保持されつつ、流出入することで安定した研磨レートで被研磨物が研磨加工される。研磨中に生じたスラッジ(研磨屑)等の異物は発泡内に貯留されるため、被研磨物の加工面におけるスクラッチ等の発生が抑制される。ところが、研磨面に開口が形成された研磨パッドは、研磨加工中にスラッジやスラリに含まれる研磨粒子等が発泡や微細孔内に入り込み、経時的に蓄積する問題がある。このため、研磨パッドの使用後に、研磨面に高圧水をかけて、ブラシ等で発泡や微細孔の内部を清掃する作業を行うことがあるが、微細孔は発泡と比較して大きさが小さいため、特に、研磨面から深く緻密に形成された微細孔内に蓄積した研磨粒子等を除去することは困難である。微細孔内に研磨粒子等が蓄積したまま研磨加工を行うと、研磨粒子等が蓄積した部分で発泡シート材の硬度が部分的に上昇するため、被研磨物にスクラッチを発生させたり、研磨面の硬度にムラができることで被研磨物の平坦性が損なわれることとなる。研磨粒子等による被研磨物へのスクラッチを抑制するために、研磨パッドに親水性有機物からなる粒子や繊維状物を混合し、研磨パッドの研磨面の濡れ性をよくすることで、被研磨物の加工面に研磨粒子等が付着することを抑制する技術が開示されている(特許文献1参照)。また、極細合成繊維を含む研磨布において、親水基を含有する化合物を表面に固着、共重合またはグラフト重合させることで、研磨粒子等の凝集を抑制する技術が開示されている。(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−1648号公報
【特許文献2】特開2002−224945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2の技術では、研磨パッドや研磨布の親水性を高めることで、研磨パッドの研磨面への研磨粒子等の疎水性相互作用等による付着を抑制することができるものの、湿式成膜法により形成された発泡シート材の研磨面から深く緻密に形成された微細孔に研磨粒子等が蓄積することを抑制し、被研磨物へのスクラッチ等を低減する効果を期待することができない。また、研磨加工により発泡シート材にかかる剪断応力による発泡シート材の凝集破壊を抑制することは難しい。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、長期間安定した研磨加工を行うことができる発泡シート材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、研磨加工に用いられ、湿式成膜法により複数の発泡と、前記複数の発泡間に該複数の発泡より大きさの小さい多数の微細孔とが連続状に形成された発泡構造を有する発泡シート材において、前記発泡シート材は、第1の樹脂で形成されており、前記多数の微細孔内に第2の樹脂が存在していることを特徴とする。
【0010】
本発明では、発泡シート材の微細孔内に第2の樹脂が存在することで、研磨加工時に研磨粒子等が微細孔内に蓄積されにくくなるため、被研磨物へのスクラッチを低減し被研磨物の平坦性を向上させることができると共に、発泡シート材の発泡構造が補強されるため、研磨加工時に発泡シート材に剪断応力がかかっても、長期間安定した研磨加工を行うことができる。
【0011】
この場合において、第2の樹脂は、多数の微細孔の表面に被膜を形成すると共に、微細孔内に存在する体積の割合が微細孔の体積に対して30%以上となるように存在していることが好ましい。第2の樹脂を発泡構造を有する発泡シート材に樹脂エマルションを含浸させることで形成することができる。樹脂エマルションは、分散相の径を1μm以下とすることが好ましい。樹脂エマルションを自己乳化型としてもよい。樹脂エマルションを架橋硬化型としてもよい。樹脂エマルションをポリウレタン樹脂のエマルションとすることができる。第2の樹脂が複数の発泡の内面の少なくとも一部にも存在してもよい。複数の発泡は、一面側で開口していることが好ましい。第1の樹脂をポリウレタン樹脂とすることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発泡シート材の微細孔内に第2の樹脂が存在することで、研磨加工時に研磨粒子等が微細孔内に蓄積されにくくなるため、被研磨物へのスクラッチを低減し被研磨物の平坦性を向上させることができると共に、発泡シート材の発泡構造が補強されるため、研磨加工時に発泡シート材に剪断応力がかかっても、長期間安定した研磨加工を行うことができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨パッドの製造工程の概略を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0015】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド10は、湿式成膜法により第1の樹脂としてのポリウレタン樹脂で形成された発泡シート材2を備えている。発泡シート材2は、研磨面Pを有している。
