説明

発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法及び発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品

【課題】高結晶化度のシートを成形する場合であっても、成形型への追従をよくして成形品の形状をシャープにすることができ、偏肉や、高温放置後の寸法変化を抑制すること。
【解決手段】高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、当該シートの表面温度が200〜220℃となる温度で6秒以上10秒以下で加熱を行う予備加熱ステップS2と、予備加熱された高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、熱変形温度に加熱された成形型により成形する成形ステップS3と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法及び発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、結晶性発泡ポリエチレンテレフタレートシートを熱によって成形する方法が知られている。
この成形方法は、図7に示すように、結晶性発泡ポリエチレンテレフタレートからなるシート101をオーブン102まで搬送し、シート101の成形に必要な温度で、かつ、シート101の結晶化を促進させる温度以下で予備加熱を行う。
次に、シート101の結晶化を促進させる温度以上に加熱された金型103を用い、シート101を所望の形状に成形すると共に、結晶化させる。
最後に、シート101の成形に必要な温度以下に維持された金型104を用い、シート101を冷却する。
このように、加熱された金型103と冷却された金型104とを用いてシートの成形を二段階で行うことにより、成形品周辺の剛性を高めると共に収縮や歪みに対してシートを強化することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、結晶性発泡ポリエチレンテレフタレートシートは、その結晶化度(%)が耐熱温度に影響することが知られており、上述の成形においては金型の温度と接圧時間により成形品の結晶化度を変えることができる。
上記のシートは、140℃〜160℃で予備加熱をしてシートを軟化させ、180℃に加熱された金型で約8秒間成形すると共に結晶化させることが行われている。これにより、元々の結晶化度が8%〜11%のシートを20%〜25%の結晶化度にまで上げることができ、成形品の耐熱性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2551854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載のシートの成形方法においては、使用しているシートの結晶化度が8%〜11%の低結晶化度のシートであるため、結晶化を促進させて成形品の耐熱性を向上させることができ、シートの伸びも大きいため、成形形状をシャープにすることができた。
しかし、結晶化度が元々30%以上ある高結晶化度のシートを特許文献1に記載の成形方法で成形しようとした場合、高結晶化度のシートの成形品は、成形形状をシャープにできないという問題があり、成形型通りの形状に成形することが困難であった。
さらに、高結晶化のシートは伸びが小さい為、シートが成形時の延伸によって伸びが不均一となり、偏肉が発生し、その際の残留ひずみにより、高温放置後の寸法変化が大きいという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、高結晶化度のシートを成形する場合であっても、成形型への追従をよくして成形品の形状をシャープにすることができ、偏肉や、高温放置後の寸法変化を抑制することができる発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法及び発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、
高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、当該シートの表面温度が200〜220℃となる温度で6秒以上10秒以下で加熱を行う予備加熱ステップと、
予備加熱された高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、熱変形温度に加熱された成形型により成形する成形ステップと、
を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法では、
前記成形ステップでは、170〜180℃の範囲内で加熱された成形型を用いて成形することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法では、
高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートの結晶化度は、30%以上であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、気泡を有する発泡層とこの発泡層の表面に存在するスキン層とを有する高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートから成形された発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品であって、