【0016】
発泡シート材2は、湿式成膜時に形成されたスキン層(緻密な微小気泡が形成された表面層)側に、厚みが一様となるようにバフ処理が施されている。発泡シート材2には、厚み方向に沿って丸みを帯びた断面三角状の複数の発泡3が略均等に分散した状態で形成されている。発泡3は、研磨面P側の孔径が研磨面Pと反対の面側より小さく形成されている。すなわち、発泡3は研磨面P側で縮径されている。複数の発泡3には、発泡シート材2の厚さ全体に亘り縦長の発泡3や、発泡シート材2の厚さに満たない長さの発泡3がある。発泡シート材2では、バフ処理によりスキン層が除去されており、発泡3が開口することで、研磨面Pに開口4が形成されている。発泡3の間のポリウレタン樹脂中には、発泡3より大きさが小さい多数の微細孔6が形成されている。電子顕微鏡写真で観察した発泡シート材2の断面画像を二値化処理することで計測した微細孔6の円相当径は、15μm以下に設定されている。発泡シート材2の発泡3および微細孔6は、連通孔で網目状に連通されている。すなわち、発泡シート材2は連続状の発泡構造を有している。湿式成膜法で形成された発泡シート材2の連続状の発泡構造において、多数の微細孔6のうち少なくとも一部の微細孔6の表面に、第2の樹脂としての補強樹脂5が連続状の被膜を形成するように存在している。すなわち、補強樹脂5の相が形成されている。
【0017】
ここで、補強樹脂5について説明する。補強樹脂5の相は、連通孔を通して微細孔6の表面がほぼコートされた状態(被膜の状態)で連続状に形成されている。微細孔6のうち、1つの微細孔6内の大部分に補強樹脂5の相が形成されている微細孔6と、補強樹脂5の相が殆ど形成されていない微細孔6とがある。すなわち、個々の微細孔6に存在する補強樹脂5の量は、補強樹脂5の被膜の厚さによって異なる。補強樹脂5の相の形成前の多数の微細孔6に対する補強樹脂5の充填率は、30%以上に設定されている。補強樹脂5の充填率は、補強樹脂5の相の形成前の多数の微細孔6の空隙部分の体積に対する、補強樹脂5の体積が占める割合を百分率で表したものである。
【0018】
補強樹脂5の充填率の算出方法について説明する。まず、補強樹脂5の相の形成前に、発泡シート材2の断面写真を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影し、二値化処理した画像から、微細孔6の孔径を円相当径として1mのうち5点を測定し、この平均の値をAとすると、補強樹脂5の形成前の微細孔6の空隙部分の体積(微細孔6の体積)はπA/6で表される。同様にして補強樹脂5の相を形成後に、多数の微細孔6の空隙部分(補強樹脂5の相が形成されていない部分)の孔径を円相当径として測定し、この平均の値をBとすると、補強樹脂5の形成後の微細孔6の空隙部分の体積はπB/6で表される。補強樹脂5の存在する体積を、補強樹脂5の相の形成前と形成後との微細孔6の空隙部分の体積の差、すなわち、π(A−B)/6とすると、補強樹脂5の充填率は(A−B)/A×100の式で算出される。
【0019】
補強樹脂5には、発泡シート材2と同じ樹脂を用いることも、異なる樹脂を用いることも可能であるが、本例では、発泡シート材2と同じポリウレタン樹脂が用いられている。補強樹脂5は、ポリウレタン樹脂のエマルション(樹脂エマルション)を発泡シート材2に含浸させることで形成される。樹脂エマルションに用いられるポリウレタン樹脂は、親水性の官能基を有している。このため、樹脂エマルションは、親水性の官能基を有するポリウレタン樹脂が水等の分散媒に自然に分散され形成される。すなわち、樹脂エマルションは、自己乳化型である。樹脂エマルションの分散相の径は、1μm以下に設定されている。発泡シート材2において、研磨面P側に発泡3が開口した開口4が形成され、発泡3および微細孔6が連通孔で連通されて形成された発泡構造を有しているため、発泡シート材2に樹脂エマルションを含浸させることで、樹脂エマルションを発泡3や連通孔を通して微細孔6内に浸透させることができる。
【0020】
また、研磨パッド10は、研磨面Pと反対の面側に、研磨機に研磨パッド10を装着するための両面テープ7の一面側が貼り合わされている。両面テープ7は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)等の基材を有しており、その両表面に粘着剤が塗布されている。両面テープ7の他面側(最下面側)に剥離紙8を有している。
【0021】
(製造)
図2に示すように、研磨パッド10は、ポリウレタン樹脂を溶解させた樹脂溶液を準備する準備工程、樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布する塗布工程、水系凝固液中でポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる凝固再生工程、凝固再生したポリウレタン樹脂を洗浄し乾燥させる洗浄・乾燥工程、厚みを均一化させるように研削処理を施す研削工程、発泡シート材2に樹脂エマルションを含浸させ、乾燥させる含浸・乾燥工程、発泡シート材2と両面テープ7とを貼り合わせるラミネート加工工程を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0022】