前記スキン層直下の前記発泡層における断面積が0.01mmの領域内に、面積が200μm以上の気泡を10個以上有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法によれば、高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、表面温度が200〜220℃となる温度で6秒以上10秒以下で加熱を行うと、発泡ポリエチレンテレフタレートシートの表面が溶融する直前の表面だけが焼けただれ、表面に艶がない状態となる。この発泡ポリエチレンテレフタレートシートの表面が焼けただれた状態で、当該シートの素材であるポリエチレンテレフタレートの熱変形温度に加熱された成形型で成形を行うと、成形品の形状がシャープとなり、偏肉や、高温放置後の寸法変化を抑制することができる。
【0012】
本発明に係る発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品によれば、発泡層における断面積が0.01mmの領域内に、面積が200μm以上の気泡を10個以上有することで、発泡ポリエチレンテレフタレートシートの伸びがよくなり、当該シートが成形型に追従して成形品の形状がシャープとなり、角部がしっかりと成形される。また、シャープに成形された成形品は、偏肉が抑制されるため、残留ひずみが少なく高温放置後の寸法変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】成形装置の概要を示した図。
【図2】図1の成形装置の各部の位置や大きさを示すために簡略化して描いた図。
【図3】制御部に接続される各構成を説明するブロック図。
【図4】シートを用いた成形品の製造方法を示すフローチャート。
【図5】シートから成形された成形品のSEM写真。
【図6】比較例となる成形品のSEM写真。
【図7】従来の成形装置の概要を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法及び発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の実施形態について説明する。以下では、最初に発泡ポリエチレンテレフタレートシートについて説明し、次に成形を行うための成形装置について説明し、その後に成形装置を用いた発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法及び発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品について説明する。
【0015】
<発泡ポリエチレンテレフタレートシート>
発泡ポリエチレンテレフタレートシート(以下、シートという)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートの押出シートに炭酸ガスを高圧下で含浸させた後、加熱し発泡させたシートで、結晶化度が30%以上で、内部の気泡径が50μm以下である微細発泡シートを用いることができる(例えば、古河電気工業株式会社製のMCPET(登録商標)等)。シートは、スキン層と発泡層とを有している。ここでスキン層とは、気泡のない表面層をいう。
具体的に、シートとしては、厚さ1mm、発泡倍率3〜4倍、平均気泡径10μm、結晶化度37〜40%(いわゆる高結晶化度)のものが好適に用いられる。このシートは、製造されて間もないものである場合には、シートに含まれる不活性ガスが予備加熱工程や成形工程の熱で膨張するため、シート内で二次発泡が発生し、加熱後のシートや成形品の収縮、変形が大きいという問題がある。そのため、シートに残る不活性ガスが抜ける期間(10日以上)常温で放置するか、その他の方法として50℃の雰囲気で48時間放置し、不活性ガスを抜いたシートを用いることが好ましい。
【0016】
<成形装置>
図1は、成形装置100の概要を示した図であり、図2は、図1の成形装置100の各部の位置や大きさを示すために簡略化して描いた図である。図3は、制御部に接続される各構成を説明するブロック図である。
図1に示すように、成形装置100は、搬送供給部1と、予備加熱部2と、成形部3と、冷却部4と、制御部5とを備えている。成形装置100は、搬送供給部1によって搬送されるシートSの搬送方向上流側から予備加熱部2、成形部3、冷却部4の順に並んで配置されている。成形装置100は、搬送供給部1によってシートSを間歇的に搬送しながら、予備加熱部2、成形部3、冷却部4により、シートSの異なる部分に対して加熱、成形、冷却の各工程をほぼ同時に行うことができる。
【0017】
(搬送供給部)
図1、図2に示すように、搬送供給部1は、シートSを予備加熱部2、成形部3、冷却部4に搬送する。搬送供給部1は、シャフト11と、スパイクチェーン12と、カッター13とを備えている。
シャフト11は、シートSの巻反が装着されるものであり、シートSの巻反を回転自在に支持する。従って、シャフト11は、シートSの搬送方向の最も上流側に配置されている。
スパイクチェーン12は、シートSを巻反から繰り出し、間歇的にシートSの搬送を行うものである。スパイクチェーン12は、シートSの搬送方向に沿って配置され、シートSの搬送方向に沿った対向する両端縁の上方に配置されている。
カッター13は、成形部3で成形され、冷却部4で冷却された成形品を一つずつ個別に切断するためのものである。従って、カッター13は、冷却部4よりもシートSの搬送方向下流側に配置されている。
【0018】
(予備加熱部)
図1、図2に示すように、予備加熱部2は、巻反から繰り出されたシートSが最初に導かれる場所であり、成形を行う前にシートSを予備加熱する。予備加熱部2は、スパイクチェーン12によって搬送されるシートSを上面側及び下面側から加熱する。予備加熱部2は、遠赤外線ヒータ21,22と、放射温度計23とを備えている。