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)および添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30質量%となるようにDMFに溶解させる。添加剤としては、発泡3の大きさや数量(個数)を制御するため、カーボンブラック等の顔料、発泡形成を促進させる親水性活性剤およびポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を減圧下で脱泡してポリウレタン樹脂溶液を得る。
【0023】
塗布工程では、準備工程で調製されたポリウレタン樹脂溶液を常温下でナイフコータ等の塗布装置により帯状の成膜基材に略均一に塗布する。このとき、ナイフコータと成膜基材との間隙を調整することで、ポリウレタン樹脂溶液の塗布厚み(塗布量)を調整する。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができる。不織布、織布を用いる場合は、ポリウレタン樹脂溶液の塗布時に成膜基材内部へのポリウレタン樹脂溶液の浸透を抑制するため、予め水またはDMF水溶液(DMFと水との混合液)等に浸漬する前処理(目止め)が行われる。成膜基材としてPET製等の可撓性フィルムを用いる場合は、液体の浸透性を有していないため、前処理が不要となる。以下、本例では、成膜基材をPET製フィルムとして説明する。
【0024】
凝固再生工程では、塗布工程で成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液を、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)に案内する。凝固液中では、まず、塗布されたポリウレタン樹脂溶液の表面側に厚さ数μm程度のスキン層が形成される。その後、ポリウレタン樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材の片面にシート状に凝固再生する。DMFがポリウレタン樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することにより、スキン層の内側(ポリウレタン樹脂中)に発泡3および多数の微細孔6が形成され、発泡3および多数の微細孔6を網目状に連通する連通孔が形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、ポリウレタン樹脂溶液の表面側(スキン層側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きな発泡3が形成される。
【0025】
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生したシート状のポリウレタン樹脂(以下、成膜樹脂という。)を成膜基材から剥離し、水等の洗浄液中で洗浄して成膜樹脂中に残留するDMFを除去する。洗浄後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後の成膜樹脂は、ロール状に巻き取られる。
【0026】
研削処理工程では、成膜樹脂の表面に形成されたスキン層側にバフ処理等の研削処理を施す。すなわち、圧接治具の略平坦な表面を成膜樹脂のスキン層と反対側の面に圧接し、スキン層側にバフ処理を施す。これにより、一部の発泡3が研磨面Pで開口して開口4が形成され、成膜樹脂の厚みが均一化される。
【0027】
含浸・乾燥工程では、親水性の官能基を有するポリウレタン樹脂を水等の分散媒に自然に分散させ(自己乳化させ)、樹脂エマルションをバフ処理後の成膜樹脂に含浸もしくはコーティングする。樹脂エマルションが含浸された成膜樹脂では、発泡3や連通孔を通して樹脂エマルションが微細孔6内に入り込む。すなわち、成膜樹脂は樹脂エマルションで濡れることとなる。含浸後、成膜樹脂は低荷重下でマングルローラにより余分な樹脂エマルションが絞り落とされる。微細孔6内に残る樹脂エマルションの量、すなわち、補強樹脂5の充填率は、微細孔6の大きさや、微細孔6の発泡3からの距離によっても左右されるが、マングルローラの荷重を調整することで、調整することができる。このとき、微細孔6の大きさは発泡3の大きさより小さいため、発泡シート材2に樹脂エマルションを含浸させると、樹脂エマルションに表面張力が働き、発泡3の内面より、樹脂エマルションが殆どの微細孔6内に多く入り込むこととなる。その後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。このとき、樹脂エマルションのうち、分散媒の水等が先に蒸発し、分散相のポリウレタン樹脂が後で固化する。同様の操作を2〜5回にかけて繰り返し行い、補強樹脂5で微細孔6の表面がほぼコートされた状態で発泡シート材2が形成される。