遠赤外線ヒータ21,22は、共に搬送されるシートSの上方及び下方に一定の間隔をあけて配置されている。遠赤外線ヒータ21は搬送されてきたシートSの上面に対向するように配置され、シートSを上面側から加熱する。遠赤外線ヒータ22は搬送されてきたシートSの下面に対向するように配置され、シートSを下面側から加熱する。
図2に示すように、遠赤外線ヒータ21,22は、平面視矩形状に形成され、一回の成形に必要なシートSの領域をカバーすることができる大きさに形成されている。
放射温度計23は、遠赤外線ヒータ21におけるシートSとの対向面に配置され、シートSの表面付近の温度を測定する。
【0019】
遠赤外線ヒータ21,22は制御部5(図3参照)に接続され、制御部5によって制御される。すなわち、制御部5は、放射温度計23からの温度の測定値に基づき、電源から遠赤外線ヒータ21,22に流す電流量を制御する。制御部5は、遠赤外線ヒータ21,22に挟まれた空間の温度を、シートSの素材であるポリエチレンテレフタレートの表面温度が200〜220℃となる温度に維持するように温度制御を行う。
【0020】
なお、この温度は予め設定され、制御部5内のメモリに記憶されている。ここで、シートSは、結晶化度が37%〜40%と高いため、加熱温度を融点(258℃)未満の温度でないとシートSの伸びが悪く偏肉が成形品に発生してしまうので、6〜10秒の短時間で、放射温度計23でのシートSの表面温度が200〜220℃となるような予備加熱をする。
【0021】
加熱時間の制御は、制御部5による制御のもと、搬送供給部1によりシートSの搬送速度、予備加熱部2への搬送タイミングを制御することで、シートSが予備加熱部2に停滞する時間を調節することにより行われている。
この条件でシートSを加熱すると、シートSが溶融する直前の状態、すなわち、シートSの表面だけが焼けただれて、スキン層が軟化して発泡層の気泡に追従し艶のなくなった状態となる。また、スキン層直下の発泡層における気泡が膨らんだ状態となる。予備加熱が6秒未満であると、スキン層直下の発泡層における気泡が膨らまず、10秒を超えると、軟化して発泡層の気泡に追従していたスキン層が破裂し、気泡に含まれていた空気が抜けてしまう。シートSの表面温度が200℃未満であるとスキン層直下の発泡層における気泡が膨らまず、220℃を超えると、軟化して発泡層の気泡に追従していたスキン層が破裂し、気泡に含まれていた空気が抜けてしまう。
【0022】
(成形部)
図1、図2に示すように、成形部3は、予備加熱部2におけるシートSの搬送方向下流側に配置されている。成形部3は、加熱されたシートSを上下から挟み込んで成形するものである。ここで、成形の方法は、真空成形等の公知の方法である。
成形部3は、キャビティ31と、コア32と、駆動部33,34とを備えている。
【0023】
キャビティ31は、シートSの搬送経路の上方に配置されている。すなわち、キャビティ31は、シートSを挟んでコア32に対向する位置に配置されている。キャビティ31は、土台37に固定されている。キャビティ31は、コア32と相補う凹状に形成されている。キャビティ31内には、ヒータ31aが埋設されており、制御部5による温度管理の下、シートSの素材であるポリエチレンテレフタレートの熱変形温度まで加熱されている。
【0024】
コア32は、シートSの搬送経路の下方に配置されている。すなわち、コア32は、シートSを挟んでキャビティ31に対向する位置に配置されている。コア32は、土台38に固定されている。コア32は、キャビティ31と相補う凸状に形成されている。コア32内には、ヒータ32aが埋設されており、制御部5による温度管理の下、シートSの素材であるポリエチレンテレフタレートの熱変形温度まで加熱されている。
【0025】
ここで、キャビティ31及びコア32の加熱温度は、低すぎると予備加熱工程で加熱されたシートSが急速に冷却されて歪が生じ、変形や収縮の原因になり、高すぎるとキャビティ31及びコア32からのシートSの剥離性が悪くなり、変形不良や寸法不良が生じるため、シートSの素材の熱変形温度である170〜180℃が好ましい。
なお、キャビティ31とコア32の加熱温度は同じ温度が好ましいが、成形品の形状によっては、加熱温度を異ならせてもよい。
【0026】
駆動部33は、キャビティ31を上下方向に沿って移動させる。すなわち、駆動部33は、キャビティ31をシートSに対して接離自在とさせる駆動源となるものである。
駆動部34は、コア32を上下方向に沿って移動させる。すなわち、駆動部34は、コア32をシートSに対して接離自在とさせる駆動源となるものである。
駆動部33,34は、制御部5に接続され、制御部5によって駆動が制御される。
【0027】
(冷却部)
図1、図2に示すように、冷却部4は、成形部3におけるシートSの搬送方向下流側に配置されている。冷却部4は、成形されたシートSに上下から風を吹き付けてシートSを冷却するものである。
冷却部4は、二つのエアブロー41,42を備えている。
エアブロー41は、シートSの搬送経路の上方に配置されている。すなわち、エアブロー41は、シートSに対して上面側から風を吹き付けてシートSを冷却するものである。
エアブロー42は、シートSの搬送経路の下方に配置されている。すなわち、エアブロー42は、シートSに対して下面側から風を吹き付けてシートSを冷却するものである。
エアブロー41,42は、制御部5に接続され、制御部5によって駆動が制御される。
【0028】
(制御部)
図3に示すように、制御部5は、成形装置100の各駆動部の制御を行うものである。
制御部5は、公知のCPU、ROM、RAM等を備えている。