【0028】
ラミネート加工工程では、得られた発泡シート材2の研磨面Pと反対側の面に両面テープ7の一面側を貼り合わせる。両面テープ7の他面側は剥離紙8で覆われている。汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨パッド10を完成させる。
【0029】
(作用)
次に、本実施形態の研磨パッド10の作用等について説明する。
【0030】
本実施形態の研磨パッド10では、発泡シート材2に形成された多くの微細孔6の表面に補強樹脂5の相が形成されている。このため、微細孔6に補強樹脂5が存在することで、研磨加工中にスラッジやスラリ中に含まれる研磨粒子等が微細孔6内に蓄積されにくくなる。この結果、研磨面の部分的な硬度の上昇が抑制されるので、被研磨物へのスクラッチが低減すると共に、研磨面の硬度のムラが低減されるので、被研磨物の平坦性を向上させることができる。また、多くの微細孔6内に補強樹脂5の相が形成されたことで、発泡シート材2の発泡構造が補強されるので、研磨加工時に発泡シート材2と被研磨物との摺動により発泡シート材2に繰り返し剪断応力がかかっても、長期間安定した研磨加工を行うことができる。
【0031】
また、本実施形態の研磨パッド10では、補強樹脂5の形成前の多数の微細孔6に対する補強樹脂5の充填率は、30%以上に設定されている。このため、微細孔6への研磨粒子等の蓄積を抑制すると共に、発泡シート材2の発泡構造を補強することができる。補強樹脂5の充填率が30%未満の場合、補強樹脂5の量が不十分となるため、微細孔6への研磨粒子等の蓄積を抑制できるほど微細孔6が十分に補強樹脂5で閉塞されない上に、補強樹脂5で微細孔6の空隙が小さくなることで却って、研磨粒子等の除去性が悪化され、スクラッチが発生しやすくなる。
【0032】
更に、本実施形態の研磨パッド10では、補強樹脂5は樹脂エマルションの含浸により形成されている。また、樹脂エマルションの分散相の径は1μm以下に設定されている。このため、樹脂エマルションが発泡3や連通孔を通して微細孔6まで浸透することで、補強樹脂5を微細孔6内に連続状に形成することができる。また、本実施形態の発泡シート材2では、研削処理により複数の発泡3が開口している。このため、含浸・乾燥工程において、発泡3や連通孔を通して微細孔6内に樹脂エマルションを容易に浸透させることができる。
【0033】
なお、本実施形態では、補強樹脂5の相が微細孔6内に形成されている例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発泡3の内面の少なくとも一部にも形成されていてもよい。このようにすれば、補強樹脂5の発泡構造を支持する機能がより発揮され、発泡構造をより補強させることができる。また、本実施形態では、補強樹脂5の相の形成前の多数の微細孔6に対する補強樹脂5の充填率が30%以上に設定されている例を示したが、発泡構造をより補強させることを考慮すれば、補強樹脂5の充填率を70%以上とすることがより好ましい。
【0034】
また、本実施形態では、発泡シート材2をポリウレタン樹脂製としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の樹脂を使用してもよい。ポリウレタン樹脂以外に、例えば、アクリルゴム等のエラストマ製としてもよい。ポリウレタン樹脂を用いるようにすれば、湿式成膜法により連続発泡構造を容易に形成することができる。
【0035】
更に、本実施形態では、補強樹脂5の形成に用いる樹脂エマルションにおいて、ポリウレタン樹脂を水等に分散させた樹脂エマルションとしたが、本発明はこれに限定されるものでなく、分散させる樹脂として他の樹脂を使用してもよく、分散媒として水系であれば水以外の液体を使用してもよい。例えば、樹脂エマルションとしてラテックス等を使用してもよく、分散媒としてアルコール等を含ませた水系の液体を使用してもよい。また、本実施形態では、樹脂エマルションにおいて、発泡シート材2の樹脂と同じ樹脂を用いる例を示したが、発泡シート材2の樹脂と異なる樹脂を用いてもよい。例えば、発泡シート材2にポリウレタン樹脂を用い、樹脂エマルションにアクリルゴムラテックスを用いてもよい。更に、樹脂エマルションを架橋硬化型としてもよい。樹脂エマルションを架橋硬化型とすると、発泡シート材2の発泡構造をより強固にすることができる。
【0036】
また更に、本実施形態では、樹脂エマルションに親水性の官能基を有するポリウレタン樹脂を用い、自己乳化型とする例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、強制乳化型としてもよい。すなわち、ポリウレタン樹脂に乳化剤を加える等して水等の分散媒に分散させて樹脂エマルションを作製してもよい。樹脂エマルションを自己乳化型とすると、微細孔6に形成される補強樹脂5も親水性となり、研磨加工時に疎水性の研磨粒子等が発泡シート材2に固着することを抑制することができる。
【0037】
更にまた、本実施形態では、補強樹脂5の形成に樹脂エマルションを用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、樹脂エマルション以外に樹脂溶液を用いてもよい。この場合、樹脂溶液に使用する溶媒を、補強樹脂5に用いる樹脂を溶解可能で、発泡シート材2に用いる樹脂を溶解しないものとすることが好ましい。
【0038】
また、本実施形態では、発泡シート材2の作製時に、ポリウレタン樹脂を凝固再生させた後、成膜基材を剥離して、両面テープ7を貼り合わせる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ポリウレタン樹脂を凝固再生させた後、成膜基材を剥離せず、両面テープ7を貼り合わせてもよい。また、発泡シート材2と成膜基材とが剥離しにくいように、予め接着性のよい樹脂を塗布した成膜基材上にポリウレタン樹脂を凝固再生させて、成膜基材をそのまま残してもよい。また、成膜基材に不織布を用いた場合は、発泡シート材2から剥離することが難しいため、成膜基材を剥離せずそのまま乾燥させてもよい。更に、両面テープ7としては、基材の両面に粘着剤が塗布されていてもよく、基材を有することなく粘着剤のみで構成されてもよい。
【0039】
更にまた、本実施形態では、研削工程で発泡シート材2の研磨面P側の面にバフ処理を施す例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、スライス機等によりスキン層を除去可能な方法を用いてもよい。また、研磨用途に応じて、発泡シート材2の研磨面P側に研削処理を施さずに、研磨面P側と反対側の面に研削処理を施し、スキン層を残してもよい。この場合、研磨パッド10は、微小気泡が形成された略平坦なスキン層が被研磨物の微小うねりを低減させる役割を果たすため、二次研磨加工等に適している。
【実施例】
【0040】
以下、本実施形態に従い製造した発泡シート材2の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の発泡シート材についても併記する。
【0041】
(実施例1)
実施例1では、発泡シート材2の作製にポリウレタン樹脂として、ポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用いた。このポリウレタン樹脂を溶解させた30質量%の溶液100部に対して、溶媒のDMFの45部、顔料としてカーボンブラックの30質量%を含むDMF分散液の40部を添加し混合してポリウレタン樹脂溶液を調製した。得られたポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に塗布した後、凝固液中で凝固再生させた。凝固再生後のポリウレタン樹脂から成膜基材を剥離し、洗浄・乾燥した後、厚さが一様となるようにスキン層側に研削処理を施した。樹脂エマルションを研削処理後のポリウレタン樹脂に含浸させた後、乾燥させる操作を3回にかけて繰り返し行い、補強樹脂5の相が形成された実施例1の発泡シート材2を得た。このとき、補強樹脂5の充填率が30%であった。
【0042】
(実施例2)
実施例2では、補強樹脂5の充填率を70%とすること以外は実施例1と同様にして実施例2の発泡シート材2を作製した。
【0043】
(比較例1)
比較例1では、研削処理後のポリウレタン樹脂に補強樹脂5の相を形成しないこと以外は実施例1と同様にして比較例2の発泡シート材を作製した。すなわち、比較例1の発泡シート材は、従来の発泡シート材である。
【0044】
(比較例2)
比較例2では、補強樹脂5の充填率を15%とすること以外は実施例1と同様にして比較例2の発泡シート材を作製した。
【0045】
(評価)
各実施例及び比較例の発泡シート材について、破壊強度および砥粒凝着量を測定した。破壊強度の測定では、引張万能試験機(エイ・アンド・デイ社製、RTC−1210A)を使用した。すなわち、発泡シート材の両面に接着剤を用いてPETフィルムを貼着し、発泡シート材の端部に厚さ方向の中間付近で切り込みを入れ、枝分かれした端部のそれぞれを、引張万能試験機のクランプに取り付けた。クランプ同士の間隔は200mmに設定した。その後、毎分200mmの引張速度で短辺と平行に枝分かれした端部を掴みながら、発泡シートを裂くことで破壊し、最大荷重を破壊強度とした。このとき、発泡シート材の厚さ方向において最も脆弱な部分、すなわち、研磨面Pの反対面側である、断面三角状の発泡の底辺付近において破壊が進行した。また、砥粒凝着量の測定では、まず、10cm×10cmの発泡シート材の質量を測定し、発泡シート材をアルミナスラリ(NV:8%、pH2)に24時間浸漬後、12時間自然乾燥し、1時間流水下で水洗し、1日間自然乾燥させ、再度、発泡シート材の質量を測定した。