制御部5には、遠赤外線ヒータ21,22、放射温度計23、キャビティ31を加熱するヒータ31a、コア32を加熱するヒータ32a、駆動部33,34、スパイクチェーン12を駆動させるスパイクチェーン駆動部15、カッター13を駆動させるカッター駆動部16、エアブロー41,42が接続されている。
【0029】
<発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法>
図4は、シートSを用いた成形品の製造方法を示すフローチャートである。
図4に示すように、シートSから成形品を製造する際には、制御部5の制御のもと、搬送供給部1のスパイクチェーン12を駆動させ、シートSを巻反から繰り出し、予備加熱部2に向けて搬送する(ステップS1)。
【0030】
予備加熱部2に搬送されたシートSは、放射温度計23及び制御部5による温度管理の下、遠赤外線ヒータ21,22により、6〜10秒の短時間で、放射温度計23でのシートSの表面温度が200〜220℃となる環境下で加熱される(ステップS2:予備加熱ステップ)。この条件で加熱されたシートSは、溶融する直前の状態、すなわち、シートSの表面だけが焼けただれてスキン層が軟化して発泡層の気泡に追従し艶のなくなった状態となる。また、スキン層直下の発泡層における気泡が膨らんだ状態となる。
遠赤外線ヒータ21,22により上記の条件で加熱されたシートSは、スパイクチェーン12によって成形部3に搬送される。
【0031】
成形部3では、制御部5により駆動部33,34を駆動させることで、シートSをキャビティ31とコア32とで挟み込み、キャビティ31とコア32の形状に合わせて成形を行う(ステップS3:成形ステップ)。この際、予備加熱部2には次のシートSが搬送供給され、予備加熱される。
ここで、キャビティ31とコア32は、シートSの素材の熱変形温度である170〜180℃に加熱されており、シートSは、加熱されたキャビティ31とコア32によって挟まれ、成形される。このとき、シートSは、予備加熱により、スキン層直下の発泡層における気泡が膨らんでおり、スキン層は軟化して気泡に追従した状態となっているため、伸びがよく、キャビティ31及びコア32への追従性が良好となるため、シャープな成形が可能となる。
なお、予備加熱部2によるシートSの加熱の終了から、キャビティ31とコア32による成形開始までの時間は、予備加熱されたシートSの冷却を防止する観点から、1〜2秒以内に行うことが好ましい。
成形部3において成形されたシートSは、スパイクチェーン12によって冷却部4に搬送される。
【0032】
冷却部4では、制御部5によりエアブロー41,42を駆動させることで、シートSを上面及び下面から冷却する(ステップS4)。
冷却部4において冷却されたシートSは、カッター13によって一つの成形品毎に切断される(ステップS5)。
以上の処理をもって、シートSから成形品が製造される。
【0033】
<製造された発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品>
図5は、上記の条件、製造方法でシートSから成形された成形品の断面のSEM写真である。このSEM写真は、発泡層71を1000倍の倍率で撮像したものである。
図5に示すように、成形品は気泡Pを有する発泡層71とこの発泡層71の表面に存在するスキン層72とを有している。
図5からもわかるように、発泡層71における断面積が0.01mmの領域内に、面積が200μm以上の気泡Pが10個以上形成されている。
このように、比較的大きな気泡が多く形成されることで、成形工程における成形時にキャビティ31及びコア32への追従性が良好で、シャープな成形品となる。
【0034】
<作用・効果>
以上のように、高結晶化度(37〜40%)の発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法によれば、高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートSを、当該シートSの表面温度が融点(258℃)未満となる環境下(200〜220℃)で表面に艶がない状態になるまで加熱を行うと、シートSの表面が溶融する直前の表面だけが焼けただれた状態となる。このシートS表面の状態は、時間をかけてゆっくりと予備加熱を行う加熱方法では実現することができず、このシートSの表面が焼けただれた状態で、当該シートの素材であるポリエチレンテレフタレートの熱変形温度(170〜180℃)に加熱された成形型(キャビティ31及びコア32)で成形を行うと、成形品の形状がシャープとなり、偏肉や、高温放置後の寸法変化を抑制することができる。
【0035】
このようにして成形された高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートからの成形品によれば、発泡層71における断面積が0.01mmの領域内に、面積が200μm以上の気泡Pが10個以上存在し、成形品の形状がシャープとなり、角部がしっかりと成形されている。また、シャープに成形された成形品は、偏肉が抑制されるため、残留ひずみが少なく高温放置後の寸法変化を抑制することができる。
【0036】
<その他>
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではない。予備加熱工程において、シートSの加熱方法は自由であるが、予備加熱後のシート表面温度が200〜220℃となるので、接触式の面加熱板でシートを挟み込む予備加熱方法では、面加熱板にシートが貼り付くので好ましくなく、赤外線ヒータや温風加熱等の非接触式の加熱方法が好ましい。