アルミナスラリに浸漬前の発泡シート材の質量と浸漬後の発泡シート材の質量との差を砥粒凝着量として算出した。下表1に破壊強度および砥粒凝着量の測定結果を合わせて示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、破壊強度において、補強樹脂5が形成されていない比較例1の発泡シート材では1.36kgf/cm(1kgf/cm=9.8N/cm)、補強樹脂5の充填率が15%の比較例2では1.40kgf/cm、補強樹脂5の充填率が30%の実施例1では1.53kgf/cm、補強樹脂5の充填率が70%の実施例2では1.92kgf/cmを示した。すなわち、比較例1では最も低い値を示し、補強樹脂5の充填率が高くなるほど、破壊強度も高い値を示した。これは、比較例1では補強樹脂5の相が形成されていないため、十分な破壊強度を得られなかったことに対し、比較例2および実施例1、2では、補強樹脂5の相が微細孔6内に形成されたことで、発泡構造が補強されたためと考えられる。また、実施例2の破壊強度は、実施例1の破壊強度を超える値を示したことから、実施例2で軟質樹脂5の充填率を30%より大きい70%とすることで、発泡構造がより補強されることが判明した。
【0048】
また、砥粒凝着量において、比較例1では360mg、比較例2では380mg、実施例1では320mg、実施例2では220mgを示した。比較例1は微細孔6内に補強樹脂5が形成されていないため、スラリに含まれる砥粒が微細孔6内に蓄積されやすく、実施例1、2より高い値を示した。比較例2は補強樹脂5の充填率が15%であるものの、比較例1より微細孔6内の空隙部分が小さく、却って砥粒の除去性が悪化し、砥粒凝着量が比較例1より高い値を示したと考えられる。これらに対して、補強樹脂5の充填率が30%以上の実施例1、2では、微細孔6が補強樹脂5で閉塞されたため、比較例1、2より砥粒凝着量は小さい値を示した。また、実施例2の砥粒凝着量が実施例1より小さい値を示したことから、補強樹脂5の充填率は70%以上とすることが好ましい。これにより、実施例1、2の発泡シート材2を備えた研磨パッドでは、研磨加工時に微細孔6内への研磨砥粒等の蓄積を抑制することができることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、長期間安定した研磨加工を行うことができる発泡シート材を提供するものであるため、発泡シート材の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0050】
2 発泡シート材
3 発泡
5 補強樹脂
6 微細孔
10 研磨パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨加工に用いられ、湿式成膜法により複数の発泡と、前記複数の発泡間に該複数の発泡より大きさの小さい多数の微細孔とが連続状に形成された発泡構造を有する発泡シート材において、前記発泡シート材は、第1の樹脂で形成されており、前記多数の微細孔内に第2の樹脂が存在していることを特徴とする発泡シート材。
【請求項2】
前記第2の樹脂は、前記多数の微細孔の表面に被膜を形成すると共に、前記微細孔内に存在する体積の割合が前記微細孔の体積に対して30%以上となるように存在していることを特徴とする請求項1に記載の発泡シート材。
【請求項3】
前記第2の樹脂は、前記発泡構造を有する発泡シート材に樹脂エマルションを含浸させることで形成されたものであることを特徴とする請求項2に記載の発泡シート材。
【請求項4】
前記樹脂エマルションは、分散相の径が1μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の発泡シート材。
【請求項5】
前記樹脂エマルションは、自己乳化型であることを特徴とする請求項4に記載の発泡シート材。
【請求項6】
前記樹脂エマルションは、架橋硬化型であることを特徴とする請求項5に記載の発泡シート材。
【請求項7】
前記樹脂エマルションは、ポリウレタン樹脂のエマルションであることを特徴とする請求項4に記載の発泡シート材。
【請求項8】
前記第2の樹脂は、前記複数の発泡の内面の少なくとも一部にも存在することを特徴とする請求項1に記載の発泡シート材。
【請求項9】
前記複数の発泡は、一面側で開口していることを特徴とする請求項1に記載の発泡シート材。
【請求項10】
前記第1の樹脂は、ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項9に記載の発泡シート材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−56032(P2012−56032A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202317(P2010−202317)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】