また、シートSの冷却方法もエアブロー41,42を用いた冷却方法であったが、従来のように冷却金型(図7参照)を用いて冷却する方法でもよい。成形方法もキャビティ31とコア32の上下二つの金型にてシートSを挟み込み圧接するマッチモールド成形方式に限らず、成形品の形状によっては、圧空成形、真空成形、プラグアシスト真空圧空成形等の他の成形方法でもよい。
【実施例】
【0037】
次に、本発明に係る高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品を上記実施形態に基づいて具体的に実施した実施例について説明する。また、本発明に係る高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の優れている点を示すため、比較例として異なる成形条件で製造した成形品の例を挙げ、製造された成形品の品質を比較した。
【0038】
図5は、予備加熱部2によるシートSの予備加熱時間が短時間(7秒)である場合の成形品の断面のSEM写真であり、図6は、予備加熱部2によるシートSの予備加熱時間が長時間(15秒)である場合の成形品の断面のSEM写真である。予備加熱工程においては、シートSの表面温度が同じ200℃となるように予備加熱を行い、成形工程においては、170℃に加熱されたキャビティ31及びコア32にてシートSの成形を行った。
これらの写真は、それぞれシートSの表面付近の1000倍のSEM写真であり、これらの写真を比較すると、発泡層71の気泡Pの大きさに明らかな差があることがわかる。気泡の形状は双方とも成形により伸びが発生しているため、楕円形状をしている。
【0039】
0.01mmの範囲で気泡を大きさ順にピックアップをして気泡の面積で比較すると、予備加熱時間が15秒の成形品は、気泡の平均面積が約165μmであり、予備加熱時間が7秒の成形品は、気泡の平均面積が約410μmであった。各気泡の面積を見ても予備加熱時間が15秒の成形品は200μm以上の気泡は少なく、予備加熱時間が7秒の成形品は200μm以上の気泡は13個と多く存在していた。気泡の平均面積と200μm以上の気泡の数量から、はっきりとした違いがあることがわかった。さらに、予備加熱時間が6秒,8秒,9秒,10秒のものについても200μm以上の気泡は10個以上存在し、5秒,11秒,14秒,15秒のものでは、10個未満であることが確認できた。大きな気泡が多く存在することで、シートSの伸びがよくなり、シートSの成形型(キャビティ31及びコア32)への追従性が良くなる。
【0040】
次に、成形品の形状を比較すると、予備加熱時間が5秒,11秒,14秒,15秒の成形品は、形状がシャープでなく丸みを帯びており、一方予備加熱時間が6秒,7秒,8秒,9秒,10秒の成形品は、形状がシャープであり、角部がしっかりと成形されていた。
以上のことから、シートSの表面温度が200〜220℃となる温度で、かつ6秒以上10秒以下と短時間で予備加熱を行うことで、シートSの内部の気泡の平均面積、気泡の数が大きくなることがわかる。これは、シートSの内部の気泡の平均面積、気泡の数が大きくなると、シートSも伸びやすく、成形しやすい状態で成形できることを意味している。これにより、キャビティ31及びコア32への追随性が良好で、形状がシャープな成形品が製造できることが確認できた。
また、予備加熱時間は、あまり短時間であっても好ましい成形を行うことができず、6〜10秒が適切であると確認できる。
【表1】

【符号の説明】
【0041】
1 搬送供給部
2 予備加熱部
3 成形部
4 冷却部
5 制御部
100 成形装置
S シート(発泡ポリエチレンテレフタレートシート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、当該シートの表面温度が200〜220℃となる温度で6秒以上10秒以下で加熱を行う予備加熱ステップと、
予備加熱された高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、熱変形温度に加熱された成形型により成形する成形ステップと、
を有することを特徴とする発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法。
【請求項2】
前記成形ステップでは、170〜180℃の範囲内で加熱された成形型を用いて成形することを特徴とする請求項1に記載の発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法。
【請求項3】
高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートの結晶化度は、30%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品の製造方法。
【請求項4】
気泡を有する発泡層とこの発泡層の表面に存在するスキン層とを有する高結晶化度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートから成形された発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品において、
前記スキン層直下の前記発泡層における断面積が0.01mmの領域内に、面積が200μm以上の気泡を10個以上有することを特徴とする発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−251461(P2011−251461A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126626(P2010−126626)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】